【実施例】
【0022】
以下、実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、これらの記載に何ら限定されるものではない。
(実験例1 ムシレージの抽出)
ユーグレナ・グラシリス(Euglena gracilis)Z株を、KH培地(pH3.5)にて、水温29℃、流量0.5vvm(volume per volume per minutes)で空気を通気し、好気的条件で従属栄養培養を3日以上行った後、通気を停止して1日以上静置することによって嫌気的条件を作り出すことにより、培養した。
その後、嫌気状態になり浮遊しているユーグレナ細胞の回収を行い、細胞の2倍量の蒸留水を添加して、95℃、60分で加熱した。加熱後、遠心分離(5,000rpm,5分間)を行い、ユーグレナ細胞と上清に分けた。上清に、30%濃度になるようにエタノールを添加し、遠心分離(5,000rpm,5分間)を行い、上清を回収した。上清に、70%濃度になるようにエタノールを添加し、遠心分離(12,000rpm,5分間)により得られた沈殿物を凍結乾燥し、ムシレージを得た。
【0023】
(実験例2 ムシレージの構成糖の分析)
次いで、実験例1で得たムシレージから、ムシレージの構成糖サンプルを調整した。
サンプル調整においては、まず、ムシレージを超純水(Milli-Q水)で1mg/mLに調整した。次いで、サンプル900μLと11Nトリフルオロ酢酸200μLを混合し、121℃で1時間処理した。処理後のサンプルを200μL分取し、遠心乾燥を行う。この遠心乾燥には、2時間程度掛かった。イソプロパノール500μLを添加し、さらに乾燥を行う処理を、2回繰り返した。完全に乾燥が終了したら、超純水(Milli-Q水)を200μL加えた。遠心分離(15,000rpm,5分間)を行い、上層をサンプルとした。
【0024】
このサンプルを用いて、パルスアンペロメトリ検出高速陰イオン交換クロマトグラフィー(HPAEC−PAD:high performance anion exchange chromatography−pulsed amperometric detection)に供し、糖質の微量分析を行った。
装置は、DIONEX社製のHPAEC−PAD、カラムは、Carbo Pac(商標)−PA100カラム(Dionex社製)を用いた。
図1に、検出結果を示す。
図1において、縦軸は、検出パルス(PAD,nC)であり、横軸は、リテンションタイム(分)である。また、同図中に数字で指し示したピークは、検出された各分解産物(糖)であり、1は、ラムノース,2は、N−アセチルグルコサミン,3は、ガラクトース,4は、グルコース,5は、キシロースである。
図1に示すように、ムシレージの構成糖には、ラムノース,N−アセチルグルコサミン,ガラクトース,グルコース,キシロースが含まれることが確認できた。
また、HPAEC−PADを2回行い、ピークの面積から、各多糖の濃度を算出した。結果を、表1に示す。
【0025】
【表1】
【0026】
表1より、ムシレージの構成糖に含有されることが確認された5つの多糖のうち、キシロースの含有量が最も多く、次いで、ラムノース,グルコースが続くことが確認できた。
なお、各多糖の比率は、上記5種の多糖の合計を100%としたときの比率である。
【0027】
(実験例3 ムシレージの分子量測定)
また、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により、実験例1で得たムシレージの分子量測定を行った。
まず、実験例1で得たムシレージに溶離液を加え溶解後、0.45μmメンブランフィルター濾過したものを測定溶液とした。
ムシレージの数平均分子量,重量平均分子量の測定は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定した結果を、標準プルラン,グルコースを分子量標準として作成したGPC較正曲線を用いて換算する。GPC条件を以下に示す。
・カラム:TSKgel GMPWXL(東ソー株式会社製)2本+G2500PWXL(東ソー株式会社製)1本
・溶離液:200mM酢酸アンモニウム水溶液
・流速:1.0mL/min
・温度:40℃
・検出:210nm
・注入量:200μL
表2に、分子量分布測定結果を示す。表2の測定結果は、2回測定を行った結果の平均値である。
表2の通り、ムシレージは、5種類の糖を含むことが確認された。また、表2より、ムシレージは、重量平均分子量が、1.0×10
7以上1.0×10
8以下の多糖と、重量平均分子量が、1.0×10
5以上1.0×10
6以下の多糖と、重量平均分子量が、1.0×10
4以上1.0×10
5以下の多糖と、重量平均分子量が、1.0×10
3以上1.0×10
4以下の多糖と、重量平均分子量が、1.0×10
2以上1.0×10
3以下の多糖と、を含むことが確認された。
【0028】
【表2】
【0029】
(実験例4 ムシレージの電界放射型走査電子顕微鏡による観察)
実験例1で得たムシレージを、電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM:Field Emission-Scanning Electron Microscope)により観察した。
FE−SEM写真を、三百倍写真の
図2,五万倍写真の
図3に示す。
図2,
図3より、ムシレージに含まれる微粒子は、凝集しており、凝集性を有することが観察された。
【0030】
(実験例5 ムシレージ水溶液の粒度分布)
ムシレージの粒度の測定を行った。
実験例1で得たムシレージの0.01wt%水溶液を作製し、これをさらに50倍希釈した0.0002wt%水溶液を作製した。この水溶液を0.5μmのフィルターで濾過した後、マルバーン社の測定装置ゼータサーザーナノを用いて粒度分布を3回測定した。
測定結果を、
図4に示す。
図4より、粒度は、20nm〜100nmと、100nm〜1000nmの間の2カ所に、ピークが分かれていた。
【0031】
(実験例6 ムシレージの保湿性及びバリア機能改善性に関する試験)
保湿及びバリア機能改善に及ぼすムシレージの影響を確認する試験として、健常肌評価試験及び荒れ肌回復評価試験を、以下のようにして行った。
実験例1で得たムシレージの1mg/ml水溶液を実施例1,精製水を対照例としての対比例1,ヒアルロン酸の1mg/ml水溶液を対照例としての対比例2として調製した。
なお、ヒアルロン酸は、保水力,粘弾性を備え、健康食品や美容食品・化粧品・医薬部外品の保湿剤としての添加物や、医薬品の主成分として使われている。従って、ヒアルロン酸を対照例として保湿性及びバリア機能改善性の対照試験を行い、ヒアルロン酸と同等程度の保湿力又はバリア機能の改善力があるか否かを確認すれば、保湿剤としての商業的利用可否を判断する基準となる。
【0032】
<健常肌評価試験>
5名の被験者の両前腕部を洗顔料で洗浄し、20分以上安静にして馴化した。その後、設定した被験部位の塗布前の皮膚水分量、経表皮水分損失量を測定した。
なお、本実験例5では、皮膚水分量の測定は、Corneometer CM825(Courage+Khazaka)を用いて3回行い、その平均値を、皮膚水分量とした。また、経表皮水分損失量(TEWL:transepidermal water loss)の測定は、VAPO SCAN AS-VT100RS(Courage+Khazaka)を用いて2回行い、その平均値を、経表皮水分損失量とした。
実施例1,対比例1及び2の水溶液をマイクロピペットで20μL取り、被験部位に乗せて被験者自身の指で塗布した。塗布直後、15,30,60分後に、皮膚水分量,経表皮水分損失量の測定を行った。
【0033】
結果を、
図5,
図6に示す。
健常肌において、実施例1のムシレージ水溶液では、塗布直後に対比例1,2よりも高い皮膚水分量が確認された。また、実施例1のムシレージ水溶液では、塗布直後から60分後のすべての時点において、対比例1の水よりも、経表皮水分損失量が低く、対比例2のヒアルロン酸水溶液と同等かそれに次ぐ程度に、バリア機能の改善効果が高いことが確認された。更に、塗布直後から30分後までの時点において、対比例2のヒアルロン酸水溶液よりも、経表皮水分損失量が低く、健常肌に対する保湿機能及びバリア機能の改善効果に、即効性があることが確認された。
【0034】
<荒れ肌回復評価試験>
5名の被験者の両前腕部を洗顔料で洗浄し、20分以上安静にして馴化した。その後、設定した被験部位の荒れ肌作製前の皮膚水分量、経表皮水分損失量を測定した。
その後、荒れ肌を作製するため、セロハンテープ(ニチバン社製)を角層に一定圧で押し当て、角層を採取するテープストリッピングを行った。これを約20回繰り返し、経表皮水分損失量を測定してテープストリッピング前の値から約1.5倍以上になるまでテープストリッピングを行った。テープストリッピングにより、バリア機能を破綻させた荒れ肌を作製した。
荒れ肌作製後、皮膚水分量を測定してから各被験サンプルをマイクロピペットで20μL取り、被験部位に乗せて被験者自身の指で塗布した。塗布直後、15,30,60分後に、皮膚水分量,経表皮水分損失量の測定を行った。
【0035】
結果を、
図7,
図8に示す。
荒れ肌において、実施例1のムシレージ水溶液では、塗布15分後以降に対比例1,2よりも高い皮膚水分量が確認され、荒れ肌に対する保湿機能が、長時間継続することが確認された。
また、実施例1のムシレージ水溶液では、塗布直後から30分後までの時点において、対比例1の水及び対比例2のヒアルロン酸水溶液よりも、経表皮水分損失量が低く、荒れ肌に対するバリア機能の回復効果に即効性があることが確認された。