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特許6246474多糖体,皮膚バリア機能改善剤及び皮膚保湿剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6246474
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】多糖体,皮膚バリア機能改善剤及び皮膚保湿剤
(51)【国際特許分類】
   C08B 37/00 20060101AFI20171204BHJP
   A61K 35/68 20060101ALI20171204BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20171204BHJP
   A61P 17/16 20060101ALI20171204BHJP
   A61K 8/99 20170101ALI20171204BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20171204BHJP
   A61K 31/716 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
   C08B37/00 P
   A61K35/68
   A61P37/08
   A61P17/16
   A61K8/99
   C08B37/00 G
   A61Q19/00
   A61K31/716
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-39472(P2013-39472)
(22)【出願日】2013年2月28日
(65)【公開番号】特開2014-167058(P2014-167058A)
(43)【公開日】2014年9月11日
【審査請求日】2016年2月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】506141225
【氏名又は名称】株式会社ユーグレナ
(74)【代理人】
【識別番号】100088580
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 敦
(74)【代理人】
【識別番号】100111109
【弁理士】
【氏名又は名称】城田 百合子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健吾
(72)【発明者】
【氏名】吉田 絵梨子
(72)【発明者】
【氏名】足立 秀行
【審査官】 土橋 敬介
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/111707(WO,A1)
【文献】 T. Yoshiyuki et al.,Composition and Properties of Mucilage Excreted by Euglena gracilis Z,AGRICULTURAL AND BIOLOGICAL CHEMISTRY,1986年,50 (12),p.3173-3175
【文献】 J.Nita Cogburn et al.,Purification and properties of the mucus of euglena gracilis (euglenophyceae),JOURNAL OF PHYCOLOGY,1984年,20 (4),p.533-544
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B 37/00
A61K 8/99
A61K 31/716
A61K 35/68
A61P 17/16
A61P 37/08
A61Q 19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーグレナ属が細胞外に分泌する粘質性の多糖体であって、
前記ユーグレナ属の嫌気状態における培養液中の浮遊物由来であり、
前記多糖体の構成糖が、少なくともキシロース,ラムノース,グルコース,N−アセチルグルコサミン,ガラクトースであることを特徴とする多糖体。
【請求項2】
前記構成糖は、キシロース,ラムノース,グルコースを、この順で、多く含むことを特徴とする請求項1記載の多糖体。
【請求項3】
前記多糖体は、少なくとも、重量平均分子量が、1.0×10以上1.0×10以下の多糖と、重量平均分子量が、1.0×10以上1.0×10以下の多糖と、を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の多糖体。
【請求項4】
請求項1乃至いずれか記載の多糖体を含み、経表皮水分損失を防ぐことを特徴とする皮膚バリア機能改善剤。
【請求項5】
塗布後30分までの皮膚バリア機能改善の即効性を備えたことを特徴とする請求項記載の皮膚バリア機能改善剤。
【請求項6】
皮膚バリア機能が破綻した荒れ肌向けであることを特徴とする請求項又は記載の皮膚バリア機能改善剤。
【請求項7】
請求項1乃至いずれか記載の多糖体を含むことを特徴とする皮膚保湿剤。
【請求項8】
皮膚バリア機能が破綻した荒れ肌向けであることを特徴とする請求項記載の皮膚保湿剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユーグレナ属が分泌する粘質性の多糖体,皮膚バリア機能改善剤及び皮膚保湿剤に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の微生物が、粘質多糖体を産生し、これらの粘質多糖体の中には、増粘剤等の目的で利用可能なものがあることが知られている。
例えば、細菌キサントモナス・カンペストリクス(Xanthomonas campestrics)が菌体外に産生する高分子多糖であるキサンタンガムが食品や化粧料の粘性特性の改善等の目的で使用され、また、シュードモナス(Pseudomonas)属に属する細菌が産生する多糖体が、増粘性とゲル化能を併せもつことが報告されている(例えば、特許文献1)。
また、マクロフォモプシス(Macrophomopsis)属に属する微生物を培養して生産される高粘性β−グルカンを配合した化粧料も提案されている(例えば、特許文献2)。
一方、白色変異体ユーグレナから、粘質性の多糖が分泌されることが知られている。この粘質性の多糖には、グルコース、フコース及びアラビノースが含まれていることが明らかになっている。しかしながら、分子量や機能性に関して明らかになっておらず、用途に関しても不明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3057221号公報
【特許文献2】特許第2888566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、ユーグレナから分泌される粘質性の多糖体の機能性を明らかにし、全く新規な用途を開発することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題は、請求項1によれば、ユーグレナ属が細胞外に分泌する粘質性の多糖体であって、前記ユーグレナ属の嫌気状態における培養液中の浮遊物由来であり、前記多糖体の構成糖が、少なくともキシロース,ラムノース,グルコース,N−アセチルグルコサミン,ガラクトースであること、により解決される。
本発明によれば、近年、本発明者らの鋭意努力によって可能となったユーグレナの大量培養により、副産物としてユーグレナの粘質性分泌物が産生される可能性があるところ、その粘質性分泌質の組成を明らかにし、その利用への途を開くものである。
このとき、前記構成糖は、キシロース,ラムノース,グルコースを、この順で、多く含むとよい。
また、このとき、前記多糖体は、少なくとも、重量平均分子量が、1.0×10以上1.0×10以下の多糖と、重量平均分子量が、1.0×10以上1.0×10以下の多糖と、を含むとよい。
このように構成していると、ムシレージを水溶液としたときに充分な粘性が保たれると同時に、充分な流動性も確保できる。
【0006】
このとき、請求項1乃至いずれか記載の多糖体を含み、経表皮水分損失を防ぐことを特徴とする皮膚バリア機能改善剤であるとよい。
このように構成しているため、ユーグレナ属が細胞外に分泌する粘質性の多糖体を適用することにより、経表皮水分損失を防ぐことができる。
【0007】
このとき、塗布後30分までの皮膚バリア機能改善の即効性を備えるとよい。
このように構成しているため、皮膚バリア機能の低下による痒みや痛み等がある場合に、本発明の皮膚バリア機能改善剤を付与すれば、直ぐに効果が表れるため、患者等のユーザの不快感を、直ぐに改善できる。その結果、痒みがある場合には、ユーザが痒みにより皮膚を掻いてしまい、更に皮膚バリア機能が低下することを防止できる。
【0008】
このとき、皮膚バリア機能改善剤が、皮膚バリア機能が破綻した荒れ肌向けであるとよい。
このように構成しているため、皮膚バリア機能が破綻した荒れ肌、例えば、アトピー性皮膚炎等の治療薬として利用できる。
【0009】
このとき、請求項1乃至いずれか記載の多糖体を含むことを特徴とする皮膚保湿剤であるとよい。
このように構成しているため、ユーグレナ属が細胞外に分泌する粘質性の多糖体を、皮膚の保水性を向上させるための化粧品類や医薬品等に適用できる。
【0010】
このとき、皮膚保湿剤が、皮膚バリア機能が破綻した荒れ肌向けであるとよい。
このように構成しているため、皮膚バリア機能が破綻した荒れ肌、例えば、アトピー性皮膚炎等の治療薬として利用できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、近年、本発明者らの鋭意努力によって可能となったユーグレナの大量培養により、副産物としてユーグレナの粘質性分泌物が産生される可能性があるところ、その粘質性分泌質の組成を明らかにし、その利用への途を開くものである。
また、本発明のユーグレナ属が細胞外に分泌する粘質性の多糖体を、皮膚バリア機能改善剤又は皮膚保湿剤として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係るムシレージのHPAEC−PADによる分析結果を示すグラフである。
図2】本発明の一実施形態に係るムシレージの三百倍FE−SEM写真である。
図3】本発明の一実施形態に係るムシレージの五万倍FE−SEM写真である。
図4】本発明の一実施形態に係るムシレージの粒度測定結果を示すグラフである。
図5】本発明の一実施形態に係るムシレージの健常肌に対する保湿性確認試験の結果を示すグラフである。
図6】本発明の一実施形態に係るムシレージの健常肌に対するバリア機能改善性確認試験の結果を示すグラフである。
図7】本発明の一実施形態に係るムシレージの荒れ肌に対する保湿性確認試験の結果を示すグラフである。
図8】本発明の一実施形態に係るムシレージの荒れ肌に対するバリア機能改善性確認試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に関して具体的に説明する。
本発明に使用される多糖体は、ユーグレナ属が細胞外に分泌する粘質性の多糖体である。本明細書では、この多糖体を、ムシレージ(mucilage)と称する。
このムシレージは、ユーグレナを嫌気的な条件に置くことで蓄積される。例えば、嫌気的な条件に置くと、培養液中で浮遊物となり、この浮遊物を注意深く回収したり、再度遠心分離を行ったりする等により、ユーグレナ細胞と分離して回収可能である。
【0014】
本発明において、ムシレージを分泌するユーグレナは、池や沼などの淡水中に広く分布しており、これらから分離して使用してもよく、また、すでに単離されている任意のユーグレナを使用してもよい。
本実施形態のユーグレナとしては、Euglena属に含まれるユーグレナ・グラシリス,ユーグレナ・グラシリス・クレブス,ユーグレナ・グラシリス・バルバチラス等の種が用いられ、特に、ユーグレナ・グラシリス(Euglena gracilis)Z株,その変異株SM-ZK株(葉緑体欠損株)や変種のvar. bacillarisが好適に用いられる。また、これらの種の葉緑体の変異株等の遺伝子変異株を用いてもよい。
【0015】
ムシレージの製造は、例えば、ユーグレナを、Koren-Hutner培地(以下、KH培地,アルギニン塩酸塩:0.5g/L,アスパラギン酸:0.3g/L,グルコース:12g/L,グルタミン酸:4g/L,グリシン0.3g/L,ヒスチジン塩酸塩0.05g/L,リンゴ酸:6.5g/L,クエン酸3Na:0.5g/L,コハク酸2Na:0.1g/L,(NH)2SO:0.5g/L,NHHCO:0.25g/L,KHPO:0.25g/L,MgCO:0.6g/L,CaCO:0.12g/L,EDTA−Na:50mg/L,FeSO(NHSO・6HO:50mg/L,MnSO・HO:18mg/L,ZnSO・7HO:25mg/L,(NHMo24・4HO:4mg/L,CuSO:1.2mg/L,NHVO:0.5mg/L,CoSO・7HO:0.5mg/L,HBO:0.6mg/L,NiSO・6HO:0.5mg/L,ビタミンB:2.5mg/L,ビタミンB12:0.005mg/L(pH3.5))にて、水温29℃、流量0.5vvm(volume per volume per minutes)で空気を通気し、好気的条件で従属栄養培養を3日以上行った後、通気を停止して1日以上静置することによって嫌気的条件を作り出すことにより、行うことができる。
ムシレージの構成糖は、後述する通り、少なくともキシロース,ラムノース,グルコース,N−アセチルグルコサミン,ガラクトースを含む。
【0016】
ここで、キシロース(xylose,木糖)は、C10の糖で、単糖、五炭糖及びアルドースに分類される。本実施形態のキシロースは、D体であるが、L体、DL体であってもよい。
ラムノース(rhamnose)は、L−マンノースの6位のヒドロキシ基が水素原子に置き換わった構造を持ち、メチルペントース、あるいはデオキシヘキソースに分類される。本実施形態のラムノースは、L体であるが、D体、L体のエナンチオマー、α体、β体のアノマーであってもよい。
【0017】
グルコース(glucose,ブドウ糖)は、C12の糖である。
N−アセチルグルコサミン(N−acetylglucosamine,N−アセチル−D−グルコサミン)は、C15NOの糖である。
ガラクトース(galactose,脳糖)は、C12の糖で、D体及び/又はL体を含む。
ムシレージは、重量平均分子量が、300から25,000,000の範囲にあるとよい。更に好適には、重量平均分子量が、500から20,000,000の範囲にあるとよい。分子量がこの範囲にあると、ムシレージを水溶液としたときに充分な粘性が保たれ、皮膚バリア機能改善効果,皮膚保湿効果,増粘効果,粘質性等が得られる。
また、ムシレージは、少なくとも、重量平均分子量が、10,000,000から20,000,000の範囲にある多糖と、重量平均分子量が、300から800の範囲にある多糖と、を含んでいる。そのため、ムシレージを水溶液としたときに充分な粘性が保たれると同時に、充分な流動性も確保できる。
また、ムシレージは、重量平均分子量が、1.0×10以上1.0×10以下の多糖と、重量平均分子量が、1.0×10以上1.0×10以下の多糖と、重量平均分子量が、1.0×10以上1.0×10以下の多糖と、重量平均分子量が、1.0×10以上1.0×10以下の多糖と、重量平均分子量が、1.0×10以上1.0×10以下の多糖と、を含んでいる。そのため、ムシレージを水溶液としたときに充分な粘性が保たれると同時に、充分な流動性も確保できる。
【0018】
また、ムシレージは、皮膚保湿剤及び経表皮水分損失を防ぐ皮膚バリア機能改善剤として用いることができる。
特に、ムシレージは、健常肌に対しては、塗布後30分以内の皮膚保湿効果及び経表皮水分損失防止効果が高く、本発明を使用したムシレージを含む皮膚保湿剤又は皮膚バリア機能改善剤は、即効性の高い皮膚保湿剤及び皮膚バリア機能改善剤として用いることができる。
また、ムシレージは、荒れ肌に対しての皮膚保湿効果及び経表皮水分損失防止効果は、健常肌に対するものよりも効果が高く、塗布後60分以内の皮膚保湿効果及び経表皮水分損失防止効果が高い。従って、本発明を使用したムシレージを含む皮膚保湿剤又は皮膚バリア機能改善剤は、荒れ肌に対しての即効性の高い皮膚保湿剤及び皮膚バリア機能改善剤として用いることができる。
【0019】
本発明を使用した皮膚保湿剤及び皮膚バリア機能改善剤は、ムシレージのほか、必要に応じて、美容薬効成分,芳香剤,防腐剤,着色剤,紫外線吸収剤,収れん剤,合成界面活性剤,顔料(カオリン,マイカ,セリサイト,タルク,黄酸化鉄,赤酸化鉄等),水溶性天然高分子(カゼインソーダ,ペクチン,キサンタンガム,カラヤガム,ローカストビーンガム,カラギーナン等)等を添加することができる。
また、本発明を使用した皮膚保湿剤及び皮膚バリア機能改善剤は、例えば、整肌化粧水,拭き取り化粧水,柔軟化粧水,アクネトリートメントローション,アフターシェーブローション,二層型コンディショニングローション,クレンジングローション,ヘアートニック,マッサージクリーム,クレンジングクリーム,スキンクリーム,スキンミルク,ファンデーションクリーム,メイクアップベース,ヘアクリーム,ボディローション,ベビーローション,皮膚保湿スプレー等に用いることもできるが、これらに限定されない。
【0020】
また、本発明を使用した皮膚保湿剤及び皮膚バリア機能改善剤は、即効性を有するため、他の皮膚保湿剤及び皮膚バリア機能改善剤であって、緩効性があるものや、効果が長時間続くもの、又は、即効性に欠けるもの、例えば、ヒアルロン酸,セラミド,グリセリン,尿素,アデノシン一リン酸等を添加することにより、相互の作用を補い合わせて、効果の高い皮膚保湿剤及び皮膚バリア機能改善剤を構成してもよい。
また、本発明を使用した皮膚保湿剤及び皮膚バリア機能改善剤は、バリア機能が低下した皮膚に適用すると特に高い保湿効果及び皮膚バリア機能改善効果を得ることができ、特に、アトピー性皮膚炎,脂漏性皮膚炎,接触性皮膚炎,貨幣状湿疹,痒疹,乾燥性敏感肌等の治療用のローション,クリームやスプレー剤であってもよい。
【0021】
また、本発明を使用した皮膚保湿剤及び皮膚バリア機能改善剤は、キシロース,ラムノース,グルコース,N−アセチルグルコサミン,ガラクトースの代わりに、これらの糖の誘導体を含んでいてもよい。
【実施例】
【0022】
以下、実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、これらの記載に何ら限定されるものではない。
(実験例1 ムシレージの抽出)
ユーグレナ・グラシリス(Euglena gracilis)Z株を、KH培地(pH3.5)にて、水温29℃、流量0.5vvm(volume per volume per minutes)で空気を通気し、好気的条件で従属栄養培養を3日以上行った後、通気を停止して1日以上静置することによって嫌気的条件を作り出すことにより、培養した。
その後、嫌気状態になり浮遊しているユーグレナ細胞の回収を行い、細胞の2倍量の蒸留水を添加して、95℃、60分で加熱した。加熱後、遠心分離(5,000rpm,5分間)を行い、ユーグレナ細胞と上清に分けた。上清に、30%濃度になるようにエタノールを添加し、遠心分離(5,000rpm,5分間)を行い、上清を回収した。上清に、70%濃度になるようにエタノールを添加し、遠心分離(12,000rpm,5分間)により得られた沈殿物を凍結乾燥し、ムシレージを得た。
【0023】
(実験例2 ムシレージの構成糖の分析)
次いで、実験例1で得たムシレージから、ムシレージの構成糖サンプルを調整した。
サンプル調整においては、まず、ムシレージを超純水(Milli-Q水)で1mg/mLに調整した。次いで、サンプル900μLと11Nトリフルオロ酢酸200μLを混合し、121℃で1時間処理した。処理後のサンプルを200μL分取し、遠心乾燥を行う。この遠心乾燥には、2時間程度掛かった。イソプロパノール500μLを添加し、さらに乾燥を行う処理を、2回繰り返した。完全に乾燥が終了したら、超純水(Milli-Q水)を200μL加えた。遠心分離(15,000rpm,5分間)を行い、上層をサンプルとした。
【0024】
このサンプルを用いて、パルスアンペロメトリ検出高速陰イオン交換クロマトグラフィー(HPAEC−PAD:high performance anion exchange chromatography−pulsed amperometric detection)に供し、糖質の微量分析を行った。
装置は、DIONEX社製のHPAEC−PAD、カラムは、Carbo Pac(商標)−PA100カラム(Dionex社製)を用いた。
図1に、検出結果を示す。図1において、縦軸は、検出パルス(PAD,nC)であり、横軸は、リテンションタイム(分)である。また、同図中に数字で指し示したピークは、検出された各分解産物(糖)であり、1は、ラムノース,2は、N−アセチルグルコサミン,3は、ガラクトース,4は、グルコース,5は、キシロースである。
図1に示すように、ムシレージの構成糖には、ラムノース,N−アセチルグルコサミン,ガラクトース,グルコース,キシロースが含まれることが確認できた。
また、HPAEC−PADを2回行い、ピークの面積から、各多糖の濃度を算出した。結果を、表1に示す。
【0025】
【表1】
【0026】
表1より、ムシレージの構成糖に含有されることが確認された5つの多糖のうち、キシロースの含有量が最も多く、次いで、ラムノース,グルコースが続くことが確認できた。
なお、各多糖の比率は、上記5種の多糖の合計を100%としたときの比率である。
【0027】
(実験例3 ムシレージの分子量測定)
また、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により、実験例1で得たムシレージの分子量測定を行った。
まず、実験例1で得たムシレージに溶離液を加え溶解後、0.45μmメンブランフィルター濾過したものを測定溶液とした。
ムシレージの数平均分子量,重量平均分子量の測定は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定した結果を、標準プルラン,グルコースを分子量標準として作成したGPC較正曲線を用いて換算する。GPC条件を以下に示す。
・カラム:TSKgel GMPWXL(東ソー株式会社製)2本+G2500PWXL(東ソー株式会社製)1本
・溶離液:200mM酢酸アンモニウム水溶液
・流速:1.0mL/min
・温度:40℃
・検出:210nm
・注入量:200μL
表2に、分子量分布測定結果を示す。表2の測定結果は、2回測定を行った結果の平均値である。
表2の通り、ムシレージは、5種類の糖を含むことが確認された。また、表2より、ムシレージは、重量平均分子量が、1.0×10以上1.0×10以下の多糖と、重量平均分子量が、1.0×10以上1.0×10以下の多糖と、重量平均分子量が、1.0×10以上1.0×10以下の多糖と、重量平均分子量が、1.0×10以上1.0×10以下の多糖と、重量平均分子量が、1.0×10以上1.0×10以下の多糖と、を含むことが確認された。
【0028】
【表2】
【0029】
(実験例4 ムシレージの電界放射型走査電子顕微鏡による観察)
実験例1で得たムシレージを、電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM:Field Emission-Scanning Electron Microscope)により観察した。
FE−SEM写真を、三百倍写真の図2,五万倍写真の図3に示す。図2図3より、ムシレージに含まれる微粒子は、凝集しており、凝集性を有することが観察された。
【0030】
(実験例5 ムシレージ水溶液の粒度分布)
ムシレージの粒度の測定を行った。
実験例1で得たムシレージの0.01wt%水溶液を作製し、これをさらに50倍希釈した0.0002wt%水溶液を作製した。この水溶液を0.5μmのフィルターで濾過した後、マルバーン社の測定装置ゼータサーザーナノを用いて粒度分布を3回測定した。
測定結果を、図4に示す。図4より、粒度は、20nm〜100nmと、100nm〜1000nmの間の2カ所に、ピークが分かれていた。
【0031】
(実験例6 ムシレージの保湿性及びバリア機能改善性に関する試験)
保湿及びバリア機能改善に及ぼすムシレージの影響を確認する試験として、健常肌評価試験及び荒れ肌回復評価試験を、以下のようにして行った。
実験例1で得たムシレージの1mg/ml水溶液を実施例1,精製水を対照例としての対比例1,ヒアルロン酸の1mg/ml水溶液を対照例としての対比例2として調製した。
なお、ヒアルロン酸は、保水力,粘弾性を備え、健康食品や美容食品・化粧品・医薬部外品の保湿剤としての添加物や、医薬品の主成分として使われている。従って、ヒアルロン酸を対照例として保湿性及びバリア機能改善性の対照試験を行い、ヒアルロン酸と同等程度の保湿力又はバリア機能の改善力があるか否かを確認すれば、保湿剤としての商業的利用可否を判断する基準となる。
【0032】
<健常肌評価試験>
5名の被験者の両前腕部を洗顔料で洗浄し、20分以上安静にして馴化した。その後、設定した被験部位の塗布前の皮膚水分量、経表皮水分損失量を測定した。
なお、本実験例5では、皮膚水分量の測定は、Corneometer CM825(Courage+Khazaka)を用いて3回行い、その平均値を、皮膚水分量とした。また、経表皮水分損失量(TEWL:transepidermal water loss)の測定は、VAPO SCAN AS-VT100RS(Courage+Khazaka)を用いて2回行い、その平均値を、経表皮水分損失量とした。
実施例1,対比例1及び2の水溶液をマイクロピペットで20μL取り、被験部位に乗せて被験者自身の指で塗布した。塗布直後、15,30,60分後に、皮膚水分量,経表皮水分損失量の測定を行った。
【0033】
結果を、図5図6に示す。
健常肌において、実施例1のムシレージ水溶液では、塗布直後に対比例1,2よりも高い皮膚水分量が確認された。また、実施例1のムシレージ水溶液では、塗布直後から60分後のすべての時点において、対比例1の水よりも、経表皮水分損失量が低く、対比例2のヒアルロン酸水溶液と同等かそれに次ぐ程度に、バリア機能の改善効果が高いことが確認された。更に、塗布直後から30分後までの時点において、対比例2のヒアルロン酸水溶液よりも、経表皮水分損失量が低く、健常肌に対する保湿機能及びバリア機能の改善効果に、即効性があることが確認された。
【0034】
<荒れ肌回復評価試験>
5名の被験者の両前腕部を洗顔料で洗浄し、20分以上安静にして馴化した。その後、設定した被験部位の荒れ肌作製前の皮膚水分量、経表皮水分損失量を測定した。
その後、荒れ肌を作製するため、セロハンテープ(ニチバン社製)を角層に一定圧で押し当て、角層を採取するテープストリッピングを行った。これを約20回繰り返し、経表皮水分損失量を測定してテープストリッピング前の値から約1.5倍以上になるまでテープストリッピングを行った。テープストリッピングにより、バリア機能を破綻させた荒れ肌を作製した。
荒れ肌作製後、皮膚水分量を測定してから各被験サンプルをマイクロピペットで20μL取り、被験部位に乗せて被験者自身の指で塗布した。塗布直後、15,30,60分後に、皮膚水分量,経表皮水分損失量の測定を行った。
【0035】
結果を、図7図8に示す。
荒れ肌において、実施例1のムシレージ水溶液では、塗布15分後以降に対比例1,2よりも高い皮膚水分量が確認され、荒れ肌に対する保湿機能が、長時間継続することが確認された。
また、実施例1のムシレージ水溶液では、塗布直後から30分後までの時点において、対比例1の水及び対比例2のヒアルロン酸水溶液よりも、経表皮水分損失量が低く、荒れ肌に対するバリア機能の回復効果に即効性があることが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8