特許第6246064号(P6246064)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本曹達株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6246064
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】篩網およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 22/02 20060101AFI20171204BHJP
   B07B 1/46 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
   C23C22/02
   B07B1/46 A
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-97118(P2014-97118)
(22)【出願日】2014年5月8日
(65)【公開番号】特開2015-214721(P2015-214721A)
(43)【公開日】2015年12月3日
【審査請求日】2016年11月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004307
【氏名又は名称】日本曹達株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109508
【弁理士】
【氏名又は名称】菊間 忠之
(72)【発明者】
【氏名】阿部 悟
(72)【発明者】
【氏名】柴田 靖久
【審査官】 宮本 靖史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−188294(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/010219(WO,A1)
【文献】 特開2013−108050(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 22/00 − 22/86
C23C 24/00 − 30/00
B07B 1/00 − 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
篩網基材、および
置換基を有していてもよい炭素数1〜30のアルキル基1つと、水酸基または加水分解性基3つと、がSi原子に結合する構造を成すシランまたはそれの多量体から形成され、無機微粒子を含有せず且つ前記篩網基材の表面を被覆する有機薄膜
を有する篩網。
【請求項2】
有機薄膜は単分子膜である請求項に記載の篩網。
【請求項3】
置換基を有していてもよい炭素数1〜30のアルキル基がオクタデシル基である請求項1または2に記載の篩網。
【請求項4】
置換基を有していてもよい炭素数1〜30のアルキル基1つと、水酸基または加水分解性基3つと、がSi原子に結合する構造を成すシランまたはそれの多量体を含有し且つ無機微粒子を含有しない溶液に、篩網基材を接触させることを含む、有機薄膜で被覆された篩網の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、篩網およびその製造方法に関する。より詳細に、本発明は、平均粒径が100μm以下の超微細な親水性化学品粉体であっても、短時間にて篩分けすることができる、表面被覆処理された篩網および篩網の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
小麦粉や澱粉などの篩分け工程においては、篩網の目詰まりが生じやすい。篩網の目詰まりを防止する目的で、篩網基材の表面を被覆処理してなる篩網が検討されている。例えば、ポリアミド系モノフィラメントの特殊平織組織で製織されたメッシュ織物の構成原糸表面がエポキシ樹脂で補強されたフッ素系樹脂皮膜で被覆されている篩網(特許文献1); 不飽和結合部を有するシランモノマーで被覆された無機微粒子と有機ケイ素化合物系バインダー成分とを含み、篩網の表面に形成された微細凹凸層とを有する篩網(特許文献2); 篩網の表面または全体が樹脂からなる基材により構成され、該基材の表面に不飽和結合部を有するシランモノマーで被覆された酸化ジルコニウムとテトラメトキシシランからなるバインダー成分とを含有する微細凹凸層が固定化され、その固定化方法が、前記不飽和結合部と基材表面とがグラフト重合による化学結合により固定化されている篩網(特許文献3)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平08−290117号公報
【特許文献2】特開2010−188294号公報
【特許文献3】特開2012−024739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載される篩網は、静電気が発生しやすく、篩網に微細な化学品粉体などが付着して目詰まりしやすい。特許文献2および特許文献3に記載される篩網は、篩網の表面に形成された微細凹凸層に微細な化学品粉体が引っかかり、目詰まりしやすい。このように、前記先行技術文献にて開示されている篩網は、平均粒径が100μm以下の超微細な親水性化学品粉体を短時間にて篩分けすることが難しい。
本発明の課題は、平均粒径が100μm以下の超微細な親水性化学品粉体であっても、短時間にて篩分けすることができる、表面被覆処理された篩網および篩網の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、以下の態様を包含する本発明を完成するに至った。
【0006】
〔1〕篩網基材、および 置換基を有していてもよい炭素数1〜30のアルキル基1つと、水酸基または加水分解性基3つと、がSi原子に結合する構造を成すシランまたはそれの多量体から形成され且つ前記篩網基材の表面を被覆する有機薄膜 を有する篩網。
〔2〕有機薄膜は無機微粒子を含有しない〔1〕に記載の篩網。
〔3〕有機薄膜は単分子膜である〔1〕または〔2〕に記載の篩網。
〔4〕置換基を有していてもよい炭素数1〜30のアルキル基がオクタデシル基である〔1〕〜〔3〕のいずれかひとつに記載の篩網。
【0007】
〔5〕置換基を有していてもよい炭素数1〜30のアルキル基1つと、水酸基または加水分解性基3つと、がSi原子に結合する構造を成すシランまたはそれの多量体を含有する溶液に、篩網基材を接触させることを含む、有機薄膜で被覆された篩網の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の篩網は、平均粒径が100μm以下の超微細な親水性化学品粉体であっても、短時間に篩分けすることができる。本発明の篩網を構成する有機薄膜の厚さは2〜3nmと非常に薄いため、篩網の網目精度が高い。また、該有機薄膜は篩網基材と化学結合によって強く結合しているために剥がれ難い。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の篩網は、篩網基材、および 置換基を有していてもよい炭素数1〜30のアルキル基1つと、水酸基または加水分解性基3つと、がSi原子に結合する構造を成すシランまたはそれの多量体から形成され且つ前記篩網基材の表面を被覆する有機薄膜 を有するものである。
【0010】
本発明の篩網を構成する篩網基材は、粉体を分級することができる網目が形成されたものであれば、その形態によって特に制限されないが、JISに規定されている規格に従うことが好ましい。本発明に用いられる篩網基材は、金属材料、ガラス、若しくはセラミック材料などで形成されたものであることができる。有機薄膜との密着性の観点から金属材料で形成された篩網基材が好ましい。金属材料としては、アルミニウム、ステンレス、鉄などを挙げることができる。
【0011】
篩網基材は、その表面が無機膜で覆われていても良い。無機膜を構成する物質としては、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化クロムなどの金属酸化物;炭酸マグネシウム、炭酸カルシウムなどの炭酸塩;ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウムマグネシウムなどのケイ酸塩のほか、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化クロム、カーボンブラック、マイカ、合成マイカ、セリサイト、タルク、カオリン、炭化珪素、チタン酸バリウム、硫酸バリウム、ベントナイト、スメクタイト、窒化硼素、コンジョウ、群青などを挙げることができる。
【0012】
篩網基材の表面は、親水性基を有することが好ましく、水酸基を有することがより好ましい。表面に親水性基などを殆どもたない材料からなる篩網基材であっても、本発明に関わる有機薄膜は篩網基材に強く密着する。有機薄膜の密着性をより強固とするために、篩網基材を、アルカリ性水溶液で洗浄、酸素を含むプラズマ雰囲気中で処理、またはコロナ処理することが好ましい。これら処理によって、篩網基材表面に親水性基を導入することができる。親水性基としては、水酸基(−OH)が好ましいが、活性水素を有する−COOH、−CHO、=NH、−NH2などの官能基などであっても良い。篩網基材の洗浄に使用されるアルカリ性水溶液はアルカリ性を呈する水溶液であれば特に制限されない。アルカリ性水溶液としては、例えば、アルカリ金属無機塩を含有してなる水溶液を挙げることができる。アルカリ金属無機塩としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウムなどを挙げることができる。
【0013】
また、篩網基材の表面に、SiCl4、SiHCl3、SiH2Cl2、Cl−(SiCl2O)x−SiCl3(式中、xは0または自然数を表す。)から選ばれる少なくとも一つの化合物を接触させ、次いで脱塩化水素反応させることにより、篩網基材の表面に活性水素を有するシリカ下地層を形成することができる。
【0014】
本発明の篩網を構成する有機薄膜は、シランまたはそれの多量体から形成され且つ前記篩網基材の表面を被覆するものである。
【0015】
本発明に用いられるシランは、置換基を有していてもよい炭素数1〜30のアルキル基1つと、水酸基または加水分解性基3つと、がSi原子に結合する構造を成すものである。係るシランとして、式(I)で表される化合物を挙げることができる。
【0016】
【化1】
(式(I)中、R1は置換基を有していてもよい炭素数1〜30のアルキル基を表し、X1、X2、およびX3はそれぞれ独立して水酸基または加水分解性基を表す。)
【0017】
本発明に用いられるシランの多量体は、置換基を有していてもよい炭素数1〜30のアルキル基1つと、水酸基または加水分解性基1つと、がSi原子に結合する構造を成すシロキサン単位を有するものである。シランの多量体としては、例えば、式(II)で表される鎖状シロキサンや式(III)で表される環状シロキサンを挙げることができる。
【0018】
【化2】
(式(II)中、各R1は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい炭素数1〜30のアルキル基を表し、X4、X5、X6およびX7は、それぞれ独立して水酸基または加水分解性基を表す。mはシロキサン単位の数を表す。mは1〜3のいずれかの整数であることが好ましい。mが2以上のとき各X5は同じであっても異なってもよい。
【0019】
(式(III)中、各R1は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい炭素数1〜30のアルキル基を表し、X8、およびX9は、それぞれ独立して水酸基または加水分解性基を表す。nはシロキサン単位の数を表す。nは2〜4のいずれかの整数であることが好ましい。各X8は同じであっても異なってもよい。
【0020】
ここで、「炭素数1〜30のアルキル基」は、それを構成する炭素原子数が1〜30であるアルキル基である。係る炭素原子数には置換基中の炭素原子の数を含まない。炭素数1〜30のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、t−ペンチル基、n−へキシル基、イソへキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−デシル基、n−テトラデシル基、n−オクタデシル基、n−イコシル基、n−テトラドコシル基、n−オクタドコシル基などを挙げることができる。これらのうち、炭素数1〜30の直鎖アルキル基が好ましく、炭素数6〜24の直鎖アルキル基がより好ましく、炭素数12〜24の直鎖アルキル基がさらに好ましく、オクタデシル基が最も好ましい。
【0021】
「炭素数1〜30のアルキル基」に置換し得る置換基としては、メトキシ基、エトキシ基などの炭素数1〜6のアルコキシ基;CF3、C25などの炭素数1〜3のフッ化アルキル基;CF3O、C25Oなどの炭素数1〜3のフッ化アルコキシ基;フェニル基、ナフチル基などのアリール基;フェノキシ基、ナフトキシ基などのアリールオキシ基;メチルチオ基、エチルチオ基などの炭素数1〜6のアルキルチオ基;フェニルチオ基、ナフチルチオ基などのアリールチオ基などを挙げることができる。係る置換基は、炭素数1〜30のアルキル基の末端に在ることが好ましい。
【0022】
加水分解性基としては、水と反応して分解する基であれば特に制約されない。例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、t−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、n−へキシルオキシ基などの炭素数1〜6のアルコキシ基;アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、n−プロピルカルボニルオキシ基、イソプロピルカルボニルオキシ基、n−ブチルカルボニルオキシ基などの炭素数1〜6のアルキルカルボニルオキシ基;ベンゾイルオキシ基、ナフチルカルボニルオキシ基などのアリールカルボニルオキシ基;ベンジルカルボニルオキシ基、フェネチルカルボニルオキシ基などのアリールアルキルカルボニルオキシ基などのアシルオキシ基;F、Cl、Brなどのハロゲノ基などを挙げることができる。
【0023】
本発明に用いられるシランの具体例としては、 CH3Si(OCH3)(OH)2、 C25Si(OCH3)(OH)2、 C37Si(OCH32(OH)、 C49Si(OCH32(OH)、 C49Si(OCH3)(OH)2、 CH3(CH25Si(OCH3)(OH)2、 CH3(CH27Si(OCH3)(OH)2、 CH3(CH29Si(OCH32(OH)、 CH3(CH211Si(OCH32(OH)、 CH3(CH213Si(OCH32(OH)、CH3(CH215Si(OH)3、 CH3(CH217Si(OCH3)(OH)2、 CH3(CH217Si(OCH32(OH)、 CH3(CH219Si(OCH3)(OH)2、 CH3(CH221Si(OCH3)(OH)2、 CH3(CH217Si(OH33、 CH3(CH25SiCl(OH)2、 CH3(CH27SiCl(OH)2、 CH3(CH29SiCl2(OH)、 CH3(CH215Si(OH33、 CH3(CH217SiCl(OH)2、 CH3(CH217SiCl2(OH)、 CH3(CH221SiCl(OH)2
【0024】
CF3(CH218Si(OCH32(OH)、 CF3(CF2)(CH218Si(OCH32(OH)、 CF3O(CH218Si(OCH32(OH)、 CF3(CF2)O(CH218Si(OCH32(OH)、 CH3O(CH218Si(OCH32(OH)、 C25O(CH218Si(OCH32(OH)、 C65O(CH218Si(OCH32(OH)、 C65(CH218Si(OCH32(OH)、 CF3(CH218Si(OCH3)(OH)2、 CF3(CF2)(CH218Si(OCH3)(OH)2、 CF3O(CH218Si(OCH3)(OH)2、 CF3(CF2)O(CH218Si(OCH3)(OH)2、 CH3O(CH218Si(OCH3)(OH)2、 C25O(CH218Si(OCH3)(OH)2、 C65O(CH218Si(OCH3)(OH)2、 C65(CH218Si(OCH3)(OH)2、 CF3(CH218Si(OH)3、 CF3(CF2)(CH218Si(OH)3、 CF3O(CH218Si(OH)3、 CF3(CF2)O(CH218Si(OH)3、 CH3O(CH218Si(OH)3、 C25O(CH218Si(OH)3、 C65O(CH218Si(OH)3、 C65(CH218Si(OH)3などを挙げることができる。これらの化合物は1種単独で若しくは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうちオクタデシル基を有するシラン化合物が好ましい。
【0025】
本発明に用いられる鎖状シロキサンの具体例としては、1,2−ジオクタデシル−1,2−ジメトキシ−1,2−ジヒドロキシ−ジシロキサン、1,2,3−トリオクタデシル−1,3−ジメトキシ−1,2,3−トリヒドロキシ−トリシロキサン、1,2,3,4−テトラオクタデシル−1,4−ジヒドロキシ−1,2,3,4−テトラメトキシ−テトラシロキサン、1,2,3,4,5−ペンタオクタデシル−2,4−ジヒドロキシ−1,2,3,4,5−テトラメトキシ−ペンタシロキサンなどを挙げることができる。
【0026】
本発明に用いられる環状シロキサンの具体例としては、トリオクタデシル−ジメトキシ−ヒドロキシ−シクロトリシロキサン、トリオクタデシル−ジクロロ−ヒドロキシ−シクロトリシロキサン、テトラオクタデシル−1,3−ジヒドロキシ−2,4−ジメトキシ−シクロテトラシロキサン、ペンタオクタデシル−ジヒドロキシ−トリメトキシ−シクロペンタシロキサンなどを挙げることができる。
【0027】
本発明に用いられるシランまたはそれの多量体で形成される有機薄膜は、シランまたはそれの多量体が加水分解反応によって重合することによって得られるシロキサン単位を有する膜である。また、該有機薄膜は単分子膜であることが好ましい。単分子膜の形成の確認は、膜厚を測定することによって確認できる。さらに、該有機薄膜は、平滑性を確保するために、凸凹を生じさせたり、膜の厚さを増したりする、無機微粒子を含有しないものである。
【0028】
該有機薄膜は篩網基材の表面を被覆している。アルキル基は疎水性であり、水酸基または加水分解性基は親水性である。その結果、本発明に用いられるシランまたはそれの多量体で形成される有機薄膜は、篩網基材から遠い側にアルキル基が配され、篩網基材に近い側に水酸基または加水分解性基が配されるような構造になっていると推定できる。そして、篩網基材表面にある水酸基などの親水性基と有機薄膜中の水酸基または加水分解性基とが結合して有機薄膜と篩網基材との密着性を高めていると考えられる。
【0029】
本発明の篩網の製法は、置換基を有していてもよい炭素数1〜30のアルキル基1つと、水酸基または加水分解性基3つと、がSi原子に結合する構造を成すシランまたはそれの多量体を含有する溶液(以下、この溶液を有機薄膜形成用溶液ということがある。)に、篩網基材を接触させることを含むものである。
【0030】
有機薄膜形成用溶液に使用される溶媒は、シランまたはシラン多量体中の水酸基または加水分解性基と反応しにくい有機溶媒であることが好ましい。有機溶媒としては、n−ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、石油ナフサ、ソルベントナフサ、石油エーテル、石油ベンジン、イソパラフィン、ノルマルパラフィン、デカリン、工業ガソリン、灯油、リグロインなどの炭化水素系溶媒;CBr2ClCF3、CClF2CF2CCl3、CClF2CF2CHFCl、CF3CF2CHCl2、CF3CBrFCBrF2、CClF2CClFCF2CCl3、Cl(CF2CFCl)2Cl、Cl(CF2CFCl)2CF2CCl3、Cl(CF2CFCl)3Clなどフロン系溶媒、フロリナート(3M社製品)、アフルード(旭ガラス社製品)などのフッ化炭素系溶媒;ジメチルシリコーン、フェニルシリコーン、アルキル変性シリコーン、ポリエーテルシリコーンなどのシリコーン系溶媒;などを挙げることができる。これらのうち、炭化水素系溶媒、フッ化炭素系溶媒、およびシリコーン系溶媒が好ましく、炭化水素系溶媒が特に好ましく、沸点が100〜250℃の炭化水素系溶媒が更に好ましい。これらの有機溶媒は1種単独で若しくは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
有機薄膜形成用溶液は、シラノール縮合触媒を含有してもよい。シラノール縮合触媒は、縮合反応を促進させる作用を有する物質であれば特に限定されない。
【0032】
シラノール縮合触媒としては、酢酸第一スズ、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジオクテート、ジブチルスズジアセテート、ジオクチルスズジラウレート、ジオクチルスズジオクテート、ジオクチルスズジアセテート、ジオクタン酸第一スズ、ナフテン酸鉛、ナフテン酸コバルト、2−エチルヘキセン酸鉄、ジオクチルスズビスオクチリチオグリコール酸エステル塩、ジオクチルスズマレイン酸エステル塩、ジブチルスズマレイン酸塩ポリマー、ジメチルスズメルカプトプロピオン酸塩ポリマー、ジブチルスズビスアセチルアセテート、ジオクチルスズビスアセチルラウレート、チタンテトラエトキサイド、チタンテトラブトキサイド、チタンテトライソプロポキサイド、チタンビス(アセチルアセトニル)ジプロポキサイドなどの有機金属化合物;塩酸、硝酸、ホウ酸、ホウフッ化水素酸などの鉱酸;炭酸;酢酸、ギ酸、シュウ酸、トリフルオロ酢酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸などの有機酸;パーフルオロスルホン酸/PTFE共重合体(H+型)(例えばデュポン社製ナフィオンNR50(登録商標))、ポリスチレンスルホン酸(例えば、ロームアンドハース社製アンバーリスト15(登録商標))などの固体酸;ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、トリフェニルホスホニウムヘキサフルオロホスフェートなどの光酸発生剤;チタン、ジルコニウム、アルミニウム、ケイ素、ゲルマニウム、インジウム、スズ、タンタル、亜鉛、タングステンおよび鉛からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素のアルコキシド、2種以上の金属アルコキシド類の反応により得られる複合アルコキシド、1種もしくは2種以上の金属アルコキシド類と1種もしくは2種以上の金属塩との反応により得られる複合アルコキシドなどの金属アルコキシド類;金属アルコキシド類の部分加水分解生成物などを挙げることができる。これらのうち、金属アルコキシド類、金属アルコキシド類の部分加水分解生成物が好ましい。金属アルコキシド類中のアルコキシ基の炭素数は特に限定されないが、含有酸化物濃度、有機物の脱離容易性、入手容易性などから、炭素数1〜4のものが好ましい。
シラノール縮合触媒の使用量は、形成する有機薄膜の物性に影響を与えない量であれば特に制限されない。例えば、シラン1モル部に対して、酸化物換算にて、通常0.0001〜1モル部、好ましくは0.0001〜0.2モル部である。
【0033】
有機薄膜形成用溶液は、水を含有することが好ましい。水含有量は、シランまたはシラン多量体、シラノール縮合触媒、有機溶媒などの種類により適宜決定される。例えば、水分含有量は、好ましくは10ppm〜有機溶媒への飽和濃度、より好ましくは50ppm〜3000ppm、さらに好ましくは50ppm〜1000ppm、特に好ましくは100ppm〜1000ppmである。
なお、有機薄膜形成用溶液として、市販品を用いることができる。市販品としては、日本曹達社製SAMLAY(登録商標)などが挙げられる。
【0034】
有機薄膜形成用溶液を篩網基材の表面に接触させる方法は特に制限されず、公知の方法を用いることができる。例えば、ディップ法、スプレー法などを挙げることができる。これらの中でも、ディップ法が好ましい。
【0035】
篩網基材表面に接触させる際における、有機薄膜形成用溶液の温度は、該溶液が安定性を保てる温度であれば、特に制限されない。通常、室温から溶液の調製に用いた溶媒の還流温度までの範囲であることができ、好ましくは15℃〜100℃、より好ましくは15℃〜70℃である。また、膜形成を促進するために超音波を用いることができる。篩網基材表面に接触させる工程は、少なくとも1回行う。接触時間は特に制限されない。
【0036】
有機薄膜形成用溶液を篩網基材表面に接触させた後、膜表面に付着した余分な試剤、不純物などを除去するために、洗浄工程を設けることができる。洗浄方法は、表面の付着物を除去できる方法であれば、特に制限されない。具体的には、溶媒中に浸漬して不純物を溶出させる方法;真空中または常圧下で大気中に放置して揮発分を蒸発させる方法;乾燥窒素ガスなどの不活性ガスを吹き付けて吹き飛ばす方法;などを挙げることができる。
【0037】
篩網基材表面上に形成された有機薄膜を安定化させるために、篩網を加熱してエージングすることが好ましい。加熱温度は、有機薄膜を分解させない限り、特に限定されない。
【0038】
有機薄膜形成用溶液を篩網基材表面に接触させると、前記のシランまたはシラン多量体が篩網基材表面に吸着される。有機薄膜と篩網基材表面との密着性は、篩網基材表面の基とシランまたはシラン多量体中の水酸基または加水分解性基との反応によって形成されるシロキサン結合などで強化されると考えられる。さらに、隣接するシランまたはシラン多量体の間は、水酸基または加水分解性基の反応によって形成されるシロキサン結合、配位結合、水素結合、分子間力などで連結または自己組織化され膜面方向の強度が上がると考えられる。その結果、得られる有機薄膜は単分子膜になりやすい。有機薄膜の厚さは、シランまたはシラン多量体中のアルキル基の鎖長にほぼ等しい厚さになる。具体的に、有機薄膜の厚さは、2〜3nmである。
【0039】
本発明の篩網は、従来の篩網では篩分けしにくい、親水性で凝集しやすく且つ平均粒径100μm以下の超微細な粉体の篩分けに適している。係る粉体としては、小麦粉、澱粉、農医薬粉体、化学品粉体などを挙げることができる。
【実施例】
【0040】
以下に実施例により本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施例により何ら制限されるものではない。
【0041】
実施例1
【0042】
直径20cmの円形の篩枠とそれに取り付けられた目開き45μmのSUS製篩網基材とからなる篩を用意した。前記篩を、アセトン、蒸留水、およびイソプロピルアルコールで順次洗浄し、乾燥させた。次いで、該篩を1mol/LのNa2SiO3水溶液に室温で30分間浸漬した。その後、蒸留水およびイソプロピルアルコールで順次洗浄し、乾燥させた。
この篩を、有機薄膜形成溶液(SAMLAY[登録商標] 日本曹達社製)に室温で30分間浸漬せしめた。次いで、前記篩を炭化水素系洗浄溶剤(NSクリーン100;JX日鉱日石エネルギー社製)でかけ洗いした。その後、前記炭化水素系洗浄溶剤中で1分間超音波洗浄した。洗浄溶剤から篩を取り出して、空気中100℃で10分間乾燥させて、篩網基材の表面を被覆する有機単分子膜を形成させた。該有機単分子膜の厚さは2nmであった。
【0043】
得られた篩を超音波振動篩装置(ミニソニック、晃栄産業社製)に装着した。超音波振動篩装置の超音波振動強度を95%にセットして、平均粒径約100μmの粉状ヒドロキシプロピルセルロース(NISSO HPC SSL;日本曹達社製)50gを20分間かけて篩い分けた。篩下捕集量は12.5g(25%)であった。
【0044】
比較例1
直径20cmの円形の篩枠とそれに取り付けられた目開き45μmのSUS製篩網基材とからなる篩を、超音波振動篩装置(ミニソニック、晃栄産業社製)に装着した。超音波振動篩装置の超音波振動強度を95%にセットして、平均粒径約100μmの粉状ヒドロキシプロピルセルロース(NISSO HPC SSL;日本曹達社製)50gを20分間かけて篩い分けた。篩下捕集量は9.4g(18.8%)であった。
【0045】
実施例2
超音波振動篩装置の超音波振動強度強度を80%にセットし、粉状ヒドロキシプロピルセルロースの量を100gに変えた以外は、実施例1と同じ方法で篩分けを行った。篩下捕集量は16.6g(16.6%)であった。
【0046】
比較例2
粉状ヒドロキシプロピルセルロースの量を100gに変えた以外は、比較例1と同じ方法で篩分けを行った。篩下捕集量は10g(10%)であった。
【0047】
実施例および比較例の結果が示すとおり、本発明の篩網は、短時間で篩分けができる、超音波振動篩装置の強度を下げても効果がある、などの優れた性能を有している。