(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6246510
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】無線通信システム、無線通信装置、主調停装置及び無線通信方法
(51)【国際特許分類】
H04W 72/04 20090101AFI20171204BHJP
H04W 84/18 20090101ALI20171204BHJP
H04W 40/24 20090101ALI20171204BHJP
【FI】
H04W72/04 131
H04W84/18
H04W40/24
【請求項の数】19
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-137370(P2013-137370)
(22)【出願日】2013年6月28日
(65)【公開番号】特開2015-12513(P2015-12513A)
(43)【公開日】2015年1月19日
【審査請求日】2016年3月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100189913
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜飼 健
(72)【発明者】
【氏名】中谷 博司
(72)【発明者】
【氏名】森 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】大西 直哉
(72)【発明者】
【氏名】高仲 徹
(72)【発明者】
【氏名】鮫田 芳富
(72)【発明者】
【氏名】落合 信
【審査官】
深津 始
(56)【参考文献】
【文献】
小原誠、松野浩嗣,「スロットの並行割当てを行う新しい自律分散型TDMA放送計画アルゴリズム」,電子情報通信学会論文誌,日本,社団法人電子情報通信学会,2003年 6月 1日,第J86-B巻、第6号,第919-930ページ
【文献】
齋藤健太郎、中山雅哉,「無線メッシュネットワーク向けTDMAベース帯域予約方式における、フロー間の干渉関係を考慮したスロット割り当て方式」,電子情報通信学会技術研究報告,日本,社団法人電子情報通信学会,2006年11月 9日,第106巻、第358号,第91〜96ページ
【文献】
Imand Jawhar, Jie Wu ,"A dynamic range resource reservation protocol for QoS support in wireless networks",Computer Systems and Applications, 2005. The 3rd ACS/IEEE International Conference on ,2005年 6月 6日,URL,http://ieeexplore.ieee.org/document/1387059/
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24 −H04B 7/26
H04W 4/00 −H04W 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチホップ型無線ネットワークを構築する複数の無線通信装置を具備し、
前記複数の無線通信装置の各々は、
前記マルチホップ型無線ネットワークにおける無線通信経路を把握する手段と、
自装置の電波到達範囲に存在する他の無線通信装置の存在を確認する影響範囲確認部と、
前記無線通信経路を介して伝達される時間割情報の空き時間帯に、前記他の無線通信装置の存在の確認の結果に基づいて、自装置の送受信タスクを追記する時間割追記部と、
前記複数の無線通信装置間で共有された前記時間割情報において自装置に割り当てられた時間帯で前記送受信タスクを実行する通信制御部とを具備する、無線通信システム。
【請求項2】
前記複数の無線通信装置のうち1つは、制御装置を含む外部システムとの接続インタフェースを備える主調停装置である、請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項3】
前記主調停装置は、前記マルチホップ型無線ネットワークにおいて装置番号が一番若い無線通信装置に設定される、請求項2に記載の無線通信システム。
【請求項4】
前記時間割追記部は、前記他の無線通信装置の存在の確認の結果に基づいて、前記時間割情報の空き時間帯でない時間帯に自装置の送受信タスクをさらに追記する、請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項5】
前記時間割追記部は、前記時間割情報の空き時間帯でない時間帯に自装置の送受信タスクを、通信衝突が起こり得ないように追記する、請求項4に記載の無線通信システム。
【請求項6】
前記主調停装置は、前記時間割情報の満たすべき最大更新周期を入力する最大更新周期入力部をさらに備え、
前記主調停装置の前記通信制御部は、前記時間割情報の総所要時間が前記入力された最大更新周期を上回るか否かを判定し、
前記主調停装置の前記時間割追記部は、前記時間割情報の総所要時間が前記入力された最大更新周期を上回ると判定された場合に、前記時間割情報の空き時間帯でない時間帯に自装置の送受信タスクをさらに追記する、請求項2に記載の無線通信システム。
【請求項7】
前記主調停装置の前記時間割追記部は、前記時間割情報の総所要時間が前記入力された最大更新周期を上回ると判定された場合に、前記時間割情報の総所要時間が前記最大更新周期を下回るまで、前記時間割情報の空き時間帯でない時間帯に自装置の送受信タスクをさらに追記する、請求項6に記載の無線通信システム。
【請求項8】
他の無線通信装置とマルチホップ型無線ネットワークを構築する手段と、
前記マルチホップ型無線ネットワークにおける無線通信経路を把握する手段と、
自装置の電波到達範囲に存在する他の無線通信装置の存在を確認する影響範囲確認部と、
前記無線通信経路を介して伝達される時間割情報の空き時間帯に、前記他の無線通信装置の存在の確認の結果に基づいて、自装置の送受信タスクを追記する時間割追記部と、
前記複数の無線通信装置間で共有された前記時間割情報において自装置に割り当てられた時間帯で前記送受信タスクを実行する通信制御部とを具備する、無線通信装置。
【請求項9】
前記時間割追記部は、前記他の無線通信装置の存在の確認の結果に基づいて、前記時間割情報の空き時間帯でない時間帯に自装置の送受信タスクをさらに追記する、請求項8に記載の無線通信装置。
【請求項10】
前記時間割追記部は、前記時間割情報の空き時間帯でない時間帯に自装置の送受信タスクを、通信衝突が起こり得ないように追記する、請求項9に記載の無線通信装置。
【請求項11】
他の無線通信装置とマルチホップ型無線ネットワークを構築する手段と、
前記マルチホップ型無線ネットワークにおける無線通信経路を把握する手段と、
自装置の電波到達範囲に存在する他の無線通信装置の存在を確認する影響範囲確認部と、
前記無線通信経路を介して伝達される時間割情報の空き時間帯に、前記他の無線通信装置の存在の確認の結果に基づいて、自装置の送受信タスクを追記する時間割追記部と、
前記複数の無線通信装置間で共有された前記時間割情報において自装置に割り当てられた時間帯で前記送受信タスクを実行する通信制御部と、
制御装置を含む外部システムとの接続インタフェースとを具備する、主調停装置。
【請求項12】
前記マルチホップ型無線ネットワークにおいて装置番号が一番若い無線通信装置に設定される、請求項11に記載の主調停装置。
【請求項13】
さらに、前記時間割情報の満たすべき最大更新周期を入力する最大更新周期入力部をさらに備え、
前記通信制御部は、前記時間割情報の総所要時間が前記入力された最大更新周期を上回るか否かを判定し、
前記時間割追記部は、前記時間割情報の総所要時間が前記入力された最大更新周期を上回ると判定された場合に、前記時間割情報の空き時間帯でない時間帯に自装置の送受信タスクをさらに追記する、請求項11に記載の主調停装置。
【請求項14】
前記時間割追記部は、前記時間割情報の総所要時間が前記入力された最大更新周期を上回ると判定された場合に、前記時間割情報の総所要時間が前記最大更新周期を下回るまで、前記時間割情報の空き時間帯でない時間帯に自装置の送受信タスクをさらに追記する、請求項13に記載の主調停装置。
【請求項15】
マルチホップ型無線ネットワークを構築する複数の無線通信装置を具備する無線通信システムに用いられる無線通信方法であって、
前記複数の無線通信装置の各々が、
前記マルチホップ型無線ネットワークにおける無線通信経路を把握し、
自装置の電波到達範囲に存在する他の無線通信装置の存在を確認し、
前記無線通信経路を介して伝達される時間割情報の空き時間帯に、前記他の無線通信装置の存在の確認の結果に基づいて、自装置の送受信タスクを追記し、
前記複数の無線通信装置間で共有された前記時間割情報において自装置に割り当てられた時間帯で前記送受信タスクを実行する、無線通信方法。
【請求項16】
前記複数の無線通信装置の各々は、前記他の無線通信装置の存在の確認の結果に基づいて、前記時間割情報の空き時間帯でない時間帯に自装置の送受信タスクをさらに追記する、請求項15に記載の無線通信方法。
【請求項17】
前記複数の無線通信装置の各々は、前記時間割情報の空き時間帯でない時間帯に自装置の送受信タスクを、通信衝突が起こり得ないように追記する、請求項16に記載の無線通信方法。
【請求項18】
前記複数の無線通信装置のうち特定の1つが、
前記時間割情報の満たすべき最大更新周期を前記時間割情報の総所要時間が上回るか否かを判定し、
前記時間割情報の総所要時間が前記最大更新周期を上回ると判定された場合に、前記時間割情報の空き時間帯でない時間帯に自装置の送受信タスクをさらに追記する、請求項15に記載の無線通信方法。
【請求項19】
前記時間割情報の総所要時間が前記最大更新周期を上回ると判定された場合に、前記複数の無線通信装置のうち特定の1つが、前記時間割情報の総所要時間が前記最大更新周期を下回るまで、前記時間割情報の空き時間帯でない時間帯に自装置の送受信タスクをさらに追記する、請求項18に記載の無線通信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、マルチホップ無線ネットワークを構築して無線通信を行う無線通信システム、無線通信装置、
主調停装置及び無線通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信装置同士が直接通信するだけでなく、他の無線通信装置を経由することで、より広い範囲の無線通信装置と通信出来るマルチホップ無線ネットワークが知られている。このマルチホップ無線ネットワークにおいて、個々の無線通信装置が独自のタイミングで無線送信を行う場合、送信時間が偶然一致した際に通信の衝突が起き、正常に送受信を行う事が出来ず、再送が必要となる。この通信の衝突を防ぐための技術として、時間割同期通信方式が知られている。
【0003】
この時間割同期通信方式では、通信に参加する無線通信装置同士が事前に取り決めた時間帯にのみ送信または受信を行うことで、同一ネットワーク内の無線通信装置同士の通信衝突を避ける事が可能となり、通信衝突時の再送に伴う突発的な通信所要時間の延長を抑える事が出来る。この特徴により、データの最大更新周期に制約がある制御システム用無線ネットワークなどの分野で、時間割同期通信方式の適用が進んでいる。
【0004】
時間割同期通信方式の一例として、特許文献1がある。特許文献1には、固定長の割当て時間帯に送受信タイミングを合わせて通信を行うことで、無線通信装置間で衝突の無い同期通信を可能とすると共に、送受信部を必要な時間帯のみ起動させておく事で、電力消費量を低減させることが可能な技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−176888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、時間割同期通信方式のネットワーク全体で使用可能な無線チャネル(無線通信帯域)が一つの帯域に限定される場合、一つのマルチホップ無線ネットワーク全体では一つの時間割を共用する必要がある。この条件では、マルチホップ無線ネットワークの時間割が一周する所要時間(1周期時間と称す)には、「1周期時間=ネットワークの総送受信タスク数×割当て用単位時間」の関係が成り立つ。ネットワーク上の通信データは1周期時間ごとに更新される為、データ更新周期=1周期時間となる。
【0007】
ここで、無線通信装置が広域に分散したネットワークでは、相互に遠方に位置する無線通信装置が同時に送信を行っても、通信衝突が起こり得ない構成が存在する。しかし上記のような従来の時間割同期通信方式では、互いに通信衝突が起こり得ない構成に於いても、各装置は同一時間に送信を行わないため、1周期時間が装置台数に比例して長くなる問題がある。
【0008】
本実施形態の目的は、ネットワーク内の通信衝突を回避した送受信スケジュールを自律的に作成でき、無線通信装置が広域に分散した構成においては、通信周期を短縮する事ができる無線通信システム、無線通信装置、
主調停装置及び無線通信方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本実施形態に係る無線通信システムは、複数の無線通信装置がマルチホップ無線ネットワークを構築し、一定の周期で無線通信を行うシステムであって、前記無線通信装置は、アンテナを介して無線信号の送受信を行う無線部と、前記無線信号の送受信を許可する時間帯を示す時間割情報を記憶する記憶部と、前記時間割情報に従って前記無線信号の送受信を制御する通信制御部と、前記複数の無線通信装置間で前記時間割情報を共有し、前記時間割情報の空き時間帯に当該無線通信装置の送受信タスクを割当て追記する時間割追記部とを具備する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る無線通信システムの構成例を示す図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態に係る無線通信装置の機能ブロック図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態に係る無線通信装置(主調停装置)の機能ブロック図である。
【
図4A】
図4Aは、本無線通信システムと外部システムとの接続例を示す図である。
【
図4B】
図4Bは、外部システムのネットワーク構成例を示す図である。
【
図6】
図6は、無線通信装置Aまで割当済みの時間割情報を示す図である。
【
図7】
図7は、無線通信装置Aの影響下装置の情報を加えた時間割情報を示す図である。
【
図8】
図8は、無線通信装置Cまで割当済みの時間割情報を示す図である。
【
図9】
図9は、無線通信装置Cの影響下装置の情報を加えた時間割情報を示す図である。
【
図10】
図10は、無線通信装置Dまで割当済みの時間割情報を示す図である。
【
図11】
図11は、第2実施形態に係る無線通信装置(主調停装置)の機能構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら本実施形態に係る無線通信システム、無線通信装置、
主調停装置及び無線通信方法を説明する。
【0012】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る無線通信システムの構成例を示す図である。この無線通信システムは、複数の無線通信装置A〜Jによるマルチホップ無線ネットワークとして構成される。
図1に示すように、各無線通信装置は、互いの電波到達範囲内に存在する無線通信装置同士で、自律的に無線通信経路を構築する。ここでは、この無線通信システムを構成する無線通信装置B〜Jは、後述の無線通信装置10で構成され、無線通信装置Aは、後述の無線通信装置10Aで構成され主調停装置として動作するものとする。なお、
図1は、ネットワーク構造的には無線通信装置Aを中心としたツリー型トポロジーを示しているが、ツリー型以外にも各無線通信装置A〜Jが複数の通信経路で互いに接続されたメッシュ型トポロジーを構成しても良い。
【0013】
図2は、無線通信装置10の機能ブロック図である。無線通信装置10は、無線部11と、制御部12と、時間割記憶部13と、計時部14と、アンテナ部15とを有する。マルチホップ型の無線ネットワークを自律的に構築する無線ネットワーク構築機能は、制御部12に内包されている構成としても良いし、無線通信装置10内の他の箇所に備わる構成としても良い。
【0014】
無線部11は、アンテナ部15を介して、自装置の電波到達範囲内に存在する他の無線通信装置との間で無線信号の送受信を行う。時間割記憶部13は、無線信号の送受信タスクの実行タイミングを示す時間割情報を記憶する。時間割情報は、このシステムに属する無線通信装置間で共用される。計時部14は、無線信号の送受信タスクの実行タイミングの制御に用いる基準時間を生成する。
【0015】
制御部12は、通信制御部121と、影響範囲確認部122と、時間割追記部123とを含む。通信制御部121は、上記時間割情報に登録された全送受信タスクの実施に必要な1周期時間を管理する。影響範囲確認部122は、自装置の電波到達範囲に存在する他の無線通信装置の存在を確認するために、無線通信装置間で通信を行い、影響装置の情報を取得する。また、各無線通信装置で得られた影響装置の情報は、無線ネットワーク構築機能による無線通信装置間通信により、時間調停の実施前に全無線通信装置で共用される。時間割追記部123は、全無線通信装置で共用される上記影響装置の情報をもとに、時間割情報へ送受信タスクを割当てる時間帯を追記する。
【0016】
図3は、主調停装置として動作する無線通信装置10Aの機能ブロック図である。無線通信装置10Aは、無線通信装置10の構成と同様に、無線部11と、制御部12と、時間割記憶部13と、計時部14と、アンテナ部15とを有し、さらに、主調停装置設定部16と、外部ネットワーク部17とを有する。
【0017】
主調停装置設定部16は、物理的スイッチや自装置外との通信手段を含む機能として実装され、主調停装置として設定された無線通信装置10Aは、本システムの時間調停手順の主調停装置として動作する。また、時間調停手順の主調停装置として動作する無線通信装置10Aは、無線通信装置同士の通信により、例えば装置番号が一番若い無線通信装置に設定されるなどの一定のルールで、主調停装置設定部16などの人為的操作を伴わず自律的に設定されるとしても良い。
【0018】
外部ネットワーク部17は、本システム外との接続インタフェースである。無線通信装置10Aは、この外部ネットワーク部17を有することで、システム内とシステム外とのデータ送受信のゲートウエイとしても機能する。
【0019】
図4Aに、本システムとシステム外との関係を示す。システム外の要素として外部ネットワーク30と、外部ネットワーク30を経由して本システムと接続される外部システム40とがある。外部ネットワーク30は、主調停装置として動作する無線通信装置10Aを介して本システムと接続される。
【0020】
図4Bは、外部システム40と本システムとのネットワーク構成例を示したものである。
図4Bに示すように、外部システム40は1つ以上の制御装置を含むことができる。このようなマルチホップ無線ネットワークは、例えば、社会インフラ分野の制御システム用途に用いることができる。各無線通信装置A〜Jには例えば、センサやモータなどの入出力装置が接続される。例えば、外部システム40の各制御装置は、外部ネットワーク30を経由して無線通信装置A〜Jからセンサ情報を収集し、このセンサ情報に基づいて、モータなどを制御するための制御信号を外部ネットワーク30を経由して無線通信装置A〜Jに送信することができる。
【0021】
次に、このように構成される無線通信システムの時間調停手順について説明する。無線通信装置10,10Aは、無線通信装置間で共用する時間割情報上に、各無線通信装置の送受信タスクを埋め込む時間調停手順により、通信衝突の無い無線通信を行う。
【0022】
図5に、時間割情報の一例を示す。時間割情報50は、本システムに属する無線通信装置10,10Aが共用する、送受信タスクの実行タイミングを示している。個々の送受信タスクは、時間割情報50中の時間帯51でそれぞれ実施される。別々の時間帯51に割当られた送受信タスクは、互いの無線通信に影響を与えない。
【0023】
また各無線通信装置10,10Aは、無線ネットワーク構築機能により構築された無線通信経路を、時間調停が実施される前に、無線ネットワーク構築機能による無線通信装置間通信により把握している。特に主調停装置として動作する無線通信装置10Aは、無線ネットワーク中の全ての無線経路を把握している。例えば、
図1において、無線通信装置Aは、無線通信装置B、C、及びDとそれぞれ無線通信が可能である事を把握しており、また無線通信装置Dの先には無線通信装置E、F、及びIが接続されている事を把握している。
【0024】
時間調停手順においては、先ず、主調停装置として動作する無線通信装置10Aが時間割情報50に対する時間帯51の割当てを実施する。無線通信装置Aの時間割追記部123は、自装置が時間帯を割当てる必要のある、自装置との無線通信経路を有する無線通信装置B、C、及びDとの送受信タスクを、時間割情報中の未割当の時間帯に割当てていく。
【0025】
図6は、未割当の時間帯に、無線通信装置Aが割当てる必要のある送受信タスクである、無線通信装置Aと無線通信装置B、C、Dとの間の送受信タスクを割当て終わった状態を示す。ここで無線通信装置Aは、時間割情報50の中に、送受信タスクだけでなく、各送受信タスクに影響を受ける無線通信装置10(以下、影響下装置と称する)の情報を加えてもよい。
【0026】
図7に、影響下装置の情報を加える場合の時間割情報の一例を示す。
図7の時間割情報50は、各時間帯51に割当られた送受信タスクに対し、影響下装置の情報52が追加されている。例えば、左端から2番目の送受信タスクA→Cに対しては、
図1において、送信側装置A及び、受信側装置Cの電波到達範囲内にある無線通信装置の情報が記載される。例えば、無線通信装置Aからの送信時に無線送信の影響を受ける(同じタイミングで送信する場合に通信衝突となる、又は、同じタイミングで受信する場合に無線通信装置Aからの電波を受信する事になる)無線通信装置B、C、D、及びE、並びに、無線通信装置Cの受信時に無線受信に影響を及ぼし得る(同じタイミングで送信する場合に通信衝突となる、又は、同じタイミングで受信する場合に無線通信装置Cからの電波を受信する事になる)無線通信装置A、H、及びGの全てが、影響下装置の情報52として、時間割情報に登録される。
【0027】
影響下装置の情報52を登録する手順について説明する。各無線通信装置10の制御部12の影響装置確認部122は、
図1における電波到達範囲内に存在する他の無線通信装置10を確認するために、無線通信装置10間で通信を行う。送信側装置10の影響装置確認部122から発信された所在通知信号を受けた他の無線通信装置10は、自装置の影響装置確認部122により、発信元装置の情報(影響装置の情報)を登録する。また、各無線通信装置10に備えられた影響装置の情報は、無線ネットワーク構築機能による無線通信装置間通信により、時間調停の実施前に全無線通信装置で共用される。無線通信装置Aの時間割追記部123は、全無線通信装置で共用される上記影響装置の情報をもとに、上述する送信時及び受信時の影響下装置の情報52を追加する事が出来る。
【0028】
次に、主調停装置として動作する無線通信装置10Aは送受信タスクの割当を終えると、自装置との無線通信経路を有する無線通信装置に対して時間割情報を伝達する。そして、伝達された各無線通信装置は、時間割情報に対して、自装置が割当てる必要のある送受信タスクの追加割当を行う。そして割当て後に、割当済みの時間割情報を、無線通信装置10Aに対して返送する。
【0029】
図1の例では、無線通信装置Aが時間割情報へ送受信タスクの割当てを終えると、無線通信装置Bに対して時間割情報を伝達する。ここで、無線通信装置Bの時間割追記部123は、割当てる必要のある送受信タスクA→B、B→Aが既に登録済みである事を把握し、時間割情報を時間割記憶部13に記憶すると共に、時間割情報をAに返送する。
【0030】
次に、無線通信装置Aは無線通信装置Cに対して時間割情報を伝達する。
図8に示すように、無線通信装置Cの時間割追記部123は、送受信タスクA→C、C→Aが既に時間割情報に登録されている事を把握し、まだ登録されていない送受信タスクC→H、H→C、C→G、G→Cをそれぞれ時間割情報の空き時間帯に追記する。また、
図9に、無線通信装置Cの影響下装置の情報を加えた時間割情報を示す。そして、無線通信装置Cは、時間割情報を時間割記憶部13に保存すると共に、追記した時間割情報を無線通信装置Aに返送する。
【0031】
このようにして、主調停装置として動作する無線通信装置10Aは、自装置との無線通信経路を有する無線通信装置に対し、自装置との接続順に時間割情報を各無線通信装置に伝達し、各無線通信装置において時間割情報への送受信タスクの割当を進めていく。
図1の例では、最後に無線通信装置Gによる時間割情報の追記が完了すると、ネットワーク末端の無線通信装置E、F、H、I、Jの送受信タスクは全て割当済みとなり、システム全体の時間割情報が完成する。時間割情報の完成後、システムに属する無線通信装置10は、時間割情報に記載された時間帯に自信に関連する送受信タスクが登録されていると、関連する送受信処理を行う。以上の仕組みで、システム内で衝突の無い無線通信を実現する。
【0032】
ここで、無線通信装置10の時間割追記部123は、時間割情報への送受信タスク割当ての際に、既に送受信割当済みの同一時間帯に対し、影響下装置の情報52に関連しない送受信タスクを重畳して割当てる事が可能である。この場合の割当て手順について
図9を用いて説明する。
【0033】
図9は、無線通信装置Cまで割当てが終わった時間割情報を示している。ここで、無線通信装置Dに対して時間割情報が伝達される。無線通信装置Dは、送受信タスクA→D、及びD→Aが既に時間割情報に登録されている事を把握し、まだ登録されていない送受信タスクD→E、E→D、D→F、F→D、D→I、及びI→Dをそれぞれ時間割情報に登録する。ここで、無線通信装置Dの時間割追記部123は、送受信タスクD→E(送信側装置D,受信側装置E)が影響下装置の情報52に記載されていない時間帯51を、時間割情報から検索する。結果、C→H、H→C、C→G、及びG→Cの4つの時間帯は、影響下装置の情報52に、無線通信装置D、及びEのいずれも登録されていない事を検出する。これは、当該時間帯にタスクD→Eを同時に実施しても、互いの無線通信が互いに影響しない事を示す。同様に
図1においても、無線通信装置Dと無線通信装置Eの無線伝搬範囲が、無線通信装置C、H、及びGと全く重ならない事で表現されている。
【0034】
そこで、無線通信装置Dは、4つの時間帯C→H、H→C、C→G、及びG→Cのうち何れか1箇所に、送受信タスクD→Eを重畳して割当てる事が可能である。重畳して割当てた場合、時間割追記部123は、影響下装置の情報52を、重畳割当ての結果に従い修正する。
図10に、無線通信装置Dまで割当てが完了した時間割情報を示す。
図10では、
図9に対し、4つの時間C→H、H→C、C→G、及びG→Cに送受信タスクが重畳配置され、該当時間帯の影響下装置の情報52が追加されている事が分かる。
【0035】
以上述べたように、第1実施形態によれば、定周期無線通信システムにおける、自律的に時間割を作成する手順において、互いに衝突しない関係にある送受信を無線通信装置同士が把握する事で、通信衝突を回避した送受信スケジュールを作成出来る。さらに、無線通信装置に影響範囲確認部を備え、時間割情報に通信影響下装置の情報を含む事で、複数の送受信タスクを同一の時間帯に重畳させた送受信スケジュールを作成できる。これにより、重畳させない場合と比べて全送受信タスクの実施に必要な1周期時間を短縮することが可能となる。したがって、ネットワーク内の通信衝突を回避した送受信スケジュールを自律的に作成でき、無線通信装置が広域に分散した構成においては、通信周期を短縮する事ができる無線通信システムが実現できる。
【0036】
(第2実施形態)
図11に示す第2実施形態の無線通信装置(主調停装置)10Aは、
図3の構成に加えて、最大更新周期入力部124を備える。最大更新周期入力部124は、自装置外との通信手段を含む機能として、時間割情報に登録された全送受信タスクの実施に必要な1周期時間の制約条件となる、最大更新周期を自装置外から入力する機能である。
【0037】
以上の構成において、主調停装置である無線通信装置10Aの通信制御部121は、時間割情報に登録された全送受信タスクの実施に必要な1周期時間と最大更新周期とを比較し、割当ての結果生成された時間割情報による1周期時間が、設定された最大更新周期を上回るか否かを判定する。
【0038】
また、第1実施形態で述べた様に、主調停装置である無線通信装置10Aは、無線ネットワーク構築機能により全ての無線通信経路を把握している。時間割作成の際に同一時間帯への重畳を行わない場合、1周期時間には「1周期時間=ネットワークの総送受信タスク数×割当て用単位時間」の関係が成り立つため、主調停装置として動作する無線通信装置10Aは、重畳割当てを行わない場合の1周期時間が、設定された最大更新周期を上回るか否かを、時間割情報作成の前に判定可能である。
【0039】
第2実施形態では、各無線通信装置10における時間割情報への送受信タスク割当ての際に、重畳無しの1周期時間が最大更新周期を上回ると予想される場合に、送受信タスクの重畳割当を行い、上回らない場合に重畳割当を行わない構成とすることができる。重畳割当の実施有無の判断は、主調停装置として動作する無線通信装置10Aからの時間割情報受信の際に、無線通信装置10Aによる判断の結果として重畳割当実施指令を受信しても良いし、各無線通信装置が把握している無線通信経路および時間割情報とから、重畳割当の実施可否を判断しても良い。
【0040】
以上述べたように、第2実施形態によれば、システムに最大更新周期の制約が存在する場合にも、全送受信タスクの実施に必要な1周期時間が最大更新周期を下回るまで、時間割情報の同一時間割に複数の送受信タスクを割当てる事により、最大更新周期を下回りかつ衝突の無い通信を行うことが可能となる。これにより、最大更新周期の制約が存在するマルチホップ無線ネットワークにおいて、マルチホップ無線ネットワークへの参加装置数を減らす事なく、制約を満たす時間割を自動作成し通信を行える定周期無線通信システムを提供することが可能となる。
【0041】
なお、いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0042】
10…無線通信装置、10A…無線通信装置(主調停装置)、11…無線部、12…制御部、13…時間割記憶部、14…計時部、15…アンテナ部、16…主調停装置設定部、17…外部ネットワーク部、121…通信制御部、122…影響範囲確認部、123…時間割追記部、124…最大更新周期入力部。