【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成27年度経済産業省「平成27年度新エネルギー等国際標準化推進事業委託費(新エネルギー等国際標準共同研究開発・普及基盤構築:大型蓄電池システムの安全性に関する国際標準化・普及基盤構築)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、従来の携帯電話、パソコンなどのポータブル機器の電源のみならず、電気自動車やプラグインハイブリッド車のような環境対応車の電源、さらには大型のエネルギ貯蔵用蓄電システムなどのインフラ機器まで、より高い信頼性と安全性が求められる用途に展開してきている。
【0003】
リチウム二次電池には、正極と負極の間にそれぞれの極板を電気的に絶縁するセパレータがある。このような電池が高温環境に長時間さらされた場合などに、セパレータが収縮することで正極と負極が物理的に接触して内部短絡が発生することがありうる。
【0004】
そこで、内部短絡が発生した際の単電池および組電池の安全性を適切に評価する手法として、電池の内部短絡安全性評価方法が提案されている(特許文献1)。これは、電池の内部短絡における安全性を総合的に評価するために提案されたものである。電池の電極群内部の正極と負極が対向する箇所に異物を混入させ、加圧子による加圧力で混入部をプレスし、正負極間に介在するセパレータを局所的に破壊することによって内部短絡を発生させ、内部短絡安全性評価方法として適用できるとされている。この内部短絡試験法により安全性のレベルが確認された電池の製造手順に基づいて電池を製造することにより、量産される電池の内部短絡安全性レベルを同様に保証することができるとされている。
【0005】
元来、ポータブル機器用小型リチウム二次電池向けに開発された上述の内部短絡試験法には、電池内部に異物を混入させる試験工程がある。内部に異物を混入する際にはセルを分解する必要があるが、小型リチウム二次電池ではセル外装材料も薄肉で、比較的容易に異物混入を行うことができ、簡便に耐内部短絡性能を評価できる。なお、小型リチウム二次電池は、たとえば、携帯電話、パソコン用リチウム二次電池であって、その容量は通常、1〜3Ah程度である。
【0006】
これに対して、大型蓄電システム機器や環境対応車両向けを中心にセルの大容量化が進んでおり、最大100Ah規模のセルも開発されている。このセルの大容量化に伴い、セルを形成する外装材のアルミ材を厚肉化したり、あるいはより高強度を有する鉄鋼材やステンレス鋼材が選定されるに至っている。そこで、内部短絡試験にて異物を挿入するためにセルを分解する際、セルケースが堅固であるために分解に困難を伴う場合があった。
【0007】
また、セルの大容量化により各セルに充電されたエネルギは増大するため、異物混入時の不用意な事故の懸念など、試験実施上の安全確保の面からも困難性が高まる傾向にあった。大容量セルの分解と異物の混入ができた場合でも、ポータブル機器用小型リチウム二次電池の場合に比べて、その短絡試験に要する時間が大幅に長くなる場合があり、これに伴って内部に充填されている電解液が乾燥するなど、所定の内部短絡性能評価が困難な場合があった。
【0008】
一方、単電池が内部短絡などにより熱暴走を生じた場合、電池の温度は200℃以上の高温となることがある。特に大型蓄電システムや環境対応車では多数の二次電池を内蔵した組電池が適用されているため、複数の二次電池が熱暴走を起こすと、熱暴走のエネルギが極めて大きくなり、重大な損傷に至ることが考えられる。そこで、単電池の内部短絡性能を評価する試験に代わって、組電池内のいずれかの単電池(満充電状態)を加熱などの方法で熱暴走(急激に温度が上昇した時点を熱暴走という)させ、熱暴走後、加熱などを停止し、一定時間放置して異常の有無を確認する耐類焼試験が日本工業規格(JIS)などに提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
たとえば、非特許文献1(JIS)には、組電池の耐類焼試験において、単電池を加熱する方法して、抵抗加熱器、熱伝導ヒータの使用などが挙げられている。また、非特許文献2(IEC)にも耐類焼試験の試験方法(Procedure of Propagation test)が掲げられている。しかし、熱暴走させる加熱法としてヒータ、バーナ、レーザ、誘導加熱が記載されているのみである。また過充電、セルの釘刺しによる方法、さらにこれらの方法の組合せについても例示されているが、種々の電池セル容量、セルタイプ、正極材・負極材の組合せ、セルサイズのセルに対して、それらを的確に熱暴走させる具体的な方法については示されていない。ここで、セルタイプには、角型缶セル(特許文献2参照)、円筒缶セル(特許文献3参照)、ラミネートセルなどがある。
【0012】
本願発明者らは、従来の技術による単電池の種々の熱暴走試験を行った。ここでその結果について説明する。
【0013】
まず、釘刺し法(特許文献4参照)による缶セル単電池の種々の熱暴走試験を行った。その結果を
図17および
図18に示す。
図17と
図18は見掛け上互いに同じ条件での熱暴走試験の結果であるが、試験対象は種類の異なる缶セルであり、結果が全く異なる。すなわち、
図17の結果では、セルは比較的短時間に300℃以上にセル温度が上昇し、熱暴走に至った。しかし、
図18の試験結果では、セルは最高で100℃程度にしか温度上昇が生じず、熱暴走には至らなかった。
【0014】
同様に、缶セル単電池を過充電法によって熱暴走させる試験の結果を
図19および
図20に示す。
図19と
図20は見掛け上互いに同じ条件であるが、試験対象は種類の異なる缶セルである。これらの試験では、いずれも熱暴走には至ったが、200℃を越える温度に至って熱暴走するまでに30分以上を要し、その間に缶セルは大きく膨張した。
【0015】
つぎに、ラミネートセル単電池を過充電法によって熱暴走させる試験の結果を
図21および
図22に示す。
図21および
図22は、異なる種類のラミネートセルを試験対象とする。これらの試験では、いずれも熱暴走には至ったが、200℃を越える温度に至って熱暴走するまでに20分以上を要し、その間にラミネートセルは大きく膨張した。
【0016】
種々の材料、容量、形状を有するセルを搭載した組電池において、的確かつ短時間に所定のセルの熱暴走を生じさせることは、再現性のある、信頼性の高い耐類焼試験を実現する上において極めて重要な要素である。しかし、先に示したごとく、釘刺し法では熱暴走に至らないセルもあった。また過充電法では、所定のセルを熱暴走させる際に長時間を要してしまった結果、その間に所定のセルの熱が周辺セルへ伝播する結果となり、その影響を受けて耐類焼性評価結果がばらつく場合があった。
【0017】
また、バーナなどの加熱源を用いた試験では、その試験結果の図示は省略するが、熱源の広がりのために所定のセル以外のセルも加熱してしまう結果となり、再現性のよい耐類焼性評価結果が得られない場合があった。
【0018】
また、誘導加熱法による場合も、組電池の形状により所定のセルの加熱を効率的に行えず、結果として熱暴走に至るまでに長時間を要して、耐類焼性評価結果の信頼性が損なわれる場合があった。
【0019】
ところで、近年、レーザを加熱源として活用する方法が着目され、検討が進められている。
【0020】
従来より、レーザを加熱源として適用する材料加工プロセスとして、レーザ焼入れが知られている。しかし、レーザ焼入れと同様のレーザ照射による缶セル単電池の加熱試験を行った結果、
図23に示すように、バーナ加熱などと同様に熱暴走までに長時間を要した。その間にセルは膨張して周辺のセルにも熱が伝わる結果となり、信頼性の高い耐類焼性評価結果が得られないことがあった。
【0021】
また、レーザ出力を高めて、より短時間に熱暴走を発生させる試験を行った結果では、
図24のごとく、短時間で熱暴走する場合もあるが、熱暴走に至る前に高出力レーザによりセルケースが溶損し、形成された開口部からセル内の電解液が漏洩あるいは飛散してしまうことがあった。
【0022】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、組電池のうちの一つの単電池を熱暴走させて耐類焼性能を再現性よく確実に評価するための耐類焼試験方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記目的を達成するために、本発明に係る耐類焼試験方法は、金属製の密閉容器を含む金属製のセル外側部材を備えた複数の単電池を組み合わせて構成された組電池の耐類焼試験方法であって、前記複数の単電池のうちの一つである受光単電池の前記セル外側部材の受光部または当該受光単電池の前記セル外側部材に接して配置された金属製の受光部に所定の照射条件のレーザにてレーザ照射することによって前記受光単電池を加熱する照射ステップと、前記照射ステップを継続しながら、前記受光単電池の熱暴走を確認する熱暴走確認ステップと、前記熱暴走確認ステップの後にレーザ光の照射を停止する照射停止ステップと、前記照射停止ステップの後に前記受光単電池以外の前記単電池の健全性を確認する他単電池健全性確認ステップと、を有し、前記所定の照射条件は、前記受光
部に溶融痕が形成される照射条件であること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明の耐類焼試験方法によれば、組電池のうちの一つの単電池を熱暴走させて耐類焼性能を再現性よく確実に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明に係る組電池の耐類焼試験方法で使用されるレーザ照射システムの一実施形態の構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明に係る組電池の耐類焼試験方法の第1の実施形態で対象となる組電池の構成の例を模式的に示す斜視図である。
【
図3】
図2の組電池を構成する単電池の構成の例を模式的に示す斜視図である。
【
図4】本発明に係る組電池の耐類焼試験方法の第1の実施形態で対象となる組電池の、図
2の例とは異なる構成の例を模式的に示す斜視図である。
【
図5】本発明に係る組電池の耐類焼試験方法の第1の実施形態のフロー図である。
【
図6】本発明に係る組電池の耐類焼試験方法の第2の実施形態で対象となる組電池の構成の例を模式的に示す断面図である。
【
図7】本発明に係る組電池の耐類焼試験方法の第2の実施形態のフロー図である。
【
図8】本発明に係る組電池の耐類焼試験方法の実施例1における予備照射で得られた溶融痕の断面を示す写真である。
【
図9】本発明に係る組電池の耐類焼試験方法の実施例1における受光単電池の温度変化の測定結果を示すグラフである。
【
図10】本発明に係る組電池の耐類焼試験方法の実施例1およびその比較例の試験結果を示す表である。
【
図11】本発明に係る組電池の耐類焼試験方法の実施例2およびその比較例の試験結果を示す表である。
【
図12】本発明に係る組電池の耐類焼試験方法の実施例3(1)における受光単電池の温度変化の測定結果を示すグラフである。
【
図13】本発明に係る組電池の耐類焼試験方法の実施例3の試験結果を示す表である。
【
図14】本発明に係る組電池の耐類焼試験方法の実施例4の試験結果を示す表である。
【
図15】本発明に係る組電池の耐類焼試験方法の実施例5の試験結果を示す表である。
【
図16】本発明に係る組電池の耐類焼試験方法の実施例6の試験結果を示す表である。
【
図17】従来の釘刺し法による缶セル単電池の熱暴走試験の試験結果、熱暴走を起こした場合における単電池の温度変化を示すグラフである。
【
図18】
図17の場合と見掛け上同じ条件で他の缶セル単電池の熱暴走試験を行った結果、熱暴走を起こさなかった場合における缶セル単電池の温度変化を示すグラフである。
【
図19】缶セル単電池を過充電法によって熱暴走させた試験における単電池の温度変化を示すグラフである。
【
図20】
図19の場合と見掛け上同じ条件で他の缶セル単電池を過充電法によって熱暴走させた試験における単電池の温度変化を示すグラフである。
【
図21】従来の過充電法によるラミネートセル単電池の熱暴走試験における単電池の温度変化を示すグラフである。
【
図22】
図21の場合と見掛け上同じ条件で他のラミネートセル単電池を過充電法によって熱暴走させた試験における単電池の温度変化を示すグラフである。
【
図23】レーザ焼入れと同様のレーザ照射による缶セル単電池の加熱試験における単電池の温度変化を示すグラフである。
【
図24】
図23の場合よりもレーザ出力を高めたレーザ照射による缶セル単電池の加熱試験における単電池の温度変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る組電池の耐類焼試験方法で使用されるレーザ照射システムの一実施形態の構成を示すブロック図である。
【0027】
レーザ照射システム10は、被試験体である組電池11の受光部41に対してレーザ光12を照射するレーザ照射ヘッド13と、レーザ照射ヘッド13を把持するとともに組電池11の所定の位置にレーザ光12を位置決めして必要に応じて駆動する駆動装置14と、駆動装置14を制御する駆動装置制御盤15と、レーザ光12を伝送しレーザ照射ヘッド13までこれを導くレーザ照射用光ファイバ16と、レーザ光12を発生させるレーザ発振器17と、レーザ発振器17の出力制御を司るレーザ発振器制御盤18と、レーザ発振器17と駆動装置14とを総合的に制御するレーザ照射システム制御装置19とを備えている。
【0028】
また、組電池11の温度を測定するために、熱電対などの温度計40が取り付けられている。温度計40の出力は、レーザ照射システム制御装置19に送られて、温度計40の変化が記録される。また、組電池11内の受光単電池20a(後述)が熱暴走を起こした時に、レーザ光12の照射を停止するように構成されている。
【0029】
ここで、レーザとしては、材料加工用のレーザとして一般に使用されるものであればよい。たとえば、YAGレーザ、CO2レーザ、半導体レーザ、ファイバレーザ、ディスクレーザが利用できる。特に、最近適用が進みつつあるファイバレーザやディスクレーザは、コンパクトで、かつ光の質が良い(集光性が良く、所望するレーザ出力が得やすい)ので、適している。
【0030】
また、レーザの波長としては、材料加工用のレーザとして一般に使用される範囲であれば利用できる。たとえば、波長数百nmの半導体レーザから10.6μmのCO2レーザまで利用可能である。あまり波長が短いレーザは一般に出力が小さく、本発明の実施形態には適していない。また、あまり波長が長いレーザは、材料表面の吸収率が低いために、本発明の実施形態には適していない。
【0031】
組電池11では、
図2に示すように、複数の単電池(セル)20が配列され、電気的に接続されている。
【0032】
各単電池20は、たとえばリチウム二次電池であって、
図3に示すように、金属製の密閉容器21と、密閉容器21内に収容された電解液22と、密閉容器21内で電解液22に浸漬された正極23および負極24と、密閉容器21内で正極23と負極24との間に介在する絶縁層25とを有する。
図3に示す例では、平板状の複数の正極23と複数の負極24とが互いに平行に交互に並列されており、互いに隣接する正極23と負極24との間に平板状の絶縁層25が配置されている。さらに、正極23または負極24と密閉容器21とが対向する位置にも、これらの間に絶縁層25が介在するように配置されている。
【0033】
図示は省略するが、複数の正極23同士、および複数の負極24同士はそれぞれ電気的に接続されており、正極23および負極24はそれぞれ、金属製のセル端子(突出金属部材)26、27に電気的に接続されている。セル端子26、27は、密閉容器21外に突出するように設けられている。なお、
図3では、正極23、負極24、絶縁層25の厚みは図示を省略している。
【0034】
図2および
図3に示す例では、密閉容器21が直方体であり、複数の単電池20がプラスチック製の直方体の組電池ケース30内で配列して収容されている。組電池ケース30には、各単電池20および組電池11全体の冷却のために、ケース開口部31が形成されている。組電池ケース30の外側に金属製の組電池端子32、33が突出して取り付けられている。組電池ケース30内のセル端子26、27は、電線(図示せず)によって、互いに接続され、組電池端子32、33に接続されている。単電池20同士の接続には、直列、並列、直列と並列の組合せ、などがある。
【0035】
図4は、本発明に係る組電池の耐類焼試験方法の第1の実施形態で対象となる組電池の、図
2の例とは異なる構成の例を模式的に示す斜視図である。各単電池20が直方体状であってこれらが配列されて一体化されている点は
図2の例と共通である。しかし、
図4の例では、複数の単電池20が、
図2に示すような組電池ケース30内に収納されておらず、結合部材50、51によって構造的に結合されている。なお、
図4でも、電気的接続を担う電線の図示は省略している。
【0036】
[第1の実施形態]
つぎに、レーザ照射システム10を用いた組電池11の耐類焼試験方法の第1の実施形態について、
図5を参照して説明する。
図5は、本発明に係る組電池の耐類焼試験方法の第1の実施形態のフロー図である。
【0037】
この実施形態では、組電池11を構成する複数の単電池20のうちの一つ(受光単電池20a)の金属製のセル外側部材の受光部にレーザ光12を照射して受光単電池20aを加熱して熱暴走させ、他の単電池20に類焼が生じるかどうかを評価する。受光単電池20aに照射するレーザ光12の出力を適切な範囲に制御することにより、受光単電池20aを適切に加熱して熱暴走を起こさせることができる。ここでは、金属製のセル外側部材のうちで単電池20の密閉容器21が受光部を構成する場合を例にとって説明する。
【0038】
初めに、受光単電池20aに照射するレーザ光12の適切な条件を選定するために、予備照射を行う(予備照射ステップS10)。予備照射ステップS10では、実際の耐類焼試験の対象となる組電池11を構成する一つの単電池20を単独で取り出した状態で、レーザ照射システム10により、予備試験受光体としての単電池20の密閉容器21の外表面(予備試験受光部)にレーザ光12を照射する。このとき、照射するレーザ光12の出力を種々に変えて、適切な照射条件を探す。ここで、適切な照射条件とは、予備試験受光部(この場合は密閉容器21)が溶け落ちずに溶融痕が形成される場合である。出力が小さすぎると溶融痕が形成されず、逆に出力が大きすぎると予備試験受光部が溶け落ちて貫通穴が生じることになる。
【0039】
予備照射ステップS10では、一つの単電池20の密閉容器21の表面上でレーザ照射点を動かしながら目視により溶融痕の形成を確認することができる。なお、この予備照射ステップS10では、一つの単電池20にレーザ光12を照射する代わりに、単電池20を構成するのと同じ構造の密閉容器21(ただし、密閉状態でなくてもよい。)だけを単独でレーザ照射ヘッド13の近くに配置してレーザ光12を照射してもよい。さらに、密閉容器21と同じ材質・厚さの金属板を予備試験受光体としてその金属板にレーザ光12を照射してもよい。
【0040】
予備照射ステップS10の結果、試験対象の組電池11に適したレーザ光12の照射条件を選定することができる(照射条件選定ステップS11)。
【0041】
つぎに、試験対象の組電池11にレーザ光12を照射する(照射ステップS12)。このとき、組電池11の中の特定の一つの単電池である受光単電池20aの受光部にレーザ光12を照射し、受光単電池20aを加熱する。たとえば、
図2の組電池11のケース開口部31を通して、受光単電池20aの密閉容器21の表面にレーザ光12を照射する。このとき、照射条件選定ステップS11で得られた適切な照射条件のレーザ光12を用いる。これにより、受光部が溶け落ちずに溶融痕が形成される程度の照射条件で受光単電池20aを加熱することができる。このとき、受光単電池20aの密閉容器21の表面上でレーザ照射点を動かしながら目視により溶融痕の形成を確認するのが望ましい。
【0042】
なお、試験対象の組電池11と同じまたは類似の構造の組電池11、またはそれを構成する単電池20についてのレーザ照射試験を以前に行った結果、最適な照射条件がわかっている場合は、予備照射ステップS10を省略できる場合もある。また、過去のデータがなくても、予備照射ステップS10を省略して、照射ステップS12を行いながらレーザ光の出力を徐々に上昇させて最適な出力を探し出し、その後は最適な出力で照射を続けることも可能である。
【0043】
照射ステップS12では、受光単電池20aの温度変化を温度計40によって計測する。
【0044】
照射ステップS12の結果、受光単電池20aの温度が上昇して所定の閾値温度(たとえば200℃)を超えたかどうかにより、受光単電池20aで熱暴走が生じたかどうかを確認する(熱暴走確認ステップS13)。熱暴走確認ステップS13で熱暴走が確認されるまでは、照射ステップS12を継続する。なお、熱暴走確認ステップS13では、破裂音や発火などによって熱暴走を確認することもできる。
【0045】
熱暴走確認ステップS13で熱暴走が確認されたら、レーザ照射を停止する(照射停止ステップS14)。なお、この照射停止ステップS14は、受光単電池20aの温度が所定の閾値温度を超えた時に、温度計40の信号に基いて、レーザ照射システム制御装置19およびレーザ発振器制御盤18によって自動的にレーザ照射を停止してもよく、また、温度計40の出力を操作員が監視して、受光単電池20aの温度が所定の閾値温度を超えた時に、手動によってレーザ照射を停止してもよい。
【0046】
照射停止ステップS14の後、組電池11内で受光単電池20aから他の単電池20への類焼が生じるかどうかを確認するために、所定時間(たとえば1時間)放置して、その後、組電池11を分解するなどして、他の単電池20への類焼が生じたかどうかを確認する(他単電池健全性確認ステップS15)。なお、他単電池健全性確認ステップS15では、組電池11を分解しなくても、放置時間における他の単電池の温度計測等で他の単電池20への類焼が生じたかどうかを確認できる場合もある。
【0047】
上記説明の照射ステップS12において、受光単電池20aの金属製のセル外側部材である密閉容器21の表面にレーザ光12を照射するものとした。変形例として、受光単電池20aの金属製のセル端子26、27や受光単電池20aに取り付けられた金属製の構造部品(図示せず)などの突出金属部材を金属製のセル外側部材の受光部として、レーザ光12を照射してもよい。さらに、組電池ケース30が金属製である場合に、組電池ケース30がその内面で受光単電池20aに接する位置に近い位置の組電池ケース30の部分を受光部として
組電池ケース30の外表面にレーザ光12を照射してもよい。
【0048】
[第2の実施形態]
つぎに、本発明に係る組電池の耐類焼試験方法の第2の実施形態について説明する。ここで用いるレーザ照射システム10の構成は第1の実施形態(
図1)と同じである。
【0049】
図6は、本発明に係る組電池の耐類焼試験方法の第2の実施形態で対象となる組電池の構成の例を模式的に示す断面図である。
【0050】
図6に示す例では、各単電池20が円筒型であって、それらが互いに平行に一列に配列され、ほぼ直方体の組電池ケース30内に収容されて、組電池11が構成されている。
【0051】
図7は、本発明に係る組電池の耐類焼試験方法の第2の実施形態のフロー図である。この第2の実施形態では、照射条件選定ステップS11の後で照射ステップS12の前に、組電池11の組電池ケース30の一部を切り欠いて照射窓60を形成する照射窓形成ステップS101を行う。また、照射窓形成ステップS101の後に、受光体61を受光単電池20aに取り付ける受光体配置ステップS102を行う。他の各ステップは第1の実施形態と同様である。
【0052】
比較的薄肉の密閉容器21を備えた円筒型の単電池20では、その密閉容器21にレーザ光を照射した際に密閉容器21が溶け落ちやすく、表面に溶融痕が残る程度のレーザ光照射条件の選定が困難な場合がある。そこで、この実施形態では、組電池ケース30の一部を切り欠いて照射窓60を形成し、この照射窓60の位置の受光単電池20aに、金属製で単電池20の密閉容器21よりも厚肉の受光体61を取り付ける。この受光体61を受光部としてその表面に溶融痕が残る程度のレーザ光を照射することにより、密閉容器21の溶け落ちを回避し、かつ受光体61の溶け落ちを回避しながら、受光単電池20aを適切に加熱することができる。
【0053】
上記手順において、組電池ケース30に初めからケース開口部31が設けられている場合(
図2参照)、または、組電池ケースがない場合(
図4参照)には、照射窓形成ステップS101を省略することができる。
【0054】
さらに、組電池ケース30が金属製である場合に、組電池ケース30がその内面で受光単電池20aに接する位置に近い位置の組電池ケース30の外表面に受光体を取り付けて、その受光体を受光部としてレーザ光12を照射してもよい。
【0055】
[試験結果]
つぎに、発明者らが実際に行った種々の試験の結果について説明する。
【0056】
(予備試験)
予備試験として、単独で取り出した単電池のセルに対して、熱電対にてセル温度を計測しながらファイバレーザの照射を行う方法で実施した。
図3に示す組電池11を構成する単電池20において、密閉容器(外装材)21がアルミ合金製のものを用いた。アルミ合金はレーザ光の反射率が高いため、この例では温度上昇が芳しくなかった。そこでレーザの吸収率を高めるためにグラファイト塗布剤を単電池表面にあらかじめ塗布し、レーザ照射を行った。しかし、この場合は、急峻な温度上昇は得られず、時間経過とともにセル温度は上昇したが、同時にセルが膨れ、塗布剤がはがれる結果となり、試験を中止した。
【0057】
そこで、レーザ出力を高めて照射したところ、数秒のうちにセル外装材のアルミ合金が溶融し、表面に穴が空き、穴から電解液が漏れだした。さらにこれを継続すると、電解液が引火したため試験を中止した。
【0058】
その後、発明者らは詳細に検討を重ね、アルミ合金製外装材が溶け落ちない範囲でアルミ合金製外装材の表面に溶融痕が形成されると順調にセル温度が上昇することを見出した。得られたセル外装材の断面観察結果を
図8に示す。
図8は、セルの密閉容器(アルミ合金製外装材)21の板厚tが約1.0mmの場合に、1.5kWの出力のファイバレーザを照射した後の、密閉容器21の断面を示す拡大写真である。この写真から、密閉容器21の表面に溶融痕70が形成されたことが分かる。セルの密閉容器21の表面にレーザ光を照射し溶融痕が形成された場合、アルミ合金の溶融金属表面にてレーザ光の吸収率が著しく高まり、その結果、順調なレーザ加熱が達成されたものである。
【0059】
(実施例1)
予備試験において、
図8の溶融痕を形成できたレーザ条件(ファイバレーザ、出力1.5kW)にてレーザ照射を角形缶セル(単電池)に適用した結果、
図9のごとく、20秒以内にセル温度は200℃を超え、角形缶セルは熱暴走した。以上の試験結果を踏まえ、
図2に示す組電池11内の所定の受光単電池20aに対して予備試験で得られた適切な条件のレーザ照射による耐類焼試験を行った。受光単電池20aに対して溶融痕が得られる条件(ファイバレーザ、出力1.5kW)にてレーザ照射を行い、熱暴走後、レーザ照射を停止し、1時間の間、組電池11の状況を観察したが、組電池11の破裂発火は見られなかった。以上の結果、所定の単電池の熱暴走後、1時間経過後も破裂発火はなく、耐類焼試験は正しく実施され、組電池の耐類焼性能が確認された。
【0060】
他方、
図2の組電池11の所定の単電池20に対して従来の釘刺し法を適用した(比較例1(1))。この場合、
図18に示すように釘刺しを施した所定の単電池20に急激な温度上昇は生じず、結果として熱暴走に至らなかった。そのため、耐類焼試験は完結できなかった。また、従来の過充電法を適用した場合(比較例1(2))は、熱暴走に至るまで50分を要し、当該過充電の単電池20が大きく膨張して隣接する組電池11の樹脂製の組電池ケース30が破損した。その結果、組電池11の耐類焼試験は完結できなかった。結果をまとめて
図10に示す。ここで、
図10の実施例1の試験条件は、上述の条件のほか、次のとおりである。すなわち、レーザ光の波長は1.07μm、電池セル数は8個、セルケース板厚は1mmである。
【0061】
(実施例2)
つぎに、大型でセルケースの外装材が鉄製の角型セルからなる組電池について、実施例1と同様の耐類焼試験を実施した。大型セルに対して、従来のレーザ焼入れと同様の加熱では緩やかな温度上昇しか得られず、次第にセルの膨れを生じ、ついには電解液が漏液し、これに引火したため試験を中止した。本実施例のレーザ(ディスクレーザ)照射により溶融痕を形成しセルを加熱する方法(実施例2)と釘刺し法(比較例2(1))を適用した耐類焼試験は実施できた。その結果、いずれも初期に熱暴走させた単電池に隣接するセルが熱暴走するに至り、耐類焼試験は不合格となった。また、過充電法を採用した耐類焼試験(比較例2(2))では、著しいセル膨れが発生し、電解液が漏液し、これに引火したため試験を中止した。結果をまとめて
図11に示す。実施例2の試験条件は、上述の条件のほか、次のとおりである。すなわち、レーザ光の波長は1.03μm、電池セル数は4個、セルケース板厚は1.5mmである。
【0062】
(実施例3)
つぎに、
図6に示すごとき円筒缶セルからなる組電池11の場合に本実施形態のレーザ照射を行った。あらかじめ円筒缶セル(単電池)20に対してYAGレーザの照射によって溶け落ちずに溶融痕が形成できるレーザ出力にて照射を行い、単電池20の熱暴走を確認した。得られた結果を
図12に示す。レーザ出力0.8kWでレーザ照射後、急速にセル温度は上昇し、一気に400℃を超えて熱暴走した。
【0063】
以上の結果を踏まえ、円筒缶セルAの組電池11に対して、冷却のために設けられた組電池開口部を介して受光単電池20aの密閉容器21にYAGレーザを照射する耐類焼試験を実施した。ここでは、受光単電池20aに対して溶融痕が得られる条件であるレーザ出力0.8kWにてレーザ照射を行った(実施例3(1))。受光単電池20aが熱暴走した後、レーザ照射を停止し、1時間の間、組電池11の状況を観察したが、組電池11の破裂発火は見られなかった。以上の結果、所定の単電池の熱暴走後、1時間経過後も破裂発火はなく、耐類焼試験は正しく実施され、組電池の耐類焼性能が確認された。
【0064】
さらに他の円筒缶セルBからなる組電池11について、本実施形態のレーザ照射を行った(実施例3(2))。この場合はYAGレーザの出力を0.6kWとした。この場合も、急峻にセル温度は上昇し、一気に400℃を超えて熱暴走に至ったが、その後、近隣のセルが熱暴走するに至ったため、耐類焼試験としては不合格となった。このように、同型の円筒セルからなる組電池においても、組電池11の耐類焼性能を評価することができ、組電池11の安全性に関して、設計性能の品質確保、健全性の評価に寄与することができる。結果をまとめて
図13に示す。
図13の試験条件は、上述の条件のほか、次のとおりである。すなわち、レーザ光の波長は1.06μm、電池セル数は48個、セルケース板厚は0.5mmである。
【0065】
(実施例4)
つぎに、角型アルミ缶セルCからなる組電池に含まれる単電池を熱暴走させるにあたり、所定の単電池のセル端子に対してレーザ照射(CO2レーザ、出力3.5kW)を行い、同様に溶融痕を形成して単電池を加熱し、1分程度で熱暴走に至ることを確認した。レーザ照射位置は、セル端子に限らず、周辺の排気弁形成部などの金属構造部品でも同様の熱暴走は得られた。またセル間を電気的に締結している電線の口出し端子近傍でも、同様の熱暴走は得られた。
【0066】
これらの予備試験結果を踏まえ、角型アルミ缶セルCからなる組電池の耐類焼試験を実施した。レーザ照射により、所定の単電池は順調に温度上昇し、熱暴走した。その後、放置を行ったところ、隣接するセルが熱暴走するに至り、耐類焼試験は成立したが、試験結果は不合格であった。結果を
図14に示す。
図14の試験条件は、上述の条件のほか、次のとおりである。すなわち、レーザ光の波長は10.6μm、電池セル数は8個、セルケース板厚は1mmである。
【0067】
(実施例5)
さらに、ラミネートセル(図示せず)の組電池について本実施形態のレーザ照射を行った。ここでは、複数のラミネートセルを内蔵した組電池のアルミ製外装ケース(組電池ケース)に対してファイバレーザを用いて出力0.6kWにてレーザ照射を行った(実施例5(1))。組電池ケースに対して溶融痕を形成し、組電池ケース直下のラミネートセル(受光単電池)を熱暴走させ、組電池の耐類焼性能を評価する試験を実施した。その結果、組電池ケース直下のラミネートセルは順調に温度上昇し、熱暴走し、その後、放置を行ったが、短時間に隣接するラミネートセルが熱暴走するに至り、耐類焼試験は成立したが試験結果は不合格であった。
【0068】
また、別のラミネートセルの構造の異なる組電池について本実施形態のレーザ照射を行った(実施例5(2))。ここでも同様に、組電池ケースに対してファイバレーザによるレーザ照射を出力1kWにて実施し、溶融痕を形成して組電池ケース直下のラミネートセルを熱暴走させ、耐類焼試験を行った。組電池直下のラミネートセルの熱暴走後、放置を行ったが、その後、組電池内の各セルは熱暴走には至らず、1時間後、放置を終了し、試験結果は合格となった。ラミネートセルからなる組電池の試験結果をまとめて
図15に示す。
図15に共通の試験条件は、上述の条件のほか、次のとおりである。すなわち、レーザ光の波長は1.07μm、電池セル数は4個、組電池ケースの板厚は1.2mmおよび2.0mmである。
【0069】
(実施例6)
つぎに、上記第2の実施形態(
図6、
図7)に係る具体的な試験について説明する。この例の組電池は、比較的薄肉の外装材からなる円筒缶セルDを連結した組電池の場合である。予備試験として、単電池のセル外装材にレーザを照射した際、外装材が溶け落ちて電解液が漏洩することがあった。
【0070】
そこで別途、受光単電池20aの密閉容器(外装材)21に面接する位置に金属製の受光体(金属部品)61を配置し、当該受光体61に対して、ファイバレーザを用いて出力1.2kWにてレーザ光を照射した。その結果、レーザ照射によって外装材が溶け落ちることを抑制しながら比較的容易に溶融痕が形成でき、確実に所定の単電池を熱暴走させることができた。
【0071】
これらの予備試験の結果を踏まえて、組電池の組電池ケース30の一部を除去して照射窓60を形成し、照射窓60に受光体61を配置し、レーザ照射を行う耐類焼試験を実施した。所定の単電池は熱暴走し、その後レーザ光を遮断して1時間放置した。その結果、組電池内の他の各セルは熱暴走には至らず、当該組電池は耐類焼試験に合格した。結果をまとめて
図16に示す。
図16の試験条件は、上述の条件のほか、次のとおりである。すなわち、レーザ光の波長は1.07μm、電池セル数は20個、セルケース板厚は0.5mmである。
【0072】
[他の実施形態]
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。