特許第6245635号(P6245635)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6245635複合蛍光体の分画方法、及び、複合蛍光体の画分
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6245635
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】複合蛍光体の分画方法、及び、複合蛍光体の画分
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/08 20060101AFI20171204BHJP
【FI】
   C09K11/08 G
   C09K11/08 D
   C09K11/08 Z
【請求項の数】7
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-180080(P2013-180080)
(22)【出願日】2013年8月30日
(65)【公開番号】特開2015-48385(P2015-48385A)
(43)【公開日】2015年3月16日
【審査請求日】2016年8月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】504190548
【氏名又は名称】国立大学法人埼玉大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002332
【氏名又は名称】特許業務法人綾船国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100134153
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 富士子
(74)【代理人】
【識別番号】100112760
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 五雄
(72)【発明者】
【氏名】福田 武司
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 美穂
(72)【発明者】
【氏名】倉林 智和
(72)【発明者】
【氏名】船木 那由太
【審査官】 磯貝 香苗
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−508793(JP,A)
【文献】 特開2012−219258(JP,A)
【文献】 特表2007−523754(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体量子ドット蛍光体と、前記半導体量子ドット蛍光体との間で蛍光共鳴エネルギ移動が発生し得る有機分子と、が結合された複合蛍光体を合成する複合蛍光体形成工程と;
前記複合蛍光体を、クロマトグラフィ法により分画する分画工程と;を備え、
前記分画工程では、前記クロマトグラフィ法により分画される画分中の前記半導体量子ドット蛍光体に対する前記有機分子の割合が溶出容積の増加と共に増加する範囲の量の前記複合蛍光体を前記クロマトグラフィ法で用いるカラムにアプライし、前記範囲内で分画する、
ことを特徴とする複合蛍光体の分画方法。
【請求項2】
前記クロマトグラフィ法がゲル濾過カラムクロマトグラフィ法である、ことを特徴とする請求項1に記載の複合蛍光体の分画方法。
【請求項3】
前記有機分子は、前記半導体量子ドット蛍光体との間で蛍光共鳴エネルギ移動が発生し得る蛍光性の有機色素、又は、前記半導体量子ドット蛍光体との間で蛍光共鳴エネルギ移動が発生し得る蛍光分子で標識された非蛍光性の有機分子のいずれかである、ことを特徴とする請求項2記載の複合蛍光体の分画方法。
【請求項4】
前記分画工程では、前記半導体量子ドット蛍光体と前記有機分子体との間における蛍光共鳴エネルギ移動について予め定められた特性の水溶液、水分散液、有機溶媒及び有機溶媒分散液のいずれかを用いて、前記複合蛍光体をゲル濾過カラムクロマトグラフィ法により分画する、ことを特徴とする請求項2又は3に記載の複合蛍光体の分画方法。
【請求項5】
前記有機分子は、フルオレセイン誘導体、ローダミン誘導体、シアニン誘導体、アレクサフルオロ誘導体、ディライトフルオロ誘導体、及び、ボディピィー誘導体からなる群から選ばれるいずれかのものである、ことを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載の複合蛍光体の分画方法。
【請求項6】
前記分画された複合蛍光体のそれぞれの蛍光スペクトルの測定を行い、前記測定結果に基づいて、前記分画された複合蛍光体のそれぞれにおける蛍光共鳴エネルギ移動効率の平均値を特定する蛍光共鳴エネルギ移動率特定工程を更に備える、請求項1〜のいずれか一項に記載の複合蛍光体の分画方法。
【請求項7】
請求項1〜のいずれかに記載の複合蛍光体の分画方法を使用して得られる複合蛍光体の画分。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合蛍光体の分画方法、及び、複合蛍光体の分画溶液に係り、より詳しくは、半導体量子ドット蛍光体と有機分子体とが結合された複合蛍光体の分画方法、及び、当該分画方法を使用して得られる当該複合蛍光体の画分に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体量子ドット蛍光体の周囲に、半導体量子ドット蛍光体との間の蛍光共鳴エネルギ移動により発光する有機色素、又は、半導体量子ドット蛍光体との間の蛍光共鳴エネルギ移動により発光する蛍光分子で標識された有機分子(以下、これらを「有機色素体」という。)を結合させた蛍光複合体が、特にバイオイメージング用途での応用において注目されている(非特許文献1参照)。これは、有機色素体の発光効率が周囲の環境(pH、温度、溶媒、周辺の分子との相互作用・結合など)に依存して変化することが多いのに対して、半導体量子ドット蛍光体では、その様な環境に依存した変化が少ない(環境依存性が少ない)強固かつ光退色が少ない特性を有しつつ分子サイズがナノメートル単位であり生体分子との適合性に優れていることによる。
【0003】
こうした半導体量子ドット蛍光体及び有機色素体の性質を利用して、励起光により、生体内の当該複合蛍光体中の半導体量子ドット蛍光体を励起するとともに、半導体量子ドット蛍光体から有機色素体への蛍光共鳴エネルギ移動(以下、「Fluorescence Resonance Energy Transfer」、頭文字を取って「FRET」ということがある。)を発生させることにより、有機色素体を発光させる。そして、半導体量子ドット蛍光体の蛍光強度と、有機色素体の蛍光強度との蛍光強度比を計測することにより、生体内環境の定量的かつリアルタイムでのモニタリングを可能とすることが期待されている。
【0004】
こうした生体内環境のリアルタイムモニタリングにおいて、センサとして利用可能な複合蛍光体の作成は、従来から、幅広く研究されてきた(非特許文献2参照:以下、「従来例」という)。この従来例に記載された技術は、基本的には、半導体量子ドット蛍光体の表面にある官能基と有機色素の化学反応を利用するものであり、単純に一定割合の半導体量子ドット蛍光体と有機色素体とを混合して化学反応を進行させるものもある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Phys. Chem. Phys., 2009, 11 pp. 17-45
【非特許文献2】Advanced Drug Delivery Reviews 64(2012), pp.138-166
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、従来例の技術では、半導体量子ドット蛍光体と有機色素体との反応は必ずしも同一確率で起こるわけではないので、半導体量子ドット蛍光体の表面に結合する有機色素の数には、必然的に大きなばらつきが生じる。また、半導体量子ドット蛍光体の表面の官能基の数も均一ではなく、ある幅を持った状態で調製され、市販されている。
【0007】
このため、従来例の技術によって作成された複合蛍光体を用いたのでは、例え、同時に作成された場合であっても、計測される蛍光強度比が大きくばらつくことになる。こうした大きなばらつきは、半導体量子ドット蛍光体が発生する蛍光の強度と、半導体量子ドット蛍光体からの蛍光共鳴エネルギ移動を受けた有機色素体が発生する蛍光の強度との比を利用する定量的な環境計測のためのセンサとして致命的な欠点である。
また、量子ドットの製造販売元から推奨されている市販の簡易カラムでは、分子量の大小の分離はかなり大雑把であり、通常は未反応の過剰有機分子との分離程度しか期待されていない。すなわち、有機分子の結合していない量子ドットと、有機分子の結合した量子ドットの区別も十分になされているとは考えにくいというのが現状である。
【0008】
本発明は、上記の事情を鑑みてなされたものであり、定量的な環境計測のためのセンサとして利用可能な複合蛍光体の分画方法、及び、複合蛍光体の画分を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、第1の観点からすると、半導体量子ドット蛍光体と、前記半導体量子ドット蛍光体との間で蛍光共鳴エネルギ移動が発生し得る有機分子と、が結合された複合蛍光体を合成する複合蛍光体形成工程と;前記複合蛍光体を、クロマトグラフィ法により分画する分画工程と;を備え、前記分画工程では、前記クロマトグラフィ法により分画される画分中の前記半導体量子ドット蛍光体に対する前記有機分子の割合が溶出容積の増加する範囲の量の前記複合蛍光体を前記クロマトグラフィ法で用いるカラムにアプライし、前記範囲内で分画する、ことを特徴とする複合蛍光体の分画方法である。

【0010】
この複合蛍光体の分画方法では、複合蛍光体形成工程において、半導体量子ドット蛍光体と、半導体量子ドット蛍光体との間で蛍光共鳴エネルギ移動が発生し得る有機分子と、が結合された複合蛍光体を合成する。この複合蛍光体形成工程においては、上述した従来例の場合と同様に、単純に一定割合の半導体量子ドット蛍光体と有機色素体とを混合して化学反応を進行させる。
【0011】
引き続き、分画工程において、クロマトグラフィ法により分画される画分中の半導体量子ドット蛍光体に対する有機分子の割合が、溶出容積の増加と共に変化する複合蛍光体の量をアプライして、当該クロマトグラフィ法により、複合蛍光体を分画する。この結果、蛍光共鳴エネルギ移動の発生の均一性が向上した画分が得られる。
したがって、本発明の複合蛍光体の分画方法によれば、定量的な環境計測のためのセンサとして利用可能な複合蛍光体を得ることができる。
【0012】
本発明の複合蛍光体の分画方法では、前記クロマトグラフィ法をゲル濾過カラムクロマトグラフィ法とすることができる。この場合には、水溶液、水分散液、有機溶媒溶液、有機溶媒分散液等をバッファとして使用して分画することができるので、バイオイメージングのための定量的な環境計測のためのセンサとしての利用に適した複合蛍光体を分画することができる。
【0013】
また、本発明の複合蛍光体の分画方法で、ゲル濾過カラムクロマトグラフィ法を採用する場合には、前記分画工程において、分画される画分中に含まれる前記半導体量子ドット蛍光体に対する前記有機分子の割合が、溶出容積の増加と共に増加する前記溶出容積の範囲を有する前記複合蛍光体の量をアプライし、前記範囲内で分画することができる。
【0014】
本発明者が研究の結果として得た知見によれば、通常は、ゲル濾過カラムに一定量の複合蛍光体をアプライしてクロマトグラフィを行うと、得られる画分中に含まれる分子の分子量は、溶出容積の増加につれて小さくなる。これに対し、同じカラムを用いても、複合蛍光体のアプライ量を増加させると、半導体量子ドット蛍光体に対する有機分子の割合が溶出容積の増加と共に増加する溶出容積の範囲が存在する。そして、当該範囲で分画を行うと、蛍光共鳴エネルギ移動の発生の均一性が向上した複合蛍光体を、効率的に得ることができる。さらに、画分中の複合蛍光体の分子の量と蛍光ピーク強度との間には、相関関係がある。
【0015】
本発明の複合蛍光体の分画方法としてゲル濾過カラムクロマトグラフィ法を採用する場合、使用する前記有機分子は、前記半導体量子ドット蛍光体との間で蛍光共鳴エネルギ移動が発生し得る蛍光性の有機色素、又は、前記半導体量子ドット蛍光体との間で蛍光共鳴エネルギ移動が発生し得る蛍光分子で標識された非蛍光性の有機分子のいずれかである。この場合には、測定対象の環境中の複合蛍光体に所定の励起光を照射し、半導体量子ドット蛍光体が発生する蛍光ピーク強度と、半導体量子ドット蛍光体からの蛍光共鳴エネルギ移動を受けた有機色素体が発生する蛍光ピーク強度とを測定し、それらの比を利用することにより、当該複合蛍光体の周囲環境について定量的な測定を行うことができる。
ここで、上記「有機分子」は、炭素・水素・酸素・窒素・硫黄等の元素からなる分子の総称であるが、本明細書中では、前記「有機分子」には、種々の生体分子が含まれ、生体高分子も含まれる。
【0016】
また、本発明の複合蛍光体の分画方法において、ゲル濾過カラムクロマトグラフィ法を用いる場合には、前記分画工程では、前記半導体量子ドット蛍光体と前記有機分子体との間における蛍光共鳴エネルギ移動について予め定められた特性の水溶液、水分散液、有機溶媒溶液及び有機溶媒分散液のいずれかを用いることができる。この場合には、水溶液又は有機溶媒、または分散液の特性と溶出容積との組み合わせに対応した蛍光共鳴エネルギ移動の発生特性を有する画分を得ることができる。
ここで、溶液とは、溶質と溶媒とが溶け合って均質になっている液体をいい、分散液とは、約1nm〜1μmの粒子が、液体中で浮遊しているか、又は液体中に懸濁されているものをいう。
【0017】
本発明の複合蛍光体の分画方法で使用する前記有機分子は、フルオレセイン誘導体、ローダミン誘導体、シアニン誘導体、アレクサフルオロ誘導体、ディライトフルオロ誘導体、及び、ボディピィー誘導体からなる群から選ばれる、いずれかの分子であることが好ましい。
【0018】
本発明の複合蛍光体の分画方法では、蛍光共鳴エネルギ移動効率特定工程を更に備えるようにすることができる。この工程では、前記分画された複合蛍光体のそれぞれの蛍光スペクトルの測定を行い、前記測定結果に基づいて、前記分画された複合蛍光体のそれぞれにおける蛍光共鳴エネルギ移動効率の平均値を特定する。
【0019】
本発明は、第2の観点からすると、本発明の複合蛍光体の分画方法を使用して得られる複合蛍光体の画分である。この複合蛍光体の画分は、上述した本発明の複合蛍光体の分画方法を使用して得られる。したがって、本発明の複合蛍光体の画分をセンサとして使用することにより、定量的な環境計測を行うことができる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明の複合蛍光体の分画方法によれば、定量的な環境測定のためのセンサとして利用可能な複合蛍光体を得ることができる。また、本発明の複合蛍光体の画分によれば、この画分をセンサとして使用して、定量的な環境計測を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施例1に係る複合蛍光体の分画方法を説明するための工程図である。(A)及び(E)の差異はカラムに充填されている分離樹脂の容積並びに内容物である。従って分画を行なう場合(C)と(D)、(F)と(G)のセットを繰り返すこととする。
図2】実施例1において3番目に回収された溶液の蛍光スペクトルのpH依存性を示す図である。通例の市販カラムにおいて分離は3番目に回数される溶液で終了するとされる。
図3】実施例1において3番目に回収された溶液の蛍光スペクトルから見積もったFRET効率のpH依存性を示す図である。
【0022】
図4】実施例1において4番目に回収された溶液の蛍光スペクトルのpH依存性を示す図である。
図5】実施例1において4番目に回収された溶液の蛍光スペクトルから見積もったFRET効率のpH依存性を示す図である。
図6】実施例1において5番目に回収された溶液の蛍光スペクトルのpH依存性を示す図である。
図7】実施例1において5番目に回収された溶液の蛍光スペクトルから見積もったFRETのpH依存性を示す図である。
【0023】
図8】実施例1によるカラム分離の有無による蛍光スペクトルの違いを説明するための図である。
図9】本発明の実施例2に係る複合蛍光体の分画方法を説明するための工程図である。(A)及び(E)の差異はカラムに充填されている分離樹脂の容積並びに内容物である。
図10】実施例2において3番目に回収された溶液の蛍光スペクトルのpH依存性を示す図である。通例の市販カラムにおいて分離は3番目に回数される溶液で終了するとされる。
図11】実施例2において3番目に回収された溶液の蛍光スペクトルから見積もったFRET効率のpH依存性を示す図である。
図12】実施例2において4番目に回収された溶液の蛍光スペクトルのpH依存性を示す図である。
【0024】
図13】実施例2において4番目に回収された溶液の蛍光スペクトルから見積もったFRETのpH依存性を示す図である。
図14】実施例2において5番目に回収された溶液の蛍光スペクトルのpH依存性を示す図である。
図15】実施例2において5番目に回収された溶液の蛍光スペクトルから見積もったFRETのpH依存性を示す図である。
【0025】
図16】実施例2によるカラム分離の有無による蛍光スペクトルの違いを説明するための図である。
図17】本発明の実施例3に係る複合蛍光体の分画方法を説明するための工程図である。(A)、(E)及び(J)の差異はカラムに充填されている分離樹脂の容積並びに内容物である。
図18】実施例3において2番目に回収された溶液の蛍光スペクトルのpH依存性を示す図である。通例の市販カラムにおいて分離は2番目に回数される溶液で終了するとされる。
【0026】
図19】実施例3において2番目に回収された溶液の蛍光スペクトルから見積もったFRETのpH依存性を示す図である。
図20】実施例3において3番目に回収された溶液の蛍光スペクトルのpH依存性を示す図である。
図21】実施例3において3番目に回収された溶液の蛍光スペクトルから見積もったFRET効率のpH依存性を示す図である。
【0027】
図22】実施例3において4番目に回収された溶液の蛍光スペクトルのpH依存性を示す図である。
図23】実施例3において4番目に回収された溶液の蛍光スペクトルから見積もったFRET効率のpH依存性を示す図である。
図24】実施例4において、色素添加量を5μLとしたときのバッファ添加量とFRET効率との関係を示す図である。
【0028】
図25】実施例4において、色素添加量を10μLとしたときのバッファ添加量とFRET効率との関係を示す図である。
図26】実施例4において、色素添加量を20μLとしたときのバッファ添加量とFRET効率との関係を示す図である。
図27】実施例1と同一条件(但し、カラム分離時のバッファのpHを「8.5」に固定)して、経時変化を観察した実施例5の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の一実施形態を、図1図27を参照しつつ説明する。なお、以下の説明において「カラム」という場合には、ゲル濾過カラムクロマトグラフィに使用するカラムをいうものとする。
図1に、一実施形態に係る複合蛍光体の分画方法の工程図を示す。まず、量子ドット溶液の所定量を、分画用カラムにアプライする。次いで、バッファを用いて分画する。ここで、使用するバッファのpHは、分画には大きく影響することはない。量子ドットと結合している色素は、固有の特徴としてpHに応じた蛍光特性を示す。
【0030】
ここで、使用する量子ドットとしては、CdSe/ZnS量子ドット、InP/ZnS量子ドット、ZnSe/ZnS量子ドット、CdS/ZnS量子ドット、CdSeTe/ZnS量子ドット、PbS/ZnS量子ドット、PbSe/ZnS量子ドット等を挙げることができるが、アミノ其配位のCdSe/ZnS量子ドット蛍光体、カルボキシル基配位のCdSe/ZnS量子ドット蛍光体等を、好適に使用することができる。これらの量子ドットは、蛍光量子収率が高く、優れた光退色性及び耐久性を有し、生体適合性が高いからである。
【0031】
本発明の複合蛍光体の分画方法で使用する前記有機分子は、フルオレセイン誘導体、ローダミン誘導体、シアニン誘導体、アレクサフルオロ誘導体、最近開発された近赤外発光の蛍光色素群であるディライトフルオロ誘導体、及び、ボディピィー誘導体からなる群から選ばれる、いずれかの分子であることが好ましい。
ここで、フルオレセイン誘導体としては、フルオレセインイソチオシアネート (fluorescein isothiocyanate; FITC)、N-ヒドロキシスクシンイミド (N-hydroxysuccinimide; NHS)、カルボキシフルオレセイン、カルボキシフルオレセインジアセテート(carboxy fluorescein diacetate; CFDA)等を挙げることができる。
【0032】
また、ローダミン誘導体としては、テトラエチルローダミン-5-(及び6)-イソチオシアネート(Tetramethylrhodamine-5-(and 6)-isothiocyanate、TRITC)、NHS-ローダミン(NHS-Rhodamin)等を挙げることができる。シアニン誘導体としては、長鎖炭化水素鎖をもつカルボシアニン色素やインドカルボシアニン色素を挙げることができる。アレクサフルオロ誘導体としては、種々のAlexa Flour(登録商標)製品(ライフテクノロジー社製)、さらに、ボディピィー(BODIPY、boron-dipyrrometheneの略称)誘導体としては、BODIPY FL、BODIPY RGG、BODIPY TMR、BODIPY 581/591(インビトロジェン社製)等を挙げることができる。
これらの中でも、ボディピィーを使用することが、蛍光ピーク強度が高いこと、結合後の安定性が高いこと等から好ましい。
【0033】
また、ここで使用するカラムとしては、シリカゲルを用いたオープンカラムの他、NICKカラム、NAP-5カラム、PD-10カラム(いずれも、GEヘルスケアバイオサイエンス社製)等の市販のゲル濾過カラムを挙げることができる。
これらをカラム分画用バッファで平衡化し、所定濃度の上記量子ドットを所定量でアプライし、分画を行う。まず、アプライした量の3〜25倍のバッファを加え、平衡化を行なう。この量は、製造元が添付している指示書に記載された量である。
引き続き上記量子ドット複合体を所定量でアプライし溶出して分画するために、同じバッファを加える。ここで使用するバッファとしては、ホウ酸バッファ、リン酸バッファに加え、グッドバッファ(Good's buffers)を含むバッファ等を挙げることができる。ここで、グッドバッファとは、1966年にNorman Goodらによって示された、下記の緩衝剤をいう。
【0034】
具体的には、ACES(N-(2-アセトアミド)-2-アミノエタンスルホン酸、N-(2-Acetamido)-2-aminoethanesulfonic Acid);ADA(N-(2-アセトアミド)イミノジ酢酸、N-(2-Acetamido)iminodiacetic Acid);BICINE(N,N-ジ(2-ヒドロキシエチル)グリシン、N,N-Di(2-hydroxyethyl)glycine);BES(N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-アミノエタンスルホン酸、N,N-Bis(2-hydroxyethyl)-2-aminoethanesulfonic Acid);Bis-Tris(ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン;Bis(2-hydroxyethyl)aminotris(hydroxymethyl)methane);DIPSO(3-[N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ]-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸、3-[N,N-Bis(2-hydroxyethyl)amino]-2-hydroxypropanesulfonic Acid);CHES(2-シクロヘキシルアミノエタンスルホン酸、2-Cyclohexylaminoethanesulfonic Acid);CAPS(3-シクロヘキシルアミノプロパンスルホン酸、Acid 3-Cyclohexylaminopropanesulfonic Acid);
【0035】
2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸(2-[4-(2-Hydroxyethyl)-1-piperazinyl]ethanesulfonic Acid);HEPES(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンプロパンスルホン酸、4-(2-Hydroxyethyl)-1-piperazinepropane sulfonic Acid);MES(2-モルホリノエタンスルホン酸、2-Morpholinoethanesulfonic Acid);MOPSO(2-ヒドロキシ-3-モルホリノプロパンスルホン酸、2-Hydroxy-3-morpholinopropanesulfonic Acid);POPSO Dihydrate(ピペラジン-1,4-ビス(2-ヒドロキシプロパンスルホン酸) 二水塩;Piperazine-1,4-bis(2-hydroxypropanesulfonic Acid) Dihydrate);PIPES(ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸);Piperazine-1,4-bis(2-ethanesulfonic Acid));Tricine(N-[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]グリシン、N-[Tris(hydxymethyl)methyl]glycine);TES(N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-アミノエタンスルホン酸、N-Tris(hydroxymethyl)methyl-2-aminoethanesulfonic);TAPS(N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-3-アミノプロパンスルホン酸、N-Tris(hydroxymethyl)methyl-3-aminopropanesulfonic Acid);TAPSO(3-[N-トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミノ]-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸、3-[N-Tris(hydroxymethyl)methylamino]-2-hydroxypropanesulfonic Acid)
【0036】
本発明の方法では、バッファの限定はされないが、使用する量子ドットの種類によって凝集しにくいバッファがあるため、使用する量子ドットに応じたバッファを使用することが好ましい。CdSe/ZnS量子ドットを使用する場合には、ホウ酸バッファを使用すると、この量子ドットが凝集しにくくなるために好ましい。
【0037】
ここで、簡便な操作によって、一定の範囲の分子量ごとに分画された画分を得ることができることから、NICKカラム、NAP-5カラム、PD-10カラム(いずれも、GEヘルスケアバイオサイエンス社製)等のゲル濾過カラムを使用する。これらのカラムの製造元が添付している指示書に記載されたバッファのアプライ量の2倍量から10倍量をアプライすることが好ましい。
【0038】
引き続き、分画された画分にpH調整のため5〜15NのNaOHを1〜10μL、反応促進のため10mg/ml程度の濃度の1〜10μLの色素と、必要に応じて、すなわち量子ドットに配位する官能基に依存し、50〜150mMのヘキサジアミンや1−アルキル−3−ジアルキルアミノアルキル−カルボジイミドハイドロクロライド等の試薬を添加しなければならない。反応終了後、この反応混合液(以下、「QD1-dye1」という。)を全量、NAP-5カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)にロードし、本操作で最初に溶出される溶出液を除去した(図1(E)参照)。
ここで、図1(A)と図1(E)との差異は、カラムに充填されている分離樹脂の容積並びに内容物である。従って、分画を行なう場合図1(C)と図1(D)、図1(F)と図1(G)のセットで、操作を繰り返す。
【0039】
また、図1(A)及び図1(D)に示すカラムで必要とされる初期のアプライ量は、それぞれ100μL及び500μLであるため、全量をアプライした後に、ここで必要とされる量になるようにバッファを加えて調整する。
ここで、このようにして、上記の指示書に記載された溶出に必要な量のバッファをNAP-5カラムにアプライすることにより、最初に複合体の中で相対的に分子量の小さい、又は親水性分子が溶出され、分子量の大きい、又は疎水性分子は遅れて溶出される。量子ドットと蛍光色素との反応を効率よく進めるために、蛍光色素は過剰量、すなわち、100倍以上で添加することが好ましく、1,000倍程度を添加することがさらに好ましい。
【0040】
ここで使用する色素としては、上述したような、フルオレセイン誘導体、ローダミン誘導体、及び、ボディピィー誘導体、シアニン誘導体、アレクサフルオロ誘導体、ディライトフルオロ誘導体等を挙げることができる。上記いずれの蛍光体も、FRETが起き得る蛍光体を使用することが、量子ドットからの発光スペクトルに合わせた吸収スペクトルを有しているということから、これらを使用することが好ましい。
反応は、室温にて30分〜1日程度行うことが、反応効率の面から好ましく、0.5〜1日とすることが、実験操作の効率化の面から好ましい。ここで、上記カルボキシル基を配位する量子ドットとの反応に用いるヘキサンジアミンはこれに限らず、アミノ基を2箇所有する分子を使用する場合には、アルキル基は、炭素数は色素に依存し適宜選択されることが好ましく、特に直鎖である必要性は無い。
【0041】
ただし触媒として1−エチル−3−ジメチルアミノプロピル−カルボジイミドハイドロクロライドを使用することが、量子ドット蛍光体とアミン化合物とを効率的に結合させる上で好適である。なお、アミノ基配位の量子ドットにはこの反応は不要である。
好ましくは、1μLの10NのNaOH、5〜10μLの10mg/mlの上記色素、1−エチル−3−ジメチルアミノプロピル−カルボジイミドハイドロクロライド(EDC)、及びアミン化合物を加え、室温にて1日程度反応させる。このような条件で反応させることによって、上記の色素が、量子半導体ドットの表面の官能基と効率よく結合した複合蛍光体を得ることができる。
【0042】
反応終了後、反応液体を全量、上記カラムにアプライする。その後、所定のpHのバッファを所定量加えて、分画し、所望の画分を試験管に回収する(図1及び図17参照)。ここで使用するバッファは、上述した通りである。
以上の操作を繰り返して分画を行い、得られた画分を回収する。画分のサイズは特に限定されないが、製造元より指示のあるカラム溶出容積とすることが好ましい。このカラムの溶出容積はカラムサイズに依存するが、例えば、図1のカラムにおいては約400〜約500μLとすると、本発明の方法に即した分離にもすぐれ、且つ、その後の実験で使用する場合、及び保存する場合のいずれにおいても、扱いが容易で使い勝手が良い。
【0043】
次いで、得られた画分の蛍光スペクトルを測定し、複合蛍光体におけるFRET効率を見積もる。例えば、励起波長を450nmとすると、上記の色素は450nmの励起光では直接励起できないため、分画された複合蛍光体において、複合体から色素へのエネルギ移動が発生しているか否かを確認することができる(図2図16、及び図18図23参照)。
ここで、概ねFRET効率は、色素の蛍光ピーク強度/量子ドット蛍光体の蛍光ピーク強度で表すことが可能であり、また、センサとして用いる場合はこの値を使用する。が、正確には量子ドットの蛍光寿命を計測することによってしか得られない。
【0044】
以上の分画操作を行うことにより、溶出容積の増加につれて、得られる画分中に含まれる分子体の分子量が増加する。これは、通常のゲル濾過カラムによる分画とは、全く逆の溶出プロファイルである。
通常のゲル濾過の場合には、多孔性のゲル電気泳動との相互作用の関係上、分子量の大きな分子は速く溶出され、分子量の小さな分子は遅れて溶出される。しかし、上記の分画の場合には、分子量の小さな分子が速く溶出され、分子量の大きな分子が遅れて溶出されるという特性を有する。また、得られた画分の複合蛍光体のFRET効率が、その中に含まれる複合蛍光体の分子量に依存しておりFRET効率と複合蛍光体の分子量との間に、定量的な相関関係を有する点に特徴がある(図24図26参照)。
【0045】
得られた画分を、それぞれ所定の励起波長で励起し、蛍光スペクトル測定を行い、蛍光最大値の強度比率であるとするFRET効率(dye1の蛍光強度)/(QD2の蛍光強度)を見積る。
ここで、使用する励起光の波長を400〜500nmとすることが、量子ドットと蛍光性物質との間でのエネルギ移動を確認するために好ましく、450nmとすると、使用した蛍光性物質がこの波長の励起光では直接励起されず、且つFRETが起こり得る蛍光色素を選択しているため、エネルギ移動を確実に観察することができる点でさらに好ましい。
【0046】
また、分画を行なわない場合の複合蛍光体形成反応のFRET効率の経時変化を確認しておくことにより、分画を行なう際の反応時間、上記30分から1日において安定したFRET効率を有する複合蛍光体を使用することができる(図27参照)。これによって、実験精度を一層向上させることができる。このようなFRET効率を有する複合蛍光体は、定量的な環境計測にセンサとして好適に使用することができる。
【実施例】
【0047】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1] アミノ基配位のCdSe/ZnS量子ドット蛍光体(以下、「QD1」という)
【0048】
まず、8mg/mlの25μLのQD1溶液をホウ酸バッファで平衡化したNICKカラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)に加えた後、75μLのホウ酸バッファ(pH8.5)を加えた。NICKカラムの最初の溶出液は、指示書に従い、試料がカラム内で分離される過程の廃液であることから、これを除去した(図1(A)参照)。実施例2以降も、上記と同様の理由から最初の溶出液は捨てた。引き続き、400μLのホウ酸バッファ(pH8.5)を加え同様に試料がカラム内で分離される過程の廃液であることを理由として溶出液を除去した(図1(B)参照)。
【0049】
引き続き、試験管に回収した溶液に、1μLの10N NaOH、及び5μLの5-(及び-6)-カルボキシナフチルフルオレセイン(スクシミジルエステル誘導体)(ライフサイエンステクノロジー社製)(以下、「dye1」という。)の水溶液(pH 8.5)を加え、室温にて1日反応させた(図1(D)参照)。反応終了後、この反応混合液(以下、「QD1-dye1」という。)を全量、NAP-5カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)にアプライし、本操作で最初に溶出される溶出液を除去した(図1(E)参照)。
ここで、図1(A)と図1(E)との差異は、カラムに充填されている分離樹脂の容積並びに内容物である。従って、分画を行なう場合図1(C)と図1(D)、図1(F)と図1(G)のセットで、操作を繰り返した。
【0050】
ここでは反応液が25μL及び400μLであったため、全量をアプライした後に、それぞれ、要求されるアプライ量である100μL及び500μLとなるようにバッファを加えて調整した。量子ドットと蛍光色素の反応を効率よく進めるために、蛍光色素は過剰量(1,000倍程度)を添加した。このように溶出に必要な量のバッファをNAP-5カラムにアプライすることによって、最初に、複合体の中で相対的に分子量が小さいか又は親水性分子が溶出され、次いで、分子量が大きいか又は疎水性分子が遅れて溶出された。
すなわち、500μLのホウ酸バッファ(pH 8.5)をNAP-5カラムに加え、溶出液を試験管に回収し(図1(F)参照)、QD1とdye1とが結合した複合蛍光体を含む水溶液を得た(図1(G)参照)。
【0051】
バッファを回収した後に、500μLのバッファをNAP-5カラムに供給し、溶出液を採取するというバッチ操作を繰り返した。供給したバッファのバッチごとに溶出液を採取し、QD1とdye1とが結合した複合蛍光体を含む画分を分画した。
なお、実施例1では、ホウ酸バッファのpHを、図1に示すように、7.5〜9.5の範囲として、上記と同様の操作によって分画した。そして、pHの値がそれぞれの場合に、NAP-5カラムで、3〜5番目に回収した溶出液の蛍光スペクトルを計測し(励起波長=450nm)、複合蛍光体におけるFRET効率を見積もった。
【0052】
図2及び図3には3番目、図4及び図5には4番目、図6及び図7には5番目に回収した溶液の蛍光スペクトルの測定結果、及び、FRET効率の見積り結果を、それぞれ示す。
なお、図3図5,及び図7においては、FRET効率を、(dye1蛍光ピーク強度)/(QD1の蛍光ピーク強度)として表している。
図2図4,及び図6に示すように、pHがアルカリ側になるに従ってdye1からの発光が強くなっていた。450nmの励起光ではdye1を直接励起できないことから、このことにより、分画された複合蛍光体で、QD1からdye1へのエネルギ移動が発生していることが示された。
【0053】
また、図3図5,及び図7に示すように、FRET効率は、分画に際してのバッファの回収回がいずれの場合であっても、pHがアルカリ側にシフトするにつれて大きくなっていた。これにより、バッファのpHを調節することにより、センサ能をFRET効率の変化として示せることができることが示された。
また、図3図5,及び図7に総合的に示すように、FRET効率は、何番目に回収した複合蛍光体の画分であるかに依存して変化していた。このことから、分画時における溶出容積(すなわち、カラムによる分離回数)を変化させることにより、FRET効率を制御することもできることが示された。
【0054】
上述した実施例1による分画(分離)を行わなかった場合についても、励起波長を450nmとして、蛍光スペクトルの計測を行った。かかる蛍光スペクトルの計測結果を、ホウ酸バッファ(pH 8.5)を用いて、上述のようにして分画した場合の3〜5番目に回収した溶液の蛍光スペクトルの計測結果とともに、図8に示す。
図8より、回収番号が後半に進むにつれてQD1由来の発光強度を基準としてdye1由来の発光強度が強くなる(すなわち、FRET効率が高くなっている)ことから、上述した分画により、QD1に結合しているdye1の数の平均値が、当該分画を行わない場合と比べて、相当多くなっていることが示され、反応生成物をその分子量(QD1に結合しているdye1の数と比例する)によって定量的に分画できることが示された。本来のカラム使用方法では2番目の回収試料を精製試料とするが、ここではFRET効率の低さが際立っているという整合性の取れた分離となっている。
【0055】
[実施例2] カルボキシル配位のCdSe/ZnS量子ドット蛍光体(以下、「QD2」という)
QD2の溶液として、ライフテクノロジーズ社製(商品名Qdot(登録商標)605 ITK(商標)Carboxyl Quantum Dots)を使用した。
まず、8mg/ml 20μLのQD2の溶液と6μLの1-エチル-3-ジメチルアミノプロピル-カルボジイミドハイドロクロライド(EDC、10mg/mL)及び100mMヘキサンジアミン0.5μlを加え室温にて1日反応させ、この溶液をNICKカラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)にアプライした後に、80μLのホウ酸バッファ(pH8.5)を加え、最初の溶出液を除去した。引き続き、400μLのホウ酸バッファ(pH8.5)を加え、この溶出液を除去した(図9(B)参照)。
【0056】
その後、図9(C)に示すように、400μLのホウ酸バッファ(pH8.5)を加え、溶出液を試験管に回収した。かかる量子ドットの分画を行うのは、実施例1の場合と同様に、試料がカラム内で分離される過程の廃液であるとの理由による。
引き続き、試験管に回収した溶液に1μLの10N NaOHとともに、10mg/ml、5μLのdye1を加え、室温にて1日反応させた(図9(D)参照)。反応終了後、反応液(以下「「QD2-dye1」という)を全量、NAP-5カラムにアプライし、100μLのホウ酸バッファ(pH 8.5)を加え、最初の溶出液を除去した(図9(F)参照)。
その後、500μLのホウ酸バッファ(pH 8.5)をNAP-5カラムに加え、溶出液を試験管に回収した(図9(G)参照)。この結果、QD2とdye1とが結合した複合蛍光体を含有する画分が得られた(図9(H)参照)。
【0057】
以後、図9(G)及び図9(H)の工程を、試験管を交換して繰り返した。こうして、QD2とdye1とが結合した複合蛍光体を分画した。
なお、実施例1の場合と同様に、ホウ酸バッファのpHを、7.5〜9.5の範囲とし、それぞれのpHのバッファで上記と同様にして分画し、NAP-5カラムで3〜5番目に回収した溶出液の蛍光スペクトル測定(励起波長=450nm)を行い、複合蛍光体におけるFRET効率を見積もった。
【0058】
図10及び図11には3番目、図12及び図13には4番目、図14及び図15には5番目に回収した溶液の蛍光スペクトルの測定結果、及び、FRET効率の見積り結果を、それぞれ示す。なお、図11図13,及び図15では、FRET効率を、(dye1の蛍光ピーク強度)/(QD2の蛍光ピーク強度)として表した。
図10図12及び図14に示されるように、実施例1の場合と同様に、pHがアルカリ側になるにdye1からの発光が強くなっていた。このことは、dye1は450nmの励起光では直接励起できないことから、分画された複合蛍光体では、QD2からdye1へのエネルギ移動が発生していることを示すものである。
【0059】
また、図11図13,及び図15に示されるように、FRET効率は、実施例1の場合と同様に、いずれの分画回収回においても、pHがアルカリ側にシフトするにつれて大きくなった。このため、バッファのpHを調整することにより、センサシング能をFRET効率の変化として示せることができるものと考えられた。
また、図11図13,及び図15から、実施例1の場合と同様に、バッチ操作によって回収した複合蛍光体の画分によって、FRET効率が変化していた。このため、分画時における溶出容積(すなわち、カラムの分離回数)により、FRET効率を制御できることが示された。
【0060】
上述した実施例2による分画(分離)を行わなかった場合についても、励起波長を450nmとして、蛍光スペクトル測定を行った。図16に、ホウ酸バッファ(pH 8.5)を使用した場合の3〜5番目に回収した溶液の測定結果を示す。
図16に示すように、QD2由来の発光強度を基準としたときに、dye1由来の発光強度が強くなる(すなわち、FRET効率が高くなっている)ことから、この分画操作によって、QD1に結合しているdye1の数の平均値が、当該分画を行わない場合と比べて、多くなっていることが示された。通常の画分である2番目の回収には特にFRET効率の低い複合体が含まれていた。
【0061】
[実施例3]アミノ配位のInP/ZnS量子ドット蛍光体(以下、「QD3」という)
まず、図17(A)に示されるように、QD3の溶液20μLに6μLの10mg/mlのEDCと、0.5μLの100mMのヘキサジアミン(以下、「HDA」ということがある。)とを加え、室温にて半日反応させた。反応終了後、反応液(以下、「QD3-H」という)反応液をNICKカラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)アプライした後に、74μLのホウ酸バッファ(pH 8.5)を加え、NICKカラムからの溶出液を除去した。引き続き、400μLのホウ酸バッファ(pH 8.5)を加え、溶出液を除去した(図17(B)参照)。
その後、400μLのホウ酸バッファ(pH 8.5)を加え、溶出液を試験管に回収した。かかる量子ドットの分画を行うのは、実施例2と同様の理由である。
【0062】
引き続き、これらの溶液に、1μLの10N NaOHを加え、10mg/mL、5μLのdye2を加え、室温にて一日反応させた。反応終了後、反応溶液(以下、「QD3-dye2」という)の溶液を全量、NAP-5カラムに加え、溶出液を除去した。さらにホウ酸バッファ100μLを添加した。
その後、500μLのホウ酸バッファをNAP-5カラムに加え、溶出液を試験管内に回収した。この結果、QD3とdye2が結合した複合蛍光体を含む画分が得られた(図17(L)参照)。
【0063】
以後、図17(K)及び図17(L)に示す工程を、試験管を交換しながら繰り返した。こうして、QD3とdye2とが結合した複合蛍光体を含む画分を分画した。
なお、実施例3では、実施例1の場合と同様に、ホウ酸バッファのpHを7.5〜9.5として分画を行い、NAP-5カラムで2〜4番目に回収した溶液の蛍光スペクトルを測定(励起波長=450nm)し、複合蛍光体のFRET効率を見積もった。
図18及び図19には2番目、図20及び図21には3番目、図22及び図23には、4番目に回収した溶液の蛍光スペクトルの測定結果、及び、FRET効率の見積り結果を、それぞれ示した。なお、これらの図では、FRET効率を、(dye2の蛍光ピーク強度)/(QD3の蛍光ピーク強度)として表している。
【0064】
図18図20,及び図22に示すように、pHの値に応じて、dye2からの発光強度が変化していた。dye2も450nmの励起光では直接励起できないため、このことは、分画された複合蛍光体では、QD3からdye2へのエネルギ移動が発生していることを示す。
また、図19図21,及び図23に示されるように、FRET効率はバッファのpHに依存的に変化した。このことは、バッファのpHを変化させることにより、センシング能をFRET効率の変化として表わせることを示す。
また、図19図21,及び図23から総合的に示されるように、回収した複合蛍光体の画分によってFRET効率が変化していた。このことは、分画時における溶出容積(すなわち、カラムの分離回数)により、FRET効率を制御できることを示す。
【0065】
[実施例4]複素蛍光体のアプライ量と分画時の溶出容積とFRET効率との関係
実施例4では、実施例1と同様に、QD1-dye1の溶液の量を5μL,10μL,20μLとし、ホウ酸バッファ(pH8.5)のバッチごとの添加量を細かく変化させつつ、回収された溶液の蛍光スペクトルを実施例1と同様に測定し、FRET効率を見積もった。
図24には、QD1-dye1の溶液の量が5μLの場合、図25には10μLの場合、図26には、10μLの場合の結果を、それぞれ示す。図24図26に示す結果より、バッファの添加量の変化に応じて、FRET効率が変化していることが示された。
【0066】
また、図24図26に示す結果から、バッファ添加量が増加するにつれてFRET効率が増加する範囲が存在することが確認された。さらにアプライしたQD-dye1の量に応じて分画の相対位置に差はあるものの傾向は極めて一定で本発明の一般性を示す。
【0067】
[実施例5]複合蛍光体の画分のFRET効率の時間変化
本実施例では、全く分離を行なわない反応がどのように経時変化するかを蛍光スペクトル測定によって観察した。
図27には、FRET効率の時間変化の調査結果の例を示す。この結果から、50分程度で、反応が終了しFRET効率が安定することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0068】
以上説明したように、本発明の複合蛍光体の分画方法は、定量的な環境計測のためのセンサとして利用可能な複合蛍光体の取得に適用することができる。また、本発明の複合蛍光体の画分は、定量的な環境計測のためのセンサに適用することができる。
【符号の説明】
【0069】
11 … NICKカラム
12,13 … 試験管
14,15 … NAP-5カラム
16 … 試験管
図1
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図5
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