(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記転移温度より高い温度に前記圧電基板を加熱しながら、前記圧電基板の電気的インピーダンスを測定し、前記電気的インピーダンスに基づいて、前記第1の相転移の発生を判定するステップを更に有する請求項1から8までの何れか1項記載の方法。
少なくとも前記第1の相転移が発生したと判定されるまで、前記圧電基板の温度を前記転移温度より高い温度に維持するステップを更に有する請求項1から9までの何れか1項記載の方法。
前記圧電基板の選択された領域に前記電界を印加しながら、前記圧電基板の電気的インピーダンスを測定するステップを更に有する請求項1から10までの何れか1項記載の方法。
前記電界の印加の間、前記電界の強度を変更しながら前記圧電基板の電気的インピーダンスの変化を追跡し、物質特性の変化を発生させるために必要な電界の強度を測定するステップを更に有する請求項11記載の方法。
前記圧電基板の第1の表面に形成された電極要素のアレイを更に備え、前記各第1の領域にそれぞれ1つの電極要素が設けられている請求項19から21までのいずれか1項に記載の圧電基板。
転移温度より高い温度に加熱されると、第1の結晶構造への相転移が生じるリラクサ圧電型組成を有する圧電基板内の結晶構造が異なる領域の間に機械的、電気的、電気機械的、焦電的、圧電的又は光学的な特性の差を生じさせる方法において、
前記圧電基板を前記転移温度より高く、キュリー温度より低い温度に加熱し、前記第1の結晶構造への第1の相転移を引き起こすステップと、
前記圧電基板を前記転移温度より低い温度に急速に冷却するステップと、
1つ以上の選択された領域内および隣接領域間で、物質特性の差が生じるように順次又は同時に、前記圧電基板の1つ以上の選択された領域に電界を印加するステップとを有する方法。
転移温度より高い温度に加熱されると、第1の結晶構造への相転移が生じるリラクサ圧電型組成を有する圧電基板の1つ以上の選択された領域におけるバルク結晶相に選択的に変化を引き起こす方法において、
前記圧電基板を前記転移温度より高く、キュリー温度より低い温度に加熱し、前記第1の結晶構造への第1の相転移を引き起こすステップと、
前記圧電基板を前記転移温度より低い温度に急速に冷却するステップと、
1つ以上の選択された領域内および隣接領域間で、物質特性の差が生じるように順次又は同時に、前記圧電基板の1つ以上の選択された領域に電界を印加するステップとを有する方法。
前記選択された領域は、前記圧電基板の平面内に少なくとも1つの線形のセグメントを画定し、前記圧電基板の前記線形セグメントと隣接する領域との間の音響的特性の差は、前記線形セグメント内で誘導される音響波の保持に適する請求項1から18まで及び31から33までの何れか1項記載の方法。
前記選択された領域は、前記圧電基板の平面内に少なくとも1つの線形のセグメントを画定し、前記圧電基板の前記線形セグメントと隣接する領域との間の屈折率の差は、前記線形セグメント内で誘導される光波の保持に適する請求項1から4まで及び31から33までの何れか1項記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態及び側面について、詳細を参照して説明する。以下の説明及び図面は、本発明を例示するものであり、限定するものではない。本明細書の様々な実施形態を明瞭に説明するために、多くの特定の詳細事項について記述する。但し、幾つかの例では、本発明の実施形態を明瞭にするために、周知の又は従来から知られている詳細については記述しない。なお、ここに開示する方法のステップの順序は、方法が機能する限りにおいて、重要ではない。すなわち、特に指定しない限り、2つ以上のステップを同時に実行してもよく、異なる順序で実行してもよい。
【0014】
ここで使用する「備える」、「有する」、「含む」等の表現は、排他的ではなく、包括的で非限定的な表現として解釈される。具体的には、本明細書及び特許請求の範囲において用いられる「備える」、「有する」、「含む」等及びこれらの活用形は、特定の特徴、ステップ又は要素が含まれることを意味する。これらの表現は、他の特徴、ステップ又は要素の存在を除外するようには解釈されない。
【0015】
ここで用いる「例示的な」という用語は、「具体例、例証又は例示に使用される」ことを意味し、他の構成に比べて好ましい又は有利であるということは意味しない。
【0016】
ここで用いる「約」、「略々」等の用語は、粒子の寸法、混合物の組成、他の物理的特性又は特徴に関連して用いられる場合、数値の上限及び下限における僅かな差異が許容され、数値の大部分が平均的にこの範囲を満たすが、一部の数値が統計的にこの範囲から外れる実施形態が排除されないことを意図する。すなわち、これらの実施形態は、本発明の範囲から除外されない。
【0017】
特別に定義ない限り、ここで用いる技術用語及び学術用語は、当業者に知られているものと同じ意味として解釈される。文脈によって特別な指定がない限り、以下の用語は、以下のような意味を意図する。
【0018】
ここで用いる「複合トランスデューサ」という用語は、横方向のクランピングを弱め、感度を高めるために基板内で機械的に不整合にされた要素を有する圧電基板に基づくトランスデューサを意味する。
【0019】
ここで用いる「カーフ(kerf)」という用語は、基板内で圧電素子を分離する圧電基板への物理的な切れ目を意味する。
【0020】
ここで用いる「カーフレス(kerfless)」という用語は、物理的分離がなく、電極パターンのみによる基板内の圧電素子のあらゆるパターンを意味する。
【0021】
ここで用いる「実効カーフ(effective kerf)」及び「実効カーフが形成された(effectively kerfed)」という用語は、物理的分離がなく、電極パターンのみによるが、機械的及び電気な分離の特徴を示す基板内の圧電素子のあらゆるパターンを意味する。
【0022】
本発明の実施形態は、基板に電極パターンを適用し、クエンチ及びポーリング(例えば、基板の選択された領域にDC電界を一時的に適用する。)のステップを実行することによって、単一の圧電材料を、単分域正方晶構造、多分域菱面体晶又は単斜晶結晶構造として、複数の隣接する領域に制御可能に分割できるという発見に少なくとも部分的に基づいている。この技術を用いて、カーフレスアレイの要素の間に「実効カーフ」を作成することができ、又は同様の手法によって、例えば、後述するようなクエンチ及び選択的ポーリングの技術を用いて、材料の隣接する領域に2つの異なる結晶構造状態を誘起することによって、複合トランスデューサを作成して、実効複合パターンを生成することができる。
【0023】
「実効カーフ」とは、要素の直下に存在する菱面体晶相又は単斜晶相の間のクエンチされた正方晶相の領域を指す。2つの相の間の硬さの違いによって、機械的インピーダンスに差が生じ、これによって、横方向の振動の伝播が抑制され、各要素の実効サイズがより小さくなり、この結果、カーフが形成されたアレイと同様に指向性が向上し、又は、複合トランスデューサの場合、電極の下の菱面体晶又は単斜晶状態の材料が材料のピラーモード(pillar mode)と同様に動作し、この結果、電気機械結合が向上する(「ピラーモード」とは、ピラー(柱)の形状を有する圧電材料からの応答を示す)。
【0024】
これは、本発明者らの知る限り、冷却速度が、リラクサPT単結晶における室温で安定した相転移を誘起することを初めて示したものである。
【0025】
本発明の実施形態に基づく圧電材料のクエンチされた正方晶相の圧電係数は、菱面体晶相又は単斜晶相の圧電係数より低いが、ニオブ酸リチウム等の従来の単結晶単分域強誘電結晶の圧電係数より遙かに高い。したがって、本発明の実施形態に基づく圧電材料は、粒子又は多分域構造からの散乱によってセラミクス及び多分域単結晶強誘電体の使用が制約されている光学デバイス、弾性表面波デバイス、及びバルク音響波デバイスに応用できる。この技術は、超音波アレイ又は複合トランスデューサのダイシング及びエポキシ充填に関連する熱損傷、汚染及び製造欠陥等の製造上の制約を取り去ることに寄与できる。
【0026】
幾つかの実施形態では、「実効カーフが形成された」アレイは、従来のカーフレスアレイに比べて指向性が向上する。幾つかの実施形態では、「実効カーフが形成された」アレイの指向性は、従来のカーフが形成されたアレイと同様である。2つの結晶相の機械的な不整合によって、構造的に遙かに小さいアレイを製造することができ、アレイの幾何学的形状は、ダイシングソーの刃の厚み又はレーザスポットサイズによって制約されることはなく、これに代えて、必要に応じて、単結晶面上のフォトリソグラフィパターニングによって形成することができる。
【0027】
幾つかの実施形態では、ここに説明する方法に基づいて、圧電アレイを形成できる。従来、ビームフォーカシング及びビームステアリングのために使用される圧電アレイは、機械的にカーフを形成することによって、すなわち、ソー又はレーザカッターを用いて圧電基板を複数の要素に物理的に分離することによって作成されていた。切断ツール及びレーザスポットサイズを小さくできる限界によって、圧電素子の最小のサイズ及び要素の最小の分離距離が制約される。アレイに実効カーフを形成する場合、圧電素子のサイズ及び分離を制約するのは、リソグラフィックプロセスを用いて画定される表面電極のみとなる。
【0028】
幾つかの実施形態では、ここに説明する方法に基づいて、2周波トランスデューサを形成できる。圧電トランスデューサの最適な動作周波数は、厚みモード共鳴の結果、圧電基板の厚さによって決まる。従来の2周波トランスデューサでは、複数の動作周波数を実現するために、異なる厚さの基板が必要であった。結晶相が異なれば、機械的特性も実質的に異なるので、厚さが同じ基板でも、結晶相が異なれば共鳴周波数も異なり、したがって、一定の厚さの圧電基板に亘って、任意のパターンの2つの異なる共鳴周波数を実現することができる。幾つかの実施形態では、ここに説明する方法に基づき、上述したような2周波の基板を形成し、このような基板を異なる厚さの層として積層することによって、多周波トランスデューサを製造できる。幾つかの実施形態では、複数の圧電基板を個別に処理して、2周波の基板を形成し、これらを結合して多周波トランスデューサを製造する。幾つかの実施形態では、ここに説明する方法を用いて、複数の厚さのフォトレジスト及び各層の選択された領域に固有の複数の電極を形成することによって、複数の圧電基板を同時に処理する。
【0029】
幾つかの実施形態では、ここに説明する方法に基づき、複合トランスデューサを形成できる。圧電プレート基板を多数の小さい圧電素子に分割した場合、横方向のクランピングが弱まるために、電気機械結合が向上するので、複合トランスデューサが望まれることが多い。切断ツール及びレーザスポットサイズを小さくできる限界によって、作成可能な圧電素子の最小のサイズ及び要素の最小の分離距離が制約される。複合トランスデューサに実効カーフを形成することによって、圧電素子のサイズ及び分離を制約するのは、リソグラフィックプロセスを用いて画定される表面電極のみとなる。
【0030】
幾つかの実施形態では、フォトリソグラフィの手法によって異なる機械的特性を有する基板の領域を画定する能力は、音響導波路、弾性表面波及びバルク音響波デバイスに応用できる。音響導波路を作成するためには、伝播する音波を反射又は屈折させて所定の経路に留まらせるために、少なくとも2つの機械的に異なる材料が必要である。従来より、音響導波路は、機械的に異なる材料を接合して、音響的な不整合を形成することによって作成されている。ここに説明する方法によれば、電極パターンを適用して、異なる結晶相を誘起することによって、単一の固体圧電結晶内に機械的に異なる隣接する基板を形成することができる。
【0031】
幾つかの実施形態では、相転移が複屈折及び/又は屈折率の変化に関連するという事実のために、例えば、光導波路又は波長変換デバイス内の光デバイスにおいてこの技術を使用できる可能性が開かれる。従来、これらの光デバイスでは、物理的に異なる材料、又は光学的特性が異なる領域を作成するようにドーピングされた単一の材料の何れかから屈折率が異なる複数の光学層を形成する必要があった。ここに開示する技術によれば、電極パターンを堆積させ、一時的なバイアス電界を印加することによって、光学的に異なる特性を有する複数の領域を作成することができる。電極パターンが光路を妨げる場合、異なる結晶相の領域を作成した後に、単に電極を除去することができる。
【0032】
本発明の実施形態として、室温で維持される圧電材料部分の一部の結晶構造を制御することが可能な処理方法を開示する。この方法では、部分の全体に熱を加え、部分全体に亘る初期相転移を実現する。そして、この部分を急速冷却し、この後、又は同時に、この部分の特定の区分に一時的なバイアス電界を印加する。このプロセスによって、この部分の隣接する区分の材料特性に差が生じ、これらの特性は、室温において維持され、これを利用して、この部分を含むあらゆるデバイスの全体的なより良い又は異なる動作応答を提供することができる。
【0033】
加熱、冷却速度及び/又は印加される電界の具体的なレベルは、使用される材料及び望まれる結晶構造に応じて異なる。幾つかの実施形態では、リラクサベースの圧電材料は、菱面体晶から正方晶への転移温度以上であって、キュリー温度より低い温度に加熱された後、クエンチされる。幾つかの実施形態では、圧電材料は、キュリー温度以上に加熱される。幾つかの実施形態では、液体窒素を用いて急冷を行う。幾つかの実施形態では、水槽を用いて急冷を行う。幾つかの実施形態では、冷却油を用いて急冷を行う。幾つかの実施形態では、ヘリウムを用いて急冷を行う。幾つかの実施形態では、印加されるバイアス又は電界は、1V/μm未満である。幾つかの実施形態では、印加されるバイアス又は電界は、1V/μm以上、約1.5V/μm未満である。幾つかの実施形態では、印加されるバイアス又は電界は、1.5V/μm以上、5V/μm未満である。幾つかの実施形態では、印加されるバイアス又は電界は、5V/μm以上、誘電破壊電界(dielectric breakdown field)未満である。幾つかの実施形態では、一時的電界は、5分より短い時間、印加される。幾つかの実施形態では、一時的電界は、5分間以上、1時間未満印加される。幾つかの実施形態では、一時的電界は、1時間以上、24時間未満印加される。幾つかの実施形態では、一時的電界は、24時間以上、72時間未満印加される。幾つかの実施形態では、圧電材料は、菱面体単結晶PMN−PTであり、T
RTより高い温度からの急速クエンチによって、単一分域正方晶状態が室温まで維持される。このクエンチ状態は、超音波のために用いられるパルス状の電圧の印加に対して強健であるが、1.5V/μmを超える一時的なDC電界が[001]軸に沿って長時間(例えば、8時間以上)印加されると、多分域菱面体晶状態に戻る相転移が起こる。
【0034】
幾つかの実施形態では、圧電材料は、単斜晶単結晶PMN−PTであり、T
RTより高い温度からの急速クエンチによって、単一分域正方晶状態が室温まで維持される。このクエンチ状態は、超音波のために用いられるパルス状の電圧の印加に対して強健であるが、1.5V/μmを超える一時的なDC電界が[001]軸に沿って長時間(例えば、8時間以上)印加されると、多分域単斜晶状態に戻る相転移が起こる。
【0035】
幾つかの実施形態では、
図6及び以下の実施例に示すように、電界の印加は、電極の選択的な導入によって実行される。圧電基板603は、上述のように加熱及びクエンチによって第1の相転移が行われた@の符号が付された領域を有する。また、この基板は、電界の印加によって第2の相転移が行われる予定の*の符号が付された選択された領域を有する。選択された領域*に対応する基板603の表面605の上又はここに隣接して、1又は複数の電極610が導入されている。幾つかの実施形態では、電極610は、層としてスパッタリング形成され、以下に説明するように、例えば、リソグラフィによって除去される。基板603の他の表面607の上又はこれに隣接して、1つ以上の基準電極又は接地電極609(
図6では、基板603の幅全体に亘って横方向に延びる単一の電極として示されている。)が導入され、上述した電界強度及び時間で、一般化して言えば、選択された領域*に第2の相転移を生じさせるために十分な電界強度及び時間で、電極要素610と電極609との間に、電位差を生成する電界を印加する。幾つかの実施形態では、複数の電極610は、電極要素のアレイである。幾つかの実施形態では、圧電基板603は、超音波音響共鳴の生成に適する寸法を有する。幾つかの実施形態では、電極要素610は、超音波ビームステアリングに適するピッチを有する。幾つかの実施形態では、接地電極層の下に1つ以上の整合層を設ける。
【0036】
幾つかの実施形態では、以下の実施例で説明するように、電界の印加は、フォトレジストの選択的除去によって実行される。フォトレジスト層は、圧電基板の表面に堆積される。フォトレジスト層にフォトリソグラフィパターンを適用し、層を現像してフォトレジストを選択的に除去し、圧電材料表面が露出した領域を残し、ここに、上述のように、電極を選択的に設けることができる。
【0037】
幾つかの実施形態では、圧電基板の加熱は、電気的インピーダンス監視によって監視される。第1の相転移(すなわち、この加熱の間に生じる転移)は、電気的インピーダンスの変化によって検出してもよい。転移温度を超える所望の温度、及びその温度の持続時間、温度勾配等を変更することによって、第1の相転移を示す電気的インピーダンスの変化が生じる速度について、特定の圧電材料のための最適条件を見出すことができる。
【0038】
幾つかの実施形態では、電気的インピーダンス監視によって圧電基板の領域への電界の選択的な印加を監視する。第2の相転移(すなわち、この電界印加の間に生じる転移)は、電気的インピーダンスの変化によって検出してもよい。電界強度、その強度の持続時間、及び強度の変化(例えば、パルス)等を変更することによって、第2の相転移を示す電気的インピーダンスの変化が生じる速度について、特定の圧電材料のための最適条件を見出すことができる。
【0039】
本発明の実施形態に基づく圧電材料及びその製造方法の応用例は、カーフレス超音波アレイ(kerfless ultrasound array)を含む。カーフレスアレイは、要素間のダイシング又はエポキシ充填を必要としないので、比較的安価に製造できる。しかしながら、従来のカーフレスアレイ設計には、カーフが形成されたアレイ又は複合アレイと比べて、指向性に関する生来的な制約がある。特に、本発明の実施形態によれば、これらの制約を超えて指向性が著しく向上したカーフレスアレイを製造できる。幾つかの実施形態では、カーフレス超音波アレイは、ドップラー超音波プローブにおいて使用することができる。幾つかの実施形態では、アレイは、イメージングプローブ、例えば、高周波アレイプローブにおいて使用することができる。幾つかの実施形態では、アレイは、高周波フェイズドアレイプローブにおいて使用することができる。
【0040】
本発明の様々な実施形態に基づいて達成できる性能を証明するために、実施例を示す。これらの実施例は、加熱、急冷及び(冷却中又は冷却後の)圧電基板の選択された部分への電界の印加によって、特に、隣接するセクションが異なる機械的及び電気的特性を示す圧電アレイを有する単一基板トランスデューサ、指向性が向上したトランスデューサアレイ、及び動作周波数を可逆的に切換えることができるトランスデューサを製造できることを示している。また、この開示又はその均等物の様々な実施形態に基づく方法は、基板の隣接する領域間の機械的な不整合を有利に利用できる他のデバイス、例えば、センサ、トランスデューサ又は導波路等に用いることができる。以下の実施例では、PMN−PTのみを示しているが、ここに説明する技術を用いて結晶構造相を同様に操作できる同様の圧電材料は、ここに説明するものと同様の物質特性変化を示すと予想される。
【0041】
幾つかの実施形態では、圧電基板は、リラクサ圧電材料組成を有する。幾つかの実施形態では、圧電基板は、リラクサPT(リラクサチタン酸鉛)単結晶である。幾つかの実施形態では、圧電基板は、PMNから形成される。幾つかの実施形態では、圧電基板は、PZTから形成される。
【0042】
幾つかの実施形態では、
図12に示すように、超音波イメージングプローブは、ハウジング1201と、ハウジング内の超音波トランスデューサ1203と、超音波を送信及び/又は受信するように適応化され、圧電基板1205を有するトランスデューサと、電極1207の各要素を電気的にアドレス指定するためのハウジング1201内の導電性チャネル1209とを備える。
【0043】
幾つかの実施形態では、
図13に示すように、干渉型光デバイス1301内の圧電基板は、基板1301の表面1303上に画定された電極1305を有し、電極は、圧電基板内で電気光学効果を誘起するように構成されている。
【0044】
以下の実施例により、当業者は、本発明を理解し、実施することができる。これらの実施例は、本発明の範囲を制限するものではなく、本発明を例示し、代表するものにすぎない。
【0045】
(実施例)
実施例1
2周波超音波プローブ
この実施例では、直径500μm、厚さ44μmのPMN−PTディスクを用いて、単一の元素超音波プローブを作成した。このディスクは、適切な電気ケーブルに接続し、小さなロッドに取り付けた。そして、プローブを加熱し、液体窒素を用いて急速に冷却し、電界は印加しなかった。
図2では、この処理におけるプローブのインピーダンスの振幅及び位相をそれぞれ正方晶Z及び正方晶φとして示している。ここに示すように、プローブのインピーダンス共鳴は、約36MHzで発生している。そして、プローブに対するパルスエコー測定を実行して、
図3(36MHzとして示す。)に示すような圧力波形を収集した。この波形の挿入FFT(inset FFT)によって、このプローブが36MHzで動作していることが確認された。
【0046】
そして、プローブに対して同様の処理を繰り返した後、プローブに1.5V/μmの一時的なポーリング電界を印加した。
図2では、この処理におけるプローブのインピーダンスの振幅及び位相をそれぞれ単斜晶Zで単斜晶φとして示しており、ここに示すように、この場合、インピーダンス共鳴は、約50MHzで発生している。この状態のプローブに対するパルスエコー測定を実行し、これにより得られた圧力波形を
図3に50MHzとして示す。ここでも、この波形の挿入FFTグラフによって、プローブの動作周波数が約50MHzに変化したことが確認された。
【0047】
これらの結果は、この技術を用いることによって、プローブの圧縮モードの共鳴周波数が顕著に変化することを示している。密度に変化がないと仮定すると、これらのモードは、音波の速度において28%の差を有する。この変化は、この技術がプローブにもたらした結晶構造の変化に起因する。ここには示していないが、両方の共鳴がインピーダンスグラフに現れるようにプローブを処理した場合、パルスエコー波形は、両方の共鳴の成分を含んだ。
【0048】
実施例2
カーフレスPMN−PTアレイ
PMN−PT圧電基板から、この実施例で検討されるカーフレス超音波トランスデューサに用いることができる超音波アレイを構築し、ピッチを1λ、要素幅を0.75λとした。全体の寸法が10×10mm、共鳴周波数が約7MHzの基板の中央部分に特定の間隔で電極を除去することによって、7個の線形要素を作成した。体積ベースで10%のアルミナが充填されたEpo−Tek301エポキシからアレイの裏打ち層を作成した。アレイには、整合正面層(matching front layer)を追加しなかった。
図4は、PMN−PTカーフレスアレイの中央要素のインピーダンスの振幅及び位相のプロファイルを示している。これらのグラフは、インピーダンスアナライザ(米国カリフォルニア州サンタクララのアジレント社(Agilent)モデル4294A)を用いて取得した。アレイにアクティブな電極要素を設ける前に、圧電基板を加熱及び冷却し、この部分の全体が菱面体晶相又は単斜晶相となるように外部電界を印加した。
図4では、この結晶相のインピーダンスの振幅及び位相を単斜晶Z及び単斜晶φとして示している。ここに示すように、アレイは、要素の圧縮モードに対応する約7MHzの単一の共鳴周波数を有する。
【0049】
アレイ構造が完成した後、アレイを3軸電動ステージシステム(米国ニュージャージー州ニュートンのソーラボ社(Thorlabs))に取り付け、蒸留水試験タンクに挿入した。タンク内には、40μmのニードルハイドロホン(英国ドーセットのプレシジョンアコスティクス社(Precision Acoustics Ltd.))を配置し、これを直接、アレイに向けて、アレイが発生する圧力波を追跡した。このハイドロホンの出力信号をマイテック社(Miteq)(米国ニューヨーク州ハウポジ(Hauppage))の増幅器を用いて増幅した後、アジレント社(Agilent)((米国カリフォルニア州サンタクララ)のMSO−3502オシロスコープに接続してデータを収集した。アレイの中央要素を、必要な7MHzの送信パルスを提供するパルサ/受信機ユニット(カナダ、ノバスコシア州ハリファクスのダクソニクス社(Daxsonics Inc)FPGDragon)の出力に取り付けた。同期チャネルによってデータ収集をトリガした。アレイの残りの要素は、50Ωのシャントを介して接地した。Matlab(マスワークス社(Mathworks Inc))プログラムを用いてオシロスコープ及び監視されているステージを制御し、実験データを読み出し、保存した。
【0050】
実験を開始するにあたり、監視されているステージの向きに整合するようにアレイの向きを微調整し、アレイの中心と、アレイからハイドロホンまでの距離を判定した。このデータをMatlabプログラムに入力し、ハイドロホンを中心とする等距離円弧パターンでアレイを動かして、1°の間隔でハイドロホンから必要な圧力波形を収集した。収集した圧力波形をMatlabで後処理して、単一の半径上で観察される半径方向の圧力差に対する最大圧力差の比として定義される一方向指向性パターン(one way directivity pattern)を判定した。指向性は、−6dBより高い場合に良好とみなされる。
【0051】
実験によって得られた菱面体晶又は単斜晶のPMN−PTアレイの指向性のプロットを
図5に示す。この結果は、指向性が最も高い中央領域及び良好な指向性の両側領域を示している。実験の結果、中央領域は、±12°の範囲にあり、両側領域は、±29°〜±44°の範囲にあることがわかる。
【0052】
そして、アレイを水槽から取り出し、
図4において、インピーダンスの振幅及び位相をそれぞれ正方晶Z及び正方晶φとして示すように、アレイに亘って正方晶相が維持されるように、アレイを加熱した。ここに示すように、アレイが菱面体晶相又は単斜晶相であった場合に比べて、インピーダンス共鳴が約30%減少した。そして、正方晶相が室温で維持されるように、液体窒素によってアレイを急速に冷却した。次に、要素間のギャップの材料を正方晶構造にしたまま、要素下の材料に菱面体晶又は単斜晶の結晶構造が復元されるように、アレイ要素に外部電界を印加した。これは、インピーダンス共鳴のシフトによって確認される。
【0053】
図7は、上述したものと同様の手法で、この結晶構造構成のアレイについて収集された一方向指向性パターンを示している。ここに示すように、アレイの指向性が顕著に向上し、±52°の近傍の点が−6dBになっている。指向性が向上する理由は、要素間の電極がないギャップの下の材料が正方晶状態のまま残るためであるという仮説を検証するために、アクティブ素子の下の材料に標準PMN−PT特性を割り当て、ギャップ材料特性は、共鳴周波数において、圧縮モードの剛性定数が30%減に対応するように変更することによって、PZFlex v2.4(ワイドリンガー・アソシエイツ社(Weidlinger Associates Inc.)を用いて、有限要素シミュレーションを実行した。
図7に示すこれらの有限要素シミュレーションの結果によって、対応する実験結果に対する顕著な類似性が確認された。
【0054】
実施例3
異なる室温相における材料特徴付け
この実施例の圧電基板としては、<001>指向PMN−32%PTサンプル(米国APCインターナショナル社(APC International Ltd)製)及び<001>指向PMN−33〜34%PTサンプル(米国TRSテクノロジーズ社(TRS Technologies Inc.)製)を用いた。クエンチされたサンプルは、約120℃(T
RTより高く、キュリー温度より低い温度)に加熱した後、液体窒素バスに急速に浸漬することによって準備した。TRSサンプルについては、インピーダンスアナライザに示すように、インピーダンス共振を低くロックするために、クエンチの間、元のポーリング電界とは逆の極性で非常に小さいバイアス電界(0.4V/μm未満)を印加する必要がある。室温において、クエンチされた後、室温に戻ったサンプルの[001]軸に沿って1.5V/μmの一時的なバイアス電界を印加することによって、多分域菱面体晶又は単斜晶のサンプルを準備した。
【0055】
菱面体晶又は単斜晶から正方晶構造への転移は、サンプルの[001]軸に亘る電気的インピーダンスを計測することによって容易に観測できる。T
RT温度を超えると、厚みモード基本共鳴周波数は、検査したサンプルにおいて、約25〜30%、量子化された形式で(すなわち、周波数の低下は滑らかではない。)下側にシフトする。この突然の下方へのシフトは、正方晶相への相転移に関連する結晶の剛性の低下、したがって、[001]方向への音波の速度の低下を示す。T
RTを超える温度のサンプルを急速にクエンチすると、サンプルが室温に戻っても、このシフトした共鳴周波数が維持され、これは、高温の相が残っていることを示す。共鳴シフト、したがって、クエンチされた相は、高電圧のパルスRF電界を印加しても、数週間に亘って安定していることが確認された。
【0056】
加熱、冷却及びポーリングの各ステップを行う前に、製造業者から入手したままの分極状態の全てのサンプルの電気的インピーダンスを測定した。サンプルの大部分は、2つの結晶相に由来する2つの厚みモード基本共鳴に対応する2つの共鳴を示した。これは、これらのサンプル内に両方の結晶相が同時に存在することを示している。しかしながらサンプルの大部分では、正方晶相に対応する下側の周波数共鳴は、周波化が高い菱面体晶又は単斜晶の共鳴に比べて、非常に弱かった。幾つかのサンプルでは、開封したままの状態では、結晶内により周波数が高い単斜晶共鳴だけが存在した。
【0057】
高精度インピーダンスアナライザ(米国カリフォルニア州サンタクララのアジレント社(Agilent)モデル4294A)を用いて、各サンプルに亘って、[001]方向の電気的インピーダンスを測定し、T
RT転移温度を超えることによって、及び/又は加熱/クエンチ/ポーリングによって、共鳴周波数を2つの周波数の間で可逆的に切換えることができることを確認した。両方の共鳴周波数が厚みモード応答に対応していることを確認するために、予備的な検査において、正方晶相及び分極した菱面体相又は単斜晶相の同じトランスデューサのパルスエコー測定を実行した。この検査によって、トランスデューサが2つの異なる状態にある場合、インピーダンススペクトルにおいて、パルスの中心周波数が観測された共鳴周波数に対応することがわかった。
【0058】
高周波数(1.5〜2.0×厚みモード共鳴周波数以上)及び低周波数(100〜10
5Hz)のインピーダンス測定値からサンプルのクランプあり及びクランプなしの誘電率を算出した。APC PMN−32%PTサンプルの寸法は、1cm×1cm×150μmであり、TRSサンプルの寸法は、1.7cm×1.4cm×375μmであった。容量Cは、以下のように最良適合から判定した。
【数1】
ここで、fは、周波数であり、|Z|は、インピーダンスの振幅である。
【0059】
共鳴周波数より十分低い又は十分高い周波数では、基板が平行板コンデンサとして振る舞うと仮定すると、厚み方向の比誘電率は、以下の式で表される。
【数2】
【0060】
図8(a)は、この試験で用いた5つのAPC基板についてのポーリング及びクエンチされたクランプありの平均比誘電率対温度曲線(加熱の間に収集した)を示している。
図7(b)は、5つのTRSサンプルについて同様のデータを示している。エラーバーは、最小値及び最大値を示している。ここに示すように、正方晶構造領域は、PMN−32%PTサンプルについては約100℃〜140℃、PMN−33〜34%PTサンプルについては100℃〜123℃の範囲で、これらの曲線の明らかに平坦な領域を占めている。また、基板の両方の組のクエンチされたサンプルは、室温下で、ポーリングされた状態の室温下に比べて著しく低いクランプありの比誘電率を示していることも明らかである。
【0061】
ピラーモードの基板の電気機械結合k
33及びプレートモードの基板の電気機械結合k
tは、以下の式から算出される。
【数3】
【数4】
【0062】
ポーリング及びクエンチされたサンプルについてのこれらの値を以下の表に示す。
【表1】
【0063】
立方体の単位セルの[001]軸に沿ってポーリングされた単結晶PMN−PTにおいて、正方晶相は、異常軸が[001]軸に沿う単軸であるので、正方晶相及び単斜晶相は、偏光顕微鏡法を用いて容易に区別される。この結果、結晶は、単一の領域のみを有し、光学的に一様に見える。[001]軸が顕微鏡の光軸に完全に揃っている場合、[001]軸を中心に結晶を回転させても直交偏光子を介して伝達される光に変調は生じない。これとは対照的に、単斜晶MC相は、[001]軸に対してある角度を有する偏光ベクトルを有する。[001]方向に結晶をポーリングすると、各単位セルの偏光ベクトルが4つの<111>方向の何れかに方向付けられ、このベクトルの写像は、同様にこれらの<111>方向の何れかに向く。この結果、結晶面内に偏光ベクトルの向きが異なる複数の領域が形成され、これらの領域は、複屈折が異なるために、偏光顕微鏡法によって、明確に見分けることができる。正方晶の一様性に比べて、これにより得られる画像は、非常に非一様であり、カラー偏光顕微鏡法では、(001)平面に亘って色がランダムになる。
【0064】
偏光光顕微鏡法は、ニコンEclipse E600顕微鏡(米国ニューヨーク州メルビルのニコンインストルメンツ社(Nikon Instruments))を用いて、200xの倍率で行った。写真は、付属のニコンE995カメラによって撮影した。まず、サンプルの両側のCr/Au電極をエッチング除去し、続いて、OCON−399研磨クロス及び0.3μmアルミニウム酸化物スラリーを用いて、Logitech PM5高精度研削/研磨機(スコットランド、グラスゴーのロジテック社(Logitech))によってサンプルを研磨した。室温安定状態のサンプル、高温のサンプル及び徐々に冷却されたゼロ電界状態のサンプルのそれぞれの写真を撮影した。これらの写真は、ホットプレートを用いてサンプルを約120℃に加熱し、T
RTより高い温度で速やかに、並びに冷却の間及び室温への徐冷の後にサンプルを撮影することによって得られた。クエンチされたTAF(temporarily applied field:一時的電界印加)サンプルの写真は、サンプル準備及び研磨が完了した後に、室温において、数日に亘って撮影した。
【0065】
7MHzの中心周波数に対応する厚さを有する、[001]方向にポーリングされたPMN−32%PTの10mm×10mmのウェハから2つの7要素カーフレス超音波アレイを作成した。要素間のピッチは、1λ(215μm)とし、要素幅は、0.75λ(160μm)とした。アレイの1つは、PMN−PT基板の1つの表面上でCr/Au電極を特定の間隔で除去して、アレイ要素を画定することによって従来のカーフレスアレイとして作成した。体積ベースで10%のアルミナが充填されたEpo−Tek301エポキシからアレイの裏打ち層を作成した。いずれのアレイでも整合層は設けなかった。第2のアレイも同様に準備したが、アレイ上で電極をスクラッチダイシング(scratch-diced)した後、アレイをT
RTより高い温度である約120℃に加熱し、液体窒素でクエンチすることによって、クエンチされた正方晶状態にした。
【0066】
1.5V/μmの一時的なDC電界を要素電極に印加して、電極の下にある結晶の領域を多分域単斜晶状態に相転移させ、電極の間の領域をクエンチされた正方晶状態のまま残し、「実効カーフ」として機能するようにした。実効カーフが形成されたアレイは、
図6に示す通りであり、これらの部分については、上述した通りである。
【0067】
アレイの作成及び実効カーフの形成に続いて、アレイを3軸電動ステージシステム(米国ニュージャージー州ニュートンのソーラボ社(Thorlabs))に取り付け、蒸留水試験タンクに挿入した。タンク内には、40μmのニードルハイドロホン(英国ドーセットのプレシジョンアコスティクス社(Precision Acoustics Ltd.))を配置し、これを直接、アレイに向けて、アレイが発生する圧力波を追跡しこのハイドロホンの出力信号をマイテック社(Miteq)(米国ニューヨーク州ハウポジ(Hauppage))のAU1466RF増幅器を用いて増幅した後、アジレント社(Agilent)のMSO−3502オシロスコープに接続してデータを収集した。アレイの中央要素を、必要な7MHzの送信パルスを提供するパルサ/受信機ユニット(カナダ、ノバスコシア州ハリファクスのダクソニクス社(Daxsonics Inc))の出力に取り付けた。同期チャネルによってデータ収集をトリガした。アレイの残りの要素は、パルサ受信回路のインピーダンス整合のために、50Ωのシャントを介して接地した。Matlab(マスワークス社(Mathworks Inc))プログラムを用いてオシロスコープ及び監視されているステージを制御し、実験データを読み出し、保存した。
【0068】
測定を開始するにあたり、監視されているステージの向きに整合するようにアレイの向きを微調整し、アレイの中心と、アレイからハイドロホンまでの距離を判定した。Matlabプログラムによって、ハイドロホンを中心とする等距離円弧パターンでアレイを動かして、1°の間隔でハイドロホンから必要な圧力波形を収集した。収集した圧力波形をMatlabで後処理して、一方向指向性パターン(one way directivity pattern)を判定した。
【0069】
図9に示すように、クエンチされたサンプルは、ポーリングされたTAFサンプルに比べて30%低い共鳴周波数を有する。また、クエンチされたサンプルのピークインピーダンス位相も大幅に低い。(これらのサンプルの寸法は、5×5×0.35mm
3であった。)以下の表に示すように、クエンチされた(Quenched)サンプルは、無応力比誘電率定数が12%低く、電気機械結合が39%低く、ショート回路厚みモード機械的剛性が27%低い。
【表2】
【0070】
撮影された写真(引用によって本願に援用される米国仮出願番号第61/612,421号参照)によって、クエンチされたサンプルがT
RTより高い温度にされた加熱されたサンプルと同じ単分域構造を有することが明らかになった。これは、各領域において異なる度合いに偏光回転された光によって生じる多色パターンを示すTAF(一時的電圧印加)及び徐冷されたサンプルとは異なる。これは、これらのサンプルの結晶構造が多分域であることを示す。
【0071】
図10は、2つのアレイの一方向指向性パターンを示している。実線は、要素間のギャップにある材料がクエンチされた正方晶相であり、アレイ要素の下の材料がTAF単斜晶状態である実効カーフが形成された基板の測定結果を示している。破線は、基板全体がポーリングされた単斜晶相であるカーフレスアレイについての同じ測定結果を示している。これらの2つの指向性パターンから、実効カーフが形成されたアレイは、カーフレスアレイに固有の約+/−20°において生じる急激な落ち込みを有さないことが明らかである。−6dB圧力降下基準を用いると、多相アレイの指向性は、±52°であり、これは、一様なアレイの±12°の指向性に比べて、著しく向上している。
【0072】
偏光光顕微鏡法によって、T
RTより高い温度から液体窒素内で急速にクエンチされたPMN−PTは、T
RTより高い温度のPMN−PTと同じ複屈折を有する材料となることがわかる。インピーダンス分光法による測定によって、急速にクエンチされたPMN−32%PTの厚みモード基本共鳴も、T
RTより高い温度のPMN−32%PTと同じであることがわかる。一時的なDC電界の印加によって、複屈折が異なる領域のクラスタが偏光顕微鏡法で可視化され、厚みモード基本共鳴は、急激に高い周波数に移動し、電界が印加されていない条件下で、結晶をT
RTより高い温度(但しキュリー温度より低い温度)から冷却した状態から区別がつかなくなる。急速なクエンチ処理によって、高温の正方晶状態が室温安定の正方晶状態にクエンチされたことがわかる。一時的なDCバイアスの印加によって、結晶は、平衡単斜晶状態に戻る。
【0073】
インピーダンスプロットにおける厚みモード共鳴の存在によって、クエンチされたサンプルが単純に減極された可能性が排除される。クエンチされたサンプルは、なお比較的強い圧電効果(k
t≒0.40)を示し、偏光光の結果は、この効果が材料欠陥(すなわち、トラップされた状態)の存在に起因する可能性を排除している。インピーダンス共鳴シフト及び算出された材料特性の結果は、結晶構造の変化が有意の機械的及び電気的な特性変化を伴っていることを示している。クエンチの後、サンプルは、より柔軟になり、電気機械結合が低下する。但し、クエンチされたサンプルのこの電気機械結合値は、広く用いられている他の幾つかの圧電材料と同等である。したがって、この技術は、2周波動作トランスデューサを作成する新規な手法を提供する。
【0074】
特定の理論に拘束されることは望まないが、熱エネルギの急速な除去によって、チタン原子の拡散が防止され、これにより、緩やかな冷却速度で通常生じるような単斜晶の位置への帰還が生じないと考えることができる。この場合、液体窒素より速い冷却速度を有する媒体内のクエンチによって、様々なPMN−PT基板について、同様の結果を得ることが可能である。液体窒素を用いる場合、上述以外のPMN−PT仕入先のPMN−PTから実効カーフが形成されたアレイを作成するために、PMN−33%PT又はPMN−34%PT等、PT割合が僅かに異なる基板を準備する必要がある場合がある。室温で維持される正方晶構造の獲得には、結晶成長パラメータ、PT濃度及び冷却速度が関係することがある。
【0075】
実施例4
PMN−32%PTの実効複合トランスデューサの解析及び準備
この実施例の目的は、圧電基板のカット及びエポキシ充填の必要性がない複合トランスデューサの作成におけるクエンチ/ポーリング技術の実用性を示すことである。従来の複合トランスデューサでは、所望の複合パターン、通常、長方形又は正方形のピラーを作成するために、まず、超小型ダイシングソー又はレーザソーによって、圧電基板をカットする必要があった。次に、ピラーの間のギャップにエポキシを充填する。エポキシ充填材は、圧電基板より遙かに柔らかいので、この技術によって、基板のプレート振動モードに関連する横方向クランピングが失われ、トランスデューサは、機械的に切り離された一連のピラーとして応答するようになる。圧電材料のピラーモードは、通常、より効率的であるので、基板の総合的な電気機械的効率は、大幅に向上する。そして、複合材料基板は、センサ、アクチュエータ又はトランスデューサ等のデバイス用途に応じて望ましい形状にカットされる。
【0076】
この実施例では、複合パターンは、カット及びエポキシ充填とは異なり、フォトリソグラフィ及びクエンチ/ポーリング技術によって形成される。この実施例では、圧電基板として、<001>指向のPMN33〜34%PTを用いた。クエンチされたサンプルは、約120℃(T
RTより高く、キュリー温度より低い温度)に加熱し、僅かな(0.4V/μm未満の)(元の分極方向に対して)逆バイアス電界を印加した後、液体窒素バスに急速に浸漬することによって準備した。
【0077】
インピーダンス測定によってクエンチ状態を確認した後、サンプルの両側から電極を除去し、設計されたフォトマスクに対して適切な体積比を実現するために、サンプルを、元の375mの厚さから約180mの厚さに削った。そして、粒度0.3μmの光学等級サンドペーパを用いて、サンプルを研磨した。そして、HMDS及びフォトレジスト液体によってサンプルの片面をスピンコーティングした。そして、フォトリソグラフィシステム内でサンプルをフォトマスクの下に取り付け、約1.6秒間紫外光に曝した。次に、サンプルをフォトレジスト現像液のバス内に約9分間浸した。
【0078】
次に、アルミニウム電極を圧電基板の両側に堆積させた。そして、基板に約0.6V/μmのバイアス電界を印加し、これにより電極と基板表面の間のフォトレジストがない基板の一部を単斜晶分極状態にし、フォトレジストの大きな電気的インピーダンスによって、基板の残りの部分を正方晶クエンチ状態のまま残した。この手法によって、基板を実効複合基板に変化させた。
【0079】
インピーダンスアナライザを用いて、この実効複合基板のインピーダンス曲線を取得した。
図11(a)は、ラッピング及び実効複合パターンの準備の前の基板の元のインピーダンス曲線を示しており、
図11(b)は、実効パターンを有する同じ基板のインピーダンス曲線を示している。ここに示すように、研削工程のために(すなわち、実効複合基板の厚さが元の基板の厚さより薄いために)共鳴周波数が上昇している。また、共鳴周波数と反共鳴周波数の間の距離もより広がっていることがわかる。実効電気機械効率は、以下の式で表される。
【数5】
【0080】
ここで、f
aは、反共鳴周波数であり、f
rは、共鳴周波数である。
【0081】
図10(a)及び(b)に示す元の基板及び実効複合基板の共鳴周波数及び反共鳴周波数の値から、電気機械効率k
tが0.53から0.74に増加していることがわかる。これらの計算によって、実効複合基板は、元の基板より効率的であることがわかる。すなわち、この技術を用いることによって、トランスデューサ、アクチュエータ又はセンサのいずれの効率も向上させることができる。PMN−PTについて説明したが、この技術は、クエンチによって共鳴周波数が変化する如何なるリラクサPT材料に対しても有効であると予想される。
【0082】
実施例5
音響導波路
音響導波路は、壁部が異なる材料で形成されている1つの材料のチャネルから作成することができる。チャネル領域の音の速度が周囲の領域より遅い場合、界面に近付く入射音波が、ある範囲の角度で全内反射し、これによって、音波は、無損失でチャネル内を伝播する。音響導波路は、基板内に溝をカット又はエッチングすることによって、又は異なる材料を積層して界面を形成することによって作成できる。幾つかの実施形態では、音響導波路は、圧電基板内の結晶相を制御して、単一の材料内にチャネルを形成することによって実現される。
【0083】
Lamb波のための音響導波路として機能する一実施形態では、PMN−PT基板を所望の厚さに研削し、基板の両側に電極をスパッタリング形成する。そして、サンプルの片側又は両側にフォトレジストをスピンコーティングする。フォトリソグラフィを用いて、導波路チャネルとして機能する領域では、フォトレジストを露光せず、導波路チャネルとして機能することを意図しない領域では、フォトレジストを露光する。露光されていないフォトレジストは、導波路チャネルとして機能することが意図された領域から電極を除去するために使用される溶媒及び化学エッチング液によって除去することができる。そして、PMN−PT基板の全体は、転移温度T
RTより高くキュリー温度より低い温度で、結晶が正方晶相に相転移するまで加熱される。PMN−PT32%の場合、この温度は、約120℃である。加熱の間に電極領域の電気的インピーダンスを監視して、相転移を検出してもよい。正方晶状態への転移は、25〜30%の共鳴周波数の突然の低下によって示される。基板全体が正方晶状態になった後、これを液体窒素バスでクエンチし、徐々に室温に戻すことによって、正方晶相が室温で維持される。そして、2つの側の電極領域に亘って1V/μm〜5V/μmの電界を印加する。両側において電極によって覆われている領域では、(組成に応じて)菱面体晶又は単斜晶相への相転移が起こる。単斜晶相及び菱面体晶相は、剛性が高いために音の速度が速く、導波路チャネル領域は、剛性が低い正方晶相であるため、音の速度が遅い。したがって、導波路は、電極がない領域に形成される。更に、正方晶相は、圧電性を有したままであるので、チャネル領域を覆い、このチャネル領域の電極から電気的に絶縁されている電極を追加することによって音響波を励起できる。クエンチ及び再ポーリングステップを行った後、ワイヤボンディングによって、このチャネルの電極への電気的接続を形成してもよい。これらの電極は、電圧によって励起されて、導波路に沿って伝播するLamb波を生成する。一般化して言えば、同じステップを用いて、圧電基板内に弾性表面波用の導波路を形成することができ、但し、この場合、表面弾性波を生成するようにチャネル電極を設計する必要がある。
【0084】
実施例6
光導波路
チェン(Cheng)(引用によって本願に援用される香港理工大学(Hong Kong Polytechnic University)博士論文「PMN−PT単結晶及び薄膜の誘電性及び電気光学特性(Dielectric and electrooptic properties of PMN-PT single crystals and thin films)」によれば、バルク単結晶のPMN−PT及びMgO基板に堆積された薄膜としてのPMN−PTの両方から光導波路を作成することができる。導波路は、導波路の外側の材料の除去によって、フォトリソグラフィの手法で導波路チャネルを画定することによって形成できる。また、68PMN−32PTは、単結晶の形式でも、633nmにおいて、大きな線形電子光学係数reff=217pm/Vを示し、これは、ニオブ酸リチウム(reff=31pm/V)の7倍にあたり、したがって、PMN−PTは、ポッケトセル、電子光学スイッチに好適な材料である。他の研究によって、PMN−PTは、同様に大きな非線形光学感受性を有することが確認され、したがって、PMN−PTは、非線形周波数変換デバイスに適する。
【0085】
多くの研究者は、室温相が正方晶であり、したがって、透明な単結晶である、平衡状態図の高PT部分からのPMN−PTを使用している。しかしながら、PT含有率が高い組成では、電気光学効果及び非線形効果は弱い。例えば、線形電子光学係数reffは、32%PTにおける217pm/Vから、38%PTにおける50pm/Vに低下し、このため、モルフォトロピック相境界の近くで動作することが有利である。通常、光学用途では、多分域単斜晶及び菱面体晶は、分域からの光学拡散のために避けられ、単一分域正方晶が好まれる。クエンチ法によれば、正方晶相PMN−PTをMPBの近くの組成で作成することができ、電気光学効果係数及び非線形光学効果係数を有利に高めることができる。
【0086】
一実施形態においては、PMN−PT基板の2つの表面に沿ってフォトリソグラフィによって電極を画定し、隣接する電極に印加される電界が逆の極性を有するように隣接する電極に0.1μm/V〜5μm/Vのポーリング電界を印加することによって、周期的にポーリングされた非線形周波数変換デバイスを作成することができる。電極間の間隔は、材料内で擬似位相整合条件を満たすように選択される。そして、サンプルを転移温度T
RTより高い温度に加熱して、基板を正方晶相にする。但し、隣接する電極下のPMN−PTは、逆の電界極性のために逆の強誘電性双極子方向を有する。この結果、隣接する電極下の基板では、2次非線形感受性も逆になる。そして、DC電界を取り除き、サンプルを液体窒素でクエンチし、これにより結晶が正方晶相で維持され、逆方向の強誘電性双極子も適切な位置に残る。光が電極に直交する方向に沿って材料を介して伝播すると、光は、2倍の周波数にアップコンバートされる。このような構造を用いて、2つの光ビームの異なる周波数の和又は差の周波数を生成することもできる。
【0087】
電気光学位相シフトデバイスとして動作する他の実施形態においては研削及び研磨されたPMN−PT基板に厚さ100nmの酸化インジウムースズ(indium tin oxide:ITO)の透明層をスパッタリング形成する。電極に電界を印加してPMN−PTをポーリングし、正方晶状態への完全な相転移を誘起するために必要な既知の期間、基板をT
RTより高くキュリー温度より低い温度に加熱する。電界を取り除き、基板全体を液体窒素バス内でクエンチする。クエンチの後、サンプルは、正方晶状態に維持され、ITO電極に印加されるAC電圧による電気光学効果によって、PMN−PTを通過する光の全体的な位相に変化が生じる。このような電気光学デバイスをマッハツェンダ干渉計又は偏光モード干渉計に組み込むことによって、又は当分野で知られている他の手法によって、光スイッチを構成することができる。
【0088】
PMN−PTの全ての非立方相は、複屈折性を有し、自発的な強誘電体双極子の方向に異常軸がある。したがって、単斜晶相及び菱面体相の異常軸の方向は、正方晶相とは異なる。単斜晶/菱面体晶領域及び正方晶領域に分割されたPMN−PT結晶を伝播する光は、領域間の境界において反射される。また、実施例5に記載した技術によって作成された導波路は、光導波路としても機能する。正方晶PMN−PT異常軸は、異常軸より速い。この導波路によって光閉じ込め効果が向上し、所定の距離において達成される非線形波長変換効率が更に向上する。