特許第6245865号(P6245865)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6245865
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】赤外線光源
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/01 20060101AFI20171204BHJP
   H05B 3/10 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
   G01N21/01 D
   H05B3/10 B
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-139764(P2013-139764)
(22)【出願日】2013年7月3日
(65)【公開番号】特開2015-14468(P2015-14468A)
(43)【公開日】2015年1月22日
【審査請求日】2016年6月29日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113022
【弁理士】
【氏名又は名称】赤尾 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】中川 伸一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 達典
(72)【発明者】
【氏名】喜田 真史
【審査官】 比嘉 翔一
(56)【参考文献】
【文献】 特許第4055697(JP,B2)
【文献】 特許第2712527(JP,B2)
【文献】 特開昭62−211888(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0175154(US,A1)
【文献】 特開2007−269614(JP,A)
【文献】 特開2001−221689(JP,A)
【文献】 米国特許第06297511(US,B1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0294300(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0050621(US,A1)
【文献】 特開昭54−013029(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00−21/01
G01N 21/17−21/61
G01J 3/00− 4/04
G01J 7/00− 9/04
H05B 3/02− 3/18
H05B 3/40− 3/82
C03C 1/00−14/00
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空洞部を有する半導体基板と、
前記空洞部を覆うように前記半導体基板上に形成される薄膜部と、
前記薄膜部の内部に設けられ、通電により発熱する抵抗体と、
前記薄膜部上に設けられ、前記抵抗体の赤外線放射率以上の赤外線放射率を有し、前記抵抗体からの熱を受けて赤外線を発光する高放射性膜と、を備えた赤外線光源であって、
前記高放射性膜は、炭化珪素を主成分とするセラミックス粒子と、少なくともZnを含むガラス質材料とを含み、
前記高放射性膜の表面において、X線光電子分光(XPS)によって分析したとき、Znと、Cに結合しているSiの原子数Si(C)との原子数比であるZn/(Si(C)+Zn)で示されるZnの表面添加率が81%以下で、かつZnを少なくとも含み、
前記高放射性膜は、前記薄膜部よりも外側の領域に延びて形成されると共に、少なくとも前記抵抗体の形成領域上に設けられている赤外線光源。
但し、前記X線光電子分光を、検出領域100μm中、検出深さ4〜5nm(取出角45°)の条件で、AlKα線(1486keV)を用い、前記高放射性膜に存在する元素のうち測定対象とする元素の光電子ピーク面積をそれぞれ測定し、以下の(1)に示す式によって測定対象とする各元素の原子数を定量(相対定量)し、定量された各元素の原子数を用いて上述した表面添加率を求める。
Ci={(Ai/RSFi)/(ΣiAi/RSFi)}×100・・・(1)
ここで、Ciは測定対象とする元素iの定量値(atomic%)、Aiは測定対象とする元素iの光電子ピーク面積、RSFiは測定対象とする元素iの相対感度係数を示す。
【請求項2】
空洞部を有する半導体基板と、
前記空洞部を覆うように前記半導体基板上に形成される薄膜部と、
前記薄膜部に設けられ、通電により発熱する抵抗体と、
前記薄膜部上に設けられ、前記抵抗体の赤外線放射率以上の赤外線放射率を有し、前記抵抗体からの熱を受けて赤外線を発光する高放射性膜と、を備えた赤外線光源であって、
前記高放射性膜は、炭化珪素を主成分とするセラミックス粒子と、少なくともBを含むガラス質材料とを含み、
前記高放射性膜の表面において、X線光電子分光(XPS)によって分析したとき、Bと、Cに結合しているSiの原子数Si(C)との原子数比であるB/(Si(C)+B)で示されるBの表面添加率が67%以下で、かつBを少なくとも含み、
前記高放射性膜は、前記薄膜部よりも外側の領域に延びて形成されると共に、少なくとも前記抵抗体の形成領域上に設けられている赤外線光源。
但し、前記X線光電子分光を、検出領域100μm中、検出深さ4〜5nm(取出角45°)の条件で、AlKα線(1486keV)を用い、前記高放射性膜に存在する元素のうち測定対象とする元素の光電子ピーク面積をそれぞれ測定し、以下の(1)に示す式によって測定対象とする各元素の原子数を定量(相対定量)し、定量された各元素の原子数を用いて上述した表面添加率を求める。
Ci={(Ai/RSFi)/(ΣiAi/RSFi)}×100・・・(1)
ここで、Ciは測定対象とする元素iの定量値(atomic%)、Aiは測定対象とする元素iの光電子ピーク面積、RSFiは測定対象とする元素iの相対感度係数を示す。
【請求項3】
空洞部を有する半導体基板と、
前記空洞部を覆うように前記半導体基板上に形成される薄膜部と、
前記薄膜部に設けられ、通電により発熱する抵抗体と、
前記薄膜部上に設けられ、前記抵抗体の赤外線放射率以上の赤外線放射率を有し、前記抵抗体からの熱を受けて赤外線を発光する高放射性膜と、を備えた赤外線光源であって、
前記高放射性膜は、炭化珪素を主成分とするセラミックス粒子と、少なくともSiOを含むガラス質材料とを含み、
前記高放射性膜の表面において、Cに結合しているSiの原子数Si(C)と、Oに結合しているSiの原子数Si(O)との原子数比であるSi(C)/(Si(O)+Si(C))で示されるSi−Cの表面添加率が11%以上で、かつSi(O)を少なくとも含み、
前記高放射性膜は、前記薄膜部よりも外側の領域に延びて形成されると共に、少なくとも前記抵抗体の形成領域上に設けられている赤外線光源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発熱により赤外線を発光する放射性膜を有する赤外線光源に関する。
【背景技術】
【0002】
赤外線光源と赤外線検出素子とを鏡筒内に配置し、鏡筒内に出入りする被測定ガスが特定波長の赤外線を吸収することを利用して、被測定ガスの種類と濃度を測定する赤外線光源が知られている。
この赤外線光源として、炭化珪素を主成分とするセラミックス粒子がガラス質材料により結合された多孔質の赤外線放射体を発熱体により加熱する構成が提案されている(特許文献1)。又、赤外線光源の放射体(放射膜)として、カーボンブラックを用いるものが提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2712527号公報
【特許文献2】特許第4055697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、赤外線放射体(放射膜)の赤外線放射率が高いほど、赤外線検出素子の検出精度も向上するが、この赤外線放射率は放射膜の最表面の組成によって変化する。そして、本発明者らが検討したところ、放射膜の最表面を特定の組成とすることにより、赤外線放射率が向上することが判明した。
すなわち、本発明は、赤外線放射率が高い赤外線光源の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第の態様の赤外線光源は、空洞部を有する半導体基板と、前記空洞部を覆うように前記半導体基板上に形成される薄膜部と、前記薄膜部の内部に設けられ、通電により発熱する抵抗体と、前記薄膜部上に設けられ、前記抵抗体の赤外線放射率以上の赤外線放射率を有し、前記抵抗体からの熱を受けて赤外線を発光する高放射性膜と、を備えた赤外線光源であって、前記高放射性膜は、炭化珪素を主成分とするセラミックス粒子と、少なくともZnを含むガラス質材料とを含み、前記高放射性膜の表面において、X線光電子分光(XPS)によって分析したとき、Znと、Cに結合しているSiの原子数Si(C)との原子数比であるZn/(Si(C)+Zn)で示されるZnの表面添加率が81%以下で、かつZnを少なくとも含み、前記高放射性膜は、前記薄膜部よりも外側の領域に延びて形成されると共に、少なくとも前記抵抗体の形成領域上に設けられている。但し、前記X線光電子分光を、検出領域100μm中、検出深さ4〜5nm(取出角45°)の条件で、AlKα線(1486keV)を用い、前記高放射性膜に存在する元素のうち測定対象とする元素の光電子ピーク面積をそれぞれ測定し、以下の(1)に示す式によって測定対象とする各元素の原子数を定量(相対定量)し、定量された各元素の原子数を用いて上述した表面添加率を求める。Ci={(Ai/RSFi)/(ΣiAi/RSFi)}×100・・・(1)ここで、Ciは測定対象とする元素iの定量値(atomic%)、Aiは測定対象とする元素iの光電子ピーク面積、RSFiは測定対象とする元素iの相対感度係数を示す。
この赤外線光源によれば、高放射性膜の最表面を特定の組成とすることにより、赤外線放射率が向上し、例えば赤外線検知式ガスセンサに用いたときの検出精度も向上する。
【0007】
本発明の第の態様の赤外線光源は、空洞部を有する半導体基板と、前記空洞部を覆うように前記半導体基板上に形成される薄膜部と、前記薄膜部の内部に設けられ、通電により発熱する抵抗体と、前記薄膜部上に設けられ、前記抵抗体の赤外線放射率以上の赤外線放射率を有し、前記抵抗体からの熱を受けて赤外線を発光する高放射性膜と、を備えた赤外線光源であって、前記高放射性膜は、炭化珪素を主成分とするセラミックス粒子と、少なくともBを含むガラス質材料とを含み、前記高放射性膜の表面において、X線光電子分光(XPS)によって分析したとき、Bと、Cに結合しているSiの原子数Si(C)との原子数比であるB/(Si(C)+B)で示されるBの表面添加率が67%以下で、かつBを少なくとも含み、前記高放射性膜は、前記薄膜部よりも外側の領域に延びて形成されると共に、少なくとも前記抵抗体の形成領域上に設けられている。但し、前記X線光電子分光を、検出領域100μm中、検出深さ4〜5nm(取出角45°)の条件で、AlKα線(1486keV)を用い、前記高放射性膜に存在する元素のうち測定対象とする元素の光電子ピーク面積をそれぞれ測定し、以下の(1)に示す式によって測定対象とする各元素の原子数を定量(相対定量)し、定量された各元素の原子数を用いて上述した表面添加率を求める。Ci={(Ai/RSFi)/(ΣiAi/RSFi)}×100・・・(1)ここで、Ciは測定対象とする元素iの定量値(atomic%)、Aiは測定対象とする元素iの光電子ピーク面積、RSFiは測定対象とする元素iの相対感度係数を示す。
この赤外線光源によれば、高放射性膜の最表面を特定の組成とすることにより、赤外線放射率が向上し、例えば赤外線検知式ガスセンサに用いたときの検出精度も向上する。
【0008】
本発明の第の態様の赤外線光源は、空洞部を有する半導体基板と、前記空洞部を覆うように前記半導体基板上に形成される薄膜部と、前記薄膜部の内部に設けられ、通電により発熱する抵抗体と、前記薄膜部上に設けられ、前記抵抗体の赤外線放射率以上の赤外線放射率を有し、前記抵抗体からの熱を受けて赤外線を発光する高放射性膜と、を備えた赤外線光源であって、前記高放射性膜は、炭化珪素を主成分とするセラミックス粒子と、少なくともSiOを含むガラス質材料とを含み、前記高放射性膜は、前記薄膜部よりも外側の領域に延びて形成されると共に、少なくとも前記抵抗体の形成領域上に設けられている。
高放射性膜が薄膜部の形成領域の外側まで延びて設けられると、赤外線の発光面積が広くなり、より多くの赤外線を放射できる。又、高放射性膜が少なくとも抵抗体の形成領域上に設けられていれば、その部分で抵抗体の熱が高放射性膜に伝わって赤外線を放射できる。


【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、赤外線放射率が高い赤外線光源が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】赤外線光源の構成を示す平面図である。
図2図1におけるA−A線及びB−B線に沿った断面図である。
図3】赤外線光源を備えた赤外線検知式ガスセンサの断面図である。
図4】赤外線検出素子の出力を求めるための方法を示す図である。
図5】実施例2の高放射性膜のX線光電子分光(XPS)による光電子ピークを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態を図面と共に説明する。図1は赤外線光源1の平面図を示し、図2図1のA−A線切断部およびB−B線切断部におけるそれぞれの端面図を示す。
【0012】
図1に示すように、赤外線光源1は、半導体基板13と、半導体基板13上に形成される薄膜部Dと、抵抗体15と、高放射性膜30と、を備えている。赤外線光源1は、平板形状(平面視四角形状)をなし、その表面の一の辺に沿ってそれぞれ電極21、23が形成され、他方の面(裏面)の中心付近に、詳しくは後述する平面視矩形の薄膜部Dが形成されている。
又、図2に示すように、基板13の上面側に絶縁層である薄膜支持層45が形成されている。薄膜支持層45は、表面側から半導体基板13側へ向かって順に、上層41と下層43を積層してなる。上層41及び下層43は、例えば窒化珪素層(Si34層)、酸化ケイ素(SiO2)層等の絶縁層から形成することができる。
【0013】
そして、図2に示すように、薄膜支持層45が部分的(平面から見てほぼ正方形)に露出するように半導体基板13の一部を除去することで、図2に示すように薄膜支持層45の下側に凹部(空洞部)13Cが形成されたダイヤフラム構造をなしている。薄膜支持層45のうち、凹部13Cの上側部分がダイヤフラムをなす薄膜部Dを形成する。
なお、凹部13Cは半導体基板13の底面側から薄膜部Dに向かってピラミッド形状(四角錐形状)に除去されている。
【0014】
薄膜部Dの内部には、渦巻き状にパターン形成されて通電により発熱する抵抗体15が埋設されている。抵抗体15は、温度抵抗係数が大きい導電性材料で構成され、本実施形態では白金(Pt)で形成されている。そして、薄膜部D上には、抵抗体15の赤外線放射率以上の赤外線放射率を有し、抵抗体15からの熱を受けて赤外線を発光する高放射性膜30が設けられている。ダイヤフラムをなす薄膜部D内に抵抗体15を設けることにより、抵抗体15が周囲から断熱されるため、短時間にて昇温して高放射性膜30から赤外線を発光させることができる。
なお、抵抗体15は、上層41と下層43との間に埋設されている。又、最表層をなす上層41は、抵抗体15、配線膜16の汚染や損傷を防止すべくそれらを覆うように設けられている。又、抵抗体15の左右の端は、抵抗体15が形成された平面と同じ平面にそれぞれ埋設された配線をなすヒータリード部16を介して、各電極21、23に接続されている。なお、電極23がグランド電極となっている。電極21、23は、抵抗体15に接続される配線の引き出し部位であり、コンタクトホール(図2)を介して露出し、例えば、アルミニウム(Al)又は金(Au)で形成されている。
【0015】
一方、高放射性膜30は上層41の表面に露出するように積層されている。
本発明の第1の態様において、高放射性膜30は、炭化珪素を主成分とするセラミックス粒子と、少なくともSiOを含むガラス質材料とを含み、高放射性膜の表面において、Cに結合しているSiの原子数Si(C)と、Oに結合しているSiの原子数Si(O)との原子数比であるSi(C)/(Si(O)+Si(C))で示されるSi-Cの表面添加率が11%以上で、かつSi(O)を少なくとも含む。
高放射性膜30の赤外線放射率が高いほど、赤外線光源1と共にガスセンサとして用いられる赤外線検出素子の検出精度も向上するが、この赤外線放射率は高放射性膜30の最表面の組成によって大きな影響を受ける。そして、本発明者らが検討したところ、高放射性膜30の最表面を上記組成とすることにより、赤外線放射率が向上することが判明した。
Si-Cの表面添加率が11%未満であると、赤外線放射率の向上効果が十分に得られない。一方、高放射性膜30がSi(O)を含まない(つまり、Si-Cの表面添加率が100%の)場合、高放射性膜30の密着性が低下し、高放射性膜30が半導体基板13(薄膜支持層45)から剥離する虞がある。つまり、Si(O)は密着性を向上させるので、高放射性膜30のSi(O)の含有量の下限は、例えば1%とする(Si-Cの表面添加率の上限が99%)とよい。
高放射性膜30の最表面の組成は、X線光電子分光(XPS又はESCA)によって分析することができる。
また、本発明において「主成分」とは、その成分が、含有される全成分のうち80重量%以上、好ましくは90重量%以上、より好ましくは95重量%以上を占める成分であることを示す。
【0016】
なお、図1に示すように、高放射性膜30は、薄膜部Dよりも外側の領域R2に延びて形成されると共に、少なくとも抵抗体15の形成領域R1上に設けられているとよい。高放射性膜30が、薄膜部Dの形成領域の外側まで延びて設けられると、赤外線の発光面積が広くなり、より多くの赤外線を放射できる。又、高放射性膜30が少なくとも抵抗体15の形成領域R1上に設けられていれば、その部分で抵抗体15の熱が高放射性膜30に伝わって赤外線を放射できる。なお、薄膜部Dよりも外側まで高放射性膜30を延ばした場合、上記したように抵抗体15は薄膜部Dよりも内側の領域に形成されることが好ましい。この場合、薄膜部Dよりも外側の高放射性膜30は、薄膜部Dよりも内側の高放射性膜30の余熱によって加熱される。
赤外線光源1は、縦横ともに数mm(例えば3mm×3mm)程度の大きさであり、例えば、シリコン半導体基板を用いたマイクロマシニング技術(マイクロマシニング加工)により製造される。
【0017】
次に、図2を参照し、赤外線光源1の製造工程について簡単に説明する。
まず、シリコン半導体からなる半導体基板13を準備し、この半導体基板13を洗浄した上で半導体基板13の上面に、例えば窒化珪素膜(Si34膜)からなる下層43を減圧CVD法により成膜する。
次に、下層43の上に、スパッタ法により白金(Pt)等の金属膜を成膜した後、パターニングして抵抗体15を形成する。このとき、抵抗体15に電気的に接続されるヒータリード部16が、抵抗体15と同様にパターニング形成される。
続いて、抵抗体15を中心として上下方向(積層方向)の膜構成が対称となるように、例えば窒化珪素膜(Si34膜)からなる上層41を減圧CVD法により成膜する。
次に、ヒータリード部16上の所定位置に設けたコンタクトホール(図示せず)に対して、スパッタ法により金(Au)等の金属膜を成膜した後、パターニングして金(Au)等の金属材料からなるコンタクト電極21、23を形成する。
【0018】
次に、上層41の表面の所定領域内に、上記材料を含むペーストを用いて、スクリーン印刷により所定形状の高放射性膜30を形成する。その際、高放射性膜30は、抵抗体15の形成領域を覆うように、当該抵抗体15の形成領域よりも広く、且つ、薄膜部Dの形成領域より外側まで設けられる。尚、高放射性膜30の形成方法は、スクリーン印刷に限定されるものではない。高放射性膜30を構成する材料に適した種々の方法を用いることができる。例えば、インクジェット印刷により高放射性膜30を形成しても良い。また、CVD法により成膜し、フォトリソグラフィー処理によりパターニングして高放射性膜30を形成することもできる。
【0019】
最後に、半導体基板13の下面全面に、例えばプラズマCVD法によりエッチングマスク用の窒化シリコン膜47を形成する。そして、フォトリソグラフィー処理により窒化シリコン膜47に薄膜部Dを形成する領域に応じた開口部位を形成し、半導体基板13を異方性エッチング処理によりエッチングする。このエッチングは、半導体基板13の上面に設けられた下層43が露出するまで実施され、半導体基板13の上面に薄膜部Dの形成領域に対応して上面に開口した凹部13Cが形成される。
【0020】
赤外線光源1は、例えば図3に模式的に示すように赤外線検知式ガスセンサ100に適用することができる。赤外線検知式ガスセンサ100は、円筒状の鏡筒102、鏡筒102の両端に互いに対向して配置された赤外線光源1及び赤外線検出素子120を有する。赤外線検出素子120の受光面側には赤外線波長選択フィルタ110が配置されている。そして、鏡筒102側面に設けた導入口103から被測定ガスが導入され、鏡筒102側面に設けた出口104から被測定ガスが外部に排出される。そして、鏡筒102内で赤外線光源1から赤外線検出素子120に向かって照射された赤外線が被測定ガス中を通過する際、特定波長の赤外線が吸収されることを利用し、赤外線検出素子120の出力に基づいて被測定ガス中に含まれる特定ガスの濃度を測定する。特定ガスとしては、例えばアルコールガスが挙げられる。
【0021】
次に、本発明の第2の態様について説明する。なお、本発明の第2の態様は、高放射性膜30の組成が異なること以外は、本発明の第1の態様と同様である。
第2の態様において、高放射性膜30は、炭化珪素を主成分とするセラミックス粒子と、少なくともZnを含むガラス質材料とを含み、高放射性膜30の表面において、Znと、Cに結合しているSiの原子数Si(C)との原子数比であるZn/(Si(C)+Zn)で示されるZnの表面添加率が81%以下で、かつZnを少なくとも含む。
高放射性膜30の最表面を上記組成とすることにより、赤外線放射率が向上する。
Znの表面添加率が81%を超えると、赤外線放射率の向上効果が十分に得られない。一方、高放射性膜30がZnを含まない(つまり、Si-Cの表面添加率が100%の)場合、高放射性膜30の密着性が低下し、高放射性膜30が半導体基板13(薄膜支持層45)から剥離する虞がある。なお、高放射性膜30のZnの含有量の下限は、例えば1%である(Znの表面添加率の下限が1%)とよい。
【0022】
次に、本発明の第3の態様について説明する。なお、本発明の第3の態様は、高放射性膜30の組成が異なること以外は、本発明の第1の態様と同様である。
第3の態様において、高放射性膜30は、炭化珪素を主成分とするセラミックス粒子と、少なくともBを含むガラス質材料とを含み、高放射性膜30の表面において、Bと、Cに結合しているSiの原子数Si(C)との原子数比であるB/(Si(C)+B)で示されるBの表面添加率が67%以下で、かつBを少なくとも含む。
高放射性膜30の最表面を上記組成とすることにより、赤外線放射率が向上する。
Bの表面添加率が67%を超えると、赤外線放射率の向上効果が十分に得られない。一方、高放射性膜30がBを含まない(つまり、Si-Cの表面添加率が100%の)場合、高放射性膜30の密着性が低下し、高放射性膜30が半導体基板13(薄膜支持層45)から剥離する虞がある。なお、高放射性膜30のBの含有量の下限は、例えば1%である(Si-Cの表面添加率の下限が1%)とよい。
【0023】
なお、高放射性膜30に用いるガラス質材料としては、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、アルミナ、シリカ、リン酸、フッ化物、ホウ酸、酸化亜鉛の群から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
高放射性膜30は、炭化珪素を主成分とするセラミックス粒子と、SiO、Zn(ZnO)及びB(B)を含むガラス質材料とを含む組成とすることが好ましい。
【0024】
本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の思想と範囲に含まれる様々な変形及び均等物に及ぶことはいうまでもない。
【実施例】
【0025】
平均粒径2〜3μmの炭化珪素粉末と、平均粒径1.5μmの無鉛のガラス質材料粉末(製品名:ASF1891F、旭硝子株式会社製)を混合し、バインダーにエチルセルロース、溶剤にテルピネオールを用いたペーストを、図1図2に示す構成の赤外線光源1の表面に塗布した。塗布後に全体を600℃で熱処理した。なお、上記ガラス質粉末は、SiO、ZnO及びBの3成分を含むガラス質材料からなり、以下に示す表1の実施例1〜5及び比較例1では、炭化珪素粉末とガラス質粉末との配合比を適宜変更した。また、参照例として、炭化珪素粉末を含まずに上記した無鉛のガラス質材料粉末を含むペーストを用いて放射性膜を形成した赤外線光源を作製した。さらに、比較例2として、ガラス質材料粉末を含まずに炭化珪素粉末を含むペーストを用いて放射性膜を形成した赤外線光源を作成した。
【0026】
得られた実施例1〜5、比較例1、2、参照例それぞれの赤外線光源1の高放射性膜30表面の組成をX線光電子分光(XPS)装置によって分析し、表面添加率を求めた。具体的には上記装置により、検出領域100μm中、検出深さ4〜5nm(取出角45°)の条件で、AlKα線(1486keV)を用い、高放射性膜30に存在する元素のうち測定対象とする元素の光電子ピーク面積をそれぞれ測定し、以下の(1)に示す式によって測定対象とする各元素の原子数を定量(相対定量)し、定量された各元素の原子数を用いて上述した表面添加率を求めた。
Ci={(Ai/RSFi)/(ΣiAi/RSFi)}×100・・・(1)
ここで、Ciは測定対象とする元素iの定量値(atomic%)、Aiは測定対象とする元素iの光電子ピーク面積、RSFiは測定対象とする元素iの相対感度係数を示す。
【0027】
さらに、得られた赤外線光源1を図3に示す赤外線検知式ガスセンサ100に組み付け、赤外線放射率を測定すると共に、高放射性膜の密着性を評価した。赤外線放射率の測定(評価)にあたっては、具体的に、各赤外線光源1を別個に組み付けた赤外線検知式ガスセンサ100をそれぞれ準備して、赤外線検知式ガスセンサ100の被測定ガスを大気とし、赤外線検出素子120の出力ΔVを測定した。赤外線検出素子120の受光面側に、それぞれ波長3.9μm、9.5μmの赤外線波長選択フィルタ110を配置し、これら波長3.9μm、9.5μmにおける赤外線検出素子120の出力ΔVをそれぞれ測定した。
なお、図4に示すように、赤外線光源1の抵抗体15を設定温度400℃で断続的に(2Hz,デューティ比50%のON−OFF)加熱し、抵抗体15のON時の赤外線検出素子120の最大出力をV1とし、抵抗体15のOFF時の赤外線検出素子120の最小出力をV2とし、ΔV=V1−V2とした。
出力ΔVが大きいほど、電圧感度(V/W;入射光量1W当りの赤外線検出素子120の出力(V))が大きくなり、赤外線検出素子の検出精度も向上する。
そして、赤外線放射率としては、参照例の赤外線光源を用いた赤外線検知式ガスセンサ100の赤外線検出素子120における波長3.9μm、9.5μmのそれぞれの出力ΔV(参照出力ΔV)の値に対する、実施例1〜5、比較例1の赤外線光源を用いた赤外線検知式ガスセンサ100の赤外線検出素子120における波長3.9μm、9.5μmのそれれぞの出力ΔVの値の倍率で評価した。そのため、参照例での赤外線放射率は、波長3.9μm、9.5μmのそれぞれにおいて、1.00となっている。波長3.9μmにおいて、出力ΔVの参照出力ΔVに対する倍率として1.20を超えた場合を○とし、1.20以下の場合を×とし、波長9.5μmにおいて、出力ΔVの参照出力ΔVに対する倍率として1.60を超えた場合を○とし、1.60以下の場合を×とした。
また、各赤外線光源における放射性膜の密着性の評価として、赤外線光源を赤外線検知式ガスセンサ100に組み付けたときに、薄膜支持層45に対して放射性膜の剥離が生じたか否かを目視にて確認した。剥離が生じなかった場合を○とし、剥離が生じた場合を×とした。
得られた結果を表1に示す。
【0028】
【表1】
【0029】
表1から明らかなように、Si−Cの表面添加率が11%以上で、かつSi(O)を含み、Znの表面添加率が81%以下で、かつZnを含み、Bの表面添加率が67%以下で、かつBを含む各実施例の場合、赤外線放射率(詳細には、波長3.9μm、9.5μmにおける赤外線放射率)が大きくなり、赤外線検出素子の検出精度が向上したと共に、高放射性膜の薄膜支持層45に対する密着性も向上した。
Si−Cの表面添加率が11%未満で、Znの表面添加率が81%未満で、Bの表面添加率が67%未満である比較例1の場合、赤外線放射率の向上が十分に得られなかった。
Si−Cの表面添加率が100%で、高放射性膜中にSi(O)を含まない比較例2の場合、放射性膜の密着性が劣った。
なお、図5は、実施例2の高放射性膜の表面のX線光電子分光(XPS)装置による光電子ピークを示す。SiにCが結合している場合とOが結合している場合とで、結合エネルギが異なるために、2つのピークに分離することができ、Si(O)とSi(C)を求めることができる。
【符号の説明】
【0030】
1 赤外線光源
13 半導体基板
13C 空洞部
15 抵抗体
30 高放射性膜
D 薄膜部
図1
図2
図3
図4
図5