(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第1溶接電源から第1溶接ワイヤを送給すると共に第1溶接電流を通電して共通のワークに第1アークを発生させて溶接し、第2溶接電源から第2溶接ワイヤを送給すると共に第2溶接電流を通電して前記共通のワークに第2アークを発生させて溶接する溶接装置であって、
前記第1溶接電源は溶滴のくびれを検出すると短絡負荷に通電する前記第1溶接電流を減少させて前記第1アークを再発生させる溶接装置の溶接電流制御方法において、
前記第1溶接電流が通電しているときは通電していないときよりも、前記第2溶接電流のアーク期間中の最大変化率を小さくする、
ことを特徴とする溶接装置の溶接電流制御方法。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の発明では、溶接ワイヤとワークとの間でアーク期間と短絡期間とを交互に繰り返す消耗電極アーク溶接において、短絡期間からアークが再発生する前兆現象である溶滴のくびれを溶接ワイヤとワークとの間の電圧値又は抵抗値の変化がくびれ検出基準値に達したことによって検出し、このくびれを検出すると短絡負荷に通電する溶接電流を急減させて小電流値の状態でアークが再発生するように出力制御(くびれ検出制御)している。このようにすると、アーク再発生時の電流値を小さくすることができるので、スパッタ発生量を低減することができる。
【0003】
ところで、複数の溶接個所を有するワークに対して、複数の溶接電源を使用して同時に溶接を行うことがある。以下、このような場合におけるくびれ検出制御について図面を参照して説明する。
【0004】
図7は、2台の溶接電源を使用して1つのワークの2つの溶接個所を同時に溶接するための溶接装置の構成図である。2台の溶接電源は共にくびれ検出制御機能を供えている。以下、同図を参照して各構成物について説明する。
【0005】
第1溶接電源PS1は、第1溶接電圧Vw1及び第1溶接電流Iw1を出力すると共に、第1送給機FD1に第1送給制御信号Fc1を出力する。第1送給機FD1は、この第1送給制御信号Fc1を入力として、第1溶接ワイヤ11を第1溶接トーチ41内を通って送給する。第1溶接ワイヤ11とワーク2との間には第1アーク31が発生する。第1溶接ワイヤ11とワーク2との間では、短絡期間とアーク期間とが交互に繰り返されて溶接が行われる。第1溶接トーチ41は、ロボット(図示は省略)に把持されている。ワーク2は治具5に設置されている。
【0006】
第1溶接電源PS1のプラス端子と第1溶接トーチ41内の第1給電チップ61とは、ケーブルを介して接続されている。また、第1溶接電源PS1のマイナス端子と治具5とは、ケーブルを介して接続されている。第1溶接電圧Vw1は、第1給電チップ61とワーク2の表面との間に印加される電圧である。第1給電チップ61に電圧検出線を接続することは容易であるが、ワーク2の表面に電圧検出線を接続することは難しいために、治具5に接続することになる。このために、第1溶接電圧検出回路VD1は、第1給電チップ61と治具5との間の電圧を検出して、第1溶接電圧検出信号Vd1を出力する。この第1溶接電圧検出信号Vd1は、第1溶接電源PS1に入力される。この第1溶接電圧検出信号Vd1を使用して第1溶接ワイヤ11の溶滴に形成されるくびれを検出する。
【0007】
第2溶接電源PS2は、第2溶接電圧Vw2及び第2溶接電流Iw2を出力すると共に、第2送給機FD2に第2送給制御信号Fc2を出力する。第2送給機FD2は、この第2送給制御信号Fc2を入力として、第2溶接ワイヤ12を第2溶接トーチ42内を通って送給する。第2溶接ワイヤ12とワーク2との間には第2アーク32が発生する。第2溶接ワイヤ12とワーク2との間では、短絡期間とアーク期間とが交互に繰り返されて溶接が行われる。第2溶接トーチ42は、ロボット(図示は省略)に把持されている。
【0008】
第2溶接電源PS2のプラス端子と第2溶接トーチ42内の第2給電チップ62とは、ケーブルを介して接続されている。また、第2溶接電源PS2のマイナス端子と治具5とは、ケーブルを介して接続されている。第2溶接電圧Vw2は、第2給電チップ62とワーク2の表面との間に印加される電圧である。第2給電チップ62に電圧検出線を接続することは容易であるが、ワーク2の表面に電圧検出線を接続することは難しいために、治具5に接続することになる。このために、第2溶接電圧検出回路VD2は、第2給電チップ62と治具5との間の電圧を検出して、第2溶接電圧検出信号Vd2を出力する。この第2溶接電圧検出信号Vd2は、第2溶接電源PS2に入力される。この第2溶接電圧検出信号Vd2を使用して第2溶接ワイヤ12の溶滴に形成されるくびれを検出する。
【0009】
第1溶接電流Iw1は、第1溶接電源PS1のプラス端子→第1給電チップ61→第1溶接ワイヤ11→ワーク2→治具5→第1溶接電源PS1のマイナス端子経路で通電する。第2溶接電流Iw2は、第2溶接電源PS2のプラス端子→第2給電チップ62→第2溶接ワイヤ12→ワーク2→治具5→第2溶接電源PS2のマイナス端子経路で通電する。したがって、ワーク2及び治具5中を第1溶接電流Iw1及び第2溶接電流Iw2が通電する。これら第1溶接電流Iw1と第2溶接電流Iw2を合算した電流を、以下合算溶接電流Igと呼ぶことにする。そして、この合算溶接電流Igが通電するワーク2及び治具5を共通通電路と呼ぶことにする。この共通通電路は、抵抗値及びインダクタンス値L(μH)を有している。一般的に抵抗値は小さな値であるので、無視することができる。このために、共通通電路は、インダクタンス値Lのみを有していることになる。
【0010】
上記の第1溶接電圧検出信号Vd1及び第2溶接電圧検出信号Vd2は、下式のように表すことができる。
Vd1=Vw1+L・dIg/dt …(11)式
Vd2=Vw2+L・dIg/dt …(12)式
したがって、第1溶接電圧検出信号Vd1は、第1溶接電圧Vw1に合算溶接電流Igの変化によって共通通電路のインダクタンス値Lに発生する電圧が重畳した値となる。第2溶接電圧検出信号Vd2についても同様である。
【0011】
図8は、
図7の溶接装置において、くびれ検出制御が正常に動作したときの波形図である。同図(A)は第1溶接電流Iw1の波形を示し、同図(B)は第1溶接電圧検出信号Vd1の波形を示し、同図(C)は第2溶接電流Iw2の波形を示し、同図(D)は第2溶接電圧検出信号Vd2の波形を示す。同図は、第1溶接ワイヤ11とワーク2とが短絡期間である時刻t1〜t3と、第2溶接ワイヤ12とワーク2とが短絡期間である時刻t5〜t6とが重なっていない場合である。以下、同図を参照して説明する。
【0012】
第1溶接ワイヤ11とワーク2とが短絡期間である時刻t1〜t3の期間中は、第2溶接ワイヤ12とワーク2との間はアーク期間となっている。このために、同図(C)に示すように、第2溶接電流Iw2は、アーク期間中であり、かつ、外乱によるアーク長の急変もないので、短絡期間中よりも電流変化率は緩やかである。
【0013】
(1)時刻t1の第1溶接ワイヤ11の短絡発生から時刻t2のくびれ検出時点までの動作
時刻t1において第1溶接ワイヤ11がワーク2と接触すると短絡期間になり、同図(B)に示すように、第1溶接電圧検出信号Vd1は数V程度の短絡電圧値に急減する。同図(A)に示すように、第1溶接電流Iw1は、時刻t1においてアーク期間の溶接電流から減少し、時刻t1〜t11の予め定めた初期期間中は予め定めた初期電流値となり、時刻t11〜t12の期間中は予め定めた短絡時傾斜で上昇し、時刻t12〜t2の期間中は予め定めたピーク値となる。同図(B)に示すように、第1溶接電圧検出信号Vd1は、第1溶接電流Iw1がピーク値となる時刻t12あたりから上昇する。これは、溶滴にくびれが次第に形成されるためである。時刻t12からの期間がくびれを検出する期間となる。このくびれを検出する期間において、同図(A)に示すように、第1溶接電流Iw1はピーク値で略一定値である。さらに、同図(C)に示すように、第2溶接電流Iw2はアーク期間中であり、かつ、外乱によるアーク長の急変もないので急速な変化はない。この結果、上述した(11)式において、L・dIg/dtは小さな値となり、無視することができる。したがって、、Vd1=Vw1となるので、溶滴のくびれを誤動作することなく、正常に検出することができる。上記の初期期間は1ms程度に設定され、上記の初期電流値は50A程度に設定され、上記の短絡時傾斜は100〜300A/ms程度に設定され、上記のピーク値は300〜400A程度に設定される。
【0014】
(2)時刻t2のくびれ検出時点から時刻t3のアーク再発生時点までの動作
時刻t2において、同図(B)に示すように、第1溶接電圧検出信号Vd1が急上昇して初期期間中の電圧値からの電圧上昇値ΔVが予め定めたくびれ検出基準値Vtnと等しくなったことによってくびれを検出する。くびれを検出すると、同図(A)に示すように、第1溶接電流Iw1はピーク値から予め定めた低レベル電流値Ilへと急減し、時刻t3のアーク再発生まではその値を維持する。この電流急減速度は、3000A/ms程度と非常に早い値である。同図(B)に示すように、第1溶接電圧検出信号Vd1は、第1溶接電流Iw1が低レベル電流値Ilになるので時刻t2から一旦減少した後に急上昇する。上記の低レベル電流値Ilは30A程度に設定される。
【0015】
(3)時刻t3のアーク再発生時点から時刻t4の遅延期間Tdの終了時点までの動作
時刻t3において第1アーク31が再発生すると、同図(B)に示すように、第1溶接電圧検出信号Vd1の値は短絡/アーク判別値Vta以上となる。同図(A)に示すように、第1溶接電流Iw1は、時刻t3から予め定めたアーク時傾斜で上昇し、予め定めた高レベル電流値に達するとその値を時刻t4まで維持する。同図(B)に示すように、第1溶接電圧検出信号Vd1は、時刻t3〜t4の予め定めた遅延期間Td中は高レベル電圧値の状態にある。この遅延期間Tdは2ms程度に設定される。
【0016】
(4)時刻t4の遅延期間Td終了時点から時刻t5の次の短絡発生までのアーク期間の動作
時刻t4において、同図(A)に示すように、第1溶接電流Iw1は高レベル電流値から次第に減少する。同様に、同図(B)に示すように、第1溶接電圧検出信号Vd1は高レベル電圧値から次第に減少する。
【0017】
(5)時刻t5の第2溶接ワイヤ12の短絡発生から時刻t6のアーク再発生までの動作
同図(C)に示す第2溶接電流Iw2及び同図(D)に示す第2溶接電圧検出信号Vd2の波形は、上記(1)〜(2)の波形と同様であるので、説明を省略する。
【0018】
上述したように、互いの短絡期間が重なっておらず、かつ、外乱によるアーク長の急変がないためにアーク期間中の溶接電流の変化率も小さい場合には、共通通電路のインダクタンス値Lによって発生する電圧値が小さいので、くびれを正確に検出することができる。
【0019】
図9は、
図7の溶接装置において、くびれ検出制御が誤動作したときの波形図である。同図(A)は第1溶接電流Iw1の波形を示し、同図(B)は第1溶接電圧検出信号Vd1の波形を示し、同図(C)は第2溶接電流Iw2の波形を示し、同図(D)は第2溶接電圧検出信号Vd2の波形を示す。同図は、上述した
図8と同様に、第1溶接ワイヤ11とワーク2とが短絡期間である時刻t1〜t3と、第2溶接ワイヤ12とワーク2とが短絡期間である時刻t5〜t6とが重なっていない場合である。以下、同図を参照して説明する。
【0020】
第1溶接ワイヤ11とワーク2とが短絡期間である時刻t1〜t3の期間中は、第2溶接ワイヤ12とワーク2との間はアーク期間となっている。同図では、時刻t1〜t3の第2溶接ワイヤ12のアーク期間に外乱によるアーク長の急変が生じたために、第2溶接電流Iw2が急変している。このような状態であるために、理由は後述するが、くびれ検出制御が誤動作している。同図は、上述した
図8と対応しており、同一の動作については説明は繰り返さない。上記の外乱としては、溶融池からのガスの突然の噴出、溶融池の不規則な運動、送給速度の変動、給電チップ・ワーク間距離の変動、溶接姿勢の変化等である。
【0021】
時刻t1において第1溶接ワイヤ11がワーク2と接触すると短絡期間になり、同図(B)に示すように、第1溶接電圧検出信号Vd1は数V程度の短絡電圧値に急減する。同図(A)に示すように、第1溶接電流Iw1は、時刻t1においてアーク期間の溶接電流から減少し、時刻t1〜t11の初期期間中は初期電流値となり、時刻t11〜t12の期間中は短絡時傾斜で上昇し、時刻t12からの期間中はピーク値となる。同図(B)に示すように、第1溶接電圧検出信号Vd1は、第1溶接電流Iw1がピーク値となる時刻t12あたりから上昇する。これは、溶滴にくびれが次第に形成されるためである。時刻t12からの期間がくびれを検出する期間となる。このくびれを検出する期間の時刻t13において、第2アーク31のアーク長が外乱によって急激に長くなったために、同図(C)に示すように、第2溶接電流Iw2は急激に減少し、同図(D)に示すように、第2溶接電圧検出信号Vd2は急激に上昇する。アーク長は時刻t41において元に戻るために、同図(C)に示すように、第2溶接電流Iw2は上昇して元に戻り、同図(D)に示すように、第2溶接電圧検出信号Vd2は減少して元に戻る。
【0022】
時刻t12からのくびれを検出する期間においては、同図(A)に示すように、第1溶接電流Iw1はピーク値で略一定値である。しかし、同図(C)に示すように、第2溶接電流Iw2は上述したように時刻t13においてアーク長が急激に長くなったために電流は急減している。この結果、上述した(11)式において、L・dIg/dt=dIw1/dt+dIw2/dtについては、dIw1/dtは小さな値であり、dIw2/dtは負の大きな値となる。このために、同図(B)に示すように、第1溶接電圧検出信号Vd1は、くびれの形成に伴って時刻t12から次第に上昇し、この上昇がくびれ検出基準値Vtnに達する前の時刻t13において第2溶接電流Iw2の急減に伴い逆に減少することになり、くびれの検出に失敗することになる。
【0023】
時刻t13において、同図(B)に示すように、第1溶接電圧検出信号Vd1が減少してくびれ検出基準値Vtnに達しないので、同図(A)に示すように、第1溶接電流Iw1はピーク値を時刻t3の第1アーク31が再発生するまで維持する。
【0024】
時刻t3において第1アーク31が再発生すると、同図(B)に示すように、第1溶接電圧検出信号Vd1の値は短絡/アーク判別値Vta以上となる。同図(A)に示すように、第1溶接電流Iw1は、時刻t3のピーク値から高レベル電流値に変化し、その値を時刻t4まで維持する。同図(B)に示すように、第1溶接電圧検出信号Vd1は、時刻t3〜t4の遅延期間Td中は高レベル電圧値の状態にある。
【0025】
上述したように、くびれを検出する期間中に他の溶接電源からの溶接電流が急変すると、共通通電路のインダクタンス値Lによって発生する電圧値が大きくなるので、くびれを誤検出する可能性が高まる。同図では、第1溶接ワイヤ11のくびれを検出する期間において、外乱によってアーク長が長くなり第2溶接電流Iw2が急減したために生じたくびれの誤検出について説明したが、外乱によってアーク長が短くなり第2溶接電流Iw2が急増する場合にも誤検出が生じるおそれがある。さらに、短絡期間中の第2溶接電流Iw2の増減によっても誤検出が生じるおそれがある。
【0026】
特許文献2の発明では、第2溶接電源PS2の第2溶接電流Iw2が急変しているときは第1溶接電源PS1のくびれの検出を禁止する。これにより、第2溶接電流Iw2の急変によるくびれの誤検出を防止することができる。しかし、第2溶接電流Iw2が急変する事態は溶接中に頻繁に生じるので、この方法では、くびれ検出制御が頻繁に禁止されることになり、スパッタ発生量の削減効果が小さくなる問題がある。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0035】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1に係る2台の溶接電源を使用して1つのワークの2つの溶接個所を同時に溶接するための溶接装置の構成図である。2台の溶接電源は共にくびれ検出制御機能を供えている。同図は上述した
図7と対応しており、同一の構成物については同一符号を付して、それらの説明は繰り返さない。同図は、
図7に合算溶接電流検出回路IGDを追加したものである。以下、同図を参照してこの追加した構成物について説明する。
【0036】
合算溶接電流検出回路IGDは、共通通電路に通電する合算溶接電流Igを検出して、合算溶接電流検出信号Igdを第1溶接電源PS1及び第2溶接電源PS2に出力する。
【0037】
図2は、
図1の溶接装置を構成する第1溶接電源PS1の詳細ブロック図である。第2溶接電源PS2のブロック図も同様である。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0038】
電源主回路PMは、3相200V等の商用電源(図示は省略)を入力として、後述する誤差増幅信号Eaに従ってインバータ制御等の出力制御を行い、第1溶接電圧Vw1及び第1溶接電流Iw1を出力する。この電源主回路PMは、図示は省略するが、商用電源を整流する1次整流器、整流された直流を平滑する平滑コンデンサ、平滑された直流を高周波交流に変換するインバータ回路、高周波交流を溶接に適した電圧値に降圧する高周波変圧器、降圧された高周波交流を直流に整流する2次整流器、整流された直流を平滑するリアクトル、誤差増幅信号Eaを入力としてパルス幅変調制御を行う変調回路、パルス幅変調制御信を入力としてインバータ回路のスイッチング素子を駆動するインバータ駆動回路を備えている。
【0039】
減流抵抗器Rは、上記の電源主回路PMと第1溶接トーチ41との間に挿入される。この減流抵抗器Rの値は、短絡負荷(0.01〜0.03Ω程度)の10倍以上大きな値(0.5〜3Ω程度)に設定される。このために、くびれ検出制御によって減流抵抗器Rが通電路に挿入されると、溶接電源内の直流リアクトル及び外部ケーブルのリアクトルに蓄積されたエネルギーが急放電される。トランジスタTRは、減流抵抗器Rと並列に接続されて、後述する駆動信号Drに従ってオン又はオフ制御される。
【0040】
第1溶接ワイヤ11は、第1送給機FD1によって第1溶接トーチ41内を送給されて、ワーク2との間に第1アーク31が発生する。ワーク2は、治具5上に設置されている。第1溶接トーチ41内の第1給電チップ(図示は省略)とワーク2の表面との間には第1溶接電圧Vw1が印加し、第1溶接電流Iw1が通電する。そして、ワーク2及び治具5等の共通通電路を合算溶接電流Igが通電する。
【0041】
第1溶接電流検出回路ID1は、上記の第1溶接電流Iw1を検出して、第1溶接電流検出信号Id1を出力する。
図1で上述したように、外部に設けられた合算溶接電流検出回路IGDは、上記の合算溶接電流Igを検出して、合算溶接電流検出信号Igdを出力する。
図1で上述したように、外部に設けられた第1溶接電圧検出回路VD1は、第1溶接トーチ41内の第1給電チップと治具5との間の電圧を検出して、第1溶接電圧検出信号Vd1を出力する。この第1溶接電圧検出回路VD1を内部に設けるようにしても良い。
【0042】
短絡判別回路SDは、上記の第1溶接電圧検出信号Vd1を入力として、この値が予め定めた短絡/アーク判別値未満であるときは短絡期間にあると判別してHighレベルとなり、以上のときはアーク期間にあると判別してLowレベルになる短絡判別信号Sdを出力する。
【0043】
電流通電判別回路CDは、上記の合算溶接電流検出信号Igd及び上記の第1溶接電流検出信号Id1を入力として、Igd−Id1の減算を行い、この減算値がしきい値以上であるときはHighレベルとなる電流通電判別信号Cdを出力する。しきい値は、10A程度に設定される。Igd−Id1は、第1溶接電源PS1から見て、他の溶接電源からの溶接電流の値に相当する。したがって、上記の電流通電判別信号CdがHighレベルのときは、他の溶接電源からの溶接電流が通電しているときであり、Lowレベルのときは通電していないときである。同図においては、他の溶接電源からの溶接電流とは、第2溶接電流Iw2のことである。
【0044】
くびれ検出基準値設定回路VTNは、予め定めたくびれ検出基準値信号Vtnを出力する。溶接法、送給速度、第1溶接ワイヤ11の材質、直径等の溶接条件に応じて、このくびれ検出基準値信号Vtnの値は適正値に設定される。くびれ検出回路NDは、このくびれ検出基準値信号Vtn、上記の短絡判別信号Sd、上記の第1溶接電圧検出信号Vd1及び上記の第1溶接電流検出信号Id1を入力として、短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)であるときの第1溶接電圧検出信号Vd1の電圧上昇値がくびれ検出基準値信号Vtnの値に達した時点でくびれが形成されたと判別してHighレベルとなり、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化した時点でLowレベルになるくびれ検出信号Ndを出力する。また、短絡期間中の第1溶接電圧検出信号Vd1の微分値がそれに対応したくびれ検出基準値信号Vtnの値に達した時点でくびれ検出信号NdをHighレベルに変化させるようにしても良い。さらに、第1溶接電圧検出信号Vd1の値を第1溶接電流検出信号Id1の値で除算して溶滴の抵抗値を算出し、この抵抗値の微分値がそれに対応するくびれ検出基準値信号Vtnの値に達した時点でくびれ検出信号NdをHighレベルに変化させるようにしても良い。
【0045】
低レベル電流設定回路ILRは、予め定めた低レベル電流設定信号Ilrを出力する。電流比較回路CMは、この低レベル電流設定信号Ilr及び上記の第1溶接電流検出信号Id1を入力として、Id1<IlrのときはHighレベルになり、Id1≧IlrのときはLowレベルになる電流比較信号Cmを出力する。駆動回路DRは、この電流比較信号Cm及び上記のくびれ検出信号Ndを入力として、くびれ検出信号NdがHighレベルに変化するとLowレベルに変化し、その後に電流比較信号CmがHighレベルに変化するとHighレベルに変化する駆動信号Drを上記のトランジスタTRのベース端子に出力する。したがって、この駆動信号Drはくびれが検出されるとLowレベルになり、トランジスタTRがオフ状態になり通電路に減流抵抗器Rが挿入されるので、短絡負荷を通電する第1溶接電流Iw1は急減する。そして、急減した第1溶接電流Iw1の値が低レベル電流設定信号Ilrの値まで減少すると、駆動信号DrはHighレベルになり、トランジスタTRがオン状態になるので、減流抵抗器Rは短絡されて通常の状態に戻る。
【0046】
電流制御設定回路ICRは、上記の短絡判別信号Sd、上記の低レベル電流設定信号Ilr及び上記のくびれ検出信号Ndを入力として、以下の処理を行い、電流制御設定信号Icrを出力する。
1)短絡判別信号SdがHighレベル(短絡)に変化した時点から予め定めた初期期間中は、予め定めた初期電流設定値を電流制御設定信号Icrとして出力する。
2)その後は、電流制御設定信号Icrの値を、上記の初期電流設定値から予め定めた短絡時傾斜で予め定めたピーク設定値まで上昇させ、その値を維持する。
3)くびれ検出信号NdがHighレベル(くびれ検出)に変化すると、電流制御設定信号Icrの値を低レベル電流設定信号Ilrの値に切り換えて維持する。
4)短絡判別信号SdがLowレベル(アーク)に変化すると、電流制御設定信号Icrを、予め定めたアーク時傾斜で予め定めた高レベル電流設定値まで上昇させ、その値を維持する。
【0047】
オフディレイ回路TDSは、上記の短絡判別信号Sdを入力として、この信号がHighレベルからLowレベルに変化する時点を予め定めた遅延時間だけオフディレイさせて遅延信号Tdsを出力する。したがって、この遅延信号Tdsは、短絡期間になるとHighレベルとなり、アークが再発生してから遅延時間だけオフディレイしてLowレベルになる信号である。
【0048】
電流誤差増幅回路EIは、上記の電流制御設定信号Icr(+)と上記の第1溶接電流検出信号Id1(−)との誤差を増幅して、電流誤差増幅信号Eiを出力する。
【0049】
ゲイン設定回路GRは、上記の電流通電判別信号Cdを入力として、電流通電判別信号CdがHighレベルのとき(他の溶接電源からの溶接電流が通電しているとき)は予め定めた低ゲイン設定値となり、Lowレベルのとき(他の溶接電源からの溶接電流が通電していないとき)は予め定めた高ゲイン設定値となるゲイン設定信号Grを出力する。当然、低ゲイン設定値>高ゲイン設定値である。このゲイン設定信号Grによって、第1アーク31におけるアーク期間中の定電圧フィードバック制御(アーク長制御)系のゲイン(増幅率、利得)が設定される。上記の高ゲイン設定値は、アーク長制御系の過渡応答性及び定常安定性が良好になるように実験によって設定される。低ゲイン設定値は、アーク期間中の第1溶接電流Iw1が外乱によって変化したときの最大変化率が、他の溶接電源におけるくびれ検出制御を誤動作させない値に制限されるように設定される。溶接電源の種類によって異なるが一例としては、アーク期間中の第1溶接電流Iw1の最大変化率は、高ゲイン設定値のときは1000A/ms程度であり、低ゲイン設定値のときは200〜500A/ms程度となる。低ゲイン設定値のときは、アーク長制御系の過渡応答性が少し遅くなるが、溶接品質には大きな影響はない。
【0050】
電圧設定回路VRは、アーク期間中の溶接電圧を設定するための予め定めた電圧設定信号Vrを出力する。電圧誤差増幅回路EVは、この電圧設定信号Vr、上記の第1溶接電圧検出信号Vd1及び上記のゲイン設定信号Grを入力として、電圧設定信号Vr(+)と第1溶接電圧検出信号Vd1(−)との誤差をゲイン設定信号Grによって定まるゲインで増幅して電圧誤差増幅信号Evを出力する。
【0051】
制御切換回路SWは、上記の電流誤差増幅信号Ei、上記の電圧誤差増幅信号Ev及び上記の遅延信号Tdsを入力として、遅延信号TdsがHighレベル(短絡開始からアークが再発生して遅延時間が経過するまでの期間)のときは電流誤差増幅信号Eiを誤差増幅信号Eaとして出力し、Lowレベル(アーク)のときは電圧誤差増幅信号Evを誤差増幅信号Eaとして出力する。この回路により、短絡期間+遅延期間中は定電流制御となり、それ以外のアーク期間中は定電圧制御となる。
【0052】
送給速度設定回路FRは、予め定めた送給速度設定信号Frを出力する。第1送給制御回路FC1は、この送給速度設定信号Frを入力として、この設定値に相当する送給速度で第1溶接ワイヤ11を送給するための第1送給制御信号Fc1を上記の第1送給機FD1に出力する。
【0053】
図3は、
図2の第1溶接電源PS1における各信号のタイミングチャートである。同図(A)は第1溶接電流Iw1の時間変化を示し、同図(B)は第1溶接電圧検出信号Vd1の時間変化を示し、同図(C)はくびれ検出信号Ndの時間変化を示し、同図(D)は駆動信号Drの時間変化を示し、同図(E)は遅延信号Tdsの時間変化を示し、同図(F)は電流制御設定信号Icrの時間変化を示し、同図(G)は第2溶接電流Iw2の時間変化を示し、同図(H)は第1溶接電源PS1のゲイン設定信号Grの時間変化を示す。同図は上述した
図9と対応しており、第1溶接ワイヤ11の短絡期間中に第2溶接電流Iw2が外乱によって急変した場合である。以下、同図を参照して説明する。
【0054】
同図(G)に示すように、第2溶接電流Iw2は同図の全期間中通電しているので、同図(H)に示すように、第1溶接電源PS1のアーク長制御系のゲイン設定信号Grの値は低ゲイン設定値のままである。このために、アーク期間中の第1溶接電流Iw1の最大変化率は第2溶接電流Iw2が通電していないときよりも小さくなっている。(以下、この制御を電流変化率制限制御という)アーク期間中の第2溶接電流Iw2の最大変化率についても同様に小さくなっている。
【0055】
(1)時刻t1の短絡発生から時刻t2のくびれ検出時点までの動作
時刻t1において第1溶接ワイヤ11がワーク2と接触すると短絡期間になり、同図(B)に示すように、第1溶接電圧検出信号Vd1は数V程度の短絡電圧値に急減する。この第1溶接電圧検出信号Vd1が短絡/アーク判別値Vta未満になったことを判別して、同図(E)に示すように、遅延信号TdsはLowレベルからHighレベルに変化する。これに応動して、同図(F)に示すように、電流制御設定信号Icrは時刻t1において予め定めた高レベル電流設定値から小さな値である予め定めた初期電流設定値に変化する。時刻t1〜t11の予め定めた初期期間中は上記の初期電流設定値となり、時刻t11〜t12の期間中は予め定めた短絡時傾斜で上昇し、時刻t12〜t2の期間中は予め定めたピーク設定値となる。短絡期間中は上述したように定電流制御されているので第1溶接電流Iw1は電流制御設定信号Icrに相当する値に制御される。このために、同図(A)に示すように、第1溶接電流Iw1は、時刻t1においてアーク期間の溶接電流から急減し、時刻t1〜t11の初期期間中は初期電流値となり、時刻t11〜t12の期間中は短絡時傾斜で上昇し、時刻t12〜t2の期間中はピーク値となる。同図(C)に示すように、くびれ検出信号Ndは、後述する時刻t2〜t3の期間はHighレベルとなり、それ以外の期間はLowレベルとなる。同図(D)に示すように、駆動信号Drは、後述する時刻t2〜t21の期間はLowレベルとなり、それ以外の期間はHighレベルとなる。したがって、同図において時刻t2以前の期間中は、駆動信号DrはHighレベルとなり、
図2のトランジスタTRがオン状態となるので、減流抵抗器Rは短絡されて通常の消耗電極アーク溶接電源と同一の状態となる。
【0056】
同図(B)に示すように、第1溶接電圧検出信号Vd1は、第1溶接電流Iw1がピーク値となる時刻t12あたりから上昇する。これは、溶滴にくびれが次第に形成されるためである。時刻t12からの期間がくびれを検出する期間となる。このくびれを検出する期間においては、同図(A)に示すように、第1溶接電流Iw1はピーク値で略一定値である。他方、このくびれを検出する期間の時刻t13において、第2アーク32のアーク長が外乱によって急激に長くなったために、同図(G)に示すように、第2溶接電流Iw2は、
図9(C)のときよりも緩やかに減少する。第2アーク32のアーク長は時刻t41において元に戻るために、同図(G)に示すように、第2溶接電流Iw2は、
図9(C)のときよりも緩やかに上昇して元に戻る。第2溶接電流Iw2の変化率が緩やかになる理由は、以下のとおりである。すなわち、第1溶接電流Iw1が通電しているために、第2溶接電源PS2内のゲイン設定信号Grが低ゲイン設定値となるので、アーク期間中の第2溶接電流Iw2の最大変化率が小さくなるように制限されるためである。
【0057】
この結果、上述した(11)式において、L・dIg/dt=dIw1/dt+dIw2/dtについては、dIw1/dtは小さな値であり、かつ、dIw2/dtも
図9のときよりも小さな値となる。このために、同図(B)に示すように、第1溶接電圧検出信号Vd1は、くびれの形成に伴って時刻t12から次第に上昇し、時刻t13においても上昇を継続することになる。
【0058】
(2)時刻t2のくびれ検出時点から時刻t3のアーク再発生時点までの動作
時刻t2において、同図(B)に示すように、第1溶接電圧検出信号Vd1が急上昇して初期期間中の電圧値からの電圧上昇値ΔVが予め定めたくびれ検出基準値Vtnと等しくなったことによってくびれを検出すると、同図(C)に示すように、くびれ検出信号NdはHighレベルに変化する。これに応動して、同図(D)に示すように、駆動信号DrはLowレベルになるので、
図2のトランジスタTRはオフ状態となり減流抵抗器Rが通電路に挿入される。同時に、同図(F)に示すように、電流制御設定信号Icrは低レベル電流設定信号Ilrの値へと小さくなる。このために、同図(A)に示すように、第1溶接電流Iw1はピーク値から低レベル電流値Ilへと急減する。そして、時刻t21において第1溶接電流Iw1が低レベル電流値Ilまで減少すると、同図(D)に示すように、駆動信号DrはHighレベルに戻るので、
図2のトランジスタTRはオン状態となり減流抵抗器Rは短絡される。同図(A)に示すように、第1溶接電流Iw1は、電流制御設定信号Icrが低レベル電流設定信号Ilrのままであるので、時刻t3のアーク再発生までは低レベル電流値Ilを維持する。したがって、トランジスタTRは、時刻t2にくびれが検出されてから時刻t21に第1溶接電流Iw1が低レベル電流値Ilに減少するまでの期間のみオフ状態となる。同図(B)に示すように、第1溶接電圧検出信号Vd1は、第1溶接電流Iw1が小さくなるので時刻t2から一旦減少した後に急上昇する。
【0059】
(3)時刻t3のアーク再発生時点から時刻t4の遅延期間Tdの終了時点までの動作
時刻t3において第1アーク31が再発生すると、同図(B)に示すように、第1溶接電圧検出信号Vd1の値は短絡/アーク判別値Vta以上となる。これに応動して、同図(F)に示すように、電流制御設定信号Icrの値は、低レベル電流設定信号Ilrの値から予め定めたアーク時傾斜で上昇し、上記の高レベル電流設定値に達するとその値を維持する。同図(E)に示すように、遅延信号Tdsは、時刻t3にアークが再発生してから予め定めた遅延期間Tdが経過する時刻t4までHighレベルのままである。したがって、溶接電源は時刻t4まで定電流制御されているので、同図(A)に示すように、第1溶接電流Iw1は、時刻t3からアーク時傾斜で上昇し、高レベル電流値に達するとその値を時刻t4まで維持する。同図(B)に示すように、第1溶接電圧検出信号Vd1は、時刻t3〜t4の遅延期間Td中は高レベル電圧値の状態にある。同図(C)に示すように、くびれ検出信号Ndは、時刻t3にアークが再発生するので、Lowレベルに変化する。
【0060】
(4)時刻t4の遅延期間Td終了時点から時刻t5の次の短絡発生までのアーク期間の動作
同図(E)に示すように、遅延信号TdsがLowレベルに変化する。この結果、溶接電源は定電流制御から定電圧制御へと切り換えられる。このために、同図(A)に示すように、第1溶接電流Iw1は高レベル電流値から次第に減少する。同様に、同図(B)に示すように、第1溶接電圧検出信号Vd1は高レベル電圧値から次第に減少する。アーク期間中の時刻t42〜t43の期間は、外乱によって第1アーク31のアーク長が短くなったために、同図(A)に示すように、第1溶接電流Iw1は増加した値となっており、同図(B)に示すように、第1溶接電圧検出信号Vd1は減少した値となっている。このときの第1溶接電流Iw1の立上り及び立下りの変化率は、第2溶接電流Iw2が通電していないときよりも緩やかになる。理由は、同図(G)に示すように、第2溶接電流Iw2が通電しているために、同図(H)に示すように、ゲイン設定信号Grが低ゲイン設定値となるので、アーク期間中の第1溶接電流Iw1の最大変化率が小さくなるように制限されるためである。
【0061】
このように、くびれ検出制御では、時刻t2にくびれを検出すると通電路に減流抵抗器を挿入することによって第1溶接電流Iw1を急減させて、時刻t3に第1アーク31が再発生した時点における電流値を小さな値に制御することができる。このために、スパッタ発生量を大幅に低減することができる。
【0062】
上述した実施の形態1においては、他の溶接電源からの溶接電流が通電しているかいないかの判断を、合算溶接電流Igを検出することによって行なっている。ロボット溶接において、電流通電判別信号Cdを作業プログラムから生成するようにしても良い。すなわち、他の溶接電源からの溶接電流が通電する溶接区間は、作業プログラムによってロボット制御装置から第1溶接電源PS1に対してHighレベルの電流通電判別信号Cdを入力し、他の溶接電源からの溶接電流が通電しない溶接区間はLowレベルの電流通電判別信号Cdを入力するようにする。また、ワークの溶接個所の一部区間が他の溶接電源からの溶接電流が通電しているときは、溶接個所の全区間のアーク長制御系のゲインを小さくしても良い。これは、溶接区間中にアーク長制御系のゲインが大きい区間と小さい区間とが混在するよりも、全区間ゲインを小さくする方が溶接状態が安定する場合があるからである。
【0063】
上述した実施の形態1においては、アーク期間中の溶接電流の最大変化率を小さくするために、定電圧フィードバック制御系の電圧誤差増幅回路EVのゲインを小さくしている。(電流変化率制限制御)これ以外の方法としては、溶接電流の変化率を検出し、この変化率の検出信号が基準値以上になったときは一時的に溶接電源の出力制御を強制的に停止させるようにしても良い。
【0064】
上述した
図1においては、第1溶接電源PS1及び第2溶接電源PS2は共にくびれ検出制御機能を備えている場合であるので、両溶接電源共に相手側溶接電流が通電しているときは自らのアーク期間中の溶接電流の最大変化率を小さくする制御を備えている必要がある。第1溶接電源PS1がくびれ検出制御機能を供えており、第2溶接電源PS2はくびれ検出制御機能を備えていない場合には、第2溶接電源PS2が少なくとも上述した電流変化率制限制御を備える必要がある。逆に、第2溶接電源PS2がくびれ検出制御機能を供えており、第1溶接電源PS1はくびれ検出制御機能を備えていない場合には、第1溶接電源PS1が少なくとも上述した電流変化率制限制御を備える必要がある。実施の形態1では溶接電源が2台の場合であるが、3台以上の場合も同様である。
【0065】
上述した電流変化率制限制御によって、他の溶接電源のアーク期間中の溶接電流が急変しても、くびれ検出制御が誤動作することを抑制することができる。しかし、他の溶接電源の短絡期間中の溶接電流が急変することによるくびれ検出制御の誤動作を抑制することはできない。この点については、従来技術のように、他の溶接電源が短絡期間にあるときは、くびれ検出制御を禁止するようにすれば良い。アーク期間と短絡期間とを併せた溶接期間に占める短絡期間の時間比率は多くても20%以下である。したがって、他の溶接電源が短絡期間にあるときにくびれ検出制御を禁止しても、スパッタ発生量の削減効果への影響は少ない。
【0066】
上述した実施の形態1によれば、第1溶接電流が通電しているときは通電していないときよりも、第2溶接電流のアーク期間中の最大変化率を小さくしている。これにより、本実施の形態では、第1及び第2溶接電源によって共通のワークに各々アークを発生させて溶接し、第1溶接電源はくびれ検出制御機能を有しており、アーク期間中の第2溶接電流が急変してもその最大変化率が小さくなるように制御されるので、第1溶接電源のくびれ検出制御が誤動作することなく正常に動作することができる。
【0067】
[実施の形態2]
上述した実施の形態1では、他の溶接電源からの溶接電流が通電しているかいないかによって、自らのアーク期間中の溶接電流の最大変化率を小さくしていた。これに対して、実施の形態2では、他の溶接電源の溶接ワイヤが短絡期間であるときは短絡期間でないときよりも、自らのアーク期間中の溶接電流の最大変化率を小さくするものである。
【0068】
図4は、本発明の実施の形態2に係る2台の溶接電源を使用して1つのワークの2つの溶接個所を同時に溶接するための溶接装置の構成図である。2台の溶接電源は共にくびれ検出制御機能を供えている。同図は上述した
図1と対応しており、同一の構成物については同一符号を付して、それらの説明は繰り返さない。同図は、
図1の合算溶接電流検出回路IGDを削除し、第1短絡期間通知信号Sm1及び第2短絡期間通知信号Sm2を追加したものである。以下、同図を参照して異なる部分について説明する。
【0069】
第1溶接電源PS1は、第1短絡期間通知信号Sm1を第2溶接電源PS2に出力する。この第1短絡期間通知信号Sm1は、第1溶接ワイヤ11とワーク2とが短絡期間であるときはHighレベルとなり、アーク期間であるときはLowレベルとなる信号である。
【0070】
第2溶接電源PS2は、第2短絡期間通知信号Sm2を第1溶接電源PS1に出力する。この第2短絡期間通知信号Sm2は、第2溶接ワイヤ12とワーク2とが短絡期間であるときはHighレベルとなり、アーク期間であるときはLowレベルとなる信号である。
【0071】
図5は、
図4の溶接装置を構成する第1溶接電源PS1の詳細ブロック図である。第2溶接電源PS2のブロック図も同様である。同図は上述した
図2と対応しており、同一ブロックには同一符号を付して、それらの説明は繰り返さない。同図は、
図2の合算溶接電流検出回路IGD及び電流通電判別回路CDを削除し、第1短絡期間通知回路SM1を追加し、
図2のゲイン設定回路GRを第2ゲイン設定回路GR2に置換したものである。以下、同図を参照して異なるブロックについて説明する。
【0072】
第1短絡期間通知回路SM1は、短絡判別信号Sdを入力として、短絡判別信号Sdの値をそのまま第1短絡期間通知信号Sm1として第2溶接電源PS2に出力する。
【0073】
第2ゲイン設定回路GR2は、第2溶接電源PS2からの第2短絡期間通知信号Sm2を入力として、この信号がHighレベルのとき(他の溶接電源が短絡期間のとき)は予め定めた低ゲイン設定値となり、Lowレベルのとき(他の溶接電源がアーク期間のとき)は予め定めた高ゲイン設定値となるゲイン設定信号Grを出力する。第2短絡期間通知信号Sm2がHighレベルであるときは、他の溶接電源である第2溶接電源PS2の第2溶接ワイヤ12が通電状態であり、かつ、短絡期間であることを意味している。この第2溶接電源PS2の第2溶接ワイヤ12が短絡期間であるときにくびれ検出制御が行なわれるので、第1溶接電源PS1からの第1溶接電流Iw1のアーク期間中の最大変化率が小さくなるようにしている。これにより、実施の形態2では、実施の形態1とは異なり、第2溶接電源PS2の第2溶接ワイヤ12が通電中であり、かつ、アーク期間であるときは、第1溶接電源PS1からの第1溶接電流Iw1のアーク期間中の最大変化率を小さくすることを行なっていない。第2溶接電源PS2の第2溶接ワイヤ12がアーク期間中であるときには、当然ながらくびれ検出制御を行なっていないために、第1溶接電流Iw1の最大変化率を小さくする必要はない。
【0074】
図6は、
図5の第1溶接電源PS1における各信号のタイミングチャートである。同図(A)は第1溶接電流Iw1の時間変化を示し、同図(B)は第1溶接電圧検出信号Vd1の時間変化を示し、同図(C)はくびれ検出信号Ndの時間変化を示し、同図(D)は駆動信号Drの時間変化を示し、同図(E)は遅延信号Tdsの時間変化を示し、同図(F)は電流制御設定信号Icrの時間変化を示し、同図(G)は第2溶接電流Iw2の時間変化を示し、同図(H)は第1溶接電源PS1のゲイン設定信号Grの時間変化を示す。同図は上述した
図3と対応しており、同一の動作についての説明は繰り返さない。以下、同図を参照して説明する。
【0075】
同図(G)に示すように、第2溶接電流Iw2は同図の全期間中通電しており、かつ、時刻t5〜t6の期間が短絡期間であるので、同図(H)に示すように、第1溶接電源PS1のアーク長制御系のゲイン設定信号Grの値は、時刻t5〜t6の期間中のみ低ゲイン設定値となり、それ以外の期間中は高ゲイン設定値となる。したがって、同図(A)に示す第1溶接電流Iw1の最大変化率は、時刻t5〜t6の期間中は小さくなっている。同様にして、同図(G)に示す第2溶接電流Iw2の最大変化率は、時刻t1〜t3の期間が第1溶接ワイヤ11が短絡期間であるので、小さくなっている。
【0076】
同図(B)に示すように、第1溶接電圧検出信号Vd1は、第1溶接電流Iw1がピーク値となる時刻t12あたりから上昇する。これは、溶滴にくびれが次第に形成されるためである。時刻t12からの期間がくびれを検出する期間となる。このくびれを検出する期間においては、同図(A)に示すように、第1溶接電流Iw1はピーク値で略一定値である。他方、このくびれを検出する期間の時刻t13において、第2アーク32のアーク長が外乱によって急激に長くなったために、同図(G)に示すように、第2溶接電流Iw2は、
図3(G)のときと同様に緩やかに減少する。このために、くびれ検出制御の誤動作を防止することができる。そして、第2アーク32のアーク長は時刻t41において元に戻るために、同図(G)に示すように、第2溶接電流Iw2は、
図3(G)のときよりも急峻に上昇して元に戻る。これは、第1溶接ワイヤ11が、時刻t3において短絡期間ではなくアーク期間に移行したためである。
【0077】
アーク期間中の時刻t42〜t43の期間は、外乱によって第1アーク31のアーク長が短くなったために、同図(A)に示すように、第1溶接電流Iw1は増加した値となっており、同図(B)に示すように、第1溶接電圧検出信号Vd1は減少した値となっている。このときの第1溶接電流Iw1の立上り及び立下りの変化率は、
図3(A)のときよりも急峻になる。これは、時刻t42〜t43の期間中は、第2溶接ワイヤ12は短絡期間ではないので、同図(H)に示すように、ゲイン設定信号Grの値が高ゲイン設定値となっているからである。
【0078】
上述した実施の形態2によれば、第1アークが短絡期間であるときのみ、アーク期間中の第2溶接電流の最大変化率を小さくする。これにより、実施の形態2では、実施の形態1の効果に加えて、以下の効果を奏する。すなわち、実施の形態2では、他の溶接電源におけるくびれ検出制御が動作する短絡期間中のみ自らの溶接電流のアーク期間中の最大変化率を小さくしている。このために、他の溶接電源のくびれ検出制御の誤動作防止とは関係しないアーク期間中の溶接電流の最大変化率を小さくしていないので、アーク長制御系の過渡応答性が実施の形態1よりも改善される。