(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記磁性層は、FePtAg−C層またはFePt−C層の上に、FePtAg層もしくはFePt層を設けた積層膜を1ユニットとし、該ユニットを多段に積層してなるFePtAg−C系またはFePt−C系グラニュラー薄膜であることを特徴とする請求項1に記載の垂直磁気記録媒体。
前記磁性層は、基板側から炭素濃度が順次大きくなるFePtAg−C層またはFePt−C層を少なくとも2層積層した積層膜を1ユニットとし、該ユニットを多段に積層してなるFePtAg−C系またはFePt−C系グラニュラー薄膜であることを特徴とする請求項1に記載の垂直磁気記録媒体。
基板上に少なくとも高熱伝導性の熱吸収層、結晶性の配向制御層、および前記磁性層をこの順に備えていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の垂直磁気記録媒体。
前記基板上に、600℃以下の基板温度で、FePtAg−C層またはFePt−C層をスパッタ成膜し、その上にFePtAg層もしくはFePt層をスパッタ成膜した積層膜を1ユニットとし、該ユニットを多段に積層させることによりFePtAg−C系またはFePt−C系グラニュラー薄膜を形成することを特徴とする請求項9に記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
前記基板上に、600℃以下の基板温度で、基板側から炭素濃度が順次大きくなるFePtAg−C層またはFePt−C層を少なくとも2層スパッタ成膜し、この積層膜を1ユニットとし、該ユニットを多段に積層させることによりFePtAg−C系またはFePt−C系グラニュラー薄膜を形成することを特徴とする請求項9に記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
【背景技術】
【0002】
クラウドコンピューティングや家電製品のデジタル化などにより、世界で取り扱われる情報量は爆発的に増加している。これらデータを格納するデバイスとして最も重要なのが、ハードディスクドライブ(HDD)である。HDDは、安価・大容量・不揮発という長所を兼ね備えているので、大容量データのストレージデバイスとして大きな市場占有率を有している。
【0003】
HDDの中で情報を記録する部分を磁気記録媒体と呼ぶが、現在使われている媒体は約8nmのサイズのCoCrPt合金微粒子がSiO
2の非磁性マトリックス中に均一に分散したような微細組織を持っている。現在の記録密度は約800Gbit/in
2であるが、1Tbit/in
2を超える密度を実現することが期待されている。媒体の高密度化には、CoCrPt合金の更なる微粒子化が必要である。
【0004】
しかし、CoCrPt合金の磁気異方性は小さく、1Tbit/in
2を実現するのに必要とされる5nm以下のサイズでは熱エネルギーによる確率的な磁化反転が起こる(KuV≦k
BT、KuVは強磁性微粒子の異方性エネルギー、k
BTは熱エネルギー)熱擾乱の問題が生じる。これを克服するには、Kuの大きな材料を媒体に使う必要がある。
【0005】
そこで、Kuの大きな材料として注目されているのが、本発明者の提案に係る特許文献1に開示された、L1
0の規則構造を持つFePtである。FePtは7×10
7erg/ccと、CoCrPt合金よりも一桁高い磁気異方性を持つので、4nmまでサイズを低減することが可能である。
【0006】
FePtは磁気異方性が大きいため、媒体材料として約10年前から注目され、研究がなされている。しかし、媒体作製に用いられるスパッタ法でFePt薄膜を作製すると、高温相である不規則構造が形成される。それを規則化させるための熱処理温度が高いため、媒体に適した粒子分散型の微細組織(グラニュラー膜)を得ることが難しかった。本発明者らは、FePtと相分離傾向の強いCを非磁性マトリックスに、FePtの配向を制御するためにMgOを下地として選択することにより、媒体に適用可能な微細組織と磁気特性を実現することを提案している(例えば、特許文献2、非特許文献1参照)。
【0007】
しかし、FePtでは、微粒子サイズを小さくすると同時に、磁化反転磁場が30kOe以上の大きな値になり、書き込み用の磁気ヘッドが生成できる磁場(約15kOe)を上回り、現行の記録方式では書き込みができないという課題がある。
【0008】
この問題を解決する新しい磁気記録方式として、書き込みの時のみ局所的に媒体をキュリー点(強磁性が消滅する温度)まで温度を上げ、書き込みを行うという熱アシスト磁気記録(Heat Assisted Magnetic recording、HAMR)が提案されている(例えば、特許文献3参照)。FePtはHAMR媒体として期待されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らが、非特許文献1で、微粒子・狭分散のFePt−Cグラニュラー薄膜の報告をしたのち、世界の全ハードディスクメーカーで追試され、現在では熱アシスト磁気記録媒体の標準仕様とされている。また本発明者らが、非特許文献2で、FePt−Cグラニュラー薄膜にAgを添加することにより、高い磁気異方性と微粒子・狭分散の微細組織を両立することを提案している。また、これを実用化するためにはノイズの低減を図る必要があり、アスペクト比1程度の柱状構造が必要である。しかし、FePt−CまたはFePtAg−Cグラニュラー薄膜は膜厚が6nm以上で磁性相が厚さ方向に2層構造となってしまい、第2層目のFePt粒子が垂直配向しないために垂直異方性が損なわれる。このため、2層構造の成長を抑え、FePt粒子が柱状構造を得るための技術開発が必要とされていた。
【0012】
そこで、本発明者らは、上記課題を解決するために、FePtとの相分離傾向の弱い酸化物を用いた実験を行った。その結果、TiOやCrOでは柱状構造が実現するものの、保磁力が大きく減少した(非特許文献3参照)。これは、酸化物を構成する金属がFePt粒子内に固溶し、FePtのL1
0構造への規則化の駆動力を弱めるためである。様々な非磁性マトリックスを用いた検討以外に、薄いFePt−C膜を下地とし、その上にFePt−TiOやFePt−SiO
2などを成膜し高規則度と柱状構造の両立を目指したが(非特許文献3参照)、いずれも問題解決には至っていない。
【0013】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、例えば1Tbit/in
2を超える記録密度を実現するのに必要な、高規則度と柱状構造の両立するFePtAg−C系またはFePt−C系グラニュラー薄膜を用いた垂直磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記従来の課題を解決するべく鋭意検討した結果、基板上にFePt合金を主成分とする材料からなる磁性層を備える垂直磁気記録媒体において、磁性層として、厚さ1nm程度のFePtAg−CとFePtを交互スパッタにより積層させることにより、膜成長中にFePtAg−CのFePtAgとCが相分離して非磁性物質Cがマトリックスとなり、FePtAgとFePtが交互に積層された柱状構造を有し、平均粒子径:9.2nm、分散:2.5nmのFePtAg−C系柱状グラニュラー構造を実現できるとの知見を得て、これを基礎として、本発明を想到するに至った。
【0015】
また、基板上にFePt合金を主成分とする材料からなる磁性層を備える垂直磁気記録媒体において、磁性層として、厚さ2nm程度のFePtAg−Cを、基板側から炭素濃度が順次大きくなるように3種類の膜をスパッタにより積層させることにより、膜成長中にCとFePtAgが相分離して非磁性物質Cがマトリックスとなり、それぞれのFePtAgが積層された柱状構造を有し、平均粒子径:7.8nm、分散:1.8nmのFePtAg−C系柱状グラニュラー構造を実現できるとの知見を得て、これを基礎として、本発明を想到するに至った。
【0016】
すなわち、本発明は、上記課題を解決するため、以下の構成ないし手法を有するものである。
【0017】
〔1〕本発明の垂直磁気記録媒体は、基板上に少なくともFePt合金を主成分とする材料からなる磁性層を備えた垂直磁気記録媒体において、前記磁性層は、FePtAg−C層またはFePt−C層の上に、(A)FePtAg層もしくはFePt層、または(B)前記FePtAg−C層もしくは前記FePt−C層とは炭素濃度が異なるFePtAg−C層もしくはFePt−C層を、少なくとも一層設けた積層膜を1ユニットとし、該ユニットを多段に積層してなるFePtAg−C系またはFePt−C系グラニュラー薄膜であることを特徴とする。
【0018】
〔2〕本発明の垂直磁気記録媒体は、上記第〔1〕の構成において、前記磁性層は、FePtAg−C層またはFePt−C層の上に、FePtAg層もしくはFePt層を設けた積層膜を1ユニットとし、該ユニットを多段に積層してなるFePtAg−C系またはFePt−C系グラニュラー薄膜であることを特徴とする。
【0019】
〔3〕本発明の垂直磁気記録媒体は、上記第〔1〕の構成において、前記磁性層は、基板側から炭素濃度が順次大きくなるFePtAg−C層またはFePt−C層を少なくとも2層積層した積層膜を1ユニットとし、該ユニットを多段に積層してなるFePtAg−C系またはFePt−C系グラニュラー薄膜であることを特徴とする。
【0020】
〔4〕本発明の垂直磁気記録媒体は、上記第〔1〕乃至第〔3〕のいずれかの構成において、前記磁性層を構成する各層の膜厚が0.1nm以上6nm未満であることが好ましい。
【0021】
〔5〕本発明の垂直磁気記録媒体は、上記第〔1〕乃至第〔4〕のいずれかの構成において、基板上に少なくとも高熱伝導性の熱吸収層、結晶性の配向制御層、および前記磁性層をこの順に備えていることが好ましい。
【0022】
〔6〕本発明の垂直磁気記録媒体は、上記第
〔5〕の構成において、前記配向制御層は、L1
0構造のFePt(001)との格子定数ミスマッチが10%以内であることが好ましい。
【0023】
〔7〕本発明の垂直磁気記録媒体は、上記第〔1〕乃至第〔6〕のいずれかの構成において、前記磁性層は、L1
0構造を持つFePt合金を主体とする結晶粒子と、非磁性物質Cを主体とする粒界部を有するグラニュラー構造の強磁性層であることが好ましい。
【0024】
〔8〕本発明の垂直磁気記録媒体は、上記第〔5〕
又は〔6〕の構成において、前記基板と前記配向制御層との間に、前記熱吸収層に加えて軟磁性層を有することが好ましい。
【0025】
〔9〕本発明の垂直磁気記録媒体の製造方法は、基板上に少なくともFePt合金を主成分とする材料からなる磁性層を備えた垂直磁気記録媒体を製造する方法において、前記基板上に、600℃以下の基板温度で、FePtAg−C層またはFePt−C層をスパッタ成膜し、その上に、(A)FePtAg層もしくはFePt層、または(B)前記FePtAg−C層もしくは前記FePt−C層とは炭素濃度が異なるFePtAg−C層もしくはFePt−C層を、少なくとも一層スパッタ成膜し、この積層膜を1ユニットとし、該ユニットを多段に積層させることによりFePtAg−C系またはFePt−C系グラニュラー薄膜を形成することを特徴とする。
【0026】
〔10〕本発明の垂直磁気記録媒体の製造方法は、上記第〔9〕の方法において、前記基板上に、600℃以下の基板温度で、FePtAg−C層またはFePt−C層をスパッタ成膜し、その上にFePtAg層もしくはFePt層をスパッタ成膜した積層膜を1ユニットとし、該ユニットを多段に積層させることによりFePtAg−C系またはFePt−C系グラニュラー薄膜を形成することを特徴とする。
【0027】
〔11〕本発明の垂直磁気記録媒体の製造方法は、上記第〔9〕の方法において、前記基板上に、600℃以下の基板温度で、基板側から炭素濃度が順次大きくなるFePtAg−C層またはFePt−C層を少なくとも2層スパッタ成膜し、この積層膜を1ユニットとし、該ユニットを多段に積層させることによりFePtAg−C系またはFePt−C系グラニュラー薄膜を形成することを特徴とする。
【0028】
〔12〕本発明の垂直磁気記録媒体の製造方法は、上記第〔9〕乃至第〔11〕のいずれかの方法において、前記磁性層を構成する各層の膜厚を0.1nm以上6nm未満とすることが好ましい。
【0029】
〔13〕本発明の垂直磁気記録媒体の製造方法は、上記第〔9〕乃至第〔12〕のいずれかの方法において成膜後に600℃以下の温度でアニール処理を施すことが好ましい。
【発明の効果】
【0030】
本発明の垂直磁気記録媒体は、FePtAg−C系またはFePt−C系グラニュラー薄膜の膜厚が6nm以上でも、磁性相が厚さ方向に2層構造とはならずに、アスペクト比1以上の柱状構造が容易に確保できて、耐ノイズ性の高い磁気異方性と微粒子・狭分散の微細組織を両立している。そこで、本発明によれば、例えば1Tbit/in
2を超える記録密度を実現するのに必要な、高規則度と柱状構造の両立するFePtAg−C系またはFePt−C系グラニュラー薄膜を用いた垂直磁気記録媒体が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の垂直磁気記録媒体は、基板上に少なくともFePt合金を主成分とする材料からなる磁性層を備えた垂直磁気記録媒体において、前記磁性層は、FePtAg−C層またはFePt−C層の上に、(A)FePtAg層もしくはFePt層、または(B)前記FePtAg−C層もしくは前記FePt−C層とは炭素濃度が異なるFePtAg−C層もしくはFePt−C層を、少なくとも一層設けた積層膜を1ユニットとし、該ユニットを多段に積層してなるFePtAg−C系またはFePt−C系グラニュラー薄膜であることを特徴とするものである。
【0033】
以下、本発明の実施の形態を詳述する。
【0034】
先ず、本発明の第1の実施形態について説明する。
【0035】
本発明の第1実施形態の垂直磁気記録媒体は、基板上に少なくともFePt合金を主成分とする材料からなる磁性層を備えた垂直磁気記録媒体において、前記磁性層は、FePtAg−C層またはFePt−C層と、FePtAgまたはFePt層と積層膜を1ユニットし、該ユニットを多段に積層してなるFePtAg−C系またはFePt−C系グラニュラー薄膜であることを特徴とするものである。
【0036】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る垂直磁気記録媒体の積層状態を模式的に示す断面図である。図に示すように、本実施形態の垂直磁気記録媒体は、基板10上に少なくとも、高熱伝導性の熱吸収層20、結晶性の配向制御層30、およびFePt合金を主成分とする材料からなる磁性層40(垂直磁気記録層)をこの順に備えるものである。
【0037】
基板10としては、MgO単結晶基板またはガラス基板が好ましく用いられる。基板用ガラスとしては、アルミノシリケートガラス、アルミノボロシリケートガラス、ソーダタイムガラス等が挙げられるが、中でもアルミノシリケートガラスが好適である。また、アモルファスガラス、結晶化ガラスを用いることができる。なお、化学強化したガラスを用いると、剛性が高く好ましい。本発明において、基板主表面の表面粗さはR
maxで10nm以下、Raで0.3nm以下であることが好ましい。
【0038】
基板10上には、熱吸収層20が設けられている。媒体書込み時にレーザーによって書込み領域が一時的に600K以上の高温になるため、熱吸収層20がその熱を逃がす役割を行う。熱吸収層20の材料としては、高熱伝導性の材料を用いることができ、具体的にはNiTaのような金属が挙げられる。熱吸収層20の膜厚は、50〜100nm程度の範囲とすることが適当である。熱吸収層20は、スパッタリング法を用いて形成することができる。
【0039】
熱吸収層20上には、結晶性の配向制御層30が設けられる。この配向制御層30は、FePt合金を主成分とする材料からなる磁性層(垂直磁気記録層)におけるL1
0結晶構造の磁化容易軸の垂直配向性(結晶配向を基板面に対して垂直方向に配向させる)、結晶粒径の均一な微細化、及びグラニュラー構造を形成する場合の粒界偏析、等を好適に制御するために用いられる。このような配向制御層30は、例えばMgの金属単体、やMgAl合金などが挙げられるが、これらに限定はされない。本発明においては、配向制御層30の材料として、具体的には、MgO、MgAl
2O
4、Mg−Ti−O、CrRu、AlRu、Pt、Crなどが好ましく用いられるが、これらに限定はされない。また、本発明においては、配向制御層30は、上層の磁性層40中のL1
0構造のFePt(001)との格子定数ミスマッチが10%以内であることが特に好適である。配向制御層30が磁性層40中のFePtとの格子不整合が上記範囲内であることにより、配向制御層30によるFePt合金を主成分とする材料からなる磁性層40の結晶配向性の乱れを抑制し、微細構造を改善する効果が良好に発揮される。
【0040】
なお、本発明において、配向制御層30は単層でも或いは複数層からなっていてもよい。複数層の場合、同じ材料の組み合わせはもちろん、異種材料を組み合わせることもできる。
【0041】
また、配向制御層30の膜厚は、特に制約される必要はないが、垂直磁気記録層の構造制御を行うのに必要最小限の膜厚とすることが望ましく、例えば全体で5〜30nm程度の範囲とすることが適当である。配向制御層30はスパッタリング法を用いて形成することができる。
【0042】
磁性層40(垂直磁気記録層)は、本発明の最も特徴とする層であるが、FePt合金を主成分とする材料からなる。FePt合金は、結晶磁気異方性定数(Ku)が高く、磁性粒子を微細化しても熱安定性を確保できるので、磁気記録媒体の高記録密度化にとって好適である。より詳しくは、磁性層40は、膜厚が0.1nm以上6nm未満のFePtAg−C層またはFePt−C層からなる第1磁性層401、403・・・と、膜厚が0.1nm以上6nm未満のFePtAg層またはFePt層からなる第2磁性層402、403・・・との積層膜を1ユニットとし、該ユニットを多段積層してなるFePtAg−C系またはFePt−C系グラニュラー薄膜より構成される。各磁性層は、特にDCマグネトロンスパッタリング法で形成すると均一な成膜が可能となるので好ましい。
【0043】
第1磁性層のFePtAg−C層またはFePt−C層中のCは膜成長中にFePtAgまたはFePtと相分離し、グラニュラー構造の非磁性マトリックスを形成する。そして第1磁性層のFePtAgまたはFePtの上にFePtAgまたはFePtが配向制御されて積層され、柱状の交互スパッタ積層膜が形成され、FePtAg−C系またはFePt−C系グラニュラー薄膜が成膜される。
【0044】
第1実施形態の磁性層40を構成するグラニュラー薄膜は、FePtのL1
0構造の規則化の促進を目的として、Agを含むことが好適である。この場合、FePtに対しAgを原子比で0〜20%の割合で含ませことが望ましい。また、Agを含有することにより、FePtのL1
0構造の規則化が促進されるため、磁性膜の成膜後のアニール処理温度を従来よりも下げることができる利点もある。
【0045】
第1実施形態の磁性層40における第2磁性層のFePt層あるいはFePtAg層は、Cの粒子表面への析出を妨げて、グラニュー構造を保持する炭素析出防止層として作用する。これにより、FePtAg−C系またはFePt−C系グラニュラー薄膜におけるFePtを主体とする柱状構造が実現する。
【0046】
磁性膜40において、FePtAg−C層またはFePt−C層からなる第1磁性層と、膜厚が0.1nm以上6nm未満のFePtAg層またはFePt層からなる第2磁性層との1ユニットの積層膜は、2ユニット以上繰り返して積層するのがよい。磁性層40は、全体の膜厚が、例えば10nm以上30nm以下の範囲で形成することができる。このような膜厚であると、信号強度を強くでき十分なSNがとれ、表面のラフネスが抑えられ、ヘッドとの衝突の可能性が回避できる。繰り返し回数は、第1磁性層と第2磁性層の膜厚に応じて適宜設定される。例えば、第1磁性層の膜厚を0.25nm、第2磁性層の膜厚を0.15nmとすると、両層を30回積層すると、磁性層40の厚みは12nmとなる。
【0047】
第1実施形態の磁性層40は、FePt合金を主体とする結晶粒子(FePtAg/FePt積層膜の繰り返し構造を含む)と、非磁性物質Cを主体とする粒界部(マトリックス)を有するグラニュラー構造の強磁性層となっている。
【0048】
第1実施形態の磁性層40において、膜厚を6nm未満に限定する理由は、FePt−CならびにFePtAg−Cが6nm以上で2層構造になるためである。また、膜厚を0.1nm以上とする理由は、原子一個の層の厚さに相当するからである。磁性層40の組成は、次式を充足する。
【0049】
(Fe
xPt
1−x)
1−ZAg
Z−C
v (1)
ここで、0.4<x<0.55、0≦z<0.2、30vol%<v<50vol%である。(Fe
xPt
1−x)
1−ZAg
Zは(100ーv)vol%となっている。
【0050】
基板10上には、垂直磁気記録層の磁気回路を好適に調整するための軟磁性層(図示せず)を設けることが好適である。かかる軟磁性層は、第一軟磁性層と第二軟磁性層の間に非磁性のスペーサ層を介在させることによって、AFC(Antiferro-magnetic exchange coupling:反強磁性交換結合)を備えるように構成することが好適である。これにより第一軟磁性層と第二軟磁性層の磁化方向を高い精度で反並行に整列固定させることができ、軟磁性層から生じるノイズを低減することができる。例えば、第一軟磁性層、第二軟磁性層の組成は、FeTaC、FeTaNなどのFeTa系材料、CoTaCoTaZr、CoFeTaZr、CoFeTaZrAlCrなどのCo及びCoFe系材料を使用することが出来る。本発明においては、軟磁性層の材料として、熱処理時に結晶化(ナノ結晶化)し軟磁気特性を維持することのできる材料を用いることが好ましく、少なくとも、Feと、Ta、Hf、Zrから選択される少なくとも1種類の元素と、C、Nから選択される少なくとも1種類の元素とを含む軟磁性層とすることが好適である。
【0051】
軟磁性層と熱吸収層20との積層順序は、何れの側が基板10に近い側にあっても良い。
【0052】
なお、FeTa系材料は熱処理によって軟磁気特性が向上するため好ましい。また、FeTa系材料はさらにC又はNを含むことによって軟磁気特性が向上するためより好ましい。また、上記スペーサ層の組成は例えばRu(ルテニウム)、Ru合金とすることができるが、交換結合定数を制御するための添加元素を混合させてもよい。
【0053】
軟磁性層の膜厚は、その構造及び磁気ヘッドの構造や特性によっても異なるが、全体で15nm〜200nmであることが望ましい。なお、上下各層の膜厚については、記録再生の最適化のために多少差をつけることもあるが、概ね同じ膜厚とするのが望ましい。軟磁性層は、例えばめっきまたはスパッタ法で形成することができる。
【0054】
また、基板10と軟磁性層との間には、密着層を形成することも好ましい。密着層を形成することにより、基板10と軟磁性層との間の付着性を向上させることができるので、軟磁性層の剥離を防止することができる。密着層の材料としては、例えばTi含有材料を用いることができる。密着層の膜厚は0〜10nm程度が好適である。密着層は、例えばスパッタ法で形成することができる。
【0055】
また、好ましくは、非晶質のセラミックス材料からなるシード層を設けると良い。シード層は、上層の配向制御層30の結晶粒の配向ならびに結晶性、さらには微細構造を制御(改善)する作用を備える。シード層の材質としては、例えばSi、Alなどから選択することができる。更にこれらの元素に酸素を含む酸化物(酸素含有セラミックス)としてもよい。例えば非晶質のSiO
2、Al
2O
3などを好適に選択することができる。シード層の膜厚は、上層の配向制御層30の結晶成長の制御を行うのに必要最小限の膜厚とすることが望ましい。シード層の膜厚は0〜10nm程度が好適である。シード層は、例えばRFスパッタリング法で形成することができる。
【0056】
また、磁性層40の上部又は下部に補助記録層を設けてもよい。補助記録層を設けることによって、磁気記録層の高密度記録性と低ノイズ性、保磁力制御、に加えて高熱耐性を付け加えることができる。補助記録層の組成は、例えばA1構造のFePtを含む強磁性合金とすることができる。また強磁性層を成膜するかわりに、イオン照射やプラズマダメージによりL1
0構造を持つFePt磁性体の一部をA1構造に不規則化させ、保磁力を制御することもできる。補助記録層の膜厚は0〜10nm程度が好適である。補助記録層は、例えばスパッタ法で形成することができる。
【0057】
また、さらに、磁性層40と補助記録層との間に、交換結合制御層を設けてもよい。交換結合制御層を設けることにより、磁性層40と補助記録層との間の交換結合の強さを好適に制御して記録再生特性を最適化することができる。交換結合制御層としては、例えば(RuやRu合金)などが好適に用いられる。交換結合制御層の膜厚は0〜10nm程度が好適である。交換結合制御層は、例えばスパッタ法で形成することができる。
【0058】
また、磁性層40(垂直磁気記録層)の上には、保護層を設けることが好適である。保護層を設けることにより、磁気記録媒体上を浮上飛行する磁気ヘッドから磁気記録媒体表面を保護することができる。保護層の材料としては、たとえば炭素系保護層が好適である。また、保護層の膜厚は3〜7nm程度が好適である。保護層は、例えばプラズマCVD法やスパッタリング法で形成することができる。
【0059】
また、上記保護層の上には、更に潤滑層を設けることが好ましい。潤滑層を設けることにより、磁気ヘッドと磁気記録媒体間の磨耗を抑止でき、磁気記録媒体の耐久性を向上させることができる。潤滑層の材料としては、たとえばパーフロロポリエーテル(PFPE)系化合物が好ましく用いられる。潤滑層は、例えばディップコート法で形成することができる。潤滑層の膜厚は0〜10nm程度が好適である。
【0060】
次に、第1実施形態の垂直磁気記録媒体の製造方法の例を説明する。
【0061】
第1実施形態の垂直磁気記録媒体の製造方法は、基本的に、基板上に少なくともFePt合金を主成分とする材料からなる磁性層を備えた垂直磁気記録媒体を製造する方法において、前記基板上に、600℃以下の基板温度で、FePtAg−C層またはFePt−C層をスパッタ成膜し、その上にFePtAg層またはFePt層をスパッタ成膜した積層膜を1ユニットとし、該ユニットを多段に積層させることによりFePtAg−C系またはFePt−C系グラニュラー薄膜を形成することを特徴とするものでる。磁性層を構成する各層の膜厚は0.1nm以上6.0nm未満とする。成膜は、例えばAr等の不活性ガス雰囲気下で予め定めた成長速度で行う。
【0062】
本発明においては、磁性層40の成膜が基板表面温度で600℃以下、好ましくは350℃〜600℃の範囲で行われることが重要である。例えば、磁性層40の成膜レートが高く、磁性層40の成膜前に基板を600℃以下の所定温度に加熱処理すれば、磁性層40の成膜完了までの間の基板温度の低下が小さい場合には、磁性層40の成膜中の基板加熱は必須ではない。一方、磁性層40の成膜レートが低く、磁性層40の成膜前に基板を600℃以下の所定温度に加熱処理しても、磁性層40の成膜完了までの間の基板温度の低下を無視できないような場合には、磁性層40の成膜中においても基板加熱を行うことが望ましい。
【0063】
また、磁性層40の成膜後に、必要に応じて基板を加熱処理(本発明においては、この磁性層成膜後の加熱処理を特に「アニール処理」と呼ぶ。)してもよい。本発明においては、600℃以下のアニール処理温度とすることができる。特に、磁性層成膜時の基板温度が400℃以下の場合、得られる磁化反転核生成磁界Hnが十分でないことがあるので、そのような場合には磁性層40の成膜後にアニール処理を行うことが望ましい。
【0064】
上記製造方法によれば、FePt合金を主成分とする材料からなる磁性層40(垂直磁気記録層)におけるL1
0結晶構造の磁化容易軸の垂直配向性、結晶粒径の微細構造(均一な微細化)等が好適に制御され、良好な磁気特性(特に保磁力(Hc)、磁化反転核生成磁界(Hn)の最適化)を備えた、より超高記録密度化に対応可能なグラニュラー薄膜を有する垂直磁気記録媒体を得ることができる。また、本発明の垂直磁気記録媒体の製造方法によれば、高いKuを維持したまま磁性粒子サイズを微細化することが可能となり、かつ磁性層の結晶配向性を向上できるので、良好な磁気特性を得ることができる。
【0065】
第1実施形態の垂直磁気記録媒体では、上記の基本構成に加え、さらなる磁気特性の向上のため、種々の層構成を採りうるが、典型的なものとしては、
図1に模式的に示すように、基板10上に、熱吸収層20、結晶性の配向制御層30、およびFePt合金を主成分とする材料からなる磁性層40(垂直磁気記録層)をこの順に積層したものをスパッタ成膜工程により得ることができる。
【0066】
また、
図1の構成に加え、基板10上に、スパッタリング法を用いて、基板10に近い側から、密着層、熱吸収層20、シード層、配向制御層30等を順に成膜し、配向制御層30の成膜後であって磁性層40の成膜前に、基板10を600℃以下の所定温度で加熱処理した後、配向制御層30の上に磁性層40を成膜することによって所望の垂直磁気記録媒体とすることができる。
【0067】
さらに、この層構成に加え、前述した各層を前述した方法を用いて適宜成膜して種々の層構成の垂直磁気記録媒体とすることができる。
【0068】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
【0069】
本発明の第2実施形態の垂直磁気記録媒体は、基板上に少なくともFePt合金を主成分とする材料からなる磁性層を備えた垂直磁気記録媒体において、前記磁性層は、基板側から炭素濃度が順次大きくなるFePt−C層またはFePtAg−C層を少なくとも2層以上積層した積層膜を1ユニットとし、該ユニットを多段に積層してなるFePtAg−C系またはFePt−C系グラニュラー薄膜であることを特徴とするものである。
【0070】
第2実施形態の垂直磁気記録媒体は、第1実施形態の垂直磁気記録媒体と磁性層の構造のみが相違するものであり、それ以外の構造は同様であるので、説明の重複を避けるため、以下では磁性層の説明を中心に行う。
【0071】
図2は、本発明の第2の実施形態に係る垂直磁気記録媒体の積層状態の一例を模式的に示す断面図である。図に示すように、本実施形態の垂直磁気記録媒体は、基板10上に少なくとも、高熱伝導性の熱吸収層20、結晶性の配向制御層30、およびFePt合金を主成分とする材料からなる磁性層50(垂直磁気記録層)をこの順に備えるものである。
【0072】
磁性層50(垂直磁気記録層)は、本発明の最も特徴とする層であるが、FePt合金を主成分とする材料からなる。FePt合金は、結晶磁気異方性定数(Ku)が高く、磁性粒子を微細化しても熱安定性を確保できるので、磁気記録媒体の高記録密度化にとって好適である。より詳しくは、磁性層50は、基板10側から炭素濃度が順に大きくなる3層のFePtAg−C層またはFePt−C層からなる第1磁性層501、504・・・、第2磁性層502、505・・・、第3磁性層503、506・・・のスパッタ積層膜よりなるFePtAg−C系またはFePt−C系グラニュラー薄膜より構成される。すなわち、基板10側から炭素濃度が順に大きくなっている第1磁性層501、第2磁性層502、第3磁性層503を1ユニットとし、また基板10側から炭素濃度が順に大きくなっている第1磁性層504、第2磁性層505、第3磁性層506を1ユニットとし、これらユニットが2段積層されている。もちろん、ここに示したものは例示にすぎず、適宜の炭素濃度が異なる種類の層、あるいは段数とすることができる。磁性層50を構成する各層の膜厚は0.1nm以上6nm未満とする。各磁性層は、スパッタ法、特にDCマグネトロンスパッタリング法で形成すると均一な成膜が可能となるので好ましい。
【0073】
第1〜第3磁性層のFePtAg−C層またはFePt−C層中のCは膜成長中にFePtAgまたはFePtと相分離し、グラニュラー構造の非磁性マトリックスを形成する。そして第1磁性層のFePtAgまたはFePtの上に第2磁性層の相分離したFePtAgまたはFePtが配向制御されて積層され、さらに第3磁性層の相分離したFePtAgまたはFePtが配向制御されて積層され、柱状の交互スパッタ積層膜が形成され、FePtAg−C系またはFePt−C系グラニュラー薄膜が成膜される。
【0074】
第2実施形態の磁性層50を構成するグラニュラー薄膜は、FePtのL1
0構造の規則化の促進を目的として、Agを含むことが好適である。この場合、FePtに対しAgを原子比で0〜20%の割合で含ませことが望ましい。また、Agを含有することにより、FePtのL1
0構造の規則化が促進されるため、磁性膜の成膜後のアニール処理温度を従来よりも下げることができる利点もある。
【0075】
第2実施形態の磁性層50における第1〜第3磁性層における炭素濃度を基板10側から順に大きくなるように設定すると、CがFePt粒子表面に偏析するのを抑え、FePtAg−C系またはFePt−C系グラニュラー薄膜におけるFePtを主体とする柱状構造が実現する。第1〜第3磁性層における炭素濃度は、良好な粒子分散性と分離性の観点から20vol%〜40vol%の範囲内にあり、各層の濃度差は5vol%〜10vol%の範囲内とすることが特性のすぐれたFePtAg−C系またはFePt−C系グラニュラー薄膜を得るために好ましい。
【0076】
磁性膜50において、膜厚が0.1nm以上6nm未満のFePtAg−C層またはFePt−C層からなる第1〜第3磁性層からなる積層膜は1層(1組)でもよいし、複数層(複数組)繰り返して積層してもよい。磁性層50は、全体の膜厚が、例えば10nm以上30nm以下の範囲で形成することができる。このような膜厚であると、信号強度を強くでき十分なSNがとれ、表面のラフネスが抑えられ、ヘッドとの衝突の可能性が回避できる。繰り返し回数は、第1〜第3磁性層の膜厚に応じて適宜設定される。例えば、第1〜第3磁性層の膜厚を2.0nmとすると、これら3層の積層膜を2回繰り返し積層すると、磁性層50の厚みは12nmとなる。もちろん、第1〜第3磁性層の膜厚を薄くすると繰り返し回数を増大させることができる。
【0077】
第2実施形態の磁性層50は、FePt合金を主体とする結晶粒子と、非磁性物質Cを主体とする粒界部(マトリックス)を有するグラニュラー構造の強磁性層となっている。
【0078】
第2実施形態の磁性層50において、膜厚を6nm未満に限定する理由は、FePt−CならびにFePtAg−Cが6nm以上で2層構造になるためである。また、膜厚を0.1nm以上とする理由は、原子一個の層の厚さに相当するからである。磁性層50の組成は、次式を充足する。
【0079】
(Fe
xPt
1−x)
1−ZAg
Z−C
v (2)
ここで、0.4<x<0.55、0≦z<0.2、30vol%<v<50vol%である。(Fe
xPt
1−x)
1−ZAg
Zは(100−v)vol%となっている。
【0080】
第2実施形態の磁性層50の第1〜第3磁性層は、第1実施形態における成膜法と同様な方法により成膜することができる。
【0081】
なお、本発明の垂直磁気記録媒体は、ECC媒体(Exchange Coupled Composite媒体)にも適用できる。ECC媒体とは、信号雑音比(SNR)を改善するために媒体上に薄い軟磁気異方性材料をつけた媒体である。
【実施例】
【0082】
以下実施例と比較例を挙げて、本発明の実施の形態をさらに具体的に説明するとともに本発明による作用効果を例証する。
(実施例1)
チャンバー内でMgO(001)単結晶基板上にFePtAg−CとFePtを、DCマグネトロンスパッタリング法を用いた交互スパッタにより膜厚がそれぞれ0.25nm、0.15nmとなるように30回繰り返し積層し、厚さ12nmのFePtAg−C系グラニュラー薄膜を形成し、実施例1の垂直磁気記録媒体を作製した。FePtAg−C層は、Arガス雰囲気(圧力0.5Pa)中、基板表面温度600℃、成膜速度0.017nm/sの条件で、FePtはArガス雰囲気(圧力0.5Pa)中、基板表面温度600℃、成膜速度0.017nm/sの条件で成膜した。
【0083】
図3は、上記で作製したFePtAg−C/FePt多層膜のTEM像を示しており、(a)は面内TEM像、(b)は断面TEM像である。FePt粒子の粒子径は9.2nm、分散は2.5nmと非常に粒子分散性のよい組織が形成されていることが確認された。ここで粒子径とは、面内のTEM像により測定した粒子の平均粒径のことである。また、断面TEM像からアスペクト比が約1.0の柱状構造になっていることがわかる。このように、粒子分散性・粒子分離性・柱状構造を両立した例は、本発明者の知る限りにおいて、初めてである。
【0084】
図4は、FePtAg−C/FePt多層膜の面内および垂直方向の磁化曲線で、横軸は磁場[kOe]、縦軸は飽和磁化で規格化した磁化である。図中、ヒステリシスの大きなループ曲線が垂直方向の磁化曲線を示している。他方、ヒステリシスの少ない大略直線状の曲線が面内方向の磁化曲線を示している。保磁力は約50kOeの大きな値を示した。
(実施例2)
チャンバー内で耐熱ガラス基板上にDCマグネトロンスパッタ法により、室温、Arガス雰囲気(圧力0.8Pa)中、成膜速度0.056nm/sの条件で、熱吸収層としてアモルファスNiTa層を50nm厚に成膜した。次に、上記で形成したアモルファスNiTa膜上に、RFスパッタリング法により、室温、Arガス雰囲気(圧力1.3Pa)中、成膜速度0.01nm/sの条件で、配向制御層として結晶性のMgO層を5nm厚に成膜した。次に、MgO層の上にFePtAg−CとFePtを、DCマグネトロンスパッタリング法を用いた交互スパッタにより膜厚がそれぞれ0.25nm、0.15nmとなるように30回繰り返し積層し、厚さ12nmのFePtAg−C系グラニュラー薄膜を形成し、実施例1の垂直磁気記録媒体を作製した。FePtAg−C層は、Arガス雰囲気(圧力5Pa)中、基板表面温度600℃、成膜速度0.017nm/sの条件で、FePtはArガス雰囲気(圧力5Pa)中、基板表面温度600℃、成膜速度0.017nm/sの条件で成膜した。
【0085】
図5(a)、(b)にそれぞれ上記で作製したFePtAg−C/FePt多層膜の面内と断面のTEM像を示し、
図5(c)に面内および垂直方向の磁化曲線を示し、
図5(d)に粒子分散を示し、
図5(e)にX線回折パターンを示す。
図5(c)中、ヒステリシスの大きなループ曲線が垂直方向の磁化曲線を示している。他方、ヒステリシスの少ない大略直線状の曲線が面内方向の磁化曲線を示している。
【0086】
図5(a)、(b)、(d)より、FePt粒子の粒子径は8.2nm、分散は2.6nmと非常に粒子分散性、分離性がよい組織が形成されていることが確認された。断面TEM像からアスペクト比が約1.0の柱状構造になっていることがわかる。また、
図5(c)に示す磁化曲線より、薄膜は強い垂直磁気異方性を示していることが分かり、保磁力は約44kOeの大きな値を示した。さらに、
図5(e)から(001)規則反射線が明瞭に観察される。ここでは耐熱ガラス基板を用いているが、配向制御層として結晶性のMgOを成膜しているためX線回折パターンに示すようにFePtは強くc面配向していることがわかる。
(実施例3)
チャンバー内でMgO(001)単結晶基板上に第1磁性層としてFePt−C
25vol%、第2磁性層としてFePt−C
30vol%、第3磁性層としてFePt−C
35vol%を、DCマグネトロンスパッタリング法を用いた交互スパッタにより膜厚がそれぞれ2nmとなるように積層し、この積層を2回繰り返し、厚さ12nmのFePt−C系グラニュラー薄膜を形成し、実施例3の垂直磁気記録媒体を作製した。各FePt−C層は、Arガス雰囲気(圧力5Pa)中、基板表面温度600℃、成膜速度0.017nm/sの条件で、FePtはArガス雰囲気(圧力5Pa)中、基板表面温度600℃、成膜速度0.017nm/sの条件で成膜した。磁性層の組成は[FePt−C
25vol%/FePt−C
35vol%/FePt−C
35vol%]
2であった。
【0087】
図6にそれぞれ上記で作製したFePtAg−C(炭素濃度を変化させた)多層膜の面内(上側)と断面(下側)のTEM像を示し、
図6の右上に面内および垂直方向の磁化曲線を示し、
図6の左下に粒子分散を示す。
図6の磁化曲線において、ヒステリシスの大きなループ曲線が垂直方向の磁化曲線、ヒステリシスの少ない大略直線状の曲線が面内方向の磁化曲線を示している。
【0088】
図6のTEM像より、FePt粒子の粒子径7.8nm、分散は1.8nmと非常に粒子分散性、分離性がよい組織が形成されていることが確認された。断面TEM像からアスペクト比が約1.4の柱状構造になっていることがわかった。また、
図6に示す磁化曲線より、薄膜は強い垂直磁気異方性を示していることがわかり、保磁力は約39kOeの大きな値を示した。
(比較例)
図7は、従来法により作製した6nm膜厚と10nm膜厚のFePt−C系グラニュラー薄膜の面内TEM像を示している。
図8は
図7の6nm膜厚と10nm膜厚のFePt−C系グラニュラー薄膜の断面TEM像である。膜構成は熱酸化Si基板/MgO(10nm)/FePt−C
50vol%である。
【0089】
膜厚が6nmの場合には、平均粒子径が約6nm、分散が約1.2nmと粒子分散性のよい組織が形成されている。また、断面TEM像から、FePt粒子が球形であり、FePtが単層であることがわかる。しかし、膜厚が6nmの場合には、グラニュラー構造のアスペクト比の制限のため、ノイズの影響が無視できなくなる課題がある。
【0090】
一方、膜厚を10nmに増加させると面内の組織は変化がないように見えるが、断面TEMはFePt粒子が2層構造になっていることを示している。これは、FePtとCの相分離傾向が非常に強いためと考えられる。また、2層構造になってしまったグラニュラー薄膜の組織観察からその間にCが存在していることがわかる。そこで、FePt−C系またはFePtAg−C系グラニュラー薄膜の膜厚が6nm以上で磁性相が厚さ方向に2層構造となってしまい、第2層目のFePt粒子が垂直配向しないために垂直異方性が損なわれる。