(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第i−1(i:2≦i≦n−2のすべての自然数)の酸化還元電位計測手段の配設位置における目標酸化還元電位、第iの酸化還元電位計測手段の配設位置における目標酸化還元電位、および第i+1の酸化還元電位計測手段の配設位置における目標酸化還元電位として、前記第i−1の酸化還元電位計測手段の配設位置における目標酸化還元電位から前記第iの酸化還元電位計測手段の配設位置における目標酸化還元電位への正の上昇率が、前記第iの酸化還元電位計測手段の配設位置における目標酸化還元電位から前記第i+1の酸化還元電位計測手段の配設位置における目標酸化還元電位への正の上昇率以下になるように設定されるものを用いる
ことを特徴とする請求項1に記載の排水の処理装置。
前記散気量制御ステップにおいて、第i−1(i:2≦i≦n−2のすべての自然数)の酸化還元電位計測手段の配設位置における目標酸化還元電位、第iの酸化還元電位計測手段の配設位置における目標酸化還元電位、および第i+1の酸化還元電位計測手段の配設位置における目標酸化還元電位として、前記第i−1の酸化還元電位計測手段の配設位置における目標酸化還元電位から前記第iの酸化還元電位計測手段の配設位置における目標酸化還元電位への正の上昇率が、前記第iの酸化還元電位計測手段の配設位置における目標酸化還元電位から前記第i+1の酸化還元電位計測手段の配設位置における目標酸化還元電位への正の上昇率以下になるように設定されるものを用いる
ことを特徴とする請求項6に記載の排水の処理方法。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の実施形態の全図においては、同一または対応する部分には同一の符号を付す。また、本発明は以下に説明する実施形態によって限定されるものではない。
【0025】
(第1の実施形態)
(排水の処理装置の構成)
まず、本発明の第1の実施形態による排水の処理装置について説明する。
図1は、この第1の実施形態による排水の処理装置を示す。
【0026】
図1に示すように、本発明の第1の実施形態による排水の処理装置1は、第1〜第nの複数段、例えば6段(n=6)の硝化槽2a,2b,2c,2d,2e,2f、固液分離槽4、汚泥返送経路5、および情報処理部10を備える。硝化槽2aには、窒素含有排水としての窒素含有処理原水(以下、処理原水)が流入する。硝化槽2a〜2fは、処理原水の流れ方向に沿って直列に配列されている。それぞれの硝化槽2a〜2fにおいては、硝化槽2aに流入した処理原水が被処理水として順次生物処理される。すなわち、各硝化槽2a〜2fにおいては、好気条件下で、処理原水中に含まれるアンモニア性窒素が亜硝酸性窒素および硝酸性窒素に硝化されるとともに、処理原水中に含まれるリンが活性汚泥中に取り込まれる。情報処理部10は、例えばPCなどのハードウェアと、このPCに対して所定の情報処理を実行させるプログラムなどのソフトウェアとを有して構成される。
【0027】
それぞれの硝化槽2a〜2fにはそれぞれに対応して、亜酸化窒素(N
2O)計3a,3b,3c,3d,3e,3fと、散気部6a,6b,6c,6d,6e,6fと、酸化還元電位(ORP)計7a,7b,7c,7d,7e,7fと、攪拌機11a,11b,11c,11d,11e,11fとが設けられている。散気部6a〜6fにはそれぞれ、散気量を制御する制御弁9a,9b,9c,9d,9e,9fを介して、気体として例えば空気を供給するブロワ8a,8b,8c,8d,8e,8fが連結されている。散気部6a〜6fはそれぞれ、ブロワ8a〜8fのそれぞれから供給される空気を利用して、それぞれの硝化槽2a〜2f内に貯留されている活性汚泥に対して散気を行う。なお、これらのN
2O計3a〜3fは、排水の処理装置1において必ずしも設ける必要はない。また、攪拌機11a〜11fにおいても、必要に応じて設置され、必ずしも設ける必要はない。
【0028】
また、酸化還元電位計測手段としてのORP計7a〜7fはそれぞれ、各硝化槽2a〜2f内の酸化還元電位(ORP)を測定する装置である。ORP計7a〜7fはそれぞれ、計測した酸化還元電位の値を情報処理部10に入力する。すなわち、ORP計7fが第nの酸化還元電位計測手段を構成し、これより上流側のORP計7a〜7eがそれぞれ、第1の酸化還元電位計測手段〜第n−1の酸化還元電位計測手段を構成する。なお、nは2以上の自然数であり、この第1の実施形態においては、n=6である。
【0029】
また、亜酸化窒素測定手段としてのN
2O計3a〜3fはそれぞれ、各硝化槽2a〜2f内の亜酸化窒素量を計測する装置である。なお、これらのN
2O計3a〜3fは、排水の処理装置1において、N
2Oガスの排出量を計測する必要がある場合に設置される。
【0030】
また、各散気部6a〜6fにそれぞれ連結された制御弁9a〜9fは、例えば空気流量制御弁などによって構成され、情報処理部10からの制御信号に従って各硝化槽の曝気量を個別に制御する。すなわち、情報処理部10は、散気量制御手段の一部としての散気量制御部を構成するソフトウェアにおけるプログラムを有する。そして、散気量制御部は、散気量制御手段の一部としての、各ブロワ8a〜8f、および各ブロワ8a〜8fに対応する各制御弁9a〜9fをそれぞれ個別に制御する。これにより、散気量制御部は、各散気部6a〜6fによる散気量をそれぞれ独立して制御する。また、攪拌機11a〜11fはそれぞれ、各硝化槽2a〜2fにおける、各散気部6a〜6fからの空気や内部の活性汚泥を攪拌するためのものである。
【0031】
固液分離槽4には、被処理水の流れに沿った最も下流側の硝化槽2fから流出した被処理水が流入する。固液分離槽4では、被処理水が分離液4aと活性汚泥4bとに分離され、活性汚泥4bは、攪拌機4cによって攪拌される。また、固液分離槽4の側壁には、配管(図示せず)が接続されており、この配管を介して消毒処理された分離液4aが系外に排出される。また、固液分離槽4の底部には、ポンプ5aを備えた汚泥返送経路5が接続されており、固液分離槽4の底部に堆積した活性汚泥4bを例えば硝化槽2aに返送する。これにより、硝化槽2a内の生物量を所定量に維持できる。
【0032】
さて、以上のように構成された排水の処理装置1において、本発明者の従来の知見によれば、硝化槽2a〜2fの被処理水に含まれるアンモニア酸化細菌(AOB)および亜硝酸酸化細菌(NOB)において、AOB活性がNOB活性以下になる条件下(AOB活性≦NOB活性)、特にNOB活性をAOB活性とほぼ等しい中庸の条件下において、N
2Oの増加が抑制されることが分かっている。しかしながら、このような知見に基づく従来型の目標酸化還元電位の設定においては、全ての硝化槽2a〜2fのそれぞれについてあらかじめ実験データを蓄積する必要がある。そのため、従来型の目標酸化還元電位の設定においては、時間と手間のかかる煩雑な作業を余儀なくされ、N
2Oの発生の抑制効果が効率的に得られないという問題があった。
【0033】
そこで、本発明者はN
2Oの増加を抑制すべく鋭意検討を行い、この第1の実施形態による排水の処理装置において3通りの運転方法の検討を行った。
図2Aは、3通りの運転方法による、それぞれの硝化槽2a〜2fにおける目標となるORP値を示すグラフである。
図2Bは、処理原水に対して最初に硝化処理を行う硝化槽2aにおいて、被処理水のアンモニア性窒素濃度が例えば12mg/Lの場合における、それぞれの硝化槽2a〜2fのアンモニア性窒素濃度を、運転方法の違いによって区別したグラフである。なお、アンモニア性窒素は最終的に例えば1mg/Lまで減少させる。
【0034】
まず、第1の運転方法としては、
図2Aに示すように、目標となるORP値を、硝化槽2a〜2fにおける被処理水の流れ方向に沿って、ほぼ直線状に増加させる(
図2A中、直線矢印)。この運転方法を、本明細書においては一定硝化型の運転方法と称する。
【0035】
一定硝化型の運転方法の場合、硝化槽2a〜2fのそれぞれにおいて、アンモニア性窒素濃度の減少量がほぼ等しくなるように硝化処理が行われる。そして、
図2Bに示すように、一定硝化型の運転方法においては、アンモニア性窒素濃度の推移は比較的直線状の減少になる(
図2B中、直線矢印)。
【0036】
第2の運転方法としては、
図2Aに示すように、目標となるORP値を、硝化槽2a〜2fのうちの比較的前段側の硝化槽2a〜2cにおいて傾きが大きくなるように増加させ、比較的後段側の硝化槽2d〜2fにおいて傾きが小さくなるように増加させる。この運転方法においては、目標となるORP値の推移は、被処理水の流れ方向に沿った硝化槽2a〜2fに対して上に凸状になる(
図2A中、上に凸矢印)。この運転方法を、本明細書においては前段硝化型の運転方法と称する。
【0037】
前段硝化型の運転方法の場合、比較的前段側の硝化槽2a〜2cにおいて硝化反応が進行してアンモニア性窒素濃度の減少量の変化率が大きい一方、比較的後段側の硝化槽2d〜2fにおいて硝化反応が抑制されてアンモニア性窒素濃度の減少量の変化率が小さくなる。そして、
図2Bに示すように、前段硝化型の運転方法においては、アンモニア性窒素濃度の推移は下に凸状の減少になる(
図2B中、下に凸矢印)。
【0038】
第3の運転方法としては、
図2Aに示すように、前段硝化型の運転方法とは反対に、目標となるORP値を、硝化槽2a〜2fのうちの比較的前段側の硝化槽2a〜2cにおいて傾きが小さくなるように増加させ、比較的後段側の硝化槽2d〜2fにおいて傾きが大きくなるように増加させる。この運転方法においては、目標となるORP値の推移は、被処理水の流れ方向に沿った硝化槽2a〜2fに対して下に凸状になる(
図2A中、下に凸矢印)。この運転方法を、本明細書においては後段硝化型の運転方法と称する。
【0039】
後段硝化型の運転方法の場合、比較的前段側の硝化槽2a〜2cにおいて硝化反応が抑制されてアンモニア性窒素濃度の減少量の変化率が小さく抑えられ、比較的後段側の硝化槽2d〜2fにおいて硝化反応が進行してアンモニア性窒素濃度の減少量が大きくなる。そして、
図2Bに示すように、後段硝化型の運転方法においては、アンモニア性窒素濃度の推移は上に凸状の減少になる(
図2B中、上に凸矢印)。
【0040】
以上の3通りの運転方法においては、
図2Aおよび
図2Bに示すように、アンモニア性窒素濃度が例えば12mg/Lの状態における目標となるORP値を例えば0mVとする。そして、最終的にアンモニア性窒素濃度が例えば1mg/L程度まで減少する場合には、目標となるORP値は例えば120mVとなる。すなわち、アンモニア性窒素濃度に対して、目標となるORP値はほぼ逆相関関係になる。
【0041】
以上の3通りの運転方法によって運転を行う場合には、排水の処理装置1における情報処理部10が、目標となるORP値になるように、それぞれの硝化槽2a〜2fにおけるそれぞれの散気部6a〜6fの散気量を独立して個別に制御する。例えば、情報処理部10は、ORP計7bにより計測されるORP値を上昇させる場合は散気部6bの散気量を増加させ、ORP値を低下させる場合は散気部6bの散気量を減少させるような制御を行う。
【0042】
ここで、以上の3通りの運転方法のうちの、望ましい後段硝化型の運転方法と、従来の一定硝化型および前段硝化型の運転方法とを比較しつつ、ORP値の設定方法について説明を行う。
図3は、処理水の流れ方向に沿った、第1槽から第n槽までの複数の槽における、
図2Bに対応するN
2O排出係数の推移の概略を示すグラフである。
【0043】
図1および
図3に示すように、本発明者は、N
2O計3a〜3fによって、前段硝化型、一定硝化型および後段硝化型の運転方法において、各硝化槽2a〜2fにおけるN
2O排出係数を計測した。その結果、被処理水の流れ方向に沿ったN
2O排出係数に関して、前段硝化型の運転方法においては、被処理水の流れ方向に沿って硝化槽2a〜2fのうちの比較的前段の位置に高いピークが形成されることが分かった。また、一定硝化型の運転方法においては、被処理水の流れ方向に沿って硝化槽2a〜2fのほぼ中間の位置に前段硝化型におけるピークの高さに比して低いピークが形成されることが分かった。なお、本発明者が実験から得た知見によれば、少なくとも一定硝化型の運転方法においては、AOB活性がNOB活性以下になる(AOB活性≦NOB活性)。
【0044】
これに対し、後段硝化型の運転方法においては、被処理水の流れ方向に沿った下流側に、前段硝化型および一定硝化型におけるピークの高さに比して一番低いピークが形成されることが確認された。なお、本発明者が実験から得た知見によれば、後段硝化型の運転方法であれば、確実にAOB活性がNOB活性以下になる(AOB活性≦NOB活性)。そして、一定硝化型の運転方法におけるN
2Oの総排出量(細実線のグラフと横軸との囲む面積に相当)に対して、後段硝化型の運転方法におけるN
2Oの総排出量(細点線のグラフと横軸との囲む面積に相当)は、20%程度低減していることが確認された。また、前段硝化型の運転方法におけるN
2Oの総排出量(一点鎖線のグラフと横軸との囲む面積に相当)に対して、後段硝化型の運転方法におけるN
2Oの総排出量(実線のグラフと横軸との囲む面積に相当)は、40%程度低減していることが確認された。すなわち、本発明者は、N
2Oの総排出量の低減効果については、前段硝化型、一定硝化型、および後段硝化型の順に向上することが一般に成立することを確認した。
【0045】
以上の事実から、本発明者は、普遍的にN
2Oを低減するためには、排水の処理装置1において後段硝化型の運転方法が採用するのが望ましいことを想起するに至った。
【0046】
次に、N
2Oをより一層低減しようとする観点からすれば後段硝化型の運転方法が採用するのが望ましいとの知見に基づいて、ORP計7a〜7fの配設位置ごとに、それぞれの配設位置で達成すべき処理水質を達成したかどうかを確認するための目標酸化還元電位であるORP目標値を設定する方法について説明する。
【0047】
すなわち、この第1の実施形態においては、まず、一方で、事前計測により窒素含有排水の最上流側に係る流入位置における処理開始時のORP目標値を設定する。他方で、窒素含有排水の最下流側に係る流出位置の近傍に係る最終段の第nの酸化還元電位計測手段としてのORP計7fの配設位置におけるORP目標値のみを、従来技術によるORP目標値の設定方法である事前実験により設定する。これにより、
図4Aに示すような、従来技術によるORP目標値が得られる。
【0048】
続いて、第1の酸化還元電位計測手段としてのORP計7aから第n−1の酸化還元電位計測手段であるORP計7eの配設位置におけるORP目標値の設定を、事前実験により設定する従来技術によるORP目標値の設定方法に代えて、以下の方法により行う。すなわち、ORP計7aの配設位置におけるORP目標値の設定は、処理開始時のORP値からORP計7fの配設位置におけるORP目標値への上昇率に対して、処理開始時のORP値からORP計7aの配設位置におけるORP目標値への上昇率が小さくなるようにすることにより行う。なお、ORP目標値の設定に際しては、ORP目標値がそれぞれのORP計7a〜7fの配設地点において達成すべき処理水質を達成したか否かを確認する、本来的な機能を発揮できる必要がある点に注意を要する。
【0049】
また、ORP計7eの配設位置におけるORP目標値の設定は、処理開始時酸化還元電位からORP計7fの配設位置におけるORP目標値への上昇率に対して、ORP計7eの配設位置におけるORP目標値からORP計7fの配設位置におけるORP目標値への上昇率が大きくなるようにすることにより行う。なお、ORP目標値の設定に当たっては、ORP目標値がそれぞれの地点で達成すべき処理水質を達成したかどうかを確認する本来的な機能を発揮できる必要がある点に注意する。
【0050】
さらに、ORP計7b〜7dの配設位置におけるORP目標値の設定は、第i−1の酸化還元電位計測手段としてのORP計7bの配設位置におけるORP目標値、第iの酸化還元電位計測手段としてのORP計7cの配設位置におけるORP目標値、および第i+1の酸化還元電位計測手段としてのORP計7dの配設位置におけるORP目標値として、ORP計7bの配設位置におけるORP目標値からORP計7cの配設位置におけるORP目標値への正の上昇率が、ORP計7cの配設位置におけるORP目標値からORP計7dの配設位置におけるORP目標値への正の上昇率以下になるようにすることにより行う(i:2≦i≦n−2のすべての自然数)。なお、ORP目標値の設定に際しては、ORP目標値がそれぞれの地点で達成すべき処理水質を達成したか否かを確認する本来的な機能を発揮できる必要がある点に注意する。
【0051】
以上の第1の実施形態によるORP目標値の設定方法によれば、ORP計7a〜7fの全ての配設位置について事前実験によりORP目標値を設定する従来技術によるORP目標値の設定方法に比して、最終段のORP計7fの配設位置におけるORP目標値のみを事前実験から設定し、それより上流側のORP計7a〜7eの各配設位置におけるORP目標値の設定を事前実験により行う必要がなく、情報処理部10による機械的計算で設定することができる。そのため、従来に比してORP目標値の設定を時間および手間を要することなく容易に行うことができ、亜酸化窒素の発生の抑制効果を効率良く得ることができる。
【0052】
そして、
図1に示すように、情報処理部10は、各硝化槽2a〜2fのそれぞれのORP計7a〜7fによって、ORP値の連続測定データをモニタリングしつつ、それぞれの硝化槽2a〜2fのORP値が、
図4Bに示すORP目標値(目標酸化還元電位)になるように、制御弁9a〜9fを制御する。これによって、情報処理部10は、排水の処理装置1においては、それぞれの
図4Bに示すORP目標値になるように、散気部6a〜6fの散気量を制御する。換言すると、情報処理部10は、各硝化槽2a〜2fにおけるそれぞれのORP値が、上述したORP目標値V
1〜V
nになるように、第1槽の硝化槽2aから第n槽の硝化槽2fにおけるORP値をそれぞれ、略上流側における各散気部6a〜6fによる曝気量を調整することによって制御する。なお、ここで、ORP計7a〜7fの各配設位置の略上流側における、散気部6a〜6fによる曝気量の調整とは、このように反応槽を複数槽から構成する場合において、少なくとも、各ORP計7a〜7fの各配設位置である各硝化槽2a〜2fに設けられる各散気部6a〜6fによる曝気量の調整という意味である。具体的に例えば、硝化槽2cにおけるORP値を制御する場合、この第1の実施形態のようにORP計7cの配設位置である硝化槽2cに設けられる散気部6cのみの曝気量を調整する方法はもちろん、散気部6cの曝気量に加えて、硝化槽2cより上流側に係る硝化槽2aや硝化槽2bにそれぞれ設けられる散気部6aや散気部6bの曝気量をも調整する方法を用いても良い。
【0053】
そして、以上のように後段硝化型の運転方法に従ってORP目標値が設定され、これらのORP目標値になるように硝化槽2a〜2fが制御されている場合、DO制御の場合に比して、N
2Oガスの排出量が約20%低減できるとともに、散気部6a〜6fからの空気量も約20%削減できることが確認された。
【0054】
また、上述した特許文献1においては、複数の硝化槽の酸化還元電位が、各硝化槽でAOB活性をNOB活性と同等もしくはそれ以下(AOB活性≦NOB活性)に維持するための目標酸化還元電位になるように、制御する方法が記載されている。ところが、この第1の実施形態による運転方法によれば、特許文献1に記載された方法に比して、N
2Oガスをより一層低減できることが確認された。また、硝酸性窒素(NO
3−N)濃度についても、10〜20%低減できることが確認された。
【0055】
以上説明した第1の実施形態によれば、N
2Oガスの発生の抑制効果を効率良く得られるようなORP目標値の設定を、時間および手間を要することなく容易に行うことができるとともに、これらのORP目標値の設定に基づいて、各硝化槽2a〜2fにおいて散気される空気量を制御して、それぞれのORP値を制御していることにより、これらの散気部6a〜6fから散気量も削減することができて電力使用量を削減できるとともに、N
2Oガスの排出量を削減できるので、環境保護に寄与することができる。
【0056】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
図5は、この第2の実施形態による排水の処理装置を示す模式図である。
【0057】
図5に示すように、この第2の実施形態による排水の処理装置21においては、第1の実施形態と異なり、5槽の硝化槽2a〜2eの前段に、脱リンなどを行う嫌気槽12が設けられている。嫌気槽12には、処理原水が流入するとともに固液分離槽4からの返送汚泥が流入する。また、嫌気槽12には、攪拌機12aが設けられており、嫌気槽12内を攪拌可能に構成されている。また、嫌気槽12には、計測の必要に応じてN
2O計3gが設置される。すなわち、この排水の処理装置21は、嫌気−好気法(AO法)を実行するための処理装置である。また、5槽の硝化槽2a〜2eにおいて、最終段のORP計7eが第nの酸化還元電位計測手段を構成し、これより上流側のORP計7a〜7dがそれぞれ、第1〜第n−1の酸化還元電位計測手段を構成する。なお、この第2の実施形態においては、n=5である。その他の構成については、第1の実施形態と同様であるので、説明を省略する。
【0058】
この第2の実施形態によれば、硝化槽の数が5槽であり、さらに前段に嫌気槽12を設けている構成以外は第1の実施形態と同様であるので、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0059】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。
図6は、この第3の実施形態による排水の処理装置を示す模式図である。
【0060】
図6に示すように、この第3の実施形態による排水の処理装置31においては、第2の実施形態と異なり、4槽の硝化槽2a〜2dの前段で嫌気槽12の後段に、脱窒処理を行う無酸素槽13が設けられている。無酸素槽13には、嫌気槽12から被処理水が流入するとともに、最終段の硝化槽2dからポンプ14aによって硝化液が返送されて流入する。また、無酸素槽13には、攪拌機13aが設けられており、無酸素槽13内を攪拌可能に構成されている。また、無酸素槽13には、計測の必要に応じてN
2O計3hが設置される。すなわち、この排水の処理装置31は、嫌気−無酸素−好気法(A
2O法)を実行するための処理装置である。また、4槽の硝化槽2a〜2dにおいて、最終段のORP計7dが第nの酸化還元電位計測手段を構成し、これより上流側のORP計7a〜7cがそれぞれ、第1〜第n−1の酸化還元電位計測手段を構成する。なお、この第3の実施形態においては、n=4である。その他の構成については、第1および第2の実施形態と同様であるので、説明を省略する。
【0061】
この第3の実施形態によれば、硝化槽の数が4槽であり、さらに嫌気槽12の後段に無酸素槽13を設けている以外は第1および第2の実施形態と同様であるので、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0062】
(第4の実施形態)
(排水の処理装置の構成)
次に、本発明の第4の実施形態による排水の処理装置について説明する。
図7は、この第4の実施形態による排水の処理装置を示す。
【0063】
図7に示すように、本発明の第4の実施形態による排水の処理装置41は、第1〜第nの複数段、例えば6段(n=6)の硝化槽2a,2b,2c,2d,2e,2f、固液分離槽4、汚泥返送経路5、および情報処理部10を備える。硝化槽2aには、窒素含有処理原水(以下、処理原水)が流入する。硝化槽2a〜2fは、被処理水の流れ方向に沿って直列に配列されている。それぞれの硝化槽2a〜2fにおいては、硝化槽2aに流入した処理原水が被処理水として順次生物処理され、好気条件下で処理原水中に含まれるアンモニア性窒素が亜硝酸性窒素および硝酸性窒素に硝化される。
【0064】
それぞれの硝化槽2a〜2fにはそれぞれに対応して、亜酸化窒素(N
2O)計3a,3b,3c,3d,3e,3fと、散気部6a,6b,6c,6d,6e,6fと、攪拌機11a,11b,11c,11d,11e,11fとが設けられている。また、散気部6a〜6fにはそれぞれ、散気量を制御する制御弁9a,9b,9c,9d,9e,9fを介して、気体として例えば空気を供給するブロワ8a,8b,8c,8d,8e,8fが連結されている。散気部6a〜6fはそれぞれ、ブロワ8a〜8fのそれぞれから供給される空気を利用して、それぞれの硝化槽2a〜2f内に貯留されている活性汚泥に対して散気を行う。また、攪拌機11a〜11fは、必要に応じて設置され、必ずしも設ける必要はない。
【0065】
また、被処理水の流れ方向に沿ったほぼ中央の位置の硝化槽2cおよび最終段の位置の硝化槽2fにはそれぞれ、酸化還元電位計測手段としてのORP計7a,7bが設けられている。ORP計7a,7bはそれぞれ、各硝化槽2c,2f内の酸化還元電位(ORP)を測定する装置であり、計測した酸化還元電位の値を情報処理部10に入力する。そして、最終段のORP計7bが第nの酸化還元電位計測手段として第2の酸化還元電位計測手段を構成し、これより上流側のORP計7aが第1の酸化還元電位計測手段を構成する。すなわち、この第4の実施形態においては、n=2であり、第n−1の酸化還元電位計測手段が第1の酸化還元電位計測手段として用いられる。
【0066】
また、亜酸化窒素測定手段としてのN
2O計3a〜3fはそれぞれ、各硝化槽2a〜2f内の亜酸化窒素量を計測する装置である。なお、これらのN
2O計3a〜3fは、排水の処理装置1においてN
2Oガスの排出量を計測する必要がある場合に設置され、必ずしも設置する必要はない。
【0067】
また、各散気部6a〜6fにそれぞれ連結された制御弁9a〜9fは、例えば空気流量制御弁などによって構成され、情報処理部10からの制御信号に従って各硝化槽の曝気量を個別に制御する。すなわち、情報処理部10は、各ブロワ8a〜8f、および各ブロワ8a〜8fに対応する各制御弁9a〜9fをそれぞれ個別に制御することにより、各散気部6a〜6fによる散気量をそれぞれ独立して制御する。また、攪拌機11a〜11fはそれぞれ、各硝化槽2a〜2fにおける、各散気部6a〜6fからの空気や内部の活性汚泥を攪拌するためのものである。
【0068】
固液分離槽4には、被処理水の流れに沿った最も下流側の硝化槽2fから流出した被処理水が流入する。固液分離槽4では、被処理水が分離液4aと活性汚泥4bとに分離され、活性汚泥4bは、攪拌機4cによって攪拌される。また、固液分離槽4の側壁には、配管(図示せず)が接続されており、この配管を介して消毒処理された分離液4aが系外に排出される。また、固液分離槽4の底部には、ポンプ5aを備えた汚泥返送経路5が接続されており、固液分離槽4の底部に堆積した活性汚泥4bを例えば硝化槽2aに返送する。これにより、硝化槽2a内の生物量を所定量に維持できる。
【0069】
(ORP目標値の設定方法)
次に、本発明者は、上述したN
2Oをより一層低減しようとする観点からすれば後段硝化型の運転方法が採用するのが望ましいとの知見に基づいて、ORP計7a,7bの配設位置ごとに、それぞれの配設位置で達成すべき処理水質を達成したかどうかを確認するための目標酸化還元電位であるORP目標値を設定する方法について説明する。
【0070】
すなわち、この第4の実施形態においては、まず、一方で、事前計測により窒素含有排水の最上流側に係る流入位置における処理開始時のORP値を設定する。他方で、窒素含有排水の最下流側に係る流出位置の近傍に係る、最終段の第nの酸化還元電位計測手段としてのORP計7bの配設位置におけるORP目標値を、従来技術によるORP目標値の設定方法である事前実験により設定する。
【0071】
続いて、第1の酸化還元電位計測手段としてのORP計7aにおけるORP目標値の設定を、事前実験により設定する従来技術によるORP目標値の設定方法に代えて、次の方法により行う。すなわち、ORP計7aの配設位置におけるORP目標値の設定は、処理開始時のORP値からORP計7bの配設位置におけるORP目標値への正の上昇率に対して、処理開始時のORP値からORP計7aの配設位置におけるORP目標値への上昇率が小さくなるようにすることにより行う。なお、ORP目標値の設定に際しては、ORP目標値がそれぞれのORP計7a,7bの配設地点において達成すべき処理水質を達成したか否かを確認する、本来的な機能を発揮できる必要がある点に注意を要する。
【0072】
以上により、被処理水の流れ方向に沿った最上流側に係る硝化槽2aの流入位置における理論上のORP値V
0(ここでは、V
0=0とする)から、これらのORP計7aの配設位置におけるORP目標値V
1およびORP計7bの配設位置におけるORP目標値V
2を散気量の制御に用いる。
【0073】
そして、
図7に示すように、情報処理部10は、各硝化槽2a〜2fのうちの、最終段の硝化槽2fのORP計7bと、中間の硝化槽2cのORP計7aによって、ORP値の連続測定データをモニタリングする。そして、情報処理部10は、それぞれのORP計7a,7bによるORP値が、ORP目標値V
1,V
2になるように、それぞれの制御弁9a〜9fを制御して、それぞれの散気部6a〜6fの散気量を制御する。なお、例えばORP計7aにより計測されるORP値を上昇または低下させるにはそれぞれ、ORP計7aより略上流側の散気部6a〜6cからの散気量を増加または減少させる。同様にORP計7bにより計測されるORP値を上昇または低下させるにはそれぞれ、ORP計7bより略上流側の散気部6d〜6fからの散気量を増加または減少させる。なお、ここで、ORP計7a,7bの各配設位置の略上流側における、散気部6a〜6fによる曝気量の調整とは、このように反応槽を複数槽から構成する場合においては、少なくとも、ORP計7a,7bの各配設位置である各硝化槽2c,2fに設けられる各散気部6c、6fによる曝気量の調整という意味であり、例えば硝化槽2cにおけるORP値を制御する場合、この第4の実施形態のように、ORP計7aの配設位置である硝化槽2cに設けられる散気部6c及び硝化槽2cより上流側に係る硝化槽2a,2bに設けられる散気部6a,6bの曝気量を調整する方法はもちろん、散気部6cのみの曝気量を調整する方法を用いることが可能である。
【0074】
図8は、以上のように構成されたORP計7a,7bを用いて曝気量の制御を行う排水の処理装置41と、従来の溶存酸素(DO)計を用いて曝気量の制御を行う排水の処理装置とにおいて、処理原水の処理を所定期間行った場合における、N
2O排出係数の時間推移と総送風量の時間経過との計測結果を示すグラフである。なお、これらの実験条件を表1に示す。表1において、「ORP2点制御」のパターンが、本発明による排水の処理装置41における条件であり、「DO制御」のパターンが、従来の排水の処理装置における条件である。
【0076】
図8から、後段硝化型の運転方法に従ってORP目標値が設定され、これらのORP目標値になるように硝化槽2a〜2fにおける空気量が制御されている場合、従来技術によるDO制御の場合に比して、N
2Oガスの排出量が約35%以上削減されているとともに、散気部6a〜6fから供給される総送風量(総空気量)も約10%削減できることが分かる。
【0077】
以上説明した第4の実施形態によれば、N
2Oの削減効果を有するORP目標値の設定を容易に行うことができ、このORP目標値の設定によって得られた、被処理水の流れ方向に沿った最終段の位置と、この最終段の位置より上流側の位置との少なくとも2点の位置においてORP値を計測し、このORP値に基づいて、各硝化槽2a〜2fにおいて散気される空気量を制御していることにより、N
2Oガスの排出量を削減できるとともに、曝気に用いる空気の空気量をも削減することができるので、電力使用量を削減でき、環境保護に寄与できる。
【0078】
(第5の実施形態)
次に、本発明の第5の実施形態について説明する。
図9は、この第5の実施形態による排水の処理装置を示す模式図である。
【0079】
図9に示すように、この第5の実施形態による排水の処理装置51においては、第4の実施形態と異なり、5槽の硝化槽2a〜2eを備え、ORP計7bが最終段の硝化槽2eに設けられているとともに、ORP計7aが、被処理水の流れ方向に沿った上流側の硝化槽2bに設けられている。また、5槽の硝化槽2a〜2eの前段に、脱リンなどを行う嫌気槽12が設けられている。嫌気槽12には、処理原水が流入するとともに固液分離槽4からの返送汚泥が流入する。また、嫌気槽12には、攪拌機12aが設けられており、嫌気槽12内を攪拌可能に構成されている。また、嫌気槽12には、計測の必要に応じてN
2O計3gが設置される。すなわち、この排水の処理装置51は、嫌気−好気法(AO法)を実行するための処理装置である。その他の構成については、第4の実施形態と同様であるので、説明を省略する。
【0080】
この第5の実施形態によれば、硝化槽の数が5槽であり、さらに前段に嫌気槽12を設けている構成以外は第4の実施形態と同様であるので、第4の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0081】
(第6の実施形態)
次に、本発明の第6の実施形態について説明する。
図10は、この第6の実施形態による排水の処理装置を示す模式図である。
【0082】
図10に示すように、この第6の実施形態による排水の処理装置61においては、第5の実施形態と異なり、4槽の硝化槽2a〜2dを備え、ORP計7bが最終段の硝化槽2dに設けられているとともに、ORP計7aが、被処理水の流れ方向に沿った上流側の硝化槽2bに設けられている。また、4槽の硝化槽2a〜2dの前段で嫌気槽12の後段に、脱窒処理を行う無酸素槽13が設けられている。無酸素槽13には、嫌気槽12から被処理水が流入するとともに、最終段の硝化槽2dからポンプ14aによって硝化液が返送されて流入する。また、無酸素槽13には、攪拌機13aが設けられており、無酸素槽13内を攪拌可能に構成されている。また、無酸素槽13には、計測の必要に応じてN
2O計3hが設置される。すなわち、この排水の処理装置61は、嫌気−無酸素−好気法(A
2O法)を実行するための処理装置である。その他の構成については、第4および第5の実施形態と同様であるので、説明を省略する。
【0083】
この第6の実施形態によれば、硝化槽の数が4槽であり、さらに嫌気槽12の後段に無酸素槽13を設けている以外は第4および第5の実施形態と同様なので、第4および第5の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0084】
(第7の実施形態)
次に、本発明の第7の実施形態について説明する。
図11は、この第7の実施形態による排水の処理装置を示す模式図である。
【0085】
図11に示すように、この第7の実施形態による排水の処理装置71においては、第1〜第6の実施形態と異なり、硝化槽72が単一槽から構成されている。この硝化槽72においては、処理原水が流入する位置から被処理水の流れ方向に沿った下流側に、複数、具体的には例えば2つのORP計7a,7bが順に設けられている。これらのうちの最終段のORP計7bは、硝化槽72における被処理水の流れ方向に沿った最下流側の位置に設けられている。ORP計7aは、ORP計7bに対して、被処理水の流れ方向に沿った上流側の所定位置に設けられている。この所定位置は、上述した第4〜第6の実施形態におけるORP計7bの設置位置とするのが望ましい。なお、硝化槽72に3つ以上のORP計を設ける場合には、少なくとも最終段に1つのORP計を設ける以外は、上述した第4〜第6の実施形態におけるORP値の計測位置に対応した位置に設けることが望ましい。また、複数のN
2O計3a〜3fはそれぞれ、硝化槽72において被処理水の流れ方向に沿って略等間隔に順次設けられている。その他の構成については、第4の実施形態と同様であるので、説明を省略する。
【0086】
この第7の実施形態によれば、硝化槽72を単一槽から構成していること以外は、第4の実施形態と同様であるので、第4の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0087】
(第8の実施形態)
次に、本発明の第8の実施形態について説明する。
図12は、この第8の実施形態による排水の処理装置を示す模式図である。
【0088】
図12に示すように、この第8の実施形態による排水の処理装置81においては、第7の実施形態と異なり、単一槽からなる硝化槽82の内部に、ORP計7a,7bの設置位置に対応した2つの散気部86a,86bが設けられている。これらの散気部86a,86bには、単一のブロワ8aから空気が供給される。そして、情報処理部10は、ORP計7aにより計測されたORP値に基づいて、このORP計7aより被処理水の流れ方向に沿った略上流側における散気部86aからの散気量を制御する。同様に、情報処理部10は、ORP計7bにより計測されたORP値に基づいて、このORP計7bより被処理水の流れ方向に沿った略上流側における散気部86bからの散気量を制御する。これらの散気部86a,86bの散気量はそれぞれ、制御弁9a,9bにより調整される。その他の構成については、第4および第7の実施形態と同様であるので、説明を省略する。
【0089】
この第8の実施形態によれば、硝化槽82を単一槽から構成し、さらにORP計7a,7bに対応した散気部86a,86bを設けている以外は第4および第7の実施形態と同様であるので、第4および第7の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0090】
(第9の実施形態)
次に、本発明の第9の実施形態について説明する。
図13は、この第9の実施形態による排水の処理装置を示す模式図である。
【0091】
図13に示すように、第9の実施形態による排水の処理装置91は、第1の実施形態による排水の処理装置に対してアンモニア濃度計測手段としてのアンモニア計92a,92b,92cが設けられている。アンモニア計92aは、処理原水に含まれるアンモニア濃度またはアンモニア性窒素濃度を計測可能に構成されている。アンモニア計92bは、硝化槽2a〜2fのうちの途中位置としての略中間位置に設置され、このアンモニア計92bより上流側が硝化領域の前段区間となる。また、アンモニア計92bは、例えば硝化槽2c内の被処理水に含まれるアンモニア濃度またはアンモニア性窒素濃度を計測可能に構成されている。アンモニア計92cは、硝化槽2a〜2fのうちの終点位置としての下流側位置に設置され、このアンモニア計92cより上流側かつアンモニア計92bより下流側が硝化領域の後段区間を構成する。また、アンモニア計92cは、例えば硝化槽2f内の被処理水に含まれるアンモニア濃度またはアンモニア性窒素濃度を計測する。なお、アンモニア計92bは、硝化槽2a〜2fにおけるいずれかの硝化槽に設置可能であるが、散気量を制御する観点から、硝化槽2a,2f以外に設置するのが好ましい。
【0092】
また、情報処理部10は、散気量制御手段の一部としての散気量制御部を構成するソフトウェアに従って各部を制御可能に構成されている。そして、散気量制御部は、散気量制御手段の一部を構成する、各ブロワ8a〜8f、および各ブロワ8a〜8fに対応する各制御弁9a〜9fをそれぞれ個別に制御する。これにより、各散気部6a〜6fによる散気量はそれぞれ独立して制御される。また、情報処理部10は、各種シミュレーションを実行可能に構成されているとともに、排水の処理装置91における各種実験データがテーブル状に読み出しおよび書き出し可能に格納された制御手段としても用いられる。さらに、情報処理部10は、詳細は後述するがソフトウェアとして、前段硝化率把握部、前段関係保持部、前段大小関係把握部、途中位置目標値補正部、後段硝化速度把握部、後段関係保持部、後段大小関係把握部、および終点位置目標値補正部を有して構成されている。そして、情報処理部10は、これらの各部を構成するソフトウェアによって処理装置91における情報に基づいて、情報を処理したり各部を制御したりする。その他の構成は、第1の実施形態と同様であるので、説明を省略する。
【0093】
図14は、本発明者が行った実験およびシミュレーションにより得られたN
2Oの生成速度の前段区間硝化率依存性の一例を示すグラフである。また、
図15は、この第9の実施形態によるN
2Oの生成速度における排水の処理装置の後段区間硝化速度依存性の一例を示すグラフである。
【0094】
すなわち、本発明者は、上述したアンモニア計92bにより中間位置の計測に基づいて算出される前段区間硝化率を種々変化させて、アンモニア計92cの計測位置である下流側位置でのアンモニア性窒素濃度を計測した。なお、第9の実施形態において硝化率は、以下の(5)式から求められる。
{(流入位置(硝化槽2a)におけるアンモニア性窒素濃度−アンモニア計92bにより計測されるアンモニア性窒素濃度)/(流入位置におけるアンモニア性窒素濃度)}×100% ……(5)
【0095】
ここで、流入位置におけるアンモニア性窒素濃度とは、アンモニア計92aにより計測される処理原水のアンモニア性窒素濃度に対して、返送汚泥とともに返送された返送水の流入分を考慮したアンモニア性窒素濃度である。具体的な一例を挙げると、処理原水の流入量Q
1、返送水の返送量Q
2に対して、流入位置(硝化槽2a)におけるアンモニア性窒素濃度は、処理原水のアンモニア性窒素濃度のQ
1/(Q
1+Q
2)倍になる。
【0096】
そして、本発明者は、アンモニア計92bの設置位置(中間位置)において計測される前段区間の硝化率(前段区間硝化率)を種々の硝化率として、下流側の硝化槽2f(末端槽)におけるアンモニア性窒素濃度を測定し、硝化槽2fにおけるアンモニア性窒素濃度が単調減少することを知見した。
【0097】
ここで、N
2Oが生じる発生経路においては、以下の化学反応式(6),(7)のように、NO
2-が還元されてN
2Oとなる。すなわち、N
2Oは、主にアンモニア酸化細菌(AOB)による亜硝酸の還元により生成される。
NH
2OH+NO
2-→N
2O+H
2O+OH
- …(6)
H
2+NO
2-→0.5N
2O+0.5H
2O+OH
- …(7)
【0098】
また、本発明者は、前段区間における硝化率(前段区間硝化率)を種々の硝化率として、硝化槽2a〜2fにおけるN
2O生成速度の導出を試みた。なお、上述したようにN
2Oは、AOBのアンモニア酸化に伴って生成される。そして、詳細は後述するが、本発明者がシミュレーションおよび実験に基づいて鋭意検討を行った結果、N
2O生成速度が以下の(8)式から導出可能であることを知見するに至った。
N
2O生成速度=アンモニア酸化速度×N
2O転換率 ……(8)
【0099】
そして、(8)式に関して本発明者が実験およびシミュレーションに基づいた鋭意検討により得た知見によれば、アンモニア酸化速度は、AOBの生物学的定数に基づき、アンモニア濃度および溶存酸素(DO)濃度に依存し、N
2O転換率は、亜硝酸濃度およびDO濃度に依存する。すなわち、上述した化学反応式(6),(7)によって、(8)式のN
2O生成速度に影響があることを知見した。
【0100】
また、上述したように、AOB活性がNOB活性以下になる条件下(AOB活性≦NOB活性)、特にNOB活性がAOB活性とほぼ等しくなる中庸の条件下においては、N
2Oの増加が抑制される。一方、一般的に微生物の倍化速度は、NOBに比してAOBの方が倍程度大きい。これらの点から、本発明者は、AOB活性に着目して、N
2Oを抑制するためにAOBに含まれる微生物の区別に着目した。AOBには種々の微生物が含まれ、具体的には、Nitrosospira属、およびNitorosomonas属などが含まれる。本発明者の知見によれば、アンモニア酸化活性に関しては、NEU(Nitorosomonas属)のアンモニア酸化活性は、Nso190(主に、Nitrosospira属)のアンモニア酸化活性より大きい。
【0101】
そこで、本発明者は、これらのNitrosospira属およびNitorosomonas属の微生物に着目して、種々実験およびシミュレーションを行った。ここで、本発明者の従来の知見から、それぞれの硝化槽2a〜2fにおける微生物の増殖速度については、以下の(9)式、(10)式および(11)式が成立することが分かっている。なお、(9)〜(11)式において、dX
SPR/dtはAOBのNitrosospira属の増殖速度、dX
MNS/dtはAOBのNitorosomonas属の増殖速度、dX
NOB/dtはNOBの増殖速度である。また、S
O2は溶存酸素濃度(DO濃度)であって、例えば、硝化槽2fにおいて2.0mgとして硝化槽2cにおいて0〜2.0mg/Lで種々の値とし、これらの値に応じて、硝化槽2b,2d,2eにおけるDO濃度S
O2も種々の値としたものである。また、S
NH4はアンモニア濃度であって、例えばDO濃度S
O2を種々の値とした場合に、そのDO濃度S
O2ごとに対応させた各硝化槽2a〜2fにおけるアンモニア濃度S
NH4である。また、S
NO2は亜硝酸濃度である。さらに、X
SPRはNitrosospira属の微生物濃度、X
MNSはNitorosomonas属の微生物濃度、X
NOBはNOBの微生物濃度であり、K
SPRO2、K
SPRNH4、μ
SPRmax、K
MNSO2、K
MNSNH4、μ
maxMNS、μ
NOBmax、K
NOBO2、およびK
NOBNO2については、以下の表2に示す定数である。なお、これらの定数については、必ずしもこれらの定数に限定されるものではなく、種々の定義に基づく定数を採用可能である。また、b
SPR、b
MNS、およびb
NOBはそれぞれ、Nitrosospira属、Nitorosomonas属、およびNOBの死滅係数である。
【0104】
また、本発明者の知見によれば、Nitrosospira属およびNitorosomonas属によるアンモニア酸化速度γ
SPRNH4,γ
MNSNH4については、以下の(12)式および(13)式が成立することが知られている。また、NOBによる亜硝酸酸化速度γ
NOBNO2については、以下の(14)式が成立することが知られている。なお、(12)〜(14)式において、Y
SPR、Y
MNS、Y
NOBはそれぞれ、収率である。
【0106】
しかしながら、上述した微生物増殖速度、ならびにアンモニア酸化速度および亜硝酸酸化速度のみでは、各硝化槽2a〜2fにおけるN
2O生成速度をシミュレーションによって導出することは極めて困難であった。そこで、本発明者は、さらなる実験および鋭意検討を行い、それぞれの硝化槽2a〜2fにおいて、DO濃度と亜硝酸濃度とに基づいたN
2O転換率を導出することを想起した。
【0107】
そして、本発明者が種々の実験およびシミュレーションを行った結果、本発明者は、Nitrosospira属およびNitorosomonas属のぞれぞれのN
2O転換率η
SPR,η
MNSが、以下の(15)式および(16)式により導出可能であることを案出した。なお、η
SPRmaxは、Nitrosospira属による最大N
2O転換率である定数であって、その値は例えば40であり、η
MNSmaxは、Nitorosomonas属による最大N
2O転換率である定数であって、その値は例えば11である。また、K
SPRη_O2は、Nitrosospira属による回分試験結果から導いた酸素濃度に対する飽和定数であり、K
MSNη_O2は、Nitorosomonas属による回分試験結果から導いた酸素濃度に対する飽和定数であって、その値はいずれも例えば0.07である。
【0109】
(15)式に示すように、Nitrosospira属によるN
2O転換率は、DO濃度S
O2および亜硝酸濃度S
NO2に基づいて導出され、(16)式に示すように、Nitorosomonas属によるN
2O転換率は、DO濃度S
O2に基づいて導出される。
【0110】
また、(8)式におけるN
2O生成速度は、Nitrosospira属およびNitorosomonas属によるN
2O生成速度の合計値であり、以下の(17)式により導出される。
N
2O生成速度
=Nitrosospira属によるN
2O生成速度+Nitorosomonas属によるN
2O生成速度
=(γ
SPRNH4・η
SPR)+(γ
MNSNH4・η
MNS)……(17)
【0111】
そして、上述した(8)〜(17)式に基づいて、表3に示す一例としての運転条件である境界条件を設定することによって、N
2O生成速度の前段区間硝化率依存性が導出できる。これにより、本発明者は、N
2O生成速度と前段区間硝化率との関係において、
図14に示すような、N
2O生成速度の前段区間硝化率依存性の傾向を導出可能であることを知見した。
【0113】
具体的に
図14に示すように、N
2O生成速度は、前段区間硝化率が0%から所定の第1の硝化率である例えば25%程度まで増加させた範囲において減少する。さらに、前段区間硝化率を、第1の硝化率を超えて増加させると、N
2O生成速度も第1の硝化率より高い第2の硝化率としての例えば80%程度まで単調増加する。そして、第2の硝化率を超えると、N
2O生成速度は、前段区間硝化率の増加に伴って単調減少する。
【0114】
すなわち、N
2O生成速度は、前段区間硝化率が50%以下の第1の硝化率の場合に極小(
図14中A囲み部)となり、第1の硝化率より高い第2の硝化率の場合に極大(
図14中B囲み部)となることが判明した。そして、本発明者が種々実験および検討を行った結果、この傾向は硝化槽を用いた一般の排水の処理装置において生じる傾向であることが判明した。なお、
図14から、前段区間硝化率を50%以下にするのが好ましいことが分かるが、この場合には、中間位置より後段側において硝化率を増加させる必要がある。これは後段硝化型の運転方法となることから、本発明者の実験および鋭意検討によって後段硝化型の運転方法が好ましいことが改めて確認された。
【0115】
また、本発明者は後段硝化型の運転方法についてさらなる実験および鋭意検討を行った。そして、本発明者は、中間位置の硝化槽としての硝化槽2cと、末端槽としての硝化槽2fとの間における平均のアンモニア酸化速度である後段区間硝化速度について検討を行った。その結果、
図15に示す、N
2Oの生成速度における排水の処理装置の段部の硝化速度依存性を確認するに至った。
【0116】
図15に示すように、N
2O生成速度は、後段区間硝化速度が増加するのに伴って所定硝化速度である例えば2.9mgN/Lhまで単調減少し、所定の後段区間硝化速度を超えると増加する。すなわち、N
2Oの生成速度においては、極小値を取るような後段区間硝化速度における所定硝化速度が存在することが判明した。なお、後段区間硝化速度は、アンモニア計92cにより計測されたアンモニア濃度またはアンモニア性窒素濃度と、アンモニア計92bにより計測されたアンモニア濃度またはアンモニア性窒素濃度とに基づき、上述の(12)式と(13)式とから算出可能である。
【0117】
以上の
図14および
図15におけるN
2O生成速度に関する鋭意検討に基づいて、本発明者は、排水の処理装置における運転方法として、次の運転方法を採用することを想起した。すなわち、まず、あらかじめ排水の処理装置91において、アンモニア計92a〜92cを用いて、中間位置としての硝化槽2cにおける硝化率の最適値を計測する。この場合、まず、排水の処理装置91から排出される処理水において所望とされる水質を確保するために、最終段の末端槽としての硝化槽2fにおけるアンモニア性窒素濃度を規定する。そして、その末端槽における被処理水のアンモニア性窒素濃度を、所望とするアンモニア性窒素濃度にするために、前段区間硝化率における目標の硝化率および後段区間硝化速度における目標の硝化速度を決定する。
【0118】
具体的には、末端槽としての硝化槽2fにおいて所望とされるアンモニア性窒素濃度を1.0mgN/L以下とした場合においては、前段区間硝化率における目標の硝化率を例えば22%以上にするのが好ましい。この場合、目標の硝化率としては、N
2O生成速度が極小になる領域(
図14中A囲み部)の近傍に設定することが好ましい。なお、先端槽としての硝化槽2aにおけるアンモニア性窒素濃度が12mgN/Lであるとする。また、後段硝化型の運転方法を採用する観点から、目標硝化率は、50%以下にするのが好ましい。そして、目標の硝化率の範囲に基づいて、中間位置より下流側である後段の硝化槽2d〜2fにおいては、目標の硝化速度を最終的な所望とするアンモニア性窒素濃度が得られる硝化速度とする。この場合、
図15に示すグラフに基づいて、目標とする硝化速度は、N
2O生成速度が極小になる領域(
図15中C囲み部)内またはこの領域の近傍から選択するのが望ましい。
【0119】
なお、上述した目標の硝化率および目標の硝化速度については、流入水質(アンモニア性窒素濃度)、流入水の流量、および運転条件が明確である場合、シミュレーションを行うことによっても、最適な範囲を推定することが可能である。例えば流入水質および表3に示すような条件が明確である場合には、シミュレーションによってあらかじめ最適な目標の硝化率の範囲および目標の硝化速度の範囲を設定可能である。他方、これらの条件が不明である場合に、排水の処理装置91において、あらかじめアンモニア計によるアンモニア性窒素濃度の計測が必要になる。
【0120】
具体的に、
図2Bに示すように、処理原水に対して最初に硝化処理を行う硝化槽2aにおいて、被処理水のアンモニア性窒素濃度が例えば12mg/Lであるとする。そして、被処理水を硝化槽2b〜2fに順次流下させることで、順次化学反応式(1)〜(3)による反応を進行させて硝化処理を行い、アンモニア性窒素を、最終的に1mg/Lまで減少させる。ここで、それぞれの硝化槽2a〜2fにおける硝化処理の運転方法としては、後段硝化型の運転方法を採用する。後段硝化型の運転方法においては、硝化槽2a〜2fのうちの、比較的前段側の硝化槽2a〜2cにおいて硝化処理を抑制させてアンモニア性窒素濃度の減少量を小さく抑える。ここでは、硝化槽2cにおける硝化率を、上述した目標の硝化率、すなわち硝化率の最適範囲になるようにする。また、比較的後段側の硝化槽2d〜2fにおいて硝化反応を進行させて、上述した目標の硝化速度、すなわち硝化速度の最適範囲内になるように確保して、アンモニア性窒素濃度の減少量を大きくする。このように決定された後段硝化型の運転方法においては、アンモニア性窒素濃度の推移は上に凸状の減少になる(
図2B中、上に凸矢印)。
【0121】
このような後段硝化型の運転方法を実施するために、それぞれの硝化槽2a〜2fにおける目標となるORP値を設定する。そして、
図2Bにおける後段硝化型が示すようなアンモニア性窒素濃度のプロファイルを作成した後、
図2Bに示す後段硝化型のプロファイルに応じて、
図2Aに示すような後段硝化型のORP値を設定する。すなわち、これらの硝化率の最適範囲と硝化速度の最適範囲とが互いに満足するように、硝化率および硝化速度が選択され、選択された硝化率および硝化速度に基づいて、硝化槽2a〜2fにおける目標ORP値が設定される。なお、アンモニア性窒素濃度が例えば12mg/Lの状態における目標となるORP値は、例えば0mVに設定されるが、必要に応じて例えば−50mVとすることも可能である。そして、最終的にアンモニア性窒素濃度を、所望のアンモニア硝化水質としての例えば1mg/L程度にまで減少させる場合には、目標となるORP値は例えば120mVとなる。すなわち、アンモニア性窒素濃度のプロファイルに対して、目標となるORP値はほぼ逆相関関係になる。
【0122】
後段硝化型の運転方法においては、目標となるORP値は、硝化槽2a〜2fのうちの比較的前段側の硝化槽2a〜2cにおいて傾きが小さくなるように増加し、比較的後段側の硝化槽2d〜2fにおいて傾きが大きくなるように増加する。この後段硝化型の運転方法においては、目標となるORP値の推移は、
図2Bに示すアンモニア性窒素濃度のプロファイルに基づいて、被処理水の流れ方向に沿った硝化槽2a〜2fに対して下に凸状になる(
図2A中、下に凸矢印)。そして、上述した目標となる各硝化槽2a〜2fにおける各ORP値が導出された後は、排水の処理装置91における情報処理部10の散気量制御部が、それぞれの硝化槽2a〜2fにおいて目標となるORP値になるように、それぞれの散気部6a〜6fの散気量を独立して個別に制御する。
【0123】
また、排水の処理装置91の稼働中において、アンモニア計92a〜92cによってそれぞれ、流入する処理原水、および硝化槽2c,2fにおけるアンモニア性窒素濃度を計測し、計測されたアンモニア性窒素濃度から前段区間硝化率および後段区間硝化速度を補正する。この補正方法について以下に説明する。
【0124】
すなわち、情報処理部10が有する前段硝化率把握部およびアンモニア計92a,92bによって、前段硝化率把握手段が構成されている。前段硝化率把握部は、被処理水の流れ方向に沿ったアンモニア計92aの下流側かつアンモニア計92bの上流側の範囲内である前段区間における硝化率を算出する。また、情報処理部10が有する例えばハードディスクなどの記録部から構成される、前段関係保持手段としての前段関係保持部は、前段区間におけるあらかじめ算出されたN
2O生成速度の硝化室依存性のグラフデータをデータテーブル状に保持している。情報処理部10は、前段関係保持部に保持された前段区間におけるN
2O生成速度の硝化率依存性を読み出す。これとともに、情報処理部10は、アンモニア計92a、92bにより計測されたアンモニア濃度またはアンモニア性窒素濃度から、前段区間における硝化率の最新の算出値(最新値)を算出する。また、情報処理部10が有する前段大小関係把握部は、前段大小関係把握手段として、読み出したN
2O生成速度の硝化率依存性に基づいて、硝化率の最新値と、N
2O生成速度が最小になる前段区間における硝化率の最適範囲との大小関係を算出する。
【0125】
その後、情報処理部10は、前段大小関係把握部が算出することによって把握した前段区間における硝化率に関する大小関係に基づいて、前段区間における硝化率として、前段区間での硝化率の最適範囲との差を小さくするような次なる硝化率の最新値を算出する。そして、途中位置目標値補正手段としての、情報処理部10が有する途中位置目標値補正部から、前段区間での硝化率が次なる硝化率の最新値になるように、途中位置における酸化還元電位計測手段としての例えばORP計3cにおける目標ORP値を補正する。これとともに、ORP計7cの目標ORP値の補正に応じて、第1〜第8の実施形態と同様の設定方法に従って、ORP計7a,7bの目標ORP値を補正する。具体的には、前段区間硝化率を減少させる場合には、ORP計7cの目標ORP値を減少させる補正を行い、前段区間硝化率を増加させる場合には、ORP計7cの目標ORP値を増加させる補正を行う。その後、これらのORP計7a〜7cにおけるそれぞれの目標ORP値になるように、散気量制御手段としての情報処理部10が散気部6a〜6cの散気量を制御する。
【0126】
また、情報処理部10が有する後段硝化速度把握部およびアンモニア計92b,92cによって、後段硝化速度把握手段が構成されている。後段硝化速度把握部は、被処理水の流れ方向に沿ったアンモニア計92bの下流側かつアンモニア計92cの上流側の範囲内である後段区間における硝化速度(後段区間硝化速度)を算出する。また、情報処理部10が有する例えばハードディスクなどの記録部から構成される、後段関係保持手段としての後段関係保持部は、後段区間におけるあらかじめ算出されたN
2O生成速度の後段区間硝化速度依存性のグラフデータをデータテーブル状に保持している。情報処理部10は、後段関係保持部に保持された後段区間におけるN
2O生成速度の後段区間硝化速度依存性を読み出す。これとともに、情報処理部10は、アンモニア計92b、92cにより計測されたアンモニア濃度またはアンモニア性窒素濃度から、後段区間硝化速度の最新の算出値(最新値)を算出する。また、後段大小関係把握手段としての、情報処理部10が有する後段大小関係把握部は、読み出したN
2O生成速度の後段区間硝化速度依存性に基づいて、後段区間硝化速度の最新値と、N
2O生成速度が最小になる後段区間硝化速度の最適範囲との大小関係を算出する。
【0127】
その後、情報処理部10は、後段大小関係把握部が算出することによって把握した後段区間硝化速度に関する大小関係に基づいて、後段区間硝化速度として、後段区間硝化速度の最適範囲との差を小さくするような、次なる後段区間硝化速度の最新値を算出する。そして、終点位置目標値補正手段としての、情報処理部10が有する終点位置目標補正部は、後段区間硝化速度が次なる後段区間硝化速度の最新値になるように、後段区間のアンモニア計92cが設置された終点位置におけるORP計7fの配設位置における目標ORP値を補正する。これとともに、ORP計7fの目標ORP値の補正に応じて、第1〜第8の実施形態と同様の設定方法に従って、ORP計7d,7eの目標ORP値を補正する。具体的には、後段区間の終点位置において達成すべき硝化水質が達成され得る限度で、後段区間硝化速度を減少させる場合には、ORP計7fの目標ORP値を減少させる補正を行い、後段区間硝化速度を増加させる場合には、ORP計7fの目標ORP値を増加させる補正を行う。その後、散気量制御手段の一部を構成する、情報処理部10の散気量制御部が、これらのORP計7d〜7fにおけるそれぞれの目標ORP値になるように、各ブロワ8a〜8f、および散気量制御手段の一部を構成する各制御弁9a〜9fを個別に制御する。これにより、散気量制御部は、散気部6a〜6cの散気量を制御する。
【0128】
この第9の実施形態においては、アンモニア計92a〜92cを用いて、あらかじめ流入位置から中間位置までの前段区間における目標の前段区間硝化率、および中間位置から後段側の端末槽の間における目標の後段区間硝化速度に基づいて、硝化槽2a〜2fの各槽のORP値を設定して、後段硝化型の運転方法を採用していることにより、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0129】
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。例えば、上述の一実施形態において挙げた数値はあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる数値を用いてもよい。
【0130】
また、上述の第1の実施形態では、散気量を制御することによって各硝化槽のORPを制御したが、各硝化槽への酸化剤または還元剤の添加量を制御することによって、各硝化槽のORPを制御するようにしてもよい。この場合、酸化剤としては、純酸素、オゾン、および次亜塩素酸ナトリウムのうちの少なくとも一つ、還元剤としては、チオ硫酸ナトリウムおよび硫化ナトリウムのうちの少なくとも一つを用いることができる。
【0131】
また、上述の第1〜第3の実施形態においては、すべての硝化槽にそれぞれORP計を設けているが、必ずしもすべての硝化槽にORP計を設ける必要はない。すなわち、複数の硝化槽のうちの最終段の硝化槽にORP計を設ければ、この最終段の硝化槽の位置よりも被処理水の流れ方向に沿った上流側の少なくとも1箇所にORP計を設ければよい。
【0132】
上述の第7、第8の実施形態においては、N
2O計3a〜3fが互いに略均等に並べて設けられているが、必ずしも略均等に限定されるものではなく、N
2Oの濃度を計測する必要のある所望の位置に設置することが可能である。また、第7、第8の実施形態において、単一槽からなる硝化槽の前段に嫌気槽を設けたAO法を実行するための処理装置にすることも可能であり、この嫌気槽の後段で硝化槽の前段に、脱窒処理を行う無酸素槽を設けたA
2O法を実行するための処理装置にすることも可能である。また、第7、第8の実施形態においては、硝化槽を硝化脱窒槽から構成することも可能である。
【0133】
また、上述の第1〜第7の実施形態においては、複数のブロワ8a〜8fを用いているが、必ずしも複数のブロワに限定されるものではなく、単一のブロワを用いて、制御弁9a〜9fなどによって硝化槽内への散気量を制御しても良い。
【0134】
また、上述の第9の実施形態においては、硝化率を{(計測点におけるアンモニア性窒素の減少濃度)/(流入側アンモニア性窒素濃度)}×100(%)としたが、硝化率として用いる式は必ずしもこれに限定されるものではなく、{(硝酸性窒素(NO
3−N)濃度+亜硝酸性窒素(NO
2−N)濃度)/(アンモニア性窒素濃度+硝酸性窒素濃度+亜硝酸性窒素濃度)}×100(%)などの他の硝化率の式を採用することも可能である。
【0135】
また、上述した第9の実施形態においては、第1の実施形態による排水の処理装置に対して、さらにアンモニア計92a,92b,92cを設けているが、第2〜第8の実施形態による排水の処理装置に対してさらに、アンモニア計92a〜92cによるアンモニア性窒素濃度を計測可能に構成することも可能である。すなわち、各種の排水の処理装置にアンモニア計92a〜92cを設けることにより、外部から流入する流入位置、中間位置、および下流側位置の3箇所におけるアンモニア濃度またはアンモニア性窒素濃度を計測して、これらの計測値に基づいて、運転方法を決定することも可能である。
【0136】
また、上述した第9の実施形態においては、硝化槽2a〜2fに分割された槽を用いているが、必ずしもこれに限定されるものではなく、単一槽を採用しても、より少ない数の硝化槽から構成しても、より多い数の硝化槽から構成しても良い。