特許第6246623号(P6246623)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6246623
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】内燃機関の冷却装置
(51)【国際特許分類】
   F01P 11/16 20060101AFI20171204BHJP
   F01P 11/18 20060101ALI20171204BHJP
   F01P 7/16 20060101ALI20171204BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20171204BHJP
   F02D 41/22 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
   F01P11/16 E
   F01P11/16 D
   F01P11/18 B
   F01P7/16 505D
   F02D45/00 360B
   F02D45/00 360D
   F02D41/22 301K
【請求項の数】8
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-46101(P2014-46101)
(22)【出願日】2014年3月10日
(65)【公開番号】特開2015-169166(P2015-169166A)
(43)【公開日】2015年9月28日
【審査請求日】2016年9月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立オートモティブシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100087505
【弁理士】
【氏名又は名称】西山 春之
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100078330
【弁理士】
【氏名又は名称】笹島 富二雄
(72)【発明者】
【氏名】外山 裕一
(72)【発明者】
【氏名】村井 淳
(72)【発明者】
【氏名】坂口 重幸
【審査官】 種子島 貴裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−190142(JP,A)
【文献】 特開2004−162689(JP,A)
【文献】 特開2005−048648(JP,A)
【文献】 特開2010−159643(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01P 11/16
F01P 7/16
F01P 11/18
F02D 41/22
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のシリンダヘッド内に延設される第1冷却液通路と前記内燃機関のシリンダブロック内に延設される第2冷却液通路とを含む冷却液循環経路、前記第1冷却液通路の出口での冷却液温度を検出する第1温度センサと前記第2冷却液通路の出口での冷却液温度を検出する第2温度センサとを含む温度検出部、前記第1冷却液通路への冷却液の供給量と前記第2冷却液通路への冷却液の供給量とを可変に制御する電動式の流量制御弁、電動式ウォータポンプ、及び、ラジエータを備え、
前記流量制御弁は、前記電動式ウォータポンプの吸引側に接続される1つの出口ポートと、複数の冷却液ラインの出口がそれぞれ接続される複数の入口ポートとを有し、
前記複数の冷却液ラインは、前記第1冷却液通路の出口と前記複数の入口ポートのうちの1つとを前記ラジエータを迂回して接続するヘッド冷却液ラインと、前記第2冷却液通路の出口と前記複数の入口ポートのうちの1つとを前記ラジエータを迂回して接続するブロック冷却液ラインとを含む、内燃機関の冷却装置において、
前記流量制御弁の制御状態、及び、前記第1温度センサの検出出力と前記第2温度センサの検出出力との相関に基づいて、前記温度検出部の故障の有無を検出する、内燃機関の冷却装置。
【請求項2】
内燃機関のシリンダヘッド内に延設される第1冷却液通路と前記内燃機関のシリンダブロック内に延設される第2冷却液通路とを含む冷却液循環経路、前記第1冷却液通路の出口での冷却液温度を検出する第1温度センサと前記第2冷却液通路の出口での冷却液温度を検出する第2温度センサとを含む温度検出部、及び、前記第1冷却液通路への冷却液の供給量と前記第2冷却液通路への冷却液の供給量とを可変に制御する電動式の流量制御弁を備えた内燃機関の冷却装置において、
前記流量制御弁によって前記第1冷却液通路及び前記第2冷却液通路への冷却液の供給量を所定量に制御している状態で、前記第1温度センサの検出出力と前記第2温度センサの検出出力の偏差が判定値よりも大きいときに、前記温度検出部の故障の発生を検出する、内燃機関の冷却装置。
【請求項3】
機関回転速度が低くなるほど前記第1冷却液通路への冷却液の供給量を減らし、機関負荷が大きくなるほど前記第1冷却液通路への冷却液の供給量を減らす、請求項2記載の内燃機関の冷却装置。
【請求項4】
機関回転速度が低くなるほど前記判定値を大きくし、機関負荷が大きくなるほど前記判定値を大きくする、請求項2記載の内燃機関の冷却装置。
【請求項5】
機関回転速度が所定値よりも低くかつ機関負荷が所定値よりも高い領域で、前記故障発生の検出処理を無効化する、請求項2記載の内燃機関の冷却装置。
【請求項6】
前記流量制御弁は、電動式ウォータポンプの吸引側に接続される1つの出口ポートと、複数の冷却液ラインの出口がそれぞれ接続される複数の入口ポートとを有し、
前記複数の冷却液ラインは、前記第1冷却液通路の出口と前記複数の入口ポートのうちの1つとをラジエータを迂回して接続するヘッド冷却液ラインと、前記第2冷却液通路の出口と前記複数の入口ポートのうちの1つとを前記ラジエータを迂回して接続するブロック冷却液ラインと、を含む、請求項2から請求項5のいずれか1つに記載の内燃機関の冷却装置。
【請求項7】
前記内燃機関の負荷及び回転速度の定常状態、若しくは、燃料カット状態であるときの前記第1温度センサの検出出力及び前記第2温度センサの検出出力に基づいて前記温度検出部の故障の有無を検出する、請求項1から請求項6のいずれか1つに記載の内燃機関の冷却装置。
【請求項8】
前記温度検出部の故障の発生を検出したときに、ラジエータを通過させる冷却液の流量を増大させる、請求項1から請求項7のいずれか1つに記載の内燃機関の冷却装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の冷却装置に関し、詳しくは、冷却液の温度を検出する温度検出部の故障を診断する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、所定時間以上のソーク後の電動ウォータポンプの非作動下で、エンジン冷却水の温度を検出する第1温度センサの検出結果と、エンジン冷却水の温度に相関関係を有する他の媒体の温度を検出する第2温度センサの検出結果、又は、エンジン冷却水の温度の推定結果との関係に基づいて、前記第1温度センサ又は前記第2温度センサの異常の有無を診断することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5354088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、内燃機関の冷却装置において冷却液(冷却水)の温度を検出する温度検出部の故障を内燃機関の停止状態で行う構成の場合、内燃機関の運転中に故障が発生しても係る故障発生を検出できず、温度の検出結果に基づく冷却制御(ポンプ吐出量や冷却液の分配割合の制御など)を正常状態と同様に継続させてしまうことになる。
このため、内燃機関の運転中に温度検出部(温度センサ)が故障し、しかも、故障により実際よりも低い温度を検出するようになると、この誤った検出結果に基づき冷却装置が制御されることで、冷却液の流量や冷却液からの放熱が過剰に抑えられ、内燃機関をオーバーヒートさせてしまう可能性があった。
【0005】
そこで、本発明は、内燃機関の運転中に温度検出部(温度センサ)の故障の有無を検出できる、内燃機関の冷却装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そのため、本願発明は、内燃機関のシリンダヘッド内に延設される第1冷却液通路と前記内燃機関のシリンダブロック内に延設される第2冷却液通路とを含む冷却液循環経路、前記第1冷却液通路の出口での冷却液温度を検出する第1温度センサと前記第2冷却液通路の出口での冷却液温度を検出する第2温度センサとを含む温度検出部、前記第1冷却液通路への冷却液の供給量と前記第2冷却液通路への冷却液の供給量とを可変に制御する電動式の流量制御弁、電動式ウォータポンプ、及び、ラジエータを備え、前記流量制御弁は、前記電動式ウォータポンプの吸引側に接続される1つの出口ポートと、複数の冷却液ラインの出口がそれぞれ接続される複数の入口ポートとを有し、前記複数の冷却液ラインは、前記第1冷却液通路の出口と前記複数の入口ポートのうちの1つとを前記ラジエータを迂回して接続するヘッド冷却液ラインと、前記第2冷却液通路の出口と前記複数の入口ポートのうちの1つとを前記ラジエータを迂回して接続するブロック冷却液ラインとを含む、内燃機関の冷却装置において、前記流量制御弁の制御状態、及び、前記第1温度センサの検出出力と前記第2温度センサの検出出力との相関に基づいて、前記温度検出部の故障の有無を検出するようにした。
また、本願発明は、内燃機関のシリンダヘッド内に延設される第1冷却液通路と前記内燃機関のシリンダブロック内に延設される第2冷却液通路とを含む冷却液循環経路、前記第1冷却液通路の出口での冷却液温度を検出する第1温度センサと前記第2冷却液通路の出口での冷却液温度を検出する第2温度センサとを含む温度検出部、及び、前記第1冷却液通路への冷却液の供給量と前記第2冷却液通路への冷却液の供給量とを可変に制御する電動式の流量制御弁を備えた内燃機関の冷却装置において、前記流量制御弁によって前記第1冷却液通路及び前記第2冷却液通路への冷却液の供給量を所定量に制御している状態で、前記第1温度センサの検出出力と前記第2温度センサの検出出力の偏差が判定値よりも大きいときに、前記温度検出部の故障の発生を検出するようにした。
【発明の効果】
【0007】
上記発明によると、内燃機関の運転中に温度検出部の故障の有無を検出でき、誤った検出結果に基づいて冷却装置の制御が実施されることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態における内燃機関の冷却装置のシステム概略図である。
図2】本発明の実施形態における内燃機関の運転状態での流量制御弁の制御を例示するタイムチャートである。
図3】本発明の実施形態における温度検出部の故障診断の許可条件を判断する処理を示すフローチャートである。
図4】本発明の実施形態における過渡状態と定常走行状態とにおける冷却水温度の変化を例示するタイムチャートである。
図5】本発明の実施形態における温度検出部の故障診断処理を示すフローチャートである。
図6】本発明の実施形態におけるシリンダヘッドの受熱割合、機関回転速度、機関トルクの相関を例示する図である。
図7】本発明の実施形態における温度検出部の故障診断処理を示すフローチャートである。
図8】本発明の実施形態における温度検出部の故障診断の許可条件を判断する処理を示すフローチャートである。
図9】本発明の実施形態における温度検出部の故障診断処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明に係る内燃機関の冷却装置の一例を示す構成図である。
内燃機関10は、シリンダヘッド11及びシリンダブロック12を有してなり、内燃機関10の出力軸には、動力伝達装置の一例としての変速機20が接続され、変速機20の出力が図示省略した駆動輪に伝達される。つまり、内燃機関10は、車両を駆動する動力源として用いられる。
【0010】
内燃機関10の冷却装置は、冷却水(冷却液)を循環させる水冷式冷却装置であり、電気式アクチュエータによって動作する電動式の流量制御弁(MCV)30、モータで駆動される電動式のウォータポンプ(ELWP)40、ラジエータ50、内燃機関10に設けた冷却水通路60、これらを接続する複数の配管70で構成され、冷却水通路60と複数の配管70とで冷却液循環経路が形成される。
内燃機関10には、冷却水通路60として、シリンダヘッド11の気筒配列方向の一方端に設けた冷却水入口13と、シリンダヘッド11の気筒配列方向の他方端に設けた冷却水出口14とを接続し、シリンダヘッド11内に延設されるヘッド側冷却水通路61を設けてある。
【0011】
また、内燃機関60には、冷却水通路60として、ヘッド側冷却水通路61から分岐してシリンダブロック12に至り、シリンダブロック12内に延設されて、シリンダブロック12に設けた冷却水出口15に接続されるブロック側冷却水通路62を設けてある。シリンダブロック12の冷却水出口15は、冷却水出口14が設けられる側と同じ気筒配列方向の端部に設けられる。
このように、図1に例示した冷却装置において、シリンダブロック12には、シリンダヘッド11を経由して冷却水が供給され、シリンダブロック12に流れずにシリンダヘッド11を通過した冷却水は冷却水出口14から排出され、シリンダヘッド11に流入した後シリンダブロック12内を通過した冷却水は冷却水出口15から排出される。
【0012】
シリンダヘッド11の冷却水出口14には、第1冷却水配管71(第1冷却液ライン、ラジエータ冷却液ライン)の一端が接続され、第1冷却水配管71の他端は、ラジエータ50の冷却水入口51に接続される。
シリンダブロック12の冷却水出口15には、第2冷却水配管72(第2冷却液ライン、ブロック冷却液ライン)の一端が接続され、第2冷却水配管72の他端は、流量制御弁30の4つの入口ポート31−34(流入側)のうちの第1入口ポート31に接続される。
【0013】
第2冷却水配管72の途中には、内燃機関10の潤滑油を冷却するためのオイルクーラー16を設けてあり、オイルクーラー16は、第2冷却水配管72内を流れる冷却水と内燃機関10の潤滑油との間で熱交換を行わせる。
また、第3冷却水配管73(第4冷却液ライン、動力伝達系冷却液ライン)は、一端が第1冷却水配管71に接続され、他端が流量制御弁30の第2入口ポート32に接続され、この第3冷却水配管73は途中には、変速機20の作動油を加熱するためのオイルウォーマー21が設けられる。
【0014】
オイルウォーマー21は、第3冷却水配管73内を流れる冷却水と変速機20の作動油との間で熱交換を行わせる。つまり、シリンダヘッド11を通過した冷却水(温水)を分流させて水冷式のオイルウォーマー21に導き、オイルウォーマー21において作動油を加熱する。
更に、第4冷却水配管74(第3冷却液ライン、ヒータコア冷却液ライン)は、一端が第1冷却水配管71に接続され、他端が流量制御弁30の第3入口ポート33に接続される。
【0015】
第4冷却水配管74には、各種の熱交換デバイスが設けられている。
上記の熱交換デバイスとして、上流側から順に、車両用空調装置(エアコンディショナー)において空調空気を加熱するヒータコア91、内燃機関10の排気還流装置を構成する水冷式のEGRクーラ92、同じく排気還流装置を構成する排気還流量を調整するための排気還流制御弁(EGR弁)93、内燃機関10の吸入空気量を調整するスロットルバルブ94が設けられる。
【0016】
ヒータコア91は、第4冷却水配管74内の冷却水と空調空気との間で熱交換を行わせ、空調空気を暖めるデバイスである。
EGRクーラ92は、排気還流装置によって内燃機関10の吸気系に還流される排気と第4冷却水配管74内の冷却水との間で熱交換を行わせ、吸気系に還流させる排気の温度を低下させるデバイスである。
【0017】
また、排気還流制御弁93及びスロットルバルブ94は、第4冷却水配管74内の冷却水との間で熱交換を行うことで暖められるように構成され、これにより排気中や吸気中に含まれる水分が、排気還流制御弁93、スロットルバルブ94の周辺で凍結することを抑制する。
このように、シリンダヘッド11を通過した冷却水を分流させて、ヒータコア91、EGRクーラ92、排気還流制御弁93、スロットルバルブ94に導き、これらとの間での熱交換を行わせる。
【0018】
また、第5冷却水配管75は、一端がラジエータ50の冷却水出口52に接続され、他端が流量制御弁30の第4入口ポート34に接続される。
流量制御弁30は、1つの出口ポート35を有し、この出口ポート35(流量制御弁30の流出側)には、第6冷却水配管76の一端が接続される。第6冷却水配管76の他端は、ウォータポンプ40の吸込口41に接続される。
【0019】
そして、ウォータポンプ40の吐出口42には第7冷却水配管77の一端が接続され、第7冷却水配管77の他端は、シリンダヘッド11の冷却水入口13に接続される。
また、第3冷却水配管73、第4冷却水配管74が接続される部分よりも下流側の第1冷却水配管71に一端が接続され、他端が第6冷却水配管76(流量制御弁30の流出側)に接続される第8冷却水配管78を設けてある。
【0020】
流量制御弁30は、前述したように、4つの入口ポート31−34と1つの出口ポート35とを備え、入口ポート31−34には冷却水配管72,73,74,75がそれぞれ接続され、出口ポート35に第6冷却水配管76が接続される。
流量制御弁30は、例えば回転式の流路切換バルブであり、複数のポート31−35が形成されたステータに、流路が設けられたロータを嵌装し、ロータを電動モータなどの電動アクチュエータで回転駆動してロータの角度位置を変更することで、ステータの各開口を接続する構成である。
【0021】
そして、係る回転式の流量制御弁30では、ロータ角度に応じて4つの入口ポート31−34の開口面積割合が変化し、ロータ角度の選定によって所望の開口面積割合(流量割合)に制御できるようにロータの流路などが適合される。
上記構成において、ヘッド側冷却水通路61と第1冷却水配管71とによって、シリンダヘッド11及びラジエータ50を経由するラジエータ冷却液ライン(第1冷却液ライン)が構成され、ブロック側冷却水通路62と第2冷却水配管72とによって、シリンダブロック12を経由しラジエータ50を迂回するブロック冷却液ライン(第2冷却液ライン)が構成される。
【0022】
また、ヘッド側冷却水通路61と第4冷却水配管74とによって、シリンダヘッド11及びヒータコア91を経由しラジエータ50を迂回するヒータコア冷却液ライン(第3冷却液ライン)が構成され、ヘッド側冷却水通路61と第3冷却水配管73とによって、シリンダヘッド11及び変速機20(動力伝達装置)のオイルウォーマー21を経由しラジエータ50を迂回する動力伝達系冷却液ライン(第4冷却液ライン)が構成される。
更に、第8冷却水配管78によって、シリンダヘッド11とラジエータ50との間のラジエータ冷却液ラインから分岐し、ラジエータ50を迂回して流量制御弁30の流出側に合流するバイパスラインが構成される。
【0023】
つまり、流量制御弁30は、上述したラジエータ冷却液ライン、ブロック冷却液ライン、ヒータコア冷却液ライン及び動力伝達系冷却液ラインの出口がそれぞれ流入側に接続され、流出側がウォータポンプ40の吸引側に接続され、各冷却液ラインの出口開口面積を調整することで、ラジエータ冷却液ライン、ブロック冷却液ライン、ヒータコア冷却液ライン及び動力伝達系冷却液ラインへの冷却水の供給量(分配割合)を制御する流路切り替え機構である。
また、冷却装置は、冷却水の温度を検出する第1温度センサ81及び第2温度センサ82からなる温度検出部を備える。
【0024】
第1温度センサ81は、冷却水出口14近傍の第1冷却水配管71内の冷却水温度TW1、つまり、シリンダヘッド11(ヘッド側冷却水通路61)の出口付近の冷却水の温度TW1を検出する。また、第2温度センサ82は、冷却水出口15近傍の第2冷却水配管71内の冷却水温度TW2、つまり、シリンダブロック12(ブロック側冷却水通路62)の出口付近で冷却水の温度TW2を検出する。
第1温度センサ81の水温検出信号TW1及び第2温度センサ82の水温検出信号TW2は、マイクロコンピュータを備える電子制御装置(コントローラ、制御ユニット)100に入力される。
【0025】
また、電子制御装置100は、内燃機関10の負荷(トルク、充填効率)を検出する負荷センサ17の検出出力、及び、内燃機関10の回転速度(回転数rpm)を検出する回転速度センサ18の検出出力を入力する。
そして、電子制御装置100は、ウォータポンプ40及び流量制御弁30に操作信号を出力して、ウォータポンプ40の吐出量、流量制御弁30のロータ角度(各冷却液ラインへの冷却水の供給量)を制御する。
【0026】
以下では、電子制御装置100による冷却装置(流量制御弁30、ウォータポンプ40)の制御機能を説明する。
図2は、内燃機関10の始動から暖機、更に、暖機完了後の機関運転状態における、各部の温度、流量制御弁30のロータ角度、冷却水流量の相関の一例を概略的に示す図である。
【0027】
流量制御弁30は、ロータ角度がストッパで規制される基準角度位置から所定角度範囲内では、入口ポート31−34を全て閉じる(第1の流路切替えパターン)。
なお、入口ポート31−34を全て閉じる状態は、各入口ポート31−34の開口面積を零とする状態の他、零よりも大きい最小開口面積とする状態(漏れ流量が発生する状態)を含むものとする。
【0028】
上記入口ポート31−34を全て閉じられる角度よりもロータ角度を増加させると、ヒータコア冷却液ラインの出口が接続される第3入口ポート33が一定開度にまで開くようになり、その後、ロータ角度の増大に対して前記一定の流量を保持する(第2の流路切替えパターン)。
第3入口ポート33が一定開度にまで開く角度から更にロータ角度を増大させると、ブロック冷却液ラインの出口が接続される第1入口ポート31が開き出し、第1入口ポート31の開口面積は、ロータ角度の増大に応じて漸増する(第3の流路切替えパターン)。
【0029】
第1入口ポート31が開き出する角度よりもより大きな角度位置で、動力伝達系冷却液ラインの出口が接続される第2入口ポート32が一定開度まで開き、その後、ロータ角度の増大に対して前記一定開度を保持する(第4の流路切替えパターン)。
更に、第2入口ポート32が一定開度まで開く角度よりも大きな角度位置で、ラジエータ冷却液ラインの出口が接続される第4入口ポート34が開き出し、第4入口ポート34の開口面積は、ロータ角度の増大に応じて漸増する(第5の流路切替えパターン)。
【0030】
なお、第4入口ポート34が開口面積は、開き始めの当初は第1入口ポート31の開口面積よりも小さいが、ロータ角度の増大に応じて第1入口ポート31の開口面積よりも大きくなるように設定される。
そして、電子制御装置100は、第1温度センサ81、第2温度センサ82の検出出力に基づき、例えば以下のようにして流量制御弁30及びウォータポンプ40を制御する。
【0031】
電子制御装置100は、内燃機関10の冷機始動時には、流量制御弁30のロータ角度を、入口ポート31−34が全て閉じる位置(第1パターン)に制御し、バイパスラインを介して冷却水が循環するようにして、シリンダヘッド11を暖機する。
第1温度センサ81で検出されるシリンダヘッド11の出口温度TW1がシリンダヘッド11の暖機完了を示す温度に達すると(時刻t1)、電子制御装置100は、ヒータコア冷却液ラインが開く角度位置(第2パターン)にまでロータ角度を増加させ、ヒータコア91への冷却水の供給を開始させる。
【0032】
次いで、第2温度センサ82で検出されるシリンダブロック12の出口温度TW2が設定温度に達すると(時刻t2)、電子制御装置100は、ブロック冷却液ラインが開く角度位置(第3パターン)にまでロータ角度を増加させ、シリンダブロック12への冷却水の供給を開始させる。
そして、シリンダブロック12への冷却水の供給を開始してからシリンダブロック12の出口温度TW2が所定温度だけ上昇し、目標温度付近に達すると(時刻t4)、電子制御装置100は、動力伝達系冷却液ラインが開く角度位置(第4パターン)までロータ角度を増加させ、オイルウォーマー21への冷却水の供給を開始させる。
【0033】
以上のようにして各部の暖機が完了すると、電子制御装置100は、シリンダヘッド11の出口温度を目標温度付近に維持し、シリンダブロック12の出口温度をシリンダヘッド11の目標温度よりも高い目標温度に維持するように、温度上昇に応じてラジエータ冷却液ラインを開く角度(第5パターン)にまでロータ角度を増大させ、ラジエータ冷却液ラインの開口面積を調整すると共に、ウォータポンプ40の吐出量を暖機運転中よりも増大させる。
【0034】
ここで、シリンダヘッド11の出口での冷却水温度TW1を目標温度付近に維持することが、シリンダブロック12の出口での冷却水温度TW2を目標温度に維持することも優先されるようにしてある。つまり、例えば、内燃機関10の高負荷運転時などにおいて、シリンダヘッド11の出口での冷却水温度TW1が目標温度よりも高くなる一方で、シリンダブロック12の出口での冷却水温度TW2が目標付近に維持されている場合、電子制御装置100は、ラジエータ冷却液ラインの開口面積を増やし且つウォータポンプ40の吐出量を増やす制御を行う(時刻t5以降)。
従って、内燃機関10の高負荷運転時には、シリンダヘッド11の出口での冷却水温度TW1が目標付近に維持されるものの、シリンダブロック12の出口での冷却水温度TW2が目標よりも低下する場合があり得る。
【0035】
上記のように、電子制御装置100は、第1温度センサ81及び第2温度センサ82の検出出力に基づいて流量制御弁30及びウォータポンプ40を制御する。従って、第1温度センサ81と第2温度センサ82との少なくとも一方(温度検出部)に故障が生じると、流量制御弁30及びウォータポンプ40を、実際とは異なる温度検出値に基づいて誤って制御することになってしまう。
そのため、電子制御装置100は、温度検出部を構成する第1温度センサ81、第2温度センサ82の故障の有無を診断する故障診断機能を有している。
【0036】
電子制御装置100は、第1温度センサ81の検出出力(冷却水温度TW1)と第2温度センサ82の検出出力(冷却水温度TW2)との相関に基づき故障の有無を診断するよう構成され、例えば、両検出出力の偏差が所定範囲内であるか否か(偏差の絶対値が判定値SL以下であるか否か)に基づいて温度検出部の故障の有無を診断する。
ここで、シリンダヘッド11の出口での冷却水温度TW1とシリンダブロック12の出口での冷却水温度TW2との偏差ΔTWは、内燃機関10の発熱量のうちシリンダヘッド11が受熱する熱量とシリンダブロック12が受熱する熱量との割合である受熱割合、及び、流量制御弁30による各冷却液ラインへの冷却水の供給量(供給割合)に影響されて変動する。
【0037】
そこで、電子制御装置100は、受熱割合及び冷却水の供給量による偏差ΔTWの変動を考慮して、偏差ΔTWに基づく故障診断を実施する。
なお、偏差ΔTWに基づく故障診断は、温度センサ81,82の出力特性がシフトする故障などを検出するための処理であり、温度センサ81,82の検出信号の出力ラインの断線、ショートなどの故障は、偏差ΔTWに基づく故障診断に並行して実施させることができる。
【0038】
以下で、電子制御装置100による故障診断処理を詳細に説明する。
図3のフローチャートに示すルーチンは、電子制御装置100によって所定時間毎に割り込み処理される、故障診断の許可判定処理の一例を示す。
【0039】
まず、ステップS501で、電子制御装置100は、内燃機関10の暖機完了状態であるか否かを検出する。
電子制御装置100は、第1温度センサ81の検出出力に基づき検出した冷却水温度TW1が所定温度TWSL(例えば、80℃)を超え、かつ、第2温度センサ82の検出出力に基づき検出した冷却水温度TW2が所定温度TWSLを超えたときに暖機完了を検出し、暖機完了を検出した後は、その後の温度センサ81、82の検出出力の変化に関わらずに暖機完了の検出結果を保持する。
【0040】
内燃機関10の暖機中であるときには、シリンダヘッド11の温度とシリンダブロック12の温度との偏差が大きく、かつ、偏差が変動し、水温検出値の偏差ΔTWに基づく診断精度が低下するので、電子制御装置100は、診断許可条件が成立していないことを検出して、本ルーチンを終了させる。
一方、内燃機関10の暖機が完了していれば、電子制御装置100は、ステップS502へ進む。
【0041】
ステップS502で、電子制御装置100は、ヘッド側冷却水通路61を流れる冷却水の流量とブロック側冷却水通路61を流れる冷却水の流量との割合が、所定の受熱割合に応じた流量割合になっているか否かを、流量制御弁30のロータ角度に基づいて検出する。
内燃機関10の発熱量のうちシリンダヘッド11が受熱する熱量とシリンダブロック12が受熱する熱量との割合である受熱割合は、例えば70%:30%程度であって、シリンダヘッド11が受熱する熱量は、シリンダブロック12が受熱する熱量よりも多くなる。
【0042】
従って、この受熱量の違い(受熱割合)に応じて、ヘッド側冷却水通路61に流す冷却水の流量をブロック側冷却水通路61に流す冷却水の流量よりも多くすることで、ヘッド側冷却水通路61の出口での冷却水温度TW1とブロック側冷却水通路61の出口での冷却水温度TW2とが近い温度になる。
そこで、電子制御装置100は、所定の受熱割合であるときに、ヘッド側冷却水通路61の出口での冷却水温度TW1とブロック側冷却水通路61の出口での冷却水温度TW2とが相互に近い温度になる流量割合で、各冷却水通路61,62に冷却水を供給している状態であるか否かを、そのときの流量制御弁30のロータ角度に基づき検出する。
【0043】
換言すれば、温度検出値の偏差ΔTWの絶対値が所定値SLを超えるときに、温度センサ81,82の故障発生を診断する処理においては、実際の温度偏差ΔTWが十分に小さいことが診断実施の条件となるので、実際の温度偏差ΔTWが十分に小さくなるような冷却水の供給割合(流量比)になっていることを、診断の許可条件とする。
電子制御装置100は、ヘッド側冷却水通路61を流れる冷却水の流量とブロック側冷却水通路61を流れる冷却水の流量との割合が、実際の温度偏差ΔTWが十分に小さくなる所定割合(所定範囲内)になっていない場合、診断許可条件が成立していないことを検出し、ステップS502から本ルーチンをそのまま終了させる。
【0044】
一方、電子制御装置100は、ヘッド側冷却水通路61を流れる冷却水の流量とブロック側冷却水通路61を流れる冷却水の流量との割合が、実際の温度偏差ΔTWが十分に小さくなる所定割合(所定範囲内)になっている場合、ステップS503へ進む。
なお、電子制御装置100は、診断処理のために、実際の温度偏差ΔTWが所定値よりも小さくなるようなロータ角度に流量制御弁30を制御することができる。
【0045】
電子制御装置100は、ステップS503で、内燃機関10の負荷及び回転速度が定常である走行状態(定常走行状態)、又は、内燃機関10のアイドル運転状態、又は、内燃機関10の燃料カット(F/C)状態(燃料供給の一時的な停止状態)のいずれかが所定時間以上継続している状態であるか否かを検出する。
負荷及び/又は回転速度が変動する内燃機関10の運転状態(過渡状態、加減速状態)では、図4に例示したように、シリンダヘッド11及びシリンダブロック12の温度が変動し、温度偏差ΔTWが変化するので、温度偏差ΔTWに基づく故障診断の精度が低下する。
【0046】
そこで、機関負荷及び機関回転速度が定常である場合(アイドル運転を含む)、又は、燃料カット状態で内燃機関10の燃焼熱の発生がない場合であって、シリンダヘッド11及びシリンダブロック12の温度変動、つまり、温度偏差ΔTWの変動が十分に小さい状態であることを、故障診断実施の許可条件とする。
電子制御装置100は、ステップS503で、内燃機関10の運転状態が、定常走行状態、アイドル運転状態、燃料カット状態のいずれでもないことを検出した場合、故障診断の許可条件が成立していないことを検出し、本ルーチンを終了させる。
【0047】
また、電子制御装置100は、ステップS503で、内燃機関10の運転状態が、定常走行状態、アイドル運転状態、燃料カット状態のいずれかに該当するもののその継続時間が所定時間に達していない場合、温度偏差ΔTWの変動が故障診断を実施できる程度に小さい状態ではなく故障診断の許可条件が成立しないことを検出し、本ルーチンを終了させる。
つまり、ステップS503における所定時間は、過渡運転状態から定常運転への移行、若しくは、燃料供給状態から燃料カット状態への移行から、温度偏差ΔTWの変動が十分に収束するのに要する時間に基づき設定され、前記所定時間だけ経過していれば、温度偏差ΔTWの変動が故障診断を実施できる程度に小さくなっているものと推定できるように、前記所定時間は予め適合される。
【0048】
電子制御装置100は、ステップS503で、内燃機関10の運転状態が、定常走行状態、アイドル運転状態、燃料カット状態のいずれかに該当し、かつ、その継続時間が所定時間に達していることを検出すると、ステップS504へ進む。
そして、電子制御装置100は、ステップS504で、ウォータポンプ40の回転速度又は吐出流量が一定の状態であるか否かを検出する。
【0049】
ウォータポンプ40の回転速度(吐出流量)が増大又は減少方向に変化しているときには、これに伴って温度偏差ΔTWが変動し、温度偏差ΔTWに基づく故障診断の精度が低下する場合がある。
そこで、電子制御装置100は、ウォータポンプ40の回転速度(吐出流量)が一定の状態(一定値で推移している状態)でない場合、故障診断の許可条件が成立しないことを検出し、本ルーチンを終了させる。
【0050】
一方、電子制御装置100は、ウォータポンプ40の回転速度(吐出流量)が一定の状態であれば、温度偏差ΔTWに基づく故障診断の許可条件が成立していることを検出し、ステップS505へ進んで、故障診断の許可条件の成立を示す診断許可フラグ(fDGNTWS)の立ち上げを行う。
つまり、電子制御装置100は、暖機完了状態で、かつ、シリンダヘッド11への冷却水の供給量とシリンダブロック12への冷却水の供給量との割合が所定範囲内で、かつ、内燃機関の定常状態又は燃料カット状態が所定時間以上継続していて、かつ、ウォータポンプ40の回転速度(吐出流量)が一定であることを、温度偏差ΔTWに基づく故障診断の許可条件とする。
【0051】
図5のフローチャートに示すルーチンは、電子制御装置100によって所定時間毎に割り込み処理される、故障診断処理の一例を示す。
電子制御装置100は、ステップS601において故障診断の許可条件が成立しているか否かを、前記診断許可フラグに基づいて検出する。
【0052】
そして、電子制御装置100は、故障診断の許可条件が成立していない場合(診断許可フラグ=0である場合)は、本ルーチンをそのまま終了させる。
一方、電子制御装置100は、故障診断の許可条件が成立している場合(診断許可フラグ=1である場合)は、ステップS602へ進む。
【0053】
ステップS602で、電子制御装置100は、流量制御弁30のロータ角度を補正する制御を実施する。
前述のように、電子制御装置100は、所定の受熱割合に応じた流量比に冷却水流量が制御されていることを故障診断の許可条件として検出するが、受熱割合は、例えば図6に示すように、機関回転速度及び機関負荷(機関トルク)に応じて変化する。
【0054】
即ち、受熱割合は、概ね、シリンダヘッドの受熱割合が70%、シリンダブロックの受熱割合が30%程度であるが、低回転高負荷領域では、シリンダヘッド11の受熱割合が70%よりも低下し、相対的に、シリンダブロック12の受熱割合が30%よりも増大する。
従って、標準的な受熱割合(70:30)であるときに温度偏差ΔTWが十分に小さくなる流量比になっていることを、故障診断の許可条件としていても(ステップS502)、実際の受熱割合が標準的な割合からずれていれば、これに影響されて温度偏差ΔTWが拡大し、温度偏差ΔTWに基づく故障診断の精度が低下する。
【0055】
そこで、電子制御装置100は、ステップS602で、ステップS502で基準とした受熱割合と実際の受熱割合とのずれに基づき、流量割合の設定を変更する。
例えば、図6に示すように、受熱割合が概ね70:30である内燃機関10において、低回転高負荷領域で、シリンダヘッド11の受熱割合が70%から減少し、シリンダブロック12の受熱割合が30%から増大する場合、電子制御装置100は、ステップS502で、受熱割合=70:30に適合する流量比であることを検出し、ステップS602では、シリンダヘッド11の受熱割合が70%から減少する低回転高負荷領域においてシリンダヘッド11の流量を減らす変更を行う。
【0056】
つまり、低回転高負荷領域では、シリンダヘッド11の受熱割合が標準値である70%から減少し温度低下傾向となるので、その分、シリンダヘッド11への冷却水の供給量を減らして温度低下を抑え、温度偏差ΔTWが拡大することを抑制する。
詳細には、機関回転速度が低いほどシリンダヘッド11の受熱割合がより減少し、かつ、機関負荷が大きいほどシリンダヘッド11の受熱割合がより減少するので、電子制御装置100は、機関回転速度が低いほどシリンダヘッド11への冷却水の供給量をより減少させ、かつ、機関負荷が大きいほどシリンダヘッド11への冷却水の供給量をより減少させる。
【0057】
これにより、そのときの受熱割合の条件において温度偏差ΔTWが十分に小さくできる流量比に制御されるので、受熱割合の変動によって温度偏差ΔTWが拡大して故障診断の精度が低下することを抑制できる。
なお、前述のステップS502で、電子制御装置100は、そのときの機関運転状態(機関負荷、機関回転速度)での受熱割合において温度偏差ΔTWが十分に小さくできる流量比となるように、流量制御弁30を制御する構成とすることができる。
【0058】
また、流量制御弁30の流路切替え特性によっては、シリンダヘッド11の受熱割合が減少する低回転高負荷領域で、シリンダヘッド11への冷却水の供給量を減らす代わりに、シリンダブロッ12への冷却水の供給量を増やしたり、シリンダヘッド11への冷却水の供給量を減らすと共にシリンダブロッ12への冷却水の供給量を増やしたりすることができる。
また、受熱割合は、ガソリン機関とディーゼル機関との違い、気筒数の違いなどの機関仕様の違いによって変化する値であって、受熱割合=70:30は一例であり、更に、機関負荷及び機関回転速度の違いによる受熱割合の変化も機関仕様に影響されて異なる。
【0059】
次のステップS603で、電子制御装置100は、ステップS602でのシリンダヘッド11の流量設定に基づき、流量制御弁30のロータ角度の変更を行う。
本実施形態の流量制御弁30は、図2に示したように、暖機後の角度制御範囲において、シリンダヘッド11に流れる冷却水の流量は、ロータ角度の増大に応じて増加する。
【0060】
そこで、電子制御装置100は、ステップS602で設定したシリンダヘッド11の流量の減少量が多いほど、ステップS603で、流量制御弁30のロータ角度をより大きく減少させる設定を行う。
電子制御装置100は、ステップS603で流量制御弁30のロータ角度(シリンダヘッド11への冷却水供給量)の変更を行ったのち、係るロータ角度の変更後にシリンダヘッド11の温度が収束する時間の経過を待って、ステップS604へ進む。
【0061】
そして、電子制御装置100は、第1温度センサ81の検出出力に基づき検出したシリンダヘッド11の出口での冷却水温度TW1と第2温度センサ82の検出出力に基づき検出したシリンダブロック12の出口での冷却水温度TW2との偏差ΔTWの絶対値と、故障診断判定値(閾値)SLとを比較して、第1温度センサ81と第2温度センサ82との少なくとも一方が故障している状態(温度検出部の故障状態)であるか否かを検出する。
ここで、電子制御装置100は、冷却水温度TW1と冷却水温度TW2とが同程度となる条件で、両温度センサ81,82の検出出力を比較するから、偏差ΔTWの絶対値が判定値SLを上回っていれば、温度検出部(第1温度センサ81と第2温度センサ82との少なくとも一方)の故障状態を検出し、偏差ΔTWの絶対値が判定値SL以下であれば温度検出部(第1温度センサ81及び第2温度センサ82)の正常状態を検出する。
【0062】
つまり、診断閾値SLは、温度検出部(第1温度センサ81及び第2温度センサ82)が正常であると見做す、温度偏差ΔTWの絶対値の上限値である。
電子制御装置100は、温度検出部(第1温度センサ81と第2温度センサ82との少なくとも一方)の故障状態を検出すると、所定のフェイル処理を実施する。
【0063】
フェイル処理として、電子制御装置100は、温度センサ81,82の検出出力に基づく流量制御弁30、ウォータポンプ40の制御を停止し、流量制御弁30のロータ角度をラジエータ50に冷却水を供給する所定角度に固定し、ウォータポンプ40の吐出量(回転速度)をフェイル処理用の目標値に固定する。
更に、電子制御装置100は、フェイル処理として、機関トルクの上限を正常時よりも低く制限して内燃機関10の発熱量を抑制する処理を実施する。機関トルク(機関負荷)の上限を低く変更する処理として、電子制御装置100は、例えば、スロットルバルブの開度の上限値を正常よりも小さく変更する処理などを行う。
【0064】
この機関トルク(機関負荷)の上限を低く制限する処理を実施する場合、温度センサ81,82の検出温度のうちのより高い温度を選択し、この選択した温度検出値が高いほど、機関トルク(機関負荷)の上限値をより低く変更する構成とすることができる。
また、上記のようにして温度検出部の故障を検出した後に内燃機関10が停止したときに、電子制御装置100は、内燃機関10の吸気温度やオイル温度の検出値と、温度センサ81,82の検出出力との相関に基づき、故障が発生しているのが両温度センサ81,82のいずれであり、正常なセンサがいずれであるかを特定することができる。
【0065】
そして、電子制御装置100は、故障している温度センサを特定した後に、内燃機関10が再始動された場合、正常な温度センサの検出出力を用いて、流量制御弁30及び/又はウォータポンプ40の制御を行うことができる。
上記の故障診断処理によると、内燃機関10の運転中に温度センサ81,82(温度検出部)の故障の有無を診断できるため、内燃機関10の運転中に温度センサ81,82(温度検出部)の故障が発生した場合、係る故障の発生を検出してフェイル処理を実行し、実際とは異なる温度検出値に基づいて冷却装置(流量制御弁30、ウォータポンプ40)が制御されてしまうことを抑制でき、内燃機関10のオーバーヒートの発生を抑制することができる。
【0066】
図5のフローチャートに示した故障診断処理において、電子制御装置100は、ステップS602、ステップS603で、受熱割合の変化に応じて冷却水の供給量を変更するが、係る処理に代えて診断判定値SLの変更を行うことで、受熱割合の変化によって故障発生が誤診断されることを抑制することが可能である。
図7のフローチャートは、受熱割合の変化に応じて診断判定値SLを変更し、変更後の診断判定値SLを用いて診断を行う構成とした故障診断処理の一例を示す。この図7のフローチャートに示す診断処理ルーチンは、図5のフローチャートに示す診断処理ルーチンに代えて、電子制御装置100によって実行される。
【0067】
図7のフローチャートにおいて、電子制御装置100は、ステップS701で故障診断の許可条件の成立を検出すると、ステップS702へ進む。
電子制御装置100は、ステップS702で、シリンダヘッド11の受熱割合が標準値よりも減少する低回転高負荷領域で、診断判定値SLを基準値よりも増加させる。
【0068】
詳細には、機関回転速度が低いほどシリンダヘッド11の受熱割合がより減少し、かつ、機関負荷が大きいほどシリンダヘッド11の受熱割合がより減少するので、電子制御装置100は、機関回転速度が低いほど診断判定値SLを基準値よりも大きくし、かつ、機関負荷が大きいほど診断判定値SLを基準値より大きくする。
なお、診断判定値SLの基準値とは、シリンダヘッド11の受熱割合が標準割合であるときに用いる値であり、受熱割合が標準割合よりも低下する低回転高負荷領域で、診断判定値SLを基準値よりも大きくする。
【0069】
内燃機関10が低回転高負荷領域で運転されシリンダヘッド11の受熱割合が低下するときに、シリンダヘッド11への冷却水の供給量を変更しないと、シリンダヘッド11の出口での冷却水温度TW1が下がって温度偏差ΔTWが拡大し、温度偏差ΔTWの絶対値が診断判定値SLを上回ることで、故障の発生が誤診断される可能性がある。
そこで、電子制御装置100は、冷却水の流量を変更して冷却水温度TW1の低下を抑制する代わりに、診断判定値SLを、故障診断され難くなる方向である増大方向に変更することで、受熱割合の変化に伴って故障の発生が誤診断されることを抑制する。
【0070】
この場合、電子制御装置100は、受熱割合の変化に応じて流量制御弁30のロータ角度を変更する必要がなく、受熱割合の変化による誤診断を抑制しつつ、低回転高負荷領域を含む領域で故障の有無を診断できる。
また、低回転高負荷領域で誤った故障診断結果に基づきフェイル処理が実施されることを抑制する手段として、受熱割合が標準割合からずれる低回転高負荷領域において、温度偏差ΔTWに基づく故障診断を無効化する構成とすることができる。
【0071】
図8のフローチャートは、図3のフローチャートに示した故障診断の許可判定処理に代えて電子制御装置100が実行する故障診断の許可判定処理を示し、図8のフローチャートに示す診断許可判定処理では、受熱割合が標準割合からずれる低回転高負荷領域で内燃機関10が運転されているときに、故障診断の許可判定が行われないようにしてある。
図8のフローチャートにおいて、電子制御装置100は、ステップS801−ステップS804の各ステップでは、前述したステップS501−ステップS504と同様な処理を行う。
【0072】
そして、電子制御装置100は、ステップS804で、ウォータポンプ40の回転速度(吐出流量)が一定の状態であることを検出すると、ステップS805へ進む。
ステップS805で、電子制御装置100は、内燃機関10の回転速度が所定速度以上であるか否かを検出する。
【0073】
ステップS805における所定速度は、シリンダヘッド11の受熱割合が標準割合を下回る低回転領域と、シリンダヘッド11の受熱割合が標準割合となる中高回転領域との境界回転速度に基づいて設定される値であって、内燃機関10の回転速度が所定速度以上の領域は、受熱割合の変化の影響で誤診断が発生することを十分に抑制できる回転領域となるように適合される。
電子制御装置100は、ステップS805で、内燃機関10の回転速度が所定速度以上であることを検出すると、ステップS807へ進み、故障診断の許可条件の成立を検出し、温度偏差ΔTWに基づく故障診断を実施する。
【0074】
一方、電子制御装置100は、ステップS805で、内燃機関10の回転速度が所定速度未満であることを検出し、シリンダヘッド11の受熱割合が標準割合を下回る低回転高負荷領域に該当している可能性がある場合にステップS806へ進む。
電子制御装置100は、ステップS806で、内燃機関10の負荷(機関トルク)が所定値以下であるか否かを検出する。
【0075】
ステップS806における機関負荷の所定値は、シリンダヘッド11の受熱割合が標準割合を下回る高負荷領域と、シリンダヘッド11の受熱割合が標準割合となる低中負荷領域との境界負荷に基づいて設定される値であって、内燃機関10の負荷が所定値以下の領域は、受熱割合の変化の影響で誤診断が発生することを十分に抑制できる機関負荷領域となるように適合される。
電子制御装置100は、ステップS806で、内燃機関10の負荷が所定値以下であることを検出すると、ステップS807へ進み、故障診断の許可条件の成立を検出し、温度偏差ΔTWに基づく故障診断を実施する。
【0076】
一方、電子制御装置100が、ステップS806で、内燃機関10の負荷が所定値を超えていることを検出した場合は、シリンダヘッド11の受熱割合が標準割合を下回る低回転高負荷領域で内燃機関10が運転されている状態である。この場合、電子制御装置100は、故障診断の許可条件の不成立を検出して本ルーチンを終了させることで、温度偏差ΔTWに基づく故障診断の実行をキャンセルする。
つまり、シリンダヘッド11の受熱割合が標準割合を下回る低回転高負荷領域で内燃機関10が運転されている場合、温度偏差ΔTWに基づく故障診断は実行されず、シリンダヘッド11の受熱割合が標準割合となる運転領域で内燃機関10が運転されている場合に、温度偏差ΔTWに基づく故障診断が実行される。
【0077】
図8のフローチャートに従って故障診断の許可条件の成立、非成立を検出する場合、電子制御装置100は、図9のフローチャートに従って温度センサ81,82(温度検出部)の故障診断を行う。
まず、電子制御装置100は、ステップS901で故障診断の許可条件が成立しているか否かを、前記診断許可フラグに基づいて検出する。
【0078】
そして、電子制御装置100は、故障診断の許可条件が成立していない場合(診断許可フラグ=0である場合)は、本ルーチンをそのまま終了させる。
一方、電子制御装置100は、故障診断の許可条件が成立している場合(診断許可フラグ=1である場合)は、ステップS902へ進む。
【0079】
電子制御装置100は、ステップS902で、第1温度センサ81の検出出力に基づき検出したシリンダヘッド11の出口での冷却水温度TW1と第2温度センサ82の検出出力に基づき検出したシリンダブロック12の出口での冷却水温度TW2との偏差ΔTWの絶対値と、故障診断判定値(閾値)SLとを比較して、第1温度センサ81と第2温度センサ82との少なくとも一方が故障している状態(温度検出部の故障状態)であるか否かを検出する。
ここで、シリンダヘッド11の受熱割合が標準割合を下回る低回転高負荷領域は、診断実施領域から除外されているので、電子制御装置100がステップS902の処理に進むのは、低回転高負荷領域以外のシリンダヘッド11の受熱割合が標準割合となる領域であって、冷却水温度TW1と冷却水温度TW2とが同程度となる条件の場合である。
【0080】
そこで、電子制御装置100は、偏差ΔTWの絶対値が判定値SLを上回っていれば、温度検出部(第1温度センサ81と第2温度センサ82との少なくとも一方)の故障状態を検出し、偏差ΔTWの絶対値が判定値SL以下であれば温度検出部(第1温度センサ81及び第2温度センサ82)の正常状態を検出する。
電子制御装置100は、温度検出部(第1温度センサ81と第2温度センサ82との少なくとも一方)の故障状態を検出すると、前述したようなフェイル処理を実施する。
【0081】
上記のように、受熱割合が標準割合から変化する低回転高負荷領域において、故障診断の許可条件が成立しないようにして、低回転高負荷領域で故障診断を無効化すれば、受熱割合の変化に影響されて誤った故障診断結果を検出することを簡易に抑制できる。
なお、低回転高負荷領域で故障診断を無効化する方法としては、前述のように低回転高負荷領域以外の領域に該当していることを診断許可条件とする方法の他、低回転高負荷領域で偏差ΔTWの絶対値を減少補正した上で判定値SLと比較させる方法や、低回転高負荷領域で判定値SLを故障発生が検出されない程度にまで増大方向に変更する方法や、低回転高負荷領域で故障の発生を検出しても係る診断結果の記憶や故障検出に基づくフェイル処理をキャンセルする方法などがある。
【0082】
以上、好ましい実施形態を参照して本発明の内容を具体的に説明したが、本発明の基本的技術思想及び教示に基づいて、当業者であれば種々の変形態様を採り得ることは自明である。
例えば、流量制御弁30は、ロータ式に限定されるものではなく、例えば、電気式アクチュエータによって弁体を直線運動させる構造の流量制御弁を用いることができる。
【0083】
また、第4冷却水配管74(第3冷却液ライン、ヒータコア冷却液ライン)に、ヒータコア91のみを配置する構成とすることができ、また、第4冷却水配管74(第3冷却液ライン、ヒータコア冷却液ライン)に、ヒータコア91と共に、EGRクーラ92、排気還流制御弁93、スロットルバルブ94のうちの1つ乃至2つを配置する構成とすることができる。
【0084】
また、ブロック側冷却水通路62とヘッド側冷却水通路61とを内燃機関10内で接続する通路を設けずに、ブロック側冷却水通路62の入口をシリンダブロック12に形成し、第7冷却水配管77を途中で2つに分岐させ、一方をヘッド側冷却水通路61に接続させ、他方をブロック側冷却水通路62に接続させる配管構造とすることができる。
【0085】
また、第1−第4冷却液ラインのうちの第4冷却液ライン(動力伝達装置ライン、変速機ライン、オイルウォーマーライン)を省略した冷却装置とすることができる。
また、第2冷却液ライン(ブロック冷却液ライン)にオイルクーラー16が配置されない構造とすることができる。
【0086】
また、バイパスライン(第8冷却水配管78)に補助の電動式ウォータポンプを配置した構成とすることができ、また、電動式のウォータポンプ40と共に内燃機関10で駆動される機関駆動式のウォータポンプを備える構成とすることができる。
【0087】
また、シリンダヘッド11の出口での冷却水温度TW1とシリンダブロック12の出口での冷却水温度TW2とが同等になるように流量制御弁30のロータ角度を制御するのではなく、逆に、両冷却水温度TW1、TW2の偏差が拡大するように流量制御弁30を制御し、係る制御によって両温度センサ81,82の検出出力の偏差が拡大するか否かに基づいて、温度センサ81,82(温度検出部)の故障の有無を診断する構成とすることができる。
【0088】
更に、本発明に係る故障診断は、シリンダヘッド11内に延設されるヘッド側冷却液通路61とシリンダブロック12内に延設されるブロック側冷却液通路62とを含む冷却液循環経路、及び、ヘッド側冷却液通路61の出口での冷却液温度を検出する第1温度センサ81とブロック側冷却液通路62の出口での冷却液温度を検出する第2温度センサ82とを含む温度検出部、を備えた冷却装置に適用できるものであり、図1に示した循環経路を備えた冷却装置に限定されるものでないことは明らかである。
【符号の説明】
【0089】
10…内燃機関、11…シリンダヘッド、12…シリンダブロック、16…オイルクーラー、20…変速機(動力伝達装置)、21…オイルウォーマー、30…流量制御弁、31−34…入口ポート、35…出口ポート、40…ウォータポンプ、50…ラジエータ、61…ヘッド側冷却水通路、62…ブロック側冷却水通路、71…第1冷却水配管、72…第2冷却水配管、73…第3冷却水配管、74…第4冷却水配管、75…第5冷却水配管、76…第6冷却水配管、77…第7冷却水配管、78…第8冷却水配管、81…第1温度センサ、82…第2温度センサ、91…ヒータコア、92…EGRクーラ、93…排気還流制御弁、94…スロットルバルブ、100…電子制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9