特許第6245903号(P6245903)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6245903
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】車両用灯具
(51)【国際特許分類】
   F21S 8/12 20060101AFI20171204BHJP
   F21W 101/10 20060101ALN20171204BHJP
   F21Y 115/10 20160101ALN20171204BHJP
   F21Y 115/30 20160101ALN20171204BHJP
【FI】
   F21S8/12 250
   F21W101:10
   F21Y115:10
   F21Y115:30
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-184366(P2013-184366)
(22)【出願日】2013年9月5日
(65)【公開番号】特開2015-53142(P2015-53142A)
(43)【公開日】2015年3月19日
【審査請求日】2016年8月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 雄祐
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 友由
(72)【発明者】
【氏名】中澤 美紗子
【審査官】 當間 庸裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−210131(JP,A)
【文献】 特開2007−179993(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3146553(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F21S 8/10− 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
前記光源からの光を第1出射方向に出射する第1状態と、前記光源からの光を前記第1出射方向とは異なる第2出射方向に出射する第2状態とを個別に切り替え可能な複数の光学素子が配列されてなる光学素子アレイと、
第1状態にある前記光学素子からの光を所定の配光パターンを形成するために灯具前方に投影する第1光学部材と、
第2状態にある前記光学素子からの光を灯具外部から視認可能とするために灯具周囲に照射する第2光学部材と、
を備え
前記第1光学部材は、第1状態にある前記光学素子からの光を集光するよう形成され、
前記第2光学部材は、第2状態にある前記光学素子からの光を拡散するよう形成されることを特徴とする車両用灯具。
【請求項2】
前記第2光学部材は、第2状態にある前記光学素子からの光を減衰させて灯具周囲に照射するよう構成されることを特徴とする請求項1に記載の車両用灯具。
【請求項3】
前記第2光学部材は、外部からの光を反射するとともに、第2状態にある前記光学素子からの光を透過するよう構成されることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用灯具。
【請求項4】
前記第1光学部材から投影された光は、ハイビーム配光パターンを形成することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の車両用灯具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用灯具に関し、特にMEMS(micro electro mechanical systems)ミラーアレイ等の光学素子アレイを用いた車両用灯具に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、光源と、光源からの光を反射することによって配光を制御するMEMSミラーアレイと、集光レンズとを備えた配光可変ライトが開示されている。この配光可変ライトは、MEMSミラーアレイが備える複数のマイクロミラーのそれぞれをオン/オフ制御することで、所望の配光パターンを形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−81975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
MEMSミラーアレイを備える従来の車両用灯具では、マイクロミラーアレイに略均一な明るさの光を照射し、オン状態のマイクロミラーが光を灯具前方に向けて反射し、オフ状態のマイクロミラーが光を光吸収材に向けて反射することで、灯具前方に所望の配光パターンを形成していた。この技術によれば、配光パターンの形成自由度を高めることができるが、車両用灯具における光利用率の向上という観点からは改善の余地があった。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、光学素子アレイを用いた車両用灯具において光利用率の向上を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の車両用灯具は、光源と、光源からの光を第1出射方向に出射する第1状態と、光源からの光を第1出射方向とは異なる第2出射方向に出射する第2状態とを個別に切り替え可能な複数の光学素子が配列されてなる光学素子アレイと、第1状態にある光学素子からの光を所定の配光パターンを形成するために灯具前方に投影する第1光学部材と、第2状態にある光学素子からの光を灯具外部から視認可能とするために灯具周囲に照射する第2光学部材とを備える。
【0007】
第2光学部材は、第2状態にある光学素子からの光を減衰させて灯具周囲に照射するよう構成されてもよい。
【0008】
第2光学部材は、外部からの光を反射するとともに、第2状態にある光学素子からの光を透過するよう構成されてもよい。
【0009】
第1光学部材から投影された光は、ハイビーム配光パターンを形成してもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、光学素子アレイを用いた車両用灯具において、光利用率の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係る車両用灯具の概略構造を示す鉛直断面図である。
図2】本実施形態に係る車両用灯具が形成する配光パターンの一例を示す模式図である。
図3】本実施形態に係る車両用灯具が形成する配光パターンの一例を示す模式図である。
図4】本実施形態に係る車両用灯具が形成する配光パターンの一例を示す模式図である。
図5図5(a)〜(c)は、意匠性部材および投影レンズの概略正面図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施形態に係る車両用灯具について詳細に説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係る車両用灯具の概略構造を示す鉛直断面図である。本実施形態に係る車両用灯具1は、車両前方の左右に配置される一対の前照灯ユニットを有する車両用前照灯装置である。一対の前照灯ユニットは左右対称の構造を有する点以外は実質的に同一の構成であるため、図1には車両用灯具1として一方の前照灯ユニットの構造を示す。
【0014】
車両用灯具1は、車両前方側に開口部を有するランプボディ2と、ランプボディ2の開口部を覆うように取り付けられた透光カバー4とを備える。透光カバー4は、透光性を有する樹脂やガラス等で形成される。ランプボディ2と透光カバー4とにより形成される灯室3内には、光源10と、リフレクタ20と、光学素子アレイ30と、意匠性部材40と、投影レンズ50とが収容される。各部は、図示しない支持機構によりランプボディ2に取り付けられる。
【0015】
本実施形態の光源10は、LED、半導体レーザ、バルブなどであってよい。光源10は、リフレクタ20に向けて光を照射する。リフレクタ20は、曲面状の反射面20aを有する。リフレクタ20は、光源10からの光を光学素子アレイ30に向けて反射する。
【0016】
光学素子アレイ30は、複数のマイクロミラーがアレイ状に配列されたMEMSミラーアレイである。MEMSミラーアレイは公知であるので、本明細書ではその詳細な構造については説明を省略する。
【0017】
本実施形態において、光学素子アレイ30の各マイクロミラーは、その傾斜角度を変えることにより、リフレクタ20からの光を灯具前方に反射する状態(以下「オン状態」と呼ぶ)と、リフレクタ20からの光を灯具斜め上方に反射する状態(以下「オフ状態」と呼ぶ)とを個別に切り替え可能である。マイクロミラーがオン状態とオフ状態とでは、光の反射方向が異なる。例えば図1において、マイクロミラー30aはオン状態にあり、マイクロミラー30bはオフ状態にある。オン状態にあるマイクロミラー30aにより灯具前方に反射した光は、光学素子アレイ30の灯具前方側に配置された投影レンズ50に入射する。一方、オフ状態にあるマイクロミラー30bにより灯具斜め上方に反射した光は、光学素子アレイ30の灯具斜め上方側に配置された意匠性部材40に入射する。各マイクロミラーの傾斜角度の切替は、制御部300によってなされる。
【0018】
投影レンズ50は、例えば、前方側表面及び後方側表面が自由曲面形状を有する自由曲面レンズからなり、投影レンズ50の後方焦点を含む後方焦点面上に形成される光源像を、反転像として灯具前方の仮想鉛直スクリーン上に投影する。投影レンズ50は、その後方焦点が車両用灯具1の光軸上、且つ光学素子アレイ30の光出射面(すなわち、MEMSミラーアレイの反射面)の近傍に位置するように配置される。従って、投影レンズ50は、光学素子アレイ30のオン状態にあるマイクロミラーからの光を、所定の配光パターンを形成するために灯具前方に投影する。本実施形態では、投影レンズ50から投影された光は、種々のハイビーム用配光パターンを形成可能である。投影されるハイビーム配光パターンについては後述する。
【0019】
意匠性部材40は、光学素子アレイ30のオフ状態にあるマイクロミラーからの光を、灯具外部から視認可能とするために灯具周囲に照射する。本実施形態において、意匠性部材40は、出射面40aが透光カバー4の方向を向き、入射面40bが光学素子アレイ30の方向を向くようにして、投影レンズ50の上方に配置されている。
【0020】
光源10の出射強度調節および光学素子アレイ30の各マイクロミラーの傾斜角度の制御は、制御部300により実行される。制御部300は、ハードウェア構成としてはコンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や回路で実現され、ソフトウェア構成としてはコンピュータプログラム等によって実現される。なお、制御部300は、図1では灯室3外に設けられているが、灯室3内に設けられてもよい。制御部300は、撮像装置312に接続された画像処理装置310、図示しないライトスイッチ等からの信号を受信する。そして、制御部300は、受信した信号に応じて、光源10および光学素子アレイ30に各種の制御信号を送信する。
【0021】
続いて、車両用灯具1による配光パターンの形成方法と形成される配光パターンの形状について説明する。図2図4は、本実施形態に係る車両用灯具が形成する配光パターンの一例を示す模式図である。図2図4では、灯具前方の所定位置、例えば灯具前方25mの位置に配置された仮想鉛直スクリーン上に形成された配光パターンを示している。
【0022】
光学素子アレイ30上の略楕円状領域内に位置するマイクロミラーがオン状態とされ、該略楕円状領域外に位置するマイクロミラーがオフ状態とされると、オン状態のマイクロミラーで反射した光が投影レンズ50を介して灯具前方に照射される。これにより、図2に示すように、略楕円形状のハイビーム用配光パターンPHが形成される。
【0023】
また、車両用灯具1は、略楕円状領域内に位置するマイクロミラーの一部をオン状態とし、残部をオフ状態とすることで、所望の形状の配光パターンを形成することができる。例えば、図3に示すように、水平線Hより上方且つ左側に光照射領域を有し、右側に遮光領域が形成された、いわゆる左片ハイ用配光パターンPHLを形成することができる。また、左片ハイ用配光パターンPHLに限らず、右片ハイ用配光パターンや、水平線Hより上方の中央部に遮光領域を有し、この遮光領域の水平方向両側に光照射領域を有するいわゆるスプリット配光パターン等も形成することができる。
【0024】
また、図4に示すように、車両用灯具1は、ハイビーム用配光パターンPHにおける他車両や歩行者と重なる領域に、遮光領域Sを形成することができる。これにより、他車両や歩行者にグレアを与えるおそれの低減と、運転者の視認性の向上との両立を図ることができる。図4では、対向車と重なる位置に遮光領域Sが形成されたハイビーム用配光パターンPHを図示している。遮光領域Sは、例えば次のようにして形成することができる。
【0025】
すなわち、画像処理装置310は、カメラ等の撮像装置312で撮像された画像データを取得し、画像処理を施す。これにより、画像処理装置310は、画像データ中に含まれる車両や歩行者を特定し、これらの位置を検出する。車両や歩行者を特定する技術や位置を検出する技術は公知であるため説明を省略する。検出された車両や歩行者の位置情報は制御部300に送られる。制御部300は、車両や歩行者の位置情報を用いて、ハイビーム用配光パターンPHにおける車両や歩行者の存在位置に遮光領域Sを形成するよう、光学素子アレイ30を制御する。制御部300は、光学素子アレイ30上の略楕円状領域外に位置するマイクロミラーと、略楕円状領域内に位置するマイクロミラーのうち遮光領域Sに対応するマイクロミラーとをオフ状態とし、該略楕円状領域内に位置する他のマイクロミラーをオン状態とする。これにより、ハイビーム用配光パターンPH中に遮光領域Sが形成される。
【0026】
図2図4で説明したような配光パターンは、光学素子アレイ30のオン状態に制御されたマイクロミラーで反射した光によって形成され、オフ状態に制御されたマイクロミラーで反射した光は、灯具前方には照射されない。このようなオフ状態のマイクロミラーで反射した光は、従来、反射方向に配置された光吸収材により吸収されており、有効利用されていない場合があった。従って、従来のMEMSミラーアレイを用いた車両用灯具では、光利用率の向上という観点からは改善の余地があった。
【0027】
そこで、本実施形態に係る光源10においては、光学素子アレイ30のオフ状態にあるマイクロミラーからの光を意匠性部材40に入射させ、意匠性部材40から灯具周囲に照射させるよう構成した。これにより、灯具外部から意匠性部材40が発光している様子が視認できるので、車両用灯具1の意匠性を高めることができる。このように、本実施形態に係る光源10によれば、配光パターンの照射に利用されない光を意匠性を高めるのに利用できるので、光利用率を向上できる。
【0028】
ハイビーム用配光パターンを照射する場合、光源10からは非常に高い強度の光が出射される。従って、外部から意匠性部材40を見たときに眩しくないように、意匠性部材40は入射した光を減衰させて照射するよう構成されることが好ましい。このような意匠性部材40としては、例えば半透明加工部品を用いることができる。半透明加工部品には、光を拡散させるためのステップが形成されていてもよい。あるいは、意匠性部材40は、灯具外部からの光を反射するとともに、オフ状態にあるマイクロミラーからの光を透過するよう構成されてもよい。このような意匠性部材40としては、例えばハーフ蒸着加工部品を用いることができる。ハーフ蒸着加工部品には、光を拡散させるためのステップが形成されてもよい。
【0029】
図5(a)〜(c)は、意匠性部材40および投影レンズ50の概略正面図を示す。図5(a)〜(c)に示すように、意匠性部材40は様々な形状および配置をとることができる。図5(a)に示す実施例では、意匠性部材40は、投影レンズ50の上方に設けられた円弧状部材とされており、投影レンズ50の上方部が発光する意匠を提示できる。図5(b)に示す実施例では、意匠性部材40は、投影レンズ50の周囲を囲う略矩形状部材とされており、投影レンズ50の周囲が矩形状に発光する意匠を提示できる。図5(c)に示す実施例では、意匠性部材40は、投影レンズ50の周囲を囲う環状部材とされており、投影レンズ50の周囲が環状に発光する意匠を提示できる。図5(a)〜(c)に示す実施例においては、意匠性部材40として、一端から入射した光を内部で導光しながら延出方向に沿った出射面から出射する導光体が用いられてもよい。
【0030】
以上、実施の形態をもとに本発明を説明した。これらの実施形態は例示であり、各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0031】
例えば、上述の実施形態では、光学素子アレイとして複数のマイクロミラーを備えるMEMSミラーアレイを例示したが、光学素子アレイはMEMSミラーアレイに限定されず、例えば複数の可動リボンを備える回折型MEMSアレイであってもよい。
【0032】
また、上述の実施形態では、光学素子アレイからの反射光を灯具前方に投影する光学部材として投影レンズ50を例示したが、投影レンズ50は例えばリフレクタであってもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 車両用灯具、 4 透光カバー、 10 光源、 20 リフレクタ、 30 光学素子アレイ、 30a,30b マイクロミラー、 40 意匠性部材、 50 投影レンズ、 300 制御部。
図1
図2
図3
図4
図5