特許第6245744号(P6245744)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6245744
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】廃水処理装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/08 20060101AFI20171204BHJP
   C02F 3/34 20060101ALI20171204BHJP
   C02F 3/10 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
   C02F3/08 B
   C02F3/34 Z
   C02F3/34 101D
   C02F3/34 101B
   C02F3/34 101C
   C02F3/10 Z
【請求項の数】8
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2013-259904(P2013-259904)
(22)【出願日】2013年12月17日
(65)【公開番号】特開2015-116516(P2015-116516A)
(43)【公開日】2015年6月25日
【審査請求日】2016年12月7日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成25年7月8日、第50回下水道研究発表会講演集(公益社団法人日本下水道協会)第4−5頁に公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成25年7月8日、第50回下水道研究発表会講演集(公益社団法人日本下水道協会)第844−846頁に公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成25年7月31日、化学工学会盛岡大会2013研究発表講演要旨集(社団法人化学工学会)第133頁に公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成25年11月9日、第16回日本水環境学会シンポジウム講演集(公益社団法人日本水環境学会)第257−258頁に公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成25年10月20日、日本水処理生物学会誌(日本水処理生物学会)別巻第33号、2013、第70頁に公開
(73)【特許権者】
【識別番号】501061319
【氏名又は名称】学校法人 東洋大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000230571
【氏名又は名称】日本下水道事業団
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲三
(72)【発明者】
【氏名】角野 立夫
(72)【発明者】
【氏名】辻 幸志
(72)【発明者】
【氏名】橋本 敏一
【審査官】 富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−088498(JP,A)
【文献】 特開2006−136820(JP,A)
【文献】 特開平07−313992(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0178132(US,A1)
【文献】 特開平09−075987(JP,A)
【文献】 特開平08−089989(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/00−3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともリンを含有する廃水を生物学的に処理する廃水処理装置において、
前記廃水の本流ラインに設けられ、前記廃水と、リン蓄積菌がPAOs状態で包括固定化又は付着固定化されている固定化担体とを好気条件下で接触させて前記リン蓄積菌内に廃水中のリンを摂取することにより前記廃水からリンを除去する廃水処理槽と、
前記本流ラインとは別に設けられ、前記リンを摂取した固定化担体と有機酸含有水とを接触させて前記リン蓄積菌から前記摂取したリンを放出させるリン放出槽と、
前記廃水処理槽から前記固定化担体を前記リン放出槽に引き抜く担体引抜手段と、
前記引き抜いた固定化担体を前記リン放出槽から前記廃水処理槽に戻す担体戻し手段と、
前記リン放出槽におけるリン放出によって濃縮したリン濃縮液を前記リン放出槽から排出するリン濃縮液排出手段と、を備えたことを特徴とする廃水処理装置。
【請求項2】
前記担体引抜手段、前記担体戻し手段、及び前記リン濃縮液排出手段を制御する制御手段を設け、
前記制御手段は、前記リン放出槽のリン濃縮液を前記リン濃縮液排出手段で排出してから前記リン放出槽の固定化担体を前記担体戻し手段により前記廃水処理槽に戻すように制御する請求項1に記載の廃水処理装置。
【請求項3】
前記制御手段は前記担体引抜手段を制御して、前記リン放出槽における前記固定化担体の充填率が25〜40容積%になるように前記廃水処理槽から引き抜く引き抜き量を調整する請求項2に記載の廃水処理装置。
【請求項4】
前記リン放出槽に、
リン濃度を測定するリン濃度測定手段と、
有機酸濃度を測定する有機酸測定手段と、
前記測定したリン濃度と有機酸濃度とに基づいて前記リン放出槽に注入する有機酸の注入量を制御する注入量調整手段と、を備えた請求項1から3の何れか1項に記載の廃水処理装置。
【請求項5】
前記注入量調整手段は、
前記リン放出槽におけるリン酸放出速度をΔPとすると共に有機酸摂取速度をΔTOCとしたときに、Δ+P/Δ-TOC(mg-P/mg-TOC)が0.5〜1.0の範囲になるように前記有機酸の注入量を制御する請求項4に記載の廃水処理装置。
【請求項6】
前記固定化担体は、リン蓄積菌含有の活性汚泥を固定化材料で包括固定化した包括固定化担体であると共に、前記固定化材料の材料濃度が5〜8質量%の範囲である請求項1から5の何れか1項に記載の廃水処理装置。
【請求項7】
前記廃水処理装置を、脱窒槽と硝化槽とで廃水中のアンモニアを除去する活性汚泥循環変法に組み込むと共に、前記廃水処理槽が前記硝化槽である請求項1から6の何れか1項に記載の廃水処理装置。
【請求項8】
前記担体引抜手段には、前記硝化槽から引き抜かれる固定化担体を洗浄して前記硝化槽で生成される硝酸が前記リン放出槽に持ち込まれるのを防止する硝酸洗浄装置を設けた請求項7に記載の廃水処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は廃水処理装置及び包括固定化担体に係り、特に下水処理、産業廃液処理、湖沼の浄化等において生物学的にリンを除去する廃水処理装置及び包括固定化担体に関する。
【背景技術】
【0002】
下水や産業廃水中に含有されるリンを生物学的に除去する方法としては、リン蓄積菌を用いた嫌気・好気法(AO法)や循環式嫌気・無酸素・好気法(AO法)などが知られている。即ち、嫌気性槽でリン蓄積菌からリンを放出させ、好気性槽においてリン蓄積菌が放出したリン量以上を過剰摂取することで処理水のリン濃度を減少させる方法である。リン蓄積菌を使用したリン除去方法としては、例えば特許文献1がある。
【0003】
しかし、リン蓄積菌を使用した現行のリン除去方法は、流入する廃水の水質(基質)や水量などの変動により、リン除去効率が不安定になり易いという問題がある。これにより、処理水のリン濃度を目標の3mg/L以下に安定除去することができない。
【0004】
このことから、リンを除去する廃水処理装置は、生物学的な除去方法に化学的な除去方法である金属塩凝集沈殿法を併用することで、安定的なリン除去を行っているのが現状である。
【0005】
下水処理の金属塩凝集沈殿法に使用される無機凝集剤には、一般的にポリ塩化アルミニウム(以下、PAC)が用いられており、リン除去率として80%以上を期待できる。
【0006】
しかし、化学的方法を併用することは、発生汚泥量が増加する問題、PACの添加により処理水のpHが放流基準以下になる問題、凝集能力を上げるために大きな反応槽が必要になる問題、過剰な凝集剤の添加によって硝化反応を阻害する問題、アルミ含有汚泥は農地への還元ができない問題等がある。
【0007】
このような背景から、化学的方法を併用しないでも、リン蓄積菌による生物学的除去のみで廃水中のリンを十分に除去できる新規な生物学的な廃水処理装置が要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−57771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、生物学的にリンを除去する従来の廃水処理装置は、嫌気槽・好気槽、あるいは嫌気槽・無酸素槽・好気槽の間で廃水を流しながら硝化菌、脱窒菌、リン蓄積菌を含有する汚泥全体の代謝として、リンを除去する。即ち、廃水の本流ライン中でリンを除去するため、本流の水質(基質)変化や水量変動、汚泥中のリン蓄積菌濃度の変動、更には嫌気槽や無酸素槽への好気槽からの酸素の持ち込み等の諸要因によって、リン除去性能が不安定になる。
【0010】
したがって、生物学的な方法のみでリン除去を行う廃水処理装置が未だ確立されていないのが実情である。
【0011】
また、生物学的なリン除去を安定的に行うには、リン除去処理を行う廃水処理装置の槽内に、リン蓄積菌を如何に高濃度に維持できるかが重要になり、リン蓄積菌を包括固定化又は付着固定化することが考えられる。特に、包括固定化は付着固定化に比べて固定化材料に適切な濃度のリン蓄積菌を安定的に維持し易いことから一層好ましい。
【0012】
このことから、出願人は、生物学的な方法のみでリン除去を行うための対策の一つとして、リン蓄積菌を包括固定化することによりリン蓄積菌を高濃度化することを検討してきた。
【0013】
しかしながら、リン蓄積菌群を包括固定化することによりポリリン酸蓄積菌群(PAOs)がグリコーゲン蓄積菌群(GAOs)に変化してしまい、リン除去活性が低下するという問題がある。
【0014】
したがって、リン蓄積菌群の包括固定化担体を使用してリン除去を行う場合、リン蓄積菌群を包括固定化した後もリン蓄積菌群がPAOs状態を維持することが重要になる。
【0015】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、生物学的なリン除去のみで効率的にリンを除去することができるので、処理水中のリン濃度を低濃度に安定維持することができ、合わせてリンの濃縮回収をも行うことができる廃水処理装置を提供することを目的とする。
【0016】
更に本発明は、リン蓄積菌を固定化材料に包括固定化した後も高いリン除去活性を維持できる包括固定化担体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記目的を達成するために、本発明に係る廃水処理装置は、少なくともリンを含有する廃水を生物学的に処理する廃水処理装置において、前記廃水の本流ラインに設けられ、前記廃水と、リン蓄積菌がPAOs状態で包括固定化又は付着固定化されている固定化担体とを好気条件下で接触させて前記リン蓄積菌内に廃水中のリンを摂取することにより前記廃水からリンを除去する廃水処理槽と、前記本流ラインとは別に設けられ、前記リンを摂取した固定化担体と有機酸含有水とを接触させて前記リン蓄積菌から前記摂取したリンを放出させるリン放出槽と、前記廃水処理槽から前記固定化担体を前記リン放出槽に引き抜く担体引抜手段と、前記引き抜いた固定化担体を前記リン放出槽から前記廃水処理槽に戻す担体戻し手段と、前記リン放出槽におけるリン放出によって濃縮したリン濃縮液を前記リン放出槽から排出するリン濃縮液排出手段と、を備えたことを特徴とする。
【0018】
ここで廃水の本流ラインとは、目的の処理(例えばリン除去処理)を行うために廃水が流れる経路を言う。
【0019】
従来の廃水処理装置のリン除去方法は、従来技術で述べたように、嫌気性槽でリン蓄積菌からリンを放出させ、好気性槽においてリン蓄積菌が放出したリン量以上を過剰摂取することで処理水のリン濃度を減少させる方法であり、リン蓄積菌が放出したリンは廃水の本流ライン中に放出される。
【0020】
また、従来のリン除去方法は、廃水の本流ライン中に嫌気性槽と好気性槽を設けるため、嫌気性槽での1回のリン放出操作と、好気性槽での1回のリン過剰摂取操作とが行われ、リン放出回数とリン摂取回数とを任意に制御することはできない。
【0021】
これに対して、本発明の廃水処理装置では、廃水の本流ラインに設けた廃水処理槽からリン蓄積菌を包括固定化又は付着固定化した固定化担体を引き抜いて本流ラインとは別のリン放出槽でリン放出を行い、リン放出槽でリン濃縮を行うようにした。また、担体戻し手段とリン濃縮液排出手段とにより、リン放出した固定化担体のみをリン放出槽から廃水処理槽に戻すようにした。
【0022】
これにより、リン蓄積菌から放出されたリンが廃水の本流ラインに戻されることはないと共に、リン放出槽でリン濃縮を行うことができる。したがって、放出したリンが廃水処理槽のリン濃度を上げることがないのでリン除去効率を向上できると共に、リン放出槽で生成されるリン濃縮液からリンの濃縮回収が可能となる。
【0023】
また、本発明のように、本流ラインとは別設のリン放出槽でリン放出を行うことで、廃水が廃水処理槽に流入し流出するまでに複数回のリン摂取とリン放出とを行うことができる。即ち、本発明の廃水処理装置は、廃水中のリン濃度や廃水水量の変動等の処理条件の変動に応じてリン除去能力を可変することができる。
【0024】
本発明の廃水処理装置の態様において、前記担体引抜手段、前記担体戻し手段、及び前記リン濃縮液排出手段を制御する制御手段を設け、前記制御手段は、前記リン放出槽のリン濃縮液を前記排出手段で排出してから前記リン放出槽の固定化担体を前記担体戻し手段により前記廃水処理槽に戻すように制御することが好ましい。
【0025】
これにより、リン放出槽のリン濃縮液が固定化担体と一緒に廃水処理槽に持ち込まれることを防止できる。
【0026】
本発明の廃水処理装置の態様において、前記制御手段は前記担体引抜手段を制御して、前記リン放出槽における前記固定化担体の充填率が25〜40容積%になるように前記廃水処理槽から引き抜く引き抜き量を調整することが好ましい。
【0027】
これにより、リン濃縮倍率を大きくすることができると共に、リン放出槽で固定化担体を流動させる動力を低減できる。
【0028】
本発明の廃水処理装置の態様において、前記リン放出槽に、リン濃度を測定するリン濃度測定手段と、有機酸濃度を測定する有機酸測定手段と、前記測定したリン濃度と有機酸濃度とに基づいて前記リン放出槽に注入する有機酸の注入量を制御する注入量調整手段と、を備えることが好ましい。
【0029】
これにより、注入量調整手段はリン放出槽における有機酸の注入量を適切に制御することができるので、廃水処理槽におけるリン除去率を高めることができる。
【0030】
具体的には、前記注入量調整手段は、リン酸放出速度をΔPとすると共に有機酸摂取速度をΔTOCとしたときのΔ+P/Δ-TOC(mg-P/mg-TOC)が0.5〜1.0の範囲になるように前記有機酸の注入量を調整する。
【0031】
本発明の廃水処理装置の態様において、前記固定化担体は、リン蓄積菌含有の活性汚泥を固定化材料で包括固定化した包括固定化担体であると共に、前記固定化材料の材料濃度が5〜8質量%の範囲であることが好ましい。
【0032】
このように、リン蓄積菌の固定化担体として包括固定化担体を使用することで、付着固定化担体に比べて固定化材料に適切な濃度のリン蓄積菌を安定的に維持しやすくなる。
【0033】
更に、固定化材料の材料濃度を5〜8質量%の範囲で包括固定化するようにしたので、リン蓄積菌群を包括固定化した後もリン蓄積菌群がPAOs状態を維持することができる。
【0034】
これにより、包括固定化担体にリン蓄積菌を高濃度に維持でき且つ包括固定化されるリン蓄積菌のPAOs型の活性度を高めることができる。したがって、リン放出槽における包括固定化担体のリン放出率が良くなるので、廃水処理槽でのリン除去率を高めることができる。
【0035】
なお、本発明は、固定化担体として、包括固定化担体と付着固定化担体のいずれでも実施可能である。しかし、廃水処理槽から固定化担体をリン放出槽に引き抜く際、及び引き抜いた固定化担体をリン放出槽から廃水処理槽に戻す際にも、リン蓄積菌を担体内に確実に保持できる包括固定化担体が一層好ましい。
【0036】
本発明の廃水処理装置の態様において、前記廃水処理装置を、脱窒槽と硝化槽とで廃水中のアンモニアを除去する活性汚泥循環変法に組み込むと共に、前記廃水処理槽が前記硝化槽であることが好ましい。
【0037】
これにより、アンモニアとリンを含有する廃水について、アンモニアを除去しつつ、リンを効率的に除去することができる。
【0038】
この活性汚泥循環変法に組み込む場合において、前記担体引抜手段には、前記硝化槽から引き抜かれる固定化担体を洗浄して前記硝化槽で生成される硝酸が前記リン放出槽に持ち込まれるのを防止する硝酸洗浄装置を設けることが好ましい。
【0039】
本発明の廃水処理装置を活性汚泥循環変法に組み込む場合には、硝化槽において硝酸(亜硝酸を含む)が生成され、これらが固定化担体と一緒にリン放出槽に持ち込まれると固定化担体のリン放出を阻害する。
【0040】
しかし、本発明では、引き抜き手段に硝酸洗浄装置を設けるようにしたので、硝化槽において生成された硝酸(亜硝酸を含む)が固定化担体と一緒にリン放出槽に持ち込まれることを防止できる。
【0041】
前記目的を達成するために、本発明に係る包括固定化担体は、リン蓄積菌を固定化材料で包括固定化した包括固定化担体において、前記リン蓄積菌のリン放出速度をΔ+P(mg−P/L・h)とし、前記リン蓄積菌の有機酸摂取速度をΔ−TOC(mg−TOC/L・h)としたときに、Δ+P/Δ−TOC(mg−P/mg−TOC)が0.5〜1.0の範囲になるように、前記固定化材料の材料濃度(質量%)が調整されていることを特徴とする。
【0042】
本発明者は、リン蓄積菌を包括固定化する際に、リン蓄積菌がPAOs型からGAOs型に変化しないように、あるいは変化率を小さくするためには、包括固定化担体を製造する際の固定化材料濃度が影響することを見出した。また、リン蓄積菌がPAOs型かGAOs型かはΔ+P/Δ−TOCによって判断することができる。
【0043】
したがって、本発明の包括固定化担体は、Δ+P/Δ−TOC(mg−P/mg−TOC)が0.5〜1.0の範囲になるように、固定化材料の材料濃度(質量%)が調整されているので、リン蓄積菌を固定化材料に包括固定化した後も高いリン除去活性を維持できる。
【0044】
本発明の包括固定化担体の態様において、前記Δ+P/Δ−TOC(mg−P/mg−TOC)が0.9以上になるように、前記固定化材料の材料濃度(質量%)が調整されていることが好ましい。これにより、リン蓄積菌を固定化材料に包括固定化した後も顕著に高いリン除去活性を維持できるからである。この場合、前記固定化材料の材料濃度は5〜8質量%の範囲であることが好ましい。
【発明の効果】
【0045】
本発明の廃水処理装置によれば、生物学的なリン除去のみで効率的にリンを除去することができるので、処理水中のリン濃度を低濃度に安定維持することができ、合わせてリンの濃縮回収をも行うことができる。
【0046】
また、本発明の包括固定化担体によれば、リン蓄積菌を固定化材料に包括固定化した後も高いリン除去活性を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
図1】PAOs担体における固定化材料濃度とリン放出速度との関係を示すグラフ
図2】固定化材料濃度とΔ+P/Δ-TOCとの関係を示すグラフ
図3】回分装置であるA/O SBR装置の構成図
図4】PAOs担体の性能評価結果を示すグラフ
図5】未馴養の活性汚泥に混合するPAOs汚泥の含有率と立ち上げ日数の関係を示すグラフ
図6】本発明の廃水処理装置の基本構成を示す第1の実施の形態の概念図
図7】リン放出槽の詳細を説明する説明図
図8】リン放出槽に充填するPAOs担体の最適充填率を示すグラフ
図9】リン放出槽に注入する有機酸の適切な注入量を説明するグラフ
図10】リン放出槽に注入する有機酸の適切な注入量を制御する説明図
図11】本発明の廃水処理装置の第2の実施の形態の概念図
図12】本発明の廃水処理装置の第2の実施の形態の変形例の概念図
図13】硝酸洗浄装置の一例を説明する説明図
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下添付図面に従って、本発明に係る廃水処理装置及び包括固定化担体の好ましい実施の形態について詳述する。
【0049】
本発明の廃水処理装置は、廃水の本流ラインに設けた廃水処理槽からリン蓄積菌を包括固定化又は付着固定化した固定化担体を引き抜いて本流ラインとは別のリン放出槽でリン放出を行ってリン放出槽でリンの濃縮を行い、リン放出した固定化担体のみをリン放出槽から廃水処理槽に戻すようにすることで、生物学的なリン除去のみで効率的にリンを除去することができ、処理水中のリン濃度を低濃度に安定維持することができ、合わせてリンの濃縮回収をも行うことができるように構成したものである。
【0050】
そして、本発明の廃水処理装置は、固定化担体として、包括固定化担体と付着固定化担体(生物膜担体ともいう)のいずれでも実施可能であるが、廃水処理槽からリン放出槽への固定化担体の引き抜き、引き抜いた固定化担体のリン放出槽から廃水処理槽への戻しにおいて、リン蓄積菌を担体内に確実に保持できる包括固定化担体が一層好ましい。
【0051】
したがって、以下の説明では、リン蓄積菌を包括固定化した包括固定化担体の例で説明するとともに、本発明の実施の形態の包括固定化担体を得るまでの経緯を説明する。
【0052】
[リン蓄積菌の包括固定化担体]
先ず、本発明の廃水処理装置に使用するリン蓄積菌の包括固定化担体の製造について説明する。
【0053】
リン蓄積菌の包括固定化担体は、リン蓄積菌と固定化材料(モノマー、プレポリマー)とを混合した後、固定化材料を重合してゲル化することにより製造することができる。
【0054】
しかし、リン蓄積菌には、ポリリン酸蓄積菌群(PAOs型)とグリコーゲン蓄積菌群(GAOs型)とが存在し、PAOs型のリン蓄積菌は有機酸を取り込んでリンを放出するが、GAOs型のリン蓄積菌は有機酸を取り込むだけでリンを放出しない。
【0055】
したがって、本発明に使用する包括固定化担体として、PAOs型のリン蓄積菌の包括固定化担体(以下「PAOs担体」という)を製造することが重要になる。
【0056】
包括固定化するリン蓄積菌の種汚泥は、PAOs型のリン蓄積菌が棲息している。例えば下水処理場等の活性汚泥を使用することができる。また、下水処理場等の活性汚泥を馴養してPAOs型のリン蓄積菌を集積培養したPAOs汚泥を種汚泥とすることもできる。
【0057】
モノマーの固定化材料としては、アクリルアミド、メチレンビスアクリルアミド、トリアクリルフォルマールなどを好適に使用することができる。また、プレポリマーの固定化材料としては、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールメタアクリレートや、その誘導体を好適に使用できる。なお、固定化材料としては、これらに限定するものではなく、硝化菌等の包括固定化で使用される従来公知の固定化材料を使用することができる。
【0058】
固定化材料を重合する際には重合開始剤や重合促進剤を添加することが好ましく、重合開始剤として過硫酸カリウムを、重合促進剤としてNNN’N’テトラメチルエチレンジアミン(TEMED)を好適に使用できる。
【0059】
表1は、リン蓄積菌の包括固定化担体を製造するための代表的な組成例である。
【0060】
【表1】
【0061】
上記の各組成物を混合した懸濁液に過硫酸カリウム0.25部を添加すると重合が開始され、ゲル化する。このゲル状のブロックを任意の大きさに切断することでリン蓄積菌含有汚泥を包括固定化した包括固定化担体が製造される。包括固定化担体の形状としては、特に限定されないが、3mm〜10mm角程度の矩形担体が好ましい。
【0062】
かかる包括固定化担体の製造において、リン蓄積菌がPAOs型からGAOs型に変化してしまうことがある。したがって、リン蓄積菌を固定化材料に包括固定化したときに、リン蓄積菌がPAOs型からGAOs型に変化しないように、あるいは変化する率を小さくする必要がある。
【0063】
図1は、固定化材料の材料濃度とリン蓄積菌のリン放出速度(mg-P/L・h)との関係、及び材料濃度と担体の物性寿命との関係を試験したグラフである。図1の横軸には固定化材料の材料濃度を示し、縦軸の左側にはリン放出速度を示し縦軸の右側には担体の物性寿命を示す。
【0064】
なお、固定化材料の材料濃度は、包括固定化担体を製造する組成物全体に対する固定化材料の質量比率である。
【0065】
試験に供した固定化材料は、表1のポリエチレングリコールジアクリレートであり、固定化材料の材料濃度を1質量%から20質量%まで1%刻みで変化させ、材料濃度の増減した分は水で調整した。そして、固定化材料の材料濃度とリン放出速度との関係、及び材料濃度と担体の物性寿命との関係を調べた。
【0066】
その結果、材料濃度を5質量%まで増加させていくとリン放出速度は比例して増加し約90(mg-P/L・h)程度でピークになった。その後、材料濃度が8質量%までピークを維持し、更に材料濃度を増加させると、リン放出速度は緩やかに低下し、材料濃度20質量%で20(mg-P/L・h)程度となった。
【0067】
一方、包括固定化担体の物性寿命(年)は、材料濃度の増加に比例して長くなった。担体の物性寿命としては3年以上が必要であり、5年以上あることが好ましい。
【0068】
担体の物性寿命は、担体の圧縮強度を測定することで調べた。即ち、レオメータを使用し、3mm角のペレット面に徐々に圧力をかけてペレットが破損した圧力(kg)を測定し、ペレットの断面積(cm2 )で割り圧縮強度(kg/cm2 )を算出した。そして、圧縮強度の測定値を5倍した値が担体の物性寿命(年)に相当する。
【0069】
図1の結果から、包括固定化担体を製造する際の固定化材料の材料濃度を変化させると担体寿命のみならず担体中のリン蓄積菌のリン放出速度が変わることが分かる。
【0070】
そこで、発明者は、固定化材料の材料濃度がリン蓄積菌のPAOs型反応とGAOs型反応にどのように影響するかを調べた。
【0071】
図2は、固定化材料の材料濃度に対するΔ+P/Δ-TOC(mg-P/mg-TOC)の比率を調べたものである。図2の横軸に固定化材料の材料濃度を示し、縦軸にΔ+P/Δ-TOCを示す。ここでΔ+Pはリン放出速度(mg-P/L・h)を示し、Δ-TOCは有機酸摂取速度(mg-TOC/L・h)を示す。また、Δ+Pの「+」は放出を示し、Δ-TOCの「−」は摂取を示す。
【0072】
PAOs型のリン蓄積菌とは、上記したように、有機酸を取り込んでリンを放出する菌であり、Δ+P/Δ-TOC(mg-P/mg-TOC)を調べることによって、担体内のリン蓄積菌がPAOs型の反応を行っているか、GAOs型の反応を行っているかを知ることができる。即ち、リン蓄積菌が取り込む有機酸量に対して放出するリン量が多いほどPAOs型の反応活性が高いと言える。したがって、Δ+P/Δ-TOCが0.5以上であれば、取り込む有機酸量よりも放出するリン量が多いことを示し、PAOs型の反応を行っていると見做すことができる。また、Δ+P/Δ-TOCが0.5未満であれば、取り込む有機酸量よりも放出するリン量が少ないことを示し、担体中のリン蓄積菌がGAOs型の反応を行っていると見做すことができる。
【0073】
したがって、本発明の廃水処理装置に使用するリン蓄積菌の包括固定化担体は、Δ+P/Δ-TOCが高いことが好ましいが、Δ+P/Δ-TOCが少なくとも0.5以上であるPAOs型の包括固定化担体であることが必要である。
【0074】
図2から分かるように、固定化材料の材料濃度を増加させていくとΔ+P/Δ-TOCが比例して増加し、材料濃度5質量%でΔ+P/Δ-TOCがピークの約0.9〜0.95(mg-P/mg-TOC)に達した。その後、材料濃度8質量%程度までピークを維持し、その後緩やかに低下した。
【0075】
そして、固定化材料の材料濃度が3〜15質量%においてΔ+P/Δ-TOCが0.5以上となり、PAOs型の反応が行われていることが分かる。特に、材料濃度が5〜8質量%においてΔ+P/Δ-TOCが約0.9〜0.95と非常に高くなり、この材料濃度の範囲においてリン蓄積菌はPAOs型の反応活性が極めて大きいことが分かる。
【0076】
図1及び図2の結果から、担体寿命を満足し、且つPAOs型の反応活性の高い包括固定化担体を製造するには、固定化材材料の材料濃度が3〜15質量%の範囲であることが好ましく、5〜8質量%の範囲であることが特に好ましいことが分かる。
【0077】
本発明の実施の形態の包括固定化担体は、上記知見に基づいてなされたものであり、リン蓄積菌を固定化材料で包括固定化した包括固定化担体において、リン蓄積菌のリン放出速度をΔ+P(mg−P/L・h)とし、リン蓄積菌の有機酸摂取速度をΔ−TOC(mg−TOC/L・h)としたときに、Δ+P/Δ−TOC(mg−P/mg−TOC)が0.5〜1.0の範囲になるように、固定化材料の材料濃度(質量%)が調整されている。これにより、リン蓄積菌を固定化材料に包括固定化した後も高いリン除去活性を維持できる。
【0078】
特に、Δ+P/Δ−TOC(mg−P/mg−TOC)が0.9以上になるように、前記固定化材料の材料濃度(質量%)が調整されるように、固定化材料の材料濃度は5〜8質量%の範囲であることが好ましい。
【0079】
次に、上記の知見を踏まえ、リン蓄積菌の包括固定化担体をベンチスケールの回分装置を用いて製造した具体例を説明する。ここでは、下水処理場から採取した活性汚泥を馴養してリン蓄積菌を集積培養したPAOs汚泥を包括固定化する例で説明する。
【0080】
(リン蓄積菌の集積培養)
図3は、リン蓄積菌の集積培養を行う回分装置の一例であり、10L反応槽を備えた嫌気・好気シーケンスバッチ反応器(以下、「A/O SBR装置」という)である。
【0081】
図3に示すように、A/O SBR装置10は、1L容積の反応槽12と、合成廃水濃縮原液を反応槽12に供給する原液供給配管14と、水道水を反応槽12に供給する水道水供給配管16と、有機酸(例えば酢酸)を反応槽12に供給する有機酸供給配管18と、反応槽12内を嫌気状態及び好気状態に切り換える曝気装置20と、反応槽12内のpHを制御するpHコントローラ22と、処理水排出配管24と、で構成される。
【0082】
原液供給配管14には原液供給ポンプ14Aが設けられ、原液タンク(図示せず)に貯留された合成廃水濃縮原液の所定量を原液供給ポンプ14Aにより反応槽12に供給する。
【0083】
水道水供給配管16には、水道水供給ポンプ16Aが設けられ、所定量の水道水が反応槽12に供給されることによって、合成廃水濃縮原液を希釈する。
【0084】
有機酸供給配管18には有機酸供給ポンプ18Aが設けられ、有機酸タンク(図示せず)に貯留された有機酸溶液の所定量を有機酸供給ポンプ18Aにより反応槽12に供給する。
【0085】
処理水排出配管24には排出ポンプ24Aが設けられ、反応槽12内のリン濃縮液が排出ポンプ24Aにより排出する。
【0086】
曝気装置20は、がスを噴出する多数の孔が開いた曝気管20Aが反応槽12の底部に配設され、曝気管20Aがブロアー20B及び切換えバルブ20Cを介して配管20Dにより窒素ボンベ及び大気に接続される。そして、反応槽12内を嫌気状態にする場合には、ブロアー20Bを稼働した状態で切換えバルブ20Cを窒素ボンベ側に切り換えて反応槽12内に窒素ガスを曝気する。窒素曝気量は0.1L/分以上となるようにし、嫌気状態での反応槽12内の溶存酸素(DO)を0mg/L近くまで低下させることが好ましい。
【0087】
また、反応槽12内を好気状態にする場合には、切換えバルブ20Cを大気側に切り換えて反応槽12内にエアーを曝気する。エアー曝気量は0.1L/分以上であることが好ましい。
【0088】
pHコントローラ22は、反応槽12内に酸(塩酸等の無機酸)又はアルカリ(カセイソーダ等)を添加して、リン放出槽内のpHを調整することにより、リン蓄積菌のリン放出を促進する。
【0089】
そして、上記の如く構成されたA/O SBR装置10の反応槽12に、下水処理場から採取した活性汚泥と、表2の合成廃水濃縮原液を水道水で希釈した原水とを投入してリン蓄積菌を集積培養するための馴養試験を行った。
【0090】
表2は合成廃水濃縮原液の組成であり、表3は表2に示す微量金属液の明細である。
【0091】
【表2】
【0092】
【表3】
【0093】
〈A/O SBR装置の運転条件〉
A/O SBR装置10の運転条件は次の通りである。
【0094】
・シーケンスサイクル…A/O SBR装置10の反応槽12内を、3時間の嫌気条件運転→2時間の好気条件運転→1時間の汚泥沈降・排水運転の合計6時間を1サイクルとした繰り返し運転を行った。
【0095】
・原水の供給…試験開始初期の10分で表2の合成廃水0.5Lを反応槽12内に供給すると共に水道水4.95Lを反応槽12内に供給して原液を希釈した。
【0096】
・原水の抜き取り…汚泥沈降・排水運転時に活性汚泥を沈降させた後、上澄液を5L抜き取った。
【0097】
・SRT(汚泥滞留時間)…10日
・水温とpH…運転中の水温を19〜23℃、pHを7(上限7.4)に管理した。
【0098】
〈水質分析結果〉
原水、嫌気条件運転での処理水、好気条件運転での処理水をそれぞれ採取し、PO-P(mg/L)とTOC(有機酸濃度)(mg/L)を測定し、リン除去率及びΔ+P/Δ-TOCを調べた。
【0099】
その結果、上記の運転条件で約1カ月運転することにより、PAOs型のリン蓄積菌を集積培養したPAOs汚泥を得ることができた。
【0100】
PO-Pの測定は、イオンクロマトアナライザー(ダイオネックス社製、ICS-1600)を使用した。また、TOCの測定は、TOCアナライザー(島津製作所製TOC-V)を使用した。なお、処理水は浮遊物質が若干混在しているため、処理水の測定に際して、0.45μmの孔径のフィルタで予め濾過した。
【0101】
(PAOs汚泥の包括固定化)
次に、上記の如く集積培養したPAOs汚泥を固定化材料に以下のように包括固定化した。
【0102】
表4は、包括固定化に使用した材料の基本組成である。なお、固定化材料としてポリエチレングリコール系プレポリマーを使用した。
【0103】
【表4】
【0104】
(PAOs担体の製造ステップ)
そして、固定化材料であるプレポリマーの材料濃度が8質量%になるように、以下のステップでPAOs担体を製造した。
【0105】
ステップ1…ポリエチレングリコール系プレポリマー8gを秤量し、蒸留水42mLを加えて溶解し、プレポリマー溶液を作成した。
【0106】
ステップ2…プレポリマー溶液に、5%のTEMED10mLと、PAOs汚泥30mL懸濁液を加えて混合し、混合液を作成した。
【0107】
ステップ3…混合液に、2.5質量%濃度の過硫酸カリウム液を10mL加え、直ちに角型シャーレーに流し込んだ。これにより、過硫酸カリウム液を加えてから30秒程度で重合してゲル化する。なお、混合液を作成した後は、薬剤や微生物との接触を防ぐために清浄な手袋を着手して行うことが好ましい。
【0108】
ステップ4…ゲル化したゲル化物を15分程度室温に放置した後、シャーレーから取り出して約3mm角に切断した。これにより、PAOs状態のリン蓄積菌を包括固定化したPAOs担体を得ることができた。
【0109】
ステップ5…最後に切断されたPAOs担体を水洗した。これにより、本発明の実施の形態の包括固定化担体を得ることができた。
【0110】
(PAOs担体の性能評価試験)
次に、図3で示したA/O SBR装置10を用いて、上記の如く製造された本発明の実施の形態の包括固定化担体であるPAOs担体の性能評価試験を行った。具体的には、A/O SBR装置10の反応槽12内に、上記製造されたPAOs担体を5%容積の充填率になるように充填した。そして、反応槽12に表2の合成廃水濃縮原液を水道水で希釈した原水を供給し、3時間の嫌気条件運転→2時間の好気条件運転の合計5時間を1サイクルとした運転を78日の長期に渡って行った。その他の水温、pH等の条件は汚泥馴養のときと同様である。
【0111】
なお、処理水は、3時間の嫌気条件運転中において6回採取し、2時間の好気条件運転中に4回採取し、処理水中に含有されるPO-P濃度(mg/L)を測定した。処理水の採取量は500mLとした。
【0112】
(PAOs担体の性能評価結果)
PAOs担体の評価結果を図4に示す。図4は運転開始0日目、19日目、33日目、58日目、78日目の嫌気条件運転時及び好気条件運転時における処理水のPO-P濃度のグラフである。図4から分かるように、A/O SBR装置10の運転開始時にはPAOs担体のPAOs活性が発現していないが、19日目からは活性が出始め、78日目では高い活性が見られた。即ち、上記の製造方法で製造されたPAOs担体は、嫌気性で高濃度のリンを放出し、好気性で高濃度のリンを摂取するPAOs型のリン蓄積菌であることが実証された。
【0113】
(立ち上げ試験)
表5は、A/O SBR装置10を用いてPAOs担体の立ち上げ試験を行った結果である。ただし、使用したPAOs担体は、下水処理場で採取した活性汚泥を集積培養せずに固定化材料の材料濃度が7質量%になるように包括固定化した未馴養の活性汚泥担体を使用した。
【0114】
立ち上げ試験におけるA/O SBR装置10の運転条件は、上記した「PAOs担体の性能評価試験」での運転条件と同様であり、3時間の嫌気条件運転→2時間の好気条件運転の合計5時間を1サイクルとした回分運転を278日の長期に渡って行った。
【0115】
そして、定期的に嫌気条件運転時の処理水を採取して、リン放出速度Δ+P(mg-P/L・h)及び有機酸摂取速度Δ-TOC(mg-TOC/L・h)を測定し、Δ+P/Δ-TOCを算出することにより、立ち上がりの時期を調べた。結果を表5に示す。
【0116】
【表5】
【0117】
表5から分かるように、運転日数30日程度から立ち上がり傾向が見られ、運転日数が61日でΔ+P/Δ-TOCが1.325になり完全に立ち上がった。その後、149日目でΔ+P/Δ-TOCが一時的に0.5未満になることもあったが、総じてPAOs型の反応を維持していた。
【0118】
ちなみに、下水処理場の活性汚泥を上述の如く馴養して集積培養したPAOs汚泥の立ち上げ試験では、運転開始10日目位で完全に立ち上がった(図5参照)。
【0119】
(種汚泥の検討)
上記の立ち上げ試験結果から分かるように、本発明の実施の形態の包括固定化担体を得る場合、包括固定化するためのリン蓄積菌の種汚泥としては、未馴養の活性汚泥よりも集積培養したPAOs汚泥を使用することが好ましい。
【0120】
しかしながら、包括固定化する種汚泥全てを集積培養したPAOs汚泥を使用することは、実装置規模の廃水処理装置に投入するPAOs担体の数量を考えたときに、大きな集積培養装置を必要とし現実的でない。
【0121】
図5は、A/O SBR装置10を用いて、集積培養したPAOs汚泥と未馴養の活性汚泥との混合比率と、立ち上げまでの日数を調べた試験結果のグラフである。A/O SBR装置10の運転条件は上記の「立ち上げ試験」と同様である。
【0122】
図5の横軸は、未馴養の活性汚泥に混合するPAOs汚泥の含有率を示し、縦軸は立ち上がるまでの日数を示す。
【0123】
図5のグラフから分かるように、PAOs汚泥100%を種汚泥としたときの立ち上げ日数は約10日と最も短い。しかし、PAOs汚泥が50%含有の種汚泥を使用した場合で13日、25%含有した場合で20日、10%含有した場合でも34日である。したがって、立ち上げ日数と集積培養装置のコンパクト化との兼ね合いを考えると、未馴養の活性汚泥に対するPAOs汚泥の含有率は、10〜50%の範囲であることが好ましく、25〜50%の範囲が特に好ましい。
【0124】
なお、上記説明は、包括固定化したPAOs担体のリン除去活性に関する性能評価を行ったものであるが、付着固定化(生物膜法)したPAOs担体の性能評価を合せて行った。
【0125】
付着固定化担体の性能評価は、包括固定化担体の場合と同様の、A/O SBR装置10(図3参照)、供試廃水(表2の合成廃水を参照)、装置運転条件を用いた。そして、PAOs汚泥2500mg/Lを200mL添加した1Lの反応槽内に、付着固定化のための固定化材料である(株)クラレ製のクラゲール(商品名)を5体積%となるように充填し、A/O SBR装置10の連続運転を行った。
【0126】
その結果、約80日間の連続運転を行うことによってΔ+P/Δ-TOC(mg−P/mg−TOC)が0.74程度となり、付着固定化(生物膜法)したPAOs担体の場合にも、包括固定化したPAOs担体と略同様のリン除去性能が発揮されることが分かった。また、付着固定化担体の場合には、包括固定化担体よりも比重を軽くすることが可能なため、反応槽での攪拌動力を低減できる可能性があることも分かった。
【0127】
本発明の廃水処理装置は、上記のA/O SBR装置10を用いて好気条件運転と嫌気条件運転を切り換える回分系での試験結果に基づいて、好気条件運転と嫌気条件運転を並行して行う連続系の廃水処理装置として構成したものであり、以下に詳しく説明する。なお、固定化担体として包括固定化したPAOs担体を使用した。
【0128】
[廃水処理装置の第1の実施の形態]
図6は、本発明の廃水処理装置の基本構成である第1の実施の形態を示す概念図である。
【0129】
図6に示すように、廃水処理装置100は、主として、廃水の本流ラインに設けられ、廃水と、リン蓄積菌がPAOs状態で包括固定化されているPAOs担体102とを好気条件下で接触させてリン蓄積菌内に廃水中のリンを摂取することにより廃水からリンを除去する廃水処理槽104と、本流ラインとは別に設けられ、リンを摂取したPAOs担体102と有機酸含有水とを接触させてリン蓄積菌から摂取したリンを放出させるリン放出槽106と、廃水処理槽104からPAOs担体102をリン放出槽106に引き抜く担体引抜手段101と、引き抜いたPAOs担体102をリン放出槽106から廃水処理槽104に戻す担体戻し手段103と、リン放出槽106におけるリン放出によって濃縮したリン濃縮液をリン放出槽106から排出するリン濃縮液排出手段105と、担体引抜手段101、担体戻し手段103、及びリン濃縮液排出手段105を制御する制御手段107と、で構成される。
【0130】
担体引抜手段101は、引抜き配管110と引抜きポンプ114とで構成され、引抜きポンプ114としては、PAOs担体102を損傷することなく輸送可能な例えばスネークポンプやエアリフトポンプを使用することが好ましい。
【0131】
なお、固定化担体として、付着固定化担体を使用する場合には、固定化材料に付着させたリン蓄積菌の生物膜が剥離しにくいエアリフトポンプがより好ましい。付着固定化担体の固定化材料としては、例えば、球状担体、筒状担体、紐状担体、ゲル状担体、不織布材料等のように表面積が大きく表面に凹凸の多い固定化材料を使用することができる。特に、筒内にリン蓄積菌の生物膜を形成することで廃水処理槽104とリン放出槽106との間の担体移動時に生物膜が剥離しにくい筒状担体が好ましい。
【0132】
担体戻し手段103は、戻し配管112で構成され、PAOs担体102を戻す動力としては、スネークポンプタイプの戻しポンプ113を設けてもよく、あるいは位置エネルギーを利用して戻し配管112内を流下させるようにしてもよい。図6では、戻しポンプ113を設けた例で示している。
【0133】
リン濃縮液排出手段105は、排出配管136と排出ポンプ137とで構成される。排出ポンプ137は液体を送液できるものであれば、どのようなタイプのポンプでもよい。
【0134】
そして、制御手段107は、引抜きポンプ114、戻しポンプ113及び排出ポンプ137のON−OFFを制御することによって、各ポンプを駆動させるタイミングを制御する。これにより、PAOs担体102がリン放出槽106でリンを放出する回数、及びPAOs担体102が廃水処理槽104でリンを摂取する回数を制御することができる。
【0135】
更には、PAOs担体102を廃水処理槽104に戻す際にPAOs担体102と一緒にリン濃縮液が廃水処理槽104に持ち込まれないようにすることができる。例えば、リン放出槽106から廃水処理槽104にPAOs担体を戻す場合、排出ポンプ137を駆動してリン放出槽106のリン濃縮液を除去してから、戻しポンプ113を駆動してPAOs担体102を廃水処理槽104に戻す。これにより、PAOs担体102と一緒にリン放出槽106のリン濃縮液が廃水処理槽104に持ち込まれることを防止できる。
【0136】
なお、図示しないが、リン放出槽106の底部にスキーマー装置を設けることが好ましい。これにより、リン放出槽106からのリン濃縮液除去によって、リン放出槽106の底部に溜まったPAOs担体102をスキーマー装置で掻き集めて戻し配管112の取り口に移動させることができる。
【0137】
また、廃水処理槽104には、少なくともリンを含有するリン含有廃水を供給する原水配管116が接続されると共に、廃水処理槽104で処理された処理水を排出する処理水配管118が接続される。これにより、原水配管116から廃水処理槽104を介して処理水配管118に至る廃水の本流ラインが形成される。
【0138】
廃水処理槽104の底部には、エアー曝気管120が配設され、エアー曝気管はエアー配管122によりブロアー124に接続される。また、エアー配管122にはエアー曝気量を調整するエアー調整バルブ122Aが設けられる。
【0139】
そして、廃水処理槽104には、PAOs担体102が充填され、好気性条件下で廃水と接触することによって、PAOs担体中のリン蓄積菌は廃水中のリンを過剰摂取する。廃水処理槽104に充填するPAOs担体の充填率としては例えば5〜20容積%が好ましい。
【0140】
廃水処理槽104においてリンを過剰摂取したPAOs担体102の一部は担体引抜手段101によってリン放出槽106に引き抜かれ、リン放出槽106においてリンを放出した後、担体戻し手段103によって再び廃水処理槽104に戻される。
【0141】
廃水処理槽104からリン放出槽106に引き抜くPAOs担体102の引抜き率は、制御手段107によって制御される。即ち、廃水処理槽104に充填されたPAOs担体の20〜40容積%、好ましくは30容積%を1日当たり引き抜くように制御される。
【0142】
図7は、リン放出槽106の構成の詳細を示す概念図である。
【0143】
図7に示すように、リン放出槽106には、有機酸供給配管128の一方端が接続され、他方端が有機酸供給タンク(図示せず)に接続される。有機酸供給配管128には、有機酸の供給量を調整する供給量調整バルブ128A及び供給ポンプ128Bが設けられる。有機酸供給タンクには、酢酸、プロピオン酸、酪酸等の有機酸薬品を所定濃度に調整した有機酸溶液が貯留される。これにより、リン放出槽106にPAOs担体102中のリン蓄積菌がリンを放出する際に摂取する有機酸を供給することができる。
【0144】
また、本発明の廃水処理装置100を下水処理場等の施設に適用する場合、下水処理場では余剰汚泥が発生するので、この余剰汚泥を発酵させて得た有機酸を使用することがコスト面等において有利である。したがって、廃水処理装置100に汚泥発酵処理装置を併設し、ここで製造した有機酸をリン放出槽106に配管等で供給することが好ましい。
【0145】
また、リン放出槽106には、窒素ガス注入配管126の一方端が接続され、他方端が窒素ガス供給タンク(図示せず)に接続される。また、窒素ガス注入配管126には、窒素ガスの供給量を調整する窒素ガス調整バルブ126A及び注入ポンプ126Bが設けられる。
【0146】
また、リン放出槽106の上部には、窒素ガス注入配管126からの窒素ガスを溜めるヘッドスペース106Aが設けられると共に、リン放出槽106の底部には窒素ガス曝気管130が設けられる。そして、ヘッドスペース106Aと窒素ガス曝気管130とが配管132で接続され、この配管132にブロアー134が設けられる。これにより、窒素ガス注入配管126からリン放出槽106のヘッドスペース106Aに供給された窒素ガスは、ブロアー134によって窒素ガス曝気管130からリン放出槽106内に上向きに曝気される。
【0147】
これにより、リン放出槽106に窒素ガスを供給し、リン放出槽106内を嫌気状態にすることができる。窒素ガスの供給量としては、窒素供給量は0.1L/分以上であることが好ましく、リン放出槽106内のDO(溶存酸素)が0mg/L近くになることが好ましい。なお上限についての制限はないが、費用との関係から1L/分以下に管理することが好ましい。
【0148】
更に、窒素ガス曝気管130からの窒素がスの供給によって、リン放出槽106内には上向流が形成され、PAOs担体102はリン放出槽106内で活発に流動し、有機酸供給配管128からリン放出槽106内に供給された有機酸と効率的に接触する。
【0149】
この場合、有機酸供給配管128から供給された有機酸をリン放出槽106内全体に均一化するために、リン放出槽106内に攪拌機143を設けることが好ましい。
また、図6では、リン放出槽106の底部に戻し配管112を接続させ、戻し配管112に戻しポンプ113を設けた図で示した。
【0150】
しかし、リン放出を終えたPAOs担体102は比重が軽くなる特性を利用して、リン放出槽106の液面からわずかに水没する位置に戻し配管112の取り口112Aを設けることもできる。そして、PAOs担体102を製造する際に、PAOs担体102がリンを過剰摂取した状態では廃水中で沈降し、リンを放出済みの状態では廃水中で浮き上がるように担体比重を設定する。例えば、リン過剰摂取状態の担体比重が1.03以上で、リン放出済みの担体比重が1.03よりも小さくなるように、PAOs担体102を製造する際の担体比重を設計することで実現可能である。
【0151】
そして、担体引抜手段101によりリン放出槽106に引き抜いたPAOs担体102のうちリン放出により軽くなり浮き上がったPAOs担体102を戻し配管112の取り口112Aに流入させて戻し配管112内を流下させる。これにより、リン放出槽106の連続的なリン放出運転が可能となり、リン放出槽106をコンパクト化することができる。例えば、1日当り、廃水処理槽104に充填されたPAOs担体量の30%をリン放出槽106に引き抜く場合、リン放出のためのリン放出槽106での滞留時間を3時間とすると、連続引き抜きを行うことにより8回の引き抜きを行うことができる。これにより、廃水処理槽104に充填されたPAOs担体量の30%を1日当り1回引き抜くバッチ運転に比べてリン放出槽106の容積を1/8にコンパクト化することができる。
【0152】
このように、戻しポンプ113を使用せずに戻し配管112内を流下させてPAOs担体102を廃水処理槽104に戻す場合には、リン放出槽106で生成されるリン濃縮液が廃水処理槽104に同伴されないようにすることが必要である。したがって、戻し配管112の途中にリン濃縮液とPAOs担体102とを分離する分離装置(図示せず)を設け、PAOs担体102のみを廃水処理槽104に流下させることが好ましい。
【0153】
このように構成されたリン放出槽106では、廃水処理槽104から引き抜かれたPAOs担体102と有機酸とを嫌気性条件下で接触させることによってPAOs担体102からリンを放出する。リン放出のための嫌気時間、即ち廃水処理槽104からPAOs担体102をリン放出槽106に引き抜いて再び廃水処理槽104に戻すまでの時間としては3時間以上であることが好ましい。
【0154】
また、リン放出槽106には、上記したように、リン放出で濃縮したリン濃縮液をリン放出槽106から排出するリン濃縮液排出手段105が設けられ、リン濃縮液はリン回収手段138に送液される。リン回収手段138は、リン濃縮液から物理的又は化学的にリンを回収する手段を使用することができる。
【0155】
リン濃縮液排出手段105によりリン放出槽106からリン濃縮液を排出するタイミングとしては、リン放出槽106内のリン濃度が50〜300mg/Lの範囲になったときが好ましい。リン回収手段138でリンが回収された回収処理水は、放流配管139により放流してもよくあるいは廃水処理槽104に戻すようにしてもよい。
【0156】
なお、リン放出槽106内においてPAOs担体102のリン放出を行う水としては、廃水処理槽104からPAOs担体を引き抜くときに同伴される廃水を使用してもよく、あるいはリン放出槽106に水道水配管や工業水配管を別途接続して水道水や工業用水を使用するようにしてもよい。ただし、廃水処理槽104の廃水が硝酸や亜硝酸を含む場合には、リン放出槽106でのリン放出に悪影響があるので、水道水や工業水を使用することが好ましい。廃水処理槽104の廃水が硝酸や亜硝酸を含む場合の対策としては、本発明を活性汚泥循環変法に適用した第2の実施の形態で説明する。
【0157】
図8は、リン放出槽106におけるPAOs担体102の最適充填率(容積%)について示した図である。
【0158】
図8から分かるように、リン放出槽106での担体充填率が増大するとリン濃縮倍率が向上する。具体的には、担体充填率が約25%まではリン濃縮倍率が8程度まで急激に上昇し、その後は緩やかに上昇して、担体充填率が50%でリン濃縮倍率が10に達する。
【0159】
一方、リン放出槽106内でPAOs担体102を流動させるための撹拌動力(例えばブロアー134と攪拌機135の使用電力)は、担体充填率が40%以下では20〜30W/mの低電力で推移する。しかし、担体充填率が40%を超えると撹拌動力が急激に増大し、担体充填率50%では、攪拌動力が約90W/mに達する。
【0160】
したがって、リン放出槽106におけるPAOs担体102の最適充填率は20〜40%の範囲が好ましく、特には25〜40%の範囲が好ましい。
【0161】
図9は、リン放出槽106に供給する有機酸の適切な供給量を調べたものであり、有機酸として酢酸を使用した場合である。
【0162】
図9の横軸にリン放出槽106における有機酸摂取速度ΔTOCとリン酸放出速度ΔPの比であるΔ+P/Δ-TOC(mg-P/mg-TOC)を示し、縦軸に廃水処理槽104におけるリン(PO-P)除去率(%)を示す。
【0163】
図9から分かるように、リン放出槽106のΔ+P/Δ-TOCを大きくしていくと、廃水処理槽104のリン除去率も上昇する。そして、リン放出槽106のΔ+P/Δ-TOCが約0.2のときに廃水処理槽104のリン除去率が50%になり、リン放出槽106のΔ+P/Δ-TOCが約0.5のときに廃水処理槽104のリン除去率がピークの約80%になる。ピーク状態はリン放出槽106のΔ+P/Δ-TOCが約1.0になるまで続き、その後次第に減少し、リン放出槽106のΔ+P/Δ-TOCが約1.5でリン除去率が約50%になる。
【0164】
この結果から、リン放出槽106に供給する酢酸の供給量は、Δ+P/Δ-TOCが0.2〜1.5(mg-TOC/mg-P)になるように制御することによって、廃水処理槽104におけるリン除去率を高めることができる。特に好ましくは、リン放出槽106のΔ+P/Δ-TOCの範囲は0.5〜1.0(mg-P/mg-TOC)である。
【0165】
したがって、図10に示すように、リン放出槽106に、リン濃度モニタリング装置140及び酢酸濃度モニタリング装置142と、有機酸供給配管128に設けた供給量調整バルブ128Aを制御する調整手段144とを設けることが好ましい。これにより、リン濃度モニタリング装置140及び酢酸濃度モニタリング装置142でモニタリングされた結果に基づいて、調整手段144はリン放出槽106のΔ+P/Δ-TOCが0.2〜1.5(好ましくは0.5〜1.0)になるように有機酸の供給量調整バルブ128Aを自動調整するように構成することができる。
【0166】
リン濃度モニタリング装置140としては、例えばセントラル科学(株)のTresCon OP210型を使用することができる。酢酸濃度モニタリング装置としてはTOC計を代用し、(株)島津製作所のON−LINE TOC−Vを使用することができる。
【0167】
[廃水処理装置の第2の実施の形態]
図11は、本発明を、活性汚泥循環変法に組み込んだ場合の廃水処理装置200の一例である。
【0168】
活性汚泥循環変法の装置は、嫌気性な脱窒槽146と好気性な硝化槽148とで廃水の本流ラインが構成される。そして、少なくともアンモニアとリンを含有する廃水が原水配管150から脱窒槽146を介して硝化槽148に流入する。硝化槽148では、廃水中のアンモニアが活性汚泥中の硝化菌により硝化処理されて硝酸に変える。硝化槽148で硝化処理された硝化液の一部が硝化液循環配管152を介して脱窒槽146に戻り、活性汚泥中の脱窒菌により脱窒処理されて硝化菌が窒素ガスに変わる。これにより、廃水中のアンモニアを除去することができる。
【0169】
第2の実施の形態の廃水処理装置200は、硝化槽148が図6で説明した廃水処理槽104に該当するので、硝化槽148内にPAOs担体102を充填する。したがって、廃水処理装置200は、脱窒槽146と硝化槽148とでアンモニアを処理しながら、硝化槽148とリン放出槽106とでリン除去処理を行う構成である。その他のリン放出槽106等の装置構成は図6及び図7で示したものと同じであり、図11では一部の構成を省略して示してある。
【0170】
図11に示す廃水処理装置200を用いて、有機物(BOD)、アンモニア、及びリンを含有する廃水を処理した。
【0171】
(廃水の水質)
処理した廃水の水質は以下の通りである。
【0172】
・BOD …120〜150mg/L
・リン(PO-P) …6〜10mg/L
・アンモニア(NH-N)…32〜40mg/L
(装置の運転条件)
・脱窒槽の滞留時間…4時間
・硝化槽の滞留時間…5時間
・活性汚泥濃度(MLSS)…2400〜3140mg/L
・廃水の水温…20〜25℃
・硝化槽のPAOs担体の充填率…5容積%(PAOs担体の容積として10L)
そして、硝化槽148のPAOs担体102を毎日1回30%引き抜いてリン放出槽106に送った。このときのリン放出槽106のPAOs担体102の充填率は40容積%であった。
【0173】
リン放出槽106には、調整手段144によりΔ+P/Δ-TOCが0.8〜1.1の範囲になるように酢酸を供給しながら、嫌気条件で3時間に渡ってPAOs担体102からリンを放出させた。3時間後にリンを放出したPAOs担体102を再び硝化槽148に戻した。
【0174】
そして、硝化槽148からの処理水配管118から処理水を定期的に採取してBOD濃度、トータル窒素濃度、リン濃度を測定した。
【0175】
その結果、BOD濃度が15mg/L以下、トータル窒素濃度が10mg/L以下、リン濃度が2mg/L以下となり、BOD、アンモニア、リンともに効率的に除去できた。
【0176】
同じ廃水処理装置200を用いて、硝化槽148にPAOs担体102を投入しない系で同様に行ったところ、BOD濃度、トータル窒素濃度は同様の結果であったが、リン濃度が5〜9mg/Lであり、目標の3mg/L以下にならなかった。
【0177】
なお、図11では、PAOs担体102を、硝化槽148内に滞留させるようにしたが、硝化槽(好気性槽)148と脱窒槽146(嫌気性槽)との間で循環させることが一層好ましい。これにより、リン除去性能を向上することができる。
【0178】
[廃水処理装置の第2の実施の形態の変形例]
図12は、本発明の廃水処理装置の第2の実施の形態の変形例である。
【0179】
本発明を活性汚泥循環変法に適用した場合には、PAOs担体102をリン放出槽106に引き抜く硝化槽148には、硝化反応によって生成された硝酸及び亜硝酸が生成されている。したがって、PAOs担体102を硝化槽148内の廃水(硝化液)と一緒に引き抜くとリン放出槽106には硝酸及び亜硝酸が持ち込まれることになり、リン放出槽106の嫌気状態が悪くなる。
【0180】
図12は、図11の廃水処理装置200におけるリン放出槽106のリン放出効率を高めるように改良されたものである。
【0181】
図12に示すように、硝化槽148からリン放出槽106にPAOs担体102を引き抜く引抜き配管110の途中に、PAOs担体102と一緒にリン放出槽106に持ち込まれる硝酸(亜硝酸も含む)を除去する硝酸洗浄装置154を設けた。なお、図12では、図11との違いとして、排出配管136の途中に、マイクロストレーナ141を設けるようにした。
【0182】
図13は、硝酸洗浄装置154の一例であり、引抜き配管110の途中に洗浄容器154Aが設けられ、引抜き配管110の洗浄容器154A下側と上側には、それぞれ第1の開閉バルブ154B及び第2の開閉バルブ154Cが設けられる。また、洗浄容器154Aと第1の開閉バルブ154Bとの間の引抜き配管110には、水道水を供給する水道水配管154Dが接続され、水道水配管154Dに第3の開閉バルブ154Eが設けられる。
【0183】
また、洗浄容器154Aには洗浄排水を硝化槽148に戻す洗浄排水配管154Fが設けられ、この洗浄排水配管154Fに第4の開閉バルブ154Gが設けられる。更に、洗浄容器154Aの洗浄排水配管154Fの流入口にはPAOs担体102が通過しない孔径の金網154Hが設けられる。
【0184】
そして、硝化槽148からPAOs担体102を引き抜く場合には、第1の開閉バルブ154Bと第4の開閉バルブ154Gを開き、第2の開閉バルブ154Cと第3の開閉バルブ154Eを閉じる。この状態で引き抜きポンプ114(図6参照)を駆動して硝化槽148内のPAOs担体102を引き抜く。
【0185】
これにより、硝化液と一緒に引き抜かれたPAOs担体102は洗浄容器154Aに溜まり、廃水のみが洗浄排水配管154Fを介して硝化槽148に戻される。
【0186】
洗浄容器154A内にPAOs担体102が溜まったら、引き抜きポンプ114を停止すると共に第1の開閉バルブ154Bと第4の開閉バルブ154Gを閉じる。そして、第2の開閉バルブ154Cと第3の開閉バルブ154Eを開け、水道水配管154Dから洗浄容器154Aに水道水を送り込む。これにより、洗浄容器154Aに溜まったPAOs担体102が水道水に同伴されてリン放出槽106に送られる。したがって、硝化槽148の硝酸や亜硝酸がリン放出槽106に持ち込まれることを防止できる。
【0187】
また、洗浄容器154A内にPAOs担体102が溜まったら、引き抜きポンプ114を停止すると共に第1の開閉バルブ154Bを閉じ、第3の開閉バルブ154Eを開けることで、洗浄容器154A内のPAOs担体102を水道水で洗浄することができる。洗浄後の水道水は洗浄排水配管154Fを通って硝化槽148に流入する。そして、水道水洗浄後に、第4の開閉バルブ154Gを閉じて第2の開閉バルブ154Cを開ければ、水道水で洗浄したPAOs担体102をリン放出槽106に送ることができ、リン放出槽106への硝酸及び亜硝酸の持ち込みを更に確実に防止できる。
【0188】
このように、硝酸洗浄装置154を具備することにより、硝化槽148からリン放出槽106に持ち込まれる硝酸や亜硝酸を防止することができるので、リン放出槽106を完全嫌気状態にすることができ、硝酸や亜硝酸が持ち込まれることによるpHの低下もなくなる。したがって、リン放出槽106におけるリンの放出効率を一層向上させることができる。
【0189】
ちなみに、引抜き配管110に図13の硝酸洗浄装置154を具備し、第2の実施の形態と同じ条件で廃水処理を行った。その結果、硝化槽148からの処理水中のリン濃度を1mg/L以下まで低下させることができ、硝酸洗浄装置154の効果を確認することができた。
【0190】
なお、上記の実施の形態では、PAOs担体102を廃水処理槽104から引き抜くようにしたが、例えば、図6の処理水配管118に担体トラップ装置を設け、そこから引き抜くようにすることもできる。
【0191】
また、図11及び図12では、硝化槽148に担体としてPAOs担体102のみを投入したが、硝化菌の包括固定化担体を投入してもよい。この場合、PAOs担体102のみをリン放出槽106に引き抜かなくてはならず、引抜き配管110の途中にPAOs担体102と硝化担体とを比重差で分離する分離手段を設けるとよい。
【0192】
また、脱窒槽146には担体を投入していないが、嫌気性アンモニア酸化細菌の包括固定化担体を投入してもよい。
【符号の説明】
【0193】
10…A/O SBR装置、12…反応槽、14…原液供給配管、16…水道水供給配管、18…有機酸供給配管、20…曝気装置、22…pHコントローラ、24…処理水排出配管、100、200…廃水処理装置、101…担体引抜手段、102…PAOs担体、103…担体戻し手段、104…廃水処理槽、105…リン濃縮液排出手段、106…リン放出槽、107…制御手段、110…引抜き配管、112…戻し配管、113…戻しポンプ、114…引抜きポンプ、118…処理水配管、120…エアー曝気管、122…エアー配管、124…ブロアー、126…窒素ガス注入配管、128…有機酸供給配管、130…窒素ガス曝気管、136…排出配管、137…排出ポンプ、138…リン回収手段、140…リン濃度モニタリング装置、142…酢酸濃度モニタリング装置、143…攪拌機、144…調整手段、146…脱窒槽、148…硝化槽、150…原水配管、152…硝化液循環配管
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13