特許第6246521号(P6246521)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ネクサス株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6246521-生分解性樹脂組成物およびその製造方法 図000007
  • 特許6246521-生分解性樹脂組成物およびその製造方法 図000008
  • 特許6246521-生分解性樹脂組成物およびその製造方法 図000009
  • 特許6246521-生分解性樹脂組成物およびその製造方法 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6246521
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】生分解性樹脂組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/04 20060101AFI20171204BHJP
   C08L 3/02 20060101ALI20171204BHJP
   C08J 3/20 20060101ALI20171204BHJP
   C08L 101/16 20060101ALI20171204BHJP
   C08J 3/12 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
   C08L67/04
   C08L3/02ZBP
   C08J3/20 ZCEP
   C08L101/16
   C08J3/12 ZCFD
【請求項の数】11
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-164115(P2013-164115)
(22)【出願日】2013年8月7日
(65)【公開番号】特開2015-30845(P2015-30845A)
(43)【公開日】2015年2月16日
【審査請求日】2016年7月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】592013738
【氏名又は名称】ネクサス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100093285
【弁理士】
【氏名又は名称】久保山 隆
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 友典
(72)【発明者】
【氏名】稲員 尚紀
(72)【発明者】
【氏名】平澤 純一
(72)【発明者】
【氏名】上村 誠
【審査官】 藤井 勲
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−248851(JP,A)
【文献】 特開平07−070367(JP,A)
【文献】 特表平08−502308(JP,A)
【文献】 特表平09−505107(JP,A)
【文献】 特開平09−284482(JP,A)
【文献】 特表2000−515566(JP,A)
【文献】 特表2005−507018(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0093890(US,A1)
【文献】 特表2011−523973(JP,A)
【文献】 特開2014−125611(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/00 − 67/08
C08J 3/00 − 3/28
C08L 101/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
デンプンとポリヒドロキシアルカン酸とを主成分として含有する生分解性樹脂組成物の製造方法であって、
原料である前記デンプンと前記ポリヒドロキシアルカン酸とを混合することでドライブレンド品を調整する調整工程を有し、
前記ドライブレンド品の原料としてデンプン25〜65重量%と、ポリヒドロキシアルカン酸35〜75重量%とを、加圧混練する混練工程を有し、
前記混練工程が、前記ドライブレンド品を常圧、温度40〜120℃の条件下で混練する第一の混練工程と、80℃〜150℃の条件下で加圧混練する第二の混練工程とを有することを特徴とする生分解性樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記混練工程を加圧ニーダーにて行う請求項1に記載の生分解性樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記調整工程において、原料である前記デンプンの平均粒径が100μm以下、前記ポリヒドロキシアルカン酸の平均粒径が100μm以下である請求項1または2に記載の生分解性樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
前記混練工程の前に、前記デンプンの水分含有率を5重量%以下とする乾燥工程を有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の生分解性樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
前記混練工程において、原料である前記デンプンがα化しないように混練を行う請求項1〜4のいずれか1項に記載の生分解性樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
デンプンとポリヒドロキシアルカン酸とを主成分として含有する生分解性樹脂組成物であって、
前記組成物中のデンプンの含有量が25〜65重量%、ポリヒドロキシアルカン酸の含有量が35〜75重量%であり、
前記デンプンと前記ポリヒドロキシアルカン酸とが、均一に分散してなり、
前記生分解性樹脂組成物をヨウ素液に浸漬した後、顕微鏡により前記生分解性樹脂組成物の10mmの断面観察を行った時、デンプン−ヨウ素反応により着色したデンプンの凝集部分が、その凝集部分の面積に相当する円に換算した円の直径が200μm以上となる偏析部分がないことを特徴とする生分解性樹脂組成物。
【請求項7】
前記ポリヒドロキシアルカン酸が、炭素数4〜6のヒドロキシル基を有するカルボン酸類を構造単位とするホモポリマーまたはコポリマーである請求項6記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項8】
前記生分解性樹脂組成物のMFR(測定温度150℃、測定荷重500kg)が、100〜1000g/10minである、請求項6または7に記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項9】
前記生分解性樹脂組成物に含有されるデンプンが、α化していないデンプンである請求項6〜8のいずれか1項に記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項10】
前記ポリヒドロキシアルカン酸が、ポリ3−ヒドロキシ酪酸3−ヒドロキシヘキサン酸である請求項6〜9のいずれか1項に記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項11】
請求項6〜10のいずれか1項に記載の生分解性樹脂組成物を用いて成型された成型加工品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリヒドロキシアルカン酸とデンプンを特定の割合で混合する生分解性樹脂組成物に関する。特に、これらの成分を均一に分散するように混練することで、生分解性に優れ、かつ射出成型等の成型加工に適した生分解性樹脂組成物およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
将来、枯渇する可能性があり、環境汚染、地球温暖化の原因ともいわれている石油由来の樹脂の代わりに、ポリ乳酸や、その他のポリヒドロキシアルカン酸等の生分解性樹脂を用いる研究開発が行われている。これらの生分解性樹脂の多くは、生物由来の原料により合成されたポリマーが用いられており、カーボンニュートラルのため地球温暖化しにくく、自然環境中において容易に分解するため環境汚染のリスクが少ないといわれている。
【0003】
これらの、生物由来の原料により合成されたポリマーの中でも、優れた生分解性を有する樹脂として、3−ヒドロキシ酪酸と3−ヒドロキシヘキサン酸とを微生物産生方法により重合したポリ3−ヒドロキシ酪酸3−ヒドロキシヘキサン酸(「PHBH」)が提案されている(特許文献1、2)。このポリマーは、日常の使用条件下では安定である一方、生分解性が優れていることが知られている。
【0004】
しかし、ポリヒドロキシアルカン酸(例えば、PHBH)単独の樹脂は、溶融温度付近での流動性が極めて高い一方、ガラス転移温度が低く固化するための条件設定が困難なことなどから、シート化することはできても、射出成型が難しく成型加工性の改善が求められていた。成型加工性を改善するために、他の樹脂や添加剤等を加えることで溶融流動特性等を設計変更することも考えられるが、その樹脂や添加剤によっては、PHBH等の優れた生分解性を十分に発揮できなくなるため、その設計変更には制限があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−340078号公報
【特許文献2】特開平5−93049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来技術の問題点に鑑み、優れた生分解性を有し、かつ射出成型等の成型加工性にも適した生分解性樹脂組成物およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> デンプンとポリヒドロキシアルカン酸とを主成分として含有する生分解性樹脂組成物であって、前記組成物中のデンプンの含有量が25〜65重量%、ポリヒドロキシアルカン酸の含有量が35〜75重量%であることを特徴とする生分解性樹脂組成物。
<2> 前記組成物中のポロヒドロキシアルカン酸が、炭素数4〜6のヒドロキシル基を有するカルボン酸類を構造単位とするホモポリマーまたはコポリマーである前記<1>記載の生分解性樹脂組成物。
<3> 前記組成物中の前記デンプンと前記ポリヒドロキシアルカン酸とが、均一に分散してなる前記<1>または<2>に記載の生分解性樹脂組成物。
<4> 前記デンプンと前記ポリヒドロキシアルカン酸とを加圧、加温下で混練することで得られる、前記組成物中の前記デンプンと前記ポリヒドロキシアルカン酸とが、均一に分散してなる前記<3>に記載の生分解性樹脂組成物。
<5> MFR(測定温度150℃、測定荷重500kg)が、100〜1000g/10minである、前記<1>〜<4>のいずれかに記載の生分解性樹脂組成物。
<6> 前記生分解性樹脂組成物に含有されるデンプンが、α化していないデンプンである前記<1>〜<5>のいずれかに記載の生分解性樹脂組成物。
<7> 前記ポリヒドロキシアルカン酸が、ポリ3−ヒドロキシ酪酸3−ヒドロキシヘキサン酸である前記<1>〜<6>のいずれかに記載の生分解性樹脂組成物。
<8> 前記<1>〜<7>のいずれかに記載の生分解性樹脂組成物からなる成型加工用のペレット。
<9> 前記<1>〜<8>のいずれかに記載の生分解性樹脂組成物および/またはペレットを用いて成型された成型加工品。
<10> デンプンとポリヒドロキシアルカン酸とを主成分として含有する生分解性樹脂組成物の製造方法であって、
原料としてデンプン25〜65重量%と、ポリヒドロキシアルカン酸35〜75重量%とを、温度が80℃〜150℃の条件下で、加圧混練する混練工程を有することを特徴とする生分解性樹脂組成物の製造方法。
<11> 前記混練工程の前に、原料である前記デンプンと前記ポリヒドロキシアルカン酸とを混合することでドライブレンド品を調整する調整工程を有し、かつ前記混練工程が前記ドライブレンド品を常圧、温度80〜120℃の条件下で混練する第一の混練工程と、さらに100℃〜150℃の条件下で加圧混練する第二の混練工程とを有する前記<10>に記載の生分解性樹脂組成物を製造する方法。
<12> 前記混練工程を加圧ニーダーにて行う前記<10>または<11>に記載の生分解性樹脂組成物の製造方法。
<13> 前記調整工程において、原料である前記デンプンの平均粒径が100μm以下、前記ポリヒドロキシアルカン酸の平均粒径が100μm以下である前記<11>または<12>に記載の生分解性樹脂組成物を製造する方法。
<14> 前記混練工程の前に、前記デンプンの水分含有率を5重量%以下とする乾燥工程を有する前記<10>〜<13>のいずれかに記載の生分解性樹脂組成物を製造する方法。
<15> 前記混練工程において、原料である前記デンプンがα化しないように混練を行う前記<10>〜<14>のいずれかに記載の生分解性樹脂組成物を製造する方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、優れた生分解性を有し、かつ射出成型性等の成型加工性に優れた生分解性樹脂組成物およびペレット、成型加工品を提供することができる。また、本発明は、併せて、当該生分解性樹脂組成物の製造方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】射出成型加工品の試験片の写真である。
図2】均一に分散していない生分解性樹脂組成物の成型体断面の写真である。
図3】均一に分散した生分解性樹脂組成物の成型体断面の写真である。
図4】MFRの測定データのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の内容に限定されない。
【0012】
本発明は、デンプンとポリヒドロキシアルカン酸(PHA)とを主成分として含有する生分解性樹脂組成物であって、前記組成物中のデンプンの含有量が25〜65重量%、PHAの含有量が35〜75重量%であることを特徴とする生分解性樹脂組成物である。これらの原料を所定の比率で含有する組成物は、優れた生分解性を有し、かつ成型加工性に優れた溶融流動性を有する生分解性樹脂組成物とすることができる。
【0013】
[デンプン]
本発明の生分解性樹脂組成物は、デンプンを25〜65重量%含有する。デンプンは、アミロースやアミロペクチンの集合体である炭水化物を主たる成分とするものであり、植物の栄養貯蔵物質として種子、根茎等に貯蔵され、一般的には植物由来の澱粉粉等の形状で、水分、灰分も含んだ状態のものとして入手することができるものである。具体的には、トウモロコシ澱粉、小麦粉澱粉、米澱粉、ソラマメ澱粉、緑豆澱粉、小豆澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、タピオカ澱粉等があげられる。これらのデンプンの中でも、糊化しにくいデンプンであることが好ましく、トウモロコシ澱粉等が好ましく使用される。また、本発明の生分解性樹脂組成物を混合する前に、デンプンは乾燥し、水分含有率を低下させてから用いることが好ましい。デンプンの水分含有率を低下させておくことで、成型加工性に優れた生分解性樹脂組成物とすることができる。デンプンの水分含有率は、そのデンプンの種類や保存状態、季節等によって異なるが、一般的にデンプン全体の8〜10重量%程度である。本発明に使用する、デンプンの水分含有率は好ましくは5重量%以下である。乾燥は、例えば、80℃の恒温槽で数日間乾燥する等の方法で行うことができる。
【0014】
本発明の生分解性樹脂組成物は、ポリヒドロキシアルカン酸を35〜75重量%含有する。ポリヒドロキシアルカン酸は、ヒドロキシアルカン酸を構造単位とするポリマーである。このヒドロキシアルカン酸としては、炭素数2〜6のヒドロキシル基を有するカルボン酸類が好適に用いられ、例えば、グリコール酸(炭素数2:C2)、乳酸(炭素数3:C3)、ヒドロキシ酪酸(炭素数4:C4)、ヒドロキシ吉草酸(炭素数5:C5)、ヒドロキシヘキサン酸(炭素数6:C6)があげられる。これらのポリヒドロキシアルカン酸の中でも、ヒドロキシ酪酸やヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシヘキサン酸といった、炭素数4〜6(C4〜C6)のヒドロキシル基を有するカルボン酸類を構造単位とするホモポリマーやこれらの共重合体(コポリマー)が好適に用いられる。具体的には、ポリ3−ヒドロキシ酪酸(PHB)、ポリ3−ヒドロキシ酪酸3−ヒドロキシ吉草酸(PHBV)、ポリ3−ヒドロキシ酪酸3−ヒドロキシヘキサン酸(PHBH)またはポリ3−ヒドロキシ酪酸4−ヒドロキシ酪酸(P3HB4HB)から選択される少なくとも1以上のポリヒドロキシアルカン酸が好ましく用いられる。特に、炭素数4〜6(なかでも炭素数4および/または炭素数6)のヒドロキシル基を有するカルボン酸類を構造単位とするポリマーやコポリマーは、優れた生分解性を有する。しかしながら、成型加工性の点から、使用用途が制限され十分に利用されてこなかった。本発明の生分解性樹脂組成物とすることで、この生分解性を維持しつつ、良好な成型加工性のものとすることができる。
【0015】
[ポリ3−ヒドロキシ酪酸3−ヒドロキシヘキサン酸(PHBH)]
本発明のポリヒドロキシアルカン酸は、下記一般式(1)で表される3−ヒドロキシ酪酸と、下記一般式(2)で表される3−ヒドロキシヘキサン酸の共重合体であることが特に好ましい。すなわち、下記一般式(3)で表されるポリ3−ヒドロキシ酪酸3−ヒドロキシヘキサン酸を35〜75重量%含有してなることが好ましい。3−ヒドロキシ酪酸と3−ヒドロキシヘキサン酸との共重合体は、ワーテルシア(Wautersia)属やカプリアビダス(Cupriavidus)属、ラルストニア(Ralstonia)属、アルカリゲネシス(Alcaligenese)属等の微生物を用いて産生されるポリマーであり、優れた生分解性を有する樹脂として知られている。このポリマーは、例えば、株式会社カネカ製、商品名:アオニレックス(登録商標)として入手することができる。
【0016】
【化1】
【0017】
【化2】
【0018】
【化3】
【0019】
本発明の生分解性樹脂組成物に含有されるPHBHは、3ヒドロキシ酪酸と3ヒドロキシヘキサン酸とのモノマーのモル比(上記一般式(3)で表されるm:n)が98:2〜〜80:20であることが好ましく、96:4〜87:13であることがより好ましく、94:6〜91:9であることが特に好ましい。3ヒドロキシ酪酸の量がこれより多い共重合体の場合、樹脂の融点と劣化温度が近く加工性が低下する場合がある。一方、3ヒドロキシ酪酸の量が少ない共重合体の場合、樹脂の固化が早く成型性が低下する場合がある。
【0020】
[混合比率]
本発明の生分解性樹脂組成物は、前記デンプンを25〜65重量%、前記PHA(好ましくはPHBH等のC4〜C6のヒドロキシアルカン酸のホモポリマーやコポリマー)を35〜75重量%含有する生分解性樹脂組成物である。また生分解性樹脂組成物中のデンプンとPHAとの重量の合計が60重量%以上であることが好ましく、85重量%以上であることがより好ましい。デンプンの添加量が少ないとき、PHAの含有量が相対的に多くなり、PHAの高すぎる溶融流動性により、成型加工性が低下する。例えば、射出成型加工時にバリが発生したり、得られる射出成型品の強度が低かったりするおそれがある。デンプンの添加量が、これより多いとき、デンプン単独に近い組成となり、成型加工性が低下する。デンプン含有量は、好ましくは30〜55重量%である。PHAの含有量は、好ましくは45〜70重量%である。デンプン含有量が30〜55重量%のとき、成型加工性と、得られる成型加工品の強度とのバランスがより優れたものとすることができる。
【0021】
さらに、デンプン含有量が51重量%以上のとき、このデンプン量を含有する生分解性樹脂組成物は、容易に入手することができるバイオマスを特に多量に含む生分解性樹脂組成物とすることができるため、低コスト化やカーボンニュートラルの視点等から優れている。
【0022】
[他の添加物]
本発明の生分解性樹脂組成物は、PHA以外の生分解性樹脂や、セルロース、木粉等のバイオマスを含有していても良い。これらの添加物の含有量は、生分解性樹脂組成物中の40重量%未満であることが好ましく、より好ましくは、20重量%以下である。また、これらの生分解性樹脂やバイオマスは、十分な生分解性を有する物質であることが好ましく、安全性、生分解性、環境安全性等が確認され、認定されている材料を用いることが好ましい。このような材料としては、例えば、日本バイオプラスチック協会(Japan BioPlastics Association : JPBA)のグリーンプラ識別表示制度(GP Certification System)のポジティブリストに掲載されているもの等があげられる。
【0023】
本発明の生分解性樹脂組成物は、安定剤、滑材、無機材料、色剤等の他の添加物を含有することで、強度の補強や安定性の向上、着色していても良い。これらの添加物の含有量は、生分解性樹脂組成物中の15重量%未満であることが好ましく、より好ましくは、5重量%以下、特に好ましくは3重量%以下である。また、これらの添加物も、十分な生分解性を有する物質であることが好ましく、安全性、生分解性、環境安全性等が確認され、認定されている材料を用いることが好ましい。このような添加物材料としては、例えば、日本バイオプラスチック協会(Japan BioPlastics Association : JPBA)のグリーンプラ識別表示制度(GP Certification System)のポジティブリストに掲載されているもの等があげられる。
【0024】
本発明の生分解性樹脂組成物は、前記デンプンと前記PHA、および適宜添加される添加物とを、混合したものである。また、混合後の組成物中のデンプンとPHAとが、均一に分散してなる生分解性樹脂組成物であることが好ましい。特に、デンプンとPHAとを加圧、加温下で混練することで得られる、デンプンとPHAとが、均一に分散してなる生分解性樹脂組成物とすることが好ましい。混練等による混合後、生分解性樹脂組成物を成型加工用のペレットとしたものが工業的に利用しやすい形状のため適しており、一般的には成型加工用に供するためにペレット形状とされる。
【0025】
ここで、デンプンとPHA以外の他の成分の添加は、デンプンとPHAとを混合する工程や混練する工程、またはペレット化する工程や成型加工する工程等において適宜行うことができる。樹脂組成物やペレット、成型加工品の均一性等を考慮すると、添加物の混合は、混練工程やペレット化工程において行われることが好ましい。
【0026】
本発明の他の態様は、デンプンとポリヒドロキシアルカン酸とを主成分として含有する生分解性樹脂組成物の製造方法であって、原料としてデンプン25〜65重量%と、ポリヒドロキシアルカン酸35〜75重量%とを、温度が70℃〜170℃の条件下で加圧混練する混練工程を有することを特徴とする生分解性樹脂組成物の製造方法である。この構成により、デンプンとポリヒドロキシアルカン酸(PHA)とを均一に分散させた生分解性樹脂組成物とすることができる。
【0027】
まず、前述したデンプンとPHAとを所定の含有量で仕込み加圧下で混練する。混練は、加圧ニーダー等の混練機を用いて混練(ニーディング)することが好ましい。ここで、混練とは、本発明の生分解性樹脂組成物の、各成分を紛体のまま単に均一に分散させることを目的とした混合ではなく、ある程度粘性を持った状態で塊状化した状態の混合組成物に、せん断力がかかるような状態で捏ねるように練り混ぜることをいう。また、加圧混練とは、混練室内に充填した混練材料を加圧蓋等で加圧しながら混練することをいう。単に紛体として分散させた混合状態(いわゆるドライブレンド)のままでは、成型加工するとき、成型加工機の原料仕込み部から押出し部、金型等を経る過程において、各成分の流動性が異なるため、最終的に金型等に達するときには成分分離が生じたり、仕込み濃度との差が生じることがある。さらには、過度に長時間デンプンに熱がかかると分解により、金型等の形状通りの成型加工ができなかったり、焦げたように着色したりすることがある。
【0028】
また、本発明は、前記混練工程時の条件として、温度が70℃〜170℃であることを特徴とする。この温度は80℃〜150℃であることが好ましく、90℃〜130℃であることがより好ましい。混練時の温度が低い場合、混練する仕込み品が粘性を持たず、混練による圧力がかかりにくくなり十分に分散、混合ができないおそれがある。一方、混練温度がこれより高い場合、混練によりかかる圧力の影響もあり、デンプンが分解して着色が生じたり、デンプンの分子量が低下したりすることがある。混練温度は、組成物の主たる成分となるデンプンの種類や、PHAの種類によって、適宜変更することが好ましく、前述したように、混練機に仕込んだ組成物全体が、ある程度の粘性を持つ状態となるように設定する。好ましくは、混練状態に合わせて、段階的に昇温していくことが好ましい。また、温度は、混練機内の生分解性樹脂組成物の温度であり、通常、混練に用いる装置(ニーダー等)のヒーターの設定温度により制御される。混練時の条件としては、混練温度や混練時間、混練時の圧力、また混練状況に合わせたこれらの変更等の管理が重要である。混練時の温度は、樹脂組成物の成分比率や、各成分の粒径等に合わせて、適宜加熱して混練することが好ましい。
【0029】
混練は、圧力をかけることができる加圧ニーダーを用いて行うことが好ましい。ここで加圧ニーダーとしては、例えば、混練機の加圧蓋を開放する(加圧しない状態)か、蓋を閉鎖することで圧力をかけるかの調整を行うことができるものが好適に用いられる。混練機のブレード等の運転により、粘性を有する塊状の組成物には、捏ねるように練り混ぜることで一定の圧力がかかっている。しかし、さらに、加圧蓋等を用いて加圧しながら混練ができるような加圧ニーダーを用いれば、組成物全体の混和性をよりよくすることができ、均一に分散した生分解性樹脂組成物を得ることができる。
【0030】
混練機のブレードはその形状は、ニーディングに用いられる公知のものを使用することができ、例えばシグマブレードやマスチケーターブレード、Zブレード、ダブルナーベンブレード等を用いることができる。ブレード配列は、タンジェンシャル方式やオーバーラップ方式等、公知のものを使用することができる。
【0031】
混練時の混練時間は、混合物が十分に均一分散された塊状となればよいが、例えば、比較的低温である80〜120℃で10〜30min程度の間加圧せず混練した後、さらに100〜150℃に昇温し、加圧混練を10〜40min行うような、組成物の混練状態および温度、加圧の有無に合わせて調整される。
【0032】
本発明においては、デンプンの平均粒径が100μm以下、PHAの平均粒径が100μm以下とし、混合することでドライブレンド品を調整する調整工程を有することが好ましい。デンプンおよび、PHAの平均粒径をこのような粒径としドライブレンド品を調整することで、混練工程における混練性が向上し、均一に分散させた生分解性樹脂組成物をより簡便に得ることができる。ここで、平均粒子径は、レーザー回折散乱法のメディアン径として求めることができる。また、ペレットをこの粒径とするために破砕機とにより粉砕し、粒径の調整は、破砕条件の調整により行うことができる。本発明のデンプンとして用いられるものの一例であるコーンスターチは、粒径が調整された状態で市販されていることが多い。一方、PHAは、一般的にはペレットとして市販されていることが多いため、このような粒径に調整したのち、前記混練工程を行うことが好ましい。
【0033】
また、本発明においては、混練工程の前に、前記デンプンの水分含有率を5重量%以下とする乾燥工程を有することが好ましい。デンプンの水分含有率を、乾燥工程によって、5重量%以下としたのち混練すると、短時間で混練を終えることができ、また、デンプンがα化しにくいため好ましい。この水分含有率が高いままのデンプンを用いて混練を行う場合、混練時間が長時間化したり、デンプンがα化してしまうことがある。乾燥工程は、恒温槽等を用いて行うことが一般的であり、80℃で数日静置する等の方法で行う。この乾燥工程は、ドライブレンド品の調整工程の前に行うことが一般的であるが、当該調整工程の後に行ってもよい。
【0034】
このように、混練することで、デンプンとPHAとが十分に混合され均一に分散した塊状の生分解性樹脂組成物を得ることができる。特に、原料である前記デンプンと前記PHAとを混合することでドライブレンド品を調整する調整工程を有し、前記ドライブレンド品を常圧、温度40〜120℃(好ましくは80〜110℃)の条件下で混練する第一の混練工程を有し、さらに圧力を加えて、80℃〜150℃(好ましくは100〜140℃)の条件下で加圧混練する第二の混練工程を有する生分解性樹脂組成物を製造する方法として、実施することが好ましい。第一の混練工程の下限値は、前述のように40℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましい。また上限値は、120℃以下が好ましく、110℃以下がより好ましい。温度が低すぎる場合、水分除去が遅く時間がかかりすぎる場合がある。一方、高すぎる場合、デンプンやPHAが熱劣化する場合がある。これらの上限、下限はそれぞれに異なる理由で選択されるものであり、具体的な装置、原料のデンプンやPHAの乾燥程度、種類等により設定される。第二の混練工程の下限値は、前述のように80℃以上が好ましく、100℃以上がより好ましい。また上限値は、前述のように150℃以下が好ましく、140℃以下がより好ましい。温度が低すぎる場合、混練に長時間を要したり、均一分散しにくい場合がある。一方、高すぎる場合、デンプンやPHAが熱劣化する場合がある。これらの上限、下限はそれぞれに異なる理由で選択されるものであり、具体的な装置、第一の混練工程後の状態等により設定される。
【0035】
この時、ドライブレンド品の調整は、原料であるデンプンとPHAを前述したような小粒径の紛体に近い状態等で混合することで調整することができる。また、デンプンとPHA等の原料を全量、混合しておいてもよいし、一部のみをドライブレンドしておいて、全量の調整は後段の混練工程等で行ってもよい。
【0036】
また、混練工程を、第一の混練工程と第二の混練工程等の多段工程に分けて行ってもよい。例えば、第一の混練工程においては、比較的低温で加圧せず、緩やかな混練を行いながら、不要な水分を除去しデンプンのα化を防止する。さらに、第二の混練工程において、温度を100〜150℃に設定し、かつ加圧状態で混練することで、より分散性が高くなる混練を行うことができ、これらの一連の工程によってα化を防止し、かつ、均一分散性が高い生分解性樹脂組成物を得ることができる。このような、多段混練工程を行う場合、前述したように、それぞれの工程の時間を適宜調整する。
【0037】
[押出しペレット化]
混練後の塊状の生分解性樹脂組成物は、成型加工用途に利用しやすいペレット状に加工されることが好ましい。ペレット化するときの押出し温度は、130℃〜170℃が好ましく、より好ましくは140℃〜160℃である。押出し温度が低い場合、溶融が不十分となりペレット化することが難しい。一方、押出し温度が高すぎる場合、生分解性樹脂組成物中のデンプンやPHAが分解し、ペレットが着色したり、生分解性樹脂組成物の機械特性が低下するおそれがある。
【0038】
滞留時間は、ペレット化装置のホッパーに樹脂を添加してから、ペレット化されるまでの平均滞留時間として求められるものであるが、この時間が長いと熱分解されペレット化が困難となったり、着色、機械特性の低下といった問題が生じる。ペレット化は、例えば、径2〜10mm程度のダイスから押し出してストランドとし、これを適宜公知の方法で切断することでペレット形状とすることができる。
【0039】
[生分解性樹脂組成物等の物性]
[MFR]
本発明の生分解性樹脂組成物は、そのMFR(メルトフローレイト:Melt Flow Rate)が、測定温度150℃、測定荷重500kgにおいて、100〜1000g/10minであることが好ましい。ここで、MFRは、実施例に後述するようにフローテスターにより測定されるものであり、試験荷重500kgにて測定したときのMFRである。MFRがこの範囲より大きいと、流動性が高すぎる為、例えば射出成型する場合、バリができやすい等、成型加工性が低い。一方、MFRがこの範囲より小さいと、流動性が低すぎる(または、溶融しない、溶融温度に達していない)ため、成型加工することができなかったり、押出すための圧力が高くなりすぎ、装置にかかる負荷が大きすぎたり、金型内に樹脂が十分に充填されず所望の形状とならないことがある。MFRは、150℃において、150〜1000g/minであることがより好ましく、特に好ましくは、200〜800g/minである。
【0040】
[生分解性]
本発明の生分解性樹脂組成物は、極めて生分解性に優れている。生分解性の評価は、生物種や酸素の有無、気温、湿度、他の成分の存在等により変化するため、数値化することが困難であるが、本発明の生分解性樹脂組成物は、例えば、PD液体培地懸濁液中での微生物(Aspergillus niger)による分解試験を行った時、7〜14日程度で分解することを確認することができる。これは、同一の条件で他の生分解性樹脂であるポリ乳酸単独の生分解性を測定しても、分解するまで28日程度かかることからも、その生分解性が優れていることを確認することができる。
【0041】
[均一分散性の評価]
本発明の生分解性樹脂組成物は、デンプンとPHAとが均一に分散してなる混練物とすることが好ましい。ここで、均一分散性の評価は、本発明の生分解性樹脂組成物に含まれるデンプンがデンプン−ヨウ素反応することを利用して、ヨウ素液に浸漬したのちの、着色部分の分散程度を目視や顕微鏡観察することで評価することができる。均一分散している場合、小粒径(具体的には5μm〜30μm程度)のデンプンが、凝集するような偏析した状態となることなく、均一に分散していることを確認することができる。一方、均一に分散していない場合、デンプンが部分的に凝集していたり、広く着色したり、または、着色部分が見られないエリアがあったりする状況が観察される。ここで、偏析部分が確認される(均一に分散していない)と判断する指標を例示すると、顕微鏡観察したとき、着色したデンプンが分離せず凝集している部分が存在し、その凝集部分の面積に相当する円に換算したときその円の直径が200μm以上となっているか否かから判断方法する方法がある。好ましくは、生分解性樹脂組成物の10mm角の断面観察を10点行った時、偏析部分が存在しない場合、極めて良好な均一に分散しているといえる。凝集部分の面積に相当する円に換算したときその円の直径が100μm以上の部分も存在しないことがより好ましい。なお、均一に分散しているかは、塊状、ペレット状または成型加工品とした状態で評価するものであり、ドライブレンドの状態で評価されるものではない。
【0042】
[デンプンのα化]
本発明の生分解性樹脂組成物は、その組成物中に含有されるデンプンがα化していない状態で混合されていることが好ましい。デンプンがα化している場合、デンプンの糊化によるべたつきが生じ、成型加工性が低下したり、固化時に、もろくなり、樹脂としての強度が低下したりすることがある。α化を防止するためには、本発明のデンプンとしてα化しにくいデンプン質を含む澱粉粉を多く使用したり、混練やペレット化の条件等を調整し、工程前の水分含有量を十分に低下させておくことや、混練温度を調整したりすることが重要である。特に、混練工程においてα化しないように混練をおこなうことが好ましい。α化の程度は、生分解性樹脂組成物の物性(強度や金型等からの剥離性など)や、化学分析的手法等により評価することができるが、簡易的には、デンプン−ヨウ素反応試験を行った時に着色するかで判断することができる。
【0043】
[成型加工方法]
前述の方法で混練された本発明成型加工用ペレットは、射出成型やブロー成形、真空成型、押出し成型等の公知の成型加工方法で成型加工することができる。
成型加工する場合、押出し温度は、成型加工品の形状、大きさ等により適宜設定されるが、好ましくは130℃〜160℃、より好ましくは135〜150℃である。金型温度は、樹脂が固化する温度であればよいが、好ましくは30〜70℃、より好ましくは50〜65℃である。金型温度が高すぎる場合、樹脂が固化せず離型時に変形したり、離型しなかったり、金型の形状からはみ出した部分(いわゆる、バリ)が発生する恐れがある。一方、金型温度が低すぎる場合も、離型性が悪くなったり、結晶化が不安定となり強度が低下したりすることがある。また、冷却時間(冷却サイクルタイム)は、金型温度にもよるが、通常、10秒〜120秒、好ましくは20秒〜60秒程度である。冷却時間が短い場合、固化が不十分で離型時変形する等の成型異常が生じることがある。一方、冷却時間が長すぎる場合、成型加工に要する時間が長くなり生産効率が悪化したり、離型性が低下したりすることがある。
【0044】
本発明の生分解性樹脂組成物および/またはペレットは成型により成型加工品とすることができる。本発明の成型加工品は、射出成型、シート成形、ブロー成形、発泡シート化等の加工により成型される。特に、本発明の生分解性樹脂組成物を用いて成型された成型加工品は、優れた生分解性を活かして、自然環境下で使用される用途に用いることができる。本発明の成型加工品は、通常の使用条件では十分な耐久性を維持しつつ、放棄する際には、土に埋める等の処理で比較的短い時間で生分解するため、自然環境を汚染せずに処分することができるという利点を有する。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0046】
後述する実施例により得られる生分解性樹脂組成物のペレットおよび成型加工品(試験片)の作成・評価を以下の方法で行った。
【0047】
(1)生分解性樹脂組成物特性
1)溶融流動性:MFR
MFRを、以下の条件で測定した。
装置:フローテスターCFT−500C(島津製作所社製)
試験荷重:500kg
試験種類:定温法
予熱時間:測定温度に調整した装置にサンプルをセットし300sec予熱してから測定を開始した。
ダイ:穴径1.0mm、厚み10mmのWC焼結鋼材を使用。
サンプル調整:ペレット化した生分解性樹脂組成物をダイス内で押出しプレスし測定サンプルとした。
試験回数:同一組成のペレットについて、3回測定し平均値を求めた。
【0048】
2)生分解性(液体培地中での微生物による分解試験)
試験は、試験容器として用いた容量500mlの試験瓶中に、PD(Potato dextrose)液体培地懸濁液200gを加え、Aspergillus niger(株式会社微生物研究所製・原液を10倍希釈して用いた。)を添加したものに、シート状(厚み1mm、約3cm角)に成型したシート状試験片を投入し、振盪培養したときの、時間経過に伴う形状変化を観察した。
【0049】
3)均一分散性(ヨウ素―デンプン反応試験片の観察)
実施例および比較例に係る樹脂のペレットや成型加工品を以下の処理を行い、顕微鏡(マイクロスコープ“VHZ−100R”:KEYENCE社製)観察することで、樹脂中のデンプンの均一分散性を評価した。
試験片の処理:うがい薬(“ポピドンヨード100ml中7g”:健栄製薬社製)を水によって30倍に希釈したヨウ素試験薬に、評価対象の樹脂ペレットや成型加工品を20分浸漬後、そのまま観察サンプルとした。
【0050】
(2)成型加工性
生分解性樹脂組成物ペレットを、引張試験用型と射出成型機を用いて、引張試験用試験片に加工して射出成型加工品を得た。射出成型時の条件は、射出成型機の押出温度140℃、金型温度60℃、射出速度17〜25%(射出成型加工品の充填具合に応じて適宜調節)、射出圧5〜35%(射出成型加工品のヒケ具合に応じて適宜調節)、冷却時間10〜50秒(射出成型加工品の固化具合、離型具合に応じて適宜調節)である。成型加工により得られる、試験片について、以下の方法で、「離型性」、「冷却サイクルタイム」、「バリ発生量」、「ヒケ」、「成型不具合」を評価した。
【0051】
1)離型性
成型加工時の金型からの離型性を以下の評価基準で評価した。
◎:問題なく素早く離型することができる。
○:問題なく離型することができるが、若干離型が遅い。
△:固化が遅く離型しにくいが、変形が起こる。
×:固化が極めて遅く、離形の際に著しく変形する。
【0052】
2)冷却サイクルタイム
冷却サイクルタイムは、金型に供給した樹脂組成物を金型から離型するまでに、静置した時間である。冷却サイクルタイムを以下の基準で評価した。
◎:5秒以上、20秒未満
△:20秒以上、60秒未満
×:60秒以上
【0053】
3)バリ発生量
バリ発生量は、射出成型加工品のバリ発生部のうち、本来の引張試験用試験片の形状から最もはみだしている長さを測定した値である。バリ発生量が大きいほど、充填容量が減少し、相対的にヒケが発生しやすくなる、また、寸法精度も低下する。
【0054】
4)ヒケ
ヒケは、射出成型した試験片の平行部から、成型不良による凹部の最深部までの深さを、ハイトゲージを用いて評価した。
【0055】
5)成型不具合
成型加工性として評価した、離型性、冷却サイクルタイムの長短、バリ発生量、ヒケ等の評価結果と、その他、成型時の取り扱い性等を含めて総合的に成型不具合の生じやすさについて評価したものである。
【0056】
(サンプル作製)
[原料]
「デンプン」
デンプンとして、日本澱粉工業株式会社製、“コーンスターチY サナス”を用いた。
デンプンは、PHAの一種であるPHBH樹脂と混合する前に、80℃の恒温槽内にて、約2日乾燥したものを用いた。このときの、水分含有率は、試料全体(100重量%)中の約3重量%であった。
なお、このデンプンの平均粒径は、15μmであった。
【0057】
「PHBH」
PHAとして、PHBHである株式会社カネカ社製商品名:アオニレックス(登録商標)を用いた。仕様の異なる2種の樹脂を用いた。それぞれの樹脂は以下のものである。
“7mol”品:3ヒドロキシ酪酸と3ヒドロキシヘキサン酸とのモノマーのモル比を93:7として製造されたPHBHである(以下、「PHBH−7」と略記する)。
“11mol”品:3ヒドロキシ酪酸と3ヒドロキシヘキサン酸とのモノマーのモル比を89:11として製造されたPHBHである(以下、「PHBH−11」と略記する)。
なお、これらのPHBHは、破砕機(増幸産業株式会社製“マスコロダー MKZA10−15J”)により、平均粒径80μmに細粒化したものを用いた。
【0058】
[実施例1]
実施例1として、デンプンとPHBHとからなる生分解性樹脂組成物を、以下の混練工程とペレット化工程を経る製造方法で、ペレットを作成した。
【0059】
[製造方法]
(1)原料のブレンド
混練装置による混練を行う前に、表1に記載の比率で計量した各原料を、ドラム缶内にてブレンドした。
(2)混練工程
前記製造方法の(1)でブレンドした原料を、混練装置を用いて以下の1)、2)の処理を行い、均一混練した生分解性樹脂組成物の塊体を得た。
混練装置:加圧式ニーダー(トーシン株式会社製 “TD10−20MDX”)
仕込み量:混練装置槽(容量:10L)に、ブレンドした原料9kgを投入
1)混練装置の設定温度を100℃に設定し、20min撹拌した。この段階では、混練装置の蓋は閉めず、圧力をかけずに撹拌した。
2)撹拌状態を維持したまま、混練装置の設定温度を140℃に変更し、加圧蓋を下げ加圧しながら混練を40min行った。なお、加圧は約140kgの錘を加圧蓋上に置くことで行った。
【0060】
(3)ペレット化工程
前記混練工程(2)にて、得られた均一混練した生分解性樹脂組成物の塊状体を、ペレット化装置(二軸押出機:トーシン株式会社製)を用いて、ペレット化した。
前記混練工程(2)により得られた生分解性樹脂組成物の塊状体を、塊状体の温度が冷めないうちにペレット化装置に投入し、スクリュ温度140℃、ダイス温度130度に設定したペレット化装置にてストランド状に押し出し、カッティングし、生分解性樹脂組成物のペレットを得た。その評価結果を表1に示す。
【0061】
[実施例2〜8、比較例3〜6]
表1に記載の比率で計量した各原料を用いて、実施例1と同様の方法で、デンプンおよびPHBHとからなる生分解性樹脂組成物のペレットを作成した。その評価結果の一覧を併せて表1に示す。
【0062】
[比較例1]
比較例1として、PHBH−11を、単独で射出成型した。その評価結果の一覧を表1に示す。
【0063】
[比較例2]
比較例2として、デンプンを、単独で用いたときの評価結果について、併せて表1に示す。なお、デンプン単独は、溶融することができず射出成型に適さないため、成型を行うことができなかった。
【0064】
[実施例9]
実施例9として、実施例3のペレットを製造する過程において、上記[製造方法](2)混練工程の1)の混練後の混練物を一部抜き取り、加圧混練されていない生分解性樹脂組成物から製造されたペレットを用いた。
【0065】
【表1】
【0066】
図1に、実施例1〜5および比較例1の成型品の写真を示す。
【0067】
図2および図3に、実施例9および実施例3により得られた生分解性樹脂組成物の成型品について、均一分散性(ヨウ素―デンプン反応試験片の観察)を評価した結果を示す。本発明の好ましい達成方法の一つである混練方法により、均一分散させた生分解性樹脂組成物は、図3に示すように、デンプンが樹脂中に均一に分散したものである。一方、加圧混練を行わなかった実施例9のサンプルは、偏析がみられ、均一分散された生分解性樹脂組成物よりもやや物性が劣るものだった。
【0068】
図4および表2に、MFRの測定結果を示す。
【表2】
【0069】
実施例5〜8の樹脂組成物は、150℃におけるMFRが成型に適した範囲であり、成型加工性が良好であった。一方、比較例1の樹脂組成物は、150℃におけるMFRが高すぎる為、成型加工性が悪く、バリが発生しやすいものであった。
【0070】
[実施例10]
実施例10として、PHBHとして“7mol”品を用いて、デンプン:PHBHの重量比を55:45とした以外は、実施例1と同様の方法で、生分解性樹脂組成物のペレットを成型した。当該ペレットを、溶融プレス機(成型温度:150℃)で、シート化し、生分解性樹脂組成物のシートを作製した。
【0071】
[比較例7]
比較例7として、ネイチャーワークス社製“PLA テラマック”を、プレス成型することでポリ乳酸シートを得た。プレス時の温度は170℃、予熱時間2分、プレス圧力5kg/cm2でプレス成型を行い、得られたシートの厚みは約50μmであった。
【0072】
実施例10と比較例7のシートについて、前述の生分解性の評価を行った。その結果、実施例10のシートは、試験開始から11日で、液体培地中で原形を留めない程度まで分解することを確認することができた。一方、比較例7のPLAシートは、試験開始から28日後に、わずかに原形をとどめているものの概ね分解していることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の生分解性樹脂組成物は、優れた生分解性を有し、成型加工性に優れたものであり、各種樹脂成型加工品に使用することができる。特に、デンプンとPHA(PHBHが特に好ましい)とを均一に分散させた本発明の生分解性樹脂組成物は原料が偏析していないため、成型加工時の成型不良率が低減し、偏析部を起点とした強度低下を防止することができる成型加工に適した樹脂である。
図1
図2
図3
図4