特許第6246661号(P6246661)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ショーワの特許一覧

<>
  • 特許6246661-フロントフォーク 図000002
  • 特許6246661-フロントフォーク 図000003
  • 特許6246661-フロントフォーク 図000004
  • 特許6246661-フロントフォーク 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6246661
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】フロントフォーク
(51)【国際特許分類】
   F16F 9/32 20060101AFI20171204BHJP
   F16F 9/48 20060101ALI20171204BHJP
   B62K 25/08 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
   F16F9/32 V
   F16F9/48
   F16F9/32 L
   B62K25/08 C
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-105697(P2014-105697)
(22)【出願日】2014年5月21日
(65)【公開番号】特開2015-218897(P2015-218897A)
(43)【公開日】2015年12月7日
【審査請求日】2016年11月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000146010
【氏名又は名称】株式会社ショーワ
(74)【代理人】
【識別番号】100080296
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100141243
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 靖夫
(72)【発明者】
【氏名】池田 大輔
【審査官】 村山 禎恒
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−174595(JP,A)
【文献】 実開昭60−147590(JP,U)
【文献】 特開2011−012806(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 9/00−9/58
B62K 25/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストン及びこのピストンを支持するロッドと、
上記ピストンが摺動自在に収容され、かつ上記ピストンにより上部の第1油貯留室と下部の第2油貯留室とに区画された長手状のシリンダよりなるシリンダ空間と、
上記シリンダの上部に設けられ、上記ロッドを貫通させて当該ロッドの移動をガイドするロッドガイドと、
このシリンダ空間の外周に形成された油流路室と、
上記シリンダ上部に設けられた上記第1油貯留室と油流路室とを連通する連通孔と、
上記シリンダ空間と油流路室との下部を封止固定するホルダ部材と、
上記ロッドを支持するキャップ部材と、
上記第2油貯留室の第1下部開口と上記油流路室の第2下部開口に両側が接続された減衰力発生手段とを備え、
圧縮時に上記ピストンの押圧力で第1下部開口より押し出される作動油を上記減衰力発生手段に経由させ、減衰力を付与してから第2下部開口、油流路室から上記連通孔を介して第1油貯留室に循環させ、
伸長時に上記ピストンの引圧力で第1油貯留室内の作動油を上記連通孔を介して油流路室から第2下部開口より押し出される作動油を減衰力発生手段に経由させ、減衰力を付与してから上記第1下部開口より第2油貯留室に循環させるように構成したフロントフォークであって、
上記ピストンの上部に上向き開口を有する第1筒体を設け、かつ上記第1筒体の上向き開口側に伸縮可能に摺動する下向き開口を有する第2筒体を設けて、上記第1筒体と第2筒体との間で形成される空気室に空気を注入するエアバルブを設け、伸長時の上記ピストンの上昇に連動して上記第1筒体が上昇し、上記第2筒体が上記空気室の圧縮力で押圧されて上昇し、上記ロッドガイドに上記第2筒体が当接することで空気室の圧縮力が増強されることを特徴とするフロントフォーク。
【請求項2】
上記第1筒体の上向き開口と第2筒体の下向き開口は、シール部材を介して摺動自在となったことを特徴とする請求項1に記載のフロントフォーク。
【請求項3】
上記第1筒体を、ピストンの上端側に一体に設けたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のフロントフォーク。
【請求項4】
上記ロッドガイドの上端側に、上記ピストンロッドの圧側行程での下降に反力を与えるバネを設けたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のフロントフォーク
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロントフォークに関し、特に、伸側行程における荷重特性の調整に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、二輪車のフロントフォークやリアクッションなどの油圧緩衝器では、特許文献1に示すように、懸架スプリングの付勢力により圧側行程から伸側行程に移行した時の伸長速度を減速させ、伸長方向への付勢力をリバウンドスプリングで受圧するように構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−92944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、リバウンドスプリングが受圧する荷重は、走行時のフロントフォークの伸長速度に関係なく一定であるため、荷重特性を種々改良する為には所定特性のリバウンドスプリングを取替える必要性があり、このことによりセッティング及び作業効率が悪いという欠点を有していた。
【0005】
本発明は、こうした問題を鑑みてなされたものであり、伸側行程におけるフロントフォークの荷重特性の変更を容易に行うことが出来るようにして、荷重特性変更のセッティング及び作業効率を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題を解決するための本発明の構成として、ピストン及びこのピストンを支持するロッドと、上記ピストンが摺動自在に収容され、かつ上記ピストンにより上部の第1油貯留室と下部の第2油貯留室とに区画された長手状のシリンダよりなるシリンダ空間と、上記シリンダの上部に設けられ、上記ロッドを貫通させて当該ロッドの移動をガイドするロッドガイドと、このシリンダ空間の外周に形成された油流路室と、上記シリンダ上部に設けられた上記第1油貯留室と油流路室とを連通する連通孔と、上記シリンダ空間と油流路室との下部を封止固定するホルダ部材と、上記ロッドを支持するキャップ部材と、上記第2油貯留室の第1下部開口と上記油流路室の第2下部開口に両側が接続された減衰力発生手段とを備え、圧縮時に上記ピストンの押圧力で第1下部開口より押し出される作動油を上記減衰力発生手段に経由させ、減衰力を付与してから第2下部開口、油流路室から上記連通孔を介して第1油貯留室に循環させ、伸長時に上記ピストンの引圧力で第1油貯留室内の作動油を上記連通孔を介して油流路室から第2下部開口より押し出される作動油を減衰力発生手段に経由させ、減衰力を付与してから上記第1下部開口より第2油貯留室に循環させるように構成したフロントフォークであって、上記ピストンの上部に上向き開口を有する第1筒体を設け、かつ上記第1筒体の上向き開口側に伸縮可能に摺動する下向き開口を有する第2筒体を設けて、上記第1筒体と第2筒体との間で形成される空気室に空気を注入するエアバルブを設け、伸長時の上記ピストンの上昇に連動して上記第1筒体が上昇し、上記第2筒体が上記空気室の圧縮力で押圧されて上昇し、上記ロッドガイドに上記第2筒体が当接することで空気室の圧縮力が増強されるようにしたので、エアバルブから空気室の空気の圧縮力を調整するだけで荷重特性の調整が可能となり、作動油の減衰力調整と合わせて、この荷重特性の調整を行うことで、伸側行程における所望の荷重特性を効率的に得ることが出来る。
【0007】
また、本発明に係るフロントフォークの他の構成として、上記第1筒体の上向き開口と第2筒体の下向き開口は、シール部材を介して摺動自在としたので、比較的簡単な構成で空気室より成る空気ばねを形成できる。
【0008】
また、本発明に係るフロントフォークの他の構成として、上記第1筒体を、ピストンの上端側に一体に設けたので、第1筒体の組み付けが容易となり全体として小型、軽量化が図れる。
【0009】
また、本発明に係るフロントフォークの他の構成として、上記ロッドガイドの上端側に、上記ピストンロッドの圧側行程での下降に反力を与えるバネを設けたので、圧側行程での荷重特性を簡単な構成で得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】フロントフォークの断面図である。
図2】フロントフォークの要部拡大断面図である。
図3】フロントフォークの要部拡大図である。
図4】フロントフォークの動作説明の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は本発明に係るフロントフォークの一実施形態を示す断面図であり、図2及び図3はその要部拡大断面図である。各図において、1は車軸側に取付けられるホルダ部材であり、このホルダ部材1は、車軸取付孔1aに貫通される車軸を締め付ける締付けボルト1bを下部側に有し、このホルダ部材1の側部側に、後述の減衰力発生機構70及び温度補償機構130を有する。なお、1iはブレーキキャリパ取付部、1tは車速センサ取付部、1yは割部である。車軸取付孔1aに図示しない車軸を挿入して締付けボルト1bを締め付けることで割部1yを狭くして車軸をホルダ部材1に固定する。このホルダ部材1と車体側のキャップ部材12との間で伸縮自在な長手状のフロントフォーク本体Sが保持される。ホルダ部材1には作動油注入用の栓部53が設けられ、作動油がこの栓部53を介して後述の上部油室F1、下部油室F2、間隙5、減衰力発生機構70、温度補償機構130等にあらかじめ注入される。なお、27は、ホルダ部材1の側部において突出するように上下一対に形成され、車輪外周の一部を被い保護するフェンダーを固定するためのフェンダー取付部である。
【0013】
上記フロントフォーク本体Sの内部には、中心軸に沿って細筒体よりなるロッド2が位置される。このロッド2の先端側にピストン3が取り付けられ、このロッド2はシリンダ4の上側の開口より挿通される。なお、ピストン3によりシリンダ4の内部空間(シリンダ空間)Fが、第1油貯留室としての上部油室F1と第2油貯留室としての下部油室F2とに区画される。
【0014】
20はガイド筒であり、このガイド筒20は、下端がホルダ部材1の穴1nに封止状態で嵌合されて上方に突出し、その上端外周に筒状のガイド21がねじ部22により螺着して被せられ、このガイド21の上部内周の溝23にシール部材24が取り付けられ、ガイド21によりロッド2と別体のガイドロッド25がガイド筒20の内部方向に進退可能となっている。ガイドロッド25は、ガイド21によりガイドされてガイド筒20内を上下方向に移動することで、ロッド2とともにピストン3を中心軸に沿って直線状に導く。ガイド21の外周には、作動油流通路30が形成されるので、下部油室F2内の作動油は、ピストン3より下部側で、かつガイドロッド25の外周及びガイド筒20の外周とで圧力に変化はない。
【0015】
シリンダ4は、上記ガイド筒20より大径となっており、その下端側は、上記ホルダ部材1より突出する保持筒40の下部内周1xに封止状態で嵌合される。また、シリンダ4の外周4aには、シリンダ4と同心円となるように最外シリンダ9が保持筒40の外周に立設される。上記最外シリンダ9の下端内周41は、ねじ部41m、Oリング41nを介して保持筒40の外周に螺着される。なお、シリンダ4は最外シリンダ9の内側に設けられた、最外シリンダ9に対する内シリンダである。
上述のシリンダ4の外部側外周は厚肉の筒状スペーサ90に覆われ、このスペーサ90の外周と最外シリンダ9の内周9bとで間隙5が形成される。この間隙5は、後述の連通孔Jを介する上部油室F1の作動油を後述の減衰力発生機構70の他端48側に流通させるための油流路室Rとして機能する。また、ピストン3より下部側の下部油室F2の底部側には第1下部開口42が形成され、また間隙5の下部には溝5mが形成され、その底部側には第2下部開口43が形成される。上記間隙5の下部は、シリンダ4と保持筒40との間の微小な溝5mを介して第2下部開口43に連通する。
第1下部開口42は、ホルダ部材1の内周においてシリンダ4の下端よりも下側にリング溝42aを有し、このリング溝42aの一部より延長する孔44を介して減衰力発生機構70の一端45側に接続され、第2下部開口43はリング溝43aから孔47を介して減衰力発生機構70の他端48側に接続される。
【0016】
ロッド2のやや上部位置の外周には、ストッパ2gが位置される。このストッパ2gは、ロッド2の外周に図外の固定手段で固定されたストッパホルダ2nに螺合する止め具2mにて保持される。上記ストッパ2gはロッド2が下方に摺動する場合に、ピストン3が一定位置まで移動したときにロッドガイド6の上端に当接してピストン3及びロッド2の下方向への移動を規制する。
【0017】
上記ピストン3の上部外周側からはシリンダ状の第1筒体60が一体に突出し、この第1筒体60の上向き開口60cの内周には、やや小径の第2筒体61の下向き開口61c側の外周がOリング62a等のシール部材62を介して、摺動自在に収容され、第1筒体60と第2筒体61とは互いに伸縮自在となっている。図3に示すように、上記第1筒体60の上向き開口60cの先端は、内側方向すなわち第2筒体61の外周方向に直角に折曲されて折曲部60mとなり、第2筒体61の下向き開口61cの先端は外側方向、すなわち第1筒体60の外側周方向に折曲されて折曲部となって、両者が互いに係止可能となり、第2筒体61と第1筒体60とが最長状態から外れないように構成されている。
【0018】
図1において、第2筒体61の天部63には、封止部材としてのシール部材63aを介してロッド2の外周に摺動する貫通孔63cが設けられる。上記第1筒体60と第2筒体61との対向空間により空気室Pが形成され、この空気室Pは第1筒体60が第2筒体61に対して相対的に進退することで、容積が小さくなったり大きくなったりするので、空気室Pの空気圧が大きくなったり小さくなったりするものであり、空気バネとして作用する。
なお、ピストン3は、その上部中央より突出する小径の固定筒体64を有し、この固定筒体64の内周にロッド2の先端外周が封止状態で螺合して、ロッド2の下部先端に固着される。この場合、細状筒より成るロッド2先端外周の肉厚部分に、ロッド2の中心軸に対して直角に延長する孔65が形成され、この孔65に対向して連通する孔66が固定筒体64の先端外周側に形成される。したがって、ロッド2の内部は、孔65、孔66を介して第1筒体60と第2筒体61とで形成される空気室Pに連通する。
【0019】
伸側行程でのピストン3の上昇にともない、第1筒体60は上方に移動することになる。一方、上記ロッド2の上端側のキャップ部材12側にはエアバルブ19が設けられ、通常はロッド2の中空部はこのエアバルブ19で封止されている。しかるに、このエアバルブ19の内部の栓部19Nを図外のエア注入具で押圧し、エアバルブ19を開口しながら、エアバルブ19より空気を圧入することにより、ロッド2の中空部から孔65、孔66を介して空気室Pに供給される。このような構成で、空気室P内の空気圧を所定の高さに設定できる。ロッド2とともに第1筒体60が上昇すると、空気室P内の空気圧により第2筒体61もロッド2とともに上昇する。すなわち、図示状態のように第1筒体60と第2筒体61との全長がほぼ最も長い状態を保ちつつ上昇する。
なお、第2筒体61の上面61mとロッドガイド6の下端部6mとは距離Lだけ離間しているので、伸側行程時、ピストン3の上方への移動に連動して上昇した第2筒体61の上面61mが距離L移動した時点で図4(b)に示すようにロッドガイド6の下端部6mに当接して、第2筒体61が停止するが、第1筒体60がさらに上昇すると、この上昇過程では、空気室P内の空気が所期の圧力よりも圧縮されて、より一層の反力が生じる構成となっている。
以上は空気室P内の圧力が高い圧力の場合であり、この圧力が比較的低い場合には、第1筒体60の上昇により第2筒体61が作動油から受ける圧力により幾分か縮んで空気室Pの容積が小さくなる。すなわち、第1筒体60と第2筒体61との全長が小さくなりつつ両者が上昇することになる。しかし、この場合も、第2筒体61がロッドガイド6の下端部6mに当接して停止すると上述の場合と同様に伸側行程でのロッド2、ピストン3の上昇に対して空気室P内の圧力で反力が生じる。
【0020】
上記シリンダ4の先端側外周には、連通孔Jを有する支持筒68の下端内周が封止状態で螺合、固定される。支持筒68の上部外周はOリング等の封止部材69を介してシリンダ4の内周に摺動自在に取付けられ、支持筒68の上端内周にロッドガイド6の外周側がねじ部、Oリング71等で封止、固定される。ロッドガイド6の内周により、封止部材72、スライド部材73を介してロッド2が上下方向に摺動自在に保持される。
上記ロッドガイド6の上端にリング状の下受部74が位置され、この下受部74の内周に形成された段部74aで一定長の筒状スペーサ75の下端が支持される。スペーサ75の上端はリング状の上受部76が下向きの段部76aで支持され、この上受部76の上面側にばね座78が取り付けられる。ばね座78により、ロッド2の外周を巻回するように位置される緩衝コイルばね79の下端が支承され、上記キャップ部材12に設けられた後述のばね座81により緩衝コイルばね79の上端が支承される。したがって、緩衝コイルばね79は、ばね座78、上受部76、筒状スペーサ75および下受部74を介してロッドガイド6に着座されることになる。
【0021】
緩衝コイルばね79の内周には、緩衝コイルばね79の内周側に接して緩衝コイルばね79の形崩れを防止する台部80が位置される。台部80は、ロッド2の外周を包囲するように取り付けられる。
【0022】
11は大径の摺動筒であり、最外シリンダ9の外周9aを囲むように最外シリンダ9の上端側からホルダ部材1方向にかけて延長して、先端内周側に、最外シリンダ9の外周9aとで気密を維持する封止部材10を有している。摺動筒11の内周には、最外シリンダ9との摺動を可能に互いを支持する軸受11a;11bが上部側及び下部側のそれぞれに設けられる。これによりホルダ部材1に取り付けられる車軸側チューブとしての最外シリンダ9、車体側に取り付けられる車体側チューブとしての摺動筒11とが互いに摺動自在に構成される。
【0023】
摺動筒11の上端内周は、キャップ部材12の基部12nより突出する筒部12fの外周にねじ止めされる。基部12nの穴12aに空転状態で調整ボルト(支持体)12bが取り付けられる。12mは調整ボルト位置決めリングであって、ばね12oの付勢力により、調整ボルト12bを上向きに付勢して調整ボルト12bの位置決めをする。
調整ボルト12bの筒体12cの上部外周には、調整ボルト12bの回転とともに回転する円筒状の筒体12sが取り付けられる。筒体12sの外周には、筒体12sの軸線方向に沿って延長する図示しない溝が形成される。また、筒体12sの外周には、前述の溝の延長方向に沿って移動可能に形成された凸部を内周側に有する円環状のリング体12tが設けられる。リング体12tの外周には、筒部12fの内周に形成されたねじ溝と螺合するねじ溝が形成されている。
【0024】
調整ボルト12bの筒体12c下端側内周には、円筒状の接続筒12uが取り付けられる。接続筒12uは、外周の中央側にフランジ部を備え、このフランジ部を挟んで上下それぞれにシール部材が設けられている。接続筒12uは、このフランジ部を筒体12cの下端面に付きあて、フランジ部の上側のシール部材によって筒体12cの内周と密接するように調整ボルト12bに取り付けられる。
また、この調整ボルト12bの筒体12cの下部外周の螺合部には、仕切り片12dを有する吊り筒体12eの上部内周が螺着される。吊り筒体12eは、仕切り片12dと調整ボルト12bの下端面との間で、接続筒12uのフランジ部を挟むようにして調整ボルト12bに取り付けられる。吊り筒体12eの仕切り片12dより下部筒体12gの内周にロッド2の上端外周がねじ部12kを介して螺着される。このとき、ロッド2の外周は、接続筒12uのフランジ部より下側のシール部材と密接し、調整ボルト12bの内周空間とロッド2の内周空間とが液密状態で連通する。吊り筒体12eの外周には、この吊り筒体12eの外周を軸線方向に沿って移動するリング状のばね座81を備える。
【0025】
上述のリング体12tとばね座81との間には、スプリング79への初期荷重の変更を可能にするための筒状のばね座押圧体12pと、筒状の押圧体支持リング12qとが設けられる。ばね座押圧体12pは、押圧体支持リング12qの内周側に設けられ、ばね座押圧体12pの外周と押圧体支持リング12qの内周との間に設けられた保持手段により円周方向に沿って互いに回転可能であるが軸線方向には移動不能に押圧体支持リング12qと一体にされる。一体となったばね座押圧体12p及び押圧体支持リング12qは、押圧体支持リング12qの開放端面がリング体12tの下面と当接し、ばね座押圧体12pの開放端面がばね座81の上面と当接する。
これにより、調整ボルト12bを回転することで、リング体12tが筒部12f内周のねじに沿って回転して上下方向に移動し、ばね座押圧体12p及び押圧体支持リング12qを上下動させることによりばね座81の上下位置を変位させてスプリング79を押圧して初期のばね力が調整される。
【0026】
次に、減衰力発生機構70及び温度補償機構130の構成を説明する。図2は、減衰力発生機構70及び温度補償機構130を示す要部拡大断面図である。
上記減衰力発生機構70は、圧側行程では一端45側からの作動油に減衰力を与えて他端48側から流出させ、伸側行程で他端48側からの作動油に減衰力を与えて一端45側より流出させることで圧側及び伸側行程におけるフロントフォーク本体Sの動作に減衰力を付与する。
【0027】
減衰力発生機構70は中心筒体70aと、この中心筒体70aの両側外周に固着された円板状の仕切板70b,70cと、一端45側の仕切板70bに形成された貫通孔70dを塞ぐように仕切板70bの他端48側に取り付けられた圧側減衰バルブ70eと、他端48側の仕切板70cに形成された貫通孔70gを塞ぐように仕切板70cの一端45側に取り付けられた伸側減衰バルブ70hと、圧側減衰バルブ70eと伸側減衰バルブ70hとの間の空間よりなる中間室70iと、中心筒体70aの中心に位置される針弁70jとを備える。
【0028】
圧側減衰バルブ70eと伸側減衰バルブ70hとの間には、円板状のリング体80aが設けられる。リング体80aには、厚さ方向中央部分に、内周から外周にかけて径方向に貫通する複数の貫通孔80bが放射状に形成される。また、この貫通孔80bに対応するように中心筒体70aには、この中心筒体70aを径方向に貫通する貫通孔80cが設けられている。中心筒体70aの中央孔80dは一端45側が小径孔80eとなり、反対側が大径孔80fとなり、小径孔80eの他端48側で針弁70jの先端のテーパ80gとで間隙90aを形成する角部90bが形成される。また、針弁70jの根元側にテーパ部材90fが設けられ、このテーパ部材90fのテーパとで間隙90cを形成する角部90dが形成される。
【0029】
針弁70jは、調整機構90eにより進退自在に微調整される。なお、91aは貫通孔70mを一端45側から塞ぐチェック弁、91bは貫通孔70nを他端48側から塞ぐチェック弁である。圧側減衰バルブ70e、伸側減衰バルブ70h、チェック弁91a,91bはいずれも弾性薄板を複数重ねて層状化して構成される。このような減衰力発生機構70は、ホルダ部材1の側部にフロントフォーク本体Sの軸線に対し、例えば傾斜するように設けられる。
【0030】
以上の構成によれば、圧側行程では、一端45側からの作動油L1が、貫通孔70dから流入し圧側減衰バルブ70eを押し開いて中間室70iに供給されるとともに小径孔80eにも先端側から流入し、間隙90aを介して中央孔80dの貫通孔80cからリング体80aの貫通孔80bを介して中間室70iに供給される。中間室70iの作動油は、貫通孔70nを介してチェック弁91bを押し開いて、他端48方向に供給され、孔47、間隙5から連通孔Jを経由して上部油室F1に導かれる。
また、伸側行程時では、他端48側からの作動油L2は、貫通孔70gから流入し、伸側減衰バルブ70hを押し開いて中間室70iに供給されるとともに大径孔80fに連通する孔93から中央孔80dの貫通孔80cを介して中間室70iに供給される。中間室70iの作動油は、貫通孔70mからチェック弁91aを押し開いて一端45方向に供給され、下部油室F2に導かれる。
【0031】
上述の減衰力発生機構70による減衰力の発生動作において、作動油の温度変化による作動油の体積変化は、中間室70iに開口する通路115を介して温度補償機構130に導かれることで、温度補償がなされる。温度補償機構130は、通路115が開口する油溜室132と、位置が変位自在に設けられたフリーピストン133により区画される加圧室134を反対側に備え、加圧室134内に封入されたガスの圧力と減衰力発生機構70側の作動油の圧力とのバランスをフリーピストン133を変位させることにより、油溜室132に一部の作動油を流入出させて、減衰力発生機構70側の作動油の容積を一定に維持して、外気温度や、フロントフォーク本体Sの動作による作動油の温度上昇などに依存しない安定した減衰力が得られるように構成されている。
【0032】
以下本発明にかかるフロントフォーク本体Sの動作について説明する。この場合上部油室F1、下部油室F2、間隙5、減衰力発生機構70、油溜室132からなる緩衝室Bには作動油が充填され、それ以外の空間は空洞となっている。なお、この空洞には、最外シリンダ9及び摺動筒11の摺動を潤滑するための潤滑油が注入されている。
【0033】
以上の構成においてこのフロントフォーク本体Sの動作を以下説明する。この場合上部油室F1、下部油室F2、間隙5、減衰力発生機構70、油溜室132内には作動油が充填される。
[圧側行程]
車体側と車軸側に取り付けられたフロントフォーク本体Sが収縮する圧側行程では、キャップ部材12側がホルダ部材1方向に相対的に近接するように摺動筒11、ロッド2及びピストン3が下降する。ピストン3は、第2油貯蔵溜室としての下部油室F2内の作動油を加圧して、第1下部開口42よりリング溝42a、孔44を介して減衰力発生機構70の一端45に供給され、この一端45から他端48に向けて通過させる。
【0034】
この減衰力発生機構70内の通過過程において作動油は、流れに一定の抵抗(減衰力)を受けてから他端48、孔47を介してリング溝43a、第2下部開口43、溝5m、間隙5、連通孔Jを経由して第1油貯溜室としての上部油室F1まで循環する。このように、ピストン3などの圧側行程での減衰力発生機構70の動作により上記減衰による緩衝性能を得ることができる。
なお、減衰力発生機構70内の作動油は、フロントフォーク本体Sの動作状態における油温の変化に基づき、一部が温度補償機構130の油溜室132方向に流れることで、油温変化にともなう作動油の膨張分の容積変化が吸収され、作動油の温度補償がなされる。
【0035】
次に、圧側行程が最大の時の第1筒体60および第2筒体61について説明する。
キャップ部材12の下降に追随してロッド2が下降すると、ロッドガイド6と第2筒体61との関係は、図4(a)に示すように距離Lだけ離間した位置関係となり、また第1筒体60と第2筒体61との内部の空気圧は高く設定されているので両者は最長状態を保っている。
【0036】
[伸側行程]
フロントフォーク本体Sが伸長する伸側行程では、ピストン3が上昇して上部油室F1内の油が圧力を受けて、この内部の作動油が連通孔Jから間隙5、第2下部開口43から減衰力発生機構70の他端48に至り、この減衰力発生機構70で作動油は減衰力を受けて一端45、孔44、リング溝42a、第1下部開口42を経由して下部油室F2に循環する。上記減衰力により所定の緩衝性能が得られる。なお、温度上昇により膨張した容積分の作動油は、油溜室132に供給されて作動油の膨張分の温度補償がなされる。また、フロントフォーク本体Sの非動作時や作動油の油温の低下時には、作動油の容積収縮にともない、油溜室132からシリンダ油室F内に作動油が加圧室134の圧力により押し戻される。
【0037】
次に、圧縮行程が最大の時の第1筒体60および第2筒体61について説明する。
なお、ロッド2の後端のエアバルブ19よりロッド2の中空部に空気が注入され、この空気は孔65、孔66を介して空気室Pに注入され、所定の室気圧に設定されているものとする。
この伸側行程では、ロッド2の上昇に伴い、ピストン3がシリンダ4内を上昇し、このピストン3と一体の第1筒体60が上昇することにより、空気室P内の圧縮空気のバネ力で第2筒体61も上動する(図4(b)参照)。
【0038】
このように、第1筒体60と第2筒体61とは、ほぼ一連の状態を保ちつつ上昇する。ここで、図4(b)に示すように、第2筒体61側が距離Lだけ上動して、上面61mがロッドガイドの下端部6mに当接すると、第2筒体61はほぼ停止状態となるが、ロッド2がさらに上昇すると、図4(c)に示すように、第1筒体60は空気室P内の空気を圧縮しつつ上昇する。このように、空気室P内の空気が圧縮されることから、このときの反力により第1筒体60の上昇に制限が与えられ、このことで、ロッド2およびピストン3にも伸側行程の動きに対して一定の制限が与えられるので、伸側行程のほぼ終期手前で所期の緩衝性能が付与される。
【0039】
このように伸側行程が適度な位置まで進むと、緩衝コイルばね79による反力及び第1筒体60と第2筒体61により形成される空気室Pの空気ばねに基づく反力が作用するのでほぼ伸側行程全長に渡って、特に後期手前で更なる緩衝性能を与えることが出来る。
【0040】
再度の縮側行程でロッド2が下降し、これにより第1筒体60および第2筒体61は、図1および図4(a)に示すように第2筒体61がロッドガイド6より距離Lだけ離間した状態に復帰する。
なお、空気室Pによる空気ばね力の大きさをどの程度に設定するかは、空気室Pの空気圧をどの程度に設定するかに依存するので、伸側行程での反力調整は容易となる。
【0041】
以上、本発明の実施形態を図面により詳述したが、本発明の具体的な構成はこの実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0042】
1 ホルダ部材、2 ロッド、3 ピストン、4 シリンダ、6 ロッドガイド、
12 キャップ部材、19 エアバルブ、42 第1下部開口、43 第2下部開口、
60 第1筒体、61 第2筒体、70 減衰力発生手段、
F 内部空間(シリンダ空間)、
F1 上部油室(第1油貯留室)、F2 下部油室(第2油貯留室)、J 連通孔、
P 空気室、R 油流路室、S フロントフォーク本体。
図1
図2
図3
図4