(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ピストンは、前記下方空間を、上方に位置する空間である上方位置空間と、下方に位置する空間である下方位置空間とに区分する区分部材を保持すると共に、当該上方位置空間と当該下方位置空間とを連通する孔である空間連通孔が形成されており、
前記ピストンの前記空間連通孔を通過する流体の量を調整する調整機構をさらに備え、
前記上部空間の内部には、前記調整機構を操作する操作部が配置されている
ことを特徴とする請求項1に記載の懸架装置。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1は、本実施の形態に係る自動二輪車1の概略構成を示す図である。
自動二輪車1は、前側の車輪である前輪2と、後前の車輪である後輪3と、自動二輪車1の骨格をなす車体フレーム11、ハンドル12およびエンジン13などを有する車両本体10と、を備えている。また、自動二輪車1は、前輪2と車両本体10とを接続する懸架装置の一例としてのフロントフォーク21を、前輪2の左側と右側にそれぞれ1つずつ有し、後輪3と車両本体10とを接続するリヤサスペンション22を、後輪3の左側と右側にそれぞれ1つずつ有している。
図1では、右側に配置されたフロントフォーク21およびリヤサスペンション22のみを示している。また、自動二輪車1は、前輪2の左側に配置されたフロントフォーク21と前輪2の右側に配置されたフロントフォーク21とを保持する2つのブラケット14と、2つのブラケット14の間に配置されたシャフト15と、を備えている。シャフト15は、車体フレーム11に回転可能に支持されている。
【0016】
次に、フロントフォーク21について詳述する。
図2は、本発明の実施の形態に係るフロントフォーク21の断面図である。
図3は、
図2のIII部の拡大図である。
図4は、
図2のIV部の拡大図である。
図5は、後述するロッドガイドケース130を下方から見た斜視図である。
本実施の形態に係るフロントフォーク21は、自動二輪車1の車両本体10と前輪2との間に配置されて前輪2を支えるとともに、後述するインナチューブ110が前輪2側にアウタチューブ210が車両本体10側に配置された、所謂倒立型のフロントフォークである。
【0017】
フロントフォーク21は、インナチューブ110を有して前輪2の車軸に取り付けられる車軸側ユニット100と、アウタチューブ210を有して車両本体10に取り付けられる本体側ユニット200と、を備えている。また、フロントフォーク21は、車軸側ユニット100と本体側ユニット200との間に配置されて、路面の凸凹に伴い前輪2が受ける振動を吸収するコイルスプリング400と、後述する下ばね受け124と協働してコイルスプリング400を支持するスプリング支持部材410と、を備えている。
【0018】
インナチューブ110およびアウタチューブ210は、同軸的に配置された略円筒状の部材であり、この円筒の中心線の方向(軸方向)を、以下では「上下方向」と称し、車両本体10側を上側、前輪2側を下側と称する場合がある。そして、フロントフォーク21は、車軸側ユニット100と本体側ユニット200とが上下方向(軸方向)に相対的に移動することにより、前輪2を支持しながら路面の凸凹を吸収して振動を抑制する。
【0019】
[車軸側ユニット100の構成]
車軸側ユニット100は、両端が開口した略円筒状のインナチューブ110と、インナチューブ110における下側の端部(下端部)に取り付けられるとともに前輪2に取り付けられる車軸ブラケット120と、インナチューブ110と車軸ブラケット120との間をシールするオイルシール125と、を備えている。また、車軸側ユニット100は、インナチューブ110における上側の端部(上端部)に取り付けられて、本体側ユニット200の後述するピストンロッド235の移動をガイドするロッドガイドケース130と、ロッドガイドケース130とアウタチューブ210との間をシールするオイルリング135と、ロッドガイドケース130内外のオイルの流通を調整する給排装置150と、を備えている。
【0020】
(インナチューブ110の構成)
インナチューブ110は、その外径が、アウタチューブ210の内径よりも小さく形成されており、インナチューブ110がアウタチューブ210内に進入した状態において、インナチューブ110の外周面とアウタチューブ210の内周面との間には環状の油室である環状油室20が形成される。
【0021】
インナチューブ110の内周面は、本体側ユニット200の後述するピストン220が滑らかに摺動するように、上下方向に沿って均一な内径で形成されている。ただし、上側の端部の内周面には、ロッドガイドケース130の後述する雄ねじ131aが締め付けられる雌ねじ111が形成されている。他方、インナチューブ110の外周面は、基本的には上下方向に沿って均一な外径で形成されているが、上側の端部には全周に渡って凹んだ凹部112が形成されている。また、インナチューブ110の下側の端部の外周面には、車軸ブラケット120の後述する雌ねじ121aに締め付けられる雄ねじ113が形成されている。また、インナチューブ110には、ロッドガイドケース130が取り付けられた状態において、このロッドガイドケース130よりも下側の部位に、インナチューブ110の内側と環状油室20とを連通する連通孔114が形成されている。
【0022】
上述した凹部112には、アウタチューブ210の内周面との摺動を円滑にするためのスライドブッシュ115が嵌め込まれている。スライドブッシュ115は、円筒状に形成された軸受であり、インナチューブ110に取り付けられた状態で、その外周面がインナチューブ110の外周面よりも外側に突出するように、スライドブッシュ115の外径がインナチューブ110の外径よりも大きく設定されている。
そして、このインナチューブ110内には所定量のオイルが注入されている。
【0023】
(車軸ブラケット120の構成)
車軸ブラケット120には、
図2に示すように、インナチューブ110が挿入される凹部121と、前輪2の車軸を取り付け可能な車軸取付孔122と、が形成されている。凹部121には、インナチューブ110の雄ねじ113が締め付けられる雌ねじ121aと、インナチューブ110の外周面と凹部121との間をシールするオイルシール125が嵌め込まれるシール溝121bが形成されている。また、凹部121には、コイルスプリング400の下側の端部が載り、スプリング荷重を受ける下ばね受け124が取り付けられている。
【0024】
車軸ブラケット120は、インナチューブ110の雄ねじ113が雌ねじ121aに締め付けられることで、インナチューブ110における下側の端部の開口を塞ぐように取り付けられる。そして、凹部121のシール溝121bに嵌め込まれたオイルシール125が、インナチューブ110の外周面と車軸ブラケット120との間をシールすることでインナチューブ110内に注入されたオイルの漏れを防止する。
【0025】
(ロッドガイドケース130の構成)
ロッドガイドケース130は、
図3及び
図5に示すように、中心線の方向が上下方向となるように形成された円筒状の円筒状部131と、この円筒状部131における下側の端部の下方に設けられて下側の端部の開口を塞ぐように半径方向の内側に向かうように形成された内向部132と、円筒状部131における上側の端部の上方において、半径方向の外側に向かうように形成された外向部133と、を備えている。
【0026】
円筒状部131における上側の端部の外周面には、インナチューブ110に形成された雌ねじ111に締め付けられる雄ねじ131aが形成されている。そして、雄ねじ131aの下方における円筒状部131は、その外径が、インナチューブ110の内径よりも小さく形成されており、ロッドガイドケース130がインナチューブ110に取り付けられた状態において、円筒状部131の外周面とインナチューブ110の内周面との間には環状の隙間である環状隙間25(
図7も参照)が形成される。また、円筒状部131における下側の端部には、内外を連通する連通孔131cが形成されている。また、円筒状部131における上側の端部の外周面には、内側に凹んだ円筒状部側凹部131dが、上下方向に関しては雄ねじ131aの上方から下方にかけて、周方向に関しては後述する外向部側凹部133cと対応する位置に形成されている。
【0027】
内向部132の中央部には、上下方向に貫通する貫通孔を利用して形成されたバルブ室140が形成されている。バルブ室140には、給排装置150が配置される。また、内向部132の外周面には、インナチューブ110の内周面との間をシールするオイルシール145が嵌め込まれるシール溝132bが形成されている。
バルブ室140は、内向部132を貫通する貫通孔132aと内向部132における下側の端面から凹んだ第1凹部141および第2凹部142にて構成される。第1凹部141および第2凹部142は、下側の端面から上側の端面にかけて径が小さくなるように異なる円柱状の凹みであり、径が大きい円柱状の第1凹部141と、径が小さい円柱状の第2凹部142と、から構成される。また、第1凹部141の内周面には、この内周面から外側に凹んだ溝141aが全周に渡って形成されている。
【0028】
外向部133の外周面には、アウタチューブ210の内周面とロッドガイドケース130との間をシールするオイルリング135が嵌め込まれるリング溝133aが周方向の全域に渡って形成されている。リング溝133aに嵌め込まれたオイルリング135が、上述した環状油室20における上側の部位を区画する部材として機能する。
外向部133における下側の端面133bは、インナチューブ110における上側の端面が突き当たる突当面として機能する。つまり、外向部133の下側の端面133bは、上下方向に直交する面に形成され、インナチューブ110の上側の端面と全周に渡って接触し、インナチューブ110の内部空間を封止する。そして、外向部133には、下側の端面133bから上側に凹んだ外向部側凹部133cが、周方向の一部の領域であって、円筒状部131の円筒状部側凹部131dと対応する位置に形成されている。つまり、
図3及び
図5に示すように、外向部側凹部133cと円筒状部側凹部131dとは、連続するように形成されており、環状油室20と環状隙間25とを連通する通路である連通路40として機能する。
【0029】
以上のように構成されたロッドガイドケース130においては、内向部132が、インナチューブ110内の空間を、内向部132よりも上方の空間と内向部132よりも下方の空間とに区画する。また、円筒状部131が、内向部132よりも上方の空間を、円筒状部131の内側の空間と円筒状部131の外側の空間とに区画する。そして、内向部132よりも上方であって円筒状部131の内側の部位が、オイルが溜まる油溜室45として機能する。また、内向部132よりも下方であってインナチューブ110の内側の空間が、主となる減衰力を発生するオイルが溜まる作動油室50として機能する。また、内向部132よりも上方であって円筒状部131の外側の部位が、上述した環状隙間25である。内向部132に形成されたシール溝132bに嵌め込まれたオイルシール145が、環状隙間25と作動油室50とを区画する。
【0030】
付言すれば、オイルリング135およびオイルシール145を保持するロッドガイドケース130は、インナチューブ110における上側の端部に取り付けられてアウタチューブ210の内周面とインナチューブ110の外周面との間に形成された環状油室20の上側の端部を区画すると共に、インナチューブ110の内側の部位に椀状に形成された椀部の一例としての円筒状部131及び内向部132を有し、インナチューブ110内の空間を、円筒状部131及び内向部132よりも上方の空間である上方空間の一例としての油溜室45と下方の空間である下方空間の一例としての作動油室50及び環状隙間25とに区分する隔壁部材として機能する。そして、オイルリング135およびオイルシール145を保持するロッドガイドケース130は、下方空間の一例としての作動油室50及び環状隙間25を、ロッドガイドケース130とインナチューブ110との間の間隙空間の一例としての環状隙間25と、環状隙間25以外の空間の一例としての作動油室50とに区分すると共に、オイルが存在する油溜室45と環状隙間25とを連通するように連通孔131cが形成され、環状油室20の上部と環状隙間25とを連通する連通路40が設けられている。
なお、インナチューブ110内における油溜室45の上部の空間及びアウタチューブ210内の上部の空間とは繋がり、これらの空間に空気が充填されている。ゆえに、油溜室45の下部は、インナチューブ110内に注入されたオイルが溜まるオイル室46として機能し、油溜室45の上部の空間及びアウタチューブ210内の上部の空間は空気室47として機能する。
【0031】
(給排装置150の構成)
給排装置150は、
図3に示すように、油溜室45から作動油室50へのオイルの流れを許容するとともに、作動油室50から油溜室45へのオイルの流れを阻止するチェック弁151と、チェック弁151の下方に配置されたバックアップスプリング152と、バックアップスプリング152の下方に配置されてバックアップスプリング152が着座するスプリングシート153と、これらチェック弁151、バックアップスプリング152およびスプリングシート153の下方への脱落を抑制するストッパリング154と、を備える。
【0032】
チェック弁151は、下側の端部にフランジ151aが形成された円筒状の部材である。そして、このチェック弁151の内周には、ピストンロッド235を摺動可能に支持する円筒状のブッシュ151bが圧入されている。そして、チェック弁151は、フランジ151aがバルブ室140の第2凹部142に配置されるとともに、フランジ151aにおける上側の端面が、第2凹部142の底部(上側の端面)に接触する状態と離間した状態とに遷移するように、ピストンロッド235の外周に沿って上下方向に移動する。
【0033】
バックアップスプリング152は、例えば皿ばね状の部材であり、スプリングシート153に着座した状態において、内周部又は外周部において周方向の複数箇所が、チェック弁151のフランジ151aにおける下側の端面に接触する。
【0034】
スプリングシート153は、中央部に孔が形成された円板状の部材であり、外周部に半径方向に凹凸する凹部と凸部が周方向に交互に形成されている。そして、スプリングシート153は、バルブ室140の第1凹部141に配置されて、外周部に形成された凹部を介してオイルを流通させる。
【0035】
ストッパリング154は、C字状の止め輪であり、バルブ室140の第1凹部141の内周面に形成された溝141aに嵌め込まれる。そして、ストッパリング154は、スプリングシート153の下方に配置されて、スプリングシート153を下側から支持する。
【0036】
[本体側ユニット200の構成]
本体側ユニット200は、
図2に示すように、両端が開口した略円筒状のアウタチューブ210と、アウタチューブ210における下側の端部(下端部)に取り付けられたガイドブッシュ211と、ガイドブッシュ211よりも下方に取り付けられたオイルシール212と、オイルシール212よりも下方に取り付けられたダストシール213と、を備えている。
【0037】
また、本体側ユニット200は、インナチューブ110の内側の空間に形成された作動油室50内を摺動するピストン220と、ピストン220を保持するピストンボルト230と、ピストンボルト230を下側の端部に保持するピストンロッド235と、を備えている。
【0038】
また、本体側ユニット200は、アウタチューブ210における上側の端部(上端部)に取り付けられて上側の開口部を塞ぐキャップ240と、このキャップ240に取り付けられるとともにピストンロッド235における上側の端部を支持する支持部材250と、を備えている。また、本体側ユニット200は、キャップ240の後述する円筒状部241の内周と支持部材250の第1円筒状部251の外周とで形成される環状の凹部に配置された円筒状のストッパラバー255と、ストッパラバー255の下方に配置された円板状のストッパ板256と、ストッパ板256の下方に配置されたストッパリング257と、を備えている。
【0039】
また、本体側ユニット200は、オイルの粘性抵抗を利用した減衰力を発生する減衰力発生装置260と、減衰力発生装置260の減衰力を調整する減衰力調整装置270とを備えている。また、本体側ユニット200は、下ばね受け124と協働してコイルスプリング400を支持するスプリング支持部材410を備えている。
【0040】
(アウタチューブ210の構成)
アウタチューブ210は、
図2に示すように、略円筒状の部材であるが、下側の端部は、ガイドブッシュ211、オイルシール212およびダストシール213を内側に保持可能なように拡径されており、上側の端部の内周面には、キャップ240に形成された雄ねじ241aが締め付けられる雌ねじ210aが形成されている。
【0041】
ガイドブッシュ211は、アウタチューブ210の内周面とインナチューブ110の外周面との摺動を円滑にするための部材である。このガイドブッシュ211は、円筒状に形成された軸受であり、アウタチューブ210に取り付けられた状態で、その内周面がアウタチューブ210の内周面よりも内側に突出するように、ガイドブッシュ211の内径がアウタチューブ210の内径よりも小さく設定されている。そして、このガイドブッシュ211が、上述した環状油室20における下側の部位を区画する部材として機能する。
【0042】
オイルシール212は、アウタチューブ210とインナチューブ110との摺動に伴い、ガイドブッシュ211から漏れる作動油の外部への流出を防止する。
ダストシール213は、このフロントフォーク21の外部からの水分や挨等の異物の浸入を抑制する。
【0043】
(ピストン220の構成)
ピストン220は、
図4に示すように、上下方向に形成された複数の油路を有する円筒状の部材である。より具体的には、ピストン220には、ピストンボルト230の後述する第3円筒状部233を通すために中央部に上下方向に貫通されたボルト孔220aと、ボルト孔220aよりも半径方向の外側の部位に上下方向に貫通された孔にて構成される第1油路220bと、第1油路220bよりも半径方向の外側の部位に上下方向に貫通された孔にて構成される第2油路220cとが形成されている。また、ピストン220の外周面には、インナチューブ110の内周面との間をシールするオイルリング221が嵌め込まれるリング溝220dが周方向の全域に渡って形成されている。このリング溝220dに嵌め込まれたオイルリング221が、作動油室50を、オイルリング221よりも上側に位置してピストンロッド235が存在する油室である上方位置空間の一例としてのピストンロッド側油室51と、オイルリング221よりも下側に位置する油室である下方位置空間の一例としてのピストン側油室52とに区画する。つまり、オイルリング221を保持したピストン220が、作動油室50を、ピストンロッド側油室51とピストン側油室52とに区画する。そして、上述した第1油路220bおよび第2油路220cは、ピストンロッド側油室51とピストン側油室52とを連通する連通路として機能する。そして、このピストン220は、減衰力発生装置260の一部を構成する。この減衰力発生装置260については後で詳述する。
【0044】
(ピストンボルト230の構成)
ピストンボルト230は、
図4に示すように、円筒状の第1円筒状部231と、第1円筒状部231の下側の端部から下方に延びるように形成された円筒状の第2円筒状部232と、第2円筒状部232の下側の端部から下方に延びるように形成された円筒状の第3円筒状部233と、を有している。第1円筒状部231の内周面には、ピストンロッド235に形成された後述する雄ねじ235bが締め付けられる雌ねじ231aが形成されている。また、第3円筒状部233における下側の端部には、雄ねじ233aが形成されている。また、第2円筒状部232には、内外を連通する半径方向(上下方向に直交する方向)の貫通孔2
32aが形成されている。この貫通孔2
32aおよび第3円筒状部233の内側の部位が、ピストン220に形成された第1油路220b及び第2油路220cを迂回してピストンロッド側油室51とピストン側油室52とを連通する迂回路60として機能する。
【0045】
(ピストンロッド235の構成)
ピストンロッド235は、円筒状の部材であり、上側の端部の外周面には、
図3に示すように、支持部材250に形成された後述する雌ねじ252aに締め付けられる雄ねじ235aが形成されており、下側の端部の外周面には、
図4に示すように、ピストンボルト230に形成された雌ねじ231aに締め付けられる雄ねじ235bが形成されている。また、ピストンロッド235における雄ねじ235bよりも上方の部位には、内外を連通する半径方向の貫通孔235cが形成されている。貫通孔235cは、上下方向に直交する方向から見ると上下方向が長い長孔状に形成されている。また、貫通孔235cは、ピストンロッド235の外周面に、周方向に180度間隔で形成されている。
なお、ピストンロッド235の外周面をなす外径をDoとした場合の面積πDo
2/4を、以下では「ピストンロッド235の断面積」と称す。そして、本実施の形態に係るピストンロッド235の断面積は、環状油室20の断面積(上下方向に直交する面で切断した断面積)よりも小さく設定されている。
【0046】
(キャップ240の構成)
キャップ240は、
図3に示すように、円筒状の円筒状部241と、この円筒状部241における上側の端部に設けられて開口を塞ぐように半径方向の内側に向かうように形成された内向部242と、内向部242の中央部における下側の端面から下方に突出する円柱状の円柱状部243と、を有している。
【0047】
円筒状部241の外周面には、アウタチューブ210の内周面に形成された雌ねじ210aに締め付けられる雄ねじ241aと、雄ねじ241aの上方においてアウタチューブ210の内周面との間をシールするシール部材245が嵌め込まれるシール溝241bが形成されている。また、円筒状部241の外周面におけるシール溝241bの上方には、この外周面から半径方向の外側に突出する突出部241cが設けられている。
【0048】
円柱状部243の外周面には、支持部材250に形成された雌ねじ251aに締め付けられる雄ねじ243aが形成されている。そして、内向部242および円柱状部243には、上下方向に貫通し、後述する第1アジャストボルト312、第2アジャストボルト322それぞれが嵌め込まれる貫通孔243b、243cが形成されている。
【0049】
キャップ240は、円筒状部241の外周面に形成された雄ねじ241aがアウタチューブ210の内周面に形成された雌ねじ210aに締め付けられることでアウタチューブ210に取り付けられる。そして、円筒状部241に形成されたシール溝241bに嵌め込まれたシール部材245が、アウタチューブ210内を密封する。
【0050】
(支持部材250の構成)
支持部材250は、
図3に示すように、薄肉円筒状の第1円筒状部251と、第1円筒状部251の下方において第1円筒状部251の肉厚よりも厚肉で円筒状に形成された第2円筒状部252と、を有している。第1円筒状部251の内周面には、キャップ240に形成された雄ねじ243aが締め付けられる雌ねじ251aが形成されている。第1円筒状部251の外周面には、ストッパリング257が嵌められるリング溝251bが形成されている。また、第2円筒状部252の内周面には、ピストンロッド235に形成された雄ねじ235aが締め付けられる雌ねじ252aが形成されている。
【0051】
そして、支持部材250は、第1円筒状部251の雌ねじ251aとキャップ240の雄ねじ243aとが締め付けられることでキャップ240に保持されるとともに、第2円筒状部252の雌ねじ252aにピストンロッド235に形成された雄ねじ235aが締め付けられることでピストンロッド235を保持する。ピストンロッド235は、さらに、ロックナット254を、支持部材250に向けて締め付けることで支持部材250に固定され、ひいてはキャップ240に固定される。
【0052】
支持部材250の第1円筒状部251の雌ねじ251aにキャップ240の雄ねじ243aを締め付ける際には、第1円筒状部251の上側の端面が、キャップ240の内向部242の下側の端面に突き当たるまで締め付けられる。ゆえに、キャップ240の内向部242の下側の端面は、支持部材250の上側の端面が突き当たる突当面として機能する。
【0053】
(ストッパラバー255などの構成)
図3に示すように、ストッパラバー255は、ゴムなどの弾性部材で成形された円筒状の部材であり、キャップ240の円筒状部241の内周と支持部材250の第1円筒状部251の外周とで形成される環状の凹部に配置される。
ストッパ板256は、中央部に支持部材250の第1円筒状部251を通す孔が形成された円板状の部材である。
ストッパリング257は、C字状の止め輪であり、支持部材250の第1円筒状部251に形成されたリング溝251bに嵌められる。そして、ストッパリング257が、ストッパラバー255およびストッパ板256の下方への脱落を抑制する。
【0054】
そして、フロントフォーク21の圧縮時に、車軸側ユニット100の上側の端部がストッパ板256に突き当たるとともに、ストッパ板256がキャップ240の円筒状部241の下側の端面に突き当たることで、車軸側ユニット100の上方への移動が規制される。このとき、ストッパラバー255が弾性変形することで、ストッパ板256がキャップ240の円筒状部241の下側の端面に突き当たる際の衝撃が緩和される。
【0055】
(減衰力発生装置260の構成)
減衰力発生装置260は、
図4に示すように、上述したピストン220と、ピストン220の下方に配置されてピストン220に形成された第1油路220bにおける下側の端部を塞ぐ第1バルブ261と、ピストン220の上方に配置されてピストン220に形成された第2油路220cにおける上側の端部を塞ぐ第2バルブ262と、第1バルブ261の下方に配置された第1ワッシャ263と、第2バルブ262の上方に配置された第2ワッシャ264と、を備えている。
【0056】
そして、
図4に示すように、これらピストン220、第1バルブ261、第2バルブ262、第1ワッシャ263および第2ワッシャ264は、ロックナット265が、ピストンボルト230の第3円筒状部233に形成された雄ねじ233aに締め付けられることで、スプリング支持部材410などと共に、ロックナット265と、ピストンボルト230の第2円筒状部232の下側の端面との間に取り付けられる。
【0057】
(減衰力調整装置270の構成)
減衰力調整装置270は、ピストンボルト230に形成された迂回路60を介してピストンロッド側油室51とピストン側油室52との間に流通するオイルの流通量を調整する第1調整機構280と、第2バルブ262の撓み変形による減衰力を調整する第2調整機構290と、第1調整機構280および第2調整機構290の調整を操作する操作部300と、を備えている。
【0058】
第1調整機構280は、
図4に示すように、迂回路60の流通面積を調整するニードル弁281と、ニードル弁281に下方向の力を加える第1プッシュロッド282と、ニードル弁281に上方向の力を加えるコイルスプリング283と、コイルスプリング283の下側の端部を支持するスプリングシート284と、を備えている。
ニードル弁281は、上方の端部にフランジ部281aを有するとともに、下方の端部が尖った円柱状の部材であり、ピストンロッド235の内側に挿入されている。第1プッシュロッド282は、後述する第2プッシュロッド295の内側に配置された、円筒状又は円柱状の部材である。コイルスプリング283は、上下方向に関しては、ニードル弁281のフランジ部281aの下側の端面とスプリングシート284との間に配置され、半径方向に関しては、ピストンロッド235の内周面とニードル弁281の外周面との間に取り付けられている。スプリングシート284は、中央部にニードル弁281が通る孔が形成された円板状の部材であり、ニードル弁281の外周面との間をシールする。
【0059】
第2調整機構290は、第2バルブ262の上方に配置されてこの第2バルブ262が開くのを抑制するバルブ開抑制部材291と、バルブ開抑制部材291の上方に配置されてこのバルブ開抑制部材291に対して下方の力を作用するコイルスプリング292と、コイルスプリング292の上方に配置されてバルブ開抑制部材291と協働してコイルスプリング292を挟むスプリング受け293と、を備えている。また、第2調整機構290は、スプリング受け293に対して下方の力を作用する押し部材294と、押し部材294に対して下方の力を作用する第2プッシュロッド295と、を備えている。
【0060】
バルブ開抑制部材291は、上部に設けられた円筒状の第1円筒状部291aと、下部に設けられるとともに第1円筒状部291aよりも内径及び外径が大きな円筒状の第2円筒状部291bと、第1円筒状部291aと第2円筒状部291bとを接続する中間部291cとを有している。第1円筒状部291aは、ピストンボルト230の第1円筒状部231の周囲に嵌め込まれる。第2円筒状部291bの下側の端面が第2バルブ262の上側の端面と接触する。中間部291cの上部には、コイルスプリング292が着座する座面が形成されている。この中間部291cは、バルブ開抑制部材291の外部と迂回路60とを連通するように周方向に間欠的に設けられており、迂回路60を介して、ピストンロッド側油室51とピストン側油室52との間をオイルが流通するのを許容する。
【0061】
スプリング受け293は、中央部にピストンロッド235を通す孔が形成された椀状の部材であり、その上側の端部に設けられたフランジがコイルスプリング292の上側の端部を支持し、内部に押し部材294を収容する。
押し部材294は、中央部に第1プッシュロッド282の外径よりも大きく第2プッシュロッド295の外径よりも小さな径の孔が形成され、長さがピストンロッド235の外径よりも長く形成された板状の部材であり、ピストンロッド235に形成された2つの貫通孔235c内を上下方向に動くように配置されている。
第2プッシュロッド295は、内径が第1プッシュロッド282の外径よりも大きく、外径がピストンロッド235の内径よりも小さな円筒状の部材であり、第1プッシュロッド282の外周面とピストンロッド235の内周面との間に配置されている。そして、第2プッシュロッド295における下側の端部が押し部材294の上側の端面と接触している。
【0062】
操作部300は、
図3に示すように、第1プッシュロッド282を上下方向に移動させる第1操作部310と、第2プッシュロッド295を上下方向に移動させる第2操作部320と、を備えている。これら第1操作部310および第2操作部320は、キャップ240と支持部材250とで形成された空間内に収容される。
【0063】
図6は、第1操作部310および第2操作部320の概略構成を示す図である。
第1操作部310は、第1プッシュロッド282に対して下方向の力を加える第1アジャストナット311と、第1アジャストナット311に形成された雌ねじ311aに螺合してこの第1アジャストナット311を上下方向に移動させる第1アジャストボルト312と、第1アジャストボルト312とキャップ240との間をシールするオイルシール313と、を備えている。
【0064】
第2操作部320は、第2プッシュロッド295に対して下方向の力を加える第2アジャストナット321と、第2アジャストナット321に形成された雌ねじ321aに螺合してこの第2アジャストナット321を上下方向に移動させる第2アジャストボルト322と、第2アジャストボルト322とキャップ240との間をシールするオイルシール323と、を備えている。
【0065】
第1アジャストナット311は、外径が支持部材250の第1円筒状部251の内径よりも若干小さい円板状の部材であり、第1アジャストボルト312が螺合する雌ねじ311aと、第2アジャストボルト322の後述する第3円柱状部322cを通すための貫通孔311bが形成されている。そして、第1アジャストナット311における下側の端面は、第1プッシュロッド282における上側の端面と接触して第1プッシュロッド282に対して下方向の力を加える。
【0066】
第1アジャストボルト312は、外径が互いに異なる複数の円柱状の部位が上下方向に並んだ部材である。より、具体的には、第1アジャストボルト312は、上側の端部に設けられた第1円柱状部312aと、第1円柱状部312aの下方に設けられて第1円柱状部312aの外径よりも大きな外径の第2円柱状部312bと、第2円柱状部312bの下方に設けられて第2円柱状部312bの外径よりも小さな外径の第3円柱状部312cと、第3円柱状部312cの下方に設けられて第3円柱状部312cの外径よりも小さな外径の第4円柱状部312dと、を有する。
【0067】
第1円柱状部312aの外周面には、この外周面から内側に凹んだ溝312e(
図3参照)が全周に渡って形成されており、この溝312eにオイルシール313が嵌め込まれる。また、第1円柱状部312aにおける上側の端面には、この端面から下方に凹んだ凹部312fが形成されている。
第2円柱状部312bの外径は、キャップ240に形成された貫通孔243bの内径よりも大きい。
第3円柱状部312cの外周面には、第1アジャストナット311に形成された雌ねじ311aに螺合する雄ねじ312gが形成されている。
【0068】
第2アジャストナット321は、外径が支持部材250の第1円筒状部251の内径よりも若干小さい円板状の部材であり、第2アジャストボルト322が螺合する雌ねじ321aと、第1アジャストボルト312の第4円柱状部312dを通すための貫通孔321bが形成されている。また、第2アジャストナット321の中央部には、第1プッシュロッド282を通すための貫通孔321cが形成されている。そして、第2アジャストナット321における下側の端面は、第2プッシュロッド295における上側の端面と接触して第2プッシュロッド295に対して下方向の力を加える。
【0069】
第2アジャストボルト322は、外径が互いに異なる複数の円柱状の部位が上下方向に並んだ部材である。より、具体的には、第2アジャストボルト322は、上側の端部に設けられた第1円柱状部322aと、第1円柱状部322aの下方に設けられて第1円柱状部322aの外径よりも大きな外径の第2円柱状部322bと、第2円柱状部322bの下方に設けられて第2円柱状部322bの外径よりも小さな外径の第3円柱状部322cと、第3円柱状部322cの下方に設けられて第3円柱状部322cの外径よりも小さな外径の第4円柱状部322dと、を有する。
【0070】
第1円柱状部322aの外周面には、この外周面から内側に凹んだ溝322e(
図3参照)が全周に渡って形成されており、この溝322eにオイルシール323が嵌め込まれる。また、第1円柱状部322aにおける上側の端面には、この端面から下方に凹んだ凹部322fが形成されている。
第2円柱状部322bの外径は、キャップ240に形成された円柱状部243の貫通孔243cの内径よりも大きい。
第3円柱状部322cの外径は、第1アジャストナット311に形成された貫通孔311bの内径よりも小さい。
第4円柱状部322dの外周面には、第2アジャストナット321に形成された雌ねじ321aに螺合する雄ねじ322gが形成されている。
【0071】
以上のように構成された操作部300は、キャップ240と支持部材250とで形成された空間内に収容される。その際、第1アジャストボルト312の第1円柱状部312aが貫通孔243bに挿入され、第2アジャストボルト322の第1円柱状部322aが貫通孔243cに挿入される。また、第1プッシュロッド282の上側の端面が第1アジャストナット311の下側の端面に突き当てられ、第2プッシュロッド295の上側の端面が第2アジャストナット321の下側の端面に突き当てられる。
【0072】
そして、第1アジャストボルト312の回転操作により、この第1アジャストボルト312が螺合している第1アジャストナット311は、この第1アジャストナット311の貫通孔311bと第2アジャストボルト322の第3円柱状部322cとが嵌合されているため回転が防止されて、上下方向に移動する。それに従って、第1プッシュロッド282が上下方向に移動する。
【0073】
他方、第2アジャストボルト322の回転操作により、この第2アジャストボルト322が螺合している第2アジャストナット321は、この第2アジャストナット321の貫通孔321bと第1アジャストボルト312の第4円柱状部312dとが嵌合されているため回転が防止されて、上下方向に移動する。それに従って、第2プッシュロッド295が上下方向に移動する。
【0074】
[フロントフォーク21の作用]
以下に、以上のように構成された本実施の形態に係るフロントフォーク21の作用について説明する。
(伸張行程)
図7は、伸張行程の作用を示す図である。
図7(b)は、
図7(a)に示す状態から伸張した状態を示す図である。
図7(a)及び
図7(b)に示すように、アウタチューブ210に対してインナチューブ110が退出すると、ロッドガイドケース130のリング溝133aに嵌め込まれたオイルリング135とアウタチューブ210に嵌め込まれたガイドブッシュ211との距離が小さくなって環状油室20の容積が小さくなる。これにより、環状油室20のオイルがインナチューブ110の連通孔114を介して作動油室50に流入する(矢印71参照)。また、ピストン220の移動により、作動油室50の内、ピストンロッド側油室51の容積が減少する一方でピストン側油室52の容積が増加することから、環状油室20から作動油室50に流入したオイルは、迂回路60、又はピストン220に形成された第1油路220bを介して、ピストンロッド側油室51からピストン側油室52に流入する。この時、環状油室20の断面積をピストンロッド235の断面積より大きく設定しているので、フロントフォーク21の伸張動作による環状油室20の容積減少分V1が作動油室50からのピストンロッド235の退出による容積減少分V2より大きく、作動油室50で余剰となったオイル(V1−V2)は、ロッドガイドケース130に、環状油室20と環状隙間25とを連通する通路である連通路40が形成されていることから、環状油室20から連通路40を介してロッドガイドケース130とインナチューブ110との間に形成された環状隙間25にオイルが流れる(矢印72参照)。ロッドガイドケース130の円筒状部131における下側の端部には連通孔131cが形成されていることから、環状隙間25から油溜室45のオイル室46へオイルが流れる(矢印73参照)。
【0075】
また、ピストン220の移動により、作動油室50の内、ピストンロッド側油室51の容積が減少する一方でピストン側油室52の容積が増加することから、環状油室20から作動油室50に流入したオイルは、迂回路60、又はピストン220に形成された第1油路220bを介して、ピストンロッド側油室51からピストン側油室52に流入する。他方、ピストンロッド側油室51の容積が減少することでピストンロッド側油室51内の圧力が高まると、チェック弁151のフランジ151aにおける上側の端面が、ロッドガイドケース130の第2凹部142における上側の端面に突き当たり、作動油室50から油溜室45へのオイルの流れが抑制される。また、ロッドガイドケース130の内向部132に形成されたシール溝132bに嵌め込まれたオイルシール145により、作動油室50から環状隙間25へのオイルの流れが防止される。
【0076】
この伸張行程においては、オイルが環状油室20から環状隙間25に流れる際の、ロッドガイドケース130の連通路40の通路抵抗により減衰力が発生する。また、低速域において、第1調整機構280のニードル弁281の開度調整により流通面積が調整された迂回路60の通路抵抗により減衰力が発生する。中高速域においては、減衰力発生装置260のピストン220に形成された第1油路220bを塞ぐ第1バルブ261の撓み変形による減衰力が発生する。
【0077】
(圧縮行程)
図8は、圧縮行程の作用を示す図である。
図8(b)は、
図8(a)に示す状態から圧縮した状態を示す図である。
図8(a)及び
図8(b)に示すように、アウタチューブ210に対してインナチューブ110が進入すると、ロッドガイドケース130のリング溝133aに嵌め込まれたオイルリング135とアウタチューブ210に嵌め込まれたガイドブッシュ211との距離が大きくなって環状油室20の容積が大きくなる。これにより、作動油室50のオイルがインナチューブ110の連通孔114を介して環状油室20に流入する(矢印81参照)。また、ピストン220の移動により、作動油室50の内、ピストン側油室52の容積が減少する一方でピストンロッド側油室51の容積が増加することから、迂回路60、又はピストン220に形成された第2油路220cを介して、ピストン側油室52からピストンロッド側油室51に流入する。この時、環状油室20の断面積をピストンロッド235の断面積より大きく設定しているので、フロントフォーク21の圧縮動作による環状油室20の容積増加分V3がピストンロッド235の作動油室50への進入による容積増加分V4より大きいことから、環状油室20へのオイルの必要補給量(=V3)に対する不足分(=V3−V4)が油溜室45からチェック弁151を介して補給される(矢印82参照)。また、環状油室20へのオイルの必要補給量に対する不足分が、油溜室45から、連通孔131c、環状隙間25および連通路40を介して補給される(矢印83参照)。ただ、ロッドガイドケース130の内向部132に形成されたシール溝132bに嵌め込まれたオイルシール145により、環状隙間25から作動油室50へのオイルの流れは防止される。
【0078】
この圧縮行程においては、オイルが環状隙間25から環状油室20に流れる際の、ロッドガイドケース130の連通路40の通路抵抗により減衰力が発生する。また、低速域において、第1調整機構280のニードル弁281の開度調整により流通面積が調整された迂回路60の通路抵抗により減衰力が発生する。中高速域においては、減衰力発生装置260のピストン220に形成された第2油路220cを塞ぐ第2バルブ262の撓み変形による減衰力が発生する。この第2バルブ262の撓み変形による減衰力は、第2調整機構290により調整される。
【0079】
以上説明したように、本実施の形態に係るフロントフォーク21においては、伸張動作により、オイルが、環状油室20から連通路40を介して環状隙間25に流れ、連通孔131cを介して油溜室45内のオイル室46に至る。それゆえ、例えば、環状油室20の上部に空気が溜まっていたとしても、環状油室20から連通路40を介して環状隙間25に流れる高圧化されたオイルにより、この空気が油溜室45のオイル室46に排出される。そして、排出された空気は、空気室47へと至る。一方、圧縮動作により、環状油室20は空気室47に対して負圧状態となるが、ロッドガイドケース130に形成された連通孔131cは、円筒状部131における下側の端部であり、油溜室45のオイル室46内であるので、油溜室45のオイルが環状隙間25および連通路40を介して環状油室20に流入する。そのため、油溜室45の空気が環状油室20に吸い込まれることはない。
【0080】
したがって、本実施の形態に係るフロントフォーク21によれば、環状油室20の上部や環状隙間25の上部に気泡溜まりが発生することを抑制することができる。それゆえ、環状油室20の上部や環状隙間25の上部に気泡溜まりが発生したことに起因して衝撃音が発生することを抑制することができる。
【0081】
[操作部300に溜まった空気を排出する構成]
次に、操作部300に溜まった気泡を排出する構成について説明する。
図9(a)は、キャップ240、支持部材250、ストッパラバー255及びアウタチューブ210の断面図を示す図である。
図9(b)は、
図9(a)のIX−IX部の断面図である。キャップ240の内向部242及び円柱状部243には、周方向の2つの箇所に、第1アジャストボルト312が挿入される貫通孔243bと、第2アジャストボルト322が挿入される貫通孔243cとが形成されているが、
図9(a)に示した断面は、これら貫通孔243b及び貫通孔243cが形成されていない部位の断面図である。
【0082】
キャップ240の円柱状部243の外周面には、内側に凹んだ円柱状部側凹部243dが周方向の一部の領域に形成されている。また、キャップ240の内向部242には、下側の端面から上側に凹んだ内向部側凹部242aが、周方向の一部の領域であって円柱状部側凹部243dと対応する位置に形成されている。つまり、
図9(a)に示すように、円柱状部側凹部243dと上方凹部の一例としての内向部側凹部242aとは、連続するように形成されており、上部空間の一例としての支持部材250の第1円筒状部251内の空間53と空気室47とを連通する連通路41として機能する。
【0083】
そして、
図9(a)に示すように、キャップ240の内向部242の下側の端面と支持部材250の第1円筒状部251の上側の端面との間には、内向部側凹部242aの開口部を覆う薄い板から構成された逆止弁の一例としてのチェックバルブ246が設けられている。
図9(b)に示すように、上方から見た場合には、チェックバルブ246は、内向部側凹部242aよりも大きな大きさであり、支持部材250の第1円筒状部251内の圧力よりも空気室47の圧力の方が高い場合には、チェックバルブ246は、内向部242の下側の端面に突き当たり、連通路41の開口部を塞ぐ。他方、空気室47の圧力よりも支持部材250の第1円筒状部251内の圧力の方が高い場合には、チェックバルブ246は弾性変形して、連通路41の開口部を開き、支持部材250の第1円筒状部251内の空間53の空気を空気室47へ排出する。チェックバルブ246はキャップ240の円柱状部243の外周に設けたドーナツ状の板材でもよい。
【0084】
したがって、フロントフォーク21の伸張動作時に、ピストン220の上方への移動により、及び環状油室20の容積の減少により高められたピストンロッド側油室51の圧力が、ピストンロッド235の貫通孔235c、ピストンロッド235の内部(ロッド内部空間)を介して、操作部300が配置された支持部材250の第1円筒状部251内の空間53の空気を、連通路41を介して空気室47へ排出する(
図7(b)の矢印74参照)。他方、フロントフォーク21の圧縮動作時に、空気室47内の圧力が高くなったとしても、チェックバルブ246が連通路41の開口部を塞ぐことから、空気室47の空気が、操作部300が配置された支持部材250の第1円筒状部251内の空間53に吸い込まれることはない。
【0085】
したがって、本実施の形態に係るフロントフォーク21によれば、伸張動作時に圧力が高められる空気が存在する空間である支持部材250の第1円筒状部251内の空間53に気泡溜まりが発生することを抑制することができる。それゆえ、支持部材250の第1円筒状部251内の空間53に気泡溜まりが発生したことに起因して衝撃音が発生することを抑制することができる。
【0086】
なお、上述した実施の形態においては、キャップ240に形成された円柱状部側凹部243dと内向部側凹部242aとにより、支持部材250の第1円筒状部251内の空間53と空気室47とを連通する連通路41を形成しているが、特にかかる態様に限定されない。例えば、ロッドガイドケース130に形成した外向部側凹部133cに代えてインナチューブ110の上部に内外を貫通する貫通孔を形成し、この貫通孔と、ロッドガイドケース130に形成した円筒状部側凹部131dとにより、環状油室20と環状隙間25とを連通する連通路40を形成してもよい。
【0087】
ただ、連通路40を、ロッドガイドケース130及びインナチューブ110の2つの部材にて構成するよりも、ロッドガイドケース130の1つにて形成することで、インナチューブ110へのロッドガイドケース130の組み付けに際し、連通路40を構成する部位同士の相対位置を気にせずに組み付けることができるので生産性を高めることができる。
【0088】
[操作部300に溜まった空気を排出する構成の
参考例]
図10は、
参考例に係るキャップ240、支持部材250、ストッパラバー255及びアウタチューブ210の断面図を示す図である。
参考例においては、支持部材250の第1円筒状部251内の空間53と空気室47とを連通する態様が上述した実施の形態と異なる。つまり、
図10に示すように、支持部材250の第1円筒状部251における、キャップ240の円柱状部243よりも下方の部位に、上下方向に直交する方向(半径方向)に貫通する貫通孔251cを形成する。そして、この貫通孔251cが、支持部材250の第1円筒状部251内の空間53と空気室47とを連通する連通路42として機能する。
【0089】
この
参考例においても、フロントフォーク21の伸張動作時には、ピストン220の上方への移動により、及び環状油室20の容積の減少により高められたピストンロッド側油室51の圧力が、ピストンロッド235の貫通孔235c、ピストンロッド235の内部を介して、操作部300が配置された支持部材250の第1円筒状部251内の空間53の空気を、連通路42を介して空気室47へ排出する。その際、支持部材250の第1円筒状部251の周囲に設けられたストッパラバー255は、弾性変形するか又は下方へ移動することにより連通路42の開口部を開く。他方、フロントフォーク21の圧縮動作時に、空気室47内の圧力が高くなったとしても、ストッパラバー255が連通路42の開口部を塞ぐことから、空気室47の空気が、操作部300が配置された支持部材250の第1円筒状部251内の空間53に吸い込まれることはない。したがって、この
参考例においても、伸張動作時に圧力が高められる空気が存在する空間である支持部材250の第1円筒状部251内の空間53に気泡溜まりが発生することを抑制することができる。それゆえ、支持部材250の第1円筒状部251内の空間53に気泡溜まりが発生したことに起因して衝撃音が発生することを抑制することができる。
【0090】
なお、この
参考例においては、支持部材250の第1円筒状部251に形成した貫通孔251cにて、支持部材250の第1円筒状部251内の空間53と空気室47とを連通する連通路42を形成しているが、特にかかる態様に限定されない。連通路41の一部として機能するキャップ240の円柱状部側凹部243dと、支持部材250の第1円筒状部251におけるキャップ240の円柱状部側凹部243dと対向する部位に、上下方向に直交する方向(半径方向)に貫通するように形成された貫通孔と、にて、支持部材250の第1円筒状部251内の空間53と空気室47とを連通する連通路を構成してもよい。ただ、連通路を、キャップ240及び支持部材250の2つの部材にて構成するよりも、キャップ240又は支持部材250の1つにて形成することで、キャップ240を支持部材250に締め付けるに際し、連通路を構成する部位同士の相対位置を気にせずに締め付けることができるので生産性を高めることができる。