特許第6246256号(P6246256)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

▶ スタンレー電気株式会社の特許一覧
<>
  • 特許6246256-液晶分子配向基板および液晶表示素子 図000002
  • 特許6246256-液晶分子配向基板および液晶表示素子 図000003
  • 特許6246256-液晶分子配向基板および液晶表示素子 図000004
  • 特許6246256-液晶分子配向基板および液晶表示素子 図000005
  • 特許6246256-液晶分子配向基板および液晶表示素子 図000006
  • 特許6246256-液晶分子配向基板および液晶表示素子 図000007
  • 特許6246256-液晶分子配向基板および液晶表示素子 図000008
  • 特許6246256-液晶分子配向基板および液晶表示素子 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6246256
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】液晶分子配向基板および液晶表示素子
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1337 20060101AFI20171204BHJP
【FI】
   G02F1/1337 505
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-83300(P2016-83300)
(22)【出願日】2016年4月19日
(62)【分割の表示】特願2011-289438(P2011-289438)の分割
【原出願日】2011年12月28日
(65)【公開番号】特開2016-157138(P2016-157138A)
(43)【公開日】2016年9月1日
【審査請求日】2016年4月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 敬四郎
(72)【発明者】
【氏名】岩本 宜久
(72)【発明者】
【氏名】福嶋 宙人
【審査官】 磯崎 忠昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−177408(JP,A)
【文献】 特開2006−133619(JP,A)
【文献】 特開2005−221617(JP,A)
【文献】 特開2005−234254(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0128487(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1337
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に電極が設けられた基板と、
前記基板の電極を覆い、液晶分子を所定方向に一様に配向させる能力を備えた垂直配向膜と、
前記垂直配向膜表面に形成され、該垂直配向膜の表面自由エネルギよりも高い表面自由エネルギを有する液晶性ポリマー層と、
を含み、
前記液晶性ポリマー層表面に、誘電率異方性が負の液晶分子を含む液晶層を配置したときに、該液晶層の液晶分子のプレチルト角が89.96°以上90°未満となる液晶分子配向基板。
【請求項2】
前記液晶性ポリマー層は、水とジヨードメタンによる接触角測定に基づいて算出された表面自由エネルギが45mN/m〜56mN/mである請求項1記載の液晶分子配向基板。
【請求項3】
所定の間隔で対向配置され、対向する表面各々に電極が設けられた一対の基板と、
前記一対の基板各々に設けられた電極を覆い、少なくとも一方に液晶分子を所定方向に一様に配向させる能力を備えた一対の垂直配向膜と、
前記一対の垂直配向膜各々の表面に形成され、該垂直配向膜の表面自由エネルギよりも高い表面自由エネルギを有する一対の液晶性ポリマー層と、
前記一対の液晶性ポリマー層に挟まれて配置され、誘電率異方性が負の液晶分子を含み、該液晶分子のプレチルト角が89.96°以上90°未満である液晶層と、
を含む液晶表示素子。
【請求項4】
前記液晶性ポリマー層は、水とジヨードメタンによる接触角測定に基づいて算出された表面自由エネルギが45mN/m〜56mN/mである請求項3記載の液晶表示素子。
【請求項5】
表面に電極が設けられた基板と、
前記基板の電極を覆い、液晶分子を所定方向に一様に配向させる能力を備えた垂直配向膜と、
前記垂直配向膜表面の全面に形成され、熱処理が施され、該垂直配向膜の表面自由エネルギよりも高い表面自由エネルギを有する液晶性ポリマー層であって、水とジヨードメタンによる接触角測定に基づいて算出された表面自由エネルギが45mN/m〜56mN/mである液晶性ポリマー層と、
を含み、
前記液晶性ポリマー層表面の全面に、誘電率異方性が負の液晶分子を含む液晶層を配置したとき、前記液晶性ポリマー層が液晶分子に与えるプレチルト角は、前記熱処理が施されていない液晶性ポリマー層が液晶分子に与えるプレチルト角よりも大きい液晶分子配向基板。
【請求項6】
所定の間隔で対向配置され、対向する表面各々に電極が設けられた一対の基板と、
前記一対の基板各々に設けられた電極を覆い、少なくとも一方に液晶分子を所定方向に一様に配向させる能力を備えた一対の垂直配向膜と、
前記一対の垂直配向膜各々の表面の全面に形成され、熱処理が施され、該垂直配向膜の表面自由エネルギよりも高い表面自由エネルギを有する一対の液晶性ポリマー層であって、水とジヨードメタンによる接触角測定に基づいて算出された表面自由エネルギが45mN/m〜56mN/mである液晶性ポリマー層と、
前記一対の液晶性ポリマー層に挟まれて配置され、誘電率異方性が負の液晶分子を含む液晶層と、
を含み、
前記熱処理が施されていない液晶性ポリマー層が液晶分子に与えるプレチルト角より前記液晶性ポリマー層が液晶分子に与えるプレチルト角が大きい液晶表示素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直配向型の液晶表示素子を構成することができる液晶分子配向基板、および垂直配向型の液晶表示素子、ならびにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子には、水平配向型の液晶表示素子と、垂直配向型の液晶表示素子と、があることが知られている。
【0003】
垂直配向型の液晶表示素子は、一般的に、誘電率異方性が負の液晶分子を含む液晶層と、液晶層を狭持し、その液晶層に電圧を印加するための電極が表面に形成されている一対の基板と、一対の基板の外側にクロスニコル配置される一対の偏光板と、を含む構成である。このように構成された液晶表示素子の表示領域は、一対の基板の法線方向から観察した際に、一対の基板各々に形成された電極が重なる領域に画定される。
【0004】
液晶層に電圧が印加されていない状態(電圧オフ)では、液晶層に含まれる液晶分子は、基板に対してほぼ垂直に配向している。このとき、垂直配向型の液晶表示素子は、表示領域の暗状態を実現する。一対の基板各々に形成された電極を介して液晶層に電圧を印加する(電圧オン)と、液晶層に含まれる液晶分子は、基板とほぼ平行な方向(水平方向)に向かい倒れて配向する。このとき、垂直配向型の液晶表示素子は、表示領域の明状態を実現する。表示領域の暗/明状態は、たとえばマルチプレックス駆動法により制御される。
【0005】
電圧オン時、液晶層に含まれる液晶分子は、基板面内において一様な方向に倒れて配向することが望ましい。液晶分子が一様な方向に倒れて配向しない場合、表示領域内の位置により屈折率等が変化して、表示領域内で輝度や色度が均一にならず、表示ムラが生じる可能性がある。表示ムラは、液晶表示素子の表示品位を低下させるため改善されることが望ましい。
【0006】
特許文献1(特許3982146号)では、垂直配向型の液晶表示素子において、電圧オン時、液晶分子を所定の方向に向かって良好に配向制御させるために、液晶層内にポリマー分散体を形成することを提案している。
【0007】
なお、電圧オン時に液晶分子を一様な方向に配向させる方法としては、ラビング処理などの配向処理が施された垂直配向膜を、基板上に形成する方法がよく知られている。基板にこのような垂直配向膜を形成すると、電圧オフ時における液晶分子は、電圧オン時に倒れるべき方向に、わずかに傾いて配向するようになる。このような基板に対する液晶分子の傾き角度は、プレチルト角と呼ばれる。
【0008】
特許文献2(特開2008−281752号)は、マルチプレックス駆動される垂直配向型の液晶表示素子において、プレチルト角が90°に近い角度である場合、コントラスト比(暗状態における輝度と明状態における輝度との比率)が向上する一方で、表示ムラが発現しうることを開示している。特許文献2では、プレチルト角が90°に近い角度である場合であっても表示ムラが発現しないようにするため、マルチプレックス駆動におけるフレーム周波数を所定の周波数よりも高く設定することを提案している。ただし、マルチプレックス駆動におけるフレーム周波数は、駆動回路の消費電力や負荷、表示領域間のクロストーク等のさまざまな観点から、より低く設定されることが望ましい。
【0009】
なお、特許文献3(特許4614200号)は、垂直配向膜にラビング処理を施すことにより、ラビング方向に沿った筋状の表示欠陥が発現しうることを開示している。特許文献3では、垂直配向膜にラビング処理を施しても表示欠陥が発現しないようにするため、垂直配向膜の表面自由エネルギを35mN/m〜39mN/mに設定することを提案している。
【0010】
また、水平配向型の液晶表示素子は、一般的に、垂直配向型の液晶表示素子と同様の構成を有し、誘電率異方性が負の液晶分子を含む液晶層の替わりに誘電率異方性が正の液晶分子を含む液晶層が用いられ、垂直配向膜の替わりに水平配向膜が用いられる。水平配向膜の表面自由エネルギは、一般的に、垂直配向膜の表面自由エネルギよりも高く、およそ45mN/m以上であることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許3982146号公報
【特許文献2】特開2008−281752号公報
【特許文献3】特許4614200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、マルチプレックス駆動される垂直配向型の液晶表示素子において、より低いフレーム周波数で良好な表示を実現することができる垂直配向型の液晶表示素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の観点によれば、表面に電極が設けられた基板と、前記基板の電極を覆い、液晶分子を所定方向に一様に配向させる能力を備えた垂直配向膜と、前記垂直配向膜表面に形成され、該垂直配向膜の表面自由エネルギよりも高い表面自由エネルギを有する液晶性ポリマー層と、を含み、前記液晶性ポリマー層表面に、誘電率異方性が負の液晶分子を含む液晶層を配置したときに、該液晶層の液晶分子のプレチルト角が89.96°以上90°未満となる液晶分子配向基板、が提供される。
【0014】
本発明の第2の観点によれば、所定の間隔で対向配置され、対向する表面各々に電極が設けられた一対の基板と、前記一対の基板各々に設けられた電極を覆い、少なくとも一方に液晶分子を所定方向に一様に配向させる能力を備えた一対の垂直配向膜と、前記一対の垂直配向膜各々の表面に形成され、該垂直配向膜の表面自由エネルギよりも高い表面自由エネルギを有する一対の液晶性ポリマー層と、前記一対の液晶性ポリマー層に挟まれて配置され、誘電率異方性が負の液晶分子を含み、該液晶分子のプレチルト角が89.96°以上90°未満である液晶層と、を含む液晶表示素子、が提供される。
【発明の効果】
【0015】
良好な表示を実現することができる垂直配向型の液晶表示素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明者が提供する垂直配向型の液晶表示素子を示す断面図である。
図2図2は、液晶表示素子1の作製方法を示す工程フロー図である。
図3-1】および、
図3-2】および、
図3-3】図3A図3Fは、液晶表示素子1を作製する様子を示す断面図であり、図3Gは、比較例1xおよび実施例1a〜1cの表面自由エネルギをまとめたテーブルである。
図4図4Aは、マルチプレックス駆動される比較例1xの表示観察写真であり、図4Bは、比較例1xおよび実施例1aをマルチプレックス駆動した際に、表示ムラが解消するフレーム周波数をまとめたテーブルである。
図5図5Aおよび図5Bは、電圧オン時の比較例1xおよび実施例1aにおける液晶分子の配向状態を示す断面図である。
図6図6Aは、実施例1d,1eおよび比較例1y,1zのプレチルト角をまとめたテーブルであり、図6Bは、紫外線照射工程の他の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
最初に、本発明者らが提供する液晶表示素子の基本構成例について説明する。
【0018】
図1は、本発明者らが提供する垂直配向型の液晶表示素子1を概略的に示す断面図である。便宜的に、図面に示すようなXYZ直交座標系を定義する。
【0019】
液晶表示素子1は、液晶セル5と、液晶セル5を挟んでクロスニコル配置される一対の偏光板50,60と、を含む構成である。また、液晶セル5は、誘電率異方性が負の液晶分子41を含む液晶層40と、液晶層40を狭持する一対の液晶分子配向基板10,20と、を含む構成である。なお、液晶分子配向基板10,20と偏光板50,60との間には、それぞれ視角補償板が配置されていてもかまわない。
【0020】
液晶分子配向基板10,20は、それぞれ、基板11,21と、電極12,22と、配向処理が施された垂直配向膜13,23と、液晶性ポリマー層14,24と、を含む構成である。電極12,22は、それぞれ、基板11,21上に所定の形状で配置される。垂直配向膜13,23は、それぞれ、電極12,22を覆うように配置され、矢印15,25に示す方向(それぞれX負方向およびX正方向)に配向処理が施されている。なお、配向処理は、垂直配向膜13,23のどちらか一方に施されていればよい。液晶性ポリマー層14,24は、それぞれ、垂直配向膜13,23の表面に形成される。また、液晶性ポリマー層14,24は、後述するように、垂直配向膜13,23の表面自由エネルギよりも高い表面自由エネルギを有している。
【0021】
液晶表示素子の表示領域45は、基板11,21の法線方向(Z方向)から観察した際に、電極12,22が液晶層40を挟んで重なり合う領域に画定される。電極12,22は、たとえばセグメント電極構成(7セグメント表示や固定パターン表示などを含む)や単純マトリクス型ドットマトリクス電極構成などで形成・配置することができる。セグメント電極構成の場合、たとえば、一方の基板11には表示領域45を画定するセグメント電極12が形成され、他方の基板21にはベタ形状のコモン電極22が形成される。単純マトリクス型ドットマトリクス電極構成の場合、たとえば、一方の基板11に形成される走査電極12と、他方の基板21に形成される信号電極22とからなる任意の交点(画素45)に選択的に電圧印加することで、文字や数字など所望の表示を実現する。
【0022】
液晶層40に含まれる液晶分子41は、電圧オフ時、垂直配向膜13,23に施された配向処理方向(X方向)に、基板11,21平面(XY平面)に対してプレチルト角θpで傾いて配向している。このとき、表示領域45は、暗状態となる。電極12,22を介して液晶層40に電圧が印加されると、液晶分子41は、X方向に基板11,21とほぼ平行に、一様な方向(X方向)を向くように倒れて配向する。このとき、表示領域45は、明状態となる。表示領域45の暗/明状態は、制御装置70により、たとえばマルチプレックス駆動法を用いて制御される。
【0023】
本発明者らは、このような基本構成を有する液晶表示素子1を、作製条件を変化させて複数作製し、低いフレーム周波数でマルチプレックス駆動した際に生じうる表示ムラについての評価を行った。次に、図2および図3を用いて、液晶表示素子1の作製例について説明する。
【0024】
図2は、液晶表示素子1の作製方法を概略的に示す工程フロー図である。液晶表示素子1の作製方法は、電極成形工程S101と、垂直配向膜形成工程S102と、空セル形成工程S103と、液晶組成物封入工程S104と、紫外線照射工程S105と、熱処理工程S106と、を含む。各工程の具体的な様子を、図3A図3Fを参照しながら説明する。
【0025】
図3Aに、電極成形工程S101の様子を示す。たとえばITO(インジウム錫酸化物)などの透明電極12が一面に成膜されている青板ガラス基板11を用意する。一般的に知られているフォトリソグラフィ処理およびエッチング処理により、透明電極12を所望の形状に成形する。透明電極12の形状は、セグメント電極構成に対応した形状でも、単純ドットマトリクス型ドットマトリクス電極構成に対応した形状でもよい。なお、透明電極の表面に、さらに、酸化シリコンなどの絶縁膜を形成してもかまわない。
【0026】
図3Bに、垂直配向膜形成工程S102の様子を示す。所望形状の透明電極12が形成されたガラス基板11に、一般的に知られているフレキソ印刷法を用いて、垂直配向膜13(チッソ石油化学社製)を塗布する。その後、クリーンオーブン内で180℃30分間の焼成を行う。
【0027】
ガラス基板11上に形成された垂直配向膜13に配向処理を施す。配向処理は、矢印15の方向に施されるラビング処理とし、布厚が約3.2mmの綿製ラビング布を用いて、ラビング速度150mm/s,ローラ回転数1000rpm,ローラ径120mm,押し込み量0.4mmの条件で行った。
【0028】
なお、以上の工程と同様の工程により、透明電極22および垂直配向膜23が形成されたガラス基板21も用意する。
【0029】
図3Cに、空セル形成工程S103の様子を示す。電極12および垂直配向膜13が形成されたガラス基板11全面に、一般的に知られている乾式散布法を用いて、粒径約6μmのプラスティックスペーサ31(積水化学社製)を散布する。また、電極22および垂直配向膜23が形成されたガラス基板21に、ディスペンサを用いて、ロッド径約5.5μmのロッド状ガラススペーサが約2wt%混入した熱硬化型シール材32(三井化学社製)を、所定のパターンで塗布する。
【0030】
スペーサ31を散布したガラス基板11と、シール材32を塗布したガラス基板21とを、垂直配向膜13,23に施されたラビング処理の方向が反平行になるように対向配置して張り合わせる。一定の加圧状態で焼成してシール材32を硬化させて空セル5aを完成させる。なお、以降では、スペーサ31およびシール材32の図示を省略する。
【0031】
図3Dに、液晶組成物封入工程S104の様子を示す。誘電率異方性が負で、複屈折率が約0.21の液晶分子を含む液晶材料(メルク社製)に、所定の温度範囲で液晶相を示す液晶性モノマー(大日本インキ化学工業社製,UCL011)を混合・相溶させる。この液晶性モノマーは、紫外線が照射されることによりポリマー化して硬化する性質を有する。これにより、空セルに封入する液晶組成物が作製される。なお、液晶材料に添加する液晶性モノマーは、たとえば大日本インキ化学工業社製のUCL001等も用いることができる。
【0032】
作製した液晶組成物(液晶分子41および液晶性モノマー42を含む)を、空セル5aに、一般的に知られている真空注入法で注入する。その後、液晶組成物を注入した注入口を塞いで液晶セル5を形成する。なお、図中において、液晶層40に含まれる液晶性モノマー42はドット柄で示している。
【0033】
図3Eに、紫外線照射工程S105の様子を示す。液晶セル5に、照度約18mW/cmの紫外線を、照射総量が約1J/cmとなる時間、つまりこの場合約56秒間照射する。光源は、たとえば高圧水銀ランプを用いることができる。このような工程により、垂直配向膜13,23の表面には、液晶性モノマーが重合した液晶性ポリマー層14,24が形成される。
【0034】
図3Fに、熱処理工程S106の様子を示す。紫外線を照射した液晶セル5に、誘電率異方性が負の液晶分子41の相転移温度よりも高い温度で、熱処理を施す。熱処理は、メルク社製の液晶材料の相転移温度約90℃よりも約30℃高い約120℃で約60分間行った。このような工程により、液晶性ポリマー層14,24近傍での液晶分子の配向状態が変化する。
【0035】
このように作製した液晶セルに、一対の偏光板を組み合わせることにより、本発明者らが提供する液晶表示素子が完成する。なお、本発明者らは、このような方法で作製した液晶セルの基板表面に、液晶性ポリマー層が形成されているか否かについての確認を行っている。本発明者らは、液晶組成物封入工程S104において、液晶材料に液晶性モノマーを添加せずに作製した液晶表示素子(比較例1x)、および液晶材料に液晶性モノマーを2wt%,4wt%,6wt%添加して作製した液晶組成物を注入した液晶表示素子(実施例1a〜1c)を用意し、各種サンプルの基板表面の表面自由エネルギ測定を行った。
【0036】
図3Gは、比較例1xおよび実施例1a〜実施例1cにおける液晶分子配向基板の表面自由エネルギをまとめたテーブルである。各種サンプルの表面自由エネルギは、各種サンプルから基板のみを取り出して、基板表面をアセトンにより洗浄・乾燥した後、基板表面に水およびジヨードメンタを滴下して30秒後に測定した接触角に基づいて算出したものである。このような表面自由エネルギ測定から、比較例1xの表面自由エネルギが約37.5mN/mであり、実施例1a〜実施例1cの表面自由エネルギがそれぞれ50.2mN/m,52.5mN/m,53.5mN/m程度であることがわかった。
【0037】
比較例1xの表面自由エネルギ(約37.5mN/m)は、特許文献3に開示されている垂直配向膜の表面自由エネルギ(35mN/m〜39mN/m)の範囲に収まっていることがわかる。比較例1xの基板表面には、液晶性ポリマー層14,24は形成されておらず、垂直配向膜13,23が表出している。
【0038】
一方、実施例1a〜実施例1cの表面自由エネルギ(それぞれ50.2mN/m,52.5mN/m,53.5mN/m程度)はいずれも、垂直配向膜が表出していると推察される比較例1xの表面自由エネルギ(約37.5mN/m)よりも高いことがわかる。また、実施例1a〜実施例1cの表面自由エネルギはいずれも、一般的な水平配向膜の表面自由エネルギ(およそ45mN/m以上)の範囲になっていることもわかる。実施例1a〜実施例1cの基板表面には、液晶性モノマーが紫外線照射工程S105で重合することにより、液晶性ポリマー層14,24が垂直配向膜13,23上に堆積して形成されているものと推察される。ただし、液晶材料に添加される液晶性モノマーの重量比が小さいことから、形成されるポリマー層の層厚は極めて薄いものと推察される。
【0039】
このような表面自由エネルギ測定から、実施例1a〜実施例1cでは、液晶分子の水平配向が生じる条件であるにもかかわらず、液晶分子の垂直配向が生じるという特異な現象が誘起されていることがわかる。この現象は、基板近傍における液晶分子の配向が、従来とは異なる原理により生じているものと理解することができる。
【0040】
従来の垂直配向膜は、基板に対して液晶分子を垂直に配向させる配向膜側鎖成分を有し、特にこの側鎖成分に表面自由エネルギを著しく低下させる、たとえばアルキル基等の疎水性構造を有している。一方、垂直配向膜上に堆積された液晶性ポリマー層は、垂直配向膜表面に配向した液晶性モノマーが紫外線照射により硬化して形成されていることから、従来の垂直配向膜のような表面自由エネルギを著しく低下させる要素は存在しないために、従来の垂直配向膜よりも親水性側に値が上昇していると考えられる。
【0041】
液晶性ポリマー層表面は、液晶分子に対する配向能力が高いことからその配向状態を反映した配向状態が液晶層内で形成されると同時に、分子構造が近いことから液晶性ポリマー層と液晶分子間の分子間力が増加し、結果として強固な垂直配向を行うこととなる。この配向の態様は、表面自由エネルギの大きさから従来の垂直配向に比べその安定性や液晶分子の配向規制力が高くなるものと考えられる。
【0042】
また、本発明者らは、液晶材料に添加する液晶性モノマーの重量比を0.2wt%〜6.0wt%に変化させて、更なる検討を行った。その結果、液晶性ポリマー層の表面自由エネルギは、液晶性ポリマー層の下層に形成される垂直配向膜の表面自由エネルギ35mN/m〜39mN/mよりも高く、45mN/m〜56mN/m程度になることが確認された。
【0043】
引き続き、本発明者らは、比較例1x(液晶性モノマー無添加)および実施例1a(液晶性モノマー2wt%添加)をマルチプレックス駆動した際の表示ムラについての評価を行った。
【0044】
図4Aは、比較例1xをマルチプレックス駆動した際の表示観察写真である。マルチプレックス駆動の条件は、フレーム反転波形とし、1/128Duty,1/12Bias,フレーム周波数175Hz、ほぼ最大のコントラストが得られる駆動電圧値とした。観察写真左側に示す表示領域は単純マトリクス型ドットマトリクス電極構成である。観察写真右側に示す「MD CD AM FM」,「TEMP」,「88」の表示領域はセグメント電極構成である。なお、観察写真右側に示す「8」の表示領域は、いわゆる7セグメント電極構成であり、3本の横棒状の表示領域および4本の縦棒状表示領域から構成される。なお、比較例1xの垂直配向膜13,23に施されたラビング処理の方向は、それぞれ図中の矢印15,25に示す方向である。この表示観察写真から、たとえば「8」の表示領域の横棒状表示領域などに、顕著な表示ムラが発生していることがわかる。
【0045】
本発明者らは、図4Aに示す電極構成・表示領域を有する比較例1x、および比較例1xと同様の電極構成・表示領域を有する実施例1aにおいて、マルチプレックス駆動した際に表示ムラが解消するフレーム周波数を目視により評価した。ここで、図4Aに示す電極構成・表示領域において、単純マトリクス型ドットマトリクス電極構成の表示領域を領域A1、セグメント電極構成の「MD CD AM FM」および「TEMP」の表示領域を領域A2、7セグメント電極構成の「8」の横棒状表示領域を領域A3、7セグメント電極構成の「8」の縦棒状表示領域を領域A4、とする。
【0046】
図4Bは、比較例1xおよび実施例1aをマルチプレックス駆動した際に、表示ムラが解消するフレーム周波数をまとめたテーブルである。マルチプレックス駆動の条件は、フレーム反転波形とし、1/128Duty,1/12Bias,ほぼ最大のコントラストが得られる駆動電圧値とした。
【0047】
比較例1xにおいて、低いフレーム周波数で駆動し、それから徐々にフレーム周波数を上げていき、表示ムラが解消する最低フレーム周波数を目視により確認した。その結果、領域A1では140Hz、領域A2では240Hz、領域A3では180Hz、領域A4では160Hzで、表示ムラが解消することが確認された。
【0048】
同様に、実施例1aにおいて、低いフレーム周波数で駆動し、それから徐々にフレーム周波数を上げていき、表示ムラが解消する最低フレーム周波数を目視により確認した。その結果、領域A1では90Hz、領域A2では155Hz、領域A3では145Hz、領域A4では120Hzで、表示ムラが解消することが確認された。実施例1aでは、比較例1xに対して35Hz以上最低フレーム周波数を下げても、表示ムラが発現しない表示領域があることがわかった。
【0049】
これらの評価から、比較例1xよりも実施例1aのほうが、より低いフレーム周波数で良好な表示を実現できることがわかった。このことは、以下の理由によるものと考えられる。
【0050】
図5Aおよび図5Bは、電圧オン時の比較例1xおよび実施例1aにおける液晶分子の配向状態を概略的に示す断面図である。電圧オフ時、液晶層40に含まれる液晶分子41は、垂直配向膜13,23に施された配向処理方向(X正方向)に、基板11,21平面の法線(Z軸)に対してわずかに傾いて配向している。
【0051】
電極12,22を介して液晶層40に電圧が印加されると、電極12,22が重なり合う表示領域45の中央部では、基板11,21に垂直な方向(Z方向)の電界が発生し、液晶分子41は、X正方向に基板11,21平面とほぼ平行になるように、倒れて配向しようとする。表示領域45の周縁部では、一般的に、対向する電極12,22のサイズ・形状が異なることに起因して、図5Aおよび図5Bの破線で示すような、水平方向成分を含む斜め方向の電界が発生しうる。
【0052】
図5Aに示す比較例1xのように、基板11,21表面に表面自由エネルギが相対的に小さい垂直配向膜13,23が表出しているような場合、表示領域45の周縁部に位置する液晶分子41は、斜め電界の影響でラビング処理の方向とは異なる方向に配向しやすい状態になっていると推察される。また、表示領域45の中央部と周縁部との間に位置する液晶分子41は、中央部の液晶分子41の配向方向から、周縁部の液晶分子41の配向方向へと連続的に回転させたように順次配向していると推察される。つまり、比較例1xの場合、液晶分子41に対する配向規制力が相対的に弱いために、斜め電界の影響で液晶分子41の配向方向が広い範囲で乱れ、表示ムラが発生しやすい状態であるものと考えられる。
【0053】
一方、図5Bに示す実施例1aのように、基板11,12表面に表面自由エネルギが相対的に大きい液晶性ポリマー層14,24が表出しているような場合、表示領域45の周縁部に位置する液晶分子41は、斜め電界の影響下であっても、液晶性ポリマー層14,24の大きな表面自由エネルギにより、ラビング処理の方向により配向しやすい状態になっていると推察される。つまり、実施例1aの場合、液晶分子41に対する配向規制力が相対的に強いため、液晶分子41の配向方向の乱れが狭い範囲に限定され、表示ムラが発生しにくい状態であるものと考えられる。
【0054】
以上、本発明者らが提供する液晶表示素子の有効性が確認された。次に、本発明者らは、液晶表示素子の製造方法における熱処理工程S106の効果について確認を行った。
【0055】
本発明者らは、垂直配向膜形成工程S102においてラビング処理の押し込み量を0.4mmおよび0.5mmとし、液晶組成物封入工程S104において液晶材料に対する液晶性モノマーの重量比を約2wt%とし、最終工程において熱処理工程S106を施して完成させたサンプルとして、実施例1d(ラビング処理の押し込み量0.4mm)および実施例1e(ラビング処理の押し込み量0.5mm)を作製した。また、垂直配向膜形成工程S102においてラビング処理の押し込み量を0.4mmおよび0.5mmとし、液晶組成物封入工程S104において液晶材料に対する液晶性モノマーの重量比を約2wt%とし、液晶表示素子の製造方法の最終工程において熱処理工程S106を施さない、つまり最終工程として紫外線照射工程S105を施して完成させたサンプルとして、比較例1y(ラビング処理の押し込み量0.4mm)および比較例1z(ラビング処理の押し込み量0.5mm)を作製した。
【0056】
図6Aは、実施例1d,1eおよび比較例1y,1zのプレチルト角をまとめたテーブルである。本発明者らは、実施例1d,1eおよび比較例1y,1zのプレチルト角を測定した。その結果、実施例1dおよび実施例1eのプレチルト角は、それぞれ約89.96°および約89.97°であった。また、比較例1yおよび比較例1zのプレチルト角は、それぞれ約89.88°および約89.84°であった。実施例1dおよび実施例1e、つまり熱処理S106を施して完成させたサンプルのほうが、比較例1yおよび比較例1z、つまり熱処理S106を施さずに完成させたサンプルよりも、プレチルト角が大きく、90°に近い角度になることがわかった。
【0057】
これらのプレチルト角測定から、熱処理工程S106の前後で、ポリマー層14,24の構造ないし表面状態などが変化、または液晶分子の配向状態などが変化している可能性が示唆される。また、特許文献2によれば、プレチルト角が90°に近いほど、液晶表示素子のコントラスト比は向上する。したがって、熱処理工程S106を施すことにより、作製される液晶表示素子のコントラスト比が向上するものと推察される。なお、特許文献2に示されるプレチルト角が90°に近いと表示ムラが発現しうる点について、前述の通り表示ムラの抑制を実現している。
【0058】
以上により、本発明者らが提供する液晶表示素子の製造方法における熱処理工程S106の有効性が確認された。次に、本発明者らは、液晶層40に電圧を印加しながら紫外線を照射した際の表示ムラに対する影響、および液晶セルに照射する紫外線の照度を変化させた際の表示ムラに対する影響について評価を行った。
【0059】
図6Bに、紫外線照射工程S105において、液晶層40に、電圧を印加しながら紫外線を照射する様子を示す。本発明者らは、紫外線照射工程S105において、図6Bに示すように、液晶層40に、振幅30V,周波数400Hzの電圧を印加しながら、紫外線を照射して作製したサンプルを用意した。そして、そのサンプルをマルチプレックス駆動した際に、表示ムラが解消するフレーム周波数を目視により評価した。なお、作製したサンプルの電極構成・表示領域は、図4Aに示す比較例1xの電極構成・表示領域と同等である。その結果、領域A2では100Hz、領域A3では105Hz、領域A4では95Hzで、表示ムラが解消することが確認された。このような結果から、紫外線照射工程S105において、液晶層40に電圧を印加しながら紫外線を照射することにより、さらに低いフレーム周波数で良好な表示を実現できる可能性があることがわかった。なお、このサンプルのプレチルト角は、89.87°程度であった。
【0060】
また、本発明者らは、紫外線照射工程S105において、紫外線照度を3mW/cm〜70mW/cmに変化させて作製したサンプルを複数用意した。そして、それらのサンプルをマルチプレックス駆動した際に、表示ムラが解消するフレーム周波数を目視により評価した。その結果、紫外線照度を10mW/cm〜30mW/cmにして作製したサンプルにおいて、比較的低いフレーム周波数で良好な表示を実現できることが確認された。なお、紫外線照度を10mW/cm〜30mW/cm以外にして作製したサンプルにおいては、液晶分子の配向状態が乱れやくすなる傾向があることも確認された。
【0061】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。たとえば、実施例に示した液晶表示素子から液晶分子配向基板のみを取り出し、その液晶分子配向基板と、実施例に示した液晶層とは異なる液晶層と、を組み合わせて、新たに垂直配向型の液晶表示素子を作製してもかまわないであろう。また、実施例では、対向する垂直配向膜の両方に配向処理を施す例を示したが、配向処理は対向する垂直配向膜のどちらか一方に施されていればよい。その他、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0062】
1 液晶表示素子、
5 セル、
10 液晶分子配向基板、
11 基板、
12 電極、
13 垂直配向膜、
14 液晶性ポリマー層、
15 配向処理方向、
20 液晶分子配向基板、
21 基板、
22 電極、
23 垂直配向膜、
24 液晶性ポリマー層、
25 配向処理方向、
31 スペーサ、
32 シール材、
40 液晶層、
41 液晶分子、
42 液晶性モノマー、
45 表示領域、
50 偏光板、
60 偏光板、
70 制御装置。
図1
図2
図3-1】
図3-2】
図3-3】
図4
図5
図6