(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、同一の構成要素には原則として同一の参照番号を付して、説明を省略する。また、実施形態の説明で用いる数値(厚さ、サイズ)や材質等は、発明の範囲を限定するものではない。
【0017】
(第一の実施形態)
第一の実施形態に係る生体光測定装置は、近赤外分光法を用いて、生体の脳内における血流に関する情報を取得して画像化することで脳機能を可視化する装置である。また、音響波を用いて被検体の介在組織に関する情報を取得し、取得した情報を用いて、測定結果から介在組織の影響を除去する機能を有する。
【0018】
<システム構成>
図1を参照しながら、第一の実施形態に係る生体光測定装置の構成を説明する。
第一の実施形態に係る生体光測定装置は、光源1、光検出器2、光導波路3、投光プローブ4、受光プローブ5、光導波路6、信号処理部7、パルス光源8、光導波路9、第二の投光プローブ10、音響波探触子11、表示部12からなる。また、本実施形態に係る光計測装置は、本発明における第一の信号を測定する光強度測定系と、第二の信号を測定する光音響波測定系から構成される。各測定系に含まれる構成要素を順に説明する。
【0019】
まず、光強度測定系について説明する。
光強度測定系は、光源1から被検体100に照射され、被検体100内を伝播した光の強度を光検出器2で検出し、第一の信号に変換する測定系である。
【0020】
光源1は、被検体100に対して照射する光を発生させる手段である。光源1にて発生する光は、被検体100を構成する成分のうち特定の成分に吸収される特定波長の光であることが好ましい。波長は、生体内での吸収が少ない700nm以上、1100nm以下の範囲であることが好ましい。光の種類は、連続光、強度変調光、パルス光のいずれかである。光源1は、一つまたは複数の光源によって構成されてもよい。また、光学特性値の波長による違いを測定するために、波長の異なる複数の光源を用いてもよい。以下、光源1にて発生する光を計測光と称する。
光源1はレーザ光源であることが好ましいが、レーザのかわりに発光ダイオードなどを用いてもよい。レーザ光源を使用する場合、固体レーザ、ガスレーザ、色素レーザ、半導体レーザなど、様々な種類のレーザを使用することができる。
【0021】
光導波路3は、光源1から照射された計測光を被検体100の表面に導く手段である。光導波路3には、光ファイバを用いることが好ましい。また、光源が複数個である場合、それぞれの光源に対応する複数の光ファイバを用い、被検体の表面に計測光を導いてもよい。また、複数の光源で発生した計測光を単一の光ファイバに入射させ、被検体の表面に導いてもよい。反対に、一本の光ファイバを分岐させ、被検体の表面に複数の計測光を導いてもよい。なお、光源1を被検体の近傍に配置できる場合、光導波路3は必ずしも使用
しなくてもよい。
【0022】
投光プローブ4は、光導波路3の先端に設けられたプローブであり、被検体に対して計測光を照射する手段である。投光プローブ4は、金属やプラスチック、ゴムなどの筐体で覆われており、計測光が出射する出射面が設けられている。投光プローブ4は、不図示の固定部材によって、被検体表面に配置される。
【0023】
受光プローブ5は、被検体内を伝搬した計測光を検出する手段である。受光プローブ5の先端には、計測光が入射する受光面が設けられている。受光プローブ5は、不図示の固定部材によって、被検体表面の、投光プローブ4から所定の距離だけ離れた位置に配置される。
【0024】
ここで、測定対象領域と介在組織について説明する。
被検体100の内部は、装置によって測定を行う対象の領域である測定対象領域101と、測定対象領域よりも表層側に位置する介在組織102に大別される。被検体が生体の頭部である場合、測定対象領域101は大脳皮質であり、介在組織102は頭皮や頭蓋骨などの脳外組織である。
被検体100に入射した光は、減衰および散乱しながら被検体の内部を拡散し、被検体表面から出射する。投光プローブ4から出射され、受光プローブ5に入射する光の経路103は、図に示したように、いわゆるバナナシェープと呼ばれる円弧状の形状となる。計測光は、投光プローブ4から出射されて介在組織102を透過する部分と、測定対象領域101を透過する部分と、介在組織102を透過して受光プローブ5に入射する部分の三つに分けられる。
【0025】
投光プローブ4と受光プローブ5の間隔を調整することによって、光が到達する深さを相対的に調整することができる。被検体が成人の頭部である場合、プローブの間隔を約30mmとすれば、頭皮表面から光が到達する深さを15mmから20mm程度にすることができる。成人の場合、頭皮表面から大脳皮質までの深さは15mm程度であるため、頭皮表面から入射した光は大脳皮質まで到達し、頭皮の表面に戻る。
大脳皮質(測定対象領域101)における光吸収特性が変動すると、大脳皮質を透過する計測光の光量が変動するため、当該変動量を取得することで、脳機能を測定することができる。
しかし、同様に、頭皮において光吸収特性が変動すると、大脳皮質を往復する計測光の光量が変動する。光吸収特性が変化する要因は、例えば血液中の酸化ヘモグロビン、脱酸化ヘモグロビンなどの色素の濃度や量の変化が挙げられる。これにより、大脳皮質に対して行った測定の結果が変動してしまう。
【0026】
本実施形態に係る生体光測定装置は、介在組織102を透過する光量の変動を取得し、測定結果を補正する。具体的には、計測光が頭皮を往復することによって発生する測定結果の変動、すなわち、投光プローブ4から出射され介在組織102を透過する部分と、介在組織102を透過して受光プローブ5に入射する部分に起因して発生する光の吸収特性の変動を補正する。
【0027】
構成要素の説明を続ける。
光導波路6は、受光プローブ5に入射した光を光検出器2に導く手段である。光導波路6には、光導波路3と同様に光ファイバを用いることが好ましい。なお、光検出器2を被検体100の近傍に配置できる場合、光導波路6は必ずしも使用しなくてもよい。
【0028】
光検出器2は、被検体内を伝播した光の強度を検出し、電気信号(本発明における第一の信号)に変換する手段である。光検出器2には、フォトダイオード(PD)、アバラン
シェフォトダイオード(APD)、光電子増倍管(PMT)などを用いることができる。
光検出器2が検出した光の強度を取得することで、被検体内部の光吸収特性の時間変化についての情報を得ることができる。また、第一の信号には、光が透過する経路についての情報が含まれる。すなわち、第一の信号には、測定対象領域101および介在組織102の光吸収特性の情報が混在して含まれている。変換された信号は、信号処理部7に送られる。
【0029】
次に、光音響波測定系について説明する。
光音響波測定系は、被検体に対してパルス光を照射して、当該パルス光に起因して被検体内の光吸収体から発生する音響波を音響波探触子11で検出し、第二の信号に変換する測定系である。
【0030】
パルス光源8は、被検体100に対して照射するパルス光を発生させる手段である。パルス光の波長は、光源1で発生させる光と略同一であることが好ましい。光源1にて発生させる光と波長を合わせることで、第一の信号との対応が取りやすくなる。また、パルス幅は、数ナノ秒から数百ナノ秒オーダーであることが好ましい。以下、パルス光源8にて発生する光を単にパルス光と称する。
パルス光源8はレーザ光源であることが好ましいが、レーザ光源のかわりに発光ダイオードなどを用いてもよい。レーザ光源を使用する場合、固体レーザ、ガスレーザ、色素レーザ、半導体レーザなど、様々な種類のレーザを使用することができる。また、被検体に照射する光の照射強度を上げるため、同じ波長の光を発生させる複数の光源を用いてもよい。
【0031】
パルス光源8から照射されたパルス光は、光導波路9、第二の投光プローブ10を経由して被検体100に照射される。第二の投光プローブ10は、投光プローブ4および受光プローブ5の近傍にそれぞれ配置される。
光導波路9には、光導波路3と同様に光ファイバを用いることが好ましい。また、パルス光源が複数個である場合、それぞれのパルス光源に対応する複数の光ファイバを用い、被検体100の表面にパルス光を導いてもよい。
また、複数のパルス光源で発生した計測光を単一の光ファイバに導くことで合成し、被検体の表面に導いてもよい。反対に、一本の光ファイバを分岐して、被検体の表面に複数のパルス光を導いてもよい。なお、パルス光源8を被検体100の近傍に配置できる場合、光導波路9は必ずしも使用しなくてもよい。
【0032】
音響波探触子11は、被検体の内部で発生した音響波を電気信号(本発明における第二の信号)に変換する手段であり、本発明における音響波受信手段である。
ここで、被検体の内部で発生する音響波について説明する。
被検体100に照射されるパルス光は、吸収減衰されながら被検体100内部に拡散していく。そして、被検体100内で光吸収体が光エネルギーを吸収することで音響波が発生する。発生する音響波の初期音圧Pは、数式1で表すことができる。
P=Γ×μ
a×φ ・・・(数式1)
ここで、Γはグリューナイゼン定数、μ
aは光吸収体における光の吸収係数、φは光吸収体に到達するパルス光の光量である。発生する音響波の音圧は、吸収される光エネルギー(μ
a×φ)に比例する。音響波探触子11は、このようにして発生した音響波を受信する。
【0033】
音響波探触子は、単に探触子あるいは音響波探触子、トランスデューサとも呼ばれる。なお、本発明における音響波とは、典型的には超音波であり、音波、超音波、光音響波、光超音波と呼ばれる弾性波を含む。音響波探触子11は、単一の音響波探触子からなってもよいし、複数の音響波探触子からなってもよい。さらに、投光プローブ4(または受光
プローブ5)を挟む形で、第二の投光プローブ10と音響波探触子11を配置してもよい。
また、音響波探触子11は、感度が高く、周波数帯域が広いものが望ましい。具体的にはPZT(圧電セラミックス)、PVDF(ポリフッ化ビニリデン樹脂)、CMUT(容量性マイクロマシン超音波トランスデューサ)、ファブリペロー干渉計を用いたものなどが挙げられる。ただし、ここに挙げたものだけに限定されず、探触子としての機能を満たすものであれば、どのようなものであってもよい。
【0034】
また、音響波探触子11は、複数の受信素子が一次元、或いは二次元に配置されたものであってもよい。多次元配列素子を用いると、同時に複数の場所で音響波を受信することができるため、測定時間を短縮することができ、被検体の振動などの影響を低減することができる。なお、探触子が被検体よりも小さい場合は、探触子を走査させて複数の位置で音響波を受信するようにしても良い。
また、音響波探触子11が取得した信号のレベルが小さい場合、増幅器を用いて信号強度を増幅することが好ましい。また、音響波探触子11と被検体100との間には、音波の反射を抑えるための音響インピーダンスマッチング剤(不図示)を配置してもよい。
音響波探触子11が取得した第二の信号は、信号処理部7に送られる。
【0035】
信号処理部7は、音響波探触子11によって得られた第二の信号をデジタル信号に変換し、画像データを生成(再構成)する手段である。また、第二の信号を用いて第一の信号を補正する、信号補正手段である。具体的な補正方法については後述する。
信号処理部7は、コンピュータによって実現してもよいし、専用に設計されたハードウェアやFPGA(Field Programmable Gate Array)等によって実現してもよい。また、
信号処理部7は、アナログ信号をデジタル信号に変換するA/Dコンバータや、解析に必要な情報や解析結果を保持する記憶媒体などを含んでいてもよい。
また、信号処理部7が実行する画像再構成方法には、例えば、フーリエ変換法、ユニバーサルバックプロジェクション法やフィルタードバックプロジェクション法、逐次再構成法などがあるが、どのような画像再構成方法を用いても構わない。
【0036】
表示部12は、信号処理部7で生成された再構成画像を表示する手段である。表示部12には、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、FEDなどを利用することができる。
【0037】
<介在組織の影響を除去する方法>
次に、取得した第一の信号を補正することで、測定結果から介在組織の影響を除去する方法について具体的に説明する。
まず、音響波探触子が取得した第二の信号を用いて、介在組織を透過する計測光の光量を取得する方法について述べ、次に、取得した結果に基づいて測定信号(第一の信号)を補正する方法について述べる。
【0038】
<<介在組織を透過する光量の取得>>
被検体が生体の頭部である場合、介在組織は頭皮であり、介在組織内の光吸収体とは、頭皮の表面付近にあるメラニンや毛細血管などである。これら毛細血管中の血流が、光吸収特性の変動要因となる。これらの光吸収体に関する情報(光学関連情報)は、パルス光に起因して発生する音響波を解析することで取得することができる。
音響波探触子11に対して毛細血管は微小であるため、介在組織は均質であるとみなせる。また、被検体表面に照射される光量は一定であるため、吸収される光エネルギーは、光の吸収係数にほぼ比例する。従って、パルス光に起因して介在組織内で発生する音響波の音圧は、介在組織の吸収係数にほぼ比例する。
【0039】
また、音源と音響波探触子との距離および音速から、音源の位置を特定することができる。つまり、第二の投光プローブ10と音響波探触子11との距離と、介在組織内の音速がわかれば、介在組織で発生する音響波が検出される時刻を特定できる。すなわち、介在組織内で発生した音響波の音圧を取得することができる。
【0040】
前述したように、介在組織の吸収係数は、音響波の音圧と相関がある。すなわち、この相関を表すデータがあれば、受信した音響波の音圧から、介在組織を透過する計測光の光量を求めることができる。ここでは、光の伝播解析および音響波の伝播解析を行うことで当該相関を求める例について述べる。
【0041】
光の伝播解析は、公知の手法であるモンテカルロ法を用いて行った。例えば、生体の光学定数やシミュレーションの方法は、非特許文献2にて報告されている。
また、音響波の伝播解析には、公知の解析ソフトを使用した。超音波を取り扱える解析ソフトとして、例えば、University College Londonにて公開されている、k-waveがある
。
本例では、
図2に示したような、頭部を模擬した縦横64ミリメートル四方の二次元のモデルを作成した。当該モデルは、空気110、音響マッチング材111、頭皮112、頭蓋骨113、脳髄液114、大脳皮質115の6層構造となっている。頭皮112表面には、幅1mmの光照射領域Wが設定されている。
このようなモデルを用いて、光伝播解析を行うことで、光の吸収エネルギー(数式1におけるμ
a×φ)の分布を求め、次に、吸収エネルギー分布を元に初期音圧(数式1におけるP)を求め、最後に音響波の伝播解析を行った。本例では、光照射領域Wの中心から5mm離れた位置に音響波探触子11があるものとして、到達する圧力波を求めた。解析に使用した各層の厚さ、および光学特性、音響特性を表1に示す。使用したパラメータは
、各物質における代表的な値である。
【表1】
【0042】
この結果得られた、光の吸収エネルギー分布を
図3に示す。
図3の縦軸が垂直方向、横軸が水平方向である。
図3は、光照射領域を水平方向の中心として、頭皮112から深さ30mmまでの領域を拡大して表示したものである。また、等高線は最大値を1に規格化して、対数スケールで表示している。
図3より、頭皮112内の領域において、黒色で示した光照射部直下の領域116で光の吸収エネルギーが最大になっていることがわかる。従って、光照射部直下の領域116において、最大の初期音圧が発生する。また、光の吸収エネルギー分布から、大脳皮質115表面に照射される計測光の光量(すなわち、介在組織を透過する光量)も得られる。
【0043】
光の吸収エネルギー分布を初期音圧分布であるとみなして、音響波の伝播解析を行った結果を
図4に示す。図の横軸が時間、縦軸が音響波探触子に到達する音圧の波形である。光照射領域と音響波探触子との距離(5mm)と頭皮112における音速(1540m/
s)の関係から、図中の約3.3μsの時刻に現れるピークが、頭皮112で発生する音響波に由来することが分かる。すなわち、図中の頭皮112に相当する振幅Aから、頭皮
112での光の吸収エネルギーに関する情報が得られる。
【0044】
同様の解析を、頭皮112の吸収係数を0.8から1.2倍に変更して実施した。吸収係数と頭皮112で発生する音響波の振幅Aとの関係を
図5(a)に示す。図の横軸は頭皮112の吸収係数、縦軸は頭皮112で発生する音響波の振幅である。両軸とも、表1の条件で計算した結果で規格化して表示している。
図5(a)より、頭皮112の吸収係数と、発生する音響波の振幅には比例関係があることが分かる。
【0045】
次に、光伝播解析で求めた、頭皮112の吸収係数と大脳皮質115表面に照射される光量の関係を
図5(b)に示す。図の横軸は頭皮112の吸収係数、縦軸は大脳皮質115表面に照射される光量を表す。両軸とも、表1の条件で計算した結果で規格化して表示している。
図5(b)より、大脳皮質115表面に照射される光量と頭皮112の吸収係数には負の相関があることが分かる。
図5(a)および
図5(b)より求めた、頭皮112で発生する音響波の振幅と、大脳皮質115表面に照射される光量の関係を、
図5(c)に示す。
図5(c)より、大脳皮質115表面に照射される光量と、頭皮112で発生する音響波の振幅には負の相関があることが分かる。このような、
図5(c)に相当するデータがあれば、頭皮112で発生する音響波の振幅の変化から、大脳皮質115表面に照射される計測光の光量の変化を推定することができる。
なお、受信した音響波から、介在組織を透過する計測光の光量を求めることができれば、振幅以外を用いてもよい。例えば、音響波の波形の傾きや自乗平均、FFTを実行した時のパワーなどを用いてもよい。
【0046】
<測定信号の補正方法>
次に、第一の信号を補正する具体的な方法について説明する。
始めに、被検体を測定する際の基準となる「対照状態」と「換算テーブル」について説明する。対照状態とは、被検体に負荷を課していない状態、もしくは被検体の状態を一定にする標準的な負荷を課している状態(コントロール)である。
また、換算テーブルとは、
図5(c)に示したような、介在組織で発生した音響波の振幅と、介在組織を透過する光量との関係を表したテーブルである。本実施形態では、換算テーブルを用いて、介在組織を透過する計測光の光量が少なくなるほど、第一の信号を増幅する方向に補正を行う。
換算テーブルは、前述したようなシミュレーション、あるいはファントムや動物実験などによって事前に作成することができる。また、換算テーブルは、標準的な被検体に対応するものを一つだけ使用してもよいし、被検体に応じて複数用意してもよい。例えば、介在組織の厚さは、被検体の測定部位や被検者の年齢、性別、体格などに応じて変わる。そこで、介在組織の厚さに応じた換算テーブルを事前に複数用意し、対象の被検体に適合する換算テーブルを選択するようにしてもよい。
なお、換算テーブルの選択は、磁気共鳴映像法やX線断層像などによって取得した情報を用いて行うことができる。また、被検体を複数回測定した後に、安定して頭皮の影響を補正できている換算テーブルを事後的に選択するようにしてもよい。
【0047】
第一および第二の信号の取得は、まず、対照状態にある被検体に対して行われる(第一の測定)。そして、第二の信号から、介在組織内で発生した音響波に相当する振幅A
0を取得する。なお、振幅A
0の取得は、単一の信号を用いて行ってもよいし、複数回の測定を行ったうえで平均化してもよい。
【0048】
次に、被検体に負荷を課しながら、第一および第二の信号を測定し(第二の測定)、取得した第二の信号から、頭皮の音響波に相当する振幅A
1を得る。そして、振幅の変化量(A
1/A
0)と換算テーブルを用いて、第一の測定および第二の測定における、透過す
る光量の変化量Tを得る。最後に、変化量の逆数(1/T)を補正量Kとして、第二の測定にて取得した第一の信号を補正する。
なお、本実施形態では、光音響波測定系は、投光プローブおよび受光プローブの近傍それぞれに設けられている。このような場合、投光側と受光側の光音響波測定系それぞれについて補正量Kを取得すればよい。数式2に示すように、第一の信号に補正係数を乗ずることで、介在組織の吸収係数の変化を補正した信号を得ることができる。なお、Iは第一の信号、I’は補正後の信号、K
sは投光プローブ側の補正量、K
Dは受光プローブ側の補正量を表す。
I’=I×(K
s×K
D) ・・・(数式2)
なお、当該処理は、第一の測定から第二の測定までの間に生じた計測光の光量の変化を補正するためのものであるため、対照状態で取得した信号を補正する必要はない。よって、第一の測定で取得した第一の信号は、補正せずに使用する(I’=I)。
【0049】
なお、複数の波長に対して信号I’を測定することで、光の吸収特性の波長依存性を得ることができる。被検体内の測定対象成分(例えば酸化ヘモグロビンや脱酸化ヘモグロビン)の光吸収特性は、成分ごとに波長依存性が異なる。従って、複数の波長に対して、補正した信号I’を測定することで、測定対象領域における測定対象成分の濃度変化を算出することができる。
例えば、測定対象成分が酸化ヘモグロビンや脱酸化ヘモグロビンである場合、波長が700nm以上、1100nm以下である二以上の波長を用いればよい。酸化ヘモグロビンと脱酸化ヘモグロビンの光吸収係数は、800nm付近で大小関係が逆転するため、少なくとも800nmを挟んだ二つ以上の波長を選択することが好ましい。例えば、700nmと830nmの波長を用いることで相対濃度変化を計測することができる。
【0050】
<処理フローチャート>
図6に、本実施形態に係る生体光測定装置が行う処理のフローチャートを示す。なお、被検体に対するプローブ等の設置および、前述した対照状態の測定(第一の測定)と換算テーブルの準備は完了しているものとする。
始めに、特定の波長の光を被検体に照射し、光強度測定系を用いて第一の信号を測定する(ステップS1)。次に、ステップS1と同じ波長のパルス光を被検体に照射し、光音響測定系を用いて第二の信号を測定する(ステップS2)。ステップS1およびS2は、短い間隔で実行することが好ましい。
次に、第一および第二の測定で取得した音響波に基づいて、介在組織内で発生した音響波に相当する振幅を取得し、当該振幅の変化量を算出し、換算テーブルを用いて第一の信号の補正量を算出する(ステップS3)。もし、換算テーブルが複数ある場合、被検体の条件に最も適した換算テーブルを選択して処理を行う。
次に、算出した補正量を用いて、ステップS1で取得した第一の信号を補正する(ステップS4)。
【0051】
さらに、全ての波長に対して測定が完了したかを判定し(ステップS5)、完了していなければ、処理をステップS1に遷移させ、再度測定を行う。全ての波長に対して測定が完了していたら、処理をステップS6に遷移させる。
次に、波長ごとに測定した結果を用い、吸収特性の波長依存性から、被検体を構成する物質の濃度変化を算出する(ステップS6)。
なお、経時的な変化を測定する場合、所定の測定時間が終了するまで、ステップS1からステップS6の処理を繰り返す(ステップS7)。経時的な変化を測定する際は、被検体内部の変化に対して十分な時間分解能を有する周期で測定を繰り返せばよい。例えば、大脳皮質の血液は百ミリ秒から秒オーダーの周期で変化するため、血流の変化周期よりも小さい周期で測定すればよい。また、経時的な変化の測定中に被検体に負荷を課すことで、対照状態に対する内部状態の変化を測定することができる。内部状態の変化を測定する
対象としては、例えば、脳の賦活領域を測定する脳機能測定などが挙げられる。
【0052】
このように、第一の実施形態に係る生体光測定装置は、介在組織内で発生した音響波信号を取得することで、介在組織(頭皮)の影響を除去することができ、測定対象領域(大脳皮質)で発生した信号の変化をより正確に取得することができる。
前述した通り、従来技術に係る測定装置では、介在組織を透過する計測光の光量を正確に取得できず、被検体の内部情報を精度よく取得することができなかった。これに対して、本実施形態に係る生体光測定装置では、介在組織における光吸収特性を正確に取得できるため、介在組織の影響を正確に除去することができ、測定精度を向上させることができる。
【0053】
なお、本実施形態で示したフローチャートは一例であり、同等の機能を実現できれば、処理順などを入れ替えてもよい。例えば、第一の信号の測定および第二の信号の測定の順番が逆になってもよい。また、所定の測定が全て終了してから、補正および濃度変化の算出を行っても良い。また、第一の信号に対して第二の信号の変化速度が緩やかであるとみなせる場合は、第二の信号の測定を間引きしてもよい。
【0054】
(第二の実施形態)
第一の実施形態では、投光プローブ4の近傍と受光プローブ5の近傍に、それぞれ第二の投光プローブ10と音響波探触子11を配置した。すなわち、複数組の光音響波測定系を用いて測定を行った。これに対して第二の実施形態は、単一の光音響波測定系を用いて測定を行う実施形態である。
第二の実施形態は、介在組織に起因する測定信号の変動量が、位置に依存せず同一であるとみなせる場合に適用できる。
図7は、第二の実施形態に係る生体光測定装置の構成図である。本例では、投光プローブ4および受光プローブ5の略中間に、第二の投光プローブ10および音響波探触子11をそれぞれ配置する。他の構成は、第一の実施形態と同様である。なお、第二の投光プローブ10および音響波探触子11は、介在組織に起因する信号の変動が略同一であるとみなせる位置であれば、どこに配置してもよい。
【0055】
本実施形態でも第一の実施形態と同様に補正係数Kを取得するが、光音響測定系が一つであるため、ステップS4の処理において、数式3を用いて補正計数を決定する。Kは、光音響測定系における補正量である。
I’=I×(K×K) ・・・(数式3)
被検体100が頭部である場合、大脳皮質の局所的な変化と比較して、水平方向における頭皮血流の変化は相対的に少ないと考えられるため、単一の補正計数を用いても大きな誤差は発生しないと考えられる。従って、本実施形態のような構成とすることで、光音響波測定系の数を減らし、装置のコストを削減することができる。
【0056】
(第三の実施形態)
第一および第二の実施形態では、光強度測定系と光音響測定系とでそれぞれ異なる光源を使用した。これに対して第三の実施形態は、共通のパルス光源を用いて測定を行う実施形態である。
図8は、第三の実施形態に係る生体光測定装置の構成図である。本例では、共通の光源であるパルス光源13を用い、光導波路14によってパルス光を分岐させている。他の構成は、第一の実施形態と同様である。なお、
図8の例では、投光プローブ15も、光強度測定系と光音響測定系とで共通のものを使用しているが、別個のものを使用してもよい。
【0057】
光検出器2は、パルス光源13から発せられ被検体を伝播したパルス光を第一の信号として検出し、音響波探触子11は、パルス光源13から発せられたパルス光により被検体
内で発生した音響波を第二の信号として検出する。第一の信号および第二の信号は同時に測定してもよいし、別々に測定してもよい。このような構成とすることで、使用する光源および光導波路、投光プローブの数を減らし、装置のコストを削減することができる。
【0058】
(第四の実施形態)
第一ないし第三の実施形態では、対照状態と、被検体に負荷を課した状態で測定を行い、計測光の光量の変化を用いて信号を補正した。これに対して第四の実施形態は、第二の信号から得られる介在組織の光吸収特性の経時的な変化を用いて、第一の信号の経時的な変化から介在組織の情報を除去する実施形態である。すなわち、被検体に負荷を課しながら複数回の測定を連続して行う実施形態である。第四の実施形態に係る生体光測定装置の構成は、第一ないし第三の実施形態と同様である。
【0059】
第四の実施形態では、測定を行うごとに、第一の信号を収集して時系列の信号を生成する。以降、本実施形態における第一の信号とは、被検体を透過した計測光の強度の経時的な変化を表す信号であるものとする。
また、第二の信号から、介在組織にて発生した音響波に相当する振幅を得て、当該振幅を時系列で表した信号を生成する。これを第三の信号と称する。すなわち、第三の信号は、取得した振幅の経時的な変化を表す信号である。
【0060】
信号の取得が完了すると、第一の信号と第三の信号の組合せについて、被検体の対照状態と、対照状態に対する時間変化を取得する。第一の信号の時間変化には、介在組織と測定対象領域の光吸収特性の情報が含まれる。また、第三の信号の時間変化には、介在組織の光吸収特性の情報が含まれる。そして、第一の信号と第三の信号のそれぞれの時間変化に対し、独立成分分析などの数学的信号分離法を用いて、測定対象領域と介在組織との信号(情報成分)を分離し、測定対象領域の信号(情報成分)のみを抽出する。
【0061】
第四の実施形態においては、このような方法によって、信号成分を分離する処理の過程でランダムな雑音成分を除去することができ、信号対ノイズ比を向上させる効果を得ることができる。
【0062】
(実施例)
第一の実施形態に対応する実施例について説明する。本実施例に係る生体光測定装置は、生体の脳の血液動態の変化を求めることを目的とした測定装置である。
光強度測定系と光音響波測定系は、不図示のホルダによって被検体100の表面に配置した。また、光源1には、波長が750nmと1060nmである半導体レーザ光を照射できる光源を用いた。光源1にて発生する光は、変調周波数100MHzの変調光である。また、パルス光源8には、パルス幅が50ナノ秒、繰返し周波数が10Hz、波長が1064nmであるNd:YAGレーザと、波長が750nmであるアレキサンドライトレーザを用いた。
また、音響波探触子11には、中心周波数が1MHzのピエゾタイプのトランスデューサを使用した。
【0063】
本実施例では、光源で発生した光を光ファイバ経由で投光プローブ4に導く構成とし、被検体100の表面にて受光プローブ5とカップリングさせた。投光プローブ4と受光プローブ5の間隔は30mmとした。また、光検出器2には、光電子倍増管(PMT)を使用し、光源1の変調周波数と同期させて測定を行った。そして、光源1から照射され、被検体100を伝播した光の強度を光検出器2で取得し、第一の信号を得た。
また、パルス光源8から発せられたパルス光を、光ファイバ経由で第二の投光プローブ10から被検体100に照射した。そして、パルス光に起因して被検体100内で発生する音響波を音響波探触子11で取得し、第二の信号を得た。
【0064】
第一の信号および第二の信号は、コンピュータによって構成された信号処理部7で処理を行った。信号処理部7では、第二の投光プローブ10と音響波探触子11の距離と、生体内の音速を用いて、第二の信号から頭皮内で発生した音響波に相当する部分を特定し、頭皮内の吸収係数の変化を得た。また、吸収係数の変化から補正係数を算出し、第一の信号を補正したうえで、酸化ヘモグロビンと脱酸化ヘモグロビンの濃度比の時間変化を取得した。なお、補正用の換算テーブルは、シミュレーションおよび生体を模擬したファントム実験によって予め作成したものを使用した。
測定は、複数波長の光源を用いて行い、所定の測定時間が終了するまで繰返し行った。このようにして最終的に得られた結果は、頭皮における血流の影響が除去されたものであった。すなわち、介在組織(頭皮)の吸収係数の変化を正確に取得することができ、信号を正確に補正したうえで脳の血液動態を求められることが確認できた。
【0065】
(変形例)
なお、各実施形態の説明は本発明を説明する上での例示であり、本発明は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更または組み合わせて実施することができる。例えば本発明は、上記処理の少なくとも一部を含む被検体情報取得装置の制御方法として実施することもできる。上記処理や手段は、技術的な矛盾が生じない限りにおいて、自由に組み合わせて実施することができる。
例えば、光強度測定系と光音響波測定系を複数組設け、被検体表面上に一次元あるいは二次元的に配置してもよい。各測定系を複数組配置することで、測定結果の空間的な分布を得ることができる。また、取得した分布は表示部に出力するようにしてもよい。
また、実施形態の説明では、音響波の振幅と、介在組織を透過する計測光の光量との対応を表した換算テーブルを用いた。すなわち、本発明における光学関連情報とは、介在組織を透過する計測光の光量である。しかし、大脳皮質に到達する計測光の光量を求めることができれば、他の情報を用いてもよい。例えば、介在組織に吸収される光エネルギーを用いてもよいし、介在組織における光の吸収係数を用いてもよい。
【0066】
また、記憶装置に記録されたプログラムを読み込み実行することで前述した実施形態の機能を実現するシステムや装置のコンピュータ(又はCPU、MPU等のデバイス)によっても、本発明を実施することができる。また、例えば、記憶装置に記録されたプログラムを読み込み実行することで前述した実施形態の機能を実現するシステムや装置のコンピュータによって実行されるステップからなる方法によっても、本発明を実施することができる。
この目的のために、上記プログラムは、例えば、ネットワークを通じて、又は、上記記憶装置となり得る様々なタイプの記録媒体(つまり、非一時的にデータを保持するコンピュータ読取可能な記録媒体)から、上記コンピュータに提供される。したがって、上記コンピュータ(CPU、MPU等のデバイスを含む)、上記方法、上記プログラム(プログラムコード、プログラムプロダクトを含む)、上記プログラムを非一時的に保持するコンピュータ読取可能な記録媒体は、いずれも本発明の範疇に含まれる。