(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記頭部ナットは、一端が前記第2軸部の端部に形成された前記第2の雄螺子と螺合することにより前記第2軸部の端部に固定され、他端に前記破断溝が形成された位置よりも深く形成された螺子孔を有することを特徴とする請求項3に記載のあと施工アンカー。
前記補強部材は、前記ロングナットの先端に、前記ロングナットよりも軸径が太いフランジを有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のあと施工アンカー。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、建築構造物などの天井スラブには、
図15に示すように、厚さ数ミリ程度のデッキプレート200上にコンクリート210などを流し込み固化させた構造を有するものがある。このような天井構造において使用されるデッキプレート200は、例えば谷部201と山部202とを所定ピッチで設け、天井面が撓まないように剛性を上げている。谷部201と山部202の高低差hは、例えば75mm程度である。尚、谷部201と山部202とを繰り返し設けるのではなく、デッキプレート200の下面に所定長さ突出させたリブを所定ピッチで形成することにより、十分な剛性を発揮するようにしたものも存在する。
【0005】
図15に示すような天井構造においてあと施工アンカー220を施工する際には、十分なアンカー強度を確保するために、デッキプレート200の谷部201ではなく、山部202に対して施工することが必要である。すなわち、山部202にアンカーを施工するための孔Hを穿孔し、その孔Hに対してあと施工アンカー220を施工する。そして連結ナット230などを介して吊りボルト240をあと施工アンカー220に連結し、天井スラブから垂下した状態に取り付ける。
【0006】
しかしながら、デッキプレート200の山部202に設けられたあと施工アンカー220によって支持される吊りボルト240にブレース120を取り付ける場合、谷部201の下面よりも下方にブレース120を固定するための連結金具110を取り付けることが必要となる。なぜなら、ブレース120を吊りボルト240に対して強固に連結するためには、吊りボルト240に連結金具110を装着し、その連結金具110に設けられた螺子部111にブレース120の先端をねじ込み、そのブレース120の先端を吊りボルト240に強く押し当ててブレース120と吊りボルト240との間に隙間が生じないようにすることが必要であり、このとき連結金具110又はブレース120がデッキプレート200の谷部201と干渉しないように取り付けることが必要となるからである。特に、あと施工アンカー220を施工する孔Hは、
図15に示すようにデッキプレート200の山部202の中央に形成されるとは限らず、壁部203に近い位置に形成されることもある。そのような場合には、谷部201との干渉を避けるため、連結金具110は、谷部201よりも低い位置に取り付けることが必要となる。そのため、吊りボルト240にブレース120を連結して固定すると、
図15に示すように金具110と連結ナット230との間にブレース120が連結されていない隙間Gが生じる。このような取り付け態様では、地震発生時に例えばブレース120から吊りボルト240に対して横方向の応力が作用すると、その応力が吊りボルト240の隙間Gに集中作用し、吊りボルト240が隙間Gの部分で振動し、制震効果が低減する。また横方向に過大な応力が作用すると、吊りボルト240が天井スラブの表面近傍における隙間Gの部分で曲がってしまったり、折曲破断してしまったりする可能性があるため、大規模地震対策として採用する制震構造としては不十分である。
【0007】
またこの種のアンカーは、効率良く、且つ、安全に施工できることが求められており、隙間Gにおける吊りボルト240の剛性を上げるために作業工数を増大させることは好ましいものではない。
【0008】
そこで本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、アンカー施工面の表面近傍において曲がりや折曲破断が生じず、しかも簡単且つ効率的に施工することができるあと施工アンカー、そのあと施工アンカーを施工する際に用いるアンカー施工具およびその施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係るあと施工アンカー(1,1a,1b)は、棒状体の所定位置(23)から先端側に第1の雄螺子(24)を形成した第1軸部(21)と、所定位置(23)から他端側に第2の雄螺子(25)を形成した第2軸部(22)とを有する軸部材(2)と、第1軸部(21)に挿通可能な略筒状に構成され、先端側に、縦割り溝(62)によって外方向へ拡張するように形成された拡張部(63)を有する拡張スリーブ(6)と、外径が前記軸部材(2)の軸方向に沿って漸次縮小し、内側に前記第1の雄螺子(24)と螺合する貫通螺子孔(71)を有し、小径端部が拡張スリーブ(6)の先端部に嵌入した状態で第1軸部(21)の先端に装着されるコーンナット(7)と、第2の雄螺子(25)に螺合するロングナット(31) を備えて構成される補強部材(3)と、補強部材(3)が第2の雄螺子(25)に螺合装着された状態で第2軸部(22)の端部(2b)に固定される頭部ナット(4)と、頭部ナット(4)の外周面の所定位置に、又は、第2軸部(22)の外周面の頭部ナット(4)の近傍所定位置に形成された環状の破断溝(43)と、を備え、頭部ナット(4)は、拡張スリーブ(6)及びコーンナット(7)が装着された第1軸部(21)をアンカー施工面に形成した孔(H)に挿入した状態で破断溝(43)よりも端部側に作用するトルクによって軸部材(2)を回転させ、コーンナット(7)を拡張スリーブ(6)の内側に進入させて拡張部(63)を外方向に拡張させると共に、破断溝(43)よりも端部側に作用するトルクが所定値を越えたときに破断溝(43)を破断させて軸部材(2)の回転を停止させることを特徴とする構成である。
【0010】
また上記構成を有するあと施工アンカー(1,1a,1b)は、次のような構成を更に付加したものであっても良い。すなわち、補強部材(3)は、破断溝(43)が破断した後にロングナット(31)に作用するトルクによってロングナット(31)の先端をアンカー施工面に向かって進行させる構成である。
【0011】
また頭部ナット(4)が外周面の所定位置に破断溝(43)を有し、第2軸部(22)は、補強部材(3)の先端がアンカー施工面と略同一の位置まで進行したとき、補強部材(3)と頭部ナット(4)との間にブレースを固定する金具を取り付け可能な長さを有する構成としても良い。
【0012】
また頭部ナット(4)は、一端が第2軸部(22)の端部(2b)に形成された第2の雄螺子(25)と螺合することにより第2軸部(22)の端部(2b)に固定され、他端に破断溝(43)が形成された位置よりも深く形成された螺子孔(47)を有する構成としても良い。
【0013】
また頭部ナット(4)は、螺子孔(47)に装着されるキャップ(45)を有する構成とし、キャップ(45)は、破断溝(43)が破断することにより、頭部ナット(4)の端部側と共に頭部ナット(4)から離脱する構成を採用しても良い。
【0014】
また補強部材(3)は、ロングナット(31)の先端に、ロングナット(3)よりも軸径の太いフランジ(33)を設けた構成を採用しても良い。
【0015】
また本発明に係るアンカー施工具(8)は、上記いずれかの構成を有するあと施工アンカー(1,1a,1b)を施工するものである。このアンカー施工具(8)は、補強部材(3)のロングナット(31)と、頭部ナット(4)との双方に係合し、補強部材(3)のロングナット(31)と、頭部ナット(4)との双方に対して同時に回転力を付与することを特徴とする構成である。
【0016】
さらに本発明に係る施工方法は、上記いずれかの構成を有するあと施工アンカー(1,1a,1b)を施工する方法である。この施工方法は、第1軸部(21)に拡張スリーブ(6)とコーンナット(7)とが装着された状態で軸部材(2)の第1軸部(21)を予め穿孔された孔(H)内に挿入する工程と、第2軸部(22)の端部(2b)に固定された頭部ナット(4)と、ロングナット(31)との双方に係合するアンカー施工具(8)を装着する工程と、アンカー施工具(8)を所定方向に回転させることにより、頭部ナット(4)を介して軸部材(2)を回転させると共に、ロングナット(31)を軸部材(2)と供回りさせることにより、孔(H)内においてコーンナット(7)を拡張スリーブ(6)の内側に進入させて拡張部(63)を外方向に拡張させる工程と、破断溝(43)よりも端部側に作用するトルクが所定値を越えたときに破断溝(43)を破断させて軸部材(2)の回転を停止させると共に、アンカー施工具(8)を継続的に回転させてロングナット(31)を第2軸部(22)に沿って螺合進行させ、補強部材(3)の先端を孔(H)の周囲の面に密着固定する工程と、を有することを特徴とする構成である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、アンカー施工面の表面近傍において曲がりや折曲破断が生じないようにしたあと施工アンカーが提供され、しかもそのようなあと施工アンカーを簡単且つ効率的に施工することができるようになる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。尚、以下において参照する各図面では互いに共通する部材に同一符号を付しており、それらについての重複する説明は省略する。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態であるあと施工アンカー1を構成する各部材を分解して示す斜視図であり、
図2は、あと施工アンカー1の各部材を組み付けた状態を示す斜視図であり、
図3は、あと施工アンカー1の各部材を組み付けた状態で示す縦断面図である。
【0021】
あと施工アンカー1は、
図1に示すように、軸部材2と、補強部材3と、頭部ナット4と、ワッシャー5と、拡張スリーブ6と、コーンナット7とを備える構成である。このあと施工アンカー1は、コンクリート建築物や構造物など各種躯体に穿孔された孔内に挿入して取り付けられるものであり、天井スラブや壁スラブ、床スラブの何れにも適用可能であるが、特に天井スラブへの取り付けに適したものである。
【0022】
軸部材2は、円柱棒状体の所定位置に鍔部23を有し、その鍔部23から一端(先端)2a側に第1の雄螺子24を形成した第1軸部21と、鍔部23から他端2b側に第2の雄螺子25を形成した第2軸部22とを有する構成である。第1軸部21は、例えば所定の軸径を有し、その外周面の先端2a側に第1の雄螺子24が形成されている。第2軸部22は、第1軸部21と同一軸心であり、例えば第1軸部21と同径乃至第1軸部21よりも太径を有し、外周面のほぼ全体にわたって第2の雄螺子25が形成されている。鍔部23は、第1軸部21及び第2軸部22よりも直径が大きい円盤状であり、第1軸部21と第2軸部22との間に段差を形成する。
【0023】
補強部材3は、軸部材2の第2軸部22に装着される部材であり、内側に第2の雄螺子25と螺合する貫通螺子孔32が形成されたロングナット31と、そのロングナット31の先端に設けられるフランジ33とを備えて構成される。ロングナット31とフランジ33は、互いに一体的に形成される。ロングナット31は、六角柱状の外形を有し、
図3に示すようにその内側全体にわたって第2の雄螺子25と螺合する。フランジ33は、ロングナット31よりも軸径が太く、略円柱状の外形を有し、端面33aが平坦に形成されるとともに、その内側にはワッシャー5とほぼ同径の筒状空間34を有している。このような補強部材3は、第2軸部22に対し、フランジ33が鍔部23を向く状態で装着される。
【0024】
頭部ナット4は、補強部材3が第2軸部22に螺合装着された状態で第2軸部22の端部2bに固定される。この頭部ナット4は、外形が補強部材3のロングナット31よりも細径の六角柱状に形成され、連結部41と頭部42とからなり、連結部41と頭部42との間に、外周面を環状に切り欠いて他の部分より薄肉状に形成した破断溝43を有している。この破断溝43は、頭部42の先端から所定位置に形成され、頭部42と連結部41とを区切る溝である。また破断溝43は、頭部42に対して所定値を超えるトルクが作用した場合に破断し、連結部41と頭部42とを分離させる溝である。
【0025】
頭部ナット4の連結部41の端部には、
図3に示すように、第2軸部22の端部2bと螺合する螺子孔48が形成される。頭部ナット4は、その螺子孔48に第2軸部22の端部2bが螺合装着されることにより、第2軸部22の端部2bに固定される。
【0026】
また頭部ナット4の頭部42の端部には、所定内径を有する円形孔46が形成され、その円形孔46の更に奥側に螺子孔47が形成される。その螺子孔47は、連結部41の端部に形成された螺子孔48と同径且つ同軸であり、その底部には螺子孔48との仕切壁49が設けられる。この仕切壁49は、各螺子孔47,48の底部となる。円形孔46の更に奥側に形成される螺子孔47は、後に吊りボルトB(
図11参照)を装着するための螺子孔である。この螺子孔47の底部近傍位置には、連結部41の外周面に貫通する窓孔44が形成される。また螺子孔47の底部には、吊りボルトBの装着によって弾性変形する樹脂製の変形部材50が予め装着される。変形部材50は、例えば赤色や青色などに着色された短冊状樹脂部材によって構成され、予め弓状に折り曲げられた短冊状樹脂部材の先端を窓孔44の入口に臨ませた状態で螺子孔47の底部に装着される。
【0027】
また円形孔46は、頭部42の端面から破断溝43が形成されている位置よりも深く形成され、破断溝43の内側に円形孔46の周壁が位置する。そのため、破断溝43が形成された部分は他の部分よりも薄肉になり、その肉厚を予め設計された値に形成することにより、破断溝43が破断するトルクを所定値に設定しておくことができる。
【0028】
更に円形孔46には、キャップ45が装着される。このキャップ45は、例えば赤色や青色などに着色された樹脂製キャップであり、破断溝43の内側の周壁に接触した状態で円形孔46に装着される。キャップ45は、頭部ナット4の頭部42が連結部41から離脱していないことを示す標識としての機能を有すると共に、あと施工アンカー1が正常に施工されていない状態で螺子孔47に吊りボルトBが装着されることを防止する機能を有する。更にキャップ45は、螺子孔47の上部開口を封止するため、防塵キャップとしての機能も有している。
【0029】
一方、軸部材2の第1軸部21には、ワッシャー5、拡張スリーブ6およびコーンナット7が先端2aからこの順に挿入装着される。ワッシャー5は、第1軸部21に挿通可能であり、鍔部23を超えないリング形状である。
【0030】
拡張スリーブ6は、軸部材2の第1軸部21に挿通される略筒状体61として構成され、その略筒状体61の先端部に、複数の縦割り溝62が設けられ、それら複数の縦割り溝62によって区切られた部分が外方向に拡張する拡張部63となっている。
図1及び
図2では、拡張部63の外周面が平滑面となっているが、これに限らず、例えば周方向に1本乃至複数本のリブを形成したものであっても構わない。尚、拡張スリーブ6の先端部に設けられる拡張部63の数は、一般には3つ若しくは4つ程度であるが、5つ以上であっても構わない。このような拡張スリーブ6は、拡張部63の設けられた先端部が第1軸部21の先端2aを向くように第1軸部21に挿入装着される。
【0031】
コーンナット7は、第1軸部21の先端2aに装着される。このコーンナット7は、外径が第1軸部21の軸方向に沿って漸次縮小する円錐台状の外形を有し、その周囲側面が滑らかなテーパ面となっている。コーンナット7は、その中心内側に第1軸部21に形成された雄螺子24と螺合する貫通螺子孔71を有している。そして
図3に示すように、コーンナット7は、その小径端部が拡張スリーブ6の先端部に嵌入した状態で第1軸部21の先端2aに装着される。このような装着状態では、コーンナット7の大径端部は拡張スリーブ6の先端部からはみ出した状態となる。
【0032】
あと施工アンカー1は、
図2及び
図3に示すように予め各部材が組み付けられた状態で施工される。ただし、施工前の状態においては、補強部材3のフランジ33が軸部材2の鍔部23から所定間隔以上離れた位置にあることが好ましい。
【0033】
次に
図4は、あと施工アンカー1を施工する際に用いるアンカー施工具8を示す図であり、(a)は斜め上方から観た斜視図を、(b)は斜め下方から観た斜視図を、(c)は縦断面を示している。このアンカー施工具8は、上述したあと施工アンカー1を一工程で施工するための専用工具である。
図4に示すようにアンカー施工具8は、上部の太軸部81と下部の細軸部82とを有する。太軸部81の端面には、
図4(a)に示すようにあと施工アンカー1の第2軸部22に装着された頭部ナット4及び補強部材3を挿入するアンカー装着孔83が形成される。また細軸部82の端面には、
図4(b)に示すように例えば電動工具の回転軸を装着する工具装着孔86が形成される。アンカー装着孔83は、
図4(c)に示すようにロングナット31の外周面と係合する第1係合部84と、頭部ナット4における頭部42の外周面と係合する第2係合部85とを有し、第2係合部85が第1係合部84よりもアンカー装着孔83の奥側に形成される。そのため、アンカー装着孔83は、所定長さの第1係合部84を有し、その第1係合部84の奥部が縮径して第2係合部85を形成している。一方、
図4に示す工具装着孔86は、例えば四角柱状の回転軸を装着するためのものであり、電動工具を使用して回転軸を回転させるときにアンカー施工具8が回転軸先端から離脱しないように所定の深さに形成される。
【0034】
図5は、あと施工アンカー1をアンカー施工具8に装着した状態を示す縦断面図である。あと施工アンカー1をアンカー施工具8に装着するとき、
図5に示すようにあと施工アンカー1の第2軸部22に装着された頭部ナット4及び補強部材3をアンカー装着孔83に挿入し、頭部ナット4の頭部42を第2係合部85に係合させると共に、補強部材3のロングナット31を第1係合部84に係合させる。つまり、頭部ナット4の頭部42と、補強部材3のロングナット31との双方をアンカー施工具8に係合させた状態とする。
【0035】
次に、あと施工アンカー1の施工手順について
図6乃至
図11を参照しつつ説明する。まず、アンカー施工具8に装着されたあと施工アンカー1を、
図6に示すように天井スラブSに予め穿孔された孔Hに挿入する。天井スラブSは、例えば谷部91と山部92とが所定間隔で交互に設けられたデッキプレート90上にコンクリートなどが打設されることによって形成され、孔Hは、デッキプレート90の山部92においてデッキプレート90を貫通して穿孔される。その孔Hに対し、第1軸部21に装着されたコーンナット7及び拡張スリーブ6を孔Hに差し込んでいき、ワッシャー5及び鍔部23が孔Hの開口周縁部に当接して更なる進入が規制される状態となるまで第1軸部21を挿入する。このとき、
図6に示すように電動工具の回転軸9をアンカー施工具8の工具装着孔86に装着した状態であと施工アンカー1の第1軸部21を孔Hに挿入すれば、その後の作業がスムーズである。また電動工具の回転軸9として、一般的な長さの回転軸よりも長い長尺状の回転軸を用いれば、天井スラブSに設けられた孔Hが比較的高所に位置する場合であっても、作業者は床面に位置しながら作業を行うことができる。尚、孔Hの深さは、少なくとも第1軸部21の長さよりも深く形成される。また孔Hの内径は、コーンナット7の大径端部の直径よりも若干大きい程度であり、あと施工アンカー1が孔Hに挿入されると、コーンナット7の大径端部又は拡張スリーブ6の先端部が孔Hの内壁に接触するようになる。
【0036】
あと施工アンカー1の第1軸部21を孔Hに挿入すると、次に電動工具を起動し、
図7に示すように回転軸9を右回り方向Rに回転させる。これにより、アンカー施工具8が右回り方向Rに回転するようになる。このとき、頭部ナット4の頭部42がアンカー施工具8の第2係合部85と係合しているため、アンカー施工具8が回転することに伴い、頭部ナット4が供回りし、軸部材2を右回りRに回転させる。そしてコーンナット7の大径端部又は拡張スリーブ6の先端部が孔Hの内壁に接触するため、コーンナット7は、軸部材2が回転してもその軸部材2とは供回りしない。そのため、コーンナット7は、軸部材2の回転に伴い、第1軸部21を鍔部23に向かって螺合進行する。このコーンナット7は、拡張スリーブ6の先端から拡張スリーブ6の内側に進入し、拡張スリーブ6の先端側に設けられた拡張部63を外方向に拡張させる。これにより、拡張スリーブ6の拡張部63が孔Hの内壁を押圧するように径方向外側に拡張し、あと施工アンカー1が孔Hに固定されていく。このとき、補強部材3のロングナット31は、軸部材2と一体となって回転するため、補強部材3が第2軸部22に沿って上下動することはない。
【0037】
そして
図8に示すようにコーンナット7が拡張スリーブ6の内側に進入していくことに伴い、軸部材2の回転に対する抵抗力(摩擦力)が次第に上昇し、軸部材2を回転させるのに必要なトルクが上昇する。そして十分な強度であと施工アンカー1が孔Hに固定されると、アンカー施工具8が軸部材2を回転させる際のトルクが所定値を超える。このトルクは、頭部ナット4の破断溝43に作用する。そのため、
図8において拡大
図Aで示すように、所定値を超えたトルクが破断溝43を破断させ、頭部ナット4の連結部41と頭部42とを分離させる。これにより、アンカー施工具8に作用する回転力は軸部材2に作用しなくなるため、軸部材2の回転が停止し、連結部41から分離した頭部42がアンカー施工具8と共に空回りするようになる。
【0038】
一方、補強部材3のロングナット31がアンカー施工具8の第1係合部84と係合しているため、破断溝43が破断した後においても、
図9に示すように回転軸9の右回り方向Rへの回転を継続させると、アンカー施工具8の回転に伴い、ロングナット31が第2軸部22を鍔部23に向かって螺合進行するようになる。そして回転軸9の回転を更に継続させると、
図10に示すように補強部材3のフランジ33の端面がデッキプレート90の山部92の表面を押圧して密着した状態となる。このとき、ワッシャー5および鍔部23はフランジ33に形成された筒状空間34の内側に収容され、フランジ33の端面がデッキプレート90の表示に対してほぼ均一に密着する。このような密着状態になると、あと施工アンカー1の施工が完了する。そして回転軸9を下方に引き抜くと、その回転軸9と共にアンカー施工具8をあと施工アンカー1から離脱させることができる。このとき、アンカー施工具8は、頭部ナット4から分離した頭部42をキャップ45と共にアンカー装着孔83に残存させたままの状態で、あと施工アンカー1から離脱する。これにより、
図11に示すようにデッキプレート90の山部92において、あと施工アンカー1が天井スラブSに対して強固に取り付けられた状態となる。このようなあと施工アンカー1の施工は、孔Hへの挿入と、孔Hに対するあと施工アンカー1の取り付けと、補強部材3の取り付けとを一連の作業として一工程で行うことができるため、極めて簡単且つ効率的に施工が完了するという利点がある。また作業者は床面から作業を行うことが可能であるため、足場を組む必要もなく、安全に作業を行うことができる。
【0039】
ここで補強部材3の軸方向の長さは、デッキプレート90の谷部91と山部92との高低差(段差)hと略同一若しくはそれ以上の長さとして形成される。そのため、補強部材3は、谷部91に挟まれた狭い空間内において天井スラブSから垂下する第2軸部22の周囲を補強し、剛性を高めることができる。
【0040】
また
図11に示すように、あと施工アンカー1が天井スラブSに取り付けられたとき、補強部材3と頭部ナット4との間において第2軸部22が露出した状態となる。この第2軸部22が露出する部分は、軸方向に所定の長さを有し、後述するブレース120を固定するための金具110を取り付けることが可能である。
【0041】
あと施工アンカー1が天井スラブSに取り付けられると、次に
図11に示すように頭部42が離脱して下方に開口する螺子孔47に対し、吊りボルトBを装着する。頭部42と共に除去されるキャップ45は、破断溝43の内壁に接触して破断溝43を内側から押圧しているため、破断溝43が破断するときには破断突起(バリ)が螺子孔47の開口円内側に向かって突出することを防止する。そのため、吊りボルトBを螺子孔47に装着するときには、破断突起が邪魔になることはなく、吊りボルトBをスムーズに螺子孔47に装着することができる。また、あと施工アンカー1が十分な強度で孔Hに固定されていないときには、頭部ナット4の頭部42が離脱していないため、そのような状態で吊りボルトBを螺子孔47に装着しようとしてもキャップ45が吊りボルトBの進入を規制し、良好に施工されていない状態で吊りボルトBが装着されてしまうことを防止することができる。さらにキャップ45が赤色や青色などに着色されているため、作業者は床面から目視することにより、あと施工アンカー1が良好に施工されているか否かを確認することができる。
【0042】
吊りボルトBを螺子孔47に装着していくとき、吊りボルトBの先端が螺子孔47の底部に予め設けられた変形部材50を変形させる。すなわち、吊りボルトBの先端が変形部材50を押圧変形させるため、変形部材50はその変形に伴い先端を窓孔44から突出させるようになる。
図12は、螺子孔47に対する吊りボルトBの装着が正常に完了した状態を示している。
図12に示すように、吊りボルトBの先端が螺子孔47の奥端に達し、吊りボルトBの装着が正常に完了すると、連結部41の側面に開口する窓孔44から変形部材50の先端が所定長さ突出した状態となる。したがって、床面から吊りボルトBの装着作業を行う作業者は、連結部41の側面の窓孔44から変形部材50の先端が所定長さ出現するのを目視で確認することにより、吊りボルトBが施工不良となってしまうことを未然に防止することができる。また変形部材50は赤色や青色などに着色されているため、作業者が連結部41の窓孔44から変形部材50の先端が出現しているか否かを確認しやすいという利点もある。
【0043】
吊りボルトBの装着が正常に完了すると、その吊りボルトBの下端部に天井パネルや空気調和機、照明器具、各種配管などの様々な天井構造物が連結される。そしてその後、吊りボルトBに対して斜め補強材となるブレース120を取り付けるときには、補強部材3と連結部41との間の第2軸部22にブレース120を取り付ける。
図13は、あと施工アンカー1にブレース120が取り付けられた状態の一例を示す図である。
図13に示すようにブレース120を固定するための連結金具110は、補強部材3の下端から伸びる第2軸部22の最上部に取り付けられる。この連結金具110は、ブレース120の先端と螺合する螺子部111を有している。そして補強部材3の直下に連結金具110が取り付けられた状態で、ブレース120の先端を螺子部111にねじ込み、その先端を第2軸部22に強く押し当てることにより、ブレース120をあと施工アンカー1の第2軸部22に対して強固に連結する。
【0044】
このように連結金具110を補強部材3の直下に取り付けることにより、デッキプレート90の谷部91との干渉を生じることなく、連結金具110とブレース120とを取り付けることができ、しかも従来のように金具110と天井スラブSとの間に第2軸部22の補強されない隙間G(
図15参照)が生じない。そのため、大規模地震発生時に例えばブレース120から第2軸部22に対して横方向の過大な応力が作用したとしても、天井スラブSの表面近傍において補強部材3が第2軸部22の振動を抑制するので、第2軸部22が曲がることはなく、大規模地震対策として十分な制震機能を発揮する。
【0045】
以上のように本実施形態におけるあと施工アンカー1は、棒状体の所定位置から先端側に第1の雄螺子24を形成した第1軸部21と、その所定位置から他端側に第2の雄螺子25を形成した第2軸部22とを有する軸部材2と、第1軸部21に挿通可能な略筒状に構成され、先端側に、縦割り溝62によって外方向へ拡張するように形成された拡張部63を有する拡張スリーブ6と、外径が軸部材2の軸方向に沿って漸次縮小し、内側に第1の雄螺子24と螺合する貫通螺子孔71を有し、小径端部が拡張スリーブ6の先端部に嵌入した状態で第1軸部21の先端に装着されるコーンナット7と、第2の雄螺子25に螺合し、第2軸部22よりも軸径の太いロングナット31の先端側に更に軸径を太くしたフランジ33を設けた補強部材3と、補強部材3が第2の雄螺子25に螺合装着された状態で第2軸部22の端部2bに固定され、外周面の所定位置に環状の破断溝43を有する頭部ナット4と、を備える構成である。そして頭部ナット4は、破断溝43よりも端部側の頭部42に作用するトルクによって軸部材2を回転させることにより、コーンナット7を拡張スリーブ6の内側に進入させて拡張部63を外方向に拡張させ、破断溝43よりも端部側の頭部42に作用するトルクが所定値を越えたときには破断溝43を破断させて軸部材2の回転を停止させるように構成される。このような構成を有するあと施工アンカー1によれば、頭部ナット4の頭部42と、補強部材3のロングナット31との双方に対して同時に回転力を付与して施工することにより、アンカーの施工と、第2軸部22の補強とを一連の作業として一工程で行うことができるため、ブレース120の連結位置よりも上部を補強した構造を簡単且つ効率的に施工することが可能である。
【0046】
また本実施形態におけるあと施工アンカー1を施工する際には、上述したアンカー施工具8を好適に用いることができる。すなわち、上述したアンカー施工具8は、補強部材3のロングナット31と、頭部ナット4の破断溝43よりも端部側の頭部42との双方に係合し、補強部材3のロングナット31と、頭部ナット4の頭部42との双方に対して同時に回転力を付与することができるため、アンカーの施工と、第2軸部22の補強とを一連の作業として一工程で行うことができる好適な施工具である。
【0047】
以上、本発明に関する一実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態の具体的構成例に限定されるものではなく、様々な変形例が適用可能である。
【0048】
例えば上記実施形態では、第2軸部22の端部2bを頭部ナット4の螺子孔48の底部までねじ込むことによって頭部ナット4を第2軸部22の端部2bに固定する形態を例示したが、これに限られるものではない。例えば、螺子孔48が螺子孔47と連通しており、螺子孔48に底部がない場合には、第2軸部22の端部2bを螺子孔48に対して所定深さまで挿入し、頭部ナット4の外周面をプレスしてかしめることにより、頭部ナット4を第2軸部22の端部2bに固定するようにしても良い。また、頭部ナット4を第2軸部22の端部2bに固定する形態は、螺子によるものではなくても良い。例えば頭部ナット4を第2軸部22の端部2bに溶接することにより、頭部ナット4を第2軸部22の端部2bに固定したものであっても良いし、その他の手法で固定したものであっても良い。
【0049】
また上述したあと施工アンカー1は、天井スラブSに取り付けることにより、吊りボルトBを装着するための螺子孔47が下方に向いて開口し、その螺子孔47に吊りボルトBをねじ込んで装着する場合を例示した。しかし、あと施工アンカー1の施工箇所によっては、アンカー施工後に螺子孔47を開口形成するのではなく、ナットなどを装着するためのボルトを残しておきたいこともある。そのような施工箇所に設置するアンカーとして、例えば
図14(a)又は(b)に示すあと施工アンカー1a,1bの構成を採用しても良い。
【0050】
図14(a)に示すあと施工アンカー1aは、頭部ナット4が第2軸部22の端部2bに螺合装着されており、頭部ナット4に対して所定値を超えるトルクが作用した場合に破断する環状の破断溝43が第2軸部22の外周面であって頭部ナット4の近傍所定位置に形成された構成である。このようなあと施工アンカー1aは、上記と同様に孔Hに対して施工される。その施工過程において頭部ナット4に作用するトルクが所定値を超えると第2軸部22に形成された破断溝43が破断し、第2軸部22と頭部ナット4とが分離される。したがって、アンカー施工後には、第2軸部22が垂下した状態となるため、その第2軸部22に対してナットなどを装着することができる。
【0051】
また
図14(b)に示すあと施工アンカー1bは、第2軸部22よりも細径の頭部ナット4が第2軸部22の端部2bに対して一体形成されたものである。このあと施工アンカー1bもまた、頭部ナット4に所定値を超えるトルクが作用して破断する環状の破断溝43が第2軸部22の外周面であって頭部ナット4の近傍所定位置に形成された構成である。このような構成では、補強部材3は、第2軸部22よりも細い頭部ナット4から挿入して装着することが可能である。またあと施工アンカー1bを上記と同様にして孔Hに施工する過程において、頭部ナット4に作用するトルクが所定値を超えると第2軸部22に形成された破断溝43が破断し、第2軸部22と頭部ナット4とが分離される。したがって、アンカー施工後には、第2軸部22が垂下した状態となるため、その第2軸部22に対してナットなどを装着することができる。
【0052】
したがって、アンカー施工後にナットなどを装着するためのボルトを残しておきたい場合には、
図14(a)又は(b)に示すようなあと施工アンカー1a,1bを採用すれば良い。
【0053】
次に上述したあと施工アンカー1,1a,1bは、谷部91と山部92とを有するデッキプレート90だけでなく、下面に所定長さ突出するリブが所定ピッチで形成されたデッキプレートに対しても良好に使用可能である。
【0054】
また上述したあと施工アンカー1,1a,1bは、下面にデッキプレート90が存在しない天井スラブSに対しても適用可能である。すなわち、天井スラブSを形成する手法には、上述したようにデッキプレート90を配置し、そのデッキプレート90の上に天井スラブSを形成する手法の他、天井スラブSを形成する位置に型枠を設置し、天井スラブSの形成後にその型枠を撤去する手法がある。型枠を使用して天井スラブSを形成する場合にはあと施工アンカー1の施工対象となる天井スラブSの下面にはデッキプレート90が存在しない。そして天井スラブSの下面近傍に配管などが設けられている場合には、天井スラブSの下面近傍位置にブレース120を連結することができないため、上述したあと施工アンカー1を天井スラブSに対して直接施工することにより、天井スラブSの下面とブレース120の連結位置との間において第2軸部22を良好に補強することができる。
【0055】
また上述したあと施工アンカー1,1a,1bは、軸部材2の所定位置に鍔部23を設けているが、例えば第1軸部21が第2軸部22よりも細い場合には単に鍔部23ではなく、単なる段差を設けたものであっても構わない。
【0056】
また上記実施形態においては、主として天井スラブSにあと施工アンカー1,1a,1bを施工する場合を例示したが、上述したあと施工アンカー1,1a,1bの施工対象となるアンカー施工面は必ずしも天井スラブSに限られるものではなく、壁面スラブや床スラブなど天井以外のスラブ表面(アンカー施工面)に対しても好適に使用できるものである。