特許第6245704号(P6245704)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6245704ポリウレタン系樹脂組成物及びリチウムイオン電池用外装体
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  • 特許6245704-ポリウレタン系樹脂組成物及びリチウムイオン電池用外装体 図000007
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6245704
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】ポリウレタン系樹脂組成物及びリチウムイオン電池用外装体
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/62 20060101AFI20171204BHJP
   C08G 18/65 20060101ALI20171204BHJP
   C08L 75/04 20060101ALI20171204BHJP
   H01M 2/02 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
   C08G18/62
   C08G18/65
   C08L75/04
   H01M2/02 K
【請求項の数】10
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-177663(P2014-177663)
(22)【出願日】2014年9月2日
(65)【公開番号】特開2015-71746(P2015-71746A)
(43)【公開日】2015年4月16日
【審査請求日】2016年6月17日
(31)【優先権主張番号】特願2013-181827(P2013-181827)
(32)【優先日】2013年9月3日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000238256
【氏名又は名称】浮間合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】飯野 匠太
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 浩正
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 正純
(72)【発明者】
【氏名】梅津 基昭
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 悠正
【審査官】 松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/133683(WO,A1)
【文献】 特開2005−063685(JP,A)
【文献】 特開2002−026346(JP,A)
【文献】 特開2002−332324(JP,A)
【文献】 特開平05−170867(JP,A)
【文献】 特開平06−080754(JP,A)
【文献】 特開2008−179688(JP,A)
【文献】 特開2003−155455(JP,A)
【文献】 特表2008−540709(JP,A)
【文献】 特開2011−202070(JP,A)
【文献】 特開2007−016188(JP,A)
【文献】 特開2001−172600(JP,A)
【文献】 特開平10−053636(JP,A)
【文献】 特開2004−359866(JP,A)
【文献】 特開昭59−113016(JP,A)
【文献】 特開昭62−095326(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0134475(US,A1)
【文献】 国際公開第02/003475(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0324961(US,A1)
【文献】 米国特許第05672653(US,A)
【文献】 米国特許第04507430(US,A)
【文献】 特開2008−229971(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/153847(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0072864(US,A1)
【文献】 特開2013−152907(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0335403(US,A1)
【文献】 特開2011−187385(JP,A)
【文献】 特開2013−101763(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0234698(US,A1)
【文献】 特開平02−274788(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C08G 18/00 − 18/87
C08G 71/00 − 71/04
C09J 1/00 − 5/10
C09J 9/00 − 201/10
H01M 2/00 − 2/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池用外装体を製造するための接着剤又はバインダーとして用いられるポリウレタン系樹脂組成物であって、
ポリオレフィンポリオールに由来する構成単位(A)を含む、前記ポリオレフィンポリオールとポリイソシアネートの重合反応物であるポリウレタン系樹脂と、
イソシアネート架橋剤、ブロックイソシアネート架橋剤、カルボジイミド架橋剤、オキサゾリン架橋剤、エポキシ架橋剤、アジリジン架橋剤、シランカップリング剤、及びチタンカップリング剤からなる群より選択される少なくとも一種の架橋剤と、を含有し、
前記ポリイソシアネートが、4,4’−メチレンビス(フェニレンイソシアネート)、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、1,4−テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、及びダイマージイソシアネートの少なくともいずれかであり、
前記ポリウレタン系樹脂の重量平均分子量が、4,000〜100,000であるポリウレタン系樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリウレタン系樹脂に含まれる、前記構成単位(A)の割合が、50〜98質量%である請求項1に記載のポリウレタン系樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリウレタン系樹脂が、ポリアミンに由来する構成単位(B)をさらに含む請求項1又は2に記載のポリウレタン系樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリアミンが、ダイマージアミンである請求項3に記載のポリウレタン系樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリウレタン系樹脂が、カルボキシ基を有する短鎖ジオールに由来する構成単位(C)をさらに含む請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリウレタン系樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリウレタン系樹脂が、ダイマーポリオールに由来する構成単位(D)をさらに含む請求項1〜5のいずれか一項に記載のポリウレタン系樹脂組成物。
【請求項7】
前記ポリウレタン系樹脂100質量部に対して、酸変性ポリオレフィン樹脂を1,000質量部以下さらに含有する請求項1〜6のいずれか一項に記載のポリウレタン系樹脂組成物。
【請求項8】
内層、バリア層、外層、及びこれらの層を相互に接着する接着層を備えた積層構造を有し、前記接着層が、請求項1〜7のいずれか一項に記載のポリウレタン系樹脂組成物により形成されたリチウムイオン電池用外装体。
【請求項9】
前記内層と前記バリア層の間及び前記外層と前記バリア層の間に前記ポリウレタン系樹脂組成物が塗工された後、ドライラミネーションによって各層が相互に接着された請求項8に記載の外装体。
【請求項10】
内層、バリア層、外層、及びこれらの層を相互に接着する接着層を備えた積層構造を有するとともに、前記バリア層よりも外側の任意の位置に配置される意匠層と、最外側に配置される保護層の少なくともいずれかをさらに備え、
前記意匠層及び前記保護層の少なくともいずれかが、請求項1〜7のいずれか一項に記載のポリウレタン系樹脂組成物と、無機フィラー、有機フィラー、及び着色剤の少なくともいずれかとを含有するバインダー組成物により形成されたリチウムイオン電池用外装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタン系樹脂組成物、及びそれを用いて製造されるリチウムイオン電池用外装体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン樹脂は、その凝集力の大きさ及び柔軟性から接着剤やバインダーとして有用である。このため、ポリウレタン樹脂は、塗料、包装、衣料、電機、自動車、及び建材等を構成する金属、木材、ゴム、及びプラスチック等の様々な素材に広く適用されている。
【0003】
包装用途の接着剤として、食品や医薬品等の保存に用いられるパウチ型包装材向けの接着剤がある。このようなパウチ型包装材は、アルミ箔等の金属箔と樹脂フィルムを積層した構造を有しており、遮光性、耐熱性、ガスバリア性、及び耐内容物性等の特性を有する。近年注目されているパウチ型包装材の用途として、リチウムイオン電池用の外装体を挙げることができる。リチウムイオン電池用の外装体として従来使用されている金属缶に比べて、パウチ型包装材(積層フィルム型包装材)は、小型化、軽量化、及び薄型化が容易であるとともに、形状の自由度も高い。
【0004】
リチウムイオン電池の電解液は、例えば、電解質としてのLiPF6及びLiBF4等のリチウム塩を、炭酸エステル類等の非水溶媒に溶解させて得られる。電解質として用いられるリチウム塩は、水分により加水分解してフッ化水素を発生する。このため、フッ化水素が発生した場合には、電池を構成する金属製の部材が腐食する、或いは外装体として用いた積層フィルム型包装材の層間の接着性が低下するといった不具合が生ずることがある。このような不具合の発生を回避すべく、リチウムイオン電池用の一般的な外装体は、ポリエステルやナイロン等からなる外層(耐熱性樹脂フィルム層)、水分の侵入を防ぐアルミニウム箔等からなるバリア層、及びポリオレフィン樹脂等からなる内層(熱融着層)を接着層を介して順次積層した構造を有する。そして、内層とバリア層を接着する接着層(内層側接着層)は、リチウムイオン電池の安全性の確保及び長寿命化のために、耐電解液性、水蒸気バリア性、及び耐熱性(85℃前後)を有することが必要である。
【0005】
関連する従来技術として、酸変性ポリオレフィン樹脂等の熱可塑性樹脂を押出ラミネーション、共押出ラミネーション、又は熱ラミネーションして内層を積層した電池用の包装材料が開示されている(例えば、特許文献1参照)。また、ドライラミネーション可能な接着剤が開示されている(例えば、特許文献2及び3参照)。
【0006】
なお、リチウムイオン電池用の外装体としては、着色や艶消し等を施した意匠層をバリア層よりも外側の任意の位置に配置した態様のもの、或いは傷付き防止のための保護層を最外側に配置した態様のもの等がある。これらの意匠層や保護層を形成するためのバインダーに対しても、内部からの液漏れ対策、或いは電解液を注入する際に電解液が付着した際の外層フィルムの変質防止のため、内層側接着層を形成する接着剤と同等の高い性能を有することが要求される。さらに、近年の高機能化の要求から、外層とバリア層を接着する接着層(外層側接着層)に対しても、内層側接着層を形成する接着剤と同等の高い性能を有することが必要とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−086744号公報
【特許文献2】特開2003−288865号公報
【特許文献3】特開2005−063685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1で開示された包装材料を製造するには複雑な装置が必要であるため、製造効率が低いといった問題がある。また、特許文献2で開示された接着剤は、ポリエステルウレタンを使用するため、リチウムイオン電池用の外装体を形成するための接着剤としては耐電解液性が未だ不十分である。また、特許文献3で開示された接着剤は、主要素材がポリオレフィンポリオールとポリイソシアネートの混合物であるため、初期密着性や耐熱性が劣るものであった。なお、特許文献3においては、耐熱性やラミネート強度等の具体的な物性については触れられていない。
【0009】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、種々の材質からなる基材に対して良好な接着性を示すとともに、耐溶剤性、耐加水分解性、耐薬品性、耐電解液性、水蒸気バリア性、及び耐熱性等に優れた接着層やバインダー層を形成することができ、かつ、ドライラミネーション法等の方法を採用することでリチウムイオン電池用の外装体等を簡便に製造しうる接着剤やバインダーとして有用なポリウレタン系樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、ポリオレフィンポリオールに由来する構成単位を含むポリウレタン系樹脂を配合することによって上記課題を達成することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明によれば以下に示すポリウレタン系樹脂組成物が提供される。
[1]リチウムイオン電池用外装体を製造するための接着剤又はバインダーとして用いられるポリウレタン系樹脂組成物であって、ポリオレフィンポリオールに由来する構成単位(A)を含む、前記ポリオレフィンポリオールとポリイソシアネートの重合反応物であるポリウレタン系樹脂と、イソシアネート架橋剤、ブロックイソシアネート架橋剤、カルボジイミド架橋剤、オキサゾリン架橋剤、エポキシ架橋剤、アジリジン架橋剤、シランカップリング剤、及びチタンカップリング剤からなる群より選択される少なくとも一種の架橋剤と、を含有し、前記ポリイソシアネートが、4,4’−メチレンビス(フェニレンイソシアネート)、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、1,4−テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、及びダイマージイソシアネートの少なくともいずれかであり、前記ポリウレタン系樹脂の重量平均分子量が、4,000〜100,000であるポリウレタン系樹脂組成物。
[2]前記ポリウレタン系樹脂に含まれる、前記構成単位(A)の割合が、50〜98質量%である前記[1]に記載のポリウレタン系樹脂組成物。
[3]前記ポリウレタン系樹脂が、ポリアミンに由来する構成単位(B)をさらに含む前記[1]又は[2]に記載のポリウレタン系樹脂組成物。
[4]前記ポリアミンが、ダイマージアミンである前記[3]に記載のポリウレタン系樹脂組成物。
[5]前記ポリウレタン系樹脂が、カルボキシ基を有する短鎖ジオールに由来する構成単位(C)をさらに含む前記[1]〜[4]のいずれかに記載のポリウレタン系樹脂組成物。
[6]前記ポリウレタン系樹脂が、ダイマーポリオールに由来する構成単位(D)をさらに含む前記[1]〜[5]のいずれかに記載のポリウレタン系樹脂組成物。
[7]前記ポリウレタン系樹脂100質量部に対して、酸変性ポリオレフィン樹脂を1,000質量部以下さらに含有する前記[1]〜[6]のいずれかに記載のポリウレタン系樹脂組成物。
【0012】
また、本発明によれば以下に示すリチウムイオン電池用外装体が提供される。
]内層、バリア層、外層、及びこれらの層を相互に接着する接着層を備えた積層構造を有し、前記接着層が、前記[1]〜[7]のいずれかに記載のポリウレタン系樹脂組成物により形成されたリチウムイオン電池用外装体。
]前記内層と前記バリア層の間及び前記外層と前記バリア層の間に前記ポリウレタン系樹脂組成物が塗工された後、ドライラミネーションによって各層が相互に接着された前記[]に記載の外装体。
10]内層、バリア層、外層、及びこれらの層を相互に接着する接着層を備えた積層構造を有するとともに、前記バリア層よりも外側の任意の位置に配置される意匠層と、最外側に配置される保護層の少なくともいずれかをさらに備え、前記意匠層及び前記保護層の少なくともいずれかが、前記[1]〜[7]のいずれかに記載のポリウレタン系樹脂組成物と、無機フィラー、有機フィラー、及び着色剤の少なくともいずれかとを含有するバインダー組成物により形成されたリチウムイオン電池用外装体。
【発明の効果】
【0013】
本発明のポリウレタン系樹脂組成物は、オレフィン樹脂、金属箔、ナイロン、及びポリエステル等の種々の材質からなる基材に対して良好な接着性を示すとともに、耐溶剤性、耐加水分解性、耐薬品性、耐電解液性、水蒸気バリア性、及び耐熱性等に優れた接着層やバインダー層を形成することができる。また、本発明のポリウレタン系樹脂組成物は、塗布及び乾燥後、ドライラミネーション法によって基材同士を接着して均一な接着層やバインダー層を形成することが可能である。このため、本発明のポリウレタン系樹脂組成物は、リチウムイオン電池用の外装体を簡便に製造するための材料(接着剤及びバインダー等)として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明のリチウムイオン電池用外装体の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(ポリウレタン系樹脂組成物)
本発明のポリウレタン系樹脂組成物は、ポリオレフィンポリオールに由来する構成単位(A)を含むポリウレタン系樹脂を含有する。以下、本発明のポリウレタン系樹脂組成物の詳細について説明する。
【0016】
(ポリウレタン系樹脂)
本発明のポリウレタン系樹脂組成物は、ポリオレフィンポリオールに由来する構成単位(A)を含むポリウレタン系樹脂を含有する。ポリオレフィンポリオールは、複数の水酸基を有する、ポリオレフィン骨格の重合体である。このようなポリオレフィンポリオールの具体例としては、ポリエチレンブチレンジオール、ポリブタジエンジオール、及び水素化ポリブタジエンジオール等を挙げることができる。なお、ポリエチレンブチレンジオールの市販品としては、商品名「ポリテール」(三菱化学社製)等がある。また、ポリブタジエンジオールの市販品としては、商品名「KRASOL」(出光興産社製)等がある。さらに、水素化ポリブタジエンジオールの市販品としては、商品名「NISSO−PB」(日本曹達社製)等がある。
【0017】
本発明のポリウレタン系樹脂組成物に用いられるポリウレタン系樹脂は、ポリオレフィンポリオールをモノマー成分として用いて得られたものであり、ポリオレフィンポリオールに由来する構成単位(A)をその主骨格中に有する。すなわち、上記のポリウレタン系樹脂は、その分子構造中に、ポリオレフィンポリオールに由来する柔軟性の高い炭化水素部分をソフトセグメントとして含むものである。このため、このポリウレタン系樹脂を含有する本発明のポリウレタン系樹脂組成物は、一般に接着困難とされるポリオレフィン樹脂や金属等の種々の材質からなるフィルムやシート等の基材に対して良好な接着性及び密着性を示す。また、本発明のポリウレタン系樹脂組成物は、極性の高いウレタン結合を有するポリウレタン系樹脂を主成分として含有するため、ポリエステルや金属等の種々の材質からなる基材に対して良好な接着性及び密着性を示すとともに、基材の変形や熱膨張等に追従しうる柔軟性を示す接着層やバインダー層を形成することができる。さらに、上記のポリウレタン系樹脂は、その主骨格中に分解性の結合を有しないため、このポリウレタン系樹脂を含有する本発明のポリウレタン系樹脂組成物により形成された接着層やバインダー層は、耐溶剤性、耐加水分解性、耐薬品性、耐電解液性、及び耐熱性に優れている。また、ポリウレタン系樹脂中の炭化水素部分は疎水性が高いため、このポリウレタン系樹脂を含有する本発明のポリウレタン系樹脂組成物により形成された接着層やバインダー層は、水蒸気バリア性に優れている。
【0018】
以上より、本発明のポリウレタン系樹脂組成物は、オレフィン樹脂、金属、ナイロン、及びポリエステル等の種々の材料からなる基材に対し良好な接着性及び密着性を示すことから、リチウムイオン電池用外装体を製造するための接着剤及びバインダーとして好適に用いることができる。さらに、本発明のポリウレタン系樹脂組成物は、例えば、車両等の内装材を接着するために用いられる耐熱性接着剤;電子基板用の耐熱性接着剤;太陽電池等の構成材料として用いられる各種バリアフィルム用の接着剤;TPO(Thermo Plastic Olefin)素材用及び塩化ビニルシート用のプライマー;ポリオレフィン製の加飾シート又は成型シートを接着するために用いられる接着剤等として好適である。
【0019】
本発明のポリウレタン系樹脂組成物に含有されるポリウレタン系樹脂の割合は特に限定されないが、接着剤やバインダーとしての機能を有効に発揮させる等の観点からは、10〜95質量%であることが好ましい。
【0020】
ポリウレタン系樹脂は、例えば、ポリオレフィンポリオールとポリイソシアネートとを重合反応させることによって製造することができる。ポリウレタン系樹脂に含まれる、構成単位(A)の割合は、50〜98質量%であることが好ましく、60〜98質量%であることがさらに好ましい。構成単位(A)の割合が50質量%未満であると、オレフィン類に対する接着性が低下したり、耐加水分解性が低下したりする場合がある。一方、構成単位(A)の割合が98質量%超であると、分子量が小さくなりすぎ、初期の接着性や耐久性が低下する場合がある。また、ポリウレタン系樹脂の分子量は、ポリオールのヒドロキシ基と、ポリイソシアネートのイソシアネート基との量比を変えることで適宜調整することができる。接着剤やバインダーの材料として好ましいポリウレタン系樹脂の重量平均分子量は2,000〜200,000であり、さらに好ましくは4,000〜100,000である。なお、ポリウレタン系樹脂の重量平均分子量は、GPCを用いて測定したポリスチレン換算の値である。
【0021】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、ポリオレフィンポリオール以外の「その他のポリオール」をさらに反応させてもよい。「その他のポリオール」の具体例としては、ポリマー主鎖にカーボネート結合を有する両末端ポリオール(ポリカーボネートポリオール)、ダイマーポリオール、芳香族ポリエステルポリオール、脂肪族ポリエステルポリオール、脂環族ポリエステルポリオール、シリコーンポリオール、アクリルポリオール、及びエポキシポリオール等を挙げることができる。なかでも、ダイマーポリオールを用いることが好ましい。すなわち、ポリウレタン系樹脂は、ダイマーポリオールに由来する構成単位(D)をさらに含むことが好ましい。構成単位(D)を含むポリウレタン系樹脂を用いることで、オレフィン類に対する接着性や耐加水分解性を損なわないポリウレタン系樹脂を得ることができる。なお、ポリウレタン系樹脂に含まれる、構成単位(D)の割合は、0〜30質量%であることが好ましい。
【0022】
ダイマーポリオールは、ダイマー酸に由来する又はダイマー酸とトリマー酸を含む混合物に由来するポリオールである。ダイマー酸は、オレイン酸やリノール酸等の炭素数18の不飽和脂肪酸を二量化して得られる炭素数36のジカルボン酸であり、植物由来の脂肪酸である。ダイマー酸の代表的な構造は下記式(1)で表される。トリマー酸は上記炭素数18の不飽和脂肪酸を三量化して得られる炭素数54のトリカルボン酸であり、ダイマー酸製造の際にも副生する。このため、市販のダイマー酸は、通常、ダイマー酸とトリマー酸を含む混合物である。
【0023】
【0024】
ダイマー酸に由来するポリオールであるダイマージオールは、上記ダイマー酸のカルボキシ基を水酸基に還元して得られる炭素数36のポリオールであり、その分子中に不飽和結合を有しても有しなくてもよい。トリマートリオールも、ダイマージオールと同様にトリマー酸を還元して得られる炭素数54のポリオールであり、その分子中に不飽和結合を有しても有しなくてもよい。市販のダイマージオールは、通常、ダイマージオールとトリマートリオールを含む混合物である。
【0025】
さらに、粘度や形成される接着層の強度を調整するため、必要に応じて、炭素数2〜10の短鎖ジオールをさらに反応させてもよい。短鎖ジオールの具体例としては、エチレングリコール、1,3−ピロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,2−オクタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等を挙げることができる。なお、ポリウレタン系樹脂中の短鎖ジオールに由来する構成単位の導入量については限定されないが、導入量が多すぎるとポリオレフィンポリオールを用いた効果が小さくなるため、適宜調整することが好ましい。
【0026】
また、密着性を向上させるとともに架橋点を付与するため、必要に応じて、カルボキシ基を有する短鎖ジオールをさらに反応させてもよい。すなわち、ポリウレタン系樹脂は、カルボキシ基を有する短鎖ジオールに由来する構成単位(C)をさらに含むことが好ましい。カルボキシ基を有する短鎖ジオールの具体例としては、ジメチロールプロパン酸及びジメチロールブタン酸等を挙げることができる。なお、ポリウレタン系樹脂中の構成単位(C)の割合が多すぎると、ポリオレフィンポリオールを用いた効果が小さくなるため、適宜調整することが好ましい。具体的には、ポリウレタン系樹脂に含まれる、構成単位(C)の割合は、0〜10質量%であることが好ましい。また、ポリウレタン系樹脂の酸価は、0〜40mgKOH/gであることが好ましい。
【0027】
さらに、形成される接着層の強度や耐熱性を調整するため、必要に応じて、ポリアミンをさらに反応させてもよい。すなわち、ポリウレタン系樹脂は、ポリアミンに由来する構成単位(B)をさらに有する、その分子構造中にウレア結合を有するポリウレタンウレア樹脂であることが好ましい。なお、本発明における「ポリウレタン系樹脂」の概念には、「ポリウレタン樹脂」だけでなく「ポリウレタンウレア樹脂」も含まれる。
【0028】
ポリアミンの具体例としては、メチレンジアミン、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、N−(2−ヒドロキシエチル)−1,3−ジアミノプロパン、N−(2−ヒドロキシエチル)−エチレンジアミンなどの脂肪族ジアミン化合物;フェニレンジアミン、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−メチレンビス(フェニルアミン)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、キシリレンジアミンなどの芳香族ジアミン化合物;シクロペンチルジアミン、シクロヘキシルジアミン、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ピペラジン、2,5−ジメチルピペラジン、イソホロンジアミン、ダイマージアミンなどの脂環式ジアミン化合物;ヒドラジン、アジピン酸ジヒドラジド(ADH)、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカン酸ジヒドラジド(DDH)、イソフタル酸ジヒドラジド(IDH)等のヒドラジン及びその誘導体等を挙げることができる。なお、ポリウレタン系樹脂中の構成単位(B)の割合が多すぎると、ポリオレフィンポリオールを用いた効果が小さくなるため、適宜調整することが好ましい。具体的には、ポリウレタン系樹脂に含まれる、構成単位(B)の割合は、0〜20質量%であることが好ましい。
【0029】
ポリアミンのなかでも、ダイマージアミンを用いることが好ましい。ダイマージアミンを用いることで、その分子構造中に、ダイマージアミンに由来する柔軟性の高い炭化水素部分(構成単位(B−1))をソフトセグメントとして含むポリウレタンウレア樹脂とすることができる。そして、構成単位(B−1)を含むポリウレタンウレア樹脂を用いることで、種々の材質からなる基材に対する良好な接着性及び密着性を発揮させるとともに、形成される接着層の強度や耐熱性をさらに向上させることができる。なお、ダイマージアミンをポリアミンとして用いた場合においては、ポリウレタン系樹脂に含まれる、構成単位(A)とダイマージアミンに由来する構成単位(B−1)の合計の割合は、50〜98質量%であることが好ましく、60〜98質量%であることが好ましい。
【0030】
ポリイソシアネートの種類は特に限定されず、公知のポリイソシアネートを用いることができる。ポリイソシアネートの具体例としては、4,4’−メチレンビス(フェニレンイソシアネート)(MDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート類;ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリメチレンジイソシアネート、1,4−テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート類;イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)(H12MDI)、ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン(H6XDI)、ダイマージイソシアネート(DDI)等の脂環式ポリイソシアネート類を挙げることができる。これらのなかでも、耐電解液性を向上させる観点からは芳香族ポリイソシアネート類が好ましい。
【0031】
重合反応(ウレタン化反応)の条件は特に限定されず、公知のウレタン化反応の条件を適用させることができる。例えば、活性水素を含まない溶剤の存在下又は非存在下、ポリオレフィンポリオール及び必要に応じて用いられる短鎖ジオールと、ポリアミンと、ポリイソシアネートとを反応させることでポリウレタン系樹脂を得ることができる。また、ワンショット法と多段法のいずれの方式で反応させてもよい。
【0032】
重合反応後に得られたポリマーの末端にイソシアネート基が残った場合、イソシアネート末端の停止反応を行ってもよい。具体的には、モノアルコールやモノアミン等の単官能性の化合物;イソシアネートに対して異なる反応性を有する二種の官能基を有する化合物を使用すればよい。このような化合物の具体例としては、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等のモノアルコール;モノエチルアミン、n−プロピルアミン、ジエチルアミン、ジ−n−プロピルアミン、ジ−n−ブチルアミン等のモノアミン;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン等のアルカノールアミン等を挙げることができる。なかでも、反応制御しやすい点でアルカノールアミンが好ましい。また、重合反応の温度は、通常20〜150℃、好ましくは50〜110℃である。
【0033】
ポリウレタン系樹脂は、無溶剤で合成しても、有機溶剤の存在下で合成してもよい。好適な有機溶剤としては、イソシアネート基に対して不活性であるか、又は反応成分よりも低活性なもの等を挙げることができる。このような有機溶剤の具体例としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素溶剤;n−ヘキサン等の脂肪族系炭化水素溶剤;ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル等のエステル系溶剤;エチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、3−メチル−3−メトキシブチルアセテート、エチル−3−エトキシプロピオネート等のグリコールエーテルエステル系溶剤;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶剤;N−メチル−2−ピロリドン等のラクタム系溶剤等を挙げることができる。これらの有機溶剤は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
ポリウレタン系樹脂の合成に際しては、必要に応じて触媒を用いることができる。触媒の具体例としては、ジブチルチンラウレート、ジオクチルチンラウレート、スタナスオクトエート、オクチル酸亜鉛、テトラn−ブチルチタネート等の金属と有機又は無機酸との塩;有機金属誘導体;トリエチルアミンなどの有機アミン;ジアザビシクロウンデセン系触媒等を挙げることができる。
【0035】
(酸変性ポリオレフィン樹脂)
本発明のポリウレタン系樹脂組成物は、酸変性ポリオレフィン樹脂をさらに含有することが好ましい。酸変性ポリオレフィン樹脂を含有させることで、ポリオレフィンフィルムとの接着性をさらに向上させることができる。酸変性ポリオレフィン樹脂の具体例としては、無水マレイン酸変性ポリプロピレン等を挙げることができる。なお、酸変性ポリオレフィン樹脂は、溶剤に可溶であるものが好ましい。また、酸変性オレフィン樹脂の融点は、耐熱性及びラミネーション加工の容易さ等を考慮すると、60〜160℃が適当である。このような酸変性ポリオレフィン樹脂の市販品としては、商品名「アウローレン」(日本製紙社製)、商品名「ハードレン」(東洋紡社製)等を挙げることができる。ポリウレタン系樹脂100質量部に対する酸変性ポリオレフィン樹脂の量は、1,000質量部以下であることが好ましい。酸変性ポリオレフィン樹脂の量が、ポリウレタン系樹脂100質量部に対して1,000質量部を超えると、ラミネーション温度が高くなる、或いは形成される接着層やバインダー層の柔軟性が低下する傾向にある。
【0036】
(架橋剤)
本発明のポリウレタン系樹脂組成物は、架橋剤をさらに含有することが好ましい。架橋剤を含有させることで、耐電解液性、耐溶剤性、耐薬品性及び耐熱性をさらに向上させることが可能であるとともに、初期密着性及び高温下での接着力を向上させることができる。架橋剤としては、公知のものを用いることができる。架橋剤としては、例えば、イソシアネート架橋剤、ブロックイソシアネート架橋剤、カルボジイミド架橋剤、オキサゾリン架橋剤、エポキシ架橋剤、アジリジン架橋剤、シランカップリング剤、及びチタンカップリング剤を挙げることができる。これらの架橋剤は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
イソシアネート架橋剤の具体例としては、MDI、TDI、HDI、IPDI、並びにこれらのトリメチロールプロパンアダクト体、ビウレット変性体、及びヌレート変性体;ポリメリックMDI、末端イソシアネートプレポリマー等を挙げることができる。ブロックイソシアネート架橋剤の具体例としては、イソシアネート架橋剤のオキシム又はラクタム等によるブロック体を挙げることができる。カルボジイミド架橋剤の市販品としては、商品名「カルボジライト」(日清紡ケミカル社製)等を挙げることができる。オキサゾリン架橋剤の市販品としては、商品名「エポクロス」(日本触媒社製)等を挙げることができる。エポキシ架橋剤の市販品としては、商品名「jER」(三菱化学社製)等を挙げることができる。アジリジン架橋剤の市販品としては、商品名「ケミタイト」(日本触媒社製)等を挙げることができる。シランカップリング剤の具体例としては、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。また、チタンカップリング剤の具体例としては、チタニウム ジ2−エチルヘキソキシビス(2−エチル−3−ヒドロキシヘキソキシド)等を挙げることができる。
【0038】
ポリウレタン系樹脂100質量部に対する架橋剤の量は、0.1〜50質量部であることが好ましい。ポリウレタン系樹脂100質量部に対する架橋剤の量が50質量部を超えると、形成される接着層やバインダー層が脆くなる、或いは架橋剤の官能基が残留しやすくなる傾向にある。
【0039】
(その他の成分)
本発明のポリウレタン系樹脂組成物には、テルペン系樹脂、ロジン系樹脂等の粘着付与剤を添加することができる。
【0040】
(リチウムイオン電池用外装体)
次に、本発明のリチウムイオン電池用外装体について説明する。図1は、本発明のリチウムイオン電池用外装体の一実施形態を模式的に示す断面図である。図1に示すように、本実施形態のリチウムイオン電池用外装体1は、内層2、バリア層4、外層6、並びにこれらの層を相互に接着する接着層である内層側接着層3及び外層側接着層5を備えた積層構造を有する。そして、接着層(内層側接着層3及び外層側接着層5)が、接着剤として用いた前述のポリウレタン系樹脂組成物により形成されている。
【0041】
内層2は、耐電解液性を有するとともに、包装材として有用な熱融着性をも有する層である。内層2としては、ポリオレフィンフィルムが好ましい。ポリオレフィンフィルムとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、オレフィン系共重合体、これらの酸変性物、及びこれらの混合物からなる無延伸の熱可塑性樹脂フィルムが好ましい。なお、密着性を向上させるため、内層2にはコロナ処理等の表面処理が施されていることが好ましい。
【0042】
バリア層4は、酸素や水分等のリチウムイオン電池内部への侵入を阻止するバリア性を有する層である。バリア層4としては、純アルミニウム、アルミニウム−鉄合金、銅、ニッケル、ステンレス等の金属箔;アルミニウム、ニッケル、シリカ、アルミナ等の蒸着フィルムが好ましい。なお、耐腐食性及び密着性を向上させるため、バリア層4にはクロメート処理等の表面処理が施されていることが好ましい。
【0043】
外層6は、リチウムイオン電池用外装体に包装材としての成型性を付与するとともに、電池製造時(熱融着工程)及び使用時に要求される耐熱性を有する層である。外層6としては、単層又は複層の耐熱性樹脂フィルムが好ましい。このような耐熱性樹脂フィルムを構成する耐熱性樹脂としては、ポリエステル、ナイロン、ポリイミド等を挙げることができる。
【0044】
内層側接着層3及び外層側接着層5は、内層2及び外層6をそれぞれ構成する樹脂フィルム、又はバリア層4を構成する金属箔等に、前述のポリウレタン系樹脂組成物を接着剤として塗布した後、乾燥することで形成することができる。乾燥後の接着層の厚さは、1〜20μmであることが好ましく、1.5〜10μmであることがさらに好ましい。接着層の厚さが1μm未満であると、接着力が不足するとともに、ピンホールが生じやすくなる傾向にある。一方、接着層の厚さが20μmを超えると成型性が低下する傾向にある。
【0045】
接着層を形成した金属箔等と樹脂フィルム、又は接着層を形成した樹脂フィルムと金属箔等を積層し、ドライラミネーションすることで、図1に示すような積層体であるリチウムイオン電池用外装体1を得ることができる。ドライラミネーションの温度は、内層及び外層のそれぞれを構成するフィルムの材質等により適宜決定される。また、架橋反応を完結させるため、ドライラミネーション後にエージングすることが好ましい。
【0046】
なお、必要に応じて、バリア層よりも外側の任意の位置に意匠層を配置する、或いは最外側に保護層を配置することもできる。意匠層は、着色や艶消し等の意匠性をリチウムイオン電池用外装体に付与する層である。前述の本発明のポリウレタン系樹脂組成物と、シリカ等の無機フィラー、有機フィラー、及びカーボン等の顔料をはじめとする着色剤の少なくともいずれかとを含有するバインダー組成物を用いることによって、意匠層や保護層を形成することができる。
【0047】
保護層は、電池外部からの衝撃や電池内部からの液漏れを防止するための層である。従来の保護層は、フッ素系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂等のフィルムを外層のさらに外側に配置することで形成されていた。これに対して、前述の本発明のポリウレタン系樹脂組成物を最外側に塗布して乾燥すれば、耐電解液性等に優れた保護層を容易に形成することができる。なお、保護層を形成するためのポリウレタン系樹脂組成物には、必要に応じて、紫外線吸収剤、酸化防止剤、難燃剤、スリップ剤、フィラー、有機ビーズ、フッ素パウダー等の各種添加剤を配合することもできる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0049】
<ポリウレタン系樹脂の合成>
(合成例1:PU1の合成)
撹拌機、還流冷却管、温度計、窒素吹き込み管、及びマンホールを備えた反応容器を用意した。反応容器の内部を窒素ガスで置換しながら、水素化ポリブタジエンポリオール(商品名「GI−1000」、日本曹達社製、OHv=66mgKOH/g)100g、メチルエチルケトン(MEK)24.6g、及びトルエン24.6gを仕込んだ。加熱撹拌を開始して系内が均一となった後、50℃で4,4’−メチレンビス(フェニレンイソシアネート)(MDI)14.4gを添加し、次いで、80℃に昇温して反応させた。赤外吸収スペクトル分析で測定される遊離イソシアネート基による2,270cm-1の吸収が消失するまで反応を進行させた。その後、MEK32.4g及びトルエン32.4gを添加して、構成単位(A)の含有率87%及び重量平均分子量60,000のポリウレタン樹脂PU1の溶液(固形分50%)を得た。
【0050】
(合成例2:PU2の合成)
撹拌機、還流冷却管、温度計、窒素吹き込み管、及びマンホールを備えた反応容器を用意した。反応容器の内部を窒素ガスで置換しながら、水素化ポリブタジエンポリオール(商品名「GI−1000」、日本曹達社製、OHv=66mgKOH/g)100g、ジメチロールプロパン酸(DMPA)4.9g、及びMEK 54.8gを仕込んだ。加熱撹拌を開始した後、50℃でMDI 22.9gを添加し、次いで、80℃に昇温して反応させた。赤外吸収スペクトル分析で測定される遊離イソシアネート基による2,270cm-1の吸収が消失するまで反応を進行させた。その後、MEK 9.1g及びトルエン63.9gを添加して、構成単位(A)の含有率78%、重量平均分子量65,000、及び酸価(Av)=16.1mgKOH/gのポリウレタン樹脂PU2の溶液(固形分50%)を得た。
【0051】
(合成例3:PU3の合成)
撹拌機、還流冷却管、温度計、窒素吹き込み管、及びマンホールを備えた反応容器を用意した。反応容器の内部を窒素ガスで置換しながら、水素化ポリブタジエンポリオール(商品名「GI−1000」、日本曹達社製、OHv=66mgKOH/g)100g、1,3−ブタンジオール5.3g、メチルエチルケトン(MEK)28.9g、及びトルエン28.9gを仕込んだ。加熱撹拌を開始して系内が均一となった後、50℃で4,4’−メチレンビス(フェニレンイソシアネート)(MDI)29.4gを添加し、次いで、80℃に昇温して反応させた。赤外吸収スペクトル分析で測定される遊離イソシアネート基による2,270cm-1の吸収が消失するまで反応を進行させた。その後、MEK38.5g及びトルエン38.5gを添加して、構成単位(A)の含有率74%及び重量平均分子量50,000のポリウレタン樹脂PU3の溶液(固形分50%)を得た。
【0052】
(合成例4:PU4の合成)
撹拌機、還流冷却管、温度計、窒素吹き込み管、及びマンホールを備えた反応容器を用意した。反応容器の内部を窒素ガスで置換しながら、水素化ポリブタジエンポリオール(商品名「GI−1000」、日本曹達社製、OHv=66mgKOH/g)100g、ダイマージオール(商品名「Pripol2033」、クローダジャパン社製、OHv=207mgKOH/g)50g、MEK 39.9g、及びトルエン39.9gを仕込んだ。加熱撹拌を開始した後、50℃でMDI 36.2gを添加し、次いで、80℃に昇温して反応させた。赤外吸収スペクトル分析で測定される遊離イソシアネート基による2,270cm-1の吸収が消失するまで反応を進行させた。その後、MEK 53.6g及びトルエン53.6gを添加して、構成単位(A)の含有率54%及び重量平均分子量55,000のポリウレタン樹脂PU4の溶液(固形分50%)を得た。
【0053】
(合成例5:PU5の合成)
撹拌機、還流冷却管、温度計、窒素吹き込み管、及びマンホールを備えた反応容器を用意した。反応容器の内部を窒素ガスで置換しながら、水素化ポリブタジエンポリオール(商品名「GI−1000」、日本曹達社製、OHv=66mgKOH/g)100g、MEK 24.2g、及びトルエン24.2gを仕込んだ。加熱撹拌を開始して系内が均一となった後、50℃でイソホロンジイソシアネート(IPDI)12.9gを添加し、次いで、80℃に昇温して反応させた。赤外吸収スペクトル分析で測定される遊離イソシアネート基による2,270cm-1の吸収が消失するまで反応を進行させた。その後、MEK 32.3g及びトルエン32.3gを添加して、構成単位(A)の含有率89%及び重量平均分子量60,000のポリウレタン樹脂PU5の溶液(固形分50%)を得た。
【0054】
(合成例6:PU6の合成)
撹拌機、還流冷却管、温度計、窒素吹き込み管、及びマンホールを備えた反応容器を用意した。反応容器の内部を窒素ガスで置換しながら、水素化ポリブタジエンポリオール(商品名「GI−1000」、日本曹達社製、OHv=66mgKOH/g)100g、及びトルエン49.2gを仕込んだ。加熱撹拌を開始して系内が均一となった後、50℃でヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)19.8g(OH基に対してNCO基が2倍当量)を添加した。80℃に昇温して3時間反応させてウレタンプレポリマー溶液を得た。得られたウレタンプレポリマー溶液にDMF 80.6gを添加して40℃に冷却した後、イソホロンジアミン(IPDA)10gを滴下して、ウレタンプレポリマーのNCO基と反応させた。赤外吸収スペクトル分析で測定される遊離イソシアネート基による2,270cm-1の吸収が消失するまで反応させて、構成単位(A)の含有率77%及び重量平均分子量60,000のポリウレタンウレア樹脂PU6の溶液(固形分50%)を得た。
【0055】
(合成例7:PU7の合成)
撹拌機、還流冷却管、温度計、窒素吹き込み管、及びマンホールを備えた反応容器を用意した。反応容器の内部を窒素ガスで置換しながら、水素化ポリブタジエンポリオール(商品名「GI−1000」、日本曹達社製、OHv=66mgKOH/g)100g、及びトルエン49.2gを仕込んだ。加熱撹拌を開始して系内が均一となった後、50℃でヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)19.8g(OH基に対してNCO基が2倍当量)を添加した。80℃に昇温して3時間反応させてウレタンプレポリマー溶液を得た。得られたウレタンプレポリマー溶液にDMF 102.7gを添加して40℃に冷却した後、ダイマージアミン(商品名「Priamine1074」、クローダジャパン社製、AHEW=136g/eq)32.0gを滴下して、ウレタンプレポリマーのNCO基と反応させた。赤外吸収スペクトル分析で測定される、遊離イソシアネート基による2,270cm-1の吸収が消失するまで反応させて、構成単位(A)の含有率66%及び重量平均分子量50,000のポリウレタンウレア樹脂PU7の溶液(固形分50%)を得た。
【0056】
(合成例8:PU8の合成)
撹拌機、還流冷却管、温度計、窒素吹き込み管、及びマンホールを備えた反応容器を用意した。反応容器の内部を窒素ガスで置換しながら、水素化ポリブタジエンポリオール(商品名「GI−1000」、日本曹達社製、OHv=66mgKOH/g)50g、ポリカーボネートポリオール(商品名「プラクセル CD220」、ダイセル社製、OHv=56.1mgKOH/g)50g、MEK 24.3g、及びトルエン24.3gを仕込んだ。加熱撹拌を開始した後、50℃でMDI 13.6gを添加し、次いで、80℃に昇温して反応させた。赤外吸収スペクトル分析で測定される遊離イソシアネート基による2,270cm-1の吸収が消失するまで反応を進行させた。その後、MEK 32.5g及びトルエン32.5gを添加して、構成単位(A)の含有率44%及び重量平均分子量65,000のポリウレタン樹脂PU8の溶液(固形分50%)を得た。
【0057】
(比較合成例1:PU9の合成)
撹拌機、還流冷却管、温度計、窒素吹き込み管、及びマンホールを備えた反応容器を用意した。反応容器の内部を窒素ガスで置換しながら、ポリエステルポリオール(アジピン酸と1,4−ブタンジオールの縮合物、OHv=112mgKOH/g、Av=0.1mgKOH/g)100g、MEK 26.8g、及びトルエン26.8gを仕込んだ。加熱撹拌を開始して系内が均一となった後、50℃でMDI 25.0gを添加し、次いで、80℃に昇温して反応させた。赤外吸収スペクトル分析で測定される遊離イソシアネート基による2,270cm-1の吸収が消失するまで反応を進行させた。その後、MEK 35.7g及びトルエン35.7gを添加して、構成単位(A)を含まない、重量平均分子量65,000のポリウレタン樹脂PU9の溶液(固形分50%)を得た。
【0058】
上記の合成例1〜8及び比較合成例1をまとめたものを表1に示す。
【0059】
【0060】
<内層側接着剤1〜23(実施例1〜22、比較例1)の調製>
表2に示す処方にしたがって各成分を配合して内層側接着剤を調製した。なお、表2中の配合量(単位:部)は固形分である。
【0061】
【0062】
<電池外装体用の積層体>
(実施例23)
以下に示す配合処方の外層側接着剤を、両面クロメート処理した厚さ40μmのアルミニウム箔の一方の面に塗布した後、乾燥して、厚さ4μmの外層側接着層を形成した。形成した外層側接着層の表面に厚さ25μmの延伸ナイロンフィルムを配置し、ドライラミネートによって貼合した。次いで、内層側接着剤1をアルミニウム箔の他方の面(延伸ナイロンフィルムを貼合した面の反対側の面)に塗布した後、乾燥して、厚さ3μmの内層側接着層を形成した。形成した内層側接着層の表面に厚さ40μmのコロナ処理した無延伸ポリプロピレンフィルムを配置し、ドライラミネートによって貼合して電池外装体用の積層体を製造した。
[外層側接着剤]
・PU1(NV=50%) 10.0部
・ポリイソシアネート架橋剤 0.5部
(商品名「コロネートHX」、日本ポリウレタン社製、
NV=100%、NCO=11%)
・MEK 44.5部
【0063】
(実施例24〜44、比較例2)
内層側接着剤1に代えて、表3に示す種類の内層側接着剤をそれぞれ用いたこと以外は、前述の実施例23と同様にして電池外装体用の積層体を製造した。
【0064】
<評価>
(接着強度)
製造した電池外装体用の積層体から接着強度測定用の試料片を採取した。引張試験装置(型名「オートグラフ AGS−100A」、島津製作所社製)を使用し、25℃の温度条件下、引張速度100mm/minで試料片のアルミニウム箔と無延伸ポリプロピレンフィルムをT剥離して、内層側接着層の接着強度を測定した。結果を表3に示す。
【0065】
(接着強度保持率)
製造した電池外装体用の積層体から接着強度保持率測定用の試料片を採取した。採取した試料片をヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)のエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート(1/1)溶液(LiPF6濃度=1mol/L)に浸漬し、85℃で4週間放置した。上記「接着強度」の測定方法と同様の手順で、浸漬前後の試料片のアルミニウム箔と無延伸ポリプロピレンフィルムをT剥離して、内層側接着層の接着強度を測定した。そして、下記式(A)より接着強度保持率を算出し、耐電解液性の指標とした。結果を表3に示す。
接着強度保持率(%)
=(浸漬後の接着強度/浸漬前の接着強度)×100 ・・・(A)
【0066】
【0067】
(水蒸気バリア性)
実施例1及び13並びに比較例1で調製した内層側接着剤1、13及び23を、離型紙上にそれぞれ塗布した後、乾燥して、厚さ15μmのフィルムを作製した。離型紙から剥離したフィルムを用いて、以下に示す条件で透湿度試験を行って水蒸気バリア性を評価した。結果を表4に示す。
測定法:JIS Z 0208 防湿包装材料の透湿度試験方法(カップ法)
測定条件:温度40℃、相対湿度90%
【0068】
【0069】
<意匠層の配置>
(実施例45)
PU5 100部、意匠用フィラー(商品名「サイリシア 420」、富士シリシア化学社製、湿式法シリカ、平均粒子径3.1μm)10部、及びMEK 90部を混合した後、ガラスビーズを添加し、ペイントシェーカーを使用して分散させて分散液を得た。得られた分散液100部、MEK 60部、及びポリイソシアネート架橋剤(商品名「コロネートHX」、日本ポリウレタン社製)2.5部を混合し、均一になるまで撹拌して艶消しの意匠層用配合液を調製した。得られた意匠層用配合液を実施例23で製造した積層体の延伸ナイロンフィルムの表面に塗布した後、乾燥して厚さ10μmの意匠層を形成し、意匠層つき積層体を製造した。製造した積層体をヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)のエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート(1/1)溶液(LiPF6濃度=1mol/L)に浸漬し、85℃で4週間放置した。浸漬後の積層体を観察したところ、意匠層の状態に変化は認められなかった。
【0070】
(実施例46)
PU5 100部、カーボンブラック16部、及びMEK 214部を混合した後、ガラスビーズを添加し、ペイントシェーカーを使用して分散させて分散液を得た。得られた分散液100部、PU5 360部、MEK 400部、及びポリイソシアネート架橋剤(商品名「コロネートHX」、日本ポリウレタン社製)20部を混合し、均一になるまで撹拌して黒色の意匠層用配合液を調製した。得られた意匠層用配合液を実施例23で製造した積層体の延伸ナイロンフィルムの表面に塗布した後、乾燥して厚さ10μmの意匠層を形成し、意匠層つき積層体を製造した。製造した積層体をヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)のエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート(1/1)溶液(LiPF6濃度=1mol/L)に浸漬し、85℃で4週間放置した。浸漬後の積層体を観察したところ、意匠層の状態に変化は認められなかった。
【0071】
<保護層の配置>
(実施例47)
以下に示す配合処方の保護層用配合液を、実施例23で製造した積層体の延伸ナイロンフィルムの表面に塗布した後、乾燥して厚さ10μmの保護層を形成し、保護層つき積層体を製造した。製造した積層体をヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)のエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート(1/1)溶液(LiPF6濃度=1mol/L)に浸漬し、85℃で4週間放置した。浸漬後の積層体を観察したところ、保護層の状態に変化は認められなかった。
[保護層用配合液]
・PU4(NV=50%) 10.0部
・ポリイソシアネート架橋剤 0.5部
(商品名「コロネートHX」、日本ポリウレタン社製、
NV=100%、NCO=11%)
・MEK 17.0部
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明のポリウレタン系樹脂組成物は、例えば、リチウムイオン電池用外装体を製造するための接着剤やバインダー等として有用である。
【符号の説明】
【0073】
1:リチウムイオン電池用外装体
2:内層
3:内層側接着層
4:バリア層
5:外層側接着層
6:外層
図1