(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のワイパーは、親水性繊維、疎水性繊維、および分割型複合繊維を含む。そこで、これらの繊維についてまず説明する。
【0016】
[親水性繊維]
親水性繊維は、本発明のワイパーをウェットタイプのものとして使用する(即ち、不織布に液体を含浸させる)場合に、液体を保持するとともに、保持した液体を対象物に供給する役割をする。あるいは、親水性繊維は、本発明のワイパーをドライタイプのものとして使用する場合には、対象物から拭き取った液体(例えば、汗)を保持する役割をする。
【0017】
ここで、親水性繊維は公定水分率が5%以上の繊維である。公定水分率は、JIS L0105(2006)に示されている。公定水分率が知られていない場合には、次の式から算出される値を公定水分率とする。
公定水分率(%)=[(W−W’)/W’]×100
ここで、Wは温度20℃、湿度65%RHの環境下における繊維の質量(g)、W’は繊維絶乾時の質量(g)をそれぞれ意味する。なお、温度20℃、湿度65%RHの環境下における繊維の質量は、温度20℃、湿度65%RHの環境下に繊維を放置し、一定の質量になった時の質量を意味し、繊維絶乾時の質量は、105℃に設定した乾燥機中に繊維を放置し、一定の質量になった時の質量を意味する。
【0018】
親水性繊維は、具体的には、パルプ、コットン、麻、シルク、およびウールなどの天然繊維、ビスコースレーヨン、キュプラ、および溶剤紡糸セルロース繊維などの再生繊維、ならびに親水性を有する合成繊維、または疎水性の合成繊維(公定水分率が5%未満の合成繊維)に親水化処理を施したもの等である。親水化処理として、例えば、コロナ放電処理、スルホン化処理、グラフト重合処理、繊維への親水化剤の練り込み、および耐久性油剤の塗布が挙げられる。親水性繊維は、セルロース系繊維であることが好ましい。セルロース系繊維は、より具体的には、1)機械パルプ、再生パルプおよび化学パルプ等のパルプ、ならびに2)ビスコースレーヨン、キュプラ、および溶剤紡糸セルロース繊維(例えば、レンチングリヨセル(登録商標)およびテンセル(登録商標))等の再生繊維である。
【0019】
パルプは、針葉樹木材または広葉樹木材を用いて常套の方法で製造されたものであってよい。一般的に、パルプ繊維の繊度は、1.0〜4.0dtex程度、繊維長は0.8〜4.5mm程度であるが、この範囲外の繊度および/または繊維長を有するパルプ繊維を使用してもよい。
【0020】
再生繊維を使用する場合、その繊度は、0.3〜6dtex程度であることが好ましく、0.5〜3dtex程度であることがより好ましい。この範囲内の繊度の再生繊維は、低交絡部分における隠蔽性および柔軟性を確保するのに適している。再生繊維の繊度が小さすぎると、繊維同士の交絡が密になりすぎ、柔軟性が損なわれることがある。再生繊維の繊度が大きすぎると、低交絡部分において地合ムラが生じて、隠蔽性が低下することがある。
【0021】
親水性繊維は、再生繊維であることが好ましく、特に、ビスコースレーヨンであることが好ましい。ビスコースレーヨンは、他の親水性繊維(例えばコットン)と比較して不織布の風合いを柔らかくすること、対人用ワイパーの分野で使用されてきた実績があること、および比較的安価で得やすいことによる。
【0022】
親水性繊維が再生繊維、または合成繊維もしくは合成繊維に親水化処理を施したものである場合、親水性繊維は着色剤を含むことが好ましい。着色剤は白色着色剤が好ましい。着色剤は例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、および硫化亜鉛等である。着色剤はワイパーの隠蔽性を向上させることが出来るため好ましく用いられる。着色剤の含有量は、好ましくは0.3〜1.5質量%程度である。
【0023】
[疎水性繊維]
前記親水性繊維はそれを含む不織布が液体で濡らされると、不織布の嵩を減少させる、あるいは不織布の強度を減少させやすい。かかる不都合を避けるために、本発明のワイパーを構成する不織布は、後述する分割型複合繊維の分割により形成される繊維のうち、最も小さい繊度を有する繊維よりも大きい繊度を有する疎水性繊維を含む。そのような疎水性繊維は、親水性繊維を含む不織布が濡れたときの嵩のへたりを抑制する。さらに、疎水性繊維は、湿潤時においても適度にさらりとした触感をワイパーに付与し、肌触りを良好にする。さらにまた、疎水性繊維は、嵩高性を有する場合には、不織布に液体を保持させたときに、保持した液体をスムーズに放出させる役割をし、ワイパーの液放出性を高める。ここで、疎水性繊維とは、公定水分率が5%未満の繊維である。
【0024】
疎水性繊維は、好ましくはポリエステル繊維である。ポリエステル繊維は、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネートおよびその共重合体などから選択される、1または複数のポリエステル系樹脂で構成される繊維である。あるいは、疎水性繊維は他の樹脂からなる繊維、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテン−1およびエチレン−プロピレン共重合体から選択される、1または複数のポリオレフィン系樹脂で構成されるポリオレフィン繊維、またはナイロン6またはナイロン66のようなポリアミド樹脂で構成される、ポリアミド繊維であってよい。疎水性繊維として、これらの繊維から選択される2種以上の繊維が含まれていてよい。
【0025】
疎水性繊維は、単一繊維であってもよく、あるいは上記において例示した樹脂から選択される複数の異なる成分からなる複合繊維であってよい。複合形態の疎水性繊維は、例えば、芯成分と鞘成分からなる同心または偏心芯鞘型複合繊維であってよい。疎水性繊維が複合繊維である場合、後述する分割型複合繊維を構成する熱接着成分の融点は、疎水性繊維の表面を構成する成分の融点との関係で決定される。
【0026】
疎水性繊維の繊度は、後述する分割型複合繊維の分割により形成される繊維のうち、最も繊度の小さい繊維の繊度よりも大きい。疎水性繊維の繊度は、具体的には、0.3〜6dtex程度であることが好ましく、0.5〜3dtex程度であることがより好ましく、1〜3dtexであることがさらにより好ましく、最も好ましくは1〜1.5dtexである。この範囲内の繊度の疎水性繊維は、不織布が濡れているときのへたりを有効に抑制する。疎水性繊維の繊度が小さすぎると、カード性が低下する。疎水性繊維の繊度が大きすぎると、肌触りが低下し、また、繊維の交絡性が低下する。
【0027】
疎水性繊維もまた着色剤を含むことが好ましい。着色剤の含有量は、好ましくは0.3〜10質量%程度である。
【0028】
[分割型複合繊維]
分割型複合繊維は、分割により1本の繊維から複数本のより繊度の小さい繊維を形成して、不織布に含まれる繊維本数を増加させ、また、それらが緊密に絡み合うことによって、それを含む不織布の繊維間の空隙が小さくなる。その結果、光が不織布をより透過しにくくなり、不織布全体の隠蔽性が向上する。特に、繊維同士の交絡の度合いが小さい低交絡部分においては、分割型複合繊維を含むことによる隠蔽性向上の効果が顕著に得られる。また、分割型複合繊維の分割により形成される繊維は細いために、不織布全体の柔軟性を増加させ、特に、繊維同士の交絡の度合いが小さい低交絡部分における柔軟性を向上させる。高交絡部分においては、分割により形成された繊維が強く絡み合って、不織布の機械的強度を向上させる。また、分割型複合繊維は熱接着成分を含む。この熱接着成分は、繊維同士の少なくとも一部を熱接着させる。それにより、不織布における毛羽立ちが抑制され、あるいは不織布の強度が向上する。また、分割型複合繊維の一成分が熱接着成分であるから、分割により形成された細い繊維が熱接着成分として機能する。それにより、熱接着点の面積がより小さくなるので、熱接着後であっても不織布の柔軟性が損なわれにくい。
【0029】
分割型複合繊維は、具体的には、繊維断面において構成成分のうち少なくとも1成分が2個以上に区分されてなり、構成成分の少なくとも一部が繊維表面に露出し、その露出部分が繊維の長さ方向に連続的に形成されている繊維断面構造を有する。分割型複合繊維は2以上の成分で構成され、当該2以上の成分は、一つの成分が、前記疎水性繊維よりも低い融点を有する熱接着成分であり、他の成分は前記熱接着成分よりも20℃以上高い融点を有するように選択される。ここで、融点は、繊維にした後の樹脂の融点を指す。
【0030】
分割型複合繊維を構成する成分は、特に限定されず、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネートおよびその共重合体等のポリエステル系樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテン−1、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、およびエチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン系樹脂、ナイロン6およびナイロン66のようなポリアミド系樹脂等から任意に選択される。分割型複合繊維を構成する成分は、それ単独で繊維が構成されたときに公定水分率が5%未満となるものであってよく、あるいは5%を超えるものであってもよい。
【0031】
分割型複合繊維を構成する成分の組み合わせは、例えば、ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート/ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート/エチレン−プロピレン共重合体、ポリプロピレン/ポリエチレン等である。ポリエチレンは比較的低い温度で溶融して、繊維同士を良好に接着するので、これを熱接着成分とすることが好ましい。また、他の成分(分割型複合繊維を構成する、熱接着性成分以外の成分)は、熱接着成分と十分な融点差を有し、熱接着成分を溶融する温度で熱により変形等しないものであることが好ましい。さらに、他の成分が、ポリエステル系樹脂であり、かつ前記疎水性繊維がポリエステル繊維である場合には、疎水性繊維の繊度および分割型複合繊維の分割数等を調節することによって、不織布中に繊度の異なるポリエステル繊維を含めることができる。ワイパーにおいて、より太い繊度のものは液体放出性を高くし、より細い繊度のものは微細な繊維間空隙を形成して液体保持性を高くするので、異なる繊度のポリエステル繊維を含むワイパーは、液体放出性と液体保持性のバランスが良好となる。したがって、上記の組み合わせのうち、特に、ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレンの組み合わせが好ましい。
【0032】
分割型複合繊維の繊度は、各成分に分割したときに(即ち、各セクションが一本の繊維となったときに)、繊度0.5dtex以下、好ましくは繊度0.4dtex以下の極細繊維を与えるものであれば、特に限定されず、例えば、1〜9dtexであることが好ましい。より好ましくは、1.5〜3.0dtexであり、さらにより好ましくは、1.5〜2.5dtexである。また、分割型複合繊維における各成分への分割数(即ち、複合繊維におけるセクションの数)は、例えば、4〜32であることが好ましく、4〜20であることがより好ましく、6〜10であることが最も好ましい。分割数が小さいと、繊度0.5dtex以下の極細繊維を形成するために、分割前の繊度を小さくする必要がある。小さい繊度の分割型複合繊維は、製造することが難しく、また不織布の生産性を低下させることがある。分割数が大きい分割型複合繊維は、複雑な紡糸ノズルを用いて、溶融紡糸条件を厳密に制御して製造する必要がある。そのため、そのような分割型複合繊維の使用は不織布の製造コストを上昇させることがある。極細繊維の繊度の下限は、特に限定されないが、不織布表面の耐摩耗性を考慮すると、0.05dtex以上であることが好ましい。また、疎水性繊維と分割型複合繊維の分割により形成される繊維のうち最も繊度が小さいものの繊度との比(疎水性繊維/最小繊度の極細繊維)の比は、3〜10であることが好ましく、4〜8であることがより好ましい。
【0033】
セクションの形状は特に限定されない。例えば、分割型複合繊維は、楔形のセクションが菊花状に並べられたものであってよい。あるいは、分割型複合繊維は、繊維断面において各セクションが層状に並べられたものであってよい。
【0034】
分割型複合繊維を構成する成分の容積比は、得ようとする極細繊維の繊度等に応じて決定される。例えば、熱接着成分と、熱接着成分以外の他の重合体との容積比は、2:8〜8:2であることが好ましい。上記範囲内に容積比があると、複合繊維の生産性および複合繊維の分割性が高くなる傾向にある。より好ましい熱接着成分:他の重合体の容積比は、4:6〜6:4である。
【0035】
分割型複合繊維を構成する成分もまた、好ましくは着色剤を含む。着色剤は、熱接着成分以外の成分にのみ、または熱接着成分にのみ含まれてもよく、あるいはすべての成分に含まれていてもよい。着色剤が熱接着成分以外の成分にのみ含まれる場合には、分割型複合繊維の分割性が向上する。着色剤が熱接着成分に含まれる場合には、熱接着成分による接着強力が低下することがある。着色剤は、好ましくはそれを含む成分の0.3〜10質量%程度を占めるように含有される。
【0036】
本発明のワイパーは、分割型複合繊維の分割により形成された繊維として、分割前の1つのセクションのみからなる単一繊維、および2以上のセクションからなる繊維を含む。また、一本の分割型複合繊維の一部においては、1つの成分からなる単一繊維の形態をとり、他の部分において、他のセクションから完全に分割しておらず、2以上のセクションが結合した形態をとることもある。あるいは、分割型複合繊維は一部において、またはその全部が全く分割しないこともある。本発明のワイパーは、分割型複合繊維の分割により形成された繊維(一本の分割型複合繊維の一部が分割されているものを含む)を含む限りにおいて、そのように全く分割しない分割型複合繊維を含んでいてもよい。
【0037】
親水性繊維、疎水性繊維、および分割型複合繊維の分割により形成された繊維(全く分割していない分割型複合繊維が存在する場合、当該分割していない分割型複合繊維はこれに含まれる)は、これらの三種類の繊維を合わせた質量を100質量%としたときに、親水性繊維30質量%〜60質量%、疎水性繊維50質量%〜20質量%、分割型複合繊維の分割により形成された繊維10質量%〜40質量%の割合で含まれることが好ましい。より好ましい割合は、親水性繊維35質量%〜50質量%、疎水性繊維45質量%〜25質量%、分割型複合繊維の分割により形成された繊維20質量%〜30質量%であり、分割型複合繊維の分割により形成された繊維のさらに好ましい割合は22質量%〜28質量%である。
【0038】
親水性繊維を30質量%〜60質量%含むワイパーをウェットタイプのものとすると、ワイパーは液体を良好に保持し、保持した液体を良好に放出して、対象物に液体を供給することができる。親水性繊維を30質量%〜60質量%含むワイパーをドライタイプのものとすると、ワイパーは対象物から液体を拭き取りやすく、また、保持した液体を良好に保持する。親水性繊維の割合が大きいと、湿潤時に嵩がへたりやすく、またウェットタイプのワイパーとしたときに肌触りがべたついたものとなることがある。
【0039】
疎水性繊維を50質量%〜20質量%含むワイパーをウェットタイプのものとすると、ワイパーは液体を含浸させた状態でも嵩高で、しっかりとした手持ち感を与える。疎水性繊維を50質量%〜20質量%含むワイパーをドライタイプのものとすると、ワイパーは液体を吸収したときでも嵩が減少しにくく、しっかりとした手持ち感が維持される。疎水性繊維の割合が大きすぎると、他の繊維の割合が小さくなって、親水性繊維による保液性が低下し、あるいは分割型複合繊維の分割により形成された繊維による隠蔽効果が減少する。
【0040】
分割型複合繊維の分割により形成された繊維を10質量%〜40質量%含み、かつ分割型複合繊維の熱接着成分によって繊維同士の少なくとも一部が接着されているワイパーは、毛羽立ちが少なく、柔軟性が高く、寸法安定性に優れている。これらのことは、ウェットタイプおよびドライタイプのワイパーのいずれにもあてはまる。分割型複合繊維の分割により形成された繊維の割合が少ないと、熱接着成分が少なくなって毛羽立ちが生じやすく、寸法安定性が劣る傾向にあり、割合が多すぎると、風合いが硬くなり、また、ざらついた触感を与えることがある。
【0041】
次に、本発明のワイパーを構成する不織布の低交絡部分および高交絡部分について説明する。本明細書においては、不織布を構成する2つの部分における繊維の交絡の度合いを比較したときに、より低い方を低交絡部分と呼び、より高い方を高交絡部分と呼ぶ。
【0042】
低交絡部分は、繊維の交絡の度合いがより低い、即ち、より弱い繊維交絡処理に付されて繊維同士が交絡している部分である。例えば、繊維同士が、後述する高圧水流処理によって交絡している場合、低交絡部分はより弱い水流交絡条件、即ち、繊維ウェブが受ける水流のエネルギーがより小さい条件で処理されている部分である。具体的には、低交絡部分は、水流の圧力がより低い、および/または水流交絡処理中の繊維ウェブの搬送速度がより高い条件にて形成される。
【0043】
高交絡部分は、繊維の交絡の度合いがより高い、即ち、より強い繊維交絡処理に付されて繊維同士が交絡している部分である。例えば、繊維同士が、後述する高圧水流処理によって交絡している場合、高交絡部分はより強い水流交絡条件、即ち、低交絡部分と比較して、繊維ウェブが受ける水流のエネルギーがより大きい条件にて処理されている部分である。具体的には、高交絡部分は、水流の圧力がより高い、および/または水流交絡処理中の繊維ウェブの搬送速度がより低い条件にて形成される。
【0044】
低交絡部分は、より弱い繊維交絡処理に付された部分であるので、当該部分においては、交絡処理中に繊維の飛散および移動がより生じにくく、交絡処理に起因する地合の疎密が小さく、また繊維の自由度がより大きく、より嵩高である。そのため、低交絡部分は、より高い隠蔽性および柔軟性を示すものの、機械的強度は小さい。高交絡部分は、より強い繊維交絡処理に付された部分であるので、当該部分においては、交絡処理中に繊維の飛散および移動がより生じやすく、交絡処理に起因する地合の疎密が大きい。そのため、高交絡部分は高い機械的強度を示すものの、隠蔽性は低い。
【0045】
また、低交絡部分においては、その繊維密度は一般により小さい。高交絡部分においては、その繊維密度は一般により大きい。例えば、低交絡部分は、好ましくは0.065g/cm
3〜0.080g/cm
3の繊維密度を有し、高交絡部分は、好ましくは0.080g/cm
3〜0.095g/cm
3の繊維密度を有する。2つの交絡部分において繊維密度がこの範囲内にあると、低交絡部分において隠蔽性および柔軟性が確保され、高交絡部分において機械的強度が確保される。繊維密度は荷重を加えていない状態の厚さ(例えば約80倍の電子顕微鏡写真から求められる)で目付を除することによって(目付/厚さ)求められる。
【0046】
尤も、不織布の厚さはその保管状態によって変化し、例えば、強く巻回させた状態で長期間保存していると低交絡部分の厚さと高交絡部分の厚さに差が無くなることがある。その場合には、繊維密度の差で当該2つの部分を区別することが難しいことがあるが、そのことは本発明の範囲に影響を与えない。むしろ、用途によっては、均一でかつ小さな厚さを要求されることがある。例えば、所定の容器にできるだけ多くの枚数のワイパーを収納する場合には、均一かつ小さい厚さが要求される。その場合、低交絡部分と高交絡部分の厚さの差は小さくてよく、あるいは無くてよい。厚さの差が小さい場合、2つの部分がそれぞれ低交絡部分および高交絡部分であることは、他の手段(例えば、後述する分割型複合繊維の分割率)によって確認される。
【0047】
本発明のワイパーを構成する不織布は、分割型複合繊維の分割により形成された繊維を含む。分割型複合繊維の分割は一般に繊維交絡処理中に進行し、繊維交絡処理の条件がより強いほど、分割の度合いもより高くなる。したがって、低交絡部分においては、分割型複合繊維の分割の度合い(「分割率」と称される)が、高交絡部分におけるそれよりも一般に低い。本発明のワイパーを構成する不織布において、高交絡部分の分割率と、低交絡部分の分割型複合繊維の分割率との差は5%以上であることが好ましく、6%以上であることがより好ましい。あるいは、低交絡部分の分割率に対する高交絡部分の分割率の比(高交絡部分の分割率/低交絡部分の分割率)が1.5以上、より好ましくは2.0以上、さらに好ましくは2.5以上となるように、2つの部分の分割率に差が存在することが好ましい。分割率の差がこの程度である不織布は、低交絡部分において隠蔽性および柔軟性が確保され、高交絡部分において機械的強度が確保される。
【0048】
分割率は、以下の手順で測定される。
(1)不織布を空間がないように束ねて、分割型複合繊維の繊維断面が観察できるように切断した断面を、電子顕微鏡で400〜500倍に拡大し、拡大した断面を撮影する。
(2)撮影した写真をシート(例えば紙)に印刷し、分割型複合繊維に由来する繊維(分割していない繊維、および分割している繊維)をシート等から切り取る。
(3)切り取ったシート片全部の重量(分割していない繊維の重量+分割している繊維の重量)を求める。
(4)切り取ったシート片から、分割している繊維と認められるものを選んで、選んだシート片の重量(=分割している繊維の重量)を求める。
(5)下記の式により、分割率を求める。
分割率(%)=[分割している繊維の重量/(分割している繊維の重量+分割していない繊維の重量)]×100
【0049】
「分割している繊維」として選ばれる繊維は、分割前の繊維の大きさの1/4以下になっている繊維である。したがって、8のセクションからなる分割型複合繊維については、2以下のセクションからなる繊維が分割している繊維であり、16のセクションからなる分割型複合繊維については、4以下のセクションからなる繊維が分割している繊維である。
【0050】
低交絡部分における分割型複合繊維の分割率は、4%〜25%であることが好ましく、5%〜23%であることがより好ましい。低交絡部分における分割率がこの範囲内にあると、分割型複合繊維の分割による繊維本数の増加による隠蔽性および柔軟性の向上を効果的に達成することができる。分割率が高すぎると、繊維の交絡の度合いがより高くなり、地合に疎密が生じて、隠蔽性が低下することがある。
【0051】
高交絡部分における分割型複合繊維の分割率は、10%〜60%であることが好ましく、15%〜55%であることがより好ましい。高交絡部分における分割型複合繊維の分割率がこの範囲内にあると、繊維同士がしっかりと交絡して、不織布の機械的強度が確保される。分割型複合繊維の分割率が低すぎると、機械的強度が確保されないことがある。分割型複合繊維の分割率が高すぎると、高交絡部分において不織布の地合が乱れて、ワイパーの外観を悪くすることがある。
【0052】
低交絡部分および高交絡部分は、電子顕微鏡により倍率30倍程度で観察することによっても識別される。具体的には、高交絡部分においては、繊維同士の強い交絡に起因して、繊維のねじれ、および繊維の他の繊維の巻き付きが、より多くの箇所で観察されるのに対し、低交絡部分においては、そのようなねじれおよび巻き付きが観察される箇所は少ない。そのような繊維の状態によっても2つの部分を区別することができる。
【0053】
低交絡部分および高交絡部分はともに、不織布の縦方向(機械(MD)方向)に沿って延び、不織布の横方向(CD方向)に沿って低交絡部分と高交絡部分とが交互に存在していることが好ましい。そのような配置で2つの交絡部分を有する不織布は、例えば後述する高圧水流処理方法によって連続的に製造しやすいからである。勿論、用途等に応じて、不織布は、低交絡部分および高交絡部分がMD方向に沿って交互に存在する形態であってもよい。
【0054】
低交絡部分と高交絡部分が不織布のMD方向に沿って延び、CD方向に沿って交互に存在している形態において、低交絡部分の幅(CD方向の寸法)は2mm以上であることが好ましく、高交絡部分の幅は2mm以上であることが好ましい。また、低交絡部分の幅は高交絡部分の幅よりも大きいことが好ましい。本発明のワイパーの隠蔽性は低交絡部分によって確保されるからである。即ち、低交絡部分が不織布に占める面積がより大きいと、より隠蔽効果が発揮される。具体的には、低交絡部分の幅は好ましくは10mm〜50mmであり、より好ましくは15mm〜30mmである。高交絡部の幅は好ましくは3mm〜20mmであり、より好ましくは5mm〜15mmである。低交絡部分の幅は、一つのワイパーにおいて同じである必要はなく、一つのワイパーにおいて異なる幅の低交絡部分を設けてよい。高交絡部分についても同様である。
【0055】
低交絡部分および高交絡部分の配置形態によらず、低交絡部分が不織布に占める面積は全体の50〜90%であることが好ましく、60〜90%であることがより好ましく、高交絡部分が不織布に占める面積は全体の10〜50%であることが好ましく、10〜40%であることがより好ましい。そのような割合で2つの交絡部分が存在する不織布を用いると、隠蔽効果が高く、柔軟で、かつ実用的な強度を有するワイパーを実現することができる。
【0056】
低交絡部分および高交絡部分の他の構成は特に限定されるものではない。交絡の度合いが異なる2つの部分として両者が存在する限りにおいて、2つの部分は、例えば、開口部または凹凸部を有していてよい。尤も、開口部はワイパーに透け感を与え、ワイパーの隠蔽性を低下させることがある。よって、低交絡部分および高交絡部分はいずれも開口部を有しないことが好ましい。特に低交絡部分は隠蔽性を確保する部分であるから、開口部を有しないことが好ましく、全体が均一な平坦部を形成していること、即ち、無模様であることがより好ましい。但し、後述する水流交絡処理によって不織布を製造するときに、高圧水流が当たった部分に生じる筋は、ここでいう模様には含まれない。
【0057】
高交絡部分は、好ましくは無模様であるものの、模様を有してもよい。模様は、隠蔽性低下を避けるために、開口部を有していないことが好ましく、具体的には凹部と凸部の組み合わせ、または繊維密度の小さい部分と大きい部分との組み合わせにより形成されることが好ましい。模様は意匠効果を奏し、ワイパーの外観を向上させる。模様は、例えば、複数の線状の凹部(または繊維密度の小さい部分)が不織布の縦方向(または横方向)に対して斜めに且つ互いに平行に配置された斜めストライプ模様であってよい。あるいは模様は、凹部と凸部(または繊維密度の小さい部分と大きい部分)の組み合わせにより形成された、杉綾模様、縞模様、市松模様、格子模様、千鳥模様、ジグザグ模様等であってよい。高交絡部分が複数形成されている場合には、複数の高交絡部分は互いに異なる模様を有していてよい。これらの模様は、後述する高圧水流処理によって不織布を製造する場合に、水流交絡の際に繊維ウェブを載置する支持体を適宜選択することによって形成することができる。あるいは、模様はエンボス加工により形成してよい。
【0058】
低交絡部分は、ワイパーの隠蔽性を高めるとともに、拭き取った汚れ(例えば、便)を保持する役割をする。低交絡部分は、繊維同士の交絡の度合いが小さく、繊維の自由度が高いので、汚れを保持しやすい。高交絡部分は、繊維がしっかりと交絡しているので、汚れを掻き取る役割をする。高交絡部分が模様を有する場合には、汚れの掻き取り性が向上する。例えば、杉綾模様や斜めストライプ模様などの高交絡部分は、不織布のMD方向に対して斜めの方向に凹凸が繰り返される構成を有するため、杉綾模様や斜めストライプ模様などを有するワイパーは種々の拭き取り方向において良好な掻き取り性を示す。
【0059】
低交絡部分および高交絡部分のいずれにおいても、繊維同士の少なくとも一部は、分割型複合繊維を構成する熱接着成分によって熱接着されている。分割型複合繊維の少なくとも一部は分割されて1つ又は2つのセクションからなる細い繊維を形成しているから、熱接着成分による接着点の少なくとも一部は細い繊維によるものであって、小さい面積を有する。そのため、ワイパーを構成する不織布は、全体として柔軟である。熱接着成分は、単一繊維(1つのセクションからなる繊維)として繊維同士を熱接着していてよく、あるいは複合繊維(例えば、分割型複合繊維の分割により形成された2以上のセクションからなる繊維)の一成分として繊維同士を熱接着していてよい。あるいはまた、全く分割されていない分割型複合繊維が存在する場合、熱接着成分はその未分割の分割型複合繊維の一部として、繊維同士を熱接着してよい。
【0060】
ワイパーを構成する不織布の目付(液体を含浸させていない状態の目付)は、用途等に応じて適宜選択される。不織布の目付は、例えば不織布に液体を含浸させて、おしり拭きとして提供する場合には、20g/m
2〜150g/m
2であることが好ましく、25g/m
2〜60g/m
2であることがより好ましく、30g/m
2〜50g/m
2であることがさらにより好ましい。不織布の目付がこの範囲内にあると、実用的な強度が得られ、手持ち感、柔軟性および触感においても使用者の満足感を得やすい。不織布の目付が小さすぎると、強度が低下し、また、手持ち感が得られにくい。また、不織布の目付が小さすぎると、不織布の地合が低下し、隠蔽性が低下することがある。不織布の目付が大きすぎると、柔軟性が損なわれることがあり、また、取り扱いにくいことがある。
【0061】
ワイパーを構成する不織布の厚さもまた、用途等に応じて適宜選択される。不織布の厚さは、構成繊維の割合、目付および製造条件等によって変化する。不織布の厚さ(1cm
2あたり20gf(1.96cN)の荷重を加えたときの厚さ)は、例えば不織布に液体を含浸させて、おしり拭きとして提供する場合には、例えば、0.30mm〜0.50mmであることが好ましく、0.32mm〜0.48mmであることがより好ましく、0.35mm〜0.45mmであることがさらにより好ましい。不織布の厚さがこの範囲内にあると、手持ち感において使用者の満足を得やすく、取り扱い性にも優れている。不織布の厚さが小さすぎると、手持ち感が得られにくい。不織布の厚さが大すぎると、嵩張って取り扱いにくくなり、また、所定の容器内に収納できるワイパーの枚数が少なくなる。
【0062】
上記において説明した不織布の目付の範囲、および不織布の厚さの範囲は、同時に満足されることが好ましい。それにより、使い勝手がよく、性能的にも優れたワイパーを実現することができる。
【0063】
本発明のワイパーを構成する不織布は、低交絡部分と高交絡部分を有し、かつ分割型複合繊維の分割により形成された繊維を含むために柔軟である。柔軟性は、例えば、ハンドルオメータで測定される。ハンドルオメータによる測定は、不織布の測定方向をスリットと垂直となるようにセットし、ペネトレーターのブレードを不織布の測定方向と垂直な方向にあてて押し込んだときの抵抗値(ハンドルオメータ値)を測定する方法で行う。測定方向は、不織布のMD方向およびCD方向とする。1つの測定方向について2箇所でハンドルオメータ値を求め、その2つの値の和を、それぞれの方向の剛軟度とする。本発明のワイパーを構成する不織布のCD方向の剛軟度は、乾燥状態にて、0.5g〜4.0gであることが好ましく、1.0g〜3.0gであることがより好ましい。また、本発明のワイパーを構成する不織布のMD方向およびCD方向の剛軟度の総和は、乾燥状態にて、20g〜35gであることが好ましく、25g〜33gであることがより好ましい。不織布の剛軟度がこれらの数値範囲内にあるワイパーは、優れた柔軟性を有する。そのように柔軟なワイパーは、おしり拭きとして用いる場合には、肛門付近の複雑な形状によく追随して排泄物を良好に除去することを可能にする。
【0064】
次に、本発明のワイパーの製造方法を説明する。本発明のワイパーは、これを構成する不織布が低交絡部分と高交絡部分を有するように製造される。例えば、本発明のワイパーは、前記所定の繊維を含む繊維ウェブの表面全体に高圧水流を噴射して、分割型複合繊維を分割するとともに、繊維同士を交絡させ、その後、高圧水流を繊維ウェブの一部に噴射して、分割型複合繊維をさらに分割するとともに、繊維同士をさらに交絡させて高交絡部分を形成し、その後、分割型複合繊維を構成する熱接着成分のみが溶融する温度で熱処理を施すことにより、繊維同士の少なくとも一部を、熱接着成分によって熱接着する方法で製造することができる。繊維ウェブの表面全体に高圧水流を噴射することにより、低交絡部分が形成され、繊維ウェブの一部に高圧水流を噴射することにより、高交絡部分が形成されることとなる。
【0065】
繊維ウェブは構成繊維を混合して作製する。繊維ウェブの形態は、パラレルウェブ、クロスウェブ、セミランダムウェブおよびランダムウェブ等のカードウェブ、エアレイウェブ、湿式抄紙ウェブ、ならびにスパンボンドウェブ等から選択されるいずれの形態であってもよい。クロスウェブ、セミランダムウェブ、およびランダムウェブは、CD方向に配向した繊維をより多く含むため、ワイパーのCD方向の10%伸長時応力をより高くしやすい。CD方向の10%伸長時応力は、ワイパーの伸びやすさを示す指標の一つである。これが高いほどワイパーは伸びにくく、例えば、包装容器または包装袋から取り出すときにワイパーが伸びることがより防止され、低交絡部分が伸びて隠蔽性が低下することを防止できる。
【0066】
カードウェブを作製する場合、構成繊維の繊維長は25mm〜100mmとすることが好ましく、30mm〜70mmとすることがより好ましい。エアレイウェブを作製する場合、構成繊維の繊維長は1mm〜50mmとすることが好ましく、5mm〜30mmとすることがより好ましい。湿式抄紙ウェブを作製する場合、構成繊維の繊維長は0.5mm〜20mmとすることが好ましく、1mm〜10mmとすることがより好ましい。
【0067】
繊維ウェブは、低交絡部分における隠蔽性をより向上させるためには、均一なものであることが好ましく、具体的には、パラレルまたはセミランダムウェブであることが好ましく、パラレルウェブであることがより好ましい。
【0068】
低交絡部分および高交絡部分を形成するための水流交絡処理は、公知の方法で実施してよい。但し、2つの交絡部分における繊維同士の交絡の度合いが異なるように、低交絡部分の形成は、高交絡部分の形成と比較して、より弱い条件で実施される。低交絡部分は、繊維ウェブ全面に高圧水流を噴射して形成され、高交絡部分は高交絡部分を形成するべき部分にのみ高圧水流を噴射して形成される。即ち、高交絡部分においては、低交絡部分を形成するための水流交絡処理(以下、便宜的に「第1水流交絡処理」とも呼ぶ)が前処理的に実施されてから、高交絡部分を形成するための水流交絡処理(以下、便宜的に「第2水流交絡処理」とも呼ぶ)が実施される。そのような方法によれば、低交絡部分を形成すべき部分にのみ高圧水流を噴射する方法と比較して、低交絡部分と高交絡部分とを比較的容易に形成することができる。
【0069】
高圧水流処理条件の強さに影響するパラメータは、水流の水圧である。したがって、2段階で実施される水流交絡処理を水圧に差を設けて実施することにより、低交絡部分と高交絡部分の形成を比較的容易に実施することができる。例えば、他の条件が同じであるときには、第1水流交絡処理と第2水流交絡処理における水流の水圧の差は、1.5MPa〜4.5MPaとすることが好ましく、2.0MPa〜4.0MPaとすることがより好ましい。あるいは、2つの処理は、水圧の比(第2水流交絡処理の水圧/第1水流交絡処理の水圧)が好ましくは1.2〜2.5、より好ましくは1.4〜2.3となるように実施される。水圧の差が大きいほど、高交絡部分と低交絡部分との区別がより明りょうとなり、また、高交絡部分において模様を付す場合には模様をより鮮明にすることができる。
【0070】
具体的には、第1水流交絡処理は、ウェブを支持体の上に載せて、孔径0.05mm以上0.5mm以下のオリフィスが0.3mm以上1.5mm以下の間隔で設けられたノズルから、水圧1MPa〜6MPa以下の水流を繊維ウェブの一方の面の側から、または両方の面の側からそれぞれ、1〜4回ずつ噴射することにより実施してよい。水圧はより好ましくは1MPa以上5MPa以下である。ウェブの搬送速度は、搬送速度(m/分)に対する水圧(MPa)の比が0.01〜0.15となるように選択することが好ましい。ウェブを搬送する支持体は、無模様の低交絡部分を形成するときには、80〜100メッシュの平織の支持体であることが好ましい。
【0071】
あるいは、第1水流交絡処理は、高圧水によりウェブに印加されるエネルギー(E)の総和が20Wh/kg/m〜100Wh/kg/mとなるように、水圧、噴射回数および搬送速度等を選択して実施してよい。Eは、下記の式によって求められる。
E=W×N×T/(M×U×60)
E:1kg当たりの不織布に対し、1m幅当たりに1時間で印加するエネルギー(Wh/kg/m)
W:ノズル1孔当たりの流体の仕事率(W)
N:ノズルに1m幅当たりに開いているオリフィス数
T:噴射回数
M:高速水流処理対象の目付(g/m
2)
U:搬送速度(m/分)
上記式におけるW(ノズルの1オリフィス当たりの流体の仕事率)は、下記の式によって求められる。
W=P1×(F/100)×0.163)
W:ノズルの1オリフィス当たりの流体の仕事率(W)
P1:水圧(kgf/cm
2)
F:ノズルの1つのオリフィスから吐出される水の流量(cm
3/分)
EおよびWの決定方法についての詳細は、特許第4893256号公報に記載されている。
【0072】
第2水流交絡処理は、ウェブを支持体の上に載せて、孔径0.05mm以上0.5mm以下のオリフィスが設けられたノズルから、水圧5MPa〜10MPa以下の水流を繊維ウェブの一方の面の側から、または両方の面の側からそれぞれ、1〜4回ずつ噴射することにより実施してよい。水圧はより好ましくは6MPa以上9MPa以下である。ウェブの搬送速度は、搬送速度(m/分)に対する水圧(MPa)の比が0.01〜0.15となるように選択することが好ましい。支持体は、高交絡部分に付すべき模様等に応じて、平織り、杉綾織り、綾織り、およびスパイラル織り等のパターンネット、ならびに開口板から選択される。高交絡部分を無模様とする場合には、80〜100メッシュの平織りの支持体を用いることが好ましい。ノズルから水流が噴射される箇所は、高交絡部分を形成すべき部分に相当する箇所である。即ち、第1水流交絡処理により低交絡部分が形成された箇所に水流が当たらないようにオリフィスが配置されたノズルを、第2水流交絡処理において使用する。
【0073】
あるいは、第2水流交絡処理は、高圧水によりウェブ(より正確には高交絡部分)に印加されるエネルギー(E)の総和(第1水流交絡処理により印加されるエネルギーを含む)が50Wh/kg/m〜200Wh/kg/mとなるように、水圧、噴射回数および搬送速度等を選択して実施してよい。Eの求め方は先に説明したとおりである。
【0074】
第1および第2水流交絡処理が終了した後、低交絡部分および高交絡部分が形成された繊維ウェブから水分を除去するために乾燥処理が行われる。この乾燥処理を分割型複合繊維の熱接着成分のみが溶融する温度で実施して、乾燥処理と熱接着処理を同時に実施してよい。あるいは2つの処理は別々に実施してよい。
【0075】
熱接着処理において、熱接着成分以外の繊維成分が溶融すると、接着点が増える又は大きな接着点が形成されて、不織布の柔軟性が損なわれるので、熱接着成分のみが溶融するように、温度を選択する。例えば、分割型複合繊維がポリエチレンテレフタレート/ポリエチレン(ポリエチレンが熱接着成分)の組み合わせからなる場合、熱接着処理は、130℃〜150℃の温度で実施することが好ましい。熱処理温度を調節することによって、熱接着成分による熱接着の度合いを変化させることもできる。熱接着の度合いは、不織布の強度、柔軟性、および肌触り等に影響を与える。
【0076】
水流交絡処理後、熱接着処理の前に、必要に応じて、不織布を拡幅ロールによる拡幅処理に付してよい。拡幅処理を施すことにより、CD方向に向いた繊維の数を増やすことができ、ワイパーの10%伸長時応力を向上させることができる。
【0077】
熱接着処理により本発明のワイパーを構成する不織布が完成する。不織布には液体を含浸させてよく、その場合にはウェットタイプのワイパーが得られる。ウェットタイプのワイパーにおいて、液体の含浸量は用途等に応じて選択される。例えば、液体の含浸量は、不織布の乾燥質量を100質量部としたときに、100質量部〜300質量部であってよい。ウェットタイプのワイパーをおしり拭きとする場合には、液体の含浸量は100質量部〜250質量部であってよい。含浸させる液体はワイパーの用途等に応じて選択される。含浸させる液体は、例えば、おしり拭きの場合には、水を溶媒として、保湿剤(プロピレングリコール等)、防腐剤(メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン等)、殺菌剤(塩化ベンザルコニウム、アルコール等)から選択される1または複数の成分を配合した溶液であってよい。液体はさらに、肌あれ防止成分、香料、または増粘剤等を含んでよい。液体は、ワイパーの用途に応じて、有機溶媒、界面活性剤、クレンジング成分、および清涼剤等を含むものであってよい。
【0078】
本発明のワイパーをドライタイプのものとして提供する場合、不織布をそのままワイパーとしてよく、あるいは処理剤を付着させてよい。処理剤は、液体の形態で不織布に塗布して、乾燥させる方法で付着させてよい。
【0079】
本発明のワイパーは、対人用ワイパーとして特に有用であり、例えば、乳幼児用または成人用のおしり拭き、経血拭き、化粧落とし用シート、洗顔シート、汗拭きシート、およびネイルリムーバー等として使用できる。本発明のワイパーは特に、隠蔽性が要求される乳幼児用または成人用のおしり拭き、および経血拭き等、排泄物をぬぐうための対人用ワイパーとして好ましく使用される。
【0080】
あるいは、本発明のワイパーは、対物用ワイパーとして使用してよい。対物用ワイパーは、例えば、床、台所、トイレ、浴槽、家具、壁面、網戸および窓ガラス等の拭き掃除に用いられるものであってよい。
【実施例】
【0081】
以下、本発明を実施例により説明する。
本実施例で用いる繊維として下記のものを用意した。
【0082】
[親水性繊維] 繊度1.7dtex、繊維長40mmのビスコースレーヨン(着色剤として酸化チタンを繊維質量に対して0.5〜0.6質量%程度含む)(商品名CD ダイワボウレーヨン(株)製)
[ポリエステル繊維] 繊度1.45dtex、繊維長38mmのポリエチレンテレフタレートからなる繊維(商品名T402 東レ(株)製)
[分割型複合繊維] 繊度2.2dtex、繊維長51mmのポリエチレン/ポリエチレンテレフタレートの組み合わせから成る、分割数8の分割型複合繊維(分割により形成される繊維のうち最小の繊度を有するものの繊度は0.275dtex)(商品名DFS(SH) ダイワボウポリテック(株)製)
[芯鞘型複合繊維] 繊度2.2dtex、繊維長51mmの鞘/芯がポリエチレン/ポリエチレンテレフタレート(容積比1:1)である、芯鞘型複合繊維(商品名NBF(H) ダイワボウポリテック(株)製)
【0083】
[試料1]
親水性繊維40質量%、疎水性繊維としてのポリエステル繊維35質量%、分割型複合繊維25質量%を混合して、パラレルカード機を用いて、目付約35g/m
2のパラレルウェブを作製した。このウェブに、水流交絡処理を施して低交絡部分を形成した。水流交絡処理は、孔径0.08mmのオリフィスが0.6mm間隔で設けられたノズルを用いてウェブの一方の面に柱状水流を3回噴射し、他方の面に柱状水流を2回噴射して、高圧水により印加されるエネルギーの総和が62.20Wh/kg/mとなるように実施した。柱状水流の噴射は、ウェブを90メッシュの平織支持体の上に載せて実施した。
【0084】
次いで、高交絡部分を水流交絡処理により形成した。水流交絡処理は、孔径0.08mmのオリフィスが0.6mm間隔で設けられたノズルを用いて実施した。ウェブにおいて幅6mmの高交絡部分が20mmおきに形成されるように(即ち、20mm幅の低交絡部分と6mm幅の高交絡部分が縞状に形成されるように)、低交絡部分とすべき繊維ウェブの箇所と対向する箇所において、ノズルのオリフィスに栓をした。水流交絡処理は、ウェブの一方の面に、先の水流交絡処理で採用した水圧のうち最も高い水圧に対する比が1.67である水圧の柱状水流を1回噴射して実施した。使用した支持体は、線径が0.4mmの経糸および線径が0.8mmの緯糸を、織密度68/18(本/インチ)で、3/1杉綾織に織成してなる、ネット状物であった。この水流交絡処理は、高交絡処理部分において、高圧水により印加されるエネルギーの総和が114.06Wh/kg/m(先の水流交絡処理(低交絡部分形成)で用いたエネルギーを含む)となるように実施した。この水流交絡処理により、幅6mmの斜めストライプ模様の高交絡部分と、幅20mmの無模様の低交絡部分とが、繊維ウェブのCD方向において交互に位置し、MD方向に沿って延びる水流交絡不織布を得た。なお、高交絡部分の斜めストライプ模様は、支持体の杉綾のうち一方向の杉綾が大部分において現れて形成されたものであり、一部において支持体の杉綾織の形状がそのまま現れた杉綾織り模様(二方向の斜めストライプ模様)を含んでいた。
【0085】
低交絡部分と高交絡部分とが形成されたウェブを、温度140℃の熱処理に付し、乾燥処理と熱接着処理を同時に実施した。熱処理により、分割型複合繊維を構成するポリエチレンのみを溶融させて、ポリエチレンによって構成繊維同士を熱接着した。
【0086】
[試料2(比較)]
親水性繊維35質量%、ポリエステル繊維40質量%、芯鞘型複合繊維25質量%を混合して、パラレルカード機を用いて、目付約35g/m
2のパラレルウェブを作製した。このウェブに、水流交絡処理を施して繊維同士を交絡させた。水流交絡処理は、孔径0.08mmのオリフィスが0.6mm間隔で設けられたノズルを用いてウェブの一方の面に水圧2MPaの柱状水流を1回噴射し、他方の面に水圧3MPaの柱状水流を1回噴射して実施した。柱状水流の噴射は、ウェブを90メッシュの平織支持体の上に載せて、4m/分の速度で搬送して実施した。
【0087】
水流交絡処理後のウェブを、温度140℃の熱処理に付し、乾燥処理と熱接着処理を同時に実施した。熱処理により、芯鞘型複合繊維を構成するポリエチレンのみを溶融させて、ポリエチレンによって構成繊維同士を熱接着した。
【0088】
試料1および2の厚さ、引張強さ、伸度、10%伸長時応力、20%伸長時応力、および30%伸長時応力、および隠蔽性は、以下の方法に従って評価した。評価結果を表1および表2に示す。
【0089】
[厚さ]
厚み測定機(商品名 THICKNESS GAUGE モデル CR−60A (株)大栄科学精器製作所製)を用い、試料1cm
2あたり20gの荷重を加えた状態で測定した。
【0090】
[繊維密度]
不織布の断面を約80倍に拡大した電子顕微鏡写真から、荷重を加えていない状態の厚さを求め、目付を荷重を加えていない状態の厚さで除することにより繊維密度を求めた。
【0091】
[引張強さ、伸度、10%、20%および30%伸長時応力]
JIS L 1096 6.12.1 A法(ストリップ法)に準じて、定速緊張形引張試験機を用いて、試料片の幅5cm、つかみ間隔10cm、引張速度30±2cm/分の条件で引張試験に付し、切断時の荷重値、伸度、ならびに10%、20%および30%伸長時応力を測定した。引張試験は、不織布の縦方向(MD方向)および横方向(CD方向)を引張方向として実施した。湿潤状態の引張強さ等は、試料100質量部に対して、200質量部の水を試料に含浸させた状態で評価した。評価結果はいずれも3点の試料について測定した値の平均で示している。
【0092】
[剛軟度]
ハンドルオメータ(型式HOM−200 (株)大栄科学精器製作所製)を用いて、測定した。まず、20cm×20cm(MD×CD)である試験片を用意した。MD方向のハンドルオメータ値の測定に際しては、試験片のMD方向がスリット(幅10mm)と垂直となるようにセットし、スリットと平行な試料片の二つの辺のうち、一方の辺から6.7cmの位置をペネトレーターのブレードにて8mm押しこみ、このときの抵抗値を求めた。続いて、試験片を裏返し、スリットと平行な試験片の他方の辺から6.7cmの位置にて、抵抗値を求めた。CD方向のハンドロオメータ値の測定は、試験片のCD方向がスリットと垂直となるように試験片をセットし、スリットと平行な試料片の二つの辺のうち、一方の辺から6.7cmの位置の位置、および試料を裏返して、スリットと平行な試験片の他方の辺から6.7cmの位置にて、抵抗値を求めた。抵抗値の測定は各試料について2つの試験片について実施した。本実施例では、剛軟度として、各試験片について求めたCD方向の抵抗値の総和の平均値、および各試験片について求めたMDおよびCD方向の抵抗値の総和の平均値を求めた。
【0093】
[隠蔽性]
5cm×15cm(MD×CD)である試験片を用意した。試料100質量部に対して200質量部の水を試料に含浸させた。水を含浸させた試料を人体の前腕に貼りつけ、貼り付けた試料を通して人体の肌色がどの程度見えるかによって、隠蔽性を評価した。評価基準は以下の通りである。
評価○:試料を貼った部分が全体的に白く見え、肌の色は薄く透けて見える。
評価△:試料を貼った部分は全体的に白く見えるが、肌の色が所々で濃く透けて見える。
評価×:試料を貼った部分が全体的に肌色に見える。
【0094】
【表1】
【0095】
表1に示すように、2つの試料において引張強さ、伸度、10%、20%および30%伸長時応力に顕著な差は見られなかった。試料1は、低交絡部分の占める割合が多く、繊維同士の交絡の度合いは全体として試料2よりも低いが、高交絡部分によって機械的強度が確保されていると考えられる。また、試料1のMD方向およびCD方向の10%および20%伸長時応力は、試料2のそれらよりも高かった。これは高交絡部分が存在することによるものであると考えられる。即ち、試料1の高交絡部分における繊維の交絡の度合いは試料2におけるそれよりも高いため、小さい伸長率では試料1の応力がより高いものと考えられる。尤も、高交絡部分が不織布に占める割合が小さいために、より高い伸長率では、全体として繊維同士の交絡の度合いが高い試料2が大きい応力を示していると考えられる。
【0096】
試料1は、MD方向およびCD方向のどちらにおいても、試料2よりも小さい剛軟度を示し、より柔軟であった。即ち、本発明品である試料1は不織布の柔軟性に寄与するポリエステル繊維の割合が小さいにもかかわらず、試料2と比較して柔軟性が高かった。これは、熱接着成分を分割型複合繊維の一成分とし、分割型複合繊維の分割により形成された細い繊維によって繊維同士が熱接着されていることによると考えられる。
【0097】
また、先に説明した方法に従って、試料1において、低交絡部分および高交絡部分の分割型複合繊維の分割率を測定した。分割率は5点の試料について測定した値の平均値である。結果を下記のとおりである。
低交絡部分:10.16%
高交絡部分:21.10%
【0098】
このように、2つの交絡部分においては分割型複合繊維の分割率に顕著な差が生じた。これは水流交絡処理の条件が異なることによる。また、表1に示すように、また、高交絡部分においては、分割型複合繊維が分割して形成された、3〜4個のセクションからなる繊維が多数存在していた。そのような繊維は分割していない繊維としてカウントされるものの、高交絡部の機械的強度の向上に寄与していると考えられる。