【実施例】
【0011】
図1は、本技術を電界効果型トランジスタに適用した第1実施例の半導体チップの断面図を示し、
図2はその平面図を示している。
図2では、後記するトレンチ22aと、絶縁膜20、ソース領域14、コンタクト領域16等の位置関係を示すために、実際の平面図では視認できない絶縁膜20、ソース領域14、コンタクト領域16等の形成範囲を示している。
図3、
図6等でも同様である。
図1と
図2において、同じハッチングは対応関係にあることを示している。
図1において、参照番号2は裏面電極であり、本実施例の場合はドレイン電極である。参照番号18は、半導体基板であり、本実施例では、Siの単結晶基板を利用している。半導体基板18の裏面側には、n型不純物が高濃度に注入されたドレイン領域4が形成されており、ドレイン領域4はドレイン電極2にオーミック接触する。ドレイン領域4の上部には、半導体基板18が未加工のまま残されている。加工前の半導体基板18は、n型不純物を低濃度に含んでおり、ドリフト領域6として動作する。
【0012】
半導体基板18の表面18aからp型の不純物が注入され、ボディ領域12が形成されている。ボディ領域12の不純物濃度は、後記するトレンチゲート電極10に正電圧を印加したときに、トレンチゲート電極10に対向する範囲のボディ領域12がn型に反転する低濃度であり、後記する表面電極22とオーミック接触しない。そこで、ボディ領域12の表面の一部に、p型の不純物が高濃度に注入されて表面電極22とオーミック接触するコンタクト領域16が形成されている。ボディ領域12の表面の一部であって、コンタクト領域16と重ならない範囲に、n型の不純物が高濃度に注入されたソース領域14が形成されている。ソース領域14は表面電極22にオーミック接触する。
【0013】
ソース領域14に隣接する位置に、トレンチが形成されている。トレンチは、ソース領域14とボディ領域12を貫通してドリフト領域6に達している。トレンチの壁面には、ゲート絶縁膜8が形成されており、その内側にトレンチゲート電極10が充填されている。トレンチゲート電極10は、ゲート絶縁膜8を介して、ソース領域14とドリフト領域6を隔てている範囲のボディ領域12に対向している。
【0014】
トレンチゲート電極10の上面は、絶縁膜20で被覆されている。トレンチゲート電極10が複数本存在することから、絶縁膜20も複数枚に分割されている。各々の絶縁膜20は、半導体基板18の表面18aの一部に形成されている。絶縁膜20が形成されていない範囲の半導体基板18の表面には、ソース領域14とコンタクト領域16が臨んでいる。
【0015】
絶縁膜20の表面上と、絶縁膜20で覆われていない範囲の半導体基板18の表面上には、表面電極(ソース電極)22が形成されている。表面電極22は、絶縁膜20の有無に無関係に、半導体基板18の表面18aの全範囲に形成されている。表面電極22は、絶縁膜20で覆われていない範囲の半導体基板18の表面18a上から全部の絶縁膜20の表面上に亘る範囲に形成されている。
個々のトレンチゲート電極10は、
図1の紙面に対して垂直方向に延びている。それに対応して、
図2に示すように、ソース領域14、コンタクト領域16、絶縁膜20も、
図1の紙面に対して垂直方向に延びている。
【0016】
図1、2に示すように、表面電極22には、表面電極22の表面から絶縁膜20の表面まで伸びるトレンチ22aが形成されている。トレンチ22aは複数個形成されている。すなわち、一本の絶縁膜20の長手方向に沿って、トレンチ群22aが所定ピッチで形成され、トレンチ列を形成している。そして、全部の絶縁膜20に対して、トレンチ列が形成されている。その結果、
図2に示すように、トレンチ群22aは行列を成すように配置されている。ただし、隣接する絶縁膜20同志を比較すると明らかに、例えば右側の絶縁膜20上に形成されているトレンチ22aとトレンチ22aの間隔に、左側の絶縁膜20上に形成されているトレンチ22aが形成されている。すなわち、トレンチ22a群は、千鳥格子状に配置されている。
【0017】
表面電極22の膜厚は、(D×t)の平方根よりも厚い。ここで、Dは表面電極22の熱拡散係数であり、tは半導体チップに異常大電流が流れ始めた瞬間から、異常大電流に対する処理が実施されるまでに要する時間である。
【0018】
上記の半導体チップの場合、ゲート電極10に正電圧を印加しない状態では、n型ソース領域14とn型ドレイン領域6の間がp型ボディ領域12で分断され、n型ソース領域14とn型ドレイン領域6の間の抵抗が高い。ゲート電極10に正電圧を印加すると、n型ソース領域14とn型ドレイン領域6を分断しているとともに、ゲート絶縁膜8を介してトレンチゲート電極10に対向している範囲のボディ領域12がn型に反転し、n型ソース領域14とn型ドレイン領域6の間の抵抗が低下する。電界効果型トランジスタとして動作する。
【0019】
表面電極(ソース電極)22は、
図2に示すように、トレンチ群22aが分散して形成されていることから、全範囲が連続しており、どこかの一か所に電気的接続ポイントを確保すると、表面電極22の全範囲がその接続ポイントに電気的に接続される。
トレンチ群22aが形成されていると表面電極22の抵抗が増大することが懸念される。しかしながら、トレンチ群22aは、絶縁膜群20の形成範囲に形成されている。トレンチ群22aが形成されていても、電気的接続ポイントとソース領域14の間の抵抗、あるいは電気的接続ポイントとコンタクト領域16の間の抵抗が増大することはない。
【0020】
上記の実施例では、千鳥格子状に配置されているトレンチ群22aの配置位置では、表面電極22の厚みがゼロに減じられている。これによって、表面電極22と半導体基板18の膨張率の相違に起因して半導体基板18に生じる熱応力が、大きな値に発達することを防止している。比較のために、表面電極22にトレンチ22a群が形成されていない場合を考える。この場合、絶縁膜20の長手方向に沿って、長い距離に亘って、絶縁膜20と表面電極22が連続的に密着している。同様に、隣接する絶縁膜20の間隔において、長い距離に亘って、表面電極22と半導体基板18が連続的に密着している。絶縁膜20の長手方向に対して直交する方向に観測しても、長い距離に亘って表面電極22が絶縁膜20または半導体基板18の表面に連続的に密着している。長い距離に亘って表面電極22が絶縁膜20または半導体基板18の表面に連続的に密着していると、熱膨張率の相違に基づいて半導体基板18に生じる熱応力が大きな値に発達する。大きな熱応力が絶縁膜20または半導体基板18に作用すると、例えば絶縁膜20が損傷して半導体チップが正常に動作しなくなる現象が生じる。本実施例では、絶縁膜20が熱破壊する場合を含めて半導体基板が熱破壊するという。
【0021】
本実施例では、トレンチ22a群が千鳥格子状に配置されていることから、表面電極22が長い距離に亘って絶縁膜20の表面に連続的に密着することがない。そのために、大きな熱応力が絶縁膜20および半導体基板18に作用して熱破壊する現象が生じにくい。トレンチ群22aを配置することで、半導体基板が熱破壊する温度を上げることができる。
【0022】
熱膨張率の相違によって生じる熱応力が緩和されると、半導体基板18自体の耐熱温度、あるいは表面電極22自体の耐熱温度に近い温度まで、半導体基板18が熱破壊されなくすることができる。熱応力緩和技術を採用するによって、素材を選択することで熱破壊に対する素子の上限温度を向上させることが可能となる。例えば、半導体基板にSiCを用いると、1600℃程度の高温でも半導体基板は正常に動作する。表面電極に、Ni,W,Ti,Ta,Ag,Pt,Au,Cuの群から選択された1種類の金属を用いると、Alよりも高い温度まで電極が溶融しない。従来技術によると、素材の耐熱温度よりも低い温度で熱応力が過大となるために、素材を選択することで熱破壊に対する上限温度を上昇させることができなかった。熱応力緩和技術を導入すると、素材を選択することで熱破壊に対する上限温度を上昇させることが可能となる。なお、表面電極には、Ni,W,Ti,Ta,Ag,Pt,Au,Cuの群から選択された1種類の金属を用いてもよいし、前記の群から選択された2種類以上の金属からなる合金を使用してもよいし、あるいは、前記金属または前記合金のシリサイドを利用してもよい。あるいは、前記金属・前記合金・前記シリサイドの積層膜または混合膜を利用してもよい。
【0023】
トレンチは、
図3の22bに示すように、絶縁膜20の長手方向に引き伸ばされた形状であってもよい。この場合も、千鳥格子状に配置することが好ましい。トレンチは、
図2の22aまたは
図3の22bに示すように、絶縁膜20の形成範囲内にとどまり、絶縁膜と絶縁膜の間隔において半導体基板18の表面が露出している範囲にまでは延びていないことが好ましい。この条件でトレンチ群が形成されていると、表面電極22に対する電気的接続ポイントとソース領域14の間の抵抗、あるいは電気的接続ポイントとコンタクト領域16の間の抵抗が、トレンチ群の存在によって増大することはない。
【0024】
(第2実施例)
トレンチは、
図4に示すように、絶縁膜20の表面に達していなくてもよい。トレンチ22cのように、表面電極22の表面から中間深さまで達するものであってもよい。トレンチ22cの形成部分では、表面電極22の厚みが減じられる。表面電極22の厚みが減じられると、膨張率の相違に起因して半導体基板18に生じる熱応力が、厚みが減少した範囲の表面電極22によって緩和される。半導体基板18に生じる熱応力を緩和するためには、表面電極22の厚みが減少した範囲が存在すればよく、トレンチが絶縁膜20の表面にまで達している必要は必ずしもない。
【0025】
(第3実施例)
図5に示すように、絶縁膜20の上方に空洞22dを形成することによって、絶縁膜20の形成範囲における表面電極22の厚みを減じてもよい。例えば、絶縁膜20の表面と、絶縁膜20で覆われていない半導体基板18の表面の全域に亘って、表面電極下層24を形成する。次いで、絶縁膜20の形成範囲において、表面電極下層24をエッチングしてトレンチ群を形成する。その後に表面電極上層26を堆積させる。この際に、表面電極上層26が表面電極下層24に形成されたトレンチを充填しきれず、空洞22dが形成されることがある。空洞22dが形成される条件で、表面電極上層26を堆積させることができる。
図6に示すように、絶縁膜20の上方に空洞22dを形成すると、絶縁膜20の形成範囲では、表面電極22の厚みが減じられる。絶縁膜20の上方に空洞22dを残しながら表面電極22を形成することで、半導体基板18に大きな熱応力が発達するのを防止できる。
表面電極下層24と表面電極上層26は、同一材料で形成してもよいし、異種類材料で形成してもよい。例えば、表面電極下層24には、低膨張率で高融点な材料を用い、表面電極上層26には高熱伝導材料を用いることができる。
なお厚みのある電極内に空洞を形成する技術が、例えば特開2012−54307号公報に開示されている。同公報に記載に技術では、アスペクト比が高い溝が形成されている表面上にCVD法で成膜する。溝の入り口での成膜レートが高く、溝の底での成膜レートが低いことから、溝の内側に空洞が形成される。本実施例では、同種の手法を用いて空洞22dを形成する。
【0026】
(第4実施例)
図7に示すように、中間深さに達するトレンチ群22cと、空洞22dの両者を併用して、絶縁膜20の形成範囲における表面電極22の厚みを減じてもよい。
【0027】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
例えば、ドレイン領域4に代えてコレクタ領域としたIGBTの表面電極に本技術を適用することができる。この場合は、ソース領域14がエミッタ領域となり、表面電極22がエミッタ電極となる。また、ダイオードのなかにも、半導体基板の表面の随所に絶縁膜が形成されているものがあり、その表面電極に本技術を適用することができる。
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。