特許第6245705号(P6245705)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6245705ハードコート膜形成用組成物、硬化膜、及び帯電防止性物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6245705
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】ハードコート膜形成用組成物、硬化膜、及び帯電防止性物品
(51)【国際特許分類】
   C09D 4/02 20060101AFI20171204BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20171204BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20171204BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
   C09D4/02
   C09D7/12
   B32B27/18 D
   B32B27/30 A
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-104142(P2015-104142)
(22)【出願日】2015年5月22日
(65)【公開番号】特開2016-216635(P2016-216635A)
(43)【公開日】2016年12月22日
【審査請求日】2017年4月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(72)【発明者】
【氏名】松山 展也
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 寛典
【審査官】 小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−184349(JP,A)
【文献】 特開2012−184348(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/176570(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/097825(WO,A1)
【文献】 特開2003−335983(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00−201/10
B32B 1/00− 43/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3以上の(メタ)アクリロイル基を有する紫外線硬化型成分、表面が有機処理された平均一次粒子径1〜300nmのシリカ、光重合開始剤、及びイオン液体を含有し、
前記光重合開始剤が、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパノンであるハードコート膜形成用組成物。
【請求項2】
前記紫外線硬化型成分100質量部に対する、前記光重合開始剤の含有量が、1〜10質量部である請求項1に記載のハードコート膜形成用組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のハードコート膜形成用組成物を硬化させて得られる硬化膜。
【請求項4】
基材と、前記基材の表面上の少なくとも一部に配設された請求項3に記載の硬化膜と、を備える帯電防止性物品。
【請求項5】
前記基材の形状が、フィルム状、シート状、又は板状である請求項4に記載の帯電防止性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードコート膜形成用組成物、並びにこれを用いて得られる硬化膜及び帯電防止性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、タッチパネルをはじめとする光学分野で用いられる物品に採用されるハードコート膜の需要は急速に拡大してきている。特に、光学用途の物品に用いられるハードコート膜は、印刷巻取り時の基材の傷つきを防止すべく、アンチブロッキング性を有することが望ましいとされている。
【0003】
また、乾燥時には剥離の際に膜が帯電しやすく、埃が付着したり、スパークが生じたりしやすい。このため、ハードコート膜は、帯電防止性を有することがさらに望ましいとされている。さらに、光学用途の物品の場合、150℃で1時間程度の熱処理によって基材の裏面にITOスパッタなどが積層されることが多い。このため、熱処理後であってもハードコート膜の帯電防止性が低下しにくいことが要求されている。
【0004】
アンチブロッキング性を有する膜を形成する方法としては、例えば、樹脂の相分離を利用して表面に微細な凹凸を有する膜を形成する方法が提案されている(特許文献1及び2)。また、樹脂ビーズや無機層状化合物を含有する層を形成したハードコートフィルムが提案されている(特許文献3及び4)。さらに、無機微粒子又は有機微粒子を含有する膜形成用組成物を用いて形成したハードコート膜を有するフィルムや、帯電防止剤を含むハードコート層を備えた、アンチブロッキング性及び帯電防止性を有する光学積層体が提案されている(特許文献5〜7)。
【0005】
また、アンチモン酸亜鉛などの導電性の微粒子を含有する帯電防止性の樹脂組成物が提案されている(特許文献8及び9)。さらに、リチウム塩や4級アンモニウム塩単位を有する高分子型の帯電防止剤を含有するハードコート塗料が提案されている(特許文献10及び11)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−182519号公報
【特許文献2】特開2009−13384号公報
【特許文献3】特開2004−151937号公報
【特許文献4】特開2005−132897号公報
【特許文献5】特開2004−42653号公報
【特許文献6】特開2013−256562号公報
【特許文献7】特開2010−60643号公報
【特許文献8】特開2001−123036号公報
【特許文献9】特開2004−107529号公報
【特許文献10】特開2006−70062号公報
【特許文献11】国際公開第2007/105394号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1〜7で提案されたハードコートフィルム等は、熱処理後においても安定した帯電防止性を有するものであるとはいえず、また、熱処理後の帯電防止性については何ら考慮されていなかった。さらに、特許文献8及び9で提案された樹脂組成物を用いれば、熱安定性がある程度向上した膜を形成することは可能であるが、光学特性が低下しやすく、高価であるといった課題があった。また、特許文献10及び11で提案されたハードコート塗料によって形成されたハードコート膜は、帯電防止性が不十分であるとともに、熱安定性が低下することがあった。さらに、ヘイズが上昇したり、ブリーディングによってアンチブロッキング性が低下したりする等の課題があった。
【0008】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、高い透明性を維持しながらも、アンチブロッキング性、帯電防止性、及び耐傷付き性に優れており、かつ、熱処理しても帯電防止性が低下しにくい硬化膜を形成することが可能なハードコート膜形成用組成物を提供することにある。また、本発明の課題とするところは、上記のハードコート膜形成用組成物を硬化させて得られる硬化膜、及びこの硬化膜を備えた帯電防止性物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明によれば、以下に示すハードコート膜形成用組成物が提供される。
[1]3以上の(メタ)アクリロイル基を有する紫外線硬化型成分、表面が有機処理された平均一次粒子径1〜300nmのシリカ、光重合開始剤、及びイオン液体を含有し、
前記光重合開始剤が、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパノンであるハードコート膜形成用組成物。
[2]前記紫外線硬化型成分100質量部に対する、前記光重合開始剤の含有量が、1〜10質量部である前記[1]に記載のハードコート膜形成用組成物。
【0010】
また、本発明によれば、以下に示す硬化膜及び帯電防止性物品が提供される。
[3]前記[1]又は[2]に記載のハードコート膜形成用組成物を硬化させて得られる硬化膜。
[4]基材と、前記基材の表面上の少なくとも一部に配設された前記[3]に記載の硬化膜と、を備える帯電防止性物品。
[5]前記基材の形状が、フィルム状、シート状、又は板状である前記[4]に記載の帯電防止性物品。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高い透明性を維持しながらも、アンチブロッキング性、帯電防止性、及び耐傷付き性に優れており、かつ、熱処理しても帯電防止性が低下しにくい硬化膜を形成することが可能なハードコート膜形成用組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、上記のハードコート膜形成用組成物を硬化させて得られる硬化膜、及びこの硬化膜を備えた帯電防止性物品を提供することができる。
【0012】
本発明のハードコート膜形成用組成物を硬化させて得られる硬化膜を備えたハードコートフィルム等の帯電防止性物品は、帯電防止性に優れているために埃が付着しにくいとともに、低湿度環境下であってもスパークが発生しにくく、さらには、熱処理後であっても帯電防止性が低下しにくい。このため、本発明の硬化膜及びそれを備える帯電防止性物品は、後加工時の作業性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<ハードコート膜形成用組成物>
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明のハードコート膜形成用組成物(以下、「ハードコート用組成物」とも記す)は、3以上の(メタ)アクリロイル基を有する紫外線硬化型成分、表面が有機処理された平均一次粒子径1〜300nmのシリカ、光重合開始剤、及びイオン液体を含有する。そして、光重合開始剤が、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパノンである。以下、本発明のハードコート用組成物の詳細について説明する。
【0014】
(紫外線硬化型成分)
紫外線硬化型成分は、3以上の(メタ)アクリロイル基を有する単量体又は樹脂である。形成される硬化膜の硬度を高めるには、5以上の(メタ)アクリロイル基を有する紫外線硬化型成分を用いることが好ましい。
【0015】
3以上の(メタ)アクリロイル基を有する紫外線硬化型の単量体の具体例としては、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。また、3以上の(メタ)アクリロイル基を有する紫外線硬化型の樹脂の具体例としては、ペンタエリスリトールトリアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンポリマー、ペンタエリスリトールトリアクリレートトルエンジイソシアネートウレタンポリマー、ペンタエリスリトールトリアクリレートイソホロンジイソシアネートウレタンポリマーなどの反応性ポリウレタン、並びに3以上の(メタ)アクリロイル基を有する反応性アクリルポリマーなどを挙げることができる。これらの紫外線硬化型成分は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。また、1又は2つの(メタ)アクリロイル基を有する紫外線硬化型成分を併用してもよい。さらに、必要に応じて、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ビニル系樹脂、イミド系樹脂、界面活性剤などを添加してもよい。
【0016】
(シリカ)
本発明のハードコート用組成物は、表面が有機処理されたシリカ(ナノシリカ)を含有する。このシリカは、アンチブロッキング剤として機能しうる成分である。このような表面が有機処理されたシリカは、分散性が良好であるとともに、形成される硬化膜の耐熱性及び光学特性に影響が生じにくく、かつ、イオン液体との相性も良いために好ましい。表面の有機処理としては、有機基をシリカの粒子表面に導入する処理などを挙げることができる。シリカの粒子表面に導入される有機基の具体例としては、ジメチルシリル基、トリメチルシリル基、ジメチルポリシロキサン基、ジメチルシロキサン基、アミノアルキルシリル基、アルキルシリル基、メタクリルシリル基などを挙げることができる。表面が有機処理されたシリカは、例えば、シリカの粒子と、アルキルアルキルオキシシラン、アルキルオキシ基含有アルキルポリシロキサン、シランカップリング剤などの表面処理剤とを反応させることによって調製することができる。
【0017】
シリカの平均一次粒子径は、形成される硬化膜の光学特性の観点から、1〜300nmである。平均一次粒子径が上記の範囲内であれば、一次粒子径が異なる二種以上のシリカを組み合わせて用いてもよい。なお、本明細書におけるシリカの「平均一次粒子径」は、電子顕微鏡によって観察して得られる像から無作為に選択した100個の粒子の粒子径の平均値を意味する。
【0018】
ハードコート用組成物中のシリカの含有量は、紫外線硬化型成分100質量部に対して、3〜15質量部であることが好ましく、5〜10質量部であることがさらに好ましい。
【0019】
(光重合開始剤)
本発明のハードコート用組成物は、光重合開始剤として、下記式(1)で表される1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパノンを含有する。1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパノンを光重合開始剤として用いることによって、他の光重合開始剤を用いた場合に比して、光学特性や耐傷付き性等の諸特性を損なうことなく、熱処理後も帯電防止性が高いレベルで維持される硬化膜を形成可能なハードコート用組成物とすることができる。
【0020】
【0021】
1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパノンとしては、商品名「イルガキュア2959」(BASFジャパン社製)、商品名「SB−PI759」(双邦實業股分有限公司製)などの市販品を用いることができる。なお、構造が同一であれば、他の市販品を使用しても構わない。ハードコート用組成物中の光重合開始剤(1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパノン)の含有量は、紫外線硬化型成分100質量部に対して、1〜10質量部であることが好ましく、2〜5質量部であることがさらに好ましい。
【0022】
ハードコート用組成物には、形成される硬化膜の帯電防止性等の特性を損なわない範囲で、必要に応じて、その他の光重合開始剤や硬化促進剤を含有させてもよい。また、光重合開始剤以外の公知の硬化剤を含有させてもよい。このような硬化剤としては、末端にチオール基を有する化合物;1級又は2級アミン化合物;2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジハイドロクロライド、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタノイックアッシド)などのアゾ系開始剤;ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、アセチルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジシイソプロピルパーオキシカーボネート、t−ブチルハイドロパーオキサイド、過硫酸カリウムなどの過酸化物を挙げることができる。
【0023】
(イオン液体)
本発明のハードコート用組成物は、イオン液体を含有する。このイオン液体は、帯電防止剤として機能しうる成分である。イオン液体を帯電防止剤として用いることによって、界面活性剤等の他の帯電防止剤を用いた場合に比して、光学特性や耐傷付き性等の諸特性を損なうことなく、熱処理後も帯電防止性が高いレベルで維持される硬化膜を形成可能なハードコート用組成物とすることができる。
【0024】
イオン液体としては、ピリジニウム系イオン液体、脂肪族アミン系イオン液体、脂環式アミン系イオン液体、イミダゾリウム系イオン液体、脂肪族ホスホニウム系イオン液体などを用いることができる。これらのイオン液体は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。ハードコート用組成物中のイオン液体の含有量は、紫外線硬化型成分100質量部に対して、2〜10質量部であることが好ましく、3〜7質量部であることがさらに好ましい。
【0025】
<硬化膜及び帯電防止性物品>
本発明の硬化膜は、前述のハードコート膜形成用組成物を硬化させて得られるものである。また、本発明の帯電防止性物品は、基材と、この基材の表面上の少なくとも一部に配設された上記の硬化膜とを備えるものである。本発明の硬化膜は、前述のハードコート用組成物を硬化させて得られるものであるため、高い透明性を維持しながらも、アンチブロッキング性、帯電防止性、及び耐傷付き性に優れており、かつ、熱処理しても帯電防止性が低下しにくいといった特性を有する。
【0026】
硬化膜を形成するには、例えば、必要に応じて溶剤に分散又は溶解させたハードコート用組成物を公知のコーティング方法で所定の基材上に塗布して塗工膜を形成する。ハードコート用組成物を基材上に塗布する方法としては、例えば、ロールコート、グラビアコート、コンマコート、ナイフコート、ダイコートなどを挙げることができる。また、塗工膜の厚さは、得られる硬化膜や帯電防止性物品の用途等に応じて適宜設定すればよいが、通常1〜10μm程度、好ましくは2〜5μm程度とすればよい。形成された塗工膜を乾燥させた後、紫外線を照射して十分に硬化させれば、本発明の硬化膜や帯電防止性物品を得ることができる。なお、必要に応じて窒素パージ下で硬化させてもよい。
【0027】
基材を構成する材料としては、樹脂や樹脂の混合物(アロイなどを含む)などを用いることができる。基材は複数層からなる積層体であってもよい。基材の形状としては、フィルム状、シート状、板状(ボード状)などを挙げることができる。また、基材として樹脂フィルムを用いる場合、この樹脂フィルムは延伸フィルムであっても未延伸フィルムであってもよい。得られる帯電防止性物品(帯電防止性フィルム又はシート)の強度を向上させるためには、一軸方向又は二軸方向に延伸した樹脂フィルム又はシートを基材として用いることが好ましい。
【0028】
ハードコート用組成物が塗布される基材の表面(塗布面)は、易接着処理されていることが好ましい。易接着処理としては、コロナ放電処理、プラズマ処理、オゾン処理、フレーム処理、プライマー(アンカーコート、接着促進剤、易接着剤など)塗布処理、予熱処理、除塵埃処理、蒸着処理、アルカリ処理などを挙げることができる。なお、必要に応じて、充填剤、着色剤、可塑剤、及び帯電防止剤などの添加剤を含有する基材を用いてもよい。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0030】
<ハードコート用組成物の調製>
(実施例1)
ペンタエリスリトールトリアクリレート(商品名「アロニックスM−305」、東亜合成社製、紫外線硬化型成分)100部、及びジメチルジクロロシラン処理ナノシリカ(商品名「アエロジルR976S」、日本アエロジル社製、アンチブロッキング剤、平均一次粒子径7nm)7.5質量部を混合した。トルエンで適宜希釈した後、ペイントシェーカーにて1時間分散した。さらに、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパノン(商品名「イルガキュア2959」、BASFジャパン社製、光重合開始剤)4質量部、及びイオン液体(商品名「IL−AP3」、広栄化学社製、帯電防止剤、脂肪族ホスホニウム系)5質量部を添加して混合し、ハードコート用組成物を得た。
【0031】
(実施例2〜10、比較例1〜13)
表1に示す配合としたこと以外は、前述の実施例1と同様にして、ハードコート用組成物を得た。なお、表1中の各成分(商品名)の詳細を以下に示す。
【0032】
[紫外線硬化型成分]
・NKエステルA−9550:新中村化学工業社製、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート
・NKオリゴU−15HA:新中村化学工業社製、15官能ウレタンアクリレート
【0033】
[アンチブロッキング剤]
・アエロジルR805:日本アエロジル社製、アルキルシリル処理ナノシリカ、平均一次粒子径12nm
・アエロジルRY50:日本アエロジル社製、ジメチルポリシロキサン処理ナノシリカ、平均一次粒子径40nm
・MEK−ST−ZL:日産化学工業社製、シランカップリング処理ナノシリカ(MEK分散液)、平均一次粒子径83nm
・アエロジルR200:日本アエロジル社製、未処理ナノシリカ、平均一次粒子径12nm
・アエロジルOX50:日本アエロジル社製、未処理ナノシリカ、平均一次粒子径40nm
・SC2050−MLH:アドマテックス社製、シランカップリング処理ナノシリカ(MIBK分散液)、平均一次粒子径500nm
【0034】
[光重合開始剤]
・イルガキュア184:BASFジャパン社製、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン
・ダロキュア1173:BASFジャパン社製、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン
・イルガキュア127:BASFジャパン社製、2−ヒドロキシ−1−[4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオニル)ベンジル]フェニル]−2−メチルプロパン−1−オン
・イルガキュア907:BASFジャパン社製、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン
・イルガキュア369:BASFジャパン社製、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1
・ルシリンTPO:BASFジャパン社製、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニルフォスフィンオキサイド
・エサキュアONE:フラテッリ・ランベルティー社製、2−ヒドロキシ−2−メチル−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパノールオリゴマー
【0035】
[帯電防止剤]
・IL−A2:広栄化学社製、脂肪族アミン系イオン液体
・IL−C5:広栄化学社製、脂環式アミン系イオン液体
・IL−MA2:広栄化学社製、脂肪族アミン系アクリレート反応型イオン液体
・IL−S4:広栄化学社製、脂肪族アミン系シラン反応型イオン液体
・PC−3662:丸菱油化工業社製、リチウム塩含有界面活性剤
・エソカードC/12:ライオン社製、4級アンモニウム塩含有界面活性剤
【0036】
【0037】
<試験片の作製>
バーコーターを使用して、PETフィルム(東洋紡績社製、商品名「コスモシャインA4300、厚さ100μm)上に乾燥膜厚3μmになるようにハードコート組成物を塗工した。100℃のオーブン内で1分間乾燥した後、80W/cmの高圧水銀灯にて積算光量300mJ/cm2になるように光照射し、ハードコート組成物を硬化させて試験片を得た。
【0038】
<評価>
(1)外観及び光学特性値
目視観察によって硬化膜の外観(色味)を評価した。また、ヘイズメーター(商品名「HM−150型」、村上色彩技術研究所社製)を使用し、JIS K7105に準拠して試験片の全光線透過率(Tt)(%)及びヘイズ値(H)を測定し、それぞれの平均値(n=3)を算出した。結果を表2に示す。
【0039】
(2)アンチブロッキング性
試験片の硬化膜の表面にPETフィルム(東洋紡績社製、商品名「コスモシャインA4300、厚さ100μm)を重ね合わせ、インキブロッキングテスター(商品名「DG−BT」、大和グラビヤ社製)を用いて500g/cm2の荷重を加えながら、40℃のオーブン内に12時間放置する耐熱試験を実施した。オーブンから取り出した後、重ね合わせたPETフィルムを剥離させ、以下に示す評価基準にしたがってアンチブロッキング性を評価した。結果を表2に示す。
○:力を加えることなく容易に剥離した。
△:剥離までに若干間があったが、界面は濡れなかった。
×:剥離せず、界面が濡れた状態となった。
【0040】
(3)表面抵抗値
デジタル絶縁計(商品名「DSM−8103」、東亜ディーケーケー社製)を使用し、JIS K6911に準拠して、初期(試験片の作製直後)の硬化膜、及び上記「(2)アンチブロッキング性」の評価で実施した耐熱試験後の硬化膜の表面抵抗値を測定した。結果を表2に示す
【0041】
(4)耐スチールウール(SW)性(耐傷付き性)
往復摩耗試験機(商品名「HEIDON」、新東科学社製)を使用し、スチールウール(商品名「ボンスター#0000」、ボンスター販売社製)により試験片の硬化膜表面を500g荷重×10往復した。その後、硬化膜表面(20mm×60mm)を目視観察し、以下に示す評価基準にしたがって耐SW性を評価した。結果を表2に示す。
1:傷大多数(白化)
2:傷多数
3:傷数十本
4:傷数本
5:傷なし
【0042】
【0043】
イオン液体を含有しないハードコート用組成物を用いると(比較例1)、イオン液体を含有するハードコート用組成物を用いた場合(実施例1)に比して、アンチブロッキング性が低下する傾向にあることが分かる。イオン液体が存在することで、形成される硬化膜の表面にナノシリカがより配向しやすくなったためであると推測される。
【0044】
表面処理していないナノシリカ(未処理ナノシリカ)を用いた場合(比較例2及び3)には、帯電防止剤との混合によって凝集及び白化し、かつ、帯電防止性も発現しなかった。このことから、表面が有機処理されたシリカを用いることは、外観及び帯電防止性を向上させる上で必須であると考えられる。
【0045】
比較例4〜10のうち、比較例4、6、7、9及び10は良好な帯電防止性を発現しなかった。比較例5では、耐熱試験後も良好な帯電防止性を示したが、耐SW性が発現しなかった。また、比較例8では硬化膜が黄変してしまい、光学用途には不適となった。以上のことから、耐熱試験後も良好な帯電防止性を発揮させるには、光重合開始剤として1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパノンを用いることが重要であることが分かる。
【0046】
平均一次粒子径が大きいナノシリカを用いると(比較例11)、ヘイズ値が高くなるとともに白化するため、光学用途には不適であることが分かる。
【0047】
また、イオン液体以外の帯電防止剤を用いると(比較例12及び13)、表面が有機処理されたナノシリカを用いた場合であっても白化するとともに、耐熱試験後の帯電防止性も低下した。これは、イオン液体以外の帯電防止剤と、表面が有機処理されたナノシリカとの相溶性が低いためであると考えられる。以上のことから、帯電防止剤としてイオン液体を用いることが重要であることが分かる。
【0048】
以上の結果から、イオン液体は、帯電防止性を発現させる効果だけでなく、表面が有機処理されたナノシリカの硬化膜表面への配向性を向上させる(アンチブロッキング性を改善する)効果をも発揮させる成分であることが分かる。さらに、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパノンを光重合開始剤として用いることで、耐SW性(耐傷付き性)が低下することなく、耐熱試験後の帯電防止性が向上することが分かった。