(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について具体的に説明する。なお、本実施形態では、「〜」は特に断りがなければ、以上から以下を表す。
【0021】
セルロースナノファイバーの製造方法は以下の工程によって行われ、また製造されるセルロースナノファイバーは、リグニンとヘミセルロースを含むものである。
(A)パルプを準備する工程。
(B)前記パルプに化学的処理を行うことなく、分散溶媒の存在下、前記パルプの繊維束を解することで、セルロースナノファイバーを得る工程。
以下、各工程について説明する。
【0022】
[(A)工程]
原料として用いられるパルプは、発明の目的が損なわれない限り、適宜選択することができるが、例えば、木材、草木、農産物等の植物から得られるパルプが挙げられる。
本発明においては、その中でも、針葉樹から得られる針葉樹パルプがセルロースを豊富に含み、かつ、リグニンとヘミセルロースを適度に含有しているため好ましく用いられる。
【0023】
[(B)工程]
セルロースナノファイバーを得る工程において、パルプに対して化学的処理を施さない。一般に、パルプはセルロース、リグニン、ヘミセルロースの三成分を主成分とするが、本発明においてはリグニンとヘミセルロースを除去することなく、また、セルロースの分子構造を変換することなしに、セルロースナノファイバーを製造するものである。
【0024】
セルロースナノファイバーを得る工程において、原料のパルプに含まれるリグニンとヘミセルロースの除去工程は行わない。すなわち、パルプに含まれるリグニン及びヘミセルロースをそのまま含有したセルロースナノファイバーを製造することができる。このようにすることにより、セルロースナノファイバーに透明性を付与することができる。
【0025】
ここで、リグニンを除去する方法としては、特許文献1および特許文献2に記載のあるような、パルプに対して、亜塩素酸ナトリウムと酢酸を作用させるWise法や、オゾン雰囲気条件下、リグニンを酸化させることにより分解する方法が知られている。しかしながら、このような方法を用いない。
また、ヘミセルロースを除去する方法は、特許文献1および特許文献2に記載のあるような水酸化カリウム水溶液を用いた方法が知られている。しかしながら、このような方法を用いない。
【0026】
セルロースナノファイバーを得る工程において、リグニンやヘミセルロースを除去する工程を含まないので、原料パルプに含まれるリグニン及びヘミセルロースを、そのまま含んだ、セルロースナノファイバーを得ることができる。ここで、セルロースナノファイバーに含まれるリグニンとヘミセルロースの含有量の合計量の下限値は、好ましくは5重量%以上、さらに好ましくは8重量%である。このようにすることで、セルロースナノファイバーからセルロースナノファイバーシートを作製したときに、透明性を付与することができる。一方、セルロースナノファイバーに含まれるリグニンとヘミセルロースの含有量の合計量の上限値は、好ましくは20重量%以下、さらに好ましくは15重量%以下である。
このような数値範囲とすることにより、セルロースナノファイバーは、透明性と機械的強度との性能バランスが優れたセルロースナノファイバーシートを与えることが可能となる。
なお、このようにセルロースナノファイバーシートに透明性を付与することができる原因としては、セルロースナノファイバーがリグニン及びヘミセルロースを含有することによって、セルロースナノファイバーが一本一本独立したものとならず、一部繋がった状態で存在することが挙げられる。すなわち、乾燥工程を行う段階にて、セルロースナノファイバーの配向を適度に阻害することできる点が考えられる。
【0027】
また、セルロースナノファイバーを得る工程において、原料のパルプに含有するセルロースの化学構造の変換を行わない。ここでセルロースの化学構造の変換とは、例えば、セルロース分子の有する水酸基をTEMPO等の酸化触媒を用いて酸化させ、カルボン酸に変換すること、及び該カルボン酸からその誘導体とすること、あるいは、セルロース分子の有する水酸基に対して、エーテル化、アシル化等の官能基変換を行い、セルロース分子の特性を変化させること等が挙げられる。しかしながら、このような化学構造の変換を行わない。
【0028】
セルロースナノファイバーを得る工程は、分散溶媒を介して行われる。この分散溶媒は適宜選択することができるが、環境調和を考慮する観点から水が好ましく、有機溶媒や溶質等を含まないようであれば尚更好ましいと言える。
特に、有機酸やスルホン酸、リン酸およびこれらの酸の塩に代表される陰イオン性分散剤は、水環境を悪化させる懸念のある化合物群であることから、これらを含まない水を用いることが好ましいと言える。
【0029】
セルロースナノファイバーを得る工程は、分散溶媒を介してせん断力をパルプに印加できる方法を用いることが好ましい。
例えば、振動型ボールミル、回転ボールミル、遊星型ボールミル、ビーズミル、ロッドミル、ディスクミル、カッターミル、ハンマーミル、インペラーミル、エクストルーダー、高速回転羽根型ミキサー、ホモミキサー、高圧ホモジナイザー、機械式ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー等が挙げられる。
【0030】
これらの中でも特に振動型ボールミル、ビーズミルが好ましい。このような手法を採用することにより、セルロースナノファイバーを所望の繊維径および繊維長に制御することができる。
【0031】
これらの方法には粉砕子を用いる。この材質は発明の目的が損なわれない限り、適宜設定されるが、好ましくは、ガラス、高クロム鋼やステンレス等の合金類、アルミナやジルコニアなどのセラミクス等が用いることができる。これらは1種類のものを採用しても2以上の種類のものを併用しても構わない。この中でも所望のセルロースナノファイバーを得るためにはジルコニアを用いることがさらに好ましい。
【0032】
粉砕子の直径は、用いるパルプの種類、量にも依存するが、好ましくは直径1mm以上7mm以下の範囲にあり、さらに好ましくは2mm以上5mm以下の範囲にある。このような範囲の粉砕子を用いることで、セルロースナノファイバーを所望の繊維径および繊維長に制御することができ、得られるセルロースナノファイバーの分散溶媒に対する分散性を向上させることができる。
【0033】
セルロースナノファイバーを得る工程において、分散するセルロースナノファイバーの量は、発明の目的を損なわない限り、適宜設定されるが、セルロースナノファイバーがパルプと分散溶媒との合計量に対して、好ましくは0.01重量%以上10重量%以下であり、さらに好ましくは0.1重量%以上1重量%以下である。このように分散するセルロースナノファイバーの量を制御することで、長期間経過しても凝集・沈殿することのないセルロースナノファイバーの分散液を調製することができる。
【0034】
セルロースナノファイバーを得る工程の温度条件は、発明の目的を損なわない限り、適宜設定されるが、一般には0〜100℃、好ましくは0〜50℃、さらに好ましくは室温にて行われる。
【0035】
セルロースナノファイバーを得る工程が行われる時間は、発明の目的を損なわない限り、適宜設定されるが、得られるセルロースナノファイバーの繊維径および繊維長を制御する観点から、5〜120時間、好ましくは10〜100時間、さらに好ましくは20〜80時間である。
【0036】
本発明のセルロースナノファイバーは、数平均繊維径がナノオーダーである。すなわち、数平均繊維径が1μm未満であり、好ましくは200nm以下、さらに好ましくは50nm以下のセルロースナノファイバーである。このようにセルロースナノファイバーの数平均繊維径を小さくすることにより、セルロースナノファイバーのシートを作製したときに、セルロース同士が密に絡み合い、空隙を少なくすることができ、機械的強度を高めることができる。
【0037】
セルロースナノファイバーの長さは、解繊条件を選択することで適宜調整することができるが、数平均繊維長としては0.5〜10μm、好ましくは1〜5μm、さらに好ましくは2〜3μmである。セルロースナノファイバーの数平均繊維長を上記の範囲に制御することで、セルロースナノファイバー同士が密接に絡み合うことができ、機械的強度を向上させることができる。
【0038】
ここで、数平均繊維径および数平均繊維長の解析は、例えば、電子顕微鏡を用いて観測することができる。
なお、本発明において、数平均繊維径および数平均繊維長はセルロースナノファイバーの分散液を乾燥させたものを電子顕微鏡にて観測し、任意に選んだ画像内のセルロースナノファイバー100本についての繊維径および繊維長を測定し数平均値を算出したものを採用している。
【0039】
上述のように、準備したパルプに、化学的処理を行うことなく、分散溶媒の存在下、パルプの繊維束を解し、セルロースナノファイバーを得る工程を行うことで、リグニンとヘミセルロースとを含むセルロースナノファイバー分散液を得ることができる。
【0040】
上述の方法によって得られたセルロースナノファイバーは、
(C)分散した前記セルロースナノファイバーを疎水性基材上にて乾燥させることで、セルロースナノファイバーシートを得る工程、
を行うことによって、セルロースナノファイバーシートを製造することができる。
このようにして得られたセルロースナノファイバーシートは物理的強度に優れ、かつ、高い透明性を有している。
【0041】
[(C)工程]
セルロースナノファイバーシートを得る工程にて、自立膜として採取するためには、セルロースナノファイバーの有する水酸基と相互作用を起こさない、疎水性基材上にて乾燥工程が行われる。例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)にて成形されたシャーレ上で乾燥工程を行う方法などを採用することができる。
【0042】
セルロースナノファイバーシートの厚さは、セルロースナノファイバー分散液の濃度や乾燥工程の条件に応じて適宜設定されるが、一般には0.1μm〜100mmの範囲にある。
【0043】
分散したセルロースナノファイバーを乾燥する温度条件に関し、一般には0〜200℃、好ましくは0〜100℃、さらに好ましくは室温にて行われる。また、圧力条件も適宜設定されるが、通常は大気圧下、風乾等の条件で行われる。
【0044】
得られるセルロースナノファイバーシートは機械的強度に優れる。具体的には、引張強度や引張弾性率に優れるものである。なお、これらの項目は、株式会社島津製作所製AG−IS 200Nを用いて測定することができる。
これらの項目は原料のパルプや、パルプの繊維束を解する工程の条件にも影響を受けるが、適切な原料や条件を採用することによって、引張強度として、好ましくは40〜80MPa、さらに好ましくは50〜70MPaとすることができ、また、引張弾性率として、好ましくは2〜6GPa、さらに好ましくは3〜5GPaとすることができる。
【0045】
また、得られるセルロースナノファイバーシートは透明性に優れる。なお、透明性を評価するにあたっては、例えば、株式会社島津製作所製UVmini−1240を用い、可視光線透過率を測定することができる。ここで用いる可視光は、例えば、500nmの波長とすることができる。
ここで、セルロースナノファイバーシートは表面が粗くなることがあり、これにより光の散乱を招くことがある。これに対し、例えば、研磨紙等を用いて表面を研磨することで光の散乱を抑止することができる。
このようにすることで、得られるセルロースナノファイバーシートは可視光線透過率として、好ましくは5〜80%、さらに好ましくは10〜80%とすることができる。
【0046】
さらに、得られるセルロースナノファイバーシートはガスバリアー性に優れる。なお、バスバリアー性を評価するにあたっては、例えば、MOCON社製酸素透過率測定装置OX−TRAN2/21を用いることができる。
このガスバリアー性は原料のパルプや、パルプの繊維束を解する工程の条件にも影響を受けるが、適切な原料や条件を採用することによって、酸素ガス透過度(25℃、65%RH、シート厚さ20μm換算値)として、好ましくは30cc/[m
2・day・atm]以下、さらに好ましくは25cc/[m
2・day・atm]以下とすることができる。
【0047】
得られたセルロースナノファイバー分散液はセルロースの有する水酸基と相互作用を起こさない疎水性基材上で乾燥することによって自立膜として採取することができるが、部材を適宜選択し、前記部材に塗布、乾燥させることにより、セルロースナノファイバーでコーティングされた物品を得ることができる。
【0048】
具体的な部材としては、セルロースの有する水酸基と相互作用を起こしやすい部材が好ましく、例えば、ガラスや金属、金属酸化物、極性基を有した繊維や樹脂等を採用することができる。特にガラスを用いた場合は、その相互作用が強く、ガラスとセルロースナノファイバーとが強く連結する。
【0049】
セルロースナノファイバーでコーティングされた物品を製造する方法は、セルロースナノファイバー分散液を部材に塗布した後、乾燥させることで、溶媒を蒸発させることによって行われる。乾燥条件はセルロースナノファイバーシートを製造する際と同様の条件を採用することができる。
【0050】
セルロースナノファイバー分散液を部材に塗布する方法は、従来公知の方法を採用することができ、例えば、スプレー法、スピンコート法、ディッピング法、ロールコースター法等を用いることができる。これらの方法は、使用する部材の材質や形状に応じて、適切なものを採用することができる。
【0051】
また、セルロースナノファイバー分散液は電解質を添加することによって導電性を付与することができる。これにより、セルロースナノファイバーを原料とした導電性シートを製造することができる。
【0052】
ここで、セルロースナノファイバーを原料とした導電性シートは、例えば、三菱化学アナリテック社製ハイレスタUP MCP−HT450を用い、JIS−K6911に準拠し、体積抵抗値を測定することで、その導電性を評価することができる。
この体積抵抗値は、原料パルプや、パルプの繊維束を解する工程の条件、電解質の種類にも影響を受けるが、適切な条件を採用することによって、好ましくは1.00×10
2Ω・cm以上1.00×10
9Ω・cm以下、さらに好ましくは1.00×10
3Ω・cm以上1.00×10
8Ω・cm以下とすることができる。
【0053】
電解質を添加する工程は、セルロースナノファイバー分散液を調製した後であって、乾燥させる工程の前後、どちらで行っても構わない。
乾燥させる工程の前に電解質を添加する工程を行う場合、例えば、セルロースナノファイバー分散液に対し電解質を添加し、電解質を含有するセルロースナノファイバー分散液を得、この電解質を含有するセルロースナノファイバー分散液を疎水性基材上で乾燥させればよい。ここで、セルロースナノファイバーシートに均一に電解質を添加するためには、電解質が分散溶媒に溶解することが好ましい。
【0054】
セルロースナノファイバー分散液を調整し、疎水性基材の上で乾燥し、セルロースナノファイバーシートを得た後に電解質を添加する場合は、例えば、得られたセルロースナノファイバーシートを電解質に含浸させるなどの方法を採用することができる。
【0055】
本発明で用いられる電解質は用途に合わせ、有機化合物、無機化合物どちらも採用することができる。
【0056】
電解質として用いることのできる有機化合物としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸等のカルボン酸、メタンスルホン酸やベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸等のスルホン酸、その他、フェノールや有機リン酸化合物、アンモニウム塩、イミダゾリウム塩、ピリジニウム塩、ホスホニウム塩等を用いることができる。これらの化合物は単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。また、化合物を溶媒等に希釈して使用することもできるし、化合物そのものを希釈せずにセルロースナノファイバーに添加することもできる。
これらの中でも、入手容易性が高く、取り扱いに優れる観点から酢酸を用いることが好ましい。
【0057】
電解質に用いることのできる無機化合物としては、例えば、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化バリウム、塩化マグネシウム等のハロゲン化金属化合物、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム等の硫酸塩、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム等の硝酸塩等の金属塩が挙げられる。それ以外にも、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の鉱酸類を用いることができる。これらの化合物は単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。また、化合物を溶媒等に希釈して使用することもできるし、化合物そのものを希釈せずにセルロースナノファイバーに添加することもできる。
【0058】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
以下、参考形態の例を付記する。
1. セルロースナノファイバーの製造方法であって、
(A)パルプを準備する工程と、
(B)前記パルプに化学的処理を行うことなく、分散溶媒の存在下、前記パルプの繊維束を解することで、セルロースナノファイバーを得る工程と、
を含み、
前記セルロースナノファイバーは、リグニンとヘミセルロースとを含む、
セルロースナノファイバーの製造方法。
2. 前記分散溶媒は水である、1.に記載のセルロースナノファイバーの製造方法。
3. 前記水は陰イオン性分散剤を含まない、2.に記載のセルロースナノファイバーの製造方法。
4. 前記リグニンの含有量と前記ヘミセルロースの含有量の合計量が前記セルロースナノファイバー全量に対し、5重量%以上20重量%以下である、1.乃至3.のいずれか一つに記載のセルロースナノファイバーの製造方法。
5. 前記(B)工程は、振動型ボールミルまたはビーズミルにより施される、1.乃至4.のいずれか一つに記載のセルロースナノファイバーの製造方法。
6. 前記振動型ボールミルまたはビーズミルに用いられる粉砕子は直径1mm以上7mm以下の範囲にある、5.に記載のセルロースナノファイバーの製造方法。
7. 前記振動型ボールミルまたはビーズミルには、材質がジルコニアの粉砕子が用いられる、5.または6.に記載のセルロースナノファイバーの製造方法。
8. 前記(B)工程において、前記セルロースナノファイバーを前記パルプと前記分散溶媒の合計量に対して、0.01重量%以上10重量%以下分散させる、1.乃至7.いずれか一つに記載のセルロースナノファイバーの製造方法。
9. セルロースナノファイバーシートの製造方法であって、
(A)パルプを準備する工程と、
(B)前記パルプに化学的処理を行うことなく、分散溶媒の存在下、前記パルプの繊維束を解することで、セルロースナノファイバーを得る工程と、
(C)分散した前記セルロースナノファイバーを疎水性基材上にて乾燥させ、セルロースナノファイバーシートを得る工程と、
を含み、
前記セルロースナノファイバーは、リグニンと、ヘミセルロースとを含む、
セルロースナノファイバーシートの製造方法。
10. 前記分散溶媒は水である、9.に記載のセルロースナノファイバーシートの製造方法。
11. 前記水は陰イオン性分散剤を含まない、10.に記載のセルロースナノファイバーシートの製造方法。
12. 前記リグニンの含有量と前記ヘミセルロースの含有量の合計量が前記セルロースナノファイバー全量に対し、5重量%以上20重量%以下である、9.乃至11.いずれか一つに記載のセルロースナノファイバーシートの製造方法。
13. 前記(B)工程は、振動型ボールミルまたはビーズミルにより施される、9.乃至12.いずれか一つに記載のセルロースナノファイバーシートの製造方法。
14. 前記振動型ボールミルまたはビーズミルに用いられる粉砕子は直径1mm以上7mm以下の範囲にある、13.に記載のセルロースナノファイバーシートの製造方法。
15. 前記振動型ボールミルまたはビーズミルには、材質がジルコニアの粉砕子が用いられる、13.または14.に記載のセルロースナノファイバーシートの製造方法。
16. 前記(B)工程において、前記セルロースナノファイバーを前記パルプと前記分散溶媒の合計量に対して、0.01重量%以上10重量%以下分散させる、9.乃至15.いずれか一つに記載のセルロースナノファイバーシートの製造方法。
17. 前記疎水性基材の材質はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)である、9.乃至16.いずれか一つに記載のセルロースナノファイバーシートの製造方法。
18. 9.乃至17.いずれか一つに記載のセルロースナノファイバーシートの製造方法によって得られる、セルロースナノファイバーシート。
19. 25℃・65%RH条件下、シート厚さ20μmにおける酸素ガス透過度の換算値が30cc/[m2・day・atm]以下である、18.に記載のセルロースナノファイバーシート。
20. セルロースナノファイバー分散液の製造方法であって、
(A)パルプを準備する工程と、
(D)前記パルプに化学的処理を行うことなく、分散溶媒の存在下、前記パルプの繊維束を解することで、セルロースナノファイバーが前記分散溶媒中に分散したセルロースナノファイバー分散液を得る工程と、
を含み、
前記セルロースナノファイバーは、リグニンとヘミセルロースとを含む、
セルロースナノファイバー分散液の製造方法。
21. 導電性シートの製造方法であって、
セルロースナノファイバー分散液を準備する工程と、
前記セルロースナノファイバー分散液に電解質を添加し、電解質を含有するセルロースナノファイバー分散液を得る工程と、
前記電解質を含有するセルロースナノファイバー分散液を、疎水性基材上にて乾燥させ、導電性シートを得る工程と、
を含み、
前記セルロースナノファイバー分散液は20.に記載のセルロースナノファイバー分散液の製造方法により得られるセルロースナノファイバー分散液である、
導電性シートの製造方法。
22. 前記電解質は酢酸である、21.に記載の導電性シートの製造方法。
23. セルロースナノファイバーでコーティングされた物品の製造方法であって、
セルロースナノファイバー分散液を準備する工程と、
前記セルロースナノファイバー分散液を、部材に塗布し、乾燥させ、セルロースナノファイバーでコーティングされた物品を得る工程と、
を含み、
前記セルロースナノファイバー分散液は20.に記載のセルロースナノファイバー分散液の製造方法により得られるセルロースナノファイバー分散液である、
セルロースナノファイバーでコーティングされた物品の製造方法。
【実施例】
【0059】
(実施例1)
<セルロースナノファイバー分散液Aの調製>
硝子製振動型ボールミル容器に、針葉樹パルプ(日本製紙株式会社製、含有するリグニン及びヘミセルロースの合計量10重量%)0.7g、水150mLを加え、粉砕子として、直径2mmのジルコニアボールを120g加え、室温で67時間解繊処理を行った。解繊処理を行った後、ジルコニアボールを除去することにより、セルロースナノファイバー分散液Aを得た。
この分散液を一部採取し、乾燥させ、電子顕微鏡で観測したところ、幅10〜100nm、長さ5μm以上のセルロースナノファイバーが得られることを確認した。得られたセルロースナノファイバーの電子顕微鏡写真を示す図を
図1に掲載する。
なお、本実施例により得られたセルロースナノファイバー分散液Aは1ヶ月以上凝集・沈殿することはなく、安定なものであった。
【0060】
(実施例2)
<セルロースナノファイバー分散液Bの調製>
硝子製振動型ボールミル容器に、針葉樹パルプ(日本製紙株式会社製、含有するリグニン及びヘミセルロースの合計量10重量%)0.7g、水143gを加え、粉砕子として、直径5mmのジルコニアボール121gを入れ、室温で47時間解繊処理を行った。解繊処理を行った後、ジルコニアボールを除去することにより、セルロースナノファイバー分散液Bを得た。
なお、本実施例により得られたセルロースナノファイバー分散液は1ヶ月以上凝集・沈殿することはなく、安定なものであった。
【0061】
(実施例3)
<セルロースナノファイバー分散液Cの調製>
硝子製振動型ボールミル容器に、針葉樹パルプ(日本製紙株式会社製、含有するリグニン及びヘミセルロースの合計量10重量%)0.7g、水150gを加え、さらに粉砕子として、直径2mmのジルコニアボールを120g入れ、室温で23時間解繊処理を行った。解繊処理を行った後、ジルコニアボールを除去することにより、セルロースナノファイバー分散液Cを得た。
なお、本実施例により得られたセルロースナノファイバー分散液は1ヶ月以上凝集・沈殿することはなく、安定なものであった。
【0062】
(実施例4)
<セルロースナノファイバーシートAの調製>
実施例1により得られたセルロースナノファイバー分散液Aのうち、29gをPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製シャーレ(内径75mm)上に採取し、室温、風乾条件により、溶媒である水を蒸発させた。結果、厚さ26μmのセルロースナノファイバーシートAを自立膜として得ることができた。
図2には該セルロースナノファイバーシートの写真を示す。
【0063】
(引張強度および引張弾性率)
このようにして得られたセルロースナノファイバーシートAについて、株式会社島津製作所製AG−IS 200Nを使用し、引張速度5mm/minの条件にて引張強度および引張弾性率を測定した。
【0064】
(酸素ガス透過度)
得られたセルロースナノファイバーシートAは、酸素透過率測定装置OX−TRAN2/21(MOCON社製)を用い、25℃・65%RH条件にて酸素ガス透過度を測定した。
【0065】
(可視光透過率)
このようにして得られたセルロースナノファイバーシートAについて、表面を研磨紙♯4000にて研磨した後、株式会社島津製作所製UVmini−1240を用いて、可視光透過率を測定した。なお、本測定に用いた測定光の波長は550nmである。
【0066】
(実施例5)
<セルロースナノファイバーシートBの調製>
実施例2により得られたセルロースナノファイバー分散液Bのうち、18gをPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)上(内径75mm)に採取し、室温、風乾条件により、溶媒である水を蒸発させた。結果として、厚さ16μmのセルロースナノファイバーシートBを得ることができた。
このようにして得られたセルロースナノファイバーシートBについて、実験例4によって得られたセルロースナノファイバーシートAと同様の条件にて、引張強度、引張弾性率、酸素ガス透過度、可視光透過率を測定した。なお、得られた酸素ガス透過度はシート20μm換算値として評価を行った。
【0067】
(実施例6)
<セルロースナノファイバーシートCの調製>
実施例3により得られたセルロースナノファイバー分散液Cのうち、24gをPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)シャーレ(内径75mm)上に採取し、室温、風乾条件により、溶媒である水を蒸発させた。結果として、厚さ22μmのセルロースナノファイバーシートCを得ることができた。
このようにして得られたセルロースナノファイバーシートBについて、実験例4によって得られたセルロースナノファイバーシートAと同様の条件にて、引張強度、引張弾性率、酸素ガス透過度、可視光透過率を測定した。なお、得られた酸素ガス透過度はシート20μm換算値として評価を行った。
【0068】
(比較例1)
硝子製振動型ボールミル容器にリグニンおよびヘミセルロースを含まない濾紙(アドバンテック株式会社製、定量濾紙#2)0.7g、水150mLを加え、粉砕子として、直径2mmのジルコニアボールを120g硝子製ボールミル容器に入れ、室温で67時間解繊処理を行った。解繊処理を行った後、ジルコニアボールを除去することにより、セルロースナノファイバー分散液Dを得た。
得られたセルロースナノファイバー分散液Dのうち7.4gをPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製シャーレ(内径50mm)上に採取し、室温、風乾条件により、溶媒である水を蒸発させた。しかしながら、セルロースナノファイバー分散液Dを乾燥させた場合は、シート状に成形することができなかった。
【0069】
実施例4,5,6および比較例1の結果を表1に示す。なお、比較例1ではセルロースナノファイバーをシート状に成形することができなかったため、いずれの物性値も測定不能であった。
【0070】
【表1】
【0071】
表1の結果から、本発明のセルロースナノファイバーシートは機械的強度と透明性との性能バランスに優れたものであることがわかる。
また、得られた酸素ガス透過度の結果から、本発明のセルロースナノファイバーシートはいずれも一般的な酸素バリア性樹脂であるナイロン6(38cc/[m
2・day・atm])より高いガスバリアー性を示すものであると言える。
【0072】
(実施例7)
<導電性シートの調製>
実施例1にて得られたセルロースナノファイバー分散液Aのうち7.4gをPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製シャーレ(内径50mm)上に採取し、さらに、酢酸を11.2mg添加した。この酢酸含有セルロースナノファイバー分散液を、室温、風乾条件により、溶媒である水を蒸発させた。結果として、厚さ12μmの導電性を有するセルロースナノファイバーシートを自立膜として得ることができた。
【0073】
この導電性を有するセルロースナノファイバーシートについてハイレスタUP MCP−HT450を用い体積抵抗値を測定したところ、3.37×10
6Ω・cmであった。なお、本測定時における相対湿度は41%であった。
【0074】
一方、実施例1により得られたセルロースナノファイバー分散液Aのうち7.4gをPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製シャーレ(内径50mm)上に採取し、室温、風乾条件により、溶媒である水を蒸発させた。結果として、厚さ12μmのセルロースナノファイバーシートを自立膜として得た。
このようにして、得られたセルロースナノファイバーシートについて、同条件にて体積抵抗値を測定したところ、3.63×10
11Ω・cmであった。
【0075】
これらの結果から、セルロースナノファイバーシートに対し、酢酸のような電解質をドープすることにより導電性を付与することができ、半導体レベルまで体積抵抗値を低下させることができるものと言える。