特許第6245794号(P6245794)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6245794
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】遮蔽格子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01T 7/00 20060101AFI20171204BHJP
【FI】
   G01T7/00 B
【請求項の数】4
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2012-107876(P2012-107876)
(22)【出願日】2012年5月9日
(65)【公開番号】特開2013-50439(P2013-50439A)
(43)【公開日】2013年3月14日
【審査請求日】2015年5月11日
(31)【優先権主張番号】特願2011-166966(P2011-166966)
(32)【優先日】2011年7月29日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100124442
【弁理士】
【氏名又は名称】黒岩 創吾
(72)【発明者】
【氏名】手島 隆行
(72)【発明者】
【氏名】▲瀬▼戸本 豊
【審査官】 藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−037023(JP,A)
【文献】 特開2011−069818(JP,A)
【文献】 特開昭63−240502(JP,A)
【文献】 特開昭61−174546(JP,A)
【文献】 特開2009−133823(JP,A)
【文献】 特開2006−259264(JP,A)
【文献】 特開2009−169098(JP,A)
【文献】 特開2010−185728(JP,A)
【文献】 特開2009−042528(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 7/00
G01T 1/20
G01T 1/24
G21K 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線タルボ干渉法による撮像装置に用いられる遮蔽格子の製造方法であって、基板の第1の面に複数の凹部を形成する工程と、
前記複数の凹部に金属を充填してX線を遮蔽する遮蔽部を構成する金属構造体を形成する工程と、
前記基板にエッチング処理を施し、前記金属構造体を露出させる工程と、
前記露出した金属構造体を湾曲した形状に変形させる工程と、
前記変形した金属構造体に樹脂を塗布し、前記樹脂を固化して樹脂層を形成する工程と、
を有することを特徴とする遮蔽格子の製造方法。
【請求項2】
前記金属構造体を露出させる工程において、
前記金属構造体の高さの半分以上を前記基板から露出させることを特徴とする請求項1に記載の遮蔽格子の製造方法。
【請求項3】
前記基板は、シリコンであることを特徴とする請求項1又は2に記載の遮蔽格子の製造方法。
【請求項4】
前記金属構造体は、金または金の合金で構成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の遮蔽格子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造体、その製造方法およびその構造体を用いた撮像装置に関し、特にX線位相コントラスト撮像装置に用いられる構造体、その製造方法及びその構造体を用いた撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周期構造を有する構造体からなる回折格子は分光素子として様々な機器に利用されている。特に、X線吸収率が高い金属で形成される構造体は、物体の非破壊検査や、医療分野に用いられている。
【0003】
X線吸収率が高い金属で形成される構造体の用途の一つとして、X線のタルボ干渉を用いた撮像を行う撮像装置の、遮蔽格子があげられる。X線タルボ干渉を用いた撮像方法(X線タルボ干渉法)は、X線の位相コントラストを利用したイメージング方法(X線位相イメージング法)の一つである。
【0004】
X線タルボ干渉法について簡単に説明をする。X線タルボ干渉法を行う一般的な撮像装置では、空間的に可干渉なX線が、被検体とX線を回折する回折格子を通過して干渉パターンを形成する。その干渉パターンが形成される位置に、X線を周期的に遮蔽する遮蔽格子を配置してモアレを形成する。このモアレを検出器によって検出し、その検出結果を用いて撮像画像を得る。
【0005】
タルボ干渉法に用いられる一般的な遮蔽格子は、X線透過部とX線遮蔽部とが周期的に配列した構造を有する。X線遮蔽部は、例えば金のような、X線吸収率が高い金属からなる高アスペクト比(アスペクト比とは、構造体の高さまたは深さhと横幅wの比(h/w)である。)な構造体で形成されることが多い。遮蔽部がこのような構造体で形成される遮蔽格子の作製方法としては、モールドにめっきを用いて金属を充填する方法が知られている。
【0006】
特許文献1には、遮蔽格子の製造方法としてシリコンに反応性イオンエッチングによって凹部を形成し、凹部に金属をめっきにて析出させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−185728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示されている方法で製造される遮蔽格子の透過部はシリコンで形成されている。シリコンは、金のようなX線吸収率の高い金属と比較するとX線吸収率が小さいが、0ではないため、X線を吸収する。その結果、遮蔽部を漏れて透過したX線量と透過部を透過したX線量とのコントラスト(X線遮蔽コントラスト)が低下したり、検出器に到達するX線量が低下したりするという課題があった。
【0009】
そこで本発明は、従来の透過部よりもX線の透過率の高い透過部を備える構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
その目的を達成するために、本発明の一側面としての構造体の製造方法は、基板の第1の面に凹部を形成する工程と、前記凹部に金属を充填して金属構造体を形成する工程と、前記基板から前記金属構造体を露出させる工程と、露出した前記金属構造体に樹脂を塗布し、前記樹脂を固化して樹脂層を形成する工程と、を有することを特徴とする。
【0011】
本発明のその他の側面については、以下で説明する実施の形態で明らかにする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、従来の透過部よりもX線の透過率が高い透過部を備える構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態1の工程図である。
図2】本発明の実施形態1に係る構造体の形態を模式的に示す断面図である。
図3】本発明の実施例2の構造体の製造方法を示す工程図である。
図4】本発明の実施例3の構造体の製造方法を示す工程図である。
図5】本発明の実施形態1と実施形態2に係る外周部について説明をする図である。
図6】本発明の実施形態3について説明をする図である。
図7】本発明の実施形態4について説明をする図である。
図8】本発明の実施形態5について説明をする図である。
図9】本発明の実施形態1に係る凹部のパターンを示す上面図である。
図10】本発明の撮像装置の一実施態様を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。
【0015】
(実施形態1)
実施形態1では1次元の構造体の製造方法について図1に基づいて説明をする。但し、1次元の構造体とは、複数の金属構造体が1次元に配列された構造体であり、X線遮蔽部とX線透過部とが1次元に配列された1次元遮蔽格子として用いることができる。
【0016】
本実施形態に係る構造体の製造方法は、下記の工程を有する。
(1)基板の第1の面に凹部を形成する工程。
(2)基板の凹部に金属を充填して金属構造体を形成する工程。
(3)金属構造体が形成された領域の外周部、又は第1の面と対向する第2の面における、外周部に対向する部分の少なくともいずれか一方にマスク層を形成する工程。
(4)マスク層をマスクとして基板をエッチングする工程。
尚、本明細書では基板の第1の面に凸部(凸状構造体)を形成することで凹部を形成することも、基板の第1の面に凹部を形成するという。
【0017】
上記(1)から(4)の工程によって製造される構造体として、X線タルボ干渉法を行う撮像装置で用いる遮蔽格子が挙げられる。遮蔽格子は、X線遮蔽部に入射したX線を遮蔽し、X線透過部に入射したX線を透過する。尚、X線遮蔽部は、入射したX線の80%以上を遮蔽できることが好ましい。例えば、入射するX線のエネルギーが17.7keVのとき、透過部にSiが存在する場合はSiの厚さは500μm以下であることが好ましい。また、入射するX線のエネルギーが17.7keVのとき、遮蔽部が金からなる場合は金の厚さが20μm以上200μm以下の厚さであることが好ましい。また、X線タルボ干渉法を行う撮像装置で用いる遮蔽格子のピッチは、位相格子によって形成される干渉パターンのピッチと略等しくすることが一般的である。そのため、構造体を遮蔽格子として用いる場合は複数の金属構造体の一つ一つのアスペクト比が20以上となることが一般的である。
各工程について説明をする。
【0018】
(第1工程)
まず、図1(a)に示す様に、シリコン基板1の第1の面10に複数の凹部2を形成する第1工程について説明する。本実施形態では、エッチングを用いてシリコン基板1の第1の面10に複数の凹部2を形成する。本実施形態により製造される構造体を遮蔽格子として用いる場合、複数の凹部2が最終的に遮蔽格子の遮蔽部となる。そのため、1次元遮蔽格子を製造する場合は、複数の凹部2がシリコン基板1の第1の面10において、1次元に配列されるようにエッチングを行う。
【0019】
エッチング方法としては、シリコンの結晶方位面のエッチング選択性を利用したアルカリ水溶液によるウェットエッチングを使用することができる。また、イオンスパッタや反応性ガスプラズマ等のドライエッチング法も使用することができる。反応性ガスプラズマによるドライエッチングの中でも、反応性イオンエッチング(RIE)が高アスペクト比の凹部2を形成するのに適している。更にRIEの中でも、SFガスによるエッチングとCガスによる側壁保護膜の堆積を交互に行うBoschプロセスのRIEが、より高アスペクト比の凹部2を形成するのに適している。尚、ここで凹部2を狭ピッチで高アスペクト比に形成すると、最終的に狭ピッチで高アスペクト比な構造体を製造することができる。
【0020】
また、本実施形態ではシリコン基板をエッチングすることにより複数の凹部を形成したが、例えばガラスの上にフォトレジスト膜が形成された基板を用いてフォトリソグラフィを用いることにより複数の凹部を形成しても良い。
【0021】
(第2工程)
次に、図1(b)に示す様に、複数の凹部2に金属を充填して複数の金属構造体3を形成する第2工程について説明する。金属の充填方法としては凹部2上に金属を配置し、金属を溶融させる方法をとることができる。また、CVD(Chemical Vapor Deposition)、真空スパッタ、真空蒸着を用いて金属を充填しても良い。また、めっきを用いて金属を充填してもよい。
【0022】
めっきを用いて凹部2に金属を充填する方法の一例を簡単に説明する。まず、凹部2に絶縁層を形成した後、凹部2の底部の絶縁層を除去し、凹部2の底部のシリコンを露出させる。露出した凹部2の底部のシリコン上に金属膜を成膜し、これをモールドとして用いる。モールドへの通電はシリコンを通じて行う。こうすることによって金属膜上に金属を充填することが可能である。これらの方法で充填された金属が凹部2からはみ出した場合は研磨にて除去することができる。
【0023】
本実施形態では凹部2に充填する金属として金または金の合金を用いる。金はX線吸収率が大きいため、凹部2に充填する金属として金又は金の合金を用いるとX線吸収率が大きい金属構造体を形成することができ、X線遮蔽コントラストの大きな構造体を形成することが可能になる。また、金と金の合金は比較的容易にめっきによる凹部2への充填が可能な金属である。
【0024】
(第3工程)
次に、図1(c)に示す様に、シリコン基板1の、複数の金属構造体3が形成された領域の外周部(以下、単に外周部と呼ぶことがある。)と、その外周部に対向する部分にマスク層4(4a,4b)を形成する第3工程について説明する。尚、外周部に対向する部分とは、シリコン基板の第1の面に対向する第2の面における、外周部に対向する部分である。また、本実施形態において複数の金属構造体3が形成された領域とは複数の金属構造体と、隣り合う金属構造体の端部同士をつないだ線に囲まれた領域であり、例を図5(a),(b)に示した。図5(a),(b)はシリコン基板に形成した凹部に金属を充填して金属構造体を形成した状態を第1の面側から見た図である。図5(a)のように、複数の金属構造体が全て同じ大きさで且つ、金属構造体の端部が一直線上に並んでいるとき、複数の金属構造体が形成された領域20は四角形である。また、図5(b)のように、複数の金属構造体の端部が一直線上に並んでいないときでも、隣り合う金属構造体の端部同士をつないだ線に囲まれた領域を複数の金属構造体が形成された領域21と呼ぶ。
【0025】
尚、外周部とは複数の金属構造体3が形成された領域の外周を含む部分であり、外周部にマスク層4aを形成すると、複数の金属構造体3のうち、少なくとも1つの金属構造体3上の少なくとも一部にマスク層4aが形成される。
【0026】
本実施形態では、フォトリソグラフィとエッチングを利用してマスク層4を形成する。フォトリソグラフィとエッチングを利用したマスク層4の形成方法の一例を簡単に説明する。まず、真空スパッタ、真空蒸着又はCVD(Chemical Vapor Deposition)を用いて第1の面10と第2の面11にマスク層を成膜する。続いて、下記に説明をする第4工程にてエッチングする領域がマスク層から露出するように、成膜したマスク層にフォトレジストでパターニングし、成膜したマスク層の一部をエッチング除去する。これにより、マスク層4を所望の領域に形成することができる。また、下記の第4工程にてエッチングする領域に予めレジスト層をパターニングしておいてマスク層を成膜した後にレジスト層を溶解し、第4工程にてエッチングする領域に成膜されたマスク層をリフトオフしてもよい。または、下記の第4工程にてエッチングする領域にメタルマスク等を配置し、真空スパッタや真空蒸着によるマスク成膜を行ってもよい。
【0027】
また、これらの方法にて形成されたマスク層4上にめっきを行い厚膜化し、マスク層の物理的な補強とピンホールの減少をさせてもよい。
【0028】
本実施形態のマスク層4の材料は下記の第4工程にて行わるエッチングに対して耐性のあるものから選択する。また、最終的にマスク層4を除去して構造体を使用する場合は、マスク層4の材料は金属構造体3に対してエッチング選択性のあるものから選択する。
【0029】
例えば、シリコンのエッチングにアルカリ性水溶液を用いる場合は、マスク層4の材料として金、銅、ニッケル、鉄を用いることができる。また、フッ硝酸水溶液を用いてシリコンのエッチングを行う場合は、マスク層4の材料として金を用いることができる。但し、上述のように下記の第4工程でシリコンを選択的にエッチングできるのであれば、マスク層4の材料はこれらに限定されない。
【0030】
また、本実施形態では第1の面10と第2の面11の両面にマスク層4を形成したが、いずれか一方の面にのみマスク層4(4aまたは4b)を形成しても良い。例えば、第1の面10上にのみマスク層4aを形成した場合は下記の第4工程で第1の面からエッチングを行い、第2の面11上にのみマスク層4bを形成した場合は下記の第4工程で第2の面からエッチングを行う。
【0031】
また、本実施形態でマスク層4を形成した外周部は、複数の金属構造体が形成された領域の外周全体を有するが、マスク層は外周部の少なくとも一部に形成されていればよい。
【0032】
(第4工程)
次に、図1(d)に示す様に、シリコン基板1の、マスク層4から露出した領域5(5a、5b)をエッチングする第4工程について説明する。本実施形態では、第1の面10と第2の面11の両面からエッチングを行う。これにより、第1の面10においてマスク層4aから露出した領域5aと、第2の面11においてマスク層4bから露出した領域5bのエッチングが可能である。本実施形態の第4工程におけるエッチングはウェットエッチング、ドライエッチングまたはその両方を併用した方法を用いることができる。但し、エッチングの方法としては第3工程で形成したマスク層4を浸食することなく、マスク層4から露出した領域5のシリコンを選択的にエッチングできる方法を選択することが好ましい。マスク層4を浸食する方法でエッチングする場合は、エッチングが終わるまでマスク層4が残り、シリコン基板のマスク層4により保護された領域がエッチングされないようにマスク層の厚みを十分厚くする。
【0033】
露出した領域5のシリコンを選択的にエッチングする方法の例を挙げる。
【0034】
アルカリ性のエッチング水溶液を用いてウェットエッチングを行う場合、アルカリ性のエッチング水溶液として例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、アンモニウム、ヒドラジンを用いることができる。但し、本実施形態に使用できるアルカリ性のエッチング水溶液はこれらに限定されない。アルカリ性のエッチング水溶液を用いてシリコンをエッチングすると、異方性のエッチングを行うことができる。したがって第1の面10に形成されたマスク層4aと第2の面11に形成されたマスク層4bとに挟まれた領域のシリコンがエッチングされてしまうサイドエッチングを、等方性のエッチングを行った際よりも抑制することができる。これによりマスク層4を形成する面積を小さくできるため、同じ大きさのシリコン基板1を用いる場合、遮蔽格子として使用できる面積を大きくすることができる。
【0035】
また、露出した領域5のシリコンのウェットエッチングにはフッ硝酸の水溶液を用いることもできる。フッ硝酸の水溶液は低温でも高いエッチング速度でシリコンをエッチングすることができるため、エッチング工程に必要な時間を短縮することができる。
【0036】
露出した領域5のシリコンはドライエッチングによりエッチングしても良い。露出した領域5のシリコンの選択的なドライエッチングに用いる反応性ガスとしては、例えばフッ化炭素系のCF、CHF等を用いることができる。また、SFやXeFのようなフッ素系ガスもまた用いることができる。但し、本実施形態に使用できる反応性ガスはこれらに限定されない。
【0037】
マスク層4から露出した領域のシリコン5を厚み方向に対して完全にエッチングを行うと、図1(d)のようになる。但し、第1の面と第2の面の間をシリコン基板の厚みとすし、図1において厚み方向は上下方向である。このように、厚み方向に対して完全にエッチングを行うと、第1の面に形成された凹状の空間(凹状空間)12と、第2の面の一部に形成された、空間を形成する凹部13が連通する。このように第2の面の一部に形成された、空間を形成する凹部13と連通しても、第1の面に凹状空間12が形成されていると呼ぶ。尚、厚み方向に対するエッチングは必ずしも完全に行う必要はない。構造体のX線透過部の透過率が所望の値にできるのであればシリコンは残してもよい。第4の工程により除去するシリコンは、第3の工程終了時のシリコン基板の厚みの1/4以上が好ましく、1/3以上がより好ましく、1/2以上がさらに好ましい。また、金属構造体3の下に存在するシリコン基板は必ずしもエッチングする必要はない。金属構造体3と同様なパターンにて残せば、残ったシリコンが金属構造体3を支持し、より強固な構造体6となる。また、金属構造体の高さによっては、金属構造体3と同じ幅のパターンにてシリコン基板の一部を残すことにより残されたシリコンがX線の吸収体として働き、構造体のX線遮蔽コントラストを向上させることができる。但し、シリコン基板の厚さ方向を金属構造体の高さ方向とする。
【0038】
本実施形態では複数の金属構造体3が形成された領域の外周部に形成されたマスク層4aと、その外周部に対向する第2の面上の部分に形成されたマスク層4bによりシリコン基板1の一部が残る。この、エッチングにより残ったシリコン基板1の一部を支持体9と呼び、支持体9における金属構造体3との接続部を支持部7と呼ぶ。複数の金属構造体3のそれぞれは、支持部7とマスク層4aに支持されているため、支持体9から脱離しない。
【0039】
また、図1(e)に示すように、第4工程の後にマスク層4を除去する工程を行っても良い。マスク層4aが除去されても、支持部7のシリコンによって金属構造体3が支持されるため金属構造体3は支持体9から脱離しない。
【0040】
本実施形態のように、複数の凹部2同士が独立していると、その凹部2に充填されて形成された複数の金属構造体3同士も独立している。そのため、複数の金属構造体3が配列方向を有することができるように支持部7で複数の金属構造体3を支持する必要がある。
【0041】
そのために、金属構造体3が形成された領域が四角形の場合、金属構造体3が形成された領域の少なくとも、金属構造体の3の配列方向に支持部7が形成されている必要がある。そのためには、金属構造体3が形成された領域の外周部のうち複数の金属構造体3の配列方向に平行な2辺のうち少なくとも1辺を含む外周部(またはその外周部に対向する部分)にマスク層を形成してから第4工程でシリコンをエッチングすればよい。但し、マスク層を形成する外周部は、金属構造体が形成された領域の外周を多く含んでいるほうがが、複数の金属構造体同士の配列を強固に保持することができる。よって、金属構造体が形成された領域の外周のうち金属構造体3の配列方向に平行な2辺を含む外周部にマスク層を形成することが好ましい。更に、金属構造体が形成された領域の外周全体(4辺)を含む外周部にマスク層を形成することがより好ましい。
【0042】
尚、複数の凹部同士が図9((a)、(b))に示すように連通していても、1次元遮蔽格子として用いることができる1次元の構造体を製造することができる。図9はシリコン基板に形成した凹部に金属を充填して金属構造体を形成した状態を第1の面側から見た図であり、1次元に配列された複数の金属構造体同士が配列方向と平行な方向の一端で連通している。このように金属構造体を形成するためには、複数の凹部同士を配列方向と平行な方向の一端で連通させればよい。このように複数の凹部同士が連通していても、本明細書では複数の凹部とみなし、図9に示した構造体はシリコン基板に複数の金属構造体が形成されているとみなす。図9に示したように複数の金属構造体同士が連通している場合は、上述のような金属構造体の配列方向に支持部を形成しなくても、基板の中の複数の金属構造体同士が配列方向を有することができる。複数の金属構造体同士が連通している場合、連通している領域を用いず、複数の金属構造体同士が1次元に配列している領域を用いれば1次元遮蔽格子として用いることができる。
【0043】
本実施形態の製造方法により得られた構造体の一例を図2((a)〜(c))に示した。本実施形態により製造された構造体は、シリコン基板の一部である支持体9と複数の金属構造体3を備えている。複数の金属構造体3は支持体9の支持部7、又は支持部7とマスク層4によって支持体9に支持されている。
【0044】
本実施形態に係る構造体を、X線タルボ干渉法を行う撮像装置の遮蔽格子として用いる場合について、図2(a)を用いて説明をする。図2(a)の構造体はシリコン基板の一部である支持体が、複数の金属構造体を支持する枠体のような構成をしている。図2(a)の構造体を遮蔽格子として用いると、X線遮蔽部は、金属構造体3のそれぞれと、それぞれの金属構造体3の下部15と上部16に存在する、シリコン又は空間の少なくとも一方から形成される。また、X線透過部は、金属構造体3の間に挟まれた部分14と、その下部17と上部18に存在する、シリコン又は空間の少なくとも一方から形成される。図2(a)のように、マスク層から露出したシリコンを、厚さ方向に対して完全に除去すると、X線遮蔽部は金属構造体3とその金属構造体の下部の空間から形成され、X線透過部は、金属構造体3に挟まれた空間とその空間の上下の空間から形成される。このとき、金属構造体3に挟まれた空間とは、上記の凹状空間である。尚、金属構造体の下部15とは、金属構造体の第2の面に近い底面を、支持体9の第2の面の延長と交わるところまで延長した部分である。一方、金属構造体3の上部16とは、金属構造体3の第1の面に近い底面を、支持体9の第1の面の延長と交わるところまで延長した部分である。
【0045】
同様に金属構造体3の間に挟まれた部分14の下部17とは金属構造体3の間に挟まされた部分14の第2の面に近い底面を、支持体9の第2の面の延長と交わるところまで延長した部分である。また、金属構造体3の間に挟まれた部分14の上部18とは、金属構造体3の間に挟まれた部分14の第1の面に近い底面を、支持体9の第1の面の延長と交わるところまで延長した部分である。
【0046】
本実施形態の構造体を製造する際は、薄いシリコン基板を用いた方が第4の工程で行うエッチングで除去するシリコン基板の厚みが少なくて済む。しかし、シリコン基板の厚みが薄いと、支持体9の厚みも薄くなり、機械的強度が低下する。そのため、用いるシリコン基板は、例えば4インチウェハ―サイズであれば、厚みが300μm〜525μmのものがよい。
【0047】
本実施形態の構造体を遮蔽格子として用いると、X線透過部に存在するシリコンの厚さが、支持体9のシリコンの厚さに対して小さい。そのため、従来の遮蔽格子の透過部よりもX線を透過しやすく、さらにシリコン内での散乱を軽減することもできる。尚、本明細書において、シリコンの厚さが小さいとは、支持体9のシリコンの厚さがゼロでなく、X線透過部に存在するシリコン厚さがゼロであることも含む。
【0048】
図2(b)はシリコン基板1の第2の面の一部に空間を形成する凹部13が設けられており、金属構造体に挟まれた部分にはシリコンが残されている。そのため、X線透過部はシリコンと空間とから形成されている。空間を形成する凹部13が形成されているため、X線透過部に存在するシリコンの厚さが支持体9のシリコンの厚さに対して小さい。X線透過部のX線透過率の向上という面では、図2(a)に示したような構造体の方が遮蔽格子として好ましい。しかし、図2(b)の構造体は、金属構造体に挟まれた部分にシリコンを残すことによってシリコンがスペーサとして働き、金属構造体間のピッチが強固に保持される効果がある。
【0049】
図2(c)は金属構造体に挟まれた部分の下部のシリコンが深堀パターニングされており、金属構造体の下部のシリコンが選択的に残されている。こうすることによって金属構造体の下部のシリコンがX線の吸収体として働く。一方、シリコンが深堀されている部分はX線が透過しやすくなるので、X線遮蔽コントラストが高まる効果がある。
【0050】
図2(d)は第1の面にのみマスク層を形成し、第1の面からのみエッチングを行って製造した構造体である。第1の面からのみエッチングを行っても、マスク層から露出した領域を完全にエッチングすれば図2(a)のような構造体が得られる。しかし、図2(d)に示したように、複数の金属構造体に挟まれた部分のみをエッチングにより除いても良い。図2(d)のような構造体を遮蔽格子として用いても、従来の遮蔽格子よりも透過部のX線透過量が多い。図2(d)のように、複数の金属構造体に挟まれた部分一部が残った構造体は、複数の金属構造体に挟まれた部分の一部分がそれぞれ第1の面に凹状の空間を形成している。複数の金属構造体に挟まれた部分のシリコンが完全に除去されていれば、複数の金属構造体に挟まれた部分の全部分が第1の面に凹状の空間を形成する。
【0051】
尚、本実施形態により得られる構造体をX線タルボ干渉法を行う撮像装置の遮蔽格子として用いる場合、金属構造体同士のピッチが8μm以下になるように製造することが好ましい。
【0052】
(実施形態2)
実施形態2では2次元の構造体の製造方法について説明をする。尚、実施形態1と重複する部分は省略する。
2次元の構造体とは、金属構造体に複数の孔が配列されて設けられており、その複数の孔が2次元に配列された構造体である。2次元の構造体は、X線遮蔽部とX線透過部とが2次元に配列された2次元遮蔽格子として用いることができる。この2次元の構造体を2次元遮蔽格子としてもいる場合、金属構造体に設けられた複数の孔がX線透過部として機能するため、この複数の孔の一つ一つのアスペクト比は20以上であるのが一般的である。
【0053】
(第1工程)
実施形態1と同様に、まず、シリコン基板の第1の面に凹部を形成する。但し、本実施形態で形成する凹部は凹部中に複数の孔を有する1つの凹部である。このような凹部を形成することにより、シリコン基板の第1の面に複数の凸部を形成する。構造体を遮蔽格子として用いる場合、実施形態1同様に凹部が最終的に遮蔽格子の遮蔽部となる。また、この金属構造体を形成すると複数の凸部が金属構造体の複数の孔となり、遮蔽格子として用いると複数の凸部が透過部となるため、複数の凸部がシリコン基板の第1の面において、2次元に配列されるようにエッチングを行う。
尚、実施形態1と同様に、シリコン基板の代わり例えばガラスの上にフォトレジスト膜が形成された基板を用いてフォトリソグラフィを用いることにより複数の凸部を形成しても良い。
【0054】
(第2工程)
次に、第1の工程で形成した複数の凸部の間に金属を充填して金属構造体を形成する。尚、複数の凸部の間とは、第1工程で形成した1つの凹部であり、凹部が1つなので本実施形態で形成される金属構造体も1つである点が実施形態1と異なる。
【0055】
(第3工程)
次に、実施形態1と同様、第2工程で形成した金属構造体が形成された領域の外周部と、その外周部に対向する部分にマスク層を形成する。尚、本実施形態において金属構造体が形成された領域とは、実施形態1の複数の金属構造体が形成されたた領域と同様、金属構造体と、金属構造体の端部同士をつないだ線に囲まれた領域であり、例を図5(c),(d)に示した。図5(a),(b)同様、図5(c),(d)はシリコン基板3001に形成した凹部に金属を充填して金属構造体3003を形成した状態を第1の面側から見た図である。図5(c)のように、複数の金属構造体3003が全て同じ大きさで且つ、金属構造体の端部が一直線上に並んでいるとき、複数の金属構造体が形成された領域3020は4角が欠けた四角形のような形である。また、図5(d)のように、複数の金属構造体の端部が一直線上に並んでいないときでも、隣り合う金属構造体の端部同士をつないだ線に囲まれた領域を複数の金属構造体が形成された領域3021と呼ぶ。
尚、外周部とは金属構造体が形成された領域の外周を含む部分であり、外周部にマスク層を形成すると、金属構造体上の少なくとも一部にマスク層が形成される。
また、本実施形態も、実施形態1と同様に第1の面と第2の面の両面にマスク層を形成したが、いずれか一方の面にのみマスク層を形成しても良い。
【0056】
(第4工程)
次に、実施形態1と同様、第3工程で形成したマスク層から露出した領域のシリコンをエッチングする。エッチング方法は実施形態1と同様である。また、実施形態1と同様、マスク層から露出した領域のシリコンを、厚み方向に対して完全にエッチングを行っても良いし、一部を残してもよい。厚み方向に対して完全にエッチングを行うと、シリコン基板の複数の凸部と複数の凸部に対向する部分とがエッチングにより除去され、第1の面に形成された凹状の空間と第2の面の一部に形成された空間を形成する凹部が繋がる。この凹状の空間と、空間を形成する凹部のうち、金属構造体の間に存在する空間が金属構造体の複数の孔である。また、金属構造体の間にシリコン基板の複数の凸部が残っている場合、金属構造体の複数の孔はシリコン有する。つまり、金属構造体の複数の孔は空間でも良いし、複数の孔の一部または全部にシリコンが形成されていても良い。また、金属構造体を形成する材料よりもX線の透過率が高い材料で形成されていればシリコン以外の材料で形成されていても良い。但し、本実施形態により製造された構造体を遮蔽格子として用いるとき、金属構造体の複数の孔が透過部として機能するため、複数の孔を形成する材料はX線透過率が高いことが好ましい。
【0057】
本実施形態でもマスク層を形成してからエッチングを行うことにより、シリコン基板の一部である支持体が残り、金属構造体が支持部とマスク層により支持体に支持されるため、金属構造体は支持体から脱離しない。
尚、実施形態1同様、第4工程の後にマスク層を除去する工程を行っても、金属構造体は支持体から脱離しない。
【0058】
本実施形態では、形成される金属構造体は1つである。よって、実施形態1のように、支持部で複数の金属構造体を支持しなくても、金属構造体は配列方向を有することができる。但し、金属構造体の配列方向とは、金属構造体に設けられている複数の孔の配列方向である。しかし、金属構造体の強度を補強するために、支持体で金属構造体を支持することが好ましい。支持体で支持する支持部は大きいほうがより強度を補強することができるため、マスク層を形成する外周部は、金属構造体が形成された領域の外周の多くを含んでいることが好ましい。よって、マスク層を形成する外周部は、金属構造体が形成された領域の外周のうち1/4以上を含んでいることが好ましく、金属構造体が形成された領域の外周のうち1/2以上を含んでいることがより好ましい。更にマスク層を形成する外周部は、金属構造体が形成された領域の外周のうち4/5以上を含んでいると好ましく、金属構造体が形成された領域の外周のすべてを含んでいることがより好ましい。
【0059】
実施形態1同様、本実施形態の構造体を遮蔽格子として用いると、X線透過部に存在するシリコンの厚さが、支持体9のシリコンの厚さに対して小さい。そのため、本実施形態の構造体の透過部は、従来の遮蔽格子の透過部よりもX線を透過しやすく、さらにシリコン内での散乱を軽減することもできる。
【0060】
(実施形態3)
実施形態3では、樹脂を用いて強度を向上させた2次元の構造体の製造方法について図6に基づいて説明する。また、本実施形態は、点光源(X線発生領域が小さいX線源)からのX線の遮蔽格子として好ましい形状の構造体を製造するために、金属構造体を湾曲した形状に変形させて樹脂層を形成する。
【0061】
本実施形態は、実施形態2と第4工程までは同様なので詳細は省略する。本実施形態の2次元の構造体も、2次元遮蔽格子として用いることができる。
【0062】
(第1工程)
実施形態2と同様に、まず、シリコン基板の第1の面に複数の孔を有する凹部を形成する。このような凹部を形成することにより、シリコン基板の第1の面に複数の凸部を形成する。この複数の凸部は、後の工程で凹部に金属を充填して金属構造体を形成した際に金属構造体の複数の孔となる。構造体を遮蔽格子として用いる場合、実施形態2同様に凹部が最終的に遮蔽格子の遮蔽部となる。また、複数の凸部が透過部となるため、複数の凸部がシリコン基板の第1の面において、2次元に配列されるようにエッチングを行う。
【0063】
(第2工程)
次に、第1の工程で形成した凹部2(複数の凸部の間)に金属を充填して金属構造体を形成する。
【0064】
(第3工程)
次に、実施形態2と同様、第2工程で形成した金属構造体が形成された領域の外周部と、その外周部に対向する部分にマスク層を形成する。尚、本実施形態における金属構造体が形成された領域とは、実施形態2における金属構造体が形成された領域と同様な領域のことをいう。
【0065】
(第4工程)
次に、第3工程で形成したマスク層から露出した領域のシリコンをエッチングする。エッチング方法は実施形態2と同様である。また、実施形態2と同様、マスク層から露出した領域のシリコンを、厚み方向に対して完全にエッチングを行っても良いし、一部を残してもよい。但し、樹脂で金属構造体の表面を覆うことで第2の実施形態の構造体よりも強度を向上させつつ、従来のシリコンで形成された透過部よりもX線透過率を高くするためには、金属構造体の高さの半分以上をシリコン基板から露出させることが好ましい。更に、図6(a)のように、金属構造体の高さの全体をシリコン基板から露出させることがより好ましい。つまり、例えば金属構造体の高さが100μmの場合は50μm以上をシリコン基板から露出させることが好ましく、100μm全部を露出させることがより好ましい。金属構造体の高さの半分以上をシリコン基板から露出させると、金属構造体の複数の孔の夫々の半分以上は空間により形成されることになる。尚、本実施形態では、図6(a)のように、第1の面に形成された凹状の空間と第2の面の一部に形成された空間を形成する凹部が繋がるまでエッチングを行ったため、金属構造体の複数の孔は空間からなる。しかし、金属構造体の複数の孔は必ずしも空間のみから形成されていなくても良く、シリコン(基板の材料)で形成されていても良いし、シリコンと空間とから形成されていても良い。シリコンが複数の孔の少なくとも一部を形成するとき、複数の孔がシリコンを有すると言う。
【0066】
本実施形態でもマスク層を形成してからエッチングを行うことにより、シリコン基板の一部である支持体が残り、金属構造体が支持部とマスク層により支持体に支持されるため、金属構造体は支持体から脱離しない。
【0067】
(第5工程)
次に、第4工程でシリコン基板から露出させた金属構造体の表面に樹脂を塗布し、固化して樹脂層を形成する。この樹脂層により構造体、特に金属構造体の強度を実施形態2の構造体(金属構造体)よりも向上させる。更に本実施形態では上述のように、点光源からのX線の遮蔽格子として好ましい形状の構造体を製造するために、金属構造体を変形させたまま樹脂層を形成する。金属構造体の変形方法として、例えば、図6(b)に示すように型19を用いて型19の形状を反映した形に金属構造体3を変形させる方法がある。本実施形態では、型19として3次元の形状を有するものを用いる。型19は凸型でも凹型でもよい。型19を用いて金属構造体3を変形させる方法としては、金属構造体を型19に接触させて外部から圧力をかければよい。例えば、凸型の型19に金属構造体3を接触させ、凹型を押し付ければ、金属構造体を変形させることができる。又は、金属構造体3と型19との間に液体を介し、表面張力によって金属構造体3を型19に貼り付けて変形させてもよい。このように、金属構造体と型が直接は接触せず、間接的にのみ接触している場合であっても、本明細書では金属構造体と型が接触していると言う。
【0068】
次に変形した金属構造体3を覆うように樹脂を塗布し、樹脂を固化して樹脂層22を形成する。これにより、金属構造体3の複数の孔に樹脂が充填された構造体が得られる。樹脂は合成樹脂でも天然樹脂でも良いが、X線の透過率が高いものを用いるのが好ましく、シリコンよりもX線の透過率が高いものを用いる。尚、金属構造体の複数の孔に充填した樹脂にはボイドが生じていてもよい。また、例えば複数の孔の高さの半分までしか樹脂が充填されていなくても良い。このように、金属構造体3を型19を用いて変形させた状態で樹脂層を形成することで、金属構造体は型19の形状を反映した形に成型される(図6(c))。それと同時に、金属構造体の複数の孔の夫々の、少なくとも一部に樹脂が充填されて樹脂層を形成するため、金属構造体の強度を向上させることができる。但し、複数の孔の一つ一つ全てに樹脂層が形成されていなくても良い。
尚、金属構造体3に樹脂を塗布後に、金属構造体3を変形させ、樹脂を固化して樹脂層22を形成してもよい。
【0069】
ここでR形状の型を用いると高アスペクト比な複数の孔を有する金属構造体3は所望のR形状に成型することができる。尚、本明細書においてR形状とは円筒を軸方向に切り取った形状のことをいう。R形状に成型された金属構造体3の複数の孔の高さ方向(金属構造体の高さ方向と一致する)の向きもR形状を反映した向きになる。また、球欠の表面形状を有する型を用いて金属構造体を球の表面の一部に沿うような形状に変形させると複数の孔の高さ方向の延長線が交わり、誤差を無視すると、その複数の延長線を1点に集中させることができる。点光源からの2次元に発散するX線の遮蔽格子として用いるには、このように金属構造体を球の表面の一部に沿うような形状に変形させることが好ましい。それは、平面状のX線遮蔽格子ではX線源からの距離が長くなるにつれX線の進行方向と遮蔽格子のX線透過部の伸長方向とがずれ、十分なX線の透過コントラストが得られなくなったり、検出器に到達するX線量が低下したりするためである。金属構造体を球の表面の一部に沿うような形状に変形させると、X線透過部となる複数孔の延長線が1点に集中し、X線の進行方向とX線透過部の伸長方向とのずれを軽減することができる。尚、いわゆるファンビームのように、1方向に発散するX線を用いる場合は、金属構造体をR形状に変形させても、同様の効果を得ることができる。
【0070】
尚、本実施形態では金属構造体を変形させて樹脂層を形成したが、光源(X線源)の大きさ、照射範囲の大きさ、金属構造体の大きさ、等によってはこのように金属構造体を変形させず、例えば平面状であっても良い。その場合は、図6(a)のように金属構造体をシリコンから露出させて金属構造体を変形させない状態で樹脂層を形成すれば、金属構造体の複数の孔のうち少なくとも一部にシリコンよりもX線透過率の高い樹脂が充填され、樹脂層が形成される。これにより、特許文献1に記載されているような透過部がシリコンからなる構造体よりもX線遮蔽コントラストが高く、実施形態2の構造体よりも強度が大きい構造体を製造することができる。
【0071】
(実施形態4)
実施形態4では樹脂を用いて強度を向上させた2次元の構造体の製造方法について図7に基づいて説明する。本実施形態は図7(a)に示すようにマスク層4を除去する点が実施形態3と異なる。マスク層4が除去されても、支持部7のシリコンによって金属構造体3が支持されるため金属構造体3は支持体9から脱離しない。本実施形態は、実施形態3の第4工程まで実施形態3と同様の方法で行い、その後マスク層4を除去する。
次に、実施形態3と同様に金属構造体3を型19に接触させ、金属構造体3を型19の形状を反映した形に変形させる(図7(b))。次に変形された金属構造体3に樹脂を塗布し樹脂を固化し樹脂層22を形成する。これにより金属構造体3は使用する型19の形状を反映した形に成型される(図7(c))。
【0072】
(実施形態5)
実施形態5ではシリコン基板から取り出した金属構造体に樹脂を塗布し、樹脂層を形成することで強度を向上させた構造体の製造方法について図8に基づいて説明する。尚、本実施形態では2次元の遮蔽格子として用いることができる2次元の構造体について説明をし、実施形態2と重複する部分は省略する。まず、実施形態2と同様の方法にて凹部2に金属を充填して金属構造体3を形成する(図8(a))。次に、シリコン基板を金属構造体から取り出すことにより、金属構造体を露出させる(図8(b))。金属構造体3を取り出す方法として例えば、シリコン基板1をエッチングにより溶かして金属構造体を残す方法を用いても良いし、シリコン基板に切込みを入れてシリコン基板から金属構造体を取り外す方法を用いても良い。シリコン基板のエッチングの方法としては金属構造体3がエッチングされにくい方法であれば、ウェットエッチングとドライエッチングの何れも用いることができる。例えば、ウェットエッチングであればフッ化水素酸と硝酸とからなる水溶液を使用してシリコン基板1をエッチングすることができる。また、水酸化カリウムや水酸化ナトリウムのような無機アルカリ、水酸化テトラメチルアンモニウムやヒドラジンやエチレンジアミンのような有機アルカリの水溶液を用いても良い。また、ドライエッチングであればXeFを反応性ガスとして用いるエッチングによりシリコン基板をエッチングすることができる。XeFはシリコンを選択的にエッチングできるガスである。本実施形態ではシリコン基板1から金属構造体3が取り出せればよいため、取り出された金属構造体3にはシリコン基板1の一部が残っていてもよい。取り出された金属構造体3は複数の孔を有する。複数の孔は空間でも良く、複数の孔の一部にシリコンが形成されていても良い。但し、本実施形態のように、後の工程で金属構造体を変形させる場合は複数の孔のうち空間が占める割合が大きい方が変形させやすいため好ましい。変形方法にもよるが、概ね複数の孔の夫々の体積の半分以上を空間が占めると、金属構造体を変形させやすく、複数の孔の夫々の体積の3/4以上を空間が占めると金属構造体をより変形させやすい。
【0073】
次に、取り出された金属構造体3を変形させる。変形方法は、実施形態3と同様であり、例えば、型19に接触させ、型19の形状を反映した形に変形させる(図8(c))。型を用いた変形方法も実施形態3と同様である。
【0074】
次に変形された金属構造体3を覆うように樹脂を塗布し、樹脂を固化して樹脂層22を形成する。これにより取り出された金属構造体3は使用する型19の形状を反映した形に成型される(図8(d))。尚、シリコン基板から取り出された金属構造体に樹脂を塗布した後に、金属構造体を変形させ、樹脂を固化して樹脂層22を形成してもよい。型19から離型すると型19の形状を反映した形の金属構造体3と樹脂層を備える構造体が形成される(図8(e))。金属構造体の複数の孔の夫々の一部又は全部には樹脂層22が形成される。但し、複数の孔の一つ一つ全てに樹脂層が形成されていなくても良い。
【0075】
実施形態3と同様に、金属構造体をR形状に成型すると複数の凹状空間12の深さ方向の向きもR形状に反映した向きになる。また、金属構造体を球の表面の一部に沿うような形状に変形させると、複数の孔の高さ方向の延長線が交わり、誤差を無視すると、その複数の延長線は1点に集中させることができる。
【0076】
実施形態4では支持部7に形成された金属構造体はシリコン基板1と重なっているため容易に変形できないが、本実施形態の製造方法では、支持部がないため、金属構造体の端部まで変形させることができる。これはX線遮蔽格子として利用できる有効面積をより大きくできる効果を奏する。また、金属構造体3は支持部7と接続された形でないため金属構造体3をより大きく変形させることができる。
【0077】
尚、実施形態3と同様に、本実施形態では金属構造体を変形させて樹脂層を形成したが、金属構造体を変形させずに樹脂層を形成しても良い。そのようにすれば、金属構造体の複数の孔の夫々の少なくとも一部にシリコンよりもX線透過率の高い樹脂からなる樹脂層が形成される。これにより、複数の孔を有する金属構造体と、樹脂層を備え、複数の孔の夫々に樹脂層が形成された構造体が製造される。この構造体は、従来のシリコンからなるX線透過部よりもX線透過率が高いX線透過部を有し、且つ、金属構造体のみからなるX線遮蔽格子よりも強度が大きいX線遮蔽格子として用いることができる。
【実施例】
【0078】
以下、具体的な実施例を挙げて本実施形態をより詳細に説明する。
【0079】
(実施例1)
実施例1ではマスク層を第1の面と第2の面上に銅で形成し、アルカリ水溶液を用いてエッチングをすることで2次元の構造体を製造する。
【0080】
本実施例では両面ミラーの直径が100mm(4インチ)で厚さ525μmのシリコン基板を用いる。まず、シリコン基板の第1の面をエッチングすることにより、複数の凸部を形成する(第1工程)。複数の凸部は次のように形成する。1050℃で75分のウェット熱酸化によって、シリコン基板の第1の面と第2の面にそれぞれ0.5μm程度のSiO層を形成する。次に第1の面に形成したSiO層の上に200nm厚のCr膜を電子ビーム蒸着法で成膜する。その上にポジ型フォトレジストを塗布し、半導体フォトリソグラフィにて60mm×60mmの領域に2μmφのパターンが4μmのピッチで2次元に配置されたレジストパターンを形成する。その後、露出したCr膜をCrエッチング水溶液にてエッチングし、SiO層を露出させる。CHFプラズマによるドライエッチング法を用いて露出したSiO層をエッチングし、シリコンを露出させる。レジストをジメチルホルムアミドで除去し、CrをCrエッチング水溶液にて除去する。
【0081】
次に、SiOをマスクにしてSFガスによるエッチングとCガスによる側壁保護膜の堆積を交互に行うBoschプロセスで反応性イオンエッチングを行う。この反応性イオンエッチングによって深さ160μmの凹部が形成される。これにより高さ約160μmで2μmφのシリコンからなる複数の凸部が4μmピッチで配列されたシリコン基板が得られる。尚、エッチングを行った領域は60mm×60mmの領域であり、凹部の大きさは60mm×60mmである。本実施例ではこのシリコン基板を用いる。
【0082】
次に、得られたシリコン基板の複数の凸部の間に金属を充填する(第2工程)。得られたシリコン基板を硫酸過水にて洗浄し、水洗後、イソプロピルアルコールに浸し、超臨界乾燥装置を用い乾燥させる。続いて、1050℃で7分のウェット熱酸化によって、シリコン基板の表面に0.1μm程度のSiO層を形成する。シリコン基板の凹部の底部に形成されたSiOを除去し、シリコンの露出面を形成する。SiOの部分的な除去は、CHFプラズマによるドライエッチング法を用いる。このエッチングは高い異方性があり、シリコン基板にほぼ垂直の方向で進行する。そのために、シリコン基板の凹部の底部のSiOが完全に除去されても、凸部の側面のSiOは残され、側面のシリコンは露出されない。次に電子ビーム蒸着装置にてCr、Cuの順番でそれぞれ約7.5nm、約50nm成膜する。これにより露出された凹部の底部のシリコン上にクロムと銅からなる金属が付与される。次に、シリコン基板から通電し、金めっきによって金を複数の凸部の間(凹部)に充填する。金めっきはノンシアン金めっき液(ミクロファブAu1101、日本エレクトロプレイティング・エンジニヤース)にてめっき液温度60℃、電流密度0.2A/dmにて24時間のめっきを行う。これにより約120μmの厚さの金が凸部の間に充填される。
【0083】
次にマスク層を形成する(第3工程)。金めっきにより形成された金属構造体が形成された60mm×60mmの領域の中心に56mm×56mmのメタルマスクの中心が合うように配置し、電子ビーム蒸着装置にてCr、Cuの順番でそれぞれ約5nm、約500nm成膜する。成膜後、メタルマスクを除去すると、金属構造体が形成された領域の外周を含む外周部に、CrとCuからなる金属膜が形成される。同様に、金属構造体が形成された領域の中心と対向する第2の面上の位置にメタルマスクの中心が合うようにを配置し、電子ビーム蒸着装置にてCr、Cuの順番でそれぞれ約5nm、約500nm成膜する。成膜後、メタルマスクを除去すると第1の面上に形成された金属膜に対向する第2の面上の部分にもCrとCuからなる金属膜が形成される。次に、金属膜上に銅めっきを行う。銅めっき液は次の組成にて調製されたものを用いる。
硫酸銅・5水和物 200(g/L)
98%濃硫酸 14(mL/L)
35%塩酸 0.09(mL/L)
Cu−Brite VFII−A(荏原ユージライト社製) 20(mL/L)
Cu−Brite VFII−B(荏原ユージライト社製) 1(mL/L)
銅めっきは電子ビーム蒸着にて形成されたCrとCuからなる金属膜から通電し、電流密度1.5A/dmにて室温で1時間めっきを行う。すると高さ約15μmの銅めっき層が形成される。本実施例ではこれをシリコンのエッチング用のマスク層として使用する。これによってシリコン基板の第1の面と第2の面に56mm×56mm領域でシリコンが露出される。
【0084】
次にマスク層から露出した領域のシリコンのエッチングを行う(第4工程)。マスク層を形成したシリコン基板をバッファードフッ酸の水溶液に10分間浸し、マスク層から露出した領域のシリコンの第1の面と第2の面のSiO層をエッチングしてシリコン表面を露出させる。得られたシリコン基板を、95℃に加熱され、30wt%に調製された水酸化カリウム水溶液に浸し、マスク層をマスクとしてマスク層から露出した領域のシリコンのエッチングを第1の面と第2の面から行う。エッチングを3時間行うとマスク層から露出した領域のシリコンが除去され、マスク層に保護されたシリコン基板中に、面積約55mm×55mm、厚さ120μmの金からなるメッシュ状の金属構造体が設けられた構造体が得られる。この構造体が備える金属構造体には、孔が4μmピッチで2次元に配列されて設けられている。シリコンの除去の確認は、光学顕微鏡による透過観察により行うことができる。得られた構造体の透過観察を行い、金属構造体の部分が遮光され、金属構造体に設けられている複数の孔の部分を光が透過してくれば、シリコンが除去されたことが確認される。また、得られた構造体は、金属構造体の外周が約4mmの幅でシリコン基板の支持部とマスク層によってシリコン基板の支持体に支持されているためシリコン基板の支持体から脱離しない。
【0085】
次にマスク層を銅のエッチング液とクロムのエッチング液にて除去する。このとき、マスク層が除去されても、金属構造体の外周が約4mmの幅でシリコン基板に支持されているため、シリコン基板から脱離しない。この構造体をシリコン基板の第1の面側からX線顕微鏡にて観察すると、金属構造体の部分はX線が遮蔽され、金属構造体に設けられた孔の部分は線が透過することが確認できる。
【0086】
(比較例1)
本比較例では、金属構造体が形成されている60mm×60mmの領域の以外の領域にマスク層を形成し、それ以外は実施例1と同様に構造体を製造する。実施例1と同様に95℃に加熱され、30wt%に調製された水酸化カリウム水溶液に浸し、マスク層から露出した領域のシリコンのエッチングを3時間行うと、金属構造体は支持部が無くなり、シリコン基板から脱離する。
【0087】
(実施例2)
実施例2ではマスク層を第1の面と第2の面上に金で形成し、フッ硝酸水溶液を用いてエッチングをすることで2次元の構造体を製造する。但し、第1の面は全体をマスクして第2の面からのみエッチングを行い、金属構造体内の孔にシリコンを残したままエッチングを終了する。金属構造体の孔内のシリコンはスペーサーとして機能する。
【0088】
本実施例の製造方法を図3を用いて説明する。本実施例では、凸部の間に金を充填して金属構造体を形成するまで(第2工程まで)は実施例1と同様な方法で形成する(図3(a))。
【0089】
次に、マスク層1004(1004a,1004b)を形成する。金属構造体1003が形成された60mm×60mmの領域の中心と対向する第2の面1011上の位置を中心として56mm×56mmのメタルマスクを配置する。次に電子ビーム蒸着装置にてCr、Auの順番でそれぞれ約5nm、約500nm成膜する。シリコン基板1001の第1の面1010には全面に電子ビーム蒸着装置にてクロム、金の順番でそれぞれ約5nm、約500nm成膜する。次に成膜された金表面から通電し、金めっきを行う。金めっきはノンシアン金めっき液(ミクロファブAu1101、日本エレクトロプレイティング・エンジニヤース)にてめっき液温度60℃、電流密度0.2A/dmにて30分間のめっきを行うことで、約1.5μmの厚さの金めっき層が形成される。本実施例ではこれをマスク層1004として用いる(図3(b))。マスク層1004を形成することにより、シリコン基板の第2の面1011のみにマスク層から露出した領域1005が形成される。
【0090】
次にシリコン基板のマスク層から露出した領域1005のエッチングを行う。本実施例ではフッ硝酸の水溶液を用いてエッチングする。金のマスク層1004が形成されたシリコン基板1001を5分間、フッ硝酸の水溶液に浸し、マスク層から露出した領域1005のシリコンをエッチングする。こうすることによって第2の面1011から深さ約365μmシリコンがエッチングされ、金属構造体1003の孔内のシリコンは残された構造体が形成される(図3(c))。金属構造体1003はマスク層1004とシリコン基板のエッチングされずに残った部分(金属構造体孔内のシリコンと、支持部1007)によって支持体1009に支持されているのでシリコン基板1001から脱離しない。実施例1同様に、この構造体を第1の面1010側からX線顕微鏡にて観察すると、金属構造体1003の孔の部分はX線が透過し、金属構造体の部分はX線を遮蔽することが確認できる。本実施例により得られる構造体は、金属構造体の複数の孔が空間である分、実施例1により得られた構造体よりも複数の孔を透過するX線量が増加する。しかし、複数の孔が空間である分、実施例1の構造体よりも強度が弱い。そのため、金属構造体の大きさ、用途等に応じて複数の孔のシリコンのエッチング(除去)量を適宜調整し、複数の孔(透過領域)のX線透過率と強度のバランスを調整しても良い。
【0091】
(実施例3)
実施例3ではマスク層を第1の面と第2の面上にニッケルで形成し、アルカリ水溶液を用いてエッチングをすることで1次元の構造体を製造する。実施例2同様、第1の面は全体をマスクして第2の面からのみエッチングを行い、シリコン基板中の複数の金属構造体の間にシリコンを残したままエッチングを終了する。残されたシリコンはスペーサーとして機能する。
【0092】
本実施例の製造方法を図4を用いて説明する。本実施例では両面ミラーの直径が100mm(4インチ)で厚さ300μmのシリコン基板2001を用いる。
【0093】
まず、複数の凹部2002は次のように形成する(第1工程)。
1050℃で75分のウェット熱酸化によって、シリコンウエハの第1の面2010と第2の面2011にそれぞれ0.5μm程度のSiO層を形成する。次にSiO層の上に200nm厚のCr膜を電子ビーム蒸着法で成膜する。その上にポジ型フォトレジストを塗布し、半導体フォトリソグラフィにて60mm×60mmの領域に、ライン/スペースが5μm/5μmのパターンが1次元に配置されたレジストパターンを形成する。その後、露出したCr膜をCrエッチング水溶液にてエッチングし、SiO層を露出させる。露出したSiO層をCHFプラズマによるドライエッチング法でSiOをエッチングし、シリコンを露出させる。レジストをジメチルホルムアミドで除去し、Crを前記エッチング液にて除去する。
【0094】
次にSiO層をマスクにしてSFガスによるエッチングとCガスによる側壁保護膜の堆積を交互に行うBoschプロセスで反応性イオンエッチングを行う。この反応性イオンエッチングによって複数の凹部2002が形成される。形成される凹部2002それぞれの深さ(高さ)は160μmである(図4(a))。これにより60mm×60mmの領域に深さ約160μmで60mm×5μmの凹部が5μmピッチで配置されたシリコンの構造体が得られる。本実施例ではこのシリコン基板2001を用いる。
【0095】
次に得られたシリコン基板2001の複数の凹部に金属を充填する(第2工程)。
この工程は、実施例1と同様である。まず、シリコン基板2001を硫酸過水にて洗浄し、水洗後、イソプロピルアルコールに浸し、超臨界乾燥装置を用い乾燥させる。続いて、1050℃で7分のウェット熱酸化によって、シリコン基板2001の表面に0.1μm程度のSiO層を形成する。シリコン基板2001の複数の凹部2002の底部に形成されたSiO層を除去し、シリコンの露出面を形成する。次に電子ビーム蒸着装置にてCr、Cuの順番でそれぞれ約7.5nm、約50nm成膜する。これにより露出された複数の凹部2002の底部のシリコン上にCrとCuからなる金属が付与される。次に、シリコン基板2001から通電し、金めっきを行ない、金を複数の凹部2002に充填する。金めっきはノンシアン金めっき液(ミクロファブAu1101、日本エレクトロプレイティング・エンジニヤース)にてめっき液温度60℃、電流密度0.2A/dmにて24時間のめっきを行う。これにより複数の金属構造体2003が形成される。この金属構造体2003の高さはそれぞれ、約120μmである(図4(b))。
【0096】
次にマスク層2004(2004a,2004b)を形成する(第3工程)。
第1の面2010と第2の面2011にそれぞれ電子ビーム蒸着装置にてCr、Cuの順番でそれぞれ約5nm、約1000nm成膜する。成膜した膜上にポジ型フォトレジストを塗布し、半導体フォトリソグラフィにて第2の面2011に50mm×60mmの領域が開口したレジストパターンを形成する。このレジストパターンの開口の中心は、第1の面2010の金属構造体が形成された領域の中心に対向する位置とする。その後、露出した銅の膜を銅のエッチング液でエッチングし、その銅の膜の下のクロムの膜はクロムのエッチング液でエッチングし、SiO層を露出させる。露出したSiO層をCHFプラズマによるドライエッチング法でSiOをエッチングし、シリコンを露出させる。フォトレジストを除去後、成膜した銅の上にニッケルめっきを行う。電流密度1.5A/dmにて室温で1時間めっきを行うと高さ約15μmのニッケルめっき層が形成される。本実施例ではこれをシリコンのエッチング用のマスク層2004として使用する(図4(c))。これにより第1の面2010は全面にマスク層2004で覆われ、第2の面2011上にのみマスク層から露出した領域2005が形成される。この露出した領域2005の大きさは50mm×60mmである。
【0097】
次にシリコン基板のマスク層から露出した領域2005のエッチングを行う(第4工程)。
95℃に加熱され、30wt%に調製された水酸化カリウム水溶液に得られたシリコン基板2001を浸し、マスク層から露出した領域の2005のエッチングを行う。エッチングを48分間行うとマスク層2004から露出した領域2005はエッチングされ、約140μmの深さの、空間を形成する凹部2013が形成される(図4(d))。次にマスク層2004をニッケルのエッチング液と銅のエッチング液とクロムのエッチング液にて除去する(図4(e))。このとき、マスク層2004が除去されても、複数の金属構造体2003は支持部2007と、金属構造体の間に残されたシリコンにより、シリコン基板2001に支持されているため脱離しない。また、金属構造体2003の間に残されたシリコンにより、金属構造体2003同士は5μmの間隔を維持する。また、この構造体を第1の面側からX線顕微鏡にて観察すると、金属構造体の間はX線が透過し、金属構造体の部分はX線を吸収することが確認できる。
【0098】
(実施例4)
実施例4は、実施例3の第1の面2010にも50mm×60mmのマスク層から露出した領域を設けること以外は実施例3と同様の方法で構造体を製造する。こうすることによってマスク層から露出した領域は第1の面と第2の面の両面に形成され、シリコン基板のエッチングも両面からされる。これにより、実施例3と異なり、複数の金属構造体の間のシリコンも除去され、複数の空間ができる。この空間は、第1の面に凹状の空間を形成する。得られた構造体を実施例1同様に第1の面側からX線顕微鏡にて観察すると、金属構造体の間はX線が透過し、金属構造体の部分はX線を吸収することが確認できる。
【0099】
また、実施例3と比較すると、金属構造体の間が空間である分、金属構造体の間を透過するX線量が増加するという点で実施例4の方が優れている。しかし、金属構造体の間にシリコンが存在しない分、実施例3よりも金属構造体同士の間隔を維持するのが難しい。そのため、金属構造体の大きさ、用途等に応じて金属構造体の間のシリコンのエッチング(除去)量を適宜調整し、金属構造体の間(透過領域)のX線透過率と構造体の強度のバランスを調整しても良い。
【0100】
(実施例5)
実施例5は実施形態3に対応する実施例であり、型を用いて金属構造体を変形させて樹脂層を形成することで点光源から2次元に発散するX線の遮蔽格子として好ましい形状を有する構造体を製造する。第4工程のマスク層をマスクとするシリコン基板のエッチングまでは実施例1と同様に行い、マスク層に保護されたシリコン基板中に厚さ120μmの金からなるメッシュ状の金属構造体を形成する(図6(a))。
【0101】
次に、金属構造体に型を接触させて圧力を加えることにより、金属構造体を変形させる。本実施例では半径が5mの球欠の表面形状を有する凸型の型を用いる。型に界面活性剤の水溶液を塗布し、金属構造体3の部分を型上に置くと界面活性剤の水溶液との表面張力で金属構造体3は型に張り付き、型の形状を反映した形状に変形する(図6(b))。次に型上の金属構造体3に紫外線硬化樹脂を塗布する。その上に離型剤が塗布された石英基板を置き、紫外線を照射し、紫外線硬化樹脂を固化させ樹脂層を形成する。その後、石英基板と型から樹脂層が形成された金属構造体を離型すると半径が5mの球の表面の一部に沿うような形状を有する金属構造体が得られる。言い換えると、この構造体は、半径が5mの球面状の連続曲面を有する(図6(c))。これによって、金属構造体3の複数の孔の高さ方向の延長線は、1点に集中する。但し、支持部内に形成された金属構造体の端部は変形させるのが難しいため、この端部の孔の延長線は上述の延長線が集中する1点と交わらない。
【0102】
(実施例6)
実施例6は実施形態4に対応する実施例であり、マスク層をマスクとしてシリコン基板をエッチングした後にマスク層を除去する点で実施例5と異なる。その他は実施例5と同様である。実施例5と同様に第4工程まで行うことで、シリコン基板のマスク層により保護された部分からなる支持部に保持された金属構造体を得る。その後、マスク層を除去し(図7(a))、実施例5と同様に金属構造体を変形させる(図7(b))。次に型上の金属構造体3に紫外線硬化樹脂を塗布する。その上に離型剤が塗布された石英基板を置き、紫外線を照射し、紫外線硬化樹脂を硬化させ樹脂層を形成する。その後、石英基板と型から樹脂が塗布された金属構造体3を離型すると、半径が5mの球面状の連続曲面を有する金属構造体3が得られる(図7(c))。これによって、金属構造体3の複数の孔の高さ方向の延長線は1点に集中する。但し、実施例5と同様に、支持部内に形成された金属構造体の端部は変形させるのが難しいため、この端部の孔の延長線は上述の延長線が集中する1点と交わらない。
【0103】
(実施例7)
実施例7は実施形態5に対応する実施例であり、金属構造体をシリコン基板から取り出した後変形させ、樹脂層を形成する。第2工程の複数の凸部の間に金属を充填するところまで実施例1と同様に行う(図8(a))。次にフッ化水素酸と硝酸からなる水溶液に浸し、シリコン基板1をエッチングして金属構造体3を取り出す(図8(b))。シリコンからなる複数の凸部のシリコンがエッチングされることによって金属構造体3に形成された複数の孔は空間から構成される。孔のアスペクト比は約60となる。本実施例では半径が2mで球欠の表面形状を有する凸型の型を用いる。実施例5と同様に、型に界面活性剤の水溶液を塗布し、金属構造体を型上に置いて金属構造体を変形させる(図8(c))。次に型上の金属構造体3に紫外線硬化樹脂を塗布する。その上に離型剤が塗布された石英基板を置き、紫外線を照射し、紫外線硬化樹脂を硬化させる(図8(d))。その後、石英基板と型から樹脂層22が形成された金属構造体3を離型すると半径が2mの球面状の連続曲面を有する金属構造体3の構造体が得られる(図8(e))。これによって、金属構造体3の複数の孔の高さ方向の延長線は1点に集中する。
【0104】
(実施例8)
次に、前述の実施形態または実施例で製造した構造体をX線吸収格子として用いた撮像装置について、図10を用いて説明をする。
【0105】
本実施例の撮像装置は、X線タルボ干渉法を用いた撮像装置である。撮像装置1000は、空間的に可干渉なX線を放出するX線源100と、X線を回折する回折格子200、X線の遮蔽部と透過部が配列された遮蔽格子300、X線を検出する検出器400を備えている。回折格子200はX線を回折することにより干渉パターンを形成し、遮蔽格子300はこの干渉パターンを形成するX線の一部を遮蔽する。遮蔽格子300は、前述の実施形態または実施例で製造した構造体である。
【0106】
X線源100と回折格子200の間に被検体500を配置すると、被検体500によるX線の位相シフト情報を有する干渉パターンが形成される。この干渉パターンと遮蔽格子300によりモアレが形成され、このモアレの情報を検出器により検出する。
【0107】
つまりこの撮像装置1000は被検体500の位相情報を持つモアレを撮像することで被検体500を撮像している。この検出結果に基づいてフーリエ変換法や位相シフト法等を用いての位相回復処理を行うと、被検体の位相像を得ることができる。
【0108】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形および変更が可能である。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0109】
1 シリコン基板
2 凹部
3 金属構造体
4 マスク層
5 マスク層から露出した領域
7 支持部
9 支持体
10 第1の面
11 第2の面
19 型
22 樹脂層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10