(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記多孔部および前記外気導入穴に連通する連通空間と、閉空間とに前記空間を仕切る仕切部材をさらに有することを特徴とする請求項1又は2に記載のエンジンフード。
前記外気導入穴から前記空間内に導入した外気が前記空間内を流動する流れの最も下流側の位置において、前記多孔部が前記インナパネルに設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のエンジンフード。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0013】
[第1実施形態]
(車両の構成)
本発明の第1実施形態によるエンジンフード1は、
図1に示すように、自動車等の車両10に設けられている。車両10は、矢印で示す前進方向に見て、前部にエンジンルーム11を備えている。このエンジンルーム11内には、前側から後側に向かって、ラジエータ12、冷却ファン13、エンジン14が、この順番で配置されている。また、エンジンルーム11の前方を区画する前壁15には、エンジンルーム11内に外気を導入する外気導入口16が設けられている。そして、エンジンルーム11の上方は、エンジンフード1により開閉可能に覆われている。エンジンルーム11の後方は運転者が運転を行う車室17となっている。
【0014】
(エンジンフードの構成)
本実施形態のエンジンフード1は、金属製であって、アウタパネル2と、インナパネル3と、を有している。アウタパネル2は、エンジンフード1の外側部分を構成している。インナパネル3は、アウタパネル2との間に空間4を形成するようにアウタパネル2に溶接等で接合されており、エンジンフード1の内側部分を構成している。
【0015】
インナパネル3には、多数の貫通孔を有する多孔部3aが設けられている。この多孔部3aは、空間4に連通している。多孔部3aにおける貫通孔の直径は、例えば0.3〜5mmであり、好ましくは1mm以上である。貫通孔の直径が1mm以上であれば、後述する
外気が貫通孔を好適に通過することができる。また、多孔部3aの開口率は、例えば1〜5%程度である。なお、貫通孔の直径や開口率は、これらに限定されない。
【0016】
また、インナパネル3のエンジンルーム11側の面には、吸音材18が取り付けられている。この吸音材18は、グラスウール等の多孔質材料からなり、多孔部3aよりも後方に配置されるとともに、エンジン14に対向配置されることで、エンジンルーム11内の騒音、特に、高周波帯域の騒音を吸音する。
【0017】
また、エンジンフード1には、外気を空間4内に導入する外気導入穴5が設けられている。この外気導入穴5は、多孔部3aよりも前方の位置、本実施形態ではエンジンフード1の前側の端部に設けられている。なお、外気導入穴5は、アウタパネル2とインナパネル3との境界に設けられていてもよいし、アウタパネル2に設けられていてもよいし、インナパネル3に設けられていてもよい。本実施形態において、外気導入穴5は、インナパネル3に設けられている。
【0018】
エンジンフード1に外気導入穴5を設けることで、車両10が前進方向に前進した際に、車両10の前方から後方に向かって流れる外気の一部が外気導入穴5から空間4内に導入されることとなる。そして、空間4内に導入された外気は
、多孔部3aの貫通孔を通過してエンジンルーム11内に導入され、エンジンルーム11に連通する図示しない複数の通気口からエンジンルーム11外に排出されることとなる。
【0019】
また、エンジンフード1は、空間4内に一対のガイド6を有している。エンジンフード1を下方から見た図である
図2に示すように、一対のガイド6は、外気導入穴5から空間4内に導入した外気を多孔部3aの方に導くものである。
【0020】
また、エンジンフード1は、多孔部3aおよび外気導入穴5に連通する連通空間4aと、閉空間4bとに空間4を仕切る仕切部材7を有している。ここで、連通空間4aの容積の大きさによって、多孔部3aと連通空間4aとで構成するヘルムホルツ型の共鳴器が吸音対象とする共鳴周波数が変わる。共鳴周波数は、連通空間4aの容積が大きいほど低い周波数となる。そこで、仕切部材7で空間4を仕切ることで、多孔部3aと連通空間4aとで構成するヘルムホルツ型の共鳴器が吸音対象の周波数の騒音を吸音するように、連通空間4aの容積が最適化されている。
【0021】
また、インナパネル3のエンジンルーム11側の面には、シール部材20が取り付けられている。このシール部材20は、
図1に示すように、エンジンルーム11の上方がエンジンフード1で覆われた際に、エンジンルーム11の前方を区画する前壁15の上端から後方に向かってせり出してインナパネル3に対向している上壁19と、インナパネル3との間の隙間をシールする。これにより、車両10が前進した際に、外気は上壁19とインナパネル3との間の隙間を通ってエンジンルーム11内に導入されることなく、外気導入穴5を通って空間4内に導入されることとなる。
【0022】
また、
図1の要部Aの拡大図である
図3Aに示すように、インナパネル3には、外気を外気導入穴5の方に導く上流側ガイド3bが設けられている。この上流側ガイド3bは、外気導入穴5の下方から前進方向(
図1参照)の後方にわたって設けられている。そして、上流側ガイド3bの図中左端が外気導入穴5から離隔されて上壁19の近傍に位置しているとともに、図中右端がインナパネル3に接続されている。上壁19とインナパネル3との間に侵入した外気は、上流側ガイド3bによって外気導入穴5の方に導かれて、外気導入穴5を通過し、空間4内に導入されることとなる。このように、上流側ガイド3bで外気を外気導入穴5の方に導くことで、外気導入穴5から外気を取り込みやすくなる。
【0023】
なお、
図1の要部Aの拡大図である
図3Bに示すように、上壁(壁部)19に上流側ガイド19bを設けてもよい。この上流側ガイド19bは、上壁19の外気導入穴5に対向する部分に、外気導入穴5に向かって凸状に設けられている。そして、上流側ガイド19bは、外気導入穴5の下方から前進方向(
図1参照)の後方にわたって外気導入穴5に向かって傾斜する斜面を有しており、この斜面と外気導入穴5との間が外気導入路となっている。このような上流側ガイド19bであっても、外気導入穴5から外気を取り込みやすくなる。
【0024】
ここで、本実施形態の概念図を
図4に示す。音響管21の一端には、音源としてのスピーカ22が取り付けられており、音響管21の内部には、多数の貫通孔を有する多孔板23が設置されている。また、音響管21の他端には、外気導入穴24が設けられている。スピーカ22がエンジン14に相当し、スピーカ22と多孔板23との間の空間Aがエンジンルーム11内に相当し、多孔板23と音響管21の他端との間の空間Bがアウタパネル2とインナパネル3との間の空間4(連通空間4a)に相当している。
【0025】
このような構成において、
図1に示すように、エンジン14が稼動するとエンジンルーム11内で騒音が発生し、エンジンルーム11内からエンジンルーム11外である車室17外、車室17内へと騒音が伝搬する。このとき、アウタパネル2とインナパネル3との間の空間4が多孔部3aを介してエンジンルーム11に連通しているため、中空のエンジンフード1がヘルムホルツ型の共鳴器として作用する。これにより、エンジンルーム11内の低周波帯域の騒音を低減させることができる。
図4においては、多孔板23と空間Bとがヘルムホルツ型の共鳴器として作用する。
【0026】
しかしながら、ヘルムホルツ型の共鳴器は、基本的に単一の周波数(共鳴周波数)に対してのみ作用する。そこで、本実施形態においては、インナパネル3に設けた多孔部3aの多数の貫通孔でエンジンルーム11内の低周波帯域の騒音を幅広く吸音するようにしている。即ち、エンジン14からの音波が貫通孔を通過する際に、貫通孔の内壁面との摩擦により音波エネルギーの一部が熱エネルギーに変換される。また、音波が貫通孔を通過すると、音波の交番流により貫通孔の出入口に渦が発生して圧力損失が生じる。これらにより、孔部による減衰が大きくなり、エンジンルーム11内の低周波帯域の騒音が幅広く低減される。
図4においては、多孔板23の貫通孔を通過する音波が低減される。
【0027】
さらに、本実施形態においては、
図1に示すように、外気導入穴5から空間4内に導入された外気
が貫通孔を通過するようにしている。この
外気が貫通孔を通過する際に発生する渦によって、エンジン14からの音波も貫通孔を通過する際に同時に減衰する。その結果、孔部で損失する音波エネルギーが大きくなるので、音波の低減が増大し、幅広い低周波帯域において吸音率が上昇する。これにより、エンジンルーム11内の低周波帯域の騒音を幅広く低減させることができる。
図4においては、外気導入穴24を通って多孔板23を貫通する
外気により、音波の低減が増大する。そのため、スピーカ22から出力されて多孔板23で反射した音波は、スピーカ22から出力された音波よりも小さくなっている。
【0028】
なお、音波は縦波(疎密波)であるので、
外気の流れる方向が音波の進行方向と同じであっても逆であっても、
外気が貫通孔を通過する際に発生する渦によって、音波も貫通孔を通過する際に同時に減衰する。ただし、
図1において、
外気の流れる方向を音波の進行方向と同じ方向にした場合(矢印の方向とは逆の方向にした場合)、
外気は圧力損失が低いところに流れようとするため、
外気は、貫通孔よりも、エンジンルーム11に連通する図示しない複数の通気口の方に流れようとする。その結果、
外気は貫通孔をほとんど通過せず、
外気の流れによる効果は小さくなる。一方、
外気の流れる方向が音波の進行方向と逆である本実施形態の場合、
外気は貫通孔を通過する以外に行き場がないので、
外気は貫通孔を好適に通過し、その結果、
外気の流れによる効果は大きくなる。
【0029】
また、
図1に示すように、外気導入穴5を、多孔部3aよりも前方の位置において、エンジンフード1に設けることで、車両10の走行時に外気導入穴5から連通空間4a内に常に外気が導入されるようにすることができる。これにより、車両10の走行時に、
外気が常に貫通孔を通過するようになるので、音波の低減を好適に増大させることができる。
【0030】
また、
図2に示すように、空間4を連通空間4aと閉空間4bとに仕切る仕切部材7によって、連通空間4aの容積を変化させることができる。これにより、多孔部3aと連通空間4aとで構成するヘルムホルツ型の共鳴器が吸音対象の周波数の騒音を吸音するように、連通空間4aの容積を最適化することができる。
図4においては、空間Bの容積が最適化されている。
【0031】
また、
図2に示すように、外気導入穴5から連通空間4a内に導入した外気を、ガイド6で多孔部3aの方に導いて、確実に貫通孔を通過するようにすることで、貫通孔を通過する
外気の流れを好適に生じさせることができる。
【0032】
また、
図3Aおよび
図3Bに示すように、上流側ガイド3b,19bで外気を外気導入穴5の方に導くことで、外気導入穴5から外気を取り込みやすくなる。その結果、外気導入穴5からより多くの外気を取り込むことができる。
【0033】
(吸音率測定)
次に、
図5に示す音響管実験装置30を用いて、多孔板を通過する
外気による吸音率の変化を測定した。一端にスピーカ32が取り付けられた音響管31の内部に、多数の貫通孔を有する多孔板33を設置し、音響管31内に気流を流通させることで
外気が多孔板33を通過する場合と、音響管31内に気流を流通させないことで
外気が多孔板33を通過しない場合とで、スピーカ32からの音をマイク34で測定することにより、多孔板33の吸音率を測定した。なお、多孔板33を通過する
外気の流れ方向と音波の進行方向とは逆である。その結果を
図6に示す。
外気が多孔板33を通過することで、250〜1750Hzの幅広い低周波帯域において、多孔板33の吸音率が上昇することがわかる。
【0034】
(効果)
以上に述べたように、本実施形態に係るエンジンフード1によると、アウタパネル2とインナパネル3との間の空間4が多孔部3aを介してエンジンルーム11に連通しているため、中空のエンジンフード1がヘルムホルツ型の共鳴器として作用する。これにより、エンジンルーム11内の低周波帯域の騒音を低減させることができる。また、エンジン14からの音波が貫通孔を通過する際に、貫通孔の内壁面との摩擦により音波エネルギーの一部が熱エネルギーに変換される。また、音波が貫通孔を通過すると、音波の交番流により貫通孔の出入口に渦が発生して圧力損失が生じる。これらにより、孔部による減衰が大きくなり、エンジンルーム11内の低周波帯域の騒音を幅広く低減させることができる。さらに、外気導入穴5から空間4内に導入された外気
が貫通孔を通過する。この
外気が貫通孔を通過する際に発生する渦によって、エンジン14からの音波も貫通孔を通過する際に同時に減衰する。その結果、孔部で損失する音波エネルギーが大きくなるので、音波の低減が増大し、幅広い低周波帯域において吸音率が上昇する。これにより、エンジンルーム11内の低周波帯域の騒音を幅広く低減させることができる。
【0035】
また、外気導入穴5を、多孔部3aよりも前方の位置において、エンジンフード1に設けることで、車両10の走行時に外気導入穴5から空間4内に常に外気が導入されるようにすることができる。これにより、車両10の走行時に、
外気が常に貫通孔を通過するようになるので、音波の低減を好適に増大させることができる。
【0036】
また、空間4を連通空間4aと閉空間4bとに仕切る仕切部材7によって、連通空間4aの容積を変化させることができる。これにより、多孔部3aと連通空間4aとで構成するヘルムホルツ型の共鳴器が吸音対象の周波数の騒音を吸音するように、連通空間4aの容積を最適化することができる。
【0037】
また、外気導入穴5から空間4内に導入した外気を、ガイド6で多孔部3aの方に導いて、確実に貫通孔を通過するようにすることで、貫通孔を通過する
外気の流れを好適に生じさせることができる。
【0038】
また、上流側ガイド3b,19bで外気を外気導入穴5の方に導くことで、外気導入穴5から外気を取り込みやすくなる。その結果、外気導入穴5からより多くの外気を取り込むことができる。
【0039】
[第2実施形態]
(エンジンフードの構成)
次に、本発明の第2実施形態に係るエンジンフード201について説明する。なお、上述した構成要素と同じ構成要素については、同じ参照番号を付してその説明を省略する。本実施形態のエンジンフード201が第1実施形態のエンジンフード1と異なる点は、エンジンフード201を下方から見た図である
図7に示すように、外気導入穴5から連通空間4a内に導入した外気が連通空間4a内を流動する流れの最も下流側の位置において、多孔部3aがインナパネル3に設けられている点である。
【0040】
外気導入穴5から連通空間4a内に導入された外気は、連通空間4a内を流動し、その流れの最も下流側の位置に設けられた多孔部3aの貫通孔
を通過して、エンジンルーム11内に導入される。これにより、外気が確実に貫通孔を通過するので、貫通孔を通過する
外気の流れを好適に生じさせることができる。
【0041】
また、エンジンフード201は、連通空間4a内に設けられた吸音材8を有している。この吸音材8は、グラスウール等の多孔質材料からなり、多孔部3aを介して連通空間4a内に侵入した高周波帯域の騒音を吸音する。これにより、吸音帯域を広帯域化することができる。
【0042】
なお、エンジンフード201は、吸音材8の代わりに、または、吸音材8とともに、図示しない吸音機構を有していてもよい。この吸音機構は、多数の貫通孔を有する多孔板と、多孔板との間に所定の間隔をあけて多孔板に対向配置された背面板と、多孔板と背面板とで挟まれた空間を囲繞する枠体と、を有しており、多孔板と空間とで構成するヘルムホルツ型の共鳴器として共鳴周波数の騒音を低減させるとともに、貫通孔を通過する音波を吸音する。
【0043】
(効果)
以上に述べたように、本実施形態に係るエンジンフード201によると、多孔部3aを、外気導入穴5から連通空間4a内に導入した外気が連通空間4a内を流動する流れの最も下流側の位置に設けて、外気が確実に貫通孔を通過するようにすることで、貫通孔を通過する
外気の流れを好適に生じさせることができる。
【0044】
また、連通空間4a内に吸音材8を設けて、エンジンルーム11から連通空間4a内に侵入した騒音を吸音することで、吸音帯域を広帯域化することができる。
【0045】
また、多孔板と空間とがヘルムホルツ型の共鳴器を構成する吸音機構を連通空間4a内に設けて、貫通孔による吸音効果と、共鳴原理による吸音効果によって、エンジンルーム11から連通空間4a内に侵入した騒音を吸音することで、吸音帯域を広帯域化することができる。
【0046】
(本実施形態の変形例)
以上、本発明の実施形態を説明したが、具体例を例示したに過ぎず、特に本発明を限定するものではなく、具体的構成などは、適宜設計変更可能である。また、発明の実施の形態に記載された、作用及び効果は、本発明から生じる最も好適な作用及び効果を列挙したに過ぎず、本発明による作用及び効果は、本発明の実施の形態に記載されたものに限定されるものではない。