(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
A.第1実施形態
図1はこの発明にかかる剥離装置の第1実施形態を示す斜視図である。各図における方向を統一的に示すために、
図1右下に示すようにXYZ直交座標軸を設定する。ここでXY平面が水平面、Z軸が鉛直軸を表す。より詳しくは、(+Z)方向が鉛直上向き方向を表している。
【0014】
この剥離装置1は、主面同士が互いに密着した状態で搬入される2枚の板状体を剥離させるための装置である。例えばガラス基板や半導体基板等の基板の表面に所定のパターンを形成するパターン形成プロセスの一部において用いられる。より具体的には、このパターン形成プロセスでは、被転写体である基板に転写すべきパターンを一時的に担持する担持体としてのブランケット表面にパターン形成材料を均一に塗布し(塗布工程)、パターン形状に応じて表面加工された版をブランケット上の塗布層に押し当てることによって塗布層をパターニングし(パターニング工程)、こうしてパターンが形成されたブランケットを基板に密着させることで(転写工程)、パターンをブランケットから基板に最終転写する。
【0015】
このとき、パターニング工程において密着された版とブランケットとの間、または転写工程において密着された基板とブランケットとの間を離間させる目的のために、本装置を好適に適用することが可能である。もちろんこれらの両方に用いられてもよく、これ以外の用途で用いられても構わない。例えば担持体に担持された薄膜を基板に転写する際の剥離プロセスにも適用することができる。
【0016】
この剥離装置1は、筺体に取り付けられたメインフレーム11の上にステージブロック3および上部吸着ブロック5がそれぞれ固定された構造を有している。
図1では装置の内部構造を示すために筐体の図示を省略している。また、これらの各ブロックの他に、この剥離装置1は後述する制御ユニット70(
図4)を備えている。
【0017】
ステージブロック3は、版または基板とブランケットとが密着されてなる密着体(以下、「ワーク」という)を載置するためのステージ30を有しており、ステージ30は、上面が略水平の平面となった水平ステージ部31と、上面が水平面に対して数度(例えば2度程度)の傾きを有する平面となったテーパーステージ部32とを備えている。ステージ30のテーパーステージ部32側、すなわち(−Y)側の端部近傍には初期剥離ユニット33が設けられている。また、水平ステージ部31を跨ぐようにローラユニット34が設けられる。
【0018】
一方、上部吸着ブロック5は、メインフレーム11から立設されるとともにステージブロック3の上部を覆うように設けられた支持フレーム50と、該支持フレーム50に取り付けられた第1吸着ユニット51、第2吸着ユニット52、第3吸着ユニット53および第4吸着ユニット54とを備えている。これらの吸着ユニット51〜54は(+Y)方向に順番に並べられている。
【0019】
図2はこの剥離装置の主要構成を示す斜視図である。より具体的には、
図2は、剥離装置1の各構成のうちステージ30、ローラユニット34および第2吸着ユニット52の構造を示している。ステージ30は、上面310が略水平面となった水平ステージ部31と上面320がテーパー面となったテーパーステージ部32とを備えている。水平ステージ部31の上面310は載置されるワークの平面サイズより少し大きい平面サイズを有している。
【0020】
テーパーステージ部32は水平ステージ部31の(−Y)側端部に密着して設けられており、その平坦な上面320は、水平ステージ部31と接する部分では水平ステージ部31の上面310と同じ高さ(Z方向位置)に位置する一方、水平ステージ部31から(−Y)方向に離れるにつれて下方、つまり(−Z)方向へ後退している。したがって、ステージ30全体では、水平ステージ部31の上面310の水平面とテーパーステージ部32の上面320のテーパー面とが連続しており、それらが接続する稜線部EはX方向に延びる直線状となっている。
【0021】
また、水平ステージ部31の上面310には格子状の溝が刻設されている。より具体的には、水平ステージ部31の上面310の中央部に格子状の溝311が設けられるとともに、該溝311が形成された領域を取り囲むように、矩形のうちテーパーステージ部32側の1辺を除いた概略コの字型となるように、溝312が水平ステージ部31の上面310の周縁部に設けられている。これらの溝311,312は制御バルブを介して後述する負圧発生部704(
図4)に接続されており、負圧が供給されることで、ステージ30に載置されるワークを吸着保持する吸着溝としての機能を有する。2種類の溝311,312はステージ上では繋がっておらず、また互いに独立した制御バルブを介して負圧発生部704に接続されているので、両方の溝を使用した吸着の他に、一方の溝のみ使用した吸着も可能となっている。このように本実施形態では、ステージ30が本発明の「保持手段」として機能している。
【0022】
このように構成されたステージ30を跨ぐように、ローラユニット34が設けられる。具体的には、水平ステージ部31のX方向両端部に沿って、1対のガイドレール351,352がY方向に延設されており、これらのガイドレール351,352はメインフレーム11に固定されている。そして、ガイドレール351,352に対し摺動自在にローラユニット34が取り付けられている。
【0023】
ローラユニット34は、ガイドレール351,352とそれぞれ摺動自在に係合するスライダ341,342を備えており、これらのスライダ341,342を繋ぐように、ステージ30上部を跨いでX方向に延設された下部アングル343が設けられている。下部アングル343には両側に一対の適宜の昇降機構344を介して上部アングル345が昇降自在に取り付けられている。そして、上部アングル345に対して、X方向に延設された円柱状の剥離ローラ340が回転自在に取り付けられる。
【0024】
上部アングル345が昇降機構344により下方、つまり(−Z)方向に下降されると、ステージ30に載置されたワークの上面に剥離ローラ340の下面が当接する。一方、上部アングル345が昇降機構344により上方、つまり(+Z)方向の位置に位置決めされた状態では、剥離ローラ340はワークの上面から上方に離間した状態となる。上部アングル345には、剥離ローラ340の撓みを抑制するためのバックアップローラ346が回転自在に取り付けられるとともに、上部アングル345自体の撓みを防止するためのリブが適宜設けられる。剥離ローラ340およびバックアップローラ346は駆動源を有しておらず、これらは自由回転する。
【0025】
ローラユニット34は、メインフレーム11に取り付けられたモータ353によりY方向に移動可能となっている。より具体的には、下部アングル343が、モータ353の回転運動を直線運動に変換する変換機構としての例えばボールねじ機構354に連結されており、モータ353が回転すると下部アングル343がガイドレール351,352に沿ってY方向に移動し、これによりローラユニット34がY方向に移動する。ローラユニット34の移動に伴う剥離ローラ340の可動範囲は、(−Y)方向には水平ステージ部31の(−Y)側端部の近傍まで、(+Y)方向には水平ステージ部31の(+Y)側端部よりも外側、つまりさらに(+Y)側へ進んだ位置までとされる。
【0026】
次に第2吸着ユニット52の構成について説明する。なお、第1ないし第4吸着ユニット51〜54はいずれも同一構造を有しており、ここでは代表的に第2吸着ユニット52の構造について説明する。第2吸着ユニット52は、X方向に延設されて支持フレーム50に固定される梁部材521を有しており、該梁部材521には鉛直下向き、つまり(−Z)方向に延びる1対の柱部材522,523がX方向に互いに位置を異ならせて取り付けられている。柱部材522,523には図では隠れているガイドレールを介してプレート部材524が昇降自在に取り付けられており、プレート部材524はモータおよび変換機構(例えばボールねじ機構)からなる昇降機構525により昇降駆動される。
【0027】
プレート部材524の下部にはX方向に延びる棒状のパッド支持部材526が取り付けられており、該パッド支持部材526の下面に複数の吸着パッド527がX方向に等間隔で配列されている。
図2では第2吸着ユニット52を実際の位置よりも上方に移動させた状態を示しているが、昇降機構525によりプレート部材524が下方へ移動されたとき、吸着パッド527が水平ステージ部31の上面310にごく近接した位置まで下降することができ、ステージ30にワークが載置された状態では該ワークの上面に当接する。各吸着パッド527には後述する負圧供給部528(
図5)を介して負圧発生部704(
図4)からの負圧が付与されて、ワークの上面が吸着保持される。
【0028】
図3は初期剥離ユニットの構造および各部の位置関係を示す側面図である。まず
図1および
図3を参照しながら初期剥離ユニット33の構造を説明する。初期剥離ユニット33は、テーパーステージ部32の上方でX方向に延設された棒状の押圧部材331を有しており、押圧部材331は支持アーム332により支持されている。支持アーム332は鉛直方向に延設されるガイドレール333を介して柱部材334に昇降自在に取り付けられており、昇降機構335の作動により、支持アーム332が柱部材334に対して上下動する。柱部材334はメインフレーム11に取り付けられたベース部336により支持されるが、位置調整機構337によりベース部336上での柱部材334のY方向位置が所定の範囲内で調整可能となっている。
【0029】
水平ステージ部31およびテーパーステージ部32により構成されるステージ30に対して、剥離対象物たるワークWKが載置される。前述したパターニング工程におけるワークは版とブランケットとがパターン形成材料の薄膜を介して密着した密着体である。一方、転写工程におけるワークは基板とブランケットとがパターニングされたパターンを介して密着した密着体である。以下では転写工程における基板SBとブランケットBLとの密着体をワークWKとした場合の剥離装置1の剥離動作について説明するが、版とブランケットとによる密着体をワークとする場合でも同様の方法によって剥離を行うことが可能である。
【0030】
ワークWKにおいて、基板SBよりもブランケットBLの方が大きい平面サイズを有しているものとする。基板SBはブランケットBLの略中央部に密着される。ワークWKはブランケットBLを下、基板SBを上にしてステージ30に載置される。このとき、
図3に示すように、ワークWKのうち基板SBの(−Y)側端部が水平ステージ部31とテーパーステージ部32との境界の稜線部Eの略上方、より詳しくは稜線部Eよりも僅かに(−Y)側にずれた位置となるように、ワークWKがステージ30に載置される。したがって、(−Y)方向において基板SBよりも外側のブランケットBLはテーパーステージ部32の上にせり出すように配置され、ブランケットBLの下面とテーパーステージ部32の上面320との間には隙間が生じる。ブランケットBLの下面とテーパーステージ部32の上面320とがなす角θはテーパーステージ部32のテーパー角と同じ数度(この実施形態では2度)程度である。
【0031】
水平ステージ部31には吸着溝311,312が設けられており、ブランケットBLの下面を吸着保持する。このうち吸着溝311は基板SBの下部に当たるブランケットBLの下面を吸着する一方、吸着溝312は基板SBよりも外側のブランケットBLの下面を吸着する。吸着溝311,312は互いに独立して吸着をオン・オフすることができ、2種類の吸着溝311,312を共に使用して強力にブランケットBLを吸着することができる。一方、外側の吸着溝312のみを使用して吸着を行い、パターンが有効に形成されたブランケットBLの中央部については吸着を行わないようにすることで、吸着によるブランケットBLの撓みに起因するパターンの損傷を防止することができる。このように、中央部の吸着溝311と周縁部の吸着溝312とへの負圧供給を独立に制御することで、ブランケットBLの吸着保持の態様を目的に応じて切り換えることが可能となっている。
【0032】
このようにしてステージ30に吸着保持されるワークWKの上方に、第1ないし第4吸着ユニット51〜54と、ローラユニット34の剥離ローラ340とが配置される。前述したように第2吸着ユニット52の下部には複数の吸着パッド527がX方向に並べて設けられている。より詳しくは、吸着パッド527は、例えばゴムやシリコン樹脂などの柔軟性および弾性を有する材料で一体的に形成された、下面がワークWKの上面(より具体的には基板SBの上面)に当接してこれを吸着する吸着部位527Aと、上下方向(Z方向)への伸縮性を有するべローズ部位527Bとを有している。他の吸着ユニット51,53および54に設けられた吸着パッドも同一構造であるが、以下ではこれらの各吸着ユニット51,53および54に設けられた吸着パッドにそれぞれ符号517、537および547を付すことにより互いを区別することとする。
【0033】
第1吸着ユニット51は水平ステージ部31の(−Y)側端部の上方に設けられており、下降したときに基板SBの(−Y)側端部の上面を吸着する。一方、第4吸着ユニット54は、ステージ30に載置される基板SBの(+Y)側端部の上方に設けられ、下降したときに基板SBの(+Y)側端部の上面を吸着する。第2吸着ユニット52および第3吸着ユニット53はこれらの間に適宜分散配置され、例えば吸着パッド517〜547がY方向において略等間隔となるようにすることができる。これらの吸着ユニット51〜54の間では、上下方向への移動および吸着のオン・オフを互いに独立して実行可能となっている。なお、各吸着ユニット51〜54において負圧供給を制御するための構成および動作については後で詳述する。
【0034】
剥離ローラ340は上下方向に移動して基板SBに対し接近・離間移動するとともに、Y方向に移動することで基板SBに沿って水平移動する。剥離ローラ340が下降した状態では、基板SBの上面に当接して転動しながら水平移動する。最も(−Y)側に移動したときの剥離ローラ340の位置は、第1吸着ユニット51の吸着パッド517の(+Y)側直近位置である。このような近接位置への配置を可能とするために、第1吸着ユニット51については、
図2に示す第2吸着ユニット52と同一構造のものが、
図1に示すように他の第2ないし第4吸着ユニット52〜54とは反対向きにして支持フレーム50に取り付けられている。
【0035】
初期剥離ユニット33は、テーパーステージ部32の上方に突き出されたブランケットBLの上方に押圧部材331が位置するように、そのY方向位置が調整されている。そして、支持アーム332が下降することにより、押圧部材331の下端が下降してブランケットBLの上面を押圧する。このとき押圧部材331がブランケットBLを傷つけることがないように、押圧部材331の先端は弾性部材により形成されている。
【0036】
図4はこの剥離装置の電気的構成を示すブロック図である。装置各部は本発明の「制御手段」の一例に相当する制御ユニット70により制御される。制御ユニット70は、装置全体の動作を司るCPU(Central Processing Unit)701と、各部に設けられたモータ類を制御するモータ制御部702と、各部に設けられたバルブ類を制御するバルブ制御部703と、各部に供給する負圧を発生する負圧発生部704と、ユーザからの操作入力を受け付けたり装置の状態をユーザに報知するためのユーザインタフェース(UI)部705とを備えている。なお、工場用力など外部から供給される負圧を利用可能である場合には制御ユニット70が負圧発生部を備えていなくてもよい。
【0037】
モータ制御部702は、ステージブロック3に設けられたモータ353および昇降機構335,344、上部吸着ブロック5の各吸着ユニット51〜54にそれぞれ設けられた昇降機構525などのモータ群を駆動制御する。バルブ制御部703は、負圧発生部704から水平ステージ部31に設けられた吸着溝311,312につながる配管経路上に設けられてこれらの吸着溝に対し所定の負圧を個別に供給するためのバルブ群V3、負圧発生部704から各吸着パッド517〜547につながる負圧供給部に設けられて各吸着パッド517〜547に所定の負圧を供給するためのバルブ群V51、V521、V522などを制御する。
【0038】
図5は吸着ユニットの構成を模式的に示す図である。本実施形態では、吸着ユニット51〜54のいずれもが25個の吸着パッドを有している。そして、吸着ユニット51〜54には、負圧供給部518、528、538、548がそれぞれ設けられ、吸着パッドへの負圧供給および供給停止を切り替え可能となっている。本実施形態では、吸着ユニット51は後述するように剥離が進行する方向、つまり剥離進行方向(+Y)において最上流側に位置しており、版または基板の上流側端部を吸着して最初にブランケットBLから剥離させる機構であり、その他の吸着ユニット52〜54の各々は当該吸着ユニットの上流側吸着ユニットにより剥離された剥離部位を吸着して剥離をさらに進行させる機構である。このように吸着ユニットの機能が異なることから、本実施形態では、吸着ユニット51と、吸着ユニット52〜54とで負圧供給部の構成を相違させている。
【0039】
吸着ユニット51では、25個の吸着パッド517がX方向に配列されており、
図5(b)に示すように、(−X)方向側から(+X)方向側に8個、9個、8個の3つの吸着パッドグループに分けられ、負圧供給部518を介して負圧発生部704に接続されている。この負圧供給部518は3つのマニホールド5181〜5183を有しており、マニホールド5181は(−X)側の吸着パッドグループを構成する8個の吸着パッド517と接続され、マニホールド5182は中央の吸着パッドグループを構成する9個の吸着パッド517と接続され、さらにマニホールド5183は(+X)側の吸着パッドグループを構成する8個の吸着パッド517と接続されている。なお、吸着パッド517の個数、グループの区分け態様などについては任意である。
【0040】
各マニホールド5181〜5183は制御バルブV51を介して負圧発生部704に接続されている。このため、制御ユニット70のバルブ制御部703からの開指令に応じて制御バルブV51が開成すると、マニホールド5181〜5183を介して吸着パッド517に負圧が与えられる。逆にバルブ制御部703からの閉指令に応じて制御バルブV51が閉成することで、吸着パッド517への負圧供給が停止される。このように、本実施形態では制御バルブV51が吸着パッド517への負圧供給と、負圧供給停止とを切り替える切替部として機能しており、本発明の「上流側切替部」の一例に相当している。そして、制御バルブV51によって、全吸着パッド517に対して負圧を同時に供給し、また負圧供給を同時に停止することが可能となっている。なお、同図中の符号5184は各吸着パッド517内の圧力を計測する圧力計である。
【0041】
吸着ユニット52〜54も吸着ユニット51と同様にX方向に配列される25個の吸着パッドを有しており、それぞれ負圧供給部528、538、548によって吸着パッドへの負圧供給および負圧供給停止を独立して切替可能となっている。これらの負圧供給部528、538、548は同一構成を有している。したがって、以下においては、負圧供給部528の構成について説明し、残りの負圧供給部538、548について相当符号を付して構成説明を省略する。
【0042】
吸着ユニット52では、25個の吸着パッド527は、X方向に配列されている。なお、25個の吸着パッド527を相互に区別して説明する場合には、本明細書では最も(−X)側から(+X)側に並んでいる吸着パッド527をそれぞれ吸着パッド527a〜527yと称し、その他の場合には単に「吸着パッド527」と称する。
【0043】
これらの吸着パッド527は(−X)方向側から(+X)方向側に1個、7個、4個、1個、4個、7個、1個の7つの吸着パッドグループに分けられ、(−X)側からN番目(N=1,2,3,4,5,6,7)の吸着パッドグループはそれぞれ以下のように構成されている。つまり、
第1番目の吸着パッドグループ:吸着パッド527a、
第2番目の吸着パッドグループ:吸着パッド527b〜527h、
第3番目の吸着パッドグループ:吸着パッド527i〜527l、
第4番目の吸着パッドグループ:吸着パッド527m、
第5番目の吸着パッドグループ:吸着パッド527n〜527q、
第6番目の吸着パッドグループ:吸着パッド527r〜527x、
第7番目の吸着パッドグループ:吸着パッド527y、
という構成で区分けされている。これらのうち第2番目、第3番目、第5番目および第6番目の吸着パッドグループは上記したように複数の吸着パッド527で構成されている。そこで、これに対応して負圧供給部528は4つのマニホールド5281〜5284を有している。これらのうちマニホールド5281は第2番目の吸着パッドグループを構成する吸着パッド527b〜527hと接続され、マニホールド5282は第3番目の吸着パッドグループを構成する吸着パッド527i〜527lと接続され、マニホールド5283は第5番目の吸着パッドグループを構成する吸着パッド527n〜527qと接続され、マニホールド5284は第6番目の吸着パッドグループを構成する吸着パッド527r〜527xと接続されている。
【0044】
各マニホールド5281〜5284は制御バルブV521を介して負圧発生部704に接続されている。このため、制御ユニット70のバルブ制御部703からの開指令に応じて制御バルブV521が開成すると、マニホールド5281〜5284を介して吸着パッド527b〜527h、527i〜527l、527n〜527q、527r〜527xに負圧が与えられる。逆にバルブ制御部703からの閉指令に応じて制御バルブV521が閉成することで、吸着パッド527b〜527h、527i〜527l、527n〜527q、527r〜527xへの負圧供給が停止される。このように、本実施形態では制御バルブV521が吸着パッド527b〜527h、527i〜527l、527n〜527q、527r〜527xへの負圧供給と、負圧供給停止とを切り替える切替部として機能しており、吸着パッド527b〜527h、527i〜527l、527n〜527q、527r〜527xに対して負圧を同時に供給し、また負圧供給を同時に停止することが可能となっている。なお、同図中の符号5285は各吸着パッド527b〜527h、527i〜527l、527n〜527q、527r〜527xの圧力を計測する圧力計である。
【0045】
一方、残りの吸着パッドグループはいずれも単一の吸着パッド527a、527m、527yで構成されていることから、マニホールドを設けることなく、吸着パッド527a、527m、527yは制御バルブV522を介して負圧発生部704に接続されている。このため、制御ユニット70のバルブ制御部703からの開指令に応じて制御バルブV522が開成すると、吸着パッド527a、527m、527xに負圧が与えられる。逆にバルブ制御部703からの閉指令に応じて制御バルブV522が閉成することで、吸着パッド527a、527m、527xへの負圧供給が停止される。このように、本実施形態では制御バルブV522が吸着パッド527a、527m、527xへの負圧供給と、負圧供給停止とを切り替える切替部として機能しており、吸着パッド527a、527m、527xに対して負圧を同時に供給し、また負圧供給を同時に停止することが可能となっている。なお、同図中の符号5286は各吸着パッド527a、527m、527xの圧力を計測する圧力計であり、本発明の「モニター手段」および「圧力計測部」の一例に相当する。
【0046】
次に、上記のように構成された剥離装置の動作について
図6ないし
図11を参照しつつ説明する。
図6ないし
図10は処理中の各段階における各部の位置関係と負圧供給部における負圧供給状態を模式的に示す図である。また、
図11は処理中の各段階における各部の位置関係のみを模式的に示す図である。この剥離処理は、CPU701が予め記憶された処理プログラムを実行して各部を制御することによりなされる。なお、ここでは、上記したように基板SBとブランケットBLとの密着体をワークWKとした場合の剥離装置1の剥離動作について説明する。
【0047】
まず、オペレータまたは外部の搬送ロボット等によってワークWKがステージ30上の上記位置にロードされると、装置が初期化されて装置各部が所定の初期状態に設定される。初期状態では、ワークWKが吸着溝311,312の一方または両方によって吸着保持され、初期剥離ユニット33の押圧部材331、ローラユニット34の剥離ローラ340、第1ないし第4吸着ユニット51〜54の吸着パッド517〜547はいずれもワークWKから離間し、いずれの吸着パッド517〜547にも負圧は供給されていない。また剥離ローラ340はその可動範囲において最も(−Y)側に寄った位置にある。
【0048】
この状態から、
図6に示すように、第1吸着ユニット51および剥離ローラ340を下降させる。この移動中において、制御バルブV51は負圧供給を停止した状態を維持する。そして、ワークWKの厚みに応じて予め設定された距離だけ下降移動すると、
図7に示すように、第1吸着ユニット51の吸着パッド517はそれぞれワークWKの上面に当接する。すると、バルブ制御部703からの指令により制御バルブV51を開成して負圧発生部704からマニホールド5181〜5183を介して第1吸着ユニット51の吸着パッド517に負圧を与える。これによって基板SBの上面、つまりブランケットBLと密着している面と反対側の反密着面の(−Y)側端部が吸着パッド517で吸着されて保持される。このように吸着パッド517で吸着された部位が本発明の「被吸着部位」の一例に相当する。また、剥離ローラ340はその(+Y)側隣接位置で基板SBの上面に当接する。なお、
図7(a)におけるハッチングは吸着パッドが負圧供給を受けていることを示すものであり、また同図(b)において押圧部材331の近傍に付した下向き矢印は、図に示される状態から、続く工程では押圧部材331が当該矢印方向に移動することを意味している。これらの点については、以下の図においても同様である。
【0049】
ここで、剥離ローラ340が当接する当接領域は、パターンが有効に転写されてデバイスとして機能する有効領域よりも外側、つまり有効領域から(−Y)側に寄った位置とされる。したがって、有効領域の内部は第1吸着ユニット51による吸着、剥離ローラ340による押圧のいずれをも受けていない。
【0050】
次に初期剥離ユニット33を作動させ、押圧部材331を下降させてブランケットBL端部を押圧する。ブランケットBLの端部はテーパーステージ部32の上方に突出しており、その下面とテーパーステージ部32の上面320との間には隙間がある。したがって、押圧部材331がブランケットBLの端部を下方へ押圧することにより、ブランケットBLの端部がテーパーステージ部32のテーパー面に沿って下方へ屈曲する。その結果、第1吸着ユニット51により吸着保持される基板SBの端部とブランケットBLとの間が離間し剥離が開始される。押圧部材331はX方向に延びる棒状に形成され、しかもそのX方向長さがブランケットBLよりも長く設定されている。したがって、押圧部材331がブランケットBLに当接する当接領域は、ブランケットBLの(−X)側端部から(+X)側端部まで直線状に延びる。こうすることで、ブランケットBLを柱面状に屈曲させることができ、基板SBとブランケットBLとが既に剥離した剥離領域と、まだ剥離していない未剥離領域との境界線(以下、「剥離境界線」という)を直線状にすることができる。
【0051】
この状態から、第1吸着ユニット51の上昇を開始するとともに、これと同期させて剥離ローラ340を(+Y)方向に向けて移動させる。具体的には、第1吸着ユニット51の上昇により(+Y)方向に移動する剥離境界線が剥離ローラ340の直下に到達するタイミングで、剥離ローラ340の移動を開始する。これにより当接領域は(+Y)方向に移動してゆく。この後、第1吸着ユニット51は上方、つまり(+Z)方向に、また剥離ローラ340は(+Y)方向に、それぞれ一定速度で移動する。
【0052】
また、
図8に示すように、基板SBの端部を保持する第1吸着ユニット51が上昇することで吸着パッド517で吸着された基板SBの被吸着部位SRが引き上げられてブランケットBLとの剥離が(+Y)方向に向かって進行するが、剥離ローラ340を当接させているため、剥離ローラ340による当接領域を超えて剥離が進行することはない。剥離ローラ340を基板SBに当接させながら一定速度で(+Y)方向に移動させることで、剥離の進行速度を一定に維持することができる。すなわち、剥離境界線がローラ延設方向つまりX方向に沿った一直線となり、しかも一定速度で(+Y)方向に進行する。これにより、剥離の進行速度の変動による応力集中に起因するパターンの損傷を確実に防止することができる。
【0053】
続いて、剥離ローラ340が第2吸着位置を通過するのを待つ。第2吸着位置は、基板SB上面のうち第2吸着ユニット52の直下位置であり、当該第2吸着ユニット52による吸着を受ける位置である。そして、剥離ローラ340が第2吸着位置を通過すると、
図9に示すように第2吸着ユニット52の下降を開始する。つまり、剥離が進行している剥離進行方向(+Y)において第2吸着ユニット52よりも上流側に位置する第1吸着ユニット51が上昇することでブランケットBLから剥離した剥離部位(基板SBのうち第1吸着ユニット51と剥離ローラ340との間に位置する部分)PRに向けて吸着パッド527が移動する。
【0054】
また、第2吸着ユニット52の下降とともに、バルブ制御部703からの指令により制御バルブV522のみを開成して負圧発生部704から3つの吸着パッド527a、527m、527yに負圧を供給する。なお、これら以外の22個の吸着パッド527b〜527l、527n〜527xへの負圧供給は停止されたままである。つまり、第2吸着ユニット52では、X方向における(−X)側、中央および(+X)側で吸引を行いながら第2吸着ユニット52は下降する。伸縮性を有する弾性部材で構成された吸着パッド527の下面が基板SBの剥離部位PRに当接した時点で、基板SBを捕捉し吸着するとともに圧力計5286により計測される圧力値は大きく変化する。したがって、圧力計5286から出力される圧力値をモニターすることで吸着パッド527が剥離部位PRを吸着可能な位置まで第2吸着ユニット52が下降してきたことを正確に検知することが可能である。
【0055】
ここで、単に吸着パッド527により基板SBの剥離部位PRを吸着するためなら、第2吸着ユニット52の下降中に全吸着パッド527に対して負圧を供給するように構成してもよい。しかしながら、基板SBと当接するまでの間、吸着パッド527は大気を吸引することとなり、負圧発生部704に多大な負荷を掛けるとともに負圧発生部704から第1吸着ユニット51に与えている負圧の値が変動して、吸着パッド517による基板SBの保持が外れる可能性がある。これに対し、剥離部位PRへの吸着パッド527の当接を検知するために第2吸着ユニット52の下降中に負圧を与える吸着パッド527の個数を大幅に制限することで、上記問題の発生を大幅に低減させながら上記当接検知を正確に行うことができる。この点を考慮して本実施形態では、上記したように3つの吸着パッド527a、527m、527yは単に基板SBを吸着させる機能のみならず基板SBの剥離部位PRへの当接を確認する機能を兼ね備えており、いわゆる当接確認兼用吸着部として機能する。一方、その他の吸着パッド527b〜527l、527n〜527xは専ら剥離部位PRを吸着して保持するための保持専用吸着部として機能する。なお、本実施形態では、当接確認用として3つの吸着パッド527a、527m、527yを用いているが、当接確認兼用吸着部として用いる吸着パッドの個数や配設位置はこれに限定されるものではなく、任意であるが、負圧値の変動を抑制する観点からすれば、少なくとも保持専用吸着部よりも少ない個数に設定するのが望ましい。
【0056】
圧力値のモニタリングによって基板SBの剥離部位PRに吸着パッド527が当接したことを検知すると、
図10に示すように、バルブ制御部703からの指令により制御バルブV521を開成して負圧発生部704から残りの22個の吸着パッド527b〜527l、527n〜527xにも負圧を供給する。これにより25個全部の吸着パッド527により基板SBの剥離部位PRを吸着して保持する。なお、全吸着パッド527を所定位置まで下降させた後、引き上げられてくる基板SBを待機する態様であってもよい。いずれにおいても、吸着パッド527に柔軟性を持たせることで、吸着の失敗を防止することができる。この点に関しては後の実施形態においても同様である。
【0057】
基板SBの吸着を開始した後、第2吸着ユニット52の移動を上昇に転じる。これにより、剥離の進行速度は依然として剥離ローラ340により制御されつつ、剥離のための基板SBの引き上げの主体は第1吸着ユニット51から第2吸着ユニット52に引き継がれる。また剥離後の基板SBは、第1吸着ユニット51のみによる保持から第1吸着ユニット51と第2吸着ユニット52とによる保持に切り替わり、保持箇所が増加することになる。なお、各吸着ユニット51〜54が上昇する際、
図11(a)に示すように、剥離後の基板SBの姿勢が略平面となるように、各吸着ユニット51〜54間のZ方向における相対位置が維持される。
【0058】
続いて、剥離ローラ340が第3吸着ユニット53直下の第3吸着位置を通過した時点で第3吸着ユニット53の下降が開始され、剥離のための基板SBの引き上げの主体が第2吸着ユニット52から第3吸着ユニット53に移行する。この第3吸着ユニット53の下降、吸着保持および基板引上は、第2吸着ユニットのそれらと同様にして行われる。さらに剥離ローラ340が第4吸着位置を通過した後に第4吸着ユニット54が下降し、基板SBを引き上げる。この際にも、第2吸着ユニット52の下降、吸着保持および基板引上と同様の動作が実行される。
【0059】
こうして第4吸着ユニット54によって基板SBが引き上げられることで、
図11(b)に示すように、基板SBの全体がブランケットBLから引き離される。そこで、第4吸着ユニット54を上昇させた後、剥離ローラ340をステージ30よりも(+Y)側まで移動させてその移動を停止させる。そして、
図11(c)に示すように、各吸着ユニット51〜54を全て同じ高さまで上昇させた後に停止させる。また、初期剥離ユニット33の押圧部材331をブランケットBLから離間させ、ブランケットBLの上面より上方かつブランケットBLの(−Y)側端部よりも(−Y)側の退避位置まで移動させる。その後、吸着溝によるブランケットBLの吸着保持を解除し、分離された基板SBおよびブランケットBLを装置外へ搬出することで、剥離処理が完了する。
【0060】
各吸着ユニット51〜54の高さを同じとするのは、剥離後の基板SBとブランケットBLとを平行に保持することで、外部ロボットまたはオペレータにより挿入される払い出し用ハンドのアクセスと、それへのブランケットBLおよび基板SBの受け渡しとを容易にするためである。
【0061】
以上のように、本実施形態によれば、剥離進行方向(本実施形態では+Y方向)への基板SBの剥離進行に伴って基板SBの剥離部位PRを下流側吸着パッドで保持し、剥離をさらに進行させている。例えば第1吸着ユニット51の吸着パッド517により基板SBの(−Y)側端部を保持しながら剥離を進行させている間に吸着パッド517の下流側に位置する第2吸着ユニット52の吸着パッド527で基板SBの剥離部位PRを保持した後で剥離をさらに進行させている。このような剥離段階では、第1吸着ユニット51および吸着パッド517がそれぞれ本発明の「上流側剥離手段」および「上流側吸着部」として機能するとともに、第2吸着ユニット52および吸着パッド527がそれぞれ本発明の「下流側剥離手段」および「下流側吸着部」として機能する。
【0062】
また、上記剥離に続いて、第2吸着ユニット52の吸着パッド527により基板SBの被吸着部位SR(
図11(a)参照)を保持しながら剥離を進行させている間に吸着パッド527の下流側に位置する第3吸着ユニット53の吸着パッド537で基板SBの剥離部位PRを保持した後で剥離をさらに進行させている。このような剥離段階では、第2吸着ユニット52および吸着パッド527がそれぞれ本発明の「上流側剥離手段」および「上流側吸着部」として機能するとともに、第3吸着ユニット53および吸着パッド537がそれぞれ本発明の「下流側剥離手段」および「下流側吸着部」として機能する。
【0063】
また、上記剥離に続いて、第3吸着ユニット53の吸着パッド537により基板SBの被吸着部位SR(
図11(b)参照)を保持しながら剥離を進行させている間に吸着パッド537の下流側に位置する第4吸着ユニット54の吸着パッド547で基板SBの剥離部位PRを保持した後で剥離をさらに進行させている。このような剥離段階では、第3吸着ユニット53および吸着パッド537がそれぞれ本発明の「上流側剥離手段」および「上流側吸着部」として機能するとともに、第4吸着ユニット54および吸着パッド547がそれぞれ本発明の「下流側剥離手段」および「下流側吸着部」として機能する。
【0064】
このように剥離の進行に伴って基板SBの保持箇所を順次変化させることで基板SBの保持を確実にするとともに、剥離後の基板SBの姿勢を容易に維持することが可能となる。そして、上記のように安定した剥離力を与えつつ剥離を進行させることができるので、パターンの損傷も防止される。また基板SBのサイズに応じて吸着ユニットを配置することにより、基板SBの大型化にも柔軟に対応することが可能である。
【0065】
また、上記した剥離部位PRはブランケットBLから既に剥離した領域であり、剥離の進行中に新たに基板SBを吸着する第2ないし第4吸着ユニット52〜54は剥離部位PRと当接するため、この場合の吸着によって基板SBに転写されたパターンを傷めることはない。
【0066】
また、剥離進行方向Yに直交するX方向に延設された剥離ローラ340を基板SBに当接させ、剥離ローラ340を剥離の進行方向に一定速度で移動させながら基板SBを引き上げている。このため、剥離の進行速度を一定に保って基板SBとブランケットBLとの間を良好に剥離させることができる。
【0067】
さらに、第2ないし第4吸着ユニット52〜54では圧力計で当接確認兼用吸着部として機能する吸着パッド内の圧力をモニターし、圧力値を示す信号を基板SBの反密着面に対する吸着パッドの相対位置を示す位置情報として制御ユニット70に出力している。そして、制御ユニット70は、吸着ユニットの下降中における圧力値の変化に基づいて当該吸着パッドの基板SBへの当接を検知したときに、保持専用吸着部として機能する吸着パッドへの負圧供給を開始している。このため、次の作用効果が得られる。
【0068】
上記のように上流側吸着部として機能する吸着パッドで基板SBの一部(被吸着部位SR)を保持した状態で当該吸着パッドを水平ステージ部31から(+Z)方向に移動させて剥離を進行させる場合、基板SBの反りは不可避である。しかも、反り量は基板SBとブランケットBLとの密着力や基板SBの剛性などにより異なる。したがって、下流側吸着部として機能する吸着パッドが基板SBの剥離部位PRと当接するZ方向における位置は一定ではなく、密着力などの条件に応じて変位する。そこで、本実施形態では、上記したように吸着ユニットの下降中における圧力値をモニタリングし、圧力値の変化に基づいて剥離部位PRへの吸着パッドの当接を正確に検知している。そして、当該当接検知をトリガーとして保持専用の吸着パッドへの負圧供給の開始している。その結果、常に適正なタイミングで下流側吸着部に相当する吸着パッドが基板SBの剥離部位を吸着して剥離処理を安定的に行うことができる。しかも、圧力モニターに用いる吸着パッドを少数(本実施形態では25個中の3個)に制限しているため、既に基板SBを吸着している吸着パッド内の圧力が大きく低下するのを防止することができ、剥離処理を安定して行うことができる。
【0069】
B.第2実施形態
図12はこの発明にかかる剥離装置の第2実施形態を示す図である。この第2実施形態が第1実施形態と大きく相違する点は、当接確認兼用吸着部として機能する吸着パッドが保持専用吸着部として機能する吸着パッドの下流側に設けられている点であり、その他の構成は基本的に第1実施形態と同様である。したがって、以下においては相違点を中心に説明し、同一構成については同一符号を付して説明を省略する。
【0070】
第2実施形態の吸着ユニット52〜54の各々では、吸着ユニット51と同様に25個の吸着パッドが保持専用吸着部としてX方向に配列されるのみならず、2つの吸着パッドが当接確認兼用吸着部として設けられている。また、吸着ユニット52〜54は、それぞれ負圧供給部528、538、548によって吸着パッドへの負圧供給および負圧供給停止を独立して切替可能となっている。これらの負圧供給部528、538、548は同一構成を有している。したがって、以下においては、負圧供給部528の構成について説明し、残りの負圧供給部538、548について相当符号を付して構成説明を省略する。
【0071】
吸着ユニット52は、X方向に配列された25個の保持専用の吸着パッド527と、上記吸着パッド列の下流側で(−X)側および(+X)側に配置された2つの当接確認兼用の吸着パッド527z1、527z2とを有している。これらのうち上流側に位置する25個の保持専用吸着パッド527は、吸着ユニット51の吸着パッド517と同様に、(−X)方向側から(+X)方向側に8個、9個、8個の3つの吸着パッドグループに分けられている。また、負圧供給部528は3つのマニホールド5281〜5283を有しており、マニホールド5281は(+X)側の吸着パッドグループを構成する8個の吸着パッド527と接続され、マニホールド5182は中央の吸着パッドグループを構成する9個の吸着パッド527と接続され、さらにマニホールド5283は(−X)側の吸着パッドグループを構成する8個の吸着パッド527と接続されている。
【0072】
各マニホールド5281〜5283は制御バルブV521を介して負圧発生部704に接続されている。このため、制御ユニット70のバルブ制御部703からの開指令に応じて制御バルブV521が開成すると、マニホールド5281〜5283を介して保持専用吸着パッド527に負圧が与えられる。逆にバルブ制御部703からの閉指令に応じて制御バルブV521が閉成することで、保持専用吸着パッド527への負圧供給が停止される。このように、本実施形態では制御バルブV521が吸着パッド527への負圧供給と、負圧供給停止とを切り替える第1切替部として機能しており、保持専用吸着パッド527に対して負圧を同時に供給し、また負圧供給を同時に停止することが可能となっている。
【0073】
また、当接確認用吸着パッド527z1、527z2は、連結部材529によってそれぞれ(+X)側保持専用吸着パッド527および(−X)側保持専用吸着パッド527と連結され、吸着パッド527と一体的にZ方向に移動自在となっている。なお、第2実施形態では、下流側に2個の当接確認用吸着パッド527z1、527z2を設けているが、当接確認用吸着パッドの個数は「2」に限定されるものではなく任意であるが、負圧変動を抑制する観点から保持専用吸着パッドの個数よりも少ない個数に設定するのは好適である。
【0074】
また、負圧供給部528は上記制御バルブV521以外に制御バルブV522を有しており、制御バルブV522を介して当接確認用吸着パッド527z1、527z2が負圧発生部704に接続されている。このため、制御ユニット70のバルブ制御部703からの開指令に応じて制御バルブV522が開成すると、当接確認用吸着パッド527z1、527z2に負圧が与えられる。逆にバルブ制御部703からの閉指令に応じて制御バルブV522が閉成することで、当接確認用吸着パッド527z1、527z2への負圧供給が停止される。このように、本実施形態では制御バルブV522が吸着パッド527z1、527z2への負圧供給と、負圧供給停止とを切り替える第2切替部として機能しており、当接確認用吸着パッド527z1、527z2に対して負圧を同時に供給し、また負圧供給を同時に停止することが可能となっている。
【0075】
このように構成された第2実施形態においても、第1実施形態と同様に、基板SBの上面を吸着パッド517で吸着して保持するとともに剥離ローラ340をその(+Y)側隣接位置で基板SBの上面に当接させ、さらに押圧部材331を下降させてブランケットBL端部を押圧した後、第1吸着ユニット51の上昇を開始するとともに、これと同期させて剥離ローラ340を(+Y)方向に向けて移動させる。これによって、基板SBの(−Y)側端部(被吸着部SR)を保持する第1吸着ユニット51が上昇することで基板SBの(−Y)側端部が引き上げられてブランケットBLとの剥離が(+Y)方向に向かって進行する。
【0076】
そして、剥離ローラ340が第2吸着位置を通過すると、第2吸着ユニット52の下降とともに、バルブ制御部703からの指令により制御バルブV522のみを開成して負圧発生部704から当接確認用吸着パッド527z1、527z2に負圧を供給する。なお、保持専用吸着パッド527への負圧供給は停止されたままである。
【0077】
そして、第2吸着ユニット52の下降中に圧力計5286により計測された当接確認用吸着パッド527z1、527z2内の圧力値のモニタリングによって基板SBの剥離部位に吸着パッド527z1、527z2が当接したことを検知すると、バルブ制御部703からの指令により制御バルブV521を開成して負圧発生部704から保持専用吸着パッド527にも負圧を供給する。これにより全吸着パッド527、527z1、527z2により基板SBの剥離部位を吸着して保持する。
【0078】
保持専用吸着パッド527による基板SBの吸着を開始した後、第2吸着ユニット52の移動を上昇に転じる。これにより、剥離の進行速度は依然として剥離ローラ340により制御されつつ、剥離のための基板SBの引き上げの主体は第1吸着ユニット51から第2吸着ユニット52に引き継がれる。また剥離後の基板SBは、第1吸着ユニット51のみによる保持から第1吸着ユニット51と第2吸着ユニット52とによる保持に切り替わり、保持箇所が増加することになる。なお、各吸着ユニット51〜54が上昇する際、剥離後の基板SBの姿勢が略平面となるように、各吸着ユニット51〜54間のZ方向における相対位置が維持される。
【0079】
続いて、剥離ローラ340が第3吸着ユニット53直下の第3吸着位置を通過した時点で第3吸着ユニット53の下降が開始され、剥離のための基板SBの引き上げの主体が第2吸着ユニット52から第3吸着ユニット53に移行する。この第3吸着ユニット53の下降、吸着保持および基板引上は、第2吸着ユニットのそれらと同様にして行われる。さらに剥離ローラ340が第4吸着位置を通過した後に第4吸着ユニット54が下降し、基板SBを引き上げる。この際にも、第2吸着ユニット52の下降、吸着保持および基板引上と同様の動作が実行される。
【0080】
こうして第4吸着ユニット54によって基板SBが引き上げられることで、基板SBの全体がブランケットBLから引き離される。その後で、第1実施形態と同様に、分離された基板SBおよびブランケットBLを装置外へ搬出することで、剥離処理が完了する。
【0081】
以上のように、第2実施形態では、例えば吸着パッド517により基板SBを保持しながら剥離を進行させている間に当接確認用吸着パッド527z1、527z2を含め第2吸着ユニット52に設けた吸着パッド527で基板SBの剥離部位を保持した後、剥離をさらに進行させる。この剥離段階では、吸着パッド517、527がそれぞれ本発明の「上流側吸着部」および「下流側吸着部」として機能している。また、上記剥離に続いて、吸着パッド527により基板SBを保持しながら剥離を進行させている間に吸着パッド527の下流側に位置する吸着パッド537(吸着パッド537z1、537z2を含む)で基板SBの剥離部位を保持した後、剥離をさらに進行させる。この剥離段階では、吸着パッド527が本発明の「上流側吸着部」として機能し、吸着パッド537が本発明の「下流側吸着部」として機能している。さらに、上記剥離に続いて、吸着パッド537により基板SBを保持しながら剥離を進行させている間に吸着パッド537の下流側に位置する吸着パッド547(吸着パッド547z1、547z2を含む)で基板SBの剥離部位を保持した後、剥離をさらに進行させる。この剥離段階では、吸着パッド537が本発明の「上流側吸着部」として機能し、吸着パッド547が本発明の「下流側吸着部」として機能している。このため、第2実施形態では、第1実施形態と同様の作用効果が発揮される。
【0082】
C.第3実施形態
図13はこの発明にかかる剥離装置の第3実施形態を示す図である。この第3実施形態が第1実施形態や第2実施形態と大きく相違する点は、基板SBの反密着面の剥離部位PR(
図14、
図15)に対する吸着パッドの相対位置を示す位置情報の取得態様である。すなわち、上記第1実施形態および第2実施形態では、当接確認兼用吸着部として機能する吸着パッド内の圧力をモニターし、圧力値を示す信号を基板SBの反密着面に対する吸着パッドの相対位置を示す位置情報として制御ユニット70に出力している。これに対し、第3実施形態にかかる剥離装置では、レーザー変位計により吸着パッドと基板SBの剥離部位PRとの距離をモニターし、計測した距離を示す信号を上記位置情報として制御ユニット70に出力する。以下、
図13を参照しつつ第3実施形態にかかる剥離装置の特徴的な構成について説明し、第1実施形態と同一な構成については同一符号を付して説明を省略する。
【0083】
第3実施形態では、吸着ユニット51は第1実施形態および第2実施形態のそれと同一である。一方、吸着ユニット52〜54の各々では、吸着ユニット51と同様に25個の吸着パッドがX方向に配列されるのみならず、レーザー変位計530が1台設けられている。また、吸着ユニット52〜54は、それぞれ負圧供給部528、538、548によって吸着パッドへの負圧供給および負圧供給停止を独立して切替可能となっている。これらの負圧供給部528、538、548は同一構成を有している。したがって、以下においては、負圧供給部528の構成について説明し、残りの負圧供給部538、548について相当符号を付して構成説明を省略する。
【0084】
吸着ユニット52は、X方向に配列された25個の保持専用の吸着パッド527と、上記吸着パッド列の下流側に配置されるレーザー変位計530とを有している。25個の吸着パッド527は、上記吸着専用吸着部として機能するものであり、吸着ユニット51の吸着パッド517と同様に、(−X)方向側から(+X)方向側に8個、9個、8個の3つの吸着パッドグループに分けられている。また、負圧供給部528は3つのマニホールド5281〜5283を有しており、マニホールド5281は(−X)側の吸着パッドグループを構成する8個の吸着パッド527と接続され、マニホールド5182は中央の吸着パッドグループを構成する9個の吸着パッド527と接続され、さらにマニホールド5283は(+X)側の吸着パッドグループを構成する8個の吸着パッド527と接続されている。
【0085】
各マニホールド5281〜5283は制御バルブV52を介して負圧発生部704に接続されている。このため、制御ユニット70のバルブ制御部703からの開指令に応じて制御バルブV52が開成すると、マニホールド5281〜5283を介して全吸着パッド527に負圧が与えられる。逆にバルブ制御部703からの閉指令に応じて制御バルブV52が閉成することで、全吸着パッド527への負圧供給が停止される。このように、本実施形態では制御バルブV52が吸着パッド527への負圧供給と、負圧供給停止とを切り替える切替部として機能しており、吸着パッド527に対して負圧を同時に供給し、また負圧供給を同時に停止することが可能となっている。
【0086】
レーザー変位計530は25個の吸着パッドのうちX方向における中央部に位置する吸着パッド527と連結部材529によって連結されており、吸着パッド527と一体的にZ方向に移動可能となっている。このため、レーザー変位計530は、吸着パッド527と基板SBの剥離部位PRとの距離を計測し、当該距離に関連する信号を位置情報として制御ユニット70に出力する。このようにレーザー変位計530は本発明の「モニター手段」および「距離計測部」の一例に相当しているが、レーザー変位計530の個数および配設位置はこれに限定されるものではなく任意である。また、上記距離を計測可能なものであれば、レーザー変位計以外の距離計測部を用いてもよく、例えばステージ30の(+X)側あるいは(−X)側から吸着パッド527と基板SBとを一括して撮像し、その画像から上記距離を求めるようにしてもよい。
【0087】
次に、上記のように構成された第3実施形態にかかる剥離装置の動作について
図14および
図15を参照しつつ説明する。
図14および
図15は、第3実施形態での処理中の各段階における各部の位置関係と負圧供給部における負圧供給状態を模式的に示す図である。このように構成された第3実施形態においても、第1実施形態と同様に、基板SBの(−Y)側端部を被吸着部位SRとして吸着パッド517で吸着して保持するとともに剥離ローラ340をその(+Y)側隣接位置で基板SBの上面に当接させ、さらに押圧部材331を下降させてブランケットBL端部を押圧した後、第1吸着ユニット51の上昇を開始するとともに、これと同期させて剥離ローラ340を(+Y)方向に向けて移動させる。これによって、基板SBの(−Y)側端部(被吸着部位SR)を保持する第1吸着ユニット51が上昇することで基板SBが引き上げられてブランケットBLとの剥離が(+Y)方向に向かって進行する。
【0088】
そして、
図14に示すように、剥離ローラ340が第2吸着位置を通過すると、第2吸着ユニット52の下降とともに、レーザー変位計530により計測される距離(吸着パッド527と基板SBの剥離部位PRとの距離)のモニターを開始する。なお、この段階では全吸着パッド527について負圧供給は停止されたままである。
【0089】
そして、第2吸着ユニット52の下降中に上記距離がしきい値以下に達して吸着パッド527が基板SBの剥離部位PRに当接したことを検知すると、
図15に示すように、バルブ制御部703からの指令により制御バルブV52を開成して負圧発生部704から保持専用吸着パッド527にも負圧を供給する。これにより全吸着パッド527により基板SBの剥離部位PRを吸着して保持する。
【0090】
吸着パッド527による基板SBの吸着を開始した後、第2吸着ユニット52の移動を上昇に転じる。それに続いて、第1実施形態と同様に、剥離ローラ340が第3吸着ユニット53直下の第3吸着位置を通過した時点で第3吸着ユニット53の下降が開始され、剥離のための基板SBの引き上げの主体が第2吸着ユニット52から第3吸着ユニット53に移行する。この第3吸着ユニット53の下降、吸着保持および基板引上は、第2吸着ユニットのそれらと同様にして行われる。さらに剥離ローラ340が第4吸着位置を通過した後に第4吸着ユニット54が下降し、基板SBを引き上げる。この際にも、第2吸着ユニット52の下降、吸着保持および基板引上と同様の動作が実行される。
【0091】
第4吸着ユニット54によって基板SBが引き上げられることで、基板SBの全体がブランケットBLから引き離される。その後で、第1実施形態と同様に、分離された基板SBおよびブランケットBLを装置外へ搬出することで、剥離処理が完了する。
【0092】
以上のように、第3実施形態では、例えば吸着パッド517により基板SBを保持しながら剥離を進行させている間に第2吸着ユニット52に設けた吸着パッド527で基板SBの剥離部位を保持した後、剥離をさらに進行させる。この剥離段階では、吸着パッド517、527がそれぞれ本発明の「上流側吸着部」および「下流側吸着部」として機能している。また、上記剥離に続いて、吸着パッド527により基板SBを保持しながら剥離を進行させている間に吸着パッド527の下流側に位置する吸着パッド537で基板SBの剥離部位を保持した後、剥離をさらに進行させる。この剥離段階では、吸着パッド527が本発明の「上流側吸着部」として機能し、吸着パッド537が本発明の「下流側吸着部」として機能している。さらに、上記剥離に続いて、吸着パッド537により基板SBを保持しながら剥離を進行させている間に吸着パッド537の下流側に位置する吸着パッド547で基板SBの剥離部位を保持した後、剥離をさらに進行させる。この剥離段階では、吸着パッド537が本発明の「上流側吸着部」として機能し、吸着パッド547が本発明の「下流側吸着部」として機能している。このため、第3実施形態では、第1実施形態と同様の作用効果が発揮される。
【0093】
また、第3実施形態では、レーザー変位計530により計測された距離に基づいて吸着パッド527、537、547への負圧供給の開始タイミングを調整している。したがって、吸着パッドが基板SBの反密着面に当接していない状態での負圧供給が回避され、負圧発生部704から各吸着ユニットに与えている負圧の値を変動させるのを効果的に抑制することができる。
【0094】
D.その他
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記実施形態ではステージ30に格子状の吸着溝311,312を設けてブランケットBLを吸着保持しているが、吸着溝の形状はこれに限定されない。例えば環状の吸着溝を設けてもよく、また負圧が供給される吸着孔を適宜配置してブランケットを吸着してもよい。
【0095】
また、上記実施形態では真空吸着によって基板およびブランケットを保持しているが、保持の態様はこれに限定されない。例えば静電的または磁気的な吸着力により吸着保持するものであってもよい。特に基板の有効領域外を保持する第1剥離手段については、吸着によらず、基板周縁部を機械的に把持することにより保持してもよい。
【0096】
また、上記実施形態では、剥離後の基板SBの姿勢を平面に近い状態に維持するように各吸着ユニット51〜54の上昇が制御されて基板SBに加わるストレスが低減されているが、基板SBの引き上げの態様はこれに限定されない。例えば、剥離後の基板が略水平となるように各吸着ユニットを一定高さで停止させたり、あるいは基板が所定の曲率を持って湾曲するような姿勢に保持するようにしてもよい。これらは各吸着ユニットの上昇の態様を制御することによって自由に設定可能である。
【0097】
また、上記実施形態では4つの吸着ユニットを基板SB上部に配置して順次基板SBを吸着しているが、吸着ユニットの数はこれに限定されるものではなく任意である。基板が大型であれば吸着ユニットを多く、小型であれば少なくすればよい。
【0098】
また、上記実施形態ではテーパーステージ部32にブランケットBLを突き出させて保持し、押圧部材331によりブランケットBLを屈曲させて剥離のきっかけを作っているが、このようにすることは必須の要件ではなく、例えば第1吸着ユニットの引き上げのみで剥離を開始させるようにしてもよい。この場合、ステージにテーパーを設ける必要はなくなる。