特許第6246630号(P6246630)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6246630放射性汚染水の処理装置および処理システムならびに処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6246630
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】放射性汚染水の処理装置および処理システムならびに処理方法
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/08 20060101AFI20171204BHJP
   G21F 9/12 20060101ALI20171204BHJP
   G21F 9/10 20060101ALI20171204BHJP
   G21F 9/06 20060101ALI20171204BHJP
   B01D 1/28 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
   G21F9/08 521A
   G21F9/12 501C
   G21F9/10 F
   G21F9/06 561
   G21F9/08 521B
   B01D1/28
【請求項の数】24
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-52774(P2014-52774)
(22)【出願日】2014年3月14日
(65)【公開番号】特開2015-175741(P2015-175741A)
(43)【公開日】2015年10月5日
【審査請求日】2017年2月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】小川 尚樹
(72)【発明者】
【氏名】田崎 弘洋
(72)【発明者】
【氏名】柴山 俊
(72)【発明者】
【氏名】柿木 浩一
(72)【発明者】
【氏名】姉川 弘明
(72)【発明者】
【氏名】木下 弘毅
(72)【発明者】
【氏名】溝上 頼賢
(72)【発明者】
【氏名】武石 雅之
【審査官】 右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭57-71686(JP,A)
【文献】 特開昭63-221881(JP,A)
【文献】 特開平2-131102(JP,A)
【文献】 特開2006-122859(JP,A)
【文献】 特開2013-40868(JP,A)
【文献】 特開2013-148364(JP,A)
【文献】 特開2014-16210(JP,A)
【文献】 米国特許第4040973(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/08
B01D 1/28
G21F 9/06
G21F 9/10
G21F 9/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性汚染水を加熱して濃縮汚染水と排水に分離する加熱器と、
前記濃縮汚染水を減圧して再濃縮しつつフラッシュ蒸気を抽出する蒸発器と、
前記蒸発器により抽出されたフラッシュ蒸気を圧縮し前記加熱器に導入する過熱蒸気を生成する圧縮機と、
を備えることを特徴とする放射性汚染水処理装置。
【請求項2】
前記加熱器から排出される排水と前記加熱器に導入される以前の放射性汚染水との間で熱交換させて放射性汚染水を予熱する排水側予熱器を備えることを特徴とする請求項1に記載の放射性汚染水処理装置。
【請求項3】
前記蒸発器から排出される再濃縮汚染水と前記加熱器に導入される以前の放射性汚染水との間で熱交換させて放射性汚染水を予熱する再濃縮汚染水側予熱器を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の放射性汚染水処理装置。
【請求項4】
前記加熱器から排出される排水から放射性ヨウ素を除去するフィルタを備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の放射性汚染水処理装置。
【請求項5】
前記加熱器から排出される水蒸気を冷却して生成される冷却水を前記加熱器より排出された排水に導入する凝縮器を備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の放射性汚染水処理装置。
【請求項6】
前記加熱器に導入される放射性汚染水、または前記蒸発器から排出される再濃縮汚染水に含まれる塩化物を除去する塩化物除去手段を備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の放射性汚染水処理装置。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか一つに記載の放射性汚染水処理装置を汚染水処理モジュールとして構成し、
複数の前記汚染水処理モジュールを順次連続配置して、前段の前記汚染水処理モジュールにおける前記蒸発器から排出される再濃縮汚染水を、後段の前記汚染水処理モジュールにおける前記加熱器に放射性汚染水として導入することを特徴とする放射性汚染水処理システム。
【請求項8】
初段の前記汚染水処理モジュールと次段の前記汚染水処理モジュールとの間に配置され、初段の前記汚染水処理モジュールから排出される再濃縮汚染水に含まれる塩化物を除去する塩化物除去手段を備えることを特徴とする請求項7に記載の放射性汚染水処理システム。
【請求項9】
最終段の前記汚染水処理モジュールから排出される再濃縮汚染水を乾燥して汚染物を固体化させる固体化モジュールを備えることを特徴とする請求項7または8に記載の放射性汚染水処理システム。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれか一つに記載の放射性汚染水処理装置を排水処理モジュールとして構成し、
複数の前記排水処理モジュールを順次連続配置して、前段の前記排水処理モジュールにおける前記加熱器から排出される排水を、後段の前記排水処理モジュールにおける前記加熱器に放射性汚染水として導入することを特徴とする請求項7〜9のいずれか一つに記載の放射性汚染水処理システム。
【請求項11】
後段の前記排水処理モジュールから排出される再濃縮汚染水や、前記汚染水処理モジュールから排出される排水を、前段の前記排水処理モジュールの前記加熱器に導入される同等の放射線濃度の放射性汚染水と共に導入することを特徴とする請求項10に記載の放射性汚染水処理システム。
【請求項12】
最終段の前記汚染水処理モジュールから排出される再濃縮汚染水を乾燥して固体化させる固体化モジュールを備える場合、当該固体化モジュールから排出される排水を、前記排水処理モジュールにおける前記加熱器に導入される同等の放射線濃度の放射性汚染水と共に導入することを特徴とする請求項10または11に記載の放射性汚染水処理システム。
【請求項13】
放射性汚染水を加熱して濃縮汚染水と排水に分離する加熱工程と、
前記濃縮汚染水を減圧して再濃縮しつつフラッシュ蒸気を抽出する蒸発工程と、
前記蒸発工程により抽出されたフラッシュ蒸気を圧縮し前記加熱工程に導入する過熱蒸気を生成する圧縮工程と、
を含むことを特徴とする放射性汚染水処理方法。
【請求項14】
前記加熱工程において排出される排水と前記加熱工程に導入される以前の放射性汚染水との間で熱交換させて放射性汚染水を予熱する排水側予熱工程を含むことを特徴とする請求項13に記載の放射性汚染水処理方法。
【請求項15】
前記蒸発工程において排出される再濃縮汚染水と前記加熱工程に導入される以前の放射性汚染水との間で熱交換させて放射性汚染水を予熱する再濃縮汚染水側予熱工程を含むことを特徴とする請求項13または14に記載の放射性汚染水処理方法。
【請求項16】
前記加熱工程において排出される排水から放射性ヨウ素を除去するフィルタリング工程を含むことを特徴とする請求項13〜15のいずれか一つに記載の放射性汚染水処理方法。
【請求項17】
前記加熱工程において排出される水蒸気を冷却して生成される冷却水を、前記加熱工程において排出された排水に導入する凝縮工程を含むことを特徴とする請求項13〜16のいずれか一つに記載の放射性汚染水処理方法。
【請求項18】
前記加熱工程において導入される放射性汚染水、または前記蒸発工程において排出される再濃縮汚染水に含まれる塩化物を除去する塩化物除去工程を含むことを特徴とする請求項13〜17のいずれか一つに記載の放射性汚染水処理方法。
【請求項19】
前記加熱工程と、前記蒸発工程と、前記圧縮工程と、を少なくとも含む汚染水処理工程を有し、
複数の前記汚染水処理工程を順次連続して、前段の前記汚染水処理工程における前記蒸発工程において排出される再濃縮汚染水を、後段の前記汚染水処理工程における前記加熱工程に放射性汚染水として導入することを特徴とする請求項13〜18のいずれか一つに記載の放射性汚染水処理方法。
【請求項20】
初段の前記汚染水処理工程と次段の前記汚染水処理工程との間で、初段の前記汚染水処理工程において排出される再濃縮汚染水に含まれる塩化物を除去する塩化物除去工程を含むことを特徴とする請求項19に記載の放射性汚染水処理方法。
【請求項21】
最終段の前記汚染水処理工程において排出される再濃縮汚染水を乾燥して汚染物を固体化させる固体化工程を含むことを特徴とする請求項19または20に記載の放射性汚染水処理方法。
【請求項22】
前記加熱工程と、前記蒸発工程と、前記圧縮工程と、を少なくとも含む排水処理工程を有し、
複数の前記排水処理工程を順次連続して、前段の前記排水処理工程における前記加熱工程において排出される排水を、後段の前記排水処理工程における前記加熱工程に放射性汚染水として導入することを特徴とする請求項19〜21のいずれか一つに記載の放射性汚染水処理方法。
【請求項23】
後段の前記排水処理工程において排出される再濃縮汚染水や、前記汚染水処理工程において排出される排水を、前段の前記排水処理工程の前記加熱工程に導入される同等の放射線濃度の放射性汚染水と共に導入することを特徴とする請求項22に記載の放射性汚染水処理方法。
【請求項24】
最終段の前記汚染水処理工程から排出される再濃縮汚染水を乾燥して固体化させる固体化工程を含む場合、当該固体化工程から排出される排水を、前記排水処理工程における前記加熱工程に導入される同等の放射線濃度の放射性汚染水と共に導入することを特徴とする請求項22または23に記載の放射性汚染水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性汚染水を貯蔵するための処理装置および処理システムならびに処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射性物質を含む放射性汚染水は、貯蔵にあたり減容することが好ましい。従来、例えば、特許文献1に記載の廃液濃縮器および廃液処理装置および廃液濃縮方法では、蒸気缶に、加熱蒸気を用いて廃液を加熱する加熱器が循環ポンプで結ばれている。そして、蒸発缶で蒸発した水蒸気は、凝縮器で凝縮水となる。一方、蒸発缶で濃縮された濃縮廃液は、次プロセスに導入される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63−221881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の廃液濃縮器および廃液処理装置および廃液濃縮方法のように、加熱蒸気を用いて廃液を加熱し濃縮廃液を得ることで、吸着材を用いる濃縮と比較して放射性物質を含む二次廃棄物量を減少させることが可能である。しかしながら、蒸気を加熱するためにボイラを用いたり、特許文献1に記載のようにヒータを用いたりすると、燃料費用が嵩むためランニングコストが増大する問題がある。
【0005】
本発明は上述した課題を解決するものであり、放射性物質を含む放射性汚染水を低コストで濃縮することのできる放射性汚染水の処理装置および処理システムならびに処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の目的を達成するために、第1の発明の放射性汚染水処理装置は、放射性汚染水を加熱して濃縮汚染水と排水に分離する加熱器と、前記濃縮汚染水を減圧して再濃縮しつつフラッシュ蒸気を抽出する蒸発器と、前記蒸発器により抽出されたフラッシュ蒸気を圧縮し前記加熱器に導入する過熱蒸気を生成する圧縮機と、を備えることを特徴とする。
【0007】
この放射性汚染水処理装置によれば、圧縮機において、蒸発器により抽出されたフラッシュ蒸気を圧縮し加熱器に導入する過熱蒸気を生成するため、ボイラを用いたり、ヒータを用いたりすることなく、過熱蒸気が得られる。この結果、装置構成が簡素化され、かつ加熱にかかる燃料消費を低減できるため、放射性物質を含む放射性汚染水を低コストで濃縮することができる。
【0008】
また、第2の発明の放射性汚染水処理装置は、第1の発明において、前記加熱器から排出される排水と前記加熱器に導入される以前の放射性汚染水との間で熱交換させて放射性汚染水を予熱する排水側予熱器を備えることを特徴とする。
【0009】
この放射性汚染水処理装置によれば、排水側予熱器により放射性汚染水を予熱することで、加熱器における放射性汚染水の過熱効率を向上することができる。
【0010】
また、第3の発明の放射性汚染水処理装置は、第1または第2の発明において、前記蒸発器から排出される再濃縮汚染水と前記加熱器に導入される以前の放射性汚染水との間で熱交換させて放射性汚染水を予熱する再濃縮汚染水側予熱器を備えることを特徴とする。
【0011】
この放射性汚染水処理装置によれば、再濃縮汚染水側予熱器により放射性汚染水を予熱することで、加熱器における放射性汚染水の過熱効率を向上することができる。
【0012】
また、第4の発明の放射性汚染水処理装置は、第1〜第3のいずれか一つの発明において、前記加熱器から排出される排水から放射性ヨウ素を除去するフィルタを備えることを特徴とする。
【0013】
この放射性汚染水処理装置によれば、排水から放射性ヨウ素を除去することで、排水の取り扱いを安全に行うことができる。
【0014】
また、第5の発明の放射性汚染水処理装置は、第1〜第4のいずれか一つの発明において、前記加熱器から排出される水蒸気を冷却して生成される冷却水を前記加熱器より排出された排水に導入する凝縮器を備えることを特徴とする。
【0015】
この放射性汚染水処理装置によれば、加熱器において排出される水蒸気を凝縮させて排水に導入することで、水蒸気に放射性物質が含まれている場合に、安全に処理することができる。
【0016】
また、第6の発明の放射性汚染水処理装置は、第1〜第5のいずれか一つの発明において、前記加熱器に導入される放射性汚染水、または前記蒸発器から排出される再濃縮汚染水に含まれる塩化物を除去する塩化物除去手段を備えることを特徴とする。
【0017】
この放射性汚染水処理装置によれば、放射性汚染水に含まれる塩化物を除去することで、汚染水の濃縮度を向上し、保管容積や保管場所を減少することができる。また、放射性汚染水や再濃縮汚染水に含まれる塩化物を除去することで、汚染水の長期保管を可能にできる。
【0018】
また、第7の発明の放射性汚染水処理システムは、第1〜第5のいずれか一つに記載の放射性汚染水処理装置を汚染水処理モジュールとして構成し、複数の前記汚染水処理モジュールを順次連続配置して、前段の前記汚染水処理モジュールにおける前記蒸発器から排出される再濃縮汚染水を、後段の前記汚染水処理モジュールにおける前記加熱器に放射性汚染水として導入することを特徴とする。
【0019】
この放射性汚染水処理システムによれば、放射性汚染水を複数段階で濃縮することで、汚染水量をより低減でき、保管容積や保管場所を減少することができ、かつ後処理を容易化することができる。
【0020】
また、第8の発明の放射性汚染水処理システムは、第7の発明において、初段の前記汚染水処理モジュールと次段の前記汚染水処理モジュールとの間に配置され、初段の前記汚染水処理モジュールから排出される再濃縮汚染水に含まれる塩化物を除去する塩化物除去手段を備えることを特徴とする。
【0021】
この放射性汚染水処理システムによれば、初段の汚染水処理モジュールから排出される再濃縮汚染水に含まれる塩化物を除去することで、次段の汚染水処理モジュールにおける汚染水の濃縮度を向上し、保管容積や保管場所を減少することができる。
【0022】
また、第9の発明の放射性汚染水処理システムは、第7または第8の発明において、最終段の前記汚染水処理モジュールから排出される再濃縮汚染水を乾燥して汚染物を固体化させる固体化モジュールを備えることを特徴とする。
【0023】
この放射性汚染水処理システムによれば、汚染物を固体化させることで、保管時の管理を容易化して安全性を向上することができる。
【0024】
また、第10の発明の放射性汚染水処理システムは、第7〜第9のいずれか一つの発明において、第1〜第5のいずれか一つに記載の放射性汚染水処理装置を排水処理モジュールとして構成し、複数の前記排水処理モジュールを順次連続配置して、前段の前記排水処理モジュールにおける前記加熱器から排出される排水を、後段の前記排水処理モジュールにおける前記加熱器に放射性汚染水として導入することを特徴とする。
【0025】
この放射性汚染水処理システムによれば、排水を再蒸留することで、排水の放射線量および保管量を減少することができる。
【0026】
また、第11の発明の放射性汚染水処理システムは、第10の発明において、後段の前記排水処理モジュールから排出される再濃縮汚染水や、前記汚染水処理モジュールから排出される排水を、前段の前記排水処理モジュールの前記加熱器に導入される同等の放射線濃度の放射性汚染水と共に導入することを特徴とする。
【0027】
この放射性汚染水処理システムによれば、低濃度の汚染水や排水を再蒸留することで、汚染水や排水の放射線量および保管量を減少することができる。
【0028】
また、第12の発明の放射性汚染水処理システムは、第10または第11の発明において、最終段の前記汚染水処理モジュールから排出される再濃縮汚染水を乾燥して固体化させる固体化モジュールを備える場合、当該固体化モジュールから排出される排水を、前記排水処理モジュールにおける前記加熱器に導入される同等の放射線濃度の放射性汚染水と共に導入することを特徴とする。
【0029】
この放射性汚染水処理システムによれば、排水を再蒸留することで、固体化モジュールから排出される排水の放射線量および保管量を減少することができる。
【0030】
また、第13の発明の放射性汚染水処理方法は、放射性汚染水を加熱して濃縮汚染水と排水に分離する加熱工程と、前記濃縮汚染水を減圧して再濃縮しつつフラッシュ蒸気を抽出する蒸発工程と、前記蒸発工程により抽出されたフラッシュ蒸気を圧縮し前記加熱工程に導入する過熱蒸気を生成する圧縮工程と、を含むことを特徴とする。
【0031】
この放射性汚染水処理方法によれば、圧縮工程において、蒸発工程により抽出されたフラッシュ蒸気を圧縮し加熱工程に導入する過熱蒸気を生成するため、ボイラを用いたり、ヒータを用いたりすることなく、過熱蒸気が得られる。この結果、装置構成が簡素化され、かつ加熱にかかる燃料消費を低減できるため、放射性物質を含む放射性汚染水を低コストで濃縮することができる。
【0032】
また、第14の発明の放射性汚染水処理方法は、第13の発明において、前記加熱工程において排出される排水と前記加熱工程に導入される以前の放射性汚染水との間で熱交換させて放射性汚染水を予熱する排水側予熱工程を含むことを特徴とする。
【0033】
この放射性汚染水処理方法によれば、排水側予熱工程により放射性汚染水を予熱することで、加熱工程における放射性汚染水の過熱効率を向上することができる。
【0034】
また、第15の発明の放射性汚染水処理方法は、第13または第14の発明において、前記蒸発工程において排出される再濃縮汚染水と前記加熱工程に導入される以前の放射性汚染水との間で熱交換させて放射性汚染水を予熱する再濃縮汚染水側予熱工程を含むことを特徴とする。
【0035】
この放射性汚染水処理方法によれば、再濃縮汚染水側予熱工程により放射性汚染水を予熱することで、加熱工程における放射性汚染水の過熱効率を向上することができる。
【0036】
また、第16の発明の放射性汚染水処理方法は、第13〜第15のいずれか一つの発明において、前記加熱工程において排出される排水から放射性ヨウ素を除去するフィルタリング工程を含むことを特徴とする。
【0037】
この放射性汚染水処理方法によれば、排水から放射性ヨウ素を除去することで、排水の取り扱いを安全に行うことができる。
【0038】
また、第17の発明の放射性汚染水処理方法は、第13〜第16のいずれか一つの発明において、前記加熱工程において排出される水蒸気を冷却して生成される冷却水を、前記加熱工程において排出された排水に導入する凝縮工程を含むことを特徴とする。
【0039】
この放射性汚染水処理方法によれば、加熱工程において排出される水蒸気を凝縮させて排水に導入することで、水蒸気に放射性物質が含まれている場合に、安全に処理することができる。
【0040】
また、第18の発明の放射性汚染水処理方法は、第13〜第17のいずれか一つの発明において、前記加熱工程において導入される放射性汚染水、または前記蒸発工程において排出される再濃縮汚染水に含まれる塩化物を除去する塩化物除去工程を含むことを特徴とする。
【0041】
この放射性汚染水処理方法によれば、放射性汚染水に含まれる塩化物を除去することで、汚染水の濃縮度を向上し、保管容積や保管場所を減少することができる。また、放射性汚染水や再濃縮汚染水に含まれる塩化物を除去することで、汚染水の長期保管を可能にできる。
【0042】
また、第19の発明の放射性汚染水処理方法は、第13〜第18のいずれか一つの発明において、前記加熱工程と、前記蒸発工程と、前記圧縮工程と、を少なくとも含む汚染水処理工程を有し、複数の前記汚染水処理工程を順次連続して、前段の前記汚染水処理工程における前記蒸発工程において排出される再濃縮汚染水を、後段の前記汚染水処理工程における前記加熱工程に放射性汚染水として導入することを特徴とする。
【0043】
この放射性汚染水処理方法によれば、放射性汚染水を複数段階で濃縮することで、汚染水量をより低減でき、保管容積や保管場所を減少することができ、かつ後処理を容易化することができる。
【0044】
また、第20の発明の放射性汚染水処理方法は、第19の発明において、初段の前記汚染水処理工程と次段の前記汚染水処理工程との間で、初段の前記汚染水処理工程において排出される再濃縮汚染水に含まれる塩化物を除去する塩化物除去工程を含むことを特徴とする。
【0045】
この放射性汚染水処理方法によれば、初段の汚染水処理工程から排出される再濃縮汚染水に含まれる塩化物を除去することで、次段の汚染水処理工程における汚染水の濃縮度を向上し、保管容積や保管場所を減少することができる。
【0046】
また、第21の発明の放射性汚染水処理方法は、第19または第20の発明において、最終段の前記汚染水処理工程において排出される再濃縮汚染水を乾燥して汚染物を固体化させる固体化工程を含むことを特徴とする。
【0047】
この放射性汚染水処理方法によれば、汚染物を固体化させることで、保管時の管理を容易化して安全性を向上することができる。
【0048】
また、第22の発明の放射性汚染水処理方法は、第19〜第21のいずれか一つの発明において、前記加熱工程と、前記蒸発工程と、前記圧縮工程と、を少なくとも含む排水処理工程を有し、複数の前記排水処理工程を順次連続して、前段の前記排水処理工程における前記加熱工程において排出される排水を、後段の前記排水処理工程における前記加熱工程に放射性汚染水として導入することを特徴とする。
【0049】
この放射性汚染水処理方法によれば、排水を再蒸留することで、排水の放射線量および保管量を減少することができる。
【0050】
また、第23の発明の放射性汚染水処理方法は、第22の発明において、後段の前記排水処理工程において排出される再濃縮汚染水や、前記汚染水処理工程において排出される排水を、前段の前記排水処理工程の前記加熱工程に導入される同等の放射線濃度の放射性汚染水と共に導入することを特徴とする。
【0051】
この放射性汚染水処理方法によれば、低濃度の汚染水や排水を再蒸留することで、汚染水や排水の放射線量および保管量を減少することができる。
【0052】
また、第24の発明の放射性汚染水処理方法は、第22または第23の発明において、最終段の前記汚染水処理工程から排出される再濃縮汚染水を乾燥して固体化させる固体化工程を含む場合、当該固体化工程から排出される排水を、前記排水処理工程における前記加熱工程に導入される同等の放射線濃度の放射性汚染水と共に導入することを特徴とする。
【0053】
この放射性汚染水処理方法によれば、排水を再蒸留することで、固体化工程から排出される排水の放射線量および保管量を減少することができる。
【発明の効果】
【0054】
本発明によれば、放射性物質を含む放射性汚染水を低コストで濃縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
図1図1は、本発明の実施形態に係る放射性汚染水処理装置の概略図である。
図2図2は、本発明の実施形態に係る放射性汚染水処理装置における濃縮処理装置の構成図である。
図3図3は、本発明の実施形態に係る放射性汚染水処理装置における塩化物除去処理装置の構成図である。
図4図4は、本発明の実施形態に係る放射性汚染水処理装置における塩化物除去処理装置の他の例の構成図である。
図5図5は、本発明の実施形態に係る放射性汚染水処理システムの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0056】
以下に、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0057】
図1は、本実施形態に係る放射性汚染水処理装置の概略図である。本実施形態の放射性汚染水処理装置は、放射性物質を含む放射性汚染水を、貯蔵にあたり処理するためのものである。本実施形態では、主として、図1に示すように、濃縮処理装置1を有する。また、本実施形態では、放射性汚染水が塩化物を含む場合、図1に示すように、塩化物除去処理装置101を有する。これら、濃縮処理装置1と塩化物除去処理装置101とは、その処理順序は、いずれが先であってもよい。
【0058】
まず、濃縮処理装置1について説明する。図2は、本実施形態に係る放射性汚染水処理装置における濃縮処理装置の構成図である。
【0059】
濃縮処理装置1は、図2に示すように、主構成として加熱器2と、蒸発器3と、圧縮機4と、を備える。
【0060】
加熱器2は、放射性汚染水PWを加熱し、放射性汚染水を含む濃縮汚染水PW1と排水DWとに分離するものである。放射性汚染水PWは、貯留部(図示せず)に貯留され、汚染水ポンプ5で配管内を圧送されて加熱器2に導入される。加熱器2は、加熱容器内に過熱蒸気OSおよび放射性汚染水PWが導入され、過熱蒸気OSで放射性汚染水PWを加熱することで、放射性汚染水PWを濃縮汚染水PW1と排水DWとに分離する。濃縮汚染水PW1は、蒸発器3に導入され、排水DWは、排水ポンプ6で配管内を圧送されて後述の排水側予熱器7に導入される。
【0061】
蒸発器3は、濃縮汚染水PW1を減圧して濃縮しつつフラッシュ蒸気FSを抽出するものである。抽出されたフラッシュ蒸気FSは、圧縮機4に導入され、濃縮汚染水PW1が濃縮された再濃縮汚染水PW2は、後述の再濃縮汚染水側予熱器8に導入される。
【0062】
圧縮機4は、蒸発器3により抽出されたフラッシュ蒸気FSを圧縮し加熱器2に導入する過熱蒸気OSを生成するものである。すなわち、本実施形態において、加熱器2は、圧縮機4で圧縮された過熱蒸気OSによって放射性汚染水PWを加熱する。
【0063】
また、加熱器2で分離された排水DWが導入される排水側予熱器7は、加熱器2に導入される以前の放射性汚染水PWが導入される。この排水側予熱器7は、加熱器2から排出される排水DWと加熱器2に導入される以前の放射性汚染水PWとを非接触で熱交換させることで放射性汚染水PWを予熱する。排水側予熱器7で予熱に用いられた排水DWは、濃縮処理装置1外に排出される。
【0064】
また、蒸発器3で再濃縮された再濃縮汚染水PW2が導入される再濃縮汚染水側予熱器8は、加熱器2に導入される以前の放射性汚染水PWが導入される。この再濃縮汚染水側予熱器8は、蒸発器3から排出される再濃縮汚染水PW2と加熱器2に導入される以前の放射性汚染水PWとを非接触で熱交換させることで放射性汚染水PWを予熱する。再濃縮汚染水側予熱器8で予熱に用いられた再濃縮汚染水PW2は、濃縮処理装置1外に排出される。
【0065】
これら、排水側予熱器7と再濃縮汚染水側予熱器8とは、放射性汚染水PWが汚染水ポンプ5で圧送されて加熱器2に導入される配管の途中に並列して設けられ、双方で放射性汚染水PWを予熱する。
【0066】
また、加熱器2から排出される排水DWが排水ポンプ6で圧送される配管の途中に、フィルタ9が設けられている。本実施形態では、フィルタ9は、配管において排水ポンプ6と排水側予熱器7との間に設けられている。このフィルタ9は、活性炭などにより排水DWに含まれる可能性がある放射性ヨウ素を除去する。
【0067】
なお、加熱器2において、過熱蒸気OSにより放射性汚染水PWを加熱する際、濃縮汚染水PW1および排水DW以外に水蒸気Sが排出される。この水蒸気Sは、凝縮器10で冷却され、冷却された冷却水は加熱器2より排出された排水DWに導入され、残ったオフガスGは濃縮処理装置1外に排出される。
【0068】
次に、塩化物除去処理装置101について説明する。図3および図4は、本実施形態に係る放射性汚染水処理装置における塩化物除去処理装置の構成図である。塩化物除去処理装置101は、塩化物除去手段として構成され、濃縮処理装置1に導入される放射性汚染水PW、または濃縮処理装置1から排出される再濃縮汚染水PW2に含まれる塩化物を除去するものである。図3に示す塩化物除去処理装置101は、図中一点鎖線で区切られて示されている鉛添加手段102と銀添加手段103とを備えて構成されている。また、図4に示す塩化物除去処理装置101は、図中一点鎖線で区切られて示されている電解手段104と銀添加手段103とを備えて構成されている。また、図には明示しないが、塩化物除去処理装置101は、銀添加手段103のみで構成されていてもよい。さらに、図には明示しないが、塩化物除去処理装置101は、鉛添加手段102や、銀添加手段103や、電解手段104以外で塩化物を除去して淡水化する手段であってもよい。
【0069】
図3に示す塩化物除去処理装置101において、鉛添加手段102は、塩化物を含む放射性汚染水PWに鉛化合物を添加して放射性汚染水(第一汚染水)PWと塩化鉛の沈殿物に分離するものである。
【0070】
鉛添加手段102は、鉛添加部1021を有する。鉛添加部1021は、凝集沈殿槽1021aおよび固液分離槽1021bで構成されている。
【0071】
凝集沈殿槽1021aは、塩化物(Cl)を含む放射性汚染水PWに、鉛化合物である水酸化鉛(Pb(OH))または硝酸鉛(Pb(NO)を加えて塩化鉛(PbCl)の沈殿物を生成するものである。凝集沈殿槽1021aは、汚染水貯留部(図示せず)に貯留された放射性汚染水PWがポンプ1022で配管内を圧送されて導入される。また、凝集沈殿槽1021aは、鉛化合物貯留部(図示せず)に貯留された鉛化合物がポンプ1023で配管内を圧送されて導入される。
【0072】
固液分離槽1021bは、凝集沈殿槽1021aに連通され、塩化鉛の沈殿物と、放射性汚染水PWとを分離するものである。分離された塩化鉛の沈殿物(PbClスラリー)は、脱水機1024に導入され、放射性汚染水PWは銀添加手段103に導入される。
【0073】
なお、塩化鉛の沈殿物と、放射性汚染水PWとを分離するにあたり、凝集沈殿以外に、高速凝集沈殿や凝集膜ろ過などであってもよい。
【0074】
脱水機1024は、塩化鉛の沈殿物を脱水処理するものである。脱水機1024は、遠心脱水、フィルタプレス、ベルトプレスなどの形態がある。脱水された塩化鉛の沈殿物は塩化鉛の固体(PbClケーキ)として後述の鉛回収手段1026に導入される。また、脱水機1024から排出される脱水は放射性汚染水PWと共に鉛添加部1021に導入される。
【0075】
鉛回収手段1026は、塩化鉛の沈殿物から鉛を回収するものである。鉛回収手段1026は、塩化鉛の固体を溶解し、鉛とその他の残留物とに分離し鉛を回収する。一方、残留物は、排出物として鉛添加手段102から排出され、後述の保管手段105で保管される。なお、鉛回収手段1026を有さない場合、脱水機1024で脱水された塩化鉛の沈殿物は塩化鉛の固体(PbClケーキ)の排出物として鉛添加手段102から排出され、後述の保管手段105で保管される。
【0076】
図3に示す塩化物除去処理装置101において、銀添加手段103は、鉛添加手段102から排出される塩化物を含む放射性汚染水(第一汚染水)PWに銀化合物を添加して放射性汚染水(第二汚染水)PWと塩化銀の沈殿物に分離するものである。
【0077】
銀添加手段103は、銀添加部1031を有する。銀添加部1031は、凝集沈殿槽1031aおよび固液分離槽1031bで構成されている。
【0078】
凝集沈殿槽1031aは、塩化物(Cl)を含む放射性汚染水(第一汚染水)PWに、銀化合物である硝酸銀(AgNO)または硫酸銀(AgSO)を加えて塩化銀(AgCl)の沈殿物を生成するものである。凝集沈殿槽1031aは、鉛添加手段102から排出される放射性汚染水PWがポンプ1032で配管内を圧送されて導入される。また、凝集沈殿槽1031aは、銀化合物貯留部(図示せず)に貯留された銀化合物がポンプ1033で配管内を圧送されて導入される。
【0079】
固液分離槽1031bは、凝集沈殿槽1031aに連通され、塩化銀の沈殿物と、放射性汚染水PWとを分離するものである。分離された塩化銀の沈殿物(AgClスラリー)は、脱水機1034に導入され、放射性汚染水(第二汚染水)PWは鉛除去手段1025に導入される。
【0080】
なお、塩化銀の沈殿物と、放射性汚染水PWとを分離するにあたり、凝集沈殿以外に、高速凝集沈殿や凝集膜ろ過などであってもよい。
【0081】
脱水機1034は、塩化銀の沈殿物を脱水処理するものである。脱水機1034は、遠心脱水、フィルタプレス、ベルトプレスなどの形態がある。脱水された塩化銀の沈殿物は塩化銀の固体(AgClケーキ)として銀回収手段1035に導入される。また、脱水機1034から排出される脱水は放射性汚染水PWと共に銀添加部1031に導入される。
【0082】
銀回収手段1035は、塩化銀の沈殿物から銀を回収するものである。銀回収手段1035は、塩化銀の固体を溶解した後、電析により銀とその他の残留物とに分離し銀を回収する。一方、残留物は、排出物として銀添加手段103から排出され保管手段105で保管される。なお、銀回収手段1035を有さない場合、脱水機1034で脱水された塩化銀の沈殿物は塩化銀の固体(AgClケーキ)の排出物として銀添加手段103から排出され、保管手段105で保管される。
【0083】
保管手段105は、鉛添加手段102において排出される塩化鉛の固体と、銀添加手段103から排出される排出物(残留物または塩化銀の固体)とを保管するものである。保管手段105では、塩化鉛の固体を容器内の外周部に貯留し、当該塩化鉛の固体の内部に排出物を収容する。
【0084】
鉛除去手段1025は、先に鉛添加手段102で添加され、銀添加手段103から排出される放射性汚染水PW中に残存し得る鉛を除去するものである。鉛除去手段1025は、放射性汚染水PWが導入される鉛除去槽に、硫化水素(HS)を添加して硫化鉛(PbS)の沈殿物を生成することで、鉛を除去する。硫化鉛(PbS)は、鉛除去槽に設けたフィルタで除去される。そして、鉛を除去された放射性汚染水PWは、後処理手段に導入される。なお、後処理手段とは、濃縮処理装置1や、塩化物が除去された放射性汚染水(第二汚染水)PWを保管する保管処理手段(図示せず)などがある。
【0085】
このように、図3に示す塩化物除去処理装置101は、鉛添加手段102で塩化物を除去した後、銀添加手段103でさらに塩化物を除去する。つまり、塩化鉛より塩化銀のほうが溶解度が小さいため、鉛添加手段102で塩化物を粗く除去した後、銀添加手段103で塩化物を高レベルで除去する。具体的に、放射性汚染水PWに塩化物が10000mg/L含まれているとした場合、鉛添加手段102では1000mg/Lまで塩化物を除去でき、銀添加手段103では、10mg/Lまで塩化物を除去できる。すなわち、銀添加手段103のほうが塩化物の除去性能が高い。しかし、銀添加手段103だけで10000mg/Lから10mg/Lまで塩化物を除去するには、1Lあたり30gの銀を要する。一方、鉛添加手段102で塩化物を粗く除去しておけば(10000mg/Lから1000mg/Lまで塩化物を除去するのに1Lあたり53gの鉛を要する)、その後に銀添加手段103で塩化物を高レベルで除去するのに1Lあたり3gの銀しか要さない。従って、図3に示す塩化物除去処理装置101は、鉛添加手段102で塩化物を粗く除去した後、銀添加手段103で塩化物を高レベルで除去することで、高価な銀の使用量を10分の1にできる。この結果、塩化物を含む放射性汚染水PWから低コストかつ高レベルで塩化物を除去することができる。なお、コストを考慮しなければ、鉛添加手段102を用いず銀添加手段103だけで塩化物を除去してもよく、塩化物除去処理装置101の設備を銀添加手段103だけとして小型化することができる。また、放射性汚染水PWへの塩化物の含有量が少ない場合は、鉛添加手段102だけで塩化物を除去してもよい。
【0086】
また、図3に示す塩化物除去処理装置101によれば、第二汚染水から硫化鉛として分離することで、環境に考慮して二次廃棄物中への鉛の混入を抑制することができる。また、図3に示す塩化物除去処理装置101によれば、塩化鉛の沈殿物から鉛を回収することで、環境に考慮して二次廃棄物中への鉛の混入を抑制することができる。また、図3に示す塩化物除去処理装置101によれば、銀添加手段3で高価な銀を回収することで、銀を再利用することができる。また、図3に示す塩化物除去処理装置101によれば、保管手段105において放射線を遮蔽する鉛を容器内の外周部に貯留し、当該塩化鉛の固体の内部に塩化銀の沈殿物を収容することで、保管にあたって放射性遮蔽機能を向上することができる。
【0087】
一方、図4に示す塩化物除去処理装置101において、電解手段104は、塩化物を含む放射性汚染水PWを電解して放射性汚染水(第一汚染水)PWと塩素の沈殿物に分離するものである。この電解手段104は、電解分離槽1041と吸収槽1042とを有する。
【0088】
電解分離槽1041は、放射性汚染水PWが導入される電解槽中に、pH調整剤が供給されることで、電解によって塩素(Cl)を発生させ、放射性汚染水(第一汚染水)PWと分離する。吸収槽1042は、電解分離槽1041で分離された塩素を水酸化ナトリウム(NaOH)に吸収させて塩化ナトリウム(NaCl)として無害化させる。
【0089】
図4に示す塩化物除去処理装置101において、銀添加手段103は、上述した構成であり、電解手段104から排出される塩化物を含む放射性汚染水(第一汚染水)PWに銀化合物を添加して放射性汚染水(第二汚染水)PWと塩化銀の沈殿物に分離するものである。
【0090】
このように、図4に示す塩化物除去処理装置101は、電解手段104で塩化物を除去した後、銀添加手段103でさらに塩化物を除去する。つまり、電解手段104で塩化物を粗く除去した後、銀添加手段103で塩化物を高レベルで除去する。具体的に、放射性汚染水PWに塩化物が10000mg/L含まれているとした場合、電解手段104では1000mg/Lまで塩化物を除去でき、銀添加手段103では、10mg/Lまで塩化物を除去できる。すなわち、銀添加手段103のほうが塩化物の除去性能が高い。しかし、銀添加手段103だけで10000mg/Lから10mg/Lまで塩化物を除去するには、1Lあたり30gの銀を要する。一方、電解手段104で塩化物を粗く除去しておけば、その後に銀添加手段103で塩化物を高レベルで除去するのに1Lあたり3gの銀しか要さない。従って、図4に示す塩化物除去処理装置101は、電解手段104で塩化物を粗く除去した後、銀添加手段103で塩化物を高レベルで除去することで、高価な銀の使用量を10分の1にできる。この結果、塩化物を含む放射性汚染水PWから低コストかつ高レベルで塩化物を除去することができる。なお、コストを考慮しなければ、電解手段104を用いず銀添加手段103だけで塩化物を除去してもよく、塩化物除去処理装置101の設備を銀添加手段103だけとして小型化することができる。
【0091】
図5は、本実施形態に係る放射性汚染水処理システムの構成図である。放射性汚染水処理システムは、図2に示す濃縮処理装置1が、図5に示すように、汚染水処理モジュール51や排水処理モジュール52としてモジュール化され複合されることで構成されている。
【0092】
汚染水処理モジュール51は、当該汚染水処理モジュール51を構成する濃縮処理装置1から排出される再濃縮汚染水PW2を処理する汚染水処理系統として複合されている。汚染水処理モジュール51は、複数(本実施形態では2つ)が順次連続して配置され、前段の汚染水処理モジュール51から排出される再濃縮汚染水PW2−1を、後段の汚染水処理モジュール51に放射性汚染水PWとして導入する。すなわち、本実施形態に係る放射性汚染水処理システムでは、複数の汚染水処理モジュール51により、前段の汚染水処理モジュール51で放射性汚染水PWを濃縮処理し、この濃縮された放射性汚染水PWを後段の汚染水処理モジュール51でさらに濃縮処理する。
【0093】
また、汚染水処理系統において、放射性汚染水PWに塩化物が含まれる場合は、初段の汚染水処理モジュール51と次段の汚染水処理モジュール51との間に、上述した塩化物除去処理装置(塩化物除去手段)101が配置される。つまり、塩化物除去処理装置101は、初段の汚染水処理モジュール51から排出される再濃縮汚染水PW2−1に含まれる塩化物を除去する。
【0094】
また、汚染水処理系統において、固体化モジュール53が配置されている。固体化モジュール53は、終段の汚染水処理モジュール51から排出される再濃縮汚染水PW2−2を乾燥させることで汚染物を固体化させて固体物PSを得るものである。
【0095】
排水処理モジュール52は、当該排水処理モジュール52を構成する濃縮処理装置1から排出される排水DWを処理する排水処理系統として複合されている。排水処理モジュール52は、複数(本実施形態では3つ)が順次連続して配置され、前段の排水処理モジュール52から排出される排水DW−1,DW−2を、後段の排水処理モジュール52に放射性汚染水PWとして導入する。すなわち、本実施形態に係る放射性汚染水処理システムでは、複数の排水処理モジュール52により、前段の排水処理モジュール52で放射性汚染水PWを蒸留処理し、この蒸留により排出される排水DW−1,DW−2を後段の排水処理モジュール52でさらに蒸留処理する。
【0096】
また、排水処理系統において、後段の排水処理モジュール52から排出される再濃縮汚染水PW2−3,PW2−4を、前段の排水処理モジュール52に導入される同等の放射線濃度の放射性汚染水PW、排水DW−1と共に導入する。すなわち、後段の排水処理モジュール52から排出される再濃縮汚染水PW2−3,PW2−4を、前段の排水処理モジュール52に戻して蒸留処理する。なお、後段の排水処理モジュール52から排出される排水DW−3は有害物質を含まないことを確認し放水する。
【0097】
また、排水処理系統において、汚染水処理系統の後段の汚染水処理モジュール51から排出される排水DW−4を、前段となる排水処理モジュール52に導入される同等の放射線濃度の放射性汚染水PWと共に導入する。すなわち、汚染水処理モジュール51から排出される排水DW−4を、前段の排水処理モジュール52に導入して蒸留処理する。
【0098】
また、排水処理系統において、汚染水処理系統が固体化モジュール53を備える場合、当該固体化モジュール53から排出される排水DW−5を、排水処理モジュール52に導入される同等の放射線濃度の放射性汚染水(排水DW−1)として導入する。すなわち、固体化モジュール53から排出される排水DW−5を、排水処理モジュール52に導入して蒸留処理する。
【0099】
以上説明したように、本実施形態の放射性汚染水処理装置は、放射性汚染水PWを加熱して濃縮汚染水PW1と排水DWに分離する加熱器2と、濃縮汚染水PW1を減圧して再濃縮しつつフラッシュ蒸気FSを抽出する蒸発器3と、蒸発器3により抽出されたフラッシュ蒸気FSを圧縮し加熱器2に導入する過熱蒸気OSを生成する圧縮機4と、を備える。
【0100】
また、本実施形態の放射性汚染水処理方法は、放射性汚染水PWを加熱して濃縮汚染水PW1と排水DWに分離する加熱工程と、濃縮汚染水PW1を減圧して再濃縮しつつフラッシュ蒸気FSを抽出する蒸発工程と、蒸発工程により抽出されたフラッシュ蒸気FSを圧縮し加熱工程に導入する過熱蒸気OSを生成する圧縮工程と、を含む。
【0101】
この放射性汚染水処理装置および放射性汚染水処理方法によれば、圧縮機4(圧縮工程)において、蒸発器3(蒸発工程)により抽出されたフラッシュ蒸気FSを圧縮し加熱器2(加熱工程)に導入する過熱蒸気OSを生成するため、ボイラを用いたり、ヒータを用いたりすることなく、過熱蒸気OSが得られる。この結果、装置構成が簡素化され、かつ加熱にかかる燃料消費を低減できるため、放射性物質を含む放射性汚染水を低コストで濃縮することができる。
【0102】
本実施形態の放射性汚染水処理装置は、加熱器2から排出される排水DWと加熱器2に導入される以前の放射性汚染水PWとの間で熱交換させて放射性汚染水PWを予熱する排水側予熱器7を備える。
【0103】
また、本実施形態の放射性汚染水処理方法は、加熱工程において排出される排水DWと加熱工程に導入される以前の放射性汚染水PWとの間で熱交換させて放射性汚染水PWを予熱する排水側予熱工程を含む。
【0104】
この放射性汚染水処理装置および放射性汚染水処理方法によれば、排水側予熱器7(排水側予熱工程)により放射性汚染水PWを予熱することで、加熱器2(加熱工程)における放射性汚染水PWの過熱効率を向上することができる。
【0105】
本実施形態の放射性汚染水処理装置は、蒸発器3から排出される再濃縮汚染水PW2と加熱器2に導入される以前の放射性汚染水PWとの間で熱交換させて放射性汚染水PWを予熱する再濃縮汚染水側予熱器8を備える。
【0106】
また、本実施形態の放射性汚染水処理方法は、蒸発工程において排出される再濃縮汚染水PW2と加熱工程に導入される以前の放射性汚染水PWとの間で熱交換させて放射性汚染水PWを予熱する再濃縮汚染水側予熱工程を含む。
【0107】
この放射性汚染水処理装置および放射性汚染水処理方法によれば、再濃縮汚染水側予熱器8(再濃縮汚染水側予熱工程)により放射性汚染水PWを予熱することで、加熱器2(加熱工程)における放射性汚染水PWの過熱効率を向上することができる。
【0108】
本実施形態の放射性汚染水処理装置は、加熱器2から排出される排水DWから放射性ヨウ素を除去するフィルタ9を備える。
【0109】
また、本実施形態の放射性汚染水処理方法は、加熱工程において排出される排水DWから放射性ヨウ素を除去するフィルタリング工程を含む。
【0110】
この放射性汚染水処理装置および放射性汚染水処理方法によれば、排水DWから放射性ヨウ素を除去することで、排水DWの取り扱いを安全に行うことができる。
【0111】
本実施形態の放射性汚染水処理装置は、加熱器2から排出される水蒸気Sを冷却して生成される冷却水を、加熱器2より排出された排水DWに導入する凝縮器10を備える。
【0112】
また、本実施形態の放射性汚染水処理方法は、加熱工程において排出される水蒸気Sを冷却して生成される冷却水を、加熱工程において排出された排水DWに導入する凝縮工程を含む。
【0113】
この放射性汚染水処理装置および放射性汚染水処理方法によれば、加熱器2(加熱工程)において排出される水蒸気Sを凝縮させて排水DWに導入することで、水蒸気Sに放射性物質が含まれている場合に、安全に処理することができる。
【0114】
本実施形態の放射性汚染水処理装置は、加熱器2に導入される放射性汚染水PW、または蒸発器3から排出される再濃縮汚染水PW2に含まれる塩化物を除去する塩化物除去処理装置(塩化物除去手段)101を備える。
【0115】
また、本実施形態の放射性汚染水処理方法は、加熱工程において導入される放射性汚染水PW、または蒸発工程において排出される再濃縮汚染水PW2に含まれる塩化物を除去する塩化物除去工程を含む。
【0116】
この放射性汚染水処理装置および放射性汚染水処理方法によれば、放射性汚染水PWに含まれる塩化物を除去することで、汚染水の濃縮度を向上し、保管容積や保管場所を減少することができる。また、放射性汚染水PWや再濃縮汚染水PW2に含まれる塩化物を除去することで、汚染水の長期保管を可能にできる。
【0117】
本実施形態の放射性汚染水処理システムは、上記単体の放射性汚染水処理装置を汚染水処理モジュール51として構成し、複数の汚染水処理モジュール51を順次連続配置して、前段の汚染水処理モジュール51における蒸発器3から排出される再濃縮汚染水PW2−1を、後段の汚染水処理モジュール51における加熱器2に放射性汚染水として導入する。
【0118】
また、本実施形態の放射性汚染水処理方法は、加熱工程と、蒸発工程と、圧縮工程と、を少なくとも含む汚染水処理工程を有し、複数の汚染水処理工程を順次連続して、前段の汚染水処理工程における蒸発工程において排出される再濃縮汚染水PW2−1を、後段の汚染水処理工程における加熱工程に放射性汚染水として導入する。
【0119】
この放射性汚染水処理システムおよび放射性汚染水処理方法によれば、放射性汚染水PWを複数段階で濃縮することで、汚染水量をより低減でき、保管容積や保管場所を減少することができ、かつ後処理を容易化することができる。
【0120】
本実施形態の放射性汚染水処理システムは、初段の汚染水処理モジュール51と次段の汚染水処理モジュール51との間に配置され、初段の汚染水処理モジュール51から排出される再濃縮汚染水PW2−1に含まれる塩化物を除去する塩化物除去処理装置(塩化物除去手段)101を備える。
【0121】
また、本実施形態の放射性汚染水処理方法は、初段の汚染水処理工程と次段の汚染水処理工程との間で、初段の汚染水処理工程において排出される再濃縮汚染水PW2−1に含まれる塩化物を除去する塩化物除去工程を含む。
【0122】
この放射性汚染水処理システムおよび放射性汚染水処理方法によれば、初段の汚染水処理モジュール51(汚染水処理工程)から排出される再濃縮汚染水PW2−1に含まれる塩化物を除去することで、次段の汚染水処理モジュール51(汚染水処理工程)における汚染水の濃縮度を向上し、保管容積や保管場所を減少することができる。
【0123】
本実施形態の放射性汚染水処理システムは、最終段の汚染水処理モジュール51から排出される再濃縮汚染水PW2−2を乾燥して汚染物を固体化させる固体化モジュール53を備える。
【0124】
また、本実施形態の放射性汚染水処理方法は、最終段の汚染水処理工程において排出される再濃縮汚染水PW2−2を乾燥して汚染物を固体化させる固体化工程を含む。
【0125】
この放射性汚染水処理システムおよび放射性汚染水処理方法によれば、汚染物を固体化させることで、保管時の管理を容易化して安全性を向上することができる。
【0126】
本実施形態の放射性汚染水処理システムは、上記単体の放射性汚染水処理装置を排水処理モジュール52として構成し、複数の排水処理モジュール52を順次連続配置して、前段の排水処理モジュール52における加熱器2から排出される排水DW−1,DW−2を、後段の排水処理モジュール52における加熱器2に放射性汚染水として導入する。
【0127】
また、本実施形態の放射性汚染水処理方法は、加熱工程と、蒸発工程と、圧縮工程と、を少なくとも含む排水処理工程を有し、複数の排水処理工程を順次連続して、前段の排水処理工程における加熱工程において排出される排水DW−1,DW−2を、後段の排水処理工程における加熱工程に放射性汚染水として導入する。
【0128】
この放射性汚染水処理システムおよび放射性汚染水処理方法によれば、排水DWを再蒸留することで、排水DWの放射線量および保管量を減少することができる。
【0129】
本実施形態の放射性汚染水処理システムは、後段の排水処理モジュール52から排出される再濃縮汚染水PW2−3,PW2−4や、汚染水処理モジュール51から排出される排水DW−4を、前段の排水処理モジュール52の加熱器2に導入される同等の放射線濃度の放射性汚染水と共に導入する。
【0130】
また、本実施形態の放射性汚染水処理方法は、後段の排水処理工程において排出される再濃縮汚染水PW2−3,PW2−4や、汚染水処理工程において排出される排水DW−4を、前段の排水処理工程の加熱工程に導入される同等の放射線濃度の放射性汚染水と共に導入する。
【0131】
この放射性汚染水処理システムおよび放射性汚染水処理方法によれば、低濃度の汚染水や排水を再蒸留することで、汚染水や排水の放射線量および保管量を減少することができる。
【0132】
本実施形態の放射性汚染水処理システムは、最終段の汚染水処理モジュール51から排出される再濃縮汚染水PW2−2を乾燥して固体化させる固体化モジュール53を備える場合、当該固体化モジュール53から排出される排水DW−5を、排水処理モジュール52における加熱器2に導入される同等の放射線濃度の放射性汚染水と共に導入する。
【0133】
また、本実施形態の放射性汚染水処理方法は、最終段の汚染水処理工程から排出される再濃縮汚染水PW2−2を乾燥して固体化させる固体化工程を含む場合、当該固体化工程から排出される排水DW−5を、排水処理工程における加熱工程に導入される同等の放射線濃度の放射性汚染水と共に導入することを特徴とする。
【0134】
この放射性汚染水処理システムおよび放射性汚染水処理方法によれば、排水を再蒸留することで、固体化モジュール53(固体化工程)から排出される排水の放射線量および保管量を減少することができる。
【符号の説明】
【0135】
1 濃縮処理装置
2 加熱器
3 蒸発器
4 圧縮機
7 排水側予熱器
8 再濃縮汚染水側予熱器
9 フィルタ
10 凝縮器
51 汚染水処理モジュール
52 排水処理モジュール
53 固体化モジュール
101 塩化物除去処理装置
図1
図2
図3
図4
図5