(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記遅延時間決定部は、前記候補遅延時間の中で、前記深部成分と前記浅部成分との分離の度合いを示す分離度が最大となる前記候補遅延時間を、最適な遅延時間と決定すること
を特徴とする請求項1記載の生体光計測装置。
前記遅延時間決定部は、前記深部成分と前記浅部成分との分離の度合いを示す分離度が最大となる候補遅延時間の近傍の予め定めた時間範囲の予め定めた1以上の時間をさらに候補遅延時間とし、それぞれについて前記分離度を算出し、当該分離度が最大となる前記候補遅延時間を、最適な遅延時間と決定すること
を特徴とする請求項1記載の生体光計測装置。
前記遅延時間決定部は、ユーザから少なくとも1つの前記候補遅延時間の入力を受け付け、当該候補遅延時間の前記深部成分と前記浅部成分との分離の度合いを示す分離度を算出して前記表示部に表示すること
を特徴とする請求項1記載の生体光計測装置。
前記データ処理部は、前記浅部成分の分布の指標と前記深部成分の分布の指標との差より、前記深部成分および前記浅部成分との分離の度合いを示す分離度を算出し、前記表示部に当該分離度を表示すること
を特徴とする請求項1記載の生体光計測装置。
前記表示データ生成部は、決定した遅延時間を用いて分離した結果を表示する際、分離前の脳血流信号、皮膚血流信号が混合している波形、分離後の脳血流信号による波形、および皮膚血流信号による波形が比較表示されるよう前記表示データを生成すること
を特徴とする請求項1記載の生体光計測装置。
前記遅延時間決定部は、前記候補遅延時間の中で、前記深部成分と前記浅部成分との混合の度合いを示す混合度が最小となる前記候補遅延時間を、最適な遅延時間と決定すること
を特徴とする請求項1記載の生体光計測装置。
前記遅延時間決定部は、前記深部成分と前記浅部成分との混合の度合いを示す混合度が最小となる候補遅延時間の近傍の予め定めた時間範囲の予め定めた1以上の時間をさらに候補遅延時間とし、それぞれについて前記混合度を算出し、当該混合度が最小となる前記候補遅延時間を、最適な遅延時間と決定すること
を特徴とする請求項1記載の生体光計測装置。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を適用する実施形態について説明する。なお、発明の実施形態を説明するための全図において、同一機能を有するものは、明示しない限り同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0014】
最初に、本実施形態の生体光計測装置について説明する。生体光計測装置は、近赤外光を生体内に照射し、生体の表面近傍から反射或いは生体内を通過した光(以下、単に通過光という)を検出し、光の強度に対応する電気信号を発生する装置である。この生体光計測装置100は、
図1に示すように、近赤外光を照射する光源部110と、通過光を計測し、電気信号に変換する受光部120と、光源部110及び受光部120の駆動を制御するとともに、受光部から出力されたデータを処理する制御部140と、を備える。
【0015】
光源部110は、被検体190上の予め定められた照射点に光を照射する。光源部110は、所定の波長の光を放射する半導体レーザ111と、半導体レーザ111が放射する光を複数の異なる周波数で変調する変調器をそれぞれ備える複数の光モジュール112とを備える。光モジュール112は、例えば、照射点の数だけ設けられる。各光モジュール112からの出力光は、それぞれ光ファイバ130(照射光用光ファイバ131)を介して被検体190の所定の計測領域に照射される。
【0016】
照射は、被検体190に取り付けられるプローブホルダ150の各プローブを介して行われ、予め定められた複数の照射点から被検体190の所定の領域に光を照射する。光ファイバ130は、プローブホルダ150に固定される。プローブホルダ150は、被検体190の例えば、頭部に固定される。
【0017】
光源部110から出力される光の波長は、生体内の注目物質の分光特性に応じたものとする。例えば、ヘモグロビン(Hb)と酸素化ヘモグロビン(HbO
2)の濃度から、酸素飽和度や血液量を計測する場合は、600nm〜1400nmの波長範囲の光の中から1あるいは複数波長選択して用いる。
【0018】
例えば、測定対象を、酸素化ヘモグロビン(HbO
2:oxyHb)と脱酸素化ヘモグロビン(deoxyHb)の2種類とする場合、光源部110は、この2種類の測定対象に対応する、2種類の波長、例えば780nm及び830nmの光を発生するように構成される。これら2種類の波長の光は照射点で合成され、プローブホルダ150の一つの光照射位置から照射される。
【0019】
受光部120は、計測領域の複数の計測箇所から光ファイバ130(受光用光ファイバ132)を介して誘導された通過光を受光し、デジタルデータとして制御部140へ出力する。本実施形態では、照射点に照射され、被検体190内部を伝播した光を、被検体190上の予め定めた複数の受光点において受光し、測定データとして出力する。受光は、プローブホルダ150上の、各照射点に対応する受光点において行う。
【0020】
本実施形態では、後述のようにTDD-ICA法を用い、測定データを、脳血流(深部成分)と、皮膚血流(浅部成分)とに分離する。このTDD-ICA法では、1の照射点から照射された光を、当該照射点からの距離(SD距離:Source Detector距離)が異な
る少なくとも2つの受光点で受光する。本実施形態では、SD距離の異なる2つの受光点で受光する場合について説明するが、受光点・照射点が複数存在して、SD距離の異なる複数の測定データを得る構成であれば良い。
【0021】
以下、照射点からの距離が長い方の受光点を長受光点、照射点からの距離が、長受光点より短い方の受光点を短受光点と呼ぶ。また、短受光点で受光した信号から得た測定データを短測定データ、長受光点で受光した信号から得た測定データを長測定データと呼ぶ。
【0022】
上記複数のSD距離を実現するプローブホルダ150内の、光源部110および受光部120に接続される各プローブ151の配置例を説明する。
図2は、配置例を説明するための図である。
【0023】
本実施形態では、深部血流成分と浅部血流成分を分離するために、複数のSD距離による計測を実現するよう、かつ、受光する光が灰白質及び頭皮をともに伝播するよう、各々の照射点151ap、短受光点151bp、および長受光点151cpは配置される。具体的には、
図2に示すように、各プローブ151は、格子状に配置される。図中▲は、光源部110に接続される照射光用光ファイバ131に接続されるプローブ151aであり、上記照射点151apである。また、図中■および●は、受光部120に接続される受光用光ファイバ132に接続されるプローブ151b、151cであり、それぞれ、上記短受光点151bp、および長受光点151cpである。
【0024】
なお、プローブホルダ150上の、照射点151apとそれぞれの短受光点151bpおよび長受光点151cpとの間の点を計測点と呼ぶ。また、照射点151ap毎に、2つの受光点(短受光点151bpおよび長受光点151cp)で受光し、その結果から、それぞれ、深部成分および浅部成分を得る。本実施形態では、1組の深部成分および浅部成分を得る、照射点151ap、短受光点151bpおよび長受光点151cpの組を、測定チャンネルと呼ぶ。
【0025】
本実施形態では、受光部120は、
図1に示すように、測定チャンネル毎に、長受光点用の受光部
120-1と、短受光点用の受光部
120-2とをそれぞれ備える。
【0026】
なお、本実施形態の各受光部120は、各短受光点151bpおよび長受光点151cp、で受光した信号から各測定データを得るため、受光した光を、それぞれ光量に対応する電気量に変換するフォトダイオード等の光電変換素子121と、光電変換素子121から電気信号を受信して光照射位置に対応した変調信号を選択的に検出するロックインアンプ122と、ロックインアンプ122の出力信号をデジタル信号に変換するA/D変換器123とを備える。
【0027】
光電変換素子121は、それぞれ、長受光点の数、短受光点の数
が設けられる。ロックインアンプ122は、プローブホルダ150の照射点151ap毎の、上記二波長に対応した変調信号を選択的に検出する。検出される変調信号は、ヘモグロビン量の変化を示す。
このため、この変調信号をヘモグロビン量変化信号と呼ぶ。すなわち、出力される短測定データおよび長測定データは、それぞれ、ヘモグロビン量変化信号である。なお、この「ヘモグロビン量」は、「酸素化ヘモグロビン量」と「脱酸素化ヘモグロビン量」とを含む。
【0028】
制御部140は、
図1に示すように、受光部120が出力する短測定データおよび長測定データに対して処理を行うデータ処理部400を備える。データ処理部400は、受光部120から受信した短測定データおよび長測定データを処理し、表示データを作成する。
【0029】
短測定データおよび長測定データがヘモグロビン量変化信号である場合、作成する表示データは、例えば、脳血流成分および皮膚血流成分それぞれの、酸素化ヘモグロビン(oxyHb)濃度変化、脱酸素化ヘモグロビン(deoxyHb)濃度変化、および総ヘモグロビン(TotalHb)濃度変化を、測定チャンネル毎に示すグラフや、これらを被検体190の二次元画像上にプロットした画像である。
【0030】
本実施形態では、データ処理部400は、長測定データおよび短測定データの少なくとも一方に所定の遅延時間Tを付与した後、独立成分解析(ICA)を行い、分離成分を抽出し(TDD-ICA処理)、抽出した分離成分を再構成することにより、深部成分と浅部成分とに分離する。
【0031】
このため、本実施形態のデータ処理部400は、
図3に示すように、TDD-ICA処理を行う解析部410と、この時用いる最適な遅延時間(最適遅延時間)を決定する遅延時間決定部420と、最適遅延時間を付与することにより得た深部成分および浅部成分とから、表示データを生成する表示データ生成部430と、を備える。
【0032】
なお、
図1に示すように、本実施形態の制御部140には、データ処理部400による処理結果、例えば、作成した画像を表示する表示部142と、データ処理部400の処理に必要なデータや処理結果を記憶するための記憶部143と、生体光計測装置100の動作に必要な種々の指令を入力するための入力部141とが接続される。
【0033】
また、制御部140が実現する各機能は、記憶部143に予め格納されたプログラムを、制御部140が備えるCPUが、メモリにロードして実行することにより実現される。
なお、PLD(Programmable Logic Device)等のハードウェアにより実現されてもよい。
【0034】
ここで、解析部410が行うTDD-ICA処理の説明に先立ち、2つのSD距離で受光した結果から脳深部成分と浅部成分とに分離する原理を説明する。2つのSD距離で受光する場合の計測断面の例を
図4に示す。短受光点151bpおよび長受光点151cpを、それぞれ、SD距離15mm(短SD距離)と30mm(長SD距離)に配置する。光源部110から照射点151apを介して照射される光300は、頭皮上から入射され、組織内において四方八方に伝播する。短受光点151bpで受光する光300(301)は、長受光点151cpで受光する光300(302)に比べて、平均的に浅い部分を透過する。
【0035】
組織中の平均光路長が異なることにより、頭部各層における部分平均光路長が変化する。SD距離がおよそ10mm以上40mm以下であれば、頭皮の部分光路長にはSD距離依存性は小さいが、灰白質にはほぼ線形的なSD距離依存性があることが知られている。
また、送信する光に近赤外光(Near InfraRed)を用いる近赤外分光法(Near‐InfraRed Spectroscopy:NIRS)では、NIRS信号強度は血流変化が同じであれば、血流変化が生じる部位の部分光路長に比例する。このため、SD距離が大きくなると、NIRS計測信号における脳由来成分(脳血流)は大きくなるが、皮膚由来成分(皮膚血流)は変化しないことが予想される。
【0036】
すなわち、短測定データには、光の伝播路に脳が、長測定データほど含まれない。従って、短測定データ、長測定データ、脳血流および皮膚血流の関係は、以下の式(1)、式(2)で表される。
【0037】
長測定データ=皮膚血流+脳血流(多)・・・(1)
短測定データ=皮膚血流+脳血流(少)・・・(2)
よって、脳血流を、式(1)および式(2)から、長測定データから短測定データを減算することにより得る方法もある。
【0038】
ICA法では、2つ以上の測定データから、皮膚血流および脳血流をそれぞれ独立成分として抽出する。ICA法は、複数の測定点で受光した結果の信号から複数の独立成分を抽出し、それらを脳由来成分もしくは皮膚由来成分に分離する方法であり、先験情報無しに、線形混合された信号を分離することができる解析手法である。信号源が複数あり、多点計測されたデータの解析に有効とされる。
【0039】
このとき、取得する複数の測定データのSD距離は等距離でも良いが、測定データに長SDデータ及び短SDデータの両方を含む方法であれば、特許文献1に開示の方法を用いて寄与率計算を行なうことにより、より精度よく分離することが可能となる。
【0040】
解析部410が実行するTDD―ICA処理は、深部成分と浅部成分とを分離するICA法において、異なる2つのSD距離で計測した複数のデータを用いて、少なくとも一方のデータに遅延時間を与えて処理することで、精度を高めたものである。
【0041】
TDD-ICA処理では、独立成分を抽出するため、複数の時間差を考慮した各信号間の2次相関が全て0となるよう、主成分を繰り返し回転させる。2次相関を全て0とするとは、各時間差に対応する複数の共分散行列を同時に対角化することである。複数の時間差は、与えられた遅延時間Tを、予め定めた数に分割することにより得る。
【0042】
図5は、本実施形態の解析部410が実行するTDD-ICA処理を説明するための図である。解析部410は、まず、短測定データ512および長測定データ511に対し、主成分解析(PCA:Principal Component Analysis)を行い、主成分C
1、C
2に分離する。
【0043】
そして、主成分C
1、C
2の少なくとも一方に、1または複数の遅延量を与える。与える遅延量は、与えられた遅延時間TをK(Kは1以上の整数)分割して得た単位遅延時間dtを用い、k×dt(k=0、1、2、・・・K)で表される。なお、遅延時間Tは、予め記憶部143に記憶される。そして、遅延量が付与された主成分C
1、C
2を独立成分分析により相関行列にし、同時対角化し、2つの成分に分離する。この操作をデータ解析とし、データ解析によってここで得られる2つの分離成分を、それぞれ、第一分離成分521、第二分離成分522と呼ぶ。
【0044】
詳細は特許文献1に記載があるが、解析部410は、データ解析後の第一分離成分521および第二分離成分522に対し、再構成処理を行い、深部血流波形(深部成分)531および浅部血流波形(浅部成分)532に分離する。再構成処理においては、分離後の第一分離成分521および第二分離成分522の、深部寄与率を計算する。深部寄与率は、各分離成分521、522が、深部血流に寄与する割合を示す値である。この深部寄与率を用い、解析部410は、深部血流波形531を算出し、測定波形(全体成分)から、深部血流波形531を減算し、浅部血流波形532を算出する。
【0045】
なお、解析部410は、上記TDD-ICA処理を、測定チャンネル毎の長測定データ511および短測定データ512に対して行う。
【0046】
遅延時間決定部420は、上述のように、得られた長測定データおよび短測定データの少なくともいずれか一方に付与する、最適な遅延時間(最適遅延時間)Tbestを決定する。本実施形態では、遅延時間決定部420は、予め複数の候補遅延時間Tを用意し、解析部410に、各遅延時間を付与した場合の、深部成分531および浅部成分532を算出させる。そして、その結果を用い、深部成分531と浅部成分532との分離の度合いを示す指標として分離度を算出する。そして、候補遅延時間Tの中から最適遅延時間Tbestを決定する。本実施形態では、分離度が最大となる候補遅延時間Tを、最適遅延時間Tbestと決定する。
【0047】
分離度は、前記処理結果の良し悪しを判断する指標である。本実施形態では、分離度に、例えば、広域性係数を用いる。広域性係数は、例えば全チャンネルのヘモグロビン変化の二乗平均平方根(root mean square:RMS)の平均値を標準偏差で割ったものとして定義される。分離度は、深部成分と浅部成分の広域性係数の差として算出する。これは、浅部血流波形で示される皮膚血流は、全体的に同じ動きをするため、広域性が高く、深部血流波形で示される脳血流は、部分的に活動するため、広域性が低いことを利用するものである。
【0048】
なお、分離度は、酸素化ヘモグロビン(oxyHb)の深部成分および浅部成分から算出してもよいし、脱酸素化ヘモグロビン(deoxyHb)の深部成分および浅部成分から算出してもよいし、両方の深部成分および浅部成分から算出してもよい。いずれから算出するか、選択可能なように構成してもよい。また、他の生体信号、例えば、LDF(Laser Doppler Flowmeter:レーザドップラ血流計)の測定結果を用い、浅部成分との相関などから算出するよう構成してもよい。
【0049】
さらに、分離度は、被検体が繰り返し課題を遂行する場合には、深部信号または浅部信号の課題同期性を用いて算出してもよい。その場合は、例えば深部信号において、試行毎に時系列データを分割し、試行回から2試行を選ぶ全ての組み合わせにおける相関係数の平均を課題同期性として算出する。課題再現性の高い深部信号を得るために特に有効である。
【0050】
さらに、深部信号または浅部信号の,酸素化,脱酸素化ヘモグロビン変化(oxyHb、deoxyHb)間の相関関係を利用して分離度を算出してもよい。その場合は、例えば深部信号と浅部信号における酸素化、脱酸素化ヘモグロビン変化(oxyHb、deoxyHb)間の相関係数の差を分離度として算出する。酸素化ヘモグロビン変化と脱酸素化ヘモグロビン変化が正の相関を示す場合が報告されている全身性信号等を分離するために特に有効である。
【0051】
さらに、ヘモダイナミックレスポンスファンクション(Hemodynamic response function)から推定される波形と深部信号もしくは浅部信号との相関係数で分離度を算出しても良い。その場合、例えば、ヘモダイナミックレスポンスファンクションと期間の矩形波との畳みこみ(コンボリューション)により脳活動波形を推定する。
【0052】
以上の分離度算出方法は、ユーザが選択できるようにしてもよく、複数の算出方法で同時に解析するようにしても良い。
【0053】
なお、遅延時間決定部420は、算出した分離度を候補遅延時間Tに対応付けて記憶部143に記憶する。算出結果をユーザに提示、すなわち表示部142に表示するように構成してもよい。この場合の表示画面(分離度表示画面600)例を
図6に示す。
【0054】
図6に示すように、分離度表示画面600は、候補遅延時間表示領域601と、各候補遅延時間Tの分離度を表示する分離度表示領域602と、を備える。ここでは、一例として、予め定めた候補遅延時間が、3、5、10、20、30秒の場合を示す。分離度表示領域602には、酸素化ヘモグロビン濃度変化(oxyHb)に関する分離度のみを表示してもよいし、さらに、脱酸素化ヘモグロビン濃度変化(deoxyHb)と、総ヘモグロビン濃度変化(Total)と、のそれぞれの分離度を表示してもよい。また、最もよい分離度(最大値)を示す候補遅延時間および分離度の組の表示態様を、他と識別可能なように変えて表示してもよい。
【0055】
表示データ生成部430は、遅延時間決定部420が決定した最適遅延時間Tbestを付与することにより、前記解析部410が得た深部成分531および浅部成分532から、表示部142に表示する表示データを生成する。表示データは、分離前の脳血流信号、皮膚血流信号が混合している波形、分離後の脳血流信号による波形、および皮膚血流信号による波形を比較表示するもので、分離前の成分、深部成分531および浅部成分532それぞれの波形のうち、少なくとも1つの波形と、最適遅延時間Tbestとを含む。また、深部成分531の、全体に対する割合をさらに含んでもよい。分離前の成分の波形は、長測定データ511から生成する。
【0056】
この場合、表示データ生成部430により生成され、表示部142に表示される結果表示画面700の例を
図7に示す。
【0057】
図7に示すように、結果表示画面700は、各成分の波形を表示する波形表示欄701と、深部成分の全体に対する割合を表示する割合表示欄702と、最適遅延時間Tbestを表示する情報表示欄703とを備える。
【0058】
図7においては、波形表示欄701には、測定チャンネル毎の深部成分の波形(深部血流波形711)と、浅部成分の波形(浅部血流波形712)と、分離前の波形として、長測定データから得た波形(総血液量713)が表示される。すなわち、複数の照射点、短受光点および長受光点の組で受光したそれぞれの短測定データおよび長測定データから得た深部成分および浅部成分毎に、表示データが生成され、波形表示欄701に表示される。波形表示欄701は、長測定データ計測点、もしくは短測定データ計測点の位置に合わせ、マップ表示するよう配置されてもよい。
【0059】
また、割合表示欄702には、酸素化ヘモグロビン(oxyHb)および脱酸素化ヘモグロビン(deoxyHb)毎に、深部成分の割合を、測定チャンネル毎に表示する。表示は、酸素化ヘモグロビン(oxyHb)および脱酸素化ヘモグロビン(deoxyHb)のいずれか一方であってもよい。表示する対象を選択可能なよう構成してもよい。
【0060】
情報表示欄703には、最適遅延時間として採用した候補遅延時間と、その分離度とを表示する。
【0061】
次に、上記遅延時間決定部420による遅延時間決定処理の流れを説明する。
図8は、本実施形態の遅延時間決定処理の処理フローである。遅延時間決定部420は、短測定データおよび長測定に主成分分析を適用して得られた複数の主成分の少なくとも一つに、予め定めた候補遅延時間を付与し、解析部に深部成分と浅部成分とに分離させ、分離の度合いを示す指標である分離度を算出することを、候補遅延時間を変えて繰り返し、指標が最良の候補遅延時間を最適候補遅延時間とする。
【0062】
本処理は、全測定チャンネルの、短測定データおよび長測定データを取得後、開始する。ここでは、一例として、候補遅延時間がM個(Mは1以上の整数)与えられたものとして説明する。iは、候補遅延時間をカウントするカウンタとし、i番目の候補遅延時間をT[i]とする。また、測定チャンネル数は、N個(Nは1以上の整数)とする。jは、測定チャンネル数をカウントするカウンタとする。
【0063】
遅延時間決定部420は、カウンタを初期化(i=1、j=1)する(ステップS1001)。そして、遅延時間決定部420は、i番目の候補遅延時間T[i]を設定する(ステップS1002)。
【0064】
遅延時間決定部420は、解析部410に、候補遅延時間にT[i]を用い、測定チャンネルj毎に、TDD-ICA処理を行わせる。まず、解析部410は、測定チャンネルjで取得した短測定データSSD[j]および長測定データLSD[j]に対し、TDD-ICA処理を行い(ステップS1003)、測定チャンネルjについて、深部成分DEP[i,j]と浅部成分SHA[i,j]とを得る。本実施形態では、酸素化ヘモグロビン量、脱酸素化ヘモグロビン量、総ヘモグロビン量それぞれの、深部成分DEP[i,j]および浅部成分SHA[i,j]を得る。解析部410は、得られた各深部成分DEP[i,j]および浅部成分SHA[i,j]を、候補遅延時間T[i]および測定チャンネルjに対応づけて、記憶部143に記憶する(ステップS1004)。遅延時間決定部420は、ステップS1003およびステップS1004の処理を、全測定チャンネルのデータに対し、繰り返す(ステップS1005、S1006)。
【0065】
遅延時間決定部420は、候補遅延時間にT[i]の全測定チャンネルの深部成分および浅部成分を用い、当該候補遅延時間T[i]よる分離度SEP[i]を算出する(ステップS1007)。分離度として、例えば、上述の広域性係数を算出する。遅延時間決定部は、算出した分離度SEP[i]を、候補遅延時間T[i]に対応づけて記憶部143に記憶する。遅延時間決定部420は、以上の処理を、全候補遅延時間について、繰り返す(ステップS1008、S1009)。
【0066】
遅延時間決定部420は、得られた各候補遅延時間の、分離度に基づき、最適遅延時間Tbestを決定する(ステップS1010)。分離度として、上記広域性係数を用いた場合、分離度が最大の値となる候補遅延時間を最適遅延時間として選択する。
【0067】
表示データ生成部430は、最適遅延時間Tbestに対応づけて記憶部143に記憶される、深部成分DEP[Tbest,j]および浅部成分SHA[Tbest,j]を読出し、表示データとして結果表示画面700を生成し、表示部142に表示する(ステップS1011)。
【0068】
なお、上記遅延時間決定処理では、遅延時間決定部420は、測定チャンネル毎に分離処理を行っているが、これに限られない。全測定チャンネルの分離処理を、並行して行うよう構成してもよい。
【0069】
また、上記実施形態では、予め定めた候補遅延時間の中から、分離度が最良のものを最適遅延時間としているが、最適遅延時間の決定は、これに限られない。例えば、分離度が最大となる候補遅延時
間を決定し、その後、最良の候補遅延時
間の近傍を探索し、最も分離度の良い遅延時間を最適遅延時間としてもよい。
【0070】
探索は、例えば、最良の候補遅延時
間の近傍として、候補遅延時
間を中心とした所定範囲の複数の時間を、新たな候補遅延時間とする。そして、各候補遅延時間に対し、上記同様、TDD-ICA解析を行い、その結果から分離度を算出する。TDD-ICA解析は、解析部410が行い、分離度の算出および最適遅延時間の決定は、遅延時間決定部420が行う。
【0071】
これにより、予め定めた候補遅延時間に限らず、最良の遅延時間を最適遅延時間に設定することができる。
【0072】
なお、本実施形態では、2つの異なる信号の分離の指標として分離度を用い、最適遅延時間Tbestを決定しているが、これに限られない。例えば、分離とは反対の、2つの信号の混合度合いを示す混合度を分離の指標に用いてもよい。混合度を分離度の逆数と定義すれば、遅延時間決定部420は、上記広域性係数を用い、混合度が最小の値となる候補遅延時間を最適遅延時間Tbestとして選択する。
【0073】
さらに、候補遅延時間を予め定めておかなくてもよい。例えば、0(sec)から、予め定めた時間間隔Δt毎の時間を、候補遅延時間としてもよい。この場合、最大の候補遅延時間は、本実施形態の短計測データおよび長計測データを取得する総計測時間S(sec)を越えないものとする。
【0074】
また、最適な遅延時間は、総計測時間Sや刺激期間の影響を受ける。従って、測定されたデータの総計測時間Sや刺激期間により最適な遅延時間を予め算出して候補遅延時間として設定しても良い。このとき、例えば、総計測時間Sや刺激期間の半分の時間を候補遅延時間に設定してもよい。
【0075】
なお、本実施形態では、候補遅延時間を与えるデータ、すなわち、
図5においてデータ解析の対象とするデータは、主成分分析における複数の主成分としているが、これに限られない。元の測定データでも、因子分析、重回帰分析、クラスター分析等の信号分離手法を用いた方法により得たデータであってもよい。
【0076】
また、ここで用いた用語「脳血流成分」、「皮膚血流成分」は便宜上の呼称であり、前記手法でSD距離に対する重み値の勾配により形式的に分離された独立成分、および分離された複数の独立成分より再構成されたNIRS信号である。よって、例えば、「脳血流成分」に、脳を含む深部組織の生体信号以外にも、頭骨中の血管内の血液の変動成分が含まれる可能性も考えられる。また、「皮膚血流成分」には、浅部組織の生体信号以外にも、非脳由来成分、つまり、全身性の生体信号、あるいは装置ノイズ、あるいは体動によるノイズ等を含む可能性がある。
【0077】
上記実施形態では、予め定めた候補遅延時間の中から、分離度が最良のものを、遅延時間決定部が自動的に最適遅延時間と決定しているが、これに限られない。例えば、分離度表示画面600に表示される各候補遅延時間の分離度を見て、ユーザが最適遅延時間を指定するよう構成してもよい。この場合は、分離度表示画面600は、最適遅延時間の指定を受け付ける、指定受付ボタンを備える。
【0078】
さらに、ユーザが、新たに候補遅延時間を入力可能なよう構成してもよい。この場合、分離度表示画面600は、
図6に示すように、候補遅延時間の入力を受け付ける、候補遅延時間入力領域603と、当該入力された候補遅延時間による分離度を表示する入力遅延時間分離度表示領域604をさらに備える。遅延時間決定部420は、新たに入力された候補遅延時間について、分離度を算出し、入力遅延時間分離度表示領域604に表示する。このときも、分離度は、解析部410に、チャンネル毎の短測定データおよび長測定データを用いて深部成分および浅部成分を計算させた結果を用いて算出する。
【0079】
なお、この場合、遅延時間決定部420は、ユーザが候補遅延時間入力領域603に新たな数値を入力する毎に、分離度を算出し、表示するよう構成してもよい。この場合、ユーザによる最適遅延時間決定の意思を受け付ける決定ボタン605を備えてもよい。遅延時間決定部420は、ユーザが決定ボタン605の押下を受け付けた際、候補遅延時間入力領域603に入力されている候補遅延時間を、最適遅延時間とする。
【0080】
分離度表示画面600は、最適遅延時間を自動決定(Auto Set)するか、手動決定(Manual Set)するかの指示を受け付ける受付欄606を備えていてもよい。なお、自動決定(Auto Set)は、予め定めた候補遅延時間の中から、遅延時間決定部420が自動的に最適遅延時間を決定する手法であり、手動決定(Manual Set)は、ユーザが入力した候補遅延時間から決定する手法である。
【0081】
また、分離度表示画面600は、遅延時間決定処理を開始する指示を受け付ける、STARTボタン607、遅延時間決定処理の進捗状況を示すプログレスバー608を備えてもよい。
【0082】
特許文献1に開示の方法では、遅延時間は一意に設定している。しかしながら、最適な遅延時間は計測データ取得時間の長さやタスクなどにより異なるため、設定された遅延時間が最良のものであるかを確かめるのは難しく、最適値を探すことは困難であった。
【0083】
以上説明したように、本実施形態によれば、予め定めた複数の候補遅延時間の中から、最適な遅延時間を決定する。これにより、ユーザの設定負担を軽減することができる。また、候補遅延時間毎の分離度を算出し、自動的に最適な候補遅延時間を決定する。これにより、ユーザによる設定負担は、さらに、軽減される。このとき、分離度が最大となる候補遅延時間を最適遅延時間とすることにより、分離の精度も高まる。さらに、分離度が最大となる候補遅延時間近傍を探索し、より分離度の高い遅延時間を最適遅延時間とすることにより、さらに分離の精度も高まる。また、本実施形態によれば、各候補遅延時間の分離度が表示されるため、ユーザは、遅延時間毎の分離度を容易に把握することができる。
さらに、ユーザが候補遅延時間を設定することも可能であり、設定した候補遅延時間の分離度もユーザに提示されるため、ユーザは、所望の分離度を得る遅延時間を設定することができる。ユーザによる遅延時間設定の自由度が高まる。
【0084】
すなわち、本実施形態によれば、最適な遅延時間を容易に設定することができ、ユーザの設定負担を軽減することができる。ユーザの負担を増やすことなく、最適な遅延時間を決定でき、それを用いて分離処理がなされるため、分離の精度が高まる。
【0085】
また、結
果は、測定チャンネル毎に、深部成分、浅部成分および全体成分を比較可能なように表示する。これにより、ユーザは、オリジナル波形に、どの程度深部成分または浅部成分が含まれているか、容易に把握できる。また、このとき、分離の度合いを示す指標である分離度も合わせて表示する。従って、本実施形態によれば、用いた遅延時間、分離度、分離後の波形について、解析の良し悪しがユーザに分かりやすいよう明示される。
【0086】
本実施形態によれば、予め取得したSD距離の短いデータおよびSD距離の長いデータのいずれか一方に、複数の候補遅延時間を与える。そして、与える候補遅延時間毎に、TDD-ICA法により分離後、皮膚血流信号の分離の度合いを示す分離度を算出する解析部410と、分離度に応じて最適な遅延時間を決定する遅延時間決定部420と、決定した遅延時間を用いて分離した結果を表示する際、分離前の波形、分離後の脳血流信号による波形、および皮膚血流信号による波形を表示部142に比較表示するための表示データを生成する表示データ生成部430と、を備える。
【0087】
具体的には、被検体190上の予め定められた照射点に光を照射する1つまたは複数の光源部110と、前記照射点に照射され、前記被検体190内部を伝播した光を、前記被検体190上の予め定めた受光点において受光し、短測定データを測定するための前記照射点と前記受光点との距離は、長測定データを測定するための前記照射点と前記受光点との距離よりも短くなるよう配置され、受光した信号から得られる前記短測定データおよび前記長測定データを少なくとも出力する1組または複数組の受光部120と、前記短測定データおよび長測定データに対し、処理を行うデータ処理部400と、前記データ処理部400によって処理された前記短測定データおよび長測定データとそれらの解析データを表示する表示部142と、を備え、前記データ処理部400は、前記短測定データおよび前記長測定データの少なくとも一方を用いた演算により得た複数の主成分の少なくとも一つに遅延時間を付与する過程を含む独立成分解析を行い、分離成分を抽出し、当該分離成分を再構成することにより深部成分と浅部成分とに分離する解析部410と、前記遅延時間を付与する過程で示された候補遅延時間から遅延時間を決定する遅延時間決定部420と、前記遅延時間を付与することにより得た深部成分および浅部成分とから、前記表示部に表示する表示データを生成する表示データ生成部430と、を備える。
【0088】
このため、ユーザは、結果の確認が容易であるとともに、数値で把握することができる。このように、本実施形態によれば、生体光計測で深層部位と表層部位の信号成分を分離させる手法において、従来考慮されていなかった、ユーザへの条件・結果の提示方法が改善される。従って、ユーザは、生体光計測において、分析を容易に正確に行うことが可能となる。
【0089】
なお、上記実施形態では、短受光点と長受光点との2つのSD距離の異なる受光点で受光した光を用い、深部成分と浅部成分とを分離しているが、SD距離の異なる受光点数は、2つに限られない。3以上であってもよい。さらに、短測定データおよび長測定データは、受光点1つに対して2つ以上の照射点を有するプローブ配置で測定したものでも良く、各々の測定データが、1つの照射点と1つの受光点との対で測定したものでも良い。
【0090】
また、上記実施形態では、データ処理部400は、生体光計測装置100の制御部140が備えるものとしているが、これに限られない。生体光計測装置100と、データの送受信が可能な、生体光計測装置100から独立した情報処理装置上に構築されていてもよい。