(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
一般に、油圧ポンプ又は油圧モータ等として広く用いられる液圧回転機械は、例えば外殻を形成する筒状のケーシングと、原動機の出力軸に接続され、ケーシング内に回転可能に設けられた回転軸と、この回転軸の周方向に複数のシリンダが形成され、回転軸と連動して回転するシリンダブロックと、このシリンダブロックの複数のシリンダにそれぞれ収容され、シリンダブロックの回転に伴って往復動する複数のピストンとを備えている。
【0003】
また、液圧回転機械は、これらの複数のピストンの端部に摺動可能に保持され、シリンダブロックと共に回転するシューと、このシューが摺接する斜板と、この斜板と反対側のシリンダブロックの端面(後端面)に摺接し、回転中のシリンダブロックと間欠的に連通する低圧ポート及び高圧ポートが形成された弁板とを備えている。この弁板のうちシリンダブロックと摺接する面には、低圧ポート及び高圧ポートからの作動油をシールするシールランド部が形成されており、このシールランド部によって低圧ポート及び高圧ポートからの作動油の漏れを抑制することができる。
【0004】
このように構成される液圧回転機械が油圧ポンプとして使用される場合には、原動機の出力によって回転軸が回転することにより、シリンダブロックが回転軸と共に回転し、各ピストンが往復動する。このとき、作動油が弁板の低圧ポートからシリンダブロックのシリンダ内に流入し、ピストンによって加圧されて弁板の高圧ポートから吐出される。
【0005】
一方、液圧回転機械が油圧モータとして使用される場合には、高圧の作動油を高圧ポートからシリンダブロックのシリンダ内へ流すことにより、流入した作動油がピストンに作用する。このとき、ピストンが作動油の油圧によって斜板側へ押し付けられることにより、シリンダブロックと共に回転軸を回転させた後、作動油は弁板の低圧ポートから作動油タンクへ戻される。
【0006】
通常、液圧回転機械が油圧ポンプとして使用される場合には、シリンダブロックの回転方向が一方向であるのに対して、液圧回転機械が油圧モータとして使用される場合には、シリンダブロックの回転方向が二方向、すなわち逆回転できるように設計されるので、シリンダブロックが逆回転することにより、弁板の高圧ポートと低圧ポートがそれぞれ入れ替わることになる。
【0007】
静止体である弁板と回転体であるシリンダブロックの摺接面は、高圧の作動油が漏れて容積効率が低下することを抑制するために、シリンダブロックを弁板に油圧で押し付ける力と、弁板とシリンダブロックの摺接面への作動油の漏れに起因する静圧とのバランスがとれるように設計されている。特に、高圧ポートからの作動油の漏れ量が多くなるので、弁板とシリンダブロックの摺接面は、弁板の高圧ポート側のシールランド部とシリンダブロックとの隙間が小さくなるように設計されることが多く、高圧ポート付近のシールランド部に焼付きが発生し易くなっていた。
【0008】
そこで、弁板とシリンダブロックの摺接面の焼付きを防止することができる従来技術の1つとして、弁板の高圧ポートのポンプ作動時に低圧ポートから高圧ポートへ移行する側の実質的に半分の部分に位置し、かつ弁板の外周に設けたパッドの内側に位置するシールランド部の外側部分のシリンダブロックの端面に対するシール面に有底凹部を設け、有底凹部に高圧ポートから漏れる作動油を充填させて、シールランド部の外側部分のシール面とシリンダブロックの端面間の作動油による押上げ力の有効成分を大きくし得るように構成したアキシャルプランジャ型油圧ポンプ及びモータが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述した従来技術のアキシャルプランジャ型ポンプ及びモータは、弁板のシールランド部の外側部分に設けた有底凹部の作動油による押上げ力の有効成分を大きくすることにより、弁板の高圧ポート側のシールランド部とシリンダブロックとの隙間を広げる工夫をしているが、弁板におけるシールランド部の外側の全周に渡ってパッドが設置されているので、弁板とシリンダブロックとの摺接面積がパッドの分だけ大きくなる。そのため、シリンダブロックが回転中に弁板の摺接面から受ける摩擦力が増加するので、シリンダブロックの回転に伴うトルク損失が増大することが懸念されている。
【0011】
本発明は、このような従来技術の実情からなされたもので、その目的は、シリンダブロックの回転に伴うトルク損失を低減することができる液圧回転機
械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、本発明の液圧回転機械は、回転軸と、この回転軸の周方向に複数のシリンダが形成され、前記回転軸と連動して回転するシリンダブロックと、このシリンダブロックの前記複数のシリンダにそれぞれ収容され、前記シリンダブロックの回転に伴って往復動する複数のピストンと、前記シリンダブロックの両端面のうち前記複数のシリンダの開口端と反対側の端面である後端面に摺接する弁板と
、を備え、前記弁板は、前記複数のシリンダとの間で連通して低圧側の作動油を給排する低圧ポートと、前記回転軸の周方向に沿って所定の角度に渡る円弧状に形成され、前記複数のシリンダとの間で連通して高圧側の作動油を給排する高圧ポートと、前記後端面に摺接し、前記低圧ポート及び前記高圧ポートからの作動油をシールするシールランド部と、このシールランド部の周囲のうち前記回転軸の周方向に沿う
前記高圧ポートの一端から前記高圧ポートの他端までの前記回転軸の回転角の範囲内に設けられ、前記後端面に摺接する摺接部材と
、を含
み、前記摺接部材は、前記回転軸の周方向に沿う前記高圧ポートの一端から前記高圧ポートの他端までの前記回転軸の回転角の範囲内のうち、前記回転軸の回転方向に対して下流側に偏在し、かつ前記高圧ポートに対して前記回転軸の径方向の内側に配置され、前記シリンダブロックの前記後端面、及び前記弁板における前記シリンダブロックとの摺接面は、それぞれ曲面であり、前記弁板の前記摺接面の曲率は、前記シリンダブロックの前記後端面の曲率よりも大きいことを特徴としている。
【0013】
このように構成した本発明は、シリンダブロックの回転中に弁板とシリンダブロックとの間に形成される油膜の厚さ分布の偏りを考慮し、シリンダブロックに摺接する摺接部材を、弁板におけるシールランド部の周囲のうち摺動面圧が高くなり易い所定の角度の範囲内に設けている。これにより、弁板とシリンダブロックとの摺接面積を減らしつつ弁板とシリンダブロックの摺接面を摺接部材によって的確に保護できるので、弁板とシリンダブロックの摺接面に発生する焼付きを十分に抑制することができる。このように、本発明は、シリンダブロックと摺接する弁板の端面の外周全てに摺接部材を設けなくても良いので、シリンダブロックの回転に伴うトルク損失を低減することができる。
また、シリンダブロックの回転速度が大きくなるに従って弁板とシリンダブロックとの間の油膜の動圧が上昇することにより、この動圧に起因するくさび膜が形成され易くなるところ、弁板の高圧ポート側のシールランド部の周囲の中でも、くさび膜の形成に伴って摺動面圧が高くなった部分にパッドが偏在して配置されているので、パッドの使用量を減らしてもシリンダブロックの回転速度の上昇に伴う弁板とシリンダブロックの摺動面圧の変化に対応することができる。また、弁板とシリンダブロックの摺接面の曲率がそれぞれ異なっている場合に、弁板の回転軸側のシールランド部とシリンダブロックの摺接面の回転軸側の部分との間の油膜による反力が大きくなる。そのため、弁板のパッドが高圧ポートに対して回転軸の径方向の内側に配置されることにより、弁板とシリンダブロックの摺接面のうち曲率の相違から摺動面圧が高くなった部分をパッドで十分に保護することができる。
【0019】
また、本発明に係る液圧回転機械は、前記発明において、前記摺接部材は、前記回転軸の周方向に沿って離隔して配置された複数のパッドから成り、これらの各パッド間に作動油の流路となる溝部が形成されることを特徴としている。このように構成すると、弁板の低圧ポート及び高圧ポートから漏れ出た作動油を各パッドの間の溝部から弁板の外側へ流動させることができるので、弁板とシリンダブロックの摩擦によって暖められた作動油が弁板のシールランド部と各パッドとの間に留まるのを抑えることができる。これにより、弁板とシリンダブロックとの間の作動油の潤滑性能を保つことができる。
【0020】
また、本発明に係る液圧回転機械は、前記発明において、前記高圧ポートは、前記回転軸の周方向に沿う両端に形成されたノッチを含むことを特徴としている。このように構成すると、回転中のシリンダブロックのシリンダの接続先が弁板の低圧ポートから高圧ポートへあるいは高圧ポートから低圧ポートへ切り替わる際に、弁板の高圧ポートとシリンダブロックのシリンダとの間で流通する作動油の急減な圧力変化をノッチによって緩和できるので、作動油の流路内におけるキャビテーションの発生を抑制することができる。
【0021】
また
、作業機械は、前記発明に係る液圧回転機械を備え
ることが好ましい。このように構成すると、一般に、作業機械によって行われる掘削等の高負荷作業に必要な液圧回転機械の出力特性に対して十分に対応できるので、作業機械における液圧回転機械の耐久性を向上させると共に、優れたエネルギー効率を得ることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の液圧回転機
械によれば、シリンダブロックの回転に伴うトルク損失を低減することができる。前述した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る液圧回転機械を実施するための形態を図に基づいて説明する。
【0025】
[第1実施形態]
図1は本発明に係る液圧回転機械の第1実施形態が備えられる作業機械の一例として挙げた油圧ショベルの構成を示す図である。
【0026】
本発明に係る液圧回転機械の第1実施形態は、作業機械、例えば
図1に示す掘削等の作業を行うクローラ式の油圧ショベル1に備えられる。この油圧ショベル1は、走行体2と、この走行体2の上側に配置され、旋回フレーム3aを有する旋回体3と、これらの走行体2と旋回体3との間に介在され、旋回体3を旋回させる旋回装置3Aと、旋回体3の前方に取り付けられて上下方向に回動するフロント作業機4とから構成されている。
【0027】
このフロント作業機4は、基端が旋回フレーム3aに回動可能に取り付けられて上下方向に回動するブーム4Aと、旋回体3とブーム4Aとを接続し、伸縮することによってブーム4Aを回動させるブームシリンダ4aと、ブーム4Aの先端に回動可能に取り付けられたアーム4Bと、ブーム4Aの上側に配置されると共にブーム4Aとアーム4Bとを接続し、伸縮することによってアーム4Bを回動させるアームシリンダ4bと、アーム4Bの先端に回動可能に取り付けられたバケット4Cと、アーム4Bとバケット4Cとを接続し、伸縮することによってバケット4Cを回動させるバケットシリンダ4cとから構成されている。
【0028】
上述の旋回体3は、例えば車体の後方に配置され、車体のバランスを保つカウンタウェイト5と、車体の前方左側に配置され、フロント作業機4を操作する操作者が乗車するキャブ6と、これらカウンタウェイト5とキャブ6の間に配置されたエンジンルーム7と、このエンジンルーム7の上部に設けられ、車体の上部の外装を形成する車体カバー8とを備えている。なお、図示されないが、エンジンルーム7内には、車体の動作の駆動源となるエンジン、各シリンダ4a〜4cへ供給する作動油の流量及び方向を制御するコントロールバルブ、及び作動油を貯蔵する作動油タンク等が設置されている。
【0029】
図2は本発明の液圧回転機械の第1実施形態として適用される斜板式液圧回転機械の構成を示す図である。
【0030】
本発明の第1実施形態は、例えば
図2に示すように油圧ポンプ及び油圧モータとして機能する斜板式液圧回転機械11から成っている。この斜板式液圧回転機械11は、外殻を形成するケーシング12と、このケーシング12の中央部において軸線回りに回転可能に設けられた回転軸13と、この回転軸13の周方向に複数のシリンダ14Aが形成され、回転軸13と連動して回転するシリンダブロック14と、このシリンダブロック14の複数のシリンダ14Aにそれぞれ収容され、シリンダブロック14の回転に伴って往復動する複数のピストン15とを備えている。
【0031】
また、斜板式液圧回転機械11は、シリンダブロック14の両端面のうち複数のシリンダ14Aの開口端と反対側の端面である後端面14Rに摺接する弁板16と、シリンダブロック14の両端面のうち複数のシリンダ14Aの開口端側の各ピストン15の端部に揺動可能にそれぞれ保持され、シリンダブロック14と共に回転する複数のシュー17と、ケーシング12のうち後述のフロントケーシング12A側に傾転可能に設けられ、各シュー17が摺接する斜板18と、リテーナガイド19Aを介して各シュー17をシリンダブロック14の押圧力によって斜板18側へ押付けた状態で保持し、斜板18に対する各シュー17の摺接状態を安定させるリテーナ19とを備えている。
【0032】
ケーシング12は、筒状に形成され、回転軸13及びシリンダブロック14等の各部材を収容する有底の前述フロントケーシング12Aと、このフロントケーシング12Aの開口を閉塞するリヤケーシング12Bとから成っている。回転軸13は、フロントケーシング12Aとリヤケーシング12Bとの間に軸受21,22等を介して軸線回りに回転可能に支持されている。また、回転軸13の両端うちフロントケーシング12A側の一端は、エンジンルーム7内のエンジンの出力軸に接続されており、回転軸13はエンジンの駆動力によって回転する。
【0033】
シリンダブロック14は、両端面のうち複数のシリンダ14Aの開口端側の端面が斜板18に対向して配置されると共に、回転軸13の外周側にスプライン結合されており、回転軸13と一体となって回転することにより、各シュー17を斜板18に摺動させながら弁板16上を摺動する。シリンダブロック14の各シリンダ14Aは、回転軸13を中心としてシリンダブロック14の軸線周りに一定の間隔をおいて離間され、シリンダブロック14の軸線方向、すなわち回転軸13の軸線方向に対して平行に配置されている。そして、シリンダブロック14のリヤケーシング12B側の一端には、表面から各シリンダ14Aの奥側の一端へ向けて穿設され、作動油の流路となるシリンダポート14Bが形成されている。
【0034】
図3は
図2に示す弁板をシリンダブロックから見た正面図である。
【0035】
図3に示すように、弁板16は、回転軸13の周方向に沿って所定の角度24A(
図13参照)に渡る円弧状に形成され、複数のシリンダ14Aとの間でシリンダポート14Bを介して連通し、低圧側の作動油を給排する低圧ポート16Aと、回転軸13の周方向に沿って所定の角度26Aに渡る円弧状に形成され、複数のシリンダ14Aとの間でシリンダポート14Bを介して連通し、高圧側の作動油を給排する高圧ポート16Bと、シリンダブロック14の後端面14Rに摺接し、低圧ポート16A及び高圧ポート16Bからの作動油をシールするシールランド部16Cとを含んでいる。
【0036】
このシールランド16Cは、弁板16とシリンダブロック14との間を流通する作動油が外部へ漏れないように弁板16の表面からシリンダブロック14へ向けて突出した円環状に形成されており、弁板16とシリンダブロック14との間には作動油の油膜が形成される。また、弁板16の低圧ポート16Aは、回転軸13の周方向に沿う両端に形成されたノッチ16A1を含み、高圧ポート16Bは、回転軸13の周方向に沿う両端に形成されたノッチ16B1を含んでいる。
【0037】
従って、斜板式液圧回転機械11が油圧ポンプとして機能する場合には、シリンダブロック14が回転軸13と共に順方向(
図3に示す時計周り)25Aへ回転して各ピストン15が往復動することにより、作動油タンクから弁板16へ供給された作動油が低圧ポート16Aからシリンダポート14Bを流通してシリンダ14A内に流入し、ピストン15によって加圧されて弁板16の高圧ポート16Bから吐出された後、コントロールバルブを介してフロント作業機4の各シリンダ4a〜4cへ供給される。これにより、各シリンダ4a〜4cが供給された作動油の油圧によって伸縮することにより、フロント作業機4が動作して掘削等の作業を行うことができる。
【0038】
一方、斜板式液圧回転機械11が油圧モータとして機能する場合には、高圧の作動油を弁板16の高圧ポート16Bからシリンダポート14Bを介してシリンダ14へ流すことにより、ピストン15が作動油の油圧によって斜板18側へ押し付けられるので、シリンダブロック14と共に回転軸13が順方向25Aと反対向きの逆方向25B(
図13参照)へ回転する。これにより、作動油の油圧から回転軸13の回転運動を取り出すことができる。
【0039】
ここで、本発明の第1実施形態に係る弁板16の構成をより分かり易く説明するために、
図4〜
図6を基に従来技術の弁板と比較して詳細に述べる。なお、以下の説明において、従来技術の弁板について本発明の第1実施形態と同一又は対応する部分には、同一の符号を付す。
【0040】
図4は従来技術の液圧回転機械に係る弁板をシリンダブロックから見た正面図、
図5は従来技術の液圧回転機械に係る弁板とシリンダブロックとの摺接状態を説明する図、
図6は従来技術の液圧回転機械に係るシリンダブロックの回転速度が低速であるときの
図5のA付近における摺接状態を拡大して示す図である。
【0041】
図4、
図5に示すように、従来技術の弁板16は、低圧ポート16A、高圧ポート16B、及びシールランド部16Cを備えている点では本発明の第1実施形態に係る弁板16と共通するが、シールランド部16Cの外側の表面全周に渡って設置されたパッド50を備えている。
【0042】
一般に、シリンダブロック14の回転速度が大きくなるに従って弁板16とシリンダブロック14との間の油膜の動圧が上昇するので、この動圧に起因するくさび膜が形成され易くなる。従って、
図6に示すように、シリンダブロック14の回転速度が低速であるときには、弁板16とシリンダブロック14との間にくさび膜が形成され難いので、弁板16のシールランド部16Cとシリンダブロック14との間に形成される油膜のうち高圧ポート16Bの中央付近Aの油膜が最も薄くなる。そのため、この中央付近Aにおける弁板16とシリンダブロック14との摺動面圧が他の部分と比較して高くなり易い。
【0043】
そこで、本発明の第1実施形態では、弁板16は、
図3に示すようにシールランド部16Cの周囲のうち回転軸13の周方向に沿う所定の角度26Aの範囲26B内に設けられ、シリンダブロック14の後端面14Rに摺接する摺接部材を含んでおり、この摺接部材は、例えば高圧ポート16Bに対して回転軸13の径方向の外側に配置されたパッド30から成っている。なお、上述の所定の角度26Aの範囲26Bは、例えば弁板16の高圧ポート16Bのノッチ16B1の一端から他端までの回転軸13の回転角の領域に設定されており、パッド30はこの領域におけるシールランド部16Cの外側の表面全体に設置されている。
【0044】
このように構成した本発明の第1実施形態によれば、従来技術のようにシリンダブロック14と摺接する弁板16の端面の外周全てにパッド50を設けなくても、弁板16とシリンダブロック14との摺動面圧が高くなり易い範囲26Bにのみパッド30を配置することにより、弁板16とシリンダブロック14との摺接面積を減らしつつ弁板16とシリンダブロック14の摺接面をパッド30によって的確に保護できるので、弁板16とシリンダブロック14の摺接面に発生する焼付きを十分に抑制することができる。これにより、シリンダブロック14の回転に伴うトルク損失を低減することができ、信頼性の高い斜板式液圧回転機械11を提供することができる。特に、この斜板式液圧回転機械11は掘削等の高負荷作業に使用される油圧ショベル1に適しており、油圧ショベル1における作業性能を高めることができる。
【0045】
また、本発明の第1実施形態では、弁板16に対するシリンダブロック14の周速が回転軸13の径方向の外側へ向かうほど速くなるので、弁板16における高圧ポート16B側のシールランド部16Cの外周部分16C1とシリンダブロック14との間の油膜による反力は、高圧ポート16B側のシールランド部16Cの内周部分16C2とシリンダブロック14との間の油膜による反力よりも大きくなる。
【0046】
一方、弁板16のパッド30は高圧ポート16Bに対して回転軸13の径方向の外側へ配置されているので、高圧ポート16B側のシールランド部16Cの外周部分16C1とシリンダブロック14との間の油膜による反力の影響をパッド30によって抑制することができる。これにより、弁板16とシリンダブロック14の摺接面をパッド30で効果的に保護できるので、弁板16及びシリンダブロック14の高寿命化を図ることができる。
【0047】
また、本発明の第1実施形態は、弁板16の高圧ポート16Bの回転軸13の周方向に沿う両端にノッチ16B1が形成されているので、シリンダブロック14が回転軸13と連動して順方向25Aへ回転することにより、シリンダ14Aのシリンダポート14Bの接続先が弁板16の低圧ポート16Aから高圧ポート16Bへあるいは高圧ポート16Bから低圧ポート16Aへ切り替わる際に、高圧ポート16Bとシリンダ14Aとの間で流通する作動油の急減な圧力変化をノッチ16B1によって緩和することができる。これにより、作動油の流路内におけるキャビテーションの発生を抑制できるので、弁板16及びシリンダブロック14が損傷したり、あるいはシリンダブロック14の回転中に振動及び騒音が発生するのを防止することができる。
【0048】
[第2実施形態]
図7は従来技術の液圧回転機械に係るシリンダブロックの回転速度が低速から上昇したときの
図5のB付近における摺接状態を拡大して示す図、
図8は本発明の第2実施形態の要部の構成を説明する図であり、弁板をシリンダブロックから見た正面図である。
【0049】
図7に示すように、シリンダブロック14の回転速度が低速から上昇したときには、弁板16とシリンダブロック14との間の油膜の動圧が上昇するので、弁板16とシリンダブロック14との間にくさび膜が形成され易くなる。そのため、弁板16の高圧ポート16B側のシールランド部16Cとシリンダブロック14との間に形成される油膜のうちシリンダブロック14の回転方向(順方向)25Aに対して下流付近Bの油膜が最も薄くなる。そのため、この下流付近Bにおける弁板16とシリンダブロック14との摺動面圧が他の部分と比較して高くなり易い。
【0050】
そこで、本発明の第1実施形態に係るパッド30が上述の所定の角度26Aの範囲26Bにおいて弁板16のシールランド部16Cの外側の表面全体に設置されたのに対して、本発明の第2実施形態に係るパッド30は、例えば
図8に示すように回転軸13の周方向に沿う上述の所定の角度26Aの範囲26B内のうち回転軸13の回転方向(順方向)25Aに対して下流側に偏在して配置されている。その他の構成は上述した第1実施形態と同様であり、第1実施形態と同一又は対応する部分には同一の符号を付している。
【0051】
このように構成した本発明の第2実施形態によれば、上述した第1実施形態と同様の作用効果が得られる他、弁板16の高圧ポート16B側のシールランド部16Cとシリンダブロック14の摺接面のうち弁板16とシリンダブロック14との摺動面圧が比較的高くなり易い部分にパッド30が偏在して配置されているので、第1実施形態のパッド30の使用量より少なくてもシリンダブロック14の回転速度の上昇に伴う弁板16とシリンダブロック14の摺動面圧の変化に対応することができる。これにより、油圧ショベル1の作業が高負荷等の使用条件であっても、高い容積効率を確保することができる。
【0052】
[第3実施形態]
図9は本発明の第3実施形態の要部の構成を説明する図であり、弁板をシリンダブロックから見た正面図である。
【0053】
本発明の第3実施形態が前述した第2実施形態と異なるのは、
図8に示すように第2実施形態に係る摺接部材が回転軸13の周方向に沿う上述の所定の角度26Aの範囲26B内のうち回転軸13の回転方向(順方向)25Aに対して下流側に偏在して配置されたパッド30から成るのに対して、第3実施形態に係る摺接部材は、例えば
図9に示すように回転軸13の周方向に沿って離隔して配置された3個のパッド30A〜30Aから成り、これらの各パッド30A〜30C間に作動油の流路となる溝部31を形成したことである。なお、パッド30A〜30Cの個数は、3個の場合に限らず、2又は4個以上であっても良い。その他の構成は上述した第2実施形態と同様であり、第2実施形態と同一又は対応する部分には同一の符号を付している。
【0054】
このように構成した本発明の第3実施形態によれば、上述した第2実施形態と同様の作用効果が得られる他、弁板16の低圧ポート16A及び高圧ポート16Bから漏れ出た作動油を各パッド30A〜30C間の溝部31から弁板16の外側へ流動させることができるので、シリンダブロック14が回転軸13と共に回転して弁板16に摺動することにより暖められた作動油が弁板16のシールランド部16Cと各パッド30A〜30Cとの間の部分16C1に留まるのを抑えることができる。これにより、弁板16とシリンダブロック14との間の作動油の潤滑性能を保つことができるので、弁板16に対するシリンダブロック14の摺動動作を良好に行うことができる。
【0055】
[第4実施形態]
図10は本発明の第4実施形態の要部の構成を説明する図であり、弁板とシリンダブロックの回転軸側の摺接面を拡大して示す概略断面図、
図11は本発明の第4実施形態の要部の構成を説明する図であり、弁板をシリンダブロックから見た正面図である。
【0056】
図10に示すように、弁板16の摺接面の曲率がシリンダブロック14の摺接面の曲率よりも大きい場合には、弁板16の回転軸13側のシールランド部16Cとシリンダブロック14の回転軸13側の摺接面が近接するので、弁板16の回転軸13側のシールランド部16Cとシリンダブロック14の回転軸13側の摺接面との間の部分Cに形成される油膜による反力が大きくなる。
【0057】
そこで、
図9に示すように本発明の第3実施形態に係る各パッド30A〜30Cが高圧ポート16Bに対して回転軸13の径方向の外側に配置されたのに対して、第4実施形態に係るパッド30a,30bは、例えば
図11に示すように高圧ポート16Bに対して回転軸13の径方向の内側に配置されている。また、本発明の第4実施形態に係る各パッド30a,30bの大きさは、上述した第3実施形態に係る各パッド30A〜30Cの大きさよりも小さく設定されている。なお、パッド30a,30bの個数は、2個の場合に限らず、溝部31を形成しない1個であっても良いし、あるいは本発明の第3実施形態のように3個以上であっても良い。その他の構成は上述した第3実施形態と同様であり、第3実施形態と同一又は対応する部分には同一の符号を付している。
【0058】
このように構成した本発明の第4実施形態によれば、上述した第3実施形態と異なり、弁板16の各パッド30a,30bが高圧ポート16Bに対して回転軸13の径方向の内側に配置されることにより、弁板16とシリンダブロック14の摺接面のうち曲率の相違から摺動面圧が高くなった部分をパッド30a,30bで十分に保護することができる。このように、各パッド30a,30bは、シリンダブロック14の摺接面と異なる曲率を有する弁板16にも適用できるので、汎用性に優れている。また、これらのパッド30a,30bは回転軸13に近接しており、その大きさが第3実施形態に係る各パッド30A〜30Cの大きさよりも小さくて済むので、弁板16とシリンダブロック14の摺接面積を減少させることができ、容積効率をより向上させることができる。
【0059】
[第5実施形態]
図12は本発明の第5実施形態の要部の構成を説明する図であり、弁板をシリンダブロックから見た正面図である。
【0060】
本発明の第5実施形態に係る摺接部材は、例えば
図12に示すように高圧ポート16Bに対して回転軸13の径方向の内側及び外側にそれぞれ配置されたパッド30A〜30C,30c〜30eから成り、これらのパッド30A〜30C,30c〜30eのうちパッド30A〜30Cは、上述した第3実施形態に係るパッド30A〜30Cと同一であり、パッド30c〜30eは、上述した第4実施形態に係るパッド30a,30bに対応するものである。その他の構成は第3、第4実施形態と同様であり、第3、第4実施形態と同一又は対応する部分には同一の符号を付している。
【0061】
このように構成した本発明の第3実施形態によれば、上述した第3、第4実施形態と同様の作用効果が得られる他、各パッド30A〜30C,30c〜30eが回転軸13の径方向においてバランス良く配置されるので、弁板16のシールランド部16Cとシリンダブロック14との間の油膜による反力の影響が有効に抑制され、シリンダブロック14の安定した摺動性能を実現することができる。これにより、弁板16及びシリンダブロック14の耐久性を向上させることができる。
【0062】
[第6実施形態]
図13は本発明の第6実施形態の要部の構成を説明する図であり、弁板をシリンダブロックから見た正面図である。
【0063】
斜板式液圧回転機械11が油圧モータとして機能する場合には、シリンダブロック14が順方向25Aと反対向きの逆方向25Bへ回転するので、弁板16の低圧ポート16Aと高圧ポートBが入れ替わることになる。従って、本発明の第6実施形態に係る摺接部材は、
図13に示すように第2実施形態のパッド30に加え、シールランド部16Cの周囲のうち回転軸13の周方向に沿う所定の角度24Aの範囲24B内に設けられ、シリンダブロック14の後端面14Rに摺接するパッド32から構成されている。
【0064】
このパッド32は、弁板16の低圧ポート(逆方向25Bの回転時の高圧ポート)16Aに対して回転軸13の径方向の外側に配置され、さらに回転軸13の周方向に沿う所定の角度24Aの範囲24B内のうち回転軸13の回転方向(逆方向25B)に対して下流側に偏在して配置されている。また、パッド32の形状及び大きさは、上述した第2実施形態に係るパッド30と同一の形状及び大きさに設定されている。なお、パッド32は、弁板16の低圧ポート(逆方向25Bの回転時の高圧ポート)16Aに対して回転軸13の径方向の内側に配置されても良い。その他の構成は第2実施形態と同様であり、第2実施形態と同一又は対応する部分には同一の符号を付している。
【0065】
このように構成した本発明の第6実施形態によれば、斜板式液圧回転機械11が油圧モータとして機能する場合にも、上述した油圧ポンプとして機能する場合と同様の作用効果を得ることができるので、油圧ポンプだけでなく、油圧モータに対する高い信頼性も確保することができる。
【0066】
[第7実施形態]
図14は本発明の第7実施形態の要部の構成を説明する図であり、弁板をシリンダブロックから見た正面図である。
【0067】
本発明の第7実施形態が前述した第6実施形態と異なるのは、
図13に示すように第6実施形態に係るパッド32の形状及び大きさが第2実施形態のパッド30と同一の形状及び大きさに設定されたのに対して、第7実施形態に係るパッド32の形状及び大きさは、例えば
図14に示すように逆方向25Bへ回転する回転軸13の最高回転数に応じて予め設定されている。すなわち、本発明の第7実施形態に係るパッド30,32の形状及び大きさは、互いに異なっていても良い。その他の構成は第6実施形態と同様であり、第6実施形態と同一又は対応する部分には同一の符号を付している。
【0068】
このように構成した本発明の第7実施形態によれば、上述した第6実施形態と同様の作用効果が得られる他、回転軸13の回転方向により最高回転数が異なる場合であっても、斜板式液圧回転機械11を回転軸13の回転特性に合わせて使用できるので、高い利便性を得ることができる。
【0069】
なお、上述した本実施形態は、本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。
【0070】
また、本実施形態に係る斜板式液圧回転機械11は油圧ショベル1に備えられた場合について説明したが、この場合に限らず、ホイールローダ等の作業機械に搭載しても良い。
【0071】
さらに、本実施形態は、油圧ポンプ及び油圧モータとして機能する斜板式液圧回転機械11を液圧回転機械の例として説明したが、液圧回転機械は、この場合に限らず、例えば
図15に示すようにシリンダブロック14の中心に設けられたセンターシリンダ14aと、このセンターシリンダ14aに挿入されたセンターピストン15Aと、回転軸13のピストン15側の一端において回転軸13の周方向に形成され、各ピストン15の突出端が着座する複数の球面座13aと、回転軸13のピストン15側の一端において回転軸13の中央部分に形成され、センターピストン15Aが着座してシリンダブロック14の位置決めを行うセンター球面座13bとを備えた斜軸式液圧回転機械41から構成されても良い。