(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6246528
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】医療用放射線滅菌対応塩化ビニル樹脂組成物およびそれからなる医療用器具
(51)【国際特許分類】
C08L 27/06 20060101AFI20171204BHJP
C08K 5/12 20060101ALI20171204BHJP
C08K 5/11 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
C08L27/06
C08K5/12
C08K5/11
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-175146(P2013-175146)
(22)【出願日】2013年8月27日
(65)【公開番号】特開2015-44891(P2015-44891A)
(43)【公開日】2015年3月12日
【審査請求日】2016年8月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000250384
【氏名又は名称】リケンテクノス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100184653
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬田 寧
(72)【発明者】
【氏名】坂井昂次
【審査官】
安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】
特表2009−518475(JP,A)
【文献】
特開2008−195898(JP,A)
【文献】
特開2005−040397(JP,A)
【文献】
特開平02−043245(JP,A)
【文献】
国際公開第2003/029339(WO,A1)
【文献】
国際公開第2011/071674(WO,A1)
【文献】
J. Appl. Polym. Sci.,2013年,128(3),p.1948-1961
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 27/06
C08K 5/11
C08K 5/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(a)塩化ビニル樹脂100質量部と、
成分(b)可塑剤1〜250質量部とを含み、
上記成分(b)は、
成分(b−1)アジピン酸エステル系可塑剤50〜99質量%と、
成分(b−2)シクロヘキサンジカルボキシレート系可塑剤50〜1質量%とを含み、
ここで成分(b−1)と成分(b−2)との合計は100質量%である
ことを特徴とする医療用塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項2】
上記成分(b−1)が、ジ(2−エチルヘキシル)アジペート、ジイソノニルアジペート、ジイソデシルアジペートからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の医療用塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項3】
上記成分(b−2)が、ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレート、ジエチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレート、ジn−ブチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレート、ジ−2−エチルヘキシルシクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレート、ジイソノニルシクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレート、ジイソデシルシクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレートからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2に記載の医療用塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項4】
医療用チューブであって、請求項1〜3の何れか1項に記載の医療用塩化ビニル樹脂組成物からなることを特徴とする医療用チューブ。
【請求項5】
医療用バッグであって、請求項1〜3の何れか1項に記載の医療用塩化ビニル樹脂組成物からなることを特徴とする医療用バッグ。
【請求項6】
医療用輸液セットであって、請求項1〜3の何れか1項に記載の医療用塩化ビニル樹脂組成物からなることを特徴とする医療用輸液セット。
【請求項7】
血液回路のジョイント部材であって、請求項1〜3の何れか1項に記載の医療用塩化ビニル樹脂組成物からなることを特徴とする血液回路のジョイント部材。
【請求項8】
医療用容器であって、請求項1〜3の何れか1項に記載の医療用塩化ビニル樹脂組成物からなることを特徴とする医療用容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用放射線滅菌対応塩化ビニル樹脂組成物に関する。更に詳しくは、γ線や電子線などの放射線を照射して滅菌する方法(以下、放射線滅菌と略すことがある。)に対し優れた耐変色性を有し、医療用材料に要求される溶出性試験において問題がなく、耐ブリード性に優れるため、医療用チューブ、医療用バッグ、医療用輸液セット又は医療用血液回路のジョイント部材、及び医療用容器などの医療用器具に好適に用いることのできる医療用放射線滅菌対応塩化ビニル樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
医療用部品は、(1)重金属等の溶出などによって人体に害を及ぼすことがないこと、(2)医療現場において使い勝手が良いこと、(3)使用時まで無菌性が保たれていること、(4)内部液の状況が確認できることなどが必要とされる。
【0003】
近年、医療用部品の滅菌には、高度の滅菌ができること、及び梱包後の滅菌が可能であり、滅菌作業の迅速化やコスト低減を図ることができることから、コバルト60などを線源とするγ線を用いる滅菌方法(以下、γ線滅菌と略すことがある。)や電子線を用いる滅菌方法などのいわゆる放射線滅菌が普及している。特にγ線滅菌は、γ線の透過力が大きいため、滅菌を均一に、ロット振れなく行うことができるので、広く普及している。ところがγ線滅菌には、照射された医療用部品に色調変化や亀裂を生じ易いという問題があった。
【0004】
γ線滅菌により亀裂が生じるようなものに、γ線滅菌を適用できないのはもちろんであるが、医療用部品の場合は色調変化であっても、部品間違いなどの医療事故を誘発する原因になる可能性があるため、そのようなものにγ線滅菌を適用することは好ましくない。
【0005】
現在、透析回路チューブ、カテーテル、血液バッグ、輸液バッグなどの軟質医療用部品には、軟質塩化ビニル系樹脂組成物が多用されている。また透析回路チューブ等の医療部品と接続して用いられる各種の医療用部品、例えば、注射器、チューブ連結部材、分岐バルブ、速度調節部品などの硬質医療用部品には、硬質塩化ビニル系樹脂組成物が多用されている。
【0006】
硬質塩化ビニル樹脂組成物からなる硬質医療用部品のγ線滅菌に対する耐変色性を改良する技術としては、「約2000未満の分子量を有するエーテル含有のアジピン酸エステルまたはグルタン酸エステル約2phr〜約20phr及びブチル化ヒドロキシトルエン約0.2phr〜約5phrを含んでなる」硬質ポリ塩化ビニル部品が提案されている(特許文献1)。また軟質塩化ビニル樹脂組成物のγ線滅菌に対する耐変色性を改良する技術としては、「総重量に対する比率として、−PVC樹脂50〜75%と、−アジピン酸の少なくとも1種のアルキルエステル20〜45%と、−エポキシ化トリグリセリドからなる群から選択される少なくとも1種の潤滑化−安定化剤2.5〜4.5%と、−カルシウム塩および亜鉛塩からなる群から選択される1種又は2種以上の安定化剤0.6〜1.5%と、−ポリオレフィンワックスからなる群から選択される少なくとも1種の潤滑剤0〜0.1%と、を含むポリ塩化ビニル(PVC)組成物を、作製される製品の透過光線照射に対する耐性を高めることを目的として、生体適合性材料で作られる物質の製造のために使用する方法。」が提案されている(特許文献2)。しかしこれらの技術では、γ線滅菌に対する耐変色性は改良されるが、耐ブリード性については十分なものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平02−43245号公報
【特許文献2】特許第3905920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、医療用塩化ビニル樹脂組成物であって、放射線滅菌に対し優れた耐変色性を有し、医療用材料に要求される溶出性試験において問題がなく、耐ブリード性にも優れ、そのため医療用チューブ、医療用バッグ、医療用輸液セット又は血液回路のジョイント部材、及び医療用容器などの医療用器具に好適に用いることのできる医療用塩化ビニル樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意研究した結果、塩化ビニル樹脂の可塑剤としてアジピン酸エステル系可塑剤とシクロヘキサンジカルボキシレート系可塑剤とを特定の割合で用いると、上記目的が達成されることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明の第一の発明によれば、
成分(a)塩化ビニル樹脂100質量部と、
成分(b)可塑剤1〜250質量部とを含み、
上記成分(b)は、
成分(b−1)アジピン酸エステル系可塑剤50〜99質量%と、
成分(b−2)シクロヘキサンジカルボキシレート系可塑剤50〜1質量%とを含み、
ここで成分(b−1)と成分(b−2)の合計は100質量%である
ことを特徴とする医療用塩化ビニル樹脂組成物が提供される。
【0011】
本発明の第二の発明によれば、上記成分(b−1)が、ジ(2−エチルヘキシル)アジペート、ジイソノニルアジペート、ジイソデシルアジペートからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする第一の発明に記載の医療用塩化ビニル樹脂組成物が提供される。
【0012】
本発明の第三の発明によれば、上記成分(b−2)が、ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレート、ジエチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレート、ジn−ブチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレート、ジ−2−エチルヘキシルシクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレート、ジイソノニルシクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレート、ジイソデシルシクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレートからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする第一の発明又は第二の発明に記載の医療用塩化ビニル樹脂組成物が提供される。
【0013】
本発明の第四の発明によれば、医療用チューブ又は医療用バッグであって、第一の発明から第三の発明の何れか1つに記載の医療用塩化ビニル樹脂組成物からなることを特徴とする医療用チューブ又は医療用バッグが提供される。
【0014】
本発明の第五の発明によれば、医療用輸液セット若しくは血液回路のジョイント部材又は医療用容器であって、第一の発明から第三の発明の何れか1つに記載の医療用塩化ビニル樹脂組成物からなることを特徴とする医療用輸液セット若しくは血液回路のジョイント部材又は医療用容器が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の医療用塩化ビニル樹脂組成物は、γ線や電子線などの放射線を照射して滅菌する方法、特にγ線滅菌に対し優れた耐変色性を有し、医療用材料に要求される溶出性試験において問題がなく、耐ブリード性にも優れるため、経管栄養チューブ、血液透析チューブ、呼吸器チューブ、カテーテル、圧モニターチューブおよびヘパリンチューブ等の医療用チューブ;血液バッグ、薬液バッグおよびドレインバッグ等の医療用バッグ;医療用輸液セット又は血液回路のジョイント部材や医療用硬質容器;などの医療用器具に好適に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の医療用塩化ビニル樹脂組成物を構成する各成分について、説明する。
【0017】
成分(a)「塩化ビニル樹脂」(必須成分)
本発明の成分(a)として用いる塩化ビニル樹脂は、−CH
2−CHCl−で表される基を有する全ての重合体を指し、塩化ビニルの単独重合体;塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル・(メタ)アクリル酸共重合体、塩化ビニル・(メタ)アクリル酸メチル共重合体、塩化ビニル・(メタ)アクリル酸エチル共重合体、塩化ビニル・マレイン酸エステル共重合体、塩化ビニル・エチレン共重合体、塩化ビニル・プロピレン共重合体、塩化ビニル・スチレン共重合体、塩化ビニル・イソブチレン共重合体、塩化ビニル・塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル・スチレン・無水マレイン酸三元共重合体、塩化ビニル・スチレン・アクリロニトリル三元共重合体、塩化ビニル・ブタジエン共重合体、塩化ビニル・イソプレン共重合体、塩化ビニル・塩素化プロピレン共重合体、塩化ビニル・塩化ビニリデン・酢酸ビニル三元共重合体、塩化ビニル・アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル・各種ビニルエーテル共重合体等の塩化ビニルと塩化ビニルと共重合可能な他のモノマーとの共重合体;後塩素化ビニル共重合体等の塩化ビニル単独重合体や塩化ビニル系共重合体を改質したもの;さらには塩素化ポリエチレン等の構造上塩化ビニル樹脂と類似の塩素化ポリオレフィンを包含する。
【0018】
塩化ビニル樹脂は、数平均重合度が300以上7000以下であるのが好ましく、更には500以上2000以下の重合度を有していることが好ましい。
【0019】
本発明の成分(a)としては、これらの塩化ビニル樹脂の1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0020】
成分(b)可塑剤(必須成分)
本発明の成分(b)として用いる可塑剤は、成分(b−1)アジピン酸エステル系可塑剤と成分(b−2)シクロヘキサンジカルボキシレート系可塑剤とを含む。好ましくは、上記成分(b−1)と上記成分(b−2)とからなる。
【0021】
成分(b−1)アジピン酸エステル系可塑剤(必須成分)
本発明に用いるアジピン酸エステル系可塑剤は、アジピン酸と、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数4〜20の一価アルコール(例えば、n−ブチルアルコール、n−ヘキシルアルコール、n−オクチルアルコール、n−デシルアルコール、イソヘプチルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、イソオクチルアルコール、イソノニルアルコール、イソデシルアルコールなどをあげることができる。)とのエステル化合物である。
【0022】
上記成分(b−1)としては、例えば、ジ(2−エチルヘキシル)アジペート、ジイソノニルアジペート、ジイソデシルアジペートなどをあげることができる。成分(b−1)としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。これらの中で、ジ(2−エチルヘキシル)アジペートが、成分(b−1)と成分(b−2)との下記配合比において、γ線滅菌に対し優れた耐変色性を有し、医療用材料に要求される溶出性試験において問題がなく、耐ブリード性に優れる点で好ましい。
【0023】
成分(b−2)シクロヘキサンジカルボキシレート系可塑剤(必須成分)
本発明に用いるシクロヘキサンジカルボキシレート系可塑剤は、シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸と、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜20の一価アルコールとのエステル化合物である。
【0024】
上記成分(b−2)としては、例えば、ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレート、ジエチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレート、ジn−ブチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレート、ジ−2−エチルヘキシルシクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレート、ジイソノニルシクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレート、ジイソデシルシクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレートなどをあげることができる。成分(b−2)としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。これらの中で、ジイソノニルシクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレートが、成分(b−1)と成分(b−2)との下記配合比において、γ線滅菌に対し優れた耐変色性を有し、医療用材料に要求される溶出性試験において問題がなく、耐ブリード性に優れる点で好ましい。
【0025】
上記成分(b−2)の市販例としては、BASF社の「Hexamoll
DINCH(商品名)」をあげることができる。
【0026】
成分(b)の配合量は、成分(a)100質量部に対して、1〜250質量部である。250質量部を超えると溶出性試験のΔpH値が悪化したり、成分(b)がブリードアウトしたりする。1質量部未満では樹脂組成物の製造性が極めて悪くなる。好ましくは1〜200質量部である。
【0027】
成分(b−1)と成分(b−2)との配合比は、γ線滅菌に対する耐変色性、溶出性試験、及び耐ブリード性の観点から、成分(b−1)が50〜99質量%であり、成分(b−2)が50〜1質量%である。ここで成分(b−1)と成分(b−2)との合計は100質量%である。好ましい配合比は、成分(b−1)60〜90質量%と成分(b−2)40〜10質量%である。
【0028】
また本発明の医療用塩化ビニル樹脂組成物は、任意成分として、医療用途向け塩化ビニル樹脂及びその樹脂組成物に通常用いられる安定剤を配合してもよい。上記安定剤としては、有機スズ化合物、バリウム−亜鉛系安定剤、カルシウム−亜鉛系安定剤などをあげることができる。好ましい安定剤は、成分(b)の配合量が1〜20質量部のときは、有機スズ化合物である。成分(b)の配合量が20質量部を超えるときは、バリウム−亜鉛系安定剤やカルシウム−亜鉛系安定剤が好ましい。また安定剤の添加量は、成分(a)100質量部に対して、0.1〜10質量部が好ましい。
【0029】
本発明の医療用塩化ビニル樹脂組成物は、成分(a)塩化ビニル樹脂、成分(b−1)アジピン酸エステル系可塑剤、成分(b−2)シクロヘキサンジカルボキシレート系可塑剤、及び所望に応じて用いる任意成分を、単軸押出機、二軸押出機、ロール、ミキサー又は各種のニーダー等を使用して溶融混練することにより得ることができる。成分(b)の配合量が1〜20質量部のときは、好ましくは二軸押出機を用い、樹脂温度150〜180℃で溶融混練することにより得ることができる。成分(b)の配合量が20質量部を超えるときは、好ましくは加圧ニーダーを用い、樹脂温度120〜160℃で、5〜10分間の溶融混練することにより得ることができる。
【実施例】
【0030】
以下に本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものでない。
【0031】
使用した原材料
成分(a)塩化ビニル樹脂
成分(a−1):
製造会社:株式会社カネカ
種類: ポリ塩化ビニル
平均重合度:700
【0032】
成分(a−2):
製造会社:新第一塩ビ株式会社
種類: ポリ塩化ビニル
平均重合度:1300
【0033】
成分(b):
成分(b−1):
製造会社: 株式会社ジェイプラス
商品名:DOA
種類:アジピン酸ビス(2−エチルヘキシル)(DEHA)
【0034】
成分(b−2):
製造会社: BASFジャパン株式会社
商品名:Hexamoll
R DINCH
種類:ジイソノニルシクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレート(DINCH)
【0035】
成分(c)その他の任意成分1(安定剤)
成分(c−1):ジオクチル錫ジメルカプト系安定剤
製造会社:株式会社ADEKA
種類: ジオクチル錫ジメルカプト
【0036】
成分(c−2):カルシウム亜鉛系複合安定剤
製造会社:株式会社ADEKA
種類: カルシウム亜鉛
【0037】
成分(d)その他の任意成分2(滑材)
成分(d−1): ポリエチレンワックス系滑材
製造会社:三井化学株式会社
種類:ポリエチレンワックス
【0038】
成分(d−2): モンタン酸系滑材
製造会社:クラリアントジャパン株式会社
種類:モンタン酸部分鹸化エステル
【0039】
評価方法
1.耐放射線変色(ΔYI値)の評価
(1)下記で得られた塩化ビニル樹脂組成物からテストロールを用いてシートを作成し、これを更にプレス装置を用いて2mm厚プレスシートに成形してテストサンプルとした。テストサンプルは2片用意した。
(2)上記で得られたテストサンプルについて、照射前の黄色度(YI値)をJIS K7105に準拠し、コンピュータカラーマッチングシステム〔住化カラー(株)製〕を用いて測定した。
(3)次いで、上記テストサンプルの一つにはコバルト60を線源とするγ線の20KGyの照射を行い、もう一つには40KGyの照射を行った。照射後サンプルを恒温恒湿の条件下(23℃、50%相対湿度)で3日間静置した。これはテストサンプルの着色黄変は、照射後もしばらくは徐々に進行するので、色を安定化させるためである。
(4)その後、照射後サンプルのYI値を上記と同じ方法で測定して、各々の照射後YI値を求めた。変色度の評価指標として、下記式で定義した黄変度(ΔYI値)を各々計算した。
ΔYI値=(照射後YI値)−(照射前YI値)
【0040】
2.耐放射線溶出性の評価
(1)テストサンプルは、上記の1.耐放射線変色(ΔYI値)の測定と同じ方法で作成したものを用いた。
(2)γ線を照射前のテストサンプルと、コバルト60を線源とするγ線を40KGy照射後のテストサンプルについて、日本医療器材協会が定めた医療用プラスチック試験規格の塩化ビニル樹脂コンパウンドI規格に準拠し、ΔpHと紫外吸収スペクトルを測定した。
(3)即ち、テストサンプルを3mm四方に裁断し、所定量精秤して硬質ガラス製容器に投入し、121℃で1時間加熱抽出した。前記抽出液を所定量精秤し、試験液を作成した。またテストサンプルを投入しなかったこと以外は上記と同様の操作を行い、ブランクを作成した。
(4)上記で得た試験液の水素イオン指数(pH)とブランクの水素イオン指数(pH)を測定し、その差(ΔpH)を計算した。
(5)また上記で得た試験液の波長220〜350nmにおける紫外線吸収スペクトルの吸光度の最大値と、ブランクの波長220〜350nmにおける紫外線吸収スペクトルの吸光度の最大値を測定し、その差(ΔUV)を計算した。
(6)上記のようにしてγ線を照射前のテストサンプルのΔpHとΔUV、及びγ線を40KGy照射後のテストサンプルのΔpHとΔUVを求めた
(7)ΔpHについては、照射前、照射後の何れも1.5以下を合格と判断した。
(8)ΔUVについては、照射前、照射後の何れも0.1以下を合格と判断した。
【0041】
3.耐ブリード性の評価
テストサンプルは、上記の1.耐放射線変色(ΔYI値)の測定と同じ方法で作成したものを用いた。テストサンプルをガンマ線照射後、10人が指で触って、べたつきの有無を試験し、べとつき有りとした者の人数により、以下の基準で評価した。
○:0人
△:1〜3人
×:4人以上
【0042】
実施例1〜22、比較例1〜6
表1〜4の何れか1に示す量(質量部)の成分を、
成分(b)の配合量が1〜20質量部のときは、二軸押出機を用い、樹脂温度180℃で溶融混練し、成分(b)の配合量が20質量部を超えるときは、加圧ニーダーを用い、樹脂温度160℃で5分間、溶融混練して塩化ビニル樹脂組成物を得た。上記の試験1〜5を行った。結果を表1〜4の何れか1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
【表3】
【0046】
【表4】
【0047】
表1〜4の何れか1に示すように、本発明の医療用塩化ビニル樹脂組成物は、放射線滅菌に対し優れた耐変色性を有し、医療用材料に要求される溶出性試験において問題がなく、耐ブリード性にも優れる
。比較例6は、成分(b)の配合量が多いため、ΔpHと耐ブリード性に劣る。比較例2と4は、成分(b−2)を用いていないため、耐ブリード性に劣る
。