特許第6246500号(P6246500)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本電産サンキョー株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6246500-希土類磁石の製造方法 図000002
  • 特許6246500-希土類磁石の製造方法 図000003
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6246500
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】希土類磁石の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/02 20060101AFI20171204BHJP
   H01F 1/057 20060101ALI20171204BHJP
   H01F 1/08 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
   H01F41/02 G
   H01F1/057 180
   H01F1/08 130
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-112250(P2013-112250)
(22)【出願日】2013年5月28日
(65)【公開番号】特開2014-232777(P2014-232777A)
(43)【公開日】2014年12月11日
【審査請求日】2016年4月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002233
【氏名又は名称】日本電産サンキョー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142619
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100125690
【弁理士】
【氏名又は名称】小平 晋
(74)【代理人】
【識別番号】100153316
【弁理士】
【氏名又は名称】河口 伸子
(74)【代理人】
【識別番号】100090170
【弁理士】
【氏名又は名称】横沢 志郎
(72)【発明者】
【氏名】古田 佳史
(72)【発明者】
【氏名】水嵜 康史
(72)【発明者】
【氏名】古屋 克芳
【審査官】 井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−238611(JP,A)
【文献】 特開平09−205013(JP,A)
【文献】 特開平10−226890(JP,A)
【文献】 特開2001−210507(JP,A)
【文献】 特開2003−224024(JP,A)
【文献】 特開2003−309031(JP,A)
【文献】 特開2005−039255(JP,A)
【文献】 特開平04−241410(JP,A)
【文献】 特開2007−274752(JP,A)
【文献】 特開2005−057991(JP,A)
【文献】 特開2001−210505(JP,A)
【文献】 特開2000−012317(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 41/02
H01F 1/057
H01F 1/08
B22F 1/00
B22F 3/00
H02K 15/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類金属を含有する磁性粉を含む成形体を形成する成形工程を行い、
次に、前記成形体の外面に塗膜を形成する塗膜形成工程を行い、
次に、前記成形体に液状の防錆液を含浸する防錆液含浸工程を含む防錆処理工程を行い、前記防錆処理工程によって、前記成形体の空孔内に防錆処理層を形成することを特徴とする希土類磁石の製造方法。
【請求項2】
前記塗膜形成工程では、バレル塗装法によって前記塗膜を形成することを特徴とする請求項1に記載の希土類磁石の製造方法。
【請求項3】
前記防錆処理工程では、前記防錆液含浸工程後に前記成形体に含浸した前記防錆液の溶剤を蒸発させる乾燥工程を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の希土類磁石の製造方法。
【請求項4】
前記防錆液含浸工程では、真空環境下で前記成形体に液状の防錆液を含浸することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の希土類磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類磁石の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
希土類磁石は、各種の技術分野で用いられている。例えば、ステッピングモータは、希土類磁石からなる永久磁石を回転軸の外周面に備えたロータと、永久磁石の外周面に対向する複数の極歯が周方向に配置された筒状のステータとを有しており、ステータのコイルに供給する励磁電流により、ロータの回転角度位置を制御する。
【0003】
かかる希土類磁石からなる永久磁石は、例えば、希土類金属を含有する磁性粉を含む成形体を形成した後、成形体に着磁を行うことにより得られる。また、希土類磁石のうち、ボンド磁石は、磁性粉がバインダー樹脂によって固められた構造を有し、焼結磁石は、磁性粉を焼結により固められた構造を有している。
【0004】
ここで、希土類金属のうち、ネオジム(Nd−Fe−B)を用いた磁石は、磁石として極めて優れた性質を有しているが、錆やすいという欠点を有している。希土類金属において磁性粉が錆びて脱落すると、希土類磁石が崩壊する等の問題が発生する。
【0005】
そこで、成形体に塗膜を形成して錆の発生を防止する技術や、成形体に防錆液を含浸して錆の発生を防止する技術が提案されている(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2879645号公報
【特許文献2】特開平11−238611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
希土類磁石は、多数の空孔を備えており、希土類磁石の外面や希土類磁石内部の空孔で希土類金属が露出している。このため、成形体の外面に塗膜を形成しても、塗膜が空孔の内部まで形成されないことがあり、このような場合、空孔内部で希土類金属が錆びてしまう。
【0008】
また、希土類磁石では、防錆材を含浸しても、希土類金属の粉(磁性粉)が成形体の表面から脱落すると、新たに露出した希土類金属の粉に錆が発生してしまう。
【0009】
以上の問題点に鑑みて、本発明の課題は、錆の発生を効果的に抑制することのできる希土類磁石の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、希土類磁石の製造方法であって、希土類金属を含有する磁性粉を含む成形体を形成する成形工程を行い、次に、前記成形体の外面に塗膜を形成する塗膜形成工程を行い、次に、前記成形体に液状の防錆液を含浸する防錆液含浸工程を含む防錆処理工程を行い、前記防錆処理工程によって、前記成形体の空孔内に防錆処理層を形成することを特徴とする。
【0011】
本発明では、成形体の外面に防錆用の塗膜が形成されているため、外面での錆の発生を抑制することができる。また、成形体の外面から磁性粉が脱落することを塗膜によって防止することができる。また、成形体には多数の空孔が形成されており、かかる空孔の内部には塗膜が形成されない場合がある。また、塗膜にピンホールが存在すると、ピンホールから空孔の内部に水分や空気が侵入する。このような場合でも、本発明では、成形体に防錆液を含浸するので、防錆液は、成形体において塗膜が形成されていない箇所や、塗膜に発生したピンホールから成形体の内部に形成されている空孔に侵入する。それ故、防錆液から有機溶媒を蒸発させると、成形体の内部において、空孔で露出していた磁性粉の表面に防錆処理層が形成される。従って、成形体の空孔では、磁性粉の表面に防錆処理層が形成されているため、空孔の内部に錆が発生することを抑制することができる。
【0012】
本発明において、前記塗膜形成工程では、バレル塗装法によって前記塗膜を形成する構成を採用することができる。バレル塗装法では、容器内に多数の成形体を入れた状態で容器を回転させながら、塗装する。このため、多数の成形体に効率よく塗装を行うことができる。また、容器内で成形体が移動するため、成形体同士が付着することがない。また、成形体が円筒状である場合、貫通穴の内面が塗装されにくいので、貫通穴の内面に対する余計な塗膜の形成を抑制することができる。さらに、塗膜の成長速度が遅いので、塗膜の膜厚を制御しやすい。
【0013】
本発明において、前記防錆処理工程では、前記防錆液含浸工程後に前記成形体に含浸した前記防錆液の溶剤を蒸発させる乾燥工程を行うことが好ましい
【0014】
本発明において、前記防錆液含浸工程では、真空環境下で前記成形体に液状の防錆液を含浸することが好ましい
【発明の効果】
【0020】
本発明では、成形体の外面に防錆用の塗膜が形成されているため、外面での錆の発生を抑制することができる。また、成形体の外面から磁性粉が脱落することを塗膜によって防止することができる。また、成形体には多数の空孔が形成されており、かかる空孔の内部には塗膜が形成されない場合があるが、このような場合でも、防錆液含浸工程を行うので、防錆液は、成形体において塗膜が形成されていない箇所や、塗膜に発生したピンホールから成形体の内部に形成されている空孔に侵入する。それ故、防錆液から有機溶媒を蒸発させると、成形体の内部において、空孔で露出していた磁性粉の表面に防錆処理層が形成される。従って、成形体の空孔では、磁性粉の表面に防錆処理層が形成されているため、空孔の内部に錆が発生することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1土類磁石およびロータを備えたステッピングモータの断面図である。
図2】本発明を適用した永久磁石の製造方法を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、図面を参照して、希土類磁石、ロータおよびモータを説明する。なお、以下の説明では、モータ軸線方向Lにおいて、回転軸が突出している側を「出力側L1」とし、回転軸が突出している側とは反対側を「反出力側L2」として説明する。
【0023】
[モータの説明]
図1、希土類磁石およびロータを備えたステッピングモータの断面図である。


【0024】
図1に示すように、本形態のステッピングモータ1は、回転軸12の外周面に永久磁石11を備えたロータ10と、永久磁石11の外周面に対向する筒状のステータ20を備えた固定体2とを有している。永久磁石11の外周面115には、N極とS極が周方向において交互に配置されている。永久磁石11には、モータ軸線方向Lに貫通する貫通穴110が形成されており、かかる貫通穴110に回転軸12が嵌った状態で、永久磁石11と回転軸12とが固定されている。
【0025】
ステータ20は、モータ軸線方向Lに重ねて配置された一対のステータ組21、22を有しており、ステータ組21、22は各々、インシュレータ216、226に巻回されたコイル213、223と、インシュレータ216、226のモータ軸線方向Lの両側に配置されたステータコア211、212、221、222とを備えている。ステータコア211は、インシュレータ216の出力側L1の面に被さる外ステータコアであり、ステータコア212は、インシュレータ216の反出力側L2の面に被さる内ステータコアであり、ステータコア221は、インシュレータ226の反出力側L2の面に被さる外ステータコアであり、ステータコア222は、インシュレータ216の出力側L1の面に被さる内ステータコアである。ステータコア211、221は、断面U字形状を有しており、外周側の筒状部によってモータケースが構成されている。
【0026】
ステータ20において、ステータコア211、212、221、222は各々、インシュレータ216、226の内周面に沿って起立する複数の極歯217、227を備えている。ステータ組21を構成した状態で、ステータコア211に形成された極歯217は、ステータコア212に形成された極歯217の間に入り込み、ステータコア211に形成された極歯217とステータコア212に形成された極歯217とは、周方向に交互に配置された状態となる。また、ステータ組22を構成した状態で、ステータコア221に形成された極歯227は、ステータコア222に形成された極歯227の間に入り込み、ステータコア221に形成された極歯227とステータコア222に形成された極歯227とは、周方向に交互に配置された状態となる。
【0027】
インシュレータ216、226には端子台218、228が一体に形成され、かかる端子台218、228に端子219、229が固定されている。固定体2において、ステータ20の両端面のうち、出力側L1の端面23には出力側端板25が固定され、反出力側L2の端面24には反出力側端板26が固定されている。
【0028】
(軸受構造)
本形態では、出力側端板25を利用して回転軸12を出力側L1で回転可能に支持する出力側ラジアル軸受7が保持されており、出力側ラジアル軸受7は、回転軸12において永久磁石11より出力側L1に位置する部分を回転可能に支持している。より具体的には、出力側端板25には穴251が形成されており、出力側ラジアル軸受7は、穴251に嵌った状態で出力側端板25に保持されている。出力側ラジアル軸受7は、穴251に嵌った筒部71と、筒部71に対して出力側L1で拡径して筒部71より大径のフランジ部72とを有している。かかる出力側ラジアル軸受7は、フランジ部72の反出力側L2の面が出力側端板25の出力側L1の面に重なった状態で、筒部71のうち、出力側端板25の反出力側L2の面よりもさらに反出力側L2に突出した筒部71の外縁を出力側端板25の出力側L1の面にかしめることにより固定されている。出力側ラジアル軸受7は、焼結含油軸受からなる。
【0029】
また、反出力側端板26を利用して回転軸12を反出力側L2で回転可能に支持する反出力側ラジアル軸受8が保持されており、反出力側ラジアル軸受8は、回転軸12において永久磁石11より反出力側L2に位置する部分を回転可能に支持している。より具体的には、反出力側端板26には穴261が形成されており、反出力側ラジアル軸受8は、穴261に嵌った状態で反出力側端板26に保持されている。反出力側ラジアル軸受8は、穴261に嵌った筒部81と、筒部81に対して反出力側L2で拡径して筒部81より大径のフランジ部82とを有している。かかる反出力側ラジアル軸受8は、フランジ部82の出力側L1の面が反出力側端板26の反出力側L2の面に重なった状態で、筒部81のうち、反出力側端板26の出力側L1の面よりもさらに出力側L1に突出した筒部81の外縁を反出力側端板26の出力側L1の面にかしめることにより固定されている。反出力側ラジアル軸受8は、焼結含油軸受からなる。
【0030】
(付勢部材9等の構成)
ステッピングモータ1において、出力側ラジアル軸受7とロータ10との間には、回転軸12を反出力側L2に付勢する付勢部材9が配置されている。本形態において、付勢部材9はコイルバネからなり、回転軸12の周りに配置されている。付勢部材9(コイルバネ)を配置するにあたって、本形態では、付勢部材9の反出力側L2の端部は、永久磁石11の環状凹部111の内部に収容されている。ここで、付勢部材9の出力側L1の端部と出力側ラジアル軸受7の反出力側L2の端面75との間には、回転軸12に装着された環状のワッシャ41が配置され、付勢部材9の反出力側L2の端部と環状凹部111の段部との間には、回転軸12に装着された環状のワッシャ42が配置されている。
【0031】
また、本形態のステッピングモータ1では、回転軸12の永久磁石11と反出力側ラジアル軸受8との間に位置する部分にワッシャ15が装着され、ワッシャ15の出力側L1の面151は、永久磁石11の反出力側L2の端面117に接している。なお、永久磁石11の反出力側L2の端面117には、回転軸12を囲むように凹部118が形成されており、ワッシャ15の出力側L1の面151は、永久磁石11の凹部118の径方向外側で反出力側L2の端面117に接している。ワッシャ15の外径寸法は永久磁石11の外径寸法より小である。ワッシャ15としては、金属製の部材を用いることができる他、樹脂製の部材を用いてもよい。本形態において、ワッシャ15は樹脂製である。
【0032】
ワッシャ15の反出力側L2の面152は、反出力側ラジアル軸受8の出力側L1の面821に接しており、ワッシャ15の反出力側L2の面152は、付勢部材9の付勢力によって、反出力側ラジアル軸受8の出力側L1の面821に弾性をもって押圧されている。
【0033】
(永久磁石11の構成)
永久磁石11は、ネオジム(Nd−Fe−B)等の希土類金属を含有する磁性粉を含む成形体11aを着磁した希土類磁石である。また、本形態において、永久磁石11は、希土類金属を含有する磁性粉がエポキシ樹脂等のバインダー樹脂によって固められたボンド磁石である。かかる成形体11aの表面では磁性粉が露出している。また、成形体11aの内部には、複数の空孔が形成されており、かかる空孔の内部でも磁性粉が露出している。
【0034】
ここで、永久磁石11(成形体11a)は、モータ軸線方向Lに延在する貫通穴110が形成された円筒形状を有している。貫通穴110は、同一の内径で延在する第1部分114と、第1部分114の両側で第1部分114より拡径した2つの第2部分119とからなる。かかる2つの第2部分119のうち、反出力側L2に位置する第2部分119によって、回転軸12を囲む環状凹部118が形成され、出力側L1に位置する第2部分119によって、環状凹部111が形成されている。環状凹部111は、出力側L1に向かって段階的に拡径した段付きの穴になっており、環状凹部111のうち、反出力側L2の小径部分113には、回転軸12と永久磁石11とを固定する接着剤13が充填されている。また、環状凹部111のうち、反出力側L2の小径部分113と出力側L1の大径部分112との間に形成された段部はワッシャ42を支持している。
【0035】
(錆対策)
このように構成した永久磁石11において、成形体11aには防錆用の塗膜14が形成されている。また、成形体11aの内部の空孔では、成形体11aに対する防錆液の含浸により、磁性粉の表面に防錆処理層(図示せず)が形成されている。なお、図1には、塗膜14を太い線で表してある。
【0036】
本形態において、塗膜14の厚さは、例えば3μmから8μmであり、薄い。塗膜14は、フッ素を含有しており、撥水性を有している。より具体的には、塗膜14は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂から選択される少なくとも1種と、2〜70wt%のフッ素樹脂とを含み、撥水性を有している。本形態において、塗膜14は、フェノール−エポキシ樹脂と、フッ素樹脂とを含んでいる。かかるフッ素樹脂は、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)、四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合樹脂(PFA)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合樹脂(FEP)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合樹脂(EPE)・四フッ化エチレン・エチレン共重合樹脂(ETFE)、三フッ化塩化エチレン共重合樹脂(PCTFE)、三フッ化塩化エチレン・エチレン共重合樹脂(ECTFE)、フッ化ビニリデン樹脂(PVDF)、またはフッ化ビニル樹脂(PVE)である。
【0037】
防錆液は、フタル酸エステルやアジピン酸エステル等を含有する防錆材料をキシレン、ミネラルスピリット、鉱油等の有機溶媒で希釈した溶液であり、成形体11aに含浸した後、乾燥させると、防錆処理層が形成される。ここで、防錆液は、成形体11aにおいて塗膜14が形成されていない箇所や、塗膜14に発生したピンホールから成形体11aの内部に形成されている空孔に侵入する。それ故、防錆液から有機溶媒を蒸発させると、成形体11aの内部において、空孔で露出していた磁性粉の表面に防錆処理層が形成される。このため、磁性粉は、水分や空気との接触が遮断された状態になるので、錆の発生(酸化)が抑制される。本形態においては、フタル酸エステル等を含有する防錆材料を有機溶媒で希釈した溶液であり、キレート化剤等のインヒビターが配合されていることもある。
【0038】
塗膜14は、成形体11aの外周面115および貫通穴110の貫通方向の端部に位置する端面116、117に形成されている。但し、貫通穴110の第1部分114の内面114aには形成されていない。また、塗膜14は、貫通穴110の第2部分119の内面119aのうち、少なくとも第1部分114と隣り合う箇所の内面には形成されていない。すなわち、貫通穴110の環状凹部111の内面111aのうち、少なくとも小径部分113の内面113aには塗膜14が形成されておらず、貫通穴110の環状凹部118の内面118aのうち、少なくとも第1部分114と隣り合う部分には塗膜14が形成されていない。
【0039】
なお、貫通穴110の内面110aのうち、大径部分112の内面112aや環状凹部118の内面118aには塗膜14が形成されていてもよいが、本形態において、塗膜14は、成形体11aの外面(外周面115および端面116、117)のみに形成され、貫通穴110の内面(第1部分114の内面114aおよび第2部分119の内面119a)には形成されていない。
【0040】
(永久磁石11の製造方法)
図2は、本発明を適用した永久磁石11の製造方法を示す工程図である。
【0041】
図2に示すように、本形態の永久磁石11を製造するには、まず、成形工程ST1において、磁性粉とバインダー樹脂とを混合した後、図1に示す形状に圧縮成形し、円筒状の成形体11aを得る。次に、焼成工程ST2において、成形体11aを焼結し、成形体11aを磁性粉の焼結体とする。次に、バレル等を利用して成形体11aに対する面取り工程ST3を行った後、イソプロピルアルコール等の非水系溶媒を用いて洗浄工程ST4を行う。なお、面取り工程ST3では、容器内に多数の成形体11aをφ3〜φ10mmのセラミックボール等のメディアとともに入れた状態で容器を回転させ、成形体11aとメディアとの接触により面取りを行う。その結果、成形体11aのバリも除去される。その後、温度が100℃の条件で乾燥させる。なお、面取り工程ST3は、湿式で行ってもよいし、乾式で行ってもよい。
【0042】
次に、塗膜形成工程ST10において、成形体11aに塗膜14を形成する。かかる塗膜形成工程ST10では、まず、塗装工程ST5において塗膜14を形成した後、硬化工程ST6において、塗膜14を加熱し硬化させる。本形態では、塗膜形成工程ST10(塗装工程ST5)において、バレル塗装法によって塗膜14を形成する。かかるバレル塗装法では、容器内に多数の成形体11aを入れた状態で容器を回転させながら、ノズルから塗液を成形体11aに向けて吐出して塗膜14を形成する。
【0043】
また、塗装工程ST5においては、以下の方法を採用してもよい。まず、容器内に多数の成形体11aを入れた状態で容器を回転させながら、ノズルから塗液を成形体11aに向けて吐出して約6μm程度の塗膜14を形成する。その際、容器にはメディアを投入しない。次に、容器にメディアを投入した後、容器を回転させ、先に形成した塗膜14がほぼ無くなるまで、容器を回転させる。その結果、成形体11aの表面から塗膜14がほぼ除去されるが、成形体11aの外面で露出している空孔が塗膜14で埋められる。次に、容器内に多数の成形体11aを入れた状態で容器を回転させながら、ノズルから塗液を成形体11aに向けて吐出して厚さが3μmから8μmの塗膜14を形成する。その際、容器にはメディアを投入しない。
【0044】
次に、防錆処理工程ST20において成形体11aに防錆処理層を形成する。かかる防錆処理工程ST20では、まず、防錆液含浸工程ST7において、成形体11aに防錆液を含浸した後、乾燥工程ST8において、防錆液の溶剤を蒸発させ、成形体11aに防錆処理層を形成する。かかる防錆液含浸工程ST7においては真空含浸を行う。
【0045】
次に、着磁工程ST9を行い、永久磁石11が完成する。
【0046】
(本形態の主な効果)
以上説明したように、本形態の永久磁石11(希土類磁石)は、成形体11aの外面(外周面115および端面116、117)に防錆用の塗膜14が形成されているため、成形体11aの外面(外周面115および端面116、117)での錆の発生を抑制することができる。また、成形体11aの外面から磁性粉が脱落することを塗膜14によって防止することができる。また、成形体11a内部の空孔では、磁性粉の表面に防錆処理層が形成されている。ここで、成形体11aには多数の空孔が形成されており、かかる空孔の内部には塗膜14が形成されない。また、塗膜14にピンホールが存在すると、ピンホールから空孔に水分や空気が侵入する。このような場合でも、空孔では、磁性粉の表面に防錆処理層が形成されているため、空孔の内部に錆が発生することを抑制することができる。また、塗膜14は、フッ素を含有する樹脂膜からなるため、撥水性を有している。従って、錆の発生を効果的に抑制することができる。
【0047】
例えば、永久磁石11に対して、温度が60℃で湿度が90%の環境下で3000時間の放置試験を行ったが、本形態の永久磁石11の外面には錆が発生しなかった。さらに、永久磁石11に0.5重量%の塩水を付着させた後、温度が60℃で湿度が90%の環境下で72時間の放置試験を行った。その結果、塗膜14のみを形成し、防錆処理を行わない試料や、防錆処理のみを行い、塗膜14を形成しない試料では、錆の発生が確認されたが、塗膜14の形成および防錆処理の双方を行った本形態の永久磁石11では、錆の発生が見られなかった。
【0048】
また、本形態において、塗膜14は、厚さが3μmから8μmであり、薄い。このため、ステータ20(ステータコア211、212、221、222に形成された極歯217、227)とのエアギャップ確保のため、塗装の厚み分、永久磁石11の径方向の寸法を小さくする必要がなく、エアギャップに起因する磁気特性に対する影響が及びにくい。
【0049】
また、成形体11aの貫通穴110のうち、第1部分114の内面114aには塗膜14が形成されにくい。このため、第1部分114の内径寸法が塗膜の影響を受けないため、貫通穴110内に回転軸12を適正に嵌めることができる。すなわち、第1部分114の内面114aに塗膜14が厚く形成されると、貫通穴110内に回転軸12を通すことができなくなるという事態が発生するが、本形態によれば、かかる事態が発生しにくい。
【0050】
また、貫通穴110の第2部分119の内面119aのうち、少なくとも第1部分114と隣り合う箇所の内面には塗膜14が形成されにくい。このため、貫通穴110内に嵌めた回転軸12と永久磁石11(希土類磁石)とを出力側L1の第2部分119の小径部分113に設けた接着剤13によって固定する際、接着剤13が小径部分113の奥まで進入しやすい。それ故、小径部分113と接着剤13との接着強度が大であるので、回転軸12と永久磁石11(希土類磁石)とを強固に固定することができる。特に本形態では、撥水性の塗膜14を形成したため、接着剤13と塗膜14との接着強度が低いが、本形態では、塗膜14が存在しない箇所で回転軸12と永久磁石11とを接着剤13で固定するので、回転軸12と永久磁石11(希土類磁石)とを強固に固定することができる。
【0051】
また、本形態では、永久磁石11を製造する際、塗膜形成工程ST10では、バレル塗装法によって塗膜14を形成する。かかるバレル塗装法では、容器内に多数の成形体11aを入れた状態で容器を回転させながら、塗膜14を塗装する。このため、多数の成形体11aに効率よく塗装を行うことができる。また、容器内で成形体11aが移動するため、成形体11a同士が付着することがない。また、成形体11aが円筒状である場合にバレル塗装法を適用すると、貫通穴110の内面が塗装されにくいので、貫通穴110の内面110aに対する余計な塗膜14の形成を抑制することができる。さらに、バレル塗装法であれば、塗膜14の成長速度が遅いので、塗膜14の膜厚を制御しやすい。
【0052】
[他の実施の形態]
上記実施の形態では、ボンド磁石からなる永久磁石11(希土類磁石)に本発明を適用する場合を例示したが、焼結磁石からなる永久磁石11(希土類磁石)に本発明を適用してもよい。
【0053】
上記実施の形態では、貫通穴110の内面110aに塗膜14が形成されていない構成であったが、貫通穴110の内面110aの一部に塗膜14が付着している構成であってもよい。永久磁石11に錆が発生するのを防止するという点では、成形体11aの外周面115に加えて端面116、117にも塗膜14が形成されていることが好ましく、かかる状態を確実に実現しようとすると、貫通穴110の開口縁付近等、貫通穴110の内面110aの一部に塗膜14が付着することがある。このような場合でも、貫通穴110への回転軸12の挿入や、接着剤13による固定等に支障がない程度であれば、貫通穴110の内面110aに塗膜14が付着していてもよい。
【符号の説明】
【0054】
1 ステッピングモータ
2 固定体
10 ロータ
11 永久磁石
12 回転軸
20 ステータ
11a 成形体
14 塗膜
110 成形体の貫通穴
111 環状凹部
112 大径部分
113 小径部分
114 第1部分
115 成形体の外周面
116、117 端面
118 環状凹部
119 第2部分
L モータ軸線方向
L1 出力側
L2 反出力側
図1
図2