(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記狭窄部は、前記狭窄部の高温側境界部において、流路面積が前記第2パルス管の高温側直管部における流路面積に至るまで連続的に増加することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のパルス管冷凍機。
前記狭窄部は、前記狭窄部の低温側境界部において、流路面積が前記第2パルス管の低温側直管部における流路面積に至るまで連続的に増加することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のパルス管冷凍機。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施の形態について図面と共に説明する。
【0011】
本発明の実施の形態に係るパルス管冷凍機の説明に先立って、まず一般的な4バルブ型のパルス管冷凍機を説明する。
図1は、一般的な4バルブ型のパルス管冷凍機200の一例の概略を模式的に示す図である。このパルス管冷凍機200は、2段式の構造となっている。
【0012】
図1に示すように、パルス管冷凍機200は、圧縮機212、第1蓄冷管240および第2蓄冷管280、第1パルス管250および第2パルス管290、第1配管256および第2配管286、オリフィス等で構成された第1流路抵抗260、第2流路抵抗261、ならびに開閉バルブV1〜V6等を備える。
【0013】
第1蓄冷管240は、高温端242および低温端244を有し、第2蓄冷管280は、高温端244(第1蓄冷管240の低温端244に相当)および低温端284を有する。第1パルス管250は、高温端252および低温端254を有し、第2パルス管290は、高温端292および低温端294を有する。第1パルス管250および第2パルス管290の各高温端252、292および低温端254、294には、熱交換器が設置されている。第1蓄冷管240の低温端244は第2蓄冷管280の高温端244と共通であるため、第1蓄冷管240と第2蓄冷管280とは長手方向の軸が共通するように配置される。また、第1蓄冷管240と第1パルス管250とは、長手方向の軸がそろうように並んで配置される。第2蓄冷管280と第2パルス管290も、長手方向の軸がそろうように並んで配置される。
【0014】
第1蓄冷管240の低温端244は、第1配管256を介して、第1パルス管250の低温端254と接続される。また、第2蓄冷管280の低温端284は、第2配管286を介して、第2パルス管290の低温端294と接続される。したがって、第1蓄冷管240の低温端244における冷媒ガスの温度と、第1パルス管250の低温端254における冷媒ガスの温度は、ほぼ等しい温度となる。また、第2蓄冷管280の低温端284における冷媒ガスの温度と、第2パルス管290の低温端294の温度も、ほぼ等しい温度となる。
【0015】
第1蓄冷管240の低温端244は第2蓄冷管280の高温端244と共通であるため、第2蓄冷管280の低温端284は、第1蓄冷管240の低温端244よりもさらに低温となる。ゆえに、第2パルス管290の低温端294は、第1パルス管250の低温端254よりもさらに低温となる。
【0016】
圧縮機212の高圧側(吐出側)の冷媒用流路は、
図1におけるA点で3方向に分岐し、第1冷媒供給路H1、第2冷媒供給路H2、および第3冷媒供給路H3が構成される。第1冷媒供給路H1は、圧縮機212の高圧側〜第1開閉バルブV1が設置された第1高圧配管215A〜共通配管220〜第1蓄冷管240で構成される。第2冷媒供給路H2は、圧縮機212の高圧側〜第3開閉バルブV3が接続された第2高圧配管225A〜第1流路抵抗260が設置された共通配管230〜第1パルス管250で構成される。第3冷媒供給路H3は、圧縮機212の高圧側〜第5開閉バルブV5が接続された第3高圧配管235A〜第2流路抵抗261が設置された共通配管299〜第2パルス管290で構成される。
【0017】
一方、圧縮機212の低圧側(吸込側)の冷媒用流路は、第1冷媒回収路L1、第2冷媒回収路L2および第3冷媒回収路L3の、3方向に分岐している。第1冷媒回収路L1は、第1蓄冷管240〜共通配管220〜第2開閉バルブV2が設置された第1低圧配管215B〜B点〜圧縮機212の経路で構成される。第2冷媒回収路L2は、第1パルス管250〜第1流路抵抗260が設置された共通配管230〜第4開閉バルブV4が設置された第2低圧配管225B〜B点〜圧縮機212の経路で構成される。第3冷媒回収路L3は、第2パルス管290〜第2流路抵抗261が設置された共通配管299〜第6開閉バルブV6が設置された第3低圧配管235B〜B点〜圧縮機212の経路で構成される。
【0018】
続いて、パルス管冷凍機200の動作について説明する。
【0019】
図2は、
図1に示した4バルブ型のパルス管冷凍機200の作動の際の、6つのバルブの開閉状態を時系列的に示す図であり、6つの開閉バルブV1〜V6の開閉状態を時系列的に示した図である。以下、
図2に示す図を「タイミングチャート」とも称する。
【0020】
図2に示すように、パルス管冷凍機の200作動時には、6つの開閉バルブV1〜V6の開閉状態は、以下のように周期的に変化する。
【0021】
(第1過程:時間0〜t1)
まず、時間t=0において、第5開閉バルブV5のみが開にされる。これにより、圧縮機212から、第3冷媒供給路H3を介して、すなわち第3高圧配管235A〜共通配管299〜高温端292の経路で、第2パルス管290に高圧冷媒ガスが供給される。その後、時間t=t1において、第5開閉バルブV5が開状態のまま、第3開閉バルブV3が開にされる。これにより、圧縮機212から、第2冷媒供給路H2を介して、すなわち第2高圧配管225A〜共通配管230〜高温端252の経路で、第1パルス管250に高圧冷媒ガスが供給される。
【0022】
(第2過程:時間t2〜t3)
次に、時間t=t2において、開閉バルブV5、V3が開いた状態で、第1開閉バルブV1が開にされる。これにより、高圧冷媒ガスは、圧縮機212から、第1冷媒供給路H1を介して、すなわち第1高圧配管215A〜共通配管220〜高温端242の経路で、第1蓄冷管240および第2蓄冷管280に導入される。冷媒ガスの一部は、第1配管256を介して、第1パルス管250に、低温端254の側から流入する。また冷媒ガスの他の一部は、第2蓄冷管280を通り、第2配管286を介して、第2パルス管290に、低温端294の側から流入する。
【0023】
(第3過程:時間t3〜t4)
次に、時間t=t3において、第1開閉バルブV1が開状態のまま、第3開閉バルブV3が閉にされ、その後、時間t=t4において、第5開閉バルブV5も閉にされる。圧縮機212からの冷媒ガスは、第1冷媒供給路H1のみを介して、第1蓄冷管240に流入するようになる。冷媒ガスは、その後、第1パルス管250および第2パルス管290内に、それぞれ低温端254および低温端294の側から流入する。
【0024】
(第4過程:時間t4〜t5)
時間t=t5において、全ての開閉バルブV1〜V6が閉にされる。第1パルス管250および第2パルス管290の圧力上昇のため、第1パルス管250および第2パルス管290内の冷媒ガスは、両パルス管の高温端252、292の側に設置された第1リザーバ251および第2リザーバ291に移動する。
【0025】
(第5過程:時間t5〜t7)
その後、時間t=t5において、第6開閉バルブV6が開かれ、第2パルス管290内の冷媒ガスは、第3冷媒回収路L3を通って圧縮機212に戻る。その後、時間t=t6において、第4開閉バルブV4が開かれ、第1パルス管250内の冷媒ガスは、第2冷媒回収路L2を通って圧縮機212に戻る。これにより、第1パルス管250および第2パルス管290の圧力が低下する。
【0026】
(第6過程:時間t7〜t8)
次に、時間t=t7において、開閉バルブV6、V4が開状態のまま、第2開閉バルブV2が開かれる。これにより、第1パルス管250および第2パルス管290、および第2蓄冷管280内の冷媒ガスの大部分は、第1蓄冷管240を通り、第1冷媒回収路L1を介して、圧縮機212に戻る。
【0027】
(第7過程:時間t8〜t10)
次に、時間t=t8において、第2開閉バルブV2が開いた状態で、第4開閉バルブV4が閉止され、その後、時間t=t9において、第6開閉バルブV6も閉にされる。その後、時間t=t10において、第2開閉バルブV2が閉止され、1サイクルが完了する。
【0028】
以上のサイクルを1サイクルとして、サイクルを繰り返すことにより、第1パルス管250の低温端254、および第2パルス管290の低温端294に寒冷が発生し、冷却対象を冷却することができる。
【0029】
以上のように、パルス管冷凍機200は、ヘリウム等の冷媒ガスが高圧によって圧縮され、低圧となると膨張することを繰り返すことで、寒冷を生じさせる。ここで圧縮機212が供給する高圧の冷媒ガスの圧力はおよそ2.2MPaであり、低圧時の冷媒ガスの圧力はおよそ0.8MPaである。
【0030】
図3は、2.2MPaのヘリウムガスと0.8MPaのヘリウムガスとの、それぞれの密度の温度変化、および両者の密度差の温度変化を示す図である。
図3に示すように、2.2MPaのヘリウムガスと0.8MPaのヘリウムガスとの密度差は、温度がおよそ8Kのとき最大となる。ヘリウムガスの温度が8Kよりも低い場合は、2.2MPaのヘリウムガスと0.8MPaのヘリウムガスとの密度差は温度に対して単調増加し、ヘリウムガスの温度が8Kよりも高い場合は、密度差は温度に対して単調減少する。
【0031】
パルス管冷凍機200において、第2パルス管290の低温端294における冷媒ガスの温度はおよそ4Kである。第2パルス管290中の冷媒ガスは、高温端292においては室温程度の温度となる。ゆえに、第2パルス管290中の冷媒ガスは、低温端294から高温端292に向かって4Kから300K程度の温度勾配が存在することになる。
【0032】
ここで、第2パルス管290には、上述の開閉バルブV1〜V6の開閉状態を適切に制御することにより、ガスピストンが生じる。第2パルス管290はガスピストンにより、ガスピストンの低温側に位置する低温領域、ガスピストンの高温側に位置する高温領域、ガスピストンが存在するガスピストン領域の3つの領域に分けられる。第2パルス管290の低温端に取り付けられた冷却ステージ(不図示)は、主として低温領域に存在する冷媒ガスが膨脹することにより冷却される。
【0033】
第2パルス管290の低温端294に流入するヘリウムガスのうち、一部のヘリウムガスは低温領域に留まり冷凍に寄与する。残りのヘリウムガスは、低温領域からガスピストン領域に流入し、ガスピストンを維持する。よって、低温領域からガスピストン領域に流入するガス量を低減することにより、冷凍機の冷凍能力を向上させることができる。
【0034】
低温領域に存在するヘリウムガスの質量をM
eとする。また、低温端から低温領域に流入するヘリウムガスの単位時間あたりの質量をm
inとし、低温領域からガスピストン領域に流出するヘリウムガスの単位時間あたりの質量をm
outとする。もし、低温領域にヘリウムガスが流入すれば、低温領域に存在するヘリウムガスの質量M
eは増加する。一方、低温領域からヘリウムガスが流出すれば、低温領域に存在するヘリウムガスの質量M
eは減少する。したがって、低温領域に存在するヘリウムガスの質量M
eの単位時間あたりの変化量dM
e/dtは、流入質量m
inと流出質量m
outとの差分で表せる。以上より、以下の関係式(1)を得る。
m
in=m
out+dM
e/dt (1)
ここで、dM
e/dtは、低温領域に存在するヘリウムガスの質量M
eの時間tによる微分を表す。
【0035】
同様に、ガスピストン領域に存在するヘリウムガスの質量をM
pとする。また、ガスピストン領域から高温領域に流入するヘリウムガスの単位時間あたりの質量をm
hとすると、以下の式(2)で表せる。
m
out=m
h+dM
p/dt (2)
【0036】
式(1)に式(2)を代入すると、以下の式(3)を得る。
m
in=m
h+dM
p/dt+dM
e/dt (3)
【0037】
第2パルス管290のうち低温領域における容積の変化は無視できる程度である。そこで、第2パルス管290のうち低温領域における容積を一定と見なし、その値をV
eとする。また、低温領域におけるヘリウムガスの平均密度をρ
eとすると、低温領域に存在する冷媒ガスの質量M
eは、以下の式(4)で表せる。
M
e=Vρ
e (4)
【0038】
同様に、第2パルス管290のうちガスピストン領域における容積の変化は無視できる程度である。そこで、第2パルス管290のうちガスピストン領域における容積を一定と見なし、その値をV
pとする。また、ガスピストン領域におけるヘリウムガスの平均密度をρ
pとすると、ガスピストン領域に存在する冷媒ガスの質量M
pは、以下の式(5)で表せる。
M
p=V
pρ
p (5)
【0039】
式(3)に式(4)および式(5)を代入すると、以下の式(6)を得る。
m
in=m
h+V
pdρ
p/dt+V
edρ
e/dt (6)
ここで、dρ
p/dtは、ガスピストン領域におけるヘリウムガスの密度ρ
pの時間微分を表す。また、dρ
e/dtは、低温領域におけるヘリウムガスの密度ρ
eの時間微分を表す。
【0040】
式(6)において、低温領域およびガスピストン領域におけるヘリウムガスの密度が時間によって変化しないと仮定すると、m
in=m
hとなり、低温領域およびガスピストン領域に存在するヘリウムガスの質量は変化しないことになる。すなわち、ヘリウムガスは低温領域に流入した分だけ、ガスピストン領域から流出することを意味する。実際の冷却サイクルにおいては、第2過程および第3過程において第2パルス管290に高圧のヘリウムガスが供給される。この結果、低温領域に充填されている低圧のヘリウムガスは昇圧され、高圧のヘリウムガスとなる。
【0041】
図3に示すように、高圧のヘリウムガスと低圧のヘリウムガスとは、その密度に差がある。したがって、低温領域に高圧のヘリウムガスが流入し、低温領域中の低圧のヘリウムガスが昇圧されて高圧のヘリウムガスとなると、式(6)における右辺第2項および第3項は正の値となる。より具体的には、式(6)における右辺は、
図3において実線で示す密度差となる。以上より、以下の不等式(7)を得る。
m
in−m
h=V
pdρ
p/dt+V
edρ
e/dt>0 (7)
【0042】
上記不等式(7)は、ガスピストン領域から流出するヘリウムガスの質量が、低温領域に流入するヘリウムガスの質量よりも小さいことを示している。これは、低温領域とガスピストン領域とがいわばヘリウムガスのバッファのような作用を示すことになる。結果として、パルス管冷凍機200全体としての圧力差も小さくなる。
【0043】
第5過程において第6開閉バルブV6が開とされると、第2パルス管290内の高圧のヘリウムガスは低圧のヘリウムガスとなる。このとき、式(6)における右辺は
図3において実線で示す密度差を絶対値とする負の値となる。したがって、以下の不等式(8)を得る。
m
in−m
out=V
pdρ
p/dt+V
edρ
e/dt<0 (8)
【0044】
これは、低温領域に流入するヘリウムガスの質量よりも、ガスピストン領域から流出するヘリウムガスの質量の方が大きいことを示している。圧縮機212の低圧側(吸込側)の冷媒用流路により多くのヘリウムガスが流出するため圧力低下が抑制され、結果として、パルス管冷凍機200全体としての圧力差が小さくなる。
【0045】
図1に示すように、冷媒ガスの位相調整機構である第2流路抵抗261は、第2パルス管290の高温端292側に設けられている。このため、冷媒ガスとしてヘリウムガスを用いると、第2パルス管290の低温端294側における冷媒ガスの流速および圧力変動の位相調整が難しくなる。冷媒ガスの温度が8Kから30Kとなる領域は高圧冷媒ガスと低圧冷媒ガスとの密度差が大きくなり、結果として第2パルス管290に流入する冷媒ガスの流量および入力仕事が大きくなる。
【0046】
式(6)において、もし、右辺第2項(V
pdρ
p/dt)を小さくし、その分だけ右辺第3項(V
edρ
e/dt)を大きくすることができれば、m
inとm
hとを変化させることなく冷凍に寄与する低温領域のヘリウムガスの質量を増加させることができる。結果として、冷凍機の冷凍性能を向上することができる。また高圧冷媒ガスと低圧冷媒ガスとの密度差が大きくなるガスピストン領域のヘリウムガスを減らすことができる。
【0047】
実施の形態に係るパルス管冷凍機も、基本構成は上述した一般的なパルス管冷凍機200と同様である。そのため便宜上、実施の形態に係るパルス管冷凍機も「パルス管冷凍機200」と呼ぶ。しかしながら、実施の形態に係るパルス管冷凍機200は、上述した式(6)における右辺第2項(V
pdρ
p/dt)を小さくし、その分だけ右辺第3項(V
edρ
e/dt)を大きくするために、最も低い温度の低温端を有するパルス管(
図1に示す例では第2パルス管290)の構成が上述した一般的なパルス管冷凍機200と異なる。以下、実施の形態に係るパルス管について説明する。
【0048】
図4(a)−(b)は、実施の形態に係る第2パルス管290の構成を模式的に示す図である。
図4(a)−(b)に示すように、実施の形態に係る第2パルス管290は、その一部が他の部分よりも冷媒ガスの流路面積が小さくなる狭窄部293を備える。
【0049】
図4(a)は、第2パルス管290の一部が絞られて狭窄部293が構成されている。限定はしないが、狭窄部293における冷媒ガスの流路面積は、他の部分の流路面積と比較して30%〜70%程度となっており、より具体的には60%程度となっている。狭窄部293は、第2パルス管290において冷媒ガスの温度がおよそ8Kから30Kとなる領域に設けられ、上述のガスピストン領域に相当する。これにより、冷媒ガスとしてヘリウムを用いた場合において、2.2MPaのヘリウムガスと0.8MPaのヘリウムガスとの密度差が大きくなる部分の第2パルス管290の流路面積が小さくなることになる。すなわち、第2パルス管290において温度がおよそ8Kから30Kとなる領域を流れる冷媒ガスの流量が低減するため、パルス管冷凍機200における冷媒ガスの圧力差の低下が抑制され、また冷媒ガスの圧力変動の位相調整が適切となる。このため、パルス管冷凍機200全体としての冷凍能力および冷凍効率を向上することができる。
【0050】
ここで狭窄部293の体積をV
cとし、狭窄部293におけるヘリウムガスの質量をM
cとする。狭窄部293は上述のガスピストン領域に相当するため、狭窄部293の体積V
cは、式(6)におけるガスピストン領域の体積V
pより小さくなる。一方、狭窄部293におけるヘリウムガスの温度分布と、上述のガスピストン領域におけるヘリウムガスの温度分布は同じである。このため、狭窄部293におけるヘリウムガスの平均密度はρ
pである。以上より、以下の関係式(9)を得る。
M
c=V
cρ
p<M
p (9)
【0051】
式(9)より、以下の式(10)を得る。
|dM
c/dt|<|dM
p/dt| (10)
【0052】
式(10)は、狭窄部293におけるヘリウムガスの質量変化の絶対値が、狭窄部293を設ける前のガスピストン領域におけるヘリウムガスの質量変化の絶対値よりも小さいことを示している。ヘリウムガスのバッファ作用に対する寄与が大きいガスピストン領域を狭くすることにより、バッファ作用を低減することができる。また、|dM
p/dt|を小さくした分だけ、式(6)の右辺第3項(V
edρ
e/dt=dM
e/dt)を大きくできるので、冷凍に寄与する低温領域のヘリウムガスの質量を増加させることができる。結果として、冷凍機の冷凍能力を向上することができる。
【0053】
図4(a)に示すように2段式のパルス管冷凍機の場合、高温側の第1蓄冷管240と、低温側の第2蓄冷管280とは中心軸を共有して配置されている。第2パルス管290は、第1蓄冷管240および第2蓄冷管280に沿って、略平行となるように並べて配置されている。また、第2パルス管290の低温端294と第2蓄冷管280の低温端284とを結ぶ直線は、第2パルス管290の中心軸および第2蓄冷管280の中心軸と実質的に直交する。すなわち、第2パルス管290、第1蓄冷管240、および第2蓄冷管280の長手方向が鉛直方向となるように設置した場合、第2パルス管290の低温端294と第2蓄冷管280の低温端284とは、実質的に同じ高さとなる。
【0054】
説明の便宜上、
図4(a)に示すように、第2パルス管290の低温端294を原点として、第2パルス管290の低温端294から高温端292に向かって第2パルス管290の長手方向にx座標軸を設定する。第1蓄冷管240および第2蓄冷管280とは並んで配置されているため、第2パルス管290におけるx座標と、第1蓄冷管240および第2蓄冷管280におけるx座標とは対応付けることが可能となる。したがって、以下本明細書において、例えば、第2蓄冷管280に対応する第2パルス管290の位置とは、第2蓄冷管280のx座標と同じ座標となる第2パルス管290の位置を意味する。第2蓄冷管の低温端284に対応する第2パルス管290の位置は、第2パルス管290の低温端294である。
【0055】
ここで、第1蓄冷管240の高温端242における冷媒ガスの温度は室温程度であり、第1蓄冷管240の低温端244における冷媒ガスの温度は、およそ50Kである。第2蓄冷管280の高温端244における冷媒ガスの温度もおよそ50Kであり、第2蓄冷管280の高温端244の低温端284における冷媒ガスの温度はおよそ4Kとなる。第2蓄冷管の低温端294における冷媒ガスの温度もおよそ4Kであり、高温端292における冷媒ガスの温度はおよそ室温となる。第1蓄冷管240または第2蓄冷管280の所定の位置における冷媒ガスの温度と、第2パルス管290の対応する位置における冷媒ガスの温度とはほぼ同じとなる。したがって、第2蓄冷管280の高温端244に対応する位置における第2パルス管290の冷媒ガスの温度はおよそ50Kとなる。
【0056】
図3に示したとおり、2.2MPaのヘリウムガスと0.8MPaのヘリウムガスとの密度差は、温度が50K以下のときは、およそ8Kに至るまで、温度が低いほど大きくなる。そこで、第2パルス管290における狭窄部293は、第2蓄冷管280の高温端244に対応する位置よりも低温端294側に備えられる。
【0057】
実施の形態に係る第1蓄冷管240および第2蓄冷管280は、それぞれ蓄冷材を備える。第2蓄冷管280は、高温側に配置された第1蓄冷材281と、低温側に配置された第2蓄冷材283との2種類の蓄冷材を備え、第1蓄冷材281と第2蓄冷材とは隣接している。第2パルス管290における狭窄部293は、第2蓄冷管280における第1蓄冷材281と第2蓄冷材283との境界に対応する位置よりも高温端292側に設けられることが好ましい。さらに加えて、狭窄部293の低温側における冷媒ガスの温度が、およそ8Kとなることが好ましい。これにより、第2パルス管290において冷媒ガスの温度がおよそ8Kから30Kとなる領域に設けられることになる。
【0058】
なお、第2パルス管290における狭窄部293は、他の部分の流路面積と比較して60%程度となる。そのため、狭窄部293と他の領域との境界部において流路面積が急激に変化すると、冷媒ガスに乱流が生じ、圧力損失が生じる可能性がある。そのため、狭窄部293は、他の領域との境界部において、流路面積が連続的に変化するテーパ形状となることが好ましい。
【0059】
より具体的には、
図4(a)に示すように、狭窄部293は、他の領域との高温端側の境界部において、流路面積が他の領域における流路面積に至るまで連続的に増加する。同様に、狭窄部293は、他の領域との低温端側の境界部において、流路面積が他の領域における流路面積に至るまで連続的に増加する。
【0060】
図4(b)は、第2パルス管290における狭窄部293の別の構成を示す図である。
図4(a)に示す狭窄部293は、第2パルス管290を絞ることで構成されている。これに対し、
図4(b)に示す例では、狭窄部293における第2パルス管290の外径は他の部分の外径と変わらない。その代わり、第2パルス管290の内部に充填部材を挿入することで、流路面積を小さくしている。充填部材としては、金属、樹脂、またはプラスチック等を適宜使用することで実現できる。
【0061】
図4(b)に示す例も、狭窄部293自体による作用効果は
図4(a)に示す例と同等である。
図4(b)に示す例は、
図4(a)に示す例と比較して、第2パルス管290における狭窄部293の強度が向上する点で利点がある。
【0062】
以上説明したように、実施の形態に係るパルス管冷凍機200は、一部に狭窄部293が設けられた第2パルス管290を備えることで、第2パルス管290の冷媒ガスの流量を低減し、パルス管冷凍機200における冷媒ガスの圧力差の低下を抑制でき、また冷媒ガスの流速と圧力変動との間の位相を最適化することができる。結果として、パルス管冷凍機200の冷凍能力および冷凍効率を向上することができる。
【0063】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用を示すにすぎない。また、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が可能である。
【0064】
(変形例)
上記では、パルス管冷凍機200として2段式の構造を前提として説明した。パルス管冷凍機200は2段式に限られず、多段式であっても本発明は適用できる。以下、多段式の一例として、3段式の構造のパルス管冷凍機201について説明する。
【0065】
図5は、本発明の変形例に係る4バルブ型のパルス管冷凍機201の一例の概略を模式的に示した図である。このパルス管冷凍機201は、3段式の構造となっている。なお、
図5において、前述の
図1と同様の部材には、
図1のものと同じ参照番号が付されている。
【0066】
3段式のパルス管冷凍機201は、前述の2段式のパルス管冷凍機200と同様の構成を有する。ただし、3段式のパルス管冷凍機201は、さらに第3蓄冷管440および第3パルス管420を有する。
【0067】
第3蓄冷管440は、高温端284(第2蓄冷管280の低温端284に相当する)および低温端444を有する。第3パルス管420は、高温端422および低温端424を有し、高温端422および低温端424には、熱交換器が設置されている。第3蓄冷管440の低温端444は、第3配管416を介して、第3パルス管420の低温端424と接続される。
【0068】
圧縮機212の高圧側(吐出側)の冷媒用流路は、
図1のような第1冷媒供給路H1、第2冷媒供給路H2、および第3冷媒供給路H3の他、さらに第4冷媒供給路H4を有する。また、圧縮機212の低圧側(吸込側)の冷媒用流路は、
図1のような第1冷媒回収路L1、第2冷媒回収路L2、および第3冷媒回収路L3の他、さらに第4冷媒回収路L4を有する。
【0069】
第4冷媒供給路H4は、圧縮機212の高圧側〜第7開閉バルブV7が接続された第4高圧側配管245A〜流路抵抗450が設置された共通配管455〜第3パルス管420で構成される。第4冷媒回収路L4は、第3パルス管420〜流路抵抗450が設置された共通配管455〜第8開閉バルブV8が設置された第4低圧側配管245B〜B点〜圧縮機212の経路で構成される。流路抵抗450は、オリフィス等で構成される。
【0070】
次に、このように構成された4バルブ型のパルス管冷凍機201の動作について説明する。
【0071】
図6は、
図5に示した4バルブ型のパルス管冷凍機201の作動の際の、8つのバルブの開閉状態を時系列的に示す図であり、8つの第1開閉バルブV1〜V8の開閉状態を時系列的に示した図である。以下、
図5に示す図を「第2タイミングチャート」とも称する。パルス管冷凍機201の作動時には、8つの開閉バルブV1〜V8の開閉状態は、以下のように周期的に変化する。
【0072】
(第1過程:時間0〜t3)
まず、時間t=0において、第7開閉バルブV7のみが開にされる。これにより、圧縮機212から、第4冷媒供給路H4を介して、すなわち第4高圧側配管245A〜共通配管455〜高温端422の経路で、第3パルス管420に高圧冷媒ガスが供給される。その後、時間t=t1において、第7開閉バルブV7が開状態のまま、第5開閉バルブV5が開にされる。これにより、圧縮機212から、第3冷媒供給路H3を介して、すなわち第3高圧配管235A〜共通配管299〜高温端292の経路で、第2パルス管290に高圧冷媒ガスが供給される。
【0073】
次に、時間t=t2において、開閉バルブV7、V5が開いた状態で、第3開閉バルブV3が開にされる。これにより、高圧冷媒ガスは、圧縮機212から、第2冷媒供給路H2を介して、すなわち第2高圧配管225A〜共通配管230〜高温端252の経路で、第1パルス管250に供給される。
【0074】
次に、時間t=t3において、開閉バルブV7、V5、V3が開いた状態で、第1開閉バルブV1が開にされる。これにより、高圧冷媒ガスは、第1蓄冷管240、第2蓄冷管280、および第3蓄冷管440に導入される。冷媒ガスの一部は、第1配管256を介して、第1パルス管250に、低温端254の側から流入する。また冷媒ガスの別の一部は、第2蓄冷管280を通り、第2配管286を介して、第2パルス管290に、低温端294の側から流入する。冷媒ガスのさらに別の一部は、第3蓄冷管440を通り、第3配管416を介して、第3パルス管420に、低温端424の側から流入する。
【0075】
(第2過程:時間t4〜t7)
次に、時間t=t4において、開閉バルブV1、V5、V7が開状態のまま、第3開閉バルブV3が閉にされ、その後、開閉バルブV5、V7も順次閉にされる(時間t=t5、およびt=t6)これに対応して、圧縮機212からの冷媒ガスは、第1冷媒供給路H1のみを介して、第1蓄冷管240に流入するようになる。冷媒ガスは、その後、第1パルス管250、第2パルス管290、および第3パルス管420内に、それぞれの低温端254、294、424の側から流入する。
【0076】
時間t=t7では、全ての開閉バルブV1〜V8が閉にされる。第1パルス管250、第2パルス管290、および第3パルス管420の圧力上昇のため、第1パルス管250、第2パルス管290、および第3パルス管420の内の冷媒ガスは、それぞれの高温端252、292、422の側に設置されたリザーバ(図示せず)の方に移動する。
【0077】
(第3過程:時間t7〜t10)
その後、時間t=t7において、第8開閉バルブV8が開かれ、第3パルス管420内の冷媒ガスは、第4冷媒回収路L4を通って圧縮機212に戻る。その後、時間t=t8において、第6開閉バルブV6が開かれ、第2パルス管290内の冷媒ガスは、第3冷媒回収路L3を通って圧縮機212に戻る。これにより、第3パルス管420および第2パルス管290の圧力が低下する。その後、時間t=t9において、第4開閉バルブV4が開かれ、第1パルス管250内の冷媒ガスは、第2冷媒回収路L2を通って圧縮機212に戻る。これにより、第1パルス管250の圧力が低下する。
【0078】
さらに、時間t=t10において、開閉バルブV8、V6、V4が開状態のまま、第2開閉バルブV2が開かれる。これにより、第3パルス管420、第2パルス管290、第1パルス管250、および第1蓄冷管240、第2蓄冷管280、第3蓄冷管440内の冷媒ガスの大部分は、第1蓄冷管240を通り、第1冷媒回収路L1を介して、圧縮機212に戻る。
【0079】
(第4過程:時間t11〜t14)
次に、時間t=t11において、開閉バルブV2、V6、V8が開いた状態で、第4開閉バルブV4が閉止され、その後、第6開閉バルブV6、V8が順次閉止される(時間t=t12およびt=t13)。
【0080】
最後に、時間t=t14において、第2開閉バルブV2が閉止され、1サイクルが完了する。
【0081】
以上のサイクルを繰り返すことにより、第1パルス管250の低温端254、第2パルス管290の低温端294、および第3パルス管420の低温端424、に寒冷が発生し、冷却対象を冷却することができる。
【0082】
変形例に係るパルス管冷凍機201は、第3蓄冷管440の低温端444を流れる冷媒ガスの温度がおよそ4Kとなる。このため、第3パルス管420の低温端424を流れる冷媒ガスの温度も4K程度となる。第3パルス管420内の冷媒ガスは、第3パルス管420の高温端422で室温程度となる。
【0083】
パルス管冷凍機201において、第1蓄冷管240、第2蓄冷管280、および第3蓄冷管440は長手方向の中心軸を共有して配置されており、第3パルス管420と第3蓄冷管440とは並んで配置されている。したがって、
図1に示す第2パルス管290と第2蓄冷管280との関係と同様に、第3蓄冷管440における位置と対応する位置を、第3パルス管420に定めることができる。
【0084】
変形例に係るパルス管冷凍機201は、第3パルス管420を流れる冷媒ガスの温度がおよそ8Kから20Kとなるよう域に、冷媒ガスの流路面積が小さくなる狭窄部493が設けられている。第3パルス管420における狭窄部493は、最終段の蓄冷管である第3蓄冷管440の高温端284に対応する位置よりも低温側に位置する。
【0085】
これにより、2.2MPaのヘリウムガスと0.8MPaのヘリウムガスとの密度差がおおきくなる領域の流量を低減し、パルス管冷凍機200における冷媒ガスの圧力差の低下を抑制できる。また冷媒ガスの圧力変動の位相調整も最適化することができる。結果として、パルス管冷凍機200の冷凍能力および冷凍効率を向上することができる。
【0086】
なお、2段式のパルス管冷凍機200、3段式のパルス管冷凍機201と同様に、それ以上の段数の冷凍機であっても、温側の最終段のパルス管の一部に狭窄部を設けることで、同様の効果を達成することができる。