【文献】
財団法人癌研究会,分子イメージング機器研究開発プロジェクト/新規悪性腫瘍分子プローブの基盤技術開発/分子プローブ要素技,独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 平成20年度〜平成21年度 成果報告書,2011年 5月 3日,pp. 1-21
【文献】
Peptide science 2010: Proceedings of the Fifth International Peptide Symposium,2011年 3月,pp. 114
【文献】
Current Molecular Medicine,2010年,Vol. 10,pp. 640-652
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明者らは、研究を重ねた結果、EpCAMに強く結合する配列番号2及び配列番号3として開示する2種類のペプチドをクローニングすることに成功した。
【0029】
配列番号2に示されるアミノ酸配列EHLHCLGSLCWP(以下Ep133という)及び、配列番号3に示されるアミノ酸配列KHLQCVRNICWS(以下Ep114という)は、先に本発明者らにより開発されたEpCAM結合ペプチドEp301(配列KSLQCINNLCWP)と比較して、10倍以上高いEpCAM結合能を有する。
【0030】
また、配列番号2及び配列番号3の2種類のペプチドに保存されている共通のアミノ酸配列XHLXCXXXXCWX(配列番号1)は、EpCAMに対して強く結合するペプチドを含み得る。したがって、上記配列を含むペプチドを用いれば、新たなEpCAMに高い結合能を有するペプチドをクローニングすることが期待できる。
【0031】
上記本発明のペプチドは、そのアミノ酸配列に従って、一般的な化学合成法により製造することができる。
【0032】
さらに、上記本発明のペプチドは、本発明のEpCAMに結合能を有するペプチドをコードするDNAの塩基配列情報により、遺伝子工学的手法を用いて定法により調製することもできる。このようにして得られる本発明のEpCAMに結合能を有するペプチドは、通常の方法に従って、例えばイオン交換樹脂、分配クロマトグラフィー、ゲルクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、向流分配法等のペプチド化学の分野で汎用されている方法に従って、適宜その精製を行うことができる。
【0033】
上記本発明のペプチドは、検出可能なマーカーで標識されていてもよく、上記検出可能なマーカーとしては、従来知られているペプチド標識用のマーカーであれば特に制限されるものではないが、例えば、
3H、
14C、
125I等の放射性同位体や、ダンシルクロライド、テトラメチルローダミンイソチオシアネート等の蛍光物質や、ビオチン、ジゴキシゲニンのような生化学研究ツールとして汎用されている生体由来の分子や、生物発光化合物、化学発光化合物、金属キレート、画像処理剤等を具体的に挙げることができる。
【0034】
また、本発明のペプチドは、マーカータンパク質及び/又はペプチドタグに結合した融合ペプチドであってもよい。本発明の融合ペプチドとしては、本発明のEpCAMに結合能を有するペプチドと、マーカータンパク質及び/又はペプチドタグとが結合しているものであればどのようなものでもよい。上記マーカータンパク質やペプチドタグは従来知られているものであれば特に制限されるものではないが、上記マーカータンパク質としては、例えば、アルカリフォスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)等の酵素、抗体のFc領域、GFP等の蛍光タンパク質、GST、マルトース結合タンパク質(MBP)、フェリチンなどを具体的に挙げることができ、また、上記ペプチドタグとしては、例えば、HA、FLAG、Myc等のエピトープタグや、ビオチン化ペプチド 、オリゴヒスチジン等の親和性タグなどを具体的に例示することができる。以上のような、本発明の標識されたペプチドや融合ペプチドは、定法により作製することができ、本発明のペプチドの精製や、本発明のペプチドの検出の際に有用であるだけでなく、被検試料中のEpCAMの検出・定量やEpCAMを発現する細胞の検出・分離等を行う際にも非常に有用である。
【0035】
さらに、本発明には、上記ペプチドや融合ペプチドを、EpCAMタンパク質と結合させたEpCAM−ペプチド複合体も含まれる。本発明のEpCAM−ペプチド複合体としては、本発明のペプチドや融合ペプチドとEpCAMとが結合したEpCAM−ペプチド複合体であれば特に制限されるものではなく、EpCAMと細胞内の他の分子との相互作用の検討など、EpCAMの分子レベルでの機能解析に有用に用いることができる。
【0036】
本発明のEpCAMに結合能を有するファージとしては、本発明のEpCAMに結合能を有するペプチドをその粒子表面上に提示するファージであればどのようなものでもよく、かかるEpCAMに結合能を有するファージは、配列番号1のアミノ酸配列を有するファージライブラリスクリーニングの過程で、EpCAMに強く結合したペプチド提示ファージを、その他のファージ集団から分離することにより得られる他、本発明のEpCAMに結合能を有するペプチドをコードするDNAを、定法によりファージミドベクターに組み込んで大腸菌等の宿主細胞を形質転換し、ヘルパーファージを感染させることで得ることもできる。
【0037】
本発明のペプチドを認識する抗体としては、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、ヒト化抗体等を具体的に挙げることができ、これらは上記本発明のペプチドを抗原として用いて定法により作製することができる。
【0038】
本発明のペプチドに対する抗体は、慣用のプロトコールを用いて、動物に本発明のペプチド又はその断片を免疫することにより産生される。具体的には、本発明のペプチドを合成し、キーホールリンペットヘモシアニン等のキャリアタンパク質に結合させ、ウサギ、ヤギ、マウス等の動物に免疫し、抗体価の上昇を確認後、血清を採取する。
【0039】
また、モノクローナル抗体の調製には、連続細胞系の培養物により産生される抗体をもたらす、ハイブリドーマ法(Nature, 1975, Vol. 256, p.495-497)、トリオーマ法、ヒトB細胞ハイブリドーマ法(Immunology Today, 1983, Vol.4, p.72)及びEBV−ハイブリドーマ法(Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, 1985, pp.77-96, Alan R.Liss, Inc.)など任意の方法を用いることができる。
【0040】
本発明の組換えベクターとしては、前記本発明のDNAを含み、かつEpCAMに結合能を有するペプチドを発現することができる組換えベクターであれば特に制限されず、本発明の組換えベクターは、本発明のDNAを発現するベクター、好ましくは発現プラスミドベクターに適切に挿入することにより構築することができる。かかる発現ベクターとしては、宿主細胞において自立複製可能であるものや、あるいは宿主細胞の染色体中へ組込み可能であるものが好ましく、また、本発明のDNAが転写できる位置にプロモーター、エンハンサー、ターミネーター等の制御配列を含有しているものを好適に使用することができる。
【0041】
上記発現ベクターとして、例えば、pCMV6‐XL3(オリジンテクノロジーズ社製)、EGFP-C1(クロンテック社製)、pGBT‐9(クロンテック社製)、pcDNAI(フナコシ社製)、pcDM8(フナコシ社製)、pAGE107(Cytotechnology, 1990, Vol.3, p.133)、pCDM8(Nature, 1987, Vol.329, p.840)、pcDNAI/AmP(インビトロジェン社製)、pREP4(インビトロジェン社製)、pAGE103(J.Blochem., 1987, Vol.101, p.1307)、pAGE210等を例示することができる。また、プロモーターとしては、例えば、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)のIE(immediate early)遺伝子のプロモーター、SV40の初期プロモーター、レトロウイルスのプロモーター、メタロチオネインプロモーター、ヒートショックプロモーター、SRαプロモーター等を挙げることができる。さらに、プロモーターの下流に蛍光蛋白質をコードする遺伝子等のレポーター遺伝子を融合することができる。蛍光蛋白質としては、緑色蛍光蛋白質(GFP)、シアン蛍光蛋白質(CFP)、青色蛍光蛋白質(BFP)、黄色蛍光蛋白質(YFP)、赤色蛍光蛋白質(RFP)、ルシフェラーゼを例示することができる。
【0042】
また、特許文献3〜5に示されている方法により、本発明のEpCAM結合ペプチドをフェリチン、フェリチンの一部、又は修飾されたフェリチンと融合させて用いることによって、EpCAMタンパク質に対する結合能を有する、鉄、マグネタイト、金、化合物半導体、などの無機材料を含むナノキャリア体を作製することができる。鉄、マグネタイトのような磁性を有する無機材料と融合させることにより、磁力による分離が可能となり、また、マグネタイトと融合させることにより、MRIに利用することができるようになる。
【0043】
また、本発明の形質転換体としては、上記本発明の組換えベクターが宿主細胞に導入され、かつ本発明のEpCAMに結合能を有するペプチドを発現する形質転換体であれば特に制限されるものではなく、形質転換酵母、形質転換植物(細胞、組織、個体)、形質転換細菌、形質転換動物(細胞、組織、個体)等を挙げることができるが、形質転換動物細胞が好ましい。
【0044】
本発明のペプチド又は融合ペプチドは、EpCAMの検出・定量に利用することができる。本発明のEpCAMの検出・定量方法としては、本発明のペプチド又は融合ペプチドを用いるものであれば、どのような方法でもよい。検出可能なマーカーで標識された本発明のペプチドや、本発明の融合ペプチドを用いる場合は、使用したマーカー等の標識物質の種類に応じて適切な検出・定量手法を選択することができる。また、上記EpCAMの検出・定量方法としては、本発明のペプチドと本発明の抗体を組み合わせて行うこともできる。例えば、EpCAMと本発明のペプチドを結合させた後、本発明の抗体でペプチドを認識させ、さらに標識した二次抗体により本発明の抗体を検出させれば、非常に感度の良い検出が可能となる。また、本発明の抗体を認識する二次抗体の標識を代えることにより、RIA法、ELISA法、免疫染色法、ウエスタンブロット法等の公知の免疫学的測定方法への簡便な応用が可能である。
【0045】
さらに、上記本発明のペプチド又は融合ペプチドを用いることにより、EpCAMを発現する細胞を検出・分離することができる。EpCAMを発現する細胞を検出するには、検出可能なマーカーで標識された本発明のペプチドや、本発明の融合ペプチドを用いることができる。また、使用するマーカー等、標識物質の種類に応じて公知の分離手法により、EpCAM発現細胞の分離が可能である。例えば、標識物質として蛍光物質を使用した場合には、蛍光を指標としたフローサイトメトリーによって、効率的かつ高精度のEpCAM発現細胞の分離が可能となる。
【0046】
本発明の癌の診断用組成物としては、本発明のペプチド又は本発明の融合ペプチドを含むものであれば特に制限されるものではない。また、本発明の抗体と組み合わせて用いることもできる。
【0047】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。
【実施例1】
【0048】
[Ep133のスクリーニング]
1.ファージライブライリ
スクリーニングには、Ph.D.-12 peptide phage display kit(ニュー・イングランド・バイオラボ社製)を使用した。このライブラリは、12残基の直線状ランダムペプチドを提示するファージライブラリであり、2.7x10
9の多様性を有する。
2.パニング
パニングの方法は
図1(A)に模式的に示す。非特異的に吸着するファージを除去するために、ファージは予め、精製EpCAMを結合させていない、抗体のみを固相化したビーズに前結合させ、結合しなかったものを回収して用いる。なお、この操作はすべてのラウンドの前に行い、非特異的に吸着するファージの除去を行った。ストレプトアビジンを被覆したDYNABEADS M
−280(商標)に、ビオチン化ポリクロ―ナルEpCAM抗体を固定化し、このビーズを用いてEpCAMを固定化する。パニングはTBST(0.01%Tween20, Tris buffered saline)中で行った。3μgのEpCAMをビーズに固定化した。EpCAM固相化ビーズにファージを添加し、洗浄後、酸処理でビーズから溶出されたファージを大腸菌で増殖後、2回目のスクリーニングに回した。
【0049】
EpCAMタンパク質は、EpCAMcDNAがpINCYに挿入されているプラスミド(オープンバイオシステムズ社製、MHS-1010-74356)を用い、EpCAMの細胞外ドメインのC末にmyc及びHisタグをつけてコンストラクトを構築し、これをHEK−293T細胞で発現させ、精製した。
【0050】
2回目のバイオパニングでは、Protein G、300μgをコートしたDYNABEADS PROTEIN G(商標)に2.4μgのモノクローナルEpCAM抗体(Vu
−1D9,アブカム社)を固定化し、このビーズにさらに3μgの精製EpCAMを結合させた。第1ラウンドで得られたファージを力価1x10
11で加え、洗浄後、酸処理でビーズから溶出されたファージを大腸菌で増殖し、3回目のパニングに回した。以下、3回目、5回目のパニングは1回目のパニングと同じ条件で行い、さらに、4回目のパニングを2回目と同じ条件で行った。
【0051】
EpCAM固定化ビーズに添加したファージの力価と、最終的に溶出したファージの力価との比を求め選別回数ごとにプロットした(
図1B)。
【0052】
同一条件でパニングを行っている1回目、3回目、5回目、そして2回目、4回目で力価の比を比較する。いずれの場合もラウンドを重ねるごとに添加したファージの力価に対する溶出したファージの力価の比が増加し、EpCAMに結合するファージの濃縮が進んでいることが示されている。
【0053】
なお、力価測定及びファージの増幅は定法(Phage Display-A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001)に従い行った。ファージの増幅には、対数増殖中のER2738菌[F‘laclq△(lacZ)M15proA+B+zzf::Tn10(TetR)fhuA2supEthi△(lac−proAB)△(hsdMS−mcrB)5(rk−mk−McrBC−)]を用いて行った。
【0054】
3.ファージクローンの配列決定
パニング4回目で溶出されたファージを11個ランダムに選び、その提示するペプチドの配列を、定法による該当部分のDNA配列解析(Phage Display A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001)に従い決定した。
【0055】
塩基配列の決定は、提示ペプチド領域から96塩基下流に位置する塩基配列の相補鎖に相当するプライマー(−96gIII シーケンシングプライマー:配列番号4(ccctcatagt tagcgtaacg)を用いたダイデオキシターミネイト法により行った(CEQ DTCS Quick start kit、ベックマン社製)。反応産物の泳動とデータ解析にはキャピラリーシーケンサーを用いた。その結果、11個のクローンは全て、同一配列のペプチドを提示しており、Ep133と名づけた。Ep133の配列はEHLHCLGSLCWP(配列番号2)であった。
【0056】
クローン化したEp133を提示するファージを用いて、固相化条件を変えたEpCAMに対するファージ結合能を解析した(
図1C)。Ep133を提示するファージの結合能を、特許文献2で本発明者らがすでに開示しているEpCAM結合ペプチドEp301、及びペプチドを提示しないファージ(#447)と比較した。用いた条件は以下の通りである。
【0057】
条件1は、TALON(商標)ビーズ0.4mgに、EpCAMを1μg固相化(
図1C中1、3、5、+と表示)させたものと、させていないもの(
図1C中2、4、6、-と表示)に、各ファージを(
図1C中、1、2は、Ep133を発現するファージ、3、4はEp301を発現するファージ、5、6はペプチドを提示しないファージ447を示す。)、力価1×10
10で添加し、5回TBSTで洗浄後、結合しているファージの力価を測定した。
【0058】
条件2は、プロテインGビーズに、抗EpCAMモノクローナル抗体(Vu-1D9、アブカム社)2.4μgを固相化し、さらに抗体を介して、精製EpCAMを3μg固相化した。EpCAMを固相化(
図1C中1、3、5、+と表示)させたものと、させていないもの(
図1C中2、4、6、-と表示)に、各ファージを(
図1C中、1、2は、Ep133を発現するファージ、3、4はEp301を発現するファージ、5、6はペプチドを提示しないファージ447を示す。)、力価1×10
10で添加し、1回TBSTで洗浄後、結合しているファージの力価を測定した。
【0059】
図1Cに示されているように、いずれの条件でも、Ep133を提示するファージは、固相化ビーズを用いた条件で、Ep301に比べ、およそ10倍以上高いEpCAM結合能を示した。
【実施例2】
【0060】
[Ep114のスクリーニング]
1.ファージライブラリ
先に特許文献2で開示したEpCAM結合ペプチドEp301の配列(KSLQCINNLCWP)のアラニンスキャンの解析より、EpCAMに対する結合に重要であることが示された、4番目、5番目、10番目、11番目のアミノ酸の4つを保存し、その他の部分には多様性をもたせたライブラリ((KR)−X(LIMV)−Q−C−(ILMV)−X−(NQHK)−(ILMV)−C−W−X)を作製してスクリーニングを行った。このライブラリは9.8×10
7の多様性を有する。
【0061】
2.パニング
ストレプトアビジンを被覆したDYNABEADS M
−280(商標)300μgに、ビオチン化ポリクロ―ナルEpCAM抗体1.5μgを固定化し、さらに100ngの精製EpCAMを加えて、ビーズにEpCAMを固定化する。パニングはTBST中で行った。非特異的吸着ファージ除去のために、ファージは予め、精製EpCAMを結合させていない、抗体のみを固相化したビーズに前結合させ、結合しなかったものを回収して用いる。EpCAMが固定化されたビーズに力価1x10
11のファージを加え、100μMのEp133をコンペティターとして加えた状態で、15分間吸着させ、吸着ファージを酸処理で回収し、大腸菌で増殖させ、次のラウンドのパニングに用いた。2ラウンド目以降も同じ条件で、合計5回のパニングを行った。
【0062】
なお、力価測定及びファージの増幅は定法(Phage Display-A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001)に従い行った。ファージの増幅には、対数増殖中のER2738菌[F‘laclq△(lacZ)M15proA+B+zzf::Tn10(TetR)fhuA2supEthi△(lac−proAB)△(hsdMS−mcrB)5(rk−mk−McrBC−)]を用いて行った。
【0063】
3.ファージクローンの配列決定
実施例1と同様にして配列を決定した。高いEpCAM結合能を有するペプチドとしてスクリーニングされたEpCAM結合ペプチド、Ep114の配列はKHLQCVRNICWS(配列番号3)であった。
【0064】
4.EpCAM結合ペプチドにおける保存残基
実施例1及び実施例2で得られたEpCAMに強く結合するペプチドEp133とEp114の配列によれば、2、3、5、10、11番目のアミノ酸配列が保存されており、これら5残基が、EpCAMに高い結合能を有するために重要である。すなわち、配列番号1のアミノ酸配列XHLXCXXXXCWXを有するペプチドはEpCAMに高い結合能を有することが期待される。
【0065】
したがって、これら5つのアミノ酸残基が保存されたペプチドライブラリをスクリーニングすることにより、新たにEpCAM結合能の高いペプチドを選択することも可能である。
【実施例3】
【0066】
[蛍光偏光解消法によるEpCAM結合ペプチドとEpCAMとの解離定数の測定]
分子間相互作用を評価する方法である蛍光偏光解消法によって、得られたEpCAMペプチドのEpCAMに対する結合力を測定した。蛍光標識したEpCAMペプチドとEpCAMとを用い、ブラウン運動による偏光の解消のカイネティクスから結合力を求める。
【0067】
FITCで修飾したEpCAMペプチド、又はコントロールペプチドの濃度が100μM程度になるようにPBSに懸濁し、遠心後上清を回収し、10倍希釈して495nmで吸光度を測定した。測定値から下記式1のBeer-Lambertの公式を用いてペプチドのモル濃度を求めた。
【数1】
【0068】
(A:吸光度、E:モル吸光係数(L/モル‐cm)、b:光路長(cm)、C:モル濃度)
EpCAMを0から平衡に達するまで(Ep133ペプチドでは40nM)、数点の濃度をPBSで希釈して用意し、上記方法により正確な濃度を測定したFITC修飾ペプチドを添加する。測定する温度で30分以上放置し、自動偏光測定ユニット(日本分光、APH−103)を装着した日本分光社製蛍光分光装置FP−6500を用い偏光測定を行った。
図2及び表1に得られた測定結果を示す。ヒルの式(Hill equation)でカーブフィッティングを行い、Kdを求めた。
【0069】
本発明で得られたEpCAMに高い結合能を有する2種類のペプチドEp133(
図2(A))及びEp114(
図2(C))の解離定数を蛍光偏光解消法により測定した。また、いずれのEpCAM結合ペプチドも2つのシステイン残基が保存され、S−S結合の形成がEpCAM結合に必要であることが本発明者らの解析により明らかとなったことから、コントロールとして、Ep133の5番目と10番目のシステインをセリンに置換したコントロールペプチド、Ep133コントロール(
図2(B))を用いた。
【0070】
また、特許文献2に開示しているEpCAM結合ペプチドEp301(
図2(D))、及びEp301の5番目と10番目のシステインをセリンに置換したコントロールペプチドEp301コントロール(
図2(E))の結合定数及び、EpCAM106−119番目のEpCAM結合ペプチドと部分的に相同性を有する配列(
図2(F))についても解離定数を同様に測定した。結果を
図2及び表1に示す。
【0071】
【表1】
N.B.:結合を認めず。
【0072】
上記示したように、今回新たに得られた2種類のペプチドEp133及びEp114は、既に得ていたEp301に比べて10倍以上強くEpCAMに結合することが示された。
【0073】
また、5番目と10番目のシステインをセリンに置換したペプチドはEpCAM結合性を示さなかったことから、これら2つのシステイン残基のS−S結合の形成が、EpCAMとの結合に重要であることが示唆される。
【0074】
さらに、EpCAM106−119番目の配列は、EpCAM結合ペプチドと部分的に相同性を示すが、EpCAMとの結合は認められなかった。
【実施例4】
【0075】
[Ep114ペプチドの機能部位の解析]
1.アラニンスキャンニングによるEp114ペプチドの機能部位の特定
Ep114の機能部位を特定するために、Ep114のアラニン置換変異体を発現するファージを作成し、EpCAMへの結合性、及び抗Ep114抗体との結合性を解析した。
【0076】
なお、抗EpCAM抗体は以下のようにして作成したものを用いた。合成したEp114ペプチドを抗原として用い、キャリアタンパク質であるウシサイログリシンにコンジュゲートした後に、ウサギに合計8回免疫した。予備的調査で、血清中の抗体価が上がっていることを確認し、IgG親和性クロマトグラフィーを用い、IgGを精製し、抗Ep114抗体(IgG)を得た。
【0077】
Ep114アラニン置換変異体は、Inverse PCR法に基づく部位特異的変異導入キット、KOD-Plus-Mutagenseis Kit(TOYOBO社製)を用いEp114を構成する各アミノ酸を1つずつアラニンに置換して作成した。以下、Ep114の変異体は、例えば一残基目のリシン(K)をアラニン(A)に置換した変異体はEp114(K1A)のように表し、かっこ内に変異前のアミノ酸、位置、変異後のアミノ酸を記載して表す。
【0078】
作成した変異体ファージは、以下の方法によりEpCAMとの結合性、抗EpCAM抗体との結合性の解析を行った。
【0079】
96ウェルプレートにEpCAM又は抗Ep114抗体を1μg/well、4℃で一晩固相化し、0.5%BSAを含む0.1M NaHCO
3中、室温で1時間ブロッキングを行い、TBSTを用いて洗浄する。
【0080】
EpCAM又は抗Ep114抗体を固相化したプレートに、Ep114の各アミノ酸をアラニンに置換したペプチドを発現するファージを加え、室温で1時間静置する。TBSTで洗浄後、HRP標識抗M13抗体を反応させ、ABTS(2、2‘−アジノビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)を用いて検出を行った。EpCAMに対する結合性を
図3A、抗Ep114抗体に対する結合性を
図3Bに示す。M13KEは、ペプチドを提示していないファージであり、陰性コントロールである。
【0081】
EpCAMへの結合性は、2残基目のヒスチジン、3残基目のロイシン、8残基目のアスパラギン、9残基目のイソロイシン、10残基目のシステイン、11残基目のトリプトファンがアラニンに置換されることにより大きく減少し、抗Ep114抗体の認識には、5残基目のシステイン、8残基目のアスパラギン、9残基目のイソロイシン、10残基目のシステインがアラニンに置換されることにより減少することが明らかとなった。
【0082】
特に、8残基目のアスパラギン、9残基目のイソロイシン、10残基目のシステインは、ペプチドのEpCAM、抗Ep114抗体両者の結合性に影響を及ぼすことから、構造的に重要であることが示唆される。また、Ep114の3残基目のリシンをアラニンに置換した変異体Ep114(L3A)はEpCAMとの結合性が低く、また、非特異的吸着も低いことから、以後陰性コントロールとして用いることとした。
2.Ep114ペプチドの1残基目のリシンのEpCAM結合に及ぼす効果
Ep114ペプチドの1残基目のリシンを種々のアミノ酸に置換して、EpCAMに対する結合性の解析を行った。ペプチド合成後に蛍光分子などを結合させて修飾する場合には、C末に余分なリシンを予め付加して合成しておき、リシンの側鎖を利用することが多い。その際にN末にリシンがあるとN末のリシンも修飾されてしまうことから、修飾の程度等を調節することが困難になる。そのため、1残基目のリシンを他のアミノ酸に置換することができれば、C末のリシンの側鎖のみを利用して修飾することができる。また、N末のリシンが必要なければ、1残基短いペプチドを合成すればよいので、ペプチド合成の費用も比較的安くなる。
【0083】
上記アラニン置換変異体と同様に、Inverse PCR法に基づき1残基目のリシンに特異的に変異を導入し、変異体ファージを作成し、EpCAMに対する結合性を解析した。解析方法は、上記アラニンスキャンニングによるEp114ペプチドの機能解析の場合と同様、ELISAによる評価を行った。結果を
図4Aに示す。図中、EpCAM+、EpCAM−は、プレートのEpCAM固相化の有無を示し、補正値はEpCAM+の測定値からEpCAM−の測定値を引いて補正した値を示す。EpCAM−の値が高いことはペプチドの非特異吸着が高いことを示す。
【0084】
Ep114の1残基目のリシンを他のアミノ酸に置換しても、Ep114と比較して結合能は若干低くなるもののEpCAMに対する結合能は失われない。しかしながら、アミノ酸の種類によっては非特異吸着が強くなる傾向が示された。特に、リシンをトリプトファン(W)、フェニルアラニン(F)、メチオニン(M)、チロシン(Y)に置換した変異体では、EpCAMがプレートに固相化されていない場合であっても、固相に対して非特異的に吸着する割合が高くなっている。一方、アスパラギン(N)、トレオニン(T)、セリン(S)に置換した変異体は、Ep114とほぼ同程度の非特異吸着を示す。
【0085】
ELISAの結果によれば、リシンをトリプトファン(W)、フェニルアラニン(F)、メチオニン(M)、チロシン(Y)に置換した変異体では非特異吸着が顕著であり、EpCAMへの結合能が低くなっている。そこで、これら変異体のEpCAMへの結合能をビーズを用いてさらに解析を行った。
【0086】
1残基目のリシンをアラニン(A)、アスパラギン(N)、セリン(S)、イソロイシン(I)に置換した変異体、及びコントロールとしてM13KE、Ep114、3残基目のロイシンをアラニンに置換した変異体を用いて解析を行った。1×10
10PFUの各ファージとEpCAM1μgとを結合させた後、0.5%BSA、B&W buffer (5mM Tris-HCl (pH 7.5), 0.5 mM EDTA, 1M NaCl)で一晩前処理したビーズ、0.4mgを添加して、ビーズに結合するファージの数をカウントした。結果を
図4Bに示す。
【0087】
図4Bに示すように、ビーズを用いた実験結果からは、1残基目のリシンを上記アミノ酸に変異させた変異体ファージの結合能は、Ep114と大きくは変わらない。一方、L3Aの変異体ファージでは、EpCAMに対する結合率が他のファージと比較して1桁低いことが示されている。
【0088】
ELISAと、ビーズを用いた実験結果は一見異なるもののようであるが、これはELISAでのプラスチック基板への物理吸着を利用した固相化法と、磁気ビーズへのHisタグを用いた固相化法との間の、バックグラウンド吸着の性質の違いに起因するものと推察される。バックグラウンド吸着を補正して考慮すると、一残基目のリシンを他のアミノ酸に代えても、EpCAMに対する結合能はほとんど変わらないものと考えられる
【実施例5】
【0089】
[ビオチン化Ep114を用いた免疫沈降法への応用]
ペプチドを合成の段階でビオチン化し、ストレプトアビジンビーズに固定化し、抗EpCAM抗体との反応性、EpCAMとの検出の解析を行った。
1.抗Ep114抗体との結合
ビオチン化したEp114ペプチド20μgに、2%BSAを含むTBS中で250μgのストレプトアビジン磁気ビーズ(Dynabeads M-280 streptavidin、ベリタス社製)を添加し室温で30分震盪した後、TBSで洗浄を行った。なお、ペプチドを添加せずに反応を行ったものをコントロールとした。TBST中で抗Ep114抗体を添加し、室温で1時間反応させ、TBSで洗浄後ビーズを回収した。回収したビーズは、SDSサンプルバッファー中で95℃5分加熱し、ウェスタンブロットを行い、HRP標識抗ウサギ抗体により抗Ep114抗体の検出を行った。
【0090】
磁気ビーズとの反応を
図5A左に模式的に、ウェスタンブロットの結果を右に示す。
図5Aは、ビーズ結合分画(ビーズ)、上清において、レーン1:Ep114、抗Ep114抗体、レーン2:Ep114、コントロール血清(Ep114免疫前の血清)、レーン3:ペプチドなし、抗Ep114抗体、レーン4:ペプチドなし、コントロール血清の結果を示す。
【0091】
Ep114、抗Ep114抗体を磁気ビーズに添加して反応させたレーン1のみ、ウサギ抗体と反応するタンパク質が検出された。すなわち、ビオチン化Ep114ペプチドがストレプトアビジン磁気ビーズに結合し、さらに抗Ep114抗体との結合していることを示す。
2.EpCAMとの結合
上記1.と同様にウェスタンブロットの系を用いて、Ep114とEpCAMとの結合を確認した。具体的には、ストレプトアビジン磁気ビーズ250μgにビオチン化したEp114ペプチドを20μgを結合させた後、EpCAM400ngと反応させ、ウェスタンブロットを行い、抗EpCAMポリクローナル抗体により検出を行った(
図5B左参照)。
【0092】
ビオチン化ペプチドとして上記1.で用いたペプチドの他にリンカーを付加し、ビオチンにより修飾した下記配列(1)〜(3)で示す3種類の合成ペプチド(各々PE183、PE184、PE185という。)を用いて同様にEpCAMとの結合を確認した。なお、下線部はリンカー部を示す。
PE183 Ac-KHLQCVRNICWS
PPPPPPKK(biotin)-NH2 (1)
PE184 Ac-KHLQCVRNICWS
GGSGGSK (biotin)-NH2 (2)
PE185 Ac-KHLQCVRNICWS
NNNNSNNNNK(biotin)-NH2 (3)
結果を
図5Bに示す。ビーズ結合分画(ビーズ)、上清において、レーン1:ペプチドなし、レーン2:ビオチン化Ep114、レーン3:PE183ペプチド、レーン4:PE184ペプチド、レーン5:PE185ペプチドの結果を示す。
【0093】
レーン3、4に示したリンカーとしてアミノ酸配列PPPPPPKK、又はGGSGGSKを用いたものは、リンカーを用いずにビオチン化したペプチドやNNNNSNNNNKリンカーを用いたものに比べ、EpCAMと非常によく結合した。適切なリンカー配列があることにより、立体阻害が生じることなくEp114へEpCAMが結合するものと考えられる。
3.エクソソームとの結合
上記(1)と同様にウェスタンブロットの系を用いて、エクソソームとの結合を確認した。具体的には、ストレプトアビジン磁気ビーズ250μgにビオチン化Ep114ペプチド、PE183ペプチド、PE184ペプチド、PE185ペプチドを各20μgを結合させた後、EpCAM陽性細胞であるHT−29細胞より単離したエクソソームと反応させ、ウェスタンブロットを行い、抗EpCAMポリクローナル抗体により検出を行った(
図5C左参照)。
【0094】
エクソソームとの結合には、いずれのリンカーを用いた場合でも、あるいはリンカーを用いずにビオチン化したペプチドも同程度の結合能を示した。
【実施例6】
【0095】
[蛍光標識を用いた検出]
蛍光標識を用いて本発明のペプチドとEpCAMとの結合の検出を行った。PKH26(シグマアルドリッチ社製)で蛍光標識したエクソソーム用いて、ペプチドとの結合を検出した(
図6)。
【0096】
ストレプトアビジン磁気ビーズ250μgにビオチン化Ep114ペプチド(1)、PE183ペプチド(2)、PE184ペプチド(3)、レPE185ペプチド(4)を各20μgを結合させた後洗浄し、蛍光強度を測定した。その後、PKH26標識エクソソームを添加し、室温で1時間反応後、洗浄し、各試料の蛍光強度を測定した。
図6はコントロールに対する蛍光強度の増加を示す。
【0097】
いずれのビオチン化ペプチドを用いた場合も、コントロールに比べて蛍光強度の増強が検出されたことから、エクソソームを蛍光標識して測定に用いることも可能であることが示された。
【実施例7】
【0098】
[ELISAによる検出]
ELISA用プレートに、ストレプトアビジンを介してPE183ペプチド(Ac-KHLQCVRNICWS
PPPPPPKK(biotin)-NH2)を固相化し、精製EpCAMを0、10、100ng添加し反応させ、洗浄後、結合したEpCAMを抗EpCAM抗体によって検出した。コントロールとして、EpCAMに結合しない変異体であるL3A変異体のビオチン修飾ペプチドPE194(Ac-KHAQCVRNICWSPPPPPPKK(biotin)-NH2)を用いている。結果を
図7Aに示す。
【0099】
PE183ペプチドを用いた場合には、EpCAMの添加量に比例して、ELISAのシグナルの増強が観察される。一方、EpCAMに結合しない変異体では、EpCAMの添加量を増加してもシグナル強度の増加はほとんど観察されなかった。
【0100】
次に、ELISA用プレートに、ストレプトアビジンを介してPE183ペプチド(Ac-KHLQCVRNICWS
PPPPPPKK(biotin)-NH2)を固相化し、HT−29由来のエクソソームを添加し反応させ、洗浄後、結合したエクソソームを抗EpCAM抗体によって検出した。コントロールとして、上記と同様にL3A変異体のビオチン修飾ペプチドPE194を固相化して用いた。結果を
図7Bに示す。
【0101】
添加するエクソソームの増加に伴って、Ep114ペプチドを固相化した試料ではELISAシグナルの増強が観察された。
【実施例8】
【0102】
[フェリチン融合Ep114ペプチドを用いた検出]
フェリチンは内部に含む水酸化鉄の電子密度が高いため、電子顕微鏡解析の標識として用いられてきたが、近年MRIで画像解析をする場合にも有用な標識であることが報告され、注目されるようになってきている。
【0103】
フェリチン派生株の1つである、Fer8(非特許文献6)のN末にEp114を融合させ解析に用いた。
【0104】
ELISAプレートに1μgのフェリチン融合Ep114ペプチド(Ep114/fer8)、あるいはフェリチン(fer8)を固相化した後、濃度を変えた精製EpCAMを加えて、結合したEpCAMを抗EpCAM抗体で検出した(
図8A)。
【0105】
次にELISAプレートに0.2μgの精製EpCAMを固相化した後、濃度を変えたフェリチン融合Ep114ペプチド(Ep114/fer8)、あるいはフェリチン(fer8)を加えて、結合したEp114ペプチド(Ep114/fer8)、あるいはフェリチン(fer8)を抗フェリチン抗体で検出した(
図8B)。
【0106】
フェリチン融合Ep114ペプチドもEpCAMを感度良く検出可能であることから、MRIを用いた診断や治療への応用を期待することができる。
【実施例9】
【0107】
[細胞染色への応用]
先に本発明者らが開示したEp301ペプチドはファージに提示した状態でのみ、EpCAMへの結合が見られ、ペプチド単独でEpCAMへの結合が見られなかった。したがって、ファージから切り離した状態で細胞染色を行うことはできなかった。今回得られた2種類のペプチドは、上記表1で示したように、Ep301ペプチドよりも、EpCAMに対する結合力が10倍以上強い。したがって、ファージから切り離した状態で染色に用いても、充分に細胞染色に用いることが可能であると考えられた。そこで、スフェロイド培養した細胞塊の染色を行った。
【0108】
EpCAM発現細胞であるHT−29細胞は以下のようにスフェロイド培養により培養した。20ng/mlヒトEGF(ミルテニーバイオテク社製)、20ng/mlヒトEGF−2(ミルテニーバイオテク社製)、B−27(ギブコ社製)、ペニシリン、ストレプトマイシンを添加したD−MEM/F−12培地(Dulbecco’s Modified n Eagle Medium:Nutrient Mixture 12, 1:1混合)(ギブコ社製)3mlに4×10
5細胞を懸濁し、MPCポリマーでコートされた直径3.5cmのシャーレ、EZ−SphereTMに播種する。72時間静置培養後、ピペットで培地を懸濁しながら、細胞を回収し、FITC修飾したペプチドで染色を行い、蛍光顕微鏡で観察した。染色は、McCoy’s 5A 培地中に4μMペプチドを加えて30分間室温静置することでおこなった。
【0109】
図9に染色結果を示す。FITCでラベルしたEp114ペプチド(
図9A:114−FITC)、Ep133ペプチド(
図9B:133−FITC)、どちらのペプチドを用いた場合でも、0.4μM濃度でHT−29上のEpCAMが染色される。これに対し、5番目と10番目のシステインをセリンに置換したコントロールペプチドを用いた場合には、染色は観察されない(
図9A:114control−FITC、B:133control−FITC)。さらに、データは示さないがこれらコントロールペプチドを4μM濃度で用いてもEpCAM染色は観察されなかった。
【0110】
データは示さないが、HT−29の他に、EpCAMを発現することが知られている、MCF−7でも同様の方法で、Ep114を用いてEpCAMが染色されることを確認した。
【0111】
次に、コントロールとしてL3A変異体ペプチドを用いた染色を行った結果を示す。HT−29細胞のスフェロイドの染色結果は、
図9Aと同様、Ep114ペプチドでは染色されるが、L3A変異体では染色されないという結果が得られた。
【実施例10】
【0112】
[細胞染色への応用]
EpCAM発現細胞であるHT−29、発現していないHs578T細胞をシャーレで10%ウシ胎児血清を含む培地で48時間培養し、FITC標識したEp114ペプチド、L3Aコントロール標識ペプチドで、最終濃度0.4μMで37℃1時間インキュベートした後、すぐに共焦点顕微鏡観察を行った。
【0113】
結果を
図10に示す。Ep114ペプチドでは、EpCAM発現細胞HT−29の細胞膜部分の染色が観察されるのに対し、コントロールペプチド、EpCAM非発現細胞であるHs578T細胞では染色は観察されなかった。
【実施例11】
【0114】
[Ep114のシステインの架橋]
Ep133ペプチド及びEp114ペプチド、また、先に開示しているEp301ペプチド、いずれのペプチドも5番目及び10番目のアミノ酸はシステインに保存されていることから、システインの重要性が示唆される。また、実施例3で示しているように、これら2つのシステインをセリンに置換するとEpCAMに対する結合性を示さなくなることからもシステイン残基の重要性は示唆される。
【0115】
さらに、本発明者らは、Ep301ペプチドは酸化処理によって、S−S結合を形成させると、EpCAMとの結合活性を有するようになることを見出していた。今回、クローニングしたEp133に関しても、酸化処理によって、システインをS−S結合させた後、HPLCにより分離してS−S結合を有する分画のみがEpCAMに対する結合活性を有している。
【0116】
これに対し、Ep114ペプチドは、化学合成後すぐに蛍光偏光解消法で結合能を測定するとEpCAMとの結合性を示さない。しかしながら、10%FCS存在下では、すぐに酸化され、積極的な酸化処理を行わなくとも、EpCAMとの結合が観察されるようになる。
【0117】
図11は、FITC修飾したEp114ペプチドを用いて、細胞染色したものである。内在性のEpCAMを発現していない293T細胞に、EpCAM遺伝子の全長を発現プラスミドに組み込んだpkk196をトランスフェクションし、強制発現させ、FITC修飾Ep114を用い染色を行った。酸化処理を行って、積極的にS−S結合を形成させたもの(
図11左、Ep114)も、酸化処理を行っていないもの(
図11右、Ep114Cys)も同等にEpCAMに対して染色能を有する。これに対し、データは示さないがEp133ペプチドは積極的な酸化処理を行わないと、EpCAMに対して結合能を示さない。
【0118】
Ep114のS−S結合形成に関し、蛍光偏光解消法、HPLCを用いて詳細に検討した。その結果、データは示さないがPBS中で4℃、あるいは−20℃で凍結保存しても10日後には酸化され、S−S結合を形成していることが明らかとなった。
【0119】
酸化処理を行わなくてもS−S結合を形成し、EpCAMに対し結合能を有するようになるというEp114のこの性質は、化学合成したペプチドをそのまま使用可能であることを意味し、臨床応用等に用いる際に非常に有用である。
【0120】
以上のように、本発明で開示した2種類のEpCAM結合ペプチド、Ep133及びEp114はEpCAMに対して強い結合能を有することから、癌の診断、予後診断おいて非常に有用である。
【0121】
以上示してきたように、本発明はEpCAMに高い結合能を示すペプチドを提供し、該ペプチドを用いた応用方法を示すものである。
【0122】
本明細書では示していないが、本発明のペプチドはEpCAMに対する結合能が強いことから、細胞表面上にEpCAMを発現する細胞を標的とするドラッグデリバリーシステムの運搬体に用いることや、作用物質としてジフテリア毒素のような毒素と結合させて治療に用いる等の応用も期待できる。
【0123】
また、ペプチドは化学合成が可能であることから、大量に安定した品質で、精製過程で夾雑物質が混入する危険性の少ない安価な製品を提供することが可能となる。
【0124】
さらに、本発明のペプチドに対する抗体も得られていることから、抗ペプチド抗体を用い、慣用の免疫学的手法による幅広い応用が可能である。