【文献】
笠井 章匡、山本 祥三,“車両防錆評価技術の一考察”,自動車技術,日本,自動車技術会,1989年11月,Vol.43, No.11,第51−57頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための実施形態を図面に基づき説明する。
図1は、本発明に係る移動体の腐食測定装置における一実施形態である腐食環境測定装置が適用された実験用車両を示す斜視図である。
図2は、
図1の腐食環境測定装置の構成を示すブロック図である。
【0013】
これらの
図1及び
図2に示す移動体の腐食測定装置としての腐食環境測定装置10は、移動体としての実験用車両(例えば四輪車両)1における複数の部位の腐食状況及び腐食環境(例えば温度、湿度)を、実験用車両1の速度(つまり車速)及びエンジン回転数と関連づけて測定するものである。この腐食環境測定装置10は、複数の腐食センサ11、環境センサとしての複数の温湿度センサ12、速度センサとしての車速センサ13、エンジン回転数センサ14、信号処理手段としてのFVコンバータ15、データ収集手段としてのデータ収集装置16、及び演算手段としての演算装置17を有して構成される。
【0014】
腐食センサ11は、
図1に示すように、実験用車両1の少なくとも一つの部位、例えばルーフ2、ドア内部3、床下面4等の各部位に設置され、後に詳説するように、これらの各部位での腐食状況を計測して腐食データを出力する。また、温湿度センサ12は、腐食センサ11の近傍に、この腐食センサ11と対になって設置され、腐食センサ11の周囲の環境要素としての温度及び湿度を計測して、環境データとしての温湿度データ(温度データ及び湿度データ)を出力する。
【0015】
これらの腐食センサ11及び温湿度センサ12は、
図3に示すように、設置される部位がルーフ2やドア内部3のように平坦部分を確保できる箇所では、両面テープ18等を用いて直接貼着されて設置される。また、腐食センサ11及び温湿度センサ12は、
図5に示すように、設置され部位が床下面4のように平坦部分を確保できないに箇所では、例えばプラスチック製のプレート19を床下面4に取り付け、このプレート19に両面テープ18等を用いて貼着されて設置される。これらの腐食センサ11からの配線20と、温湿度センサ12からの配線21は、実験用車両1の車室内のフロアカーペットや内装カバーの内側を通り、切断が生じないように考慮されて、
図1に示すようにデータ収集装置16に接続される。
【0016】
ここで、前記腐食センサ11は、
図3(B)、
図4及び
図5(B)に示すように、異種金属(例えば銀と鉄)を電極とし、これらの銀電極22と鉄電極23とが二酸化ケイ素などの絶縁物24を介在して配置されて構成され、銀電極22と鉄電極23とが溶液または水膜を介して電池を形成することにより発生する電流(ガルバニック電流)を計測するガルバニック型腐食センサである。
【0017】
この腐食センサ11の出力(電流値)は、直接的には銀電極22と鉄電極23の腐食に基づく腐食データであるが、この腐食センサ11が設置される部位(即ち、鉄材料からなる実験用車両1の部位)で腐食が生じたときの腐食状況を間接的に計測した値となる。つまり、水跳ね等で一度濡れた部位は表面が乾燥するまで腐食が進行するが、この部位の腐食現象と同様に、腐食センサ11の出力も、腐食センサ11が濡れたときに上昇し、乾燥するに従って緩やかに低下するからである。
【0018】
図2に示す前記車速センサ13は、実験用車両1の所定位置に設置され、この実験用車両1の速度(車速)を連続的に計測して速度データとしての車速データをFVコンバータ15へ出力する。また、前記エンジン回転数センサ14は、実験用車両1のエンジン(不図示)に設置され、エンジン回転数を連続的に計測してエンジン回転数データをFVコンバータ15へ出力する。車速センサ13からの車速データ及びエンジン回転数センサ14からのエンジン回転数データはパルス状であるため、FVコンバータ15は、このパルスデータを車速センサ13及びエンジン回転数センサ14から連続的に入力し、例えば0〜1ボルトの電圧データに連続的に変換してデータ収集装置16へ出力する。
【0019】
車速センサ13及びエンジン回転数センサ14に接続された前記FVコンバータ15は、エンジン運転時に、車速センサ13からの車速データとエンジン回転数センサ14からのエンジン回転数データとを電圧データに変換し、エンジン停止時にはデータ変換の必要がないので、実験用車両1に一般的に搭載されている車両バッテリ30から電力が供給される。尚、これにより、後述の専用バッテリ31の電力消耗が抑制される。
【0020】
前記データ収集装置16は、複数個(本実施形態では16個)の腐食センサ11からの腐食データを、中継端子台25を経て入力する入力ポート26を複数チャンネル(本実施形態では16チャンネル)有する。また、データ収集装置16は、同様に、複数個(本実施形態では16個)の温湿度センサ12からの温湿度データを、中継端子台27を経て入力する入力ポート28を、複数チャンネル(本実施形態では温度と湿度の各16チャンネル)有する。更に、データ収集装置16は、FVコンバータ15からの車速データ及びエンジン回転数データ(ともに電圧データ)を入力するための2チャンネルの入力ポート29を有する。
【0021】
このデータ収集装置16は、腐食センサ11からの腐食データと、温湿度センサ12からの温湿度データと、FVコンバータ15からの車速データ及びエンジン回転数データとを同一タイミングで取得(サンプリング)し、これらの同一タイミングで取得した腐食データ、温湿度データ、車速データ及びエンジン回転数データを互いに関連づけて収集する。腐食データ、温湿度データ、車速データ及びエンジン回転数データの取得タイミングは、腐食データ及び温湿度データが緩やかに変化することから、例えば10分間程度の時間間隔である。
【0022】
データ収集装置16には、実験用車両1の車両バッテリ30とは異なる専用バッテリ31から電力が供給される。データ収集装置16は、腐食センサ11からの腐食データ及び温湿度センサ12からの温湿度データを、実験用車両1のエンジン運転中にもエンジン停止中にも、上記時間間隔で取得する必要がある。このため、データ収集装置16へ車両バッテリ30から電力を供給した場合には、この車両バッテリ30の電源喪失(バッテリ上がり)が発生する恐れがあり、これを回避するために専用バッテリ31が設置されたのである。
【0023】
また、専用バッテリ31からデータ収集装置16に電力が供給されることで、このデータ収集装置16が腐食センサ11からの腐食データ、温湿度センサ12からの温湿度データ、FVコンバータ15からの車速データ及びエンジン回転数データを取得し、互いに関連づけて収集するが、取得タイミングを長くした方が専用バッテリ31の電力消耗を低減できる。この観点からも、データ収集装置16によるデータ取得タイミングを、10分間程度の時間間隔に設定することが妥当である。
【0024】
ここで、
図1に示すように、データ収集装置16は専用バッテリ31共に、例えば実験用車両1の荷台に設置されている。FVコンバータ15も、実験用車両1の荷台に設置されてもよい。
【0025】
上述のように、データ収集装置16が、同一タイミングで取得した腐食データと温湿度データと車速データとエンジン回転数データとを相互に関連づけて収集することで、例えば、
図6に示すように、腐食データ(腐食センサ11の出力)と車速データ(車速)との間の相関関係を測定することが可能になる。即ち、
図6(A)に示すように、実験用車両1の部位Aでは、腐食データが車速データの増加に従って増加して、腐食データが車速データに対し正の相関性を有する。また、
図6(B)に示すように、実験用車両1の部位Bでは、腐食データが速度データの増加に従って減少して、腐食データは車速データに対し負の相関性を有する。更に、
図6(C)に示すように、実験用車両1の部位Cでは、腐食データが車速データの影響を受けず、腐食データと車速データの間に相関性がない。尚、この
図6に示す測定結果は、実験用車両1が積雪地域の降雪時に走行したときのものである。
【0026】
ところで、データ収集装置16への車速データの取得タイミングが、走行中の実験用車両1が信号等で偶然停止した時と重なった場合には、同一タイミングで取得した腐食データ(腐食センサ11の出力)と車速データ(車速)との相関性が食い違ってしまう。例えば、跳ね水が掛かる部位では、腐食データと車速データとが正の相関性を有する。ところが、車速データのデータ収集装置16への取得タイミングが実験用車両1の一時停止時と重なると、腐食センサ11は、跳ね水で濡れた直後であり大きな電流値を出力しているが、車速センサ13は車速が0である車速データを出力する。この結果、腐食データと車速データとが負の相関性を有することになってしまう。
【0027】
本実施形態では、このような課題に対処するために、第1解決手段と第2解決手段のいずれか一方を実行する。まず、第1解決手段は、車速センサ13が計測した車速データが0km/hの場合でも、エンジン回転数センサ14が計測したエンジン回転数データを用いて、実験用車両1が走行中偶然に一時停止したのか、またはエンジンが停止して実験用車両1が完全に停止したのかを判断し、データ収集装置16が取得し収集したデータを取捨選択するものである。この取捨選択処理は、データ収集装置16に搭載された前記演算手段17(
図2)が実行する。
【0028】
つまり、演算装置17は、データ収集装置16より取り出したエンジン回転数データ、車速データ、腐食データ及び温湿度データのうち、エンジン回転数データが0rpmを超え且つ車速データが0km/hとなる場合の関連づけられたデータを削除し、それ以外の場合における少なくとも腐食データ、温湿度データ及び車速データを演算装置17に保持するよう構成される。
【0029】
具体的には、
図7に示すように、車速センサ13から出力された車速データ(車速出力X)と、エンジン回転数センサ14から出力されたエンジン回転数データ(エンジン回転数出力Y)は、FVコンバータ15にて電圧値に変換され、それぞれ車速V(km/h)、エンジン回転数R(rpm)となってデータ収集装置16に取得され、演算装置17により確認される(S1及びS2)。
【0030】
演算装置17は、データ収集装置16に関連づけて収集された腐食データ、温湿度データ、車速データ(車速V)及びエンジン回転数データ(エンジン回転数R)のうち、エンジン回転数Rが0rpmを超え(R>0)且つ車速Vが0km/h(V=0)であるか否かを判断する(S3)。このステップS3で、R>0且つV=0の場合に、演算装置17は、これらの車速データ及びエンジン回転数データを含み、これらの車速データ及びエンジン回転数データに関連づけられた腐食データ及び温湿度データを削除する(S4)。
【0031】
演算装置17は、ステップS3において、エンジン回転数Rが0rpmを超え且つ車速Vが0km/hでない場合、またはエンジン回転数Rが0rpmで且つ車速Vが0km/hの場合には、これらの各場合に関連づけられた腐食データ(腐食電流I)と、温湿度データ(温度T、湿度H)と、車速データ(車速V)とを関連づけて演算装置17に保持する(S5)。この演算装置17に保持されたデータは、特に腐食データと車速データとの相関性が正確なデータになっている。
【0032】
演算装置17は、データ収集装置16から取り出した他のデータ(関連づけて収集された腐食データ、温湿度データ、車速データ、エンジン回転数データ)が有るか否かを判断し(S6)、有る場合には、残りの全てのデータについて、ステップS1〜S6の処理を実行する。
【0033】
次に、前記第2解決手段は、FVコンバータ15が車速センサ13から入力した車速データを時間平均で出力する機能を有する場合に、この機能を利用して、データ収集装置16が、FVコンバータ15からの平均車速データ(平均速度データ)を車速データとして、腐食センサ11からの腐食データ、及び温湿度センサ12からの温湿度データと同一タイミングで取得し、これらの同一タイミングで取得した車速データ(平均車速データ)を腐食データ及び温湿度データとを互いに関連づけて収集するものである。
【0034】
ここで、平均車速データは、腐食センサ11からの腐食データ及び温湿度センサ12からの温湿度データをデータ収集装置16が取得する取得時間間隔(例えば10分間隔)よりも短い所定時間(後述の如く、好ましくは0.5分間〜2分間)で、車速センサ13からの車速データを平均して算出した値である。
【0035】
車速センサ13からの車速データを例えば10分毎に1回1時点で計測した一時点車速データと、車速センサ13からの車速データを2分間毎に平均して算出した2分平均車速データとの相違を
図8に示す。例えば、20分の時点では、一時点車速データが0km/hであるが、2分平均車速データが約20km/hを示しており、一時点車速データは、実験用車両1が偶然に一時停止した時の車速を計測したものであることが判る。また、30分の時点では、一時点車速データが約20km/hであるが、2分平均車速データが40km/hを示しており、一時点車速データは実験用車両1の減速時の値を計測したものであることが判る。
【0036】
次に、データの取得に関する以下の第1の場合と第2の場合とにおいて、腐食センサ11からの腐食データと車速データとの相関性を示す相関係数と、取得方法が異なる車速データとの関係を、実験用車両1の部位A(腐食データが車速データに対し正の相関性を有する部位)と、部位B(腐食データが車速データに対し負の相関性を有する部位)について
図9に示し、実験用車両1の部位C(腐食データと車速データが相関性を有しない部位)について
図10に示す。
【0037】
ここで、前記第1の場合は、腐食センサ11からの腐食データと、温湿度センサ12からの温湿度データと、FVコンバータ15にて平均化処理されていない車速センサ13からの車速データとを、約10分間隔の1時点毎に、同一タイミングでデータ収集装置16が取得した場合である。また、前記第2の場合は、車速センサ13からの車速データをFVコンバータ15にて0.5分平均、1分平均、1.5分平均、2分平均、2.5分平均、5分平均、10分平均した各平均車速データを車速データとして、腐食センサ11からの腐食データ及び温湿度センサ12からの温湿度データと共に、同一タイミングで約10分間隔毎にデータ収集装置16が取得した場合である。
【0038】
図9に示すように、正の相関性を有する部位Aと負の相関性を有する部位Bでは、0.5分平均〜2分平均車速データの場合が相関係数が「1」に近い値になり、腐食データと車速データとの相関性が高くなっている。また、
図10に示すように、相関性を有しない部位Cでも、0.5分平均〜2分平均車速データの場合は相関係数が「0」に近い値となり、腐食データと車速データとの相関が低くなっている。これらのことから、FVコンバータ15が0.5分平均〜2分平均の平均車速データを算出してデータ収集装置16へ出力するように設定することで、腐食データと車速データとの相関関係が正確なデータをデータ収集装置16が取得し収集することが可能になる。
【0039】
以上のように構成されたことから、本実施形態によれば、次の効果(1)〜(4)を奏する。
【0040】
(1)実験用車両1の各部位に設置された腐食センサ11が、それらの各部位の腐食状況を計測して腐食データを出力し、腐食センサ11の近傍に設置された温湿度センサ12が、腐食センサ11周囲の温度及び湿度を計測して温湿度データを出力し、実験用車両1に設置された車速センサ13が実験用車両1の車速を計測して車速データを出力し、データ収集装置16が、腐食センサ11からの腐食データと、温湿度センサ12からの温湿度データと、FVコンバータ15を経た車速センサ13からの車速データとを同一タイミングで取得し、これらの同一タイミングで取得した腐食データ、温湿度データ及び車速データを互いに関連づけて収集している。
【0041】
このため、特に実験用車両1の各部位の腐食状況が実験用車両1の車速と相関性を有する、実験用車両1を含む移動体に特有の腐食状況を正確に把握することができる。このようにして得られたデータを元に、車両を含む移動体において、腐食状況の厳しい部位に防錆性能の高い材料や表面処理、構造を施すことができる。
【0042】
また、世界の各地域で上述のようにして得られたデータ(腐食データ、温湿度データ、車速データ、海塩粒子や融雪材の有無など)を用いて、その地域の実情に合致した錆耐久試験(腐食試験)を実施する際に、車速を試験条件として上記試験を構築できる。
【0043】
(2)データ収集装置16が、腐食センサ11からの腐食データと、温湿度センサ12からの温湿度データと、FVコンバータ15を経た車速センサ13からの車速データと、FVコンバータ15を経たエンジン回転数センサ14からのエンジン回転数データとを同一タイミングで取得し、互いに関連づけて収集している。そして、演算装置17は、データ収集装置16にて関連づけて収集された腐食データ、温湿度データ、車速データ及びエンジン回転数データのうち、エンジン回転数データが0rpmを超え、車速データが0km/hとなる場合(つまり、実験用車両1が走行中に偶然一時停止した場合)の関連づけられたデータを削除し、それ以外の場合における少なくとも腐食データ、温湿度データ及び車速データを演算装置17に保持する。この結果、演算装置17に保持された少なくとも腐食データ、温湿度データ及び車速データは、特に腐食データと車速データとの相関性が正確なデータになる。
【0044】
(3)FVコンバータ15は、車速センサ13からの車速データを、データ収集装置16による腐食データ及び温湿度データの取得時間間隔よりも短い所定時間(0.5分間〜2分間)で平均して平均車速データ(0.5分平均〜2分平均車速データ)を算出する。そして、データ収集装置16は、FVコンバータ15からの平均車速データを車速データとして、腐食センサ11からの腐食データ及び温湿度センサ12からの温湿度データと、例えば約10分間隔の同一タイミングで取得し、これらのデータを互いに関連づけて収集している。従って、この場合にも、データ収集装置16にて収集された腐食データ、温湿度データ及び車速データ(平均車速データ)のうち、腐食データと車速データとの相関性を正確にすることができる。
【0045】
(4)腐食センサ11、温湿度センサ12、車速センサ13及びエンジン回転数センサ14からの各データを取得し収集するデータ収集装置16が、実験用車両1に一般的に搭載されている車両バッテリ30からではなく、専用バッテリ31から電力供給を受けている。このデータ収集装置16は、実験用車両1のエンジン停止時においても、腐食センサ11、温湿度センサ12から腐食データ、温湿度データをそれぞれ取得して収集することから、専用バッテリ31から電力供給されることで、車両バッテリ30の電源喪失(バッテリ上がり)を防止することができる。
【0046】
以上、本発明を上記実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々変形することができる。
【0047】
例えば、腐食センサ11としてはガルバニック型腐食センサに限らず、QCM(Quarts Crystal Microbalance;水晶振動子微小天秤)やインピーダンス型腐食センサであってもよい。また、移動体として四輪自動車の場合を述べたが、自動二輪車、船舶、船外機または航空機などであってもよい。