特許第6246481号(P6246481)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日東電工株式会社の特許一覧

特許6246481撥油性が付与された粘着層付き通気フィルタ
<>
  • 特許6246481-撥油性が付与された粘着層付き通気フィルタ 図000003
  • 特許6246481-撥油性が付与された粘着層付き通気フィルタ 図000004
  • 特許6246481-撥油性が付与された粘着層付き通気フィルタ 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6246481
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】撥油性が付与された粘着層付き通気フィルタ
(51)【国際特許分類】
   B01D 69/00 20060101AFI20171204BHJP
   B01D 71/36 20060101ALI20171204BHJP
   B01D 39/16 20060101ALI20171204BHJP
   C08F 20/24 20060101ALI20171204BHJP
   B32B 5/18 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
   B01D69/00
   B01D71/36
   B01D39/16 C
   C08F20/24
   B32B5/18
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-77039(P2013-77039)
(22)【出願日】2013年4月2日
(65)【公開番号】特開2013-230459(P2013-230459A)
(43)【公開日】2013年11月14日
【審査請求日】2016年1月20日
(31)【優先権主張番号】特願2012-87049(P2012-87049)
(32)【優先日】2012年4月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(72)【発明者】
【氏名】丸岡 伸明
(72)【発明者】
【氏名】池山 佳樹
(72)【発明者】
【氏名】増田 良太
(72)【発明者】
【氏名】小野原 明日香
【審査官】 中村 俊之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−140571(JP,A)
【文献】 特開平09−029070(JP,A)
【文献】 特開2010−000464(JP,A)
【文献】 米国特許第05156780(US,A)
【文献】 特開平07−126428(JP,A)
【文献】 特表平08−505885(JP,A)
【文献】 国際公開第94/022928(WO,A1)
【文献】 特開2006−347180(JP,A)
【文献】 特表2000−503608(JP,A)
【文献】 特表2006−500438(JP,A)
【文献】 特開2009−242679(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/041750(WO,A1)
【文献】 特開2012−020280(JP,A)
【文献】 特開2008−156566(JP,A)
【文献】 特開2011−115687(JP,A)
【文献】 特開2007−100041(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 39/00−41/04
B01D 53/22
B01D 61/00−71/82
C02F 1/44
B32B 1/00−43/00
C08F 20/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
撥油剤により被覆された表面を有する多孔質膜と、前記表面に配置された粘着層とを備えた粘着層付き通気フィルタであって、
前記撥油剤に含まれる直鎖状フッ素含有炭化水素基が、
−R1510CH249により示される、
撥油性が付与された粘着層付き通気フィルタ。
ここで、R1は、炭素数が1〜12のアルキレン基またはフェニレン基である。
【請求項2】
撥油剤により被覆された表面を有する多孔質膜と、前記表面に配置された粘着層とを備えた粘着層付き通気フィルタであって、
前記撥油剤に含まれる直鎖状フッ素含有炭化水素基が−R2613により示され、
前記撥油剤が、CH2=C(CH3)COOR2613により示される化合物を単量体とする重合体であり、
ISO14419に規定されている「織物−撥油性−炭化水素耐性試験」に準じて実施する撥油試験において前記表面にn−ヘキサンである有機溶媒の直径5mmの液滴を滴下したときに滴下後30秒以内に前記液滴が前記表面に浸透しない、
撥油性が付与された粘着層付き通気フィルタ。
ここで、R2は、炭素数が1〜12のアルキレン基またはフェニレン基である。
【請求項3】
撥油剤により被覆された表面を有する多孔質膜と、前記表面に配置された粘着層とを備えた粘着層付き通気フィルタであって、
前記撥油剤に含まれる直鎖状フッ素含有炭化水素基が−R2613により示され、
前記撥油剤が、CH2=CR4COOR2613により示される化合物を単量体とする重合体であり、
前記多孔質膜が、ポリテトラフルオロエチレン延伸多孔質膜であり、
前記通気フィルタの前記表面と前記粘着層との接着力が、プローブタック試験による接着力評価で、4.8N/5mmφ以上である、
撥油性が付与された粘着層付き通気フィルタ。
ここで、R2は、炭素数が1〜12のアルキレン基またはフェニレン基であり、R4は、水素原子またはメチル基であり、
前記プローブタック試験による前記接着力評価は、23℃、65%RHの環境下において、5mmφで打ち抜いた前記粘着層を貼り合わせた直径5mmのプローブの先端を、前記通気フィルタの前記表面に対して1Nの加圧力で1秒間加圧した後に前記プローブを前記粘着層と共に引き離すのに要した力を評価することにより実施する。
【請求項4】
前記撥油剤が、
CH2=CR3COOR1510CH249により示される化合物を単量体の少なくとも一部とする重合体である、
請求項1に記載の粘着層付き通気フィルタ。
ここで、R3は、水素原子またはメチル基である。
【請求項5】
前記通気フィルタは、前記表面とは反対側の面に配置された粘着層をさらに含む、請求項1〜4のいずれかに記載の粘着層付き通気フィルタ。
【請求項6】
ISO14419に規定されている「織物−撥油性−炭化水素耐性試験」に準じて実施する撥油試験において前記表面にn−デカンである有機溶媒の直径5mmの液滴を滴下したときに滴下後30秒以内に前記液滴が前記表面に浸透しない、請求項1、3又は4に記載の粘着層付き通気フィルタ。
【請求項7】
前記通気フィルタの前記表面と前記粘着層との接着力が、プローブタック試験による接着力評価で、3.0N/5mmφ以上である、請求項1、2又は4に記載の粘着層付き通気フィルタ。
ここで、前記プローブタック試験による前記接着力評価は、23℃、65%RHの環境下において、5mmφで打ち抜いた前記粘着層を貼り合わせた直径5mmのプローブの先端を、前記通気フィルタの前記表面に対して1Nの加圧力で1秒間加圧した後に前記プローブを前記粘着層と共に引き離すのに要した力を評価することにより実施する。
【請求項8】
前記多孔質膜が、ポリテトラフルオロエチレン延伸多孔質膜である、請求項1、2又は4のいずれかに記載の粘着層付き通気フィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥油性が付与された粘着層付き通気フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用ヘッドランプ、リアランプ、フォグランプ、ターンランプ、モーター、各種圧力センサー、圧力スイッチなどの自動車用電装部品、カメラ、ビデオ、携帯電話などの情報端末、電気剃刀、電動歯ブラシ、および屋外用途のランプなど、各種の機器筐体には通気孔が設けられることが多い。通気孔を設ける主な目的は、機器の内部と外部とを連通させることにより、機器の作動による機器筐体内の温度上昇に伴う内部圧力の過度な上昇を回避することにある。また、バッテリーケースには、電池作動時に発生するガスを排出させることを目的として、通気孔が設けられている。
【0003】
機器筐体に設けた通気孔から水、塵などが侵入することを防止するため、通気孔には通気フィルタが配置されることがある。上記の通気フィルタは、取り付けが簡便かつ確実で、低コストという観点から、粘着テープなどの粘着層を用いて機器筐体に貼り付けられるのが一般的である。
【0004】
上記通気フィルタとしては、ポリオレフィン樹脂またはフッ素樹脂の多孔質膜が用いられることが多い。特に、ポリテトラフルオロエチレン(以下、「PTFE」という)を延伸して微多孔構造を形成した多孔質膜(以下、「PTFE延伸多孔質膜」という)は、撥水性に優れた通気フィルタとして知られている。しかし、使用環境によっては、通気フィルタには、皮脂、界面活性剤、オイルなども接触する。撥水性に優れたPTFE延伸多孔質膜を通気フィルタとして用いたとしても、表面張力の低い液体の侵入を十分に防ぐことはできない。このため、通気フィルタには、その用途に応じ、フッ素含有重合体を含む処理剤を用いた撥油処理が行われている。
【0005】
炭素数が8以上の直鎖状パーフルオロアルキル基(以下、「直鎖状パーフルオロアルキル基」を「Rf基」と表記することがある)を有するフッ素含有重合体が撥油性の付与に適していることは周知である。炭素数が8以上のRf基の結晶性は、炭素数が少ない(例えば6以下の)Rf基と比較して著しく高く、この結晶性の高さが優れた撥油性の発現に寄与していると考えられている。結晶性の高さに由来して、炭素数が8以上のRf基を有する処理剤からは高い後退接触角(前進接触角とともに動的接触角である)が得られることも知られている。この後退接触角は、結晶性の向上に応じ、炭素数が6から8にかけて急激に増加する。このような事情から、通気フィルタに撥油性を付与するためには、炭素数が8以上のRf基を有するフッ素含有重合体を含む処理剤を使用するのが通例となっている。
【0006】
上記処理剤とともにその他の処理剤を用いて通気フィルタに撥油性を与えることも知られている。例えば、特許文献1には、Rf基を有するフッ素含有重合体とともに、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有するフッ素樹脂を含む処理剤により通気フィルタを処理することが開示されている(請求項1等)。含フッ素脂肪族環構造を有するフッ素樹脂は、造膜性に優れており、例えばパーフルオロ(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール)を重合することにより得ることができる(段落0009,0011)。なお、特許文献1には、パーフルオロアルキル基の炭素数は、4〜16、特に6〜12が好ましいと記載されている(段落0023)。しかし、実施例の欄では、上述した通例に従い、炭素数が平均で9のパーフルオロアルキル基を有するフッ素含有重合体が用いられている(段落0049,0050;各実施例)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−126428号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、従来、高い撥油性を付与するためには、炭素数が8以上のRf基の高い結晶性を利用することが必須と考えられてきた。例えば、特許文献1の実施例の欄に示されているように、含フッ素脂肪族環構造を有するフッ素樹脂のみを用いても、通気フィルタに十分な撥油性を与えることはできない(各比較例)。実用上も、特許文献1における撥油試験で用いられているトルエンまたはIPA(イソプロパノール)が接触して「瞬時に濡れる」程度の特性は、撥油性として十分なものとはいえない。通気フィルタに実用上十分な撥油性を付与するためには、炭素数が8以上のRf基が利用されているのが実情である。
【0009】
しかし、炭素数が8以上のRf基を有するフッ素含有重合体を含む処理剤を用いて撥油処理を行うと、通気フィルタに対する粘着層の接着力が大きく低下する場合がある。この接着力の低下の原因は、通気フィルタの撥油処理に用いたフッ素含有官能基によるものと考えられる。つまり、フッ素含有官能基は、あらゆる材料に対して相互作用を示しにくいため、粘着剤も濡れにくく、十分な接着力を発揮しにくいものと考えられる。
【0010】
ところで、近年、通気フィルタに貼り付ける粘着層の幅をなるべく小さくして通気性を示す有効面積を増やしたいというニーズもある。粘着層の幅を小さくすると、通気フィルタとの接触面積も減少し、接着力の低下を招くが、このように接触面積が減少しても、従来と同等程度の接着力を維持できるような通気フィルタの登場が切望されている。
【0011】
以上に鑑みて、本発明の目的は、通気フィルタと粘着層との接着力を低下させることなく、撥油性を付与することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、撥油剤により被覆された表面を有する多孔質体と、当該表面に配置された粘着層とを備えた粘着層付き通気フィルタであって、撥油剤に含まれる直鎖状フッ素含有炭化水素基が、
1)−R1510CH249または
2)−R2613により示される、撥油性が付与された粘着層付き通気フィルタ、を提供する。ここで、R1およびR2は、それぞれ独立して、炭素数が1〜12のアルキレン基またはフェニレン基である。
【発明の効果】
【0013】
直鎖状フッ素含有炭化水素基が上記1)または2)に示したものである撥油剤は、通気フィルタと粘着層との接着力を大きく低下させることなく、実用上の要求に応えうる程度の撥油性を付与しうるものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の粘着層付き通気フィルタの一実施形態を上面から見た図である。
図2】本発明の粘着層付き通気フィルタの一実施形態を機器筐体に貼り合わせた状態を示す断面図である。
図3】本発明の粘着層付き通気フィルタの別の一実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明による粘着層付き通気フィルタは、撥油剤により被覆された表面を有する多孔質体を備えている。多孔質体としては、フッ素樹脂の多孔質膜、特に、PTFE延伸多孔質膜が適している。PTFE延伸多孔質膜は、市販品を用いればよいが、以下に製造方法の一例を説明しておく。
【0016】
まず、PTFEファインパウダーに液状潤滑剤を加えたペースト状の混和物を予備成形する。液状潤滑剤は、PTFEファインパウダーの表面を濡らすことができて、抽出や乾燥によって除去できるものであれば特に制限はなく、例えば、流動パラフィン、ナフサ、ホワイトオイルなどの炭化水素を使用できる。液状潤滑剤の添加量は、PTFEファインパウダー100重量部に対して5〜50重量部程度が適当である。予備成形は、液状潤滑剤が絞り出されない程度の圧力で行えばよい。
【0017】
次に、予備成形体をペースト押出または圧延によってシート状に成形し、このPTFE成形体を一軸または二軸方向に延伸してPTFE延伸多孔質膜を得る。なお、PTFE成形体の延伸は液状潤滑剤を除去してから行うことが好ましい。
【0018】
本明細書では、慣用に従い、シート状のPTFE成形体を延伸することにより微多孔構造を形成したPTFEの多孔質膜を「PTFE延伸多孔質膜」と呼ぶ。PTFE延伸多孔質膜は、典型的にはフィブリルおよびノードから構成された特徴的な微多孔構造を有しており、それ自体が優れた撥水性を示す。
【0019】
なお、PTFE延伸多孔質膜は、PTFEの融点以上の温度で焼成した焼成品であっても、この焼成を実施しない未焼成品であっても構わない。
【0020】
多孔質体の平均孔径は、0.005〜10μmが好ましく、0.01〜5μmがより好ましく、0.1〜3μmが特に好ましい。平均孔径が小さすぎると通気フィルタの通気性が低下することがある。平均孔径が大きすぎると異物のリークが発生する場合がある。また、多孔質体の厚さは、5〜5000μmが好ましく、10〜1000μmがより好ましく、10〜500μmが特に好ましい。膜厚が小さすぎると、膜の強度が不足したり、通気筐体の内外の差圧により通気フィルタの変形が過大となったりするおそれがある。膜厚が大きすぎると、通気フィルタの通気性が低下することがある。
【0021】
通気フィルタは、撥油剤により被覆された表面を有するPTEF延伸多孔質膜と、この膜を補強するための通気性支持体との積層体であってもよい。通気性支持体を用いると、差圧による通気フィルタの変形を抑制できる。通気性支持体は、単層であってもよく、2以上の層の積層体であってもよい。ただし、撥油性の発現のために、通気フィルタの少なくとも一方の主面は、撥油剤により被覆されたPTFE延伸多孔質膜の表面により構成するべきである。
【0022】
通気性支持体としては、超高分子量ポリエチレン多孔質膜、不織布、織布、ネット、メッシュ、スポンジ、フォーム、金属多孔質膜、金属メッシュなどを用いることができる。強度、弾性、通気性、作業性および容器への溶着性などの観点から、通気性支持体としては、不織布および超高分子量ポリエチレン多孔質膜が好ましい。
【0023】
PTFE延伸多孔質膜と通気性支持体とは、ただ単に重ね合わせるだけでもよく、接着剤、ホットメルト樹脂などを用いて接着してもよく、加熱溶着、超音波溶着、振動溶着などにより溶着してもよい。
【0024】
本発明では、直鎖状フッ素含有炭化水素基として、
1)−R1510CH249、または
2)−R2613
を有する撥油剤が使用される。ここで、R1およびR2は、炭素数が1〜12、好ましくは1〜10のアルキレン基、あるいはフェニレン基である。上記1)または2)で示されるフッ素含有炭化水素基は、R1またはR2がアルキレン基であるときには、直鎖状フルオロアルキル基となる。上記の「直鎖状」とは、フッ素含有炭化水素基の炭素骨格が分岐した2以上の末端を有さないことを明確にする趣旨であって、R1またはR2としてフェニレン基を含むことを除外する趣旨ではない。
【0025】
直鎖状パーフルオロアルキル基(Rf基)は、低い表面自由エネルギーを発現するCF3基を有し、被覆表面に撥水撥油性を付与する官能基である。上述したとおり、炭素数が8以上のRf基は、結晶性が高いため、優れた撥油性を発現させることが知られている。炭素数が8以上のRf基を有するフッ素含有重合体を含む処理剤は、皮革、紙、樹脂などの基材への撥水撥油性の付与には適している。しかし、この処理剤は、PTFE延伸多孔質膜のような微多孔構造を有する通気フィルタに適用すると、粘着テープの粘着層との接着力の大幅な低下をもたらすことがある。また、この処理剤により付与される撥水撥油性は、高い動的接触角を要する用途においては特に有用である。しかし、通気フィルタにおいては、一般に、トルエン、デカンなどの炭化水素、およびIPAに代表される低級アルコールが浸透しない程度の撥油性を付与できればよい。直鎖状フッ素含有炭化水素基として上記1)または2)を有する撥油剤は、PTFE延伸多孔質膜の表面を被覆しても、粘着層との接着力を大きく低下させることなく、実用上十分な撥油性を付与できる。
【0026】
この撥油剤は、好ましくは、直鎖状フッ素含有炭化水素基を側鎖として有するフッ素含有重合体である。このフッ素含有重合体において、直鎖状フッ素含有炭化水素基は、例えば、エステル基、エーテル基などの官能基を介して、あるいは直接、主鎖に結合している。
【0027】
直鎖状フッ素含有炭化水素基として上記1)または2)を有するフッ素含有重合体としては、例えば、
a)CH2=CR3COOR1510CH249、または
b)CH2=CR4COOR2613
により示される化合物を単量体の少なくとも一部とする重合体を挙げることができる。ここで、R1およびR2は上述のとおりである。また、R3およびR4は、それぞれ独立して、水素原子またはメチル基である。
【0028】
ただし、高い撥油性が要求される場合には、上記a)により示されるか、あるいは上記b)においてR4がメチル基である化合物を単量体として選択することが好ましい。すなわち、本発明の好ましい実施形態では、
a)CH2=CR3COOR1510CH249、または
b’)CH2=C(CH3)COOR2613
により示される化合物を単量体とする重合体が用いられる。ここでも、R1、R2およびR3は上述のとおりである。
【0029】
また、粘着層との接着力の低下を防ぐ観点からは、直鎖状フッ素含有炭化水素基としては上記2)がより適している。したがって、粘着層との接着力の確保が強く要請される場合には、フッ素含有重合体を構成する単量体として、b)により示される化合物を選択することが好ましい。
【0030】
このフッ素含有重合体は、上記a)および/またはb)により示される化合物のみを単量体として重合させたものであってもよいが、上記化合物とその他の単量体とを共重合させたものであってもよい。共重合させる場合の単量体としては、各種(メタ)アクリル系単量体を挙げることができるが、これに限らず、テトラフルオロエチレンなどエチレン性不飽和結合を有する各種の単量体を用いてもよい。共重合体は、ランダム共重合体であってもブロック共重合体であってもよい。ただし、共重合体とする場合には、撥油性の付与に支障が生じないように、全単量体に占める上記a)またはb)により示される化合物の比率を60モル%以上、特に90モル%以上とすることが好ましい。上記化合物の重合方法は、アクリル系モノマーの重合方法として公知の方法に従えばよく、溶液重合または乳化重合により実施することができる。
【0031】
上記フッ素含有重合体の平均分子量は、特に制限されないが、数平均分子量により表示して、例えば1000〜500000程度である。
【0032】
PTFE延伸多孔質膜の表面を撥油剤により被覆する方法としては、撥油剤を溶剤に溶解した溶液に通気フィルタを浸す方法、上記溶液を通気フィルタに塗布し、または噴霧する方法を挙げることができる。撥油剤による被覆に際しては、PTFE延伸多孔質膜の収縮を防ぐために、枠などを用い、PTFE延伸多孔質膜の端部を固定しておくことが好ましい。上記溶液における撥油剤の適切な濃度は、被覆方法などによって相違するが、溶液に通気フィルタを浸す方法については0.1〜10重量%程度である。
【0033】
通気フィルタの表面は、n−デカンまたはメタノールである有機溶媒の直径5mmの液滴の滴下後30秒以内に液滴が表面に浸透しなければ、実用的な撥油性を備えていると評価できる。本発明によれば、通気フィルタとして要求される強度を満たすべく、PTFE延伸多孔質膜の厚さが0.01mm以上、さらには0.05mm以上、であり、かつ上記程度に高い接着力を有し、実用的な撥油性を有する表面を備えた粘着層付き通気フィルタを提供することもできる。
【0034】
上記においては、多孔質体としてPTFE延伸多孔質膜を用いる場合を一例として説明したが、本発明における多孔質体は、PTFE延伸多孔質膜のみに限られず、超高分子量ポリエチレンの微粒子が互いに結着して構成された多孔質成形体(超高分子量ポリエチレン多孔質体)や、非多孔質の樹脂シートにその厚さ方向に貫通する複数の孔を設けた通気シートを用いてもよい。
【0035】
本発明の粘着層付き通気フィルタは、図1に示されるように、その表面の一部に接する粘着層1を備えることを特徴とする。図1に示した形態では、粘着層1は、通気フィルタ2の外周に沿って配置された外周と、通気フィルタ2の通気領域を囲む内周とを備えたリング形状である。図1に示されていないが、粘着層1の直下にも、通気フィルタ2は存在する。粘着層1を機器筐体に押し付けることにより、機器筐体に粘着層付き通気フィルタ2を貼り合わせる。図2に、機器筐体に粘着層付き通気フィルタを貼り合わせた形態の一例を示している。典型的には、図2に示すように、機器筐体3の通気孔に粘着層1を押し付けて通気フィルタ2を貼り付ける。本発明において、「粘着層」とは、通気フィルタに接して設けられる接着性を示す層の全てを意味し、必ずしも粘着剤で形成された層状のもののみに限定されるものではない。つまり、粘着層が例えば接着剤によって構成されることもある。また、粘着層が両面粘着テープによって構成されていてもよい。
【0036】
上記粘着層は、通気フィルタの表面に配置されることを特徴とし、通気フィルタの周縁部に接することが好ましい。これは、通気孔の通気性を維持しつつ、通気孔から水、塵などの侵入を防止するという通気フィルタの用途から考えられる好ましい粘着層の配置である。ここで、「通気フィルタの周縁部」とは、通気フィルタの外周から通気フィルタの中心方向に向けて一定の幅を持たせた領域を意味し、例えば図1に示すような円形状の通気フィルタである場合、粘着層1を配したドーナツ状の領域が通気フィルタの周縁部となる。なお、図1には、周縁部の幅が一定のものを示しているが、必ずしも周縁部の幅が一定である必要はなく、部分的に周辺部の幅が狭い箇所や広い箇所があってもよい。
【0037】
上記通気フィルタ2は、図3に示すように、その表面とは反対側の面に配置された粘着層1をさらに含むものであってもよい。このように通気フィルタ2の表裏の両面に接する粘着層1を設けることにより、例えば部材と部材との接続部分に通気フィルタを配置する用途に抜群の使いやすさを発揮する。
【0038】
撥油処理した後の通気フィルタの接着力が低すぎると、機器筐体から通気フィルタが簡単に剥離し、通気孔から機器筐体内部に水、塵などが侵入してしまう。したがって、粘着と通気フィルタとの接着力は、プローブタック試験による接着力評価で、3.0N/5mmφ以上が好ましく、より好ましくは3.5N/5mmφ以上である。以下の実施例に示すとおり、本発明によれば、3.0N/5mmφ以上の接着力を有し、実用的な撥油性を有する表面を備えた、通気フィルタを提供できる。なお、プローブタック試験は、粘着を先端に付したプローブを通気フィルタに押し付けて、当該プローブを通気フィルタから剥がすときの接着力を測定するものであるため、接着面全体で接着力を評価することができ、定量的に接着力を評価し得る試験方法と言える。
【実施例】
【0039】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0040】
(実施例1)
PTFE延伸多孔質膜として、日東電工株式会社製「TEMISH(登録商標)NTF1131」(大きさ15cm×15cm;厚さ0.1mm;平均孔径1μm)を準備した。また、信越化学社製の撥油剤「X−70−042」を3.0重量%の濃度となるように希釈剤(信越化学社製「FSシンナー」)で希釈して撥油処理液を調製した。上記「X−70−042」は、以下の式(a−1)により示される、直鎖状フルオロアルキル基を有する化合物を単量体として含む重合体を撥油成分とする撥油剤である。
【0041】
CH2=C(CH3)COOCH2CH2510CH249(a−1)
【0042】
20℃に保持した上記撥油処理液中に、上記通気フィルタを約3秒間浸し、引き続き、常温で約1時間放置して乾燥させることにより、撥油性の通気フィルタを得た。この通気フィルタに粘着層を設けることにより、本発明の粘着層付き通気フィルタとなるが、後述する撥油試験を円滑に行うために、敢えて通気フィルタに粘着層は設けなかった。
【0043】
(実施例2)
撥油剤として、以下の式(a−2)により示される、直鎖状フルオロアルキル基を有する化合物を単量体とする重合体を撥油成分とする信越化学社製の撥水撥油剤「X−70−041」を用いた以外は、実施例1と同様にして通気フィルタを得た。
【0044】
CH2=CHCOOCH2CH2510CH249(a−2)
【0045】
(実施例3)
以下の式(b−1)により示される、直鎖状フルオロアルキル基を有する化合物100g、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル0.1g、溶媒(信越化学社製「FSシンナー」)300gを、窒素導入管、温度計、撹拌機を装着したフラスコの中に投入し、窒素ガスを導入して70℃で撹拌しながら16時間付加重合を行い、フッ素含有重合体80gを得た。この重合体の数平均分子量は100000であった。このフッ素含有重合体を濃度が3.0重量%となるように希釈剤(信越化学社製「FSシンナー」)で希釈して撥油処理液を調製した。
【0046】
CH2=C(CH3)COOCH2CH2613(b−1)
【0047】
上記撥油処理液を用いた以外は実施例1と同様にして通気フィルタを得た。
【0048】
(実施例4)
以下の式(b−2)により示される、直鎖状フルオロアルキル基を有する化合物100g、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル0.1g、溶媒(信越化学社製「FSシンナー」)300gを、窒素導入管、温度計、撹拌機を装着したフラスコの中に投入し、窒素ガスを導入して70℃で撹拌しながら16時間付加重合を行い、フッ素含有重合体80gを得た。この重合体の数平均分子量は100000であった。このフッ素含有重合体を濃度が3.0重量%となるように希釈剤(信越化学社製「FSシンナー」)で希釈して撥油処理液を調製した。
【0049】
CH2=CHCOOCH2CH2613(b−2)
【0050】
上記撥油処理液を用いた以外は実施例1と同様にして通気フィルタを得た。
【0051】
(比較例1)
以下の式(c)により示される、直鎖状フルオロアルキル基を有する化合物100g、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル0.1g、溶媒(信越化学社製「FSシンナー」)300gを、窒素導入管、温度計、撹拌機を装着したフラスコの中に投入し、窒素ガスを導入して70℃で撹拌しながら16時間付加重合を行い、フッ素含有重合体80gを得た。この重合体の数平均分子量は100000であった。このフッ素含有重合体を濃度が3.0重量%となるように希釈剤(信越化学社製「FSシンナー」)で希釈して撥油処理液を調製した。
【0052】
CH2=C(CH3)COOCH2CH2817(c)
【0053】
上記撥油処理液を用いた以外は実施例1と同様にして通気フィルタを得た。
【0054】
<評価>
上記の各実施例および比較例1で撥油処理を施した通気フィルタ、および撥油処理前の通気フィルタ(つまり、「TEMISH(登録商標)NTF1131」の未処理品)について、以下の撥油試験、耐水圧剥がれ試験、および接着試験を行った。
【0055】
(撥油試験)
撥油試験は、ISO14419に規定されている「織物−撥油性−炭化水素耐性試験」に準じて実施した。具体的には、通気フィルタの表面に、ピペットを用いて有機溶媒を直径約5mmの液滴として滴下し、滴下後30秒後の液滴の浸透の有無を目視により確認した。有機溶媒としては、n−デカン、メタノールおよびn−ヘキサンを用いた。なお、液滴の浸透は、液滴が通気フィルタに吸収される、あるいは液滴の浸透により通気フィルタの色調が変化した場合に「浸透する」と判定した。評価結果は表1に示したとおりである。
【0056】
(耐水圧剥がれ試験)
耐水圧剥がれ試験は、JIS L 1092に記載されている「耐水度試験機(高水圧法)」に準じて実施した。
【0057】
まず、日東電工株式会社製の両面粘着テープ(製品名:No.5000NS)に径6mmの円形の孔を形成した。次に、各実施例および比較例1の通気フィルタを両面粘着テープに貼り付け、直径9mmの円形に打ち抜いた。このとき、径9mmの円形の中心を径6mmの円形の中心と一致させた。こうして、外径9mm、内径6mmの円盤状(ドーナツ状)の試験片を得た。引き続き、この試験片の両面粘着テープの他方の面を上記耐水度試験機のSUS板に貼り合わせた。このSUS板には直径5mmの孔が設けられ、この孔から水が流入して試験片に水圧が加わるように構成されている。圧力上昇速度を100kPa/分として試験片に加わる水圧を上昇させ、通気フィルタと両面粘着テープとが剥がれて水漏れしたときの水圧を圧力計で測定して耐水圧とした。評価結果は表1に示したとおりである。
【0058】
(接着試験)
通気フィルタの撥油処理を施した面と粘着剤との接着力は、プローブタック試験により評価した。プローブタック試験には、株式会社レスカ社製のタッキング試験機「TACKING TESTER」を用いた。具体的には、まず、タッキング試験機に、直径5mmのプローブをセットした。次に、タッキング試験機のプローブの先端に、上記の5mmφの両面接着テープ(日東電工株式会社製「No.5000NS」)を5mmφで打ち抜いたものを貼り合わせた。次いで、各実施例および比較例1の通気フィルタの撥油処理を施した面に対し、120mm/分の進入速度でプローブを進入させて、1Nの加圧力で1秒間加圧した後にプローブを引き離した。このとき引き離すのに要した力(N)を通気フィルタと両面粘着シートとの接着力として評価した。この測定は、23℃、65%RHの環境で行った。評価結果は表1に示したとおりである。
【0059】
【表1】
【0060】
表1の「撥水撥油試験」の結果から、実施例1〜4の通気フィルタは、n−デカン(表面張力23.83dyn・cm-1)およびメタノール(同22.45dyn・cm-1)を浸透させない程度の撥油性を有しており、比較例1のそれと比べても撥油性に関し、なんら遜色ないレベルにあると言える。これらの有機溶媒を浸透させない程度の表面であれば、通気フィルタとしての用途では実用上の要求特性は満たしている。実施例1〜3の通気フィルタは、さらにn−ヘキサン(表面張力18.40dyn・cm-1)を浸透させない優れた撥油性を有していた。高い撥油性が求められる用途では、CH2=CR3COOR1510CH249またはCH2=C(CH3)COOR2613により示される単量体を使用することが好ましい。
【0061】
「耐水圧」および「プローブタック」の評価結果を、実施例1〜2と実施例3〜4とで比較すると、CH2=CR4COOR2613により示される単量体を含む重合体(実施例3〜4)が粘着シートに対してより高い接着力を示すことがわかる。しかし、CH2=CR3COOR1510CH249により示される単量体を含む重合体(実施例1〜2)であっても、炭素数6以上の直鎖パーフルオロアルキル基(Rf基)を含む重合体(比較例1)よりも、粘着シートに対する接着力は高くなる。
【0062】
以上を纏めると、本発明(実施例1〜4)の通気フィルタは、粘着シートとの接着力が大きく低下することなく、実用上の要求に応えうる程度の撥油性を付与されているということができ、本発明の効果が確認された。
【符号の説明】
【0063】
1 粘着層
2 通気フィルタ
3 機器筐体
図1
図2
図3