特許第6245769号(P6245769)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6245769荷電制御剤、及び荷電制御剤を含む静電荷像現像用トナー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6245769
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】荷電制御剤、及び荷電制御剤を含む静電荷像現像用トナー
(51)【国際特許分類】
   G03G 9/097 20060101AFI20171204BHJP
   C07C 245/10 20060101ALN20171204BHJP
   C07F 15/02 20060101ALN20171204BHJP
   C09B 45/22 20060101ALN20171204BHJP
【FI】
   G03G9/08 346
   !C07C245/10
   !C07F15/02
   !C09B45/22
【請求項の数】3
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2016-206546(P2016-206546)
(22)【出願日】2016年10月21日
(62)【分割の表示】特願2015-181718(P2015-181718)の分割
【原出願日】2015年9月15日
(65)【公開番号】特開2017-49597(P2017-49597A)
(43)【公開日】2017年3月9日
【審査請求日】2016年11月18日
(31)【優先権主張番号】特願2014-259154(P2014-259154)
(32)【優先日】2014年12月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000103895
【氏名又は名称】オリヱント化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002251
【氏名又は名称】特許業務法人眞久特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山手 修
(72)【発明者】
【氏名】日方 淳
【審査官】 倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2007/0292779(US,A1)
【文献】 特開2004−199039(JP,A)
【文献】 特開平10−020560(JP,A)
【文献】 特開平07−199543(JP,A)
【文献】 特開2009−301015(JP,A)
【文献】 特開2006−113576(JP,A)
【文献】 特開2002−156796(JP,A)
【文献】 特開2002−080739(JP,A)
【文献】 特開2001−083744(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/097,
C09B 45/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(3)
【化1】
(化学式(3)中、R、R、R、及びRは、同一又は異なり、水素原子又は炭素数1〜18のアルキル基であり、但し少なくとも1つが炭素数1〜18のアルキル基であり、少なくとも2つが水素原子であり、Aは水素イオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオン、有機アンモニウムイオン、又はこれらの混合物である)
で表されるアゾ系鉄錯塩を含み、CuKα特性X線によるX線回折スペクトルのピークを、ブラッグ角2θにおいて少なくとも6.6±0.2°、10.3±0.2°、18.3±0.2°、19.5±0.2°、21.7±0.2°、及び31.7±0.2°に有し、レーザー回折散乱式粒度分布測定方法によって測定された前記アゾ系鉄錯塩の体積基準における粒径の累積頻度が、10%で0.6〜1.1μmであり、50%で1.3〜1.8μmであることを特徴とする荷電制御剤。
【請求項2】
前記アゾ系鉄錯塩の揮発成分が、0.1〜0.7重量%である請求項1に記載の荷電制御剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の荷電制御剤と、トナー用樹脂とが、含まれていることを特徴とする静電荷像現像用トナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アゾ系鉄錯塩が含まれている負帯電性荷電制御剤、負帯電性荷電制御剤の製造方法、及び負帯電性荷電制御剤を含む静電荷像現像用トナーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
複写機、プリンター、ファクシミリ等に電子写真システムが利用されている。このシステムは、無機又は有機光導電材料を含有する感光層を備えた感光体上に、摩擦帯電させたトナーにより、静電潜像を現像し、記録紙へ転写し定着させるというものである。
【0003】
トナーの帯電の立ち上がり速度を速めたり、トナーを十分に帯電させその荷電量を適切に制御しつつ安定化して帯電特性を高めたり、静電潜像を安定的に制御し速い速度で現像したり、鮮明で高品質の画像を形成したりするため、予めトナーにその帯電を適切に調節する荷電制御剤が添加される。
【0004】
このような荷電制御剤として、例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3に、負帯電性のアゾ系金属錯塩が開示されている。
【0005】
近年の複写機やプリンターの解像度向上等の高性能化や、電子写真システムでの高速現像のみならず低速現像等の用途の拡大に伴い、トナーの帯電の立ち上がりを一層速め、一層優れた帯電特性を発現させ、鮮明で高解像度の画像を形成させることができ、簡便かつ歩留まり良く製造できる荷電制御剤や、それを用いたトナーが求められている。また、構造体表面の電荷に、静電気帯電した粉体塗料を引き付け、焼き付ける静電粉体塗装に使用される粉体塗料にも用いることができる荷電制御剤が求められる。
【0006】
荷電制御剤の粒径及び粒度分布は、静電荷像現像用トナーの荷電特性を発現させる重要な因子となっている。高解像度化に対応できる粒径の小粒径化、粒度分布のシャープ化の他に、高速機種に対応できるトナーの要求が強まり、トナーの用いられる荷電制御剤に対する粒度の分布の狭い、小粒径化の要望が高まっている。
【0007】
ナフトールAS系化合物をカップリング成分にしたモノアゾ化合物は、水や有機溶剤に対する溶解性が低い。このためモノアゾ化合物の金属化反応において、モノアゾ化合物が析出して金属化してしまう。また、固体−固体系金属化反応であるため、金属化反応において、アゾ系鉄錯塩の粒径及び粒度分布を所望の値に調節することが困難である。
【0008】
さらに、この金属化反応によって得られるアゾ系鉄錯塩は、ウエットケーキ状である。アゾ系鉄錯塩のウエットケーキを、通常の棚型熱風乾燥機を用いて乾燥させると、堅い固形の乾燥品が得られ易い。そのため、この乾燥品を解砕すると、大粒径の粒子が残り易く、粒度分布がブロード化してしまい、荷電制御剤に適したシャープな粒度分布を有するアゾ系鉄錯塩を得ることが困難であるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭61−101558号公報
【特許文献2】特開昭61−155463号公報
【特許文献3】特開昭62−177561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記課題を解決するためになされたもので、帯電の立ち上がりが速く、優れた帯電特性を発現させ、鮮明で高解像度の画像を形成させることができ、また経時的に安定して帯電させたまま維持でき、環境安定性に優れ、簡便に粒径及び粒度分布を良好に調節できる荷電制御剤、及び荷電制御剤を含む静電荷像現像用トナーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するためになされた本発明の荷電制御剤は、下記化学式(3)
【化1】
(化学式(3)中、R、R、R、及びRは、同一又は異なり、水素原子又は炭素数1〜18のアルキル基であり、但し少なくとも1つが炭素数1〜18のアルキル基であり、少なくとも2つが水素原子であり、Aは水素イオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオン、有機アンモニウムイオン、又はこれらの混合物である)で表されるアゾ系鉄錯塩を含み、CuKα特性X線によるX線回折スペクトルのピークを、ブラッグ角2θにおいて少なくとも6.6±0.2°、10.3±0.2°、18.3±0.2°、19.5±0.2°、21.7±0.2°、及び31.7±0.2°に有し、レーザー回折散乱式粒度分布測定方法によって測定された前記アゾ系鉄錯塩の体積基準における粒径の累積頻度が、10%で0.6〜1.1μmであり、50%で1.3〜1.8μmであるものである。
【0013】
荷電制御剤は、前記アゾ系鉄錯塩の揮発成分が0.1〜0.7重量%であることが好ましい。
【0014】
荷電制御剤は、例えば、前記アゾ系鉄錯塩がパドル乾燥品であるものが挙げられる。
【0015】
本発明の静電荷像現像用トナーは、上記のいずれかの荷電制御剤と、トナー用樹脂とが、含まれているものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の荷電制御剤は、乾燥工程だけで、粒径の調整及び粒度分布の調整が行われるので、所望の粒径と粒度分布とを有しており、簡便にかつ低コストで得ることができる。荷電制御剤は、負電荷付与性及びその安定性に優れると共に、トナー用樹脂に対する分散性が良好である。そのため、荷電制御剤は、小粒径化静電荷像現像用トナーに適しており、これを含有する本発明の静電荷像現像用トナーは、立ち上がりが早く、帯電経時安定性に優れている。
【0017】
本発明の荷電制御剤を製造する方法は、例えば、アゾ系鉄錯塩を含む荷電制御剤を製造する方法において、ジアゾ化カップリング反応によってモノアゾ化合物を得る反応工程と、前記モノアゾ化合物と鉄化剤とを反応させることによって、下記化学式(1)
【化2】
(化学式(1)中、R、R、R、及びRは、同一又は異なり、水素原子、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数1〜18のアルコキシ基、炭素数2〜18のアルケニル基、スルホンアミド基、スルホンアルキル基、スルホン酸基、カルボキシ基、カルボキシエステル基、ヒドロキシ基、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基、又はハロゲン原子であり、Xは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、ニトロ基、又はハロゲン原子であり、Aは水素イオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオン、有機アンモニウムイオン、又はこれらの混合物である)で表される前記アゾ系鉄錯塩のウエットケーキを得る金属化工程と、前記アゾ系鉄錯塩のウエットケーキを、加熱しながらパドルで撹拌することによって乾燥する乾燥工程とを、有するものが挙げられる。
【0018】
荷電制御剤を製造する方法は、前記金属化工程が、下記化学式(2)
【化3】
(化学式(2)中、R、R、R、及びRは、同一又は異なり、水素原子、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数1〜18のアルコキシ基、炭素数2〜18のアルケニル基、スルホンアミド基、スルホンアルキル基、スルホン酸基、カルボキシ基、カルボキシエステル基、ヒドロキシ基、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基、又はハロゲン原子であり、Xは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、ニトロ基、又はハロゲン原子である)で表される前記モノアゾ化合物を、前記鉄化剤によって金属化し、前記アゾ系鉄錯塩を得るものであることが好ましい。
【0019】
荷電制御剤を製造する方法は、前記乾燥工程を、減圧下又は真空下で行ってもよい。
【0020】
荷電制御剤を製造する方法は、前記乾燥工程を、60〜160℃で行うことが好ましい。
【0021】
荷電制御剤を製造する方法は、前記乾燥工程を、それの開始時から短くとも6時間まで60〜120℃で行った後、120〜160℃で行ってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の荷電制御剤を製造する方法の乾燥工程に用いられるパドル乾燥機の模式部分断面図である。
図2】本発明を適用する荷電制御剤である荷電制御剤AのX線回折のスペクトルを示す図である。
図3】本発明を適用外の荷電制御剤FのX線回折のスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0024】
荷電制御剤の製造方法は、パドル乾燥機を用いてアゾ系鉄錯塩のウエットケーキを加熱しながら撹拌することによって乾燥させ、アゾ系鉄錯塩の粉体を得る乾燥工程を少なくとも有しており、その前工程として、ジアゾ化カップリング反応によってモノアゾ化合物を得る反応工程、得られたモノアゾ化合物を鉄化剤によって金属化しアゾ系鉄錯塩を得る金属化工程、及びこのアゾ系鉄錯塩の対イオンを交換する交換工程を有し得る。
【0025】
第1の工程である反応工程は、特定構造の芳香族アミンを公知の方法でジアゾ化し、特定のナフトールAS誘導体を、ジアゾ化カップリング反応させて、モノアゾ化合物を得る工程である。
【0026】
第2の工程である金属化工程は、得られたウエットケーキ状又は乾燥したモノアゾ化合物を、水系、水−有機溶剤系、有機溶剤系の液媒体中で、塩化鉄、硫酸鉄、酢酸鉄のような鉄化剤を反応させて、金属化を行う工程である。通常、アゾ系鉄錯塩の対イオンは、反応系の雰囲気、pH、及び加える酸や塩基等の影響を受けて生成する。なお、反応工程と金属化工程とは、連続的な反応として同一反応装置の中で行うことができる。
【0027】
第3の工程であるイオン交換工程は、必要に応じて対イオンであるAを調製して、化学式(1)で表されるアゾ系鉄錯塩を調製する工程である。具体的には、金属化工程で生成したアゾ系鉄錯塩の対イオンを、所望の対イオン(水素イオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオン、有機アンモニウムイオン、又はこれらの混合物)に交換できる。例えば、水素イオンを対イオンとするアゾ系鉄錯塩をアンモニウム化剤(例えば、アンモニア水、尿素、硫酸アンモニウム、チオ尿素、塩化アンモニウムなど)を用い、アンモニウムイオン又はアンモニウムイオンを含む混合物イオンに交換することができる。
【0028】
第4の工程である乾燥工程は、パドル乾燥機を用いて、化学式(1)で表されるアゾ系鉄錯塩のウエットケーキを、加熱しながら撹拌することによって乾燥させ、アゾ系鉄錯塩を粉体とし、アゾ系鉄錯塩を含む荷電制御剤の粒径及び粒度分布の調節を行う工程である。このパドル乾燥機によれば、撹拌処理、乾燥処理、並びに粒径及び粒度分布の調節処理という複数の処理を同時に行うことができる。
【0029】
本発明に好適に用いられるパドル乾燥機1の模式部分断面図を図1に示す。パドル乾燥機1は、円筒形状の本体2と、本体2の中心軸に軸支されている回転軸3と、回転軸3とモーター(不図示)とを繋いでおり、モーターの回転動力によって回転軸3を回転させるベルト4とを、有している。
【0030】
本体2は、アゾ系鉄錯塩のウエットケーキを加熱しながら撹拌することによって乾燥させて、粒径及び粒度分布を調節する処理室22内に投入するための投入口21と、蒸気(図1中、白抜き矢印)を導入するための導入管24と、導入管24から導入された蒸気を通じるためのジャケット23と、この蒸気を排出するためのドレン27と、処理室22を減圧又は真空にする真空ポンプのような減圧装置(不図示)に繋がっている排気管25と、荷電制御剤5を排出する排出口26とを、有している。投入口21及び排出口26に、夫々開閉自在であり処理室22を気密に保つ蓋が取り付けられている。導入管24から導入される蒸気は、ボイラのような加熱装置(不図示)とパドル乾燥機1との間で循環しており、常に一定温度の蒸気がジャケット23に供給される。ジャケット23は、処理室22を取り巻くように設けられている。それにより高温蒸気の熱が処理室22に均一に伝わり、処理室22が一定の温度に保たれる。この熱によってアゾ系鉄錯塩のウエットケーキが乾燥する。
【0031】
回転軸3に、複数のパドル31が一定の間隔をあけて取り付けられている。パドル31は、回転軸3から処理室22の内壁面に向かって伸びているロッド部31aと、ロッド部31aから連続し、平板形状をなしつつ捻られた羽根部31bとを有している。パドル31は、回転軸3の回転により、これを中心軸として処理室22内で輪転するものである。
【0032】
乾燥工程の好ましい実施形態を説明する。まず、投入口21の蓋を開けてから、本発明に用いるモノアゾ鉄錯塩のウエットケーキを処理室22に投入し、投入口21の蓋を閉じて処理室22を気密に保つ。減圧装置を動作させて、処理室22を減圧して一定の圧力に保った後、モーターを動作させてパドル31を輪転させる。それによりモノアゾ鉄錯塩のウエットケーキが、パドル31の羽根部31bに接触して解砕されつつ巻き上げられて撹拌される。次いで、蒸気を導入管24からジャケット23に導入して、処理室22を昇温した後、一定の温度に保つ。それにより回転軸3及びパドル31は加熱され、処理室22と同じ温度に保たれる。乾燥工程が終了した後、排出口26の蓋を開けて、荷電制御剤5を取り出す。
【0033】
ジャケット23に導入する蒸気の圧力は、0.05〜0.6MPaとすることが好ましく、0.1〜0.55MPaとすることがより好ましい。処理室22の温度は、60〜160℃とすることが好ましい。乾燥工程の開始時から短くとも6時間までの前半に60〜120℃とし、その後の後半に120〜160℃とすることがより好ましい。処理室22が所定の温度に達した時点を、乾燥工程の開始時とし、そこから時間を計測する。回転軸3の回転数は、1〜5rpmとすることが好ましく、2〜4rpmとすることがより好ましい。
【0034】
処理室22の圧力は、処理室22の温度がウエットケーキに含まれる溶媒の沸点となるように決定される。例えばこの溶媒が水である場合、処理室22の圧力を250〜20mmHgとすることが好ましい。この場合、ジャケット23に導入する蒸気の圧力を0.1MPaとすることが好ましい。それにより、ウエットケーキの乾燥と粒径及び粒度分布の調節とを確実に行うことができる。乾燥工程の前半の乾燥初期に60〜120℃の比較的低い温度の蒸気をジャケット23に導入し、後半に120〜160℃のより高温の蒸気をジャケット23に導入することが好ましい。乾燥工程において処理室22の温度を段階的に設定することによって、アゾ系鉄錯塩の結晶が均一に成長し、より粒径のばらつきが少なくシャープな粒度分布を有するアゾ系鉄錯塩の粉体を得ることができる。そのため、乾燥工程とは別に分級工程を設けることを必要としないので、速やかに、かつ簡便にアゾ系鉄錯塩を含む荷電制御剤5を得ることができる。なお、ウエットケーキの乾燥を効率よく行う場合には、高温の蒸気だけで乾燥工程を行ってもよい。
【0035】
さらに好適には、乾燥工程開始から短くとも6時間経過するまでの前半において、蒸気の圧力を0.1MPaに設定して乾燥を行い、その後の後半に、蒸気の圧力を0.5〜0.6MPaに変更する。乾燥工程初期に蒸気の圧力を低く設定することで効率よく粒径調節を行うことが可能であり、その後に蒸気の圧力を高く設定することによって短時間で乾燥処理を行うことができる。この様な方法を採用することで、粒径調節と乾燥処理とを速やかにかつ効率良く行うことが可能である。なお、処理室22を昇温するのに蒸気に代えてジャケット23に60〜90℃の温水を導入してもよい。また処理室22を真空にして乾燥工程を行ってもよい。
【0036】
乾燥工程に用いられるパドル乾燥機1としては、例えば、株式会社奈良機械製作所製のパドルドライヤー(NPD)型:NPD−1.6W−G、NPD−3W−G、NPD−4W−G、NPD−5W−G、NPD−7W−G、NPD−10W−G、NPD−11W−G、NPD−12W−G、NPD−13W−G;株式会社奈良機械製作所製のシングルパドルドライヤー(SPD):SPD−8、SPD−23;株式会社奈良機械製作所製のブーノクーラー(NBC):NBC−2.5−G、NBC−5−G、NBC−8−G、NBC−11−G、NBC−15−G、NBC−20−G、NBC−25−G、NBC−30−G、NBC−40−G、NBC−50−G、NBC−60−G、NBC−70−G、NBC−80−G、NBC−90−G、NBC−100−G、NBC−120−G、NBC−140−G;村松風送設備工業株式会社製のマルチパドルドライヤー;株式会社ネオテック製のPC−3400V、PD−5、PD−3000、PD−5000V、PB−250V、PD−1500V、PD−1700V;重伸鉄工所製の3000Lパドル乾燥機、3400Lパドル乾燥機が挙げられる。
【0037】
なお、ウエットケーキの投入から荷電制御剤の取り出しまでを一定量ごとに行う所謂バッチ式の乾燥工程の例を挙げたが、ウエットケーキの投入から荷電制御剤の取り出しまでを連続的に行う所謂連続式によって乾燥工程を行ってもよい。
【0038】
荷電制御剤の製造方法の第1の工程である反応工程、第2の工程である金属化工程、及び第3の工程であるイオン交換工程について説明する。
【0039】
第1の工程である反応工程は、下記化学式(4)に示すように溶媒中で常法のジアゾ化カップリング反応を行い、モノアゾ化合物を得るものである。溶媒は、水、水−有機溶剤混合溶液、又は有機溶媒であることが好ましく、水−一価低級アルコール混合溶液がより好ましい。
【0040】
【化4】
(化学式(4)中、R、R、R、及びRは、同一又は異なり、水素原子、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数1〜18のアルコキシ基、炭素数2〜18のアルケニル基、スルホンアミド基、スルホンアルキル基、スルホン酸基、カルボキシ基、カルボキシエステル基、ヒドロキシ基、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基、又はハロゲン原子を表わし、Xは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、ニトロ基又はハロゲン原子である)
【0041】
一例を示すと、水系又は水−低級アルコール系溶媒に、水酸基のような金属錯塩形成に適する置換基を有するアミノフェノール(ジアゾ成分)が塩酸で希釈調製された水溶液と、亜硝酸ナトリウム(36%調製水溶液)とを加え、0〜5℃の温度にて1〜3時間攪拌することによりアミノフェノールをジアゾ化し、ジアゾ化溶液を得る。過剰な亜硝酸を、スルファミン酸等で分解する。
【0042】
次いで置換基を有してもよいナフトールAS誘導体を、アルカリ水溶液に溶解又は細かく分散し、その溶液にジアゾ化溶液を滴下し、水系又は水−低級アルコール系溶媒中で、室温又は低温で、数時間攪拌しながら、ジアゾ化カップリング反応を行ってモノアゾ化合物を得る。
【0043】
第2の工程である金属化工程は、下記化学式(5)に示すように、モノアゾ化合物を鉄化してアゾ系鉄錯塩を得る工程である。
【0044】
【化5】
(化学式(5)中、R、R、R、及びRは、同一又は異なり、水素原子、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数1〜18のアルコキシ基、炭素数2〜18のアルケニル基、スルホンアミド基、スルホンアルキル基、スルホン酸基、カルボキシ基、カルボキシエステル基、ヒドロキシ基、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基、又はハロゲン原子を表わし、Xは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、ニトロ基又はハロゲン原子であり、Bはアルカリ金属イオン又はアルカリ金属イオンとHとの混合物である)
【0045】
モノアゾ化合物を、溶媒に分散又は溶解させ、さらに鉄化剤を加え、鉄化反応させる。それにより所望の対イオン存在比のアゾ系鉄錯塩が簡便に得られる。溶媒は、水、水−有機溶剤混合溶液、有機溶媒であることが好ましく、なかでも水−一価低級アルコールであることが好ましい。鉄化剤として、硫酸第二鉄、硫酸第一鉄、塩化第二鉄、塩化第一鉄、硝酸第二鉄、酢酸鉄、及び乳酸鉄が挙げられる。また鉄化反応は、溶媒の種類に適した温度で、加熱反応又は還流撹拌しながら行うものであることが好ましい。鉄化反応は、反応促進剤やpH調整剤のような添加剤を加えて行ってもよい。
【0046】
鉄化剤の量は、配位子となるモノアゾ化合物1当量に対して、金属が1/2〜2当量であることが好ましく、1/2〜2/3当量であることがより好ましい。
【0047】
有機溶剤としては、親水性有機溶剤、アミド系溶剤、エーテル系溶剤、ケトン系溶剤、スルホキシド系溶剤、及び芳香族炭化水素系溶剤を挙げることができ、なかでも親水性有機溶剤が好適である。
【0048】
親水性有機溶剤としては、例えば、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、アミルアルコール、ベンジルアルコール 、シクロヘキサノール、ジアセトンアルコールのようなアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルのようなグリコールのアルキルエーテル類;エチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノアセテートのようなグリコールのアセテート類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオールのようなグリコール類が挙げられる。なかでもアルコール類又はグリコール類が好ましく、炭素数1〜8のアルコール類又は炭素数2〜18のグリコール類がより好ましく、得られる荷電制御剤の平均粒径を小さくできるという観点から、炭素数1〜6の低級アルコールが一層好ましい。これらは、一種だけを用いても、複数種を用いてもよく、なかでも、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、及び/又はイソブタノールがより一層好ましい。
【0049】
第3の工程であるイオン交換工程は、必要に応じて金属化工程で得られたアゾ系鉄錯塩の対イオンを所望の対イオンに交換し、アゾ系鉄錯塩のウエットケーキを得る工程である。アゾ系鉄錯塩の反応溶液に、酸や塩基を加えることによってpH調整を行い、所望の対イオンを有するアゾ系鉄錯塩を得ることができる。この対イオンとして例えば、水素イオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオン、有機アンモニウムイオン又はこれらの混合物を挙げることができる。
【0050】
対イオンを水素イオンとする場合、まずアゾ系鉄錯塩の反応溶液を、塩酸、硫酸、硝酸、又は酢酸のような酸を希釈調製した水溶液に滴下し、アゾ系鉄錯塩の結晶が分散している分散液を得る。分散液からこの結晶を分離することにより、水素イオンを対イオンとして有するアゾ系鉄錯塩を得ることができる。
【0051】
対イオンをアルカリ金属イオンとする場合、まずアゾ系鉄錯塩の反応溶液を、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム、又は炭酸ナトリウムのような塩基を希釈調製した水溶液に滴下し、アゾ系鉄錯塩の結晶が分散している分散液を得る。分散液からこの結晶を分離することにより、ナトリウムイオン、及び/又はカリウムイオンのようなアルカリ金属イオンを対イオンとして有するアゾ系鉄錯塩を得ることができる。
【0052】
対イオンをアンモニウムイオン又はアンモニウムイオンを含む混合物イオンとする場合、まず水素イオンを対イオンとして有するアゾ系鉄錯塩を、アンモニウム化剤を用いて対イオンを再交換する。それによりアンモニウムイオン又はアンモニウムイオンを含む混合物イオンを対イオンとして有するアゾ系鉄錯塩を得ることができる。アンモニウム化剤としては、アンモニア水、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、燐酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、尿素、チオ尿素、並びに一級有機アミン、二級有機アミン、三級有機アミン、及び四級アンモニウム塩のような有機アンモニウムを挙げることができる。
【0053】
対イオンの交換に用いられる酸、塩基、及びアンモニウム化剤の量や反応温度のような各条件を組み合わせることにより、混合イオンを対イオンとして有するアゾ系鉄錯塩が得られる。混合イオン中のカチオンの86モル%以上、特に90モル%以上が水素イオンやアンモニウムイオンであるアゾ系鉄錯塩を簡便に得ることができる。
【0054】
金属化工程の後、又はイオン交換工程の後、濾過工程を行ってもよい。濾過工程は、金属化工程(或いはその後のアルカリ処理)又はイオン交換工程で得られたアゾ系鉄錯塩を含む反応液を、濾過によってアゾ系鉄錯塩の結晶と溶媒とに分離してアゾ系鉄錯塩のウエットケーキを得る工程である。濾過方法としては、砂層濾過、袋濾過、遠心分離のような重圧濾過法;ヌッチェ、ムーアフィルター、ディスクフィルター、ドラムフィルター、オリバーフィルターを用いた真空濾過法;フィルタープレス、密閉式リーフフィルター、密閉式多段フィルターを用いた加圧濾過法を挙げることができる。濾過工程の後、洗浄工程を行ってもよい。水及び/又は有機溶媒によってアゾ系鉄錯塩のウエットケーキを十分に洗浄する。洗浄液としては、水が好ましい。
【0055】
上記の工程を経た後、パドル乾燥機を用いた乾燥工程を行う。この乾燥工程を、前記アゾ系鉄錯塩の揮発成分が0.1〜0.7%の範囲となるように乾燥することが好ましく、0.1〜0.5%の範囲となるように乾燥することがより好ましい。得られたパドル乾燥品であるアゾ系鉄錯塩の粉体は、粒径が微細であり、柔らかく、形状が揃っているので、容易に解砕することができる。必要に応じて、ジェットミルなど粉砕機を用い、さらに粉砕処理を行ってもよい。
【0056】
以下に、化学式(1)で表されるアゾ系鉄錯塩を具体的に例示する。
【0057】
【化6】
(化学式(1)中、R、R、R、及びRは、同一又は異なり、水素原子、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数1〜18のアルコキシ基、炭素数2〜18のアルケニル基、スルホンアミド基、スルホンアルキル基、スルホン酸基、カルボキシ基、カルボキシエステル基、ヒドロキシ基、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基、又はハロゲン原子であり、Xは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、ニトロ基、又はハロゲン原子であり、Aは水素イオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオン、有機アンモニウムイオン、又はこれらの混合物である)
【0058】
化学式(1)中、置換基R〜Rのアルキル基として、炭素数1〜18の直鎖又は分岐鎖アルキル基が挙げられ、より具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、iso−ペンチル基、neo−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、n−デシル基、ラウリル基、ステアリル基が挙げられる。特に炭素数1〜10の直鎖又は分岐鎖のアルキル基であるのが好ましい。さらにiso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、iso−ペンチル基、2−エチルヘキシル基が好ましい。
【0059】
化学式(1)中、置換基R〜Rのアルコキシ基として、炭素数1〜18のアルコキシ基が挙げられ、より具体的には、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、iso−プロポキシ基、n−ブトキシ基、iso−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、neo−ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、n−ヘプチルオキシ基、n−オクチルオキシ基が挙げられる。
【0060】
化学式(1)中、置換基R〜Rのアルケニル基として、具体的には、ビニル基、アリル基、プロペニル基が挙げられる。
【0061】
化学式(1)中、置換基R〜Rのハロゲン原子として、F、Cl、Br、Iが挙げられる。
【0062】
化学式(1)中、置換基Xのアルキル基として、炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖アルキル基が挙げられ、より具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基が挙げられる。
【0063】
化学式(1)中、置換基Xのアルコキシ基として、炭素数1〜18のアルコキシ基が挙げられ、より具体的には、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、iso−プロポキシ基、n−ブトキシ基、iso−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基などが挙げられる。
【0064】
化学式(1)中、置換基Xのハロゲン原子として、F、Cl、Br、Iが挙げられる。
【0065】
化学式(1)で表されるアゾ系鉄錯塩のその他の具体的な化合物は、下記表1で表される化合物で、例示される。ただし本発明はこれらに限定されるものではない。
【0066】
【表1】
【0067】
アゾ系鉄錯塩のウエットケーキは、乾燥工程で加熱しながら撹拌されることにより乾燥される。それによってアゾ系鉄錯塩の結晶形は均一に調整され、所望の粒径及び粒度分布を有する荷電制御剤が得られる。
【0068】
化学式(1)の好ましい構造として、下記化学式(3)が挙げられる。
【0069】
【化7】
(化学式(3)中、R、R、R、及びRは、同一又は異なり、水素原子又は炭素数1〜18のアルキル基であり、但し少なくとも1つが炭素数1〜18のアルキル基であり、少なくとも2つが水素原子であり、Aは水素イオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオン、有機アンモニウムイオン、又はこれらの混合物である)
【0070】
化学式(3)中、置換基R〜Rのアルキル基として、炭素数1〜18の直鎖又は分岐鎖アルキル基が挙げられ、より具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、iso−ペンチル基、neo−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、n−デシル基、ラウリル基、ステアリル基が挙げられる。特に炭素数1〜10の直鎖又は分岐鎖のアルキル基であるのが好ましい。さらにiso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、iso−ペンチル基、2−エチルヘキシル基が好ましい。
【0071】
化学式(3)中、対イオンAの有機アンモニウムイオンとして、一級有機アミン、二級有機アミン、三級有機アミン、及び四級アンモニウム塩のようなアンモニウム化剤によって得られるものが挙げられる。
【0072】
化学式(3)で表されるアゾ系鉄錯塩を含有する荷電制御剤は、CuKα特性X線によるX線回折の主要なピークを少なくともブラッグ角2θにおける6.6±0.2°、10.3±0.2°、18.3±0.2°、19.5±0.2°及び21.7±0.2°に主要なピークを有し、さらに31.7±0.2°にピークを有する。この荷電制御剤は、均一で安定な帯電性を示し、荷電制御剤を含有する静電荷像現像用トナーを現像すると、高解像度の画像を形成させることができ、また経時的に安定して帯電維持できる。
【0073】
化学式(3)で表されるアゾ系鉄錯塩を含む荷電制御剤は、乾燥工程を経ていることによって粒径の調整及び粒度分布の調整がされている。レーザー回折散乱式粒度分布測定方法によって測定されたアゾ系鉄錯塩の体積基準における粒径の累積頻度が10%を示す時の粒子径D10値は0.6〜1.1μmであると好ましく、0.7〜1.0μmであるとより好ましい。また50%を示す時の粒子径D50値(メジアン径)は1.3〜1.8μmであると好ましく、1.3〜1.7μmであるとより好ましい。さらに、このアゾ系鉄錯塩の揮発成分が、0.1〜0.7%の範囲であることが好ましい。
【0074】
化学式(3)で表されるアゾ系鉄錯塩を含有する荷電制御剤は、下記化学式(6)で表されるモノアゾ化合物を鉄化剤によって金属化し、アゾ系鉄錯塩を得る金属化工程と、得られたアゾ系鉄錯塩のウエットケーキを、加熱しながらパドルによって撹拌して乾燥する乾燥工程とを、有する製造方法で得られたものであることが好ましい。
【0075】
【化8】
(化学式(6)中、R、R、R、及びRは、同一又は異なり、水素原子又は炭素数1〜18のアルキル基であり、但し少なくとも1つが炭素数1〜18のアルキル基であり、少なくとも2つが水素原子である)
【0076】
前記化学式(1)及び/又は(3)で表されるアゾ系鉄錯塩を含む荷電制御剤は、例えば静電荷像現像用トナーに用いられる。この静電荷像現像用トナーは、例えばトナー用樹脂100重量部に対して、荷電制御剤0.1〜10重量部と、着色剤0.5〜10重量部とが、含有されたものである。このような静電荷像現像用トナーは、静電潜像を現像する際に低速であっても高速であっても帯電の立ち上がりが速い。さらに十分な荷電量を帯電させることができ、安定して帯電を維持できる。
【0077】
静電荷像現像用トナーは、例えば次のように製造される。トナー用結着樹脂、着色剤及び荷電制御剤と、必要に応じて磁性材料や流動化剤のような添加剤とを、ボールミルその他の混合機により十分混合した後、加熱ロール、ニーダー、エクストルーダのような熱混練機を用いて溶融混練し、冷却固化後、粉砕及び分級することにより、平均粒径5〜12μmの静電荷像現像用トナーを得る。
【0078】
また、結着樹脂溶液中に材料を分散した後、噴霧乾燥することにより得る方法、結着樹脂を構成すべき単量体に所定材料を混合して乳化懸濁液とした後に重合させてトナーを得る重合法トナー製造法(例えば、特開平1−260461号公報、特開平2−32365号公報記載の方法)によっても、この静電荷像現像用トナーを得ることができる。
【0079】
静電荷像現像用トナーは、2成分現像剤として用いることができる。その場合、このトナーとキャリア粉とを混合して、現像剤を調製する。この現像剤は、例えば2成分磁気ブラシ現像法等により現像する際に、使用される。
【0080】
キャリア粉として、公知のものが全て使用可能であり、特に限定されない。具体的には、粒径50〜200μm程度の鉄粉、ニッケル粉、フェライト粉、ガラスビーズであってもよく、これらの表面をアクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、シリコーン樹脂、ポリアミド樹脂、フッ化エチレン系樹脂等でコーティングしたものであってもよい。
【0081】
静電荷像現像用トナーは、1成分現像剤として用いることもできる。その場合、前記のようにしてトナーを製造する際に、例えば鉄粉、ニッケル粉、フェライト粉等の強磁性材料製の微粉体を添加分散させて、現像剤を調製する。この現像剤は、例えば接触現像法、ジャンピング現像法等により現像する際に、使用される。
【0082】
静電荷像現像用トナーに含有されるトナー用結着樹脂は、公知の合成樹脂、天然樹脂が用いられる。結着樹脂は、例えば、ポリスチレン、ポリ−p−クロルスチレン、ポリビニルトルエンのようなスチレン及びその置換体の単重合体;スチレン−p−クロルスチレン共重合体、スチレン−ビニルトルエン共重合体、スチレン−ビニルナフタレン共重合体、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−メタクリル酸エステル共重合体、スチレン−α−クロルメタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ビニルメチルエーテル共重合体、スチレン−ビニルエチルエーテル共重合体、スチレン−ビニルメチルケトン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体、スチレン−アクリロニトリル−インデン共重合体のようなスチレン系共重合体が挙げられる。このようなスチレン系共重合体のスチレンモノマーに対するコモノマーとしては、例えば、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸フェニル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸オクチル、アクリロニトリル、アクリルアミドのような二重結合を有するモノカルボン酸類、及びその置換体;マレイン酸、マレイン酸ブチル、マレイン酸メチル、マレイン酸ジメチルのような二重結合を有するジカルボン酸類、及びその置換体;塩化ビニル、酢酸ビニル、安息香酸ビニルのようなビニルエステル類;エチレン、プロピレン、ブチレンのようなエチレン系オレフィン類;ビニルメチルケトン、ビニルヘキシルケトンのようなビニルケトン類;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルイソブチルエーテルのようなビニルエーテル類が挙げられる。これらを単独で用いてもよく、複数組み合わせて用いてもよい。
【0083】
結着樹脂は、架橋剤で架橋されたスチレン系樹脂であってもよい。架橋剤としては、主として2個以上の重合可能な二重結合を有する化合物が用いられ、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレンのような芳香族ジビニル化合物;エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレートのような二重結合を2個有するカルボン酸エステル;ジビニルアニリン、ジビニルエーテル、ジビニルスルフィド、ジビニルスルホンのジビニル化合物;3個以上のビニル基を有する化合物が挙げられる。これらを単独で用いてもよく、複数組み合わせて用いてもよい。
【0084】
結着樹脂は、ポリ塩化ビニル、フェノール樹脂、天然変性フェノール樹脂、天然樹脂変性マレイン酸樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリ酢酸ビニル、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、キシレン樹脂、ポリアミド樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニルブチラール、テルペン樹脂、クマロンインデン樹脂、石油系樹脂であってもよい。
【0085】
静電荷像現像用トナーに、着色剤として公知の染料や顔料を含有させていてもよい。着色剤として、例えば、カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ランプブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラックなど)、チタンブラック、黒色酸化鉄が挙げられる。
【0086】
なお、静電荷像現像用トナーは、さらに、離型剤を含有していてもよい。離型剤としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテンのような低分子量ポリオレフィンワックス;シリコーンワックス;オレイン酸アミド、ステアリン酸アミドのような脂肪酸アミド;植物系ワックス;ミツロウのような動物系ワックス;鉱物・石油系ワックス;エステルワックスのような合成ワックスが挙げられる。
【0087】
植物系ワックスとしては、カルナウバワックス、ライスワックス、キャンデリラワックス等が挙げられ、カルナウバワックスが好ましい。鉱物・石油系ワックスとしては、モンタンワックス、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックス等が挙げられ、パラフィンワックスが好ましい。
【0088】
これらの離型剤は、単独で又は複数混合して用いることができる。添加量は0.3〜15重量%が好ましい。離型剤の添加量が0.3重量%未満であると、画像を定着させる際に離型剤として十分に作用しない。一方15重量%を超えると、トナー表面上の離型剤露出が多くなるため、帯電不良を生じ、現像剤担持体からのトナー飛散や画質低下を生じたり、トナー粒子相互間の付着力、層形成部材や現像剤担持体との相互作用が大きくなるため、クリーニング性を低下させたりする。
【0089】
静電荷像現像用トナーは、磁性材料を含む磁性トナーを含有していてもよい。磁性材料は、鉄、コバルト、ニッケル、銅、マグネシウム、マンガン、亜鉛などの元素を含む金属酸化物が挙げられる。これら磁性材料は、窒素吸着法によるBET(ブルナウア・エメット・テラー)比表面積が、1〜20m/gであり、モース硬度が5〜7の磁性粉であることが好ましい。磁性材料の形状としては、八面体、六面体、球状、針状、燐片状などがあるが、八面体、六面体、球状等の異方性の少ないものが好ましい。等方性の形状を有するものは、トナー中の結着樹脂やワックスに対しても良好な分散を達成できる。上記磁性材料の平均粒径は、0.05〜1.0μmであることが好ましい。
【0090】
この磁性材料は、トナー用結着樹脂100重量部に対して、50〜200重量部含有されていることが好ましく、70〜150重量部含有されているとなお一層好ましい。50重量部未満であると、トナーの搬送性が不十分で現像剤担持体上の現像剤層にむらが生じ、画像むらとなり易い上、現像剤の帯電の過剰な上昇に起因する画像濃度の低下が生じやすくなる。一方、200重量部を超えると、現像剤の帯電が充分に得られなくなるために、画像濃度低下が生じやすくなる。
【0091】
静電荷像現像用トナーは、環境安定性、帯電安定性、現像性、流動性、保存性向上のため、無機微粉体又は疎水性無機微粉体を含有していてもよい。このような粉体として、シリカ微粉末、酸化チタン微粉体、及びそれらの疎水化物が挙げられる。この紛体は、単独でまたは複数混合して用いてもよい。
【0092】
シリカ微粉体は、乾式法と呼ばれる蒸気相酸化によりケイ素ハロゲン化物から生成させた乾式シリカ;ヒュームドシリカと称される乾式シリカ;乾式法により塩化アルミニウムや塩化チタンのような金属ハロゲン化合物と、ケイ素ハロゲン化合物とから、シリカと他の金属酸化物との複合微粉体を生成させた乾式シリカ;水ガラス等から製造されるいわゆる湿式シリカが用いられる。中でも、表面及び内部にあるシラノール基が少なく、またNaO、SO2−のような製造残渣の少ない乾式シリカが好ましい。
【0093】
シリカ微粉体は、疎水化処理されているものが好ましい。疎水化処理は、シリカ微粉体と反応したりまたは物理吸着したりする有機ケイ素化合物等で処理するというものであり、好ましくはケイ素ハロゲン化合物の蒸気相酸化により生成された乾式微粉体を、シランカップリング剤で処理した後、またはシランカップリング剤で処理すると同時に、シリコーンオイルのような有機ケイ素化合物で処理する方法である。
【0094】
疎水化処理に使用されるシランカップリング剤として、例えば、ヘキサメチレンジシラザン、トリメチルシラン、トリメチルクロルシラン、トリメチルエトキシシラン、ジメチルジクロルシラン、メチルトリクロルシラン、アリルジメチルクロルシラン、アリルフェニルジクロルシラン、ベンジルジメチルクロルシラン、ブロムメチルジメチルクロルシラン、α−クロルエチルトリクロルシラン、β−クロルエチルトリクロルシラン、クロルメチルジメチルクロルシラン、トリオルガノシリルメルカプタン、トリメチルシリルメルカプタン、トリオルガノシリルアクリレート、ビニルジメチルアセトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ヘキサメチルジシロキサン、1,3−ジビニルテトラメチルジシロキサン、1,3−ジフェニルテトラメチルジシロキサン及び1分子当たり2〜12個のシロキサン単位を有し末端に位置する単位にそれぞれ1個のケイ素原子に結合した水酸基を含有したジメチルポリシロキサンが挙げられる。
【0095】
有機ケイ素化合物としては、シリコーンオイルが挙げられる。好ましいシリコーンオイルとして、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、α−メチルスチレン変性シリコーンオイル、クロルフェニルシリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイルが挙げられる。
【0096】
静電荷像現像用トナーは、必要に応じ外部添加剤を含有していてもよい。外部添加剤として、例えば、シリカ、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化亜鉛、酸化錫、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム等の無機粒子;ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム等の有機酸塩粒子;メタクリル酸エステル重合体粒子、アクリル酸エステル重合体粒子、スチレン−メタクリル酸エステル共重合体粒子、スチレン−アクリル酸エステル共重合体粒子等の有機樹脂粒子等が挙げられる。外部添加剤として、例えば、帯電補助剤、導電性付与剤、流動性付与剤、ケーキング防止剤、熱ローラ定着時の離型剤、滑剤、研磨剤、現像性向上剤などが挙げられる。
【0097】
流動性付与剤として、シリカ、酸化チタン、酸化アルミニウムが挙げられ、なかでも疎水性のものが好ましい。滑剤として、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ステアリン酸亜鉛、ポリフッ化ビニリデンが挙げられる。また研磨剤として、例えば酸化セリウム、炭化ケイ素、チタン酸ストロンチウムが挙げられる。
【0098】
導電性付与剤として、例えばカーボンブラック、酸化亜鉛、酸化アンチモン、酸化錫が挙げられる。現像性向上剤として、逆極性の白色微粒子、及び黒色微粒子が、少量用いられる。
【実施例】
【0099】
次に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0100】
(調製実施例1:荷電制御剤A)
(1. 荷電制御剤Aの調製)
荷電制御剤Aを以下のようにして調製した。
(1) 反応工程(モノアゾ化合物の合成)
濃塩酸95kgを水150Lで希釈し、これに2−アミノ−4−tert−ブチルフェノール45kgを投入して溶解後、氷150kgで5℃まで冷却した。これに40%亜硝酸ナトリウム水溶液49kgを徐々に加えてジアゾ化反応を行い、ジアゾニウム塩を得た。別に、ナフトールAS70kgと48%水酸化カリウム水溶液60kgとを水280Lに加えて溶解させた。これに、ジアゾニウム塩溶液とn−ブタノール40kgとを滴下し、80℃で2時間反応した。反応後、遠心分離機で濾過・水洗してモノアゾ化合物のウエットケーキ275kgを得た。
【0101】
(2) 金属化工程(アゾ系鉄錯塩の合成)
反応工程で得られたモノアゾ化合物のウエットケーキ全量を水1000Lに加え、48%水酸化カリウム水溶液90kgとn−ブタノール80kgとを加えて80℃で分散した。分散後40%硫酸第二鉄水溶液130kgを滴下した。この時の反応液のpHは2.8であった。80℃で6時間反応を行い、アゾ鉄錯塩を得た。反応後、プレスフィルターで濾過・水洗してアゾ系鉄錯塩のウエットケーキ312kgを得た。
【0102】
(3) 乾燥工程(アゾ系鉄錯塩の乾燥)
金属化工程で得られたアゾ系鉄錯塩のウエットケーキ全量をパドル乾燥機(株式会社ネオテック製、製品名:PD−1500V)に投入し、パドル乾燥機の処理室の圧力を60mmHgに減圧した。蒸気圧0.1MPaの蒸気をパドル乾燥機のジャケットに導入して循環させることによって、パドル乾燥機の処理室を70℃まで昇温した。この温度に達した時から6時間までの前半は、パドル乾燥機の回転軸を4rpmで回転させてウエットケーキを乾燥させた。このとき大部分の水が留去されるまで、処理室を100mmHg〜200mmHgに保った。6時間経過後の後半は、蒸気圧を0.55MPaに昇圧して処理室を120℃とし、さらに24時間撹拌することにより、荷電制御剤Aを調製した。
【0103】
(2. 荷電制御剤Aの分析・評価)
(測定1)平均粒径の測定
凝集粒子である荷電制御剤A5mgを、活性剤(花王株式会社製、製品名:モア)5v/v%の溶液に加え混合液とし、5分間超音波振動させた。この混合液0.25mLを、粒度分布測定器(株式会社堀場製作所製、製品名:LA−950)に投入し、さらに5分間超音波振動させ微細分散させた後、粒度分布を測定した。D10値は体積基準における累積頻度が10%を示す時の粒子径、D50値は体積基準における累積頻度が50%を示す時の粒子径(メジアン径)を表す。荷電制御剤AのD10値は0.89μm、D50値は1.56μmであった。
【0104】
(測定2)対イオンの分析
水素イオン量、Naイオン量及びKイオン量の測定
原子吸光測定器(バリアン テクノロジーズ ジャパン リミテッド社製、製品名:SpectrAA−220FS)を用い、荷電制御剤A中のNaとK含有量を測定した結果、対イオンとしての存在モル%比率は水素イオンが99.7%であり、Naイオン量が0%、Kイオン量が0.3%であった。
【0105】
(測定3)pHの測定
荷電制御剤A5gを100mLのイオン交換水に分散し、その際の重量を記録した。これを、イオン成分を抽出するために煮沸抽出し、抽出後に濾過した。濾液の重量を初期の重量と同じになるまでイオン交換水を加え、この溶液のpHをpHメーター(東亜ディーケーケー株式会社製、製品名:HM30R)で測定した結果、荷電制御剤AのpHは6.2であった。
【0106】
(測定4)電気伝導度の測定
荷電制御剤A5gを500mLのイオン交換水に分散し、その際の重量を記録した。これを、イオン成分を抽出するために煮沸抽出し、抽出後に濾過した。濾液の重量を初期の重量と同じになるまでイオン交換水を加え、この溶液の電気伝導度を電気伝導率計(東亜ディーケーケー株式会社製、製品名:AOL−10)で測定した結果、荷電制御剤Aの電気伝導度は167μS/cmであった。
【0107】
(測定5)揮発成分の測定
荷電制御剤A2gを秤量瓶(重量a)に加え、全重量(重量b)を測定した。秤量瓶を107℃に保持した温風乾燥機中に入れ、2時間放置後、乾燥剤を入れたデシケーター中で室温まで放冷した。放冷後に秤量瓶の重量(重量c)を測定し、
揮発成分(%)={(b−a)-(c−a)}/(b−a)×100
の計算式で揮発成分を求めた結果、荷電制御剤Aの揮発成分は0.23%であった。
【0108】
(測定6)灰分の測定
荷電制御剤A1gをるつぼ(重量a)に入れ、全重量(重量b)を測定した。るつぼを800℃に保持した電気炉中に入れ、2時間放置後、乾燥剤を入れたデシケーター中で室温まで放冷した。放冷後にるつぼの重量(重量c)を測定し、
灰分(%)=(c−a)/(b−a)×100
の計算式で灰分を求めた結果、荷電制御剤Aの灰分は8.72%であった。
【0109】
(測定7)X線回折パターンの測定
粉末X線回折パターンを以下の条件で測定した。
使用装置:X線回折装置(株式会社リガク製、製品名:RINT TTRIII)
X線源:Cu
管電圧,管電流:50.0kV,300mA
発散スリット:2/3°
受光スリット:0.30mm
散乱スリット:2/3°
走査速度:4.0°/min
サンプリング幅:0.02°
走査範囲:5.0〜40.0°
ピークサーチ条件:二次微分法、ピーク幅閾値0.2°、ピーク強度閾値600cps
【0110】
その結果、荷電制御剤AのX線回折パターンは、図2に示すように、ブラッグ角2θにおける6.6°、10.3°、18.3°、19.5°及び21.7°に主要なピークとともに、31.7°にピークが確認された。
【0111】
(調製実施例2:荷電制御剤B)
調製実施例1の乾燥工程の前半において、乾燥時間を10時間としたこと以外は、調製実施例1と同様にして荷電制御剤Bを調製した。得られた荷電制御剤BのX線回折を測定すると、6.6°、10.3°、18.3°、19.5°、21.7°に主要なピークとともに、31.7°にピークが確認された。
【0112】
(調製実施例3:荷電制御剤C)
調製実施例2の乾燥工程の前半において、処理室の圧力を30mmHgとしたこと以外は、調製実施例2と同様にして荷電制御剤Cを調製した。得られた荷電制御剤CのX線回折を測定すると、6.6°、10.3°、18.3°、19.5°、21.7°に主要なピークとともに、31.7°にピークが確認された。
【0113】
(調製実施例4:荷電制御剤D)
調製実施例1の乾燥工程の後半において、蒸気圧を0.6MPaとしたこと以外は、調製実施例1と同様にして荷電制御剤Dを調製した。得られた荷電制御剤DのX線回折を測定すると、6.6°、10.3°、18.3°、19.5°、21.7°に主要なピークとともに、31.7°にピークが確認された。
【0114】
(調製実施例5:荷電制御剤E)
調製実施例2の乾燥工程の後半において、48時間継続したこと以外は、調製実施例2と同様にして荷電制御剤Eを調製した。得られた荷電制御剤EのX線回折を測定すると、6.6°、10.3°、18.3°、19.5°、21.7°に主要なピークとともに、31.7°にピークが確認された。
【0115】
荷電制御剤B〜Eについて、荷電制御剤Aと同様にして(測定1)平均粒径の測定〜(測定6)灰分の測定を行った。結果を表2に示す。
【0116】
(比較調製実施例1:荷電制御剤F)
(1) モノアゾ化合物の合成
濃塩酸95kgを水150Lで希釈し、これに2−アミノ−4−tert−ブチルフェノール45kgを投入して溶解後、氷150kgで5℃まで冷却した。これに40%亜硝酸ナトリウム水溶液49kgを徐々に加えてジアゾ化反応を行い、ジアゾニウム塩を得た。別に、ナフトールAS70kgと48%水酸化カリウム水溶液60kgとを水280Lに加えて溶解させた。これに、ジアゾニウム塩溶液とイソブタノール40kgとを滴下し、80℃で2時間反応した。反応後、遠心分離機で濾過・水洗してウエットケーキ281kgを得た。
【0117】
(2) アゾ系鉄錯塩の合成
得られたモノアゾ化合物のウエットケーキ全量を水1000Lに加え、48%水酸化カリウム水溶液90kgとイソブタノール80kgとを加えて80℃で分散した。分散後40%硫酸第二鉄水溶液130kgを滴下した。この時の反応液のpHは2.6であった。80℃で6時間反応を行い、アゾ鉄錯塩を得た。反応後、プレスフィルターで濾過・水洗してウエットケーキ309kgを得た。
【0118】
(3) アゾ系鉄錯塩の乾燥
得られたウエットケーキ全量を金属トレイに移した後に棚型温風乾燥機に投入し、庫内温度120℃で24時間乾燥することにより、荷電制御剤Fを調製した。
【0119】
得られた荷電制御剤FのX線回折を測定した。結果を図3に示す。同図に示すように、6.6°、10.3°、18.3°、19.5°、21.7°にピークが検出されたが、31.7°にピークはなかった。
【0120】
さらに調製実施例の荷電制御剤Aと同様に、荷電制御剤Fの分析・評価を行った。結果を表2に示す。
【0121】
【表2】
【0122】
表2のD10値とD50値とが示す通り、調製実施例1〜5の荷電制御剤A〜Eは、粒度のばらつきが小さく、粒度分布の幅が非常に狭いものであった。比較調製実施例1の荷電制御剤Fは、粒度のばらつきが大きく、粒度分布の幅が広いものであることが分かった。
【0123】
次に、荷電制御剤A〜Eを用いて、夫々本発明を適用する静電荷像現像用トナーを調製し、また荷電制御剤Fを用いて本発明を適用外の静電荷像現像用トナーを調製した。これらのトナーについて、摩擦帯電量測定と帯電量環境安定性評価とを行った。
【0124】
(実施例1)
スチレン−アクリル共重合樹脂(三井化学株式会社製、製品名:CPR−100)を100重量部と、低分子量ポリプロピレン(三洋化成工業株式会社製、製品名:ビスコール550−P)を2重量部と、カーボンブラック(三菱化学株式会社製、製品名:MA100)を6重量部と、荷電制御剤Aを1重量部とを高速ミキサーで均一にプレミキシングした。次いで、ニーダー(株式会社栗本鐵工所製、製品名:S1KRC2軸混練押出機)で溶融混練(温度130℃)し、冷却後、ローターミル(Retsch社製、製品名:ZM1)で粗粉砕した。得られた粗砕物を分級機付きのエアージェットミル(セイシン企業株式会社製、製品名:CO−JET Systemα)を用いて微粉砕して、粒径10μmのトナーを得た。
【0125】
得られたトナー5重量部に対して、フェライトキャリア(パウダーテック株式会社製、製品名:F−150)95重量部を混合して現像剤を調製した。
【0126】
現像剤をポリ瓶中で秤量し、回転数100rpmのボールミルにより攪拌して現像剤を帯電させ、大気条件下での初期帯電量(3分値)、及び攪拌時間(分)毎の摩擦帯電量を測定し、帯電の安定性を評価した。帯電の安定性については、安定性のあるものを○、ないものを×とする2段階で評価した。また、25℃、相対湿度50%の標準条件下で24時間以上調湿させた現像剤について同様に帯電量(10分値)を測定し、これに対して、低温低湿(10℃、相対湿度30%)及び高温高湿(30℃、相対湿度80%)の各条件下に24時間以上調湿させた現像剤について同様にして帯電量を測定することで、帯電量環境安定性も同時に評価した。帯電量環境安定性については、
{[(標準条件下の帯電量)−(低温低湿下の帯電量)]/(標準条件下の帯電量)}×100
及び
{[(標準条件下の帯電量)−(高温高湿下の帯電量)]/(標準条件下の帯電量)}×100
の式に従って値を求め、その変化率の絶対値が0.0〜5.0%であったものを○、5.0〜10.0%であったものを△、10.0%以上のものを×とする3段階で評価した。結果を表3に示す。
【0127】
なお、帯電量の測定は、ブローオフ帯電量測定機(京セラケミカル株式会社製、製品名:TB−200)により行った。
【0128】
この現像剤を用いて市販の複写機にてトナーの画像を形成した。得られたトナー画像について、カブリ、細線再現性、帯電安定性及び持続性、オフセット現象について目視で観察した。
【0129】
カブリについては、カブリがないものを○、あるものを×として、細線再現性については、細線再現性が良好ないものを○、悪いものを×として、帯電安定性及び持続性については、帯電安定性及び持続性が良いものを○、悪いものを×として、オフセット現象について、オフセット現象が観測されなかったものを○、観測されたものを×として、夫々2段階で評価した。結果を表3に示す。
【0130】
【表3】
【0131】
表3から明らかな通り、実施例の現像剤は、帯電安定性や持続性が優れ、さらに環境安定性が優れていた。また、それを用いて形成したトナー画像は、カブリがなく、細線再現性、帯電安定性および持続性に優れ、オフセット現象が認められなかった。一方、比較例の現像剤は、アゾ系鉄錯塩からなる荷電制御剤の平均粒径が大きく、荷電制御剤がトナー中で分散不良を起こすために立ち上がり特性が劣っていた。また、環境安定性も実施例の荷電制御剤と比較すると悪く、夏場のような高温多湿条件下や、温湿度が変動する条件下での使用に向かないものであった。
【産業上の利用可能性】
【0132】
荷電制御剤は、形状及び粒径が揃っており、微細に分散される。このため、帯電立ち上がりが速く、荷電制御性が均一であり、帯電維持性が高く、静電荷像現像用トナーに用いた場合、このトナーはカブリがなく、細線再現性、帯電安定性及び持続性に優れている。また、静電粉体塗装に使用される粉体塗料にも使用できる。
【0133】
この荷電制御剤を含有する静電荷像現像用トナーは、帯電の立ち上りが速い。このトナーは、荷電制御剤がトナー中に均等に分散しており、負電荷に帯電し均一で高い荷電量のまま長時間安定して維持できる。安定して鮮明で高解像度であり、カブリがなく綺麗である。
【符号の説明】
【0134】
1はパドル乾燥機、2は本体、3は回転軸、4はベルト、5は荷電制御剤、21は投入口、22は処理室、23はジャケット、24は導入管、25は排気管、26は排出口、27はドレン、31はパドル、31aはロッド部、31bは羽根部である。
図1
図2
図3