【実施例】
【0047】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1] アミノ基配位のCdSe/ZnS量子ドット蛍光体(以下、「QD1」という)
【0048】
まず、8mg/mlの25μLのQD1溶液をホウ酸バッファで平衡化したNICKカラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)に加えた後、75μLのホウ酸バッファ(pH8.5)を加えた。NICKカラムの最初の溶出液は、指示書に従い、試料がカラム内で分離される過程の廃液であることから、これを除去した(
図1(A)参照)。実施例2以降も、上記と同様の理由から最初の溶出液は捨てた。引き続き、400μLのホウ酸バッファ(pH8.5)を加え同様に試料がカラム内で分離される過程の廃液であることを理由として溶出液を除去した(
図1(B)参照)。
【0049】
引き続き、試験管に回収した溶液に、1μLの10N NaOH、及び5μLの5-(及び-6)-カルボキシナフチルフルオレセイン(スクシミジルエステル誘導体)(ライフサイエンステクノロジー社製)(以下、「dye1」という。)の水溶液(pH 8.5)を加え、室温にて1日反応させた(
図1(D)参照)。反応終了後、この反応混合液(以下、「QD1-dye1」という。)を全量、NAP-5カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)にアプライし、本操作で最初に溶出される溶出液を除去した(
図1(E)参照)。
ここで、
図1(A)と
図1(E)との差異は、カラムに充填されている分離樹脂の容積並びに内容物である。従って、分画を行なう場合
図1(C)と
図1(D)、
図1(F)と
図1(G)のセットで、操作を繰り返した。
【0050】
ここでは反応液が25μL及び400μLであったため、全量をアプライした後に、それぞれ、要求されるアプライ量である100μL及び500μLとなるようにバッファを加えて調整した。量子ドットと蛍光色素の反応を効率よく進めるために、蛍光色素は過剰量(1,000倍程度)を添加した。このように溶出に必要な量のバッファをNAP-5カラムにアプライすることによって、最初に、複合体の中で相対的に分子量が小さいか又は親水性分子が溶出され、次いで、分子量が大きいか又は疎水性分子が遅れて溶出された。
すなわち、500μLのホウ酸バッファ(pH 8.5)をNAP-5カラムに加え、溶出液を試験管に回収し(
図1(F)参照)、QD1とdye1とが結合した複合蛍光体を含む水溶液を得た(
図1(G)参照)。
【0051】
バッファを回収した後に、500μLのバッファをNAP-5カラムに供給し、溶出液を採取するというバッチ操作を繰り返した。供給したバッファのバッチごとに溶出液を採取し、QD1とdye1とが結合した複合蛍光体を含む画分を分画した。
なお、実施例1では、ホウ酸バッファのpHを、
図1に示すように、7.5〜9.5の範囲として、上記と同様の操作によって分画した。そして、pHの値がそれぞれの場合に、NAP-5カラムで、3〜5番目に回収した溶出液の蛍光スペクトルを計測し(励起波長=450nm)、複合蛍光体におけるFRET効率を見積もった。
【0052】
図2及び
図3には3番目、
図4及び
図5には4番目、
図6及び
図7には5番目に回収した溶液の蛍光スペクトルの測定結果、及び、FRET効率の見積り結果を、それぞれ示す。
なお、
図3,
図5,及び
図7においては、FRET効率を、(dye1蛍光ピーク強度)/(QD1の蛍光ピーク強度)として表している。
図2,
図4,及び
図6に示すように、pHがアルカリ側になるに従ってdye1からの発光が強くなっていた。450nmの励起光ではdye1を直接励起できないことから、このことにより、分画された複合蛍光体で、QD1からdye1へのエネルギ移動が発生していることが示された。
【0053】
また、
図3,
図5,及び
図7に示すように、FRET効率は、分画に際してのバッファの回収回がいずれの場合であっても、pHがアルカリ側にシフトするにつれて大きくなっていた。これにより、バッファのpHを調節することにより、センサ能をFRET効率の変化として示せることができることが示された。
また、
図3,
図5,及び
図7に総合的に示すように、FRET効率は、何番目に回収した複合蛍光体の画分であるかに依存して変化していた。このことから、分画時における溶出容積(すなわち、カラムによる分離回数)を変化させることにより、FRET効率を制御することもできることが示された。
【0054】
上述した実施例1による分画(分離)を行わなかった場合についても、励起波長を450nmとして、蛍光スペクトルの計測を行った。かかる蛍光スペクトルの計測結果を、ホウ酸バッファ(pH 8.5)を用いて、上述のようにして分画した場合の3〜5番目に回収した溶液の蛍光スペクトルの計測結果とともに、
図8に示す。
図8より、回収番号が後半に進むにつれてQD1由来の発光強度を基準としてdye1由来の発光強度が強くなる(すなわち、FRET効率が高くなっている)ことから、上述した分画により、QD1に結合しているdye1の数の平均値が、当該分画を行わない場合と比べて、相当多くなっていることが示され、反応生成物をその分子量(QD1に結合しているdye1の数と比例する)によって定量的に分画できることが示された。本来のカラム使用方法では2番目の回収試料を精製試料とするが、ここではFRET効率の低さが際立っているという整合性の取れた分離となっている。
【0055】
[実施例2] カルボキシル配位のCdSe/ZnS量子ドット蛍光体(以下、「QD2」という)
QD2の溶液として、ライフテクノロジーズ社製(商品名Qdot(登録商標)605 ITK(商標)Carboxyl Quantum Dots)を使用した。
まず、8mg/ml 20μLのQD2の溶液と6μLの1-エチル-3-ジメチルアミノプロピル-カルボジイミドハイドロクロライド(EDC、10mg/mL)及び100mMヘキサンジアミン0.5μlを加え室温にて1日反応させ、この溶液をNICKカラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)にアプライした後に、80μLのホウ酸バッファ(pH8.5)を加え、最初の溶出液を除去した。引き続き、400μLのホウ酸バッファ(pH8.5)を加え、この溶出液を除去した(
図9(B)参照)。
【0056】
その後、
図9(C)に示すように、400μLのホウ酸バッファ(pH8.5)を加え、溶出液を試験管に回収した。かかる量子ドットの分画を行うのは、実施例1の場合と同様に、試料がカラム内で分離される過程の廃液であるとの理由による。
引き続き、試験管に回収した溶液に1μLの10N NaOHとともに、10mg/ml、5μLのdye1を加え、室温にて1日反応させた(
図9(D)参照)。反応終了後、反応液(以下「「QD2-dye1」という)を全量、NAP-5カラムにアプライし、100μLのホウ酸バッファ(pH 8.5)を加え、最初の溶出液を除去した(
図9(F)参照)。
その後、500μLのホウ酸バッファ(pH 8.5)をNAP-5カラムに加え、溶出液を試験管に回収した(
図9(G)参照)。この結果、QD2とdye1とが結合した複合蛍光体を含有する画分が得られた(
図9(H)参照)。
【0057】
以後、
図9(G)及び
図9(H)の工程を、試験管を交換して繰り返した。こうして、QD2とdye1とが結合した複合蛍光体を分画した。
なお、実施例1の場合と同様に、ホウ酸バッファのpHを、7.5〜9.5の範囲とし、それぞれのpHのバッファで上記と同様にして分画し、NAP-5カラムで3〜5番目に回収した溶出液の蛍光スペクトル測定(励起波長=450nm)を行い、複合蛍光体におけるFRET効率を見積もった。
【0058】
図10及び
図11には3番目、
図12及び
図13には4番目、
図14及び
図15には5番目に回収した溶液の蛍光スペクトルの測定結果、及び、FRET効率の見積り結果を、それぞれ示す。なお、
図11,
図13,及び
図15では、FRET効率を、(dye1の蛍光ピーク強度)/(QD2の蛍光ピーク強度)として表した。
図10,
図12及び
図14に示されるように、実施例1の場合と同様に、pHがアルカリ側になるにdye1からの発光が強くなっていた。このことは、dye1は450nmの励起光では直接励起できないことから、分画された複合蛍光体では、QD2からdye1へのエネルギ移動が発生していることを示すものである。
【0059】
また、
図11,
図13,及び
図15に示されるように、FRET効率は、実施例1の場合と同様に、いずれの分画回収回においても、pHがアルカリ側にシフトするにつれて大きくなった。このため、バッファのpHを調整することにより、センサシング能をFRET効率の変化として示せることができるものと考えられた。
また、
図11,
図13,及び
図15から、実施例1の場合と同様に、バッチ操作によって回収した複合蛍光体の画分によって、FRET効率が変化していた。このため、分画時における溶出容積(すなわち、カラムの分離回数)により、FRET効率を制御できることが示された。
【0060】
上述した実施例2による分画(分離)を行わなかった場合についても、励起波長を450nmとして、蛍光スペクトル測定を行った。
図16に、ホウ酸バッファ(pH 8.5)を使用した場合の3〜5番目に回収した溶液の測定結果を示す。
図16に示すように、QD2由来の発光強度を基準としたときに、dye1由来の発光強度が強くなる(すなわち、FRET効率が高くなっている)ことから、この分画操作によって、QD1に結合しているdye1の数の平均値が、当該分画を行わない場合と比べて、多くなっていることが示された。通常の画分である2番目の回収には特にFRET効率の低い複合体が含まれていた。
【0061】
[実施例3]アミノ配位のInP/ZnS量子ドット蛍光体(以下、「QD3」という)
まず、
図17(A)に示されるように、QD3の溶液20μLに6μLの10mg/mlのEDCと、0.5μLの100mMのヘキサジアミン(以下、「HDA」ということがある。)とを加え、室温にて半日反応させた。反応終了後、反応液(以下、「QD3-H」という)反応液をNICKカラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)アプライした後に、74μLのホウ酸バッファ(pH 8.5)を加え、NICKカラムからの溶出液を除去した。引き続き、400μLのホウ酸バッファ(pH 8.5)を加え、溶出液を除去した(
図17(B)参照)。
その後、400μLのホウ酸バッファ(pH 8.5)を加え、溶出液を試験管に回収した。かかる量子ドットの分画を行うのは、実施例2と同様の理由である。
【0062】
引き続き、これらの溶液に、1μLの10N NaOHを加え、10mg/mL、5μLのdye2を加え、室温にて一日反応させた。反応終了後、反応溶液(以下、「QD3-dye2」という)の溶液を全量、NAP-5カラムに加え、溶出液を除去した。さらにホウ酸バッファ100μLを添加した。
その後、500μLのホウ酸バッファをNAP-5カラムに加え、溶出液を試験管内に回収した。この結果、QD3とdye2が結合した複合蛍光体を含む画分が得られた(
図17(L)参照)。
【0063】
以後、
図17(K)及び
図17(L)に示す工程を、試験管を交換しながら繰り返した。こうして、QD3とdye2とが結合した複合蛍光体を含む画分を分画した。
なお、実施例3では、実施例1の場合と同様に、ホウ酸バッファのpHを7.5〜9.5として分画を行い、NAP-5カラムで2〜4番目に回収した溶液の蛍光スペクトルを測定(励起波長=450nm)し、複合蛍光体のFRET効率を見積もった。
図18及び
図19には2番目、
図20及び
図21には3番目、
図22及び
図23には、4番目に回収した溶液の蛍光スペクトルの測定結果、及び、FRET効率の見積り結果を、それぞれ示した。なお、これらの図では、FRET効率を、(dye2の蛍光ピーク強度)/(QD3の蛍光ピーク強度)として表している。
【0064】
図18,
図20,及び
図22に示すように、pHの値に応じて、dye2からの発光強度が変化していた。dye2も450nmの励起光では直接励起できないため、このことは、分画された複合蛍光体では、QD3からdye2へのエネルギ移動が発生していることを示す。
また、
図19,
図21,及び
図23に示されるように、FRET効率はバッファのpHに依存的に変化した。このことは、バッファのpHを変化させることにより、センシング能をFRET効率の変化として表わせることを示す。
また、
図19,
図21,及び
図23から総合的に示されるように、回収した複合蛍光体の画分によってFRET効率が変化していた。このことは、分画時における溶出容積(すなわち、カラムの分離回数)により、FRET効率を制御できることを示す。
【0065】
[実施例4]複素蛍光体のアプライ量と分画時の溶出容積とFRET効率との関係
実施例4では、実施例1と同様に、QD1-dye1の溶液の量を5μL,10μL,20μLとし、ホウ酸バッファ(pH8.5)のバッチごとの添加量を細かく変化させつつ、回収された溶液の蛍光スペクトルを実施例1と同様に測定し、FRET効率を見積もった。
図24には、QD1-dye1の溶液の量が5μLの場合、
図25には10μLの場合、
図26には、10μLの場合の結果を、それぞれ示す。
図24〜
図26に示す結果より、バッファの添加量の変化に応じて、FRET効率が変化していることが示された。
【0066】
また、
図24〜
図26に示す結果から、バッファ添加量が増加するにつれてFRET効率が増加する範囲が存在することが確認された。さらにアプライしたQD-dye1の量に応じて分画の相対位置に差はあるものの傾向は極めて一定で本発明の一般性を示す。
【0067】
[実施例5]複合蛍光体の画分のFRET効率の時間変化
本実施例では、全く分離を行なわない反応がどのように経時変化するかを蛍光スペクトル測定によって観察した。
図27には、FRET効率の時間変化の調査結果の例を示す。この結果から、50分程度で、反応が終了しFRET効率が安定することが示された。