(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
ガスタービンなどの燃焼器ライナ、タービン翼、熱交換器、フィン、ボイラ、加熱炉など、冷却、加熱、熱交換等における流体と固体の間の伝熱促進に対しては、各機器に要求される仕様に基づいて様々な構造が考えられている。
【0003】
例えば、発電用ガスタービンなどの燃焼器においては、ガスタービン効率を損なうことの無い程度の少ない圧力損失で必要な冷却性能を維持し、構造強度の信頼性を維持することが求められている。さらに、環境問題への配慮の観点から、燃焼器内に生じる窒素酸化物(NOx)の排出量を低減することが求められている。NOxの低減は、燃料と空気を燃焼前に混合して燃焼する予混合燃焼を利用し、かつ燃料と空気の混合比(燃空比)が理論混合比よりも小さい状態で燃焼させることによって達成を図っている。
【0004】
本技術分野の背景として、この点を鑑みたガスタービン燃焼器の構造に関し、特許文献1には、ライナ外周側に環状のリブを配置して形成され、強度向上を図る装置を備える技術が開示されている。このライナにおける円筒形の部材と環状のリブは、お互いに接する部材のところでは溶接およびろう付けで結合されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
強制対流伝熱においては、効率向上のため、伝熱促進に対して圧力損失の増大を抑制することが必要である。例えば、ガスタービンの効率向上のためには、燃焼ガス温度を高くする必要があり、それに伴い、ライナ冷却強化が求められる。しかし、更なる冷却促進法では圧力損失増大を避ける必要がある。
【0007】
そのような中で、上述した特許文献1に記載された技術のように、ライナ外周側に環状のリブを配置することによって、強度を向上させると同時に冷却性を兼ねた構造体(リブ)を備えるものがある。この特許文献1では、従前のものと比較して構造強度、冷却性能および保炎性等の点で優れた面を有している。
【0008】
しかし、特許文献1では、その基本構造は温度が高温側となる燃焼器ライナ表面に構造体(リブ)を設置するものとなっているため、ライナと構造体が二重に重なり合う個所が存在する。このため、その領域における冷却方法や構造、特に、熱的強度の関係から製品信頼性の確保に多くのコスト・時間を要する。
【0009】
本発明はこれらを考慮しなされたもので、その目的は、冷却特性および構造強度を改善することによって製品信頼性を向上させるとともに圧力損失の増大を抑制するガスタービン燃焼器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、例えば特許請求の範囲に記載の構成を採用する。
本発明は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、ガスタービン燃焼器であって、
燃焼室を内部に形成する燃焼器ライナと、この燃焼器ライナの外周側に設けられた外筒と、前記燃焼器ライナと前記外筒との間に形成された、伝熱媒体が流通する環状流路とを備え、前記燃焼器ライナは、前記伝熱媒体の流通方向に対して直角に凸となる面を有
し前記燃焼室側に環状凹部が位置し前記環状流路側に凸となる環状リセスを
備え、前記環状リセスは、前記伝熱媒体の流通方向に対する断面が直角三角形状であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、冷却特性および構造強度を改善することによって製品信頼性を向上させ、なおかつ圧力損失の増大を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明のガスタービン燃焼器の実施例を、図面を用いて説明する。
【0014】
<実施例1>
本発明のガスタービン燃焼器の実施例1を、
図1乃至
図3を用いて説明する。
図1は本発明の実施例1に係るガスタービン燃焼器とそれを備えたガスタービンプラントの概略構成図、
図2は燃焼器ライナの一部の領域に、外周側に凸となる直角三角形状の環状リセスを形成した伝熱促進型ガスタービン用燃焼器構成の一例を示す図、
図3は燃焼器ライナの一部の領域に、外周側に凸となる直角三角形状の環状リセスを形成した伝熱促進型ライナの部分拡大図である。
【0015】
図1において、ガスタービンプラント(ガスタービン発電設備)は、圧縮機1、燃焼器6、タービン3、発電機7等により概略構成されている。
圧縮機1は、空気を圧縮して高圧の燃焼空気(圧縮空気)を生成する。タービン3は、燃焼器6で生成された燃焼ガス4のエネルギーにより軸駆動力を得る機器である。発電機7は、タービン3によって駆動され、発電を行う。
図示した圧縮機1、タービン3および発電機7の回転軸は機械的に連結されている。
【0016】
燃焼器6は、圧縮機1から導入される燃焼空気2と燃料を混合して燃焼させることで、高温の燃焼ガス4を生成する機器である。この燃焼器6は、外筒10と、燃焼器ライナ(内筒)8と、トランジションピース(尾筒)9と、環状流路11と、プレート12と、複数のバーナ13を備えている。
燃焼器ライナ8は、外筒10の内側に間隔を介して設けられ、燃焼室5を内部に形成する円筒状のライナである。トランジションピース9は、タービン3側のライナ8開口部に連結しており、燃焼室5で生成された燃焼ガス4をタービン3に導く構造体である。外筒10は、燃焼器に供給される空気の流速や偏流を調節するために、燃焼器ライナ8の外周側に設ける同心状の円筒形状をした構造体である。環状流路11は、外筒10とライナ8の間に形成され、圧縮機1から供給される燃焼空気(伝熱媒体)2を流通させるための流路である。プレート12は、ライナ8の燃焼ガス流通方向上流側端部を全面的に塞ぎ、片側端面が燃焼室5に臨むようにライナ8の中心軸に略直交して配置されている略円板状の部材である。バーナ13は、プレート12上に複数配置されており、燃料を噴出するための部材である。
このような燃焼器6では、圧縮機1から供給される燃焼空気2は、燃焼器ライナ8と外筒10との間の環状流路11内を流れる際、燃焼器ライナ8の対流冷却流体として使用され、その後、複数のバーナ13に供給され、それぞれ燃焼用空気として用いられる。
【0017】
また、
図2および
図3に示すように、冷却を必要とする燃焼器ライナ8の一部の領域に、燃焼空気2の流通方向に対して直角に凸となっている直角面25を有する環状リセス20を環状流路7側に複数有する構造となっている。
図2においては、環状リセス20は直角三角形状であり、傾斜面26が燃焼空気2の流通する流れ方向の上流側を向き、直角面25が燃焼空気2の流通する流れ方向の下流側を向いている。
【0018】
この直角三角形状の環状リセス20を設けたことによる具体的な伝熱作用を
図3を用いて以下説明する。
【0019】
図3に示すように、燃焼空気2が燃焼器ライナ8と外筒10の間の環状流路11を流れるときに、この燃焼空気2が傾斜面26を有する環状リセス20に到達した際、リセス外側表面の燃焼空気は縮流されるために流速が加速する。一般に、伝熱特性は、燃焼空気2の速度が速くなるに従い熱伝達率が大きくなり伝熱効果が向上することが知られている。環状リセス20の傾斜面26の表面において燃焼空気2の流速が加速した分、伝熱特性は良くなり冷却特性は向上することになる。また、加熱媒体である燃焼ガス4が流通する燃焼器ライナ8の内周側の環状リセス凹部(環状リセス20が設けられたことによって形成された)において、燃焼ガス4の一部が環状リセス凹部に流れ込むことによって環状リセス凹部内に循環流31が形成される。この循環流31自体の温度は高温であるが、循環流速度が遅いため、環状リセス20への熱伝達率が小さくなり、伝熱特性はその分低下する。このように、環状リセス20の部分において、ライナ内周側の環状リセス20の凹部では加熱媒体である循環流からの伝熱量は小さく、反対にライナ外周側の環状リセス20の凸部では伝熱特性が向上するため、全体として冷却性能は向上することになる。
【0020】
また、ライナ外周側の環状リセス20の下流側では、はく離渦30が生成される。このため、このはく離渦30が環状リセス20の下流域のライナ壁面近傍に生ずる燃焼空気の境界層を破壊することによって燃焼器ライナ8の表面の冷却促進効果が得られる。更に、直角三角形状凸部の環状リセス20を構成している直角部の形状においては、L字形状の環状リブを設ける場合と同じ構造的特性があるため、剛性を増すことができ、強度向上の効果から振動等による破損を防ぐこともできる。
【0021】
更に、伝熱促進型ライナの構造において、冷却および強度向上以外の効果を述べるとするならば、圧力損失の低減がある。すなわち、従来のような燃焼器ライナの強度を向上させるためのライナ外周囲に環状のリブを配置して装備した構造では、急激な燃焼空気2の縮流現象により圧力損失を増加させる要因になる。これに対して、本実施例では、三角形状によるスムーズな縮流となるため、その分、圧力損失低減が期待できる。
【0022】
このように、上述した本発明のガスタービン燃焼器の実施例1では、燃焼器ライナ8の環状流路11側の一部の領域に、外周側に凸となる直角面25を有する断面が直角三角形形状の環状リセス20を設けた。これにより、冷却性能を向上させると同時に強度向上を図ることができる。また、燃焼器ライナ外周側に溶接で接合するL字形状のリブを無くせることから、従来のように金属板の二重に重なり合う個所が無くなるため、燃焼器ライナの信頼性向上と、それに伴う長寿命化が図れる。更に、傾斜面26を有していることにより、部材の表面に沿って燃焼空気2を流通させて部材と燃焼空気2との間で熱授受を行うようにしながら、圧力損失の増大を抑制することができる。従って、ガスタービン効率を損なうことの無い程度の少ない圧力損失で必要な冷却性能を維持して、構造強度の信頼性を向上させ、予混合燃焼空気を増加させて燃空比を小さくし局所火炎温度を低下させることにより低NOx化を図ることが可能となる。
【0023】
<実施例2>
本発明のガスタービン燃焼器の実施例2を
図4を用いて説明する。
実施例2におけるガスタービン燃焼器は、環状リセス以外の構成は実施例1のガスタービン燃焼器と略同じであり、詳細は省略する。
図4は実施例2における伝熱促進型ガスタービン用燃焼器の構成を示す図である。
【0024】
図4に示すように、実施例2に係るガスタービン燃焼器は、燃焼器ライナ8の外周側の一部の領域に、凸部となる直角三角形状の環状リセス20を備えている。また、燃焼空気2が流通する流れ方向の下流側となる環状リセス20の直角面25に、燃焼器ライナ8の中心軸と平行した中心軸をもつ噴孔21が環状リセス20の円周方向に複数設けられたものである。なお、図示の都合上、噴孔21は一つのみ示している。
【0025】
本発明のガスタービン燃焼器の実施例2においても、前述したガスタービン燃焼器の実施例1とほぼ同様な効果が得られる。
【0026】
加えて、噴孔21から流入する燃焼空気2により、環状リセス内周面に空気層が形成されることから冷却効果が更に向上する。すなわち、噴孔21から流入する燃焼空気2によって、環状リセス20の内周側壁面と高温の循環流31との間に空気層が形成されるため、高温の循環流が直接環状リセス20の内周側壁面に接触することが無くなり、リセス部における冷却効果が大きくなるとの効果が得られる。
【0027】
<実施例3>
本発明のガスタービン燃焼器の実施例3を
図5および
図6を用いて説明する。
実施例3におけるガスタービン燃焼器は、環状リセス以外の構成は実施例1のガスタービン燃焼器と略同じであり、詳細は省略する。
図5は実施例3における伝熱促進型ガスタービン用燃焼器の構成を示す図、
図6は実施例3における伝熱促進型ガスタービン用燃焼器の構成の他の例を示す図である。
【0028】
図5に示すように、実施例3に係るガスタービン燃焼器は、燃焼器ライナ8の外周側の一部の領域に、凸部となる直角三角形状の環状リセス20を備えている。また、燃焼空気2が流通する流れ方向の下流側となる環状リセス20の直角面25に、燃焼器ライナ8の中心軸に対して傾斜した中心軸をもつ噴孔22を環状リセス20の円周方向に複数設けたものである。
【0029】
本発明のガスタービン燃焼器の実施例3においても、前述したガスタービン燃焼器の実施例1とほぼ同様な効果が得られる。
【0030】
加えて、傾斜した複数の噴孔22から流入する燃焼空気2により、環状リセス内周面の冷却効果が更に向上する。すなわち、傾斜した複数の噴孔22から流入する燃焼空気2によって、環状リセス内周側の凹部で生成される循環流31を押し出すもしくは破壊する作用により、常に低温の燃焼空気2が凹部側に供給されることで、リセス部における冷却効果が大きくなる、との効果が得られる。
【0031】
なお、
図6に示すように、燃焼器ライナ8の中心軸と平行した中心軸をもつ複数の噴孔21と、燃焼器ライナの中心軸に対して傾斜した中心軸をもつ複数の噴孔22とを、環状リセス20の直角面25に同時に設けることができる。
【0032】
<実施例4>
本発明のガスタービン燃焼器の実施例4を
図7を用いて説明する。
実施例4におけるガスタービン燃焼器は、環状リセス周辺の構成以外は実施例1のガスタービン燃焼器と略同じであり、詳細は省略する。
図7は実施例4における伝熱促進型ガスタービン用燃焼器の構成を示す図である。
【0033】
図7に示すように、実施例4に係るガスタービン燃焼器は、加熱媒体が流通する燃焼器ライナ内周側に形成された環状凹部に傾斜板23が設けられていることによって環状のスリット23aが形成されているものである。また、環状リセス20の直角面25に、燃焼器ライナ8の中心軸に対して傾斜した中心軸をもつ噴孔22が環状リセス20の円周方向に複数設けられている。
【0034】
本発明のガスタービン燃焼器の実施例4においても、前述したガスタービン燃焼器の実施例1とほぼ同様な効果が得られる。
【0035】
加えて、燃焼器ライナ内周側の環状凹部とスリット23aによって形成された空間領域に、環状リセス20の直角面25に設けられた傾斜した複数の噴孔22から流入する燃焼空気2により、リセス部全体が冷却される。更に、スリット23aの開口部から排出される空気はフィルム状となることから、空気の膜形成による断熱作用により、加熱媒体である高温の燃焼ガス4から燃焼器ライナ8を保護することができるとの効果が得られる。
【0036】
なお、環状リセス20の直角面25に燃焼器ライナ8の中心軸に対して傾斜した中心軸をもつ噴孔22を設けたが、これに限られず、燃焼器ライナ8の中心軸と平行した中心軸をもつ複数の噴孔21を直角面25に設けることも可能である。
【0037】
<実施例5>
本発明のガスタービン燃焼器の実施例5を
図8を用いて説明する。
実施例5におけるガスタービン燃焼器は、環状リセス以外の構成は実施例1のガスタービン燃焼器と略同じであり、詳細は省略する。
図8は実施例5における伝熱促進型ガスタービン用燃焼器の構成を示図である。
【0038】
図8に示すように、実施例5に係るガスタービン燃焼器は、燃焼器ライナ8の一部に外周面に突き出した矩形形状の環状リセス24を備えている。この環状リセス24では、燃焼器ライナ8の表面と平行となる面の長さを、直角面25の長さより大きくしている。
【0039】
本発明のガスタービン燃焼器の実施例5においては、燃焼器ライナ8の内周側に形成された環状リセス凹部において、燃焼ガスの一部が流れ込むことによる循環流31が形成される。この循環流自体の温度は高温であるが、循環流速度が遅いため、リセス24への伝熱量は小さい。一方、ライナ8の外周側の環状リセス24では、燃焼空気2の上流側に位置する直角面25の先端角部において、そこを起点として新たに燃焼空気2の境界層32が生成される。この燃焼空気2の境界層32の生成初期は非常に薄い層厚さのため、熱が伝わりやすく、伝熱特性は良くなる傾向を有している。そして、燃焼空気2が下流側に移動するに従って層厚さは大きくなるため、徐々に伝熱特性は低下する。このように、本実施例のリセス24部においては、ライナ内周側の環状リセス凹部では加熱媒体である循環流からの伝熱量は小さく、反対に、ライナ外周側の環状リセス凸部では伝熱特性が向上するため、全体として冷却性能は向上することになる。
【0040】
また、四角形状凸部の環状リセス24を構成している直角面25の形状においては、従来のようなL字形状の環状リブを設ける場合と同じ構造的特性があり、かつ、リセス断面の直角面25を2ケ所有していることから、更に剛性を増すことができるため振動等による破損を防ぐ効果も一層向上する。
【0041】
<実施例6>
本発明のガスタービン燃焼器の実施例6を
図9を用いて説明する。
実施例6におけるガスタービン燃焼器は、環状リセス以外の構成は実施例1のガスタービン燃焼器と略同じであり、詳細は省略する。
図9は実施例6における伝熱促進型ガスタービン用燃焼器の構成を示す図である。
【0042】
図9に示すように、実施例6に係るガスタービン燃焼器は、燃焼器ライナ8の一部の領域に、外周側に凸となる断面が直角三角形状の環状リセス20aを備えている。この環状リセス20aは、直角面25が燃焼空気2が流通する流れ方向の上流側を向いており、傾斜面26が燃焼空気2が流通する流れ方向の下流側を向いている。また、環状リセス直角面25に燃焼器ライナ8の中心軸と平行した中心軸をもつ噴孔21が環状リセス20の円周方向に複数設けられている。
【0043】
本発明のガスタービン燃焼器の実施例6においても、前述したガスタービン燃焼器の実施例1とほぼ同様な効果が得られる。
【0044】
加えて、環状リセス20aの直角面25の付近での燃焼空気2の静圧が回復する分、噴孔21から流入する燃焼空気2がより多く流入する。このため、環状リセス25の内周側壁面と高温の循環流31との間に強い空気層が形成されることから、高温の循環流が直接環状リセス20の内周側壁面に接触することが無くなり、リセス部における冷却効果が一層大きくなる、との効果が得られる。
【0045】
<その他>
なお、本発明は上記の実施例に限られず、種々の変形、応用が可能なものである。上述の実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【0046】
例えば、環状リセス20,20a、24は、燃焼器ライナ8と一体形成されていることが望ましい。