特許第6245832号(P6245832)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6245832チタニアナノ粒子及びチタニア分散液の製造方法
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  • 特許6245832-チタニアナノ粒子及びチタニア分散液の製造方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6245832
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】チタニアナノ粒子及びチタニア分散液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 23/053 20060101AFI20171204BHJP
【FI】
   C01G23/053
【請求項の数】13
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-76081(P2013-76081)
(22)【出願日】2013年4月1日
(65)【公開番号】特開2014-201451(P2014-201451A)
(43)【公開日】2014年10月27日
【審査請求日】2016年2月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阪本 浩規
(72)【発明者】
【氏名】冨田 晴雄
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 享平
【審査官】 山口 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−195654(JP,A)
【文献】 特開2000−233928(JP,A)
【文献】 特開2013−227207(JP,A)
【文献】 特表2011−511750(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/055770(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G23/04−23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)チタンを含む物質、有機酸及び水を混合して分散液を得る工程、
(B)前記工程(A)で得られた分散液を5分以上攪拌する工程、及び
(C)前記工程(B)で得られた分散液を0.45MPa以上の圧力下に50℃以上で1時間以上加熱する工程
を備え、
前記有機酸は、モノカルボン酸、ジカルボン酸及びヒドロキシカルボン酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種であり、且つ、
前記工程(A)において、チタンを含む物質と有機酸との混合比率は、チタンを含む物質中のチタン1モルに対して有機酸中のカルボキシル基が2モル以上である、チタニアナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記工程(A)が、有機酸と水との混合溶媒に、攪拌しながらチタンを含む物質を投入する工程である、請求項1に記載のチタニアナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
前記工程(C)における加熱温度が150℃以上である、請求項1又は2に記載のチタニアナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
前記工程(C)が、前記工程(B)で得られた分散液を、374℃以上の超臨界水と接触させるとともに、300℃以上で10秒以上保持する工程である、請求項1〜3のいずれかに記載のチタニアナノ粒子の製造方法。
【請求項5】
前記チタンを含む物質がチタンアルコキシド又は水酸化チタン又はハロゲン化チタンである、請求項1〜4のいずれかに記載のチタニアナノ粒子の製造方法。
【請求項6】
工程(A)において作製される分散液中のN、Cl及びS元素の濃度がいずれも0.01mol/L以下である、請求項1〜5のいずれかに記載のチタニアナノ粒子の製造方法。
【請求項7】
工程(A)において作製される分散液中の無機酸の濃度が0.01mol/L以下である、請求項1〜6のいずれかに記載のチタニアナノ粒子の製造方法。
【請求項8】
工程(A)において作製される分散液のpHが2以上6未満である、請求項1〜7のいずれかに記載のチタニアナノ粒子の製造方法。
【請求項9】
前記有機酸が、炭素数1〜12のモノカルボン酸、炭素数2〜10のジカルボン酸、及び炭素数1〜6のヒドロキシカルボン酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜8のいずれかに記載のチタニアナノ粒子の製造方法。
【請求項10】
前記有機酸が酢酸である、請求項1〜9のいずれかに記載のチタニアナノ粒子の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載のチタニアナノ粒子の製造方法における前記工程(C)の後、分散工程を施す、チタニア分散液の製造方法。
【請求項12】
前記チタニア分散液中の水の含有量が60重量%以上である、請求項11に記載のチタニア分散液の製造方法。
【請求項13】
前記有機酸とは別途有機分散剤を添加しない、請求項12又は13に記載のチタニア分散液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタニアナノ粒子及びその分散液、並びに該チタニアナノ粒子を用いたチタニアペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
チタニア(酸化チタン)は光触媒として、有害物質や汚れの分解、親水化膜として利用されているほか、水素や酸素の合成、防食、樹脂添加剤、色素増感太陽電池の負極、人工光合成等様々な応用が考えられている。硫酸チタニルを原料とする湿式法や四塩化チタンを原料とする気相法で合成されたチタニアが一般的であり、パウダーとして販売されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】J. Phys. Chem. B 2003, 107, 14336-14341
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これらの光触媒用チタニアについては分散性が不十分であり、水やアルコール中では凝集してしまい、均一に塗布しにくいという問題点がある
一方、有機系の分散剤を用いた場合は、チタニア表面の活性が損なわれるという問題点がある。また硝酸や塩酸等の無機強酸を用いて分散した場合は、分散性は向上するが酸の揮発により周辺の装置を腐食してしまうという問題がある。
【0005】
また、色素増感太陽電池等に用いる場合には分散剤を使用した後高温での焼成を行うため分散剤が分解されるが、市販の光触媒用チタニアは透明性が不足し光の散乱過剰によりエネルギーをロスし十分な性能が得られない(光触媒用チタニアは強固に凝集した状態であり、分散剤を入れても凝集を避けられない)という問題がある。
【0006】
また、チタンアルコキシド等のチタン源と硝酸や塩酸等の無機強酸を用いて水熱合成反応を行う方法(非特許文献1等)もあるが、工業的には排水の問題や反応器の腐食の問題が起こる恐れがあるため、硝酸や塩酸を用いることができない場合が多い。また、非特許文献1の方法では、結晶化が速く、粒子形成が完了してしまい、粒径が飽和するため、反応時間を延ばしても、温度を上げても、粒径があまり大きくならない。特にスケールアップ時に粒径制御が困難であるという課題もある。
【0007】
そこで、本発明は、分散性がきわめて良好でチタニアナノ粒子を、無機強酸や有機分散剤等を用いずに提供し、且つチタニアナノ粒子の粒径を制御することを目的とする。また、無機強酸や有機分散剤等を用いずに透明性の高い分散液やチタニアペーストを簡易に得ることも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を鑑み、鋭意検討した結果、本発明者らは、有機酸を特定量使用して水熱合成反応を行うことで、上記課題を全て解決できることを見出した。そして、さらに研究を重ね、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下の構成を包含する。
項1.(A)チタンを含む物質、有機酸及び水を混合して分散液を得る工程、
(B)前記工程(A)で得られた分散液を5分以上攪拌する工程、及び
(C)前記工程(B)で得られた分散液を50℃以上で1時間以上加熱する工程
を備え、且つ、
前記工程(A)において、チタンを含む物質と有機酸との混合比率は、チタンを含む物質中のチタン1モルに対して有機酸中のカルボキシル基が2モル以上である方法により得られるチタニアナノ粒子。
項2.前記工程(A)が、有機酸と水との混合溶媒に、攪拌しながらチタンを含む物質を投入する工程である、項1に記載のチタニアナノ粒子。
項3.前記工程(C)における加熱温度が150℃以上である、項1又は2に記載のチタニアナノ粒子。
項4.前記工程(C)における加熱圧力が0.45MPa以上である、項1〜3のいずれかに記載のチタニアナノ粒子。
項5.前記工程(C)が、前記工程(B)で得られた分散液を、374℃以上の超臨界水と接触させるとともに、300℃以上で10秒以上保持する工程である、項1〜4のいずれかに記載のチタニアナノ粒子。
項6.前記チタンを含む物質がチタンアルコキシド又は水酸化チタン又はハロゲン化チタンである、項1〜5のいずれかに記載のチタニアナノ粒子。
項7.工程(A)において作製される分散液中のN、Cl及びS元素の濃度がいずれも0.01mol/L以下である、項1〜6のいずれかに記載のチタニアナノ粒子。
項8.工程(A)において作製される分散液中の無機酸の濃度が0.01mol/L以下である、項1〜7のいずれかに記載のチタニアナノ粒子。
項9.工程(A)において作製される分散液のpHが2以上6未満である、項1〜8のいずれかに記載のチタニアナノ粒子。
項10.前記有機酸が、炭素数1〜12のモノカルボン酸、炭素数2〜10のジカルボン酸、及び炭素数1〜6のヒドロキシカルボン酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、項1〜9のいずれかに記載のチタニアナノ粒子。
項11.前記有機酸が酢酸である、項1〜10のいずれかに記載のチタニアナノ粒子。
項12.(A)チタンを含む物質、有機酸及び水を混合して分散液を得る工程、
(B)前記工程(A)で得られた分散液を5分以上攪拌する工程、及び
(C)前記工程(B)で得られた分散液を50℃以上で1時間以上攪拌する工程
を備え、且つ、
前記工程(A)において、チタンを含む物質と有機酸との混合比率は、チタンを含む物質中のチタン1モルに対して有機酸中のカルボキシル基が2モル以上である、チタニアナノ粒子の製造方法。
項13.水60重量%以上及び項1〜11のいずれかに記載のチタニアナノ粒子を含有する、チタニア分散液。
項14.前記有機酸とは別途有機分散剤を含有しない、項13に記載のチタニア分散液。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、分散、塗布時の透明性が高いチタニアナノ粒子を、無機強酸や有機分散剤を用いずに粒径を制御して製造することができる。また、塗布時の透明性が高いチタニア分散液及びチタニアペーストを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例2の反応液(超音波分散240時間経過後)及び比較例3の反応液(超音波分散1時間経過後)の状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、「酸化チタン」又は「チタニア」とは、二酸化チタン(TiO)のみを指すものではなく、三酸化二チタン(Ti);一酸化チタン(TiO);Ti、Ti等に代表される二酸化チタンから酸素欠損した組成のもの等も含む。また、末端OH基やCOOH基に代表されるように一部酸化チタンの合成に起因するTi−O−Ti以外の基を含んでいてもよい。
【0012】
1.チタニアナノ粒子
本発明のチタニアナノ粒子は、
(A)チタンを含む物質、有機酸及び水を混合して分散液を得る工程、
(B)前記工程(A)で得られた分散液を5分以上攪拌する工程、及び
(C)前記工程(B)で得られた分散液を70℃以上で1時間以上加熱する工程
を備え、且つ、
前記工程(A)において、チタンを含む物質と有機酸との混合比率は、チタンを含む物質中のチタン1モルに対して有機酸中のカルボキシル基が2モル以上である方法により得られる。
【0013】
<工程(A)>
工程(A)では、特定量のチタンを含む物質、特定量の有機酸及び水を混合して分散液を得る。
【0014】
使用するチタンを含む物質としては、加熱により酸化チタンとなる物質であれば特に制限はない。つまり、チタンを含む物質としては、酸化チタン及び/又は酸化チタン前駆体が好ましく、具体的には、酸化チタン;水酸化チタン;チタンアルコキシド;三塩化チタン、四塩化チタン等のハロゲン化チタン(特に塩基で中和したもの);金属チタン等が挙げられる。また、これらの1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらのなかでも、得られるチタニアの分散性の観点から、チタンアルコキシド、水酸化チタン又はハロゲン化チタン(特に塩基で中和したもの)が好ましく、特に純度及び分散性の観点からチタンアルコキシドがより好ましい。
【0015】
チタンアルコキシドとしては、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラn−ブトキシド、チタンテトラn−プロポキシド、チタンテトラエトキシド等が挙げられ、コスト及び副生成物の水溶性の観点から、チタンテトライソプロポキシドが好ましい。
【0016】
なお、チタンアルコキシドと有機酸との組合せによっては、得られるチタニアを触媒として水に溶けにくいエステル化合物が遊離することがあるが、チタニア自身には問題はない(例えば、チタンテトラn−ブトキシドと酢酸の組合せにおいて、混合し加熱した段階で酢酸ブチルが生じ遊離する)が、均一な分散液を得る観点からは、水溶性に優れる有機酸アルコキシドが得られる有機酸とチタンアルコキシドとの組合せを採用することが好ましい。
【0017】
ハロゲン化チタン(四塩化チタン、三塩化チタン等)については、不純物(ハロゲン)、量産時の反応器の腐食、及び結晶性制御の観点から、塩基で中和し、沈殿物の洗浄を行ってから用いることが好ましい。その場合、得られるチタニアの分散性の観点から、乾燥を行わずに用いることが好ましい。
【0018】
なお、酸化チタン、金属チタン等の固体を用いる場合は、平均粒子径は100nm以下が好ましく、50nm以下がより好ましい。下限値は特に設定されないが、通常1nm程度である。なお、粒径が大きい場合は遊星ボールミル、ペイントシェーカー等を用いて乾式又は湿式で粉砕して用いてもよい。平均粒子径は、例えば、電子顕微鏡(SEM又はTEM)観察等により測定することができる。
【0019】
分散液中のチタンを含む物質の濃度は、生産性と反応液の粘度の観点から、0.01〜5mol/Lが好ましく、0.05〜3mol/Lがより好ましい。
【0020】
反応に使用する酸は、有機酸であり、化学式C2n+1COOH(n=0〜11)で示されるモノカルボン酸、HOOCC2mCOOH(m=0〜8)で示されるジカルボン酸、炭素数1〜6のヒドロキシカルボン酸等が挙げられる。
【0021】
モノカルボン酸においては、水に対する溶解性(特にn=4以下が水に溶解しやすい)と臭気(特にn=2〜4が悪臭が強い)の観点から、n=1の酢酸が望ましい。
【0022】
ジカルボン酸については、水への溶解性の観点からm=0〜2が好ましいが、チタニアへの分散性も考慮すると、m=1又は2がより好ましい。
【0023】
ヒドロキシカルボン酸については、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸等が挙げられる。
【0024】
これらのなかでも、特に酢酸が好ましい。
【0025】
これらの有機酸は1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0026】
有機酸の使用量は、分散性とコストの観点から、チタンを含む物質中のチタン1モルに対して、COOH基を2モル以上、好ましくは4〜10モル含むように調整することが好ましい。有機酸を多く用いるほど分散性が向上し、粒径が大きくなる。
【0027】
分散液中の有機酸の濃度は、分散性とコストの観点から、0.02〜10mol/Lが好ましく、0.1〜7mol/Lがより好ましい。
【0028】
反応溶媒としては、水等の水性溶媒を主成分(具体的には、例えば50重量%以上)として用いることが好ましいが、反応時にアルコール類又はエステル類を含んでいてもよい。
【0029】
例えばチタンテトライソプロポキシドを原料として用いた場合、有機酸との反応によりイソプロパノールが生じる。また、加熱により有機酸のイソプロピルエステルが生じることもある。つまり、工程(A)により得られる分散液中には、アルコール類又はエステル類を投入してもよいし、系中で発生していてもよい。このアルコール類又はエステル類については、100℃以下の開放系における加熱により除去してもよいし、反応液中に残留していてもよい。
【0030】
なお、分散液中にアルコール類が含まれる場合には粒径が小さくなる傾向にあり、粒径を制御するために、意図的にアルコール類を添加してもよい。
【0031】
本発明においては、通常チタニアナノ粒子の水熱合成反応に用いることが多い硝酸、塩酸、硫酸等の無機酸(特に無機強酸)は、得られるチタニアナノ粒子の透明性が低いことに加えて、装置の腐食、不純物、排水等の観点から原則用いない。ただし、原料の分散性、均一性等を高め取扱いを容易にする場合には、効果を損なわない範囲で、例えば、0.01mol/L以下の範囲で補助的に使用することもできる。この場合、分散液中のN、Cl及びS元素の濃度がいずれも0.01mol/Lとなる。
【0032】
このような工程(A)で得られる分散液のpHは、装置の腐食や取扱いの安全性、及び分散性の観点から、2以上6未満が好ましく、2.4〜5がより好ましい。
【0033】
工程(A)において、分散液の作製方法は特に制限はなく、チタンを含む物質、有機酸及び水(溶媒)を同時に混合してもよいし、逐次混合してもよい。特に、凝集して大きな塊を形成しにくく攪拌を継続できる観点から、有機酸及び水(溶媒)を混合した後に、攪拌しながらチタンを含む物質を投入することが好ましい。なお、チタンを含む物質及び有機酸を混合した後に水を滴下すると、反対に凝集しやすい。
【0034】
<工程(B)>
工程(B)においては、工程(A)で得られた分散液を5分以上攪拌する。
【0035】
攪拌の方法は特に制限はなく、常法に従えばよい。また、攪拌時間は、チタンを含む物質と有機酸と水を十分に反応する観点から、5分以上、好ましくは15分以上である。攪拌時間の上限値は特に制限されないが、通常240時間程度である。
【0036】
<工程(C)>
工程(C)においては、工程(B)で得られた分散液を70℃以上で1時間以上加熱する。
【0037】
工程(C)は、常圧下に行ってもよいし、密閉容器内で加圧下に行ってもよい。加圧下に行う場合は、超臨界条件下に行ってもよい。より具体的には、加熱時の圧力は粒径を大きくする観点から、0.45MPa以上が好ましく、1〜30MPaがより好ましい。ただし、粒径が小さくてよい場合は、常圧下で行う方が簡易である。
【0038】
加熱温度は、50℃以上、好ましくは70〜450℃、より好ましくは150〜400℃である。加熱温度が50℃未満では、活性の高いチタニアナノ粒子が得られない。
【0039】
なお、反応を常圧下に行う場合は、より平均粒子径の小さいチタニアナノ粒子が得られる観点から、50〜120℃が好ましく、70〜110℃がより好ましい。
【0040】
また、反応を加圧下(超臨界ではない)に行う場合は、常圧下よりも平均粒子径の大きいチタニアナノ粒子が得られる観点から、120〜370℃が好ましく、150〜300℃がより好ましい。この場合、まず低温(例えば50〜120℃)で加熱してから高温(例えば120〜370℃)に加熱してもよい。
【0041】
加圧下のなかでも、超臨界条件下に行う場合は、工程(B)で得られた分散液を、例えば流通式反応器内で超臨界水と混合することにより、きわめて短時間で粒子径のそろったチタニアナノ粒子、及び分散性がきわめて高いチタニア分散液を合成することができる。この場合、50℃以下の工程(B)で得られた分散液を、374℃以上の超臨界水と混合し、300℃以上(特に375〜450℃)で1秒以上(特に5〜600秒)保持することが好ましい。超臨界水と接触させる場合には、反応を極めて短時間で終了させることができる。
【0042】
このようにして得られる本発明のチタニアナノ粒子は、従来のチタニアナノ粒子と比較し、分散性を大きく改善したものである。
【0043】
本発明のチタニアナノ粒子は、平均粒子径が3〜50nm程度、特に4〜40nm程度のものが得られる。また、本発明のチタニアナノ粒子は、比表面積が30〜500m/g、特に40〜350m/gのものが得られる。さらに、本発明のチタニアナノ粒子は、N、Cl及びS元素の濃度がいずれも0〜5000ppm、特に0〜1000ppmのものが得られる。
【0044】
この後、常法により、本発明のチタニアナノ粒子を沈殿及び遠心分離すること等により、本発明のチタニアナノ粒子を回収することができる。
【0045】
このように、本発明のチタニアナノ粒子は、平均粒子径及び比表面積を調整することができ、また、分散性に優れるため、光触媒用(超親水、有機物/無機物分解、水素製造等)だけでなく、色素増感太陽電池用、透明導電膜用、触媒担体用、耐熱コーティング用、高屈折コーティング用、遮熱コーティング用等、種々様々な用途に使用することができる。
【0046】
2.チタニア分散液
本発明のチタニア分散液は、上記工程(A)〜(C)を経た反応液を用い、超音波分散等の分散工程を加えることにより、均一な分散液を作製できる。この時、従来のチタニア分散液においては分散剤を使用しなければ均一な分散液を得ることができなかったことから、本発明においても、分散剤を加えてもよいが、分散剤を加えなくても通常のチタニアナノ粒子より遥かに分散性のよい分散液が得られる。分散性がよい結果、コーティングの耐クラック性にも優れる。また、分散剤を加えなくてもよい結果、緻密なチタニアのコーティングが可能になる。
【0047】
この際、本発明のチタニア分散液においては、溶媒である水の含有量をコーティングの容易さ、およびコーティングの膜性の観点から、60重量%以上、特に75重量%以上とすることが好ましい。
【0048】
また、チタニアナノ粒子を反応液から取り出し、溶媒を変更することも可能である。反応液から遠心分離やろ過膜などにより水分を除去し、有機溶媒に置換してもよい。その際はチタニアナノ粒子を乾燥させないことが、分散性、透明性等の観点から好ましい。
【0049】
分散液に使用する有機溶媒としては、アルコール類等が挙げられる。このアルコール類としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール等の炭素数1〜6の脂肪族アルコール類の他、α−テルピネオール等の非脂肪族アルコール類;ブチルカルビトール(ジエチレングリコールモノブチルエーテル)、ヘキシレングリコール(2−メチル−2,4−ペンタンジオール)、エチレングリコール−2−エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコール系溶媒、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等のジオール類等が挙げられる。
【0050】
また、OH基を有さなくても、チタニア及び他の溶媒(水、アルコール等)との親和性があればよく、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジアセテート、トリエチレングリコールジアセテート、テトラエチレングリコールジアセテート等が挙げられる。なかでも、沸点等の観点から、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等が好ましい。
【0051】
本発明のチタニア分散液は、用途に応じて粘度を調整し、例えば、スピンコート、ディップコート、スプレー等に用いる場合は低粘度、刷毛塗り、スキージ法等に用いる場合はそれより粘度を高く調整し、スクリーン印刷に用いる場合は、さらに粘度を高く調製し、流動性を抑制することが好ましい。
【実施例】
【0052】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらのみに限定されるものではない。
【0053】
[実施例1]
チタンテトライソプロポキシド142.1g(0.5mol)に酢酸120g(2mol)を加え15分撹拌し、水を550g加えた。この分散液のpHは2.5であった。半透明の沈殿が大量に発生したが、60分間撹拌した後に加熱を行ったところ60℃で沈殿がすべて溶解した。
【0054】
その後、常圧(0.1MPa)で80℃で5時間撹拌した後、反応液に水を加え、合計800gに調製した後、超音波をかけたところ、無機強酸を使用せずとも、半透明の均一なチタニア分散液が得られた。この分散液をスピンコートによりガラスに塗布し、乾燥したところ、透明な塗膜が得られた。
【0055】
この分散液にアンモニア水を加え、pH6にすることにより沈殿させ、遠心分離によりチタニアナノ粒子を回収し、平均粒子径をBET比表面積(300m/g)から計算により算出したところ、5nmであった。
【0056】
またX線回折で結晶性を解析したところ、アナターゼ100%であった。
【0057】
[実施例2]
実施例1で得たチタニア分散液200gをチタン製オートクレーブに入れ、さらに9MPaで300℃の熱風炉内で12時間反応を行った。
【0058】
得られた反応液は白い沈殿が生じていたが、超音波分散を行うことにより、無機強酸を使用せずとも均一に分散され、240時間後も沈殿が生じなかった。この分散液をガラスに塗布し、乾燥したところ、半透明の塗膜が得られた。
【0059】
この分散液を遠心分離することによりチタニアナノ粒子を回収し、平均粒子径をBET比表面積(60m/g)から計算により算出したところ、25nmであった。
【0060】
またX線回折で結晶性を解析したところ、アナターゼ100%であった。
【0061】
[実施例3]
酢酸60g(1mol)と水600gの混合物に、チタンテトライソプロポキシド142.1g(0.5mol)をゆっくり滴下しながら加えた。この分散液のpHは2.6であった。その後、60分撹拌したところ、白色の沈殿が大量に発生した。その後、撹拌しながら常圧(0.1MPa)で60℃で3時間、80℃で5時間加熱を行ったところ、白濁した液が得られた。
【0062】
この液に水を加え、800gに調製した後、超音波分散を行うことにより、無機強酸を使用せずとも均一なチタニア分散液が得られ、240時間後も沈殿が生じなかった。この分散液をガラスに塗布し、乾燥したところ、半透明の塗膜が得られた。
【0063】
この分散液200gをチタン製オートクレーブに入れ、さらに9MPaで300℃の熱風炉内で12時間反応を行った。
【0064】
得られた反応液は白い沈殿が生じていたが、超音波分散を行うことにより、無機強酸を使用せずとも均一なチタニア分散液が得られ、240時間後も沈殿が生じなかった。この分散液をガラスに塗布し、乾燥したところ、半透明の塗膜が得られた。
【0065】
この分散液を遠心分離することによりチタニアナノ粒子を回収し、平均粒子径をBET比表面積(70m/g)から計算により算出したところ、22nmであった。
【0066】
[実施例4]
熱風炉内での300℃の反応時間を12時間ではなく60時間に変える以外は実施例2と同様に実験を行った。
【0067】
得られたチタニア分散液は白い沈殿が生じていたが、超音波分散を行うことにより均一に分散され、240時間後も沈殿が生じなかった。このチタニア分散液をガラスに塗布し、乾燥したところ、半透明の塗膜が得られた。
【0068】
この分散液を遠心分離することによりチタニアナノ粒子を回収し、平均粒子径をBET比表面積(38m/g)から計算により算出したところ、40nmであった。
【0069】
[実施例5]
熱風炉内での反応温度を300℃ではなく250℃に変える以外は実施例2と同様に実験を行った。
【0070】
得られたチタニア分散液は白い沈殿が生じていたが、超音波分散を行うことにより均一に分散され、240時間後も沈殿が生じなかった。このチタニア分散液をガラスに塗布し、乾燥したところ、透明な塗膜が得られた。
【0071】
この分散液を遠心分離することによりチタニアナノ粒子を回収し、平均粒子径をBET比表面積(90m/g)から計算により算出したところ、17nmであった。
【0072】
[実施例6]
熱風炉内での反応温度を300℃ではなく反応温度を250℃に変え、反応時間を12時間ではなく60時間に変える以外は実施例2と同様に実験を行った。
【0073】
得られたチタニア分散液は白い沈殿が生じていたが、超音波分散を行うことにより均一に分散され、240時間後も沈殿が生じなかった。このチタニア分散液をガラスに塗布し、乾燥したところ、半透明な塗膜が得られた。
【0074】
この分散液を遠心分離することによりチタニアナノ粒子を回収し、平均粒子径をBET比表面積(65m/g)から計算により算出したところ、24nmであった。
【0075】
[実施例7]
実施例5で得たチタニア分散液を遠心分離することによりチタニアナノ粒子を回収し、乾燥させないように気をつけながら、エタノール洗浄、超音波分散及び遠心分離を3回繰り返した。
【0076】
得られたチタニアナノ粒子10g分(ただし、エタノール25gで湿潤している)にエタノール100g、テルピネオール40g及びエチルセルロース(10cp)5gを加え、3時間撹拌し、超音波分散を行ったところ、エタノール及びテルピネオールに分散した均一なチタニア分散液が得られ、240時間後も沈殿が生じなかった。このチタニア分散液をガラスに塗布し、乾燥したところ、透明な塗膜が得られた。
【0077】
[実施例8]
四塩化チタン水溶液にアンモニア水を加え、pH10に調整することにより、含水水酸化チタンを得た(チタニア換算で16wt%)。
【0078】
この含水水酸化チタン100g(チタニア0.2mol相当)に酢酸60g(1mol)と水160gを加えた。この分散液のpHは2.4であった。60分間撹拌した後に常圧(0.1MPa)で80℃で5時間加熱した後、水を加え320gに調製した。
【0079】
この液200gをチタン製オートクレーブに入れ、9MPaで300℃で12時間反応を行った。
【0080】
得られた反応液は白い沈殿が生じていたが、超音波分散を行うことにより、無機強酸を使用せずとも均一に分散され、48時間後も沈殿が生じなかった。この分散液をガラスに塗布し、乾燥したところ、半透明の塗膜が得られた。
【0081】
この分散液を遠心分離することによりチタニアナノ粒子を回収し、平均粒子径をBET比表面積(42m/g)から計算により算出したところ、37nmであった。
【0082】
このチタニアナノ粒子10g分(ただし、エタノール20gで湿潤している)にエタノール100g、テルピネオール40g、エチルセルロース(10cp)2.5g、エチルセルロース(50cp)2.5gを加え、3時間撹拌し、超音波分散を行ったところ、上記実施例1〜8ほどではないものの、エタノール及びテルピネオールに分散した均一な分散液が得られ、48時間後も沈殿が生じなかった。このチタニア分散液をガラスに塗布し、乾燥したところ、半透明な塗膜が得られた。
【0083】
この塗膜を500℃で焼成を行うことによって、半透明のチタニアナノ粒子のみからなる塗膜が得られた。
【0084】
[実施例9]
実施例1で得たチタニア分散液200gを水800gで希釈し、1000gとした。半透明で均一な分散液が得られた。
【0085】
流通式超臨界反応装置を用いて、この分散液に対して、体積で3倍量の450℃超臨界水を金属チューブ内で混合し、400℃で約60秒保持した。
【0086】
反応装置から排出された反応液は既に半透明の分散液(チタニア分散液)となっていた。この分散液をガラスに塗布し、乾燥したところ、半透明な塗膜が得られた。
【0087】
[比較例1]
pH0.7の硝酸水溶液650gを撹拌しながら、チタンテトライソプロポキシド142.1g(0.5mol)を加えた。この分散液のpHは1.0であった。1時間撹拌したのち、常圧(0.1MPa)で80℃に昇温して8時間保持し、半透明のチタニア分散液を合成した。最終重量は800gに調整した。
【0088】
この分散液をガラス基板上にスピンコートにより塗布したが、乾燥したところチタニアが基板から剥離・脱落した。
【0089】
得られた分散液を乾燥し、ナノ粒子の平均粒子径をBET比表面積(220m/g)から計算により算出したところ、7nmであった。
【0090】
また、原料のチタニア分散液を48時間後に観察したところ、沈殿が発生し、ゲル化が進行して高粘度化していた。
【0091】
[比較例2]
比較例1で得られたチタニア分散液200gをチタン製圧力容器に封入し、4MPaで250℃の熱風炉内で12時間反応を行い、チタニアナノ粒子を合成した。
【0092】
得られた反応液は白い沈殿が生じており、超音波分散を行ったが、1時間後沈殿が生じ不均一な状態になっていた。
【0093】
また、得られたナノ粒子の平均粒子径をBET比表面積(126m/g)から計算により算出したところ、12nmであった。
【0094】
[比較例3]
チタンテトライソプロポキシド142.1g(0.5mol)に酢酸を30g(0.5mol)加え15分撹拌し、水を630g加えた。この分散液のpHは3.0であった。半透明の沈殿が大量に発生したが、65%硝酸を4ml加え、60分間撹拌しながら加熱を行ったところ50℃で沈殿がすべて溶解した。
【0095】
その後、常圧(0.1MPa)で80℃で5時間撹拌した液に水を加え、合計800gに調製した後、超音波をかけたところ、半透明の均一なチタニア分散液が得られたが、ガラスに塗布し、乾燥したところ、塗膜にクラックが生じ、ガラスから脱落した。
【0096】
このチタニア分散液にアンモニア水を加え、pH6にすることにより沈殿させ、遠心分離によりチタニアナノ粒子を回収し、平均粒子径をBET比表面積(280m/g)から計算により算出したところ、5.5nmであった。
【0097】
その後、このチタニア分散液200gをチタン製圧力容器に封入し、4MPaで250℃の熱風炉内で12時間反応を行い、チタニアナノ粒子を合成した。
【0098】
得られた反応液は白い沈殿が生じており、超音波分散を行ったが、1時間後沈殿が生じ不均一な状態になっていた。
【0099】
この分散液を遠心分離することによりチタニアナノ粒子を回収し、得られたチタニアナノ粒子の平均粒子径をBET比表面積(128m/g)から計算により算出したところ、12nmであった。
【0100】
[比較例4]
熱風炉内での反応時間を12時間ではなく24時間に変える以外は比較例3と同様に実験を行った。
【0101】
得られた反応液は白い沈殿が生じており、超音波分散を行ったが、1時間後沈殿が生じ不均一な状態になっていた。
【0102】
この分散液を遠心分離することによりチタニアナノ粒子を回収し、得られたナノ粒子の平均粒子径をBET比表面積(120m/g)から計算により算出したところ、13nmであり、反応時間を長くすることにより粒径を大きくすることができなかった。
【0103】
[比較例5]
熱風炉内での反応温度を250℃ではなく300℃に変える以外は比較例3と同様に実験を行った。
【0104】
得られた反応液は白い沈殿が生じており、超音波分散を行ったが、1時間後沈殿が生じ不均一な状態になっていた。
【0105】
この分散液を遠心分離することによりチタニアナノ粒子を回収し、得られたナノ粒子の平均粒子径をBET比表面積(96m/g)から計算により算出したところ、16nmであり、反応温度を高くすることにより粒径を飛躍的に大きくすることができなかった。
【0106】
[比較例6]
比較例3で得たチタニアナノ粒子10g分(ただし、エタノール45gで湿潤している)にエタノール100g、テルピネオール40g、エチルセルロース(10cp)5gを加え、3時間撹拌し、超音波分散を行った。
【0107】
この分散液をガラス基板上に塗布し、500℃で焼成を行ったところ、クラックが生じ、チタニア膜がガラスから脱落した。
【0108】
[比較例7]
チタニアナノ粒子ST−21:10g(石原産業(株)製、比表面積50m/g、31nm相当)にエタノール100g、テルピネオール40g、エチルセルロース(10cp)2.5g、エチルセルロース(50cp)2.5gを加え、3時間撹拌し、超音波分散を行った。
【0109】
この分散液をガラス基板上に塗布し、500℃で焼成を行ったところ、細かいクラックが生じており、また、チタニア膜が完全に不透明であった。
【0110】
[比較例8]
チタニアナノ粒子ST−21:5gに対して、水を95g加え、超音波分散を加えた。しかしながら、すぐに沈殿が生じ、分散液を得ることができなかった。
【0111】
さらに、65%硝酸を1ml加えても同様に沈殿が生じ、均一な分散液を得ることができなかった。
【0112】
参考までに、実施例2の反応液(超音波分散240時間経過後)及び比較例3の反応液(超音波分散1時間経過後)の状態を図1に示す。
図1