【実施例】
【0013】
図1に示すように、シールド掘削機1は、円筒状をなす掘削機本体11を有しており、この掘削機本体11の前端部内には、隔壁となるバルクヘッド12が設けられている。また、掘削機本体11の前部には、円盤状のカッタヘッド13が回転可能に支持されており、このカッタヘッド13は、カッタ駆動用モータ14の駆動によって回転可能となっている。これにより、バルクヘッド12とカッタヘッド13との間には、チャンバ15が区画形成されることになり、このチャンバ15内には、カッタヘッド13の掘削によって生じた掘削土砂が、取り込まれるようになっている。
【0014】
そして、掘削機本体11内には、スクリューコンベヤ16が、前端部から後端部に向かうに従って上方に向けて傾斜するように設けられており、そのスクリューコンベヤ16の前端部は、バルクヘッド12を貫通して、チャンバ15内に配置されている。これにより、チャンバ15内に溜められた掘削土砂は、スクリューコンベヤ16の回転駆動によって、掘削機本体11の外部に搬送されるようになっている。
【0015】
一方、掘削機本体11の後端部内には、エレクタ装置17が移動可能に支持されている。このエレクタ装置17は、覆工部材としてのセグメントSを組み立てるものであって、そのセグメントSは、掘削されたトンネルの内周面形状に沿うような環片となっている。従って、エレクタ装置17を駆動させることにより、複数のセグメントSをトンネル周方向に沿ってリング状に組み立てることができる。
【0016】
更に、掘削機本体11の後端部には、複数のテールシール18が、その周方向に沿って設けられている。これらテールシール18は、既設のセグメントSの外周面に密着することにより、掘削機本体11内への泥土や泥水等の浸入を防止するようになっている。
【0017】
また、
図1及び
図2に示すように、掘削機本体11の内周面には、多数の油圧式シールドジャッキ(推進ジャッキ)19が、その周方向において、等角度間隔で支持されている。これらシールドジャッキ19は、既設のセグメントSに当接した状態から、トンネル後方に向けて伸長することにより、掘削機本体11に推進力(推進反力)を与えるものである。即ち、掘削機本体11は、それらシールドジャッキ19がセグメントSを押圧したときに発生する、推進反力によって、前進可能となっている。
【0018】
従って、シールド掘削機1によってトンネルを構築する場合には、カッタ駆動用モータ14を駆動させることにより、カッタヘッド13を回転させながら、シールドジャッキ19を伸長させることにより、既設のセグメントSから推進反力を得て、掘削機本体11を前進させる。これにより、シールド掘削機1の前方にある地盤に、切羽が掘削される。
【0019】
また、地盤掘削に伴って発生した掘削土砂は、カッタヘッド13の土砂取込口を介して、チャンバ15内に充満することになり、そのチャンバ15内は、所定の圧力に維持される。続いて、チャンバ15内に充満した掘削土砂は、スクリューコンベヤ16の回転駆動によって、トンネル後方に向けて排出される。つまり、シールド掘削機1においては、掘削土砂をチャンバ15内に充満させて、そのチャンバ15内を所定の圧力に維持しながら排土することにより、切羽の安定化を図りながら、トンネルを掘削するようになっている。
【0020】
これと同時に、エレクタ装置17の駆動によって、複数のセグメントSがトンネル周方向に沿ってリング状に組み立てられる。また、このように、セグメントSが組み立てられると、シールドジャッキ19は、その既設のセグメントSを押圧することになる。
【0021】
即ち、シールド掘削機1においては、シールドジャッキ19によって既設のセグメントSから推進反力を取って掘進しながら、これと同時に、その後方において、新設のセグメントSを組み立てるようになっている。これにより、上述したような、シールド掘進とセグメントSの組み立てとを同時に並行して行うことを可能とするため、シールドジャッキ19においては、テールシール18の前端部と当該シールドジャッキ19の最縮退位置との間の長さが、セグメントSの幅の2倍以上となるように、その設置位置及びストロークが設定されている。
【0022】
更に、
図3に示すように、シールド掘削機1には、シールドジャッキ19に対して油圧の供給及び排出を可能とする油圧給排システムが設けられている。この油圧給排システムは、オイルタンク30、推進用油圧回路40、同調油圧回路50、及び、セグメント組立用油圧回路60等から構成されている。
【0023】
オイルタンク30には、シールドジャッキ19を作動させるための作動油が溜められており、各油圧回路40,50,60が接続されている。また、各シールドジャッキ19には、圧力検出器20が接続されており、この圧力検出器20は、シールドジャッキ19内の圧力を検出可能となっている。
【0024】
推進用油圧回路40は、切羽からの掘削反力(推進抵抗)の大きさに応じて、シールドジャッキ19を伸縮させるための油圧回路となっており、オイルタンク30とシールドジャッキ19とを繋いでいる。この推進油圧回路40には、推進用パワーユニット41、圧力計42、フィルタ43、選択切替弁44、及び、オンロード弁45が設けられている。
【0025】
推進用パワーユニット41は、作動油をオイルタンク30から汲み上げるためのポンプ41aと、そのポンプ41aを駆動させるためのモータ41bとから構成されている。圧力計42は、ポンプ41aの吐出圧力を計測するものであって、選択切替弁44は、シールドジャッキ19における伸長と短縮とを切り替えるときに使用するものである。そして、オンロード弁45は、供給側と排出側とを連通させるときに使用するものである。
【0026】
従って、推進用パワーユニット41を駆動させると、作動油が所定の油圧でシールドジャッキ19に供給され、そのシールドジャッキ19が、掘削反力の大きさに応じて、既設のセグメントSを押圧する。
【0027】
また、同調油圧回路50は、シールド掘削機1の掘進方向を制御するために選択したシールドジャッキ19を低圧で伸ばすための油圧回路となっており、オイルタンク30と推進用油圧回路40とを繋いでいる。この同調油圧回路50には、選択弁51及び電磁比例減圧弁52が設けられている。
【0028】
選択弁51は、全てのシールドジャッキ19の中から、シールド掘削機1の掘進方向を制御するための複数のシールドジャッキ19を選択するときに使用するものである。電磁比例減圧弁52は、選択弁51によって選択されたシールドジャッキ19を低圧で伸ばすときに使用するものであって、その弁開度を調整することによって、選択されたシールドジャッキ19の圧力(推力)を制御することができる。
【0029】
従って、選択弁51によって選択された全てのシールドジャッキ19の圧力を、電磁比例減圧弁52によって調整された単一の圧力に設定することにより、シールド掘削機1の掘進方向を制御する。
【0030】
更に、セグメント組立用油圧回路60は、セグメントSの組み立て時にシールドジャッキ19を伸縮させるための油圧回路となっており、オイルタンク30と推進用油圧回路40とを繋いでいる。このセグメント組立用油圧回路60には、セグメント組立用パワーユニット61、圧力計62、セグメント組立用伸縮弁63、及び、オンロード弁64が設けられている。
【0031】
セグメント組立用パワーユニット61は、作動油をオイルタンク30から汲み上げるためのポンプ61aと、そのポンプ61aを駆動させるためのモータ61bとから構成されている。圧力計62は、ポンプ61aの吐出圧力を計測するものであって、セグメント組立用伸縮弁63は、セグメントSの組み立て時においてシールドジャッキ19を伸縮させるときに使用するものである。そして、オンロード弁45は、供給側と排出側とを連通させるときに使用するものである。
【0032】
従って、セグメント組立用パワーユニット61を駆動させると、セグメント組立位置に対応したシールドジャッキ19が、セグメント組立用伸縮弁63によって伸縮可能となる。そして、そのシールドジャッキ19が短縮すると、当該シールジャッキ19と既設のセグメントSとの間に形成されたスペースが、新設のセグメント組立位置となり、その新設のセグメントSがエレクタ装置17によって組み立てられると、短縮状態のシールドジャッキ19は、セグメント組立用伸縮弁63によって、組み立てられた新設のセグメントSを押圧する。
【0033】
ところで、
図2及び
図4に示すように、上述したシールド掘削機1においては、その掘削機中心Oが、予め計画された、トンネル中心線となる計画路線Kを通るように、その掘進方向が制御される。即ち、計画路線Kに対して、掘削機中心Oが、水平方向となるX軸方向にΔX、鉛直方向となるY軸方向にΔYの偏差を有する場合には、シールドジャッキ19の伸長による総推力の合力点(作用点)となる着力点Pを、計画路線Kに対応した目標着力点Poに、一致させるか、あるいは、近づける必要がある。
【0034】
そこで、シールド掘削機1においては、電磁比例減圧弁52の弁開度を調整することによって、掘進方向を制御するために選択したシールドジャッキ19の圧力を、セグメントSから推進反力を得るためのシールドジャッキ19の圧力よりも低圧にして、着力点Pを目標着力点Poに近づけるような位置調整を行う。
【0035】
具体的に、先ず、セグメント組立位置に対応して短縮したシールドジャッキ19以外の全てのシールドジャッキ19の中から、掘進方向を制御するために選択した複数(2本以上)のシールドジャッキ19の選択パターンを、予め、複数種類設定しておく。
【0036】
次いで、複数種類の選択パターンの中から、目標着力点Poと同じ位置にある着力点P、あるいは、目標着力点Poに最も近い位置にある着力点Pを有する選択パターンを抽出する。
【0037】
そして、目標着力点Poと同じ位置にある着力点Pを有する選択パターンを抽出した場合には、その選択パターンを、選択したシールドジャッキ19の圧力を調整することなく、そのまま使用して、シールド掘削機1の掘進方向を制御する。
【0038】
一方、目標着力点Poに最も近い位置にある着力点Pを有する選択パターンを抽出した場合には、選択したシールドジャッキ19の圧力を制御して、その着力点Pを目標着力点Poに更に近づける。これにより、掘進方向制御(着力点制御)の高精度化を図る。
【0039】
また、選択パターンの設定方法について、
図2を用いて説明すると、先ず、セグメント組立位置に対応して短縮したシールドジャッキ19以外の全てのシールドジャッキ19を1本ごとに圧力制御した場合に求められる圧力傾斜の主軸方向を示す圧力傾斜主軸方向線Loを設置する。
【0040】
次いで、掘削機中心Oから掘削機径方向外方に延びてシールドジャッキ19上を通過するジャッキ方向線LAと、掘削機中心Oから掘削機径方向外方に延びて隣接したシールドジャッキ19間を通過するジャッキ中間方向線LBとを求める。
【0041】
そして、ジャッキ方向線LA及びジャッキ中間方向線LBのうち、圧力傾斜主軸方向線Loに近い位置にある線を選び、その選んだジャッキ方向線LAまたはジャッキ中間方向線LBを、圧力傾斜主軸方向線Loの近似線とする。
【0042】
次いで、近似線となるジャッキ方向線LAまたはジャッキ中間方向線LBに対して、線対称となるシールドジャッキ19を選択する。即ち、近似線となるジャッキ方向線LAまたはジャッキ中間方向線LBを中心として、そのジャッキ方向線LAまたはジャッキ中間方向線LBの左右両側に位置するシールドジャッキ19の中から、それぞれ同数のシールドジャッキ19を選択する。このとき、シールドジャッキ19を選択する場合には、ジャッキ方向線LAまたはジャッキ中間方向線LBに近いものから順に選択する。
【0043】
これにより、選択した複数のシールドジャッキ19の選択パターンが、1つ設定されることになる。
【0044】
次に、シールド掘削機1の掘進方向制御について、圧力傾斜主軸方向線Loがジャッキ方向線LAに近似される場合と、圧力傾斜主軸方向線Loがジャッキ中間方向線LBに近似される場合とに分けて、具体的に説明する。
【0045】
最初に、圧力傾斜主軸方向線Loがジャッキ方向線LAに近似される場合の掘進方向制御について、
図5乃至
図7を用いて説明する。
【0046】
ここで、
図5(a)〜(e)は、複数種類の選択パターンの中から代表して、5種類の選択パターンA1〜A5を示している。また、選択パターンA1〜A5においては、全てのシールドジャッキ19に対して、SJ1からSJ17までの番号を順に付しており、「●」印のシールドジャッキ19を、推進用に伸長した圧力(推力)最大のON操作ジャッキ、「○」印のシールドジャッキ19を、セグメント組立用に短縮した圧力(推力)ゼロのOFF操作ジャッキ、「◎」印のシールドジャッキ19を、掘進方向制御用に伸縮した低圧力(低推力)のON操作ジャッキとしている。
【0047】
よって、選択パターンA1〜A5においては、近似線となるジャッキ方向線LAが、SJ13番目のシールドジャッキ19の中心を通過しており、SJ4,SJ5番目のシールドジャッキ19の後方が、セグメント組立位置となっている。更に、選択パターンA1〜A5においては、掘進方向を制御するために選択したシールドジャッキ19の数量が段階的に増えており、それらの着力点P
A1〜P
A5の位置もそれぞれ異なった位置となっている。
【0048】
そして、
図6に示すように、選択パターンA1においては、選択したSJ12,SJ14番目のシールドジャッキ19の圧力を、SJ1〜SJ3,SJ6〜SJ11,SJ13,SJ15〜SJ17番目のシールドジャッキ19の最大圧力よりも、低圧となるように制御する。なお、SJ4,SJ5番目のシールドジャッキ19においては、その後方においてセグメントSの組み立てが行われているため、短縮されており、その圧力は、ゼロとなっている。
【0049】
更に、選択パターンA1においては、選択したSJ12,SJ14番目のシールドジャッキ19の圧力を、低圧としているが、その低圧力の大きさに基づいて、着力点P
A1が決定される。つまり、着力点Pが目標着力点Poに最も近づくような低圧力を求めた後、その低圧力を、選択したSJ12,SJ14番目のシールドジャッキ19に設定したときの着力点を、着力点P
A1とする。
【0050】
同様に、選択パターンA2〜A5においても、着力点が目標着力点Poに最も近づくような低圧力を求めた後、その低圧力を、選択したシールドジャッキ19に設定したときの着力点を、着力点P
A2〜P
A5とする。
【0051】
次いで、求められた着力点P
A1〜P
A5の中から、目標着力点Poに最も近い着力点を選んだ後、その選んだ選択パターンA1〜A5の着力点P
A1〜P
A5を、掘削機全体としての最終的な着力点Pとする。
【0052】
そして、
図7に示すように、選択パターンA1〜A5において、選択したシールドジャッキ19の圧力を、上述した低圧力に設定することにより、シールド掘削機1の掘進方向制御が高精度に行われる。
【0053】
一方、圧力傾斜主軸方向線Loがジャッキ中間方向線LBに近似される場合の掘進方向制御について、
図8乃至
図10を用いて説明する。
【0054】
ここで、
図8(a)〜(e)は、複数種類の選択パターンの中から代表して、4種類の選択パターンB1〜B4を示している。また、選択パターンB1〜B4においては、全てのシールドジャッキ19に対して、SJ1からSJ17までの番号を順に付しており、「●」印のシールドジャッキ19を、推進用に伸長した圧力(推力)最大のON操作ジャッキ、「○」印のシールドジャッキ19を、セグメント組立用に短縮した圧力(推力)ゼロのOFFF操作ジャッキ、「◎」印のシールドジャッキ19を、掘進方向制御用に伸縮した低圧力(低推力)のON操作ジャッキとしている。
【0055】
よって、選択パターンB1〜B4においては、近似線となるジャッキ中間方向線LBが、SJ13番目のシールドジャッキ19とSJ14番目のシールドジャッキ10との間の中間点を通過しており、SJ4,SJ5番目のシールドジャッキ19の後方が、セグメント組立位置となっている。更に、選択パターンB1〜B4においては、掘進方向を制御するために選択したシールドジャッキ19の数量が段階的に増えており、それらの着力点P
B1〜P
B4の位置もそれぞれ異なった位置となっている。
【0056】
そして、
図9に示すように、選択パターンB1においては、選択したSJ13,SJ14番目のシールドジャッキ19の圧力を、SJ1〜SJ3,SJ6〜SJ12,SJ15〜SJ17番目のシールドジャッキ19の最大圧力よりも、低圧となるように制御する。なお、SJ4,SJ5番目のシールドジャッキ19においては、その後方においてセグメントSの組み立てが行われているため、短縮されており、その圧力は、ゼロとなっている。
【0057】
更に、選択パターンB1においては、選択したSJ13,SJ14番目のシールドジャッキ19の圧力を、低圧としているが、その低圧力の大きさに基づいて、着力点P
B1が決定される。つまり、着力点Pが目標着力点Poに最も近づくような低圧力を求めた後、その低圧力を、選択したSJ13,SJ14番目のシールドジャッキ19に設定したときの着力点を、着力点P
B1とする。
【0058】
同様に、選択パターンB2〜B4においても、着力点が目標着力点Poに最も近づくような低圧力を求めた後、その低圧力を、選択したシールドジャッキ19に設定したときの着力点を、着力点P
B2〜P
B4とする。
【0059】
次いで、求められた着力点P
B1〜P
B4の中から、目標着力点Poに最も近い着力点を選んだ後、その選んだ選択パターンB1〜B4の着力点P
B1〜P
B4を、掘削機全体としての最終的な着力点Pとする。
【0060】
そして、
図10に示すように、選択パターンB1〜B4において、選択したシールドジャッキ19の圧力を、上述した低圧力に設定することにより、シールド掘削機1の掘進方向制御が高精度に行われる。
【0061】
従って、本発明に係るシールド掘進セグメント組立同時施工法によれば、最適なシールドジャッキ19の選択パターンを抽出した後、その選択パターンにおいて、選択した複数のシールドジャッキ19の圧力を、1つの電磁比例減圧弁52によって減圧することにより、その電磁比例減圧弁52によるシールドジャッキ19の圧力制御を、狭い範囲内で行うことができると共に、選択した複数のシールドジャッキ19の圧力を、減圧した単一の圧力のみを使用するだけで、同時に制御することができる。これにより、シールドジャッキ19に対する圧力制御の簡素化を図ることができるので、シールド掘削機1の掘進方向を容易に制御することができる。また、1つの電磁比例減圧弁52のみによって減圧することができるので、設備コストの低減を図ることができる。