(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記隔壁は、前記半径方向に、前記試料チャンバの内側から外側に行くほど、前記ボトルネック部がだんだんと細くなる形状であることを特徴とする請求項1に記載の微小流体装置。
前記試料供給部は、前記微小粒子を収容する微小粒子チャンバと、前記試料チャンバと前記微小粒子チャンバとを連結する第1チャネルと、前記第1チャネルに設けられ、前記微小粒子の前記試料チャンバへの移動を選択的に許容する第1弁と、を含み、
前記密度差分離部は、前記試料チャンバと連結されることを特徴とする請求項16に記載の微小流体装置。
前記第2チャネルには、前記第2弁より、前記廃棄物チャンバにさらに近い位置に設けられ、前記上層物質層が排出された後、前記第2チャネルを閉鎖する第3弁がさらに設けられたことを特徴とする請求項26に記載の微小流体装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、CTCs、癌細胞または癌幹細胞を分離するために、例えば、赤血球、白血球/CTCs及び血清は、密度勾配により、手動で分離され得る。しかし、白血球/CTCs層は、非常に薄い層であって、密度勾配に基づいて、白血球/CTCs層を手動に分離することは容易ではなく、施術者の熟練度が分離の再現性に影響を及ぼすことになる。
【0005】
本発明は、生体試料内の標的細胞を、自動化されたプロセスによって分離、濃縮するための微小流体装置及び標的細胞濃縮方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の代表的な応用分野である血中循環腫瘍細胞(CTCs)の分離は、CTCsが1mL当たり数個程度の低い濃度で存在するので、数mLの血液を処理することができる微小流体装置が必要である。これまで、ディスク基盤の研究は、血漿を利用した臨床化学あるいは免疫分析を目的としていたので、数十あるいは数百μLの血液を処理しても、その機能を遂行するのに問題がなかった。従って、本発明では、1mL以上20mL以下の血液を扱う。
【0007】
一側面による微小流体装置は、回転駆動部に装着され、回転中心を中心にして回転することにより、遠心力によって流体の流れを誘発する微小流体装置であって、試料の遠心分離が起きる試料チャンバと、を含み、前記試料チャンバ内には、上部壁及び下部壁のうち少なくとも一つとの間にボトルネック部を形成し、流体の半径方向の流れを部分的に制限する隔壁が設けられ、前記ボトルネック部と、前記上部壁及び下部壁のうち少なくとも一つとの間隔は、毛細管現象を誘発する間隔より広く、前記間隔を介して、前記微小流体装置が正逆回動される混合工程で、試料内の標的細胞と微小粒子とが通過し、前記間隔は、前記微小流体装置が停止したとき、半径方向の逆方向への試料の流れが部分的に制限される。
【0008】
前記隔壁は、前記半径方向に、前記試料チャンバの内側から外側に行くほど、前記ボトルネック部がだんだんと細くなる形状であってもよい。
【0009】
前記隔壁は、前記試料チャンバの円周方向の全体幅を横切って形成されてもよい。
【0010】
前記隔壁は、前記試料チャンバの円周方向の幅の一部に形成されてもよい。
【0011】
前記試料チャンバの円周方向に、複数の前記隔壁が反復配置され、前記複数の隔壁間に開口が形成されてもよい。
【0012】
前記開口は、前記半径方向に、内側から外側に行くほど、だんだんと細くなる。
【0013】
一側面による標的細胞濃縮方法は、遠心力によって、内部に収容された流体の流れを誘発する微小流体装置を利用した標的細胞濃縮方法であって、前記微小流体装置の試料チャンバ内で、標的細胞を含む試料と、前記標的細胞の表面マーカーに特異的に結合する微小粒子と、を混合し、前記標的細胞と前記微小粒子とが結合された標的物質を形成する段階と、流体供給チャネルを介して、前記標的物質を含む流体を、前記標的物質より密度が小さく、前記流体より密度が大きい密度勾配物質が収容された分離チャンバに移送させる段階と、前記微小流体装置を回転させ、遠心力によって、前記分離チャンバ内で密度差によって、前記標的物質を前記流体から分離、濃縮する段階と、を含み、前記試料チャンバ内には、上部壁及び下部壁のうち少なくとも一つとの間にボトルネック部を形成し、流体の半径方向の流れを部分的に制限する隔壁が設けられ、前記ボトルネック部と、前記上部壁及び下部壁のうち少なくとも一つとの間隔は、毛細管現象を誘発する間隔より広く、前記間隔を介して、前記微小流体装置が正逆回動される混合工程で、試料内の標的細胞と微小粒子とが通過し、前記間隔は、前記微小流体装置が停止したとき、半径方向の逆方向への試料の流れが部分的に制限される。
【0014】
前記濃縮する段階は、遠心分離によって、前記分離チャンバ内で、前記密度勾配物質を間に介在させ、前記標的物質と前記流体とを分離する段階と、回収チャネルを介して、前記標的物質を回収チャンバに回収する段階を含んでもよい。
【0015】
前記標的物質を形成する段階は、前記微小粒子を前記試料チャンバに移送する前に、遠心力によって、前記試料チャンバ内で、前記試料を、前記標的細胞を含む標的層と、その上部の上層物質層とを含む複数層に遠心分離する段階と、第2チャネルを介して、前記上層物質層を、前記廃棄物チャンバに排出する段階と、第1チャネルを介して、前記微小粒子を前記試料チャンバに移送する段階と、前記標的細胞と前記微小粒子とが結合された標的物質を形成する段階と、を含んでもよい。前記方法は、前記排出する段階を遂行した後、前記第2チャネルを閉鎖する段階をさらに含んでもよい。前記標的物質を形成する段階は、前記微小粒子を前記試料チャンバに移送する段階を遂行した後、前記試料チャンバに、前記微小粒子をバッファと共に供給する段階と、遠心分離を介して、前記バッファを、前記標的層の上層部に位置させる段階と、前記第2チャネルを開放し、前記第2チャネルを介して、前記バッファを前記廃棄物チャンバに排出する段階と、前記第2チャネルを閉鎖する段階と、をさらに含んでもよい。
【0016】
前記標的物質を形成する段階は、前記微小粒子を前記試料チャンバに移送する前に、前記試料チャンバに溶解液を供給して特定細胞を溶解する段階をさらに含むことができる。
【0017】
他の側面による標的細胞濃縮方法は、遠心力によって、内部に収容された流体の流れを誘発する微小流体装置を利用した標的細胞濃縮方法であって、前記微小流体装置の試料チャンバ内で標的細胞を含む試料と、前記標的細胞より密度が大きい第1密度勾配物質とを収容し、遠心分離を介して、前記標的細胞を含む標的層を、前記第1密度勾配物質層上に位置させる段階と、前記標的層を、前記試料チャンバから反応チャンバに移送させる段階と、前記反応チャンバ内で、前記標的細胞の表面マーカーに特異的に結合する微小粒子を前記標的層と混合し、前記標的細胞と前記微小粒子とが結合された標的物質を形成する段階と、流体供給チャネルを介して、前記標的物質を含む流体を、前記標的物質より密度が小さく、前記流体より密度が大きい密度勾配物質が収容された分離チャンバに移送させる段階と、前記微小流体装置を回転させ、遠心力によって、前記分離チャンバ内で密度差によって、前記標的物質を前記流体から分離、濃縮する段階と、を含み、前記試料チャンバ内には、上部壁及び下部壁のうち少なくとも一つとの間にボトルネック部を形成し、流体の半径方向の流れを部分的に制限する隔壁が設けられ、前記ボトルネック部と、前記上部壁及び下部壁のうち少なくとも一つとの間隔は、毛細管現象を誘発する間隔より広く、前記間隔を介して、前記微小流体装置が正逆回動される混合工程で、試料内の標的細胞と微小粒子とが通過し、前記間隔は、前記微小流体装置が停止したとき、半径方向の逆方向への試料の流れが部分的に制限される。
【0018】
一側面による微小流体装置は、回転駆動部に装着されて回転中心を中心にして回転するものであって、遠心力によって流体の流れを誘発する微小流体装置であって、試料が収容される試料チャンバを含み、前記試料内の標的細胞に微小粒子が付着した標的物質を含む流体を供給する試料供給部と、前記標的物質より密度が低い密度勾配物質を収容し、前記試料供給部から前記流体が供給され、密度差によって、前記流体から前記標的物質を分離する密度差分離部と、前記試料供給部と前記密度差分離部とを連結し、前記流体の移動通路を形成する流体供給チャネルと、前記流体供給チャネルに設けられ、前記流体の移動を選択的に許容する流体供給弁と、を含み、前記密度差分離部は、前記試料供給部から前記流体が供給され、前記標的物質は、密度差によって、前記流体から分離される。
【0019】
前記試料チャンバ内には、上部壁及び下部壁のうち少なくとも一つとの間にボトルネック部を形成し、流体の半径方向の流れを部分的に制限する隔壁が設けられ、前記ボトルネック部と、前記上部壁及び下部壁のうち少なくとも一つとの間隔は、毛細管現象を誘発する間隔より広く、前記ボトルネック部と、前記上部壁及び下部壁のうち少なくとも一つとの間隔を介して、前記微小流体装置が正逆回動される混合工程で、試料内の標的細胞と微小粒子とが通過し、前記微小流体装置が停止したとき、前記ボトルネック部と、前記上部壁及び下部壁のうち少なくとも一つとの間隔を介した半径方向の逆方向への試料の流れが部分的に制限される。
【0020】
前記ボトルネック部と、前記上部壁及び下部壁のうち少なくとも一つとの間隔は、約0.5mm〜20.0mmでもある。
【0021】
前記隔壁は、前記半径方向に、前記試料チャンバの内側から外側に行くほど、前記ボトルネック部が徐々に細くなる形状でもある。
【0022】
前記隔壁は、前記試料チャンバの円周方向の全体幅を横切って形成される。
【0023】
前記隔壁は、前記試料チャンバの円周方向の幅の一部に形成される。
【0024】
前記試料チャンバの円周方向に、複数の前記隔壁が反復配置され、前記複数の隔壁の間に開口が形成される。
【0025】
前記開口は、前記半径方向に内側から外側に行くほど徐々に細くもなる。
【0026】
前記密度差分離部は、前記流体供給チャネルによって、前記試料チャンバと連結され、前記密度勾配物質が収容された分離チャンバと、回収チャネルによって、前記分離チャンバと連結され、前記分離チャンバから、前記標的物質を回収する回収チャンバと、前記回収チャネルに設けられ、流体の流れを制御する回収弁と、を含んでもよい。
【0027】
前記微小流体装置は、廃棄物チャンバと、前記分離チャンバから、前記標的物質の上層部に位置する流体が排出されるように、前記回収チャネルに比べて、前記半径方向に内側で、前記分離チャンバと前記廃棄物チャンバとを連結する排出チャネルと、前記排出チャネルに設けられ、流体の流れを制御する排出弁と、を含んでもよい。
【0028】
前記試料供給部は、前記微小粒子を収容する微小粒子チャンバと、前記試料チャンバと前記微小粒子チャンバとを連結する第1チャネルと、前記第1チャネルに設けられ、前記微小粒子の前記試料チャンバへの移動を選択的に許容する第1弁と、を含み、前記密度差分離部は、前記試料チャンバと連結されてもよい。
【0029】
前記試料チャンバ内で、前記試料は、遠心力によって複数層に分離され、前記複数層は、前記標的細胞を含む標的層と、前記標的層の上部に位置する上層物質層と、を含み、前記微小流体装置は、廃棄物チャンバと、前記試料チャンバと前記廃棄物チャンバとを連結する第2チャネルと、前記第2チャネルを選択的に開放する第2弁と、を含み、前記上層物質層を、前記第2チャネルを介して、前記廃棄物チャンバに排出することができる。
【0030】
前記第2チャネルには、前記第2弁より、前記廃棄物チャンバにさらに近い位置に設けられ、前記上層物質層が排出された後、前記第2チャネルを閉鎖する第3弁がさらに設けられる。
【0031】
前記第2チャネルには、前記第2チャネルを順に閉鎖、開放する第4弁がさらに設けられる。
【0032】
前記微小流体装置は、前記試料チャンバに、前記試料内の特定細胞を溶解する溶解液を供給する溶解液チャンバをさらに具備することができる。
【0033】
前記試料チャンバには、前記試料と第1密度勾配物質とが収容され、遠心力によって、前記標的細胞を含む標的層が、前記第1密度勾配物質の上部に位置し、前記試料供給部は、前記試料チャンバから、前記標的層を含む流体を伝達され、前記微小粒子との混合によって、前記標的物質を形成する反応チャンバをさらに含んでもよい。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、添付された図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。それら実施形態は、発明を例示的に説明するためのものであり、発明の範囲がそれら実施形態に限定されるものではない。
【0036】
図1Aは、第1実施形態に係る細胞濃縮システムの概略構成図である。
図1Aには、回転駆動部510と、電磁波発生器520とが図示されている。回転駆動部510は、微小流体装置1を回転させることにより、試料の遠心分離と流体の移動とのための遠心力を提供する。回転駆動部510は、弁が電磁波発生器520と対面する所定位置で、微小流体装置1を停止させる。電磁波発生器520は、微小流体装置1の弁を作動させるためのものであり、例えば、レーザ光を照射する。電磁波発生器520は、微小流体装置1の半径方向に移動する。回転駆動部510は、
図1には示されていないが、微小流体装置1の弁を、電磁波発生器520と整列させるために、微小流体装置1の角位置(angular position)を制御するモータ駆動装置を含んでもよい。例えば、モータ駆動装置は、ステップモータを利用したものでもよく、直流モータを利用したものでもよい。参照符号530は、回転駆動部510及び電磁波発生器520を制御し、以下で説明する濃縮処理を制御する制御部である。
【0037】
図1Bは、第1実施形態に係る、上板が除去された状態の微小流体装置1の斜視図である。微小流体装置1は、回転時において、遠心力によって、内部に収容された流体の流れを生じさせる。微小流体装置1には、流体を収容する空間と、流体の通路とを提供するための微小流体構造を有する。微小流体装置1は、例えば、図示するように回転可能なディスク形状でもよいが、これに限定されず、周知あるいは所望の他の形状であってもよい。
【0038】
微小流体装置1は、成形が容易であり、生物学的に不活性な表面を持つ。例えば、アクリル、ジメチルポリシロキサン(PDMS)を含むプラスチック素材により形成される。ただし、微小流体装置1は、これに限定されず、化学的、生物学的な安定性、光透過性、及び機械的加工性といった望ましい性質を有する一つ以上の様々な素材を含んでいてもよい。微小流体装置1は、複数のプレートを含んでいてもよい。プレートとプレートとが互いに当接する面に、チャンバやチャネルなどに相当する凹構造が形成され、それらのプレートは、微小流体装置1の内部に、流体を収容する空間と、流体の通路とを提供するように結合される。例えば、微小流体装置1は、上部プレートと下部プレートの2枚構造を有していてもよい。本実施形態においては、空間、流体を収容するチャンバ、流体の移動通路になる通路/チャネルなど、様々な微小流体構造要素が、上部プレート及び/または下部プレートに形成される。また、上部プレート、下部プレート、及びその間に微小流体構造を規定する仕切りプレートを含む3枚構造を有していてもよい。各プレートは、接着剤や両面接着テープを利用して結合されてもよいし、超音波溶着、レーザ溶着、当業者であれば自明な方法など、多様な方法により結合され得る。
【0039】
微小流体装置1には、一つまたは複数の微小流体構造を有する。例えば、微小流体装置1は、数個の領域に分割され、領域ごとに、互いに独立して作動する微小流体構造、または、一つ又はそれ以上の他の微小流体構造と相互に連携して作動する微小流体構造が設けられる。例えば、本実施形態の微小流体装置1には、微小流体構造をそれぞれ有する2つの領域101,102が設けられる。2つの領域101,102に設けられた微小流体構造は、実質的に同一の構造を有するので、以下では、領域101に設けられた微小流体構造についてのみ詳細に説明する。
【0040】
微小流体装置1は、回転駆動部510の上に配置、及び、取り付けるために、その回転中心RCに装着部500を有する。回転中心RCを基準にして、半径方向、すなわち、遠心力の方向に試料供給部100と密度差分離部200とが配置される。試料供給部100と密度差分離部200は、流体供給チャネル10によって互いに連結される。流体供給チャネル10には、流体の流れを制御するための流体供給弁15が設けられる。
【0041】
試料供給部100は、標的細胞・微小粒子複合体、すなわち、標的物質を含む流体を収容または蓄積するために設けられる。試料供給部100内において、試料内に含まれた標的細胞が微小粒子と接触し、微小粒子が標的細胞に付着することにより、標的細胞・微小粒子複合体が形成される。微小粒子は、例えば、固体微小粒子(solid microbeads)、磁性粒子(magnetic beads)、ゲル粒子(gel beads)、ポリマー微小粒子(polymer microbeads)などでよい。本実施形態によれば、試料供給部100は、試料と微小粒子とが共に収容される試料チャンバ110を含んでもよい。試料チャンバ110には、試料を注入するための注入口h1が設けられる。微小粒子は、標的細胞が濃縮される前に、注入口h1を介して、試料チャンバ110に注入される。
図1Bに示された注入口h1は、代わりに、図示されていない上部プレートに設けられてもよい。もちろん、微小流体装置1が所定の用途のために製造された場合には、その用途に適した微小粒子が、微小流体装置1の製造時に、前もって試料チャンバ110に収容されてもよい。本実施形態では、試料チャンバ110には、半径方向の流体の流れを、少なくとも部分的に制限するための隔壁400が設けられる。隔壁400については、
図11ないし
図14を参照しながら後述する。
【0042】
密度差分離部200は、試料供給部100より供給される標的物質を含む流体から、標的物質を分離するために設けられる。密度差分離部200は、密度勾配物質(DGM:density gradient medium)が収容される分離チャンバ210を含んでもよい。密度勾配物質は、密度勾配を利用して、標的物質を含む流体から標的物質を分離するために提供される。密度勾配物質の密度は、標的物質の密度より小さく、標的物質を除いた流体の密度より大きい。その密度の差によって、遠心分離の間、標的物質を流体から分離するように流体と標的物質との間に密度勾配物質が位置するようになる。分離チャンバ210には、密度勾配物質を注入するための注入口h2が設けられる。注入口h2は、図示されていない上部プレートに設けられてもよい。微小流体装置1が、特定用途で使用される場合には、その用途に適する密度勾配物質が、微小流体装置1の製造時に前もって分離チャンバ210に収容され得る。
【0043】
遠心力によって、流体が試料チャンバ110から分離チャンバ210に流れるようにするために、分離チャンバ210は、回転中心RCを基準として、半径方向に離れるように、試料チャンバ110の外側に配置される。試料チャンバ110と分離チャンバ210は、流体供給弁15を含む流体供給チャネル10によって、互いに連結される。分離チャンバ210内では、密度勾配物質を間に介在させ、標的物質が流体から分離される。標的物質は、分離チャンバ210の最下層、すなわち、回転中心RCを基準として、半径方向の最も外側に集まる。分離チャンバ210には、標的物質を抽出するための抽出口(図示せず)が設けられる。抽出口は、半径方向に分離チャンバ210の外側領域に設けられる。例えば、ピペットを利用するなどして、抽出口を介して最下層に集まった標的物質を抽出することにより、標的物質を試料から分離することができる。これにより、試料中に微量存在する標的細胞を、高効率に分離、濃縮することができる。
【0044】
密度差分離部200は、標的物質を収容する回収チャンバ220をさらに具備することができる。回収チャンバ220は、回転中心RCを基準として半径方向に、分離チャンバ210の外側に配置される。回収チャンバ220は、回収チャネル20によって、分離チャンバ210と連結される。回収チャネル20には、回収チャネル20を通る流体の流れを選択的に制御するための回収弁25が設けられる。分離チャンバ210において、標的物質は、分離チャンバ210の最下層に集まり、回収弁25によって、回収チャネル20が開放されれば、遠心力によって、回収チャンバ220に流入する。以下、「最下層」は、回転中心RCから最も遠く離れた物質層を意味する。言い換えれば、流体中の最も重い物質は、遠心分離過程で、回転中心RCから最も遠く離れた位置に集まる。同様に、「最上層」は、回転中心RCに最も近い物質層を意味する。すなわち、流体中の最も軽い物質は、遠心分離過程で、回転中心RCに最も近い位置に集まる。
【0045】
図1Cを参照すれば、微小流体装置1には、廃棄物チャンバ300がさらに設けられる。分離チャンバ210は、排出チャネル30によって、廃棄物チャンバ300と連結される。排出チャネル30は、回収チャネル20より、回転中心RCにさらに近い位置で、分離チャンバ210と連結される。排出チャネル30には、排出チャネル30を通る流体の流れを選択的に制御するための排出弁35が設けられる。このような構成によって、分離チャンバ210の最下層に集まった標的物質を除いた上層物質を、排出チャネル30を介して、廃棄物チャンバ300に排出し、標的物質は、回収チャネル20を介して、回収チャンバ220に移動させることができる。
【0046】
流体供給弁15、回収弁25、排出弁35、微小流体装置1に含まれるその他の弁としては、多様な形態の微小流体弁が採用されてもよい。流体供給弁15、回収弁25、排出弁35は、本実施形態においては、外部からエネルギーを伝達されて開放するまでは流体の流れを妨げるノーマルクローズ弁(normally closed valve)である。
図2Aと
図2Bには、ノーマルクローズ弁の一例および開状態のノーマルクローズ弁がそれぞれ示されている。ノーマルクローズ弁は、常温で固体状態である弁材料V1を含んでもよい。弁材料V1は、固体の状態で、チャネルCに存在することにより、
図2Aに示されるように、チャネルCを遮断する。弁材料V1は、高温で溶融されてチャネルC内の空間に移動し、
図2Bに示されるように、チャネルCを開放したまま固体へ戻る。外部から照射されるエネルギーは、例えば、電磁波であり、エネルギー源は、レーザビームを照射するレーザ光源や、可視光線または赤外線を照射する発光ダイオード(light emitting diode)、またはキセノンランプ(xenon lamp)でよい。レーザ光源の場合、少なくとも1つのレーザダイオード(laser diode)を含んでもよい。外部エネルギー源は、弁材料V1に含まれた発熱粒子が吸収することができる電磁波の波長によって選択される。弁材料V1は、COC(cyclic olefin copolymer)、PMMA(polymethylmethacrylate)、PC(polycarbonate)、PS(polystyrene)、POM(polyoxymethylene)、PFA(perfluoralkoxy)、PVC(polyvinyl chloride)、PP(polypropylene)、PET(polyethylene terephthalate)、PEEK(polyetheretherketone)、PA(polyamide)、PSU(polysulfone)及びPVDF(polyvinylidene fluoride)などの熱可塑性樹脂を含でもよい。また、弁材料V1として、常温で固体状態である相転移物質が採用されてもよい。相転移物質は、ワックス(wax)であってもよい。ワックスは、加熱されれば、溶融して液体状態に変わり、体積が膨脹する。ワックスとしては、例えば、パラフィンワックス(paraffin wax)、マイクロクリスタリンワックス(microcrystalline wax)、合成ワックス(synthetic wax)または天然ワックス(natural wax)などが採用される。相転移物質は、ゲル(gel)または熱可塑性樹脂であってもよい。ゲルとしては、ポリアクリルアミド(polyacrylamide)、ポリアクリレート(polyacrylates)、ポリメタクリレート(polymethacrylates)またはポリビニルアミド(polyvinylamides)などが採用されてもよい。弁材料V1には、電磁波エネルギーを吸収して発熱する多数の微小発熱粒子が分散される。微小発熱粒子は、ほぼ0.1mm深と1mm幅とを有する微細なチャネルCを自由に通過することができるように、1nmないし100μmの直径を有していればよい。微小発熱粒子は、例えば、レーザ光などによって、電磁波エネルギーが供給されれば、温度が急激に上昇して発熱する性質を有し、ワックス内おいて均等に分散される性質を有する。このような性質を有するように、微小発熱粒子は、金属成分を含むコア(core)と、疎水性の表面構造とを有していてもよい。例えば、微小発熱粒子は、複数の界面活性成分(surfactant)が、Feからなるコアに結合し覆い包む分子構造を有していてもよい。微小発熱粒子は、キャリアオイル(carrier oil)に分散した状態で保たれる。疎水性の表面構造を有する微小発熱粒子が均等に分散するように、キャリアオイルも疎水性でよい。溶融された相転移物質に、微小発熱粒子が分散されたキャリアオイルを注いで混合し、この混合物質をチャネルCに注入して凝固させることにより、チャネルCを塞ぐことができる。微小発熱粒子は、例として先に挙げた重合体(polymer)粒子に限定されず、量子ドット(quantum dot)または磁性ビーズ(magnetic bead)の形態でもよい。また、微小発熱粒子は、例えば、Al
2O
3、TiO
2、Ta
2O
3、Fe
2O
3、Fe
3O
4またはHfO
2のような微小金属酸化物であってもよい。一方、ノーマルクローズ弁には、必ずしも微小発熱粒子が含まれている必要はなく、微小発熱粒子なしで、相転移物質のみからなっていてもよい。
【0047】
標的細胞は、血中循環腫瘍細胞(CTCs:circulating tumor cells)、癌幹細胞(cancer stem cell)または癌細胞(cancer cell)を含んでもよい。標的細胞は、例えば、膀胱癌、乳癌、子宮頸癌、胆管癌、大腸癌、子宮内膜癌、食道癌、胃癌、頭頚部癌、腎臓癌、肝臓癌、肺癌、鼻咽頭癌、卵巣癌、膵臓癌、胆嚢癌、前立腺癌、甲状腺癌、骨肉腫、横紋筋肉腫、滑膜肉腫、カポジ肉腫、平滑筋肉腫、悪性纎維性組織球腫、纎維肉腫、成人T細胞白血病、リンパ腫、多発骨髓種、神経膠芽細胞腫/星状細胞種、黒色腫、中皮腫及びウィルムス腫瘍などの群から選択される癌または腫瘍細胞でよい。
【0048】
試料は、標的細胞が存在することができる限り、いかなる生体試料を含んでもよい。例えば、生体試料は、生検標本、組織試料、分離した細胞を液体媒質に懸濁させた細胞懸濁液、細胞培養及びそれらの組み合わせなどの群から選択されてもよい。生体試料は、血液、骨髄、唾液、涙液、尿、精液、粘膜液、及びそれらの組み合わせなどの群から選択されてもよい。例えば、血液は、血中循環腫瘍細胞を分離する試料として使用されてもよい。
【0049】
微小粒子には、標的細胞の表面マーカーに特異的に反応する配位子(ligand)が一つ以上結合されている。微小粒子は、標的細胞と結合することにより、標的細胞の密度を上昇させる。微小粒子は、試料内の標的細胞と、標的細胞を除いた残りの細胞との間に密度差を生じさせることができるほどの密度を持っていてもよい。例えば、標的細胞となる腫瘍細胞が存在する血液を、生体試料として使用する場合には、白血球と赤血球との密度が、それぞれ1.07g/cm
3と1.1g/cm
3とであるので、それを考慮して、適切な密度を有する微小粒子が選択される。微小粒子は、例えば、ポリスチレン粒子、ポリメチルメタアクリレート粒子、ラテックス粒子、ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体)粒子、環状オレフィン共重合体粒子、メラミン粒子、及びそれらの複合体などの群から選択された粒子を含んでもよいが、それらに限定されない。微小粒子の直径は、分離しようとする標的細胞、使用する微小粒子の種類によって多様に選択され、例えば、約1nmないし約100μm、または約10nmないし約10μmの範囲であってもよい。
【0050】
表面マーカーは、タンパク質、糖、脂質、核酸、及びそれらの組み合わせなどの群から選択されたマーカーを含んでもよい。例えば、表面マーカーは、癌または腫瘍細胞において特異的に発現して細胞膜上に表示されるタンパク質、すなわち、抗原でもあり、例えば、EpCAM、c−Met、サイトケラチン(cytokeratines)、CD45、Her2、またはそれらの組み合わせであってもよい。また、表面マーカーに特異的に反応する配位子は、抗原タンパク質に特異的に結合する抗体であってもよい。
【0051】
以下、
図1B及び
図1Cに示された微小流体装置1を利用した第1実施形態に係る標的細胞濃縮方法について説明する。第1実施形態では、流血中癌細胞が含まれた血液を、試料として使用する。微小流体装置1は、例えば、約1mLないし約20mLほどの相対的に多量の血液を収容することができる。このような多量の生体試料は、血漿(plasma)を利用する臨床化学的検査、または免疫学的検査のために典型的に設計され、わずか数μLほどの生体試料を収容する従来の回転型微小流体装置では、処理が不可能である。
【0052】
[準備]:標的細胞となる流血中癌細胞が含まれた血液(例えば、約5mmL)と、標的細胞の抗原に特異的に結合する抗体を持つ微小粒子(例えば、約1×10
8個以上)とを、注入口h1を介して、試料チャンバ110に注入する。また、適切に選定された密度勾配物質を、注入口h2を介して、分離チャンバ210に注入する。密度勾配物質は、例えば、フィコール(Ficoll)、パーコール(Percoll)、多糖類(polysaccharide)、塩化ナトリウム溶液(NaCl solution)などを含んでもよい。白血球と流血中癌細胞は、共通する物理特性を有しており、密度勾配を利用する遠心分離を行えば、同一層に分離される。従って、本実施形態では、微小粒子は流血中癌細胞に結合して、白血球内で密度差を生じさせ、血液から癌細胞のみを分離する。微小粒子は、例えば、メラミン粒子であり、その密度は、例えば、約1.57g/cm
3ほどであり、血液内の生物学的粒子の密度、すなわち、約1.05〜1.1g/cm
3より高い。
【0053】
[標的物質(標的細胞・微小粒子複合体)の形成]:微小流体装置1は、回転駆動部510に装着された後、所定時間正転/逆転を反復して、標的細胞と共に微小粒子を撹拌および混合することにより、微小粒子を標的細胞に接触させ、微小粒子を標的細胞に付着させる。それによって、試料チャンバ110内で、標的物質(例えば、標的細胞・微小粒子複合体)が形成される。
【0054】
[流体の移送]:流体供給チャネル10を開放するために、電磁波発生器520を利用して、流体供給弁15に、電磁波、例えば、レーザビームが照射される。例えば、弁材料V1は溶解し、その結果、流体供給チャネル10が開放される。微小流体装置1を回転(例えば、正転または反転)させれば、遠心力によって試料チャンバ110に収容された流体は、流体供給チャネル10を通じて、密度勾配物質が収容された分離チャンバ210に移送される。
【0055】
[分離チャンバ210内での密度勾配を利用した標的物質の分離]:微小流体装置1は、例えば、3,000rpmで約5分間回転させられる。その結果、分離チャンバ210内には、試料内の物質の密度勾配によって区分された複数の層が形成される。例えば、分離チャンバ210内において、試料は、密度勾配物質層、赤血球層、白血球層、及び血漿層に分かれる。標的細胞と微小粒子との結合によって、標的物質の密度が最大となるので、標的細胞は、微小粒子が結合された標的物質の状態で白血球層から分離し、通常は、分離チャンバ210の最下物質層、すなわち、回転中心RCを基準にして、半径方向に最も外側に位置する。密度勾配物質層、赤血球層、白血球層、血漿層は、順に、回転中心RCに向かて、上層物質層に位置する。
【0056】
[標的物質の回収]:微小流体装置1の回転が止められた後、図示されていない抽出口を介して、例えば、ピペットなどを利用して、分離チャンバ210から標的物質が抽出される。標的物質の回収の信頼性を高めるために、付加的な自動化プロセスが利用されてもよい。そのために、電磁波発生器520を利用して、回収弁25に、電磁波、例えば、レーザビームを照射して、回収チャネル20を開放する。微小流体装置1をさらに回転させれば、遠心力によって、分離チャンバ210の最下層に位置した標的物質は、回収チャネル20を介して、回収チャンバ220に移送される。その場合、回収弁25は、
図2A及び
図2Bにそれぞれ示された開閉可能な弁であってもよい。標的物質の移送が完了すれば、微小流体装置1を止め、レーザビームを回収弁25に照射し、回収チャネル20を閉鎖することができる。
【0057】
図1Cに示された微小流体装置1を利用する場合、異物の流入を減らし、濃縮率を向上させるために、標的物質層の上部に位置する流体をまず排出させることもできる。例えば、電磁波発生器520を利用して、排出弁35に、電磁波、例えば、レーザビームを照射する。これにより、弁材料V1が溶解し、その結果、排出チャネル30が開放される。微小流体装置1を回転させれば、遠心力によって、分離チャンバ210に収容された流体中で標的物質を除いた流体は、排出チャネル30を介して、廃棄物チャンバ300に移送される。微小流体装置1の回転を止め、電磁波発生器520を利用して、回収弁25に、電磁波、例えば、レーザビームを照射し、回収チャネル20を開放する。微小流体装置1をさらに回転させれば、遠心力によって、標的物質は、回収チャネル20を通じて、回収チャンバ220に移送される。
【0058】
標的物質は、回収チャンバ220に設けられた抽出口(図示せず)を通じて抽出される。これによって、血液内の標的細胞は、血液から分離し、濃縮される。
【0059】
標的物質は、血液内の他の細胞に比べて、密度及び大きさが増大し、濾過により容易に分離することができる。従って、後の濾過工程によって、流体から濃縮された標的物質が得られる。
【0060】
図3は、本実施形態に係る微小流体装置1の平面図である。本実施形態の微小流体装置1は、試料と微小粒子とが分離して収容されるという点で、
図1Bに示された微小流体装置1とは異なる。
図3を参照すれば、試料供給部100は、試料チャンバ110と、粒子チャンバ120とを含む。試料チャンバ110には、試料が収容される。試料チャンバ110には、半径方向への流体の流れを部分的に制限する隔壁400が設けられ、これについては、
図11ないし
図14を参照して後述する。粒子チャンバ120には、微小粒子が収容される。粒子チャンバ120は、回転中心RCを基準として、半径方向に沿って、試料チャンバ110の内側に位置するべきである。粒子チャンバ120は、第1チャネル40によって、試料チャンバ110と連結される。第1チャネル40には、流体の流れを制御するための第1弁45が設けられる。第1弁45は、
図2A及び
図2Bに示されたようなノーマルクローズ弁であり、選択的に活性化され得る。例えば、電磁気エネルギーが伝達されて、第1チャネル40を開放する。微小粒子は、第1チャネル40を通じて、試料チャンバ110に容易に供給されるようにするため、運搬流体、すなわち、バッファと共に、粒子チャンバ120に収容される。粒子チャンバ120は、第1領域101及び第2領域102のそれぞれの近位にある試料チャンバ110に連結されてもよい。
【0061】
以下、
図3に図示された微小流体装置1を利用した第2実施形態に係る標的細胞濃縮方法について説明する。第2実施形態では、試料として流血中癌細胞が含まれた血液を使用する。
【0062】
[準備]:標的細胞となる流血中癌細胞が含まれた血液を、注入口h1を介して、試料チャンバ110に注入する。また、適切に選定された密度勾配物質を、注入口h2を介して、分離チャンバ210に注入する。また、標的細胞の抗原に特異的に結合する抗体を持つ微小粒子を、バッファと共に注入口h3を介して、粒子チャンバ120に注入する。
【0063】
[微小粒子の移送]:微小流動装置1を回転駆動部510に装着し、電磁波発生器520を利用して、第1弁45に、電磁波、例えば、レーザビームを照射し、第1チャネル40を開放する。微小流体装置1を回転させ、遠心力によって、粒子チャンバ120から試料チャンバ110に、バッファと共に微小粒子を移送させる。
【0064】
その後、[流体の移送]、[分離チャンバ210内での密度勾配を利用した標的物質の分離]及び[標的物質の回収]の工程を遂行されることにより、血液内の標的細胞を血液から分離させて濃縮することができる。また、通常は、後の工程として、濾過が遂行されることにより、流体から分離されて濃縮された標的物質が得られる。
【0065】
微小粒子と標的細胞との特異的結合は、上述のように、抗原・抗体結合に依存する。試料は、多種のタンパク質を含み、それらタンパク質は、微細粒子と標的細胞との特異的結合を妨害することがある。例えば、標的細胞の表面マーカーに、抗原と類似した構造のタンパク質があらかじめ結合されることにより、微小粒子の結合が妨害されることがある。また、微小粒子の配位子に、抗体と類似した構造のタンパク質が結合されることにより、微小粒子と標的細胞の結合が妨害されることがある。このように、試料内のタンパク質は、標的細胞・微小粒子複合体の生成を妨害して、標的細胞濃縮効率を低下させることがある。このような濃縮効率低下を防止するために、微小粒子を試料と混合する前に、試料内のタンパク質を除去してもよい。
【0066】
図4は、第3実施形態に係る微小流体装置1の平面図である。本実施形態の微小流体装置1は、試料チャンバ110内の試料を遠心分離した後、標的細胞が含まれた標的層の上側に位置する上層物質層を除去するように構成された点で、
図3に示された微小流体装置1とは異なる。試料チャンバ110には、半径方向への流体の流れを部分的に制限する隔壁400が設けられ、これについては、
図11ないし
図14を参照して後述する。
図4を参照すれば、廃棄物チャンバ300が図示されている。廃棄物チャンバ300は、第2チャネル50によって、試料チャンバ110と連結される。廃棄物チャンバ300は、回転中心RCを基準として、半径方向に沿って、試料チャンバ110の外側に配置される。本実施形態では、廃棄物チャンバ300が、分離チャンバ210及び試料チャンバ110と連結されているが、分離チャンバ210及び試料チャンバ110とそれぞれ連結された2つの廃棄物チャンバが設けられてもよい。第2チャネル50と試料チャンバ110との連結位置は、試料内の上層物質層の量に依存する。例えば、試料として、血液が採用された場合、血液から血漿を除去してもよい。その場合、人によって、血液の構成比が異なり、血漿の量が異なることがある。本実施形態の第2チャネル50は、2つの連結チャネル51,52をそれぞれ具備することができる。2つの連結チャネル51,52は、回転中心RCを中心にして、半径方向において互いに異なる位置で、試料チャンバ110と連結される。連結チャネル51,52には、それぞれ第2弁55が設けられる。第2弁55は、
図2A及び
図2Bに示されたようなノーマルクローズ弁であり、電磁気エネルギーが伝達されて連結チャネル51,52を開放する。除去する上層物質層の量により、2つの連結チャネル51,52のうち適切なチャネルを開放することができる。上層物質層の量が少ない場合には、回転中心RCに近い連結チャネル51を開放し、上層物質層の量が多い場合には、回転中心RCから遠い連結チャネル52を開放することができる。連結チャネルの数は、三つ以上であってもよい。
【0067】
以下、
図4に示された微小流体装置1を利用した第3実施形態に係る標的細胞濃縮方法について説明する。第3実施形態では、試料として、流血中癌細胞が含まれた血液を使用する。
【0068】
[準備]:標的細胞となる流血中癌細胞が含まれた血液を、試料チャンバ110に注入する。また、標的細胞の抗原に特異的に結合する抗体を持つ微小粒子を、バッファと共に粒子チャンバ120に注入する。また、適切に選定された密度勾配物質を分離チャンバ210に注入する。密度勾配物質が分離チャンバ210にあらかじめ注入されもよいことは、前述の通りである。第1チャネル40は、第1弁45によって閉鎖された状態であるので、微小粒子は、その試料と分離された状態である。
【0069】
[試料の遠心分離]:微小流体装置1を回転駆動部510に装着した後、約1,000〜約8,000rpm、例えば、約3,000rpmで約5分間回転させる。これにより、試料チャンバ110内で血液は、物質の密度差によって、複数層に分離される。最も重い赤血球を含む赤血球層が半径方向において最も外側に位置する。その内側には、白血球と標的細胞とを含む標的層が位置し、さらにその内側には、上層物質層として、血漿層が順に位置する。血球を除いた血液内のタンパク質は、概して血球に比べて軽いので、血漿層に位置する。
【0070】
[血漿の排出]:微小流体装置1の回転を止め、血漿の量により、連結チャネル51,52のうち適切なチャネルに配置された第2弁55に、電磁波発生器520を利用して、電磁波、例えば、レーザビームを照射し、第2チャネル50を開放する。血漿を排出している間、血球は、廃棄物チャンバ300に排出されるべきではない。連結チャネル51,52のうちいずれのチャネルを開放するかということは、例えば、試料チャンバ110内に収容される試料の量によって決定される。また、試料の遠心分離後、試料の吸光度を測定し、吸光度の測定結果に基づいて、試料チャンバ110内で血漿層の位置を検出することができる。検出された血漿層の位置に基づいて、連結チャネル51,52のうち適切なチャネルを開放することができる。さらに、微小流体装置1を回転させれば、遠心力によって、血漿は、第2チャネル50を介して、廃棄物チャンバ300に排出される。この過程で、血漿と共に、標的細胞と微小粒子との結合を妨害する血液内のタンパク質の全部または一部が、廃棄物チャンバ300に排出される。
【0071】
[微小粒子の移送]:血漿の排出が完了すれば、微小流体装置1の回転を止め、電磁波発生器520を利用して、第1弁45に、電磁波、例えば、レーザビームを照射し、第1チャネル40を開放する。微小流体装置1を回転させれば、遠心力によって、微小粒子がバッファと共に、粒子チャンバ120から試料チャンバ110に移送される。
【0072】
[標的物質(標的細胞・微小粒子複合体)の形成]:所定時間、微小流体装置1の正転/逆転を反復し、微小粒子を標的細胞に接触させることにより、微小粒子を標的細胞に付着させる。これによって、試料チャンバ110内には、標的細胞・微小粒子複合体、すなわち、標的物質が形成される。血液内のタンパク質が、血漿と共に廃棄物チャンバ300に排出されたので、微小粒子と標的細胞との結合効率を向上させることができる。
【0073】
その後、前述の第1実施形態の[流体の移送]、[分離チャンバ210内での密度勾配を利用した標的物質の分離]及び[標的物質の回収]の工程が遂行されることにより、血液内の標的細胞を、血液から分離させて濃縮することができる。また、後の工程として、濾過工程を経て、流体から濃縮された標的物質が得られる。
【0074】
微小粒子は、バッファと共に、試料チャンバ110に移送された後、微小流体装置1が順転/逆転されることによって試料と混合される。このとき、試料チャンバ110内の流体の水位(level)は上がり、標的細胞は、流体と共に、開放された第2チャネル50を介して、廃棄物チャンバ300に流出することがある。このような流体の漏れを防止するために、第2チャネル50には、
図5に示すような、選択的に活性化(例えば、流体の流れを妨げるために閉じられる)され得る第3弁56が設けられる。第3弁56は、第2弁55より、廃棄物チャンバ300にさらに近い位置に配置される。第3弁56は、いわゆる、ノーマルオープン弁(normally open valve)であり、外部からエネルギーが伝達されてチャネルを閉鎖し、それまでは、流体が流れるように、チャネルを開放している弁である。
【0075】
図6Aと
図6Bは、ノーマルオープン弁の一例を示す断面図である。ノーマルオープン弁は、チャネルC、チャネルCの幅方向にチャネルCから延長された弁チャンバVC、及び弁チャンバVC内に充填される弁材料V1を含む。
図6Aに示されるように、外部エネルギーが供給される前には、弁材料V1が、弁チャンバVC内に存在するので、チャネルCは、開放された状態で維持される。しかし、弁材料V1に外部エネルギーが供給されれば、弁材料V1は、溶融して、膨脹する。その結果、チャネルCに流入し、さらに凝固する。これにより、チャネルCを通過する流体の流れを遮断する。
【0076】
以下、
図5に示された微小流体装置1を利用した第4実施形態に係る標的細胞濃縮方法について説明する。第4実施形態では、試料として、流血中癌細胞が含まれた血液を使用する。
【0077】
第3実施形態に係る標的細胞濃縮方法の[準備]、[試料の遠心分離]、[血漿の排出]の工程が遂行される。
【0078】
[第2チャネル50の閉鎖]
電磁波発生器520を利用して、第3弁56に、電磁波、例えば、レーザビームを照射する。これにより、
図6Bに示されるように、弁材料V1が溶融及び再固化して、第2チャネル50が閉鎖される。
【0079】
その後、前述の第3実施形態の[微小粒子の移送]、[標的物質(標的細胞・微小粒子複合体)の形成]、[流体の移送]、[分離チャンバ210内での密度勾配を利用した標的物質の分離]及び[標的物質の回収]の工程が遂行されることにより、血液内の標的細胞を血液から分離させて濃縮することができる。
【0080】
また、後の工程として、濾過工程を経て、流体から濃縮された標的物質が得られる。[標的物質(標的細胞・微小粒子複合体)の形成]工程が遂行されるとき、第2チャネル50を介して、試料チャンバ110から、標的細胞を含んだ流体が廃棄物チャンバ300に漏れることはない。
【0081】
前述のように、微小粒子と共に、試料チャンバ110に移送されたバッファによって、試料チャンバ110の水位は高くなる。[標的物質(標的細胞・微小粒子複合体)の形成]工程で、微小粒子と標的細胞との接触確率を高めるためには、試料チャンバ110内の流体の量が少ないほどよい。微小粒子と共に、試料チャンバ110に供給されたバッファは、除去されてもよい。バッファは、試料チャンバ110内で、遠心分離工程が遂行される場合、上層物質層になる。従って、血漿を分離した後、二次遠心分離工程を経て、第2チャネル50を介しバッファを廃棄物チャンバ300に排出することができる。血漿を除去する工程では、第2チャネル50は、開放された状態である。従って、二次遠心分離工程が進められる間、第2チャネル50は、閉鎖された状態で維持され、二次遠心分離工程後に、バッファが、第2チャネル50を介して、廃棄物チャンバ300に排出されるように、第2チャネル50が開放される必要がある。
【0082】
そのために、
図7に示されるように、第2チャネル50には、第4弁57がさらに配置される。第4弁57は、開状態から閉状態そして開状態に順に転換される開閉弁(open/close valve)である。
図7に示される第4弁57は、第3弁56よりも、廃棄物チャンバ300から遠くに位置しているが、第3弁56が、第4弁57よりも、廃棄物チャンバ300から遠くに位置してもよい。
【0083】
図8Aないし
図8Cは、開閉弁の一例を示す断面図である。
図8Aに示すように、開閉弁は、チャネルC、チャネルCの上部に位置する弁チャンバVC、弁チャンバVC内に充填される弁材料V1、及びチャネルC内部の弁チャンバVCの下側に弁チャンバVCと部分的に重なる位置で突き出された段差部VSを含む。
図8Aに示されるように、外部エネルギーが供給される前には、弁材料V1が弁チャンバVC内に存在するので、チャネルCは、開放された状態で維持される。弁材料V1に外部エネルギーが供給されれば、弁材料V1が溶融して、膨脹する。その結果、弁材料V1が段差部VSに流入し、凝固する。これにより、
図8Bに示されるように、チャネルCを通過する流体の流れを遮断する。さらに強い外部エネルギーが、凝固された弁材料V1に供給されれば、段差部VSの弁材料V1が再溶融し、流動性が生まれる。弁材料V1は、段差部VSを外れ、チャネルCに流れる。これによって、
図8Cに示されたように、チャネルCは、再び開放される。
【0084】
以下、
図7に示された微小流体装置1を利用した第5実施形態に係る標的細胞濃縮方法について説明する。第5実施形態では、試料として、流血中癌細胞が含まれた血液を使用する。
【0085】
第3実施形態に係る標的細胞濃縮方法の[準備]、[試料の遠心分離]、[血漿の排出]の工程までが遂行される。
【0086】
[バッファ除去]
血漿を排出した後、電磁波発生器520を利用して、第4弁57に、電磁波、例えば、レーザビームを照射し、
図8Bに示されるように、第2チャネル50を閉鎖する。この状態で、微小流体装置1を回転させ、二次遠心分離工程を遂行する。これにより、最も密度の低いバッファが上層物質層になる。次に、再び電磁波発生器520を利用して、第4弁57に、電磁波、例えば、レーザビームを照射し、
図8Cに示されるように、第2チャネル50を開放する。その後、微小流体装置1を回転させ、遠心力によって、第2チャネル50を介して試料チャンバ110のバッファを廃棄物チャンバ300に排出する。
【0087】
次に、第4実施形態で説明したように、[第2チャネル50の閉鎖]工程を遂行する。その後、前述の第3実施形態の[標的物質(標的細胞・微小粒子複合体)の形成]、[流体の移送]、[分離チャンバ210内での密度勾配を利用した標的物質の分離]及び[標的物質の回収]の工程を遂行することにより、血液内の標的細胞を血液から分離して濃縮することができる。また、後の工程として、濾過工程を経て、流体から濃縮された標的物質が得られる。
【0088】
試料中に、比較的大きい細胞が含まれた場合、標的細胞・微小粒子複合体を形成する工程で、微小粒子と標的細胞との接触可能性が低下することがある。従って、試料中に特定の細胞を溶解させる溶解液(lysis solution)を投入し、比較的大きい細胞を除去することにより、微小粒子と標的細胞との接触可能性を向上させる。例えば、血液の場合、赤血球が血液を構成する細胞のうち最も大きい。試料チャンバ110内で、微小粒子と標的細胞との接触可能性を向上させるために、血液内の赤血球を除去することができる。例えば、試料チャンバ110内に、赤血球を溶解する赤血球溶解液(RBC lysis solution)を投入することにより、赤血球を溶解させることができる。赤血球溶解液に長期間触れると、白血球及び癌細胞は活性を失うことがあるが、赤血球の場合、細胞膜(plasma membrane)がないので、相対的に早く溶解される。例えば、10分ほど赤血球溶解液に触れれば、赤血球は溶解され、白血球と癌細胞とは溶解されない。
【0089】
図9には、第6実施形態に係る微小流体装置1が示されている。
図9を参照すれば、微小流体装置1は、溶解液チャンバ130をさらに具備することができる。溶解液チャンバ130は、遠心力によって、溶解液が試料チャンバ110に供給されるように、回転中心RCを基準として、試料チャンバ110より半径方向内側に位置する。溶解液チャンバ130は、第3チャネル60によって、試料チャンバ110と連結される。第3チャネル60には、流体の流れを制御するための第5弁65が設けられる。第5弁65は、
図2A及び
図2Bに示されたようなノーマルクローズ弁である。
図9には、第2チャネル50に第2弁55だけが設けられているが、
図5及び
図7に示されたように、第3弁56と第4弁57が設けられてもよい。試料チャンバ110には、半径方向の流体の流れを部分的に制限する隔壁400が設けられ、これについては、
図11ないし
図14を参照して後述する。
【0090】
以下、
図9に示された微小流体装置1を利用した第6実施形態に係る標的細胞濃縮方法について説明する。
【0091】
[準備]:上記の第2実施形態ないし第5実施形態に係るは、第6実施形態に係る標的細胞濃縮方法にも適用され得る。前述の第2実施形態に係る標的細胞濃縮方法の[準備]工程に加え、溶解液チャンバ130(例えば、不図示の開口部)に溶解液を注入する。
【0092】
[溶解液の移送]:微小流体装置1を回転駆動部510に装着し、電磁波発生器520を利用して、第5弁65に、電磁波、例えば、レーザビームを照射し、第3チャネル60を開放する。その後、微小流体装置1を回転させ、遠心力によって、溶解液を試料チャンバ110に注入する。溶解液の注入が完了すれば、微小流体装置1を正転/逆転させて試料と溶解液とを混合した後、一定時間維持することにより、試料内の大きな細胞、例えば、血液中の赤血球を溶解させる。
【0093】
[溶解液の移送]工程を遂行した後、第2実施形態ないし第5実施形態で説明したように[試料の遠心分離]、[血漿の排出]、[微細粒子の移送]、[バッファ除去]、[第2チャネルの閉鎖]、[標的物質(標的細胞・微小粒子複合体)の形成]、[流体の移送]、[分離チャンバ210内での密度勾配を利用した標的物質の分離]及び[標的物質の回収]の工程を遂行することにより、血液内の標的細胞を血液から分離させて濃縮することができる。また、後の工程として、濾過工程を経て、流体から濃縮された標的物質が得られる。
【0094】
前述の実施形態では、分離チャンバ210が、試料チャンバ110の外側に配置され、試料チャンバ110内の全て、あるいは、ほとんど全ての流体が、分離チャンバ210に提供される微小流体装置1について説明したが、これに限定されない。例えば、試料チャンバ110に、標的細胞より高密度の第1密度勾配物質を投入することにより、標的細胞を含む標的層、または標的層とその上部物質層とを、第1密度勾配物質の上部に位置させ、標的層を試料チャンバ110から抽出することができる。第1密度勾配物質は、例えば、フィコール(Ficoll)、パーコール(Percoll)などであってもよい。その後、抽出された流体に微小粒子を投入し、標的細胞・微小粒子複合体、すなわち、標的物質を形成し、標的物質を含む流体を分離チャンバ210に移送し、密度差によって標的物質を分離することもできる。
【0095】
図10は、本発明による微小流体装置の一実施形態である。本実施形態の微小流体装置は、試料チャンバ110において標的物質を含む一部の流体だけが、分離チャンバ210に提供されるように構成される。
図10を参照すれば、試料供給部100は、試料チャンバ110と反応チャンバ140とを含む。試料チャンバ110には、第1密度勾配物質と試料とが共に収容される。第1密度勾配物質が試料チャンバ110に収容された状態で、微小流体装置1が製造されてもよい。また、第1密度勾配物質は、標的細胞を濃縮するために、注入口h1を通じて、試料チャンバ110に注入される。試料も、注入口h1を通じて、試料チャンバ110に注入されてもよい。第1密度勾配物質は、試料に含まれた標的細胞よりも高密度である。従って、遠心分離工程において、標的細胞を含む流体は、第1密度勾配物質の上部、すなわち、第1密度勾配物質よりも回転中心RCの近くに位置する。例えば、試料が血液である場合、第1密度勾配物質は、赤血球より密度が小さく、標的細胞より密度が大きい物質であってもよい。これにより、標的細胞および白血球を含む標的層と、血漿層とは、第1密度勾配物質の上部に位置する。試料チャンバ110には、半径方向への流体の流れを部分的に制限する隔壁400が設けられ、それについては、
図11ないし
図14を参照して後述する。
【0096】
反応チャンバ140では、標的細胞と微小粒子との結合によって、標的細胞・微小粒子複合体、すなわち、標的物質が形成される。反応チャンバ140は、移送チャネル70によって、試料チャンバ110と連結される。移送チャネル70は、第1密度勾配物質層の上部水面に隣接するように、試料チャンバ110に連結される。例えば、移送チャネル70と試料チャンバ110の連結位置は、第1密度勾配物質の体積及び試料チャンバ110内の試料の体積に基づいて決定される。移送チャネル70には、流体の流れを制御するための移送弁75が配置される。移送弁75は、
図2A及び
図2Bに示されたようなノーマルクローズ弁である。反応チャンバ140には、微小粒子が収容されてもよい。また、
図10に点線で示すように、微小粒子は、第1弁45が配置された第1チャネル40によって、反応チャンバ140に連結された粒子チャンバ120に収容される。
【0097】
以下、密度差分離部200の構成は、
図1B、
図3、
図4及び
図9に示された構造と、実質的に同一であり得る。分離チャンバ210に収容される密度勾配物質は、第1密度勾配物質と同一でもよいし、異なってもよい。例えば、第1密度勾配物質の密度が標的物質の密度より小さければ、第1密度勾配物質と密度勾配物質は、同一である。
【0098】
廃棄物チャンバ300は、試料チャンバ110から排出される上層物質層の一部、例えば、血液の場合、血漿を収容する。また、廃棄物チャンバ300は、反応チャンバ140から排出される密度勾配物質を含む流体を収容することができる。
【0099】
以下、
図10に示された微小流体装置1を利用した第7実施形態に係る標的細胞濃縮方法について説明する。第7実施形態では、試料として、流血中癌細胞が含まれた血液を使用する。
【0100】
[準備]:標的細胞となる流血中癌細胞が含まれた血液と、第1密度勾配物質とを試料チャンバ110に注入する。標的細胞の抗原に特異的に結合する抗体を持つ微小粒子を、バッファと共に粒子チャンバ120または反応チャンバ140に注入する。適切に選定された密度勾配物質を分離チャンバ210に注入する。第1密度勾配物質と密度勾配物質が、それぞれ試料チャンバ110と分離チャンバ210とにあらかじめ注入されていてもよいことは、前述の通りである。
【0101】
[試料の遠心分離]:微小流体装置1を回転駆動部510に装着した後、例えば、約2,300rpmで約8分間回転させる。これにより、最も重い赤血球を含む赤血球層は、試料チャンバ110における血液の密度差により、半径方向の最も外側に位置する。その内側には、第1密度勾配物質層と、白血球および標的細胞を含む標的層と、血漿層を含む上層物質層とが順に位置する。
【0102】
必要によって、前述の[血漿の排出]、[バッファ除去]の工程が遂行される。
【0103】
[標的細胞の移送]:電磁波発生器520を利用して、移送弁75に、電磁波、例えば、レーザビームを照射し、移送チャネル70を開放する。その後、微小流体装置1を回転させ、遠心力によって、第1密度勾配物質層の上部の標的細胞を含む流体を反応チャンバ140に移送させる。
【0104】
微小粒子が粒子チャンバ120に収容された場合、前述の[微細粒子の移送]工程を遂行することができる。
【0105】
[標的物質(標的細胞・微小粒子複合体)の形成]:所定時間、微小流体装置1の正転/逆転を反復し、微小粒子を標的細胞に接触させることにより、微小粒子を標的細胞に付着させる。これによって、反応チャンバ140内には、標的細胞・微小粒子複合体、すなわち、標的物質が形成される。
【0106】
その後、前述の[流体の移送]、[分離チャンバ210内での密度勾配を利用した標的物質の分離]及び[標的物質の回収]の工程を遂行することにより、血液内の標的細胞を血液から分離して濃縮することができる。また、後の工程として、濾過工程を経て、流体から濃縮された標的物質が得られる。
【0107】
微小流体装置1において、試料チャンバ110に収容された試料が、密度勾配によって、複数層に遠心分離された後、標的層を移送するため、または標的層の上部に位置する上層物質層を廃棄物チャンバ300へ排出するためには、微小流体装置1の回転を停止させた後、弁を開放する必要がある。この工程では、微小流体装置1が回転しないので、試料チャンバ110内の試料には、遠心力が作用せず、経時的に試料内の分子運動によって、複数層が徐々に混合される可能性がある。これにより、標的細胞が上層物質層と混ざり、細胞濃縮効率を低下させるか、あるいは標的細胞が上層物質層と混じり、共に廃棄物チャンバ300に排出される。このような問題は、バッファを除去する工程でも発生することがある。また、
図10に示された微小流体装置1において、標的細胞を含む標的層を、反応チャンバ140に移送する工程でも、微小流体装置1の回転を停止させて移送弁75を開放する工程が必要であり、この工程で、試料チャンバ110内の標的層が他の層と混ざって、反応チャンバ140に移送される標的細胞の量が減ることがあり、試料内の標的層に不要な物質が混合することもある。
【0108】
図1B、
図3、
図4、
図9、
図10によれば、試料チャンバ110内には、遠心分離後に、複数層が重力により互いに混じることを防止するための隔壁400が設けられる。隔壁400の詳細な構成は、以下、
図11を参照しながら説明する。
【0109】
図11は、本実施形態に係る微小流体装置1の平面図である。
図12は、
図11のA−A’断面図である。本実施形態の微小流体装置1は、試料チャンバ110内で、流体の半径方向への移動を隔壁400によって一部制限するように構成される。つまり、
図11及び
図12を参照すれば、試料チャンバ110内には、試料の半径方向への流れを部分的に制限する隔壁400が設けられる。隔壁400は、
図12に示されるように、例えば、試料チャンバ110の下部壁1002から上部壁1001に向かって延長される。
図11に示されるように、隔壁400は、試料チャンバ110の円周方向の全幅に対し、一部に形成される。もちろん、
図11に点線に示されるように、隔壁400は、試料チャンバ110の円周方向の全幅にわたって形成されてもよい。隔壁400によって、試料チャンバ110は、半径方向に、回転中心RCに近い内側領域111と、回転中心RCから遠い外側領域112とに区分される。隔壁400は、上部壁1001との間に、ボトルネック部401を形成する。ボトルネック部401によって、内側領域111と外側領域112とが互いに連結される。図面に示されていないが、隔壁400は、試料チャンバ110の上部壁1001から下部壁1002に向かって延長され、下部壁1002との間にボトルネック部401を形成することもできる。
【0110】
試料の遠心分離工程では、試料は、遠心力によって、ボトルネック部401を横切り、内側領域111から外側領域112へと移動し、試料チャンバ110内には、密度勾配に基づき複数の層が形成される。微小流体装置1の回転が停止し、遠心力が働かない状態では、ボトルネック部401によって、内側領域111と外側領域112の間での試料の移動は制限される。すなわち、試料チャンバ110内で、半径方向への流体の流れが隔壁400によって制限され、遠心分離した層同士の混合を低減あるいは防ぐことができる。ボトルネック部401の内側間隔G1および外側間隔G2、すなわち、ボトルネック部401と上部壁1001との間隔は、ボトルネック部401を介して流体の移動が可能になる毛細管現象を誘発する間隔より広い。遠心分離工程では、サンプル流体は、内側領域111から外側領域112へと移動できなければならず、微小粒子と標的細胞とを混合するときには、内側領域111と外側領域112との間を両方向に移動できなければならない。また、例えば、血液の遠心分離後に、内側領域111に位置した血漿を除去するとき、外側領域112に存在する血球及び癌細胞粒子の内側領域111への拡散を防止する。一方、血漿を除去した後には、外側領域112の流体がボトルネック部401を通過し、試料チャンバ110内の全領域に動きながら、癌細胞と微小粒子との結合が行われるようにする。従って、ボトルネック部401で毛細管現象が発生してはならない。もし、ボトルネック部401で、毛細管現象が発生すれば、ボトルネック部401が閉塞または詰まり、遠心分離および撹拌工程での流体の移動が円滑ではなくなるからである。本実施形態によれば、ボトルネック部401の内側間隔G1および外側間隔G2が、毛細管現象を誘発する間隔より広いので、遠心分離工程では、遠心力によって、内側領域111から外側領域112への流体の移動が円滑に起こり、遠心分離後には、比較的狭い内側間隔G1および外側間隔G2によって、内側領域111と外側領域112との間の流体の移動が部分的に制限される。微小粒子と標的細胞との混合工程で、微小粒子と標的細胞は、内側領域111と外側領域112とを両方向に移動しつつ混合される。微小粒子と標的細胞との結合は、内側領域111及び外側領域112のいずれでも行われる。外側間隔G2は、微小粒子と結合された標的細胞(大きさ約50μmほど)、白血球、赤血球、標的細胞群体(target cell cluster)(大きさ約300μmほど)などの流れが許容されるように決定される。例えば、外側間隔G2は、0.5mm〜20mm(さらに良好な性能のために、望ましくは1mm〜20mm)ほどでよい。外側間隔G2が過度に狭ければ、微小粒子と標的細胞とを含む試料流体を混合できなくなるか、あるいは、混合効率が低下する。
【0111】
遠心分離工程では、内側領域111から外側領域112への試料の移動を円滑にする必要がある。そのために、
図12に示されるように、隔壁400は、ボトルネック部401が、試料チャンバ110の内側(例えば、内側領域111)から外側(例えば、外側領域112)に行くほど細くなるように形成される。すなわち、ボトルネック部401によって形成される流体通路は、内側間隔G1が外側間隔G2より広く形成される。遠心分離工程で、遠心力によって、試料は、内側領域111から外側領域112に流れるが、広い内側間隔G1から狭い外側領域G2の方に流れ、ボトルネック部401を通過し、外側領域112に移動する。一方、停止状態では、遠心力がないので、狭い外側間隔G2によって、試料がボトルネック部401を円滑に通過することができない。従って、遠心分離工程では、内側領域111から外側領域112への試料の流れを比較的円滑に行うことができ、停止状態では、その反対方向への試料の流れを制限できる。ボトルネック部401を形成するための隔壁の断面形状は、
図12に示されたように、頂点(apex)404を有する三角形状であってもよい。その場合、外側領域112側の斜辺406の傾斜角度A2は、内側領域111側の斜辺405の傾斜角度A1より大きい。このような構成によれば、外側領域112から内側領域111への試料の流れをさらに容易に制限できる。また、斜辺405と、内側領域111の底面113との間に段差をなくすことにより、遠心分離時に、内側領域111から外側領域112への試料の流れをさらに円滑にすることができる。ボトルネック部401を形成する隔壁400の断面形状は、曲線状などの他の形状でもよい。
【0112】
図12では、隔壁400の断面形状が三角形である場合について説明したが、これに限定されない。
図13に示されたように、隔壁400の断面形状は、斜辺405,406と、上部壁1001に対して平行な上部辺407を具備する台形状であってもよい。それ以外にも、隔壁400の断面形状は多様であるが、いかなる場合にも、ボトルネック部401の最小間隔は、毛細管現象を誘発する間隔よりは広い。
【0113】
例えば、流血中癌細胞が含まれた血液を、試料チャンバ110内において遠心分離する場合、試料チャンバ110の内側から外側に、血漿層、白血球及び流血中癌細胞層、赤血球層の順序で遠心分離される。隔壁400は、血漿層、白血球及び流血中癌細胞層の間に位置する。すなわち、隔壁400は、血漿層が内側領域111に、白血球及び流血中癌細胞層、並びに赤血球層が外側領域112に位置するように、試料チャンバ110を区分することができる。さらに、隔壁410の外側領域112側の斜辺406が、血漿層、白血球及び流血中癌細胞層の間に位置するように形成される。これによって、遠心分離後、流血中癌細胞と微小粒子との結合を阻害するタンパク質が含まれた血漿層と、流血中癌細胞が含まれた層との混合可能性を低減できる。
【0114】
図14は、他の実施形態に係る微小流体装置の平面図である。
図14を参照すれば、試料チャンバ110の円周方向に沿って、複数の隔壁410が互いに離隔されて配置され、複数の隔壁410間に、一つ以上の開口420が形成される。開口420の幅は、例えば、約200μmないし1cmほどである。複数の隔壁410は、その長さが同一であってもよいし、あるいは複数の隔壁410のうち少なくとも一つは、残りと長さが異なってもよい。複数の隔壁410は、例えば、下部壁1002から上部壁1001に向かって延長されて形成される。これによって、試料チャンバ110は、半径方向に、回転中心RCに近い内側領域111と、回転中心RCから遠い外側領域112とに区分される。開口420によって、内側領域111と外側領域112とが互いに連結される。
【0115】
図14に示されたように、開口420は、試料チャンバ110の内側から外側に行くほど細くなるように形成される。これによって、内側領域111から外側領域112への試料の流れを比較的円滑にでき、その反対方向への試料の流れを制限できる。さらに、複数の隔壁410のうち少なくとも一つは、
図12及び
図13に示されたように、上部壁1001との間にボトルネック部401を形成することができる。図面には示されていないが、複数の隔壁410は、試料チャンバ110の上部壁1001から下部壁1002に向かって延長されてもよい。このような形態の隔壁410と、開口420は、
図1B、
図3、
図4、
図9、
図10に示された微小流体装置1にも適用される。
【0116】
前述の説明で多くの事項が具体的に記載されているが、それらは、発明の範囲を限定するものではなく、実施可能な構成の例示として解釈されなければならない。従って、本発明の範囲は、説明された実施形態によって決められるものではなく、特許請求の範囲に記載された技術的思想によって決められなければならない。