(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6246352
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】同期クラッチ
(51)【国際特許分類】
F16D 43/04 20060101AFI20171204BHJP
F16D 41/22 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
F16D43/04
F16D41/22
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-526457(P2016-526457)
(86)(22)【出願日】2013年7月19日
(65)【公表番号】特表2016-525195(P2016-525195A)
(43)【公表日】2016年8月22日
(86)【国際出願番号】EP2013065316
(87)【国際公開番号】WO2015007341
(87)【国際公開日】20150122
【審査請求日】2016年4月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】516019194
【氏名又は名称】レンク−マーク ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】RENK−MAAG GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル ヴァルトブルガー
【審査官】
岩本 薫
(56)【参考文献】
【文献】
特公昭54−038254(JP,B1)
【文献】
特公昭48−024095(JP,B1)
【文献】
米国特許第02120092(US,A)
【文献】
特開昭57−073234(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 43/04
F16D 41/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同期クラッチであって、該同期クラッチは、その長手方向軸線に沿って軸方向で第1のハブ(1)と第2のハブとの間に長手方向移動可能に配置された同期機構を備えており、該同期機構は、同期スリーブを備えており、該同期スリーブは、爪車支持体(2)と、該爪車支持体(2)に配置された爪車とを有しており、前記爪車支持体(2)は、斜歯歯列(5)を介して長手方向移動可能に前記第1のハブ(1)に結合されている同期クラッチにおいて、
前記爪車支持体(2)と前記第1のハブ(1)との間に、前記同期クラッチの前記長手方向軸線に対して平行に作用するように、少なくとも1つの圧縮ばね要素(10)が配置され、
前記圧縮ばね要素(10)は、互いに逆向きに作用する少なくとも2つの弦巻ばね(12,13)を備えて形成され、
前記弦巻ばね(12,13)は、2つのスリーブ(14,15)の間に配置されており、該2つのスリーブ(14,15)のうちの少なくとも一方のスリーブ(15)は、前記弦巻ばね(12,13)に対して同軸的に配置された1つのガイドロッド(11)に沿って移動可能に配置され、
前記一方のスリーブ(15)は、前記爪車支持体(2)のフランジ(2’)に支持され、
他方のスリーブ(14)は、前記第1のハブ(1)に結合されている保持リング(6)の縁部(6’)に支持されていることを特徴とする、同期クラッチ。
【請求項2】
複数、好ましくは8本、さらに好ましくは20本の前記圧縮ばね要素(10)が、前記爪車支持体(2)に少なくとも1つの径方向の円に沿って、好ましくは規則的に互いに間隔を置いて配置されている、請求項1記載の同期クラッチ。
【請求項3】
前記ガイドロッド(11)の端部が、それぞれ前記第1のハブ(1)のフランジに保持されており、前記ガイドロッド(11)は、前記爪車支持体(2)の、前記第1のハブ(1)の前記フランジ(2’,4)同士の間に配置されて形成されたフランジ(2’)に設けられた長孔(2’’)を通してガイドされている、請求項1または2記載の同期クラッチ。
【請求項4】
前記圧縮ばね要素(10)は、緩傾斜のばね定数を有する複数の圧縮ばねから形成されている、請求項1から3までのいずれか1項記載の同期クラッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念部に記載の同期クラッチに関する。
【背景技術】
【0002】
同期クラッチは、駆動機械と被動機械との間に使用される。同期クラッチは、駆動機械が被動機械を回転数に関して上回った、すなわち、被動機械よりも高い回転数を伴った場合に自動的に噛合する。相応して、クラッチはまた、駆動機械の回転数が被動機械に比べて低下した場合に再び自動的に離脱する。したがって、このような同期クラッチはシフトクラッチとして形成されている。このシフトクラッチは、オートマチック式のあるいは自動式の同期機構を備えている。この同期機構自体は力伝達に関与していない。
【0003】
このようなクラッチは、たとえば船舶推進装置に使用される。この船舶推進装置では、同期クラッチが、ガスタービンと、船舶スクリュの、たとえばディーゼルユニットに結合された伝動装置ユニットとの間のパワーフローに使用されている。
【0004】
また、発電設備でも、このようなクラッチは、たとえば発電機と、タービン、たとえばガスタービンまたは蒸気タービンと、の間に使用される。
【0005】
上述したような同期クラッチは、たとえばスイス国特許第499735号明細書に基づき公知である。この公知の同期クラッチでは、同期機構が、自動的に係合する機械的な爪要素を備えて形成されている。同期機構は、2つのクラッチハブの間に軸方向移動可能に配置されたクラッチスパイダとして形成されている。このクラッチスパイダは、これよりも内側に軸方向では固持されているものの、それ自体同様に回転可能に支承されている同期スリーブを備えている。クラッチスパイダが第1のクラッチハブに常に係合しているのに対して、同期スリーブは斜歯歯列または急ピッチの歯列(Steilverzahnung)を介して第2のクラッチハブに係合している。クラッチスパイダと同期スリーブとの間の結合は、これら両要素の間に配置された複数の爪を介して行われる。これらの爪は、同期スリーブあるいはクラッチスパイダに相応に形成された歯列に係合し、ひいては、同期スリーブとクラッチスパイダとの間に、回転方向で作用する形状接続的な結合を形成する。その際には、クラッチスパイダが、ストッパに向かって第2の斜歯歯列あるいはヘリカルスプラインを介して第2のクラッチハブに被せられ、ひいてはクラッチを作動させる。第2の斜歯歯列あるいはヘリカルスプラインのピッチは、同期スリーブの第1の斜歯歯列またはヘリカルスプラインよりも大きく設定されている。これによって、爪にかけられる負荷が軽減され、接続されたクラッチのパワーフローが、第1のクラッチハブと第2のクラッチハブとに直接係合されているクラッチスパイダを介してのみ行われる。クラッチに負のトルクが作用すると、同期スリーブが第2の斜歯歯列あるいはヘリカルスプラインを介して解除位置に戻され、これによって、第2のクラッチハブとの噛合から離脱するようになっている。
【0006】
このようなクラッチの利点は、このクラッチが、付加的な制御補助手段または運動補助手段なしに、大きな運転範囲にわたって安定した確実な断続を達成する点に認めることができる。
【0007】
しかしながら、このアッセンブリの問題は、同期スリーブを斜歯歯列あるいはヘリカルスプラインに沿って軸方向に移動させるために、負のトルクが十分に力を加えなければならないことにある。同期クラッチの駆動軸と被動軸との間の回転数差が極めて小さいと、特に回転数が小さい場合、この力は過度に小さくなってしまう。これによって、クラッチが自動的に完全には解除されなくなってしまう。なぜならば、このために必要となる負のトルクまたは制動モーメントが過度に少ないからである。
【0008】
同期スリーブがピストンとして形成されていて、このピストンが圧力ポートを介して、たとえば油によって解除位置に移動させられるようになっていることにより、この軸方向の運動を油圧式にアシストすることが知られている。これによって、解除が調整可能に切換可能となり、回転数または制動モーメントに左右されないようになる。しかしながら、これによって、構造と圧油の供給とがより複雑になってしまう。この圧油は、回転数が低い場合には、クラッチ自体によって発生させることができず、外部の圧力供給ポートから到来させなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、前述したような同期クラッチを改良して、回転数がほんの僅かな場合でも、制動モーメントが小さい場合でも、クラッチの自動的で確実な解除を保証することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題は、本発明によれば、請求項1に記載の特徴を有する同期クラッチによって解決される。本発明による別の態様は、後続の請求項2〜6の特徴から明らかである。
【0011】
同期クラッチであって、この同期クラッチが、その長手方向軸線に沿って軸方向で第1のハブと第2のハブとの間に長手方向移動可能に配置された同期機構を備えており、この同期機構が、同期スリーブを備えており、この同期スリーブが、爪車支持体と、この爪車支持体に配置された爪車とを有しており、爪車支持体が、斜歯歯列を介して長手方向移動可能に第1のハブに結合されている同期クラッチにおいて、本発明によれば、爪車支持体と第1のハブとの間に、同期クラッチの長手方向軸線に対して平行に作用するように、少なくとも1つの圧縮ばね要素が配置されている。この圧縮ばね要素は、第2のハブを介してほんの僅かな制動トルクしか提供されない場合でも、係合位置から解除位置への爪車支持体ひいては同期機構全体の軸方向の長手方向移動をアシストする。ばね強さは、駆動トルクが正の場合には、第2のハブを介してクラッチへと同期機構の係合運動ならびに係合運転が損なわれないが、駆動トルクが不足している際には、制動モーメントが全く存在しないかまたはほんの僅かしか存在しない場合でも、自動的な解除が行われるように選択されている。圧縮ばね要素の使用によって、この作用が回転数に左右されなくなり、回転数が極めて低い場合でも、確実な解除を保証することができる。さらに、構造に対して、特に半径方向でスペースが僅かしか必要とならない。このことは、このようなクラッチに対する一般的に極めて制限されたスペース状況において有利である。
【0012】
本発明に係る同期クラッチの1つの態様では、複数の圧縮ばね要素が、爪車支持体に少なくとも1つの径方向の円(Radialkreis)に沿って、好ましくは規則的に互いに間隔を置いて配置されている。好ましくは、少なくとも8本の圧縮ばね要素が配置されており、極めて大きなクラッチの場合には、少なくとも20本の圧縮ばね要素が配置されていてもよい。同期クラッチの長手方向軸線を中心としたただ1つの径方向の円に沿った配置形態では、圧縮ばね要素に対する半径方向でのスペースの必要性が最小限に抑えられる。大型の同期クラッチに際して多くのスペースが提供される場合には、圧縮ばね要素が、互いに同軸的に位置する2つ以上の径方向の円に配置されていてもよく、たとえば、全周に沿って互いに規則的にずらされて、すなわち、同期クラッチの長手方向軸線に対して、それぞれ交互の半径方向の間隔を伴って配置されていてもよい。
【0013】
本発明に係る同期クラッチの別の態様では、圧縮ばね要素が、互いに逆向きに作用する少なくとも2つの弦巻ばねを備えて形成されている。この配置形態によって、スペースを節約して極めて正確にばね作用を設計することが可能となる。さらに、一方の弦巻ばねの故障時でも、ばね作用の少なくとも一部が維持され続ける。
【0014】
本発明に係る同期クラッチの別の態様では、弦巻ばねが、2つのスリーブの間に配置されており、これら2つのスリーブのうちの少なくとも一方のスリーブが、弦巻ばねに対して同軸的に配置された1つのガイドロッドに沿って移動可能に配置されている。スリーブを介して、弦巻ばねの各端部を最適に受けることができ、最適な力導入と力伝達とを保証することができる。ガイドロッドは、一方の弦巻ばねが圧縮方向に対して横方向に膨らんで、ひいては、ばね作用が減じられるかまたは完全に無くなってしまうことを阻止している。また、これによって、圧縮ばね要素の製造、支承および組付けが簡略化される。
【0015】
本発明に係る同期クラッチの別の態様では、ガイドロッドの端部が、それぞれ第1のハブのフランジに保持されており、ガイドロッドが、爪車支持体の、第1のハブのフランジ同士の間に配置されて形成されたフランジに設けられた長孔を通してガイドされている。これによって、必要なスペースを最も少なくして、第1のハブと爪車支持体ひいては同期機構との間に確実なパワーフローが形成される。爪車支持体と第1のハブとの間での斜歯歯列を介した結合により行われる両要素間、つまり、爪車支持体と第1のハブとの間の相対的な回動運動に相応して円弧として形成された長孔によって、爪車支持体の長手方向移動が妨げられず、圧縮ばね要素をハブあるいは爪車支持体の近傍にスペースを節約して極めて密に配置することができる。これによって、圧縮ばね要素を配置するための付加的なスペースが半径方向で要求されないようになっている。
【0016】
本発明に係る同期クラッチの別の態様では、圧縮ばね要素が、緩傾斜のばね定数を有する複数の圧縮ばねから形成されている。これは、ばねの撓みに対する力の曲線が緩傾斜で推移するばね定数が設定あるいは選択されることを意味している。可能な限り線形で緩傾斜の推移が目標とされ、これによって、ばね力が、緊縮された状態では、予荷重が加えられた状態よりもほんの僅かに高くなっており、ひいては、クラッチの戻り特性を良好に得ることができる。
【0017】
本発明の実施の形態を以下に図面に基づきさらに詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係る同期クラッチに設けられた同期機構の領域の概略的な部分断面図である。
【
図2】本発明に係る同期クラッチに設けられた同期機構の領域における縦断面図を係合位置で示す図である。
【
図3】
図2に示した縦断面図を解除位置で示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1には、本発明に係る同期クラッチに設けられた同期機構の領域における断面の概略図が示してある。便宜上、本発明による圧縮ばね要素を含む部分だけが図示してある。同期クラッチのその他の要素は、当業者に周知の爪式クラッチの形式で形成されており、詳細な説明は不要である。同期クラッチの長手方向軸線に沿って第1のハブ1に対して移動可能に配置された爪車2がその解除位置で図示してある。この解除位置では、爪車2が、
図1において、ハブ1の終端フランジ4に設けられた肩部3に当接した状態で位置している。
【0020】
爪車2は、斜歯歯列5を介してハブ1に形状接続的に結合されている。これによって、係合位置の方向(
図1で見て左方)への爪車2の移動時に、この爪車2が、斜歯歯列のピッチに相応して、ハブ1に対して径方向に容易に回動させられる。
【0021】
終端フランジ4には、爪車2の方向で保持リング6が配置されている。終端フランジ4の当接壁の内面と、保持リング6の、内方に向けられた縁部6’との間に、圧縮ばね要素10が配置されている。
【0022】
この圧縮ばね要素10は、1つのガイドロッド11と2つの弦巻ばね12,13とによって形成されている。ガイドロッド11の端部は、それぞれ保持リング6の縁部6’と終端フランジ4とに支承されており、両弦巻ばね12,13の端部はスリーブ14,15に支持されている。両弦巻ばね12,13は、好適には互いに逆向きで内外に配置されている。右側のスリーブ15は、ガイドロッド11に沿って移動可能に形成されていて、爪車2のフランジ2’に支持されている。これによって、圧縮ばね要素10を介して爪車2にばね力が加えられる。このばね力は、爪車2に別の力が作用しない限り、
図1に示した位置に爪車2を移動させる。
【0023】
いま、爪車2に爪(図示せず)を介して矢印方向Mで正のトルクが作用すると、相応に形成された斜歯歯列5のため、爪車2が、当業者に周知の形式で左方に係合位置へと移動させられ、ひいては、圧縮ばね要素10が圧縮される。このために利用すべき付加的な力は極めて僅かであり、爪式クラッチの従来の機能形式によって問題なく加えることができる。第1のハブと第2のハブ(
図1には示さず)との間にパワーフローが形成されていて、爪がもはや力を伝達するようには噛み合っていない場合の係合運転では、圧縮ばね要素10の力作用に抗しても当該位置を保つために、この場合にクラッチに加えられている正のトルクで十分である。この正のトルクが取り除かれた場合に初めて、圧縮ばね要素10が、上述のように、クラッチの解除、すなわち、解除位置への爪車ひいては同期機構全体の移動をアシストする。
【0024】
さらに、
図2には、上述のような本発明に係る同期クラッチに設けられた同期機構の領域における縦断面図が、係合位置でより詳細に示してある。
図2には、保持リング6の縁部6’および終端フランジ4でのガイドロッド11の端部の支承を明確に認めることができる。終端フランジ4も保持リング6も、有利には取外し可能に第1のハブ1に結合されている。これによって、これらの部材を簡単に着脱することができ、特に圧縮ばね要素10への良好な接近が保証され続ける。
【0025】
また、右側のスリーブ15が爪車2のフランジ2’にいかように支持されているのかを良好に認めることもできる。スリーブ14,15は、この実施の形態では、片側に配置された鍔を備えた中空スリーブとして形成されており、この中空スリーブに弦巻ばね(図面を見やすくするために、
図2には示せず)の端部が支持されている。当然ながら、受け部および支持部の別の構成も可能である。
【0026】
図3には、
図2に示した縦断面図が、同期機構の解除位置で示してある。すなわち、この解除位置では、爪車2が終端フランジ4のストッパに当接した状態で位置している。
図3では、圧縮ばね要素10が伸長させられて、解除されている。圧縮ばね要素10を爪車2の外面の領域に直接配置することによって、半径方向でスペースの必要性が少なくなることを極めて良好に認めることができる。