(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6245664
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】表面増強ラマン散乱分光測定用基板及びそれを用いた装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/65 20060101AFI20171204BHJP
G01N 30/74 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
G01N21/65
G01N30/74 Z
【請求項の数】21
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-532818(P2015-532818)
(86)(22)【出願日】2014年8月11日
(86)【国際出願番号】JP2014071164
(87)【国際公開番号】WO2015025756
(87)【国際公開日】20150226
【審査請求日】2016年9月23日
(31)【優先権主張番号】特願2013-173758(P2013-173758)
(32)【優先日】2013年8月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】513214136
【氏名又は名称】株式会社右近工舎
(74)【代理人】
【識別番号】100104581
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 伊章
(74)【代理人】
【識別番号】100188525
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 超史
(72)【発明者】
【氏名】右近 寿一郎
【審査官】
伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】
特表2012−511705(JP,A)
【文献】
特開2012−088222(JP,A)
【文献】
特表2003−504642(JP,A)
【文献】
特表2010−537155(JP,A)
【文献】
特開2008−164584(JP,A)
【文献】
特開2008−281529(JP,A)
【文献】
特開2008−168396(JP,A)
【文献】
特開2008−175612(JP,A)
【文献】
特開2009−150749(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0311729(US,A1)
【文献】
国際公開第2013/070948(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/65
G01N 30/74
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板本体と、
前記基板本体に貫通形成された複数の細孔と、
前記細孔を密閉しないように前記基板本体露出面上に配設された粒子と、を備え、
前記粒子間及び前記細孔を分析物が通過する
表面増強ラマン散乱分光測定用基板。
【請求項2】
前記粒子は、金、銀、銅、白金、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、鉄、コバルト又はニッケルを含む粒子であることを特徴とする請求項1記載の表面増強ラマン散乱分光測定用基板。
【請求項3】
前記粒子は、コア粒子の表面に金属膜が被覆されていることを特徴とする請求項1記載の表面増強ラマン散乱分光測定用基板。
【請求項4】
前記粒子は、前記コア粒子の表面にキャップ状に金属膜が被覆されていることを特徴とする請求項1記載の表面増強ラマン散乱分光測定用基板。
【請求項5】
前記コア粒子は、シリカ、アルミナ、酸化チタン又はポリスチレンの粒子を含み、
前記金属膜は、金、銀、銅、白金、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、鉄、コバルト又はニッケルを含んでいることを特徴とする請求項3記載の表面増強ラマン散乱分光測定用基板。
【請求項6】
前記粒子は、その平均粒子径が10〜200nmであることを特徴とする請求項2記載の表面増強ラマン散乱分光測定用基板。
【請求項7】
前記金属膜は、その平均膜厚が10〜200nmであることを特徴とする請求項3記載の表面増強ラマン散乱分光測定用基板。
【請求項8】
前記コア粒子は、その平均粒子径がサブミクロンであることを特徴とする請求項3記載の表面増強ラマン散乱分光測定用基板。
【請求項9】
前記金属膜は、その平均最大膜厚が10〜200nmであることを特徴とする請求項3記載の表面増強ラマン散乱分光測定用基板。
【請求項10】
前記粒子は、非導電体のコア粒子の表面にばらばらに金属粒子が付着されていることを特徴とする請求項1記載の表面増強ラマン散乱分光測定用基板。
【請求項11】
前記金属粒子は、その平均粒子径が10〜100nmであることを特徴とする請求項10記載の表面増強ラマン散乱分光測定用基板。
【請求項12】
前記金属粒子は、金、銀、銅、白金、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、鉄、コバルト又はニッケルを含んでいることを特徴とする請求項10記載の表面増強ラマン散乱分光測定用基板。
【請求項13】
前記基板本体の表面に、前記粒子の電位を外部から調節できるように導電性コーティングを施したことを特徴とする請求項1記載の表面増強ラマン散乱分光測定用基板。
【請求項14】
前記基板本体は、無機物であることを特徴とする請求項1記載の表面増強ラマン散乱分光測定用基板。
【請求項15】
前記基板本体は、アルミナを含むことを特徴とする請求項14記載の表面増強ラマン散乱分光測定用基板。
【請求項16】
前記基板本体は、有機物であることを特徴とする請求項1記載の表面増強ラマン散乱分光測定用基板。
【請求項17】
前記細孔は、その平均細孔径が前記粒子の平均粒子径よりも小さく、かつ、5〜100nmであることを特徴とする請求項1記載の表面増強ラマン散乱分光測定用基板。
【請求項18】
前記粒子は、該粒子間を分析物が垂直に通過する粒子であることを特徴とする請求項1記載の表面増強ラマン散乱分光測定用基板。
【請求項19】
請求項1記載の表面増強ラマン散乱分光測定用基板が組み込まれていることを特徴とする表面増強ラマン散乱分光測定装置。
【請求項20】
請求項1記載の表面増強ラマン散乱分光測定用基板が組み込まれていることを特徴とする液体クロマトグラフ装置。
【請求項21】
請求項1記載の表面増強ラマン散乱分光測定用基板が組み込まれていることを特徴とする液体クロマトグラフ装置の検出器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板に貫通した細孔を形成した表面増強ラマン散乱分光測定用基板、並びに、それを用いた表面増強ラマン散乱分光測定装置及び液体クロマトグラフ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属ナノ粒子等、ある種の金属微小構造体に光を照射すると、金属内部の自由電子が入射光に共鳴して集団振動を起こし、それによって増強電磁場が発現する。この現象は、局在表面プラズモン共鳴(Localized Surface Plasmon Resonance:LSPR)と呼ばれている。このLSPRは、金属ナノ粒子凝集体の間隙などで特に強く増強され、その間隙に分子が吸着すると、吸着分子のラマン散乱断面積が通常のラマン散乱断面積に比べ10の10乗〜10の14乗倍増強され、非常に強いラマン散乱が検出される。この手法を、表面増強ラマン散乱(Surface Enhanced Raman Scattering:SERS)という。
【0003】
ラマン分光分析は、被分析物に励起光を照射することにより発生するラマン散乱光に基づいて行われる被分析物の分子同定等に用いられる分光技術である。ラマン散乱光は、極めて微弱であるため、検出が困難であるという問題を有している。そこで、前述した表面増強ラマン散乱という現象を利用して、強度の高いラマン散乱光を発生させる方法が提案されている。SERSによりラマン散乱光が増強される効果(以下、「SERS効果」という)は、金属粒子間の隙間の大きさが、数十nm程度又はそれ以下の大きさにおいて高い。このような高いSERS効果を得るために、金属粒子間に微細な隙間を形成する方法が以下に示すように、種々提案されている。
【0004】
非特許文献1に記載された表面増強ラマン散乱分光測定用基板は、ミクロンオーダーの逆ピラミッド型の窪みが形成されており、その内側が金でコーティングされている。窪みの底部で粒状の金が近接していることにより、SERS効果を生む。
【0005】
非特許文献2に記載された表面増強ラマン散乱分光測定用基板は、シリカ柱状層に金をキャップ状に被せている。各柱状層に配置された金が互いに近接していることにより、SERS効果を生む。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】S. Botti、他5名、「Trace level detection and identification ofnitro-based explosives by surface-enhanced Raman spectroscopy」、Journal of Raman Spectroscopy、(米国)、John Wiley & Sons, Ltd.、2013年1月25日、Volume 44、Issue 3、p.463-468
【非特許文献2】Motofumi Suzuki、他7名、「Ag nanorod arrays tailored for surface-enhanced Raman imaging in the near-infrared region」、Nanotechnology、(米国)、IOP Publishing、2008年5月19日、Volume 19、Issue 26、265304 p.1-17
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1及び非特許文献2に記載された様な従来の表面増強ラマン散乱分光測定用基板を液体クロマトグラフ装置等のフロー系の検出器の一部として用いた場合、分析液を当該基板に対して垂直方向に通過させることはできないため、分析液の流れ方向は、当該基板に対して略水平方向にしなければならない。その場合、分析物の一部が粒子に触れるだけになるので、感度が低くSERS効果を十分に得ることができない。また、当該基板との接触面では流速が遅いため分析物の置き換わりが遅くなり、適切な測定ができない等の問題があった。これらを理由に、従来の技術では、表面増強ラマン散乱分光測定装置を液体クロマトグラフ装置等のフロー系に組み込むことは極めて困難であった。
このため、液体クロマトグラフ装置において、分析物の分子構造を同定するためには、質量分析法(Mass Spectrometry:MS)を検出器とする液体クロマトグラフィ質量分析法(Liquid Chromatography Mass Spectrometry:LC−MS)等を用いる必要があった。しかし、LC−MS装置は高価な装置であり、日常的に構造情報を得るためには安価な分析法ではなかった。
【0008】
本発明は上記のような従来の問題を解決するもので、本発明の目的は、液体クロマトグラフ装置等のフロー系の検出器として組み込み、使用することができる表面増強ラマン散乱分光測定用基板、並びに、それを用いた表面増強ラマン散乱分光測定装置及び液体クロマトグラフ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る表面増強ラマン散乱分光測定用基板は、
基板本体と、
前記基板本体に貫通形成された細孔と、
前記細孔を密閉しないように前記基板本体露出面上に配設された粒子と、を備え、
前記粒子は、該粒子間を分析物が通過する粒子であって、
前記細孔は、分析物が通過する細孔であることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の表面増強ラマン散乱分光測定用基板は、
前記細孔は、前記粒子間を通過した分析物が通過する細孔であることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の表面増強ラマン散乱分光測定用基板は、
前記粒子は、金、銀、銅、白金、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、鉄、コバルト又はニッケルを含む粒子であることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の表面増強ラマン散乱分光測定用基板は、
前記粒子は、コア粒子の表面に金属膜が被覆されていることを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の表面増強ラマン散乱分光測定用基板は、
前記粒子は、前記コア粒子の表面にキャップ状に金属膜が被覆されていることを特徴とする。
【0014】
請求項6に記載の表面増強ラマン散乱分光測定用基板は、
前記コア粒子は、シリカ、アルミナ、酸化チタン又はポリスチレンラテックスを含み、
前記金属膜は、金、銀、銅、白金、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、鉄、コバルト又はニッケルを含んでいることを特徴とする。
【0015】
請求項7に記載の表面増強ラマン散乱分光測定用基板は、
前記粒子は、その平均粒子径が10〜200nmであることを特徴とする。
【0016】
請求項8に記載の表面増強ラマン散乱分光測定用基板は、
前記金属膜は、その平均膜厚が10〜200nmであることを特徴とする。
【0017】
請求項9に記載の表面増強ラマン散乱分光測定用基板は、
前記コア粒子は、その平均粒子径がサブミクロンであることを特徴とする。
【0018】
請求項10に記載の表面増強ラマン散乱分光測定用基板は、
前記金属膜は、その平均最大膜厚が10〜200nmであることを特徴とする。
【0019】
請求項11に記載の表面増強ラマン散乱分光測定用基板は、前記粒子は、非導電体のコア粒子の表面にばらばらに金属粒子が付着されていることを特徴とする。
【0020】
請求項12に記載の表面増強ラマン散乱分光測定用基板は、前記金属粒子は、その平均粒子径が10〜100nmであることを特徴とする。
【0021】
請求項13に記載の表面増強ラマン散乱分光測定用基板は、前記金属粒子は、金、銀、銅、白金、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、鉄、コバルト又はニッケルを含んでいることを特徴とする。
【0022】
請求項14に記載の表面増強ラマン散乱分光測定用基板は、前記基板本体の表面に、前記粒子の電位を外部から調節できるように導電性コーティングを施したことを特徴とする。
【0023】
請求項15に記載の表面増強ラマン散乱分光測定用基板は、
前記基板本体は、無機物であることを特徴とする。
【0024】
請求項16に記載の表面増強ラマン散乱分光測定用基板は、
前記基板本体は、アルミナを含むことを特徴とする。
【0025】
請求項17に記載の表面増強ラマン散乱分光測定用基板は、
前記基板本体は、有機物であることを特徴とする。
【0026】
請求項18に記載の表面増強ラマン散乱分光測定用基板は、
前記細孔は、その平均細孔径が前記粒子の平均粒子径よりも小さく、かつ、5〜100nmであることを特徴とする。
【0027】
請求項19に記載の表面増強ラマン散乱分光測定用基板は、
前記粒子は、該粒子間を分析物が垂直に通過する粒子であることを特徴とする。
【0028】
請求項20に記載の表面増強ラマン散乱分光測定装置は、
請求項1記載の表面増強ラマン散乱分光測定用基板が組み込まれていることを特徴とする。
【0029】
請求項21に記載の液体クロマトグラフ装置は、
請求項1記載の表面増強ラマン散乱分光測定用基板が組み込まれていることを特徴とする。
【0030】
請求項22に記載の液体クロマトグラフ装置の検出器は、
請求項1記載の表面増強ラマン散乱分光測定用基板が組み込まれていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0031】
本発明の表面増強ラマン散乱分光測定用基板によれば、液体クロマトグラフ等のフロー系の検出器として表面増強ラマン散乱分光測定装置を使用することができる。そのため、分析物から散乱され、SERSにより増強されたラマン散乱光をリアルタイムで測定し、分析物の同定等をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の一実施例における表面増強ラマン散乱分光測定用基板の概念図である。
【
図2】本発明の一実施例における表面増強ラマン散乱分光測定用基板の粒子及び細孔のSEM画像を示す図である。
【
図3】(a)は、本発明の一実施例における表面増強ラマン散乱分光測定用基板のコア粒子及び金属膜の概念図である。(b)は、A−A線断面概念図である。
【
図4】(c)は、本発明の一実施例における表面増強ラマン散乱分光測定用基板のコア粒子及びキャップ状に被覆された金属膜の概念図である。(d)は、B−B線断面概念図である。
【
図5】本発明の一実施例における表面増強ラマン散乱分光測定用基板のコア粒子及び金属粒子の概念図である。
【
図6】本発明の一実施例における表面増強ラマン散乱分光測定用基板に導電性コーティングを施した場合の構成図である。
【
図7】本発明の一実施例における液体クロマトグラフ装置の構成図である。
【
図8】本発明の一実施例における液体クロマトグラフ装置の検出器として用いられる表面増強ラマン散乱分光測定装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の一実施例における表面増強ラマン散乱分光測定用基板の構成について説明する。
【0034】
図1は、本発明の一実施例における表面増強ラマン散乱分光測定用基板の概念図を示す。
図2は、本発明の一実施例における表面増強ラマン散乱分光測定用基板の粒子及び細孔のSEM画像を示す。なお、
図2中のスケールバーは300nmを示す。
【0035】
図1に示すように、表面増強ラマン散乱分光測定用基板10は、基板本体30と、基板本体30に貫通形成された細孔40と、細孔40を密閉しないように基板本体30の露出面上に配設された粒子20から構成されている。なお、基板本体30の露出面とは、測定光152(後述)を照射することができる範囲にある基板本体表面31及び/又は細孔内壁面41をいう。
【0036】
粒子20は、該粒子20間を分析物が垂直に通過する粒子20であることが好ましい。分析物と粒子20がこのような関係であれば、分析物はすべて、測定光152が照射されている範囲にある粒子20間を通過するため、高い感度と高い応答性が得ることができるからである。
【0037】
粒子20は、表面増強ラマン散乱用の粒子である。また、粒子20は
図2に示すように、SERS効果を得るためには、粒子20は複数であることが好ましく、粒子20は互いに密着しているか、又は、数十nm以内で近接していることが好ましい。本実施例に係る粒子20は金粒子であるが、他の金属を含む粒子でも良く、例えば、金の他に、銀、銅又は白金を含む粒子であればSERS効果を得るために適している。また、粒子20の平均粒子径は、10〜200nmが好ましく、さらに好ましくは30〜100nmである。これらの範囲であると良好なSERS効果を得ることができる。なお、粒子径は、
図2に示すように、ある程度のばらつきがあることが好ましく、また、粒子20は密集しているよりも、ある程度のばらつきをもって、数十nm以内に近接されていることが好ましい。それにより、良好なSERS効果を得ることができるからである(参考文献:Toru Shimada、他4名、「Near-Field Study on Correlation of Localized Electric Field and Nanostructures in Monolayer Assembly of Gold Nanoparticles」、The Journal of Physical Chemistry C、ACS Publications、2008年2月28日、Volume 112、Issue 11、p.4033-4035)。ここで、平均粒子径とは個数平均粒子径を指し、走査電子顕微鏡(SEM)画像から少なくとも1000個以上の粒子の粒子径(長径と短径の平均値)を測定し、それらの平均値を平均粒子径とする。
【0038】
図3(a)は、本発明の一実施例における表面増強ラマン散乱分光測定用基板のコア粒子及び金属膜の概念図を示す。
図3(b)は、A−A線断面概念図を示す。
【0039】
粒子20は、
図3(a) (b)に示すように、コア粒子21に金属膜22が被覆された粒子でも良い。例えば、コア粒子21にはシリカ(SiO2)、金属膜22には金(Au)を用いることができる。これらの粒子20は以下の製法等によって生成することができる。まず、コア粒子21として用いたシリカ粒子をストーバー法にて生成をする。このシリカ粒子にテトラヒドロキシメチルホスホニウムクロリド(THPC)で保護した金ナノ粒子を被覆する(成長前溶液)。これを、金イオンを含む成長溶液と反応させることにより、金ナノ粒子を種として金属膜22の成長促し、コア粒子21に金属膜22が被覆された粒子20を生成することができる。コア粒子21には、シリカ以外にも、アルミナ(Al2O3)、酸化チタン(TiO2)又はポリスチレンラテックス等を用いることができ、金属膜22には金以外にも銀、銅又は白金等を用いることができる。コア粒子21の平均粒子径はサブミクロンであることが好ましい。また、金属膜の平均膜厚は、10〜200nmであることが好ましい。ここで、コア粒子の平均粒子径は、個数平均粒子径を指し、粒子の中心部をミクロトーム等によって切断し、その断面を撮影したSEM画像から少なくとも1000個以上のコア粒子の粒子径(長径と短径の平均値)を測定し、それらの平均値をコア粒子の平均粒子径とする。また、金属膜の平均膜厚は、個数平均膜厚を指し、粒子の中心部をミクロトーム等によって切断し、その断面を撮影したSEM画像から少なくとも1000個以上の金属膜の膜厚(最大膜厚と最小膜厚の平均値)を測定し、それらの平均値を金属膜の平均膜厚とする。
【0040】
図4(c)は、本発明の一実施例における表面増強ラマン散乱分光測定用基板のコア粒子及びキャップ状に被覆された金属膜の概念図を示す。
図4(d)は、B−B線断面概念図を示す。
【0041】
さらに、
図4(c)(d)に示すように、粒子20は、前記コア粒子21の表面にキャップ状に金属膜22が被覆された粒子でも良い。例えば、コア粒子21にはシリカ(SiO2)、金属膜22には金(Au)を用いることができる。これらの製法として、特開2012−088222等で開示されている様に、真空蒸着法又はスパッタ法等がある。コア粒子21には、シリカ以外にも、アルミナ(Al2O3)、酸化チタン(TiO2)又はポリスチレンラテックス等を用いることができ、金属膜22には金以外にも銀、銅又は白金等を用いることができる。金属膜の平均最大膜厚は、10〜200nmであることが好ましい。ここで、金属膜の平均最大膜厚は、個数平均膜厚を指し、粒子の中心部をミクロトーム等によって切断し、その断面を撮影したSEM画像から少なくとも1000個以上の金属膜の最大膜厚を測定し、それらの平均値を金属膜の平均最大膜厚とする。
【0042】
図5は、本発明の一実施例における表面増強ラマン散乱分光測定用基板のコア粒子及び金属粒子の概念図を示す。
【0043】
また、粒子20は非導電体のコア粒子21の表面にばらばらに金属粒子23が付着されている粒子でも良い。コア粒子21の表面に金属粒子23をばらばらに付着させることによって、独立した金属粒子23同士が近接し、ホットスポットが多く生まれる。そのため、さらに感度の高い測定が可能となる。金属粒子23は、金、銀、銅、白金、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、鉄、コバルト又はニッケルを含んでいれば、SERS効果を得るために好ましい。金属粒子23の粒径は定義されたものを使用することが好ましい。それにより、ホットスポットの量や質が均一となるため、安定的なSERS効果を生み出すことができる。金属粒子23の平均粒子径は10〜100nmであることが好ましい。ここで、平均粒子径とは個数平均粒子径を指し、SEM画像から少なくとも1000個以上の粒子の粒子径(長径と短径の平均値)を測定し、それらの平均値を平均粒子径とする。コア粒子21は非伝導体であれば、コア粒子が金属粒子によるSERS効果を妨げないため好ましい。
【0044】
図6は、本発明の一実施例における表面増強ラマン散乱分光測定用基板に導電性コーティングを施した場合の構成図を示す。
【0045】
図6の基板本体30の表面には、粒子20の電位を外部から調節できるように導電性コーティング32が施されており、導電性コーティング32に電極34が接続され、電極34から、電圧調節器36、スイッチ35、電源33、グラウンドと接続されている。スイッチ35を切り替えることにより、使用する電源33を変えることができるので、必要に応じて粒子20に負電位又は正電位を与えることができる。また、電圧調節器36により粒子20の電位を調節することができる。電圧調節器36はその内部に可変抵抗器等を有することにより、電位を調節することができる。なお、分析物自体の電位はグラウンドレベルである。
前記の構成により、外部から粒子20の電位を調節できるようになることで、二つの効果が生まれる。
一つ目は、高感度の測定ができることである。例えば、分析物がカチオン性の分子の場合、粒子20に負電位を与えることにより、分析物の分子がより多く粒子20に吸着するため、高感度の測定ができる。測定後は正電位を与えることにより、分析物の分子を粒子20から離脱させることができるため、分析物が残留する等の問題は発生しない。
同様に、分析物がアニオン性の分子の場合は、粒子20に正電位を与えることにより、分析物の分子がより多く粒子20に吸着し、高感度の測定ができる。測定後は負電位を与えることにより、分析物の分子を粒子20から離脱させることができる。
二つ目は、ラマン散乱強度を増大させることが可能となることである。粒子20に吸着した分析物の分子の電位を調節することができるので、分子を構成している電子の基底状態を変化させることができる。そのため、その電子がレーザーで励起された場合、一つ上のエネルギレベルに遷移すると、共鳴ラマンと同じ効果が生じ、ラマン散乱強度を増大させることができる(参考文献:De-Yin Wu、他3名、「Electrochemical surface-enhanced Raman spectroscopy of nanostructures」、Chemical Society Reviews、Royal Society of Chemistry、2008年4月3日、Volume 37、2008 Issue 5、p.1025-1041)。
なお、導電性コーディング32は金属コーティングを含むがこれに限るものではない。
【0046】
基板本体30には、無機物を用いることができる。特に、アルミナ(Al2O3)が好ましい。アルミナは特徴的なラマンスペクトルをもたないため、基板本体30に用いた場合、分析物のラマンスペクトルの検出及び分析を阻害することが少ないためである。一方、基板本体30に有機物を用いることもできる。例えば、樹脂フィルム等が使用できる。有機物は特徴的なラマンスペクトルをもつため、分析物のラマンスペクトルの検出及び分析の阻害とならないように、事前にデータ処理等をしておく必要がある。それにより、基板本体30に有機物を用いることができる。
【0047】
基板本体30に貫通形成された細孔40は、以下の製法で作成することができる。基板本体30が無機物の場合、例えば、アルミナの場合は、アルミニウムの陽極酸化によりナノオーダーの細孔40を作成することができる。基板本体30が有機物の場合、例えば、樹脂フィルムの場合は、中性子線を樹脂フィルムに照射することによりナノオーダーの細孔40を作成することができる。細孔40は、その平均細孔径が粒子20の平均粒子径よりも小さいことが好ましい。細孔40の平均細孔径が粒子20の平均粒子径よりも大きくなると、分析物等が粒子20間及び細孔40を通過した際に、粒子20が分析物等と共に細孔40から流出してしまうことが多くなるためである。さらに、細孔40の平均細孔径は5〜100nmであることが好ましい。また、
図2に示すように、細孔40は複数存在することが好ましいが、その中には、細孔40の上面又は上面近傍に粒子20が配設されていない細孔40があってもよい。これらの細孔40付近では、SERS効果は得にくいが、測定光152(後述)が照射されている範囲全体でSERS効果を得ることができていれば問題はないからである。ここで、平均細孔径とは個数平均細孔径を指し、SEM画像から少なくとも1000個以上の細孔の細孔径(長径と短径の平均値)を測定し、それらの平均値を平均細孔径とする。
【0048】
基板本体30の露出面上に粒子20を配設させるためには、金ナノ粒子等を液体中に分散させた懸濁液を、細孔40に通過させ、乾燥させればよい。基板本体30の露出面上に配設する粒子20の個数は、吸光光度計等で測定した懸濁液の濃度と、細孔40を通過する懸濁液の液量によって、自由に制御することができる。
【0049】
次に、本発明の一実施例における液体クロマトグラフ装置及びその検出器として用いられる表面増強ラマン散乱分光測定装置の構成について説明する。
【0050】
図7は、本発明の一実施例における液体クロマトグラフ装置の構成図を示す。
【0051】
図7に示すように、本発明の実施例における液体クロマトグラフ装置100は、移動相溶媒110、ポンプ120、インジェクタ130、カラム140、カラム恒温槽141、検出器150及びデータ処理ユニット160から構成されている。検出器150として、表面増強ラマン散乱分光測定装置を組み込んでいる。
【0052】
図8は、本発明の一実施例における液体クロマトグラフ装置の検出器として用いられる表面増強ラマン散乱分光測定装置の概略図を示す。
【0053】
図8に示すように、本発明の一実施例における検出器150として用いられる表面増強ラマン散乱分光測定装置は、光源151、透過反射部153、対物レンズ154、透明板155、開閉部156、土台部157、分光器158、検出手段159及び表面増強ラマン散乱分光測定用基板10から構成されている。
【0054】
光源151は、レーザー等の測定光152を発生させる。対物レンズ154は、測定光152を絞って分析物に照射させ、かつ、分析物から散乱されたラマン散乱光を集光する。透過反射部153は、光源151から発生した測定光152を反射させ、対物レンズ154により集光したラマン散乱光を透過させる。透過反射部153として、ビームスピリッタ又はダイクロイックミラー等を使用することができる。カメラ等の光検出手段159は、分光器158を通過したラマン散乱光を検出する。
【0055】
以下、本発明の一実施例における液体クロマトグラフ装置及びその検出器として用いられる表面増強ラマン散乱分光測定装置の作用について説明する。
【0056】
光源151より発生した測定光152は、透過反射部153により反射され、透明板155を透過し、表面増強ラマン散乱分光測定用基板10に照射される。表面増強ラマン散乱分光測定用基板10に液体クロマトグラフ装置100のカラム140より分析物が流入しており、その分析物と基板本体30の露出面上に配設された粒子20に測定光152が照射される。そして、分析物から散乱されたラマン散乱光は、SERS効果により増強された後に、透明板155を透過し、対物レンズ154により集光される。対物レンズ154により集光されたラマン散乱光は、透過反射部153により透過され、分光器158を通過した後、光検出手段159によってラマン散乱光が検出される。その検出結果は、電気信号等によりデータ処理ユニット160に送信され、データ処理、可視化等が行われる。そのデータ処理の結果に基づいて、分析物の同定等を行うことができる。
【0057】
一方、カラム140より表面増強ラマン散乱分光測定用基板10に流入した分析物は、粒子20間及び細孔40を通過し、その後、廃液として排出される。なお、基板本体30の上面に粒子20が配設されている場合、分析物は、粒子20間を通過した後、細孔40を通過することになる。
【0058】
カラム140で分離された分析物は、粒子20に吸着し続けることはほとんどないため、分離された分析物毎に、表面増強ラマン散乱分光測定用基板10を洗浄・交換等をする必要がない。そのため、逐次流入する分析物をリアルタイムに測定することが可能となる。
【0059】
また、表面増強ラマン散乱分光測定用基板10の交換の際には、開閉部156を開閉することによって、容易に取り外し、又は、取り付けをすることができる。
【0060】
ところで、本発明に係る表面増強ラマン散乱分光測定用基板10は液体クロマトグラフ装置100の検出器150だけでなく、非特許文献1、2のような従来の表面増強ラマン散乱分光測定装置にも組み込むこともできる。その場合は、表面増強ラマン散乱分光測定用基板10を、洗浄液等を用いて洗浄することで、複数回の使用をすることが可能となる。
【符号の説明】
【0061】
10 表面増強ラマン散乱分光測定用基板
20 粒子
21 コア粒子
22 金属膜
23 金属粒子
30 基板本体
31 基板本体表面
32 導電性コーティング
33 電源
34 電極
35 スイッチ
36 電圧調節器
GND グラウンド
40 細孔
41 細孔内壁面
100 液体クロマトグラフ装置
110 移動相溶媒
120 ポンプ
130 インジェクタ
140 カラム
141 カラム恒温槽
150 検出器
151 光源
152 測定光
153 透過反射部
154 対物レンズ
155 透明板
156 開閉部
157 土台部
158 分光器
159 光検出手段
160 データ処理ユニット