(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
さて、フルライン記録ヘッドの素子基板に画像データ信号(DATA)やラッチ信号(LT)などを供給するために用いられるクロック信号(CLK)は、複数の素子基板に共通の信号が用いられる。そのため、複数の素子基板を実装するプリント配線板の配線スペースの観点から1対多接続(マルチドロップ接続)の構成でクロック信号が供給される。一方、画像データ信号(DATA)は各素子基板で個別の信号が用いられるために、1対1接続(ポイント−ツウ−ポイント接続)の構成で画像データ信号が供給される。
【0005】
画像データ信号は1対1接続で供給されるため、いずれの素子基板でも波形品質が良好である。これに対して、1対多接続で供給されるクロック信号は複数の素子基板が接続されるため多重の反射が起き、終端抵抗から遠い距離にある素子基板に供給されるクロック信号波形は、近い距離にある素子基板に供給されるクロック信号波形と比べて品質が劣化する。そして、その信号振幅が小さくなってしまう。そのために、終端抵抗から遠い距離に配置される素子基板では、画像データ信号とクロック信号とで信号振幅に差が生じてしまう。信号振幅が小さくなるとこれを受信する受信回路で増幅後のシングルエンド信号の立ち上がり及び立ち下がりが鈍ってしまう。従って、画像データ信号とクロック信号の振幅に差が生じると、受信回路での増幅後のシングルエンド信号の立ち上がり及び立ち下がりに差が生じてくる。
【0006】
図13は従来のフルライン記録ヘッドに実装される複数の素子基板に備えられた受信回路で増幅後の画像データ信号(DATA)とクロック信号(CLK)のシングルエンド波形を示した図である。
【0007】
図13から分かるように、終端抵抗から近い距離にある素子基板101−1では、画像データ信号(DATA)とクロック信号(CLK)の振幅に差がないため、受信回路で増幅後のシングルエンド波形の立ち上がり及び立ち下がりに差は生じない。これに対して、終端抵抗から遠い距離にある素子基板101−4では、画像データ信号(DATA)とクロック信号(CLK)の振幅に差が生じる。このため、受信回路で増幅後のシングルエンド波形の立ち上がり及び立ち下がりに差が生じてくる。これによって、画像データ信号とクロック信号のSetup/Holdタイムのマージンが低下してしまい、素子基板が正しいデータ信号を受信できなくなるという問題が生じてしまう。
【0008】
本発明は上記従来例に鑑みてなされたもので、1対1接続の信号と1対多接続の信号の波形品質を揃え、Setup/Holdタイムに十分なマージンを確保することが可能な素子基体、フルライン記録ヘッド、及び記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明の素子基体は次のような構成からなる。
【0010】
即ち、第1の信号線対を介して伝送される第1の
差動信号を
カレントミラー回路により増幅
してシングルエンド信号に変換する第1の増幅回路と、第2の信号線対を介して伝送される第2の
差動信号を
カレントミラー回路により増幅
してシングルエンド信号に変換する第2の増幅回路と、前記第1の増幅回路で
変換された
シングルエンド信号と前記第2の増幅回路で
変換された
シングルエンド信号とに基づいて動作する駆動素子と、前記第1の増幅回路の増幅率を外部からの第1の制御信号に基づいて変化させるよう制御する第1の制御回路とを有する第1の素子基板と、第3の信号線対を介して伝送される第3の
差動信号を
カレントミラー回路により増幅
してシングルエンド信号に変換する第3の増幅回路と、第4の信号線対を介して伝送される第4の
差動信号を
カレントミラー回路により増幅
してシングルエンド信号に変換する第4の増幅回路と、前記第3の増幅回路で
変換された
シングルエンド信号と前記第4の増幅回路で
変換された
シングルエンド信号とに基づいて動作する駆動素子と、前記第3の増幅回路の増幅率を外部からの第2の制御信号に基づいて変化させるよう制御する第2の制御回路とを有する第2の素子基板とを有することを特徴とする。
【0011】
また本発明を別の側面から見れば、上記構成の素子基体を用い、前記駆動素子を複数それぞれ、記録素子とし、前記第1の
差動信号及び前記第3の
差動信号をクロック信号に用い、前記第2の
差動信号及び前記第4の
差動信号を画像データ信号に用い、前記複数の記録素子により、記録媒体の幅に対応した記録幅で記録を行う記録ヘッドを構成することを特徴とするフルライン記録ヘッドを備える。
【0012】
また本発明を別の側面から見れば、上記構成のフルライン記録ヘッド、特にインクジェット方式に従ってインクを吐出して記録を行うインクジェット記録ヘッドを用いた記録装置を備える。
【発明の効果】
【0013】
従って本発明によれば、差動信号を入力して増幅する増幅回路の増幅率を変化させることにより、1対1接続の信号と1対多接続の信号の波形品質を揃えられるので、各信号のSetup/Holdタイムに十分なマージンを確保することができる。これにより、どの素子基板も正しいデータ信号を受信することができ、良好な動作を達成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下添付図面を参照して本発明の好適な実施例について、さらに具体的かつ詳細に説明する。なお、既に説明した部分には同一符号を付し重複説明を省略する。
【0016】
なお、この明細書において、「記録」(「プリント」という場合もある)とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わない。また人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、または媒体の加工を行う場合も表すものとする。
【0017】
また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能なものも表すものとする。
【0018】
さらに、「インク」(「液体」と言う場合もある)とは、上記「記録(プリント)」の定義と同様広く解釈されるべきものである。従って、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成または記録媒体の加工、或いはインクの処理(例えば記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固または不溶化)に供され得る液体を表すものとする。
【0019】
またさらに、「ノズル」とは、特にことわらない限り吐出口ないしこれに連通する液路およびインク吐出に利用されるエネルギーを発生する素子を総括して言うものとする。
【0020】
以下に用いる記録ヘッド用の素子基板(ヘッド基板)とは、シリコン半導体からなる単なる基体を指し示すものではなく、各素子や配線等が設けられた構成を差し示すものである。
【0021】
さらに、基板上とは、単に素子基板の上を指し示すだけでなく、素子基板の表面、表面近傍の素子基板内部側をも示すものである。また、本発明でいう「作り込み(built-in)」とは、別体の各素子を単に基体表面上に別体として配置することを指し示している言葉ではなく、各素子を半導体回路の製造工程等によって素子板上に一体的に形成、製造することを示すものである。
【0022】
次に、インクジェット記録装置の実施例について説明する。この記録装置は、ロール状に巻かれた連続シート(記録媒体)を使用し、片面記録及び両面記録の両方に対応した高速ラインプリンタであり。例えば、プリントラボ等における大量枚数のプリント分野に適している。
【0023】
図1は本発明の代表的な実施例であるインクジェット記録装置(以下、記録装置)の内部概略構成を示す側断面図である。装置内部は大きくは、シート供給部1、デカール部2、斜行矯正部3、記録部4、クリーニング部(不図示)、検査部5、カッタ部6、情報記録部7、乾燥部8、シート巻取部9、排出搬送部10、ソータ部11、排出トレイ12、制御部13などに分けられる。シートは、図中の実線で示したシート搬送経路に沿ってローラ対やベルトからなる搬送機構で搬送され、各ユニットで処理がなされる。
【0024】
シート供給部1はロール状に巻かれた連続シートを収納して供給するユニットである。シート供給部1は、2つのロールR1、R2を収納することが可能であり、択一的にシートを引き出して供給する構成となっている。なお、収納可能なロールは2つであることに限定はされず、1つ、あるいは3つ以上を収納するものであってもよい。デカール部2は、シート供給部1から供給されたシートのカール(反り)を軽減させるユニットである。デカール部2では、1つの駆動ローラに対して2つのピンチローラを用いて、カールの逆向きの反りを与えるようにシートを湾曲させてしごくことでカールを軽減させる。斜行矯正部3は、デカール部2を通過したシートの斜行(本来の進行方向に対する傾き)を矯正するユニットである。基準となる側のシート端部をガイド部材に押し付けることにより、シートの斜行が矯正される。
【0025】
記録部4は、搬送されるシートに対して記録ヘッド部14によりシートの上に画像を形成するユニットである。記録部4は、シートを搬送する複数の搬送ローラも備えている。記録ヘッド部14は、使用が想定されるシートの最大幅をカバーする範囲でインクジェット方式のノズル列が形成されたフルライン記録ヘッド(インクジェット記録ヘッド)を有する。記録ヘッド部14は、複数の記録ヘッドがシートの搬送方向に沿って平行に配置されている。この実施例ではK(ブラック)、C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロ)の4色に対応した4つの記録ヘッドを有する。記録ヘッドの並び順はシート搬送上流側から、K、C、M、Yとなっている。なお、インク色数及び記録ヘッドの数は4つには限定はされない。また、インクジェット方式としては、発熱素子を用いた方式、ピエゾ素子を用いた方式、静電素子を用いた方式、MEMS素子を用いた方式等を採用することができる。各色のインクは、インクタンクからそれぞれインクチューブを介して記録ヘッド部14に供給される。
【0026】
検査部5は、記録部4でシートに記録された検査パターンや画像を光学的に読み取って、記録ヘッドのノズルの状態、シート搬送状態、画像位置等を検査するユニットである。検査部5は実際に画像を読み取り画像データを生成するスキャナ部と読み取った画像を解析して記録部4へ解析結果を返す画像解析部より構成されている。検査部5はCCDラインセンサであり、シート搬送方向と垂直な方向にセンサが並べられている。
【0027】
なお、上述のように
図1に示した記録装置は、片面記録及び両面記録の両方に対応しているが、
図2と
図3とはそれぞれ、
図1に示す記録装置において片面記録時の動作と両面記録時の動作を説明するための図である。
【0028】
図4は記録ヘッド部14に搭載されるフルライン記録ヘッド100と記録媒体800の搬送方向の関係を示した図である。
【0029】
記録動作を行う際には、フルライン記録ヘッド100は記録装置に固定されており、記録媒体800が搬送され、素子基板101に設けられた複数の吐出口706からインクが吐出され、記録媒体800に画像が形成される。
【0030】
この図から分かるように、この例では、フルライン記録ヘッド100は4つの素子基板101を実装して構成されてる。
【0031】
図5はフルライン記録ヘッドの分解斜視図である。
【0032】
フルライン記録ヘッド100は4つの素子基板101−1、101−2、101−3、101−4、支持部材501、プリント配線板110、インク供給部材502等を備えている。
図5に示すように、フルライン記録ヘッド100には4つの素子基板が千鳥状に配置されている。なお、搭載する素子基板101の数を増やすことでさらに記録幅の長い記録ヘッドを構成することが可能である。また、4つの素子基板を個別的に特定せずに説明する場合には、単に素子基板101として言及する。
【0033】
図5から分かるように、プリント配線板110は基本的には矩形形状、素子基板101は矩形形状をしている。そして、素子基板101の長手方向に複数の吐出口706が配列される。また、素子基板101の長手方向。つまり、複数の吐出口の配列方向がプリント配線板110の長手方向となるように配置される。
【0034】
図6は1つの素子基板の構造を示す斜視図と断面図である。
【0035】
素子基板はインクを吐出するために用いられ、
図6(b)の断面図が示すように、厚さ0.05〜0.625mmのSi基板701に長溝状のインク供給口702がウェットエッチングやドライエッチング等によって高精度に形成されている。
【0036】
Si基板701の表面には、インク供給口702を挟んで記録素子である複数のヒータ703と、所定位置のヒータ703を所定時間駆動するための駆動回路が成膜技術によって形成されている。また、
図6(a)の斜視図が示すように、素子基板101の長手方向両端部には、プリント配線板110と電気的に接続するための入力端子704が形成されている。また、Si基板701の上には樹脂材料でできた吐出口形成部材705が形成され、ヒータ703に対応する複数の吐出口706と、それに連通するインク貯蔵室707がフォトリソグラフィー技術によって形成されている。
【0037】
再び
図5を参照して説明すると、支持部材501は、素子基板101を支持固定するための部材であり、例えば、厚さ0.5〜10mmのアルミナ(Al
20
3)で形成されている。なお、支持部材501の材料はアルミナに限られることはなく、素子基板101と同等の線膨張率を有し、剛性の高い材料で形成されていても良い。これらの材料としては、例えば、シリコン(Si)、窒化アルミニウム(AlN)、ジルコニア、窒化珪素(Si
3N
4)、炭化珪素(SiC)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)などが挙げられる。
【0038】
支持部材501には素子基板101のインク供給口702に対応する位置にインク供給口503が形成されており、素子基板101が接着剤によって支持部材501に位置精度良く接着固定される。
【0039】
プリント配線板110は、素子基板101に対して、インクを吐出するための電気信号および電源電圧を伝送、供給するための部材であり、例えば、基材の両面に配線が形成され、表層が保護フィルムで覆われた二層構造のフレキシブル基板が使用されている。
【0040】
プリント配線板110は
図5に示すように素子基板101を実装するための開口部504が形成されており、素子基板101の入力端子704に対応する端子505と記録装置本体からの電気信号を受け取るための端子506(例えばコネクタ)とを有している。
【0041】
プリント配線板110は、支持部材501の素子基板101が接着される面と同一面に、接着剤によって接着固定される。また、開口部504と素子基板101の隙間は封止剤で封止されている。また、プリント配線板110の端子505と素子基板101の入力端子704とが、金ワイヤーを用いたワイヤーボンディング技術等によって電気的に接続され、電気接続部は封止剤で封止される。また、プリント配線板110は本体との電気接続を容易に行えるよう、支持部材501の両側面で折り曲げられ、固定される。
【0042】
インク供給部材502は、インクタンクから素子基板101にインクを供給するための部品であり、例えば、樹脂材料を用いた射出成形によって形成されている。インク供給部材502には、複数の素子基板101にインクを供給するインク貯蔵室507が形成されている。インク貯蔵室507には、インクタンクからインク供給チューブを介し、開口部508からインクが導入される。インク供給部材502は支持部材501と接合される。
【0043】
次に、上記構成の記録装置に搭載するフルライン記録ヘッドのいくつかの実施例について説明する。
【実施例1】
【0044】
図7はプリント配線板110に実装された4つの素子基板とその配線を回路レイアウト図である。
【0045】
図7に示されているように、プリント配線板110には4つの素子基板101が配置される。また、プリント配線板110には、クロック信号(CLK)を供給するための第1の信号線対106と、画像データ信号(DATA)を供給するための4組の第2の信号線対107が配線されている。なお、プリント配線板110には複数の素子基板を配置し実装するので、素子基体とも呼ばれる。
【0046】
第1の信号線対106は各素子基板で共通の信号であるため、プリント配線板の配線スペースの観点から1対多接続である。これに対して、4組の第2の信号線対107は各素子基板で個別の信号が使用されるために1対1接続である。第1の信号線対106は終端抵抗108−1にて終端が行われている。また、第2の信号線対107は、終端抵抗108−2、108−3、108−4、108−5にて終端が行われている。プリント配線板110には、第1の信号線対106と4組の第2の信号線対107とを接続する端子113が備えられている。
【0047】
4つの素子基板は同じ構成を備えた回路である。以下、その構成について説明する。
【0048】
素子基板101は第1の受信回路102、第2の受信回路103、駆動回路104、制御回路105、制御端子109、端子(パッド)111、112を備えている。駆動回路104は、クロック信号(CLK:第1の信号)を入力するための第1入力部と画像データ信号(DATA:第2の信号)を入力するための第2入力部とを備えている。駆動回路104は、第1の信号と第2の信号に基づいて記録素子を駆動する。第1の受信回路102と第2の受信回路103は、ある増幅率を持つ差動増幅回路で構成されており、小振幅(例えば、350mV)の差動信号を増幅し大振幅(例えば、3.3V)のシングルエンド信号に変換する。
図7では、4つの素子基板それぞれでの増幅率をgm1、gm2、gm3、gm4と記載している。
【0049】
制御回路105は、制御端子109に入力した2ビットの信号に基づいて、第1の受信回路102の増幅率を設定する。例えば、制御端子109から入力した信号の論理レベルが2ビットともロウレベルのときには第1の受信回路102の増幅率を最も低く設定する(第1の段階)。また、2ビットのうちLSBがハイレベルでMSBがロウレベルのときには第1の受信回路102の増幅率を2番目に低く設定する(第2段階)。さらに、LSBがロウレベルでMSBがハイレベルのときには第1の受信回路102の増幅率を2番目に高く設定する(第3段階)。またさらに、2ビットともハイレベルのときに第1の受信回路102の増幅率を最も高く設定する(第4段階)。このように制御回路105は制御端子109に入力される信号に応じて第1の受信回路102の増幅率を4段階で設定することができる。制御回路105は、別の表現をするならば、第1の受信回路102の増幅率を定める設定回路ともいえる。
【0050】
1対多接続を行うクロック信号(CLK)を供給する第1の信号線対106は複数(ここでは4個)の素子基板101が接続されているため、信号の多重反射が起き、波形品質が劣化し信号の振幅が小さくなる。また、この多重反射による波形品質の劣化は終端抵抗108−1からの距離が遠くなるにつれ大きくなっていく。
【0051】
従って、
図7に示すレイアウトから分かるように、素子基板101−1、101−2、101−3、101−4の順に、クロック信号の波形品質が劣化する。
【0052】
図8は画像データ信号(DATA)とクロック信号(CLK)の振幅のシミュレーション結果を示した図である。
【0053】
図8に示すように、素子基板101−1は終端抵抗108−1に距離が近いため、クロック信号(CLK)の波形品質C1は良好であり画像データ信号(DATA)と振幅が一致している。これに対して、終端抵抗108−1からの距離が最も遠い素子基板101−4では、素子基板101−1、101−2、101−3の反射の影響を受けるために、クロック信号(CLK)の波形品質C4が最も劣化し、信号の振幅が最も小さくなってしまう。これに対して、1対1接続を行う4組の第2の信号線対107それぞれにより供給される画像データ信号(DATA)は各素子基板に終端抵抗が接続されており、多重反射が起きないためいずれの素子基板においても波形品質D1〜D4が良好である。このような理由から終端抵抗108−1からの距離が遠い素子基板においては、画像データ信号(DATA)とクロック信号(CLK)の振幅に差が生じてくる。
【0054】
前述のように、4つの素子基板の制御回路105の制御端子109には2ビットの制御信号が外部から(例えば、記録装置の本体部から)入力される。この制御信号の値は、4つの素子基板で互いに異なって設定することが可能である。
【0055】
図7では素子基板101−1の制御端子109には信号値“00”、素子基板101−2の制御端子109には信号値“01”、素子基板101−3の制御端子109には信号値“10”、素子基板101−4の制御端子109には信号値“11”が供給される。これら2ビット値の最初の値がMSB、最後の値がLSBである。また、これらの信号値であるため、信号がハイレベルであればその値は“1”を表わし、ロウレベルであればその値は“0”を示す。
【0056】
従って、素子基板101−1の第1の受信回路102の増幅率gm1は第1の段階に、素子基板101−2の第1の受信回路102の増幅率gm2は第2の段階に、素子基板101−3の第1の受信回路102の増幅率gm3は第3の段階に設定される。また、素子基板101−4の第1の受信回路102の増幅率gm4は第4の段階に設定される。このため、gm1<gm2<gm3<gm4の関係が成立する。なお、いずれの素子基板の第2の受信回路103の増幅率は第1段階に設定されている。
【0057】
図9は第1、第2の受信回路の回路構成を示す図である。
【0058】
図9から分かるように、これらの受信回路は差動増幅回路、カレントミラー回路とバッファで構成される。ここで、トランジスタM1に流れる電流をID1、トランジスタM2に流れる電流をID2とすると、端子t1に流れる電流はn(ID1−ID2)となる。ここで、nはカレントミラー比である。(ID1−ID2)の電流でバッファの入力である端子t1を充放電することで、小振幅の差動信号から大振幅のシングルエンド信号に変換される。従って、この回路構成では、(ID1−ID2)の電流量でシングルエンド信号の立ち上がり及び立ち下がりの時間が決まる。
【0059】
なお、
図9において、M3、M4、M5、M6、M7、M8もトランジスタであり、nID1はトランジスタM5、M7に流れる電流、nID2はトランジスタM8に流れる電流である。
【0060】
特に詳細な説明はしなかったが、
図7に図示する回路構成から明らかなように、画像データ信号(DATA)とクロック信号(CLK)とは記録装置の本体側から低電圧差動信号(LVDS)として供給される。そして、各素子基板に備えられた第1、第2の受信回路に備えられた差動増幅回路で、これらの差動信号は、例えば、3.3Vの論理レベルをもつ論理信号に増幅される。
【0061】
図10は差動振幅ΔVinとID1−ID2の電流量の関係を示す図である。
【0062】
図10に示されるように、ID1−ID2の電流量はある範囲内で差動振幅ΔVinに線形であり、差動振幅ΔVinがある値以上になるとテール電流I
ssに飽和する。この線形範囲における傾きが受信回路の増幅率gmである。第1、第2受信回路102、103の増幅率gmは、例えば、テール電流I
ssの値を変化させることで自由に設定することができる。
【0063】
図10において、(a)で示す実線は増幅率が第1の段階に設定された素子基板101−4の第2の受信回路103の特性を示している。テール電流値はI
ss1に設定され、増幅率はGm1となっている。また、(b)で示す破線は増幅率が第4の段階に設定された素子基板101−4の第1の受信回路102の特性を示している。テール電流値はI
ss2に設定され、増幅率はGm2となっている。
【0064】
素子基板101−4では前述した通り、画像データ信号(DATA)は波形品質が良好であるが、クロック信号(CLK)は波形品質が劣化し振幅が小さくなってしまう。ここで、素子基板101−4の第2の受信回路103が受信する画像データ信号(DATA)の差動振幅をΔVdataとしたときの、ID1−ID2をI
t1dataとする。また、素子基板101−4の第1の受信回路102が受信するクロック信号(CLK)の差動振幅をΔVclkとしたときの、ID1−ID2をI
t1clkとする。
【0065】
図10を参照すると、第1の受信回路102の増幅率が第2の受信回路103の増幅率に比べ高く設定されていることが分かる。従って、たとえ画像データ信号(DATA)とクロック信号(CLK)の振幅に差が生じても、ID1−ID2の電流値は第1の受信回路102と第2の受信回路103で同一とすることができる。従って、
図9に示した第1、第2の受信回路の端子t1に流れる電流量が第1の受信回路102と第2の受信回路103で同じとなる。このため、シングルエンド信号の立ち上がりと立ち下がりの時間を画像データ信号(DATA)とクロック信号(CLK)で一致させることができる。
【0066】
これにより、
図11に示すように、素子基板101−1と101−4とで画像データ信号(DATA)とクロック信号(CLK)のそれぞれの受信回路での増幅後の波形品質を揃えることができる。このようにして、Setup/Holdタイムのマージンを十分に確保することが可能となる。
【0067】
従って以上説明した実施例に従えば、終端抵抗からの距離が遠くなるにつれ素子基板の第1の受信回路の増幅率を高く設定していくことで、画像データ信号とクロック信号の受信回路での増幅後の波形品質を揃えることができる。これにより、各信号のSetup/Holdタイムのマージンを十分に確保することができる。例えば、終端抵抗からの距離が最も遠い素子基板101−4では第1の受信回路の増幅率が最も高く設定されているため、たとえクロック信号の振幅が小さくなっても増幅後のクロック信号の波形品質は画像データ信号と揃えられる。その結果、各信号のSetup/Holdタイムのマージンが十分に確保できる。
【実施例2】
【0068】
図12は実施例2に従う、プリント配線板110に実装された4つの素子基板とその配線を回路レイアウト図である。この実施例においても、実施例1と同様に、プリント配線板110には同じ回路構成の4つの素子基板101が配置される。
図12において、実施例1と同じ構成要素や信号には同じ参照番号や同じ符号を付し、その説明は省略する。
【0069】
図7に示した実施例1の素子基板と異なる点は、各素子基板に2つの制御回路105−1、105−2とこれらに対応した制御端子109−1、109−2が設けられている点である。
【0070】
また、プリント配線板110の配線に着目すると、実施例1の配線と異なる点は、2組の第2の信号線対107が備えられ、画像データ信号(DATA)も1対多接続とした2組の第2の信号線対107により供給される点である。このため、画像データ信号(DATA)も複数の素子基板(ここでは2つ)に供給されるため、信号の多重反射が起き、波形品質が劣化し信号の振幅が小さくなる。また、この多重反射による波形品質の劣化は終端抵抗108−2または108−3からの距離が遠くなるにつれ大きくなっていく。
【0071】
制御回路105−1は、制御端子109−1に入力した2ビットの信号に基づいて、第1の受信回路102の増幅率を設定する。一方、制御回路105−2は、制御端子109−2に入力した1ビットの信号に基づいて、第2の受信回路103の増幅率を設定する。例えば、制御端子109−2から入力した信号の論理レベルが、ロウレベルのときには第2の受信回路103の増幅率を低く設定する(第1の段階)。また、制御端子109−2から入力した信号の論理レベルがハイレベルのときには第2の受信回路103の増幅率を高く設定する(第2の段階)。このように、制御回路105−2は制御端子109−2に入力される信号に応じて第2の受信回路103の増幅率を2段階で設定可能である。制御回路105−2は、別の表現をするならば、第2の受信回路103の増幅率を定める設定回路とも言える。
【0072】
図12では、素子基板101−1の制御端子109−2には信号値“0”、素子基板101−2の制御端子109−2には信号値“1”、素子基板101−3の制御端子109−2には信号値“0”の制御信号が供給される。また、素子基板101−4の制御端子109−2には信号値“1”の制御信号が供給される。このようにして、素子基板101−1の第2の受信回路103の増幅率は第1の段階に、素子基板101−2の第2の受信回路103の増幅率は第2の段階にそれぞれ設定される。また、素子基板101−3の第2の受信回路103の増幅率は第1の段階に、素子基板101−4の第2の受信回路103の増幅率は第2の段階にそれぞれ設定される。
【0073】
以上のような構成により、終端抵抗からの距離が遠くなるにつれ素子基板の第1の受信回路だけでなく、第2の受信回路の増幅率も高く設定していくことができる。これにより、画像データ信号(DATA)が1対多接続の信号線対により供給される場合でも、画像データ信号(DATA)とクロック信号(CLK)の各受信回路での増幅後の波形品質を揃えることができる。その結果、各信号のSetup/Holdタイムのマージンを十分に確保することができる。
【0074】
例えば、終端抵抗からの距離が最も遠い素子基板101−2と101−4では第2の受信回路の増幅率が高く設定されるため、画像データ信号の振幅が小さくなっても、増幅後の画像データ信号の波形品質はクロック信号と揃うことになる。その結果、各信号のSetup/Holdのタイムマージンを十分に確保できる。特に、実施例2は実施例1に比べ、第2の信号線対107も1対多接続であるため、プリント配線板110上の配線本数が低減できるという利点がある。
【0075】
以上、2つの実施例について説明したが、本発明はこれによって限定されるものではない。例えば、プリント配線板110に設けられる素子基板の数は4つであったが、この数に限定するものではなく、6あるいは8、10等でも構わない。また、第1の受信回路102の増幅率の制御のために入力する制御信号のビット数は2であったが、この数に限定するものではなく、1あるいは3、4等でも構わない。また、終端抵抗108−1は素子基板外に配置されていたが、素子基板内に配置されていても構わない。
【0076】
さらに、以上説明した素子基板はインクジェット方式のフルライン記録ヘッドに用いられるとして説明したが、その素子基板そのものは、他のデバイスに適用されても良い。例えば、原稿画像の読取を行う読取ユニットや画像を表示する表示ユニット等にも適用可能である。その場合、駆動素子は記録素子ではなく、LEDやダイオード等の発光素子やCMOSセンサ等のセンサ素子等となる。