(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記樹脂成分が前記ペースト加工用塩化ビニル樹脂と他の塩化ビニル樹脂を含有し、さらに前記樹脂成分に対し、スルホン酸系界面活性剤が1.2重量%以上含むことを特徴とする請求項1に記載の抗ウイルス性壁紙。
前記樹脂層の前記基材層とは反対の面にトップコート層を有し、表面強化壁紙性能規定に準拠した試験に於いて4級以上を有する請求項1乃至5のいずれか1項に記載の抗ウイルス性壁紙。
【背景技術】
【0002】
厚生労働省の鳥インフルエンザ(H5N1)発生国及び人での確定症例によると、2003年11月以降、アジア、欧州、中東、アフリカ等の広い地域に於いて高病原性鳥インフルエンザが発生している。鳥インフルエンザの感染は家禽類間だけでなく、家禽類から霊長類への感染も確認されており、殊にヒトに関してはこれまでに600余名が感染し、内350名以上が死亡している。さらに鳥インフルエンザウイルスは人インフルエンザウイルスとの交雑によって、或いはそれ単独でも変異し、強毒化し得る危険性をはらんでいる。
そのため、ウイルスを迅速に不活化できる技術や製品が渇望されている。中でもウイルスと接触することが予測される医療施設などに使用される建築用内装材においては、ウイルスの不活化が特に望まれており、殊に施工面積の大半を占める壁紙に対する抗ウイルス性の切望は大きい。
【0003】
壁紙には、塩化ビニル樹脂等の塩化ビニル系樹脂やオレフィン系樹脂が多く用いられている。特に塩化ビニル系樹脂は安価で諸物性に優れ、表面に微細な凹凸を形成するエンボス加工を施すことでさらに意匠性を付与できることから専ら採用されている。
【0004】
扨て、下記特許文献1では繊維に抗ウイルス性を付与するものとして、金属イオンを担持したビニル―マレイン酸共重合高分子を用いる方法が提案されている。しかし乍らこの発明をポリ塩化ビニル系樹脂から成る壁紙に適用する技術については示されていない。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の抗ウイルス性壁紙は、予めスルホン酸系界面活性剤を1.2重量部以上含むペースト加工用塩化ビニル樹脂を樹脂成分として含む樹脂層と基材層とを備えることが肝要である。壁紙の製造工程において、ペースト加工用塩化ビニルと、可塑剤や充填剤、安定剤及び発泡剤等を混合してゾルを作製する過程があるが、スルホン酸系界面活性剤は可塑剤に不溶であるため、この過程で混合するとゾル中の分散性が悪く、製品にスジなどの外観不良を引き起こし美観を損ねる。
他方、スルホン酸系界面活性剤は水溶性である。また、乳化重合またはシード乳化重合でペースト加工用塩化ビニル樹脂を製造する際に、重合後の中間体的形態として水を溶媒とするラテックスが得られる。したがって、このラテックスにスルホン酸系界面活性剤を添加することで、スルホン酸系界面活性剤が塩化ビニル樹脂中へ良好に分散される。このように、スルホン酸系界面活性剤を重合後のラテックスに添加することで、重合条件に影響を与えることなく所望の性状を有するペーストポリ塩化ビニル樹脂が得られる。斯かる手法で得られた予めスルホン酸系界面活性剤を含有したペースト加工用塩化ビニル樹脂を用いることで、美観を損ねることなく壁紙を得ることができる。
【0011】
本発明に用いるペースト加工用塩化ビニル樹脂の原体となる塩化ビニル樹脂としては、特に制限されないが、例えば重合度が600〜3000のものを好適に用いることができる。
【0012】
本発明に用いるスルホン酸系界面活性剤としては、例えばアルキルベンゼンスルホン酸系化合物、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸系化合物、アルキルナフタレンスルホン酸系化合物、アルキル硫酸エステル系化合物、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル系、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物系化合物等が挙げられる。この中でも抗ウイルス性に優れるとの観点からアルキルベンゼンスルホン酸系化合物、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸系化合物、アルキルナフタレンスルホン酸系化合物が好ましく、特に抗ウイルス性に優れるアルキルベンゼンスルホン酸系化合物がより好ましい。
本発明で用いるスルホン酸系界面活性剤において、スルホン酸基は例えばインフルエンザウイルスのノイライミダーゼとの親和性が高く、阻害作用を現すことができる。また官能基の構造はノイライミダーゼへの接近に関して影響を示し、嵩高くなく立体障害を受け難い構造が肝要となる。その点において、アルキルベンゼンスルホン酸系界面活性剤は好適であり、特にドデシルベンゼンスルホン酸が好ましい。
さらに、上記のスルホン酸系界面活性剤としては、スルホン酸塩系界面活性剤が好ましく、具体的にはナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム、バリウム等のアルカリ土類金属塩を好適に用いることができる。特にドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(DBS)が好ましい。
また、複数のスルホン酸系界面活性剤を抗ウイルス性が阻害されない限りにおいて添加してもよく、その他の種類の界面活性剤を加えることも制限されない。
【0013】
本発明に用いる樹脂成分には、スルホン酸系界面活性剤を1.2重量%以上含むことが必要であり、好適には1.5重量%以上49.9重量%以下、更に好ましくは2重量%以上20重量%以下である。1.2重量%を下回ると抗ウイルス性が安定して発現しない。ここでスルホン酸系界面活性剤を1.5重量%以上含むことでより安定した抗ウイルス性が発現され、さらに2重量%以上とすることでより高い抗ウイルス性が得られる。また20重量%以下とすることで加工性がより安定する点で優れる。
【0014】
本発明に用いるペースト加工用塩化ビニル樹脂として、上記予めスルホン酸系界面活性剤を1.2重量%以上含むペースト加工用塩化ビニル樹脂を単独で用いても良いし、他の塩化ビニル樹脂と混合して樹脂成分として用いてもよい。但し何れの場合に於いても、樹脂成分すなわち塩化ビニル樹脂総量に対し、スルホン酸系界面活性剤を1.2重量%以上含むことが必要であり、好適には1.5重量%以上49.9重量%以下、更に好ましくは2重量%以上20重量%以下である。1.2重量%を下回ると抗ウイルス性が安定して発現しない。
【0015】
必要に応じ、本発明の抗ウイルス性壁紙に発泡剤を用いてもよいが、その場合の添加量は樹脂成分100重量部に対し0.01重量部以上5重量部以下、好ましくは0.1重量部以上4重量部以下、さらには0.5重量部以上3重量部以下に制限することが望ましい。
発泡剤の添加量を樹脂成分100重量部に対し0.1重量部以上とすることで発泡倍率がより高い壁紙を得ることができ、0.5重量部以上とすることで発泡倍率をさらに高めることが可能となる。
一方で、本発明の抗ウイルス性壁紙においてスルホン酸系界面活性剤は塩化ビニル樹脂セグメント間の界面に存在し、含有量が増加するとその占有領域が増大することが確認されている。これは塩化ビニル樹脂セグメント同士の密着性を低下させ、弾性率低下を引き起こす。弾性率が低下すると発泡剤の分解よって生じる発泡セルの保持が困難になりその収縮を引き起こし得る。
発泡剤の添加量が樹脂成分100重量部に対し5重量部以下であれば、発泡セルの収縮の影響はほぼないか、軽微であり壁紙の美観は損なわれない。しかし、5重量部を超えると発泡セルの収縮が大きくなり、変色等の外観不良を引き起こす場合がある。
【0016】
本発明の抗ウイルス性壁紙に平滑性や強度等を要求する目的で、実質的に発泡剤を含まなくすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。
【0017】
本発明に用いる発泡剤としては公知のものを用いることができ、例えばアゾジカルボンアミド(ADCA)、アゾビスホルムアミド、オキシベンゼンスルホニルヒドラジド、パラトルエンスルホニルヒドラジド等が挙げられる。
【0018】
本発明の抗ウイルス性壁紙には、抗ウイルス性を阻害させない限りに於いて表面にトップコート層を設けても良い。トップコート層は、例えばトップコート用樹脂組成物を塗料にして塗工することで設けることができ、トップコート用樹脂としては、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、フッ素系樹脂などを用いることができる。さらにトップコート処理によって壁紙表面の動摩擦係数を低減できれば、表面強化壁紙性能規定に準拠した試験に於いて4級以上を有すことが可能となる。この場合、動摩擦係数は例えばASTM D 1894に準拠した試験で0.5以下とすることが好ましい。
【0019】
ここでトップコート層がコート剤の塗工により設けられる場合、コート剤は樹脂層に細かな隙間を有する状態で塗布される。したがって、樹脂層に含まれるスルホン酸系界面活性剤は表面に一部露出することができるために、ウイルスが壁紙表面に接触した場合に該ウイルスを攻撃することが可能となる。斯くしてトップコート層を設けても抗ウイルス性が発揮される。
【0020】
本発明の抗ウイルス性壁紙は、例えばエンベロープを有するウイルスに効力を発現する。
エンベロープを有するウイルスとしては、例えば鳥インフルエンザウイルス、人インフルエンザウイルス、豚インフルエンザウイルス等のイフルエンザウイルス、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、水痘帯状疱疹ウイルス、単純ヘルペスウイルス、ヒトヘルペスウイルス、ムンプスウイルス、RSウイルス等が挙げられる。
【0021】
本発明の抗ウイルス性壁紙の製造方法としては、予めスルホン酸系界面活性剤を1.2重量%以上含有したペースト加工用塩化ビニル樹脂を使用して塩化ビニル樹脂ペーストゾルを得る工程と、前記塩化ビニル樹脂ペーストゾルを基材に塗工する工程を経ることを特徴とする。具体例として、予めスルホン酸系界面活性剤を1.2重量部以上含有させたペースト加工用塩化ビニル樹脂と可塑剤、安定剤、発泡剤、充填剤等を攪拌してペーストゾルを作製し、裏打紙上に塗工した後、乾燥固化させる製造方法が挙げられる。攪拌や塗工法については公知の方法を用いることができる。また上記ペーストゾル組成物に加え、抗ウイルス性を阻害しない限りに於いて、着色剤、加工助剤、抗菌剤、防カビ剤、難燃剤、防炎剤、脱泡剤等の各種添加剤を適宜加えてもよい。
【0022】
前記可塑剤としては特に限定されないが、例えばジー2−エチルヘキシルフタレート(DOP)、ジイソノニルフタレート、ジブチルフタレート、ジヘキシルフタレート、ジイソデシルフタレート、ブチルベンジルフタレート、トリオクチルフタレート、ジオクチルアジペート、塩素化脂肪酸エステル、塩素化パラフィン、エポキシ化大豆油、エポキシ化脂肪酸エステル等が挙げられ、2種以上を併用してもよい。
【0023】
前記安定剤としては特に限定されないが、例えばバリウム(Ba)系安定剤、カルシウム系安定剤、スズ系安定剤、亜鉛(Zn)系安定剤、カリウム系安定剤等が挙げられ、2種以上を併用してもよい。
【0024】
前記充填剤としては特に限定されないが、例えば炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化チタン、ケイ酸マグネシウム、珪藻土等が挙げられ、2種以上を併用してもよい。
【0025】
本発明の抗ウイルス性壁紙に用いられる基材層である裏打紙としては、特に限定されないが、普通パルプ紙、難燃パルプ紙、炭酸カルシウム紙、水酸化アルミニウム紙、フリース紙等が挙げられる。
【0026】
本発明の抗ウイルス性壁紙には、抗ウイルス性を阻害させない限りに於いて前記基材層上に印刷層を設けることができる。印刷層を付与する方法としては公知の方法を用いることができ、例えばグラビア印刷、フレキソ印刷、オフセット印刷、シルクスクリーン印刷等が挙げられる。また印刷層の塗着性向上や低艶化の目的で、各種表面処理剤を併用してもよい。尚、印刷層に加え前記トップコート層を付与する場合は、印刷層の上にトップコート層を付与することが好ましい。
【実施例】
【0027】
以下に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0028】
実施例及び比較例に用いた資材は以下の通りである。
ペースト加工用塩化ビニル樹脂α(DBSが5.0重量%含有)
ペースト加工用塩化ビニル樹脂β(DBSが2.5重量%含有)
ペースト加工用塩化ビニル樹脂γ(DBSが1.0重量%含有)
ペースト加工用塩化ビニル樹脂δ(DBSが10重量%含有)
DOP(可塑剤)
Ba−Zn系安定剤
ADCA(発泡剤)
炭酸カルシウム(充填剤)
DBS(原体):粉末状
【0029】
実施例1では、表1に示す如く所定量で、予めスルホン酸系界面活性剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(DBS)を5.0重量%含有させたペースト加工用塩化ビニル樹脂αと、予めDBSを1.0重量%含有させたペースト加工用塩化ビニル樹脂γと、可塑剤(DOP)、安定剤、発泡剤(ADCA)、充填剤(炭酸カルシウム)、希釈剤、顔料を混合して、ペーストゾルを作製した。そして、このペーストゾルを基材層である裏打紙にペーストコーターで塗布することで基材層の上に樹脂層を設け壁紙ベースを得た。その後、この壁紙ベースを210℃で発泡させつつメカニカルエンボスを施して試験体とした。
【0030】
実施例2乃至9並びに比較例1及び2の詳細は表1及び2に示した通りであり、製造方法は実施例1に準拠した。なお実施例5及び6に於いては、ゲル化した後、グラビア印刷機でトップコート層を設けて120℃で乾燥させてからメカニカルエンボスを施した。
【0031】
[壁紙外観の評価]
得られた壁紙の外観を目視にて評価した。
○:表面欠陥がなく美観が保たれている
△:表面荒れがあるが、許容可能な水準である
×:スジ等の顕著な表面欠陥がある
【0032】
[抗ウイルス性の評価]
抗ウイルスについては、下記のようにして評価した。
試験ウイルスとして、鳥インフルエンザ[A/whistling swan/Shimane/499/83(H5N3)]を使用した。
発育鶏卵の漿尿膜腔内で増殖させたウイルスを滅菌したリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で1.0×10
6EID
50/0.1mLとなるように希釈して、ウイルス液を調整した。試験体(5cm×5cm)にウイルス液を0.22mL載せ、その上をポリエチレンフィルム(4cm×4cm)で覆った。試験体をシャーレに入れ20℃に設定したインキュベーター内にて1時間静置させ、試験体とウイルスを接触させた。試験体上のウイルス液(試料)を回収し、PBSで10倍階段希釈した後、10日齢発育鶏卵の漿尿膜腔内に0.1mLずつ接種した。接種発育鶏卵を37℃で2日間培養した後、赤血球凝集試験により漿尿膜腔でのウイルス増殖の有無を確認し、試料中のウイルス力価をReed and Muenchの方法により算出した。
「ウイルス力価(1時間後)」と「ウイルス力価(試験前)」との差が抗ウイルス性の強弱を表しており、この差が大きいほど抗ウイルス性が強いことを示している。
【0033】
[表面強化性の評価]
日本壁装協会が定める表面強化壁紙性能規定に準拠した試験で評価した。4級以上を表面強化性有りと判断する。
5級:一見視で特に変化が見られない
4級:多少表面傷が見られるが、比較的大きな表面層の破れ等は見られない
3級:表面層の破れが明確に見える
2級:表面が破けて紙等の裏打材が明らかに見える(長さ1cm未満)
1級:表面が破けて紙等の裏打材が明らかに見える(長さ1cm以上)
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
[評価結果]
実施例1乃至6は、外観の美観を保持しつつ、ウイルス力価が「ウイルス接触前」と「ウイルス接触1時間後」で少なくとも4.0以上(約10
−4.0=10000分の1) 減少させており、高い抗ウイルス性を有している。
さらに、実施例5、6によるとトップコート層を付与することで表面強化性が4級以上になることも示されている。
【0037】
これに対し、比較例1では塩化ビニル樹脂に対するスルホン酸系界面活性剤の含有量が1.0重量%と小さいため、ウイルス力価が「ウイルス接触前」と「ウイルス接触1時間後」で2.5(10
−2.5=約3100分の1)しか減少しておらず、実施例と比較して抗ウイルス性が低いとの試験結果になっている。
さらにスルホン酸系界面活性剤としてDBSの紛体原体をペースト作成時に添加した比較例2では、抗ウイルス性は向上したものの壁紙外観が不良となった。
【0038】
[産業上の利用可能性]
本発明によれば、接触したウイルスのウイルス力価を迅速に低減してウイルスを不活化させる外観の優れた抗ウイルス性壁紙を提供できる。