特許第6246003号(P6246003)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6246003放射線計測装置及びそれを用いた燃料デブリの有無及び位置測定装置並びに燃料デブリの有無及び位置測定方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6246003
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】放射線計測装置及びそれを用いた燃料デブリの有無及び位置測定装置並びに燃料デブリの有無及び位置測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/167 20060101AFI20171204BHJP
   G01T 1/36 20060101ALI20171204BHJP
   G01T 7/00 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
   G01T1/167 C
   G01T1/167 D
   G01T1/36 A
   G01T7/00 B
【請求項の数】10
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2014-15506(P2014-15506)
(22)【出願日】2014年1月30日
(65)【公開番号】特開2015-141158(P2015-141158A)
(43)【公開日】2015年8月3日
【審査請求日】2016年7月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】森 勇人
(72)【発明者】
【氏名】岡田 耕一
(72)【発明者】
【氏名】平野 克彦
【審査官】 南川 泰裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−030689(JP,A)
【文献】 特開2002−214353(JP,A)
【文献】 特開平11−153673(JP,A)
【文献】 特開2013−083589(JP,A)
【文献】 特開2013−061206(JP,A)
【文献】 特表2012−512394(JP,A)
【文献】 特開2005−009890(JP,A)
【文献】 特開平10−096784(JP,A)
【文献】 特開平10−318946(JP,A)
【文献】 特開平08−082692(JP,A)
【文献】 特開平07−020246(JP,A)
【文献】 米沢仲四郎 他,実用 ガンマ線測定ハンドブック,日本,日刊工業新聞社,2002年 6月30日,第1版,第158頁〜第160頁, 第191頁〜第192頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/00−7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉施設に配置され、測定対象核種のγ線ピークを検出することで燃料デブリの有無及び位置を推定する放射線計測装置であって、
放射線を検出する放射線検出器と、
前記放射線検出器で検出された放射線の信号を処理するγ線エネルギー分析部と、
前記γ線エネルギー分析部で得られたγ線エネルギー分布を表示する表示装置と、
前記放射線検出器の前面に配置され、前記放射線の通路を有し、前記放射線検出器に入射する放射線の視野角を制限するコリメータと、
前記コリメータを駆動するコリメータ駆動手段と、
前記放射線検出器を覆う遮蔽体とを備え、
前記コリメータは、胴部と、前記胴部の前記放射線検出器側の端部に設けられ、前記遮蔽体に向かって突出する第1のフランジ部とを有し、
前記遮蔽体は、前記放射線の入射側の端部に設けられ、前記胴部に向かって突出する第2のフランジ部を有し、
前記コリメータ駆動手段は、前記放射線検出器及び前記遮蔽体に対して前記コリメータを前後に移動させることにより前記放射線検出器に入射する放射線の視野角を可変にし、
前記γ線エネルギー分析部は、前記γ線エネルギー分布のγ線ピーク計数値と所定の信号処理時間から、測定対象核種と異なる1つの放射性核種又は複数の放射性核種から放射される複数のγ線の同時入射により生成されるサムピーク計数値を求め、前記γ線エネルギー分布より得られる測定対象核種のγ線ピーク計数値と前記サムピーク計数値との差分により測定対象核種のγ線ピーク計数値を算出することを特徴とする放射線計測装置。
【請求項2】
前記放射線の通路は、中空円筒形状を有することを特徴とする請求項1に記載の放射線計測装置。
【請求項3】
前記放射線の通路は、
前記放射線が前記放射線検出器に入射する方向に沿って、前記放射線の入射側から順に設けられた第1の通路部分と第2の通路部分とから構成され、
前記第1の通路部分は、前記放射線が前記放射線検出器に入射する方向に沿って、前記通路の径が単調減少する中空円錐台形状を有し、
前記第2の通路部分は、中空円筒形状を有することを特徴とする請求項1に記載の放射線計測装置。
【請求項4】
前記放射線の通路は、前記放射線が前記放射線検出器に入射する方向に沿って、前記通路の径が単調減少する中空円錐台形状を有することを特徴とする請求項1に記載の放射線計測装置。
【請求項5】
前記コリメータは、前記遮蔽体を覆う形状を有することを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の放射線計測装置。
【請求項6】
前記コリメータは、前記放射線の通路の前記放射線が入射する側に、前記放射線の通路を塞ぐシャッター用遮蔽体を有し、
前記シャッター用遮蔽体を駆動するシャッター用遮蔽体駆動手段をさらに有することを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の放射線計測装置。
【請求項7】
前記γ線エネルギー分析部は、前記シャッター用遮蔽体のオン及びオフそれぞれの状態での前記測定対象核種のγ線ピーク計数値を算出し、当該算出された係数値の差分を測定対象核種のγ線ピーク計数値とすることを特徴とする請求項に記載の放射線計測装置。
【請求項8】
原子炉施設に配置され、測定対象核種のγ線ピークを検出することで燃料デブリの有無及び位置を推定する放射線計測装置を備え、原子炉施設内における燃料デブリの有無及び位置を推定する燃料デブリの有無及び位置測定装置であって、
放射線を検出する放射線検出器と、
前記放射線検出器で検出された放射線の信号を処理するγ線エネルギー分析部と、
前記γ線エネルギー分析部で得られたγ線エネルギー分布を表示する表示装置と、
前記放射線検出器の前面に配置され、前記放射線の通路を有し、前記放射線検出器に入射する放射線の視野角を制限するコリメータと、
前記コリメータを駆動するコリメータ駆動手段と、
前記放射線検出器を覆う遮蔽体とを備え、
前記コリメータ駆動手段は、前記放射線検出器及び前記遮蔽体に対して前記コリメータを前後に移動させることにより前記放射線検出器に入射する放射線の視野角を可変にし、
前記γ線エネルギー分析部は、前記γ線エネルギー分布のγ線ピーク計数値と所定の信号処理時間から、測定対象核種と異なる1つの放射性核種又は複数の放射性核種から放射される複数のγ線の同時入射により生成されるサムピーク計数値を求め、前記γ線エネルギー分布より得られる測定対象核種のγ線ピーク計数値と前記サムピーク計数値との差分により測定対象核種のγ線ピーク計数値を算出することを特徴とする放射線計測装置と、
前記放射線計測装置を搭載した移動装置と、
前記放射線計測装置を床面に直行する方向に回転させる回転機構部と、
前記移動装置の位置認識を行う位置認識センサと、
前記位置認識センサの情報を用いて前記移動装置の位置を推定する位置推定手段と、
前記位置推定手段により推定した前記移動装置の位置から前記放射線計測装置の計測位置の算出結果を得て、前記算出結果から前記移動装置の移動環境のCADデータに前記放射線計測装置が計測した計測データを登録する放射線マッピング手段を備えたことを特徴とする燃料デブリの有無及び位置測定装置。
【請求項9】
原子炉施設に配置され、測定対象核種のγ線ピークを検出することで燃料デブリの有無及び位置を推定する放射線計測装置を用い、原子炉施設内における燃料デブリの有無及び位置を推定する燃料デブリの有無及び位置測定方法であって、
前記放射線計測装置は、放射線を検出する放射線検出器と、
前記放射線検出器で検出された放射線の信号を処理するγ線エネルギー分析部と、
前記γ線エネルギー分析部で得られたγ線エネルギー分布を表示する表示装置と、
前記放射線検出器の前面に配置され、前記放射線の通路を有し、前記放射線検出器に入射する放射線の視野角を制限するコリメータと、
前記コリメータを駆動するコリメータ駆動手段と、
前記放射線検出器を覆う遮蔽体とを備え、
前記コリメータ駆動手段は、前記放射線検出器及び前記遮蔽体に対して前記コリメータを前後に移動させることにより前記放射線検出器に入射する放射線の視野角を可変にし、
前記γ線エネルギー分析部は、前記γ線エネルギー分布のγ線ピーク計数値と所定の信号処理時間から、測定対象核種と異なる1つの放射性核種又は複数の放射性核種から放射される複数のγ線の同時入射により生成されるサムピーク計数値を求め、前記γ線エネルギー分布より得られる測定対象核種のγ線ピーク計数値と前記サムピーク計数値との差分により測定対象核種のγ線ピーク計数値を算出するものであり
前記放射線計測装置を搭載した移動装置と、前記放射線計測装置を床面に直行する方向に回転させる回転機構部とを有する燃料デブリの有無及び位置測定装置を駆動させて測定対象核種のγ線ピークを検出する工程と、
前記移動装置の位置認識を行う位置認識センサの情報を用いて前記移動装置の位置を推定する工程と、
推定した前記移動装置の位置から前記燃料デブリの有無及び位置測定装置の計測位置の算出結果を得る工程と、
前記算出結果から前記移動装置の移動環境のCADデータに前記燃料デブリの有無及び位置測定装置が計測した計測データを登録し、放射線マッピングを作成する工程とを有することを特徴とする燃料デブリの有無及び位置測定方法。
【請求項10】
前記測定対象核種のγ線ピークを検出する工程は、前記コリメータを前記放射線検出器に最も近づけて、前記視野角が最も大きい状態で測定対象核種のγ線ピークを検出するまで、前記燃料デブリの有無及び位置測定装置を駆動させて測定位置を変えて行い、
前記測定対象核種のγ線ピークが検出された測定位置において、前記コリメータを前面に移動して、前記視野角を小さくして測定対象核種のγ線ピークを検出することを特徴とする請求項に記載の燃料デブリの有無及び位置測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、γ線エネルギー分布より得られる測定対象核種のγ線ピークを妨害核種のγ線ピークと弁別可能な放射線計測装置及びそれを用いた燃料デブリの有無及び位置測定装置並びに燃料デブリの有無及び位置測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2011年3月に発生した東京電力(株)福島第一原子力発電所の事故を受けて、原子炉圧力容器や原子炉格納容器、圧力抑制室、トーラス室で適用可能な燃料デブリ検知技術が求められている。燃料デブリ有無を推定する方法の一つとして、燃料デブリから放射される特有の放射線を計測する手法がある。その代表例としてはCe‐144やEu‐154がある。米国スリーマイル島2号機の事故においてはCe‐144から放射されるγ線を計測することで、燃料デブリを調査したとする報告もある。ただしCe‐144は半減期が短く(約239日)、現時点で測定対象として適切であるかは不明である。一方でEu‐154は半減期が長く(約8.6年)、燃料集合体内部の含有量も比較的多いため、燃料デブリ有無の推定のための測定対象として有力である。Eu‐154から放射されるγ線を計測するには、核種分析可能な放射線検出器及び分析装置を適用する必要がある。これらの原子炉施設においてEu‐154γ線を計測する場合、妨害核種は雰囲気中に存在するCs‐137、Cs‐134、Co‐60及びCo‐58等となる。Eu‐154から放射される1274keVγ線ピークと、Cs‐137から放射される662keVγ線とCs‐134から放射される602keVγ線がほぼ同時に放射線検出器でエネルギーを付与した場合に生じる1264keVのサムピークとの弁別が必要である。これらの妨害核種は原子炉施設内全般に存在しており、妨害レベルの影響を受けやすい環境である。これら妨害核種の放射能分布は複雑で、且つ、経時変化で放射能分布や幾何条件が変化する可能性がある。
【0003】
実験室等の一般環境であれば、優れたエネルギー分解能を有するGe半導体検出器を用いた核種分析が可能であるため、Eu‐154と妨害核種のサムピークとの弁別ができるものの、原子炉施設へ適用するには、使いやすさやメンテナンス性、冷凍機を含めた検出器及び装置サイズの観点から困難である。
【0004】
非特許文献1は、Ge半導体検出器によるγ線スペクトロメトリーに関し、サムピークを含む妨害ピークの除外方法が記載されている。これは妨害ピークを生成するγ線核種における放出比とGe半導体検出器の検出効率から寄与係数を算出し、その寄与係数に基づき妨害ピークの影響を除外するものである。
【0005】
また、特許文献1は、2つの同時計数回路においてそれぞれ異なる同時計数ゲート時間幅を設定し、これらから得られた同時計数値を差分することで、確率的に生じる偶発同時計数を除去するものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】放射能測定法シリーズ7 ゲルマニウム半導体検出器によるガンマ線スペクトロメトリー(平成4年改訂):文部科学省 科学技術・学術政策局 原子力安全課防災環境対策室 142頁‐145頁
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013‐61206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら非特許文献1は、Ge半導体検出器の校正を目的とし、既知の放射線源と所定の距離に配置されたGe半導体検出器間で適用されるものであり、放射性核種と幾何条件が明確である場合を前提としている。
【0009】
従って、燃料デブリが存在する放射能分布、幾何学条件が不明な環境下では、適用が困難である。
【0010】
また、特許文献1は、測定対象がカスケードγ線であり、このγ線を2台以上の放射線検出器と同時計数回路で計数するものである。この装置で生じる偶発同時計数は、異なる2つのγ線がそれぞれの放射線検出器に入射し、同時計数ゲート時間幅を満足する範囲で計数されたときに生じるものである。
【0011】
しかしながら、測定対象核種と異なる放射性核種(妨害核種)から放射される複数のγ線がほぼ同時に1つの放射線検出器に入射することにより発生するサムピークを低減することについて配慮されていない。
【0012】
本発明は、妨害核種のγ線サムピークと測定対象核種のγ線ピークを弁別でき、燃料デブリ有無及び位置の推定を可能とする放射線計測装置及びそれを用いた燃料デブリ有無及び位置測定装置並びに燃料デブリ有無及び位置測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る放射線計測装置は、原子炉施設に配置され、測定対象核種のγ線ピークを検出することで燃料デブリの有無及び位置を推定する放射線計測装置であって、
放射線を検出する放射線検出器と、
前記放射線検出器で検出された放射線の信号を処理するγ線エネルギー分析部と、
前記γ線エネルギー分析部で得られたγ線エネルギー分布を表示する表示装置と、
前記放射線検出器の前面に配置され、前記放射線の通路を有し、前記放射線検出器に入射する放射線の視野角を制限するコリメータと、
前記コリメータを駆動するコリメータ駆動手段と、
前記放射線検出器を覆う遮蔽体とを備え、
前記コリメータは、胴部と、前記胴部の前記放射線検出器側の端部に設けられ、前記遮蔽体に向かって突出する第1のフランジ部とを有し、
前記遮蔽体は、前記放射線の入射側の端部に設けられ、前記胴部に向かって突出する第2のフランジ部を有し、
前記コリメータ駆動手段は、前記放射線検出器及び前記遮蔽体に対して前記コリメータを前後に移動させることにより前記放射線検出器に入射する放射線の視野角を可変にし、
前記γ線エネルギー分析部は、前記γ線エネルギー分布のγ線ピーク計数値と所定の信号処理時間から、測定対象核種と異なる1つの放射性核種又は複数の放射性核種から放射される複数のγ線の同時入射により生成されるサムピーク計数値を求め、前記γ線エネルギー分布より得られる測定対象核種のγ線ピーク計数値と前記サムピーク計数値との差分により測定対象核種のγ線ピーク計数値を算出することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の他の態様は、原子炉施設に配置され、測定対象核種のγ線ピークを検出することで燃料デブリの有無及び位置を推定する放射線計測装置を備え、原子炉施設内における燃料デブリの有無及び位置を推定する燃料デブリの有無及び位置測定装置であって、
上記本発明に係る放射線計測装置と、
前記放射線計測装置を搭載した移動装置と、
前記放射線計測装置を床面に直行する方向に回転させる回転機構部と、
前記移動装置の位置認識を行う位置認識センサと、
前記位置認識センサの情報を用いて前記移動装置の位置を推定する位置推定手段と、
前記位置推定手段により推定した前記移動装置の位置から前記放射線計測装置の計測位置の算出結果を得て、前記算出結果から前記移動装置の移動環境のCADデータに前記放射線計測装置が計測した計測データを登録する放射線マッピング手段を備えたことを特徴とする。
【0015】
また、本発明の他の態様は、原子炉施設に配置され、測定対象核種のγ線ピークを検出することで燃料デブリの有無及び位置を推定する放射線計測装置を用い、原子炉施設内における燃料デブリの有無及び位置を推定する燃料デブリの有無及び位置測定方法であって、
上記本発明に係る放射線計測装置と、前記放射線計測装置を搭載した移動装置と、前記放射線計測装置を床面に直行する方向に回転させる回転機構部とを有する燃料デブリの有無及び位置測定装置を駆動させて測定対象核種のγ線ピークを検出する工程と、
前記移動装置の位置認識を行う位置認識センサの情報を用いて前記移動装置の位置を推定する工程と、
推定した前記移動装置の位置から前記燃料デブリの有無及び位置測定装置の計測位置の算出結果を得る工程と、
前記算出結果から前記移動装置の移動環境のCADデータに前記燃料デブリの有無及び位置測定装置が計測した計測データを登録し、放射線マッピングを作成する工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、妨害核種のγ線サムピークと測定対象核種のγ線ピークを弁別でき、燃料デブリ有無及び位置の推定を可能とする放射線計測装置及びそれを用いた燃料デブリ有無及び位置の測定装置及び方法を提供できる。
【0017】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係る放射線計測装置が配置される原子炉建屋内の一例を示す概念図である。
図2】本発明に係る放射線計測装置を構成するγ線エネルギー分析部の一例を示す構成図である。
図3】本発明に係る放射線計測装置のγ線エネルギー分析部で得られたγ線エネルギー分布の一例を示す図である。
図4】信号処理時間とエネルギー分解能、サムピーク計数率の関係図である。る。
図5】実施例5の放射線計測装置を模式的に示す平面図である。
図6】実施例5の放射線計測装置のγ線エネルギー分析部で得られたγ線エネルギー分布の一例を示す図である。
図7】実施例6の放射線計測装置を模式的に示す構成図である。
図8】実施例7の放射線計測装置を模式的に示す構成図である。
図9A】実施例1の放射線計測装置を模式的に示す平面図である。
図9B図9Aにおいてコリメータを前面に移動した状態を示す平面図である。
図9C】実施例1のコリメータの放射線の通路の他の一例を模式的に示す平面図である。
図10A】実施例2の放射線計測装置を模式的に示す平面図である。
図10B図10Aにおいてコリメータを前面に移動した状態を示す平面図である。
図10C図10Aのコリメータの平面図である。
図11A】実施例3の放射線計測装置を模式的に示す平面図である。
図11B図11Aにおいてコリメータを前面に移動した状態を示す平面図である。
図11C】実施例3の放射線計測装置の他の一例を模式的に示す平面図である。
図12A】実施例4の放射線計測装置を模式的に示す平面図である。
図12B図12Aにおいてコリメータを前面に移動した状態を示す平面図である。
図13A】本発明に係る燃料デブリの有無及び位置測定装置の一例を模式的に示す図である。
図13B図13Aの部分拡大図である。
図14】放射線源の3次元マップを作成する手順を示す図である。
図15】放射線源の3次元マップを作成するシステムブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、発明者らが原子炉圧力容器や原子炉格納容器、圧力抑制室、トーラス室等の原子炉施設に大量に存在し、さらにその放射能分布は複雑で、経時変化で放射能分布や幾何条件が変化する可能性がある環境において、γ線エネルギー分布の計測、この妨害核種によるサムピークの影響を低減する放射線計測装置及び放射線計測装置を用いた燃料デブリの有無及び位置の測定装置並びに燃料デブリの有無及び位置の推定方法について、種々検討して得た新たな知見に基づいてなされたものである。
【0020】
この知見では、放射線検出器とγ線エネルギー分析部及び表示装置を備えることで、放射線検出器で検出したγ線エネルギーをγ線エネルギー分布の形状で表示する。γ線エネルギー分布のγ線ピーク計数値と信号を処理する信号処理時間から、妨害核種より放射される2つのγ線の入射によって生成されたサムピーク計数値を求め、γ線エネルギー分布より得られる測定対象核種のγ線ピーク計数値とサムピーク計数値の差分により、測定対象核種のγ線ピークネット計数値を算出することで、測定対象核種と妨害核種の単色のγ線ピークを弁別するエネルギー分解能を維持しつつ、測定対象核種によるγ線ピークと、妨害核種による2つのγ線によって形成されたサムピークを弁別し、測定対象核種のγ線ピークネット計数値を算出することが可能となる。これにより、原子炉施設に大量に存在し、さらにその放射能分布は複雑で、経時変化で放射能分布や幾何条件が変化する可能性がある環境において、高精度に燃料デブリ有無を推定できる。
【0021】
さらに、本発明に係る放射線計測装置は、上記した構成に加えて、放射線検出器の前面に配置され、放射線の通路を有し、放射線検出器に入射する放射線の入射方向を制限するコリメータと、コリメータを駆動するコリメータ駆動手段とを備え、コリメータ駆動手段によってコリメータを放射線検出器に対して前後に移動させることにより前記放射線入射部に入射する放射線の視野角を可変にすることで、短時間で精度よく放射線を測定し、燃料デブリの位置の推定を可能とする。
【0022】
以下、本発明に係る放射線計測装置及びその方法の好適な実施の形態を、図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0023】
図1は本発明に係る放射線計測装置が配置される原子炉建屋内の一例を示す概念図である。図1に示したように、本発明に係る放射線計測装置は、放射線検出器1、電気ケーブル2、γ線エネルギー分析部3、表示装置4から構成される。適用箇所は一般的な原子力発電所である。ここでは一例として沸騰水型原子炉の概念図を用いて説明する。沸騰水型原子炉は原子炉建屋5、原子炉格納容器6、原子炉圧力容器7、原子炉水再循環系8、原子炉圧力抑制室9、トーラス室10、貫通部11などから構成される。これらの施設内における燃料デブリ12の有無を確認するために、放射線検出器1は、図1に示されるように、例えば、原子炉格納容器6や原子炉圧力容器7、原子炉圧力抑制室9、トーラス室10の内部にアクセスする。アクセスする際には、既設の貫通部11や工事等で施工した侵入経路を介する。放射線検出器1は電気ケーブル2と接続する。電気ケーブル2は原子炉建屋5に設置したγ線エネルギー分析部3に接続される。γ線エネルギー分析部3で得られた分析結果は各種ケーブルを介して表示装置4に表示される。ここでγ線エネルギー分析部3及び表示装置4は原子炉建屋5に設置しているが、原子炉建屋5の外部に設置することも可能である。
【0024】
本発明は、妨害核種のγ線サムピークと測定対象核種のγ線ピークを弁別して燃料デブリの有無を推定する装置の構成と、燃料デブリの位置を推定する装置の構成とを含む。この2つの装置の構成について、以下に詳述する。
【0025】
(燃料デブリの有無の推定)
まず、妨害核種のγ線サムピークと測定対象核種のγ線ピークを弁別して燃料デブリの有無を推定する装置の構成について説明する。燃料デブリ12は、核燃料であるUやPu、核分裂生成物、溶融した炉内構造物から構成される。なお燃料デブリ12の元素の構成比や形状、幾何条件は燃料デブリ12の存在箇所によってばらつきがあると考えられる。燃料デブリ12の有無を検知するためには、燃料デブリ12に含まれる成分を検出することが必要となる。検出用の成分としてはCe‐144やEu‐154がある。例えば、米国スリーマイル島2号機の事故においてはCe‐144から放射されるγ線を計測することで、燃料デブリ12を調査したとする報告書もある。ただしCe‐144は半減期が短く(約239日)、現時点で測定対象として適切であるかは不明である。一方でEu‐154は半減期が長く(約8.6年)、燃料集合体内部の含有量も比較的多い。従って、燃料デブリ12の有無、すなわち、燃料デブリ12の発生と発生個所を推定する上では、Eu‐154を測定対象とすることが有効と考えられる。
【0026】
本実施例では、以下、Eu‐154を燃料デブリ12の有無の推定のための測定対象核種とする場合を例に説明する。ここでEu−154は123keV、723keV、873keV、1004keV、1274keVのγ線を放射する特徴を有する。
【0027】
これらの施設内にはバックグラウンドとして、核分裂生成物であるCs‐137、Cs‐134等や炉内構造物の放射化で生成されたCo‐60、Co‐58等が分布をもっていたるところに存在する。ここで、Cs‐137は662keVのγ線を放射し、半減期約30年で減衰する特徴を有する。Cs‐134は主に602keV、796keV、802keV、1365keVのγ線を放射し、半減期約2年で減衰する特徴を有する。また、Co‐60は1173keV、1332keVのγ線を放射し、半減期約5年で減衰する特徴を有する。Co‐58は主に511keV、811keVのγ線を放射し、半減期約70日で減衰する特徴を有する。これらのバックグラウンド環境下で測定対象であるEu‐154を検出するには、核種分析が可能なセンサを搭載した放射線検出器1を適用する必要がある。ここで適用されるセンサは、半導体検出器であれば、CdTe、CZT、TlBr、シンチレーション検出器であれば、LaBr(Ce)、LaCl(Ce)、LSO、LYSO、GAGG(Ce)、LuAG(Pr)、NaI(Tl)、YAP(Ce)、GSOのいずれかが用いられる。また、ガンマカメラや、LaBr(Ce)等のシンチレーション検出器を用いることができる。これらのセンサのいずれかを搭載した放射線検出器1の出力信号は、同軸ケーブルなどの耐ノイズ性が高い電気ケーブル2を介して、後段のγ線エネルギー分析部3に伝送される。
【0028】
図2は本発明に係る放射線計測装置を構成するγ線エネルギー分析部の一例を示す構成図であり、図3は本発明に係る放射線計測装置のγ線エネルギー分析部で得られたγ線エネルギー分布の一例を示す図である。図2に示されるように、γ線エネルギー分析部3は、電気ケーブル2を介して放射線検出器1より伝送された出力信号を整形する波形整形アンプ13、波形整形アンプ13の出力信号を引き延ばすパルスストレッチャー14、パルスストレッチャー14の出力信号をデジタル化するアナログデジタル変換器15、及びデジタル化された信号からγ線エネルギー分布17を形成し表示装置4へ分析されたγ線エネルギー分布17を伝送する処理部16から構成される。図3に示されるように、γ線エネルギー分布17は、横軸にγ線エネルギー、縦軸に計数値をとり、γ線エネルギー分析17からγ線ピーク18が観測可能であり、この分布からγ線ピークの計数値が導出可能である。なお、図2では、γ線エネルギー分析部3を、波形整形アンプ13、パルスストレッチャー14、アナログデジタル変換器15及び処理部16より構成する場合を示すがこれに限られない。例えば、γ線エネルギー分析部3を、電気ケーブル2を介して放射線検出器1より伝送される出力信号をデジタル化するアナログデジタル変換器15及び処理部16より構成してもよい。
【0029】
γ線エネルギー分析部3にはこの出力信号を処理するための信号処理時間が存在する。ここで信号処理時間とは1つの出力信号を処理するための時間であり、この時間内に入力された他の出力信号は計数されないことを意味する。一般的にγ線エネルギー分析部3の信号処理時間を決めているのは、アナログデジタル変換器15において前段のパルスストレッチャー14の出力信号をデジタル化し、波高値もしくはパルス積分値を読み込むためのデジタル変換時間である。このデジタル変換時間を短くする場合、次に信号処理時間を決めるのは波形整形アンプ13における波形整形時間である。本実施例では、一例としてデジタル変換時間は十分短いものとし、波形整形アンプ13における波形整形時間が信号処理時間を決める要因とした場合の処理方法を記載する。
【0030】
測定対象核種であるEu‐154を測定するためには、バックグラウンドにあるCs‐137、Cs‐134、Co‐60、Co‐58の影響を低減するアルゴリズムが必要である。ここで1000keV以下の領域ではバックグラウンドの核種のピークが多数存在していることと、それに伴うコンプトン分布も存在するため、この1000keV以下の領域でのγ線ピーク測定ではSN比の劣化が懸念される。そこで本実施例ではEu‐154が放射するγ線のエネルギーのうち、1274keVのγ線ピークを検出する場合を例に説明する。Eu‐154の1274keVのγ線ピークを検出する場合にバックグラウンドとなるのは、Cs‐134が放射する1365keVのγ線ピーク、Co‐60が放射する1332keVのγ線ピーク、及びCs‐134が放射する602keVのγ線とCs‐137が放射する662keVγ線のエネルギーの和で構成される1264keVサムピークである。なお、Csの同位体であるCs‐134が放射する602keVのγ線ピークとCs‐137が放射する662keVのγ線ピークが、放射線検出器1にて偶発的にほぼ同時に検出された時、1264keVのサムピークが出現する。ここで、上記したバックグラウンドとなる核種から放射されるγ線で形成されるサムピークには、例えばCs‐137が放射する662keVのγ線ピークとCs‐134が放射する569keVのγ線ピークから形成される1231keVのサムピーク、Cs‐137が放射する662keVのγ線ピークとCs‐134が放射する563keVのγ線ピークから形成される1225keVのサムピーク、Cs‐134が放射する602keVのγ線ピークとCs‐134が放射する569keVのγ線ピークから形成される1171keVのサムピーク、Cs‐134が放射する602keVのγ線ピークとCs‐134が放射する563keVのγ線ピークから形成される1165keVのサムピーク、Cs‐134が放射する796keVのγ線ピークとCs‐134が放射する475keVのγ線ピークから形成される1271keVのサムピーク、Cs‐134が放射する802keVのγ線ピークとCs‐134が放射する475keVのγ線ピークから形成される1277keVのサムピークがある。本明細書における実施形態では、上述のCs‐134が放射する602keVのγ線ピークとCs‐137が放射する662keVから形成される1264keVのサムピークを一例として以下説明する。
【0031】
また、測定対象核種であるEu‐154の1274keVのγ線ピークと、妨害核種であるCs‐134の1365keV及びCo‐60の1332keVγ線ピークとを弁別するには、放射線検出器1が有するエネルギー分解能が5%以下であることが望ましい。ここで放射線検出器1のエネルギー分解能は、図3に示すγ線ピーク18で得られた半値幅を測定対象のγ線エネルギーで除した値で表される。本実施形態では、測定対象Eu‐154のγ線ピーク18は、エネルギー分解能5%で、半値幅63.7keV(γ線エネルギー1274keV)であり、妨害核種であるCs‐134、Co‐60のγ線ピークの半値幅は約70keVであることから、エネルギー分解能5%でこれらのγ線ピークの弁別が可能となる。しかしながら、1264keVのサムピークは放射線検出器1として適用するセンサが有するエネルギー分解能、ここでは5%では弁別できない。このため、測定対象核種であるEu‐154のピーク弁別を可能とするためには、このサムピークによる影響を除外する必要がある。すなわち、サムピーク計数値を算出するためのアルゴリズムが必要である。さらにサムピークを構成する妨害核種は原子炉施設に大量に存在し、さらにその放射能分布は複雑で、経時変化で放射能分布や幾何条件が変化する環境に存在するものである。これらの環境でサムピーク計数値の算出を実現するため、本実施形態ではサムピーク計数率Nsumを式(1)で導出する。
【0032】
Nsum = N602keV × N662keV × ts ・・・(1)
ここで、γ線エネルギー分析部3で得られた602keVのγ線ピークのピーク計数率をN602keV、662keVのγ線ピークのピーク計数率をN662keVとし、γ線エネルギー分析部3の信号処理時間をtsとする。ここで、信号処理時間tsは、上述のように1つの出力信号を処理するための時間であり、波形整形アンプ13における波形整形時間である。従って、N602keV、N662keVは、それぞれ信号処理時間tsでの602keVのγ線ピークのピーク計数率、662keVのγ線ピークのピーク計数率となる。
【0033】
この式(1)を用いれば、放射線検出器1と放射線源との幾何条件やγ線の放射率、ベクレル数を考慮せずに、サムピークの寄与を算出可能である。サムピーク計数値を導出する場合は、測定時間tmをサムピーク計数率Nsumに乗ずることで導出する。なお、測定時間tmは、例えば、10sec、1min、1hr等適宜所望の時間が設定される。
【0034】
この算出結果に基づいて、測定対象(Eu‐154)のγ線ピーク計数値を算出する。これをγ線ピークネット計数率Nnetとするとき、Nnetを式(2)で導出する。
【0035】
Nnet = Ngross - Nsum ・・・(2)
ここで、γ線エネルギー分析部3で得られた1274keVγ線ピークのピーク計数率をNgrossとする。1274keVγ線ピークのピーク計数値を導出するには、測定時間tmをγ線ピークネット計数率Nnetに乗ずることで導出する。
【0036】
γ線エネルギー分析部3を構成する処理部16は、図示しない、CPU等のプロセッサ、プロセッサにより実行される各種プログラム及びデータを記憶する記憶部を備えている。式(1)及び(2)によるγ線ピークネット計数率Nnetの導出アルゴリズムはこの記憶部にプログラムとして格納されている。
【0037】
γ線エネルギー分析部3は、放射線検出器1より電気ケーブル2を介して入力される出力信号を測定時間tm分積算し、図3に示すγ線ピーク18のピーク計数値としてNgross×tmを得る。この計測されたピーク計数値(Ngross×tm)、記憶部に格納された式(1)及び式(2)により、測定対象核種であるEu‐154のγ線ピークネット計数率Nnetを処理部16が算出する。
【0038】
図4は信号処理時間とエネルギー分解能、サムピーク計数率の関係を示す。ここで信号処理時間19は波形整形アンプ13における波形整形時間とする。波形整形時間を短くすると、放射線検出器1の出力信号に含まれた情報を処理する時間が短くなるため、エネルギー分解能20は劣化する傾向がある。またサムピーク計数率21は式(1)で示したように、信号処理時間19が短いほど低減する傾向にある。すなわち、エネルギー分解能20は信号処理時間19に反比例し、サムピーク計数率21は信号処理時間19に比例する。また、Eu‐154の1274keVγ線ピークと、Cs‐134の1365keV及びCo‐60の1332keVγ線ピークとを弁別するためのエネルギー分解能設定領域22を上述のように仮に、5%以下に維持する場合を想定する。この場合、図4に示されるように、信号処理時間設定領域23を0.05μsから10μsの間に設定する。ただし、放射線検出器1に適用するセンサによっては、信号処理時間設定領域23の下限値0.05μsでエネルギー分解能設定領域22の上限値5%を上回る可能性がある。この場合は、エネルギー分解能設定領域22の上限値5%を満足する範囲で信号処理時間設定領域23を設定する。
【0039】
図4において、サムピーク計数率21は、単位時間あたりのサムピーク計数値であり、サムピークは、上述の通り、偶発的にほぼ同時に複数のγ線が放射線検出器1により検出されることにより生じるものである。従って、その発生確率であるサムピーク計数率21は信号処理時間に比例し、妨害核種のサムピーク計数率21はいずれの放射性核種においても同様に信号処理時間に比例する関係を有する。また、本実施例では、Csの同位体であるCs‐134、Cs‐137から放射される2つのγ線によるサムピークを例に説明したが、サムピークは、異なる放射性核種から放射された複数のγ線が放射線検出器1にて同時に検出される場合、異なる場所に存在する同一の放射性核種より放射された複数のγ線が放射線検出器1にて同時に検出される場合にも同様に生じる。また、サムピークは2つのγ線に限らず複数のγ線が同時に放射線検出器1にて検出される場合も同様となる。
【0040】
なお、γ線エネルギー分析部3によるNsumの算出を、記憶部に格納された式(1)により実行するものとしたが、上述の通りサムピーク計数率21は、妨害核種の種類に依らず信号処理時間に対し比例関係にあることから、図4に示すグラフを関数として、記憶部に格納してもよい。この場合、γ線エネルギー分析部3を構成する波形整形アンプ13の波形整形時間が式(1)における信号処理時間tsに対応し、Nsumは、波形整形時間及びこの関数より一義的に得ることができる。
【0041】
また、図4において信号処理時間の設定にかかわるエネルギー分解能の上限値を5%としたが、これに限らず、例えば、7%又は8%としてもよい。
【0042】
本実施例の放射線計測装置では、放射線検出器1、電気ケーブル2、γ線エネルギー分析部3、表示装置4を備え、γ線エネルギー分析部3において、γ線エネルギー分析部3で得られたγ線ピーク18のピーク計数値と信号処理時間19、測定対象のγ線ピークのピーク計数値(Ngross×tm)から式(1)及び(2)を用いて、測定対象のγ線ピークネット計数率(Nnet)を導出する。
【0043】
本実施例によれば、妨害核種のサムピークを測定対象核種のγ線ピークより弁別可能となる。これにより、原子炉格納容器6、原子炉圧力容器7、原子炉圧力抑制室9、トーラス室10等の原子炉施設に大量に存在し、さらにその放射能分布は複雑で、経時変化で放射能分布や幾何条件が変化する可能性がある環境において、燃料デブリ有無の推定が可能となる。
【0044】
(燃料デブリの位置の推定)
次に、燃料デブリの位置を、短時間で精度良く推定する装置の構成について説明する。
【0045】
図9Aは実施例1の放射線計測装置を模式的に示す平面図であり、図9B図9Aにおいて、コリメータ91を前面(放射線の入射側)に移動した状態を示す平面図である。図9Aに示したように、本発明に係る放射線計測装置は、放射線検出器1、放射線検出器1を覆う遮蔽体25、放射線検出器の前面(放射線の入射側)に配置され、放射線の通路を有し、放射線検出器に入射する放射線の視野角(入射方向)を制限するコリメータ91、コリメータ91と放射線検出器1の視野角95aを制御するためにコリメータ91を放射線検出器1に対して(放射線検出器1及び遮蔽体25に対して)前後に移動させるコリメータ駆動手段としてコリメータ駆動機構92a及び92b、γ線エネルギー分析部3、表示装置4及び電気ケーブル2とを備えている。放射線検出器1、遮蔽体25、コリメータ91及びコリメータ駆動機構92a及び92bで構成されるものを放射線計測ヘッド90とよぶ。
【0046】
放射線検出器1としては、ガンマカメラやCdTe等の半導体検出器やLaBr(Ce)シンチレーション検出器を用いることができる。遮蔽体25は視野外からの放射線の放射線検出器1への入射を遮断する。遮蔽体25として鉛製が好適である。
【0047】
コリメータ91は放射線検出器1の前面に配置され、中空円筒形状の放射線の通路96を有し、視野外からの放射線の放射線検出器1への入射を遮蔽して、放射線検出器1へ入射する放射線(γ線)の視野角(入射方向)を制限する。コリメータ91の材料としてはタングステンまたは鉛等、放射線遮蔽体となるものが好適である。
【0048】
コリメータ駆動機構92a及び92bは、放射線検出器1及び遮蔽体25に対してコリメータ91を前後に移動させることにより、放射線検出器1に入射する放射線の視野角95aを可変にする。コリメータ駆動機構92a及び92bとしては、特に限定は無いが、例えばボールねじ等の直動機構が好適である。このとき、放射線検出器1に対するコリメータ91の位置は、モータ(図示せず)に取り付けられたエンコーダ等(図示せず)の位置センサによりγ線エネルギー分析部6に伝送される。放射線検出器1により測定された放射線は、電気信号に変換され、γ線エネルギー分析部6に伝送され、所定のエネルギー幅でヒストグラム化される。このヒストグラム化されたエネルギースペクトルは表示装置7に伝送され、表示される。ここで、γ線エネルギー分析部6は前述した本発明に係る構成のものを用いる。表示装置7の構成は、放射線検出器1の種類により異なることは言うまでもない。
【0049】
図9Bは、図9Aにおいてコリメータを前面に移動した状態を示す図である。コリメータ91と放射線検出器1との距離を離すことにより、視野角は95aから視野角95bに変化し、放射線検出器1に入射する放射線の視野角が制限される。このとき、視野外から入射する放射線が測定の妨害にならないように遮蔽体25とコリメータ91を構成するように注意する必要がある。初めは、図9Aのように視野角95aがより広い状態(放射線計測範囲がより広い状態)で測定を行い、対象となる放射線が検出されない場合は、別の計測範囲に移動し、対象となる放射線が検出された場合は、さらに詳細に線源位置を同定すべく、図9Bのように視野角95bがより狭い範囲で測定を行う。このように、測定の1番目の工程として、測定対象となる放射線の検出をより広い範囲で行うことで、測定対象となる放射線を検出するまでの測定回数を少なくすることが可能となり、全体の測定時間が短縮される。さらに、測定の2番目の工程として、視野角を狭くすることにより、放射線源や燃料デブリの位置の推定精度も向上できる。
【0050】
図9Cは実施例1のコリメータの放射線の通路の他の一例を模式的に示す平面図である。放射線の通路は図9Aに示したような中空円筒形状に限定されるものではなく、例えば図9Cに示すように、放射線が放射線検出器に入射する方向に沿って、通路の径が単調減少する中空円錐台形状を有するものであってもよい。図9Aに示した通路96は、コリメータ91の遮蔽体部分(通路96以外の部分)がより多くなるため、視野外から入射する放射線を遮蔽する効果がより高くなる結果、より高感度な検出を行うことができる。一方、図9Cに示した通路96´は、コリメータ91´を構成する遮蔽体部分(通路96´以外の部分)がより少ないため、コリメータ91´をより軽量化することができる。したがって、放射線の通路の形状は、上記高感度検出やコリメータの軽量化等の目的に応じて適宜選択されることが好ましい。なお、コリメータの放射線の通路の形状は上述したものに限定されず、放射線の通路となればどのような形状であってもよい。
【実施例2】
【0051】
図10Aは実施例2の放射線計測装置を模式的に示す平面図であり、図10B図10Aにおいてコリメータを前面に移動した状態を示す平面図である。図10A及び図10Bに示した放射線計測ヘッド90´´は、上述した図9Aの放射線計測ヘッド90の構成において、コリメータ91の形状を変更したものである。本実施例では、コリメータの放射線の通路96´´は、放射線が放射線検出器に入射する方向に沿って、放射線の入射側から順に第1の通路部分100及び第2の通路部分101とから構成される。第1の通路部分100は、放射線が放射線検出器に入射する方向に沿って、通路の径が単調減少する中空円錐台形状を有する。また、第2の通路部分101は、中空円筒形状を有する。このような形状により、視野角95a及び95bの差をより大きくすることができ(視野角95aを実施例1の態様よりも大きくすることができ)、さらに測定回数を少なくすることが可能となり、全体の測定時間も短縮される。
【0052】
次に、上記第1の通路部分100及び第2の通路部分101の好ましい寸法について説明する。図10C図10Aのコリメータの平面図である。ここで、図10Cに示した各寸法の関係式は、下記のとおりである。
L1=t1/tanα ・・・(5)
t3=t2−(t2−t1)/2 ・・・(6)
α=atan(t3/L0) ・・・(7)
したがって、有効な視野角αは、t1、t2及びL0の寸法が決まれば自然に決まり、第2の通路部分101の長さ(L1)が決定される。第1の通路部分100(L0)は、コリメータのサイズ及びコリメータの重量等を考慮し決定されることが好ましい。
【実施例3】
【0053】
図11Aは実施例3の放射線計測装置を模式的に示す平面図であり、図11B図11Aにおいてコリメータを前面に移動した状態を示す平面図である。図11A及び図11Bに示した放射線計測ヘッド90´´´は、上述した図10Aの放射線計測ヘッド90´´の構成において、コリメータと遮蔽体の構造(コリメータと遮蔽体の隙間の構造)を変更した構成図である。本実施例では、コリメータ91´´´は、胴部104と、胴部104の前記放射線検出器側の端部に設けられ、遮蔽体25´に向かって突出する第1のフランジ部102とを有する。また、遮蔽体25´は、放射線の入射側の端部に設けられ、胴部104に向かって突出する第2のフランジ部103を有する(上面から見たときに胴部104と第1のフランジ部102の稜線がクランク形状を呈する)。このような構成にすることで、胴部104と第2のフランジ部103との間から侵入した視野角外の放射線が、胴部104と遮蔽体25´との間で減衰されるため、視野角外から入射する放射線の影響を低減し、測定精度を向上することができる。この結果、放射線測定精度及び放射線源と燃料デブリの位置の推定精度も向上できる。さらに、コリメータ91´´´を前面に移動する際に、第1のフランジ部102及び第2のフランジ部103とがストッパーとなり、遮蔽体25´から完全に離脱することがない。
【0054】
図11Cは実施例3の放射線計測装置の他の一例を模式的に示す平面図である。図11Cに示したように、上述したコリメータの形状及び遮蔽体の形状は、放射線通路が中空円筒形状のものである場合にも適用できることは言うまでもない。
【実施例4】
【0055】
図12Aは実施例4の放射線計測装置の一例を模式的に示す平面図であり、図12B図12Aにおいてコリメータを前面に移動した状態を示す平面図である。図12A及び図12Bに示した放射線計測ヘッド90´´´´´は、上述した図9Aの放射線計測ヘッド90の構成において、コリメータ91´´´´´が、遮蔽体25´´を覆う形状としたものである。
【実施例5】
【0056】
図5は本発明に係る放射線計測装置の一例を模式的に示す構成図である。本実施形態では、上記図9Aで説明した放射線測定装置のコリメータ91の放射線が入射する側に、放射線の通路を塞ぐシャッター用遮蔽体26を設け、シャッターの開閉によってバックグラウンド低減を図る構成としたものである。図5に示すγ線エネルギー分析部3は実施例1と同様である。
【0057】
図5に示されるように、放射線計測装置はシャッター用遮蔽体26と、シャッター用遮蔽体駆動手段(シャッター用遮蔽体26を駆動する駆動装置27及び駆動装置27を制御する制御装置28)をさらに有する。シャッター用遮蔽体駆動手段の設置場所は図5に示した態様に限られず、コリメータ91に設けられていてもよいし、遮蔽体25に設けられていてもよい。
【0058】
図6は実施例5の放射線計測装置のγ線エネルギー分析部で得られたγ線エネルギー分布の一例を示す図であり、シャッターのon/offによるγ線エネルギー分布の例を示す。図6において、点線29で示すγ線エネルギー分布は、シャッター機構をon、すなわち、駆動装置27によりシャッター用遮蔽体26を駆動し入射するγ線量を制限したときに得られる分布を示している。また、実線30で示すγ線エネルギー分布は、シャッター機構をoffとしたときに得られる分布を示している。シャッターを適用することで遮蔽効果が増強されるため、γ線エネルギー分布29のようにγ線ピークの計数値はシャッターoffの条件で得られたγ線エネルギー分布30と比較して低減される。これらの条件で得られたγ線エネルギー分布から、それぞれの条件で得られた測定対象のγ線ピークネット計数率をNneton及びNnetoffとする。これは実施例1で述べた式(1)及び(2)で導出するものである。シャッター用遮蔽体による測定対象のγ線の減衰率をD1とする。これより遮蔽効果有無を考慮したγ線ピークネット計数率Nsを式(3)で導出する。
【0059】
Ns = Nneton/D1 ・・・(3)
具体的には、放射線測定装置を構成するγ線エネルギー分析部3は、シャッターоnの条件で、放射線検出器1より電気ケーブル2を介して入力される出力信号を測定時間tm分積算し、測定対象のγ線ピークのピーク計数値としてNgrossoff×tmを得る。その後、実施例1と同様に、γ線エネルギー分析部3内の図示しない記憶部に格納された式(1)により、例えば、波形整形時間tsによりサムピーク計数率Nsumを求め、式(2)の演算を実行することにより、Nnetonを算出する。このNnetonを予めγ線エネルギー分析部のデータベースに準備されたD1を用いて式(3)に従い処理することで、Nsを導出する。
【0060】
また、シャッターのon/offによる計数率を差分し、遮蔽効果有無を考慮したγ線ピークネット計数率Nsを式(4)で導出する手法もある。
【0061】
Ns = (Ngrossoff − Ngrosson)− (N602keVoff × N662keVoff × ts) ・・・(4)
ここで、シャッターoffのときに得られた1274keVγ線ピークのピーク計数率をNgrossoffとする。また602keVのγ線ピークのピーク計数率をN602keVoff、662keVのγ線ピークのピーク計数率をN662keVoffとする。また、放射線測定装置を構成するγ線エネルギー分析部3は、シャッターoffの条件で、放射線検出器1より電気ケーブル2を介して入力される出力信号を測定時間tm分積算し、測定対象のγ線ピークのピーク計数値としてNgrossoff×tmを得る。その後、駆動装置27によりシャッター用遮蔽体26を駆動し、上記したようにシャッターоnの条件でデータを収集する。式(4)を用いた導出方法は、シャッター遮蔽体による遮蔽効果によって、測定対象のγ線エネルギーが十分減衰され、ピークとして導出できない場合に、バックグラウンド成分を効果的に除去するために有効である。なお、実施例1と同様に、γ線エネルギー分析部3内の処理部16の記憶部に、式(3)及び式(4)による遮蔽効果有無を考慮したγ線ピークネット計数率Nsの導出アルゴリズムをプログラムとして格納しており、これらの導出アルゴリズムは任意に選択可能である。
【0062】
このように、本実施例では、測定対象核種のγ線ピークネット計数率Nsを求めることにより、上述した実施形態に比較し、図3に示すγ線ピーク18中の斜線部にて示されるバックグランド成分の影響を低減できる。
【0063】
なお、本実施例では、2周期分の測定によりNsを算出する構成としたが、これに限られず、シャッターonの条件での測定時間を、シャッターoffの条件での測定時間より短時間に設定してもよい。
【0064】
以上のとおり本実施例では、コリメータ91と遮蔽体25、シャッター用遮蔽体26、駆動機構27、制御装置28を備え、シャッターon/offの条件で得られたγ線測定値から遮蔽効果有無を考慮した測定対象核種によるγ線ピークネット計数率が導出される。
【0065】
本実施例によれば、上述した実施形態の効果に加え、測定対象核種によるγ線ピーク検出においてバックグランド成分を低減でき、高精度な放射線計測が可能となる。さらに、本実施例にコリメータ駆動機構92a、92bを追加することにより、測定時間も短縮可能となり、デブリの推定精度も向上可能となる。
【実施例6】
【0066】
図7は本発明に係る放射線計測装置の他の一例を模式的に示す構成図である。図7において、実施例1と同様の構成要素に同一の符号を付している。本実施例では、放射線計測装置を構成する放射線検出器1を移動機構に搭載し、作業員によるアクセスが困難な区画での燃料デブリ12の有無の推定を可能とした点が、上述した実施形態と異なる。
【0067】
図7に示されるように、放射線検出器1を搭載する移動機構31、移動機構31を遠隔にて制御可能とする移動機構用制御装置32を備える。移動機構31は、例えば、クローラ又は車輪等の陸上移動機構及びスラスタ等の水中移動機構を備え水陸両用の移動機構である。移動機構用制御装置32は、原子炉建屋外又は原子炉建屋内の比較的低線量率の環境下に設置され、作業員から指示入力に応じて、移動機構31に搭載された放射線検出器1を狭隘部、水中あるいは高線量率の環境で所望の位置に移動する。
【0068】
図7に示す放射線計測装置を構成するγ線エネルギー分析部3及び表示装置4は、移動機構制御装置32と同様に、原子炉建屋外又は原子炉建屋内の比較的低線量率に環境下に設置される。
【0069】
作業員によるアクセスが困難な区画等へ、移動機構用制御装置32により放射線検出器1を位置決め後、測定対象のγ線ピークネット計数率Nnet又は遮蔽効果を考慮したγ線ピークネット計数率Nsを、それぞれ実施例1、実施例2と同様にγ線エネルギー分析部3内の処理部16が算出する。
【0070】
本実施例によれば、実施例1の効果に加え、水中や高線量率、狭隘部などの作業員が侵入困難な区画において、燃料デブリの有無の推定を高精度に実現できる。
【実施例7】
【0071】
図8に本発明の他の実施例に係る放射線計測装置の構成図を示す。実施例1と同様の構成要素に同一の符号を付している。本実施例では、実施例1に示した放射線検出器に加え、中性子検出器を並列に接続し、測定対象のγ線ピーク測定と自発核分裂で生じる中性子をそれぞれ計測することで、燃料デブリ有無の推定の確度を向上するものである。
【0072】
図8に示すように、中性子検出器33と中性子分析部35、放射線検出器1とγ線エネルギー分析部3を並列に処理部36に接続すると共に、処理部36による処理結果を表示装置4から放射線計測装置を構成している。中性子検出器33は、燃料デブリ12に含まれるU、Pu、Cmなどの自発核分裂で生じる中性子を検出する。中性子検出器33の出力信号は電気ケーブル34を介して、中性子分析部35に伝送され、中性子分析部35において中性子による計数率を導出する。処理部36は中性子による計数率と、測定対象であるEu‐154γ線の計数率を処理し、その結果を表示装置4に表示する。これらの構成で中性子による計数率を検知した場合は、その測定領域に燃料デブリ12が存在する可能性があるといえる。さらに測定対象であるEu‐154による計数率が測定された場合には、高い確度で燃料デブリ12が存在する可能性がある。
【0073】
なお、中性子検出器33は、例えば、半導体検出器、ガス検出器、シンチレーション検出器が用いられる。
【0074】
γ線エネルギー分析部3によるEu‐154γ線ピークネット計数率Nnetの算出は実施例1と同様に行われる。また、放射線検出器1を遮蔽体25の内部に収容し、コリメータ及びシャッター機構を設け、遮蔽効果を考慮したγ線ピークネット計数率Nsを実施例5と同様に算出するよう構成してもよい。
【0075】
本実施例によれば、測定対象核種のγ線及び中性子による計数率を収集することで、仮に、測定対象核種のγ線が検出されず中性子のみが検出される状況、あるいは、中性子が検出されず測定対象核種のγ線のみが検出される状況であっても燃料デブリの有無を推定することができる。
【0076】
また、上述のように中性子による計数率から燃料デブリの有無を推定し、更に、測定対核種のγ線による計数率から燃料デブリ有無の推定確度を向上することができる。
【実施例8】
【0077】
本実施例では、上述した本発明に係る放射線計測装置を移動装置に搭載して燃料デブリの検知を行う実施の形態を、原子炉建屋地下階のトーラス室を例にとり、図13A図15を用いて説明する。図13Aは本発明に係る燃料デブリの有無及び位置測定装置の一例を模式的に示す図であり、図13B図13Aの部分拡大図である。図13Aでは、トーラス室130が半分ほど水没した状態であり、サプレッションチェンバ131もほぼ満水であり、トーラス室130の床面とサプレッションチェンバ131内に燃料デブリ12が複数箇所に存在しており、それぞれの燃料デブリ12を燃料デブリの有無及び位置測定装置140(以下、燃料デブリ検知装置140と称す)が検知した状況を示している。燃料デブリ検知装置140は、上述した本発明に係る放射線計測装置を搭載し、放射線計測ヘッド141を回転機構部142と組み合わせて移動装置143に搭載された構成である。回転機構部142及び移動装置143の各駆動部(図示せず)は、制御装置(図示せず)により、それぞれ指令を受け取り駆動される。移動装置143には、カメラ(図示せず)が少なくとも1台、装置前方に搭載されており、その映像をもとに操作が行われる。デブリ12の検知も、上述した実施例と同様に、先に視野角が広い状態(95a)で測定を行い、燃料デブリ12と思われるものが検知されると、視野角を絞った状態(95b)で測定を行う。
【0078】
図14は放射線源の3次元マップを作成する手順を示す図であり、図15は放射線源の3次元マップを作成するシステムブロック図である。以下、図14及び図15を用いて、具体的な燃料デブリ12の有無及び位置推定手順を説明する。燃料デブリ検知装置140には、ジャイロセンサや傾斜計、及びソナー等の位置センサ群(図示せず)が搭載されている。燃料デブリ検知装置140をトーラス室内に投入した際に、投入された位置において、前後左右の各壁面との距離をソナーにより測定し、ジャイロセンサから方位を割り出す。初期位置データ入力手段150により、位置センサ群データ格納部31に保存されたソナーとジャイロセンサの位置データを移動装置位置推定部32に送り、CADデータ格納部33のCADデータをCADデータ読み出し部が読み出し、移動装置推定部32に送り、移動装置位置推定部32において、CADデータ内に位置センサ群の位置データが読み込まれ、デブリ検知装置20の推定位置がCADデータ上に表示される。
【0079】
このとき、同時にCADデータ内での推定された燃料デブリ検知装置140に搭載されたカメラの仮想映像が仮想映像表示部35に表示される。この映像から抽出した特徴量と燃料デブリ検知装置140に搭載したカメラ映像から抽出した特徴量を移動装置位置修正部37において画像処理を行い、誤差を算出し、その結果を移動装置位置推定部32に反映し、燃料デブリ検知装置140の位置を更新する。
【0080】
燃料デブリ検知を行う際には、測定位置において、位置センサ群データ読み取り手段151において、ソナー、ジャイロ、カメラ映像のデータを位置センサデータ格納部31に保存する。次に、自己位置推定手段152において、移動装置推定部32において、初期位置推定時と同様にして、デブリ検知装置20の自己位置を更新する。
【0081】
次に、放射線計測位置推定手段153において、回転機構部11の図示しない位置センサデータとコリメータ駆動機構92a及び92bの位置センサデータを放射線計測位置推定部で読み込み、放射線検出器1の視野角と測定範囲を算出する。最後に、放射線データ登録手段154により、放射線源マッピング部において、CADデータに存在する測定範囲の構造物と照合し、放射線検出器1からの距離と各構造物の密度から、放射線の減衰を考慮して、構造物上にデブリが存在した場合のデブリ位置と強度を推定する。ここで、放射線計測ヘッド90の測定範囲を計測するために、カメラを回転機構部142に取り付けておくと、デブリ位置と強度の推定を容易にすることができる。
【0082】
以上の測定を繰り返して、データを蓄積することにより、より少ない測定回数により、効率的に燃料デブリの位置同定精度を向上することができる。
【0083】
なお、本明細書において測定対象核種としてEu‐154を一例として説明したがこれに限られるものではなく、他の放射性核種を測定対象核種としてγ線による計数率により燃料デブリの有無を推定するよう構成してもよい。
【0084】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の実施例の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0085】
1…放射線検出器、2,34…電気ケーブル、3…γ線エネルギー分析部、4…表示装置、5…原子炉建屋、6,133…原子炉格納容器、7…原子炉圧力容器、8…原子炉水再循環系、9…原子炉圧力抑制室、10…トーラス室、11…貫通部、12…燃料デブリ、13…波形整形アンプ、14…パルスストレッチャー、15…アナログデジタル変換器、16,36…処理部、17、29、30…γ線エネルギー分布、18…γ線ピーク、19…信号処理時間、20…エネルギー分解能、21…サムピーク計数率、22…エネルギー分解能設定領域、23…信号処理時間設定領域、25,25´…遮蔽体、26…シャッター用遮蔽体、27…駆動装置、28…制御装置、31…移動機構、32…移動機構用制御装置、33…中性子検出器、35…中性子分析部、90,90´,90´´,90´´´,90´´´´,90´´´´´,141…放射線計測ヘッド、91,91´,91´´,91´´´,91´´´´,91´´´´´…コリメータ、92a,92b…コリメータ駆動機構、95a,95b…視野角度、96,96´,96´´…放射線の通路、100…第1の通路部分、101…第2の通路部分、102…第1のフランジ部、103…第2のフランジ部、104…胴部、130…トーラス室、131…サプレッションチェンバ、132…ベント管、140…燃料デブリの有無及び位置測定装置、142…回転機構部、143…移動装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図10A
図10B
図10C
図11A
図11B
図11C
図12A
図12B
図13A
図13B
図14
図15