【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するための本発明に係る火花点火式エンジンは、
燃焼室に吸気される新気に炭化水素系の主燃料を混合して混合気を形成し、当該混合気を燃焼室で圧縮して点火プラグにより火花点火し燃焼させる火花点火式エンジンであって、
その特徴構成は、
燃焼室への排ガスの再循環率であるEGR率を調整可能なEGR率調整手段と、
温度と着火遅れ時間との相関関係において酸素濃度の変動の影響がメタン及びブタンよりも少ないエタン及びプロパンの一方又は両方からなる特定炭化水素の混合気中の含有率である特定炭化水素含有率を調整可能な特定炭化水素含有率調整手段と、
運転条件に基づいて前記EGR率調整手段を作動させてEGR率を制御するEGR率制御を実行する運転制御手段と、を備え、
前記特定炭化水素含有率調整手段が、燃焼室に対して添加量調整を伴って特定炭化水素を添加可能な特定炭化水素添加手段であり、
前記運転制御手段が、前記EGR率制御に加えて、前記EGR率の増加に伴って前記特定炭化水素含有率を増加させる形態で、前記EGR率調整手段の状態に応じて前記特定炭化水素含有率調整手段を作動させて前記特定炭化水素含有率を変動させる特定炭化水素含有率制御を実行する点にある。
【0007】
炭化水素系燃料の温度と着火遅れ時間は、通常、温度が低くなるほど着火遅れ時間が長くなるという相関関係を有するが、本発明者らは、炭化水素系燃料のうち、
温度と着火遅れ時間との相関関係において酸素濃度の変動の影響がメタン及びブタンよりも少ないエタン及びプロパンの一方又は両方からなる特定炭化水素、より好ましくはエタンが、メタンやブタンなどの他の炭化水素と比較して、その温度と着火遅れ時間との相関関係において酸素濃度の変動の影響をほとんど受けないという特性を発見し、その特性を利用して本発明を完成するに至った。
即ち、本特徴構成によれば、EGR率制御を実行して、エンジン負荷などの運転条件に基づいてEGR率を制御するにあたり、EGR率の増加により燃焼状態が悪化する傾向にあったとしても、EGR率の増加に伴う混合気中の酸素濃度の不均一化の影響をほとんど受けない特定炭化水素の混合気中の含有率である特定炭化水素含有率、より好ましくはエタンの混合気中の含有率であるエタン含有率を、EGR率の増加に応じて増加させることで、EGR率の増加に伴う燃焼状態の悪化を抑制することができる。
具体的には、EGR率の増加に伴って特定炭化水素含有率を増加させる形態で、EGR率調整手段の状態に応じて特定炭化水素含有率調整手段を作動させて特定炭化水素含有率を変動させる。すると、EGR率を増加させた場合には、混合気中の特定炭化水素含有率が増加することから、混合気の燃焼速度の不均一化が抑制され、結果、燃焼状態の悪化を抑制することができる。
一方、EGR率が減少又はEGRの実行が停止された場合には、特定炭化水素含有率が減少することから、混合気中の特定炭化水素含有率を増加するためのコストを節約することができる。
更に、本特徴構成によれば、上記特定炭化水素添加手段により、燃焼室に対して特定炭化水素を添加すると共にその添加量を調整する形態で、燃焼室における混合気中の特定炭化水素含有率を調整することができる。
従って、本発明により、EGRを採用した火花点火式エンジンにおいて、EGR率調整手段を用いたEGR率制御を行うにあたり、合理的な構成で、EGR率の増加に伴う燃焼状態の悪化を抑制することができる技術を提供することができる。
【0008】
本発明に係る火花点火式エンジンの更なる特徴構成は、
サイクル変動の悪化を検出するサイクル変動検出手段を備え、
前記運転制御手段が、前記特定炭化水素含有率制御において、前記サイクル変動検出手段で検出されるサイクル変動の悪化が抑制されるように前記特定炭化水素含有率調整手段を作動させて前記特定炭化水素含有率を変動させる形態で、前記特定炭化水素含有率を変動させる点にある。
【0009】
本特徴構成によれば、特定炭化水素含有率制御において、EGR率を直接把握して特定炭化水素含有率を変動させるのではなく、サイクル変動検出手段で検出されるサイクル変動の悪化を抑制する形態で特定炭化水素含有率を変動させることでも、EGR率の増加に伴う燃焼状態の悪化を抑制することができる。
即ち、サイクル変動検出手段でサイクル変動の悪化を検出すれば、EGR率が増加したと判断して、特定炭化水素含有率制御により混合気中の特定炭化水素含有率を増加させることで、燃焼状態の悪化を抑制することができる。
【0010】
本発明に係る火花点火式エンジンの更なる特徴構成は、
前記運転制御手段が、前記EGR率制御において、エンジン負荷に基づいて前記EGR率を変動させる点にある。
【0011】
本特徴構成によれば、EGR率制御では、エンジン負荷に基づいてEGR率を変動させて、NOx低減及び熱効率向上を図ることができる。
具体的には、要求トルクの増加等に伴って運転条件としてエンジン負荷を増加させる場合には、EGR率を増加させることでエンジン負荷の増加による燃焼温度の過剰な上昇を抑制して、NOxの生成を抑制することができる。逆に、要求トルクの減少等に伴ってエンジン負荷を減少させる場合には、EGR率を減少させることでエンジン負荷の減少による燃焼温度の過剰な低下を抑制して、熱効率の低下を抑制することができる。
また、エンジン負荷を減少させる場合に、EGR率を増加させることで、吸入混合気量を増加させ、それに伴ってスロットルバルブの開度を拡大させて、ポンプ損失の低減を図ることもできる。
【0014】
この目的を達成するための本発明に係る火花点火式エンジンの運転制御方法は、
燃焼室に吸気される新気に炭化水素系の主燃料を混合して混合気を形成し、当該混合気を燃焼室で圧縮して点火プラグにより火花点火し燃焼させる火花点火式エンジンの運転制御方法であって、
その特徴構成は、
前記火花点火式エンジンに、
燃焼室への排ガスの再循環率であるEGR率を調整可能なEGR率調整手段と、
温度と着火遅れ時間との相関関係において酸素濃度の変動の影響がメタン及びブタンよりも少ないエタン及びプロパンの一方又は両方からなる特定炭化水素の混合気中の含有率である特定炭化水素含有率を調整可能な特定炭化水素含有率調整手段と、を設け、
前記特定炭化水素含有率調整手段が、燃焼室に対して添加量調整を伴って特定炭化水素を添加可能な特定炭化水素添加手段であり、
運転条件に基づいて前記EGR率調整手段を作動させてEGR率を制御するEGR率制御を実行すると共に、当該EGR率制御に加えて、前記EGR率の増加に伴って前記特定炭化水素含有率を増加させる形態で、前記EGR率調整手段の状態に応じて前記特定炭化水素含有率調整手段を作動させて前記特定炭化水素含有率を変動させる特定炭化水素含有率制御を実行する点にある。
【0015】
即ち、上記火花点火式エンジンの運転制御方法によれば、上述した本発明に係る火花点火式エンジンと同様に、EGR率調整手段、及び、特定炭化水素含有率調整手段を設けた上で、EGR率制御に加えて、特定炭化水素含有率調整制御を実行するので、当該本発明に係る火花点火式エンジンで説明したものと同様の作用効果を奏することができる。