(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6245740
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】ガスタービン翼
(51)【国際特許分類】
F01D 9/02 20060101AFI20171204BHJP
F01D 5/18 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
F01D9/02 102
F01D5/18
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-239575(P2013-239575)
(22)【出願日】2013年11月20日
(65)【公開番号】特開2015-98839(P2015-98839A)
(43)【公開日】2015年5月28日
【審査請求日】2016年10月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱日立パワーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】特許業務法人開知国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】堀内 康広
(72)【発明者】
【氏名】田川 久人
(72)【発明者】
【氏名】森崎 哲郎
【審査官】
北村 亮
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−242050(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0063524(US,A1)
【文献】
特開昭52−013015(JP,A)
【文献】
特開2008−025569(JP,A)
【文献】
米国特許第05361828(US,A)
【文献】
特開2009−041433(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01D 9/02
F01D 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
背側及び腹側の対向する2つの被冷却面によって構成される冷却流路を内部に有するガスタービン翼において、
前記2つの被冷却面間に渡した複数の構造部材を備え、
前記構造部材は、三角錐台形状であって、前記2つの被冷却面にそれぞれ接して面積が異なる三角形状の底面と、冷却媒体の流れ方向の下流側に配置された傾斜面を有し、前記底面の三角形の一頂点が冷却媒体の流れ方向の上流側に配置され、前記傾斜面の法線が前記2つの被冷却面のうちの熱負荷の高い方に向けられたことを特徴とするガスタービン翼。
【請求項2】
請求項1記載のガスタービン翼において、
前記構造部材は、冷却媒体の流れ方向における前記傾斜面と前記底面との間の角度が30°以上60°以下に設定されていることを特徴とするガスタービン翼。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部冷却構造を有するガスタービン翼に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、熱効率向上のためにガスタービンの作動ガスは高温化する傾向にあり、それにはガスタービン翼の冷却性能の向上が重要な課題である。例えば、内部に冷却構造を有するガスタービン翼では、翼内部に冷却空気を流通させて冷却空気との熱交換によりガスタービン翼を冷却するが、翼後縁部では冷却空気の流路高さが十分に確保できない。そこで、翼内部の後縁側ではピンフィン冷却構造を採用し、背側と腹側の被冷却面(翼の内壁面)の間にピンフィンを設けることが多い。ピンフィン冷却構造は、応力や振動に対する強度の確保の面でも効果的である。
【0003】
しかし、ガスタービン翼の翼面は背側と腹側の熱負荷が異なるため、燃焼温度の上昇に伴い翼後縁の腹側と背側での温度差が大きくなると、それに伴い翼後縁には過大な熱応力が発生する恐れがある。メタル温度を均一にするためには、腹側もしくは背側の冷却性能を選択的に強化する必要があるが、ピンフィンは背側と腹側でほぼ対称な形状であるため、熱伝達率は背側と腹側でほぼ等しくなる。
【0004】
そこで、特許文献1に記載のように、ピンフィン冷却構造の冷却性能を背側もしくは腹側のみ選択的に強化する技術として、例えば冷却強化したい被冷却面のみに、三角錐状の渦発生体を追加することが提唱されている。すなわち、渦発生体で生じた縦渦により、一方の被冷却面の冷却を強化するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−041433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
通常、ガスタービン翼は圧縮機から抽気された空気で冷却されるため、冷却空気量の増加はガスタービン全体の熱効率を低下させる。また、一般に冷却効率の高い冷却構造は傾向として圧力損失が大きくなるが、ガスタービン翼内の冷却空気の流れは圧縮機抽気とタービン主流の圧力差によるため、冷却構造の圧力損失が過剰に大きくなると、冷却に要する空気流量をガスタービン翼へ供給することができなくなる。よって、ガスタービン翼の健全性を維持しながらガスタービンの熱効率を向上させるためには、少ない冷却空気量で十分な熱交換性能を発揮する必要がある。
【0007】
また、ガスタービン翼の空力性能を更に向上させるためには後縁肉厚を薄くする必要があり、相対的に後縁流路は狭隘流路(すなわち、流路高さが小さい流路)となる傾向にある。前出の特許文献1に記載された技術等に見られる渦発生体を狭隘流路に適用すると、渦発生体が非常に小さいものとなり、十分な冷却促進効果を得られない可能性がある。
【0008】
本発明は上記に鑑みなされたもので、狭隘流路であっても、腹側と背側で生じる温度差を低減し、熱応力を緩和することができるガスタービン翼を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、背側及び腹側の対向する2つの被冷却面によって構成される冷却流路を内部に有するガスタービン翼において、前記2つの被冷却面間に渡した複数の構造部材を備え、前記構造部材は、
三角錐台形状であって、前記2つの被冷却面にそれぞれ接して面積が異なる三角形状の底面と、冷却媒体の流れ方向の下流側に配置された傾斜面を有し、
前記底面の三角形の一頂点が冷却媒体の流れ方向の上流側に配置され、前記傾斜面の法線が前記2つの被冷却面のうちの
熱負荷の高い方に向けられる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、狭隘流路であっても、腹側と背側で生じる温度差を低減し、熱応力を緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態におけるガスタービン翼の周方向断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態におけるガスタービン翼の径方向断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態におけるガスタービン翼の後縁流路付近を拡大して表す径方向断面図である。
【
図4】本発明の一実施形態におけるガスタービン翼の後縁流路の俯瞰図である。
【
図5】本発明の一実施形態における渦発生体フィンの俯瞰図及び三面図である。
【
図6】本発明の一実施形態における渦発生体フィンの周囲の冷却空気の流れを表すモデル図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0013】
図1は本実施形態におけるガスタービン翼の周方向断面図、
図2はガスタービン翼の径方向断面図である。
図1の周方向断面図はガスタービンのロータと同心の円筒面で切断した断面を表しており、
図2の径方向断面図はロータの回転中心を通り径方向に延びる面で切断した断面を表している。
図3は本実施形態におけるガスタービン翼の後縁流路付近を拡大して表す径方向断面図、
図4は後縁流路の俯瞰図である。
【0014】
ガスタービンは、圧縮機で圧縮された圧縮空気を燃焼器にて燃料とともに燃焼し、その燃焼ガスをタービンに導いてタービンの回転動力を得る。本発明は高温の燃焼ガスに晒されるタービンの静翼又は動翼に適用される。
図1及び
図2に示したガスタービン翼1は、本発明をタービン初段静翼に適用した冷却翼を例示している。ガスタービン翼1に供給される冷却媒体には、燃焼用の圧縮空気を生成する先の圧縮機から抽気した圧縮空気を利用することとするが、場合によっては系外に別途設けた圧縮機からの圧縮空気や空気以外のアンモニア等の冷媒を利用することもできる。
【0015】
図1及び
図2に示したように、ガスタービン翼1は中空構造となっており、内部空間は隔壁2によって前縁側の空洞部(前室)と後縁側の空洞部(後室)の2室に分けられている。隔壁2には連通孔7が設けられており、前室と後室は連通孔7を介して接続している。前室と後室の内側には、インピンジ冷却用の前側コアプラグ3と後側コアプラグ4がそれぞれ挿入されている。これらコアプラグ3,4にはインピンジ孔28(
図1参照)が穿設されている。コアプラグ3,4には、矢印9(
図2参照)で示すように、翼根部側(
図2中の上側)に設けた空気流入口5を経由して圧縮機から抽気された冷却空気(冷却媒体)が導かれる。コアプラグ3,4内の冷却空気は、それぞれインピンジ孔28から高速噴流となって噴き出し、ガスタービン翼1の互いに対向する内壁面、すなわち腹側被冷却面6bと背側被冷却面6aを衝突冷却する。
【0016】
衝突冷却に使われた冷却空気のうち、一部は翼前縁部や腹側部分に設けたフィルム孔8(
図1参照)からフィルム冷却空気としてガスパスに放出され、残りは後室の翼後縁側に設けた後縁流路(狭隘流路)を通りガスタービン翼1の最後縁部からガスパスに放出される。なお、ガスタービン翼1は空力性能の観点から最後縁部に近付くほど翼厚さが薄くなっているため、後縁流路の流路高さも後縁側ほど低くなる。
【0017】
本実施形態の大きな特徴として、後縁流路には、腹側
被冷却面6bから背側
被冷却面6aに渡された渦発生体フィン10(構造部材)が複数設けられている。冷却空気は、矢印9に示したように後縁流路を流通して渦発生体フィン10を冷却し、矢印27に示したように最後縁部から放出される。渦発生体フィン10は、後縁流路内の冷却空気の流通方向(本例ではコード方向、すなわち
図2中の左から右向き)に直交する向き(本例ではスパン方向、すなわちタービン径方向)に並べられている。そして、このスパン方向に並んだ渦発生体フィン10の列がコード方向に複数列設置され、なおかつコード方向に隣接する列同士の渦発生体フィン10がスパン方向に半ピッチずれた状態で配列されており、全体として渦発生体フィン10は周方向から見て千鳥状に配列されている(
図2及び
図4参照)。
【0018】
なお、本実施形態では翼後縁の冷却にのみ渦発生体フィン冷却を採用した場合を例に挙げているが、渦発生体フィンの設置場所を限定する趣旨ではなく、例えば動翼の内部冷却で一般に用いられるサーペンタイン冷却空気流路内に設置されることもある。また、各渦発生体フィン10の大きさが等しい場合を図示しているが、これも渦発生体フィン10の形状を限定する趣旨ではない。配置についても千鳥状の配置である必要はない。
【0019】
図5(a)は渦発生体フィン10の俯瞰図、
図5(b)は三面図である。
【0020】
ここでは、渦発生体フィン10の各部について説明する。
【0021】
まず、三角錐台状の渦発生体フィン10が被冷却面6a,6bと接する面14,15を底面とする。これら底面14,15は、面積が異なるものの相似形であって、概略二等辺三角形に形成されている。上底面14の頂角(両斜辺23の挟角)に対向する(底角に挟まれた)辺を底辺13とする。下底面15の頂角(両斜辺24の挟角)に対向する(底角に挟まれた)辺を底辺17とする。底面14,15の頂角は冷却空気の流れ方向の上流側を向いている。また、渦発生体フィン10の三角錐台形状に基づいて仮想される三角錐形状の頂点16(言い換えれば、渦発生体フィン10の底面15から離間した仮想の頂点)は、底面15の重心よりも冷却媒体の流れ方向の上流側に偏った位置に存在する。本実施形態では、底面14,15の頂角に接する両側面32がほぼ台形状に形成され、側面32の4つの角のうち、底面14,15の頂角に接する角がほぼ直角になっている。また、両側面32の間の面は、上底面14の底辺13から冷却空気の流れ方向に向かうにつれて下底面15の底辺17に向かって直線的に下る傾斜面33となっている。この傾斜面33は、概略等脚台形に形成されている。傾斜面33の法線34(上述の
図3参照)は、2つの被冷却面6a,6bのうちの一方(本実施形態では、熱負荷の高いほうの背側被冷却面6a)に向けられている。冷却空気の流れ方向における傾斜面33と底面15がなす角を迎え角
θとする。この抑え角
θは、30°以上60°以下に設定されている。
【0022】
本実施形態では、渦発生体フィン10の設置により、後縁流路の片側の被冷却面6aの冷却性能を向上させることができる。作動ガス(燃焼ガス)の高温化により冷却空気と作動ガスの温度差が大きくなると、翼後縁の腹側と背側での温度差が大きくなる。それに伴い翼後縁には過大な熱応力が発生する恐れがあるが、本実施形態によってガスタービン翼の腹側と背側で生じる温度差を低減し熱応力を緩和することができる。次にその原理について説明する。
【0023】
図6は渦発生体フィン10の周囲の冷却空気の流れを表すモデル図である。
【0024】
まず、被冷却面の熱伝達率の向上には、冷却空気の流れに被冷却面に対して垂直な速度成分を与えて熱の輸送を活発にすることが有利である。渦発生体フィン10は、
傾斜面33に沿って被冷却面6aに向かう上向きの速度成分を持つ上昇流21を作り出す。この上昇流21の発生により、後縁流路の中央部付近にある低温の流体が被冷却面6a近傍に移動し、被冷却面6aの冷却性能が向上する。さらに、渦発生体フィン10は二次流れ22を発生させ、被冷却面6a近傍の温度境界層を破壊するため、被冷却面6aでの熱の輸送がさらに活発化するように作用するので、被冷却面6aの広範囲に渡って冷却性能の向上が期待できる。
【0025】
したがって、後縁流路が狭隘流路であっても、被冷却面6a,6bの温度差を抑制することができ、熱応力を緩和することができる。その結果、ガスタービン翼の信頼性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0026】
1 ガスタービン翼
6a 背側被冷却面
6b 腹側被冷却面
10 渦発生体フィン
14 底面
15 底面
33
傾斜面
34 法線