【実施例1】
【0013】
本発明の第1の実施例とするイオン電流検出手段を備えた内燃機関用の点火装置の回路構成を示す図を
図1に、空燃比制御装置を備えた内燃機関の構成を示す図を
図2に、O
2センサ活性時のイオン電流波形と弱リーン制御時のイオン電流波形との関係を示す特性図を
図3に、コールドスタートからの燃焼における内燃機関の空燃比の挙動を示すタイムチャートを
図4に、イオン電流検出装置の個体差で生じるイオン電流のバラツキを示す特性図を
図5に、空燃比制御装置の処理を示すフローチャートを
図6にそれぞれ示す。
【0014】
図1において、点火装置70は、1次コイル10、2次コイル12、鉄芯14、イグナイタ20、及び、イオン電流検出装置60から構成され、当該1次コイル10は1次巻線を100ターン前後巻き回し、当該2次コイル12は2次巻線を12000ターン前後巻き回し、当該鉄芯14は珪素鋼板を重ね合わせて形成されている。また、イグナイタ20は金属製リードフレーム上にIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)からなる半導体部品を配置して周囲を絶縁樹脂でモールドして形成されている。さらに、当該イオン電流検出回路60はバイアス電源として作用するコンデンサ64と燃焼時に検出されるイオン電流を検出信号に変換するオペアンプ66とから構成されている。
【0015】
また、前記1次コイル10の低圧側は自動車に搭載されるバッテリ電源30と接続され、前記1次コイル10の高圧側は前記イグナイタ20のコレクタ端子と接続されている。さらに、前記イグナイタ20のゲート端子はECU50と接続され、前記イグナイタ20のエミッタ端子は接地されている。
【0016】
また、前記2次コイル12の低圧側は前記イオン電流検出回路60の第1のダイオード(ツェナーダイオード)62aのカソード側と接続され、前記2次コイル12の高圧側は空気と燃料の混合気を燃焼させる高電圧を放出すると共に、混合気の燃焼によって発生するイオン電流を検出する点火プラグ40と接続されている。さらに、当該第1のダイオード(ツェナーダイオード)62aのアノード側は第2のダイオード62bのアノード側と接続され、当該第2のダイオード62bのカソード側は接地されている。
【0017】
また、前記第1のダイオード(ツェナーダイオード)62aはバイアス電源として機能する前記コンデンサ64が並列に接続され、前記コンデンサ64のプラス側は前記2次コイル12に、前記コンデンサ64のマイナス側は前記第2のダイオード62bのアノード側に接続されている。さらに、前記第1のダイオード(ツェナーダイオード)62aと前記第2のダイオード62bの接続部は抵抗68aを介して前記オペアンプ66の反転入力端子と接続され、前記オペアンプ66の出力端子は前記ECU50に接続されている。
【0018】
また、前記オペアンプ66の反転入力端子と出力端子に対して検出抵抗68bが並列に接続され、前記オペアンプ66の非反転入力端子及び負電源端子は接地されると共に正電源端子は前記電源30が接続されている。さらに、前記オペアンプ66は反転入力端子と前記抵抗68aの接続部は前記第3のダイオード62cのカソード側と接続され、当該第3のダイオード62cのアノード側は接地されている。
【0019】
図2において、内燃機関170はエンジンブロックに形成された複数のシリンダ110から構成されている。それぞれの当該シリンダ110の下部に備えられたピストン120と、当該ピストン120の上下方向の運動を回転方向の運動に変換するクランク122と、それぞれの当該クランク122を連動して回転させるためのクランクシャフト124とを備えている。また、前記シリンダ110内への燃料と空気の混合気を供給するための吸気経路130と、前記シリンダ110内からの燃焼後の排気ガスを排出するための排気経路150とを備えている。さらに、当該吸気経路130には当該内燃機関170の運転状態に応じて燃料を噴射するインジェクション140を備え、当該排気経路150には排気ガス中の酸素量を測定するO
2センサ160を備えている。
【0020】
また、前記O
2センサ160はヒータ(図示しない)によってある程度の温度まで温められて活性化される。さらに、前記O
2センサ160は前記排気経路150に備えられているが、エンジンから触媒までの間の上流センサと当該触媒からマフラーまでの間の下流センサを備えられ、本実施例で説明するO
2センサは当該エンジンから当該触媒までの間の当該上流センサを指している。
【0021】
また、前記吸気経路130にはそれぞれの前記シリンダ110内への吸気量を調整する吸気バルブ132を備え、前記排気経路150にはそれぞれの前記シリンダ110内からの排気ガスの量を調整する排気バルブ152が備えられている。さらに、それぞれの前記シリンダ110上部には前記吸気バルブ132の開閉動作を行うための吸気カム134と、前記排気バルブ152の開閉動作を行うための排気カム154とを備えている。
【0022】
また、それぞれの前記吸気カム134を連動して回転させるための吸気カムシャフト136と、それぞれの前記排気カム154を連動して回転させるための排気カムシャフト156とを備えている。さらに、前記クランクシャフト124、当該吸気カムシャフト136、及び、当該排気カムシャフト156はタイミングベルトによって連動して駆動している。
【0023】
また、それぞれの前記シリンダ110上部には前記シリンダ110内に供給された混合気に火花を飛ばすと共に、混合気の燃焼によって発生するイオン電流を検出するための電極を有した前記点火プラグ40が備えられている。さらに、それぞれの前記点火プラグ40は前記電源30の電圧を数十kVの電圧へと昇圧させる前記点火装置70と電気的に接続されている。
【0024】
また、前記点火装置70は前記イグナイタ20へ適切な点火タイミングに応じた点火信号を供給すると共に前記イオン電流検出装置60から入力される検出信号に基づいて燃焼状態を判定する前記ECU50と電気的に接続されている。さらに、前記ECU50は前記O
2センサ160から前記排気経路150内を通過する排気ガスの酸素量の測定結果が入力されている。
【0025】
次に
図3に示す特性図に基づいて、O
2センサ活性時のイオン電流波形と弱リーン制御時のイオン電流波形を説明する。
【0026】
図3において、X軸は時間を、Y軸はイオン電流値の大きさを示す。前記O
2センサ160の活性期間の前記イオン電流検出装置60で検出されたイオン電流波形及び前記内燃機関170の弱リーン制御時の前記イオン電流検出装置60で検出されたイオン電流波形は前記内燃機関170の燃焼時は検出できず、燃焼後に前記点火プラグ40から検出され、検出されたイオン電流はピーク値まで上昇し、その後減少していく。しかし、検出されるイオン電流のピーク値の高さは前記シリンダ110内の燃焼と比例するため、前記内燃機関170の高負荷時のような空燃比が低い(リッチ)場合では燃焼温度が高くなると共に、イオン電流のピーク値が高くなるが、前記内燃機関170の低負荷時のような空燃比が高い(リーン)場合では燃焼温度が低くなると共に、イオン電流のピーク値も低くなる。このことから、前記イオン電流検出装置60によって検出されるイオン電流は前記内燃機関170の空燃比によって一定の割合で変動するものであることがわかる。
【0027】
次に
図4に示すタイムチャートに基づいて、コールドスタートからの燃焼における内燃機関の空燃比の挙動を説明する。
【0028】
図4において、前記内燃機関170のコールドスタート時はリッチとなる空燃比の混合気で燃焼が行われており、セルモータによるクランキングが終了し前記内燃機関170の燃焼が安定するとリーンとなる空燃比の混合気で燃焼が行われる。また、前記O
2センサ160が前記ヒータによってある程度の温度となり活性する期間の付近では14.5前後の空燃比で燃焼が行われ、前記ECU50が前記内燃機関170の空燃比から前記O
2センサ160の活性化を判断する。さらに、前記内燃機関170の弱リーン制御中は15.5前後の空燃比で燃焼が行われ、燃費の向上が図られている。
【0029】
また、前記内燃機関170のコールドスタート時点での前記O
2センサ160は不活性となっており、前記O
2センサ160が前記ヒータによって活性するまで始動後数秒間(8秒前後)かかる。さらに、前記O
2センサ160が活性する期間に前記内燃機関170が32回燃焼行程を行い、前記内燃機関170が32回燃焼行程を行うのに0.7秒前後かかる。
【0030】
図3に戻り、前記O
2センサ160の活性期間では14.5前後の空燃比で燃焼が行われているため、15.5前後の空燃比で燃焼が行われている弱リーン制御中と比べてイオン電流のピーク値が高いことが示されている。
【0031】
次に
図5に示す特性図に基づいてイオン電流検出装置の個体差で生じるイオン電流を説明する。
【0032】
図5において、前記イオン電流検出装置60を構成する前記第1、第2、及び、第3のダイオード62a,62b,62c、前記コンデンサ64、前記オペアンプ66、前記抵抗68a、並びに、前記検出抵抗68bの個体差によって検出されるイオン電流に対する検出信号の大きさが変化する。このため、同じ燃焼状態でも取り付けられる前記点火装置70の個体差によって検出されるイオン電流に差が生じる。この個体差によって前記イオン電流検出装置60で検出されるイオン電流は実線で示す上限イオン電流と破線で示す下限イオン電流のような波形となる。しかし、上限イオン電流及び下限イオン電流において、14.5前後の空燃比で燃焼が行われている前記O
2センサ160の活性時のイオンピーク値に対して15.5前後の空燃比で燃焼が行われている弱リーン制御中のイオンピーク値は大凡等しい割合で減少している。よって、前記ECU50は前記内燃機関170の空燃比に応じたイオンピーク値の割合がマップとして保存されている。
【0033】
次に
図6に示すフローチャートに基づいて、空燃比制御装置の処理を説明する。
【0034】
図6において、前記内燃機関170はセルモータによるクランキングから始動し(S1)、前記ECU50は前記内燃機関170の始動から8秒前後経過した前記O
2センサ160の活性期間の32回の燃焼からイオン電流を検出する(S2)。また、前記ECU50は(S2)で検出したイオン電流から
図3に示す32回分のイオンピーク値の平均値を算出し(S3)、前記ECU50は(S3)で算出したイオンピーク値の平均値をイオンピーク基準値として記憶する(S4)。さらに、前記ECU50は(S4)で記憶したイオンピーク基準値に対して前記内燃機関170の前記O
2センサ160活性後の空燃比に応じたイオン電流のピーク理論値を算出し(S5)、前記ECU50は前記内燃機関170の前記O
2センサ160活性後の(S5)と同時期燃焼におけるイオン電流を検出する(S6)。
【0035】
また、前記ECU50は(S5)で算出されたイオンピーク理論値と(S6)で検出したイオン電流のピーク値を比較して燃焼状態を判定し(S7)、前記内燃機関170の燃焼状態に応じて空燃比が決定され、前記インジェクション140からの燃料噴射量を変更する。前記内燃機関170の燃焼状態を判断する基準としては、例えば空燃比が14.5の前記O
2センサ160が活性時のイオンピーク基準値を100%とすると空燃比15.5%の弱リーン制御中に検出されるイオン電流のピーク値は90%前後の出力となると燃焼状態を正常と判定することが前記ECU50のマップに保存されており、実際に検出されたイオンピーク値と比較することで燃焼状態が判定される。
【0036】
上記構成により、前記O
2センサ160の活性期間の32回の燃焼から検出したイオンピーク値の平均値をイオンピーク基準値として記憶し、イオンピーク基準値に対して前記内燃機関170の前記O
2センサ160活性後の空燃比に応じたイオン電流のピーク理論値と前記内燃機関170の前記O
2センサ160活性後のイオン電流ピーク値を比較して燃焼状態を判定することで、前記イオン電流検出装置60の構成素子の個体差によって検出されるイオン電流値の大きさが変化しても、イオン電流に基づいて空燃比に対する燃焼状態を正確に判定する内燃機関の空燃比制御装置が実現できる。また、前記内燃機関170が始動する毎に記憶していたイオンピーク値を初期化(消去)し、改めて前記O
2センサ160の活性期間の32回の燃焼から検出したイオンピーク値の平均値をイオンピーク基準値として記憶することで、前記内燃機関170の始動直前に前記点火装置70を交換する作業を行っても前記点火装置70の個体差によるイオン電流のバラツキを反映した燃焼状態の判定ができる。
【0037】
なお、上記実施例1の変形例として、前記イオン電流検出装置60の回路構成及び前記内燃機関170の構成はあくまで一例であり、前記点火プラグ40の電極間に発生するイオン電流を検出する構成を有したエンジンであれば任意の構成に変更してもよい。また、イオンピーク値の平均値は前記内燃機関170の32回の燃焼から算出したが、設計事情によって任意の燃焼回数から算出してもよい。さらに、前記O
2センサ160が前記ヒータによって活性が完了するまで前記内燃機関170の始動から8秒前後としたが、前記内燃機関170を運転させる環境(気温)によって変動するものとし、前記内燃機関170の空燃比が14.5前後となると前記ECU50は前記O
2センサ160が活性したと判断するものとする。
【0038】
また、前記ECU50は前記O
2センサ160活性後の空燃比に対するイオン電流のピーク理論値を算出したが、前記O
2センサ160活性期間に検出されるイオンピーク基準値に対して前記O
2センサ160の活性後に検出されるイオン電流のピーク値の割合を算出し、前記内燃機関170の空燃比に応じたイオンピーク値の割合と比較して前記内燃機関170の燃焼状態を判定する構成としてもよい。さらに、前記O
2センサ160の活性期間中の1回(空燃比が14.5となるタイミング)の燃焼から検出したイオンピーク値をイオンピーク基準値として記憶し、イオンピーク基準値に対して前記内燃機関170の前記O
2センサ160活性後の空燃比に応じたイオン電流のピーク理論値と前記内燃機関170の前記O
2センサ160活性後のイオン電流ピーク値を比較して燃焼状態を判定する構成としてもよい。
【0039】
また、前記O
2センサ160の活性期間中の前記内燃機関170の少なくとも1回(空燃比が14.5となるタイミング)の燃焼から検出したイオンピーク基準値として記憶し、イオンピーク基準値に対して前記内燃機関170の前記O
2センサ160活性後の空燃比に応じたイオン電流のピーク理論値と前記内燃機関170の前記O
2センサ160活性後のイオン電流ピーク値の比較に基づいて前記O
2センサ160が活性後の前記内燃機関170の弱リーン制御中(エンジン始動開始から約20秒まで)に検出されるイオン電流を補正する構成としてもよい。