(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
基材の表面に耐プラズマ性に優れる皮膜を形成する方法等が、従来、提案されている。
【0003】
例えば特許文献1には、部品本体と、酸化物粒子の溶射により前記部品本体の表面に形成された溶射被膜とを具備する半導体製造装置用部品であって、前記溶射被膜中の酸化物粒子の少なくとも一部は未溶融のままであることを特徴とする半導体製造装置用部品およびこれを備えたことを特徴とする半導体製造装置が記載されている。そして、このような半導体製造装置用部品から発生する微細なダストの発生が安定かつ有効に抑制され、装置クリーニングや部品の交換などに伴う生産性の低下や部品コストの増加を抑えることができ、高集積化された半導体素子の製造にも適用可能で、稼働率の改善によりエッチングコストの低減などを図ることも可能であると記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、基材の表面に、その基材表面に形成されたAl
2O
3とY
2O
3との混合溶射皮膜からなる中間層、およびこの中間層の上に形成されたY
2O
3溶射皮膜とからなる複合膜、を設けたことを特徴とするプラズマ処理容器内複合膜被覆部材が記載されている。そして、金属質基材、または非金属質基材の上に直接、または耐ハロゲンガス腐食性の強い金属の溶射皮膜からなるアンダーコートを施工した上に、Al
2O
3もしくはAl
2O
3+Y
2O
3の中間層を介して、その上にY
2O
3溶射皮膜を形成した部材は、ハロゲン化合物を含むガス雰囲気下におけるプラズマエロージョン作用を受ける環境下で使用した場合に、優れた抵抗性を示し、このため、長時間にわたってプラズマエッチング作業を続けても、チャンバー内はパーティクルによる汚染が少なく、高品質製品を効率よく生産することが可能となると記載されている。
【0005】
さらに特許文献3には、セラミック製の基材の表面に大気プラズマ溶射により気孔率が5%以上のY
2O
3溶射皮膜を形成し、該溶射皮膜の上に、気孔率が5%未満のY
2O
3溶射皮膜を重ねて形成することを特徴とするプラズマ処理容器内部材の製造方法が記載されている。そして、気孔率の大きい溶射膜の気孔を封鎖するように、気孔率の小さい溶射膜で覆うことで、プラズマエロージョンに強いプラズマ処理容器内部材を得ることができると記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明について説明する。
本発明は、セラミック粒子を主成分とする第一原料粉末を用いてプラズマ溶射し、脆性基材の表面に第一皮膜を形成する第一皮膜形成工程と、セラミック粒子を主成分とする第二原料粉末が有機溶媒に分散しているスラリーを用いてフレーム溶射して、前記第一皮膜の表面に第二皮膜を形成する第二皮膜形成工程と、を備える、複層皮膜付き基材の製造方法である。
このような複層皮膜付き基材の製造方法を、以下では本発明の製造方法ともいう。
【0013】
本発明の製造方法における各工程について説明する。
【0014】
<第一皮膜形成工程>
本発明の製造方法において第一皮膜形成工程では、セラミック粒子を主成分とする第一原料粉末を用いてプラズマ溶射して、脆性基材の表面に第一皮膜を形成する。
【0015】
第一原料粉末について説明する。
第一原料粉末は、セラミック粒子を主成分とする。
ここで主成分とは、70質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、より好ましくは98質量%以上、さらに好ましくは実質的に100質量%(すなわち、原料や製造工程から混入し得る不可避的不純物以外はセラミック粒子以外のものを含まないこと)であることを意味する。
以下において特に断りがない限り「主成分」の文言は、このような意味で用いるものとする。
【0016】
セラミック粒子を構成するセラミックは、耐プラズマ性に優れる皮膜を形成し得るものであれば特に限定されない。
セラミック粒子を構成するセラミックとしては、酸化物セラミックス、窒化物セラミックス、炭化物セラミックス、ホウ化物セラミックスが挙げられる。
【0017】
酸化物セラミックとして、BeO、MgO、CaO、SrO、BaO、ZnO、CdO、Al
2O
3、Ga
2O
3、In
2O
3、Sc
2O
3、Y
2O
3、La
2O
3、SiO
2、GeO
2、SnO
2、TiO
2、ZrO
2、Hf
2O
3、ThO
2、V
2O
3、Nb
2O
3、Ta
2O
3、Cr
2O
3、MoO
3、WO
3、UO
3、Fe
2O
3、Fe
3O
4、NiO、CeO
2、Ce
2O
3、Nd
2O
3、Sm
2O
3、Eu
2O
3、Gd
2O
3、Dy
2O
3、Yb
2O
3、HfO
2、Ta
2O
5が挙げられる。
【0018】
窒化物セラミックスとして、BN、AlN、GaN、InN、ScN、YN、LaN、Si
3N
4、Ge
3N
4、Sn
3N
4、TiN、ZrN、HfN、Th
3N
4、VN、NbN、TaN、CrN、Mo
2N、WN、Fe
4N、CeN、GdNが挙げられる。
【0019】
炭化物セラミックスとして、B
4C、SiC、TiC、ZrC、HfC、ThC、VC、NbC、TaC、Cr
3C
2、MoC、WC、UC、Fe
3C、YCが挙げられる。
【0020】
ホウ化物セラミックスとして、TiB
2、ZrB
2、HfB
2、ThB
6、TaB
2、MoB
2、WB
2、CrB
2、NbB
2、UB
2、NiB、FeB、CoBが挙げられる。
【0021】
第一原料粉末は、Y
2O
3粒子、Al
2O
3粒子、Zr
2O
3粒子、SiO
2粒子および金属窒化物粒子からなる群から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。また、Y
2O
3粒子単体であることがより好ましい。また、Y
2O
3粒子およびSiO
2粒子の混合体であることがより好ましい。また、金属窒化物粒子とは、上記の窒化物セラミックスからなる粒子を意味する。第一原料粉末がこのような粒子であると、脆性基材にひび割れを生じさせることなく、耐プラズマ性により優れる皮膜を形成することができるからである。
第一原料粉末がY
2O
3粒子およびSiO
2粒子を含む場合、Y
2O
3粒子とSiO
2粒子との混合比は、50%:50%から95%:5%(重量比)であることが好ましく、70%:30%から90%:10%(重量比)であることがより好ましい。
【0022】
第一原料粉末は、粒子径が10〜100μmであることが好ましく、30〜60μmであることがより好ましい。
また、第一原料粉末は、平均粒子径(メジアン径)が10〜100μmであることが好ましく、30〜60μmであることがより好ましい。
ここで第一原料粉末の粒子径および平均粒子径は、従来公知のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置を用いて積算粒度分布(体積基準)を測定して求める値とする。
【0023】
第一原料粉末は、略球状の粒子を主成分として含むものであることが好ましい。脆性基材にひび割れを生じさせることなく、耐プラズマ性により優れる皮膜を形成することができるからである。
ここで略球状の粒子とは、顕微鏡を用いて500倍で拡大して得た写真において、角(概ね90度以下の角)を有しない粒子を意味するものとする。写真上において球形や楕円形の粒子は、概ねこの破砕粉に該当する。
第一原料粉末を顕微鏡を用いて500倍で拡大して得た写真において、ランダムに選択した100個の粒子のうち、略球状の粒子が70個以上存在する場合に、第一原料粉末は、略球状の粒子を主成分として含むものとする。
【0024】
脆性基材について説明する。
第一皮膜形成工程では、前記第一原料粉末を用いてプラズマ溶射して、脆性基材の表面に第一皮膜を形成する。
【0025】
脆性基材としては、石英ガラスや無アルカリガラスなどのガラス、Y
2O
3、AlN、Al
2O
3などからなるセラミック焼結体、カーボンなどからなるものが挙げられる。脆性基材はガラスからなることが好ましい。
従来法では、このような脆性基材に耐プラズマ性に優れる皮膜を形成すると、脆性基材にひび割れが生じてしまった。これに対して、本発明の製造方法によれば、このような脆性基材に、ひび割れを生じさせることなく、耐プラズマ性により優れる皮膜を形成することができる。
【0026】
脆性基材は、JIS Z 2242に規定されるシャルピー衝撃値が5kJ/m
2以下であるものであることが好ましく、2kJ/m
2以下であるものであることがより好ましい。耐プラズマ性により優れる皮膜を形成することができるからである。
【0027】
脆性基材の大きさや形状は特に限定されないが、板状のものであることが好ましい。本発明の製造方法では、このような板状の脆性基材(脆性基板ともいう)の主面上に第一皮膜を形成し、さらに第二皮膜を形成することが好ましい。
【0028】
プラズマ溶射について説明する。
第一皮膜形成工程では、前記第一原料粉末を用いてプラズマ溶射する。
【0029】
プラズマ溶射は、従来公知の方法で行うことができる。また、前記第一原料粉末を完全溶融する処理条件においてプラズマ溶射して、脆性基材の表面に前記第一原料粉末からなる第一皮膜を形成することが好ましい。脆性基材にひび割れを生じさせることなく、耐プラズマ性により優れる皮膜を形成することができるからである。
【0030】
プラズマ溶射はプラズマ温度を10,000度以上として行うことが好ましく、15,000度以上として行うことがより好ましい。脆性基材にひび割れを生じさせることなく、耐プラズマ性により優れる皮膜を形成することができるからである。
【0031】
プラズマ溶射は、第一原料粉末を前記脆性基材へ吹き付ける速度が200m/s以下となる処理条件で行うことが好ましい。脆性基材にひび割れを生じさせることなく、耐プラズマ性により優れる皮膜を形成することができるからである。
【0032】
プラズマ溶射は、例えば
図1に示す装置を用いて行うことが好ましい。
図1においてプラズマ溶射装置10は、ノズル状のアノード1とその中心に配置されたカソード2の1対の電極を有する。プラズマは、ガス導入部3からアノード・カソード間のドーナツ状の間隙に不活性ガス(アルゴン、窒素、水素等)を流し、アーク放電によりガスを電離して発生することができる。プラズマガスは、ノズル状のアノード1からプラズマ溶射装置の外側へプラズマジェット5となって噴出する。
第一原料粉末は、ノズル状のアノード1の出口近傍に接続された粉末投入パイプ6を通して、搬送ガスに載せられてプラズマジェット5に供給される。プラズマジェットに供給された第一原料粉末は、プラズマ中で加熱軟化され、溶融状態となり、プラズマジェット5に乗ってアノード1から外部へ噴出し、脆性基材7の表面に第一皮膜8を形成する。
【0033】
第一原料粉末の供給量は10〜50g/minとすることが好ましく、20〜40g/minとすることがより好ましい。
【0034】
このような第一皮膜形成工程によって、脆性基材の表面に第一皮膜を形成することができる。
【0035】
第一皮膜の厚さは、10〜1000μmであることが好ましく、100〜600μmであることがより好ましく、200〜500μmであることがより好ましく、200〜400μmであることがさらに好ましい。
【0036】
第一皮膜は、前記第一原料粉末が完全溶融してなるものであることが好ましい。脆性基材にひび割れを生じさせることなく、耐プラズマ性により優れる皮膜を形成することができるからである。
【0037】
このような第一皮膜形成工程によって、脆性基材の表面に第一皮膜を形成することができる。
【0038】
<第二皮膜形成工程>
本発明の製造方法において第二皮膜形成工程では、セラミック粒子を主成分とする第二原料粉末が有機溶媒に分散しているスラリーを用いてフレーム溶射して、前記第一皮膜の表面に第二皮膜を形成する。
【0039】
第二原料粉末について説明する。
第二原料粉末は、第一原料粉末の場合と同様にセラミック粒子を主成分とする。
第二原料粉末として、第一原料粉末と同様のものと用いることができる。
セラミック粒子を構成するセラミックとしては、第一原料粉末の場合と同様に、前記酸化物セラミックス、前記窒化物セラミックス、前記炭化物セラミックス、前記ホウ化物セラミックスが挙げられる。
【0040】
第二原料粉末は、第一原料粉末の場合と同様に、Y
2O
3粒子、Al
2O
3粒子、Zr
2O
3粒子および金属窒化物粒子からなる群から選ばれる少なくとも1つであることが好ましく、Y
2O
3粒子であることがより好ましい。
【0041】
第二原料粉末は、粒子径が0.01〜30μmであることが好ましく、0.1〜5μmであることがより好ましい。
また、この粒径範囲の粒子の存在比率(体積基準)が85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。
また、第二原料粉末は平均粒子径(メジアン径)が0.01〜30μmであることが好ましく、0.1〜5μmであることがより好ましい。
ここで第二原料粉末の粒子径および平均粒子径は、第一原料粉末の場合と同様の方法で測定して求める値とする。
【0042】
第二原料粉末は、鋭利な角を有する破砕粉を主成分として含むものであることが好ましい。脆性基材にひび割れを生じさせることなく、耐プラズマ性により優れる皮膜を形成することができるからである。
ここで鋭利な角を有する破砕粉とは、顕微鏡を用いて500倍で拡大して得た写真において、円弧状でない角(概ね90度以下の角)を有する粒子を意味するものとする。写真上において球形や楕円形ではない粒子は、概ねこの破砕粉に該当する。
第二原料粉末を顕微鏡を用いて500倍で拡大して得た写真において、ランダムに選択した100個の粒子のうち、円弧状でない角を有する粒子が70個以上存在する場合に、第二原料粉末は、鋭利な角を有する破砕粉を主成分として含むものとする。
【0043】
スラリーについて説明する。
第二皮膜形成工程では、上記のような第二原料粉末が有機溶媒に分散しているスラリーを用いてフレーム溶射する。
【0044】
有機溶媒は従来公知のものを用いることができ、例えば灯油またはアルコール類を用いることができる。アルコール類としてはエチルアルコール、メチルアルコールが挙げられる。有機溶媒としてエチルアルコールを用いることが好ましい。
有機溶媒として灯油またはアルコール類を用いると(好ましくは冷却された灯油またはアルコール類を用いると)、スラリーがフレーム内へ供給されて有機溶媒が気化する際に気化熱によってフレームの温度を低下させ、その結果、第二原料粉末の少なくとも一部が未溶融状態のまま第二皮膜を構成し易くなるからである。
【0045】
このような有機溶媒へ前記第二原料粉末を添加し、必要に応じて超音波発信機等を用いて撹拌等することで分散させて、スラリーを得ることができる。
スラリー中に含まれる第二原料粉末の含有率は1〜90質量%であることが好ましく、30〜70質量%であることが好ましい。
【0046】
このようなスラリーをフレームへ投入することでフレーム溶射して、前記第一皮膜の表面に第二皮膜を形成する。
ここで、スラリーを気体と混合した後、フレームへ投入することが好ましい。気体は空気であることが好ましい。脆性基材にひび割れを生じさせることなく、耐プラズマ性により優れる皮膜を形成することができるからである。
【0047】
フレーム溶射について説明する。
第二皮膜形成工程では、前記スラリーを用いてフレーム溶射する。
フレーム溶射は、例えば燃料と酸素との混合体に点火してフレームを発生させ、このフレームの内部へ前記スラリーを供給することで、前記スラリー中の第二原料粉末の少なくとも一部を溶融しつつ、これを前記第一皮膜の表面に噴き付けて、第二皮膜を形成する方法である。
【0048】
フレーム溶射は、例えば
図2に示すフレーム溶射装置を用いて行うことができる。
図2は、本発明の製造方法におけるフレーム溶射を行うことができるフレーム溶射装置の概略を示す断面図である。
図2において溶射装置30は、内部に燃焼室32を有し、この燃焼室32へ酸素を供給するための酸素流路34および燃料を供給するための燃料流路36と、これら酸素と燃料との混合体に点火するためのバーナ38とを有する。また、燃焼室32にはバーナ38に対する側に、フレームを噴出させるための孔(ガンノズル40)が形成されており、さらにガンノズル40の外側には中心に孔が形成された円筒状の先端筒42が設置されていて、ガンノズル40および先端筒42の孔から外側へ向かってフレームを噴出させることができる。先端筒42の孔を大きさを調整することで、フレームの速度を調整することができる。
先端筒42にはスラリー供給流路44が形成されていて、ここからフレームの内部へ前記スラリーを供給する。また、先端筒42には、さらに補助燃料供給流路46が形成されていて、ここからフレームへ補助燃料を供給することができる。
ガンノズル40には圧縮空気供給流路48が形成されていて、ここから供給された圧縮空気が先端筒42に形成された孔の内側側面に沿って流れるように供給される。これによってスラリー供給流路44から供給されたスラリーが先端筒42に形成された孔の内側側面に付着しないように構成されている。
【0049】
図2に示した溶射装置を用いる場合、第二皮膜形成工程では、次のようにして、前記スラリーを用いてフレーム溶射して第二皮膜を形成することができる。
【0050】
図2に示した溶射装置30における酸素流路34および燃料流路36から酸素および燃料を供給する。
ここで酸素は、圧力を0.5〜1.5MPaとして供給することが好ましく、0.8〜1.2MPaとして供給することがより好ましい。また、酸素は、流量を400〜1900L/minとして供給することが好ましく、700〜800L/minとして供給することがより好ましい。
なお、酸素の代わりに、酸素を含む気体、例えば空気を用いてもよく、酸素と空気との混合気体を用いてもよい。
【0051】
また、燃料は、圧力を0.4〜1.4MPaとして供給することが好ましく、0.6〜1.0MPaとして供給することがより好ましい。また、燃料は、流量を0.1〜1.0L/minとして供給することが好ましく、0.15〜0.30L/minとして供給することがより好ましい。
ここで燃料としては、灯油、アセチレン、プロピレン、プロパン、エチレン、天然ガス等を用いることができる。
【0052】
また、酸素および燃料の混合比は特に限定されないが、燃料が不完全燃焼する混合比であることが好ましい。
【0053】
このようにして酸素および燃料を燃焼室へ供給して混合し、得られた混合体に点火してフレームを発生させる。ここでフレームの温度は1,000〜3,000℃とすることが好ましい。
また、フレーム内おける第二原料粉末の速度を400〜2,000m/sとすることが好ましい。
【0054】
上記のようなフレームの内部へ前記スラリーを供給する。また、前述のように、スラリーを気体と混合した後、フレームへ投入することが好ましい。気体は空気であることが好ましい。
スラリーは、これに含まれる第二原料粉末の供給量として100〜900g/minでフレームの内部へ供給することが好ましい。また、スラリー供給量として10〜200ml/minであることが好ましく、30〜70ml/minであることがより好ましい。
【0055】
圧縮空気は、圧力を0.2〜1.5MPaとして供給することが好ましく、0.3〜0.8MPaとして供給することがより好ましい。また、圧縮空気は、流量を250〜2000L/minとして供給することが好ましく、400〜800L/minとして供給することがより好ましい。
【0056】
補助燃料はフレームの温度を調整するために用いることができる。
補助燃料をフレームに供給すると、補助燃料がフレーム内へ供給されて気化する際に気化熱によってフレームの温度を低下させることもできる。この場合、第二原料粉末の少なくとも一部が未溶融状態のまま第二皮膜を構成し易くなる。
補助燃料として、アセチレン、メタン、エタン、ブタン、プロパン、プロピレンを用いることができる。
補助燃料は、圧力を0.05〜1.0MPaとして供給することが好ましく、0.1〜0.5MPaとして供給することがより好ましい。また、補助燃料は、流量を5〜100L/minとして供給することが好ましく、10〜30L/minとして供給することがより好ましい。また、補助燃料の流量を5〜100mL/minとして供給することがより好ましく、10〜30mL/minとして供給することがさらに好ましい。
【0057】
なお、
図2に示した溶射装置30を用いる場合、先端筒42の先端から脆性基材における第一皮膜までの距離を70〜400mmとすることが好ましい。
【0058】
第二皮膜形成工程では、有機溶媒や補助燃料の種類や供給量等を調整して、前記第二原料粉末の少なくとも一部が未溶融状態のまま第二皮膜を構成する処理条件でフレーム溶射することが好ましい。
【0059】
このような第二皮膜形成工程によって、前記第一皮膜の表面に第二皮膜を形成することができる。
【0060】
第二皮膜の厚さは、1〜1000μmであることが好ましく、10〜200μmであることがより好ましく、30〜150μmであることがより好ましく、50〜70μmであることがさらに好ましい。
【0061】
第二皮膜は、前記第二原料粉末が不完全溶融してなるものであることが好ましい。脆性基材にひび割れを生じさせることなく、耐プラズマ性により優れる皮膜を形成することができるからである。
したがって、例えば前記第二原料粉末がY
2O
3である場合、第二皮膜に含まれるβ型Y
2O
3の含有率が5質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましい。
【0062】
このような本発明の製造方法によって、脆性基材の表面に第一皮膜および第二皮膜をこの順に有する複層皮膜付き基材を得ることができる。本発明の製造方法によって製造される複層皮膜付き基材を「本発明の複層皮膜付き基材」ともいう。
このような複層皮膜付き基材は、脆性基材にひび割れがなく、耐プラズマ性(特にハロゲン化合物を含むガス雰囲気下におけるプラズマエロージョン作用を受ける環境下で使用した場合の耐プラズマ性)に優れる。さらに、対熱衝撃性にも優れると推定される。
【0063】
特に、第一原料粉末と第二原料粉末とが同じ種類であって、かつ、粒度が異なると好ましい。具体的には、例えば第一原料粉末と第二原料粉末とがいずれもY
2O
3粒子であって、かつ、第一原料粉末の平均粒子径(メジアン径)が10〜100μm(好ましくは30〜60μm)であり、第二原料粉末の平均粒子径(メジアン径)が0.01〜30μm(好ましくは0.1〜5μm)であると、より脆性基材にひび割れを生じさせることなく、耐プラズマ性により優れる皮膜を形成することができることを、本発明者は見出した。
【0064】
また、本発明の複層皮膜付き基材は、プラズマ雰囲気に曝される部材に用いることができる。例えば半導体製造装置、フラットパネルディスプレイ製造装置、または太陽電池パネル製造装置などの部材が挙げられる。本発明の複層皮膜付き基材は半導体製造装置部材に用いることが好ましい。
【0065】
本発明の製造方法によって得られる複層皮膜付き半導体製造装置部材を「本発明の複層皮膜付き半導体製造装置部材」ともいう。
本発明の複層皮膜付き半導体製造装置部材は、プラズマを用いる全ての半導体製造工程において用いることができる。ここで半導体製造装置部材とは、半導体製造に用いる例えばイオン注入装置、エピタキシャル成長装置、CVD装置、真空蒸着装置、エッチング装置、スパッタリング装置、アッシング装置などにおいてプラズマ雰囲気に曝される部材のことを指す。この部材として、例えばチャンバー、ベルジャー、サセプター、クランプリング、フォーカスリング、シャドーリング、絶縁リング、ダミーウエハー、プラズマを発生させるためのチューブ、プラズマを発生させるためのドーム、透過窓、赤外線透過窓、監視窓、半導体ウエハーを支持するためのリフトピン、シャワー板、バッフル板、ベローズカバー、上部電極、下部電極、静電チャックなどが挙げられる。つまり、これら部材であって、本発明の製造方法により表面に複層皮膜が形成されたものを製造することができる。
【実施例】
【0066】
<実施例1>
石英基板を用意し、この基板の主面上へY
2O
3粒子を用いてプラズマ溶射して、350μmの厚さの第一皮膜を形成した。
ここで用いたY
2O
3粒子、ならびにプラズマ溶射に用いた装置および処理条件は以下の通りである。
Y
2O
3粒子:粒径30〜60μm
プラズマ溶射装置:スルザーメテコ社製、プラズマ溶射ガン#9MB
プラズマ溶射の処理条件
アルゴンガスを使用
電流:500A
電圧:63V
第一原料粒子(Y
2O
3粒子)の供給量:25g/min
【0067】
次に、第一皮膜上へ、別のY
2O
3粒子を用いてフレーム溶射して、60μmの厚さの第二皮膜を形成した。
ここで用いたY
2O
3粒子、ならびにフレーム溶射の処理条件は以下の通りである。なお、フレーム溶射装置は、
図2に示したものを用いた。
第二原料粉末(Y
2O
3粒子):粒径0.1〜5μm
フレーム溶射の処理条件
酸素圧力:1MPa
燃料(灯油)流量:260ml/min
スラリー供給量:50ml/min
補助燃料(アセチレン)流量:20ml/min
【0068】
このようにして石英基板の主面上に第一皮膜および第二皮膜を形成して、複層皮膜付き基材を得た。
得られた複層皮膜付き基材を厚さ方向に切断し、断面の機械研磨を行った。
そして、断面を顕微鏡観察したところ、石英基板にひび割れがないことを確認した。
【0069】
<比較例1>
実施例1で用いたものと同じ石英基板を用意し、この基板の主面上へ、Y
2O
3粒子を用いてフレーム溶射して、60μmの厚さの皮膜を形成した。
ここで用いたY
2O
3粒子、ならびにフレーム溶射の装置および処理条件は、実施例1におけるフレーム溶射の場合と同様とした。
【0070】
このようにして石英基板の主面上に皮膜を形成した。そして、実施例1の場合と同様に、得られた皮膜付き基材を厚さ方向に切断し、断面の機械研磨を行い、断面を顕微鏡観察した。その結果、石英基板にひび割れが生じていることを確認した。
【0071】
<実施例2>
石英基板を用意し、この基板の主面上へ実施例1と同様の方法で第一皮膜を形成した。
【0072】
次に、粒径1〜5μmの粒子の存在比率(体積基準)が95%以上のY
2O
3粒子を用いて第一皮膜上へフレーム溶射して、第二皮膜を形成した。このY
2O
3粒子の平均粒子径を、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(日機装株式会社製、機種:マイクロトラックMT3300EX)を用いて求めたところ、2.3μmであった。尚、第二皮膜のフレーム溶射は第1表に示す実施例2−1、2−2、および2−3の各処理条件で行った。
【0073】
【表1】
【0074】
このようにして得られた複層皮膜付き基材を2液硬化型エポキシ樹脂に包埋し、自動研磨機(ビューラー社製、機種:ECOMET3およびAUTOMET2)による研磨で皮膜断面の観察面を得た。次にスパッタ法を用いてその観察面に導電性を付与し、走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、機種:JSM‐5600LV)を用いて皮膜断面のSEM画像を撮影した。倍率は500倍とし、撮影時のコントラスト及びブライトネスの調整は、装置の自動調整機構を用いた。次に、このSEM画像を、MEDIA CYBERNETICS社、Image Pro PLUS3.0を用いて2値化処理を行った。この画像処理後の画像から、視野面積当たりの空孔面積、つまり(空孔面積/視野面積)×100を算出し、これを気孔率(%)とした。第2表に第二皮膜の膜厚とともに気孔率の結果を示す。
【0075】
【表2】
【0076】
第2表より、実施例2−1、2−2、および2−3では気孔率の低い、緻密な第二皮膜を得ることができた。